JP6418756B2 - アルミニウム合金導体の製造方法及びアルミニウム合金導体を用いた電線の製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金導体の製造方法及びアルミニウム合金導体を用いた電線の製造方法 Download PDF

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本発明は、振動や屈曲等の駆動環境下又は振動状態下の配線に用いられ、引張強度、耐屈曲性、及び伸線加工性に優れたアルミニウム合金導体の製造方法及びアルミニウム合金導体を用いた電線に関する。
アルミニウムは軽量で高い導電性を有し、しかも安価であることから、純銅に代わる導電性材料として有望視されている。しかし、アルミニウムは純銅に比較して引張強度が小さいことから、産業用ロボットケーブル用に使用する、例えば、線径が100μm以下の導体素線を形成する伸線加工を高効率で行うことができないという問題を有する。また、産業用ロボットケーブルに要求される耐屈曲性能、例えば、100万回以上の動的駆動(繰り返し曲げ)に耐える耐屈曲性能を、現状のアルミニウム基合金は有していない。そこで、アルミニウム基合金の金属組織を微細化、例えば、金属組織を構成する結晶粒の平均粒径を2μm以下とし、かつ1μm以下の粒径の結晶粒を断面積率で20%以上含むようにすると共に、粒径が10〜80nmのβダブルプライム相のナノ粒子を分散させることにより、100万回の動的駆動を保証した耐屈曲性導電材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
WO2013/002272号公報
特許文献1の耐屈曲性導電材料は、金属組織を微細化することにより引張強度及び破断引張伸び率が向上され、伸線加工性が改善している。しかしながら、この耐屈曲性導電材料に対して、ロングスパンの機械装置用ケーブル等の用途を想定した場合、ケーブルに発生する自重張力に対して、この耐屈曲性導電材料の引張強度は不十分で、この耐屈曲性導電材料で作製したケーブルを単独では使用することができないという問題がある。
更に、産業用ロボットを長期間に亘って安定して稼働させるには、100万回の動的駆動を保証する耐屈曲性では不十分であるという問題もある。そこで、金属組織を構成している結晶粒を伸線方向に配向させること、ナノ粒子の分散量を増加させることにより、疲労き裂の進展速度を低下させ、耐屈曲性の向上を図ることが行われている。しかしながら、特許文献1の耐屈曲性導電材料の金属組織では、微細化の程度が低いため、十分な等軸晶の金属組織を形成することができず、伸線加工時に結晶粒の配向性を十分に制御することは困難である。また、ナノ粒子の分散量を増加させるには、ナノ粒子形成元素の添加量を増加させる必要があるが、添加したナノ粒子形成元素の一部はアルミニウムの結晶粒内に固溶するため、ナノ粒子形成元素の固溶量の増加に伴って結晶粒の導電率が低下し、作製した導体素線の導電率も低下するという問題が生じる。更に、ナノ粒子形成元素の添加量を増加させた場合、ナノ粒子形成元素から粒径の大きな析出物が形成される頻度が向上し、この析出物が欠陥となって伸線加工中に線材が断線するという問題が生じる。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、アルミニウムの有する軽量で高い導電率を保持しながら、高い引張強度、高い耐屈曲性、及び高い伸線加工性を有し、振動や屈曲等の駆動環境下又は振動状態下の配線に使用することが可能なアルミニウム合金導体の製造方法及びアルミニウム合金導体を用いた電線の製造方法を提供することを目的とする。
前記目的に沿う第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法は、振動若しくは屈曲の駆動環境又は振動状態において常用されるアルミニウム合金導体の製造方法であって、
アルミニウムとの間で金属間化合物を生成し、アルミニウムに対する添加量が5質量%以下の領域に共晶反応又は包晶反応の生じる反応組成(即ち、共晶点又は包晶点)を有し、更に、アルミニウムに対する固溶限度が前記反応組成未満である元素Xを(アルミニウムに対して)0.3質量%以上5質量%以下含有するアルミニウム鋳造体に相当ひずみの総和が100以上の強加工を行い、前記アルミニウム鋳造体の鋳造組織の微細化に伴って、アルミニウム微細結晶粒と、前記アルミニウム微細結晶粒の粒内に存在する前記金属間化合物からなる第1のナノ粒子と、前記アルミニウム微細結晶粒の粒界に存在する前記金属間化合物からなる第2のナノ粒子とを有するナノ粒子分散組織を形成し、
1)前記アルミニウム微細結晶粒の粒径を800nm以下、前記第1、第2のナノ粒子の粒径を500nm以下とし、しかも室温での引張試験時の引張強度を220MPa以上、室温での繰り返し屈曲試験による破断回数を300万回以上、室温での導電率を50%IACS以上とする、
2)前記アルミニウム鋳造体は、前記強加工前又は前記強加工中に、300℃以下の温度で熱処理される、又は
3)前記アルミニウム合金導体は、300℃以下の温度で熱処理されている
ここで、アルミニウム中の元素Xの含有量が0.3質量%未満では、第1、第2のナノ粒子の形成量が少なくなって、効果的なナノ粒子分散組織の形成ができない。一方、元素Xの含有量が5質量%を超えると、凝固過程で粒径の大きな金属間化合物の晶出物が形成され、強加工を行っても晶出物の微細分断及び分散を図ることができない。このため、元素Xの含有量を0.3質量%以上5質量%以下と規定した。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、前記鋳造組織は、1)アルミニウム中に前記元素Xが固溶したアルミニウム基固溶体の初晶及びアルミニウムと前記金属間化合物との共晶組織、2)アルミニウムと前記金属間化合物との共晶組織、3)前記金属間化合物の晶出物及びアルミニウムと前記金属間化合物との共晶組織、及び4)アルミニウム中に前記元素Xが固溶したアルミニウム基固溶体の初晶、アルミニウムと前記金属間化合物との共晶組織、及び前記金属間化合物の晶出物のいずれか1とすることができる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、前記アルミニウム鋳造体には、予め相当ひずみ2以下の塑性変形加工が加えられていることが好ましい。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、前記元素Xは鉄であって、アルミニウムに0.6質量%以上5質量%以下含有させることができる。
ここで、鉄はアルミニウムに対して1.5質量%以上2.5質量%以下含有されていることが好ましい。
そして、前記アルミニウム鋳造体はアルミニウムインゴット及びアルミニウムリサイクル回収材のいずれか一方又は双方を用いて鋳造することができる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、前記元素Xはマンガンであって、アルミニウムに0.6質量%以上2.5質量%以下含有させることもできる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、前記鋳造組織は、1)アルミニウム中に前記元素Xが固溶したアルミニウム基固溶体及び該アルミニウム基固溶体に包摂された前記金属間化合物、又は2)アルミニウム中に前記元素Xが固溶したアルミニウム基固溶体、該アルミニウム基固溶体に包摂された前記金属間化合物の晶出物、及び前記アルミニウム基固溶体中に析出した前記金属間化合物としてもよい。
そして、前記元素Xはクロムであって、アルミニウムに0.6質量%以上5質量%以下含有させることができる。
前記目的に沿う第2の発明に係る電線の製造方法は、第1の発明に記載のアルミニウム合金導体に加工度5以上の引き抜き加工を行って形成、線径が0.03mm以上0.5mm以下である導体素線を使用する。
第2の発明に係る電線の製造方法において、前記導体素線は350℃以下の温度で熱処理されることが好ましい。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法においては、凝固時に共晶反応又は包晶反応が生じるため、アルミニウム鋳造体の鋳造組織中は、微細な金属間化合物が分散した状態となる。このため、強加工によりアルミニウム鋳造体の鋳造組織の微細化、特に金属間化合物の分断と分散が容易となり、鋳造組織は、元素Xが過飽和固溶したアルミニウム微細結晶粒を経由して、アルミニウム微細結晶粒と、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ存在し、元素Xとアルミニウムとの反応で生成する金属間化合物からなる第1、第2のナノ粒子とを有するナノ粒子分散組織を形成することができる。その結果、アルミニウム合金導体の引張強度の向上を達成することができると共に、第1、第2のナノ粒子の生成に伴ってアルミニウム微細結晶粒内の元素Xの固溶量を減少させてアルミニウム合金導体の導電率を向上させることができる。
また、アルミニウム合金導体の金属組織がアルミニウム微細結晶粒で構成されているため伸び性が向上し、金属組織に繰り返し曲げが加えられても、ひずみが蓄積され難く疲労き裂が発生し難い。そして、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ第1、第2のナノ粒子が分散しているので、疲労き裂が発生しても、進展時に疲労き裂の偏向及び分岐が促進され、疲労き裂の進展速度が低下する。その結果、アルミニウム合金導体の耐屈曲性が向上し、アルミニウム合金導体を振動や屈曲等の駆動環境下又は振動状態下の配線に使用することができる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、鋳造組織が、1)アルミニウム中に元素Xが固溶したアルミニウム基固溶体の初晶及びアルミニウムと金属間化合物との共晶組織、2)アルミニウムと金属間化合物との共晶組織、3)金属間化合物の晶出物及びアルミニウムと金属間化合物との共晶組織、及び4)アルミニウム基固溶体の初晶、アルミニウムと金属間化合物との共晶組織、及び金属間化合物の晶出物のいずれか1である場合、鋳造組織中の金属間化合物の分断と分散を効率的に行うことができる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、アルミニウム鋳造体に、予め相当ひずみ2以下の塑性変形加工が加えられている場合、アルミニウム鋳造体中の共晶組織が粗く整合し、即ち、共晶組織が層状のアルミニウム部分と層状の金属間化合物部分とが交互に積層する状態になって、強加工時における共晶組織の崩壊が生じ易くなる。その結果、金属間化合物の分断が更に促進され、金属間化合物の分散をより効率的に行うことが可能になる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、元素Xが鉄の場合、アルミニウムに対する固溶量が少ないため、アルミニウム合金導体の導電率が低減することを防止できる。
そして、アルミニウムに鉄が0.6質量%以上5質量%以下含有される場合、鉄の含有量に応じて、鋳造組織を、1)アルミニウム中に鉄が固溶したアルミニウム基固溶体の初晶及び共晶組織、2)共晶組織、3)アルミニウムと鉄との金属間化合物の晶出物及び共晶組織、及び4)初晶、共晶組織、及び晶出物のいずれか1とすることができる。その結果、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ第1、第2のナノ粒子が効果的に分散したナノ粒子分散組織を形成することができる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、鉄がアルミニウムに対して1.5質量%以上2.5質量%以下含有されている場合、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、共晶組織が主体となり、初晶や晶出物は微細なので、強加工により共晶組織、初晶、晶出物の分断を効果的に進めることができ、鋳造組織の微細化が容易に達成できる。
ここで、アルミニウム鋳造体がアルミニウムインゴットを用いて鋳造される場合、アルミニウム微細結晶粒内の不純物濃度を低減させて、導電性を高くすることができる。
また、アルミニウム鋳造体がアルミニウムリサイクル回収材を用いて鋳造され、アルミニウムリサイクル回収材の鉄含有量が少ない場合や、アルミニウムインゴットとアルミニウムリサイクル回収材の双方を用いて鋳造され、アルミニウムリサイクル回収材の鉄含有量が多い場合でも、鉄をアルミニウムに対して1.5質量%以上2.5質量%以下含有されるように調節することができ、アルミニウムリサイクル回収材の使用率を向上させることができる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、元素Xがマンガンであって、アルミニウムに0.6質量%以上2.5質量%以下含まれる場合、マンガンの含有量に応じて、鋳造組織を、1)アルミニウム中にマンガンが固溶したアルミニウム基固溶体の初晶及び共晶組織、2)共晶組織、3)アルミニウムとマンガンとの金属間化合物の晶出物及び共晶組織、及び4)初晶、共晶組織、及び晶出物のいずれか1とすることができる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、鋳造組織が、1)アルミニウム中に元素Xが固溶したアルミニウム基固溶体及びアルミニウム基固溶体に包摂された金属間化合物、又は2)アルミニウム中に元素Xが固溶したアルミニウム基固溶体、アルミニウム基固溶体に包摂された金属間化合物の晶出物、及びアルミニウム基固溶体中に析出した金属間化合物である場合、鋳造組織中の金属間化合物の分断と分散を効率的に行うことができる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、元素Xがクロムであって、アルミニウムに0.6質量%以上5質量%以下含まれる場合、クロムの含有量に応じて、鋳造組織を、1)アルミニウム中にクロムが固溶したアルミニウム基固溶体及びアルミニウム基固溶体に包摂された金属間化合物、又は2)アルミニウム基固溶体、アルミニウム基固溶体に包摂された金属間化合物の晶出物、及びアルミニウム基固溶体中に析出した金属間化合物とすることができる。その結果、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ第1、第2のナノ粒子が効果的に分散したナノ粒子分散組織を形成することができる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、アルミニウム微細結晶粒の粒径は800nm以下、第1、第2のナノ粒子の粒径は500nm以下であり、室温での引張試験時の引張強度が220MPa以上、室温での繰り返し屈曲試験による破断回数が300万回以上、室温での導電率が50%IACS以上である場合、産業用ロボットや航空機等の高信頼性が要求される分野で使用されるケーブル用の導電材料として使用できる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、アルミニウム鋳造体が、強加工前又は強加工中に、300℃以下の温度で熱処理される場合、アルミニウム鋳造体の鋳造組織を形成している結晶粒の粒成長を防止して、結晶粒内に存在するひずみを除去することができ、アルミニウム鋳造体の伸び性を向上させて、強加工を効率的に行うことができる。
第1の発明に係るアルミニウム合金導体の製造方法において、アルミニウム合金導体が、300℃以下の温度で熱処理される場合、強加工を経て形成されたアルミニウム合金導体中に存在する加工ひずみの除去を、アルミニウム合金導体を形成しているアルミニウム微細結晶粒及び第1、第2のナノ粒子の粒成長をそれぞれ防止しながら行うことができる。これにより、アルミニウム合金導体の二次加工を容易に行うことができる。
第2の発明に係る電線の製造方法においては、第1の発明に記載のアルミニウム合金導体の鋳造組織が微細化されて等軸晶の結晶粒で構成されているので、このアルミニウム合金導体に加工度5以上の引き抜き加工を行うことにより形成する導体素線は、微細結晶粒が、その長手方向を引き抜き加工方向に向けて配向する組織で形成される。これにより、伸線方向(引き抜き方向)に直交する方向に付与される応力ひずみ、即ち、導体素線に曲げ変形を加えた際の応力ひずみに対する耐疲労性を著しく向上させることができる。そして、導体素線の線径を0.03mm以上0.5mm以下とすることで、導体素線に繰り返し曲げが負荷された際に発生する応力ひずみの絶対値を小さくすることができ、電線の耐屈曲性を向上させることができる。その結果、電線使用時の早期断線を防止して、この電線を使用した各種装置の信頼性を向上させることができると共に、各種装置のメンテナンス負担を軽減することができる。
第2の発明に係る電線の製造方法において、導体素線が350℃以下の温度で熱処理される場合、導体素線を構成している結晶粒の粒成長を防止して、結晶粒内に存在するひずみを除去することができ、導体素線の伸び性を向上させることができる。このため、金属組織に繰り返し曲げが加えられても、金属組織内にひずみが蓄積され難くなる。これにより、電線の耐屈曲性を更に向上させることができる。
HPT法の模式図である。
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の第1の実施の形態に係る製造方法で製造されるアルミニウム合金導体は、アルミニウムとの間で金属間化合物を生成し、アルミニウムに対する添加量が5質量%以下の領域に共晶反応の生じる反応組成を有し、更に、アルミニウムに対する固溶限度が反応組成未満である元素Xの一例である鉄を0.6質量%以上5質量%以下含有するアルミニウム鋳造体に、相当ひずみが100以上の強加工を施すことにより製造される。なお、鉄は、アルミニウム中に0.052質量%しか固溶しないので、アルミニウム中に鉄を添加しても、アルミニウムの導電率を大きく損なうことを防止できる。
アルミニウム鋳造体に相当ひずみが100以上の強加工を施す方法として、例えば、HPT(High−Pressure Torsion)法を採用する。HPT法では、図1に示すように、円板状の被加工物10を、それぞれ中央部に被加工物10の形状に沿って形成された凹状の窪み11、11aを備えた上、下アンビル12、13で挟み込み、被加工物10に大きな圧力をかけながら、下アンビル13を上アンビル12に対して回転させることにより、被加工物10にせん断ひずみを導入する。ここで、被加工物10の厚さをt、下アンビル13の回転角をθとすると、被加工物10の中心から半径rの位置における相当ひずみεθは、θr/(31/2t)となる。従って、被加工物10の形状を固定した場合、強加工時における下アンビル13の回転角、即ち、回転回数を管理することで、被加工物10に加える相当ひずみを調節することができる。なお、被加工物の形状は、環状としてもよい。環状の被加工物では、被加工物の内周側と外周側において導入されるひずみ量の差が小さく、被加工物の組織の微細化を効率的に行うことができる。
アルミニウム鋳造体の鋳造組織、即ち、被加工物10の鋳造組織は、1)アルミニウム中に鉄が固溶したアルミニウム基固溶体の初晶及びアルミニウムとAl−Fe系金属間化合物との共晶組織、2)アルミニウムとAl−Fe系金属間化合物との共晶組織、3)Al−Fe系金属間化合物の晶出物及びアルミニウムとAl−Fe系金属間化合物との共晶組織、及び4)アルミニウム基固溶体の初晶、アルミニウムとAl−Fe系金属間化合物との共晶組織、及びAl−Fe系金属間化合物の晶出物のいずれか1である。このため、被加工物10に強加工を施すと、被加工物10の鋳造組織中に存在する初晶、共晶組織、晶出物は、強加工により分断が繰り返されて徐々に微細化し、例えば、粒径が800nm以下で等軸晶のアルミニウム微細結晶粒と、アルミニウム微細結晶粒の粒内に存在するAl−Fe系金属間化合物からなり、例えば、粒径が500nm以下の第1のナノ粒子と、アルミニウム微細結晶粒の粒界に存在するAl−Fe系金属間化合物からなり、例えば、粒径が500nm以下の第2のナノ粒子とを有するナノ粒子分散組織が生成することにより、アルミニウム合金導体が形成される。なお、Al−Fe系金属間化合物とは、AlFe及びAlFeのいずれか一方又は双方をさす。
アルミニウム合金導体の金属組織がアルミニウム微細結晶粒で構成されているため伸び性が向上し、金属組織に繰り返し曲げが加えられても、ひずみが蓄積され難く疲労き裂が発生し難い。そして、疲労き裂が発生しても、疲労き裂がアルミニウム微細結晶粒の粒界を進展する場合、粒界に沿って疲労き裂の偏向及び分岐が生じ、更に、粒界には第2のナノ粒子が分散しているので、第2のナノ粒子に疲労き裂が衝突した場合、疲労き裂の偏向及び分岐が生じる。一方、疲労き裂がアルミニウム微細結晶粒の粒内を進展する場合、アルミニウム微細結晶粒内には第1のナノ粒子が分散しているので、第1のナノ粒子に疲労き裂が衝突した場合、疲労き裂の偏向及び分岐が生じる。これにより、疲労き裂の進展速度が低下する。その結果、アルミニウム合金導体の耐屈曲性が向上し、アルミニウム合金導体を振動や屈曲等の駆動環境下又は振動状態下の配線に使用することができる。
アルミニウム鋳造体は、純度が99.9質量%(残部は不可避的不純物)のアルミニウムインゴットに、純度が99質量%(残部は不可避的不純物)の鉄インゴットを所定量加えて、アルミニウムに対する鉄の含有率が0.6質量%以上5質量%以下の配合物を調製し、この配合物を780〜830℃で溶解させた後、冷却することにより作製する。ここで、アルミニウムと鉄との間で共晶反応が生じる反応組成は、アルミニウムに対する鉄の添加量が2質量%であるので、アルミニウムに対する鉄の含有率が0.6質量%以上2質量%未満である亜共晶合金組成の溶解物を冷却する場合、溶解物の温度が液相温度を通過すると、溶解物中にアルミニウム中に鉄が固溶したアルミニウム基固溶体の初晶が生成し、更に冷却が進行して温度が共晶温度(652℃)に到達した時点で、溶解物は初晶と共晶組成の液相の混合状態となる。そして、共晶組成の液相は、共晶温度直下の温度で凝固して共晶組織(アルミニウムとAl−Fe系金属間化合物との交錯組織)を形成する。その結果、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、初晶の粒間に共晶組織が存在する状態となる。
一方、アルミニウムに対する鉄の含有率が2質量%である共晶合金組成の溶解物を冷却する場合、溶解物の温度が共晶温度直下の温度で溶解物は凝固し、共晶組織を形成する。その結果、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、共晶組織で構成される。
また、アルミニウムに対する鉄の含有率が2質量%を超え5質量%以下である過共晶合金組成の溶解物を冷却する場合、溶解物の温度が液相温度を通過すると、溶解物中にAlFeの晶出物が生成し、更に冷却が進行して温度が共晶温度に到達した時点で、溶解物は晶出物と共晶組成の液相の混合状態となる。そして、共晶組成の液相は、共晶温度直下の温度で凝固して共晶組織を形成する。その結果、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、共晶組織中に晶出物が分散する状態となる。
なお、溶解物を冷却する際、溶解物中に温度差(冷却速度の分布)が生じると、凝固が速く進行した領域には初晶が生成する。このため、共晶合金組成の溶解物の場合、溶解物全体としての温度が共晶温度直下まで低下すると、共晶組成の液相が凝固して共晶組織を形成するので、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、共晶組織中に初晶が点在する状態となる。また、過共晶合金組成の溶解物の場合、溶解物全体としての温度が液相温度を通過した時点で溶解物中に更にAl−Fe系金属間化合物の晶出物が生成し、共晶温度に到達した時点で、溶解物は初晶、晶出物、及び共晶組成の液相の混合状態となって、共晶温度直下の温度で共晶組成の液相が凝固して共晶組織を形成するため、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、初晶、共晶組織、及び晶出物が共存する状態となる。
アルミニウム鋳造体を作製する場合、アルミニウムインゴットを使用する代わりに、アルミニウムリサイクル回収材を使用することができる。現在、種々の用途で使用されている金属系材料の中で、鉄系材料の占める割合は非常に高い。このため、アルミニウムリサイクル回収材中に不純物として含まれる鉄の含有量も多くなっている。そこで、アルミニウムリサイクル回収材を使用することにより、アルミニウムに加えて、不純物として含まれる鉄の有効利用も図ることができる。なお、アルミニウムリサイクル回収材中に含まれる鉄の含有量が、アルミニウム鋳造体中に必要な鉄の含有量より少ない場合は、アルミニウムリサイクル回収材に所定量の鉄を加えることにより、鉄の含有量を必要量まで増加させる。一方、アルミニウムリサイクル回収材中に含まれる鉄の含有量が、アルミニウム鋳造体中に必要な鉄の含有量より多い場合は、所定量のアルミニウムインゴットと組み合せることにより、鉄の含有量を必要量まで低減させる。
アルミニウム鋳造体から作製した被加工物10にHPT法による強加工を繰り返すと、被加工物10の鋳造組織中のアルミニウム結晶粒(初晶、共晶組織中のアルミニウム部分)内には転位が蓄積されて亜結晶粒界が形成され、被加工物10に導入された相当ひずみの総和が100以上になった時点では、亜結晶粒界を経て結晶粒の超微細化が生じる。一方、Al−Fe系金属間化合物(共晶組織中のAl−Fe系金属間化合物部分、晶出物)では、強加工の繰り返しによりAl−Fe系金属間化合物の微細分断と分散(一部は鉄としてアルミニウム結晶粒に固溶)が生じる。
ここで、強加工を行う前に、被加工物10に、相当ひずみ2以下の塑性変形加工を加えてもよい。被加工物10に相当ひずみ2以下の塑性変形加工を行うと、被加工物10中の共晶組織が粗く整合させる、即ち、共晶組織が層状のアルミニウム部分と層状のAl−Fe系金属間化合物部分とが交互に積層する状態にすることができる。これにより、共晶組織内ではアルミニウム部分の変形に引きずられてAl−Fe系金属間化合物部分が変形するため、共晶組織の崩壊が生じ易くなる。その結果、鋳造組織中のAl−Fe系金属間化合物部分の分断が促進され、Al−Fe系金属間化合物の分散をより効率的に行うことが可能になる。
なお、相当ひずみ2以下の塑性変形加工を被加工物10に加える方法としては、例えば、相当ひずみが1以下となるECAP(Equal−Channel Angular Pressing)法やロール圧延法等を採用することができる。そして、被加工物10に加える相当ひずみ量は、塑性変形加工の繰返し回数により調節できる。
その結果、強加工の終了時点では、例えば、粒径が800nm以下のアルミニウム微細結晶粒と、アルミニウム微細結晶粒の粒内に存在するAl−Fe系金属間化合物からなり、例えば、粒径が500nm以下の第1のナノ粒子と、アルミニウム微細結晶粒の粒界に存在するAl−Fe系金属間化合物からなり、例えば、粒径が500nm以下の第2のナノ粒子とを有するナノ粒子分散組織が生成して、アルミニウム合金導体が形成される。
ここで、アルミニウム鋳造体中の鉄の含有量が固溶限度を超えている場合、強加工を繰り返すことで、強加工中に形成されるアルミニウム微細結晶粒内の鉄含有量は徐々に増加し、強加工の終了時点では、アルミニウム微細結晶粒内の鉄含有量は過飽和状態となっている。このため、強加工により得られたアルミニウム合金導体を、不活性雰囲気中(例えば、アルゴンガス雰囲気中)、300℃以下の温度で熱処理することにより、アルミニウム微細結晶粒の粒成長を防止しながら、アルミニウム微細結晶粒内の過飽和状態の鉄をAl−Fe系金属間化合物として析出させて第2のナノ粒子を形成させることができ、アルミニウム微細結晶粒内の鉄固溶量を減少させることができる。その結果、アルミニウム合金導体の室温での導電率を50%IACS以上とすることができる。なお、熱処理温度が300℃を超えると、アルミニウム微細結晶粒の粒成長が顕著となり、形成した微細組織は壊れるので好ましくない。一方、熱処理温度を低下させるにつれて、熱処理に要する処理時間は飛躍的に長くなり、生産性は低下する。このため、実用的な熱処理温度の下限は、例えば、150℃程度であり、処理時間は0.2〜40時間となる。
また、アルミニウム鋳造体中の鉄の含有量が固溶限度を超えている場合、強加工中に、被加工物10を、300℃以下の温度で熱処理することも可能である。これにより、強加工中に形成されるアルミニウム微細結晶粒の粒成長を防止しながら、強加工を繰り返すことでアルミニウム微際結晶粒内に固溶する鉄含有量が徐々に増加しても、アルミニウム微際結晶粒内でAl−Fe系金属間化合物を析出させて第2のナノ粒子を形成させることができ、アルミニウム微細結晶粒内の鉄固溶量を減少させることができる。その結果、アルミニウム合金導体の室温での導電率を50%IACS以上とすることができる。なお、強加工中、被加工物10は加工発熱(摩擦熱の発生)するので、被加工物10の温度が300℃以下となるように加熱制御する必要がある。強加工中、被加工物10の温度が300℃を超えると、アルミニウム微細結晶粒の形成とアルミニウム微細結晶粒の粒成長が同時進行し、被加工物10内に効率的に微細組織を形成することができない。一方、強加工時、被加工物10の温度が低すぎると、例えば、被加工物10の温度が150℃未満になると、アルミニウム微際結晶粒内におけるナノ粒子を形成するAl−Fe系金属間化合物の析出速度が小さくなって、強加工中に第2のナノ粒子の形成を効率的に行うことができないので、被加工物10の温度が150〜300℃となるように加熱する必要がある。
更に、被加工物10を、300℃以下の温度で予め熱処理してから強加工してもよい。熱処理することにより、被加工物10の鋳造組織を構成しているアルミニウム結晶粒の成長を防止しながら、被加工物10内に導入された冷却ひずみを除去することができる。これにより、アルミニウム鋳造体の強加工を効率的に行うことができる。なお、熱処理温度が300℃を超えると、被加工物10を構成している結晶粒やAl−Fe系金属間化合物の析出物に粒成長が生じ、強加工により組織の微細化が効果的に実施できない。ここで、熱処理温度を低下させると、熱処理に要する処理時間は飛躍的に長くなり生産性が低下するので、実用的な熱処理温度の下限は、例えば、150℃程度であり、処理時間は0.2〜40時間である。
アルミニウム合金導体のナノ粒子分散組織を構成している第1、第2のナノ粒子の割合は、アルミニウム鋳造体中のAl−Fe系金属間化合物の晶出物の存在量に依存し、晶出物の存在量は溶解物中の鉄含有量により決定される。ここで、アルミニウムに対して鉄を少なくとも0.3質量%含有させることにより、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ第1、第2のナノ粒子を存在させて、疲労き裂の偏向及び分岐を発生させることができる。そして、アルミニウムに対して鉄を少なくとも0.6質量%含有させることにより、疲労き裂の偏向及び分岐の発生を顕著にすることができる。
一方、第1、第2のナノ粒子の粒径は、強加工によるAl−Fe系金属間化合物の微細分断効率に依存し、第1、第2のナノ粒子の分散状態は、強加工により形成された微細分断物の分散効率に依存する。このためには、アルミニウム鋳造体中に存在するAl−Fe系金属間化合物の粒径が小さいことが好ましい。ここで、鋳造組織中のAl−Fe系金属間化合物の粒径は、一般に、共晶組織中のAl−Fe系金属間化合物部分より晶出物の方が大きい。そして、晶出物の粒径を小さくするには、晶出物の生成開始温度と共晶温度の差を小さくする必要があり、晶出物の生成開始温度は、溶解物中の鉄含有量により決定される。
そこで、種々の鉄含有率を有する過共晶合金組成の溶解物を冷却して作製したアルミニウム鋳造体に、それぞれ相当ひずみが100以上の強加工を行って晶出物の微細分断効率及び分散効率を顕微鏡下で観察したところ、アルミニウムに対する鉄含有量が5質量%以下では、相当ひずみが100以上の強加工により晶出物を500nm以下の粒径に微細分断して、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ第1、第2のナノ粒子として分散できることが確認できた。このため、アルミニウムに対する鉄の含有量の範囲を、0.3質量%以上、好ましくは0.6質量%以上5質量%以下と規定した。
なお、アルミニウムに対する鉄含有量が5質量%を超えた場合、晶出物を微細化しても、粒径が500nmを超えるものが存在する。これらの粒子は欠陥として作用するため、例えば、引張強度の低下、耐屈曲性の低下、伸線加工時の断線を引き起こす。
ここで、強加工によりAl−Fe系金属間化合物の微細分断及び分散が高効率に行われ、高精度に達成されるためには、アルミニウム鋳造体の鋳造組織において、Al−Fe系金属間化合物の粒径が小さく、鋳造組織中に均一に分散していることが好ましい。このような鋳造組織が得られるのは、溶解物が共晶合金組成の場合である。そこで、共晶合金組成を中心に、亜共晶合金組成側から過共晶合金組成側の鉄含有率を有する種々の組成の溶解物を冷却して作製したアルミニウム鋳造体に、それぞれ相当ひずみが100以上の強加工を行って晶出物の微細分断効率及び分散効率を顕微鏡下で観察したところ、相当ひずみが100以上の強加工により、共晶合金組成の鋳造組織の場合と同程度にAl−Fe系金属間化合物を500nm以下の粒径に微細分断して、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ第1、第2のナノ粒子として分散させることができるのは、アルミニウムに対する鉄の含有量が1.5質量%以上2.5質量%以下の範囲であることが確認できた。このため、アルミニウムに対する鉄の含有量の最適範囲を、1.5質量%以上2.5質量%以下と規定した。
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る製造方法で製造される電線について説明する。
第2の実施の形態に係る製造方法で製造される電線は、第1の実施の形態に係る製造方法で製造されるアルミニウム合金導体に加工度5以上の引き抜き加工を行って形成され、線径が0.03mm以上0.5mm以下である導体素線を用いて形成される。
導体素線は、鉄を0.3質量%以上5質量%以下含有するアルミニウム鋳造体に相当ひずみが100以上の強加工を行って作製した板状のアルミニウム合金導体から、例えば、直径が1mmのロッドを切削加工により作製し、スエージング加工及びダイス伸線加工(引き抜き加工)を行って形成される。
ここで、第1の実施の形態に係る製造方法で製造されるアルミニウム合金導体の鋳造組織は、微細化されて等軸晶の結晶粒で構成されているので、ダイス伸線加工(引き抜き加工)で形成される導体素線は、長手方向が引き抜き加工方向に沿った微細結晶粒を有する配向組織で形成される。これにより、伸線方向(引き抜き方向)に直交する方向に付与される応力ひずみ、即ち、導体素線に曲げ変形を加えた際の応力ひずみに対する耐疲労性を著しく向上させることができる。そして、導体素線の線径を0.03mm以上0.5mm以下とすることで、導体素線に繰り返し曲げが負荷された際に発生する応力ひずみの絶対値を小さくすることができる。その結果、この導体素線を用いて形成される電線の耐屈曲性が向上し、振動や屈曲等の駆動環境下又は振動状態下の配線にこの電線を使用しても、早期断線が防止でき、この電線を使用した各種装置(産業用ロボット、自動車や航空機等の移動機械)の信頼性を向上させることができると共に、各種装置のメンテナンス負担を軽減することができる。
作製された導体素線は、例えば、アルゴンガス雰囲気中において350℃以下の温度で、例えば、0.2〜40時間熱処理する。熱処理を行うことで、導体素線を構成している結晶粒の粒成長を防止しながら、結晶粒内に存在するひずみ(スエージング加工及びダイス伸線加工の際に導入されたひずみ)を除去することができ、導体素線の伸び性を向上させることができる。このため、電線に繰り返し曲げが加えられても、電線(導体素線)を構成している金属組織内にひずみが蓄積され難くなる。
なお、熱処理の時期と程度(温度と時間)は、加工対象物の加工度及び加工性(導体素線の生産速度)に応じて選択することが好ましい。例えば、ダイス伸線加工時に加工対象物の発熱が期待できる場合は、熱処理は不要となる。一方、導体素線の線径が小さい場合、例えば0.03〜0.1mmの場合は、ダイス伸線加工前、ダイス伸線加工中に熱処理を行うこともできる。
本発明の第3の実施の形態に係る製造方法で製造されるアルミニウム合金導体は、アルミニウムとの間で金属間化合物を生成し、アルミニウムに対する添加量が5質量%以下の領域に包晶反応の生じる反応組成を有し、更に、アルミニウムに対する固溶限度が反応組成未満である元素Xの一例であるクロムを0.6質量%以上5質量%以下含有するアルミニウム鋳造体に、相当ひずみが100以上の強加工を施すことにより製造される。なお、クロムは、アルミニウム中に0.72質量%しか固溶しないので、アルミニウム中にクロムを添加しても、アルミニウムの導電率を大きく損なうことを防止できる。
ここで、アルミニウム鋳造体の鋳造組織、即ち、被加工物の鋳造組織は、1)アルミニウム中にクロムが固溶したアルミニウム基固溶体及びアルミニウム基固溶体に包摂されたAl−Cr系金属間化合物、又は2)アルミニウム中にクロムが固溶したアルミニウム基固溶体、アルミニウム基固溶体に包摂されたAl−Cr系金属間化合物の晶出物、及びアルミニウム基固溶体中に析出したAl−Cr系金属間化合物である。このため、被加工物に強加工を施すと、被加工物の鋳造組織中に存在するアルミニウム基固溶体、アルミニウム基固溶体に包摂されたAl−Cr系金属間化合物、Al−Cr系金属間化合物の晶出物、アルミニウム基固溶体中に析出したAl−Cr系金属間化合物に対しては、それぞれ強加工による分断が繰り返されて徐々に微細化して分散し、例えば、粒径が800nm以下で等軸晶のアルミニウム微細結晶粒と、アルミニウム微細結晶粒の粒内に存在するAl−Cr系金属間化合物からなり、例えば、粒径が500nm以下の第1のナノ粒子と、アルミニウム微細結晶粒の粒界に存在するAl−Cr系金属間化合物からなり、例えば、粒径が500nm以下の第2のナノ粒子とを有するナノ粒子分散組織からなるアルミニウム合金導体が形成される。なお、Al−Cr系金属間化合物とは、例えば、AlCrをさす。
アルミニウム合金導体の金属組織がアルミニウム微細結晶粒で構成されているため伸び性が向上し、金属組織に繰り返し曲げが加えられても、ひずみが蓄積され難く疲労き裂が発生し難い。そして、疲労き裂が発生しても、疲労き裂がアルミニウム微細結晶粒の粒界を進展する場合、粒界に沿って疲労き裂の偏向及び分岐が生じ、更に、粒界には第2のナノ粒子が分散しているので、第2のナノ粒子に疲労き裂が衝突した場合、疲労き裂の偏向及び分岐が生じる。一方、疲労き裂がアルミニウム微細結晶粒の粒内を進展する場合、アルミニウム微細結晶粒内には第1のナノ粒子が分散しているので、第1のナノ粒子に疲労き裂が衝突した場合、疲労き裂の偏向及び分岐が生じる。これにより、疲労き裂の進展速度が低下する。その結果、アルミニウム合金導体の耐屈曲性が向上し、アルミニウム合金導体を振動や屈曲等の駆動環境下又は振動状態下の配線に使用することができる。
アルミニウム鋳造体は、純度が99.9質量%のアルミニウムインゴットに、純度が99質量%(残部は不可避的不純物)のクロムインゴットを所定量加えて、アルミニウムに対するクロムの含有率が0.6質量%以上5質量%以下の配合物を調製し、この配合物を、例えば、780〜850℃で溶解させた後、冷却することにより作製する。ここで、アルミニウムに対するクロムの含有率が5質量%以下の領域では、アルミニウムとクロムとの間で包晶反応が生じる反応組成は、アルミニウムに対するクロムの添加量が0.41質量%及び1質量%の2つある。従って、アルミニウムに対するクロムの含有率が0.6質量%以上1質量%未満である包晶合金組成の溶解物を冷却する場合、溶解物の温度が液相温度を通過すると、溶解物中に金属間化合物AlCrが生成し、更に冷却が進行して温度が包晶温度661℃に到達した時点で、溶解物は金属間化合物AlCrと包晶組成の液相の混合状態となる。そして、包晶組成の液相は、包晶温度直下の温度で凝固して包晶組織(アルミニウム基固溶体とアルミニウム基固溶体に包摂されたAlCr)を形成する。更に温度が低下すると、アルミニウム基固溶体中のクロムの固溶限度が徐々に低下するため、アルミニウム基固溶体中にAlCrが析出し、その結果、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、アルミニウム基固溶体、アルミニウム基固溶体に包摂されたAlCr、アルミニウム基固溶体中に析出したAlCrが存在する状態となる。
一方、アルミニウムに対するクロムの含有率が1質量%以上5質量%以下である包晶合金組成の溶解物を冷却する場合、溶解物の温度が液相温度を通過すると、溶解物中に晶出物(金属間化合物Al11Cr)が生成し、更に冷却が進行して温度が包晶温度725℃に到達した時点で、溶解物中に金属間化合物AlCrが新に生成し、温度の降下と共に金属間化合物AlCrの生成量が増加する。次いで、温度が低温側の包晶温度661℃に到達した時点で、溶解物は金属間化合物AlCr、及び包晶組成の液相の混合状態となる。そして、包晶組成の液相は、包晶温度直下の温度で凝固して包晶組織(アルミニウム基固溶体とアルミニウム基固溶体に包摂されたAlCr)を形成する。更に温度が低下すると、アルミニウム基固溶体中のクロムの固溶限度が徐々に低下するため、アルミニウム基固溶体中にAlCrが析出し、その結果、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、アルミニウム基固溶体、アルミニウム基固溶体に包摂されたAlCr、及びアルミニウム基固溶体中に析出したAlCrが存在する状態となる。
ここで、アルミニウム鋳造体中のクロムの含有量が固溶限度を超えている場合、強加工を繰り返すことで、強加工中に形成されるアルミニウム微細結晶粒内のクロム含有量は徐々に増加し、強加工の終了時点では、アルミニウム微細結晶粒内のクロム含有量は過飽和状態となっている。このため、強加工により得られたアルミニウム合金導体を、不活性雰囲気中(例えば、アルゴンガス雰囲気中)、300℃以下の温度で熱処理することにより、アルミニウム微細結晶粒の粒成長を防止しながら、アルミニウム微細結晶粒内の過飽和状態のクロムを金属間化合物AlCrとして析出させて第2のナノ粒子を形成させることができ、アルミニウム微細結晶粒内のクロム固溶量を減少させることができる。その結果、アルミニウム合金導体の室温での導電率を50%IACS以上とすることができる。なお、熱処理温度が300℃を超えると、アルミニウム微細結晶粒の粒成長が顕著となり、形成した微細組織は壊れるので好ましくない。一方、熱処理温度を低下させるにつれて、熱処理に要する処理時間は飛躍的に長くなり、生産性は低下する。このため、実用的な熱処理温度の下限は、例えば、150℃程度であり、処理時間は0.2〜40時間となる。
また、アルミニウム鋳造体中のクロムの含有量が固溶限度を超えている場合、強加工中に、被加工物を、300℃以下の温度で熱処理することも可能である。これにより、強加工中に形成されるアルミニウム微細結晶粒の粒成長を防止しながら、強加工を繰り返すことでアルミニウム微際結晶粒内に固溶するクロム含有量が徐々に増加しても、アルミニウム微際結晶粒内で金属間化合物AlCrを析出させて第2のナノ粒子を形成させることができ、アルミニウム微細結晶粒内のクロム固溶量を減少させることができる。その結果、アルミニウム合金導体の室温での導電率を50%IACS以上とすることができる。なお、強加工中、被加工物は加工発熱(摩擦熱の発生)するので、被加工物の温度が300℃以下となるように加熱制御する必要がある。強加工中、被加工物の温度が300℃を超えると、アルミニウム微細結晶粒の形成とアルミニウム微細結晶粒の粒成長が同時進行し、被加工物内に効率的に微細組織を形成することができない。一方、強加工時、被加工物の温度が低すぎると、例えば、被加工物の温度が150℃未満になると、アルミニウム微際結晶粒内におけるAl−のナノ粒子を形成する金属間化合物AlCrの析出速度が小さくなって、強加工中に第2のナノ粒子の形成を効率的に行うことができないので、被加工物の温度が150〜300℃となるように加熱する必要がある。
更に、被加工物を、300℃以下の温度で予め熱処理してから強加工してもよい。熱処理することにより、被加工物10の鋳造組織を構成しているアルミニウム結晶粒の成長を防止しながら、被加工物10内に導入された冷却ひずみを除去することができる。これにより、アルミニウム鋳造体の強加工を効率的に行うことができる。なお、熱処理温度が300℃を超えると、被加工物10を構成している結晶粒や金属間化合物AlCrの析出物に粒成長が生じ、強加工により組織の微細化が効果的に実施できない。ここで、熱処理温度を低下させると、熱処理に要する処理時間は飛躍的に長くなり生産性が低下するので、実用的な熱処理温度の下限は、例えば、150℃程度であり、処理時間は0.2〜40時間である。
アルミニウム合金導体のナノ粒子分散組織を構成している第1、第2のナノ粒子の割合は、アルミニウム鋳造体中のAl−Cr系金属間化合物の存在量に依存し、Al−Cr系金属間化合物の存在量は溶解物中のクロム含有量により決定される。ここで、アルミニウムに対してクロムを少なくとも0.6質量%含有させることにより、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ第1、第2のナノ粒子を存在させて、疲労き裂の偏向及び分岐を発生させることができる。
一方、第1、第2のナノ粒子の粒径は、強加工によるAl−Cr系金属間化合物の微細分断効率に依存し、第1、第2のナノ粒子の分散状態は、強加工により形成された微細分断物の分散効率に依存する。このためには、アルミニウム鋳造体中に存在するAl−Cr系金属間化合物の粒径が小さいことが好ましい。そして、Al−Cr系金属間化合物の粒径を小さくするには、Al−Cr系金属間化合物の生成開始温度は、溶解物中のクロム含有量により決定される。
そこで、種々のクロム含有率を有する過包晶合金組成の溶解物を冷却して作製したアルミニウム鋳造体に、それぞれ相当ひずみが100以上の強加工を行ってAl−Cr系金属間化合物の微細分断効率及び分散効率を顕微鏡下で観察したところ、アルミニウムに対するクロム含有量が5質量%以下では、相当ひずみが100以上の強加工により晶出物を500nm以下の粒径に微細分断して、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ第1、第2のナノ粒子として分散できることが確認できた。このため、アルミニウムに対するクロムの含有量の範囲を、0.6質量%以上5質量%以下と規定した。
なお、アルミニウムに対するクロム含有量が5質量%を超えた場合、晶出物を微細化しても、粒径が500nmを超えるものが存在する。これらの粒子は欠陥として作用するため、例えば、引張強度の低下、耐屈曲性の低下、伸線加工時の断線を引き起こす。
ここで、強加工によりAl−Cr系金属間化合物の微細分断及び分散が高効率に行われ、高精度に達成されるためには、アルミニウム鋳造体の鋳造組織において、Al−Cr系金属間化合物の粒径が小さく、鋳造組織中に均一に分散していることが好ましい。このような鋳造組織が得られるのは、溶解物が包晶合金組成の場合である。そこで、包晶合金組成を中心に、亜包晶合金組成側から過包晶合金組成側のクロム含有率を有する種々の組成の溶解物を冷却して作製したアルミニウム鋳造体に、それぞれ相当ひずみが100以上の強加工を行って晶出物の微細分断効率及び分散効率を顕微鏡下で観察したところ、相当ひずみが100以上の強加工により、包晶合金組成の鋳造組織の場合と同程度にAl−Cr系金属間化合物を500nm以下の粒径に微細分断して、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ第1、第2のナノ粒子として分散させることができるのは、アルミニウムに対するクロムの含有量が0.6質量%以上5質量%以下の範囲であることが確認できた。
続いて、本発明の第4の実施の形態に係る製造方法で製造される電線について説明する。
第4の実施の形態に係る製造方法で製造される電線は、第3の実施の形態に係る製造方法で製造されるアルミニウム合金導体に加工度5以上の引き抜き加工を行って形成され、線径が0.03mm以上0.5mm以下である導体素線を用いて形成される。
導体素線は、クロムを0.6質量%以上5質量%以下含有するアルミニウム鋳造体に相当ひずみが100以上の強加工を行って作製した板状のアルミニウム合金導体から、例えば、直径が1mmのロッドを切削加工により作製し、スエージング加工及びダイス伸線加工(引き抜き加工)を行って形成される。
ここで、第3の実施の形態に係る製造方法で製造されるアルミニウム合金導体の鋳造組織は、微細化されて等軸晶の結晶粒で構成されているので、ダイス伸線加工(引き抜き加工)で形成される導体素線は、長手方向が引き抜き加工方向に沿った微細結晶粒を有する配向組織で形成される。これにより、伸線方向(引き抜き方向)に直交する方向に付与される応力ひずみ、即ち、導体素線に曲げ変形を加えた際の応力ひずみに対する耐疲労性を著しく向上させることができる。そして、導体素線の線径を0.03mm以上0.5mm以下とすることで、導体素線に繰り返し曲げが負荷された際に発生する応力ひずみの絶対値を小さくすることができる。その結果、この導体素線を用いて形成される電線の耐屈曲性が向上し、振動や屈曲等の駆動環境下又は振動状態下の配線にこの電線を使用しても、早期断線が防止でき、この電線を使用した各種装置(産業用ロボット、自動車や航空機等の移動機械)の信頼性を向上させることができると共に、各種装置のメンテナンス負担を軽減することができる。
作製された導体素線は、例えば、アルゴンガス雰囲気中において350℃以下の温度で、例えば、0.2〜40時間熱処理する。熱処理を行うことで、導体素線を構成している結晶粒の粒成長を防止しながら、結晶粒内に存在するひずみ(スエージング加工及びダイス伸線加工の際に導入されたひずみ)を除去することができ、導体素線の伸び性を向上させることができる。このため、電線に繰り返し曲げが加えられても、電線(導体素線)を構成している金属組織内にひずみが蓄積され難くなる。
なお、熱処理の時期と程度(温度と時間)は、加工対象物の加工度及び加工性(導体素線の生産速度)に応じて選択することが好ましい。例えば、ダイス伸線加工時に加工対象物の発熱が期待できる場合は、熱処理は不要となる。一方、導体素線の線径が小さい場合、例えば0.03〜0.1mmの場合は、ダイス伸線加工前、ダイス伸線加工中に熱処理を行うこともできる。
本発明の第5の実施の形態に係る製造方法で製造されるアルミニウム合金導体は、アルミニウムとの間で金属間化合物を生成し、アルミニウムに対する添加量が5質量%以下の領域に共晶反応の生じる反応組成を有し、更に、アルミニウムに対する固溶限度が反応組成未満である元素Xの一例であるマンガンを0.6質量%以上2.5質量%以下含有するアルミニウム鋳造体に、相当ひずみが100以上の強加工を施すことにより製造される。なお、マンガンは、アルミニウム中に1.25質量%しか固溶しないので、アルミニウム中にマンガンを添加しても、アルミニウムの導電率を大きく損なうことを防止できる。
アルミニウム鋳造体の鋳造組織、即ち、被加工物の鋳造組織は、1)アルミニウム中にマンガンが固溶したアルミニウム基固溶体の初晶及びアルミニウムとAl−Mn系金属間化合物との共晶組織、2)アルミニウムとAl−Mn系金属間化合物との共晶組織、3)Al−Mn系金属間化合物の晶出物及びアルミニウムとAl−Mn系金属間化合物との共晶組織、及び4)アルミニウム基固溶体の初晶、アルミニウムとAl−Mn系金属間化合物との共晶組織、及びAl−Mn系金属間化合物の晶出物のいずれかである。このため、被加工物に強加工を施すと、被加工物の鋳造組織中に存在する初晶、共晶組織、晶出物は、強加工により分断が繰り返されて徐々に微細化し、例えば、粒径が800nm以下で等軸晶のアルミニウム微細結晶粒と、アルミニウム微細結晶粒の粒内に存在するAl−Mn系金属間化合物からなり、例えば、粒径が500nm以下の第1のナノ粒子と、アルミニウム微細結晶粒の粒界に存在するAl−Mn系金属間化合物からなり、例えば、粒径が500nm以下の第2のナノ粒子とを有するナノ粒子分散組織が生成することにより、アルミニウム合金導体が形成される。なお、Al−Mn系金属間化合物とは、例えばAlMnをさす。
アルミニウム合金導体の金属組織がアルミニウム微細結晶粒で構成されているため伸び性が向上し、金属組織に繰り返し曲げが加えられても、ひずみが蓄積され難く疲労き裂が発生し難い。そして、疲労き裂が発生しても、疲労き裂がアルミニウム微細結晶粒の粒界を進展する場合、粒界に沿って疲労き裂の偏向及び分岐が生じ、更に、粒界には第2のナノ粒子が分散しているので、第2のナノ粒子に疲労き裂が衝突した場合、疲労き裂の偏向及び分岐が生じる。一方、疲労き裂がアルミニウム微細結晶粒の粒内を進展する場合、アルミニウム微細結晶粒内には第1のナノ粒子が分散しているので、第1のナノ粒子に疲労き裂が衝突した場合、疲労き裂の偏向及び分岐が生じる。これにより、疲労き裂の進展速度が低下する。その結果、アルミニウム合金導体の耐屈曲性が向上し、アルミニウム合金導体を振動や屈曲等の駆動環境下又は振動状態下の配線に使用することができる。
アルミニウム鋳造体は、純度が99.9質量%(残部は不可避的不純物)のアルミニウムインゴットに、純度が99質量%(残部は不可避的不純物)のマンガンインゴットを所定量加えて、アルミニウムに対するマンガンの含有率が0.6質量%以上2.5質量%以下の配合物を調製し、この配合物を780〜830℃で溶解させた後、冷却することにより作製する。ここで、アルミニウムとマンガンとの間で共晶反応が生じる反応組成は、アルミニウムに対するマンガンの添加量が2質量%であるので、アルミニウムに対するマンガンの含有率が0.6質量%以上2質量%未満である亜共晶合金組成の溶解物を冷却する場合、溶解物の温度が液相温度を通過すると、溶解物中にアルミニウム中にマンガンが固溶したアルミニウム基固溶体の初晶が生成し、更に冷却が進行して温度が共晶温度(658℃)に到達した時点で、溶解物は初晶と共晶組成の液相の混合状態となる。そして、共晶組成の液相は、共晶温度直下の温度で凝固して共晶組織(アルミニウムとAl−Mn系金属間化合物との交錯組織)を形成する。その結果、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、初晶の粒間に共晶組織が存在する状態となる。
一方、アルミニウムに対するマンガンの含有率が1.8質量%である共晶合金組成の溶解物を冷却する場合、溶解物の温度が共晶温度直下の温度で溶解物は凝固し、共晶組織を形成する。その結果、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、共晶組織で構成される。
また、アルミニウムに対するマンガンの含有率が2質量%を超え2.5質量%以下である過共晶合金組成の溶解物を冷却する場合、溶解物の温度が液相温度を通過すると、溶解物中にAlMnの晶出物が生成し、更に冷却が進行して温度が共晶温度に到達した時点で、溶解物は晶出物と共晶組成の液相の混合状態となる。そして、共晶組成の液相は、共晶温度直下の温度で凝固して共晶組織を形成する。その結果、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、共晶組織中に晶出物が分散する状態となる。
なお、溶解物を冷却する際、溶解物中に温度差(冷却速度の分布)が生じると、凝固が速く進行した領域には初晶が生成する。このため、共晶合金組成の溶解物の場合、溶解物全体としての温度が共晶温度直下まで低下すると、共晶組成の液相が凝固して共晶組織を形成するので、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、共晶組織中に初晶が点在する状態となる。また、過共晶合金組成の溶解物の場合、溶解物全体としての温度が液相温度を通過した時点で溶解物中に更にAl−Mn系金属間化合物の晶出物が生成し、共晶温度に到達した時点で、溶解物は初晶、晶出物、及び共晶組成の液相の混合状態となって、共晶温度直下の温度で共晶組成の液相が凝固して共晶組織を形成するため、アルミニウム鋳造体の鋳造組織は、初晶、共晶組織、及び晶出物が共存する状態となる。
アルミニウム鋳造体から作製した被加工物にHPT法による強加工を繰り返すと、被加工物の鋳造組織中のアルミニウム結晶粒(初晶、共晶組織中のアルミニウム部分)内には転位が蓄積されて亜結晶粒界が形成され、被加工物に導入された相当ひずみの総和が100以上になった時点では、亜結晶粒界を経て結晶粒の超微細化が生じる。一方、Al−Mn系金属間化合物(共晶組織中のAl−Mn系金属間化合物部分、晶出物)では、強加工の繰り返しによりAl−Mn系金属間化合物の微細分断と分散(一部はマンガンとしてアルミニウム結晶粒に固溶)が生じる。
ここで、強加工を行う前に、被加工物に、相当ひずみ2以下の塑性変形加工を加えてもよい。被加工物に相当ひずみ2以下の塑性変形加工を行うと、被加工物中の共晶組織が粗く整合させる、即ち、共晶組織が層状のアルミニウム部分と層状のAl−Mn系金属間化合物部分とが交互に積層する状態にすることができる。これにより、共晶組織内ではアルミニウム部分の変形に引きずられてAl−Mn系金属間化合物部分が変形するため、共晶組織の崩壊が生じ易くなる。その結果、鋳造組織中のAl−Mn系金属間化合物部分の分断が促進され、Al−Mn系金属間化合物の分散をより効率的に行うことが可能になる。
その結果、強加工の終了時点では、例えば、粒径が800nm以下のアルミニウム微細結晶粒と、アルミニウム微細結晶粒の粒内に存在するAl−Mn系金属間化合物からなり、例えば、粒径が500nm以下の第1のナノ粒子と、アルミニウム微細結晶粒の粒界に存在するAl−Mn系金属間化合物からなり、例えば、粒径が500nm以下の第2のナノ粒子とを有するナノ粒子分散組織が生成して、アルミニウム合金導体が形成される。
ここで、アルミニウム鋳造体中のマンガンの含有量が固溶限度を超えている場合、強加工を繰り返すことで、強加工中に形成されるアルミニウム微細結晶粒内のマンガン含有量は徐々に増加し、強加工の終了時点では、アルミニウム微細結晶粒内のマンガン含有量は過飽和状態となっている。このため、強加工により得られたアルミニウム合金導体を、不活性雰囲気中(例えば、アルゴンガス雰囲気中)、300℃以下の温度で熱処理することにより、アルミニウム微細結晶粒の粒成長を防止しながら、アルミニウム微細結晶粒内の過飽和状態のマンガンをAl−Mn系金属間化合物として析出させて第2のナノ粒子を形成させることができ、アルミニウム微細結晶粒内のマンガン固溶量を減少させることができる。その結果、アルミニウム合金導体の室温での導電率を50%IACS以上とすることができる。なお、熱処理温度が300℃を超えると、アルミニウム微細結晶粒の粒成長が顕著となり、形成した微細組織は壊れるので好ましくない。一方、熱処理温度を低下させるにつれて、熱処理に要する処理時間は飛躍的に長くなり、生産性は低下する。このため、実用的な熱処理温度の下限は、例えば、150℃程度であり、処理時間は0.2〜40時間となる。
また、アルミニウム鋳造体中のマンガンの含有量が固溶限度を超えている場合、強加工中に、被加工物を、300℃以下の温度で熱処理することも可能である。これにより、強加工中に形成されるアルミニウム微細結晶粒の粒成長を防止しながら、強加工を繰り返すことでアルミニウム微際結晶粒内に固溶するマンガン含有量が徐々に増加しても、アルミニウム微際結晶粒内でAl−Mn系金属間化合物を析出させて第2のナノ粒子を形成させることができ、アルミニウム微細結晶粒内のマンガン固溶量を減少させることができる。その結果、アルミニウム合金導体の室温での導電率を50%IACS以上とすることができる。なお、強加工中、被加工物は加工発熱(摩擦熱の発生)するので、被加工物10の温度が300℃以下となるように加熱制御する必要がある。強加工中、被加工物の温度が300℃を超えると、アルミニウム微細結晶粒の形成とアルミニウム微細結晶粒の粒成長が同時進行し、被加工物内に効率的に微細組織を形成することができない。一方、強加工時、被加工物の温度が低すぎると、例えば、被加工物の温度が150℃未満になると、アルミニウム微際結晶粒内におけるナノ粒子を形成するAl−Mn系金属間化合物の析出速度が小さくなって、強加工中に第2のナノ粒子の形成を効率的に行うことができないので、被加工物10の温度が150〜300℃となるように加熱する必要がある。
更に、被加工物を、300℃以下の温度で予め熱処理してから強加工してもよい。熱処理することにより、被加工物の鋳造組織を構成しているアルミニウム結晶粒の成長を防止しながら、被加工物内に導入された冷却ひずみを除去することができる。これにより、アルミニウム鋳造体の強加工を効率的に行うことができる。なお、熱処理温度が300℃を超えると、被加工物を構成している結晶粒やAl−Mn系金属間化合物の析出物に粒成長が生じ、強加工により組織の微細化が効果的に実施できない。ここで、熱処理温度を低下させると、熱処理に要する処理時間は飛躍的に長くなり生産性が低下するので、実用的な熱処理温度の下限は、例えば、150℃程度であり、処理時間は0.2〜40時間である。
アルミニウム合金導体のナノ粒子分散組織を構成している第1、第2のナノ粒子の割合は、アルミニウム鋳造体中のAl−Mn系金属間化合物の晶出物の存在量に依存し、晶出物の存在量は溶解物中のマンガン含有量により決定される。ここで、アルミニウムに対してマンガンを少なくとも0.3質量%含有させることにより、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ第1、第2のナノ粒子を存在させて、疲労き裂の偏向及び分岐を発生させることができる。そして、アルミニウムに対してマンガンを少なくとも0.6質量%含有させることにより、疲労き裂の偏向及び分岐の発生を顕著にすることができる。
一方、第1、第2のナノ粒子の粒径は、強加工によるAl−Mn系金属間化合物の微細分断効率に依存し、第1、第2のナノ粒子の分散状態は、強加工により形成された微細分断物の分散効率に依存する。このためには、アルミニウム鋳造体中に存在するAl−Mn系金属間化合物の粒径が小さいことが好ましい。ここで、鋳造組織中のAl−Mn系金属間化合物の粒径は、一般に、共晶組織中のAl−Mn系金属間化合物部分より晶出物の方が大きい。そして、晶出物の粒径を小さくするには、晶出物の生成開始温度と共晶温度の差を小さくする必要があり、晶出物の生成開始温度は、溶解物中のマンガン含有量により決定される。
そこで、種々のマンガン含有率を有する過共晶合金組成の溶解物を冷却して作製したアルミニウム鋳造体に、それぞれ相当ひずみが100以上の強加工を行って晶出物の微細分断効率及び分散効率を顕微鏡下で観察したところ、アルミニウムに対するマンガン含有量が5質量%以下では、相当ひずみが100以上の強加工により晶出物を500nm以下の粒径に微細分断して、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ第1、第2のナノ粒子として分散できることが確認できた。このため、アルミニウムに対するマンガンの含有量の範囲を、0.3質量%以上、好ましくは0.6質量%以上2.5質量%以下と規定した。
なお、アルミニウムに対するマンガン含有量が2.5質量%を超えた場合、晶出物を微細化しても、粒径が500nmを超えるものが存在する。これらの粒子は欠陥として作用するため、例えば、引張強度の低下、耐屈曲性の低下、伸線加工時の断線を引き起こす。
ここで、強加工によりAl−Mn系金属間化合物の微細分断及び分散が高効率に行われ、高精度に達成されるためには、アルミニウム鋳造体の鋳造組織において、Al−Mn系金属間化合物の粒径が小さく、鋳造組織中に均一に分散していることが好ましい。このような鋳造組織が得られるのは、溶解物が共晶合金組成の場合である。そこで、共晶合金組成を中心に、亜共晶合金組成側から過共晶合金組成側のマンガン含有率を有する種々の組成の溶解物を冷却して作製したアルミニウム鋳造体に、それぞれ相当ひずみが100以上の強加工を行って晶出物の微細分断効率及び分散効率を顕微鏡下で観察したところ、相当ひずみが100以上の強加工により、共晶合金組成の鋳造組織の場合と同程度にAl−Mn系金属間化合物を500nm以下の粒径に微細分断して、アルミニウム微細結晶粒の粒内及び粒界にそれぞれ第1、第2のナノ粒子として分散させることができるのは、アルミニウムに対するマンガンの含有量が0.6質量%以上2.5質量%以下の範囲であることが確認できた。
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例、比較例について、以下に説明する。
(実施例1〜12)
鉄を0.3質量%、0.6質量%、1.5質量%、2質量%、2.5質量%、及び5質量%それぞれ含有するアルミニウム鋳造体1〜6を鋳造し、各アルミニウム鋳造体1〜6からそれぞれ直径10mm、厚さ1mmの円板状の被加工物1〜6を作製した。次いで、被加工物1〜6を、図1に示す上、下アンビルで挟み込み、被加工物1〜6に6GPaの圧力をかけながら、下アンビルを上アンビルに対して所定回数だけ回転させ、被加工物1〜6にせん断ひずみを導入することにより、相当ひずみが100となる強加工をそれぞれ行って、円板状のアルミニウム合金導体1〜6を、相当ひずみが150となる強加工をそれぞれ行って、円板状のアルミニウム合金導体7〜12を作製した。なお、被加工物1〜6内に導入されるせん断ひずみ量は、被加工物1〜6の中心からの距離により変化するので、被加工物1〜6内に予め各評価用の試験片を取り出す領域をそれぞれ設定し、この領域には少なくとも相当ひずみが100及び150の強加工が行われるように、下アンビルの回転回数を設定した。
作製したアルミニウム合金導体1〜12から、引張試験片1〜12及び導体素線作製用の線材母材1〜12をそれぞれ作製した。ここで、引張試験片は、ゲージ長1.5mm、ゲージ幅0.7mmのゲージ部の中心が、アルミニウム合金導体1〜12の中心から2mmの部位に位置するように作製した。また、線材母材1〜12は、アルミニウム合金導体1〜12の中心に中心位置を一致させて作製した内径が9mm、外径が10mmの開環状とし、幅方向中央部を周方向に沿って通過する中心線が、アルミニウム合金導体1〜12の中心を中心とした半径9.5mmの円と一致するように作製した。そして、線材母材1〜12にスエージング加工を行って、線径が1mmの線材を形成し、ダイス伸線加工を行って、線径80μmの導体素線1〜12をそれぞれ作製し、得られた導体素線1〜12をそれぞれ用いて縒り線を形成し、断面積が0.2mmの電線1〜12を作製した。
そして、引張試験片1〜12を用いて常温で引張試験を行い、引張強度を求めた。また、作製した導体素線1〜12を用いて、導電率をそれぞれ測定し、次いで、電線1〜12にそれぞれ荷重100gを負荷した状態で、曲げ半径が15mm、折り曲げ角度範囲が±90度の左右繰り返し曲げを加える屈曲試験を常温で行って破断回数を求めた。更に、引張試験後の引張試験片1〜12から透過電子顕微鏡用の試料をそれぞれ作製し、アルミニウム合金導体1〜12の組織観察を行い、視野内に存在するアルミニウム微細結晶粒の最大粒径、視野内に存在する第1、第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ求めた。得られた引張強度、破断回数、導電率、アルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1のナノ粒子の最大粒径、及び第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ表1に示す。
Figure 0006418756
(比較例R1〜R6)
実施例1〜12で作製した円板状のアルミニウム合金導体1〜6に対して、前記被加工物1〜6に相当ひずみが50となる強加工をそれぞれ行って、円板状のアルミニウム合金導体R1〜R6を作製した。次いで、作製したアルミニウム合金導体R1〜R6から、実施例1〜12と同様に引張試験片R1〜R6及び導体素線R1〜R6をそれぞれ作製し、更に、導体素線R1〜R6からは、断面積が0.2mmの電線R1〜R6を作製した。そして、引張試験片R1〜R6を用いて常温で引張試験を行い、引張強度を求めた。また、作製した導体素線R1〜R6を用いて導電率をそれぞれ測定し、次いで、実施例1〜12と同様に電線R1〜R6に対して屈曲試験を常温で行って破断回数を求めた。更に、引張試験後の引張試験片R1〜R6から透過電子顕微鏡用の試料をそれぞれ作製し、アルミニウム合金導体R1〜R6の組織観察を行い、視野内に存在するアルミニウム微細結晶粒の最大粒径、視野内に存在する第1、第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ求めた。得られた引張強度、破断回数、導電率、アルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1のナノ粒子の最大粒径、及び第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ表1に示す。
表1に示す結果から、鉄を0.3質量%以上5質量%以下含有するアルミニウム鋳造体に相当ひずみが100以上の強加工を行って形成されるナノ粒子分散組織を有するアルミニウム合金導体は、アルミニウム微細結晶粒の粒径は800nm以下、第1、第2のナノ粒子の粒径は500nm以下であり、室温での引張試験時の引張強度が300MPa以上、室温での繰り返し屈曲試験による破断回数が300万回以上、室温での導電率が50%IACS以上となることが確認できる。
従って、このアルミニウム合金導体を用いて作製した電線を、例えば、産業用ロボットの駆動部の配線用に使用すると、ロボットの信頼性を向上させることができると共に、メンテナンス負担を軽減することができる。
(実施例13〜15)
鉄を0.3質量%、2質量%、及び5質量%それぞれ含有するアルミニウム鋳造体13〜15を鋳造し、アルミニウム鋳造体13〜15からそれぞれ直径10mm、厚さ1mmの円板状の被加工物13〜15を作製し、アルゴンガス雰囲気中、温度250℃で0.2時間の熱処理を行った。次いで、被加工物13〜15に対して、実施例1〜12と同様の方法で相当ひずみが100となる強加工をそれぞれ行って、円板状のアルミニウム合金導体13〜15を作製した。作製したアルミニウム合金導体13〜15から、実施例1〜12と同様に引張試験片13〜15及び導体素線13〜15をそれぞれ作製し、更に、導体素線13〜15からは、断面積が0.2mmの電線13〜15を作製した。そして、引張試験片13〜15を用いて常温で引張試験を行い、引張強度を求めた。また、作製した導体素線13〜15を用いて導電率をそれぞれ測定し、次いで、実施例1〜12と同様に電線13〜15に対して屈曲試験を常温で行って破断回数を求めた。更に、引張試験後の引張試験片13〜15を用いて、実施例1〜12と同様にアルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1、第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ求めた。得られた引張強度、破断回数、導電率、アルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1のナノ粒子の最大粒径、及び第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ表2に示す。
Figure 0006418756
(比較例R13〜R15)
実施例13〜15で作製したアルミニウム鋳造体13〜15からそれぞれ直径10mm、厚さ1mmの円板状の被加工物R13〜R15を作製し、アルゴンガス雰囲気中、温度350℃で0.2時間の熱処理を行った。次いで、被加工物R13〜R15に対して、実施例1〜12と同様の方法で相当ひずみが100となる強加工をそれぞれ行って、円板状のアルミニウム合金導体R13〜R15を作製した。作製したアルミニウム合金導体R13〜R15から、実施例1〜12と同様に引張試験片R13〜R15及び導体素線R13〜R15をそれぞれ作製し、更に、導体素線R13〜R15からは、断面積が0.2mmの電線R13〜R15を作製した。そして、引張試験片R13〜R15を用いて常温で引張試験を行い、引張強度を求めた。また、作製した導体素線R13〜R15を用いて導電率をそれぞれ測定し、次いで、実施例1〜12と同様に電線R13〜R15に対して屈曲試験を常温で行って破断回数を求めた。更に、引張試験後の引張試験片R13〜R15を用いて、実施例1〜12と同様にアルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1、第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ求めた。得られた引張強度、破断回数、導電率、アルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1のナノ粒子の最大粒径、及び第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ表2に示す。
表2に示す結果から、被加工物13〜15を強加工する前に300℃以下の温度で熱処理すると、アルミニウム合金導体13〜15の引張強度、破断回数、及び導電率が向上することが分かる。このことは、300℃以下の熱処理を行うことで、アルミニウム鋳造体13〜15の鋳造組織を形成している結晶粒の粒成長を防止して、結晶粒内に存在するひずみを除去することができ、アルミニウム鋳造体13〜15の伸び性が向上することにより、強加工が効率的に行われて、アルミニウム微細結晶粒形成と、Al−Fe系金属間化合物の微細分断及び分散、これに伴う鉄の過飽和固溶相の生成がそれぞれ促進されたと解される。
(実施例16〜33)
鉄を0.3質量%含有するアルミニウム鋳造体を鋳造し、アルミニウム鋳造体から直径10mm、長さ50mmの円柱状物を6本作製し、ECAP法による相当ひずみ0.2、0.5、0.9、2、3、及び10の塑性変形加工をそれぞれ行った後、直径10mm、厚さ1mmの円板状に成形して被加工物16〜21を作製した。次いで、アルゴンガス雰囲気中、温度250℃で0.2時間の熱処理を行った後、被加工物16〜21に対して、実施例1〜12と同様の方法で相当ひずみが100となる強加工をそれぞれ行って、円板状のアルミニウム合金導体16〜21を作製した。作製したアルミニウム合金導体16〜21から、実施例1〜12と同様に引張試験片16〜21及び導体素線16〜21をそれぞれ作製し、更に、導体素線16〜21からは、断面積が0.2mmの電線16〜21を作製した。そして、引張試験片16〜21を用いて常温で引張試験を行い、引張強度を求めた。また、作製した導体素線16〜21を用いて導電率をそれぞれ測定し、次いで、実施例1〜12と同様に電線16〜21に対して屈曲試験を常温で行って破断回数を求めた。更に、引張試験後の引張試験片16〜21を用いて、実施例1〜12と同様にアルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1、第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ求めた。得られた引張強度、破断回数、導電率、アルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1のナノ粒子の最大粒径、及び第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ表3に示す。
Figure 0006418756
鉄を2質量%含有するアルミニウム鋳造体を鋳造し、アルミニウム合金導体16〜21を作製した場合と同様の方法によりアルミニウム合金導体22〜27を作製した。そして、アルミニウム合金導体22〜27から、実施例1〜12と同様に引張試験片22〜27及び導体素線22〜27をそれぞれ作製し、更に、導体素線22〜27からは、断面積が0.2mmの電線22〜27を作製した。そして、引張試験片22〜27を用いて常温で引張試験を行い、引張強度を求めた。また、作製した導体素線22〜27を用いて導電率をそれぞれ測定し、次いで、実施例1〜12と同様に電線22〜27に対して屈曲試験を常温で行って破断回数を求めた。更に、引張試験後の引張試験片22〜27を用いて、実施例1〜12と同様にアルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1、第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ求めた。得られた引張強度、破断回数、導電率、アルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1のナノ粒子の最大粒径、及び第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ表3に示す。
鉄を5質量%含有するアルミニウム鋳造体を鋳造し、アルミニウム合金導体16〜21を作製した場合と同様の方法によりアルミニウム合金導体28〜33を作製した。そして、アルミニウム合金導体28〜33から、実施例1〜12と同様に引張試験片28〜33及び導体素線28〜33をそれぞれ作製し、更に、導体素線28〜33からは、断面積が0.2mmの電線28〜33を作製した。そして、引張試験片28〜33を用いて常温で引張試験を行い、引張強度を求めた。また、作製した導体素線28〜33を用いて導電率をそれぞれ測定し、次いで、実施例1〜12と同様に電線28〜33に対して屈曲試験を常温で行って破断回数を求めた。更に、引張試験後の引張試験片28〜33を用いて、実施例1〜12と同様にアルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1、第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ求めた。得られた引張強度、破断回数、導電率、アルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1のナノ粒子の最大粒径、及び第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ表3に示す。
表3に示すように、塑性変形加工を行わずに相当ひずみ100の強加工を行う場合(実施例14)と比較して、相当ひずみ0.5の塑性変形加工を予め行うと第2のナノ粒子の最大粒径の減少が、相当ひずみ0.9の塑性変形加工を予め行うとアルミニウム微結晶、第1のナノ粒子、及び第2のナノ粒子のそれぞれの最大粒径の減少が、相当ひずみ2の塑性変形加工を行うと更に第1のナノ粒子の最大粒径の減少が確認できた。そして、第1のナノ粒子及び第2のナノ粒子それぞれの最大粒径の微細化に伴って、引張強度の向上が確認できた。
ここで、実施例14と比較して、相当ひずみ0.2の塑性変形加工を予め行っても、第1のナノ粒子及び第2のナノ粒子の最大粒径の減少は確認されず、相当ひずみ0.2以下の塑性変形加工を行っても、アルミニウム鋳造体中の共晶組織を粗く整合させる(共晶組織を崩壊し易くする)ためには、強加工を行う前に加える塑性変形加工による相当ひずみは0.5以上とする必要があることが分かった。
また、相当ひずみ3以上の塑性変形加工を予め行っても、第1のナノ粒子及び第2のナノ粒子の最大粒径の減少は確認されず、強加工を行う前に加える塑性変形加工による相当ひずみは2以下とする必要があることが分かった。なお、相当ひずみ3以上の塑性変形加工を行った場合、強加工を行っても第1のナノ粒子及び第2のナノ粒子の最大粒径の減少が生じないのは、塑性変形加工により共晶組織内のAl−Fe系金属間化合物部分が中途半端に微細化して、強加工時に崩壊し難くなったためと解される。
(実施例34〜36)
マンガンを0.6質量%、2質量%、及び2.5質量%それぞれ含有するアルミニウム鋳造体34〜36を鋳造し、各アルミニウム鋳造体34〜36からそれぞれ直径10mm、厚さ1mmの円板状の被加工物34〜36を作製した。次いで、被加工物34〜36を、図1に示す上、下アンビルで挟み込み、被加工物34〜36に6GPaの圧力をかけながら、下アンビルを上アンビルに対して所定回数だけ回転させ、被加工物34〜36にせん断ひずみを導入することにより、相当ひずみが100となる強加工をそれぞれ行った後、アルゴンガス雰囲気中、温度250℃で0.2時間の熱処理を行って円板状のアルミニウム合金導体34〜36を作製した。なお、被加工物34〜36内に導入されるせん断ひずみ量は、被加工物34〜36の中心からの距離により変化するので、被加工物34〜36内に予め各評価用の試験片を取り出す領域をそれぞれ設定し、この領域には少なくとも相当ひずみが100の強加工が行われるように、下アンビルの回転回数を設定した。
作製したアルミニウム合金導体34〜36から、引張試験片34〜36及び導体素線作製用の線材母材34〜36をそれぞれ作製した。ここで、引張試験片は、ゲージ長1.5mm、ゲージ幅0.7mmのゲージ部の中心が、アルミニウム合金導体34〜36の中心から2mmの部位に位置するように作製した。また、線材母材34〜36は、アルミニウム合金導体34〜36の中心に中心位置を一致させて作製した内径が9mm、外径が10mmの開環状とし、幅方向中央部を周方向に沿って通過する中心線が、アルミニウム合金導体34〜36の中心を中心とした半径9.5mmの円と一致するように作製した。そして、線材母材34〜36にスエージング加工を行って、線径が1mmの線材を形成し、ダイス伸線加工を行って、線径80μmの導体素線34〜36をそれぞれ作製し、得られた導体素線34〜36をそれぞれ用いて縒り線を形成し、断面積が0.2mmの電線34〜36を作製した。
そして、引張試験片34〜36を用いて常温で引張試験を行い、引張強度を求めた。また、作製した導体素線34〜36を用いて、導電率をそれぞれ測定し、次いで、電線34〜36にそれぞれ荷重100gを負荷した状態で、曲げ半径が15mm、折り曲げ角度範囲が±90度の左右繰り返し曲げを加える屈曲試験を常温で行って破断回数を求めた。更に、引張試験後の引張試験片34〜36から透過電子顕微鏡用の試料をそれぞれ作製し、アルミニウム合金導体34〜36の組織観察を行い、視野内に存在するアルミニウム微細結晶粒の最大粒径、視野内に存在する第1、第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ求めた。得られた引張強度、破断回数、導電率、アルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1のナノ粒子の最大粒径、及び第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ表4に示す。
Figure 0006418756
(比較例R34〜R36)
実施例34〜36で作製した円板状のアルミニウム合金導体34〜36に対して、前記被加工物34〜36に相当ひずみが50となる強加工をそれぞれ行って、円板状のアルミニウム合金導体R34〜R36を作製した。次いで、作製したアルミニウム合金導体R34〜R36から、実施例34〜36と同様に引張試験片R34〜R36及び導体素線R34〜R36をそれぞれ作製し、更に、導体素線R34〜R36からは、断面積が0.2mmの電線R34〜R36を作製した。そして、引張試験片R34〜R36を用いて常温で引張試験を行い、引張強度を求めた。また、作製した導体素線R34〜R36を用いて導電率をそれぞれ測定し、次いで、実施例34〜36と同様に電線R34〜R36に対して屈曲試験を常温で行って破断回数を求めた。更に、引張試験後の引張試験片R34〜R36から透過電子顕微鏡用の試料をそれぞれ作製し、アルミニウム合金導体R34〜R36の組織観察を行い、視野内に存在するアルミニウム微細結晶粒の最大粒径、視野内に存在する第1、第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ求めた。得られた引張強度、破断回数、導電率、アルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1のナノ粒子の最大粒径、及び第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ表4に示す。
(実施例37〜40)
クロムを0.3質量%、0.7質量%、2質量%、及び2.5質量%それぞれ含有するアルミニウム鋳造体37〜40を鋳造し、各アルミニウム鋳造体37〜40からそれぞれ直径10mm、厚さ1mmの円板状の被加工物37〜40を作製した。次いで、被加工物37〜40を、図1に示す上、下アンビルで挟み込み、被加工物37〜40に6GPaの圧力をかけながら、下アンビルを上アンビルに対して所定回数だけ回転させ、被加工物37〜40にせん断ひずみを導入することにより、相当ひずみが100となる強加工をそれぞれ行った後、アルゴンガス雰囲気中、温度250℃で0.2時間の熱処理を行って円板状のアルミニウム合金導体37〜40を作製した。なお、被加工物37〜40内に導入されるせん断ひずみ量は、被加工物37〜40の中心からの距離により変化するので、被加工物37〜40内に予め各評価用の試験片を取り出す領域をそれぞれ設定し、この領域には少なくとも相当ひずみが100の強加工が行われるように、下アンビルの回転回数を設定した。
作製したアルミニウム合金導体37〜40から、引張試験片37〜40及び導体素線作製用の線材母材37〜40をそれぞれ作製した。ここで、引張試験片は、ゲージ長1.5mm、ゲージ幅0.7mmのゲージ部の中心が、アルミニウム合金導体37〜40の中心から2mmの部位に位置するように作製した。また、線材母材37〜40は、アルミニウム合金導体37〜40の中心に中心位置を一致させて作製した内径が9mm、外径が10mmの開環状とし、幅方向中央部を周方向に沿って通過する中心線が、アルミニウム合金導体37〜40の中心を中心とした半径9.5mmの円と一致するように作製した。そして、線材母材37〜40にスエージング加工を行って、線径が1mmの線材を形成し、ダイス伸線加工を行って、線径80μmの導体素線37〜40をそれぞれ作製し、得られた導体素線37〜40をそれぞれ用いて縒り線を形成し、断面積が0.2mmの電線37〜40を作製した。
そして、引張試験片37〜40を用いて常温で引張試験を行い、引張強度を求めた。また、作製した導体素線37〜40を用いて、導電率をそれぞれ測定し、次いで、電線37〜40にそれぞれ荷重100gを負荷した状態で、曲げ半径が15mm、折り曲げ角度範囲が±90度の左右繰り返し曲げを加える屈曲試験を常温で行って破断回数を求めた。更に、引張試験後の引張試験片37〜40から透過電子顕微鏡用の試料をそれぞれ作製し、アルミニウム合金導体37〜40の組織観察を行い、視野内に存在するアルミニウム微細結晶粒の最大粒径、視野内に存在する第1、第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ求めた。得られた引張強度、破断回数、導電率、アルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1のナノ粒子の最大粒径、及び第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ表5に示す。
Figure 0006418756
(比較例R37〜R40)
実施例37〜40で作製した円板状のアルミニウム合金導体37〜40に対して、前記被加工物37〜40に相当ひずみが50となる強加工をそれぞれ行って、円板状のアルミニウム合金導体R37〜R40を作製した。次いで、作製したアルミニウム合金導体R37〜R40から、実施例37〜40と同様に引張試験片R37〜R40及び導体素線R37〜R40をそれぞれ作製し、更に、導体素線R37〜R40からは、断面積が0.2mmの電線R37〜R40を作製した。そして、引張試験片R37〜R40を用いて常温で引張試験を行い、引張強度を求めた。また、作製した導体素線R37〜R40を用いて導電率をそれぞれ測定し、次いで、実施例37〜40と同様に電線R37〜R40に対して屈曲試験を常温で行って破断回数を求めた。更に、引張試験後の引張試験片R37〜R40から透過電子顕微鏡用の試料をそれぞれ作製し、アルミニウム合金導体R37〜R40の組織観察を行い、視野内に存在するアルミニウム微細結晶粒の最大粒径、視野内に存在する第1、第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ求めた。得られた引張強度、破断回数、導電率、アルミニウム微細結晶粒の最大粒径、第1のナノ粒子の最大粒径、及び第2のナノ粒子の最大粒径をそれぞれ表5に示す。
表4、表5に示す結果から、マンガン又はクロムを0.3質量%以上5質量%以下含有するアルミニウム鋳造体に相当ひずみが100以上の強加工を行って形成されるナノ粒子分散組織を有するアルミニウム合金導体は、アルミニウム微細結晶粒の粒径は800nm以下、第1、第2のナノ粒子の粒径は500nm以下であり、室温での引張試験時の引張強度が220MPa以上、室温での繰り返し屈曲試験による破断回数が300万回以上、室温での導電率が50%IACS以上となることが確認できる。
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
更に、本実施の形態とその他の実施の形態や変形例にそれぞれ含まれる構成要素を組合わせたものも、本発明に含まれる。
なお、以上の発明において、アルミニウムは不可避的不純物を含む場合も当然適用される。
10:被加工物、11、11a:窪み、12:上アンビル、13:下アンビル

Claims (13)

  1. 振動若しくは屈曲の駆動環境又は振動状態において常用されるアルミニウム合金導体の製造方法であって、
    アルミニウムとの間で金属間化合物を生成し、アルミニウムに対する添加量が5質量%以下の領域に共晶反応又は包晶反応の生じる反応組成を有し、更に、アルミニウムに対する固溶限度が前記反応組成未満である元素Xを0.3質量%以上5質量%以下含有するアルミニウム鋳造体に相当ひずみの総和が100以上の強加工を行い、前記アルミニウム鋳造体の鋳造組織の微細化に伴って、アルミニウム微細結晶粒と、前記アルミニウム微細結晶粒の粒内に存在する前記金属間化合物からなる第1のナノ粒子と、前記アルミニウム微細結晶粒の粒界に存在する前記金属間化合物からなる第2のナノ粒子とを有するナノ粒子分散組織を形成して、
    前記アルミニウム微細結晶粒の粒径を800nm以下、前記第1、第2のナノ粒子の粒径を500nm以下とし、しかも室温での引張試験時の引張強度を220MPa以上、室温での繰り返し屈曲試験による破断回数を300万回以上、室温での導電率を50%IACS以上とすることを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  2. 振動若しくは屈曲の駆動環境又は振動状態において常用されるアルミニウム合金導体の製造方法であって、
    アルミニウムとの間で金属間化合物を生成し、アルミニウムに対する添加量が5質量%以下の領域に共晶反応又は包晶反応の生じる反応組成を有し、更に、アルミニウムに対する固溶限度が前記反応組成未満である元素Xを0.3質量%以上5質量%以下含有するアルミニウム鋳造体に相当ひずみの総和が100以上の強加工を行い、前記アルミニウム鋳造体の鋳造組織の微細化に伴って、アルミニウム微細結晶粒と、前記アルミニウム微細結晶粒の粒内に存在する前記金属間化合物からなる第1のナノ粒子と、前記アルミニウム微細結晶粒の粒界に存在する前記金属間化合物からなる第2のナノ粒子とを有するナノ粒子分散組織を形成し、
    前記アルミニウム鋳造体は、前記強加工前又は前記強加工中に、300℃以下の温度で熱処理されることを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  3. 振動若しくは屈曲の駆動環境又は振動状態において常用されるアルミニウム合金導体の製造方法であって、
    アルミニウムとの間で金属間化合物を生成し、アルミニウムに対する添加量が5質量%以下の領域に共晶反応又は包晶反応の生じる反応組成を有し、更に、アルミニウムに対する固溶限度が前記反応組成未満である元素Xを0.3質量%以上5質量%以下含有するアルミニウム鋳造体に相当ひずみの総和が100以上の強加工を行い、前記アルミニウム鋳造体の鋳造組織の微細化に伴って、アルミニウム微細結晶粒と、前記アルミニウム微細結晶粒の粒内に存在する前記金属間化合物からなる第1のナノ粒子と、前記アルミニウム微細結晶粒の粒界に存在する前記金属間化合物からなる第2のナノ粒子とを有するナノ粒子分散組織を形成し、
    前記アルミニウム合金導体は、300℃以下の温度で熱処理されることを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体の製造方法において、前記鋳造組織は、1)アルミニウム中に前記元素Xが固溶したアルミニウム基固溶体の初晶及びアルミニウムと前記金属間化合物との共晶組織、2)アルミニウムと前記金属間化合物との共晶組織、3)前記金属間化合物の晶出物及びアルミニウムと前記金属間化合物との共晶組織、及び4)アルミニウム基固溶体の初晶、アルミニウムと前記金属間化合物との共晶組織、及び前記金属間化合物の晶出物のいずれかであることを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  5. 請求項記載のアルミニウム合金導体の製造方法において、前記アルミニウム鋳造体には、予め相当ひずみ2以下の塑性変形加工が加えられていることを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  6. 請求項又は記載のアルミニウム合金導体の製造方法において、前記元素Xは鉄であって、アルミニウムに0.6質量%以上5質量%以下含有されることを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  7. 請求項記載のアルミニウム合金導体の製造方法において、鉄はアルミニウムに対して1.5質量%以上2.5質量%以下含有されていることを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  8. 請求項又は記載のアルミニウム合金導体の製造方法において、前記アルミニウム鋳造体はアルミニウムインゴット及びアルミニウムリサイクル回収材のいずれか一方又は双方を用いて鋳造されることを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  9. 請求項記載のアルミニウム合金導体の製造方法において、前記元素Xはマンガンであって、アルミニウムに0.6質量%以上2.5質量%以下含まれることを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  10. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体の製造方法において、前記鋳造組織は、1)アルミニウム中に前記元素Xが固溶したアルミニウム基固溶体及び該アルミニウム基固溶体に包摂された前記金属間化合物、又は2)アルミニウム中に前記元素Xが固溶したアルミニウム基固溶体、該アルミニウム基固溶体に包摂された前記金属間化合物の晶出物、及びアルミニウム基固溶体中に析出した前記金属間化合物であることを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  11. 請求項10記載のアルミニウム合金導体の製造方法において、前記元素Xはクロムであって、アルミニウムに0.6質量%以上5質量%以下含まれることを特徴とするアルミニウム合金導体の製造方法。
  12. 請求項1〜11のいずれか1項に記載のアルミニウム合金導体に加工度5以上の引き抜き加工を行って形成し、線径が0.03mm以上0.5mm以下である導体素線を使用することを特徴とする電線の製造方法。
  13. 請求項12記載の電線の製造方法において、前記導体素線は350℃以下の温度で熱処理されることを特徴とする電線の製造方法。
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