以下、本発明の実施形態に係る心なしシュー研削のシミュレーション装置1、および、心なしシュー研削のシミュレーション方法について図面を参照しつつ説明する。
まず、本実施形態の心なしシュー研削のシミュレーション装置1がシミュレーション対象とする心なしシュー研削加工に使用される研削盤の構成について説明する。研削盤の構成は、図16、図17に示す背景技術に記載の研削盤と同じ構成であるので、共通する構成要素についての説明は、その一部又は全部を省略する。
図16と図17に示すように、研削盤は、砥石53と、砥石台(図示せず)と、フロントシュー51と、リアシュー52と、バッキングプレート54と、主軸台(図示せず)と、制御部(図示せず)を備える。被加工物である工作物Wは、例えば転がり軸受の外輪等の環状形状をなしている。砥石53は、大量の砥粒により円盤状に形成され、砥石台に砥石軸回りに回転可能に軸支されている。砥石台は、制御部からの指令により、砥石53を砥石軸回りに回転させ、砥石53をX軸方向(図16の左右方向)に移動させる。
フロントシュー51は、工作物Wの鉛直方向(図16の上下方向)から砥石53側に近い位置に配置され、リアシュー52は、工作物Wと砥石53の接点の反対側に水平方向(図16の左右方向)からある角度傾いた位置において工作物Wと接するように配置される。フロントシュー51とリアシュー52は、研削盤の図示しないベッド等に固定されるシューベース部材等(図示せず)を介して、それぞれ、工作物Wの中心軸と直交する面内においてシューホルダ58,59に対しシューピン56,57回りに揺動自在な状態で取り付けられ、工作物Wの外周面を下方から支持している。
バッキングプレート54は、主軸台に回転可能に軸支された主軸55の先端に固定され、電磁力により工作物Wの一端面を吸着できるようになっている。主軸台は、制御部からの指令により主軸55を回転させ、バッキングプレート54を通じて工作物Wを回転させる。
制御部は、砥石台と主軸台に指令し、砥石53のX軸方向位置と、砥石53および主軸55の回転速度を制御する。
上記のように構成された研削盤は、工作物Wの一端面を主軸台に固定されたバッキングプレート54に当接させ、工作物Wの外周面をフロントシュー51とリアシュー52の2個のシューで支持した状態で、主軸台により回転駆動される工作物Wの外周面に、砥石台により回転駆動される砥石53の外周面を切り込ませて、工作物Wの外周面を研削することができる。
次に、本実施形態の心なしシュー研削のシミュレーション装置1、および、心なしシュー研削のシミュレーション方法について、説明する。図1に示すように、心なしシュー研削のシミュレーション装置1は、工作物形状記憶部2と、フロントシュー情報記憶部3と、リアシュー情報記憶部4と、砥石形状記憶部5と、指令値記憶部6と、研削条件記憶部7と、工作物中心位置算出部8と、研削点算出部9と、研削力推定部30と、工作物変形形状算出部31と、工作物形状変更部10と、基準工作物変形形状群生成部32、基準工作物変形量近似式算出部33とを備えている。
工作物形状記憶部2には、環状形状をなす工作物Wの外周面形状が記憶されている。工作物Wの外周面形状は、工作物Wの軸方向に同一であると仮定されている。シミュレーション開始直前には、研削加工されていない状態の工作物Wの形状、例えば工作物径から分かる円形状が記憶されている。シミュレーション開始後には、工作物形状記憶部2は、工作物形状変更部10によって逐次変更される工作物Wの外周面形状を記憶する。
工作物Wの外周面形状を記憶する形態について、より詳しく説明する。図2に示すように、工作物Wは、円形状の周縁を初期状態として、工作物Wの中心OWから分割角αで等角に分割される。工作物Wの周縁上の複数の端点11と、工作物Wの中心OWとをそれぞれ結んだ線分を工作物線分12とする。なお、各端点11間を結ぶ工作物Wの周方向の線分13は、補間関数を用いて算出される。ここで、端点11と工作物線分12を、個々に説明する場合には、それぞれ、符号11a、11b、11c、・・・と符号12a、12b、12c、・・・を用いる。このように、工作物形状記憶部2は、工作物Wの各位相における工作物線分12a、12b、12c、・・・をもって工作物Wの外周面形状として記憶している。より具体的には、工作物Wの外周面形状は、工作物線分12a、12b、12c、・・・の線分長さにより認識されている。
フロントシュー情報記憶部3には、フロントシュー51の形状を表すシュー長LFとシュー幅WFと、フロントシュー51の揺動中心19の位置と、揺動角度βの範囲が記憶されている。図3に示すように、フロントシュー51は、断面が長方形状をなし、その一面である工作物Wの外周面と対向する面に円弧状の凹部14が形成されている。フロントシュー51の工作物Wの軸方向(図3の紙面垂直方向)における形状は同一であり、その軸方向長さ、軸方向の主軸55に対する配置位置等もフロントシュー情報記憶部3に記憶されている。凹部14の円弧径は、工作物Wの研削加工前の円弧径より小さく形成されており、工作物Wは、凹部14の両端点15,16において摺接支持されている。
フロントシュー51のシュー幅WFは、端点15と端点16を結ぶ線分17の長さであり、シュー長LFは、線分17の中点18とシューピン56の中心である揺動中心19とを結ぶ線分20の長さである。本実施形態においては、線分17と線分20のなす角は、90度とされている。
フロントシュー51の揺動中心19の位置は、主軸55の回転中心OSを原点とし、砥石53の移動方向(図3の左右方向)であるX軸方向のX軸値と、X軸および主軸55の回転中心OS軸に直交するY軸方向(図3の上下方向)のY軸値とで表される。フロントシュー51の揺動角度βの範囲は、フロントシュー51がシューホルダ58に接触しないで揺動できる角度の範囲を示しており、線分20とX軸に平行な直線がなす角の最小角度βminと最大角度βmaxで表される。
リアシュー情報記憶部4には、フロントシュー情報記憶部3と同様に、リアシュー52の形状を表すシュー長LRとシュー幅WRと、リアシュー52の揺動中心26の位置と、揺動角度γの範囲が記憶されている。図3に示すように、リアシュー52は、断面が長方形状をなし、その一面である工作物Wの外周面と対向する面に円弧状の凹部21が形成されている。リアシュー52の工作物Wの軸方向における形状は同一であり、その軸方向長さ、軸方向の主軸55に対する配置位置等もリアシュー情報記憶部4に記憶されている。凹部21の円弧径は、工作物Wの研削加工前の円弧径より小さく形成されており、工作物Wは、凹部21の両端点22,23において摺接支持されている。
リアシュー52のシュー幅WRは、端点22と端点23を結ぶ線分24の長さであり、シュー長LRは、線分24の中点25とシューピン57の中心である揺動中心26とを結ぶ線分27の長さである。本実施形態においては、線分24と線分27のなす角は、90度とされている。
リアシュー52の揺動中心26の位置は、フロントシュー51と同様に、主軸55の回転中心OSを原点としたX軸値とY軸値とで表される。リアシュー52の揺動角度γの範囲は、リアシュー52がシューホルダ59に接触しないで揺動できる角度の範囲を示しており、線分27とX軸に平行な直線がなす角の最小角度γminと最大角度γmaxで表される。
なお、フロントシュー51とリアシュー52の断面形状は、本実施形態の長方形状に限定されず、それぞれシュー幅WF,WRおよびシュー長LF,LRが規定できる形状であれば、任意の形状であってよい。また、フロントシュー51とリアシュー52の凹部14,21も、本実施形態の円弧状に限定されず、例えばV字状に形成されていてもよい。
砥石形状記憶部5には、砥石53の外周面形状として、円盤状に形成された砥石53の直径が記憶されている。砥石53の軸方向形状は、同一とされている。本実施形態の心なしシュー研削のシミュレーション装置1では、研削開始から終了までの間、砥石53の外周面形状は一定であると仮定している。
指令値記憶部6には、心なしシュー研削における研削盤に対する指令値が記憶されている。指令値とは、ある時間における砥石53の回転中心OGと主軸55の回転中心OSとのX軸方向の離間距離を指令する値であるX軸値と、ある時間における工作物Wの回転角を指令する値であるC軸値(C=ωt)である。指令値は、研削条件記憶部7に記憶されている主軸55の回転速度、砥石53の切り込み速度、砥石53の切り込み量、スパークアウト時間等の研削加工条件に基づいて算出される。なお、ωは、工作物Wの角速度であり、工作物Wの回転速度は、主軸55の回転速度に等しいと仮定している。また、砥石53の回転中心OGと主軸55の回転中心OSは、Y軸方向において同一としている。
工作物中心位置算出部8は、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状、又は後述する工作物変形状算出部31が算出した工作物Wの変形形状と、フロントシュー情報記憶部3およびリアシュー情報記憶部4に記憶されているフロントシュー51とリアシュー52の形状を表すシュー幅WF,WRおよびシュー長LF,LRと揺動中心19,26の位置と、指令値記憶部6に記憶されている指令値である工作物Wの回転角とに基づいて、所定時間毎、すなわちシミュレーションのサンプリング時間毎に工作物Wの中心OW位置を算出し、記憶する。工作物Wの中心OW位置は、主軸55の回転中心OSを原点としたX軸値とY軸値とで表される。
具体的な工作物Wの中心OW位置の算出方法を図4のフローチャートと図5に基づき説明する。はじめに、心なしシュー研削のシミュレーション開始時か否かを判断する(S1)。工作物Wは、指令値記憶部6に記憶されている、ある時間における工作物Wの回転角で、シミュレーション開始時(S1:YES)であれば、工作物Wの中心OWが主軸55の中心OSに一致するように配置され(S2)、シミュレーション開始後(S1:NO)であれば、工作物Wの中心OWが前回算出した工作物Wの中心OWに一致するように配置される(S3)。
次に、図5(a)に示すように、リアシュー52を配置する(S4)。より詳しくは、リアシュー52のシュー幅WRに等しい長さの線分24の両端点22,23を工作物Wの外周面に配置し、線分24の中点25とリアシュー52の揺動中心26とを結ぶ線分27を作成する。そして、線分24と線分27のなす角が90度となる線分24の配置位置を後述する演算により求める(S4)。ステップS5では、図5(b)に示すように、線分27の長さがリアシュー52のシュー長LRに等しくなるように、工作物Wを線分27の方向に沿って平行移動させる。この状態における工作物Wの中心OW位置を、第1の工作物中心位置として記憶する(S6)。
続いて、フロントシュー51の配置が完了していないか否かを判断する(S7)。フロントシュー51の配置が完了していなければ(S7:YES)、ステップS9へ移動し、図5(b)に示すように、フロントシュー51を配置する。より詳しくは、リアシュー52を配置するステップS4と同様に、フロントシュー51のシュー幅WFに等しい長さの線分17の両端点15,16を工作物Wの外周面に配置し、線分17の中点18とフロントシュー51の揺動中心19とを結ぶ線分20を作成する。そして、線分17と線分20のなす角が90度となる線分17の配置位置を演算により求める(S9)。ステップS10では、図5(c)に示すように、線分20の長さがフロントシュー51のシュー長LFに等しくなるように、工作物Wを線分20の方向に沿って平行移動させる。この状態における工作物Wの中心OW位置を、第2の工作物中心位置として記憶する(S11)。
ステップS12では、ステップS6で記憶した第1の工作物中心位置と、ステップS11で記憶した第2の工作物中心位置とが一致しているか否かを判断する。一致していない場合(S12:NO)、言い換えれば、図5(c)に示すようにリアシュー52の線分27の工作物Wから遠い方の端点26aが、ステップS10の工作物Wの線分20の方向に沿った平行移動に伴って、リアシュー52の揺動中心26からずれた場合、ステップS4に戻って、リアシュー52の配置から再度実行する。この後のステップS7の判断は、フロントシュー51が一度配置されているので、フロントシュー51の配置が完了となり(S7:NO)、ステップS8に移動し、第1の工作物中心位置と第2の工作物中心が一致しているか否かの判断を行う。一致していない場合(S8:NO)、ステップS9に移動し、フロントシュー51の配置から再度実行する。
上述のリアシュー52の配置処理(S4〜S6)とフロントシュー51の配置処理(S9〜S11)を繰り返し、ステップS8又はステップS12の判断において、図5(d)に示すように、第1の工作物中心位置と第2の工作物中心が一致した時点で、工作物中心位置算出部8は、第1の工作物中心位置又は第2の工作物中心位置を工作物Wの中心OW位置として記憶して、処理を終了する(S13)。なお、ステップS8およびステップS12において、第1の工作物中心位置と第2の工作物中心位置とが一致したかの判断は、完全に一致する場合だけでなく、所定の許容値内であれば一致と判断するようにしてもよい。また、本実施形態では、リアシュー52を配置した後、フロントシュー51を配置したが、逆に、フロントシュー51を配置した後、リアシュー52を配置するようにしてもよい。
図4に示すリアシュー52の配置工程(S4)での演算について、図6のフローチャートと図7を参照して、具体的に説明する。はじめに、リアシュー52の揺動角度γが最大角度γmaxとなり、リアシュー52のシュー幅WRに等しい長さの線分24aを、その両端点が工作物Wの外周面上に位置するように配置する(S20)。線分24aと、線分24aの中点25aとリアシュー52の揺動中心26とを結ぶ線分27aとがなす角δ1を求める(S21)。図7に示すように、線分24aと線分27aのなす角δ1は、線分27aの上側の角度としている。以下の説明においても、なす角は、同一方向の角度を示す。ステップS22で、角δ1が90度であるか否かを判断する。90度であれば(S22:YES)、ステップS33に移動し、処理を終了し(S33)、90度でなければ(S22:NO)、ステップS23に移動する。ステップS23で、角δ1が90度より大きいか否か判断する。角δ1が90度より大きくなければ(S23:NO)、処理を中断し(S24)、リアシュー52のシュー幅WR、揺動中心26の位置の再設定を促す旨を作業者等に知らせる。角δ1が90度より大きければ(S23:YES)、ステップS25に移動する。
ステップS25では、リアシュー52の揺動角度γが最小角度γminとなり、リアシュー52のシュー幅WRに等しい長さの線分24bを、その両端点が工作物Wの外周面上に位置するように配置する。線分24bと、線分24bの中点25bと揺動中心26とを結ぶ線分27bとがなす角δ2を求める(S26)。角δ2が90度であるか否かを判断する(S27)。90度であれば(S27:YES)、ステップS33に移動し、処理を終了し(S33)、90度でなければ(S27:NO)、ステップS28に移動する。ステップS28で、角δ2が90度より小さいか否か判断する。角δ2が90度より小さくなければ(S23:NO)、処理を中断し(S29)、リアシュー52のシュー幅WR、揺動中心26の位置の再設定を促す旨を作業者等に知らせる。角δ2が90度より小さければ(S28:YES)、ステップS30に移動する。
ステップS30では、リアシュー52のシュー幅WRに等しい長さの線分24cを、その両端点が工作物Wの外周面上に位置するように配置し、且つ線分24cの中点25cと揺動中心26とを結ぶ線分27cが、なす角δ1が90度より大きい前のステップS21で用いた線分27aとなす角δ2が90度より小さい前のステップS26で用いた線分27bとの間の角を2等分する位置に配置する。線分24cと線分27cのなす角δ3を求める(S31)。次に、角δ3が90度であるか否か判断する(S32)。90度であれば(S32:YES)、ステップS33に移動し、処理を終了する。90度でなければ(S32:NO)、ステップS30に戻る。なお、角δ3は、90度より小さいとして説明を続ける。
スッテプS30に戻り、再度、シュー幅WRに等しい長さの線分24dを、その両端点が工作物Wの外周面上に位置するように配置し、且つ線分24dの中点25dと揺動中心26とを結ぶ線分27dが、なす角δ1が90度より大きい前のステップS21で用いた線分27aとなす角δ2が90度より小さい前のステップS31で用いた線分27cとの間の角を2等分する位置に配置する。線分24dと線分27dのなす角δ4を求める(S31)。角δ4が90度であるか否か判断する(S32)。
さらに、角δ4が90度でなければ(S32:NO)、ステップS30に戻り、上述の処理を繰り返し、シュー幅WRに等しい長さの線分24と、線分24の中点25と揺動中心26とを結ぶ線分27とがなす角が90度に達した時、すべての処理を終了する(S33)。ステップS30の、なす角が90度より大きい線分となす角が90度より小さい線分とは、順になす角の算出に用いた線分の内、それぞれ最後に用いた線分を使用する。なお、ステップS22、S27、S32において、なす角が90度であるか否かの判断は、完全に一致する場合だけでなく、所定の許容値内であれば一致と判断するようにしてもよい。また、図4に示すフロントシュー51の配置工程(S9)での演算は、上述したリアシュー52の配置工程(S4)と同様に実施可能であるので、その説明は省略する。
基準工作物変形形状群生成部32は、工作物Wの基本形状を有し、フロントシューとリアシューで支持された基準工作物Wsに作用する複数の法線荷重Pnと接線荷重Ptとからなる荷重に対する基準工作物Wsの複数の変形形状を生成する。基準工作物Wsとは、本シミュレーションが対象とする環状の工作物Wの基本形状を示す製品図面上の外径寸法、内径寸法、軸方向長さを有した工作物である。なお、工作物Wが転がり軸受の外輪の場合、基準工作物Wsは、外輪の内周面に形成される転動体が転動する軌道溝を有していてもよい。また、工作物Wの肉厚(外径寸法−内径寸法)に対し研削代は十分に小さいので、基準工作物Wsの外径寸法として、研削代を含んだ寸法を用いてもよい。
具体的には、図8(b)に示すように、基準工作物Wsは、基準工作物Wsの中心OWSから分割角εで等角に分割される。基準工作物Wsの周縁上の複数の端点34と、基準工作物Wsの中心OWSとを結んだ線分を基準工作物線分35とする。各端点34間を結ぶ基準工作物Wsの周方向の線分36は、補間関数を用いて算出される。ここで、端点34と基準工作物線分35を、個々に説明する場合には、それぞれ、符号34a、34b、34c、・・・と符号35a、35b、35c、・・・を用いる。
本実施形態では、基準工作物Wsの分割角εは、工作物Wの分割角αより大きな値に設定しており、分割角εを30度とした場合について説明する。また、基準工作物Wsの周縁上の複数の端点34のうち、X軸方向(図8(b)の左右方向)に平行な基準工作物線分35上に設定され、砥石53側に存在する端点34aの角度を0度と規定し、端点34b、34c、・・・の角度がそれぞれ30度、60度、・・・となるように、図8(b)の反時計周りを角度の正方向と規定している。基準工作物Wsの周面形状は、端点34a、34b、34c、・・・と基準工作物Wsの中心OWSとを結んだ基準工作物線分35a、35b、35c、・・・の線分長さにより認識されている。
基準工作物Wsは、工作物Wの物性値を有する弾性体として定義され、フロントシュー51およびリアシュー52に支持される。フロントシュー51およびリアシュー52の基準工作物Wsに対する支持位置は、フロントシュー情報記憶部3およびリアシュー情報記憶部4に記憶されているフロントシュー51およびリアシュー52の形状、揺動中心19,26の位置と、揺動角度β,γの範囲、軸方向長さ、軸方向の主軸55に対する配置位置等に基づき決定される。基準工作物変形形状群生成部32においては、フロントシュー51およびリアシュー52の揺動角度β,γは、揺動角度β,γの範囲が小さいことから、その中間値を用いている。また、図8(a)に示すように、基準工作物Wsの一端面は、バッキングプレート54に当接し、バッキングプレート54の吸着力により保持されているので、基準工作物Wsの一端面とバッキングプレート54との間には、摩擦力が作用している。
基準工作物変形形状群生成部32は、上記のような状態で基準工作物Wsを拘束して、基準工作物Wsの周縁上の端点34aに、複数の図8(b)のX軸方向左向きの法線荷重PnとY軸方向下向きの接線荷重Ptを作用させ、FEM(Finite Element Method:有限要素法)を用いて、基準工作物Wsの変形形状を生成している。より具体的には、基準工作物線分35a、35b、35c、・・・の線分長さの変形量(=変形前の線分長さ−変形後の線分長さ)を算出している。接線荷重Ptは、予め研削試験等により求めておいた2分力比kを法線荷重Pnに乗算して算出している(Pt=k×Pn)。また、基準工作物Wsの軸方向長さの中央断面(図8(a)のA−A線に沿う断面)において算出した変形量が、軸方向において同一の変形量となると仮定している。
なお、本実施形態では、法線荷重Pnと接線荷重Ptを基準工作物Wsの周縁上の端点34aに1点集中荷重として作用させたが、端点34aを通る基準工作物Wsの周縁上の軸方向に平行な線分に等分布荷重として作用させてもよい。
図9に示すレーダチャートは、基準工作物変形形状群生成部32が生成した基準工作物Wsの複数の変形形状を示している。図9においては、3種の荷重による基準工作物Wsの変形形状を示しており、最上面のレーダチャートは、法線荷重Pnが100(N)の場合、その下面が50(N)の場合、最下面が10(N)とした場合をそれぞれ示している。図9のレーダチャートは、周方向が基準工作物Wsの角度を示し、径方向が基準工作物線分35の線分長さの変形量(mm)を示している。
この基準工作物Wsの複数の変形形状をまとめて、変形形状群と称している。なお、図9には、3種の荷重による変形形状群の例を示したが、3種に限定されず、任意の数でよって良い。
基準工作物変形量近似式算出部33は、基準工作物Wsの複数の変形形状に基づき、基準工作物Wsの荷重と変形量の関係を示す近似式を算出している。具体的には、基準工作物Wsに作用させる複数の法線荷重Pnと、基準工作物変形形状群生成部32で算出した基準工作物Wsの各端点34における変形量とから、最小二乗法により1次関数や2次関数等で近似した近似式を各端点34の角度毎に近似式を算出している。
図10は、横軸を法線荷重Pnとし、縦軸を基準工作物Wsのある角度の端点34における変形量とし、複数の荷重に対して基準工作物変形形状群生成部32でFEMを用いて算出した変形量をプロットしたグラフである。菱形の印(◆)が法線荷重Pnに対してFEMで算出した変形量を示している。なお、図10は、7種の法線荷重Pnに対してFEMを実施した例を示している。この複数の法線荷重PnとFEMを用いて算出した変形量から、最小二乗法により算出した近似式が実線で示されている。
基準工作物変形形状群生成部32と基準工作物変形量近似式算出部33での演算処理は、心なしシュー研削のシミュレーションにより砥石53により工作物Wを切り込み所定時間毎の工作物Wの形状を算出する前に予め実施される。
研削点算出部9は、工作物中心位置算出部8において工作物Wの中心Ow位置が算出される毎に、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状、又は後述する工作物変形形状算出部31が算出した工作物Wの変形形状と、算出された工作物Wの中心Ow位置と、砥石形状記憶部5に記憶されている砥石53の形状と、指令値記憶部6に記憶されている指令値とに基づいて、砥石53により所定時間に研削加工される工作物Wの研削点28を算出する。なお、研削点28を個々に説明する場合には、符号28a、28b、28c、・・・を用いる。
具体的な研削点算出方法について、図11を参照して説明する。図11(a)は、シミュレーション開始からある時間経過した後に、砥石53が工作物Wに切り込みを開始する直前の状態を示している。工作物Wは、指令値記憶部6に記憶されている回転角で、工作物中心位置算出部8に記憶されている主軸55の回転中心OSを原点として工作物Wの中心OW位置に配置されている。工作物Wの外周面形状は、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの中心OWを基準とした工作物線分12により形状認識されている。
砥石53の回転中心OGは、主軸55の回転中心OSを原点として、指令値記憶部6に記憶されているX軸方向の離間距離を有した位置に配置されている。砥石53の外周面形状は、シミュレーション中一定であると仮定され、砥石形状記憶部5に記憶された円盤状の砥石53の直径により認識されている。
図11(b)に示すように、所定時間経過後、すなわち、シミュレーションのサンプリング時間経過後には、工作物Wは、図11の時計回りに回転し、指令値記憶部6に記憶されている所定時間経過後の回転角の位置となる。工作物Wの回転と同時に、砥石53は、図11の左方向に、指令値記憶部6に記憶されている所定時間後のX軸方向の離間距離となる位置に移動し、工作物Wに対して切り込みを与える。図11(b)の斜線部分は、所定時間中に研削加工により除去される除去領域37を示している。図11(b)の斜線部分は、工作物Wに作用する研削力が工作物Wの変形を生じさせないと仮定した場合の除去領域37である。
研削点算出部9は、所定時間経過後の砥石53の外周面形状と、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物線分12により形状認識される工作物Wの形状、又は後述する工作物変形形状算出部31で算出された工作物変形後の工作物線分40により形状認識される工作物Wの変形形状とから、所定時間経過後の砥石53の外周面と工作物線分12,40との交点である研削点28を幾何学的に算出している。
研削力推定部30は、研削点算出部9において工作物Wの研削点28が算出される毎に、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状、又は後述する工作物変形形状算出部31が算出した工作物Wの変形形状と、工作物Wの中心OW位置と、算出された工作物Wの研削点28と、砥石形状記憶部5に記憶されている砥石53の形状と、指令値記憶部6に記憶されている指令値とに基づいて、砥石53による工作物Wに作用する研削力を推定する。
本実施形態では、研削力として、図11(b)に示すX軸方向左向きの法線研削抵抗力Fnを算出している。また、工作物Wの中心OW位置と砥石53の回転中心OGのY軸方向(図11の上下方向)の位置が若干異なるので、厳密には法線研削抵抗力Fnの向きは、X軸方向から若干傾いている。しかし、傾き量が微少量であるため、本実施形態では、法線研削抵抗力Fnの向きをX軸方向としている。
具体的な法線研削抵抗力Fnの推定方法について説明する。研削力推定部30は、はじめに、砥石53による所定時間中の工作物Wの除去量を算出する。除去量は、図11(b)に示すように砥石53の外周面形状と工作物Wの外周面形状とで囲まれる除去領域37の面積に、工作物Wの軸方向長さを乗算した体積である。本実施形態では、図17に示すように工作物Wの軸方向長さが砥石53の軸方向長さより短い状態での研削を想定しているが、逆に砥石53の軸方向長さが工作物Wより短い場合は、除去量は、除去領域37の面積に砥石53の軸方向長さを乗算した体積として算出される。
除去領域37の面積は、演算負荷時間を短縮するために、図12に示すように、複数の除去断片38a〜38iの面積を積算したものとしている。それぞれの除去断片38a〜38iの面積は、隣り合う二つの工作物線分12において、端点11と研削点28とにより形成される、三角形又は4角形の面積である。例えば、除去断片38dの面積は、隣り合う工作物線分12dと12eにおいて、端点11d,11eと研削点28c,28dとにより形成される四角形の面積である。他の除去断片38a〜38c,38e〜38iについても端点11a〜11jと研削点28a〜28hとに基づいて算出される。
研削力推定部30は、複数の除去断片38a〜38iの面積を積算し、その積算面積に工作物Wの軸方向長さを乗算し除去量を算出する。本実施形態では、除去領域37の両端部の三角形状の除去断片38a,38iを積算の対象としたが、除去断片38a,38iは、微小な領域であるので積算の対象外としてもよい。
工作物Wの除去量を算出した後に、算出した除去量を所定時間、すなわちシミュレーションのサンプリング時間で除算し、単位時間当たりの工作物Wの除去量を表す研削能率を算出する。そして、研削力推定部30は、予め研削試験等により求め記憶しておいた研削能率と法線研削抵抗力Fnとの関係を示す実験式(図13)から、算出した研削能率に対する法線研削抵抗力Fnを算出する。
図13は、研削能率と法線研削抵抗力Fnとの関係を示しており、横軸が研削能率であり、縦軸が法線研削抵抗力Fnを示している。研削能率は、右側ほど大きく、法線研削抵抗力Fnは、上側ほど大きくなっている。図13に示すように、研削能率と法線研削抵抗力Fnとの関係は、研削能率が大きくなるほど法線研削抵抗力Fnが大きくなるような、ほぼ線形の関係を示している。また、研削能率と法線研削抵抗力Fnとの関係を示す実験式の傾きは、工作物Wの材質や砥石53の仕様等により決定される。
工作物変形形状算出部31は、研削力推定部30により工作物Wに作用する研削力が推定される毎に、推定された研削力と基準工作物変形量近似式算出部33により算出された基準工作物Wsの荷重と変形量の関係を示す近似式とにより工作物Wの変形形状を算出し記憶する。
工作物Wの変形形状は、図2に示す工作物形状記憶部2が工作物Wの外周面形状を記憶する形態と同様にして、記憶される。ここで、工作物Wが砥石53から法線研削抵抗力Fnと接線研削抵抗力Ftとを受けた際の工作物Wの変形後の形状を説明するために、図2における端点11と工作物線分12と各端点11間を結ぶ線分13とに対し、変形後の端点を符号39で、変形後の工作物線分を符号40で、変形後の各端点40間を結ぶ線分を符号41で表す。また、工作物形状記憶部2が工作物Wの外周面形状を記憶する形態と同様に、工作物Wの変形形状は、工作物Wは工作物Wの中心Owから分割角αで等角に分割されており、変形後の各端点40間を結ぶ線分41も補間関数を用いて算出される。また、端点39と工作物線分40を、個々に説明する場合には、それぞれ、符号39a、39b、39c、・・・と符号40a、40b、40c、・・・を用いる。
次に、具体的な工作物Wの変形形状の算出方法について説明する。工作物変形形状算出部31は、はじめに、基準工作物変形量近似式算出部33において基準工作物Wsの分割角εの各端点34毎に算出しておいた図10に示すような法線荷重Pnと変形量の関係を示す近似式を用いて、研削力推定部30にて推定した法線研削抵抗力Fnに対する基準工作物Wsの分割角ε毎の各端点34における変形量を算出する。図14は、このようにして算出した基準工作物Wsの変形量をレーダチャートに表した図である。図14の変形量の各端点間は、スプライン関数等の補間関数により連結される。
基準工作物Wsとシミュレーションの所定時間毎に更新される工作物Wの形状とは、厳密に一致しない。しかし、工作物Wの基本形状を有する基準工作物Wsの外径寸法は、工作物Wの研削代に対して十分大きいため、本実施形状では、研削力推定部30にて推定した法線研削抵抗力Fnに対する基準工作物Wsの変形量は、シミュレーション対象である工作物Wの変形量に等しいと仮定している。
続いて、工作物変形形状算出部31は、図11(b)に示す所定時間経過後のシミュレーション対象である工作物Wの各線分12の回転角を、指令値記憶部6に記憶されている工作物WのC軸値に基づいて算出する。そして、算出した工作物Wの回転角毎に、図11(c)に示すように、各工作物線分12a,12b,・・・の線分長さを、推定した法線研削抵抗力Fnに対する基準工作物Wsの同一回転角における変形量分減算し、工作物Wの変形後の各工作物線分40a,40b,・・・の線分長さとして算出する。そして、工作物Wの変形後の工作物線分40の各端点39間を結ぶ線分41が補間関数を用いて算出する。
このようにして、工作物変形形状算出部31は、工作物Wの各位相における工作物線分40a,40b,・・・の線分長さを算出し、工作物Wの変形形状として記憶している。なお、工作物Wの変形形状は、基準工作物Wsに法線荷重Pnと接線荷重Ptを作用させFEMを用いて算出した変形量に基づいて算出されているので、工作物W研削時の法線研削抵抗力Fnと接線研削抵抗力Ftを考慮した変形形状となっている。
本実施形態においては、工作物変形形状算出部31は、基準工作物変形量近似式算出部33により算出された基準工作物Wsの荷重と変形量の関係を示す近似式に基づいて、工作物Wの変形形状を算出しているが、この近似式を用いないで、直接工作物Wの変形形状を算出するようにしてもよい。
具体的には、直接工作物Wの変形形状を算出するために、研削力推定部30において、研削力として、法線研削抵抗力Fnと接線研削抵抗力Ftとを推定する。詳しくは、研削力推定部30において、所定時間中の工作物Wの除去量に基づき工作物Wに作用する法線研削抵抗力Fnを推定した後、予め研削試験等により求めておいた2分力比kを用いてY軸方向の接線研削抵抗力Ft(Ft=k×Fn)を推定する。
そして、工作物変形形状算出部31において、シミュレーション対象の所定時間毎の工作物Wの形状を用いて、工作物Wをフロントシュー51とリアシュー52で支持し、工作物Wの一端面に摩擦力を作用させた状態で、工作物Wに法線研削抵抗力Fnと接線研削抵抗力Ftを作用させ、FEMを用いて直接工作物Wの変形形状を算出する。
このように、近似式を用いないで、直接工作物Wの変形形状を算出した場合、シミュレーションの所定時間毎の工作物Wの形状と、フロントシュー51およびリアシュー52の所定時間毎の揺動角度β,γをFEMに反映させることができる為、工作物Wの変形形状を精度よく算出できるという利点がある。
次に、心なしシュー研削のシミュレーション方法を図15のフローチャートを参照して説明しつつ、工作物変形形状算出部31により工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状に基づいて工作物Wの変形形状を算出した後の処理について具体的に説明する。
まず、作業者は、工作物Wの外周面形状、フロントシュー51の形状と揺動中心19の位置、リアシュー52の形状と揺動中心26の位置、砥石53の外周面形状、研削条件、およびシミュレーション条件等を入力する。
そして、所定時間毎に、工作物中心位置算出部8において、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状に基づき、工作物Wの中心OW位置を算出する工作物中心位置算出工程を行う(S40)。続いて、研削点算出部9において、工作物Wの中心OW位置に工作物Wを配置した状態で、所定時間中に研削加工される工作物Wの研削点28を算出する研削点算出工程を行う(S41)。
続いて、研削力推定部30において、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状と算出された工作物Wの研削点28とに基づいて、図8(b)の斜線部分に示す除去領域37の面積から工作物Wの除去量を算出し、研削能率を求め、この研削能率に対する工作物Wの変形前の法線研削抵抗力Fnを推定する研削力推定工程を行う(S42)。
続いて、工作物変形形状算出部31において、基準工作物変形量近似式算出部33で算出した基準工作物Wsの法線研削抵抗力Fnと変形量の関係を示す近似式を用いて、推定した工作物Wの変形前の法線研削抵抗力Fnに対する基準工作物Wsの各端点34における変形量を算出し(S43)、この変形量に基づいて、工作物Wの各位相における変形後の工作物線分40の線分長さを算出し、工作物Wの変形形状として記憶する工作物変形形状算出工程を行う(S44)。
続いて、ステップS44で記憶した工作物Wの変形形状に基づいて、工作物中心位置算出部8において、工作物Wの中心OW位置を再度算出する(S45)。そして、研削点算出部9において、ステップS44で記憶した工作物Wの変形形状に基づいて、再度算出した工作物Wの中心OW位置に工作物Wを配置した状態で、所定時間中に研削加工される工作物Wの研削点28を再度算出する(S46)。
続いて、研削力推定部30において、ステップS44で記憶した工作物Wの変形形状と再度算出された工作物Wの研削点28とに基づいて、図8(c)の斜線部分に示す除去領域37の面積から工作物Wの除去量を算出し、研削能率を求め、この研削能率に対する工作物Wの変形後の法線研削抵抗力Fnを再度推定する(S47)。
続いて、研削力推定部30において、工作物Wの変形前の法線研削抵抗力FnとステップS47で推定した工作物Wの変形後の法線研削抵抗力Fnが一致しているか否かを判断する(S48)。一致している場合(S48:YES)は、ステップS50に移動する。一致していない場合(S48:NO)は、研削力推定部30において、ステップS47で推定した工作物Wの変形後の法線研削抵抗力Fnを工作物Wの変形前の法線研削抵抗力Fnに更新する(S49)。そして、ステップS43に移動し、更新した工作物Wの変形前の法線研削抵抗力Fnに対する基準工作物Wsの変形量を算出する工作物変形形状算出工程から再度実行する。
ステップS43からステップS47までの処理を繰り返し、ステップS48の判断において、工作物Wの変形前の法線研削抵抗力Fnと工作物Wの変形後の法線研削抵抗力Fnが一致した時点、すなわち、繰り返し推定した法線研削抵抗力Fnが一定になった時点で、ステップS50に移動する。なお、ステップS48での工作物Wの変形前の法線研削抵抗力Fnと工作物Wの変形後の法線研削抵抗力Fnが一致しているか否かの判断は、完全に一致する場合だけでなく、所定の許容値内であれば一致と判断するようにしてもよい。
ステップS50で、工作物変形形状算出部31は、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの変形前の各工作物線分12の線分長さの変形率Rを算出する。ここで、変形率Rを個別に説明する場合は、符号Ra、Rb、Rc、・・・を用いる。変形率Rは、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの変形前の各工作物線分12の線分長さをL0とし、最後にステップS44で算出した工作物Wの変形後の各工作物線分49の線分長さをL1とした場合に、R=L1/L0×100で算出される。
続いて、ステップS51で、後述する工作物形状変更部10において、工作物形状記憶部2により記憶されている工作物Wの形状を変更する工作物形状変更工程を行う。
そして、ステップS40に移動し、この変更された工作物Wの形状を用いて、次回の所定時間における処理を工作物中心位置算出工程から順次実行していく。このように、所定時間毎に、工作物Wの中心Ow位置の算出、研削点28の算出、法線研削抵抗力Fnの推定、工作物Wの変形形状の算出、工作物Wの形状変更を繰り返すことによって、心なしシュー研削のシミュレーションが実行される。
工作物形状変更部10は、所定時間において繰り返し推定された法線研削抵抗力Fnが一定になった場合に、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状を、研削点算出部9にて最後に算出された工作物Wの研削点28と、工作物変形形状算出部31にて最後に算出された工作物Wの変形形状とに基づいて変更する。
具体的には、工作物形状変更部10は、はじめに、研削点算出部9にて最後に算出された研削点28に基づいて、工作物変形形状算出部31に記憶されている工作物Wの工作物線分40の内、工作物線分40上に研削点28が存在する工作物線分40の端点39を、砥石53により所定時間中に研削加工された形状に変更する。
図11(c)の例では、工作物線分40a、40b、40cの端点39a、39b、39cが、それぞれ研削点28a、28b、28cに変更され、工作物線分40a、40b、40cの線分長さが更新される。なお、図11(c)で、研削点の符号28a、28b、28c等が付されていない他の研削点28が工作物線分40上に存在する工作物線分40の端点39についても、同様に、端点39が変更され、工作物線分40の線分長さが更新される。
研削点28に基づいて工作物線分40の線分長さが更新された後に、工作物形状変更部10は、工作物Wの各工作物線分40の線分長さを、工作物変形形状算出部31にて工作物Wの変形形状から算出した変形率Rに基づいて再度更新する。具体的には、変形率Rに基づいて再度更新される工作物線分40の線分長さL3は、研削点28に基づいて更新された工作物Wの工作物線分40の線分長さをL2とした場合、L3=L2/R×100で算出される。この変形率Rに基づく工作物線分40の線分長さの再更新は、工作物形状記憶部2に記憶される工作物Wの形状を、工作物Wに砥石53による法線研削抵抗Fnと接線研削抵抗Ftが作用していない状態で記憶しておくために行われる。
そして、工作物形状変更部10は、算出した工作物線分40の線分長さL3を、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物線分12の長さとし、工作物線分12の端点11を更新する。このようにして、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状は変更され、次回の工作物Wの中心Ow位置の算出、研削点28の算出、研削力の推定、工作物Wの変形形状の算出に反映される。
上記のように構成された心なしシュー研削のシミュレーション装置1、および、心なしシュー研削のシミュレーション方法によれば、所定時間毎に、工作物Wをフロントシュー51とリアシュー52とで支持できる工作物Wの中心Ow位置を算出し、砥石53により所定時間中に研削された工作物Wの研削点28の算出をしている。そして、工作物W研削時に砥石53により工作物Wに作用する研削力を研削力推定部30において推定し、この推定した研削力による工作物Wの変形形状を算出している。そして、所定時間毎に、工作物Wの中心Ow位置の算出、研削点28の算出、研削力の推定、工作物Wの変形形状の算出を繰り返し、繰り返し推定した法線研削抵抗力Fnが一定になった時点で、次回の工作物Wの形状を変更している。
これにより、工作物W研削時の研削力を精度よく推定でき、工作物W研削時の研削力による変形を考慮して、研削後の工作物Wの形状を高精度にシミュレーションできる。
また、上記心なしシュー研削のシミュレーション装置1は、基準工作物変形形状群生成部32と基準工作物変形量近似式算出部33とを備えている。基準工作物変形形状群生成部32では、フロントシュー51とリアシュー52で支持された基準工作物Wsに作用する複数の荷重に対する基準工作物Wsの複数の変形形状を生成している。基準工作物変形量近似式算出部33では、複数の変形形状から基準工作物Wsの荷重と変形量の関係を示す近似式を算出している。そして、工作物変形形状算出部31は、推定した法線研削抵抗力Fnと近似式とに基づいて、工作物Wの変形形状を算出している。
これにより、シミュレーションの演算時間を短縮できるとともに、工作物W研削時の研削力による変形を考慮した心なしシュー研削のシミュレーションが可能となり、研削後の工作物形状を高精度にシミュレーションできる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更することが可能である。
上記実施形態では、フロントシュー51の工作物Wの外周面に配置したシュー幅WFに等しい長さの線分17と、その中点18と揺動中心19を結ぶ線分20とのなす角が90度とされているが、90度に限定されず、任意の角度に設定されてもよい。また、リアシュー52も同様に、リアシュー52のシュー幅WRに等しい長さの線分24と、その中点25と揺動中心26を結ぶ線分27のなす角は、90度に限定されず、任意の角度に設定されてもよい。