次に、添付の図面を参照しながら、本発明の限定的でない例示の実施形態について説明する。
なお、添付の全図面の中の記載で、同一又は対応する部材又は部品には、同一又は対応する参照符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面は、特に指定しない限り、部材もしくは部品間の相対比を示すことを目的としない。したがって、具体的な寸法は、以下の限定的でない実施形態に照らし、当業者により決定することができる。
また、以下説明する実施形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述される全ての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
図1は、本発明のある実施形態であるショベル100を示している。
ショベル100は、下部走行体1の上部に旋回機構2を介して上部旋回体3が搭載されている。上部旋回体3は、エンジンルーム3a、ブーム4、アーム5、バケット6、及びキャビン10等が設けられている。
ブーム4は先端にアーム5が取り付けられており、アーム5は先端にバケット6が取り付けられている。ブーム4、アーム5、及びバケット6は、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によりそれぞれ油圧駆動される。
キャビン10は、運転者に操作される操作装置26(図2参照)等が配設されている。なお、エンジンルーム3aにはエンジン等の動力源が搭載されている。
また、本実施形態に係るショベル100は、旋回駆動装置に供給する電力を蓄積する蓄電装置を有する、いわゆるハイブリッド式のショベルを例に挙げている。しかしながら、本発明は、後述するメカニカルブレーキを採用したショベルであれば、例えば外部電源から充電電力が供給される電気駆動式ショベル、また油圧モータにより旋回機構2を駆動する油圧式のショベルについて適用が可能なものである。
図2は、ショベル100の駆動系の構成を示すブロック図である。なお、図2において機械的動力系は二重線、高圧油圧ラインは太い実線、パイロットラインは破線、電気駆動・制御系は細い実線でそれぞれ示している。
ショベル100の駆動系は、エンジン11、電動発電機12、メインポンプ14、パイロットポンプ15、コントロールバルブ17、操作装置26、コントローラ30、旋回駆動装置40、及び蓄電系120等を有している。
エンジン11と電動発電機12は、変速機13の2つの入力軸にそれぞれ接続されている。変速機13の出力軸は、メインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されている。メインポンプ14及びパイロットポンプ15は、いずれも油圧ポンプである。
メインポンプ14には、高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。また、パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26が接続されている。
前記のように本実施形態では、ハイブリッド式のショベル100を例に挙げている。コントロールバルブ17は、ハイブリッド式ショベル100における油圧系の制御を行う。よってコントロールバルブ17には、高圧油圧ラインを介して下部走行体用の油圧モータ1A,1B、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9等が接続されている。
電動発電機12は、インバータ18を介して蓄電系120と接続されている。蓄電系120は、蓄電器としてのキャパシタ(蓄電装置)を有している。また蓄電系120は、旋回駆動装置40と接続されている。
旋回駆動装置40は、旋回用電動機21、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回減速機24等を有している。蓄電系120は、インバータ20を介して旋回用電動機21と接続されている。また旋回用電動機21の出力軸21bは、レゾルバ22及び旋回減速機24と接続されている。さらに、旋回減速機24の出力軸24Aは、メカニカルブレーキ23に接続されている。
旋回用電動機21は、上部旋回体3を旋回駆動するための旋回用電動モータとして機能する。またメカニカルブレーキ23は、上部旋回体3に機械的にブレーキを掛けるブレーキ装置として機能する。
操作装置26は、レバー26A、レバー26B、ペダル26Cを有している。レバー26A、レバー26B、及びペダル26Cは、油圧ライン27及び28を介して、コントロールバルブ17及び圧力センサ29にそれぞれ接続されている。また圧力センサ29は、電気系の駆動制御を行うコントローラ30に接続されている。
コントローラ30は、ハイブリッド式ショベルの駆動制御を行う主制御部としての制御装置である。コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)及び内部メモリを含む演算処理装置で構成される。このコントローラ30は、CPUが内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムを実行することにより所定の駆動制御を実行する。
具体的には、コントローラ30は圧力センサ29から供給される信号を速度指令に変換し、この信号に基づき旋回用電動機21の駆動制御を行う。この際、圧力センサ29から供給される信号は、旋回機構2を旋回させるために運転者が操作装置26を操作した操作量を表す信号となる。
またコントローラ30は、電動発電機12の運転制御を行う。ここで電動発電機12の運転制御とは、電動(アシスト)運転又は発電運転の切り替えを行う制御をいう。
さらにコントローラ30は、蓄電系120に設けられたキャパシタの充放電制御を行う。具体的には、コントローラ30はキャパシタの充電状態、電動発電機12の運転状態、及び旋回用電動機21の運転状態に基づいて、蓄電系120の昇降圧コンバータの昇圧動作と降圧動作の切り替え制御を行う。
本実施形態では、電動発電機12の運転状態として、電動(アシスト)運転状態と、発電運転状態の二つの運転状態を有する。また旋回用電動機21の運転状態としては、力行運転と、回生運転の二つの運転状態を有する。なお、コントローラ30は、後述するようにキャパシタに充電する量(充電電流又は充電電力)の制御も行う。
上述の駆動系を有するショベル100は、上部旋回体3を旋回駆動する際、インバータ20を介して供給される電力により旋回用電動機21を駆動する。旋回用電動機21の出力軸21bの回転力は、旋回減速機24を介して旋回駆動装置40の出力軸40Aに伝達される。
図3は、本発明の一実施形態であるショベル100に搭載される旋回駆動装置40のブロック図である。旋回駆動装置40は、旋回用電動機21、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、旋回減速機24、及び出力軸40A等を有している。
旋回用電動機21は、電動モータである。旋回減速機24は、旋回用電動機21の出力軸側に接続されている。この旋回減速機24は、第1旋回減速機24−1、第2旋回減速機24−2、及び第3旋回減速機24−3の3段構成を有している。この第1旋回減速機24−1、第2旋回減速機24−2、及び第3旋回減速機24−3は、それぞれ遊星減速機で構成されている。
第1段の第1旋回減速機24−1は、旋回用電動機21に組み付けられている。また、第1旋回減速機24−1の出力軸となる遊星キャリア46には、メカニカルブレーキ23が設けられている。
また第2段の第2旋回減速機24−2は、メカニカルブレーキ23を間に挟んで第1旋回減速機24−1に組み付けられている。さらに、第3段の第3旋回減速機24−3は、第2旋回減速機24−2に組み付けられている。そして、第3旋回減速機24−3の出力軸が旋回駆動装置40の出力軸40Aとなる。
なお、図示はしないが、旋回駆動装置40の出力軸40Aは旋回機構2に接続され、出力軸40Aの回転力により旋回機構2が駆動される。
次に、図4〜図6を参照しながら、旋回駆動装置40の具体的な構成について説明する。
なお、図4は、旋回駆動装置40の上面図であり、図4中の破線は、第1旋回減速機24−1の主要構成部品のかくれ線を表す。また、図5は、図4のV−V線断面図である。また図6は旋回駆動装置40のうち、第1旋回減速機24−1及びメカニカルブレーキ23の近傍を拡大して示す断面図である。
図4及び図5に示すように、第1旋回減速機24−1は、太陽歯車42、遊星歯車44、遊星キャリア46、及び内歯歯車48等を有した遊星歯車機構で構成される。また図5に示すように、第2旋回減速機24−2は、太陽歯車82、遊星歯車84、遊星キャリア86、及び内歯歯車88等を有した遊星歯車機構で構成される。同様に、第3旋回減速機24−3は、太陽歯車102、遊星歯車104、遊星キャリア106、及び内歯歯車108等を有する遊星歯車機構で構成される。
第1旋回減速機24−1は、第1ギヤケース50及び第2ギヤケース52の内部に収納されている。
太陽歯車42は、旋回用電動機21の出力軸21bに固定されている。この太陽歯車42には、本実施形態では3つの遊星歯車44がそれぞれ噛合(係合)している。
各遊星歯車44は、遊星キャリア46に立設されたピン44aに回転可能に軸承されている。また各遊星歯車44は、第1ギヤケース50の内面に形成された内歯歯車48に噛合している。
内歯歯車48が形成された第1ギヤケース50は、旋回用電動機21のエンドプレート21aに固定されている。よって、内歯歯車48(第1ギヤケース50)は自ら回転することはできない。
一方、 遊星キャリア46の下部は、第1旋回減速機24−1の出力軸となる。この出力軸となる遊星キャリア46は、第1ギヤケース50に固定された第2ギヤケース52に対し、ベアリング56を介して回転可能に軸承されている。
なお、上述の第1旋回減速機24−1は、潤滑油LB1により潤滑される。具体的には、第1旋回減速機24−1は旋回用電動機21のエンドプレート21a、出力軸21b、第1ギヤケース50、第2ギヤケース52、及び遊星キャリア46によって密閉される密閉空間を有しており、この密閉空間内には潤滑油LB1(図5及び図6に細かいドットで示す)が充填されている。よって第1旋回減速機24−1は、潤滑油LB1により潤滑される構成となっている。
以上のような構成の第1旋回減速機24−1において、旋回用電動機21の出力軸21bが回転して太陽歯車42が回転すると、遊星歯車44が回転(自転)する。遊星歯車44は第1ギヤケース50の内面に形成された内歯歯車48に噛合している。よって、内歯歯車48が形成された第1ギヤケース50は、遊星歯車44の回転力により回転しようとする。
ところが第1ギヤケース50は、前記のように旋回用電動機21のエンドプレート21aに固定されているため回転することはできない。これに対して遊星キャリア46は、第2ギヤケース52に対して回転可能な構成とされている。
その結果、遊星歯車44の回転力は遊星キャリア46を回転させる力として作用し、これにより遊星キャリア46は回転する。これにより、旋回用電動機21の出力軸21bの回転は第1旋回減速機24−1で減速され、遊星キャリア46から出力される。
なお本実施形態では、太陽歯車42、各遊星歯車44、及び内歯歯車48は、はすば歯車で構成されている。この構成により、第1旋回減速機24−1を構成する核歯車42,44,48等において騒音や振動が発生することを低減できると共に、各歯のかみ合いの円滑化を図ることができる。
次に、第2旋回減速機24−2について説明する。第2旋回減速機24−2の太陽歯車82は、第1旋回減速機24−1の出力軸としての遊星キャリア46に固定されている。この太陽歯車82は、複数の遊星歯車84と噛合している。さらに遊星歯車84は、第3ギヤケース54の内壁に形成された内歯歯車88と噛合している。よって遊星歯車84は、太陽歯車82と内歯歯車88との間で自転しながら公転する。
本実施形態では、第2旋回減速機24−2は3つの遊星歯車84を有している。この各遊星歯車84は、ピン84aを介して遊星キャリア86に回転可能に支持され、自転しながら公転することによって遊星キャリア86を回転させる。この遊星キャリア86は、第2旋回減速機24−2の出力軸を構成する。
次に、第3旋回減速機24−3について説明する。第3旋回減速機24−3の太陽歯車102は、第2旋回減速機24−2の出力軸としての遊星キャリア86に固定されている。この遊星キャリア86は、複数の遊星歯車104と係合する。さらに遊星歯車104は、第3ギヤケース54の内壁に形成された内歯歯車108と噛合している。よって遊星歯車104は、太陽歯車102と内歯歯車108との間で自転しながら公転する。
本実施形態では、第3旋回減速機24−3は3つの遊星歯車104を有している。この各遊星歯車104は、ピン104aを介して遊星キャリア106に回転可能に支持され、自転しながら公転することによって遊星キャリア106を回転させる。この遊星キャリア106は、第3旋回減速機24−3の出力軸40Aを構成する。
本実施形態では、第3旋回減速機24−3は最終段の減速器である。よって第3旋回減速機24−3の出力軸40Aは、旋回減速機24の出力軸40Aとなる。
また旋回駆動装置40は、遊星キャリア46、第2ギヤケース52、第3ギヤケース54、及び遊星キャリア106で密閉される密閉空間を有している。この密閉空間内には、潤滑油LB2(図5及び図6に粗いドットパターンで示す)が充填されている。
また、この密閉空間内には、第2及び第3旋回減速機24−2,24−3を構成する各歯車が収納されている。よって、第2及び第3旋回減速機24−2,24−3を構成する各歯車は、潤滑油LB2により潤滑される。
上述の構成により、旋回駆動装置40は、旋回用電動機21の出力軸21bの回転速度を減じて出力軸40Aのトルクを増大させる。
なお本実施形態では、第2及び第3旋回減速機24−2,24−3を構成する各歯車として平歯車を用いている。これは、第2及び第3旋回減速機24−2,24−3を構成する歯車は、第1旋回減速機24−1を構成する歯車に比べ回転速度が低く、騒音レベル及び振動レベルも低いためである。なお、第2及び第3旋回減速機24−2,24−3を構成する各歯車を第1旋回減速機24−1と同様にはすば歯車とすることも可能である。
次に、メカニカルブレーキ23について説明する。
メカニカルブレーキ23は、ブレーキディスク60とブレーキプレート62を有するディスクブレーキである。このメカニカルブレーキ23は、固定部である第2ギヤケース52と遊星キャリア46との間に設けられている。
ブレーキディスク60は円盤形状を有しており、中央には遊星キャリア46が挿入される孔が形成されている。またこの孔の内周には、スプライン歯が形成されている。
遊星キャリア46の外周部(ブレーキディスク60が装着される部分)には、スプライン70が形成されている。このスプライン70は、遊星キャリア46の外周に上下方向(図5及び図6に矢印Z1,Z2で示す方向)に延出するよう形成されている。
なお以下の説明において、遊星キャリア46から旋回用電動機21に向かう方向を上方(矢印Z1方向)といい、遊星キャリア46から旋回用電動機21に向かう方向に対して反対方向を下方(矢印Z2方向)というものとする。
ブレーキディスク60に形成されたスプライン歯は、遊星キャリア46に形成されたスプライン70と係合するよう構成されている。よって、ブレーキディスク60が遊星キャリア46に取り付けられた状態において、ブレーキディスク60と遊星キャリア46はスプライン接続された構造となる。
このようにブレーキディスク60と遊星キャリア46がスプライン接続された状態では、ブレーキディスク60は遊星キャリア46から回転半径方向外側に向けて延在した状態となる。またブレーキディスク60は、遊星キャリア46に対して回転はできないが、遊星キャリア46の軸方向(矢印Z1,Z2方向)には移動可能な状態となる。
ブレーキプレート62は、ブレーキディスク60の上下両側に配設されている。ブレーキプレート62も円盤形状を有している。またブレーキプレート62の外周には、スプライン歯が形成されている。
第2ギヤケース52の環状の内壁部(ブレーキプレート62が装着される部分)には、スプライン72が形成されている。このスプライン72は、第2ギヤケース52の内壁に上下方向(図5及び図6に矢印Z1,Z2で示す方向)に延出するよう形成されている。
ブレーキプレート62に形成されたスプライン歯は、第2ギヤケース52に形成されたスプライン72と係合するよう構成されている。よって、ブレーキプレート62が第2ギヤケース52に取り付けられた状態において、ブレーキプレート62と第2ギヤケース52はスプライン接続された構造となる。
このようにブレーキプレート62と第2ギヤケース52がスプライン接続された状態では、ブレーキプレート62は第2ギヤケース52から回転半径方向内側に向けて延在した状態となる。またブレーキプレート62は、第2ギヤケース52に対して回転はできないが、遊星キャリア46の軸方向(矢印Z1,Z2方向)には移動可能な状態となる。
また、ブレーキプレート62の上方は、ピストン64が、遊星キャリア46の軸方向(矢印Z1,Z2方向)に移動可能な状態で配置されている。ピストン64は、スプリング66により押圧されて常に上方のブレーキプレート62に押し付けられている。なお、本実施形態ではスプリング66としてコイルスプリングを用いているが、小さな変位で高出力を得ることのできる多段重ねの皿バネを用いることもできる。
前記のように、ブレーキディスク60及びブレーキプレート62は、いずれも遊星キャリア46の軸方向に移動可能である。そのため、ブレーキプレート62がピストン64により押圧されると、ブレーキディスク60は上下のブレーキプレート62により挟まれて押圧される。そして、ブレーキディスク60がブレーキプレート62により挟まれて押圧されることにより、メカニカルブレーキ23にはブレーキディスク60の回転を阻止しようとするブレーキ力が発生する。
前記のように、ブレーキディスク60は遊星キャリア46に対して回転できない構成とされている。このため、ブレーキディスク60に作用するブレーキ力は、遊星キャリア46の回転を停止させるブレーキ力(制動力)となる。
ピストン64と第2ギヤケース52との間には、作動油が供給可能な油圧空間68が形成されている。また油圧空間68には、ブレーキ解除ポート69が接続されている。さらに、ピストン64と第2ギヤケース52との間にはOリング等のシール部材91が配置されており、油圧空間68内の作動油が漏れ出ないようシールしている。
ブレーキ解除ポート69は、操作装置26に接続されている。そして、パイロットポンプ15から操作装置26、油圧ライン27a(図2参照。)及びブレーキ解除ポート69を介して油圧空間68に油圧が供給されると、ピストン64は油圧により押し上げられる。これにより、ブレーキプレート62を押圧する力がなくなり、メカニカルブレーキ23はブレーキ解除された状態となる。
なお上記構成とされたメカニカルブレーキ23は、上部旋回体3の旋回時にはブレーキが解除され、上部旋回体3の停止時にはブレーキが作動した状態となるよう制御される。
ここで、上記構成とされた旋回駆動装置40において、第1ギヤケース50及び第2ギヤケース52内で発生する遊星キャリア46の軸方向(矢印Z1,Z2方向)に対する移動について考察する。
遊星キャリア46は、旋回駆動装置40に経時劣化等が発生してない状態(以下、正常状態という)においては、ベアリング56等により位置規制されることにより、第1ギヤケース50及び第2ギヤケース52内の所定装着位置に位置している。
しかしながら、ショベル100を長時間使用することにより、ベアリング56に経時劣化が発生するおそれがある。ベアリング56に経時劣化が発生した状態とは、例えばベアリング56が遊星キャリア46を回転可能に支持する機能を維持しつつも、遊星キャリア46を正常位置に位置規制することができなくなった状態をいう。
ベアリング56に経時劣化が発生した場合、遊星キャリア46は第1及び第2ギヤケース50,52の内部において、正常位置から遊星キャリア46の軸方向(矢印Z1,Z2方向)に移動するおそれがある。
一方、ショベル100は過酷な環境下で使用されるものであり、作業時において上部旋回体3及びこれに設けられた各構成物(例えば、ブーム4、アーム5、バケット6等)に大きな外力が印加されるおそれがある。この外力が旋回駆動装置40に印加された場合、遊星キャリア46が軸方向(矢印Z1,Z2方向)に移動するおそれがある。特に、ベアリング56に経時劣化が発生した状態で、上記のような大きな外力が印加された場合には遊星キャリア46の軸方向に対する移動量は大きくなる。
遊星キャリア46が移動すると、ブレーキディスク60がスプライン70から離脱した状態となり、メカニカルブレーキ23による遊星キャリア46(出力軸40A)の制動が適正に行われなくなるおそれがある。
次に、第1及び第2ギヤケース50,52の内部において、遊星キャリア46が軸方向に移動する移動範囲について、主に図5及び図6を用いて考察する。
まず、遊星キャリア46が上方向に移動する場合の移動範囲について考察する。遊星キャリア46の上方向に対する移動が規制されるのは、遊星キャリア46の上方の面(以下、キャリア上面という)が、遊星キャリア46の上方に配設された構成物(以下、上部構成物という)と当接(接触)した場合である。
このキャリア上面と上部構成物とが当接する位置は、キャリア上面と上部構成物との隙間距離が最も小さい位置(以下、上方最少隙間位置という)である。そこで、旋回駆動装置40において、上方最少隙間位置を求める。以下の説明では、出力軸21bの下端部と遊星キャリア46の上面とが対向する位置が上方最少隙間位置であり、その最少隙間距離はCであったとする(図6参照)。
続いて、遊星キャリア46が下方向に移動する場合の移動範囲について考察する。遊星キャリア46の下方向に対する移動が規制されるのは、遊星キャリア46の下方の面(以下、キャリア下面という)が、遊星キャリア46の下方に配設された構成物(以下、下部構成物という)と当接(接触)した場合である。
このキャリア下面と下部構成物とが当接する位置は、キャリア下面と下部構成物との隙間距離が最も小さい位置(以下、下方最少隙間位置という)である。そこで、旋回駆動装置40において、下方最少隙間位置を求める。以下の説明では、ベアリング56の近傍において遊星キャリア46の下面と第2ギヤケース52の上面とが対向する位置が上方最少隙間位置であり、その最少隙間距離はEであったとする(図6参照)。
上記した例のように上方最少隙間位置における最少隙間距離がCであり、上方最少隙間位置における最少隙間距離はEである場合、遊星キャリア46は第1及び第2ギヤケース50,52の内部において、上方向(矢印Z1方向)には距離Cだけ移動可能であり、また下方向(矢印Z2方向)には距離Eだけ移動可能である。即ち、この距離Cと距離Eを加算した距離が、第1及び第2ギヤケース50,52内における遊星キャリア46の移動範囲となる。
遊星キャリア46の移動に拘らずメカニカルブレーキ23を機能させる(制動処理を行う)には、遊星キャリア46が移動範囲内で移動しても、ブレーキディスク60及びブレーキプレート62がスプライン70,72から離脱しないよう構成すればよい。
そこで本実施形態では、上部旋回体3の旋回停止時において、複数積層されるブレーキディスク60の内、最も下方に位置するブレーキディスク60からスプライン70の下端部までの距離(図では矢印Dで示す距離)が、上記の上方最少隙間位置における最少隙間寸法(図では矢印Cで示す寸法)と同一か、それよりも大きくなるよう設定している(D≧C)。
よって本実施形態では、スプライン70の長さを遊星キャリア46が第1及び第2ギヤケース50,52の内部で移動しても、ブレーキディスク60がスプライン70から離脱しない長さに設定している。
具体的には、複数積層されるブレーキディスク60の内で最も下方に位置するブレーキディスク60からスプライン70の端部までの寸法は、遊星キャリア46の上方への移動範囲と同じかそれ以上の寸法に設定している。よって、遊星キャリア46が軸方向に移動しても、ブレーキディスク60がスプライン70から離脱するようなことはない。
また本実施形態では、上部旋回体3の旋回停止時において、複数積層されるブレーキディスク60の内、最も上方に位置するブレーキディスク60からスプライン70の上端部までの距離(図では矢印Fで示す距離)が、上記の上方最少隙間位置における最少隙間寸法(図では矢印Eで示す寸法)と同一か、それよりも大きくなるよう設定している(F≧E)。
よって本実施形態では、最上方に位置するブレーキディスク60よりも上方に延出するスプライン70の寸法は、遊星キャリア46の下方向への移動範囲と同じかそれ以上の寸法となっている。このため遊星キャリア46の下方向の移動においても、ブレーキディスク60がスプライン70から離脱するようなことはない。
なお、第2ギヤケース52に形成されたスプライン72に取り付けられたブレーキプレート62は、上部に設けられているピストン64により、スプライン70からの離脱が防止されている。
このように本実施形態のショベル100では、スプライン70の長さは、遊星キャリア46が第1及び第2ギヤケース50,52の内部で移動しても、ブレーキディスク60,62がスプライン70,72から離脱しない長さに設定されているため、上部旋回体3をメカニカルブレーキ23により確実に制動することができる。
また、万が一にベアリング56が損傷したような場合であっても、ブレーキディスク60,62はスプライン70,72に噛合(係合)した状態を維持する。よって、ベアリング56が損傷したような場合であっても、上部旋回体3をメカニカルブレーキ23により確実に制動することができる。
なお上記した実施形態では、上方最少隙間位置が出力軸21bの下端部と遊星キャリア46の上面とが対向する位置であり、下方最少隙間位置が遊星キャリア46の下面と第2ギヤケース52の上面とが対向する位置である例について説明した。しかしながら、上方最少隙間位置及び下方最少隙間位置は、本実施形態に示した位置に限定されるものではない。
即ち、旋回駆動装置40はショベルの種類(例えば、大型化機か小型機か等)により種々のタイプを有しており、これに伴い旋回駆動装置内における上方最少隙間位置及び下方最少隙間位置は種々異なる位置となる。よって、上方最少隙間位置及び下方最少隙間位置は、旋回駆動装置毎に個別に判断する必要がある。
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。