以下、本発明を具体的に説明する。本発明に使用されるフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)とは、ガラスを構成する基本イオン成分としてSi2+、Al3+、O2−、F−を含み、さらに必要に応じその他の金属イオンを含むガラスにより構成された粒子であって、後述するポリアルケン酸粉末(C)と反応しうる2価以上の原子価をもつ陽イオン、例えば、ストロンチウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、鉄、ジルコニウムなどのイオンを溶出する性質を有するガラス粒子のことをいう。ポリアルケン酸(C)と反応してイオン架橋により硬化する作用を有するとともに、フッ素イオンの徐放性に寄与する。その具体例としては、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、スロトンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラスなどを挙げることができる。これらの中でも、フルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラスが好ましい。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)は、1種類のみならず複数種類を適宜併用してもよい。
本発明で用いられるフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の製造方法は特に限定されない。通例は、原料を所定の重量比で秤量し十分に混合した後、1100℃以上の高温で熔融し、均質に溶けた融体を急冷してガラスフリットとし、通常の粉砕方法、例えばボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどを使用して粉砕することによって製造することができる。あるいは、市販されているフルオロアルミノシリケートガラス粉末をそのまま用いてもよいし、市販品を更に粉砕してもよい。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径は、0.02〜35μmであることが好ましい。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径が0.02μm未満である場合、平均粒径が小さすぎて製造が困難であり、更には、得られる歯科用硬化性組成物の粘度が高くなり過ぎるおそれがある。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径は、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることが最も好ましい。一方、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径が35μmを超える場合、得られる歯科用硬化性組成物の表面にざらつき・粗造感が生じたり、操作性が低下する場合がある。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径は、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。ここで、本発明で用いられるフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される、メディアン径(d50)として求められる。
フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)は、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
本発明の歯科用硬化性組成物において、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)及び混合物(B)の合計100重量部に対して、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)を30〜99重量部含有することが必要である。フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の含有量が30重量部未満の場合、十分なフッ素イオンの徐放性が得られない。一方、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の含有量が99重量部を超える場合、混合物(B)及び水による水和反応が阻害され、カルシウムイオン及びリン酸イオンの十分な放出性が得られない。カルシウムイオン及びフッ素イオンの放出性の観点から、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の含有量は50〜98重量部の範囲であることが好ましく、75〜97重量部の範囲であることがより好ましい。特に、本発明の歯科用硬化性組成物においては、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の含有量が90〜97重量部の範囲である場合に、フッ素イオンの放出量が最大となるため最も好ましい。
本発明で用いられる酸性リン酸カルシウム粒子(B1)としては特に限定されず、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO4]粒子、リン酸三カルシウム[Ca3(PO4)2]粒子、無水リン酸二水素カルシウム[Ca(H2PO4)2]粒子、非晶質リン酸カルシウム[Ca3(PO4)2・xH2O]粒子、酸性ピロリン酸カルシウム[CaH2P2O7]粒子、リン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO4・2H2O]粒子、及びリン酸二水素カルシウム1水和物[Ca(H2PO4)2・H2O]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO4]粒子、リン酸三カルシウム[Ca3(PO4)2]粒子、無水リン酸二水素カルシウム[Ca(H2PO4)2]粒子、及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO4・2H2O]粒子からなる群から選択される少なくとも1種がより好適に使用され、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO4]粒子及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO4・2H2O]粒子からなる群から選択される少なくとも1種が更に好適に使用され、特にカルシウムイオンの放出性の観点から無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO4]粒子が好適に使用される。
本発明で用いられる酸性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径は、0.3〜10μmであることが好ましい。平均粒径が0.3μm未満の場合、酸性リン酸カルシウム粒子(B1)の水(E)への溶解が過多となるため、本発明の歯科用硬化性組成物から放出されるカルシウムイオンとリン酸イオンのバランスが崩れるだけでなく、ペーストの操作性が低下するおそれがある。酸性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径は、0.4μm以上がより好ましく、0.5μm以上が最も好ましい。一方、平均粒径が10μmを超える場合、酸性リン酸カルシウム粒子(B1)が水(E)へ溶解しにくくなり、本発明の歯科用硬化性組成物から放出されるカルシウムイオンとリン酸イオンのバランスが崩れるおそれがある。酸性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径は、5μm以下がより好ましく、3μm以下が最も好ましい。酸性リン酸カルシウム粒子(B1)の平均粒径は、上記フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径と同様にして求められる。
本発明で使用される酸性リン酸カルシウム粒子(B1)の製造方法は特に限定されない。市販品をそのまま用いてもよいし、適宜粉砕して粒径を整えて使用してもよい。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。また、酸性リン酸カルシウム原料粉体をアルコールなどの液体の媒体と共にライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることにより酸性リン酸カルシウム粒子(B1)を得ることもできる。このときの粉砕装置としては、ボールミルを用いることが好ましく、そのポット及びボールの材質としては、好適にはアルミナやジルコニアが採用される。
本発明で用いられる塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)としては特に限定されず、リン酸四カルシウム[Ca4(PO4)2O]粒子及びリン酸八カルシウム5水和物[Ca8H2(PO4)6・5H2O]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でも、特にカルシウムイオンの放出性の観点からリン酸四カルシウム[Ca4(PO4)2O]粒子がより好適に使用される。
本発明で用いられる塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)の平均粒径は、0.6〜35μmであることが好ましい。平均粒径が0.6μm未満の場合、塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)の水(E)への溶解が過多になるため、本発明の歯科用硬化性組成物から放出されるカルシウムイオンとリン酸イオンのバランスが崩れるだけでなく、ペーストの操作性が低下するおそれがある。塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)の平均粒径は、1μm以上がより好ましく、3μm以上が最も好ましい。一方、平均粒径が35μmを超える場合、得られるペーストの操作性が低下するおそれがある。また、水(E)に溶解しにくくなり、本発明の歯科用硬化性組成物から放出されるカルシウムイオンとリン酸イオンのバランスが崩れるおそれがある。塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)の平均粒径は、20μm以下がより好ましく、10μm以下が最も好ましい。塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)の平均粒径は、上記フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径と同様にして求められる。
本発明で使用される塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)の製造方法は特に限定されない。市販されている塩基性リン酸カルシウム粒子をそのまま用いてもよいし、適宜粉砕して粒径を整えて使用してもよい。粉砕方法としては、上記の酸性リン酸カルシウム粒子(B1)の粉砕方法と同様の方法を採用できる。
本発明で用いられるリンを含まないカルシウム化合物(B3)としては特に限定されず、水酸化カルシウム[Ca(OH)2]、酸化カルシウム[CaO]、塩化カルシウム[CaCl2]、硝酸カルシウム[Ca(NO3)2・nH2O]、酢酸カルシウム[Ca(CH3CO2)2・nH2O]、乳酸カルシウム[C6H10CaO6]、クエン酸カルシウム[Ca3(C6H5O7)2・nH2O]、メタケイ酸カルシウム[CaSiO3]、ケイ酸二カルシウム(Ca2SiO4)、ケイ酸三カルシウム(Ca3SiO5)、及び炭酸カルシウム[CaCO3]等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が用いられる。中でも、ハイドロキシアパタイトの成分の析出能の観点より、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸二カルシウム、ケイ酸三カルシウムが好ましく、水酸化カルシウムがより好ましい。
本発明で用いられるリンを含まないカルシウム化合物(B3)の平均粒径は、0.3〜12μmであることが好ましい。平均粒径が0.3μm未満の場合、水(E)への溶解が過多となるため、本発明の歯科用硬化性組成物から放出されるカルシウムイオンとリン酸イオンのバランスが崩れるだけでなく、ペーストの操作性が低下するおそれがある。リンを含まないカルシウム化合物(B3)の平均粒径は、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上が最も好ましい。一方、リンを含まないカルシウム化合物(B3)の平均粒径が12μmを超える場合、リンを含まないカルシウム化合物(B3)が、水(E)へ溶解しにくくなり、本発明の歯科用硬化性組成物から放出されるカルシウムイオンとリン酸イオンのバランスが崩れるおそれがある。リンを含まないカルシウム化合物(B3)の平均粒径は、9.0μm以下がより好ましく、5μm以下が最も好ましい。リンを含まないカルシウム化合物(B3)の平均粒径は、上記フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の平均粒径と同様にして求められる。
本発明で使用されるリンを含まないカルシウム化合物(B3)の製造方法は特に限定されない。市販品をそのまま用いてもよいし、適宜粉砕して粒径を整えて使用してもよい。粉砕方法としては、上記の酸性リン酸カルシウム粒子(B1)の粉砕方法と同様の方法を採用できる。
本発明の歯科用硬化性組成物において、上記の酸性リン酸カルシウム粒子(B1)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)及びリンを含まないカルシウム化合物(B3)は、酸性リン酸カルシウム粒子(B1)と塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)又はリンを含まないカルシウム化合物粒子(B3)との混合物(B)として用いられる。それぞれの混合物において、酸性リン酸カルシウム粒子(B1)と塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)の配合割合、及び酸性リン酸カルシウム粒子(B1)とリンを含まないカルシウム化合物(B3)の配合割合は特に限定されないが、放出されるカルシウムイオン量とリン酸イオン量のバランスの観点から、酸性リン酸カルシウム粒子(B1)と塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)との総和のCa/P比、及び酸性リン酸カルシウム粒子(B1)とリンを含まないカルシウム化合物(B3)の総和のCa/P比が、それぞれ1.10〜1.95となるような配合割合で使用されることが好ましく、より好ましくは1.30〜1.80、最も好ましくは1.50〜1.70となるような配合割合で使用される。また、酸性リン酸カルシウム粒子(B1)と塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)との配合割合(B1/B2)、及び酸性リン酸カルシウム粒子(B1)とリンを含まないカルシウム化合物(B3)の配合割合(B1/B3)は、それぞれモル比で40/60〜60/40であることが好ましい。
本発明の歯科用硬化性組成物において、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)及び混合物(B)の合計100重量部に対して、混合物(B)を1〜70重量部含有することが必要である。混合物(B)が1重量部未満の場合、カルシウムイオンやリン酸イオンの放出量が不十分となる。混合物(B)の含有量は、2重量部以上であることが好ましく、特に3重量部以上であることが好ましい。一方、混合物(B)が70重量部を超える場合、混合物(B)及び水による水和反応が主体的となり、熱力学的に安定なハイドロキシアパタイトが生成する反応が急速に進行してしまうため、本発明の歯科用硬化性組成物から放出されるカルシウムイオンやリン酸イオンの放出量が却って低下する。また、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)に由来するグラスアイオノマー反応が阻害されるため、十分なフッ素イオンの徐放性が得られない。本発明の歯科用硬化性組成物から放出されるフッ素イオンとカルシウムイオンの放出性を両立する観点で、混合物(B)の含有量は、50重量部以下であることが好ましく、25重量部以下であることがより好ましく、10重量部以下であることが最も好ましい。
本発明で使用されるポリアルケン酸(C)は、グラスアイオノマー反応の構成成分として前記のフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)から溶出する陽イオンと反応してポリ塩を形成し得るカルボシキル基又は他の酸性基を有する有機重合体であり、歯質及び歯科用補綴物に対する接着性の発現に寄与する。ポリアルケン酸(C)は、好ましくは不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸の(共)重合体であり、これらの(共)重合体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−クロロアクリル酸、2−シアノアクリル酸、アコニチン酸、メサコン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、グルタコン酸、シトラコン酸等の単独重合体;これら不飽和カルボン酸の共重合体;及びこれら不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。共重合可能な単量体との共重合体の場合には、不飽和カルボン酸単位の割合は、全構造単位に対して50モル%以上であることが好ましい。共重合可能な単量体としてはエチレン性不飽和重合性単量体が好ましく、例えばスチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、アクリル酸塩類,塩化ビニル,塩化アリル,酢酸ビニル、1,1,6−トリメチルヘキサメチレンジメタクリレートエステルなどを挙げることができる。これらポリアルケン酸の中でも、歯質接着強さ及び機械的強度向上の観点から、アクリル酸、マレイン酸及びイタコン酸の単独重合体、アクリル酸とマレイン酸の共重合体、アクリル酸とイタコン酸の共重合体からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、特にアクリル酸とイタコン酸の共重合体であることが好ましい。更に、重合可能なエチレン性不飽和二重結合を含まない重量平均分子量5,000〜50,000の重合体であるものが好ましい。重量平均分子量が5,000未満の場合は硬化体の強度が低くなり易く、また歯質への接着力も低下するおそれがあり、10,000以上であることがより好ましく、35,000以上であることが最も好ましい。また、重量平均分子量が50,000を超える場合には、操作性が低下するおそれがあり、45,000以下であることがより好ましく、40,000以下であることが最も好ましい。
本発明で用いられるポリアルケン酸(C)の製造方法は特に限定されず、市販品を入手できるのであればそれを使用してもよい。特に、粉体として配合する場合については市販品を更に粉砕することが好ましい場合が多い。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。また、ポリアルケン酸粉体をアルコールなどの液体の媒体と共にライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることによりポリアルケン酸(C)を得ることもできる。このときの乾燥装置としては、スプレードライヤーを用いることが好ましい。
本発明の歯科用硬化性組成物において、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)及び混合物(B)の合計100重量部に対して、ポリアルケン酸(C)を1〜60重量部含有することが必要である。ポリアルケン酸(C)の含有量が1重量部未満の場合、歯質及び歯科用補綴物に対する接着性が低くなる。ポリアルケン酸(C)の含有量は、3重量部以上であることが好ましく、5重量部以上であることがより好ましい。一方、ポリアルケン酸(C)の含有量が60重量部を超える場合、操作性が低下したり、機械的強度が低下したりする。ポリアルケン酸(C)の配合量は、40重量部以下であることが好ましく、25重量部以下であることがより好ましい。
本発明において使用される酸性基を有しない重合性単量体(D)は、後述する重合開始剤(F)によりラジカル重合反応が進行して高分子化する重合性単量体であり、例えばα−シアノアクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸エステル、α−ハロゲン化アクリル酸エステル、クロトン酸エステル、桂皮酸エステル、ソルビン酸エステル、マレイン酸エステル、イタコン酸エステル等のエステル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸エステル、並びに(メタ)アクリルアミド及びその誘導体が好適に用いられる。なお本明細書においては、(メタ)アクリルをもってメタクリルとアクリルの両者を包括的に表現する。
本発明において使用される酸性基を有しない重合性単量体(D)の具体例を以下に示す。一つのオレフィン性二重結合を有する単量体を一官能性単量体とし、オレフィン性二重結合の数に応じて、二官能性単量体、三官能性単量体等と表現する。
一官能性単量体:メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、(メタ)アクリルアミド等。
二官能性単量体:エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート(2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン)、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート、1,3−ジ(メタ)アクリロリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン等。
三官能性以上の単量体:トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等。
上記の酸性基を有しない重合性単量体(D)は、いずれも1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。酸性基を有しない重合性単量体(D)の配合量は、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)及び混合物(B)の合計100重量部に対して、5〜90重量部の範囲で用いられる。操作性及び機械的強度の観点で、20〜80重量部の範囲が好ましく、40〜70重量部の範囲がより好ましい。
本発明の歯科用硬化性組成物は、重合性単量体として更に酸性基を有する重合性単量体(G)を含有することが好ましい。酸性基を有する重合性単量体(G)は、歯質及び歯科用補綴物に対する更なる接着性向上に寄与する。かかる重合性単量体としては、例えば、リン酸基、ホスホン酸基、ピロリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、チオリン酸等の酸性基を少なくとも一つ以上有し、かつ、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合可能な不飽和基を有する重合性単量体が挙げられ、該化合物の具体例として、以下のものが挙げられる。
リン酸基含有重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、グリセロールホスフェートジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールホスフェートペンタ(メタ)アクリレート等の重合性単量体、及びこれらの酸塩化物等が挙げられる。
ホスホン酸基含有重合性単量体としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノアセテート等の重合性単量体、及びこれらの酸塩化物等が挙げられる。
ピロリン酸基含有重合性単量体としては、例えば、ピロリン酸ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕等の重合性単量体、及びこれらの酸塩化物等が挙げられる。
カルボン酸基含有重合性単量体としては、例えば、マレイン酸、メタクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸、及びこれらの酸無水物;5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ヘキサンジカルボン酸、8−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−オクタンジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−デカンジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸等の重合性単量体、及びこれらの酸塩化物等が挙げられる。
スルホン酸基含有重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート等の重合性単量体、及びこれらの酸塩化物等が挙げられる。
チオリン酸基含有重合性単量体としては、例えば、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンジチオホスフェート等の重合性単量体、及びこれらの酸塩化物等が挙げられる。
これらの酸性基を有する重合性単量体(G)の中でも、歯質及び歯科用補綴物への接着性が優れることから、リン酸基又はチオリン酸基を有する重合性単量体を用いるのが好ましい。その中でも、分子内に主鎖の炭素数が6〜20のアルキル基又はアルキレン基を有する2価のリン酸基含有重合性単量体がより好ましく、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の分子内に主鎖の炭素数が8〜12のアルキレン基を有する2価のリン酸基含有重合性単量体が最も好ましい。
酸性基を有する重合性単量体(G)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。酸性基を有する重合性単量体の配合量は、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)及び混合物(B)の合計100重量部に対して、0.1〜30重量部の範囲が好ましく、0.1〜10重量部の範囲がより好ましく、0.1〜5重量部の範囲が最も好ましい。
本発明で使用される水(E)は、本組成物の硬化や、歯牙との接着強度の発現に対して悪影響を及ぼすような不純物を含有していないものが好ましく、具体的には、蒸留水及びイオン交換水が好ましい。
水(E)の含有量は、本発明の歯科用硬化性組成物において、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)及び混合物(B)の合計100重量部に対して、1〜40重量部である。水(E)の含有量が1重量部未満の場合、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)及びポリアルケン酸(C)と水(E)によるグラスアイオノマー反応、混合物(B)と水(E)による水和反応が十分に起こらない。水(E)の含有量は、2重量部以上であることが好ましい。一方、水(E)の含有量が40重量部を超える場合、硬化物の機械的強度が低下する。水(E)の含有量は、硬化物の機械的強度の観点で、30重量部以下であることが好ましく、25重量部以下であることがより好ましく、10重量部以下であることが最も好ましい。
本発明に用いられる重合開始剤(F)としては、一般工業界で使用されている公知の化学重合開始剤及び/又は光重合開始剤から選択して使用できる。
重合開始剤(F)における化学重合開始剤に関し、接着性と保存安定性の観点から、過酸化物、芳香族第2級アミン及び/又は芳香族第3級アミン、及び芳香族スルフィン酸塩を含む3元系化学重合開始剤が好ましい具体例として挙げられる。
化学重合開始剤に用いられる過酸化物としては、例えば、ペルオキソ二硫酸塩などの無機過酸化物や、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、パーオキシカーボネート類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類などの有機過酸化物が挙げられる。具体的には、ペルオキソ二硫酸塩としては、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アルミニウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等が挙げられる。ジアシルパーオキサイド類としては、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。パーオキシエステル類としては、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。パーオキシカーボネート類としては、例えば、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等が挙げられる。ジアルキルパーオキサイド類としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。パーオキシケタール類としては、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン等が挙げられる。ケトンパーオキサイド類としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド等が挙げられる。ハイドロパーオキサイド類としては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p−ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド等が挙げられる。
化学重合開始剤に用いられる芳香族スルフィン酸塩としては、例えば、ベンゼンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸、o−トリエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸などのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、鉄塩、銅塩、亜鉛塩、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等を挙げることができる。
化学重合開始剤に用いられる芳香族第2級アミン及び/又は芳香族第3級アミンとしては、例えば、N−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジン、N−メチル−m−トルイジン、N−メチル−o−トルイジン、N−エタノール−p−トルイジン、N−エタノール−m−トルイジン、N−エタノール−o−トルイジン、p−メチルアミノ安息香酸エチル、m−メチルアミノ安息香酸エチル、o−メチルアミノ安息香酸エチル、p−メチルアミノアニソール、m−メチルアミノアニソール、o−メチルアミノアニソール、1−メチルアミノナフタレン、2−メチルアミノナフタレン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジメチル−o−トルイジン、N,N−ジエタノール−p−トルイジン、N,N−ジエタノール−m−トルイジン、N,N−ジエタノール−o−トルイジン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、m−ジメチルアミノ安息香酸エチル、o−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノアニソール、m−ジメチルアミノアニソール、o−ジメチルアミノアニソール、1−ジメチルアミノナフタレン、2−ジメチルアミノナフタレンなどを挙げることができる。
重合開始剤(F)における光重合開始剤としては、α−ジケトン類、ケタール類、チオキサントン類、アシルホスフィンオキサイド類、α−アミノアセトフェノン類が例示される。α−ジケトン類の具体例としては、カンファーキノン、ベンジル、2,3−ペンタンジオンが挙げられる。ケタール類の具体例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールが挙げられる。チオキサントン類の具体例としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントンが挙げられる。アシルホスフィンオキサイド類の具体例としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ジベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、トリス(2,4−ジメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、トリス(2−メトキシベンゾイル)ホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイル−ビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド及び特公平3−57916号公報に開示の水溶性のアシルホスフィンオキサイド化合物が挙げられる。α−アミノアセトフェノン類の具体例としては、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−2−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−2−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、2−ベンジル−2−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1が挙げられる。
重合開始剤(F)は、1種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。重合開始剤(F)の配合量(重合開始剤として含まれる化合物の合計量)は、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)及び混合物(B)の合計100重量部に対して、0.01〜20重量部の範囲であり、0.1〜10重量部の範囲が好ましく、0.5〜5重量部の範囲がより好ましい。なお、本発明の歯科用硬化性組成物を製造するためのキットとするためには、保存安定性を考慮し、重合開始剤(F)として用いる成分を適宜分包することが好ましい。
本発明の歯科用硬化性組成物において、上記の重合開始剤(F)(化学重合開始剤及び/又は光重合開始剤)の重合開始能を高めるために、更に脂肪族アミン類、芳香族アミン類、アルデヒド類、チオール化合物等の重合促進剤を併用してもよい。
本発明の歯科用硬化性組成物は、必要に応じてX線造影剤を含んでもよい。これは充填操作のモニタリングや充填後の変化を追跡することができるからである。X線造影剤としては、例えば、硫酸バリウム、次炭酸ビスマス、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、フッ化イッテルビウム、ヨードホルム、バリウムアパタイト、チタン酸バリウム、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等から選択される1つ又は2つ以上が挙げられる。
本発明の歯科用硬化性組成物は、更に流動性改質や硬化物の機械的強度の向上を目的として、フィラーを配合してもよい。フィラーは、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。フィラーとしては、カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、BaO、La2O3、SrO、ZnO、CaO、P2O5、Li2O、Na2Oなどを含有するセラミックス及びガラス類が例示される。ガラス類としては、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラスが好適に用いられる。結晶石英、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、水酸化アルミニウムも好適に用いられる。
上記のX線造影剤及びフィラーは、必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
本発明の歯科用硬化性組成物に更に上記のX線造影剤及び/又はフィラーを配合する場合には、その配合量は、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)及び混合物(B)の合計100重量部に対して、50重量部以下の範囲で用いることが好ましい。
本発明の歯科用硬化性組成物には、フッ素イオン放出量を高めるために、接着性に悪影響を及ぼさない範囲内で、さらに公知の水溶性フッ化化合物を配合することができる。例えば、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、フッ化ベリリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化亜鉛、フッ化アルミニウム、フッ化マンガン、フッ化銅、フッ化鉛、フッ化銀、フッ化アンチモン、フッ化コバルト、フッ化ビスマス、フッ化スズ、フッ化ジアンミン銀、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化チタンカリウム、フッ化スズ酸塩、フルオロ珪酸塩等の水溶性の金属フッ化物を挙げることができ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。配合に際しては、例えば金属フッ化物を微粒子化する方法、又は金属フッ化物をポリシロキサンで被覆する方法などを使用することが好ましい。
さらに、本発明の歯科用硬化性組成物は、必要に応じて、公知の安定剤、染料、顔料等を含んでいてもよい。
本発明の歯科用硬化性組成物は、製品形態として、歯科用硬化性組成物の成分を分包したキットとすることができる。製品形態のキットとするためには、各種の形態が考えられ、例えば、粉末・液、ペースト・液、ペースト・ペーストなどの2材形態が挙げられる。何れの形態においても一方の材にフルオロアルミノシリケートガラス粉末(A)、ポリアルケン酸(C)及び水(E)の3成分を共存させることは保存安定性の観点から難しい。同様に、混合物(B)及び水(E)を一方の材に共存させることも保存安定性の観点から難しい。保存安定性の観点からは、以下の(1)〜(6)のような粉末・液の分包形態を取ることが好ましい。
分包形態(1):フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、混合物(B)、ポリアルケン酸(C)及び重合開始剤(F)を含む粉材と、酸性基を有しない重合性単量体(D)、水(E)及び重合開始剤(F)を含む液材とに分包されている粉液型の歯科用硬化性組成物キット。
分包形態(2):フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、混合物(B)及び重合開始剤(F)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酸性基を有しない重合性単量体(D)、水(E)及び重合開始剤(F)を含む液材とに分包されている粉液型の歯科用硬化性組成物キット。
分包形態(3):フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、混合物(B)、ポリアルケン酸(C)及び重合開始剤(F)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酸性基を有しない重合性単量体(D)、水(E)及び重合開始剤(F)を含む液材とに分包されている粉液型の歯科用硬化性組成物キット。
分包形態(4):フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、混合物(B)、ポリアルケン酸(C)及び重合開始剤(F)を含む粉材と、酸性基を有しない重合性単量体(D)、酸性基を有する重合性単量体(G)、水(E)及び重合開始剤(F)を含む液材とに分包されている粉液型の歯科用硬化性組成物キット。
分包形態(5):フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、混合物(B)及び重合開始剤(F)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酸性基を有しない重合性単量体(D)、酸性基を有する重合性単量体(G)、水(E)及び重合開始剤(F)を含む液材とに分包されている粉液型の歯科用硬化性組成物キット。
分包形態(6):フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、混合物(B)、ポリアルケン酸(C)及び重合開始剤(F)を含む粉材と、ポリアルケン酸(C)、酸性基を有しない重合性単量体(D)、酸性基を有する重合性単量体(G)、水(E)及び重合開始剤(F)を含む液材とに分包されている粉液型の歯科用硬化性組成物キット。
上記の形態の中でも、保存安定性の観点で、ポリアルケン酸(C)が粉材のみに配合される分包形態(1)及び(4)に示される粉液型の歯科用硬化性組成物キットが好ましく、歯質及び歯科用補綴物に対する接着性に優れることから、分包形態(4)に示される粉液型の歯科用硬化性組成物キットがより好ましい。
ここで、本発明の歯科用硬化性組成物の製品形態のキットにおいて、粉材(X)と液材(Y)の重量比(X/Y)が1.0〜5.0であることが好ましく、このことにより、歯科用硬化性組成物として十分な粉液練和性及び機械的強度などの性能を発現させることができる。粉材(X)と液材(Y)の重量比(X/Y)は、1.2〜3.6であることがより好ましく、1.4〜3.0であることが最も好ましい。
本発明の歯科用硬化性組成物は、再石灰化の有効成分として知られるカルシウムイオンとフッ素イオンの徐放性に優れる。また、本発明の歯科用硬化性組成物は、歯質に対する良好な接着性と、ジルコニア等の補綴物に対する良好な接着性を有する。そして、本発明の歯科用硬化性組成物の硬化物は、良好な機械的強度(曲げ強度等)を有する。よって、本発明の歯科用硬化性組成物は、歯牙患部の欠損部に対する充填修復、及び歯牙患部の欠損部と補綴物の合着に用いられる歯科材料として好適に用いることができ、特に、歯科用レジン強化型グラスアイオノマーセメントとして好適に用いることができる。
本発明の歯科用硬化性組成物は、具体的には、例えば以下のようにして使用される。すなわち、充填修復の場合は、通法の歯牙窩洞清掃の後、単一のペースト状とした本発明の歯科用硬化性組成物を歯牙窩洞へ充填する。クラウン、インレーなどの補綴物を合着に使用する場合は、歯牙窩洞又は支台歯の被着面の清掃及び補綴物の被着面の清掃がなされた後、単一のペースト状とした本発明の歯科用硬化性組成物を歯牙窩洞、支台歯の被着面及び/又は補綴物の被着面に塗布し合着する。このように本発明の歯科用硬化性組成物を用いることにより、完成度の高い歯牙欠損部の修復が可能となる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
本実施例において、フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)、酸性リン酸カルシウム粒子(B1)、塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)、リンを含まないカルシウム化合物(B3)及びポリアルケン酸(C)の平均粒径については、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD−2100型」)を用いて粒度分布を測定し、測定の結果から算出されるメディアン径を平均粒径とした。
〔フルオロアルミノシリケートガラス粒子(A)の調製〕
<フルオロアルミノシリケートガラス粒子>
市販のフルオロアルミノシリケートガラス(G018−117、SCHOTT社製、平均粒径40.0μm)100g、及び直径が20mmのジルコニアボール200gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「TypeA−3HDポットミル」)中に加え、150rpmの回転速度で15時間粉砕することにより、平均粒径4μmのフルオロアルミノシリケートガラス粒子を得た。
〔酸性リン酸カルシウム粒子(B1)の調製〕
<無水リン酸一水素カルシウム粒子>
市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(太平化学産業株式会社製、平均粒径15.0μm)50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)120g、及び直径が10mmのジルコニアボール240gを400mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「Type A−3 HDポットミル」)中に加え、120rpmの回転速度で24時間湿式粉砕を行った。得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させ、更に60℃で24時間真空乾燥することで平均粒径1.0μmの無水リン酸一水素カルシウム粒子を得た。
<リン酸三カルシウム粒子>
市販のα−リン酸三カルシウム(太平化学産業株式会社製、平均粒径1μm)をそのまま使用した。
<無水リン酸二水素カルシウム粒子>
市販の無水リン酸二水素カルシウム(太平化学産業株式会社製、平均粒径1μm)をそのまま使用した。
〔塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)の調製〕
<リン酸四カルシウム粒子>
市販の無水リン酸一水素カルシウム粒子(Product No.1430,J.T.Baker Chemical Co.,NJ)及び炭酸カルシウム(Product No.1288,J.T.Baker Chemical Co.,NJ)を等モルとなるように水中に加え、1時間攪拌した後、ろ過・乾燥した。得られたケーキ状の等モル混合物を電気炉(FUS732PB,アドバンテック東洋株式会社製)中で1500℃、24時間加熱し、その後デシケータ中で室温まで冷却することでリン酸四カルシウム塊を調製した。更に、乳鉢中で荒く砕き、その後箭がけを行うことで微粉及びリン酸四カルシウム塊を除いて0.5〜3mmの範囲に粒度を整え、粗リン酸四カルシウムを得た。得られた粗リン酸四カルシウムをナノジェットマイザー(NJ−100型、アイシンナノテクノロジーズ社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより、平均粒径5.0μmのリン酸四カルシウム粒子を得た。
〔リンを含まないカルシウム化合物(B3)の調製〕
<水酸化カルシウム>
市販の水酸化カルシウム(河合石灰工業株式会社製、平均粒径14.5μm)50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行った。得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させることで平均粒径1.0μmの水酸化カルシウムを得た。
<メタケイ酸カルシウム>
市販のメタケイ酸カルシウム(和光純薬工業社製)50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行った。得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで平均粒径5.0μmのケイ酸カルシウムを得た。
〔ポリアルケン酸(C)の調製〕
<ポリアルケン酸>
ポリアルケン酸は、液材に加える場合には市販のポリアルケン酸(日生化学工業社製)をそのまま使用した。また、粉材に加える場合には、市販のポリアルケン酸(日生化学工業社製)をナノジェットマイザー(NJ−100型、アイシンナノテクノロジーズ社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。得られたポリアルケン酸粉末の平均粒径は3μmであった。
〔酸性基を有しない重合性単量体(D)〕
以下の略記号で示される化合物を使用した。
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
Bis−GMA:2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
#801:1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)エタン
GDMA:グリセロールジメタクリレート
〔水(E)〕
水(E)は市販の日本薬局方精製水(高杉製薬株式会社製)をそのまま使用した。
〔重合開始剤(F)〕
以下の略記号で示される化合物を使用した。
<過酸化物>
KPS:ペルオキソ二硫酸カリウム(平均粒子径:2.5μm)
<芳香族第3級アミン>
DEPT:N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン
<芳香族スルフィン酸塩>
TPSS:2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム
〔酸性基を有する重合性単量体(G)〕
以下の略記号で示される化合物を使用した。
MDP:10−メタクリロリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
〔その他〕
<ハイドロキシアパタイト>
市販のハイドロキシアパタイト(HAP−100、太平化学産業株式会社製)をそのまま用いた。
<重合禁止剤>
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
〔粉材の調製〕
表1〜3に示す組成で秤量したフルオロアルミノシリケートガラス粒子(A);酸性リン酸カルシウム粒子(B1)及び塩基性リン酸カルシウム粒子(B2)、又は酸性リン酸カルシウム粒子(B1)及びリンを含まないカルシウム化合物(B3)、又はハイドロキシアパタイト;重合開始剤(F);並びに必要に応じてポリアルケン酸粉末(C)を高速回転ミル(アズワン株式会社製「SM−1」)中に加え、1000rpmの回転速度で3分間混合することで粉材を得た。
〔液材の調製〕
表1〜3に示す組成で秤量した酸性基を有しない重合性単量体(D)、水(E)、重合開始剤(F)、並びに必要に応じてポリアルケン酸粉末(C)及び酸性基を有する重合性単量体(G)を24時間マグネティックスターラーにて攪拌することで、液材を調製した。
〔実施例1〜24〕
表1〜2に示す組成からなる粉材0.1gを精秤し、これに表1〜2に示す組成からなる液材を表1〜2に示す粉液重量比になるよう加え、練和紙(85×115mm)上で30秒間練和することでペーストを調製し、以下に記載する試験方法によりフッ素イオン放出性、カルシウムイオン放出性、曲げ強さ及びジルコニアに対する接着性を評価した。得られた評価結果を表1〜2にまとめて示す。
〔比較例1〜10〕
表3に示す組成からなる粉材0.1gを精秤し、これに表3に示す組成からなる液材を表3に示す粉液重量比になるよう加え、練和紙(85×115mm)上で30秒間練和することでペーストを調製し、以下に記載する測定方法によりフッ素イオン放出性、カルシウムイオン放出性、曲げ強さ及びジルコニアに対する接着性を評価した。得られた評価結果を表3にまとめて示す。
〔フッ素イオン放出性の測定方法〕
実施例及び比較例の各歯科用硬化性組成物(粉材と液材を練和して得られたペースト)を直径15mm、厚さ1mmの金型内に填入し、37℃の恒温器内に1時間静置して硬化させた後、硬化物を金型から取り出して0.2Mリン酸緩衝液(pH7、37℃)4mlに浸漬した。28日間浸漬させた後、TISAB溶液2mlを加え、フッ素イオン電極(Thermo SCIENTIFIC製)を用いて、リン酸緩衝液中に溶出したフッ素イオンを定量した。
〔カルシウムイオン放出性の測定方法〕
実施例及び比較例の各歯科用硬化性組成物(粉材と液材を練和して得られたペースト)を直径15mm、厚さ1mmの金型内に填入し、37℃の恒温器内に1時間静置して硬化させた後、硬化物を金型から取り出してイオン交換水(37℃)5mlに浸漬した。28日間浸漬させた後、KCl水溶液(15g/l)5mlを加え、カルシウムイオン電極(HORIBA製)を用いて、イオン交換水中に溶出したカルシウムイオンを定量した。
〔曲げ強さの測定方法〕
実施例及び比較例の各歯科用硬化性組成物(粉材と液材を練和して得られたペースト)を金型(2mm×2mm×25mm)に充填し、上下をスライドガラスで圧接した後、37℃の恒温器内に1時間静置して硬化させた。硬化物を金型から取り出して得られた試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、万能試験機(島津製作所社製)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/minで、3点曲げ試験法により、曲げ強さを測定した。曲げ強さは5個の試験片についての測定値の平均値である。
〔ジルコニアに対する引張り接着強さの測定方法〕
直方体形状(1cm×1cm×5mm)のジルコニア焼結体(クラレノリタケデンタル製、商品名「刀」)の表面をそれぞれ流水下で#1000のシリコン・カーバイド紙で研磨して平滑面とした後、表面の水をエアブローして、乾燥した。乾燥後の平滑面に、直径5mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規制した。実施例及び比較例の各歯科用硬化性組成物(粉材と液材を練和して得られたペースト)をステンレス製の円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形端面)に築盛し、丸穴の中心とステンレス製の円柱棒の中心とが略一致するように、歯科用硬化性組成物を築盛した側の端面を丸穴内の平滑面(被着面)に載置し、その平滑面に対して垂直にステンレス製の円柱棒を押し付けて接着して、供試サンプルを作製した。供試サンプルは、7個作製した。押し付けた際にステンレス製の円柱棒の周囲からはみ出た余剰の歯科用硬化性組成物を除去した後、供試サンプルを、30分間室温で静置し、蒸留水に浸漬した。蒸留水に浸漬した供試サンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間静置した後、引張接着強さを調べた。引張接着強さは、万能試験機(島津製作所社製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定した。ジルコニアに対する引張接着強さは、7個の供試サンプルについての測定値の平均値である。
表1〜2に示すように、実施例1〜24で作製した本発明の歯科用硬化性組成物は、高いフッ素イオン放出性及びカルシウムイオン放出性を示すとともに、曲げ強さも高く、ジルコニアに対しても高い接着性を示した。一方、表3に示すように、比較例1で作製した混合物(B)を含まない歯科用硬化性組成物は、カルシウムイオン放出性が著しく低かった。同様に、比較例2で作製した混合物(B)を含まず、ハイドロキシアパタイトを含む歯科用硬化性組成物もカルシウムイオン放出性が著しく低かった。また、比較例3で作製したフルオロアルミノシリケートガラス粒子及びポリアルケン酸を含まない歯科用硬化性組成物、並びに比較例4及び5で作製したフルオロアルミノシリケートガラス粒子の配合過少の歯科用硬化性組成物は、カルシウムイオン放出性及びフッ素イオン放出性がともに低かった。また、比較例6で作製したポリアルケン酸の配合過多の歯科用硬化性組成物及び比較例7で作製した水過多の歯科用硬化性組成物は、曲げ強さが低かった。比較例8で作製したポリアルケン酸を含まない歯科用硬化性組成物は、カルシウムイオン放出性が低く、ジルコニアに対して接着性を示さなかった。比較例9で作製したポリアルケン酸を含まないが酸性基含有重合性単量体(G)を含む歯科用硬化性組成物では、ジルコニアに対する接着性を示したが、カルシウムイオン放出性が低かった。比較例10で作製したポリアルケン酸を含まないが酸性基含有重合性単量体(G)を含み、混合物(B)の(B1)成分のみを含む歯科用硬化性組成物は、カルシウムイオン放出性が低かった。