JP6402984B2 - 透明フィブロインナノファイバー不織布、細胞培養用基材、細胞シート及び透明フィブロインナノファイバー不織布の製造方法 - Google Patents
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Description
シルクフィブロインは、キャストフィルム、ハイドロゲル、スポンジそしてファイバー不織布など様々な形状に加工されている。フィブロイン繊維は、臭化リチウム溶液に溶解した後、透析して脱塩することでフィブロイン水溶液とすることができる。
例えば、シルクフィブロイン水溶液を平板上で乾燥することによって得られるフィブロインキャストフィルムは極めて高い透明度を有している。また、フィブロイン水溶液からナノファイバー不織布作製する技術が報告されている(非特許文献1)。
フィブロイン水溶液から作製されたフィブロインナノファイバー不織布は、物質透過性は良好であるが、適用条件によっては著しく透明度が低いことが問題となる。例えば角膜実質再生材料としてフィブロインナノファイバー不織布を用いようとすると、光受容器官である眼にとって透明度の低さの改善は重要な課題となる。
(試験方法)
水中に透明フィブロインナノファイバー不織布を浸漬した状態で撮像し、得られた写真において、(I)前記透明フィブロインナノファイバー不織布を介さず観察される背景色の明度と、(II)前記透明フィブロインナノファイバー不織布を介して観察される前記背景色の明度と、の比から下記式(1)により透明度を求める。
透明度(%)=(I)/(II)×100 …(1)
[2]前記透明フィブロインナノファイバー不織布全体における平均の密度が0.05g/cm3〜0.4g/cm3であり、前記透明フィブロインナノファイバー不織布を構成するフィブロインナノファイバーの平均径が1nm〜1500nmである前記[1]に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布。
[3]グルコース透過性を有する前記[1]又は[2]に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布。
[4]アルブミン透過性を有する前記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の透明フィブロインナノファイバー不織布。
[5]前記アルブミン透過性が、1気圧下において0.001mg/mm2・分以上である前記[4]に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布。
[6]前記[1]〜[5]のいずれか一つに記載の透明フィブロインナノファイバー不織布を備えたことを特徴とする細胞培養用基材。
[7]前記[1]〜[5]のいずれか一つに記載の透明フィブロインナノファイバー不織布上に細胞が付着してなることを特徴とする細胞シート。
[8]前記細胞が角膜組織の細胞である前記[7]に記載の細胞シート。
[9]フィブロインナノファイバーを不溶化させた不溶化フィブロインナノファイバー不織布を、第2族元素を含有する溶液に接触させる透明化処理工程と、前記透明化処理工程を経た不溶化フィブロインナノファイバー不織布を乾燥させる乾燥処理工程と、を有することを特徴とする透明フィブロインナノファイバー不織布の製造方法。
[10]前記第2族元素が、カルシウム又はマグネシウムである前記[9]に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布の製造方法。
[11]前記透明化処理工程に先立って、フィブロインナノファイバー不織布を、95体積%以上のアルコール水溶液に接触させた後に60体積%以上95体積%未満のアルコール水溶液に接触させて、前記不溶化フィブロインナノファイバー不織布を得る不溶化処理工程を有する前記[9]又は[10]に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布の製造方法。
[12]電界紡糸法を用いてフィブロインナノファイバーを紡糸する工程と、回転コレクターを用いて前記フィブロインナノファイバーを巻取り、前記フィブロインナノファイバーを前記回転コレクターの回転方向に配向させた前記フィブロインナノファイバー不織布を得る工程と、を有する前記[11]に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布の製造方法。
本実施形態の透明フィブロインナノファイバー不織布は、下記試験により求められた見かけの透明度が60%以上である。
(試験方法)
水中に透明フィブロインナノファイバー不織布を浸漬した状態で撮像し、得られた写真において、(I)前記透明フィブロインナノファイバー不織布を介さず観察される背景色の明度と、(II)前記透明フィブロインナノファイバー不織布を介して観察される前記背景色の明度と、の比から下記式(1)により透明度を求める。
透明度(%)=(I)/(II)×100 …(1)
透明フィブロインナノファイバー不織布の空孔率は特に制限されるものではないが、透明フィブロインナノファイバー不織布全体の平均の空孔率は30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、55%以上であることがさらに好ましく、75%以上であることが特に好ましい。
本実施形態の透明フィブロインナノファイバー不織布は、不織布全体における平均の密度が0.05g/cm3〜0.4g/cm3であることが好ましく、0.1g/cm3〜0.3g/cm3であることがより好ましく、0.1g/cm3〜0.25g/cm3であることがさらに好ましく、且つ透明フィブロインナノファイバー不織布を構成するフィブロインナノファイバーの平均径1〜1500nmであることが好ましく、10〜1000nmであることがより好ましく、50〜500nmであることがさらに好ましい。
透明フィブロインナノファイバー不織布の平均の密度の値、及び透明フィブロインナノファイバー不織布を構成するフィブロインナノファイバーの平均径の値が上記範囲にある場合、フィブロインナノファイバー不織布を生体材料として用いる観点から、透明フィブロインナノファイバー不織布の有する空孔のサイズを、物質透過性の観点から好ましい値とすることができる。透過される物質とは、生体を構成する生体物質および各種栄養成分に代表される生体内に存在する物質等が好ましい。
透明フィブロインナノファイバー不織布は分子量が150以上の分子を透過することが好ましく、分子量が60000以上の分子を透過することがより好ましく、分子量が150000以上の分子を透過することがさらに好ましい。より具体的には、グルコース透過性を有することが好ましく、グルコース透過性及びアルブミン透過性を有することがより好ましく、グルコース透過性、アルブミン透過性及びグロブリンIgG透過性を有することがさらに好ましい。グルコースの分子量は約180.16であり、アルブミンの分子量は約66000であり、グロブリンIgGの分子量は約150000である。アルブミンは生体内の物質としては比較的分子量の高い分子であるため、アルブミン透過性を有するフィブロインナノファイバー不織布であれば、細胞が必要とする各種栄養素や成長因子等のシグナル分子を容易に透過すると考えられ、生体材料として非常に好ましい。
物質透過率(%) = (不織布透過前の溶液中に含まれる物質の量/不織布透過後の溶液中に含まれる物質の量)×100
透明フィブロインナノファイバー不織布のグルコース透過性およびアルブミン透過性については、特に制限されないが、上記式に当てはめたときのグルコース透過率が、90%以上であることが好ましく、95%以上であることが好ましく、98%以上であることが好ましい。同様に、アルブミン透過率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることが好ましく、98%以上であることが好ましい。物質の透過量の測定及び算出手段は、透過前後の物質の量を比較できるものであれば特に制限されず、吸光度等による間接的な量の測定であってもよい。
フィブロインナノファイバーは、フィブロインが水に溶解したフィブロイン水溶液を用いて電界紡糸法により紡糸することが可能である。フィブロイン水溶液は、例えば、フィブロインを上記セリシンの除去に用いたものよりも高いpHの塩基性水溶液に溶解した後、得られる溶解液を透析して脱塩することで得られる。
透明フィブロインナノファイバー不織布を構成するフィブロインナノファイバーの配向性の程度が高められていることで、フィブロインナノファイバー不織布の透明度をより高いものとすることができる。
本実施形態の細胞培養用基材は、前記透明フィブロインナノファイバー不織布を備えたものであり、前記透明フィブロインナノファイバー不織布からなるものであってもよい。フィブロインは優れた生体適合性を有しており、また、前記透明フィブロインナノファイバー不織布は優れた物質透過性、細胞の接着性及び透明性を有しているため、細胞培養用基材として好適である。
細胞培養用基材は、移植された先で細胞の足場となり得る。また、透明フィブロインナノファイバー不織布上に細胞が付着してなる細胞シートの形態として、移植用材料として使用可能である。
透明フィブロインナノファイバー不織布が有する優れた透明性により、細胞培養用基材は移植対象箇所の視認性を妨げることがない。例えば、透明フィブロインナノファイバー不織布は優れた透明性を有するので、細胞培養用基材を移植して該基材に覆われた組織であっても容易にその状態を観察することができ、移植経過の状態把握が可能であるという点においても、非常に優れている。
眼は、光受容器官であるため、優れた透明性を有する細胞培養基材は、眼への移植用材料としての有用性は著しく高い。更には、角膜実質組織は無血管組織であるため、物質透過性に優れた材料は非常に有用である。また、無血管組織であるがゆえに再生能力が低いため、他組織に比べて再生速度が遅いことが知られている。そこで、角膜実質の再生材料としては、ある程度の長期間にわたり生体内に存在する材料の方が好ましい。フィブロインは生体内での分解を受けにくいため、角膜実質再生の観点からみれば、生体適合性に加え非常に有用な特徴を持つ材料であるといえる。
角膜移植希望患者数に対する圧倒的なドナー不足は日本のみならず世界的な問題となっており、人工角膜の開発が待ち望まれている。これまでにも、様々な材料を用いて、人工角膜の開発の試みが数多くなされてきた。技術の発展に伴い、角膜上皮細胞層や角膜内皮細胞層に関しては、実際に臨床応用されている技術も創生されている。角膜実質層に関してもいくつかの優れた技術は開発されているが、臨床的に満足のゆくものはいまだに開発されていない。
本実施形態の細胞培養基材は、優れた透明性、細胞の接着性、物質透過性、分解速度等の上記に挙げた性質により、本実施形態の細胞培養用基材は、角膜実質再生材料としても好適に用いることができる。
本実施形態において、フィブロインナノファイバー不織布とは、フィブロインナノファイバーが繊維形状を有しつつ集合してなるシート状の成形体である。ここで、「シート状」とは、成形体の厚みが、厚み方向に直交する二次元方向の広がりと比べて小さくなっている形状のことを指し、厚みが極薄のフィルム状のものから、肉厚の板状のものまでを含む。透明フィブロインナノファイバー不織布を構成するフィブロインナノファイバーは繊維形状を有するものであるが、フィブロインナノファイバーの集合によって生じたフィブロインナノファイバー同士の接触部分において、フィブロインナノファイバー同士が癒合していてもよい。透明フィブロインナノファイバー不織布は、フィブロインナノファイバー間の間隙として、空孔を有している。以下、フィブロインナノファイバーの配向性やフィブロインナノファイバー不織布の透明度によらず、フィブロインナノファイバー不織布に共通の事柄について説明するとき、単にフィブロインナノファイバー不織布又は不織布として説明することがある。
電界紡糸法を用いて不織布を製造する場合、配向性フィブロインナノファイバー不織布は、コレクターとして回転コレクターを用いて、フィブロインナノファイバーを集めることにより得ることができる。回転コレクターを用いることで、回転コレクターの回転方向へと配向した配向性フィブロインナノファイバーを得ることができる。
フィブロインナノファイバー不織布を構成するフィブロインナノファイバーの配向性の程度を上昇させることで、より容易に透明度の高い透明フィブロインナノファイバー不織布を得ることができる。配向性フィブロインナノファイバー不織布の使用は、透明化処理工程との相性が非常に良い。このことはおそらく、予めフィブロインナノファイバーに配向性を持たせた透明度の高い材料を使用することで、フィブロインナノファイバーの繊維表面の溶解を行う程度の弱い透明化処理により、フィブロインナノファイバーの透明度を著しく上昇させることができるためである。弱い透明化処理であれば、フィブロインナノファイバーの繊維形状の崩壊を生じさせないよう透明化処理を制御することが容易である。
フィブロインナノファイバー不織布を、アルコール水溶液に接触させることでフィブロインナノファイバー不織布が内包する水と、アルコール水溶液との濃度差により生じる浸透圧により、フィブロインナノファイバー不織布内部の水がしみ出し、不織布内ではフィブロイン同士が接触しやすくなる。フィブロイン同士が接触した部分では、分子間力や水素結合によりフィブロインの結晶化が進行し、その結果、フィブロインが不溶化すると考えられている。
しかし、発明者が詳細に検討したところ、一般に用いられている濃度よりも非常に高濃度の95体積%以上のアルコール水溶液に先ずフィブロインナノファイバー不織布を接触させることで、フィブロインナノファイバーの繊維形状が保たれやすくなることで、操作性が向上し、その後の透明化処理を経ても容易に透明フィブロインナノファイバー不織布を得られることが判明した。95体積%以上のアルコール水溶液の濃度としては、96体積%以上であることが好ましく、98体積%以上であることがより好ましく、99体積%以上であることがさらに好ましい。
このとき、カルシウムを含有する溶液に、不溶化フィブロインナノファイバー不織布を接触させる時間は、0.05時間〜12時間が好ましく、0.1時間〜3時間がより好ましく、0.2時間〜1時間がさらに好ましい。
相対的に高濃度のカルシウムを含有する溶液を用いる場合には、該溶液と不溶化フィブロインナノファイバー不織布との接触時間を短く、相対的に低濃度のカルシウムを含有する溶液を用いる場合には、該溶液と不溶化フィブロインナノファイバー不織布との接触時間を長く設定するとよい。
乾燥の方法としては、透明フィブロインナノファイバー不織布の劣化を伴わなければ、通常知られた方法を採用することができる。例えば、空気中に放置する風乾、加熱乾燥、減圧乾燥などを挙げることができる。これらの乾燥方法のなかでは風乾が好ましい。また、適宜送風して乾燥を促進させることをしてもよい。
洗浄工程は、例えば、透明化処理工程を経た透明フィブロインナノファイバー不織布を水に浸漬させる方法、透明化処理工程を経た透明フィブロインナノファイバー不織布を、第2族元素をキレートするキレート剤を含む液に浸漬させた後、水に含浸させる方法等が挙げられる。
実験
[フィブロイン水溶液の作製]
細片に切断した繭を0.02M炭酸ナトリウム中で30分間煮沸(95〜98℃)した後、熱水で洗浄してセリシンを除いた。得られたフィブロイン繊維を9 M臭化リチウムへ室温で溶解し、約60 g/L濃度の溶液を作製した。透析チューブ(MWCO:5000−8000)を用いて水に対して3日間透析した後、遠心処理(20000rpm x 30min)により不純物の除去を行った。
超純水を用いて8.0mg/mlの濃度となるようにフィブロイン水溶液を調製した。また、ポリエチレンオキサイド(PEO、Mw = 9×105 g/mol、シグマアルドリッチ)を超純水に溶解して濃度50 mg/mlの水溶液を作製した。フィブロイン水溶系とPEO水溶液を体積比4対1で混合したものを紡糸溶液とした(参考文献Biomacromolecules 3, 6, 1233−1239.)。調製した紡糸溶液を25Gのステンレス製ニードルを備えたシリンジに充填し、自動紡糸装置(NANON, MECC社製)を用いて紡糸を行った。印加電圧を+10 kV、吐出速度を0.3 ml/h、紡糸距離を18cmとした。紡糸装置内に乾燥窒素を灌流することによって、紡糸雰囲気の相対湿度を15%以下に維持した。Φ10cmの回転ドラム型コレクター(3,000 rpm)にアルミホイルを巻き付けて紡糸を行い、紡糸後、繊維をアルミホイルから取り外し、ミヌシート(Φ1.3cm、家田貿易化学)に繊維を回収した。作製した配向性フィブロイン不織布の密度は0.155g/cm3であり、空孔率は85.5%であり、フィブロインナノファイバーの平均径は200〜300nmであり、厚みは約10μmであった。図2に、配向性フィブロイン不織布とランダムフィブロインナノファイバー不織布の肉眼写真及びSEM画像を比較した写真を示す。
繊維を水に十分親和させた回収した繊維の不溶化は、以下の2つの条件に分けて検討した。
<不溶化条件1>配向性フィブロイン不織布を100体積%エタノールに24時間浸漬した後、95体積%エタノールに24時間浸漬する。
<不溶化条件2>配向性フィブロイン不織布を100体積%エタノールに144時間浸漬した後、70体積%エタノールに144時間浸漬する。
不溶化処理後は繊維を水に十分親和させ透明化処理を行った。
超純水を用いて80mM、100mM、160mM、200mM又は500mMの塩化カルシウム水溶液、並びに200mM塩化マグネシウム水溶液を調整した。<不溶化条件1>の条件で不溶化処理を行ったサンプルに対しては、80mM又は200mMの塩化カルシウム水溶液に30分浸漬後、取り出し、余剰の水分を拭き取った後、湿箱内で24時間乾燥させ、その後、湿箱から取り出し、室内雰囲気下で48時間以上乾燥させた。<不溶化条件2>の条件で不溶化処理を行ったサンプルに対しては、80mM、100mM、160mM、200mM又は500mMの塩化カルシウム水溶液に30分浸漬し、湿箱内で24時間乾燥させ、室温雰囲気下で48時間以上乾燥させた。乾燥処理後のサンプルは、上記<不溶化条件1>で行ったものはそのまま超純水に浸漬し、上記<不溶化条件2>を施したサンプルは浸漬した塩化カルシウム水溶液とのモル比が5:3になるようなリン酸二水素ナトリウム水溶液に浸漬した後、10%EDTA−2Naに24時間浸漬した後に超純水に浸漬するものに分けて検討した。図1に、不溶化処理、透明化処理、乾燥処理、洗浄の一連の処理の手順を示す。
透明化処理を施した後、水中にサンプルを浸漬した状態で写真を撮影した。撮影した写真を、画像解析ソフトImage Jのヒストグラム解析を用いて、材料内外の黒色部の平均グレー値(明度)を比較することにより透明度を以下の式で算出した。
透明度=材料外部に存在する黒色部の明度/材料内部に存在する黒色部の明度×100
100体積%エタノールと95体積%エタノールを用いて不溶化処理を行った後、200mM塩化マグネシウム水溶液に浸漬し乾燥したサンプルでは、コントロールとして作製した超純水に浸漬した後に風乾したサンプルより、透明度が改善していた。図3に、光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡での各サンプルの観察像を示す。光学顕微鏡での観察ではどちらのサンプルも繊維状の構造が残存していることが確認された。走査型電子顕微鏡の観察では、肉眼的に透明度が改善された塩化マグネシウムによる処理を施したサンプルの繊維構造がコントロールに比べて変化していることが分かる。塩化マグネシウムによる処理を施したサンプルでは、繊維径の極端な増大と、繊維間隙の減少が認められた。この現象は塩化マグネシウムによる浸漬時に、フィブロインナノファイバーが一部溶解し、乾燥時に隣接するナノファイバーどうしが融着することでこのような繊維構造を取ったと考えられる。その結果として繊維間隙が減少することにより光の散乱が抑えられ、肉眼的な透明性が向上したと考えられる。
実験
100体積%エタノールと95体積%エタノールによる不溶化処理の後、80mM塩化カルシウムに浸漬、乾燥した後、超純水に24時間浸漬したサンプルを超純水に浸漬したまま105℃、30分間オートクレーブ滅菌した。滅菌済みサンプルにヒト角膜上皮細胞(HCE−T)を播種し、播種後1週間培養した。培養終了後、サンプルを4%パラホルムアルデヒドにて固定し、パラフィン包埋切片を作製し、ヘマトキシリンエオジン(HE)染色を行い、細胞の状態を観察した。
図7に、HE染色の写真を示す。カルシウム接触によるフィブロイン溶解、乾燥工程を経た材料上でもHCE−Tは1週間の間材料上に生着することができた。これにより、カルシウム接触による透明化処理によって細胞に毒性を示すような変性を生じていないことが明らかとなった。
実験
[物質透過性試験サンプルの調製]
上記1(透明な配向フィブロイン不織布の作製)で示した方法と同様の手技で配向性フィブロイン不織布を作製後、100体積%および70体積%エタノールにそれぞれ144時間浸漬し、水和したものを(1)不織布として、(1)の不織布に80mM塩化カルシウムを用いて透明化したものを(2)透明配向フィブロイン不織布として用いた。また、透過性試験の対象としてフィブロイン水溶液を平板上に流入し、乾燥させた(3)キャストフィルムをそれぞれ3枚、供試材料として用意した。作製した各材料は上述したミヌシートに挟み込んだ。
栄養成分の透過性試験として2.5mg/mlのグルコース溶液(分子量180.16)および2.0mg/mlのウシ血清アルブミン溶液(分子量約66000)を作製し、図8に示すような透過性試験を行った。疎水性フィルム状にガラスの円柱容器を置き、その上に支持体に挟んだ材料をのせた。各溶液300μlを50.24mm2の上記(1)〜(3)の各材料上に滴下し、滴下した溶液が各材料を透過する時間および透過した液滴のグルコースおよびアルブミン濃度を測定することで各材料の透過性を比較した。透過性試験の経過を写した写真を図9に示す。水溶液を滴下後、不織布((1)不織布)と透明化ファイバー((2)透明配向フィブロイン不織布)は1分以内に透過したがキャストフィルム((3)キャストフィルム)では依然として水滴のまま、材料上に残存していた。
尚、グルコースおよびアルブミンの濃度測定には和光純薬のグルコーステストCIIおよびプロテインアッセイキットを用い、溶質の濃度測定にはマイクロプレートリーダー(iMark バイオラッド)を用いた。
透過試験の結果を図10及び図11に示す。各材料へのグルコースおよびアルブミンの滴下試験の結果、溶質の差による透過速度の変化はほとんど見られず(1)不織布ではグルコースの透過速度が29.74±3.22秒でありアルブミンが23.09±4.00秒であった。(2)透明配向フィブロイン不織布ではグルコースの透過速度が49.91±8.62秒で、アルブミンが49.19±5.14秒であった。一方(3)キャストフィルムでは滴下後30分経過しても溶液の透過は生じなかった。液滴透過後の溶液に含まれる溶質の濃度は(1)および(2)では滴下前の溶液濃度と変化はなかった(透過率95%以上)。
(1)不織布のアルブミン透過性は、1気圧下において、0.08mg/mm2・分であり、(2)透明配向フィブロイン不織布のアルブミン透過性は、1気圧下において、0.04mg/mm2・分であった。(1)不織布のグルコース透過性は、1気圧下において、0.10mg/mm2・分であり、(2)透明配向フィブロイン不織布のグルコース透過性は、1気圧下において、0.06mg/mm2・分であった。
キャストフィルムでは滴下溶液が得られなかったため濃度の測定ができなかった。透明配向フィブロイン不織布は確かに不織布よりも透過速度は減少するが、キャストフィルムに比べると極めて迅速であることが分かった。加えて、アルブミン程度の分子量をもつタンパク質も迅速に透過する物性を持つということは生体内に埋植後も角膜組織内での栄養性分や生化学因子の透過性にも問題が生じる可能性が低いことを示している。以上の結果から透明配向フィブロイン不織布は物質透過性の損失が少なく透明性が得られる不織布材料であることが示された。
Claims (12)
- フィブロインナノファイバーを不溶化させた不溶化フィブロインナノファイバー不織布を、第2族元素を含有する溶液に接触させる透明化処理工程と、前記透明化処理工程を経た不溶化フィブロインナノファイバー不織布を乾燥させる乾燥処理工程と、を有することを特徴とする透明フィブロインナノファイバー不織布の製造方法。
- 前記第2族元素が、カルシウム又はマグネシウムである請求項1に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布の製造方法。
- 前記透明化処理工程に先立って、
フィブロインナノファイバー不織布を、95体積%以上のアルコール水溶液に接触させた後に60体積%以上95体積%未満のアルコール水溶液に接触させて、前記不溶化フィブロインナノファイバー不織布を得る不溶化処理工程を有する請求項1又は2に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布の製造方法。 - 電界紡糸法を用いてフィブロインナノファイバーを紡糸する工程と、
回転コレクターを用いて前記フィブロインナノファイバーを巻取り、前記フィブロインナノファイバーを前記回転コレクターの回転方向に配向させた前記フィブロインナノファイバー不織布を得る工程と、を有する請求項3に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布の製造方法。 - 請求項1〜4に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布の製造方法により製造され、
下記試験により求められた見かけの透明度が60%以上であることを特徴とする透明フィブロインナノファイバー不織布。
(試験方法)
水中に透明フィブロインナノファイバー不織布を浸漬した状態で撮像し、得られた写真において、(I)前記透明フィブロインナノファイバー不織布を介さず観察される背景色の明度と、(II)前記透明フィブロインナノファイバー不織布を介して観察される前記背景色の明度と、の比から下記式(1)により透明度を求める。
透明度(%)=(I)/(II)×100 …(1) - 前記透明フィブロインナノファイバー不織布全体における平均の密度が0.05g/cm3〜0.4g/cm3であり、前記透明フィブロインナノファイバー不織布を構成するフィブロインナノファイバーの平均径が1nm〜1500nmである請求項5に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布。
- グルコース透過性を有する請求項5又は6に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布。
- アルブミン透過性を有する請求項5〜7のいずれか一項に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布。
- 前記アルブミン透過性が、1気圧下において0.001mg/mm2・分以上である請求項8に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布。
- 請求項5〜9のいずれか一項に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布を備えたことを特徴とする細胞培養用基材。
- 請求項5〜9のいずれか一項に記載の透明フィブロインナノファイバー不織布上に細胞が付着してなることを特徴とする細胞シート。
- 前記細胞が角膜組織の細胞である請求項11に記載の細胞シート。
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