以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。まず、車両用ブレーキ装置の基本構成を、図1に基づいて説明する。ここでは前後配管の油圧回路を構成する車両に本発明による車両用ブレーキ装置を適用した例について説明する。
図1において、ドライバがブレーキ操作部材としてのブレーキペダル11を踏み込むと、倍力装置12にて踏力が倍力され、マスタシリンダ(以下、M/Cという)13に配設されたマスタピストン13a、13bを押圧する。これにより、これらマスタピストン13a、13bによって区画されるプライマリ室13cとセカンダリ室13dとに同圧のM/C圧が発生する。M/C圧は、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50を通じて各ホイールシリンダ(以下、W/Cという)14、15、34、35に伝えられる。このM/C13には、プライマリ室13cおよびセカンダリ室13dそれぞれと連通する通路を有するマスタリザーバ13eが備えられている。
ブレーキ液圧制御用アクチュエータ50は、第1配管系統50aと第2配管系統50bとを有している。第1配管系統50aは、右後輪RRと左後輪RLに加えられるブレーキ液圧を制御するリア系統、第2配管系統50bは、左前輪FLと右前輪FRに加えられるブレーキ液圧を制御するフロント系統とされる。
第1配管系統50aと第2配管系統50bとを比較すると、第1配管系統50aの方が消費液量(キャリパ容量)が少なくなっているが、各系統50a、50bの構成は同様であるため、以下では第1配管系統50aについて説明し、第2配管系統50bについては説明を省略する。
第1配管系統50aは、上述したM/C圧を左後輪RLに備えられたW/C14および右後輪RRに備えられたW/C15に伝達し、W/C圧を発生させる主管路となる管路Aを備える。
また、管路Aは、連通状態と差圧状態に制御できる第1差圧制御弁16を備えている。この第1差圧制御弁16は、ドライバがブレーキペダル11の操作を行う通常ブレーキ時(車両運動制御が実行されていない時)には連通状態となるように弁位置が調整されており、第1差圧制御弁16に備えられるソレノイドコイルに電流が流されると、この電流値が大きいほど大きな差圧状態となるように弁位置が調整される。
この第1差圧制御弁16が差圧状態のときには、W/C14、15側のブレーキ液圧がM/C圧よりも所定以上高くなった際にのみ、W/C14、15側からM/C13側へのみブレーキ液の流動が許容される。このため、常時W/C14、15側がM/C13側よりも所定圧力以上高くならないように維持される。
そして、管路Aは、この第1差圧制御弁16よりも下流になるW/C14、15側において、2つの管路A1、A2に分岐する。管路A1にはW/C14へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁17が備えられ、管路A2にはW/C15へのブレーキ液圧の増圧を制御する第2増圧制御弁18が備えられている。
第1、第2増圧制御弁17、18は、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成されている。具体的には、第1、第2増圧制御弁17、18は、第1、第2増圧制御弁17、18に備えられるソレノイドコイルへの制御電流がゼロとされる時(非通電時)には連通状態となり、ソレノイドコイルに制御電流が流される時(通電時)に遮断状態に制御されるノーマルオープン型となっている。
管路Aにおける第1、第2増圧制御弁17、18および各W/C14、15の間と調圧リザーバ20とを結ぶ減圧管路としての管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置電磁弁により構成される第1減圧制御弁21と第2減圧制御弁22とがそれぞれ配設されている。そして、これら第1、第2減圧制御弁21、22はノーマルクローズ型となっている。
調圧リザーバ20と主管路である管路Aとの間には還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいはW/C14、15側に向けてブレーキ液を吸入吐出するモータ60によって駆動される自吸式のギヤポンプ19が設けられている。モータ60は図示しないモータリレーに対する通電が制御されることで駆動される。
そして、調圧リザーバ20とM/C13の間には補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じ、ギヤポンプ19にてM/C13からブレーキ液を吸入し、管路Aに吐出することで、車両運動制御時において、W/C14、15側にブレーキ液を供給し、対象となる車輪のW/C圧を加圧する。
なお、ここでは第1配管系統50aについて説明したが、第2配管系統50bも同様の構成であり、第1配管系統50aに備えられた各構成と同様の構成を第2配管系統50bも備えている。具体的には、第1差圧制御弁16と対応する第2差圧制御弁36、第1、第2増圧制御弁17、18と対応する第3、第4増圧制御弁37、38、第1、第2減圧制御弁21、22と対応する第3、第4減圧制御弁41、42、ギヤポンプ19と対応するギヤポンプ39、調圧リザーバ20と対応する調圧リザーバ40、管路A〜Dと対応する管路E〜Hがある。ただし、各系統50a、50bがブレーキ液を供給するW/C14、15、34、35については、リア系統となる第1配管系統50aよりもフロント系統となる第2配管系統50bの方の容量が大きくされている。これにより、フロント側においてより大きな制動力を発生させることができる。
また、ブレーキECU70は、ブレーキ制御システム1の制御系を司るもので、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行し、横滑り防止制御等の車両運動制御を実行する。すなわち、ブレーキECU70は、図示しないセンサ類の検出に基づいて各種物理量を演算し、その演算結果に基づいて車両運動制御を実行するか否かを判定し、実行する際には、制御対象輪に対する制御量、すなわち制御対象輪のW/Cに発生させるW/C圧を求める。その結果に基づき、ブレーキECU70が各制御弁16〜18、21、22、36〜38、41、42への電流供給制御およびギヤポンプ19、39を駆動するためのモータ60の電流量制御を実行することで、制御対象輪のW/C圧が制御され、車両運動制御が行われる。
例えば、トラクション制御や横滑り防止制御のようにM/C13に圧力が発生させられていないときには、ギヤポンプ19、39を駆動すると共に、第1、第2差圧制御弁16、36を差圧状態にする。これにより、管路D、Hを通じてブレーキ液を第1、第2差圧制御弁16、36の下流側、つまりW/C14、15、34、35側に供給する。そして、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38や第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42を適宜制御することで制御対象輪のW/C圧の増減圧を制御し、W/C圧が所望の制御量となるように制御する。
また、アンチスキッド(ABS)制御時には、第1〜第4増圧制御弁17、18、37、38や第1〜第4減圧制御弁21、22、41、42を適宜制御すると共に、ギヤポンプ19、39を駆動することでW/C圧の増減圧を制御する。これにより、W/C圧が所望の制御量となるように制御する。
次に、上記のように構成される車両用ブレーキ装置におけるギヤポンプ装置の詳細構造について、図2、図3に基づいて説明する。図2は、ポンプ本体100をブレーキ液圧制御用アクチュエータ50のハウジング101に組付けたときの様子を示しており、例えば、紙面上下方向が車両天地方向となるように組付けられる。
上述したように、車両用ブレーキ装置は、第1配管系統50aと第2配管系統50bの2系統から構成されている。このため、ポンプ本体100には第1配管系統50a用のギヤポンプ19と、第2配管系統50b用のギヤポンプ39の2つが備えられている。
ポンプ本体100に内蔵されるギヤポンプ19、39は、モータ60が第1ベアリング51および第2ベアリング52で支持された回転軸54を回転させることによって駆動される。ポンプ本体100の外形を構成するケーシングは、アルミニウム製のシリンダ71およびプラグ72によって構成されており、第1ベアリング51はシリンダ71に配置され、第2ベアリング52はプラグ72に配置されている。
シリンダ71とプラグ72が同軸的に配置された状態でシリンダ71の一端側がプラグ72に対して圧入されることで一体化され、ポンプ本体100のケースが構成されている。そして、シリンダ71やプラグ72と共にギヤポンプ19、39や各種シール部材等が備えられることによりポンプ本体100が構成されている。
このようにして一体構造のポンプ本体100が構成されている。この一体構造とされたポンプ本体100が、アルミニウム製のハウジング101に形成された略円筒形状の凹部101a内に紙面右方向から挿入されている。そして、凹部101aの入口に掘られた雌ネジ溝101bにリング状の雄ネジ部材(スクリュー)102がネジ締めされて、ポンプ本体100がハウジング101に固定されている。この雄ネジ部材102のネジ締めによってポンプ本体100がハウジング101から抜けない構造とされている。なお、ハウジング101は、本発明のケースに相当する。
以下、このポンプ本体100のハウジング101の凹部101aへの挿入方向のことを単に挿入方向という。また、ポンプ本体100の軸方向、周方向、径方向(回転軸54の軸方向、周方向、径方向と一致)を単にポンプ軸方向、ポンプ周方向、ポンプ径方向という。
また、挿入方向前方の先端位置のうち回転軸54の先端(図2における左端)と対応する位置において、ハウジング101の凹部101aに円形状の第2の凹部101cが形成されている。この第2の凹部101cの径は、回転軸54の径よりも大きくされ、この第2の凹部101c内に回転軸54の先端が位置し、回転軸54がハウジング101と接触しないようにされている。
シリンダ71およびプラグ72には、それぞれ、中心孔71a、72aが備えられている。これら中心孔71a、72a内に回転軸54が挿入され、シリンダ71に形成された中心孔71aの内周に固定された第1ベアリング51とプラグ72に形成された中心孔72aの内周に固定された第2ベアリング52にて支持されている。第1、第2ベアリング51、52にはどのような構造のベアリングを適用しても良いが、本実施形態では、転がり軸受を用いている。
具体的には、第1ベアリング51は、内輪無しの針状ころ軸受にて構成されており、外輪51aと針状ころ51bを備えた構成とされ、この第1ベアリング51の穴内に嵌め込まれることで回転軸54が軸支されている。第1ベアリング51は、シリンダ71の中心孔71aが挿入方向前方において第1ベアリング51の外径と対応する寸法に拡径されていることから、この拡径された部分に圧入されることでシリンダ71に固定されている。
第2ベアリング52は、内輪52a、外輪52bおよび転動体52cを備えた構成とされ、外輪52bがプラグ72の中心孔72a内に圧入されることによって固定されている。この第2ベアリング52の内輪52aの穴内に回転軸54が嵌め込まれることで、回転軸54が軸支されている。
第1ベアリング51の両側、つまり第1ベアリング51よりも挿入方向前方の領域と第1、第2ベアリング51、52に挟まれた領域それぞれに、ギヤポンプ19、39が備えられている。
ギヤポンプ19は、シリンダ71の一端面を円形状に凹ませたザグリにて構成されるロータ室(収容部)100a内に配置されており、ロータ室100a内に挿通された回転軸54によって駆動される内接型ギヤポンプ(トロコイドポンプ)で構成されている。
具体的には、ギヤポンプ19は、内周に内歯部が形成されたアウターロータ19aと外周に外歯部が形成されたインナーロータ19bとからなる回転部を備えており、インナーロータ19bの中心にある孔内に回転軸54が挿入された構成となっている。そして、回転軸54に形成された穴54a内にキー54bが嵌入されており、このキー54bによってインナーロータ19bへのトルク伝達がなされる。
アウターロータ19aとインナーロータ19bは、それぞれに形成された内歯部と外歯部とが噛み合わさって複数の空隙部19cを形成している。そして、回転軸54の回転によって空隙部19cが大小変化することで、ブレーキ液の吸入吐出が行われる。
一方、ギヤポンプ39は、シリンダ71のもう一方の端面を円形状に凹ませたザグリにて構成されるロータ室(収容部)100b内に配置されており、ロータ室100b内に挿通される回転軸54にて駆動される。ギヤポンプ39も、ギヤポンプ19と同様にアウターロータ39aおよびインナーロータ39bを備え、これらの両歯部が噛み合わさって形成される複数の空隙部39cにてブレーキ液の吸入吐出を行う内接型ギヤポンプで構成されている。このギヤポンプ39は、回転軸54を中心としてギヤポンプ19をほぼ180°回転させた配置となっている。このように配置することで、ギヤポンプ19、39のそれぞれの吸入側の空隙部19c、39cと吐出側の空隙部19c、39cとが回転軸54を中心として対称位置となるようにし、吐出側における高圧なブレーキ液圧が回転軸54に与える力を相殺できるようにしている。
これらギヤポンプ19、39は、基本的には同じ構造となっているが、ポンプ軸方向厚さを異ならせてある。これにより、リア系統となる第1配管系統50aに備えられるギヤポンプ19と比較して、フロント系統となる第2配管系統50bに備えられるギヤポンプ39の方が、ポンプ軸方向長さが長くされている。具体的には、ギヤポンプ39の各ロータ39a、39bの方がギヤポンプ19の各ロータ19a、19bよりもポンプ軸方向長さが長くされている。このため、ギヤポンプ39の方がギヤポンプ19よりもブレーキ液の吸入吐出量が多くなり、フロント系統に対してリア系統より多くのブレーキ液を供給できる。
シリンダ71の一端面側において、ギヤポンプ19を挟んでシリンダ71と反対側、つまりシリンダ71およびギヤポンプ19とハウジング101との間には、ギヤポンプ19をシリンダ71側に押圧するシール機構111が備えられている。また、シリンダ71のもう一方の端面側において、ギヤポンプ39を挟んでシリンダ71と反対側、つまりシリンダ71およびギヤポンプ39とプラグ72との間には、ギヤポンプ39をシリンダ71側に押圧するシール機構115が備えられている。
シール機構111は、回転軸54が挿入される中空部を有するリング状部材で構成され、アウターロータ19aおよびインナーロータ19bをシリンダ71側に押圧する。これにより、シール機構111は、ギヤポンプ19のうちの一端面側での比較的低圧な部位と比較的高圧な部位とをシールしている。具体的には、シール機構111は、ハウジング101の外郭となる凹部101aの底面およびアウターロータ19aやインナーロータ19bの所望位置と当接することでシール機能を発揮している。
シール機構111は、中空枠形状とされた内側部材112と環状ゴム部材113および中空枠形状とされた外側部材114とを有した構成とされ、内側部材112の外周壁と外側部材114の内周壁との間に環状ゴム部材113を配した状態で外側部材114内に内側部材112を嵌め込んだ構成とされる。
次に、図4、図5を参照してシール機構111を構成する各部品112〜114の構成について説明する。
図4において、(a)は内側部材112の正面図、(b)は(a)のIV−IV断面図である。なお、図2に示したポンプ本体100の断面のうちシール機構111の断面については、IV−IV断面と対応する断面を示してある。
図5において、(a)は外側部材114の正面図、(b)は外側部材114の右側面図、(c)は外側部材114の背面図、(d)は(a)のV−V断面図、(e)は外側部材114の左側面図である。
内側部材112は、図4に示すように、樹脂部112aと金属製リング112bとによって構成されており、樹脂部112aの成形時に金属製リング112bを一体成形(インサート成形)することで、これらが一体化されている。
樹脂部112aは、回転軸54が配される中空部112cが形成された中空枠形状とされている。中空部112cは回転軸54の外周形状に合わせて円形状であっても良いが、ここではポンプ軸方向に沿って複数のスリット112dが形成されることで部分的に回転軸54よりも拡径されている。この中空部112cに対して同心状に金属製リング112bが配置されており、中空部112c周辺を含めた樹脂部112aの補強のために金属製リング112bを備えてある。
また、樹脂部112aのうちスリット112dが形成されていない部分は金属製リング112bよりも内側まで突き出し、スリット112dが形成されている部分は金属製リング112bの位置まで窪んでいる。そして、中空部112cの内壁面のうちスリット112dではない部分から中空部112cの中心までの距離が回転軸54の径と一致するようにしてある。
このような構造の場合、内側部材112のうち回転軸54の摺動面となる部分は中空部112cのうちのスリット112dが形成されていない部分となるため、金属製リング112bは回転軸54と当接しないようにできる。中空部112cの内壁面を金属製リング112bによって構成し、回転軸54との当接面とすれば、金属製リング112bの寸法公差にしたがって回転軸54の外周面と中空部112cの内壁面との隙間を調整し、回転軸54のポンプ径方向の位置決めを行うことができる。しかしながら、回転軸54と金属製リング112bとが当接することになることから、回転軸54の摺動による焼き付きを防止するために、これらを別材料で構成することが必要になる。例えば、回転軸54をSUS、金属製リング112bを銅とすることになる。ところが、銅はSUS等と比較して柔らかい材料であり、ある程度の板厚を確保しないと樹脂部112aの補強の機能が十分でなくなる。これに対して、本実施形態のように、樹脂部112aが回転軸54に当接して金属製リング112bが回転軸54には当接しないようにすれば、金属製リング112bについては材料が問われなくなり、例えば回転軸54と同種材料とすることも可能となる。したがって、材料選択の自由度を向上させられる。そして、SUS等の比較的硬い材料を用いて金属製リング112bを構成するのであれば、銅等の比較的柔らかい材料を用いる場合と比較して、板厚を薄くすることが可能になるし、材料コストも削減することが可能となる。
内側部材112の外形は、図4(a)の紙面右側、つまりギヤポンプ19の高圧な吐出側と対応する位置では空隙部19cよりも小さい径とされ、紙面左側、つまりギヤポンプ19の低圧な吸入側と対応する位置では空隙部19cよりも大きい径とされている。このため、環状ゴム部材113を内側部材112の外周壁に嵌め込んだときに、低圧となる回転軸54の周囲やギヤポンプ19の吸入側は環状ゴム部材113の内側に位置し、高圧となるギヤポンプ19の吐出側は環状ゴム部材113の外側に位置するようにできる。
また、内側部材112の外周壁は、ギヤポンプ19によるブレーキ液の吸入吐出動作が行われるときに、高圧な吐出圧が環状ゴム部材113に印加されて環状ゴム部材113がポンプ径方向内側に押圧される。このため、内側部材112の外周壁は、環状ゴム部材113からポンプ径方向内側への圧力を受ける受圧面を構成することになる。この受圧面は、内側部材112がポンプ軸方向においてギヤポンプ19から離れる方向に推進力を生じさせる構成とされ、本実施形態では、受圧面の一部をテーパ面112eとしている。具体的には、内側部材112の外周壁のうちギヤポンプ19と反対側において、外周壁を1周するフランジ部(鍔部)112fを備えてあり、フランジ部112fのうちギヤポンプ19側の面をテーパ面112eとしている。
環状ゴム部材113は、Oリング等で構成されたもので、内側部材112の外周壁に嵌め込まれ、内側部材112と外側部材114との間に配置される。環状ゴム部材113は、ギヤポンプ19の駆動時に吐出圧の上昇に伴って内側部材112の受圧面に対する圧接力を増大させると共に、凹部101aの底面に接することで高圧なギヤポンプ19の吐出側と低圧となる回転軸54の周囲やギヤポンプ19の吸入側との間をシールする。環状ゴム部材113は、内側部材112の外形に沿った形状で成形されていても良いが、円形状のものを弾性変形させて内側部材112の外形に合わせて内側部材112の外周壁に嵌め込まれれば良い。
外側部材114は、ギヤポンプ19におけるポンプ軸方向端面において低圧側と高圧側とのシールを行う。図5に示されるように、外側部材114は、中空枠形状で構成されており、中空部114aの内形は内側部材112の外形と対応する形状とされている。また、外側部材114は、ギヤポンプ19側の端面に凹部114bと凸部114cが形成された段付きプレートとされ、凸部114cが両ロータ19a、19bの一端面やシリンダ71の一端面に接する構成とされている。
凸部114cは、第1密閉部114dと第2密閉部114eと第3密閉部114hを有している。第1密閉部114dと第2密閉部114eは、空隙部19cが後述する吸入口81と連通した状態から後述する吐出室80に連通した状態に移行するまでの間と、空隙部19cが吐出室80と連通した状態から吸入口81に連通した状態に移行するまでの間と対応する位置にそれぞれ備えられている。つまり、第1密閉部114dは、複数の空隙部19cのうち体積が最も大きくなる部分と対応した位置に配置され、第2密閉部114eは、複数の空隙部19cのうち体積が最も小さくなる部分と対応した位置に配置されている。これら密閉部114d、114eは、両ロータ19a、19bの一端面に当接し、これにより、空隙部19cを密閉すると共に、低圧側と高圧側との間をシールしている。
第3密閉部114hは、第1密閉部114dと第2密閉部114eとの間に位置する部位であり、シリンダ71の一端面に当接し、これにより、低圧側と高圧側との間をシールしている。
凹部114bは、吐出室80と連通させられることで高圧な吐出圧が導入されるようになっている。このため、ギヤポンプ19による高圧吐出時には、凹部114b内を含めて外側部材114の外周に高圧な吐出圧が導入される。この吐出圧に基づいて、外側部材114が変形して、内側部材112を締め付ける抱き付きが生じることがある。
また、外側部材114に対して、ギヤポンプ19と反対側から内側部材112および環状ゴム部材113が嵌め込まれるようになっており、外側部材114のうちギヤポンプ19と反対側の端面には環状ゴム部材113と対応する形状の突出壁114fが形成されている。この突出壁114fの内周壁に対向して環状ゴム部材113が配置されることで、外側部材114と内側部材112および環状ゴム部材113とが正確に位置合わせされている。
なお、外側部材114におけるギヤポンプ19側の端面のうち凸部114cよりもポンプ径方向外側の部位には、突起状の回転防止部114gが形成されている。この回転防止部114gがシリンダ71に形成された図示しない凹部内に挿入されることで、外側部材114がシリンダ71に対して回転しないようにされている。
ここで、図6において、ギヤポンプ19の回転範囲のうちブレーキ液を吸入する吸入工程の回転範囲を吸入回転範囲θ1とする。吸入回転範囲θ1のうち、シリンダ71の一端面に当接する第3密閉部114hが位置する部位を非摺動範囲θ2とする。
吸入回転範囲θ1のうち、ギヤポンプ19の一端面に当接する第1密閉部114dが位置する部位を第1摺動範囲θ3とする。より詳細には、第1摺動範囲θ3は、吸入回転範囲θ1のうち、第1密閉部114dと第3密閉部114hがポンプ径方向に重ならない部位である。
吸入回転範囲θ1のうち、ギヤポンプ19の一端面に当接する第2密閉部114eが位置する部位を第2摺動範囲θ4とする。より詳細には、第2摺動範囲θ4は、吸入回転範囲θ1のうち、第2密閉部114eと第3密閉部114hがポンプ径方向に重ならない部位である。
そして、図5、図6に示すように、凹部114bには、第1摺動範囲θ3において第1密閉部114dのポンプ径方向外側位置に、シリンダ71におけるポンプ軸方向端面に当接される第1当接部114iが設けられている。また、凹部114bには、第2摺動範囲θ4において第2密閉部114eのポンプ径方向外側位置に、シリンダ71におけるポンプ軸方向端面に当接される第2当接部114jが設けられている。第1当接部114iおよび第2当接部114jは、凹部114bから突出する突起部であり、その先端部は、第1密閉部114dや第2密閉部114eよりもポンプ軸方向に突出している。
図2に示すように、シール機構111の外径は、少なくとも図2の紙面左側においてハウジング101の凹部101aの内径よりも小さくされている。このため、紙面左側におけるシール機構111とハウジング101の凹部101aとの間の隙間を通じてブレーキ液が流動できる構成とされている。この隙間が吐出室80を構成しており、ハウジング101の凹部101aの底部に形成された吐出用管路90に接続されている。このような構造により、ギヤポンプ19は、吐出室80および吐出用管路90を吐出経路としてブレーキ液を排出することができる。
また、本実施形態では、図5に示すように、第1、第2密閉部114d、114eに対して外側に張り出した拡張領域114k、114lを備えた構成としている。具体的には、図7に示すように、第1、第2密閉部114d、114eに対して、アウターロータ19aの内歯部の歯底を結ぶ曲線から所定幅までの領域に加えて、さらにその外側に張り出させることで拡張領域114k、114lを構成している。
従来(特許文献1)のギヤポンプ装置では、複数の空隙部19cの通過領域を覆いつつ、摺動面積を極力少なくできるように、第1、第2密閉部114d、114eの形成範囲を複数の空隙部19cの通過領域に沿ったもの(図7中の一点鎖線)としている。具体的には、第1、第2密閉部114d、114eのうちのギヤポンプ19の外周側の外郭線が、複数の空隙部19cの通過領域のうちのギヤポンプ19の外周側、つまりアウターロータ19aの内歯部の歯底を結ぶ曲線と平行とされている。つまり、アウターロータ19aの内歯部の歯底を結ぶ曲線から所定幅まで第1、第2密閉部114d、114eが形成されており、本実施形態のような拡張領域114k、114lが備えられていない。
しかしながら、このような構造では、第1、第2密閉部114d、114eよりも外周側において、高圧な吐出圧が入り込む範囲が増えることになり、両ロータ19a、19bがシリンダ71に押し付けられる荷重が増大する。
すなわち、凹部114bが吐出室80と連通することで高圧な吐出圧が導入されるようになっている。このため、従来構造では、図8に示すようにギヤポンプ19の作動による高圧吐出時には、凹部114b内を含めて外側部材114の外周に高圧な吐出圧が導入され、凹部114bと重なるギヤ領域は、高圧な吐出圧でシリンダ71側に押し付けられることになる。具体的には、ギヤポンプ19とシリンダ71との間の予想圧力分布は、図9に示されるようになり、吐出圧領域Ra、吸入圧領域Rb、その中間圧力となる中間圧領域Rcとによって区画される。この図中の吐出圧未満となる吸入圧領域Rbや中間圧領域Rcと図8に示した凹部114bとが重なる部分において、特にギヤポンプ19がシリンダ71を押し付ける荷重が高くなる。
そして、高圧な吐出圧が入り込む範囲が増えることによって、両ロータ19a、19bがシリンダ71に押し付けられる荷重が増大する。このような荷重の増大は、ロータ摩耗を増加させたり、回転損失を増加させる要因となり得る。
具体的には、図8に示すように、拡張領域114k、114lを備えていない構造の第1、第2密閉部114d、114eとしている場合には、図中斜線領域において、高圧な吐出圧が導入され、上記荷重を増加させることになる。このため、図10中に示した斜線領域において第1、第2密閉部114d、114eの面積を拡張することが有効となる対策有効領域となり、この領域に張り出すように、第1、第2密閉部114d、114eに対して拡張領域114k、114lを備えている。つまり、第1、第2密閉部114d、114eに対して、ギヤポンプ19の外周側の外郭線が複数の空隙部19cの通過領域の曲線に沿って形成された領域からギヤポンプ19の外周側に張り出させた拡張領域114k、114lを備えている。
本実施形態の場合、拡張領域114k、114lは、ギヤポンプ19の径方向寸法が吸入側から徐々に拡大し、ギヤポンプ19の中心線Z(空隙部19cのうち最も体積が大きなものと小さなもの、および、駆動軸54の中心を結ぶ線)まで形成されている。
このような拡張領域114k、114lは、図10中斜線領域の範囲内において任意の形状として良いが、面積が広すぎると逆に上記荷重が小さくなり過ぎて、シール性能不足を引き起こす可能性がある。特に、図10中の斜線領域のうちの吸入側においては、幅狭とすることでシール面圧を確保して、高圧な吐出圧と低圧な吸入圧との間をシール性能を確保したい。このため、本実施形態では、拡張領域114k、114lは、吸入側において吐出側よりもギヤポンプ19の径方向寸法を狭くすることで、シール面圧を高くし、シール性能が確保できるようにしている。
このように、拡張領域114k、114lを備えることにより、第1、第2密閉部114d、114eよりも外周側において、高圧な吐出圧が入り込む範囲を減らすことが可能となる。これにより、両ロータ19a、19bがシリンダ71に押し付けられる荷重を減少させられ、ロータ摩耗の抑制および回転損失の減少を図ることが可能となる。
シリンダ71には、ギヤポンプ19の吸入側の空隙部19cと連通する吸入口81が形成されている。この吸入口81は、シリンダ71のうちギヤポンプ19側の端面から外周面に至るように延設されており、ハウジング101の凹部101aの側面に設けられた吸入用管路91に接続されている。このような構造により、ギヤポンプ19は、吸入用管路91および吸入口81を吸入経路としてブレーキ液を導入することができる。
一方、シール機構115も、回転軸54が挿入される中心部を有するリング状部材で構成され、アウターロータ39aおよびインナーロータ39bをシリンダ71側に押圧することにより、ギヤポンプ39のうちの一端面側での比較的低圧な部位と比較的高圧な部位とをシールしている。具体的には、シール機構115は、プラグ72のうちシール機構115が収容される部分の端面およびアウターロータ39aやインナーロータ39bの所望位置と当接することでシール機能を発揮している。
このシール機構115も、中空枠形状とされた内側部材116と環状ゴム部材117および中空枠形状とされた外側部材118とを有した構成とされている。内側部材116の外周壁と外側部材118の内周壁との間に環状ゴム部材117を配した状態で外側部材118内に内側部材116が嵌め込まれている。このシール機構115は、上記したシール機構111とシールを構成する面が反対側となっている点が異なっているため、シール機構111に対する対称形状で構成されているが、回転軸54を中心としてシール機構111に対して180°位相をずらして配置されている。ただし、シール機構115の基本構造はシール機構111と同じであるため、シール機構115の詳細構造については説明を省略する。
なお、シール機構115の外径は、少なくとも紙面右側においてプラグ72の内径よりも小さくなっている。このため、紙面右側におけるシール機構115とプラグ72との間の隙間を通じてブレーキ液が流動できる構成とされている。この隙間が吐出室82を構成しており、プラグ72に形成された連通路72bおよびハウジング101の凹部101aの側面に形成された吐出用管路92に接続されている。このような構造により、ギヤポンプ39は、吐出室82や連通路72bおよび吐出用管路92を吐出経路としてブレーキ液を排出することができる。
一方、シリンダ71のうちギヤポンプ19、39側の端面もシール面とされ、このシール面にギヤポンプ19、39が密着することでメカニカルシールが為され、ギヤポンプ19、39のうちの他端面側での比較的低圧な部位と比較的高圧な部位とをシールしている。
また、シリンダ71には、ギヤポンプ39の吸入側の空隙部39cと連通する吸入口83が形成されている。この吸入口83は、シリンダ71のうちギヤポンプ39側の端面から外周面に至るように延設されており、ハウジング101の凹部101aの側面に設けられた吸入用管路93に接続されている。このような構造により、ギヤポンプ39は、吸入用管路93および吸入口83を吸入経路としてブレーキ液を導入することができる。
なお、図2において、吸入用管路91および吐出用管路90が図1における管路Cに相当し、吸入用管路93および吐出用管路92が図1における管路Gに相当する。
また、シリンダ71の中心孔71aのうち第1ベアリング51よりも挿入方向後方には、シール部材120が収容されている。シール部材120は、ポンプ径方向断面がU字状とされた環状樹脂部材120aと、この環状樹脂部材120a内に嵌め込まれた環状ゴム部材120bとによって構成されている。このシール部材120は、環状樹脂部材120aがシリンダ71と回転軸54とによって押し縮められることで環状ゴム部材120bが押し潰され、この環状ゴム部材120bの弾性反力によって環状樹脂部材120aがシリンダ71と回転軸54に接して、これらの間をシールしている。これにより、シリンダ71の中心孔71a内での2系統の間のシールがなされている。
また、プラグ72の中心孔72aは、挿入方向前方から後方に向かって内径が三段階に縮径させられて段付き形状とされており、その最も挿入方向後方側となる一段目の段付部にシール部材121が収容されている。このシール部材121は、ゴムなどの弾性部材からなるリング状の弾性リング121aを、ポンプ径方向を深さ方向とする溝部が形成されたリング状の樹脂部材121bに嵌め込んだものである。弾性リング121aの弾性力によって樹脂部材121bが押圧されて回転軸54と接するようになっている。
なお、中心孔72aのうちシール部材121が配置された段の隣の段となる二段目の段付部には、上述したシール機構115が収容されている。上述した連通路72bは、この段付部からプラグ72の外周面に至るように形成されている。また、中心孔72aのうち最も挿入方向前方側となる三段目の段付部には、シリンダ71の挿入方向後方側の端部が圧入されている。シリンダ71のうちプラグ72の中心孔72a内に嵌め込まれる部分は、シリンダ71の他の部分よりも外径が縮小されている。このシリンダ71のうち外径が縮小されている部分のポンプ軸方向寸法が中心孔72aの三段目の段付部のポンプ軸方向寸法よりも大きくされているため、シリンダ71がプラグ72の中心孔72a内に圧入されたときに、プラグ72の先端位置にシリンダ71とプラグ72とによる溝部74cが形成されるようになっている。
さらに、プラグ72の中心孔72aは、挿入方向後方でも部分的に径が拡大されており、この部分にオイルシール(シール部材)122が備えられている。このように、シール部材121よりもモータ60側にオイルシール122を配置することで、基本的には、シール部材121によって中心孔72aを通じた外部へのブレーキ液洩れを防止し、オイルシール122により、より確実にその効果が得られるようにしている。
このように構成されたポンプ本体100の外周において、各部のシールを行うように環状シール部材としてのOリング73a〜73dが備えられている。これらOリング73a〜73dは、ハウジング101に形成された2系統の系統同士の間や各系統の吐出経路と吸入経路との間などにおけるブレーキ液をシールするものである。Oリング73aは吐出室80および吐出用管路90と吸入口81および吸入用管路91との間に配置されている。Oリング73bは吸入口81および吸入用管路91と吸入口83および吸入用管路93の間に配置されている。Oリング73cは吸入口83および吸入用管路93と吐出室82および吐出用管路92の間に配置されている。Oリング73dは吐出室82および吐出用管路92とハウジング101の外部の間に配置されている。Oリング73a、73c、73dは、回転軸54を中心としてポンプ周方向を一周囲むように単に円形状に配置されているが、Oリング73bは、回転軸54を中心としてポンプ周方向を囲んでいるもののポンプ軸方向にずらして配置されることで、回転軸54のポンプ軸方向において寸法縮小を可能にしている。
なお、Oリング73a〜73dが配置できるように、ポンプ本体100の外周には溝部74a〜74dが備えられている。溝部74a、74bは、シリンダ71の外周を部分的に凹ませることで形成されている。溝部74cは、シリンダ71の外周の凹ませた部分とプラグ72の先端部分によって形成されている。凹部74dは、プラグ72の外周を部分的に凹ませることで形成されている。このような各溝部74a〜74d内にOリング73a〜73dが嵌め込まれた状態でポンプ本体100をハウジング101の凹部101a内に挿入することで、各Oリング73a〜73dが凹部101aの内壁面に押し潰され、シールとして機能させられる。
さらに、プラグ72の外周面は、挿入方向後方において縮径され、段付き部を構成している。上記したリング状の雄ネジ部材102はこの縮径された部分に嵌装され、ポンプ本体100が固定されるようになっている。
以上のような構造によってギヤポンプ装置が構成されている。このように構成されたギヤポンプ装置では、内蔵されたギヤポンプ19、39の回転軸54がモータ60によって回転させられることにより、ブレーキ液の吸入・吐出というポンプ動作を行う。これにより、車両用ブレーキ装置によるアンチスキッド制御などの車両運動制御が為される。
また、ギヤポンプ装置では、ポンプ動作に伴って各ギヤポンプ19、39の吐出圧が吐出室80、82に導入される。これにより、両シール機構111、115に備えられた外側部材114、118のうちのギヤポンプ19、39とは反対側の端面に高圧な吐出圧が印加される。このため、高圧な吐出圧が外側部材114、118をシリンダ71側に押圧する方向に加えられ、外側部材114、118のシール面(シール機構111で言えば凸部114cの先端面)をギヤポンプ19、39に押し付けると共に、シリンダ71にギヤポンプ19、39のポンプ軸方向他端面を押し付ける。これにより、両シール機構111、115によってギヤポンプ19、39のポンプ軸方向一端面をシールしつつ、シリンダ71によってギヤポンプ19、39のポンプ軸方向他端面をメカニカルシールすることができる。
また、ポンプ動作に伴って各ギヤポンプ19、39の吐出圧が吐出室80、82に導入されると、吐出圧に基づいて環状ゴム部材113、117が内側部材112、116の受圧面を垂直方向に押圧する。そして、内側部材112の受圧面が当該面の垂直方向に押され、内側部材112をギヤポンプ19から離れる方向に推進力を生じさせられるため、内側部材112を凹部101aの底面に当接させてこれらの間の隙間を無くすことができる。内側部材116についても同様のことが言え、内側部材116の受圧面が当該面の垂直方向に押され、内側部材116がギヤポンプ39から離れる方向に推進力を生じさせられるため、内側部材116をプラグ72の端面に当接させてこれらの間の隙間を無くすことができる。
さらに、環状ゴム部材113、117が高圧な吐出圧によって凹部101aの底面やプラグ72の端面に押圧される。このため、環状ゴム部材113および内側部材112によって環状ゴム部材113よりも内側の低圧側と外側の高圧側とをシールすることができる。また、環状ゴム部材117および内側部材116によって環状ゴム部材117よりも内側の低圧側と外側の高圧側とをシールすることができる。
このように、内側部材112、116を凹部101aの底面やプラグ72の端面に当接させてこれらの間の隙間を無くせるようにしつつ、低圧側と高圧側とのシールも的確に行えるようにしている。このため、これらの間に隙間が形成された場合に発生し得る圧力洩れや、環状ゴム部材113が隙間に入り込んで異常変形し、耐久性低下が生じることを防止することができる。また、環状ゴム部材113は、ギヤポンプ19の駆動時の吐出圧の増減に伴って内側部材112の受圧面に対する圧接力を増減させるため、ロストルクの発生を抑制することも可能となる。
特に、本実施形態の場合には、受圧面をテーパ面112eとしている。このため、高圧吐出時にテーパ面112eに対して垂直方向にかかる吐出圧を効率良く内側部材112、116がギヤポンプ19、39と反対側に移動する推進力に変換できる。したがって、より確実に上記隙間を無くすことが可能となり、上記効果を得ることができる。また、上記隙間を無くせることで、この隙間による環状ゴム部材113、117の噛み込みを防ぐことも可能となり、環状ゴム部材113、117の損傷抑制も可能となる。
また、図11に示すように、外側部材114は押し付け力F1にてギヤポンプ19に押し付けられる。また、外側部材114は、外側部材114とギヤポンプ19との間の圧力による押し返し力F2にて押し返される。さらに、外側部材114は、第1当接部114iおよび第2当接部114jがシリンダ71におけるポンプ軸方向端面に当接するため、支持反力F3にて押し返される。
このように、第1当接部114iおよび第2当接部114jをシリンダ71に当接させることにより、押し付け力F1の一部を受けることができる。このため、外側部材114の凸部114cにおける外周側エッジ部とアウターロータ19aとの接触面圧が低くなり、摺動抵抗が低下し、ポンプの駆動トルクが低減される。
ここで、図12では、ギヤポンプ装置における高圧部の領域を斜線で示し、低圧部の領域を綾目で示している。具体的には、内側部材112におけるギヤポンプ19側の圧力は低く、外側部材114の凹部114bにおけるギヤポンプ19側の圧力は高い。また、吸入回転範囲θ1に位置する空隙部19cの圧力は低く、吸入回転範囲θ1以外に位置する空隙部19cの圧力は高い。
このように、吸入回転範囲θ1に位置する空隙部19cの圧力は低いため、押し返し力F2は、第1摺動範囲θ3および第2摺動範囲θ4では小さくなる。したがって、外側部材114の凸部114cとアウターロータ19aとの摺動面のうち、第1摺動範囲θ3および第2摺動範囲θ4の摺動面(より詳細には、図6に綾目で示す領域付近)の面圧が高くなりやすい。
そして、本実施形態では、第1当接部114iおよび第2当接部114jを第1摺動範囲θ3および第2摺動範囲θ4に設けているため、第1摺動範囲θ3および第2摺動範囲θ4の摺動面の面圧を確実に低くすることができる。
さらに、本実施形態のギヤポンプ装置では、第1、第2密閉部114d、114eに対して拡張領域114k、114lを備えている。このため、第1、第2密閉部114d、114eよりも外周側において、高圧な吐出圧が入り込む範囲を減らすことが可能となる。これにより、両ロータ19a、19bがシリンダ71に押し付けられる荷重を減少させられ、ロータ摩耗の抑制および回転損失の減少を図ることが可能となる。具体的に、図13および図14を参照して、このような効果が得られる理由について説明する。
図13に示すように、拡張領域114k、114lを備えていない構造の第1、第2密閉部114d、114eとしている場合には、ギヤポンプ19に加えられる各種力の関係として下記の関係が成り立つ。ここで、Faは、外側部材114がギヤポンプ19に押し付けられる押し付け力である。Fbは、外側部材114とギヤポンプ19との間の圧力による押し返し力である。Fcは、拡張領域114k、114lと対応する場所(図中破線で囲んだ場所)で吐出圧がギヤポンプ19を押し付ける押し付け力である。Fdは、第1、第2密閉部114d、114eよりも外側において、拡張領域114k、114l以外の場所で吐出圧がギヤポンプ19を押し付ける押し付け力である。Feは、ギヤポンプ19がシリンダ71によって押し返される押し返し力である。Ffは、第1、第2当接部114i、114jにおいて外側部材114がシリンダ71から押し返される押し返し力である。
まず、Feは、ギヤポンプ19が紙面左側より加えられる力、つまりFb、Fc、Fdに対する反力であることから、数式1が成り立つ。そして、Faは、外側部材114を紙面左側から押し付ける力に対応していることから、数式2の第1式が成り立ち、第1式を数式1に基づいて置き換えると第2式が導出される。
(数1) Fe=Fb+Fc+Fd
(数2) Fa=Fb+Fc+Fd+Ff
=Fe+Ff
ここで、図14に示したように、拡張領域114k、114lを備えた構造とした場合に、FcがFc’に減少したとすると、FaやFdについては変化しないことから、その減少分はFb、Ffが分散して補填していることになる。したがって、FbがFb’、FfがFf’に増加していると考えられる。そして、仮に、Fc’=Fc/2まで減少していて、Fb’、Ff’のFb、Ffからの増加分がそれぞれα、βであったとして、Fb’=Fb+α、Ff’=Ff+βが成り立つとする。その場合、Fb+Fc+Ff=Fb’+Fc’+Ff’であることから、α+β=Fc/2となる。
なお、拡張領域114k、114lを備えた構造とした場合において、Fb、Fc、Ffが上記のように変化したとした場合でも、次式に示されるように、Faについては変化していない。
(数3) Fa=Fb’+Fc’+Fd+Ff’
=(Fb+α)+(Fc/2)+Fd+(Ff+β)
=Fb+Fc+Fd+Ff
そして、ギヤポンプ19がシリンダ71によって押し返される押し返し力Feについて演算すると、次式が成り立つ。
(数4) Fe=Fb’+Fc’+Fd
=(Fb+α)+(Fc/2)+Fd
=Fb+Fc+Fd+α−Fc/2
=Fb+Fc+Fd−β
つまり、図13に示した拡張領域114k、114lを備えていない構造と比較して、図14に示した拡張領域114k、114lを備えた構造とした場合の方が、Feがβ分だけ減少していることが分かる。このように、拡張領域114k、114lを備えることにより、第1、第2密閉部114d、114eよりも外周側において、高圧な吐出圧が入り込む範囲を減らすことが可能となる。したがって、上記効果を得ることが可能となる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、ギヤポンプを2つ備えたギヤポンプ装置を例に挙げたが、1つのギヤポンプのみが適用されるギヤポンプ装置であっても良い。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
また、上記実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
また、上記実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。
また、上記実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、拡張領域114k、114lを第1、第2密閉部114d、114eの両方に備えた構造を説明したが、少なくとも一方の拡張領域114k、114lが備えられるだけでも上記効果が得られる。
また、上記実施形態では、第1、第2当接部114i、114jをそれぞれ1つずつ備えるようにしたが、いずれか一方もしくは両方を複数個としても良い。
さらに、第1、第2当接部114i、114jの形成位置として、最も好ましい位置は、上記した通り第1、第2摺動範囲θ3、θ4であるが、これらの範囲から外れていた場合でも、上記各実施形態と比べれば低くなるものの上記効果を得ることができる。例えば、第1、第2当接部114i、114jを吸入回転範囲θ1の外に配置しても良く、吸入回転範囲θ1の外であっても、より吸入回転範囲θ1に近ければ、より上記効果に近い効果を得ることができる。
特に、第1、第2当接部114i、114jを複数個備える場合には、必ずしも第1、第2摺動範囲θ3、θ4内に形成していなくても、上記効果を得ることが可能となる。勿論、複数個の第1、第2当接部114i、114jのうちの1個でも第1、第2摺動範囲θ3、θ4に配置されていれば、より上記効果が得易くなる。
また、上記実施形態では、内側部材112の外周壁に、テーパ面112eを構成する鍔部としてのフランジ部112を備えているが、フランジ部112が備えられていなくても良い。ただし、この場合には、内側部材112をギヤポンプ19から離れる方向に推進力を生じさせられなくなる。
なお、上記実施形態では、外側部材114に第1、第2当接部114i、114jを備えた構成としたが、第1、第2当接部114i、114jを備えていない構成であっても良い。すなわち、外側部材114がケースとなるシリンダ71のポンプ軸方向端面に当接する部位を有していれば、拡張領域114k、114lを備えることによる効果が得られる。上記実施形態の構造においては、第3密閉部114hを備えており、少なくとも第3密閉部114hにおいて外側部材114がケースに当接させられるため、第1、第2当接部114i、114jを備えていない構成であっても上記効果が得られる。