以下、本発明の実施形態に係る心なしシュー研削のシミュレーション装置1、および、心なしシュー研削のシミュレーション方法について図面を参照しつつ説明する。
まず、本実施形態の心なしシュー研削のシミュレーション装置1がシミュレーション対象とする心なしシュー研削加工に使用される研削盤の構成について説明する。研削盤の構成は、図10、図11に示す背景技術に記載の研削盤と同じ構成であるので、共通する構成要素についての説明は、その一部又は全部を省略する。
図10と図11に示すように、研削盤は、砥石53と、砥石台(図示せず)と、フロントシュー51と、リアシュー52と、バッキングプレート54と、主軸台(図示せず)と、制御部(図示せず)を備える。被加工物である工作物Wは、例えば転がり軸受の外輪等の環状形状をなしている。砥石53は、大量の砥粒により円盤状に形成され、砥石台に砥石軸回りに回転可能に軸支されている。砥石台は、制御部からの指令により、砥石53を砥石軸回りに回転させ、砥石53を工作物Wの中心OW軸と直交するX軸方向(図10の左右方向)に平行移動させる。砥石53は、X軸の正方向(図10の左方向)に平行移動した時に工作物Wから遠ざかり、X軸の負方向(図10の右方向)に平行移動した時に工作物Wに近づき、工作物Wに切り込みを与えることができる。
フロントシュー51は、工作物Wの鉛直方向(図10の上下方向)から砥石53側に近い位置に配置され、リアシュー52は、工作物Wと砥石53の接点の反対側に水平方向(図10の左右方向)からある角度傾いた位置において工作物Wと接するように配置される。フロントシュー51とリアシュー52は、研削盤の図示しないベッド等に固定されるシューベース部材等(図示せず)を介して、それぞれ、工作物Wの中心OW軸と直交する面内においてシューホルダ58,59に対しシューピン56,57回りに揺動自在な状態で取り付けられ、工作物Wの外周面を下方から支持している。
バッキングプレート54は、主軸台に回転可能に軸支された主軸55の先端に固定され、電磁力により工作物Wの一端面を吸着できるようになっている。主軸台は、制御部からの指令により主軸55を回転させ、バッキングプレート54を通じて工作物Wを回転させる。
制御部は、砥石台と主軸台に指令し、砥石53のX軸方向位置と、砥石53および主軸55の回転速度を制御する。
上記のように構成された研削盤は、工作物Wの一端面を主軸台に固定されたバッキングプレート54に当接させ、工作物Wの外周面をフロントシュー51とリアシュー52の2個のシューで支持した状態で、主軸台により回転駆動される工作物Wの外周面に、砥石台により回転駆動される砥石53の外周面を切り込ませて、工作物Wの外周面を研削することができる。
次に、本実施形態の心なしシュー研削のシミュレーション装置1について、説明する。図1に示すように、心なしシュー研削のシミュレーション装置1は、工作物形状記憶部2と、フロントシュー情報記憶部3と、リアシュー情報記憶部4と、砥石形状記憶部5と、指令値記憶部6と、研削条件記憶部7と、工作物中心位置算出部8と、研削点算出部9と、工作物形状変更部10と、工作物中心位置変動算出部30と、抽出部31と、シミュレーション開始位置算出部32とを備えている。
工作物形状記憶部2には、環状形状をなす工作物Wの外周面形状が記憶されている。工作物Wの外周面形状は、工作物Wの軸方向に同一であると仮定されている。シミュレーション開始時には、例えば、研削加工前に実際に測定した工作物Wの外周面形状が記憶されている。シミュレーション開始後には、工作物形状記憶部2は、工作物形状変更部10によって逐次変更される工作物Wの外周面形状を記憶する。
工作物Wの外周面形状を記憶する形態について、より詳しく説明する。図2に示すように、工作物Wは、略円形状の周縁を初期状態として、工作物Wの中心OWから分割角αで等角に分割される。工作物Wの周縁上の複数の端点11と、工作物Wの中心OWとをそれぞれ結んだ線分を工作物線分12とする。なお、各端点11間を結ぶ工作物Wの周方向の線分13は、補間関数を用いて算出される。ここで、端点11と工作物線分12を、個々に説明する場合には、それぞれ、符号11a、11b、11c、・・・と符号12a、12b、12c、・・・を用いる。このように、工作物形状記憶部2は、工作物Wの各位相における工作物線分12a、12b、12c、・・・をもって工作物Wの外周面形状として記憶している。より具体的には、工作物Wの外周面形状は、工作物線分12a、12b、12c、・・・の線分長さにより認識されている。
本実施形態の心なしシュー研削のシミュレーション装置1では、図3に示すように、主軸55の回転中心OSを原点とし、砥石53の移動方向(図3の左右方向)をX軸、X軸および主軸55の回転中心OS軸に直交する方向(図3の上下方向)をY軸と規定している。X軸の正方向は、砥石53が平行移動した時に砥石53と工作物Wの相対距離が大きくなる方向(図3の左方向)とされ、砥石53がX軸の負方向(図3の右方向)に平行移動すると、砥石53は工作物Wに近づき、工作物Wに切り込みを与えることができる。また、Y軸の正方向は、図3の上方向とされ、砥石53の回転中心OGのY軸値は、主軸55の回転中心OSのY軸値と同一とされている。
フロントシュー情報記憶部3には、フロントシュー51の形状を表すシュー長LFとシュー幅WFと、フロントシュー51の揺動中心19の位置と、揺動角度βの範囲が記憶されている。図3に示すように、フロントシュー51は、断面が長方形状をなし、その一面である工作物Wの外周面と対向する面に円弧状の凹部14が形成されている。フロントシュー51の工作物Wの軸方向(図3の紙面垂直方向)における形状は、同一である。凹部14の円弧径は、工作物Wの研削加工前の円弧径より小さく形成されており、工作物Wは、凹部14の両端点15,16において摺接支持されている。
フロントシュー51のシュー幅WFは、端点15と端点16を結ぶ線分17の長さであり、シュー長LFは、線分17の中点18とシューピン56の中心である揺動中心19とを結ぶ線分20の長さである。本実施形態においては、線分17と線分20のなす角は、90度とされている。
フロントシュー51の揺動中心19の位置は、主軸55の回転中心OSを原点としたX軸値とY軸値とで表される。フロントシュー51の揺動角度βの範囲は、フロントシュー51がシューホルダ58に接触しないで揺動できる角度の範囲を示しており、線分20とX軸に平行な直線がなす角の最小角度βminと最大角度βmaxで表される。
リアシュー情報記憶部4には、フロントシュー情報記憶部3と同様に、リアシュー52の形状を表すシュー長LRとシュー幅WRと、リアシュー52の揺動中心26の位置と、揺動角度γの範囲が記憶されている。図3に示すように、リアシュー52は、断面が長方形状をなし、その一面である工作物Wの外周面と対向する面に円弧状の凹部21が形成されている。リアシュー52の工作物Wの軸方向における形状は、同一である。凹部21の円弧径は、工作物Wの研削加工前の円弧径より小さく形成されており、工作物Wは、凹部21の両端点22,23において摺接支持されている。
リアシュー52のシュー幅WRは、端点22と端点23を結ぶ線分24の長さであり、シュー長LRは、線分24の中点25とシューピン57の中心である揺動中心26とを結ぶ線分27の長さである。本実施形態においては、線分24と線分27のなす角は、90度とされている。
リアシュー52の揺動中心26の位置は、フロントシュー51と同様に、主軸55の回転中心OSを原点としたX軸値とY軸値とで表される。リアシュー52の揺動角度γの範囲は、リアシュー52がシューホルダ59に接触しないで揺動できる角度の範囲を示しており、線分27とX軸に平行な直線がなす角の最小角度γminと最大角度γmaxで表される。
なお、フロントシュー51とリアシュー52の断面形状は、本実施形態の長方形状に限定されず、それぞれシュー幅WF,WRおよびシュー長LF,LRが規定できる形状であれば、任意の形状であってよい。また、フロントシュー51とリアシュー52の凹部14,21も、本実施形態の円弧状に限定されず、例えばV字状に形成されていてもよい。
砥石形状記憶部5には、砥石53の外周面形状として、円盤状に形成された砥石53の半径Rgが記憶されている。砥石53の軸方向形状は、同一とされている。本実施形態の心なしシュー研削のシミュレーション装置1では、砥石53の外周面形状は一定であると仮定している。
指令値記憶部6には、心なしシュー研削における研削盤に対する指令値が記憶されている。指令値とは、ある時間における砥石53の回転中心OGと主軸55の回転中心OSとのX軸方向の離間距離を指令する値であるX軸値と、ある時間における工作物Wの回転角を指令する値であるC軸値(C=ωt)である。指令値は、研削条件記憶部7に記憶されている主軸55の回転速度、砥石53の切り込み速度v、砥石53の切り込み量、スパークアウト時間等の研削加工条件に基づいて算出される。なお、ωは、工作物Wの角速度であり、工作物Wの回転速度は、主軸55の回転速度に等しいと仮定している。指令値記憶部6には、後述するシミュレーション開始位置算出部32で算出した心なしシュー研削のシミュレーションの開始時間t0が入力される。
工作物中心位置変動算出部30は、工作物形状記憶部2に記憶されているシミュレーション開始時の工作物Wの形状と、フロントシュー情報記憶部3およびリアシュー情報記憶部4に記憶されているフロントシュー51とリアシュー52の形状を表すシュー幅WF,WRおよびシュー長LF,LRと揺動中心19,26の位置とに基づいて、工作物Wを1回転させた場合に変動する複数の工作物Wの中心OW位置を算出し、記憶する。工作物Wの中心OW位置は、主軸55の回転中心OSを原点としたX軸値とY軸値とで表される。
工作物中心位置変動算出部30における具体的な工作物Wの中心OW位置の算出方法を図4のフローチャートと図5に基づき説明する。はじめに、工作物中心位置変動算出部30は、工作物Wを、任意の初期回転角で、工作物Wの中心OWが主軸55の回転中心OSに一致するように配置する。
次に、図5(a)に示すように、リアシュー52を配置する(S1)。より詳しくは、リアシュー52のシュー幅WRに等しい長さの線分24の両端点22,23を工作物Wの外周面に配置し、線分24の中点25とリアシュー52の揺動中心26とを結ぶ線分27を作成する。そして、線分24と線分27のなす角が90度となる線分24の配置位置を後述する演算により求める(S1)。ステップS2では、図5(b)に示すように、線分27の長さがリアシュー52のシュー長LRに等しくなるように、工作物Wを線分27の方向に沿って平行移動させる。この状態における工作物Wの中心OW位置を、第1の工作物中心位置として記憶する(S3)。
続いて、フロントシュー51の配置が完了していないか否かを判断する(S4)。フロントシュー51の配置が完了していなければ(S4:YES)、ステップS6へ移動し、図5(b)に示すように、フロントシュー51を配置する。より詳しくは、リアシュー52を配置するステップS1と同様に、フロントシュー51のシュー幅WFに等しい長さの線分17の両端点15,16を工作物Wの外周面に配置し、線分17の中点18とフロントシュー51の揺動中心19とを結ぶ線分20を作成する。そして、線分17と線分20のなす角が90度となる線分17の配置位置を演算により求める(S6)。ステップS7では、図5(c)に示すように、線分20の長さがフロントシュー51のシュー長LFに等しくなるように、工作物Wを線分20の方向に沿って平行移動させる。この状態における工作物Wの中心OW位置を、第2の工作物中心位置として記憶する(S8)。
ステップS9では、ステップS3で記憶した第1の工作物中心位置と、ステップS8で記憶した第2の工作物中心位置とが一致しているか否かを判断する。一致していない場合(S9:NO)、言い換えれば、図5(c)に示すようにリアシュー52の線分27の工作物Wから遠い方の端点26aが、ステップS7の工作物Wの線分20の方向に沿った平行移動に伴って、リアシュー52の揺動中心26からずれた場合、ステップS1に戻って、リアシュー52の配置から再度実行する。この後のステップS4の判断は、フロントシュー51が一度配置されているので、フロントシュー51の配置が完了となり(S4:NO)、ステップS5に移動し、第1の工作物中心位置と第2の工作物中心が一致しているか否かの判断を行う。一致していない場合(S5:NO)、ステップS6に移動し、フロントシュー51の配置から再度実行する。
上述のリアシュー52の配置処理(S1〜S3)とフロントシュー51の配置処理(S6〜S8)を繰り返し、ステップS5又はステップS9の判断において、図5(d)に示すように、第1の工作物中心位置と第2の工作物中心が一致した時点で、第1の工作物中心位置又は第2の工作物中心位置を工作物Wの中心OW位置として記憶して、処理を終了する(S10)。なお、ステップS5およびステップS9において、第1の工作物中心位置と第2の工作物中心位置とが一致したかの判断は、完全に一致する場合だけでなく、所定の許容値内であれば一致と判断するようにしてもよい。また、本実施形態では、リアシュー52を配置した後、フロントシュー51を配置したが、逆に、フロントシュー51を配置した後、リアシュー52を配置するようにしてもよい。
工作物中心位置変動算出部30は、ステップS10で、工作物Wの初期回転角における工作物Wの中心OW位置を記憶し処理を終了した後に、さらに、工作物Wを工作物Wの中心OW回りに所定角度ずつ回転させ、工作物Wの中心OW位置が前回のステップS10で記憶した工作物Wの中心OW位置に一致するように配置し、図4に示す工作物Wの中心OW位置の算出処理(S1〜S10)を所定角度毎に繰り返し実行する。この繰り返し処理は、工作物Wが1回転するまで、すなわち、工作物Wが初期回転角から360度以上回転するまで実行される。このようにして、工作物中心位置変動算出部30は、工作物Wの所定角度毎の工作物Wの中心OW位置を算出し記憶する。
所定角度は、例えば、工作物Wの回転速度とシミュレーションのサンプリング時間から算出されるサンプリング時間当たりの工作物Wの回転角度が用いられる。なお、所定角度は、工作物Wの中心OW位置の変動が得られるのに十分な角度を適宜設定することができる。
図4に示すリアシュー52の配置工程(S1)での演算について、図6のフローチャートと図7を参照して、具体的に説明する。はじめに、リアシュー52の揺動角度γが最大角度γmaxとなり、リアシュー52のシュー幅WRに等しい長さの線分24aを、その両端点が工作物Wの外周面上に位置するように配置する(S20)。線分24aと、線分24aの中点25aとリアシュー52の揺動中心26とを結ぶ線分27aとがなす角δ1を求める(S21)。図7に示すように、線分24aと線分27aのなす角δ1は、線分27aの上側の角度としている。以下の説明においても、なす角は、同一方向の角度を示す。ステップS22で、角δ1が90度であるか否かを判断する。90度であれば(S22:YES)、ステップS33に移動し、処理を終了し(S33)、90度でなければ(S22:NO)、ステップS23に移動する。ステップS23で、角δ1が90度より大きいか否か判断する。角δ1が90度より大きくなければ(S23:NO)、処理を中断し(S24)、リアシュー52のシュー幅WR、揺動中心26の位置の再設定を促す旨を作業者等に知らせる。角δ1が90度より大きければ(S23:YES)、ステップS25に移動する。
ステップS25では、リアシュー52の揺動角度γが最小角度γminとなり、リアシュー52のシュー幅WRに等しい長さの線分24bを、その両端点が工作物Wの外周面上に位置するように配置する。線分24bと、線分24bの中点25bと揺動中心26とを結ぶ線分27bとがなす角δ2を求める(S26)。角δ2が90度であるか否かを判断する(S27)。90度であれば(S27:YES)、ステップS33に移動し、処理を終了し(S33)、90度でなければ(S27:NO)、ステップS28に移動する。ステップS28で、角δ2が90度より小さいか否か判断する。角δ2が90度より小さくなければ(S23:NO)、処理を中断し(S29)、リアシュー52のシュー幅WR、揺動中心26の位置の再設定を促す旨を作業者等に知らせる。角δ2が90度より小さければ(S28:YES)、ステップS30に移動する。
ステップS30では、リアシュー52のシュー幅WRに等しい長さの線分24cを、その両端点が工作物Wの外周面上に位置するように配置し、且つ線分24cの中点25cと揺動中心26とを結ぶ線分27cが、なす角δ1が90度より大きい前のステップS21で用いた線分27aとなす角δ2が90度より小さい前のステップS26で用いた線分27bとの間の角を2等分する位置に配置する。線分24cと線分27cのなす角δ3を求める(S31)。次に、角δ3が90度であるか否か判断する(S32)。90度であれば(S32:YES)、ステップS33に移動し、処理を終了する。90度でなければ(S32:NO)、ステップS30に戻る。なお、角δ3は、90度より小さいとして説明を続ける。
スッテプS30に戻り、再度、シュー幅WRに等しい長さの線分24dを、その両端点が工作物Wの外周面上に位置するように配置し、且つ線分24dの中点25dと揺動中心26とを結ぶ線分27dが、なす角δ1が90度より大きい前のステップS21で用いた線分27aとなす角δ2が90度より小さい前のステップS31で用いた線分27cとの間の角を2等分する位置に配置する。線分24dと線分27dのなす角δ4を求める(S31)。角δ4が90度であるか否か判断する(S32)。
さらに、角δ4が90度でなければ(S32:NO)、ステップS30に戻り、上述の処理(S30〜S32)を繰り返し、シュー幅WRに等しい長さの線分24と、線分24の中点25と揺動中心26とを結ぶ線分27とがなす角が90度に達した時、すべての処理を終了する(S33)。ステップS30の、なす角が90度より大きい線分となす角が90度より小さい線分とは、順になす角の算出に用いた線分の内、それぞれ最後に用いた線分を使用する。なお、ステップS22、S27、S32において、なす角が90度であるか否かの判断は、完全に一致する場合だけでなく、所定の許容値内であれば一致と判断するようにしてもよい。また、図4に示すフロントシュー51の配置工程(S6)での演算は、上述したリアシュー52の配置工程(S1)と同様に実施可能であるので、その説明は省略する。
抽出部31は、工作物中心位置変動算出部30で算出した複数の工作物Wの中心OW位置のX軸方向最大値Xmaxと、Y軸方向における複数の工作物Wの中心OW位置と砥石53の回転中心OGとの距離のY軸方向最小値Yminとを抽出する。
より具体的に、図8を参照して説明する。図8において、菱形の印(◆)は、工作物中心位置変動算出部30において算出した複数の工作物Wの中心OW位置を示している。抽出部31は、菱形の印(◆)で示す工作物中心位置変動算出部30で算出した複数の工作物Wの中心OW位置のX軸値とY軸値の中から、X軸値の最大値であるX軸方向最大値Xmaxと、Y軸方向における複数の工作物Wの中心OW位置と砥石53の回転中心OGとの距離の最小値であるY軸方向最小値Yminとを抽出する。
本実施形態では、砥石53の回転中心OGのY軸値は、原点である主軸55の回転中心OSのY軸値と同一、すなわち零とされているので、Y軸方向最小値Yminは、算出した複数の工作Wの中心OW位置のY軸値の絶対値の最小値となる。
シミュレーション開始位置算出部32は、シミュレーション開始時の工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状と、抽出部31にて抽出したX軸方向最大値XmaxとY軸方向最小値Yminと、砥石形状記憶部5に記憶されている砥石53の形状とに基づいて、シミュレーション開始時の砥石53のX軸方向位置X(t0)、すなわち、砥石53が工作物Wに干渉しない範囲で工作物Wに最も接近する位置を算出する。そして、算出したX軸方向位置X(t0)に対応するシミュレーションの開始時間t0を算出する。
なお、砥石53のX軸方向位置は、本実施形態では、砥石53の回転中心OGと主軸55の回転中心OSとのX軸方向の離間距離で表される。また、時間tにおける砥石53のX軸方向位置を説明する場合は、符号X(t)を用いる。
図8を参照して、具体的に、シミュレーション開始時の砥石53のX軸方向位置X(t0)を算出する方法を説明する。理解を容易にするため、図8に示すように、シミュレーション開始時の工作物Wの形状を楕円形状に簡略化して説明する。
シミュレーション開始時の砥石53のX軸方向位置X(t0)を算出するため、図8に示すように、工作物Wは、砥石53に最も接近する位置に配置される。具体的には、工作物Wの中心OWのX軸値とY軸値が、それぞれ抽出部31にて抽出したX軸方向最大値XmaxとY軸方向最小値Yminに等しくなるように配置される。そして、砥石53は、シミュレーション開始時の工作物Wの最大半径Rwmaxを有する円33に接する位置に配置される。
工作物Wの最大半径Rwmaxは、シミュレーション開始位置算出部32において、シミュレーション開始時の工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状から、各工作物線分12の線分長さの最大値として算出される。図8に示すように、工作物Wが楕円形状である場合、工作物Wの最大半径Rwmaxは、長軸の長さの半分となる。
シミュレーション開始位置算出部32は、工作物Wの最大半径Rwmaxを算出した後、抽出部31にて抽出したX軸方向最大値XmaxおよびY軸方向最小値Yminと、砥石形状記憶部5に砥石53の形状として記憶されている砥石53の半径Rgとに基づいて、シミュレーション開始時の砥石53のX軸方向位置X(t0)を、式(1)により算出する。
さらに、シミュレーション開始位置算出部32は、算出したシミュレーション開始時の砥石53のX軸方向位置X(t0)と、指令値記憶部6に記憶されている時間t=0における砥石53のX軸方向位置X(0)と、砥石53の切り込み速度vとに基づいて、シミュレーションの開始時間t0を式t0=(X(0)−X(t0))/vにより算出する。
工作物中心位置算出部8は、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状と、フロントシュー情報記憶部3およびリアシュー情報記憶部4に記憶されているフロントシュー51とリアシュー52の形状を表すシュー幅WF,WRおよびシュー長LF,LRと揺動中心19,26の位置と、指令値記憶部6に記憶されている指令値である工作物Wの回転角とに基づいて、所定時間毎、すなわちシミュレーションのサンプリング時間毎に工作物Wの中心OW位置を算出し、記憶する。
具体的には、工作物中心位置算出部8は、はじめに、シミュレーション開始時であれば、工作物Wを、指令値記憶部6に記憶されている、シミュレーション開始位置算出部32で算出したシミュレーションの開始時間t0における工作物Wの回転角で、工作物Wの中心OWが主軸55の回転中心OSに一致するように配置する。
シミュレーションが開始され、開始時間t0から所定時間経過後に工作物中心位置算出部8にて工作物Wの中心OW位置を再度算出する場合であれば、工作物中心位置算出部8は、工作物Wを、指令値記憶部6に記憶されている、シミュレーション開始後の時間tにおける工作物Wの回転角で、工作物Wの中心OWが前回算出した工作物Wの中心OW位置に一致するように配置する。
次に、工作物中心位置算出部8は、図4に示すステップS1からステップS10までを実施し、工作物Wの中心OW位置を算出し記憶する。図4に示すステップS1からステップS10までの詳細な説明は、工作物中心位置変動算出部30における工作物Wの中心OW位置の算出方法と同一であるので、その説明は省略する。
研削点算出部9は、工作物中心位置算出部8で工作物Wの中心OW位置が算出される毎に、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状と、工作物中心位置算出部8に記憶されている工作物Wの中心OW位置と、砥石形状記憶部5に記憶されている砥石53の形状と、指令値記憶部6に記憶されている指令値とに基づいて、砥石53により所定時間に研削加工される工作物Wの研削点28を算出する。なお、研削点28を個々に説明する場合には、符号28a、28b、28c、・・・を用いる。
具体的には、図9(a)に示すように、シミュレーション開始後のある時間において、工作物Wは、指令値記憶部6に記憶されている回転角で、工作物中心位置算出部8に記憶されている主軸55の回転中心OSを原点として工作物Wの中心OW位置に配置されている。工作物Wの外周面形状は、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの中心OWを基準とした工作物線分12により形状認識されている。
砥石53の回転中心OGは、主軸55の回転中心OSを原点として、指令値記憶部6に記憶されているX軸方向の離間距離を有した位置に配置されている。砥石53の外周面形状は、シミュレーション中一定であると仮定され、砥石形状記憶部5に記憶された円盤状の砥石53の半径Rgにより認識されている。
図9(b)に示すように、所定時間経過後、すなわち、シミュレーションのサンプリング時間経過後には、工作物Wは、図9の時計回りに回転し、指令値記憶部6に記憶されている所定時間経過後の回転角の位置となる。工作物Wの回転と同時に、砥石53は、図8の左方向に、指令値記憶部6に記憶されている所定時間後のX軸方向の離間距離となる位置に移動し、工作物Wに対して切り込みを与える。図9(b)の斜線部分は、所定時間中に研削加工により除去される部分を示している。
研削点算出部9は、所定時間経過後の砥石53の外周面形状と、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物線分12により形状認識される工作物Wの形状とから、所定時間経過後の砥石53の外周面と工作物線分12との交点である研削点28を幾何学的に算出している。
工作物形状変更部10は、研削点算出部9で研削点28が算出される毎に、研削点28に基づいて、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状を変更する。つまり、研削点28に基づいて、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの工作物線分12の端点11を、砥石53により所定時間中に研削加工された形状に変更する。図9(b)の例では、工作物線分12cの端点11cと工作物線分12dの端点11dが、それぞれ研削点28aと28bに変更され、工作物線分12cと工作物線分12dの長さが更新される。変更された工作物Wの形状は、工作物形状記憶部2に記憶され、次回の工作物Wの中心OW位置の算出、研削点28の算出に反映される。
次に、本実施形態の心なしシュー研削のシミュレーション方法について、図1を参照しつつ説明する。まず、作業者は、工作物Wの外周面形状、フロントシュー51の形状と揺動中心19の位置、リアシュー52の形状と揺動中心26の位置、砥石53の外周面形状、研削条件、およびシミュレーション条件等を入力する。
次に、工作物中心位置変動算出部30において、工作物形状記憶部2に記憶されているシミュレーション開始時の工作物Wの形状と、フロントシュー情報記憶部3およびリアシュー情報記憶部4に記憶されているフロントシュー51とリアシュー52の形状を表すシュー幅WF,WRおよびシュー長LF,LRと揺動中心19,26の位置とに基づいて、工作物Wを1回転させた場合に変動する複数の工作物Wの中心OW位置を算出し記憶する工作物中心位置変動算出工程を実施する。
続けて、抽出部31において、工作物中心位置変動算出部30で算出した複数の工作物Wの中心OW位置のX軸方向最大値Xmaxと、Y軸方向における複数の工作物Wの中心OW位置と砥石53の回転中心OGとの距離のY軸方向最小値Yminとを抽出する抽出工程を実施する。
続けて、シミュレーション開始位置算出部32において、シミュレーション開始時の工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状と、抽出部31にて抽出したX軸方向最大値XmaxとY軸方向最小値Yminと、砥石形状記憶部5に記憶されている砥石53の形状とに基づいて、シミュレーション開始時の砥石53のX軸方向位置X(t0)を算出し、このX軸方向位置X(t0)に対応するシミュレーションの開始時間t0を算出するシミュレーション開始位置算出工程を実施する。
そして、シミュレーション開始位置算出部32で算出したシミュレーションの開始時間t0から所定時間毎に、工作物中心位置算出部8において、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状等に基づき、工作物Wの中心OW位置を算出する工作物中心位置算出工程を実施する。
続いて、研削点算出部9において、工作物中心位置算出部8で工作物Wの中心OW位置が算出される毎に、工作物Wの中心OW位置に工作物Wを配置した状態で、所定時間中に研削加工される工作物Wの研削点28を算出する研削点算出工程を実施する。
続いて、工作物形状変更部10において、研削点算出部9で研削点28が算出される毎に、研削点算出部9にて算出した研削点28に基づいて、工作物形状記憶部2に記憶されている工作物Wの形状を変更する工作物形状変更工程を実施する。
そして、この変更された工作物Wの形状を用いて、次回の所定時間において、工作物Wの中心Ow位置の算出、研削点28の算出、工作物Wの形状変更を実施する。このように、所定時間毎に、工作物中心位置算出工程、研削点算出工程、工作物形状変更工程を繰り返すことによって、心なしシュー研削のシミュレーションが実行される。
上記のように構成された心なしシュー研削のシミュレーション装置1、および、心なしシュー研削のシミュレーション方法によれば、シミュレーション開始時に、シミュレーション開始時の工作物Wを1回転させた場合に変動する複数の工作物Wの中心OW位置を算出し、算出した複数の工作物Wの中心OW位置からX軸方向最大値XmaxとY軸方向最小値Yminとを抽出し、工作物Wの最大半径Rwmaxと砥石53の半径Rgとを用いて、シミュレーション開始時の砥石53のX軸方向位置X(t0)を算出している。
これにより、工作物Wの外周面位置の2つの変動要因である、フロントシュー51とリアシュー52により支持される工作物Wの1回転中に変動する工作物Wの中心OW位置の変動と、研削前の工作物W外周面の真円度誤差とを考慮して、シミュレーション開始時の砥石53のX軸方向位置X(t0)を適切に設定できる。
したがって、砥石53が工作物Wと干渉しない範囲で工作物Wに最も接近させた位置から心なしシュー研削のシミュレーションを開始でき、シミュレーション開始直後から、砥石53による研削が開始され、砥石53が工作物Wに接近するまでのシミュレーションの演算処理時間を短縮することができる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更することが可能である。
上記実施形態では、X軸およびY軸の原点である主軸55の回転中心OSのY軸値は砥石53の回転中心OGのY軸値と同一の値としたが、異なる値であってもよい。また、X軸およびY軸の原点は主軸55の回転中心OSとしているが、任意の固定位置を原点に設定してもよい。
上記実施形態では、フロントシュー51の工作物Wの外周面に配置したシュー幅WFに等しい長さの線分17と、その中点18と揺動中心19を結ぶ線分20とのなす角が90度とされているが、90度に限定されず、任意の角度に設定されてもよい。また、リアシュー52も同様に、リアシュー52のシュー幅WRに等しい長さの線分24と、その中点25と揺動中心26を結ぶ線分27のなす角は、90度に限定されず、任意の角度に設定されてもよい。
上記実施形態の心なしシュー研削のシミュレーション装置1およびそのシミュレーション方法では、工作物W研削時の研削力による工作物Wの変形を考慮してないが、工作物W研削時の研削力による工作物Wの変形を考慮した心なしシュー研削のシミュレーション装置およびそのシミュレーション方法に本発明を適用してもよい。