次に、上述の後写鏡制御装置について、例示的な実施形態を挙げて説明する。
[後写鏡制御装置の構成]
図1に示すように、以下に説明する後写鏡制御装置1は、車両2が備える後写鏡3(本実施形態の場合は車室内後写鏡(いわゆるルームミラー。)。)の鏡面角度を、運転者の視線に基づいて調整可能な装置である。後写鏡制御装置1は、駆動部5、撮像部7、及び制御部10などを備える。
後写鏡3は、車両2の上下方向に延びる軸線を第一の回動中心として水平面に沿って回動することにより鏡面の左右角(水平角)を変更可能に構成されている。また、後写鏡3は、第一の回動中心に対して直交する軸線を第二の回動中心として垂直面に沿って回動することにより鏡面の上下角(仰俯角)を変更可能に構成されている。なお、第一の回動中心は、後写鏡3が左右角及び上下角のいずれを変更する向きに回動しても車両2に対する相対位置が変化しない。第二の回動中心は、後写鏡3が左右角を変更する向きに回動すると、後写鏡3とともに回動して車両2に対する相対位置が変化する。
駆動部5は、本実施形態の場合、第一モーター5Aと、第二モーター5Bとを有する。第一モーター5Aを作動させると後写鏡3が作動し、後写鏡3の鏡面の左右角が変更される。第二モーター5Bを作動させると後写鏡3が作動し、後写鏡3の鏡面の上下角が変更される。なお、駆動部5は、後写鏡3の鏡面角度を変更可能に構成されていれば、第一モーター5A及び第二モーター5B以外のアクチュエーター(例えば、リニアアクチュエーターなど。)で構成されていてもよい。
撮像部7は、本実施形態の場合、赤外線カメラ7Aと、赤外線ランプ7Bとを有する。赤外線カメラ7Aは、後写鏡3に対する相対位置が所定の相対位置となる箇所、かつ、運転者の目の位置を含む所定の撮像対象範囲を撮影可能な箇所に取り付けられている。本実施形態の場合、赤外線カメラ7Aは、異なる複数方向から運転者の顔を撮影可能に構成され、これにより、運転者の目の位置に関する三次元座標を計測可能となっている。ただし、このような三次元座標は、他の方法(例えば、赤外線カメラ7Aとは別の測距センサーやこれらを併用する手法など。)で計測可能となっていてもよく、赤外線カメラ7Aで異なる複数方向から運転者の顔を撮影する構成を採用することは必須ではない。
赤外線ランプ7Bは、赤外線カメラ7Aの近傍に取り付けられ、運転者の顔に向かって赤外線を照射可能に構成されている。これにより、車室内が暗くなる夜間においても、赤外線カメラ7Aによって適切に運転者の目の位置を検出できるように構成されている。ただし、撮像部7は、可視光カメラで構成されていてもよく、赤外線カメラ7A及び赤外線ランプ7Bを利用するか否かは任意である。
制御部10は、検出部11、及び角度変更部12などを備える。本実施形態の場合、制御部10は、周知のCPU、ROM、RAM、及び車載ネットワークコントローラなどを備えたECU(Electronic Control Unit;電子制御装置)によって構成されている。なお、本実施形態の場合、制御部10を構成するECUは、後写鏡制御装置1のために用意された専用のECUとされているが、他の機能を制御するために用意されたECUを後写鏡制御装置1用として兼用してもよい。また、他の機器(例えばカーナビゲーション装置等。)に設けられた制御部を、後写鏡制御装置1用として兼用してもよい。
制御部10が備えるROMには、OS(Operating System)及びOSの制御下で作動する各種アプリケーションのプログラムが記憶されている。制御部10の作動時には、ROMに記憶されたソフトウェアがCPUによって読み出され、CPUが各種プログラムに従って所定の処理を実行することにより、制御部10において上述の検出部11、及び角度変更部12などが機能する状態になる。
検出部11は、撮像部7によって撮像された映像に基づいて、運転者の視線が変位した方向を検出する。本実施形態の場合、検出部11は、撮像部7によって撮像された映像に基づいて、運転者の目と瞳の位置の変化を算出する。シートに座った運転者が後写鏡3の中央(本明細書でいう基準位置の一例に相当。)を見ている場合における瞳の位置は、事前に(例えば、後写鏡制御装置1の初期設定時に。)登録操作が行われる。この登録操作において、基準位置を見ている場合の瞳の位置は、制御部10の不揮発性メモリに記憶される。視線検出を行う際には、撮像部7によって撮像された映像の中から、パターンマッチングによって目の部分の画像を抽出し、目の中における瞳の位置を特定し、基準位置を見ている場合の瞳の位置からの変位方向及び変位量を算出する。
例えば、図2に示すように、運転者がルームミラーの中央(基準位置)を見ている場合に、運転者の瞳17が図2中の上側に示すような位置にある場合、この瞳の位置が基準位置を見ている場合の瞳の位置として登録される。そして、視線検出を行う際、運転者の瞳17が図2中の下側に示すような位置にあれば、検出部11では、運転者の瞳17が運転者にとっての左方向へ変位量A1だけ変位していること、及び運転者の瞳17が運転者にとっての上方向へ変位量A2だけ変位していることが検出される。
角度変更部12は、検出部11によって検出された変位方向に応じて駆動部5を制御することにより、視線の変位先側に映っている鏡像が基準位置側へと変位する向きに、後写鏡の鏡面角度を変更する。例えば、図2に示すように、運転者の瞳17が図2中の下側に示すような位置へ変位している場合、運転者は、後写鏡3の中央よりも左斜め上方向を見ていることがわかる。
このような場合には、後写鏡3の鏡面がより左側に向けられるように第一モーター5Aが駆動されて、後写鏡3の左右角が調整される。また、後写鏡3の鏡面がより上側に向けられるように第二モーター5Bが駆動されて、後写鏡3の上下角が調整される。このように後写鏡3の左右角及び上下角が調整されると、後写鏡3の中央よりも左上に映っていた対象物の鏡像は、後写鏡3の中央側(基準位置側)へと移動する。
このとき、運転者が後写鏡3の中央よりも左上に映っていた対象物を目で追っていれば、運転者の視線が向けられる先は後写鏡3の中央へと移動する。つまり、運転者の瞳17は、図2中の上側に示すような基準位置を見ている場合の瞳の位置へと移動する。したがって、この時点で第一モーター5A及び第二モーター5Bの駆動は停止されて、後写鏡3の鏡面角度は、運転者の着目する対象物が後写鏡3の中央に映る角度に変更されることになる。
また、運転者が鏡像として映っている対象物を目で追わず、後写鏡3自体の中央から外れた位置を目で追えば、運転者の瞳17は、例えば図2中の下側に示すような位置のままとなる。したがって、この場合は、第一モーター5A及び第二モーター5Bの駆動が継続され、後写鏡3の鏡面角度が変更され続けることになる。この場合でも、鏡面角度が所望の角度となったところで視線を後写鏡3自体の中央へと移せば、第一モーター5A及び第二モーター5Bの駆動は停止される。よって、鏡面角度が所望の角度となるまでは後写鏡3自体の中央から外れた位置を目で追い、鏡面角度が所望の角度となったところで視線を後写鏡3自体の中央へと移す、という所作によっても、鏡面角度を制御することができる。すなわち、鏡面角度の調整を行うに当たって、運転者が鏡像として映っている対象物を目で追うか否かは任意である。
図3は、上述のような後写鏡3の角度調整の様子を、左右方向の角度調整を例に挙げて図示したものである。シート21に座っている運転者23が後写鏡3を見た場合、後写鏡3が初期位置にあれば、後写鏡3は、例えば車両の真後ろを中心とする視野範囲V1が映り込むように鏡面角度が設定された状態にある。なお、後写鏡3が初期位置にある場合の鏡面角度は、利用者が任意に決められるようにしてあってもよいし、上述の特許文献1又は特許文献2に記載の技術を利用して、運転者の目の位置から自動設定できるように構成されていてもよい。
後写鏡3が上述のような初期位置にある状態において、運転者が対象物25に着目した場合、後写鏡3の鏡面越しに対象物25へと向けられる運転者23の視線S1は、図中に破線で示すように、後写鏡3の中央位置P1よりも左側の位置P2に向けられる。運転者の視線S1がこのような方向に向けられていることは、上述のように検出部11によって検出される。そして、検出部11によって検出された変位方向に応じて角度変更部12が駆動部5を制御することにより、視線の変位先側に映っている鏡像が基準位置側(すなわち、後写鏡3の中央位置P1側。)へと変位する向きに、後写鏡の鏡面角度を変更する。
その結果、後写鏡3の鏡面角度は、視野範囲V1が映り込む角度から視野範囲V2が映り込む角度へと変更され、これに伴い、後写鏡3の鏡面越しに対象物25へと向けられる運転者23の視線の向きは、視線S1から視線S2へと変化する。したがって、運転者23にとっては、後写鏡3の中央位置P1に対象物25の鏡像が見える状態となるように、後写鏡3の鏡面角度が変更されることになる。
なお、図3においては、後写鏡3の左右角を例に挙げて鏡面角度が変更される様子を説明したが、後写鏡3の上下角についても、全く同様の仕組みで調整されることになる。よって、後写鏡3の上下角については、図示を交えての説明を省略する。
[後写鏡角度調整処理]
次に、上述のような後写鏡3の鏡面角度の調整を実現するため、制御部10において実行される後写鏡角度調整処理について、図4−図7のフローチャートに基づいて説明する。本実施形態の場合、運転者がプッシュスタートスイッチ(図示略。)によってイグニッションオン操作を行うと作動開始条件が成立し、制御部10において後写鏡角度調整処理が開始される。
後写鏡角度調整処理を開始すると、図4に示すように、制御部10は、後写鏡角度調整機能がオンとされているか否かを判断する(S10)。後写鏡角度調整機能は利用者が所定の操作(例えば、スイッチ操作。)を行うことにより、オン及びオフをいずれか一方に切り替えることができ、S10ではオンに切り替えられているか否かが判断される。S10において機能オンではない場合(S10:NO)、S10へと戻ることにより、S10の判断が繰り返される。
S10において機能オンであった場合(S10:YES)、制御部10は、運転者がシートに着席しているか否かを判断する(S20)。本実施形態の場合、運転席のシートには図示しない着座センサー(感圧センサー)が配設され、S20では、着座センサーからの出力信号に基づいて運転者がシートに着席しているか否かを判断する。S20において運転者がシートに着席していないと判断された場合は(S20:NO)、S10へと戻る。すなわち、S10又はS20において否定判断がなされる限り、S10又はS20の判断が繰り返される。
なお、詳しくは後述するが、S30以降の処理が実行された場合でも、一連の処理が実行された後にはS10へと戻る。そのため、後写鏡角度調整処理の実行中に後写鏡角度調整機能がオンからオフに切り替えられれば、S20以降の処理は実行されなくなる。また、後写鏡角度調整処理の実行中に運転者が離席した場合には、S20において運転者がシートに着席していないと判断されて、S30以降の処理は実行されなくなる。
S20において運転者がシートに着席していると判断された場合(S20:YES)、制御部10は、撮像部7から映像を取り込み(S30)、その映像中から運転者の目を検出する(S40)。なお、S40を終えた場合は、図4に示すS50以降の処理と図5に示すS80以降の処理が並列に実行される。
以下、S50以降の処理について説明する。S50以降の処理は、例えば運転者が頭を大きく動かした場合等、目の位置が大きく移動した場合に対応するための処理である。具体的には、制御部10は、撮像部7から取り込んだ映像に基づいて目の移動距離を算出し(S50)、目の移動距離があらかじめ定められたしきい値Kよりも大か否かを判断する(S60)。
S60において目の移動距離がしきい値K以下である場合は(S60:NO)、S60へと戻る。一方、S60において目の移動距離がしきい値Kより大である場合は(S60:YES)、後写鏡3を初期位置へ復帰させて(S70)、S10へと戻る。すなわち、S60によって目の移動距離が過大になっていないかどうかを監視し、目の移動距離が過大になった場合は、S70によって後写鏡3を初期位置へ復帰させてから、S10へと戻る。これにより、目の位置が大きく移動したことが原因で視線方向が大きく変わった場合に、後写鏡3の角度調整がそのまま継続されるのを回避している。
次に、S40を終えた場合にS50以降の処理と並列に実行されるS80以降の処理(図5参照。)について説明する。図5に示すS80以降の処理は、瞳の動きに応じて後写鏡3の鏡面角度を調整するための処理である。具体的には、制御部10は、瞳の検出を試行し(S80)、目及び瞳を検出できたか否かを判断する(S90)。S90において、目又は瞳を検出できなかったと判断された場合(S90:NO)、制御部10は、カウンタ#3のカウント値をアップし(S100)、カウンタ#3のカウント値が所定のしきい値Nを超えたか否かを判断する(S110)。
カウンタ#3は、目及び瞳の検出を複数回試行するために用意されたカウンタであり、カウンタ#3の値がしきい値N以下であれば(S110:NO)、所定の時間t(例えば、0.1秒。)だけ待機して(S120)、S10へと戻る。所定の時間tは、設計時にあらかじめ決められた固定値であってもよいし、利用者が任意に調整可能な可変値であってもよい(以下、同様。)。一方、S110において、カウンタ#3の値がしきい値Nを超えていれば(S110:YES)、N回にわたって目及び瞳を検出できなかったことになるので、この場合、制御部10は、後写鏡3を初期位置へ復帰させて(S130)、S10へと戻る。したがって、例えば運転者が長期間にわたって目を閉じていたような場合には、後写鏡3が初期位置へ復帰することになる。
S90において、目又は瞳を検出できたと判断された場合(S90:YES)、制御部10は、カウンタ#3をリセットする(S140)。これにより、S100が何回か実行されてカウンタ#3の値がアップされていた場合でも、S140が実行された時点でカウンタ#3の値はリセットされる。S140を終えた場合は、図6のS150へ進む。
S150において、制御部10は、瞳の変位量A1,A2(図2参照。)を検出する(S150)。なお、S150を終えた場合は、図6に示すS160以降の処理と図7に示すS240以降の処理が並列に実行される。
以下、S160以降の処理について説明する。S160以降の処理は、後写鏡3の左右角(水平角)を調整するための処理である。具体的には、制御部10は、瞳の変位方向及び変位量A1に応じて後写鏡3を横回転させる(S160)。S160のおいて、瞳の変位方向が運転者にとって左方向であれば、後写鏡3は運転者から見て左方向へ横回転する。また、瞳の変位方向が運転者にとって右方向であれば、後写鏡3は運転者から見て右方向へ横回転する。
また、本実施形態の場合、後写鏡3の回動速度は、瞳の変位量A1に対して所定の重み付け値B1を乗じた値に設定される。重み付け値B1は、設計段階で取り決められた固定値であってもよいし、利用者操作や何らかの条件に応じて可変設定が可能な可変値であってもよい。重み付け値B1として設定される値が大きい場合ほど後写鏡3の回動速度(横回転の速度。)は速くなる。また、瞳の変位量A1が大きい場合ほど後写鏡3の回動速度(横回転の速度。)が速くなる。これにより、運転者の視線が後写鏡3の中央から大きく外れた場合には、後写鏡3が迅速に回動し、一方、運転者の視線が後写鏡3の中央から僅かに外れた場合には、後写鏡3がゆっくりと回動する。
続いて、制御部10は、後写鏡3の左右角に関し、後写鏡3が可動限界に達しているか否かを判断する(S170)。S170では、後写鏡3が既に左方へは回動できない角度に達していたこと、又は後写鏡3が既に右方へは回動できない角度に達していたことが原因で、S160において後写鏡3の左右角を変更できなかった場合に、後写鏡3が可動限界に達していると判断される。
後写鏡3が可動限界に達している場合(S170:YES)、制御部10は、カウンタ#1のカウント値をアップし(S180)、カウンタ#1のカウント値が所定のしきい値Lより小か否かを判断する(S190)。
カウンタ#1は、後写鏡3の左右角に関し、後写鏡3が可動限界に達している状態が複数回にわたって続いていることを検出するために用意されたカウンタである。カウンタ#1の値がしきい値Lより小であれば(S190:YES)、所定の時間tだけ待機して(S200)、S10へと戻る。一方、S190において、カウンタ#1の値がしきい値L以上であれば(S190:NO)、L回にわたって後写鏡3が可動限界に達する状態が続いていたことになるので、この場合、制御部10は、後写鏡3を初期位置へ復帰させて(S210)、S10へと戻る。
S170において、後写鏡3が可動限界に達していない場合(S170:NO)、制御部10は、カウンタ#1をリセットし(S220)、所定の時間tだけ待機して(S230)、S10へと戻る。S180が何回か実行されてカウンタ#1の値がアップされていた場合でも、S220が実行された時点では、カウンタ#1の値はリセットされることになる。
次に、S150を終えた場合にS160以降の処理と並列に実行されるS240以降の処理(図7参照。)について説明する。図7に示すS240以降の処理は、後写鏡3の上下角を調整するための処理である。具体的には、制御部10は、瞳の変位方向及び変位量A2に応じて後写鏡3を縦回転させる(S240)。S240のおいて、瞳の変位方向が運転者にとって上方向であれば、後写鏡3は運転者から見て上方向へ縦回転する。また、瞳の変位方向が運転者にとって下方向であれば、後写鏡3は運転者から見て下方向へ縦回転する。
また、本実施形態の場合、後写鏡3の回動速度は、瞳の変位量A2に対して所定の重み付け値B2を乗じた値に設定される。重み付け値B2は、設計段階で取り決められた固定値であってもよいし、利用者操作や何らかの条件に応じて可変設定が可能な可変値であってもよい。重み付け値B2として設定される値が大きい場合ほど後写鏡3の回動速度(縦回転の速度。)は速くなる。また、瞳の変位量A2が大きい場合ほど後写鏡3の回動速度(縦回転の速度。)が速くなる。これにより、上述した横回転の場合(S160)と同様に、運転者の視線が後写鏡3の中央から大きく外れた場合には、後写鏡3が迅速に回動し、一方、運転者の視線が後写鏡3の中央から僅かに外れた場合には、後写鏡3がゆっくりと回動する。
続いて、制御部10は、後写鏡3の上下角に関し、後写鏡3が可動限界に達しているか否かを判断する(S250)。S250では、後写鏡3が既に左方へは回動できない角度に達していたこと、又は後写鏡3が既に右方へは回動できない角度に達していたことが原因で、S240において後写鏡3の左右角を変更できなかった場合に、後写鏡3が可動限界に達していると判断される。
後写鏡3が可動限界に達している場合(S250:YES)、制御部10は、カウンタ#2のカウント値をアップし(S260)、カウンタ#2のカウント値が所定のしきい値Mより小か否かを判断する(S270)。
カウンタ#2は、後写鏡3の左右角に関し、後写鏡3が可動限界に達している状態が複数回にわたって続いていることを検出するために用意されたカウンタである。カウンタ#2の値がしきい値Mより小であれば(S270:YES)、所定の時間tだけ待機して(S280)、S10へと戻る。一方、S270において、カウンタ#2の値がしきい値M以上であれば(S270:NO)、M回にわたって後写鏡3が可動限界に達する状態が続いていたことになるので、この場合、制御部10は、後写鏡3を初期位置へ復帰させて(S290)、S10へと戻る。
S250において、後写鏡3が可動限界に達していない場合(S250:NO)、制御部10は、カウンタ#2をリセットし(S300)、所定の時間tだけ待機して(S310)、S10へと戻る。S260が何回か実行されてカウンタ#2の値がアップされていた場合でも、S300が実行された時点では、カウンタ#2の値はリセットされることになる。
[効果]
以上説明したような後写鏡制御装置1によれば、運転者が後写鏡3の鏡面越しに見える方向を変更したい場合には、運転者が後写鏡3の中央(基準位置)から外れる方向へ視線を向ければ、後写鏡3の鏡面角度が変更される。したがって、手動によるリモコン操作で鏡面角度を調整可能な装置とは異なり、手を使わなくても視線によって鏡面角度の調整を実施することができる。
また、上述のような鏡面角度の変更時には、運転者が視線を変位させた先に映っている鏡像の位置が、鏡面の中央側(基準位置側)へと移動するように鏡面角度が変更される。例えば、運転者が後写鏡3の中央よりも左方向へ視線を向ければ、視線の変位先側である左側に映っている鏡像の位置が中央側へと移動する。また、運転者が後写鏡3の中央よりも上方向へ視線を向ければ、視線の変位先側である上側に映っている鏡像の位置が中央側へと移動する。
そのため、運転者が鏡面越しに着目している対象物が中央から外れる位置にあれば、その対象物に視線を向けるだけで、その対象物の鏡像が鏡面の中央へと移動することになる。その際、運転者がその対象物を目で追えば、運転者の視線が向けられる箇所は徐々に中央側へと近づくので、運転者の視線が向けられる箇所が鏡面中央まで変位すれば、それ以上は鏡面角度が変更されなくなる。
したがって、運転者は対象物に対して視線を向け続けるだけで、鏡面角度を運転者の着目する対象物が鏡面の中央に映るような角度に調整することができる。よって、着目する対象物を鏡面の中央に映して、対象物の上下にある視野範囲や左右にある視野範囲を均等に確保でき、着目する対象物の周囲の状況まで確認しやすくすることができ、運転者はストレスなく広範囲を視認できるようになる。
また、上記実施形態の場合、検出部11は、運転者の目が移動した際に目の移動距離を算出し(S50)、角度変更部12は、目の移動距離が所定のしきい値Kよりも大となった場合に、鏡面角度を初期角度に復帰させる(S60−S70)。したがって、目の位置が大きく移動したことが原因で視線方向が大きく変わった場合に、後写鏡3の角度調整がそのまま継続されるのを避けることができる。
また、上記実施形態の場合、検出部11は、運転者の瞳孔の動きに基づいて、視線の変位方向を検出する(S80)。したがって、他の手法(例えば、虹彩の動きに基づいて視線の変位方向を検出する手法など。)に比べ、より精度よく視線の変位方向を検出することができる。
また、上記実施形態の場合、角度変更部12は、検出部11によって運転者の瞳孔を検出できない状態にあることをカウンタ#3で計数し、そのような状態が所定回数にわたって継続した場合に、鏡面角度を初期角度に復帰させる(S110,S120,S140)。したがって、例えば、鏡面角度が大きく変更された後に、運転者の瞳孔を検出できない状態に陥ったような場合でも、鏡面角度を初期角度に復帰させることができる。
また、上記実施形態の場合、角度変更部12は、視線の変位先側に映っている鏡像が中央側へと変位する向きに、後写鏡3の鏡面角度を変更しようとすると、後写鏡3が可動限界を超えることになる状態にあることをカウンタ#1,#2で計数し、そのような状態が所定回数にわたって継続した場合に、鏡面角度を初期角度に復帰させる(S250,S280,S290,S310,S250,S280,S290,S310)。したがって、鏡面角度が可動限界に達しているような状態が延々と持続されるような状態に陥るのを抑制し、適度なタイミングで鏡面角度を初期角度に復帰させることができる。
[他の実施形態]
以上、後写鏡制御装置について、例示的な実施形態を挙げて説明したが、上述の実施形態は本発明の一態様として例示されるものに過ぎない。すなわち、本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、様々な形態で実施することができる。
例えば、上記実施形態では、後写鏡3の鏡面の中央を基準位置としてあったが、基準位置を鏡面の中央とするか否かは任意である。例えば、より左方の視野範囲を広めに確保したい運転者の場合、鏡面を左右方向に2:1に分割する位置を基準位置に設定してもかまわない。また、このように基準位置を複数通り考え得る場合、どのような位置を基準位置として設定するかについて、利用者が任意に選択できるようになっていてもかまわない。
また、上記実施形態では、後写鏡3が車室内後写鏡(いわゆるルームミラー。)である場合を例示したが、車体外後写鏡(いわゆるサイドミラー。)を対象にして、上述の後写鏡角度調整処理を実施してもよい。車体外後写鏡の場合、初期位置としては、主に車両の後方が視認できるような鏡面角度が設定されるが、車線変更を行う場合には、初期位置よりも更に側方を見たい場合がある。このような場合に、上述の後写鏡角度調整処理によって車体外後写鏡の鏡面角度を変更可能に構成してあれば、車体外後写鏡の鏡面の端に視線を向けるだけで、鏡面の端に映っていた対象物が鏡面の中央側へと移動する。したがって、鏡面の中央側へと移動した対象物よりも更に側方の範囲まで鏡面に映し込むことができる。
また、車両を後退させて駐車枠に収めたいような場合には、車体外後写鏡の鏡面を下方に向けて駐車枠の位置を確認したいことがある。このような場合に、上述の後写鏡角度調整処理によって車体外後写鏡の鏡面角度を変更可能に構成してあれば、車体外後写鏡の鏡面の下端に視線を向けるだけで、鏡面の下端に映っていた対象物が鏡面の中央側へと移動する。したがって、鏡面の中央側へと移動した対象物よりも更に下方の範囲まで鏡面に映し込むことができ、駐車枠の確認が容易になる。
また、上記実施形態では言及しなかったが、瞳の変位量A1,A2が所定のしきい値よりも小さい場合には、S160やS240の処理をキャンセルするようにしてもよい。これにより、鏡面角度の微調整が実施されなくなるので、制御部10にかかる負荷を軽減することができる。
また、上記実施形態では、カウンタ#1,#2,#3を用いてカウント値としきい値とを比較することで、所定回数にわたって問題が検出されたら後写鏡3を初期位置へ復帰させていたが、カウンタ#1,#2,#3を用いるか否かは任意である。例えば、問題が検出されたらタイマーを作動させて、タイマー作動後の所定期間にわたって問題が検出されたら後写鏡3を初期位置へ復帰させるようにしてもよい。
また、上記実施形態では言及しなかったが、更に他の条件も組み合わせて、後写鏡制御装置1の作動を許可するか禁止するかを切り替えてもよい。例えば、車両の停止時及び後退時には後写鏡制御装置1の作動を許可し、車両の前進時には後写鏡制御装置1の作動を禁止する、といった条件設定をしてもよい。この場合、後写鏡制御装置1には、図示しないシフトポジションセンサーから提供される情報が入力されるように構成し、その情報に基づいて上述のような作動可否の判定をすればよい。あるいは、例えば、車両の直進中は後写鏡制御装置1の作動を許可し、車両がカーブ路を走行中や右左折をする際には後写鏡制御装置1の作動を禁止する、といった条件設定をしてもよい。この場合、後写鏡制御装置1には、図示しないステアリングポジションセンサーから提供される情報が入力されるように構成し、その情報に基づいて上述のような作動可否の判定をすればよい。
また、上記実施形態で説明したような後写鏡角度調整処理は、異なる運転者ごとに実行するか否かを設定可能となっていてもよい。また、後写鏡角度調整処理を実行する場合でも、異なる運転者ごとに上述の重み付け値B1,B2を可変設定可能とし、後写鏡3の動作速度を異なる運転者それぞれの好みに合わせて調整できるようにしてあってもよい。
また、上記実施形態において、一つの構成要素で実現していた所定の機能を、複数の構成要素が協働して実現するように構成してあってもよい。あるいは、上記実施形態では、複数の構成要素それぞれが有していた複数の機能や、複数の構成要素が協働して実現していた所定の機能を、一つの構成要素が実現するように構成してあってもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、同様の機能を有する公知の構成に置き換えてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
また、上述した後写鏡制御装置の他、当該後写鏡制御装置を構成要素とするシステム、当該後写鏡制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した記録媒体など、種々の形態で本発明を実現することもできる。
なお、上記実施形態と特許請求の範囲との対応関係を理解しやすくするために、特許請求の範囲には、上記実施形態中で示した符号を括弧書きで記載したが、当該記載は本発明の技術的範囲が上述の実施形態に限定されることを意味する記載ではない。