以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
[第一実施例]
まず、図1および図2を用いて、本実施形態に係る熱処理装置100の全体構成について説明する。ここで、図1は、本実施形態に係る熱処理装置の全体の構成例を示す図である。そして、図2は、本実施形態に係る熱処理装置のテーブルおよび熱処理加工部移動機構を説明するための図であり、図中の分図(a)は、本実施形態に係る熱処理装置のテーブルの平面図であり、図中の分図(b)は、本実施形態に係る熱処理装置のテーブルおよび熱処理加工部移動機構の側面図である。
図1および図2に示すように、本実施形態に係る熱処理装置100は、環状のワークWを載置可能なテーブル11と、ワークWの周面を熱処理加工するための2個の熱処理加工部20(20a,20b)と、を有して構成される。
ワークWは、熱処理加工が施される加工材料である。本実施形態におけるワークWは、例えば、旋回軸受を構成する外輪や内輪などであり、断面視が略台形状もしくは略矩形状となっている。そして、このワークWについては、例えば、旋回軸受の転動体転走面となる周面に対して熱処理加工が行われることとすることができる。
テーブル11は、ワークWを載置することができるものであり、本実施形態に係るテーブル11は、図2の分図(a)に示すように、平面視略円形状となっている。そして、ワークWを電動のクレーン17によってテーブル11上に載置し、固定することで、熱処理加工を行うことができる状態とすることが可能となっている。本実施形態に係るクレーン17は、I形鋼に引っ掛けられて構成されているが、クレーン17はワークWを水平方向および垂直方向に移動させることができるものであれば良い。
そして、テーブル11は、テーブル11などの基礎となるベース13上に設置される回転部15によってテーブル11の中心を回転中心軸として回転することができるようになっている。
図1に示すように、回転部15は、モータ12からの回転駆動を伝達するギアを介してモータ12と接続される。回転部15の周りには、軸受14を介して固定ケーシング16が設置される。この固定ケーシング16は、基礎となるベース13に対して固定設置される。
そして、図1および図2に示すように、回転部15上にテーブル11が、回転部15と回転中心が一致した状態となるように固定設置される。
モータ12からの回転駆動力はギアによって伝達され、回転部15が回転することとなる。そして、回転部15に固定設置されたテーブル11も回転部15が回転することによって回転することとなる。
テーブル11上には、ワークWを取り付けるためのクランプ機構19が設置され、クランプ機構19によってワークWをテーブル11上に取り付けることができるようになっている。
クランプ機構19には、例えば運動案内装置などが備えられ、クランプ機構19は、環状のワークWの直径などに合わせて伸縮することができるように構成されている。図2の分図(a)に示すように、本実施形態に係る熱処理装置100は、例えば、最小直径1500mmのワークWminから最大直径3100mmのワークWmaxに対応し、ワークWminやワークmaxをテーブル11の上に載置するとともに固定し、ワークWminやワークmaxの周面に対して熱処理加工をすることができるようになっている。
以上の構成により、クランプ機構19により固定されたテーブル11上のワークWは、テーブル11の中心(すなわち、ワークWの中心)を回転中心軸として回転することができるようになっている(ただし、本実施形態では、熱処理加工を行う際にテーブル11は回転させず、固定された状態としている。)。
また、図1および図2に示すように、本実施形態に係る熱処理装置100は、ワークWの周面を熱処理加工するための熱処理加工部20を2個有して構成される。
そして、図4に示すように、2個の熱処理加工部20(20a,20b)は、それぞれワークWを加熱するための加熱コイル21(21a,21b)と、ワークWを冷却するための冷却水放出部23(23a,23b)を備えている。
加熱コイル21は、ワークWの周面に対して対向配置可能となるように構成される。そして、加熱コイル21は、ワークWの周面を加熱することができるようになっている。図1および図2では、加熱コイル21の形状は、その先端が断面視三角形状に形成されている。このような形状を有する加熱コイル21は、例えば、断面視略くの字形状の切欠きを有する略矩形状のワークWを加熱することができるようになっている(図8参照)。
そして、加熱コイル21は、加熱コイル取付部27に対して、取付けおよび取外しが可能な構成になっている。したがって、本実施形態に係る熱処理装置100によれば、加熱コイル21を取り替えるだけで、環状のワークWの外周側や内周側など、ワークWのあらゆる箇所を熱処理加工することができるとともに、種々の形状を有するワークWの熱処理加工を行うことができるようになっている。
冷却水放出部23は、ワークWを冷却するためのものである。冷却水放出部23は、例えば加熱コイル21に併設されるとともに、その側面またはワークWに対向する面に冷却水を放出するための孔が複数形成され、冷却水を放出することができるように構成されることとすることができる。
さらに、本実施形態に係る熱処理装置100は、熱処理加工部20をワークWの焼終り箇所から退避させた後にワークWを冷却するための冷却装置26が、ワークWの焼終り箇所となるテーブル11上に固定設置される(図4参照)。この冷却装置26は、例えば、旋回軸受の外輪や内輪となるワークWと対向して設置され、ワークWと対向する面に複数の孔を開けて、冷却水を放出することができるようにすることができる。
本実施形態に係る熱処理装置100は、加熱コイル21と冷却水放出部23とによって、ワークWの昇温および冷却を行った後、冷却装置26により更に冷却を行い、例えば焼入れなどの熱処理加工をワークWに対して行うことができるようになっている。
熱処理加工部20は、図1に示すように、テーブル11に対して相対的に旋回移動が可能な旋回アーム30によって保持されるように構成される。
旋回アーム30は、図1に示すように、旋回アーム30の上側を構成する上側アーム31と、旋回アーム30の下側を構成する下側アーム33と、上側アーム31と下側アーム33とをつなぐ垂直アーム32と、から構成され、外観が側面視で略コの字形状となっている。旋回アーム30は、テーブル11に対して相対的に旋回移動が可能なものであり、モータ35とタイミングベルト等を介して接続されることで、モータ35からの伝動により回転可能となっている。
旋回アーム30が有する下側アーム33の上には、後述するトランス41などを介して熱処理加工部20が設置される。旋回アーム30がテーブル11に対して相対的に旋回移動すると、旋回アーム30に含まれる下側アーム33上に設置された熱処理加工部20も旋回移動することとなる。したがって、この旋回アーム30により、熱処理加工部20は、環状のワークWの周面に沿って移動することができるようになり、ワークWの周面の全周に対して熱処理加工を行うことができるようになっている。
下側アーム33は、図2の分図(b)に示すように、軸受34を介して固定ケーシング16に旋回可能な状態で設置される。そして、下側アーム33を含む旋回アーム30は、回転部15(すなわち、テーブル11)とは別々に回転をすることができるようになっている。すなわち、回転部15が回転していても、下側アーム33を含む旋回アーム30は停止していることができるようになっている。また、回転部15が回転していなくても、下側アーム33を含む旋回アーム30は、回転することができるようになっている。なお、図1にて示されるように、本実施形態に係る熱処理装置100では、回転部15(すなわち、テーブル11)は、モータ12からの伝動により回転し、下側アーム33を含む旋回アーム30は、モータ35からの伝動により回転する構成となっている。
そして、下側アーム33の上方には、トランス支持部43が設置される。トランス支持部43は、トランス41を支持するためのものである。
トランス支持部43上に設置されるトランス41には、不図示の電源から電力が供給される。図1および図2に示すように、トランス41には、加熱コイル21を取り付けるための加熱コイル取付部27を介して加熱コイル21が設置される。そして、トランス41は、加熱コイル21に流れる電流を調整することができるようになっている。
また、本実施形態に係る熱処理装置100は、図1に示すように、熱処理加工部20が隣り合う熱処理加工部20と協働してワークWの周面を継ぎ目なく一様に熱処理加工することができるように、2個の熱処理加工部20を旋回アーム30に対して移動可能とする熱処理加工部移動機構50を備えて構成される。
以上、本実施形態に係る熱処理装置100の全体構成について、説明した。次に、本実施形態に係る熱処理加工部移動機構50について、図1〜図7を用いて、説明する。ここで、図3は、本実施形態に係る熱処理加工部移動機構の拡大図である。また、図4は、本実施形態に係る熱処理装置の基本的な動作例を示す概略図であり、図中の分図(a)が焼入れを開始する位置(焼始め)の状態を示す概略図であり、図中の分図(b)が焼始めと焼入れを終了する位置(焼終り)との間の状態を示す概略図であり、図中の分図(c)および分図(d)が焼終りの状態を示す概略図である。そして、図5は、従来の熱処理装置の加熱コイルおよびトランスを示す概略図である。また、図6は、本実施形態に係る周方向移動機構を示す概略図であり、図中の分図(a)は、本実施形態に係る周方向移動機構の断面図であり、図中の分図(b)は、本実施形態に係る周方向移動機構の斜視図である。さらに、図7は、本実施形態に係る加熱コイルおよびトランスの周方向の移動を説明するための概略図である。なお、図5において、実線で示すトランス41a,41b上に実線で示す旋回アーム30a’,30b’が現されているとともに破線で示すトランス41a,41b上に破線で示す旋回アーム30a’’,30b’’が現されているが、これは説明の便宜のためのものであり、実際には、旋回アーム30の上方にトランス41が設置されている。
熱処理加工部移動機構50は、熱処理加工部20が隣り合う熱処理加工部20と互いに隙間なく隣接可能となるように熱処理加工部20を移動可能とするものである。本実施形態に係る熱処理加工部移動機構50は、熱処理加工部20をワークWの径方向に移動可能とする径方向移動機構51と、熱処理加工部20をワークWの周方向に移動可能とする周方向移動機構52と、から構成される。
本実施形態に係る径方向移動機構51は、図3に示すように、運動案内装置を用いることができ、例えば、リニアガイドの軌道部材としての軌道レール45と、リニアガイドの移動部材としての移動ブロック47とから構成される。そして、軌道レール45および移動ブロック47は、上述したトランス支持部43の下部に組み込まれて設置されることとすることができる。また、本実施形態に係る径方向移動機構51は、軌道レール45を可動側とし、移動ブロック47を固定側として形成されている。
ここで、軌道レール45の外面には、転動体としてのボールが転走するボール転走溝が複数条形成されている。そして、軌道レール45と複数のボールを介して軌道レール45のボール転走溝に対向するボール転走路を内面に複数条有する移動ブロック47が配置される。
そして、移動ブロック47の内側には、複数のボールが負荷を受けて転走する負荷ボール転走路が形成される。この負荷ボール転走路の両端には一対の方向転換路が形成され、さらに、一対の方向転換路をつなぐとともにボールが無負荷の状態で転走する無負荷ボール転走路が形成される。このような構成により、複数のボールが負荷ボール転走路、一対の方向転換路および無負荷ボール転走路によって構成される転動体転走路内を無限に循環することができるようになっている。
移動ブロック47は固定設置されているので、軌道レール45に対して軸方向に外力が加わると、複数のボールが移動ブロック47に形成された転動体転走路内を転走することによって、軌道レール45が、その外面に形成されたボール転走溝の形成方向に沿って案内されて移動することとなる。したがって、軌道レール45は、軌道レール45の軸方向、すなわち、ワークWの径方向への直線運動が可能となる。
図3に示すように、軌道レール45は、不図示の駆動源(例えば、電源や油圧源など)に接続されたシリンダ46の先端に設置される。そして、不図示の駆動源からの駆動力により、シリンダ46の内部に設置される不図示のピストンが往復運動することによって、シリンダ46の先端部に設置された軌道レール45は、ワークWの径方向に移動することができるようになっている。なお、シリンダ46は、トランス支持部43のベースとなるとともにワークWの径方向には移動しないトランス支持台44に設置されており、シリンダ46の本体部もワークWの径方向には移動しないようになっている。
さらに、軌道レール45を組み込んで形成されるトランス支持部43上には、トランス41を介して熱処理加工部20が設置されている。したがって、移動ブロック47を固定側として、軌道レール45が、軌道レール45の軸方向、すなわちワークWの径方向に移動すると、軌道レール45が組み込まれて形成されたトランス支持部43上に設置される熱処理加工部20も、ワークWの径方向に移動することができることとなる。
すなわち、本実施形態に係る熱処理装置100において、径方向移動機構51によりワークWの径方向に移動することができるのは、シリンダ46のピストンと、シリンダ46の先端部に設置された軌道レール45と、トランス支持部43のトランス支持台44を除いた部分と、トランス支持部43上に設置されるトランス41や熱処理加工部20などとなる。
このような構成により、本実施形態に係る熱処理装置100は、種々の直径を有するワークWに対して熱処理加工を適切に行うことができる所定の位置に熱処理加工部20を移動させることができるようになっている。したがって、例えば、ワークWに対して熱処理加工を開始するときに、ワークWの直径に合わせて加熱コイル21が適切な位置に配置されるように、径方向移動機構51を用いることで、加熱コイル21を含む熱処理加工部20をワークWの径方向に移動させることが可能となっている。
なお、図2では詳細な図示を省略したが、本実施形態では、軌道レール45の下方に対して更にもう1つ軌道レールを配置し、2つの軌道レールを用いることで、熱処理加工部20を移動させるように構成しても良い。このような軌道レール45の多段配置によって、省スペースでありながらもストロークの大きい径方向移動機構51を実現することが可能となる。そして、前述した構成の採用により、例えば、最小直径1500mmのワークWminから最大直径3100mmのワークWmaxの周面に対して所定の位置となるように、熱処理加工部20を移動させることが可能となる。
加熱コイル21を含む熱処理加工部20をワークWの径方向の好適な位置に移動させた後は、クレーン17を用いてワークWをテーブル11上に載置し、クランプ機構19によって載置されたワークWを固定する。そして、上述したように、クランプ機構19は、環状のワークWの直径などに合わせて伸縮することができるように構成されているため、ワークWの直径に合わせてテーブル11上にワークWを固定することができることとなる。
そして、クランプ機構19によって固定されたワークWの直径に合わせて、加熱コイル21を含む熱処理加工部20を、上述した径方向移動機構51によって適切な位置に移動させた後、隣り合う2個の熱処理加工部20(20a,20b)によってワークWの周面に対して熱処理加工を行うこととなる
図4の分図(a)に示すように、紙面左側の熱処理加工部20aは、ワークWの周面に沿って紙面左上方向に移動しながら、熱処理加工部20aに含まれる加熱コイル21aがワークWを加熱することとなる。そして、加熱コイル21aによって加熱されたワークWは、冷却水放出部23aによって順次冷却されることとなる。より詳しくは、熱処理加工部20aは紙面左上方向に旋回移動しながら、熱処理加工部20aと対向する面のワークWの周面を加熱コイル21aが加熱し、その後に加熱されたワークWの周面に対して、冷却水放出部23aが冷却水を放出することによって、ワークWは冷却され、熱処理加工(焼入れ)が行われることになる。
一方、紙面左側の熱処理加工部20aと同様に、図4の分図(a)に示すように、紙面右側の熱処理加工部20bは、ワークWの周面に沿って紙面右上方向に移動しながら、熱処理加工部20bに含まれる加熱コイル21bがワークWを加熱し、加熱されたワークWは、冷却水放出部23bによって順次冷却されることとなる。より詳しくは、熱処理加工部20bは紙面右上方向に旋回移動しながら、加熱コイル21bが熱処理加工部20bと対向する面のワークWの周面を加熱し、その後に加熱されたワークWに対して、冷却水放出部23bが冷却水を放出することによって、ワークWは冷却され、熱処理加工(焼入れ)が行われることになる。
このような動作により、2個の熱処理加工部20(20a,20b)は、ワークWの周面の全周にわたって熱処理加工(焼入れ)を施していくこととなる。
そして、図4の分図(b)に示すように、焼始めと焼終りとの略中間の位置に一対の熱処理加工部20(20a,20b)が移動してくると、ワークWの略半分が熱処理加工(焼入れ)されたことになる。
図4の分図(b)に示された熱処理装置100では、紙面左側の熱処理加工部20aは、ワークWの周面に沿って紙面右上方向に旋回移動しながら、熱処理加工部20aに含まれる加熱コイル21aによってワークWの周面を加熱し、加熱されたワークWは、その後に旋回移動してくる冷却水放出部23aから放出される冷却水によって順次冷却されることとなる。
また、紙面右側の熱処理加工部20bは、ワークWの周面に沿って紙面左上方向に旋回移動しながら、熱処理加工部20bに含まれる加熱コイル21bによってワークWの周面を加熱し、加熱されたワークWは、その後に旋回移動してくる冷却水放出部23bから放出される冷却水によって順次冷却されることとなる。
以上のように熱処理加工を進めることで、2個の熱処理加工部20(20a,20b)は、図4の分図(c)に示すように、互いに隣り合う位置まで移動することになる。
ここで、焼終りにおいて、2個の加熱コイル21(21a,21b)は、互いに隙間なく隣接することが好適である。2個の加熱コイル21(21a,21b)が互いに隙間なく隣接することができないと、焼終りにおいて、ワークWの昇温が適切に行えなかったり、熱処理加工においてつなぎ目のないワークWを得ることが難しかったりするためである。
焼終りにおいて、2個の加熱コイル21(21a,21b)を互いに隙間なく隣接可能とするためには、図5に示すように、種々の直径を有するワークWに応じて2個の加熱コイル21(21a,21b)の形状を変更しなければならない。
ここで、図5に示すように、2個の加熱コイル21(21a,21b)および2個のトランス41(41a,41b)の間の一点鎖線で示した中心線の軸線Cに対して、実線で示した最小直径のワークWminに応じた2個の加熱コイル21a’,21b’は、破線で示した最大直径のワークWmaxに応じた加熱コイル21a’’,21b’’よりも距離が大きくなっている。したがって、実線で示した最小直径のワークWminに応じた2個の加熱コイル21a’,21b’を、最大直径のワークWmaxに用いた場合には、実線で示した2個の加熱コイル21a’,21b’との間には隙間が生じてしまうことになる。
そこで、本実施形態に係る熱処理装置100は、特に例えば、焼終りにおいて、2個の加熱コイル21a’,21b’が互いに隙間なく隣接するように、熱処理加工部20をワークWの周方向に移動可能とする周方向移動機構52を有して構成される。そして、この周方向移動機構52によって2個の加熱コイル21a’,21b’および2個のトランス41a,41bを周方向に移動させることができるようになっている。
なお、図5に示すように、破線で示した最大直径のワークWmaxに応じた加熱コイル21a’’,21b’’が、ワークWに対して旋回移動を行い、隣り合う位置まで移動してきたときに、最初に接触が起きるのは、破線で示した2個の加熱コイル21a’’,21b’’となるため、破線で示した旋回アーム30a’’,30b’’との角度αは、破線で示した加熱コイル21a’’,21b’’の形状によって決定されることとなる。また、実線で示した最小直径のワークWminに応じた2個の加熱コイル21a’,21b’が、ワークWに対して旋回移動を行い、隣り合う位置まで移動してきたときには、最初に、実線で示した紙面左側のトランス41aと紙面右側のトランス41bとが接触することとなる。したがって、最小直径のワークWminの場合には、トランス41a,41bの厚みによって旋回アーム30a’,30b’の間の角度βが決まることとなる。
そして、周方向移動機構52には、運動案内装置を用いることができ、例えば、すべりスライドによって構成されることとすることができる。すなわち、図2の分図(b)、図3および図6に示すように、周方向移動機構52は、下側アーム33の上面に形成されるとともにトランス支持部43などを案内するための案内レール48と、トランス支持部43に含まれるトランス支持台44の下面に形成されるとともにトランス支持部43などを移動させるための移動レール49とから構成される。
案内レール48上に配置された移動レール49は、案内レール48上をスライドすることによって、図6の分図(b)の両矢印にて示すように、ワークWの周方向に移動することができるようになっている。
そして、この周方向移動機構52により、例えば、図5において実線で示した最小直径のワークWminに応じた加熱コイル21a’,21b’を、最大直径のワークWmaxに対しても共通して用いることができるようになる。
図7を用いてより具体的に説明すると、図7の二点鎖線にて示された2個の加熱コイル21a’,21b’を互いに隙間なく隣接させるためには、2個の加熱コイル21a’,21b’がその上方に設置されるトランス支持部43の下面に設置される移動レール49を案内レール48に沿って移動させればよい。すなわち、周方向移動機構52を構成する移動レール49と案内レール48を動作させることにより、二点鎖線にて示された2個の加熱コイル21a’,21b’を、図7の両矢印にて示すようにワークWの周方向に移動させることによって、図7の実線にて示すように2個の加熱コイル21a’,21b’は互いに隙間なく隣接することができるようになる。なお、本実施形態では、移動レール49が設置されるトランス支持台44を含むトランス支持部43などがワークWの周方向に移動することとなるので、トランス支持部43上に設置される2個のトランス41a,41bも、図7に示すように、ワークWの周方向に移動し、二点鎖線で示したトランス41a,41bの位置から実線で示すトランス41a,41bの位置に移動することとなる。
そして、互いに隙間なく隣接された2個の加熱コイル21a’,21b’は、ワークWをオーステナイト化する温度以上となるように適切に加熱することができることとなる。2個の加熱コイル21a’,21b’によって昇温されたワークWは、2個の冷却水放出部23(23a,23b)によって冷却された後、図4の分図(d)に示すように、2個の熱処理加工部20(20a,20b)を焼終り箇所から退避させ、焼終り箇所に固定設置された冷却装置26によって冷却され、焼終りにおけるワークWの焼入れが一様な状態で継ぎ目なく行われることとなる。
したがって、本実施形態に係る熱処理装置100は、種々の直径を有する環状のワークWに対して、一様な焼入れ品質を維持しながらも経済的な焼入れを継ぎ目なく行うことができるようになっている。
以上、本実施形態に係る熱処理加工部移動機構50について、説明した。次に、第二の実施例に係る熱処理装置120について、図8〜図10を用いて、説明する。ここで、図8は、第二の実施例に係る熱処理装置の全体の構成例を示す図である。図9は、従来の加熱コイルとワークとの位置・距離を説明するための概略図であり、図10は、第二の実施例に係る加熱コイル角度変更手段の一形態を例示する概略図である。なお、上述した実施形態と同一又は類似する構成については、同一符号を付すことで説明を省略する場合がある。
[第二実施例]
第二の実施例に係る熱処理装置120は、図8に示すように、環状のワークWを載置可能なテーブル11と、ワークWの周面を熱処理加工するための2個の熱処理加工部20(20a,20b)と、を有して構成される。
そして、2個の熱処理加工部20(20a,20b)は、それぞれワークWを加熱するための加熱コイル21(21a,21b)と、ワークWを冷却するための冷却水放出部23(23a,23b)を有して構成されることとすることができる(図4と同様)。
また、第二の実施例に係る熱処理装置120は、2個の加熱コイル21(21a,21b)と対向するワークWの周面とが所定の距離に位置するように制御する加熱コイル角度変更手段53を、2個の加熱コイル(21a,21b)それぞれに備えている。
加熱コイル角度変更手段53は、図10に示すように、加熱コイル21とワークWを隔ててワークWの周面に配置されるとともに加熱コイル21をワークWに追従させるための追従ローラ28と、加熱コイル21の回転軸となり加熱コイル21を回転させることにより加熱コイル21と対向するワークWの周面とが所定の位置・距離に位置するように加熱コイル21の角度を調整する加熱コイル角度調芯機構22と、を有して構成される。
第二の実施例に係る熱処理装置120は、焼終りにおいて2個の加熱コイル21(21a,21b)が互いに隙間なく隣接することができるように、図9および図10に示すように、加熱コイル21(21a,21b)は、ワークWの垂線に対して3.5°傾いた状態で配置される。
追従ローラ28は、図8に示すように、トランス41の上部に設置される、追従ローラ28をワークWに押圧させる追従ローラ押圧機構29を介して、加熱コイル21とワークWを隔ててワークWの周面(図8の場合は、ワークWの内周面)に配置される。そして、2個の加熱コイル21(21a,21b)を含む2個の熱処理加工部20(20a,20b)が、それぞれ旋回アーム30(30a,30b)によってワークWの周面に沿って互いに反対方向に移動しながら焼入れを行うとき、追従ローラ28(28a,28b)は、それぞれに設置される追従ローラ押圧機構29によってワークWに押圧されながら、回転軸を中心として回転することができるようになっている。この追従ローラ28によって、加熱コイル21の中心部とワークWとの距離Aは、加熱コイル21がワークWの周面のどの位置でも所定の距離となるようになっている。
ところで、図9に示すように、従来の熱処理装置では、追従ローラ28の作用によって、加熱コイル21の中心部とワークWとの距離Aについては、加熱コイル21がワークWの周面のどの位置でも所定の距離となっていた。しかしながら、加熱コイル21の移動方向の先端部とワークWとの距離Bは、加熱コイル21が移動するに従って変化するものとなっていた。すなわち、距離Bは、ワークWに対する加熱コイル21の位置によって異なる値をとるようになっていた。かかる現象発生の原因としては、追従ローラ28については、ワークWの周面を押圧しながらワークWの周面に沿って回転しながら移動するのに対して、加熱コイル21については、紙面左右方向に浮動することが考えられる。
そこで、第二の実施例に係る熱処理装置120では、追従ローラ28に加えて加熱コイル角度調芯機構22を備えることにより、加熱コイル21の中心部とワークWとの距離Aを一定に保持するとともに加熱コイル21の移動方向の先端部とワークWとの距離Bを所定の距離B’に保持することができるようにした(図9および図10参照)。
すなわち、加熱コイル角度調芯機構22は、例えば、その周りに回転軸受が配置され、図10の両矢印にて示すように、加熱コイル角度調芯機構22が回転することによって加熱コイル21も回転し、加熱コイル21の移動方向の先端部とワークWとの距離を調整することができるようになっている。
そして、図10に示すように、加熱コイル21は、加熱コイル21と対向するワークWの周面との角度が所定の角度(第二の実施例では、3.5°)となるように加熱コイル21を案内するための案内ローラ25と、加熱コイル21に案内ローラ25を設置するための案内ローラ支持部24とを有することとすることができる。
案内ローラ25は、ワークWの周面に接触し回転しながらワークWの周面に沿って移動することができるようになっている。そして、案内ローラ25がワークWに当接されることによって、加熱コイル21の角度が所定の角度(第二の実施例では、3.5°)とずれて、加熱コイル21が紙面左方向又は右方向に傾いてしまったときには、加熱コイル角度調芯機構22が作用し、加熱コイル角度調芯機構22が設置される加熱コイル21は、所定の角度(第二の実施例では、3.5°)となるようになっている。
なお、2個の加熱コイル21(21a,21b)に設置されるそれぞれの案内ローラ25は、例えば、加熱コイル21に設置される高さをそれぞれ変えることによって、隣り合う2個の加熱コイル21(21a,21b)が互いに隙間なく隣接することができるようになっている。
このような構成により、第二の実施例に係る熱処理装置120は、環状のワークの全周にわたって継ぎ目なく一様な焼入れを経済的に行うことができるようになっている。
以上、第二の実施例に係る熱処理装置120について、説明した。
なお、本実施形態に係る熱処理装置100および第二の実施例に係る熱処理装置120によって熱処理加工が施されたワークWは、例えば、旋回軸受の外輪や内輪として用いられる。図11および図12を用いて、この旋回軸受について、説明する。ここで、図11は、旋回軸受の一部断面を含む斜視図であり、図12は、旋回軸受の断面図である。
図11および図12は、旋回軸受用スペーサを組み込んだ旋回軸受を示すものであり、外輪55および内輪56のそれぞれには、略V字形の転走面55a,56aが形成され、この転走面55a,56aの間で断面略四角形、例えば略正方形状のローラ転走路57が構成されている。ローラ転走路には複数のローラ58a,58b…がその傾斜方向を互い違いに交差させながら配列・収納されている。図11中斜線で示す旋回軸受用スペーサ59(以下、スペーサという)は、この複数のローラ58a,58b…間に介在され、ローラ58a,58b…を所定の姿勢に保持している。
外輪55には、その内周に略V字形の転走面55aが形成される。V字形の開き角度は略90度に設定される。この外輪55は、一対の環状のワークWから構成され、ローラ58やスペーサ59の充填のために上下に2分割される。外輪55には、その周方向の一ヶ所に、外周から外輪転走面55aまで延びる給油孔75が形成されている。
内輪56は、外径を外輪55の内径に略合わせて、外輪55の内周側に嵌め込まれる。内輪56の外周には、外輪転走面55aに対向させて内輪転走面56aが形成される。内輪転走面56aも略V字形で、開き角度は略90度に設定される。外輪転走面55aと内輪転走面56aとで、断面略正方形状のローラ転走路57が構成される。
ローラ転走路57において、ローラ58a,58b…はスペーサ59と交互に配置されている。ローラ58a,58b…は、その高さが自らの外径よりも僅かに小さく設定される。スペーサ59の左右に隣接するローラ58a,58b…は、その軸線が互いに直交し、外向きローラ58aと内向きローラ58bとに分類される。外向きローラ58aは、スペーサ59によって、その軸線60が外輪55および内輪56の回転中心線P上に位置する旋回中心点P1を向くような姿勢に保持されている。内向きローラ58bも、スペーサ59によって、その軸線61が回転中心線P上に位置する旋回中心点P2を向くような姿勢に保持されている。したがって、ローラ58a,58b…の軸線はローラ転走路57に対して常に直角を保ち、各ローラ58a,58b…は均等なすべりを保ちながら転走する。
このように本実施形態に係る熱処理装置100によって熱処理加工されたワークWを組み合わせて、外輪転走面55aと内輪転走面56aとでローラ転走路57を形成することができる。ローラ転走路には、複数のローラが配列・収納され、この複数のローラの間にはスペーサが配置される。そして、ローラは、ローラ転走路内を転走することとなる。
なお、本実施形態に係る熱処理装置100によれば、旋回軸受の内輪56のように、断面視略くの字形状の切欠きを有する略矩形状のワークWから構成されるものばかりでなく、断面視略台形状をした環状のワークWを上下に配置して構成される旋回軸受の外輪55についても、熱処理加工を行うことが可能である。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
例えば、本実施形態に係る熱処理装置100および第二の実施例に係る熱処理装置120は、焼入れだけではなく、焼戻しや焼鈍しなどに適用することができる。ワークWの焼戻しを行う場合には、例えば、加熱コイル21によって適当な温度まで加熱した後、冷却水放出部23によって冷却することとすることができる。ワークWの焼鈍しを行う場合も、例えば、加熱コイル21によって適当な温度まで加熱した後、放冷したり、冷却水放出部23によって徐々に冷却したりすることができる。
また、本実施形態に係る熱処理装置100では、ワークWをテーブル11上に固定し、熱処理加工部移動機構50によってワークWの直径に合わせて熱処理加工部20を径方向に移動させた後、旋回アーム30によって熱処理加工部20を旋回移動させることで熱処理加工が行われる場合を想定して説明を行ったが、ワークWと熱処理加工部20との相対的な位置関係は、図4で説明した熱処理装置の動作例を実現できるものであれば良く、テーブル11上のワークWを回転させながら旋回アーム30によって熱処理加工部20を旋回移動させるように熱処理装置100を稼働させても良い。
さらに例えば、第二の実施例に係る熱処理装置120は、加熱コイル角度調芯機構22を不図示のモータと接続させ、加熱コイル21と対向するワークWの周面との角度を測定する不図示の角度センサを設置することとすることもできる。角度センサによって測定された加熱コイル21と対向するワークWの周面との角度が、所定の角度(第二の実施例では、3.5°)からずれてしまった場合には、不図示のモータにより加熱コイル角度調芯機構22を、加熱コイル21が所定の角度(第二の実施例では、3.5°)となるように回転させる。そして、加熱コイル角度調芯機構22の回転にともなって、加熱コイル角度調芯機構22が設置された加熱コイル21も回転することとなる。したがって、加熱コイル21は、所定の角度(第二の実施例では、3.5°)を保持することができるようになる。なお、この角度センサについては、距離センサとすることも可能である。
また例えば、第二の実施例に係る熱処理装置120は、案内ローラ25に替えて、加熱コイル21の紙面左右方向に隣接して設置される樹脂製の案内板を備えることとしても良い。案内板は、上述した案内ローラ25と同様に、ワークWの周面に接触しながらワークWの周面に沿って移動することができるようになっている。そして、案内板がワークWに当接されることによって、加熱コイル21の角度が所定の角度(第二の実施例では、3.5°)とずれて、加熱コイル21が紙面左方向又は右方向に傾いてしまったときには、加熱コイル角度調芯機構22が回転し、加熱コイル角度調芯機構22が設置される加熱コイル21の角度を調整することができることになる。
さらに、本実施形態に係る熱処理装置100および第二の実施例に係る熱処理装置120では、ワークWとして旋回軸受の構成部材に対して熱処理加工を行う例を挙げたが、本発明はこれに限定されず、あらゆる環状のワークに対して用いることができる。
本実施形態に係る熱処理装置100は、下側アーム33上に熱処理加工部移動機構50を設置し、旋回アーム30を環状のワークWに対して径方向および周方向に移動可能としているが、例えば、上側アーム31の下面に運動案内装置の軌道部材としてのスプライン軸を組み込むとともに垂直アーム32に運動案内装置の移動部材としてのスプラインナットを組み込んで構成することとすることができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。