JP6383938B2 - 高濃度脂肪組織由来間葉系幹細胞含有脂肪による声門閉鎖不全の治療 - Google Patents

高濃度脂肪組織由来間葉系幹細胞含有脂肪による声門閉鎖不全の治療 Download PDF

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Description

本発明は細胞製剤に関する。詳しくは、声門閉鎖不全の治療・改善に有効な細胞製剤に関する。
声門閉鎖不全を引き起こす一側声帯麻痺は一側の声帯が種々の原因により麻痺する病態であり、発声時の声のかすれや、発声持続時間の低下、息切れ、嚥下時のむせなどの症状を呈し、QOLを著しく低下させる疾患である。原因としては甲状腺癌や食道癌、肺癌といった腫瘍の神経への直接浸潤や胸部大動脈瘤による圧迫、手術時の反回神経への操作、全身麻酔時の気管内挿管によるものなどが挙げられる。一側声帯麻痺に対して外科的治療として種々の術式があるが、その中でも声帯内注入術は頸部外切開を必要とせず、侵襲も高くないことから広く用いられている術式である。声帯内注入術は1911年にBruningsが声帯内にパラフィンを初めて注入して以来、テフロンやシリコンなどが世界中で広く用いられた(非特許文献1、2)。しかし、これらの異物の注入では音声の改善も不十分であり、また異物反応といった副作用の問題もあり、現在は使用されていない。牛のコラーゲン注入法は汎用性が高いものの、異物反応や注入後の吸収率が高いという点、コラーゲンが牛組織由来であり伝達性海綿状脳症発症の危険性を完全には否定できない点が課題となる。現状では自家脂肪の注入、自家コラーゲンの注入、自家筋膜の注入などが行われている。声帯内自家脂肪注入術は1991年にMikaelianが報告して以来、広く普及している。長所は異物を使用しないために、異物反応もなく、安全性が高いことであるが、短所として注入脂肪の吸収により効果が減弱することがある(非特許文献3)。
注入した脂肪の吸収抑制を目的として種々の物質の併用も試されている。例えば、田村らは動物実験でbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)を用いており、梅野らはHGF(肝細胞増殖因子)を用いてその有用性を報告している(非特許文献4、5)。
一方、多能性幹細胞の一つであり、骨細胞、軟骨細胞、心筋細胞など、様々な細胞に分化する能力を有する間葉系幹細胞(MSCs)の臨床応用に注目が集まっている。多能性幹細胞源として脂肪組織が有望であることがいくつかの研究グループによって報告されている(非特許文献6)。また、北川らによって、脂肪組織より、多能性を示す細胞集団を簡便な操作で大量に調製することが可能であることが報告されるとともに、得られた細胞が脂肪組織への分化能を有し、脂肪組織の再建に有効であることが示された(特許文献1)。
国際公開第2006/006692号パンフレット
Arnold GE: Vocal rehabilitation of paralytic dysphonia. Phoniatric methods of vocal compensation. Arch Otolaryngol, 76: 76-83, 1962. Rubin HJ: Intracordal injection of silicone in selected dysphonia. Arch Otolaryngol, 81: 604-607, 1965. Mikaelian DO, Lowry DO and Sataloff RT: Laryngoscope, 101: 456-468, 1991. Tamura E: Adipose tissue formation in response to basic fibroblast growth factor. Acta Otolaryngol, 127: 1327-1331, 2007. Umeno H: Efficacy of autologous fat injection laryngoplasty with an adenoviral vector expressing hepatocyte growth factor in a canine model. JLO, 123: 24-29. 2009. Secretion of Angiogenic and Antiapoptotic Factors by Human Adipose Stromal Cells. Circulation 109:1292-1298, 2004 Yoshimura K: Cell assisted lipotransfer for cosmetic breast augmentation : supportive use of adiposed derived stem cells. Aesthet Plast Surg, 32:48-55,2008. Sterodimas A: Autologous fat transplantation versus adiposed-derived stem cell-enriched lopografts: A study. Aesthet Surg J, 31: 682-693, 2011. V. Lo Cicero: Do mesenchymal stem cells play a role in vocal fold fat graft survival?: Cell prolif, 41: 460-473, 2008.
以上の通り、声門閉鎖不全(一側声帯麻痺など)の治療に声帯内自家脂肪注入術が行われているものの、効果が一過性であるという問題がある。そこで本発明は、治療効果の持続時間が長く、且つより高い治療効果が得られる、声門閉鎖不全に対する治療手段を提供することを課題とする。
上記課題を解決すべく研究を進める中で本発明者らは、脂肪組織由来間葉系幹細胞(Adipose-derived stem cells: ADSCs)の潜在能力に注目し、ADSCsを脂肪に混和したもの(高濃度ADSCs含有脂肪)を声帯内に注入するという新たな治療戦略を考え、その有効性を検討した。具体的には、大型動物の一側声帯麻痺モデルに対して、皮下から採取した脂肪組織からADSCsを抽出し、高濃度ADSCs含有脂肪を調製し、内視鏡下に声帯筋内に注入することでその効果と安全性を検討した。尚、近年、声帯内にも骨髄由来幹細胞や脂肪由来幹細胞を注入して、その有用性が報告されており、ヒトへの実用化が期待されているが、自家脂肪とADSCsを併用した例は報告されていない。
詳細な検討の結果、高濃度ADSCs含有脂肪注入例において、脂肪単独注入例に比較して、持続的な容量効果を認めた。また、驚くべきことに、高濃度ADSCs含有脂肪注入例では、注入部位の血流が正常を超えるレベルまで増加していた。音声評価では、高濃度ADSCs含有脂肪注入例では、期待を超える程度の回復を認め、処置前の音声と同程度の音声を再獲得した。このように、予想以上の治療効果が認められ、声門閉鎖不全の治療に高濃度ADSCs含有脂肪が極めて有効であることが明らかとなった。以下に示す発明は主として上記成果ないし知見に基づく。
[1]体脂肪と脂肪組織由来間葉系幹細胞を含有する、声門閉鎖不全治療用細胞製剤。
[2]前記脂肪組織由来間葉系幹細胞が、前記体脂肪の2倍〜40倍に相当する量の体脂肪から分離された細胞である、[1]に記載の細胞製剤。
[3]脂肪組織由来間葉系幹細胞の含有量が、1ml当たり1.6×105個〜3.3×106個である、[1]に記載の細胞製剤。
[4]前記脂肪組織由来間葉系幹細胞が、体脂肪から分離した脂肪組織由来幹細胞を培養して得られた細胞である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の細胞製剤。
[5]生体から分離した体脂肪を有効成分とした第1構成要素と、脂肪組織由来間葉系幹細胞を有効成分とした第2構成要素と、からなるキットであることを特徴とする、[1]に記載の細胞製剤。
[6]脂肪組織由来間葉系幹細胞を含有し、その投与時に、生体から分離した体脂肪が併用投与されることを特徴とする、[1]に記載の細胞製剤。
[7]一側声帯麻痺に伴う声門閉鎖不全の治療に用いられる、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の細胞製剤。
[8]声門閉鎖不全治療用細胞製剤を製造するための、体脂肪と脂肪組織由来間葉系幹細胞の使用。
[9]声門閉鎖不全の患者に対して、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の細胞製剤を投与するステップを含む、声門閉鎖不全の治療法。
超音波検査の結果。上:ADSCs例(脂肪1mlとADSCs液0.5mlを混和したものを注入)、下:Fat例(脂肪1mlと乳酸リンゲル液0.5mlを混和したものを注入)。 内視鏡検査の結果(ADSCs例)。左上:右反転神経切断前の声帯、右上:神経切断1ヶ月後の声帯、左下:注入操作、右下:注入1ヶ月後の声帯。 内視鏡検査の結果(Fat例)。左上:右反転神経切断前の声帯、右上:神経切断1ヶ月後の声帯、左下:注入操作、右下:注入1ヶ月後の声帯。 非接触式血流計による測定結果。上:ADSCs例の血流量の推移、下:Fat例の血流量の推移。◆:右声帯(注入側)、■:左声帯(健側)。 CT検査の結果。左上:ADSCs例の単純CT、右上:ADSCs例の造影CT、左下:Fat例の単純CT、右下:Fat例の造影CT。ADSCs例及びFat例ともに、注入部に一致して単純CTで低強度の部分を認める。ADSCs例では造影CTにおいて注入部位に造影効果を認める。Fat例では造影CTにおいて注入部位に特に造影効果を認めない。 音響分析ソノグラム。左側にADSCs例のグラフ(上から順に処置前、反転神経切断後29日目、注入術後26日目)、右側にFat例(上から順に処置前、反転神経切断後29日目、注入術後26日目)のグラフを示す。 音声波形。左側にADSCs例の音声波形(上から順に処置前、反転神経切断後29日目、注入術後26日目)、右側にFat例の音声波形を示す。
本発明において「脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSCs)」とは、脂肪組織に含まれる体性幹細胞のことをいうが、多能性を維持している限りにおいて、当該体性幹細胞の培養(継代培養を含む)により得られる細胞も「脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSCs)」に該当するものとする。生体から分離された脂肪組織を出発材料とし、細胞集団(脂肪組織に由来する、ADSCs以外の細胞を含む)を構成する細胞として「単離された状態」にADSCsを調製することができる。ここでの「単離された状態」とは、その本来の環境(即ち生体の一部を構成した状態)から取り出された状態、即ち人為的操作によって本来の存在状態と異なる状態で存在していることを意味する。尚、脂肪組織由来間葉系幹細胞はADSCs(Adipose-derived stem cells)、ASCs(Adipose-derived stem cells)、ADRCs(Adipose-derived regeneration cells)、AT-MSCs(Adipose-derived mesenchymal stem cells)、AD-MSCs(Adipose-derived mesenchymal stem cells)等とも呼ばれる。本明細書では以下の用語、即ち、脂肪組織由来間葉系幹細胞、ADSCs、ASCs、ADRCs、AT-MSCs、AD-MSCs、を相互に置換可能に使用する。
本発明は声門閉鎖不全の治療に用いられる細胞製剤及びその用途に関する。本発明の細胞製剤を適用すれば、声門閉鎖不全の治療ないし改善を図ることができる。声門閉鎖不全は声帯麻痺(例えば一側声帯麻痺)や声帯萎縮に伴い発症する。声門閉鎖不全の原因又は随伴症状であるこれらの病態の治療にも本発明の細胞製剤は有効である。また、声門閉鎖不全に起因する誤嚥の防止にも本発明の細胞製剤を適用し得る。声帯麻痺や声帯萎縮の原因は様々であり、その例を挙げれば、腫瘍(甲状腺癌、食道癌、肺癌など)の神経への直接浸潤、胸部大動脈瘤による圧迫、手術時の反回神経への操作、全身麻酔時の気管内挿管、加齢、神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィーなど)がある。
本発明の細胞製剤が投与される対象は典型的にはヒトである。但し、ヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)用に細胞製剤を構成することも可能である。
本発明の細胞製剤は体脂肪と脂肪組織由来間葉系幹細胞(本明細書において「ADSCs」と略称することがある)を含有する。換言すれば、本発明の細胞製剤では、生体から分離された体脂肪と、別途用意したADSCsが併用される。従って、本発明の細胞製剤の有効成分では、通常の体脂肪に比較して、ADSCsが高濃度(高密度)で存在することになる。この点に注目すれば、本発明の細胞製剤の有効成分を「高濃度でADSCsを含有する体脂肪」と表現することもできる。例えば、使用する体脂肪の2倍〜40倍(ADSCs使用量の例1)、好ましくは2倍〜20倍(ADSCs使用量の例2)、更に好ましくは3倍〜15倍(ADSCs使用量の例3)に相当する量の体脂肪から分離されたADSCsが用いられる。体脂肪中のADSCs量は一定ではないため、細胞製剤を構成するADSCsの濃度(数)は変動し得るが、細胞製剤のADSCs濃度は、例えば1.6×105個/ml〜3.3×106個/ml(上記ADSCs使用量の例1に対応する)、好ましくは1.6×105個/ml〜1.6×106個/ml(上記ADSCs使用量の例2に対応する)、更に好ましくは2.5×105個/ml〜1.25×106個/ml(上記ADSCs使用量の例3に対応する)である。尚、ADSCsの含有量は、使用目的、対象疾患、適用対象(患者)の性別、年齢、体重、患部の状態、細胞の状態などを考慮して適宜調整することができる。
典型的には、体脂肪と、ADSCsを含む細胞集団を混合した配合剤として本発明の細胞製剤が提供されることになる。例えば、体脂肪と、別途調製したADSCsを混合し、本発明の有効成分を構成する。併用の態様はこの例(即ち配合剤)に限定されず、例えば、体脂肪を含有する第1構成要素と、ADSCsを含有する第2構成要素とからなるキットの形態で本発明の細胞製剤を提供することもできる。この場合、治療対象に対して同時又は所定の時間的間隔を置いて両要素が投与されることになる。好ましくは、両要素を同時に投与することにする。ここでの「同時」は厳密な同時性を要求するものではない。従って、両要素を混合した後に対象へ投与する等、両要素の投与が時間差のない条件下で実施される場合は勿論のこと、片方の投与後、速やかに他方を投与する等、両要素の投与が実質的に時間差のない条件下で実施される場合もここでの「同時」の概念に含まれる。一方、片方の投与後、所定の時間差で他方を投与する場合は、併用の効果が良好に奏されるよう、時間差を可及的に短く設定することが好ましい。例えば、片方の投与後15分以内、好ましくは10分以内、更に好ましくは5分以内に他方を投与する。
ADSCsを含有する細胞製剤とし、その投与時に体脂肪が併用投与されるようにしてもよい。この場合の細胞製剤と体脂肪の投与のタイミングは、上記のキットの態様の場合と同様である。即ち、好ましくは同時に両者が投与されることになるが、所定の時間差で両者を投与することにしてもよい。また、上記の態様とは逆に、体脂肪を含有する細胞製剤とし、その投与時にADSCsが併用投与されるようにしてもよい。この場合の投与のタイミングは上記の態様の場合に準ずる。
体脂肪として、皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪、筋肉間脂肪を例示できる。この中でも皮下脂肪は局所麻酔下で非常に簡単に採取できるため特に好ましい。治療対象(患者)の体脂肪(即ち自家)を用いることが好ましいが、治療対象以外から採取した体脂肪(即ち他家)或いは異種動物から採取した体脂肪(即ち異種)を用いることも可能である。体脂肪は切除、吸引など、常法で採取することができる。治療上有効量の脂肪が投与されるように、一回投与分の量として例えば0.5ml〜100mlの体脂肪が用いられる。
ADSCsは、脂肪基質からの幹細胞の分離、洗浄、濃縮、培養等の工程を経て調製される。ADSCsの調製法は特に限定されない。例えば公知の方法(Fraser JK et al. (2006), Fat tissue: an underappreciated source of stem cells for biotechnology. Trends in Biotechnology; Apr;24(4):150-4. Epub 2006 Feb 20. Review.; Zuk PA et al. (2002), Human adipose tissue is a source of multipotent stem cells. Molecular Biology of the Cell; Dec;13(12):4279-95.; Zuk PA et al. (2001), Multilineage cells from human adipose tissue: implications for cell-based therapies. Tissue Engineering; Apr;7(2):211-28.等が参考になる)に従ってADSCsを調製することができる。また、脂肪組織からADSCsを調製するための装置(例えば、Celution(登録商標)装置(サイトリ・セラピューティクス社、米国、サンディエゴ))も市販されており、当該装置を利用してADSCsを調製することにしてもよい。当該装置を利用すると、脂肪組織より、ADSCsを含む細胞集団を分離できる(K. Lin. et al. Cytotherapy(2008) Vol. 10, No. 4, 417-426)。以下、ADSCsの調製法の具体例(単離、培養によるADSCsの調製)を示す。尚、治療対象(レシピエント)由来のADSCs(即ち自家)を用いることが好ましいが、治療対象以外に由来するADSCs(即ち他家)を用いることも可能である。
(1)脂肪組織からの細胞集団の調製
脂肪組織は動物から切除、吸引などの手段で採取される。ここでの用語「動物」はヒト、及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)を含む。免疫拒絶の問題を回避するため、本発明の細胞製剤を適用する対象(患者)と同一の個体から脂肪組織(自己脂肪組織)を採取することが好ましい。但し、同種の動物の脂肪組織(他家)又は異種動物の脂肪組織の使用を妨げるものではない。
脂肪組織として皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪、筋肉間脂肪を例示できる。この中でも皮下脂肪は局所麻酔下で非常に簡単に採取できるため、採取の際の患者への負担が少なく、好ましい細胞源といえる。通常は一種類の脂肪組織を用いるが、二種類以上の脂肪組織を併用することも可能である。また、複数回に分けて採取した脂肪組織(同種の脂肪組織でなくてもよい)を混合し、以降の操作に使用してもよい。脂肪組織の採取量は、ドナーの種類や組織の種類、或いは必要とされるADSCsの量を考慮して定めることができ、例えば0.5g〜500g程度である。ヒトをドナーとする場合にはドナーへの負担を考慮して一度に採取する量を約10g〜20g以下にすることが好ましい。採取した脂肪組織は、必要に応じてそれに付着した血液成分の除去及び細片化を経た後、以下の酵素処理に供される。尚、脂肪組織を適当な緩衝液や培養液中で洗浄することによって血液成分を除去することができる。
酵素処理は、脂肪組織をコラゲナーゼ、トリプシン、ディスパーゼ等の酵素によって消化することにより行う。このような酵素処理は当業者に既知の手法及び条件により実施すればよい(例えば、R.I. Freshney, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique, 4th Edition, A John Wiley & Sones Inc., Publication参照)。以上の酵素処理によって得られた細胞集団は、多能性幹細胞、内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、及び/又はこれらの前駆細胞等を含む。細胞集団を構成する細胞の種類や比率などは、使用した脂肪組織の由来や種類に依存する。
(2)沈降細胞集団(SVF画分:stromal vascular fractions)の取得
細胞集団は続いて遠心処理に供される。遠心処理による沈渣を沈降細胞集団(本明細書では「SVF画分」ともいう)として回収する。遠心処理の条件は、細胞の種類や量によって異なるが、例えば1〜10分間、800〜1500rpmである。尚、遠心処理に先立ち、酵素処理後の細胞集団をろ過等に供し、その中に含まれる酵素未消化組織等を除去しておくことが好ましい。
ここで得られた「SVF画分」はADSCsを含む。従って、SVF画分を用いて本発明の細胞製剤を調製することができる。つまり、本発明の細胞製剤の一態様では、SVF画分が含有されることになる。尚、SVF画分を構成する細胞の種類や比率などは、使用した脂肪組織の由来や種類、酵素処理の条件などに依存する。また、国際公開第2006/006692A1号パンフレットにはSVF画分の特徴が示されている。
(3)接着性細胞(ADSCs)の選択培養及び細胞の回収
SVF画分にはADSCsの他、他の細胞成分(内皮細胞、間質細胞、血球系細胞、これらの前駆細胞等)が含まれる。そこで本発明の一態様では以下の選択培養を行い、SVF画分から不要な細胞成分を除去する。そして、その結果得られた細胞をADSCsとして本発明の細胞製剤に用いる。
まず、SVF画分を適当な培地に懸濁した後、培養皿に播種し、一晩培養する。培地交換によって浮遊細胞(非接着性細胞)を除去する。その後、適宜培地交換(例えば2〜4日に一度)をしながら培養を継続する。必要に応じて継代培養を行う。継代数は特に限定されないが、多能性と増殖能力の維持の観点からは過度に継代を繰り返すことは好ましくない(5継代程度までに留めておくことが好ましい)。尚、培養用の培地には、通常の動物細胞培養用の培地を使用することができる。例えば、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(日水製薬株式会社等)、α-MEM(大日本製薬株式会社等)、DMEM:Ham's F12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社等)、Ham's F12 medium(大日本製薬株式会社等)、MCDB201培地(機能性ペプチド研究所)等を使用することができる。血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清など)又は血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)を添加した培地を使用することにしてもよい。血清又は血清代替物の添加量は例えば5%(v/v)〜30%(v/v)の範囲内で設定可能である。
以上の操作によって接着性細胞が選択的に生存・増殖する。続いて、増殖した細胞を回収する。回収操作は常法に従えばよく、例えば酵素処理(トリプシンやディスパーゼ処理)後の細胞をセルスクレイパーやピペットなどで剥離することによって容易に回収することができる。また、市販の温度感受性培養皿などを用いてシート培養した場合は、酵素処理をせずにそのままシート状に細胞を回収することも可能である。このようにして回収した細胞(ADSCs)を用いることにより、ADSCsを高純度で含有する細胞製剤を調製することができる。
(4)低血清培養(低血清培地での選択的培養)及び細胞の回収
本発明の一態様では、上記(3)の操作の代わりに又は上記(3)の操作の後に以下の低血清培養を行う。そして、その結果得られた細胞をADSCsとして本発明の細胞製剤に用いる。
低血清培養では、SVF画分((3)の後にこの工程を実施する場合には(3)で回収した細胞を用いる)を低血清条件下で培養し、目的の多能性幹細胞(即ちADSCs)を選択的に増殖させる。低血清培養法では用いる血清が少量で済むことから、本発明の細胞製剤を投与する対象(患者)自身の血清を使用することが可能となる。即ち、自己血清を用いた培養が可能となる。自己血清を使用することによって、製造工程中から異種動物材料を排斥し、安全性が高く且つ高い治療効果を期待できる細胞製剤が提供される。ここでの「低血清条件下」とは5%以下の血清を培地中に含む条件である。好ましくは2%(V/V)以下の血清を含む培養液中で細胞培養する。更に好ましくは、2%(V/V)以下の血清と1〜100ng/mlの線維芽細胞増殖因子-2(bFGF)を含有する培養液中で細胞培養する。
血清はウシ胎仔血清に限られるものではなく、ヒト血清や羊血清等を用いることができる。好ましくはヒト血清、更に好ましくは本発明の細胞製剤を適用する対象の血清(即ち自己血清)を用いる。
培地は、使用の際に含有する血清量が低いことを条件として、通常の動物細胞培養用の培地を使用することができる。例えば、Dulbecco's modified Eagle's Medium(DMEM)(日水製薬株式会社等)、α-MEM(大日本製薬株式会社等)、DMEM:Ham's F12混合培地(1:1)(大日本製薬株式会社等)、Ham's F12 medium(大日本製薬株式会社等)、MCDB201培地(機能性ペプチド研究所)等を使用することができる。
以上の方法で培養することによって、多能性幹細胞(ADSCs)を選択的に増殖させることができる。また、上記の培養条件で増殖する多能性幹細胞(ADSCs)は高い増殖活性を持つので、継代培養によって、本発明の細胞製剤に必要とされる数の細胞を容易に調製することができる。尚、国際公開第2006/006692A1号パンフレットには、SVF画分を低血清培養することによって選択的に増殖する細胞の特徴が示されている。
続いて、上記の低血清培養によって選択的に増殖した細胞を回収する。回収操作は上記(3)の場合と同様に行えばよい。回収した細胞(ADSCs)を用いることにより、ADSCsを高純度で含有する細胞製剤を調製することができる。
(5)製剤化
SVF画分の細胞、上記選択培養(3)の結果得られた細胞、又は上記低血清培養(4)の結果得られた細胞を、別途用意した体脂肪と混合することにより、本発明の細胞製剤を構成することができる。得られた細胞を、体脂肪との混合の前に、生理食塩水や適当な緩衝液(例えばリン酸系緩衝液)等に懸濁しておくことにしてもよい。
細胞の保護を目的としてジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等を、細菌の混入を阻止することを目的として抗生物質等を、細胞の活性化、増殖又は分化誘導などを目的として各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)を本発明の細胞製剤に含有させてもよい。サイトカインの例はインターロイキン(IL)、インターフェロン(IFN)、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)及びエリスロポエチン(EPO)、アクチビン、オンコスタチンM(OSM)である。尚、CSF、G-CSF、EPO等は成長因子でもある。一方、成長因子の例は肝細胞増殖因子(HGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、FGF2)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、神経成長因子(NGF)及び脳由来神経栄養因子(BDNF)である。さらに、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を本発明の細胞製剤に含有させてもよい。
以上の方法では、SVF画分を低血清培養して増殖した細胞を用いて細胞製剤が構成されるが、脂肪組織から得た細胞集団を直接(SVF画分を得るための遠心処理を介することなく)低血清培養することによって増殖した細胞をADSCsとして用いて細胞製剤を調製することにしてもよい。即ち本発明の一態様では、脂肪組織から得た細胞集団を低血清培養したときに増殖した細胞をADSCsとして用いる。また、選択的培養(上記(3)及び(4))によって得られる多能性幹細胞ではなく、SVF画分(脂肪組織由来間葉系幹細胞を含有する)をそのまま用いて細胞製剤を構成することにしてもよい。この態様の細胞製剤は、(a)脂肪組織をプロテアーゼ処理した後、濾過処理に供し、次いで濾液を遠心処理することによって沈渣として回収される沈降細胞集団(SVF画分)、又は(b)脂肪組織をプロテアーゼ処理した後、濾過処理を経ることなく遠心処理することによって沈渣として回収される沈降細胞集団(SVF画分)を含有することになる。尚、ここでの「そのまま用いて」とは、選択的培養を経ることなく細胞製剤の有効成分として用いること、を意味する。
通常、本発明の細胞製剤は患部又はその周囲(声帯筋内又は喉頭粘膜下)に投与される。投与方法はシリンジなどを利用した注入が一般的である。細胞製剤の投与量の例を示すと、例えば0.5ml〜100ml、好ましくは1ml〜50mlである。二箇所以上に投与することにしてもよい。
投与スケジュールは、治療対象(患者)の性別、年齢、体重、病態などを考慮して作成すればよい。単回投与の他、連続的又は定期的に複数回投与することにしてもよい。複数回投与する際の投与間隔は特に限定されず、例えば1日〜3月である。また、投与回数も特に限定されない。投与回数の例は1回〜5回である。
A.目的
声門閉鎖不全に対する有効な治療法を確立するため、ADSCsと脂肪の併用の有効性を検討することにした。具体的には、皮下の脂肪組織から分離装置を用いて抽出したADSCsを脂肪に混和することで高濃度ADSCs含有脂肪を作成し、これを内視鏡下に大型動物一側声帯麻痺モデルの声帯筋内に注入し、治療効果と安全性を検討した。
B.方法
B−1.概要
対象動物:ブタ2頭(マイクロミニピッグ)
生産者:富士マイクラ株式会社
体重:約20kg
大動物としてブタ2頭を対象とした。まず頸部切開により右反回神経を同定し、切断することで、一側声帯麻痺モデルのブタを作製した。右反回神経の切断から1ヶ月後に超音波検査、血流計による測定、内視鏡による観察を行った後、腹部皮下から脂肪を吸引にて採取し、細胞分離装置でADSCsを抽出し、ADSCs例には自家脂肪+ADSCs、Fat例には自家脂肪+乳酸リンゲル液を右声帯内に注入した。
注入操作から1ヶ月後に超音波検査、血流計による測定、内視鏡による観察を行った。注入3ヶ月後に喉頭摘出し、HE染色して比較検討した。また、全臓器摘出病理組織での安全性の検討を行った。
B−2.手術方法
B−2a.右声帯麻痺モデル作製
手術時間:19分、48分
出血量:10ml以下
手術方法:全身麻酔下にて仰臥位で手術した。まず、超音波検査にて頸部の診察を行い、声帯、気管、甲状腺などの位置を確認し、輪状軟骨下縁にて皮膚を横切開し、周囲を剥離して甲状腺、輪状軟骨、甲状軟骨、気管を同定した。第2、3気管の右側深部にて右反回神経を確認した。神経周囲より遊離し剪刀にて切離し、両端を非吸収糸(絹糸2-0)にて結紮した。出血がないことを確認し、皮下(吸収糸;バイクリル3-0)皮膚(非吸収糸;絹糸1-0)で縫合した。その後に内視鏡にて右声帯が麻痺しているのを確認した後、全身麻酔から覚醒させた。覚醒後に呼吸状態が問題ないこと、嗄声になっていることを確認した。
B−2b.脂肪吸引術
手術時間:45分、85分
出血量:10ml以下
手術方法:全身麻酔下に仰臥位をとり、臨床で行うのと同様の手技で皮下にエピネフリン含有生理食塩液(0.001% )500 mlを注入し18Gの皮下脂肪吸引管にて50ml自己脂肪組織を吸引した。この組織から細胞分離装置CellutionTM (サイトリ・セラピューティクス社)により脂肪由来幹細胞を抽出した(5ml溶液となる)。止血を確認した後に腹部を包帯で圧迫した。
B−2c.声帯内脂肪注入手術
全身麻酔下にて仰臥位で喉頭展開をして、右声帯の麻痺が残存し、声帯の萎縮が見られることを確認した。Fat例用の移植材料として、脂肪1mlと乳酸リンゲル液0.5mlを混和し、計1.5mlとした。ADSCs例用の移植材料として、脂肪1mlとADSCs液0.5ml(脂肪5mlに含まれるADSCsに相当する)を混和し、計1.5ml(約0.5×106個のADSCsを含む)とした。内視鏡下にて両例ともに左声帯筋内に注入した。注入後は漏出のないように綿球にて刺入部をしばらく圧迫した。呼吸状態に問題ないことを確認し終了とした。
B−3.評価方法
B−3a.超音波検査
全身麻酔下、仰臥位で頸部を固定して、全体をBモード、カラードプラー法にて観察した。
B−3b.内視鏡検査
全身麻酔下、非挿管にて喉頭展開をした。軟性内視鏡(Karl Storz社製)を用いて経口的に両声帯の形状、色調、動きを観察した。両声帯を観察した。
B−3c.非接触式血流計による評価
喉頭展開をしてから、非接触式血流計を用いて左右声帯をそれぞれ計測し、記録した。20秒程度安定した数値が出るのを確認して、血流の値を計測し記録した。5回以上計測して、最高値をその時点での血流計の値とした。
B−3d.CT検査
麻酔:吸入麻酔を使用して、撮影中の動きアーチファクト(motion artifact)が出ない程度に呼吸を抑制する。
CT撮影:仰臥位、頸部伸展位で固定して、喉頭の全体が入る撮像範囲を確保し、舌骨の約1cm上方から第2気管輪まで1 mmスライスで撮影した。造影剤はオムニパーク(非イオン性ヨード系造影剤,第一三共株式会社)2 mL/kgを使用し、動脈相を撮影した。
B−3e.音声評価
マイクロミニピッグを歩行時雑音等が入らないように後方から抱きかかえるとほぼ同じリズムで鳴く。この声を90度指向性マイクロフォンを用い、PCM録音した。このとき、鳴き声は吸気音でなく呼気音であることを確認した。録音した音声を音響分析ソフトウエアにより音響分析と音声波形分析に供した。
C.結果
C−1.超音波検査
超音波検査の結果を図1に示す。ADSCs例(上)では注入部に十分な量の移植材料が残存している。Fat例(下)では移植材料(脂肪)の残量量が少ない。
C−2.内視鏡検査
内視鏡検査の結果を図2(ADSCs例)及び図3(Fat例)に示す。ADSCs例(図2右下)では注入から1ヶ月の時点で右声帯内の萎縮が改善している。対照的にFat例(図3右下)には萎縮の残存を認める。
C−3.非接触式血流計
非接触式血流計による測定結果を図4に示す。ADSCs例(上)は移植材料の注入後に劇的な血流の改善を認めた。特筆すべきことに、注入後30日目の血流量は、神経切断前と同等以上であった。
C−4.CT検査
CT検査の結果を図5に示す。ADSCs例では造影CT(右上)において注入部位に造影効果を認め、血流の増加が示唆される。Fat例(右下)では同様の造影効果は認められない。
C−5.音声評価
1)音響分析ソノグラム
ソノグラムは時間変化を横軸に縦に周波数で表し、音声の共鳴など可視化したグラフである。声帯の振動が一定に保たれると連続的な縞模様が描出される。最も下の縞が基本周波数を示す。安定した発声中央1.0秒を図6に示した。いずれの個体も反回神経切断により、一番下の基本周波数を示す帯(フォルマント)の連続性、安定性が低下し、咽頭腔での共鳴を示す、高い周波数での帯一定にならない(左中央、右中央)。注入術後は、ADSCs例(左下)ではフォルマントの形成は明瞭で、基本周波数の断続性はFat例(右下)よりも少なく、より処置前の音声に近いまたはほぼ同程度の音声を再獲得していると判断できる。
2)音声波形
片側声帯が麻痺することにより正常側の声帯振動にも影響されることが予想される。音声波形を直接表示し、ADSCs例とFat例で比較した(図7)。横幅は0.1秒で表示した。いずれの個体も反回神経切断により音声波形は小さく、周期性が乱れている(左中央、右中央)。注入術術後にいずれも周期性は改善するも(左下、右下)、ADSC例(左下)ではより密に波形が見られる。つまり、高い周波数が安定して見られ、振幅の乱れの少ない音声が再獲得できている。Fat例(右下)では処置前に比べ波形の繰り返しの間隔が広く、それぞれの波形も安定しない。特に波形の密な周波数の高い成分は安定してでていない。
D.考察
幹細胞は多分化能と自己複製能を併せ持つ細胞であり、ADSCsは現在、虚血性心疾患や下肢虚血、***再建などに広く応用されている。Yoshimuraらは豊胸のために、脂肪吸引によって得られた脂肪の移植の際に自家脂肪とADSCsを混合移植する方法を考案し、その後の研究でも移植組織の容量の維持効果の高いことが報告されている(Yoshimura K: Cell assisted lipotransfer for cosmetic breast augmentation : supportive use of adiposed derived stem cells. Aesthet Plast Surg, 32:48-55,2008.(非特許文献7);Sterodimas A: Autologous fat transplantation versus adiposed-derived stem cell-enriched lopografts: A study. Aesthet Surg J, 31: 682-693, 2011.(非特許文献8))。
脂肪組織とADSCsを混ぜることによって、ADSCsの役割として、(1)ADSCsそのものが脂肪前駆細胞として組織での代謝を担う、(2)ADSCsそのものが血管内皮細胞へ分化して、血管新生を促す、(3)ADSCsがHGF、bFGF、VEGFなどの液性血管増殖因子を放出し、血管新生を促す、などの効果が期待できる。実際、今回の検討においても、ADSCs注入後1ヶ月の時点でも血流の増加(血流計による評価)が示された。注入後1ヶ月の時点での評価であり、脂肪単独移植との詳細な比較は難しいが、超音波検査でも注入部に十分な量が残存しており、声帯の容量も増加していることも示された。また、注入後6週の時点で撮影した造影CTではADSCs例のほうがFat例に比べて、残存容量も多く、造影効果も高い傾向があったことから、ADSCsが注入した脂肪への分化を示すとともに血管新生を促す可能性が示唆された。Ciceroらは声帯内脂肪注入を受けた患者12名の吸引脂肪を用いて脂肪由来幹細胞の培養・解析を行い、移植脂肪の長期間の組織生着という点に関して脂肪由来幹細胞が重要な役割を果たしていると報告している(V. Lo Cicero: Do mesenchymal stem cells play a role in vocal fold fat graft survival?: Cell prolif, 41: 460-473, 2008.(非特許文献9))。今回の検討では、通常の吸引脂肪に対して10倍濃縮した脂肪由来幹細胞を混合し、高濃度(4倍濃縮)のADSCs含有脂肪を作製した。通常の吸引脂肪に比較して、より高濃度でADSCsを含有する脂肪を声帯内に注入することで、注入脂肪の容量が長期間にわたり持続でき、より質の高い音声を獲得できることが示された。
本発明の細胞製剤は声門閉鎖不全の治療に使用される。本発明の細胞製剤によれば持続した治療効果を期待できる。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

Claims (8)

  1. 体脂肪と脂肪組織由来間葉系幹細胞を含有する、声門閉鎖不全治療用細胞製剤。
  2. 前記脂肪組織由来間葉系幹細胞が、前記体脂肪の2倍〜40倍に相当する量の体脂肪から分離された細胞である、請求項1に記載の細胞製剤。
  3. 脂肪組織由来間葉系幹細胞の含有量が、1ml当たり1.6×105個〜3.3×106個である、請求項1に記載の細胞製剤。
  4. 前記脂肪組織由来間葉系幹細胞が、体脂肪から分離した脂肪組織由来幹細胞を培養して得られた細胞である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞製剤。
  5. 生体から分離した体脂肪を有効成分とした第1構成要素と、脂肪組織由来間葉系幹細胞を有効成分とした第2構成要素と、からなるキットであることを特徴とする、請求項1に記載の細胞製剤。
  6. 脂肪組織由来間葉系幹細胞を含有する声門閉鎖不全治療用細胞製剤であって、その投与時に、生体から分離した体脂肪が併用投与されることを特徴とする、前記声門閉鎖不全治療用細胞製剤。
  7. 一側声帯麻痺に伴う声門閉鎖不全の治療に用いられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の細胞製剤。
  8. 声門閉鎖不全治療用細胞製剤を製造するための、体脂肪と脂肪組織由来間葉系幹細胞の使用。
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