JP6361874B2 - 伝達関数近似装置、そのプログラム及びその方法 - Google Patents
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Description
不安定伝達関数とは、不安定極を含み、応答が発振する伝達関数のことである。
安定伝達関数とは、不安定極を含まず、応答が収束する伝達関数のことである。
なお、全域通過特性を持つ関数は、不安定零点及び極又はその何れかと、その複素共役の逆数の関係にある極及び零点とを含む伝達関数である。
ここで、不安定伝達関数の分母多項式を分子多項式で除算することは、不安定伝達関数の逆数をとって除算することと等価である。
ここで、不安定伝達関数が全域通過特性を持つため、不安定伝達関数の逆数も全域通過特性を持つことになる。そして、不安定伝達関数の逆数が商多項式で近似されることから、商多項式のマッチドフィルタも全域通過特性を持つことになる。
[フィルタ近似装置の構成]
図1を参照し、本願発明の第1実施形態に係るフィルタ近似装置(伝達関数近似装置)1の構成について説明する。
フィルタ近似装置1は、不安定極を含む入力伝達関数Hを、不安定極が含まれないように近似するものである。図1のように、フィルタ近似装置1は、伝達関数分解手段10と、伝達関数除算手段20と、判定手段30と、マッチドフィルタ算出手段40と、伝達関数近似手段50とを備える。
本実施形態では、伝達関数分解手段10は、入力伝達関数Hの係数を有するフィルタが外部(例えば、トランスオーラル再生システム)から入力される。この入力伝達関数Hは、有理関数の比で表されると共に、不安定極を含む不安定伝達関数である。
本実施形態では、判定手段30は、剰余多項式Dの全係数に対する閾値判定により、剰余多項式Dの全係数が小さいか否かを判定する。例えば、判定手段30は、閾値Tが予め設定され、剰余多項式Dの全係数が閾値T未満であるか否かを判定する。
なお、伝達関数除算手段20が除算を繰り返すと、近似精度が向上する一方、除算反復回数Nが多くなるため、近似による遅延(モデリングディレイ)が増大する。
ここでは、分母多項式H− B=3q−1+4q−2+5q−3を、分子多項式H− A=q−1で除算する具体例をあげて、伝達関数除算手段20による除算及び判定手段30による閾値判定を説明する。
剰余多項式Dの係数の全てが閾値T未満になるまで、伝達関数除算手段20による除算及び判定手段30による閾値判定が繰り返されることになる。
マッチドフィルタ算出手段40は、判定手段30から入力された商多項式CのマッチドフィルタCMを算出するものである。
なお、c0,…,cN−1が商多項式Cの係数を表し、qがシフトオペレータを表す。
以下、マッチドフィルタと安定伝達関数との積で近似した伝達関数を「近似伝達関数」と呼ぶ。
図2を参照し、フィルタ近似装置1の動作について説明する(適宜図1参照)。
フィルタ近似装置1は、伝達関数分解手段10によって、式(1)を用いて、入力伝達関数Hを不安定伝達関数H−と安定伝達関数H+とに分解する(ステップS1)。
フィルタ近似装置1は、判定手段30によって、剰余多項式Dの全係数が閾値T未満であるか否かを判定する(ステップS3)。
フィルタ近似装置1は、伝達関数近似手段50によって、式(7)を用いて、マッチドフィルタCMにより入力伝達関数Hを近似する(ステップS5)。
本願発明の第1実施形態に係るフィルタ近似装置1は、括り出された不安定伝達関数H−が全域通過特性を持つため、不安定伝達関数H−の逆数も全域通過特性を持つことになり、マッチドフィルタも全域通過特性を持つことになる。従って、フィルタ近似装置1は、不安定伝達関数H−の振幅特性を精度よく近似できる。さらに、フィルタ近似装置1は、不安定伝達関数H−の逆数をとる際に位相が一旦反転するが、マッチドフィルタを算出することで遅延は伴うものの位相再度が反転して元に戻るため、不安定伝達関数H−の位相特性も精度よく近似できる。このように、フィルタ近似装置1は、一定の遅延を伴うものの、不安定伝達関数H−の振幅特性及び位相特性を精度よく近似し、入力伝達関数Hの安定化を図ることができる。
図3,図4を参照し、本願発明の第2実施形態に係るフィルタ近似装置1について説明する。この第2実施形態では、フィルタ近似装置1が、トランスオーラル再生システム100に用いられる。
図3を参照し、トランスオーラル再生システム100の概略について、説明する。
頭部伝達関数(HRTF:Head-Related Transfer Function)は、自由音場において、頭がない状態での頭部中心に相当する位置から、頭外音源位置を経て両耳鼓膜位置もしくは外耳道入口までの音響伝達関数として定義される。このHRTFには、両耳間時間差やレベル差、周波数特性上のスペクトラルキューなど、音像定位知覚に関連した多くの特徴量が含まれている。そのため、HRTFを音源信号に作用させる、言い換えると、HRTF領域表現である頭部インパルス応答を音源信号に畳み込むことにより、任意の方位に音像を定位知覚させることができる。このように生成される信号をバイノーラル信号、という。また、バイノーラル信号をヘッドホンにより再生する再生方式をバイノーラル再生方式という。
図3では、Xi(q)及びGij(q)にそれぞれ符号110,140を付した。また、符号130がスピーカを表し、符号150が頭部位置を表し、符号160が音源を表す。
図4を参照し、図1のフィルタ近似装置1の利用例について説明する(適宜図3参照)。
この図4では、図面を見やすくするため、制御器120及びスピーカ130を1個だけ図示した。
具体的には、フィルタ近似装置1は、入力伝達関数として、各制御器120を構成する伝達関数H(q)をそれぞれ入力し、第1実施形態と同様の処理を行う。そして、フィルタ近似装置1は、伝達関数H(q)の近似伝達関数を各制御器120に出力する。その後、各制御器120は、フィルタ近似装置1から入力された近似伝達関数を用いて、トランスオーラル再生を行う。
本願発明の第2実施形態に係るフィルタ近似装置1は、第1実施形態と同様の理由により、伝達関数H(q)を精度よく近似することができる。従って、フィルタ近似装置1を用いると、制御器120を容易に実装することができる。
10 伝達関数分解手段
20 伝達関数除算手段
30 判定手段
40 マッチドフィルタ算出手段
50 伝達関数近似手段
Claims (5)
- 有理関数の比で表される不安定極を含む入力伝達関数を、前記不安定極が含まれないように近似する伝達関数近似装置であって、
前記入力伝達関数を、前記不安定極及び当該不安定極の複素共役の逆数の関係にある零点が含まれる不安定伝達関数と、当該不安定伝達関数以外の安定伝達関数とに分解する伝達関数分解手段と、
前記伝達関数分解手段で分解された不安定伝達関数の分母多項式を分子多項式で除算することで、前記不安定伝達関数の逆数について商多項式及び剰余多項式を算出する伝達関数除算手段と、
前記剰余多項式を扱わずに前記商多項式のみで近似を行うために、前記剰余多項式の全係数が小さくなるまで、前記伝達関数除算手段に除算を実行させる判定手段と、
前記伝達関数除算手段で算出された商多項式のマッチドフィルタを算出するマッチドフィルタ算出手段と、
前記マッチドフィルタ算出手段で算出されたマッチドフィルタと前記安定伝達関数との積で前記入力伝達関数を近似する伝達関数近似手段と、
を備えることを特徴とする伝達関数近似装置。 - 前記判定手段は、前記剰余多項式の全係数に対する閾値判定により、前記剰余多項式の全係数が小さいか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の伝達関数近似装置。
- 前記伝達関数分解手段は、前記入力伝達関数として、クロストークキャンセレーション用の伝達関数を分解することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の伝達関数近似装置。
- コンピュータを、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の伝達関数近似装置として機能させるための伝達関数近似プログラム。
- 有理関数の比で表される不安定極を含む入力伝達関数を、前記不安定極が含まれないように近似する伝達関数近似方法であって、
前記入力伝達関数を、前記不安定極及び当該不安定極の複素共役の逆数の関係にある零点が含まれる不安定伝達関数と、当該不安定伝達関数以外の安定伝達関数とに分解する伝達関数分解ステップと、
前記伝達関数分解ステップで分解された不安定伝達関数の分母多項式を分子多項式で除算することで、前記不安定伝達関数の逆数について商多項式及び剰余多項式を算出する伝達関数除算ステップと、
前記剰余多項式の全係数に対する閾値判定により、前記剰余多項式の全係数が小さいか否かを判定し、前記剰余多項式を扱わずに前記商多項式のみで近似を行うために、前記剰余多項式の全係数が小さくなるまで、前記伝達関数除算ステップの処理に戻る判定ステップと、
前記伝達関数除算ステップで算出された商多項式のマッチドフィルタを算出するマッチドフィルタ算出ステップと、
前記マッチドフィルタ算出ステップで算出されたマッチドフィルタと前記安定伝達関数との積で前記入力伝達関数を近似する伝達関数近似ステップと、
を順に実行することを特徴とする伝達関数近似方法。
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