以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
この実施形態の制振システムは、車両を制振対象としてこれに搭載されるものであり、図1に示すように、車両本体の一部を構成するフレーム11と一体的に構成されている。フレーム11には、振動源であるエンジン12がバネ12s及びダンパ12dを介して支持されており、エンジン12が駆動することによる振動がフレーム11に伝達される。
さらに本制振システム1は、フレーム11の一箇所に設定する参照点Prefに取り付けられた振動センサとしての加速度センサ14と、エンジン12及び加速度センサ14より離間したフレーム11上の位置に設けられた加振手段としてのアクチュエータ13と、このアクチュエータ13を駆動するための電力を供給する電源16と、これら加速度センサ14、アクチュエータ13及び電源16に接続されたコントローラ15とを備える。コントローラ15に対して、電源16は電源ケーブルCa2によって、アクチュエータ13はアクチュエータケーブルCa3によって、加速度センサ14はセンサケーブルCa4によってそれぞれ独立して接続される。
さらに、コントローラ15には通信ケーブルCa1を介して上位コントローラ21が接続されており、コントローラ15は、この上位コントローラ21からの命令に応じて動作し、振動センサ14からの信号を基に電源16より得られる電力を利用してアクチュエータ13を駆動する。
本実施形態では、振動センサとして加速度センサ14を用いているが、変位センサや速度センサであっても同様に利用することができ、適宜微分回路等を用いて信号を変換することで同じ信号を取り出すこともできる。
また、加振手段として利用するアクチュエータ13は可動子が直線的な往復動作を行う一般にレシプロモータと称されるリニアアクチュエータであって、上記特許文献1において用いられている構造のものを好適に利用することができる(特許文献1図2参照)。本実施形態におけるアクチュエータ13もこれと同様の構造を備えており、固定子の内部で可動子を板バネで弾性支持するとともに、可動子を鉄心により構成し、固定子側に永久磁石とコイルを設ける構成とされている。そして、コイルに駆動電流を流して固定子の内部に磁束の変化を生じさせることで、可動子を動作させることができるようになっており、電流の方向を変化させることで可動子を直線的に往復動させることが可能である。こうしたアクチュエータ13は、可動鉄心型であり可動子が単純な構成となっていることから動作安定性及び機械的強度の点で有利であるとともに、板バネにより可動子が弾性支持されていることから摺動部が少なくエネルギのロスが少ない上に長期的に使用しても特性の変化が少ない。
アクチュエータ13はフレーム11に直接固定しているが、フレーム11に対するアクチュエータ13の支持剛性、及び、アクチュエータ13内部における可動部の支持剛性を合成してモデル化することで、図中で示すように、アクチュエータ13がバネ13s及びダンパ13dを介してフレーム11に接続されていると考えることができる。
図2は、コントローラ15の構成を説明するためのブロック図である。コントローラ15は、制御手段31と、この制御手段31に接続される電圧出力回路32、振動検出回路33及び電流検出回路34とから構成される。
電圧出力回路32は、アクチュエータ13に駆動電圧Vpを出力するための電圧出力手段として機能するものであり、制御手段31より出力される駆動電圧指令Vcに従って、これに対応する駆動電圧Vpを生成して出力することができる。電圧出力回路32よりアクチュエータ13に対して駆動電圧Vpが印加されることにより、アクチュエータ13には駆動電圧Vpに対応する駆動電流が供給される。
振動検出回路33は、加速度センサ14より得られる信号を入力され、この信号に従って、加速度の波形に応じた振動検出信号Vidを生成して出力するものであり、加速度センサ14とともに振動検出手段Mvを構成する。
電流検出回路34は、上記電圧出力回路32とアクチュエータ13との間に設けられた電流検出器17より得られる信号を入力され、この信号に従って、電圧出力回路32からアクチュエータ13に供給される駆動電流に応じた電流検出信号Idを生成して出力するものであり、電流検出器17とともに電流検出手段Miを構成する。
制御手段31は、CPU、メモリ及びインターフェースを備えた通常のマイクロプロセッサ等により構成されるもので、メモリには予め処理に必要なプログラムが格納してあり、CPUは逐次必要なプログラムを取り出して実行し、周辺ハードリソースと協働して、所期の機能を実現する。この制御手段31は、振動を抑制するための制御を行う通常モードと、この制振システム1における故障の有無を診断するための制御を行う故障診断モードとからなる2つの動作モードを備えており、これらの何れかの動作モードを選択して実行することができるようになっている。
ここで、本実施形態において称する故障とは、製造及び組立直後の初期の故障、及び、経時による部品の劣化や損傷による故障の双方を含むものであり、配線の間違いや断絶、加速度センサ14の出力異常、コントローラ15からアクチュエータ13に向けた駆動電圧Vcの出力異常、アクチュエータ13の動作異常等が想定される。
制御手段31を機能ブロックに分けて詳細に説明すると、この制御手段31は、動作モード設定部41、記憶部42、電圧指令生成部43、振動故障診断部44、電流故障診断部45、故障診断部46、駆動状態判断部47及び通信部48を備える。
動作モード設定部41は、上述した上位コントローラ21より通信部48を介して与えられる動作命令Caを受けつけ、その動作命令Caに応じて、動作モードを設定するための動作モード指令Cmを電圧指令生成部43を構成する電圧指令切替部43cに向けて出力するとともに、各動作モードにおける制御動作の開始又は停止を行わせるための駆動指令Cdを、動作モードに対応する後述の制振用電圧指令生成部43A又は診断用電圧指令生成部43Bに出力するものである。また、この動作モード設定部41は、駆動状態判断部47より停止指令Ceが入力された場合には、これに対応する駆動指令Cdを出力することで各動作モードにおける制御動作の停止を行わせることもできる。
記憶部42は、予め設定した故障診断時のアクチュエータ13の駆動条件である診断周波数Fc及び診断電圧振幅Acを記憶するとともに、故障診断を行うために用いる基準値である正常振動基準値Vit、振動安定基準値Vis及び正常電流基準値Itを記憶するものである。
ここで、正常振動基準値Vitとは、これ以上に大きな振動検出信号Vidが得られる場合に正常と判断し、これより小さい場合にアクチュエータ13の動作又は振動検出に関連する部位に故障があると判断するための基準値である。また、正常電流基準値Itとは、これ以上に大きな電流検出信号Idが得られる場合に正常と判断し、これより小さい場合に駆動電圧Vpの生成又は電流検出に関連する部位に故障があると判断するための基準値である。さらに、振動安定基準値Visとは、振動検出信号Vidのピーク値の変化量がこれを下回った場合に、振動検出信号Vidが安定した、すなわち振動が安定化したと判断するための基準値である。
さらに、上記診断周波数Fcとは、故障診断モード時においてアクチュエータ13を駆動する際の周波数であり、フレーム11の共振周波数に近い所定の周波数に設定している。ここで、フレーム11の共振周波数とは、フレーム11の形状や材質だけではなく、これを支持するための支持構造にも依存するものであり、フレーム11を中心として構成される振動系(システム)全体の共振周波数ともいうことができ、この周波数で加振した場合に共振現象が生じることでフレーム11に大きな振動を生じさせる周波数を指す。また、共振周波数に近い周波数とは、共振周波数とは一致しないものの、この周波数で加振した場合であっても共振周波数で加振した場合と同様に共振現象が生じて大きな振動が生じるものであり、例えば、共振周波数での振動が鋭い場合、すなわちQ値が大きい場合には±3%に設定し、Q値が小さい場合には±5%以内に設定すれば良い。
このように診断周波数Fcを設定することにより、少ないエネルギで加振した場合でも、共振現象によって大きな振動を発生させることが可能である。もちろん、診断周波数Fcをフレーム11の共振周波数と同一に設定してもよく、その場合には共振現象をより顕著に生じさせ、参照点Prefにおいて一層大きな振動を得ることができる。
電圧指令生成部43は、入力される信号に応じた駆動電圧指令Vcを生成し、上記電圧出力回路32に出力するものである。この電圧指令生成部43は、通常モードにおける駆動電圧指令Vcを生成するための制振用電圧指令生成部43Aと、故障診断モードにおける駆動電圧指令Vcを生成するための診断用電圧指令生成部43Bと、これら制振用電圧指令生成部43A及び診断用電圧指令生成部43Bからの出力の何れかを駆動電圧指令Vcとして選択的に出力する電圧指令切替部43Cとを備えている。
制振用電圧指令生成部43Aは、上記動作モード設定部41より制御動作の開始に対応する駆動指令Cdを入力されることで動作を行うものであり、振動検出回路33により得られる振動検出信号Vidに基づき、参照点Prefに生ずる振動を相殺するための相殺振動をこの参照点Prefに発生させる制振用駆動電圧指令Vcdを駆動電圧指令Vcの一つとして生成する。具体的には、アクチュエータ13により発生する加振力は、アクチュエータ13と参照点Pref間の伝達関数Gによって変化して参照点Prefに表れることから、参照点Prefに所望の振動を生じさせたい場合には、その振動波形と上記伝達関数Gの逆特性である逆伝達関数1/Gとから、アクチュエータ13に発生させるべき加振力を得ることができる。そこで、本実施形態では、制振用電圧指令生成部43Aにおいて、振動検出信号Vidを反転した逆位相信号と逆伝達関数1/Gとに基づき制振用駆動電圧指令Vcdを生成するようにしている。また、この制振用電圧指令生成部43Aは、動作モード設定部41より制御動作の停止に対応する駆動指令Cdを入力されることで、制振用駆動電圧指令Vcdの生成及び出力を停止する。
診断用電圧指令生成部43Bは、上記動作モード設定部41より制御動作の開始に対応する駆動指令Cdを入力されることで動作を行うものであり、記憶部42に記憶された診断周波数Fcと診断電圧振幅Acとを読み出し、これらに基づいて矩形波状の交流電圧指令である診断用駆動電圧指令Vctを駆動電圧指令Vcの一つとして生成する。診断用駆動電圧指令Vctの周波数は設定された診断周波数Fcと一致し、その振幅は診断電圧振幅Acに比例する。また、この診断用電圧指令生成部43Bも、動作モード設定部41より制御動作の停止に対応する駆動指令Cdを入力されることで、診断用駆動電圧指令Vctの生成及び出力を停止する。
電圧指令切替部43Cは、上述した動作モード設定部41より入力される動作モード指令Cmに応じて、制振用電圧指令生成部43A及び診断用電圧指令生成部43Bの何れか一方が電圧出力回路32に向けた出力ラインに接続されるように選択的に切り替える。こうすることで、動作モードに応じ、制振用電圧指令生成部43Aによる制振用駆動電圧指令Vcd、及び、診断用電圧指令生成部43Bによる診断用駆動電圧指令Vctの何れか一方が駆動電圧指令Vcとして電圧出力回路32に出力される。
振動故障診断部44は、振動検出手段Mvより得られる振動検出信号Vid、電圧指令生成部43より得られる駆動電圧指令Vc(診断用駆動電圧指令Vct)、及び記憶部42より読み出される正常振動基準値Vit・振動安定基準値Visを基にアクチュエータ13の動作又は振動検出に関連する部位の故障の有無を診断し、故障があると診断する場合に振動故障検出信号Sbvを出力するようになっている。この具体的な構成については後に詳述する。
また、電流故障診断部45は、電流検出手段Miより得られる電流検出信号Id、及び記憶部42より読み出される正常電流基準値Itを基に、駆動電圧Vpの生成又は電流検出に関連する部位の故障の有無を診断し、故障があると診断する場合に電流故障検出信号Sbiを出力するようになっている。この具体的な構成についても後に詳述する。
故障診断部46は、振動故障診断部44からの振動故障検出信号Sbv、及び電流故障診断部45からの電流故障検出信号Sbiの少なくとも何れかが入力されることにより、いずれかの部位に故障があるものとして故障判断信号Sbtを出力するようになっている。この故障判断信号Sbtには、振動故障検出信号Sbv及び電流故障検出信号Sbiのどちらが出力されているか、あるいは双方が出力されているかを判別し得る情報が含まれるようにしており、こうすることで、故障があると診断される場合において、具体的な故障箇所の特定を容易にすることができる。
駆動状態判断部47は、故障診断部46による故障判断信号Sbtを入力されることによって、故障の有無に関する判断を行い、その結果を動作情報Diの一つとして出力し、通信部48を介して上位コントローラ21に伝達することで、操作者に通知を行う。また、故障判断信号Sbtの入力により故障が存在すると判別できる場合には、停止指令Ceを動作モード設定部41に出力することで、動作モード設定部41より制御動作の停止を行わせるための駆動指令Cdを出力させる。こうすることで、故障箇所が存在している状況での運転を直ちに取り止め、機器の故障の拡大を防ぐこともできる。
さらに、駆動状態判断部47は、故障の有無のみならず、故障判断信号Sbtが入力された際のコントローラの15の動作状態に関する情報を収集し、動作情報Diとして通信部48を介して上位コントローラ21に伝達するようになっている。動作情報Diとしては、過電流・過電圧・断線等の異常状態発生状況に係る情報、初期設定モード・スリープモード・通常モード等の動作モードに係る情報、及び、電圧指令値・電流検出値・振動検出値・温度検出値等の動作値に係る情報があるが、適宜これら以外の情報を動作情報Diに加えても良い。
また、故障判断信号Sbtによって判別できる故障箇所の存在は、駆動状態判断部47及び上位コントローラ21を通じて操作者に伝達されるだけではなく、故障診断部46又は駆動状態判断部47に音声出力や発光などによる報知機能を持たせ、コントローラ15より操作者に直接的に伝達するようにしても良い。
通信部48は、上位コントローラ21との間で情報の授受を行うためのインターフェースとして構成され、上述したように、上位コントローラ21からの動作指令Coを動作モード設定部41に与えたり、駆動状態判断部47より得られる動作情報Diを上位コントローラ21に伝達したりすることができる。また、上記以外の情報についても、適宜授受を行うようにしており、こうした情報を基に上位コントローラ21によって細かな制御を行うことが可能となっている。
上記のように構成することで、動作モード設定部41において通常モードが設定され、これに応じた動作モード指令Cmが出力された場合には、これに従って電圧指令切替部43Cが、制振用電圧指令生成部43Aからの駆動電圧指令Vcを出力させるように切り替えを行う。さらに、制振用電圧指令生成部43Aは、動作モード設定部41より制御動作の開始に対応する駆動指令Cdを入力されることによって、参照点Prefに設けられた加速度センサ14より得られる振動検出信号Vidに基づいて、振動源12より参照点Prefに伝達される振動を抑制する相殺振動をこの参照点Prefに発生させるための制振用駆動電圧指令Vcdの生成を開始し、これを駆動電圧指令Vcとして出力する。そして、電圧出力回路32が、電源16(図1参照)より得られる電力を利用して、この制振用駆動電圧指令Vcdに従い駆動電圧Vpを生成してアクチュエータ13に入力する。そのため、アクチュエータ13は制振用駆動電圧指令Vcdに従って加振力を発生し、この加振力がフレーム11を通じて参照点Prefに相殺振動を生じさせることで、振動源12により参照点Prefに発生する振動を抑制することができる。
また、動作モード設定部41において故障診断モードが設定され、これに応じた動作モード指令Cmが出力された場合には、これに従って電圧指令切替部43Cが、診断用電圧指令生成部43Bより駆動電圧指令Vcを出力させるように切り替えを行う。さらに、診断用電圧指令生成部43Bは、動作モード設定部41より制御動作の開始に対応する駆動指令Cdを入力されることによって、記憶部42に記憶された診断周波数Fcと診断電圧振幅Acに基づいて矩形波状の交流電圧指令である診断用駆動電圧指令Vctの生成を開始し、これを駆動電圧指令Vcとして出力する。そして、電圧出力回路32が、電源16(図1参照)より得られる電力を利用して、この診断用駆動電圧指令Vctに従い駆動電圧Vpを生成してアクチュエータ13に入力する。そのため、アクチュエータ13は診断用駆動電圧指令Vctに従って、より具体的には、上記診断周波数Fcと診断電圧振幅Acに応じて加振力を発生する。
さらに、動作モード設定部41より、各動作モードの停止を行わせるための停止指令Ceが出力された場合、何れのモードの場合であっても電圧指令生成部43による駆動電圧指令Vcの生成は停止され、アクチュエータ13に駆動電圧Vpが出力されない状態となる。なお、これと同様に、駆動状態判断部47から停止指令Ceが出力された場合であっても、駆動電圧Vpは出力されない状態となる。
上述したように、本実施形態においては診断周波数Fcをフレーム11の共振周波数に近い所定の値に設定しているため、故障診断モードを実行する場合にアクチュエータ13を診断周波数Fcで動作させることで、共振現象を利用してフレーム11に大きな振動を生じさせることができる。そして参照点Prefに生じる振動を振動検出手段Mvを用いて検出し、これにより得られる振動検出信号Vidを正常振動基準値Vitと比較することによって、後述するようにアクチュエータ13の動作又は振動検出に関連する部位の故障の有無を診断することができる。すなわち、共振現象を利用することで、故障の有無を判断するに足りる十分に大きな振動を得ることができることから、アクチュエータ13に電源16(図1参照)より与えるエネルギを小さくすることができるとともに、センサの検出感度を高める場合と同様により正確な診断を行うことが可能となる。
以下、具体的な故障診断を行う仕組みについて詳細に説明を行う。
図3は、故障診断モードの実行時において得られる駆動電圧Vp、電流検出信号Id及び振動検出信号Vidの一例を示す図である。まずは、図2を参照しつつ図3を用いて各信号の特徴について説明を行う。
駆動電圧Vpは、上述したように診断用駆動電圧指令Vctに従うものであり、この診断用駆動電圧指令Vctは予め定められた診断周波数Fcと診断電圧振幅Acにより矩形波状に設定されることから、図中で示すような矩形波状に変化する交流電圧として出力される。
本実施形態では、一例としてフレーム11の共振周波数が200Hzとなる場合を設定し、これに合わせて診断周波数Fcを200Hzにしている。そのため、駆動電圧Vpは1周期が5.0msとなり、半周期である2.5msごとに正負が逆転する。
このような駆動電圧Vpが印加される際にアクチュエータ13に供給される駆動電流を電流検出手段Miによって検出することで、図中で示すように三角波状の電流検出信号Idが得られる。具体的には、駆動電圧Vpが正電圧となった場合には、電流検出信号Idはアクチュエータ13の電気子特性によって、L/Rの時定数をもつ一次遅れ特性をもってほぼ直線状に増加し、駆動電圧Vpが負電圧に転じた際に電流検出信号Idは正側のピーク値を示し、これより上記一次遅れ特性をもってほぼ直線状に減少していき、この減少していく過程において負側に転じる。なお、この負側の電流値は、正側の電流とは逆向きに電流が流れることを意味する。さらに、駆動電圧Vpが再び正電圧に転じた場合に、電流検出信号Idは負側のピーク値を示し、これよりほぼ直線状に増加し、この増加していく過程で正側に転じる。
このような駆動電流の変化により、アクチュエータ13では可動子(図示せず)を動作させるための磁束の変化が生じ、可動子の移動に伴う反力が加振力としてフレーム11に伝達され、参照点Prefが振動することで振動検出手段Mvによって振動検出信号Vidが得られる。
振動検出信号Vidは、電流検出信号Idに対して、アクチュエータ13の電気特性に従って約90°の位相遅れが生じるものの、同じ周期で変化を行う。ただし、振動検出信号Vidの振幅は、アクチュエータ13の動作が開始してから徐々に大きくなり、やがて振幅がほぼ一定となった安定状態になる。この図では、アクチュエータ13の動作が開始してから8周期目でほぼ振幅の変化が生じなくなり、振動が安定化している。なお、上記の例では8周期目で振動が安定化していたが、各部の形状や支持条件あるいは加振力の与え方によって安定化するまでの時間は変化し得る。
このように振幅の変化が生じる原因は、次のような共振時の振動の特徴にある。すなわち、共振周波数近くで加振を行った場合、減衰係数の影響によって加振開始より振動の振幅が徐々に大きくなり、最終的に飽和するため、振幅が安定するまでに時間を要するという特徴がある。そこで本願では、共振によって振動を増大させるだけではなく、振動がより大きく成長した安定状態において評価を行うようにすることで、より少ないエネルギで大きな振動を得るとともに、より振動の大きな状態で正確な診断を行うことができるようにしている。
上記の内容を実現するため本願では、振動の安定状態を判別するための手段を備えている。ここで、本実施形態における安定状態の判別を行う原理について、図4を用いて説明を行う。図4は、駆動電圧Vp、電流検出信号Id、及び振動検出信号Vidの関係を模式的に記載したものである。
駆動電圧Vpは、上述したように正電圧と負電圧とが矩形波状に交互に繰り返される交流電圧であり、その正電圧印加期間において電流検出信号Idはほぼ直線状に増加し、負電圧印加期間にほぼ直線状に減少する。そのため、正常に動作している場合、駆動電圧Vpが正から負に転じるいわゆる立下り時に電流検出信号Idは正側のピーク値をとり、駆動電圧Vpが負から正に転じるいわゆる立上り時に電流検出信号Idは負側のピーク値をとる。
そして、駆動電圧Vpの立上りより次の立上りまでの1周期を今回周期として評価に用いる場合、その中での正側のピーク値である今回最大電流検出値Id21と、負側のピーク値である今回最小電流検出値Id11とを検出し、これらの絶対値が予め定めた正常電流基準値It(図2参照)に比して十分大きなものであるかによって、駆動電圧Vpの生成又は電流検出に関連する部位における故障の有無の診断を行うようにしている。なお、電流検出信号Idは、駆動電圧Vpの振幅が安定しておれば、共振に関わらず直ぐに安定した電流を流すことができる。そのため、通常であれば、前回周期における前回最大電流検出値Id20及び前回最小電流検出値Id10と、今回周期における今回最大電流検出値Id21及び今回最小電流検出値Id11との間にはほぼ変化がなく、どの周期における検出値を用いても故障診断を行うことができる。
また、振動検出信号Vidも駆動電圧Vpに応じて変化し、正電圧印加期間では減小して負側のピーク値をとった上で増大に転じ、負電圧印加期間では増大して正側のピーク値をとった上で減小に転じるようになっている。
そして、ある1周期を今回周期として評価に用いる場合、その中での負側のピーク値である今回最小振動検出値Vid11と、正側のピーク値である今回最大電流検出値Vid21とを検出し、これらの絶対値が予め定めた正常振動基準値Vit(図2参照)に対して大きいか小さいかを比較することにより、アクチュエータ13の動作又は振動検出に関連する部位における故障の有無の診断を行うようにしている。
以下、上述のような各検出信号の特徴を活かした振動故障診断部44及び電流故障診断部45の具体的な構成について詳細に説明を行う。
図5は、図2に記載した振動故障診断部44の構成を詳細に示したブロック図である。この図で示されるように、振動故障診断部44は、電圧指令変化判別部51、最小振動検出値出力部52、最小振動検出値保存部53、前回最小振動検出値保存部54、減算器55、絶対値回路56、最大振動検出値出力部62、最大振動検出値保存部63、前回最大振動検出値保存部64、減算器65、絶対値回路66、振動安定判別部57、及び振動故障検出部58より構成されている。
電圧指令変化判別部51は、駆動電圧指令Vcの変化を判別し、駆動電圧指令Vcの変化に応じた信号を出力する。
ここで、図6は電圧指令変化判別部51の機能について説明するための図である。図6に示すように、電圧指令変化判別部51は、駆動電圧指令Vcが負から正に転じる立上りエッジを検出した際にパルス状の立上りエッジ検出信号Sguを出力する。さらに、駆動電圧指令Vcが正から負に転じる立下りエッジを検出した際にパルス状の立下りエッジ検出信号Sgdを出力する。なお、駆動電圧Vpは、電圧出力回路32(図2参照)によって駆動電圧指令Vcに従い生成されたものであるため、両者の変化タイミングはほぼ同一であり、駆動電圧指令Vcの立上りエッジ及び立下りエッジを検出することは、駆動電圧Vpの立上りエッジ及び立下りエッジを検出することとほぼ等しい。
図5に戻って、最小振動検出値出力部52は、振動検出信号Vidと、電圧指令変化判別部51より得られる立下りエッジ検出信号Sgdとを入力され、これらに基づき1周期内における最小振動検出値Vid1を生成して出力するものである。
ここで、図7は、最小振動検出値出力部52の構成をさらに詳細に示すとともに、その機能を説明するための図である。
最小振動検出値出力部52は、比較最小値保存部52aと比較回路52bより構成されている。比較最小値保存部52aは、入力部INより入力された信号を出力部OUTより出力することが可能であり、リセット部CLRに信号が入力されることにより出力する信号をゼロにリセットする。比較回路52bは、比較最小値保存部52aの出力部OUTより得られた信号と振動検出信号Vidとを比較して、両者のうち小さいほうを最小振動検出値Vid1として出力するようになっている。
最小振動検出値Vid1は比較最小値保存部52aを経由して、再び比較回路52bに入力され、新たに得られる振動検出信号Vidと比較され、両者のうち小さいほうが最小振動検出値Vid1として出力される。すなわち、比較最小値保存部52aと比較回路52bとは、振動検出信号Vidの自己保持機能と、最小値の更新機能とを備えている。
また、比較最小値保存部52aのリセット部CLRには、立下りエッジ検出信号Sgdが入力されるようにしており、駆動電圧指令Vcの立下りのタイミングで振動検出信号Vidの最小値がリセットされる。
従って、この最小振動検出値出力部52では、立下りエッジ検出信号Sgdのタイミングでリセットされ、その際に振動検出信号Vidがゼロとなっていることから、最小振動検出値Vid1もゼロになる。そして、これより半周期の間、振動検出信号Vidはゼロよりも大きな値となるため、最小振動検出値Vid1の更新はなされずゼロの状態を保つ。振動検出信号Vidが負の値となり減少している間は、振動検出信号Vidの値によって最小振動検出値Vid1は更新を続ける。やがて、負側のピーク値をとり、増大に転じた場合には、最小振動検出値Vid1は振動検出信号Vidの負側のピーク値を維持したままとなる。さらに、立下りエッジ検出信号Sgdが入力されることで、最小振動検出値Vid1はリセットされ、上記と同じ動作を繰り返す。
再び図5に戻って、最小振動検出値保存部53は、電圧指令変化判別部51より得られる立下りエッジ検出信号Sgdと、最小振動検出値出力部52より得られる最小振動検出値Vid1とを入力され、振動の検出を行ったその1周期内における最小振動検出値Vid1を今回最小振動検出値Vid11として出力するものである。具体的に述べると、最小振動検出値保存部53は、立下りエッジ検出信号Sgdが入力されたタイミングで、その直前に最小振動検出値出力部52より入力されていた最小振動検出値Vid1をラッチし、これを今回最小振動検出値Vid11として出力する。そして、次に立下りエッジ検出信号Sgdが入力されることで、その直前に最小振動検出値出力部52より入力されていた最小振動検出値Vid1を新たにラッチし、これを新たな今回最小振動検出値Vid11として出力するものであり、こうした動作を繰り返し行うようになっている。すなわち、最小振動検出値保存部53とは、直前の1周期内における振動検出信号Vidの負側のピーク値を今回最小振動検出値Vid11として、1周期の間継続して出力するものといえる。
前回最小振動検出値保存部54は、電圧指令変化判別部51より得られる立下りエッジ検出信号Sgdと、最小振動検出値保存部53より得られる今回最小振動検出値Vid11とを入力され、振動の検出を行ったその前の1周期内における最小振動検出値Vid1を前回最小振動検出値Vid10として出力するものである。具体的に述べると、前回最小振動検出値保存部54は、立下りエッジ検出信号Sgdが入力されたタイミングで、その直前に最小振動検出値保存部53より入力されていた今回最小振動検出値Vid11をラッチし、これを前回最小振動検出値Vid10として出力する。そして、次に立下りエッジ検出信号Sgdが入力されることで、その直前に最小振動検出値保存部53より入力されていた今回最小振動検出値Vid11を新たにラッチし、これを新たな前回最小振動検出値Vid10として出力するものであり、こうした動作を繰り返し行うようになっている。すなわち、前回最小振動検出値保存部54とは、直前の1周期よりも1つ前の1周期内における振動検出信号Vidの負側のピーク値を前回最小振動検出値Vid10として、1周期の間継続して出力するものといえる。
減算器55は、最小振動検出値保存部53より得られる今回最小振動検出値Vid11と、前回最小振動検出値保存部54より得られる前回最小振動検出値Vid10との差分を生成し、最小振動差分ΔVid1として出力するものである。
絶対値回路56は、入力された最小振動差分ΔVid1の絶対値をとり、最小振動差分絶対値|ΔVid1|として出力するものである。
上記のように今回最小振動検出値Vid11及び前回最小振動検出値Vid10を生成するため、最小振動検出値出力部52、最小振動検出値保存部53及び前回最小振動検出値保存部54が設けられていることと同様に、今回最大振動検出値Vid21及び前回最大振動検出値Vid20を生成するため、最大振動検出値出力部62、最大振動検出値保存部63及び前回最大振動検出値保存部64が設けられている。
図8は、最大振動検出値出力部62の構成を詳細に示すとともに、その機能を説明するための図である。
最大振動検出値出力部62は、比較最大値保存部62aと比較回路62bより構成されている。最大振動検出値出力部62は、上述した最小振動検出値出力部52(図7参照)と同様の機能を備えているものの、この最小振動検出値出力部52との間では、立下りエッジ検出信号Sgdに代わって立上りエッジ検出信号Sguが比較最大値保存部62aのリセット部CLRに入力される点、及び、比較回路62bが、比較最大値保存部62aの出力部OUTより得られた信号と、振動検出信号Vidとを比較して、両者のうち大きいほうを最大振動検出値Vid2として出力するようになっている点で異なっている。
そのため、最大振動検出値出力部62は次のような動作を行う。まず、立上りエッジ検出信号Sguが入力されたタイミングでリセットされ、その際には振動検出信号Vidがゼロとなっていることから、最大振動検出値Vid1もゼロになる。そして、これより半周期の間、振動検出信号Vidはゼロよりも小さな値となるため、最大振動検出値Vid2の更新はなされずゼロの状態を保つ。振動検出信号Vidが、正の値となり増大している間は、振動検出信号Vidの値によって最大振動検出値Vid2は更新を続ける。やがて、正側のピーク値をとり減小に転じた場合には、最大振動検出値Vid2は振動検出信号Vidの正側のピーク値を維持したままとなる。さらに、立上りエッジ検出信号Sguが入力されることで、最大振動検出値Vid2はリセットされ、上記と同じ動作を繰り返す。
再度図5に戻って、最大振動検出値保存部63は、電圧指令変化判別部51より得られる立上りエッジ検出信号Sguと、最大振動検出値出力部62より得られる最大振動検出値Vid2とを入力され、振動の検出を行ったその1周期内における最大振動検出値Vid2を今回最大振動検出値Vid21として出力するものである。具体的には、最大振動検出値保存部63は、最小振動検出値保存部53とは逆に、直前の1周期内における振動検出信号Vidの正側のピーク値を今回最大振動検出値Vid21として、1周期の間継続して出力する。
また、前回最大振動検出値保存部64は、電圧指令変化判別部51より得られる立上りエッジ検出信号Sguと、最大振動検出値保存部63より得られる今回最大振動検出値Vid21とを入力され、振動の検出を行ったその前の1周期内における最大振動検出値Vid2を前回最小振動検出値Vid20として出力するものである。具体的には、前回最大振動検出値保存部64は、前回最小振動検出値保存部54とは逆に、直前の1周期よりも1つ前の1周期内における振動検出信号Vidの正側のピーク値を前回最大振動検出値Vid20として、1周期の間継続して出力する。
さらに、減算器65によって、最大振動検出値保存部63より得られる今回最大振動検出値Vid21と、前回最大振動検出値保存部64より得られる前回最小振動検出値Vid20との差分が生成され、最大振動差分ΔVid2として出力される。
そして、絶対値回路66によって、最大振動差分ΔVid2の絶対値がとられ、最大振動差分絶対値|ΔVid2|として出力される。
振動安定判別部57は、上記2つの絶対値回路56,66より入力される最小振動差分絶対値|ΔVid1|及び最大振動差分絶対値|ΔVid2|と、記憶部42(図2参照)より得られる振動安定基準値Visとを基に、振動検出信号Vidが安定状態であるか否かを判別し、安定状態である場合に安定判別信号としての振動安定検出信号Sgsを出力するものである。
図9は、振動安定判別部57の構成をさらに詳細に説明するブロック図である。振動安定判別部57は、2つの比較回路71,73と、2つのラッチ回路72,74、及びアンド回路75とから構成される。
比較回路71では、最小振動差分絶対値|ΔVid1|と振動安定基準値Visとの比較が行われ、最小振動差分絶対値|ΔVid1|が振動安定基準値Visよりも小さい場合に、ラッチ回路72に向けて信号の出力を行う。ラッチ回路72では、比較回路71からの入力が得られている状態で、立上りエッジ検出信号Sguの入力がなされることで、比較回路71からの信号がラッチされ、最小振動安定検出信号Sg1として出力される。
同様に、比較回路73では、最大振動差分絶対値|ΔVid2|と振動安定基準値Visとの比較が行われ、最大振動差分絶対値|ΔVid2|が振動安定基準値Visよりも小さい場合に、ラッチ回路74に向けて信号の出力を行う。ラッチ回路74では、比較回路73からの入力が得られている状態で、立下りエッジ検出信号Sgdの入力がなされることで、比較回路73からの信号がラッチされ、最大振動安定検出信号Sg2として出力される。
アンド回路75はラッチ回路72,74が接続されており、ラッチ回路72からの最小振動安定検出信号Sg1、及びラッチ回路74からの最大振動安定検出信号Sg2がともに入力されることで、振動安定検出信号Sgsを出力する。
この振動安定検出信号Sgsが出力されることは、振動検出信号Vidの正側のピーク値及び負側のピーク値の変化がともに十分に小さくなり、振動検出信号Vidが安定した状態になっていることを示している。
図10は、図9に示した振動安定判別部57によって振動安定検出信号Sgsが得られるまでの各信号の変化を模式的に表したものである。以下、図9を参照しながら、図10を用いて、振動安定検出信号Sgsが得られるまでの流れを再度説明する。
振動検出信号Vidは、半周期T1,T2,T3...毎に正負を反転しながら徐々に振幅が大きくなり、やがて振幅がほぼ同じ安定状態となる。ここで、半周期T1内における負側のピーク値を仮に−10という無次元量で表し、次の半周期T2内における正側のピーク値を20、半周期T3内での負側のピーク値を−30として表す。さらに、以後の半周期T4,T5,T6...では、正側のピーク値が40、負側のピーク値が−40と一定値になるものとする。
上述したように、振動検出信号Vidに対して駆動電圧指令Vcは位相が約90°ずれていることから、半周期T3,T5,T7...の最初に立上りエッジ検出信号Sguが出力され、半周期T2,T4,T6...の最初に立下り検出信号Sgdが出力される。
そこで、最小振動検出値Vid1に着目すると、立下りエッジ検出信号Sgdが出力される度にリセットが行われながら、振動検出信号Vidの最小値を保持する動作を行う。さらに、立下りエッジ検出信号Sgdが出力されることで、その直前における最小振動検出値Vid1を、今回最小振動検出値Vid11として1周期に亘って保持する。具体的には、半周期T2〜T3,T4〜T5,T6〜T7,T8〜では今回最小振動検出値Vid11はそれぞれ−10,−30,−40,−40と変化し、前回最小振動検出値Vid10はそれぞれ1周期分ずつずれが生じ、0,−10,−30,−40と変化する。この際、最小振動差分ΔVid1は−10,−20,−10,0と変化し、最小振動差分絶対値|ΔVid1|は、10,20,10,0と変化する。
ここで、正常振動基準値Visを無次元量1としていた場合、半周期T8以降において、最小振動差分絶対値|ΔVid1|が正常振動基準値Vis(=1)よりも小さくなり、その後に出力される立上りエッジ検出信号Sguに合わせ、半周期T9以降において最小振動安定検出信号Sg1が出力される。
同様に、最大振動検出値Vid2に着目すると、立上りエッジ検出信号Sguが出力される度にリセットが行われながら、振動検出信号Vidの最大値を保持する動作を行う。さらに、立上りエッジ検出信号Sguが出力されることで、その直前における最大振動検出値Vid2を、今回最大振動検出値Vid21として1周期に亘って保持する。具体的には、半周期T3〜T4,T5〜T6,T7〜T8,T9〜では今回最大振動検出値Vid21はそれぞれ20,40,40,40と変化し、前回最大振動検出値Vid20はそれぞれ1周期分ずつずれが生じ、0,20,40,40と変化する。この際、最大振動差分ΔVid2及び最小振動差分絶対値|ΔVid2|は20,20,0,0と変化する。
そして、半周期T7以降において、最大振動差分絶対値|ΔVid2|が正常振動基準値Vis(=1)よりも小さくなり、その後に出力される立下りエッジ検出信号Sgdに合わせ、半周期T8以降において最大振動安定検出信号Sg2が出力される。
さらに、半周期T9以降において、最小振動安定検出信号Sg1及び最大振動安定検出信号Sg2がともに出力された状態となるため、振動安定検出信号Sgsが出力される。
なお、振動検出信号Vidの出力が開始されてから、最初の立下りエッジ検出信号Sgdや立上りエッジ検出信号Sguが得られるまでの間、ラッチ回路72,74には、振動検出以前の値がラッチされている可能性が有り、その内容によっては、即座に振動安定検出信号Sgsが出力される可能性がある。これを回避するために、故障診断モードの実行開始時又は終了時にラッチ回路72,74の内容をクリアするとともに、比較回路71,73よりラッチ回路72,74への入力がなされないようにすることが好適である。もちろん、2回目の立下りエッジ検出信号Sgd及び立上りエッジ検出信号Sguが得られるまでの間、アンド回路75より振動安定検出信号Sgsが出力されないようにマスクしても良い。
上記のように構成されることにより、振動安定判別部57は、振動検出信号Vidが安定化したことを判別して直ぐに振動安定検出信号Sgsを発するため、余計な時間の経過を要することなく短時間で診断が可能なタイミングを通知することが可能となっている。
図5に戻って、振動故障検出部58には、最小振動検出値保存部53により得られる今回最小振動検出値Vid11、最大振動検出値保存部63により得られる今回最大振動検出値Vid21、振動安定判別部57により得られる振動安定検出信号Sgsが入力され
、さらには記憶部42に記憶された正常振動基準値Vitが入力されるようになっている。そして、振動故障検出部58は、振動安定判別部57より振動安定検出信号Sgsが入力されている際に、今回最小振動検出値Vid11及び今回最大振動検出値Vid21のそれぞれと正常振動基準値Vitとの比較を行い、今回最小振動検出値Vid11及び今回最大振動検出値Vid21の絶対値の少なくともいずれか一方が正常振動基準値Vitよりも小さい場合に振動故障検出信号Sbvを出力する。
すなわち、振動故障検出部58は、アクチュエータ13(図2参照)に向けて駆動電圧指令Vcの出力が開始されてから、振動安定判別部57によって振動が安定化した状態を通知するための振動安定検出信号Sgsを得て、直ぐに振動検出信号Vidの評価を行うことになるため、振動検出信号Vidが十分に大きくなった状態で診断を行うことができ、エネルギ削減を図ることが可能となるとともに、診断を行うまでの時間を短かくすることができる。
この振動故障検出信号Sbvが出力される場合には、アクチュエータ13の動作不良や、振動検出に関連する部位に故障があると判断し得る。また、アクチュエータ13の動作不良は、駆動電圧Vpの生成に関連する部位や配線等に不具合がある場合、アクチュエータ13自身に機械的あるいは電気的な故障がある場合等、この制振システム1を構成する要素の何れかに不具合があることで生じ得ると考えられる。そのため、振動故障検出信号Sbvが出力されるということは、制振システム1の構成要素の何れかの部位に故障があるか、振動検出に関連する部位に故障があると診断することに繋がり、振動故障検出信号Sbvが出力されないということは制振システム1に故障がないと診断することに繋がる。
図11は、電流故障診断部45(図2参照)の詳細な構成を示すブロック図である。この図で示されるように、電流故障診断部45は、電圧指令変化判別部81、最小電流検出値出力部82、最小電流検出値保存部83、最大電流検出値出力部84、最大電流検出値保存部85、及び電流故障検出部86より構成されている。
電圧指令変化判別部81は、上述した電流指令変化判別部51(図6参照)と同じ機能を持ち、駆動電圧指令Vcの変化に応じて、立上りエッジ検出信号Sgu及び立下りエッジ検出信号Sgdを出力する。
最小電流検出値出力部82は、上述した最小振動検出値出力部52(図7参照)と同様の構成を備え、振動検出信号Vidに代わり電流検出信号Idを入力信号としており、立下りエッジ検出信号Sgdが入力されることでリセットがなされ、次に立下りエッジ検出信号Sgdが入力されるまでの間に得られる電流検出信号Idの最小値を最小電流検出値Id1として出力するものとなっている。
さらに、最小電流検出値保存部83は、上述した最小振動検出値保存部53(図5参照)と同様に構成されており、立下りエッジ検出信号Sgdが入力されることで、その直前に最小電流検出値出力部82より入力されていた最小電流検出値Id1をラッチし、これを最小電流保存値Id1sとして出力するものである。
また、最大電流検出値出力部84は、上述した最大振動検出値出力部62(図8参照)と同様に構成されており、立上りエッジ検出信号Sguが入力されることでリセットがなされ、次に立上りエッジ検出信号Sguが入力されるまでの間に得られる電流検出信号Idの最大値を最大電流検出値Id2として出力するものとなっている。
さらに、最小電流検出値保存部85は、上述した最大振動検出値保存部63(図5参照)と同様に構成されており、立上りエッジ検出信号Sguが入力されることで、その直前に最大電流検出値出力部84より入力されていた最大電流検出値Id2をラッチし、これを最大電流保存値Id2sとして出力するものである。
電流故障検出部86には、最小電流検出値保存部83により得られる最小電流保存値Id1s、及び最大電流検出値保存部85により得られる最大電流保存値Id2sが入力され、さらには記憶部42に記憶された正常電流基準値Itが入力されるようになっている。そして、電流故障検出部86は、最小電流保存値Id1s及び最大電流保存値Id2sのそれぞれと正常電流基準値Itとの比較を行い、最小電流保存値Id1s及び最大電流保存値Id2sの少なくともいずれか一方が正常電流基準値Itよりも小さい場合に、電流故障検出信号Sbiを出力する。
この電流故障検出信号Sbiが出力される場合には、アクチュエータ13に供給する駆動電圧Vpの生成又は電流検出に関連する部位に故障があると判別し得る。なお、これらの故障には、関連する部位の配線不良等も含む。上述したように振動故障検出信号Sbvを得るだけで、ほぼ制振システム1が正常か否かという点に関する診断はできるものの、この振動故障検出信号Sbvに加えて、電流故障検出信号Sbiの出力を得ることで、故障と診断される場合であっても、より具体的な故障箇所の特定を容易に行うことが可能となる。
上記のような振動故障診断部44及び電流故障診断部45を用いた故障診断は、運転モード設定部41が故障診断モードに設定され、診断用電圧指令生成部43Bにより生成された診断用駆動電圧指令Vctを駆動電圧指令Vcとして出力することにより実行されるようになっている。この故障診断は、制振システム1を組み込んで車両を組み上げた段階で検査の1つとして行うことや、車検等の定期検査の際に実行することが考えられる。もちろん、適正な制振効果が得られていないなど制振システム1の機能が疑われる場合においても適宜のタイミングで実行することができ、何れの場合においても加速度センサ14やアクチュエータ13などの要素機器を取り外すことなく簡単に故障診断を実行することができる。
以上のように、本実施形態における制振システム1は、フレーム11に取り付けられる加振手段としてのアクチュエータ13と、フレーム11を通じて参照点Prefに表れる振動を検出して振動検出信号Vidを出力する振動検出手段Mvと、アクチュエータ13の制御を行う制御手段31とを備えるものであって、制御手段31は、アクチュエータ13を駆動させるための駆動電圧指令Vcを生成する電圧指令生成部43と、振動検出手段Mvによる振動検出信号Vidに基づいて故障の有無を診断する振動故障診断部44とを備え、振動を抑制するための制御を行う通常モードを実行するにあたって、電圧指令生成部43が振動検出信号Vidに基づいて駆動電圧指令Vcを生成し、この駆動電圧指令Vcに応じた加振力をアクチュエータ13に発生させ、故障診断のための制御を行う故障診断モードを実行するにあたって、電圧指令生成部43がフレーム11の共振周波数と同一又はこの共振周波数に近い所定の周波数に予め設定された診断周波数Fcに対応する駆動電圧指令Vcを生成し、駆動電圧指令Vcに応じた加振力をアクチュエータ13に発生させるとともに、振動故障診断部44により振動検出信号Vidに基づいて故障の有無の診断を行わせるように構成したものである。
このように構成しているため、通常モードにおいて、電圧指令生成部43が振動検出手段Mvにより得られる振動検出信号Vidに基づいて駆動電圧指令Vcを生成し、これに応じた加振力をアクチュエータ13に発生させることで適切に振動を抑制できる。他方、故障診断モードにおいては、電圧指令生成部43により、フレーム11の共振周波数と同一又はこの共振周波数に近い所定の周波数に設定された診断周波数Fcに対応する駆動電圧指令Vcを生成して、フレーム11の共振周波数と同一又はこれに近い周波数でアクチュエータ13を動作させることによって、少ないエネルギでありながら共振現象を利用して参照点Prefに大きな振動を生じさせることができる。そのため、振動検出手段Mvにおいて大きな振動検出信号Vidを得ることができることから、制振システム1を構成する加速度センサ14やアクチュエータ13等の要素機器を取り外すことなく、振動検出信号Vidに基づいて振動故障診断部44における故障の有無の診断をより正確に行うことが可能となる。さらに、フレーム11を大きく振動させることで速やかに故障の有無の診断を行うこともできるため、故障診断に要する作業時間の短縮を図ることも可能となる。
そして、振動故障診断部44が、振動検出信号Vidが安定状態にあることを判別して安定判別信号としての振動安定検出信号Sgsを出力する振動安定判別部57と、予め定められた正常振動基準値Vitと振動検出信号Vidとの比較を行い、振動検出信号Vidのほうが正常振動基準値Vitよりも小さい場合に振動故障検出信号Sbvを出力する振動故障検出部58とを備えており、振動故障検出部58は、アクチュエータ13に向けた駆動電圧指令Vcの出力が開始され、さらに振動安定判別部57より振動安定検出信号Sgsを入力された場合に、正常振動基準値Vitと振動検出信号Vidとの比較を行うように構成されているため、振動安定判別部57により振動が安定化したと判別され、振動安定検出信号Sgsが出力されてから振動故障検出部58によって振動検出信号Vidと正常振動基準値Vitとの比較を行い、振動故障検出信号Sbvの出力の有無を通じて故障の有無の診断が行われるようにすることで、より少ないエネルギで大きな振動検出信号Vidを得て、より正確に故障の有無の診断を行うことが可能となる。また、振動が安定化してから速やかに故障の有無の診断を行うことができるため、余計な時間経過を要することなく短時間で正確な診断を行うことも可能となる。
さらに、振動安定判別部57は、振動検出信号Vidにおける1周期内のピーク値である今回最小振動検出値Vid11・今回最大振動検出値Vid21と、その前の1周期内のピーク値である前回最小振動検出値Vid10・前回最大振動検出値Vid20との差が予め定められた振動安定基準値Visより小さくなった場合に、振動検出信号Vidが安定状態にあると判別して振動安定検出信号Sgsを出力するように構成されているため、振動検出信号Vidが安定状態になったこと、すなわち振動が安定化したことを簡単、且つ、迅速に判別することが可能となる。
また、アクチュエータ13に供給される駆動電流を検出して電流検出信号Idを出力する電流検出手段Miが設けられており、制御手段31は、電流検出手段Miによる電流検出信号Idに基づいて故障の有無を診断する電流故障診断部45を備えるように構成されていることから、アクチュエータ13を動作させるための駆動電流が適切に供給されているか否かを診断することで、振動故障診断部44とともに2つのタイプの故障診断を行うことができるため、故障があると診断される場合において、具体的な故障箇所の特定をしやすくすることができる。
また、車両本体の少なくとも一部を構成するフレーム11を含んで制振システム1を構成することで、適切に振動を抑制できる上に、制振システム1の故障診断を容易且つ短時間で行うことのできる車両を構成することが可能となる。
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
例えば、上述の実施形態では、診断周波数Fcをフレーム11の共振周波数と同一又はこれに近い周波数に設定していたが、これに代えて、アクチュエータ13の共振周波数と同一又はこれに近い所定の周波数を診断周波数Fcとしても良い。この場合においても、少ないエネルギでアクチュエータ13に大きな振動を生じさせ、フレーム11に大きな加振力を与えることができるため、参照点Prefにおいて大きな振動を得ることができ、上記と同様の効果を得ることが可能である。
また、上述の実施形態では、参照点Prefにおける振動を相殺するために、これと逆位相となる相殺振動を参照点Prefに与えるべくアクチュエータ13の制御を行うようにしていたが、これとは異なる制御方式を有するものにおいても本発明は有効に利用することができる。具体的には、エンジンなどの振動源12より得られる駆動信号パルスを基に基準周波数を設定してこの周波数に基づいて駆動電圧指令を生成するもの、アクチュエータ13を駆動するための駆動電圧指令Vcを適応制御アルゴリズムによって生成するもの、あるいは、アクチュエータ13を能動型動吸振器として使用するべくフレーム11との相対変位および相対速度に応じた加振力を生じさせるべく駆動電圧指令Vcを生成するものなどであっても、上記と同様に本発明を利用することが可能である。
さらに、上述の実施形態では、最小振動検出値Vid1の検出を2つの立下りエッジ検出信号Sgd,Sgd間における1周期内で行うようにしていたが、最小振動検出値Vid1の検出を立上りエッジ検出信号Sguが得られてから立下りエッジ検出信号Sgdが得られるまでの半周期の間でのみ行うようにしても良い。こうすることで、配線が誤って正負を逆に繋げられている場合には、最小振動検出値Vid1を得ることができず、容易に配線の誤りを見つけ出すことができる。同様に、最大振動検出値Vid2の検出を立下りエッジ検出信号Sgdが得られてから立上りエッジ検出信号Sguが得られるまでの間のみで行うようにしても良い。
また、上述の実施形態では、振動故障診断部44において、振動検出信号Vidの1周期内の負側のピーク値及び正側のピーク値である今回最小振動検出値Vid11及び今回最大振動検出値Vid21と、その1周期前の負側のピーク値及び正側のピーク値である前回最小振動検出値Vid10及び前回最大振動検出値Vid20との差分の絶対値を生成し、これらが振動安定基準値Visよりも小さいことで振動が安定となったことを判別し、振動安定判別部57より振動安定検出信号Sgsを出力するようにしていたが、このように1周期毎のピーク値の変化量を基に振動の安定を判別することに代えて、2周期、3周期おきなど、離間する複数の周期間でのピーク値の変化量を基に振動の安定を判別するように構成することもできる。
さらには、振動が安定化するまでに要する時間又は周期数が経験上分かっている場合には、診断開始よりこうした時間又は周期数が経過することによって、振動安定検出信号Sgsに代わる安定判別信号を出力するようにしても良い。
逆に、フレーム11の支持構造にゴム等の経年劣化が想定される部材を使用しており、こうした原因によって振動が安定化するまでに要する時間又は周期数が経年で大きく変化する場合には、駆動動電圧指令Vcの出力が開始されてから振動安定検出信号Sgsまでの時間をカウントして記録する機能を設けて良い。こうすることで、その記録を見ることにより減衰要素の変化を把握し、故障予知や部品の交換時期などの予測に用いることもできる。
また、上述の実施形態では、加速度センサ14を取り付ける参照点Prefを、フレーム11上の一箇所に設定していたが、この参照点Prefは制振対象である車両の何れの箇所であっても設定することができる。例えば、車両のシートや、ダッシュボード、あるいはハンドル等に設定してもよい。このような場合においても、アクチュエータ13による加振力はフレーム11を通じて、参照点Prefに伝達されることに変わりは無く、上記と同様に制振システム1を構成することができる。
さらに、この制振システム1は、車両のみではなく振動源を備える種々様々な機器においても、上記と同様、好適に用いることができ、その場合においても制振対象となる機器の少なくとも一部を構成するフレーム11にアクチュエータ13を設け、このフレーム11を通じて振動が伝達される箇所に適宜参照点Prefを設定すれば良い。
また、駆動電圧Vpを供給されることで加振力を発するものであれば、上述したアクチュエータ13に代えて、異なる構造の加振手段を用いることも可能である。
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。