以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態における電動機制御システム1を示す図である。
電動機制御システム1は、例えば電気自動車に搭載され、電気自動車のアクセル操作量や電動機10の状態などに応じて電動機10を制御する。
電動機制御システム1は、電動機10と非接触検出部20と制御ユニット30とを含む。
電動機10は、交流電力によって駆動する電動モータである。電動機10は、例えば三相交流の同期モータにより実現される。同期モータとしては、埋込磁石同期モータなどがある。
電動機10は、モータハウジング11と、ロータ12と、ブラケット13とを含む。ここでは、電動機10の構造が模式的に示されている。
モータハウジング11は、電動機10を構成するステータ及びロータ12を収容する筺体である。
ロータ12は、電動機10のステータに巻かれたステータコイルに対し制御ユニット30から供給される交流電流(以下、「モータ駆動電流」という。)によって、電動機10の回転軸を中心に回転する回転体である。
ブラケット13は、ロータ12の側面を覆う筺体である。ブラケット13には、非接触検出部20を嵌め込む孔131が形成される。
非接触検出部20は、モータハウジング11内に設けられ、ブラケット13の孔131に配置される。
非接触検出部20は、計測対象物であるロータ12の温度と相関関係のある信号を検出する。非接触検出部20は、第1検出素子21と第2検出素子22とを備える。
第1検出素子21は、物体から放射される赤外線の放射エネルギーを計測するために用いられる赤外線検知用サーミスタである。第1検出素子21は、物体から放射される赤外線の放射エネルギーを吸収する赤外線吸収材211の温度を検出する。赤外線吸収材211は、第1検出素子21の計測対象物側に設けられる。計測対象物の温度上昇に伴い計測対象物から放射される赤外線の放射エネルギーが増加するほど、赤外線吸収材211の温度は高くなる。
このように、ロータ12から放射される赤外線の放射エネルギーはロータ12の温度に応じて変化するので、第1検出素子21から出力される電圧信号V1を利用することによって、制御ユニット30は、ロータ12の温度を非接触で検出することが可能となる。
第1検出素子21では、検出される赤外線吸収材211の温度変化に応じて、出力信号である電圧信号V1のレベルが変化する。第1検出素子21は、電圧信号V1を検出信号として制御ユニット30に出力する。
第2検出素子22は、赤外線吸収材211の周囲の温度が変化することに伴う赤外線吸収材211の温度変化を補償するために用いられる補償用サーミスタである。第2検出素子22は、赤外線吸収材211近傍の内部温度と相関のある信号として、非接触検出部20の温度、すなわちブラケット13の筐体温度を検出する。ロータ12から放射される赤外線の放射エネルギーによって、赤外線吸収材211だけでなく、非接触検出部20の筐体温度も上昇するため、筐体温度の上昇に伴い赤外線吸収材211の温度はロータ12の温度変化に関係なく上昇し電圧信号V1の信号レベルが変動してしまう。
このように、電圧信号V1は非接触検出部20の筐体温度に応じて変化するので、第2検出素子22から出力される電圧信号V2を利用することによって、制御ユニット30は、筐体温度の変化に伴う電圧信号V1の変動を補償することが可能となる。
第2検出素子22では、非接触検出部20の筐体の温度変化に応じて、出力信号である電圧信号V2のレベルが変化する。第2検出素子22は、電圧信号V2を検出信号として制御ユニット30に出力する。
制御ユニット30は、電動機10に対して要求されるトルクや、電動機10の作動状態などに応じて電動機10に対する電圧指令値を演算し、その電圧指令値に応じたモータ駆動電流を電動機10に供給する。制御ユニット30は、いわゆるECU(Electronic Control Unit)により実現される。
制御ユニット30は、非接触検出部20から出力される検出信号を取得し、その検出信号に基づいてロータ12の温度を検出する温度検出装置を備える。
本実施形態では、制御ユニット30は、第1検出素子21から出力される電圧信号V1と、第2検出素子22から出力される電圧信号V2とを用いて、ロータ12の温度を演算する。そして制御ユニット30は、ロータ12の温度に応じて電動機10に対する指令値を補正する。
また、制御ユニット30は、電圧信号V1と電圧信号V2とに基づいて非接触検出部20が異常か否かを診断し、異常であると判断された場合には安全側に電動機10を制御するフェールセーフ処理を実行する。
図2は、非接触検出部20及び制御ユニット30の機能構成を示すブロック図である。
制御ユニット30は、温度検出部31と、指令値演算部32と、電流供給部33と、異常診断部34と、フェールセーフ処理部35とを含む。
温度検出部31は、非接触検出部20から出力される検出信号に基づいて、ロータ12の温度を検出又は推定する。そして温度検出部31は、ロータ12の温度を指令値演算部32及び異常診断部34に出力する。
温度検出部31は、平均化処理部311と、演算回数設定部312と、温度特性データ保持部313と、感度悪化判定部314と、温度算出部315とを含む。温度算出部315は、検出温度算出部315Aと代替温度算出部315Bとを含む。
平均化処理部311は、非接触検出部20から出力される検出信号を順次取得して、これらを単項演算により平均し、その平均した値を温度算出部315に出力する。
本実施形態では、平均化処理部311は、第1検出素子21から出力される電圧信号V1と、第2検出素子22から出力される電圧信号V2とを共に所定周期ごとに取得する。所定周期は、例えば、数100ms(ミリセカンド)に設定される。
そして、平均化処理部311は、電圧信号V1により示される電圧値を取得するたびに、その電圧値を電圧信号V1の積算値に加算する。平均化処理部311は、演算回数設定部312によって設定された演算回数だけ電圧信号V1を積算値に加算し、その積算値を演算回数で除算することにより、電圧信号V1の平均値V1’を算出する。その後、電圧信号V1の積算値がゼロにリセットされ、平均化処理部311は、演算回数ごとに順次取得される電圧値の各々を積算値に加算して電圧信号V1の平均値V1’を算出する。
また、平均化処理部311は、電圧信号V2により示される電圧値を取得するたびに、その電圧値を電圧信号V2の積算値に加算する。平均化処理部311は、演算回数設定部312で設定された演算回数だけ電圧信号V2を積算値に加算し、その積算値を演算回数で除算することにより、電圧信号V2の平均値V2’を算出する。その後、電圧信号V2の積算値がゼロにリセットされ、平均化処理部311は、演算回数ごとに順次取得される電圧信号V2の電圧値の各々を積算値に加算して電圧信号V2の平均値V2’を算出する。
演算回数設定部312は、電圧信号V1及びV2の平均値を算出するごとに、電圧信号V1及びV2が示す電圧値を順次取得して演算される演算回数を、非接触検出部20の筐体温度に基づいて変更する。演算回数とは、平均化処理部311によって平均値を算出するのに必要となる電圧値の数のことである。
例えば、演算回数設定部312は、非接触検出部20の筐体温度が高くなるほど、演算回数を減少させ、非接触検出部20の筐体温度が低くなるほど、演算回数を増加させる。
本実施形態では、演算回数設定部312は、第2検出素子22から出力される電圧信号V2を受信すると、温度特性データ保持部313を参照し、電圧信号V2に基づいて平均化処理部311の演算回数を変更する。
温度特性データ保持部313は、電圧信号V2を非接触検出部20の筐体温度(ブラケット13の温度)へ換算するための換算値を保持する。電圧信号V2の換算値は、実験データなどによって定められる。
さらに、温度特性データ保持部313は、非接触検出部20の筐体温度ごとに、第1検出素子21の検出精度に基づいて定められた演算回数を示す温度特性データを保持する。
温度特性データとしては、第1検出素子21による検出精度の低下を判定するための温度閾値と、その温度閾値よりも高い高温領域での演算回数と、温度閾値以下の低温領域での演算回数とが、温度特性データ保持部313に保持されている。
温度閾値は、例えば、第1検出素子21の出力感度の特性が緩やかに変化する領域から著しく変化する領域に変わる分岐点となる温度に設定される。あるいは、温度閾値は、第1検出素子21の検出精度を十分に確保できる温度範囲内の下限値に設定されてもよい。
低温領域での第1検出素子21による検出精度は、高温領域での第1検出素子21による検出精度よりも低くなる。このため、低温領域での演算回数は、高温領域での演算回数よりも大きな値に予め定められている。
例えば、高温領域での演算回数は、第1検出素子21による検出精度を確保するのに必要とされる回数の下限値に設定され、低温領域での演算回数は、温度検出部31の応答性を確保するのに必要とされる回数の上限値に設定される。
本実施形態では、低温領域での演算回数は「100回」に設定され、高温領域での演算回数は「10回」に設定される。したがって、第1検出素子21の温度が高温領域にある場合には、低温領域のときに比べて1/10の時間間隔で、計測対象物であるロータ12の温度を検出することが可能となる。すなわち、第1検出素子21の温度が高温領域にあるときは、検出に要する時間を短縮することができる。
このように、演算回数設定部312は、第2検出素子22から電圧信号V2を受信すると、温度特性データ保持部313から換算値を取得し、その換算値を用いて第2検出素子22からの電圧信号V2を非接触検出部20の筐体温度に換算する。そして演算回数設定部312は、換算された筐体温度と、温度特性データ保持部313に保持された温度閾値とを比較し、筐体温度が温度閾値よりも高いか否かを判断する。
そして、演算回数設定部312は、筐体温度が温度閾値よりも高いと判断した場合には、平均化処理部311の演算回数を高温領域での演算回数に減少させる。一方、演算回数設定部312は、筐体温度が温度閾値以下であると判断した場合には、平均化処理部311の演算回数を、低温領域での演算回数に増加させる。平均化処理部311は、演算回数設定部312によって設定される演算回数ごとに、電圧信号V1の平均値V1’と電圧信号V2の平均値V2’とを算出して、両者を検出温度算出部315A及び異常診断部34に出力する。
感度悪化判定部314は、非接触検出部20から出力される検出信号に基づいて、非接触検出部20の温度が、感度悪化領域にあるか否かを判定する。感度悪化領域とは、第1検出素子21による検出精度が悪化する温度領域のことである。
具体的には、感度悪化判定部314は、第1検出素子21から出力される電圧信号V1と、第2検出素子22から出力される電圧信号V2とを取得し、電圧信号V2を、温度特性データ保持部313の換算値で筐体温度T2を算出する。そして感度悪化判定部314は、電圧信号V1、電圧信号V2、及び筐体温度T2を用いて、次式の条件が成立したか否かを判断する。
(数1)
V1 ≒ V2 ・・・(1−1)
T2 < Tth1 ・・・(1−2)
式(1−1)を判定条件とした理由は、電圧信号V1の電圧値と電圧信号V2の電圧値とが近いほど、ノイズによる影響が大きくなるためである。
また、式(1−2)を判定条件とした理由は、非接触検出部20とロータ12との空間の温度、すなわち筐体温度T2が低くなるほど、ロータ12から放射される赤外線の放射量が低下するためである。
例えば、筐体温度T2が0℃でロータ温度が100℃の場合と、筐体温度T2が100℃でロータ温度が200℃の場合とでは、筐体温度T2とロータ温度との温度差は共に100℃で同じであるが、筐体温度T2が0℃でロータ温度が100℃のときの方が赤外線の放射量が低下する。このため、筐体温度T2が100℃でロータ温度が200℃の場合に比べて筐体温度T2が0℃でロータ温度が100℃のときの方が第1検出素子21から出力される電圧信号V1の変化も小さくなり、検出精度が低下する。
温度閾値Tth1は、本実施形態では第1検出素子21に対して要求される検出精度を確保できる温度範囲の下限値に設定され、例えば−20℃に相当する電圧値に設定される。第1検出素子21の検出精度と電圧値との関係を示す特性データが実験データなどによって取得され、その特性データに基づいて温度閾値Tth1が決定される。
感度悪化判定部314は、式(1−1)及び式(1−2)の条件が共に成立した場合には、第1検出素子21の温度が感度悪化領域にあると判定する。この場合には感度悪化判定部314は、ロータ12の温度の演算に用いられる検出信号の代替を許可する代替許可信号を、代替温度算出部315Bに供給する。
一方、感度悪化判定部314は、式(1−1)及び式(1−2)のうちの少なくとも一方の条件が成立していない場合には、第1検出素子21の温度が感度悪化領域にはないと判定し、代替温度算出部315Bへの代替許可信号の供給を停止する。
温度算出部315は、平均化処理部311から出力される電圧信号V1の平均値V1’及び電圧信号V2の平均値V2’に基づいて、ロータ12の温度を算出する。
検出温度算出部315Aは、非接触検出部20の温度T2の変化に起因する電圧信号V1の変動成分を抑制することにより、電圧信号V1によって求められるロータ12の温度を補償する。
本実施形態では、検出温度算出部315Aには、ロータ温度検出マップが予め保持されている。
図3は、検出温度算出部315Aに保持されるロータ温度検出マップの一例を示す図である。
図3では、電圧信号V2の列には、「4.83V(ボルト)」から「1.35V」までの範囲の16個の電圧値が大きい順に示されている。そして電圧値の各行には、0℃から260℃までのロータ温度範囲において、ロータ12の温度に対応する電圧信号V1の電圧値が20℃ごとに示されている。
さらに、電圧信号V2に対応する筐体温度T2が示されており、筐体温度T2が高くなるほど、電圧信号V2は小さくなることが分かる。なお、ロータ12の温度が、筐体温度T2よりも低くなることは現実的に起こりえないので、「−」により示されている。
ここで、電圧信号V1が「3.44V」であり、電圧信号V2が「3.58V」であるときのロータ12の温度の算出手法について簡単に説明する。まず、検出温度算出部315Aは、電圧信号V2の列に示された「3.58V」の行を参照し、この行に示された電圧信号V1の各電圧値の中から「3.44V」を選択する。そして検出温度算出部315Aは、「3.44V」に対応付けられた「140℃」をロータ12の温度として算出する。
このように、検出温度算出部315Aは、電圧信号V1の平均値と電圧信号V2の平均値とを取得すると、ロータ温度検出マップを参照し、電圧信号V2の平均値に対応付けられた温度特性を特定する。そして検出温度算出部315Aは、その温度特性を参照し、電圧信号V1の平均値に対応付けられたロータ12の温度を算出する。
また、図3に示すように、計測対象物であるロータ12の温度が変化しても、筐体温度T2が低くなるほど、第1検出素子21から出力される電圧信号V1の変化量は小さくなる。このため、筐体温度T2が低くなるほど、ロータ12の温度を検出する精度が低下する。
例えば、筐体温度T2が「0℃」のときにロータ12の温度が「0℃」から「20℃」に上昇しても、電圧信号V1の電圧値は4、83Vのままであり、電圧値の変化量は0である。
また、式(1−1)で述べたように、電圧信号V1の電圧値と電圧信号V2の電圧値とが近いほど、ノイズによる影響が大きくなる。
例えば、筐体温度T2が「0℃」で電圧信号V2が「4.83V」のときに電圧信号V1も「4.83V」であるときには、仮に電圧信号V1に0.01Vのノイズが加わると、ロータ12の温度は60℃の誤差が生じてしまう。
一方、筐体温度T2が「0℃」で電圧信号V2が「4.83V」のときに電圧信号V1が「4.65V」であるときには、電圧信号V1に0.01Vのノイズが加えられたとしても、ロータ12の温度は20℃以下の誤差で済む。
このように、式(1−1)の条件は、電圧信号V1がノイズに対して非常に弱く、検出精度が悪化する条件であるといえる。ノイズに対する影響は、筐体温度T2が上がるにつれて少なくなる。
図2に戻り、検出温度算出部315Aは、ロータ温度検出マップから求めたロータ12の温度を、指令値演算部32に出力する。
代替温度算出部315Bは、感度悪化判定部314からの代替許可信号を受信した場合には、電動機10の水温センサから出力される検出信号をロータ12の温度に換算する。代替温度算出部315Bは、そのロータ12の温度を、検出温度算出部315Aで算出される温度に代えて、指令値演算部32に出力させる。
本実施形態では、電動機10を冷却する冷却水の温度を検出する水温センサが電動機10に設けられ、代替温度算出部315Bは、水温センサによって検出される冷却水温度をロータ12の温度に換算する。
例えば、冷却水の温度とロータ12の温度とを互いに関連付けた換算マップが、代替温度算出部315Bに予め記憶される。そして代替温度算出部315Bは、感度悪化判定部314からの代替許可信号を受信した場合には、水温センサから出力される冷却水の温度に基づいて、換算マップに関連付けられた温度を、ロータ12の温度として算出する。
このように、代替温度算出部315Bは、第1検出素子21の感度が悪化する場合には、水温センサからの検出信号を用いて算出されたロータ12の温度を、検出温度算出部315Aの算出結果に代えて指令値演算部32に出力する。これにより、非接触検出部20の検出精度が悪くなってもロータ12の温度を検出する精度を維持することができる。また、平均化処理部311で検出信号を平均化することなくロータ12の温度を算出するので、温度検出部31の応答性が向上する。
指令値演算部32は、例えば運転者から要求されるアクセル操作量に基づいて電動機10のトルク指令値を算出し、そのトルク指令値に基づいて電動機10供給される電流又は電圧の指令値を演算する。また指令値演算部32は、ロータ12の温度に応じて電流又は電圧の指令値を補正し、その補正された指令値を電流供給部33に出力する。
電流供給部33は、指令値演算部32から出力される指令値に応じて、電動機10にモータ駆動電流を供給する。
電流供給部33は、直流電力を出力する直流電源と、直流電源から出力される直流電力を交流電流に変換して電動機10に供給するインバータとによって構成される。例えば、直流電源は、リチウムイオンバッテリ又は燃料電池により実現され、インバータは、3相の交流インバータにより実現される。
異常診断部34は、非接触検出部20に備えられた第1検出素子21及び第2検出素子22が異常であるか否かを診断する。異常診断部34は、電圧異常診断部341と状態比較診断部342とを含む。
電圧異常診断部341は、平均化処理部311から出力される電圧信号V1の平均値V1’及び電圧信号V2の平均値V2’に基づいて、第1検出素子21及び第2検出素子22が異常であるか否かを判断する。
具体的には、電圧異常診断部341は、電圧信号V1の平均値V1’及び電圧信号V2の平均値V2’が共に所定の正常温度範囲内にあれば、第1検出素子21及び第2検出素子22は正常であると判定する。一方、電圧異常診断部341は、電圧信号V1の平均値V1’又は電圧信号V2の平均値V2’が正常温度範囲外になると、非接触検出部20は異常であると判定し、異常信号をフェールセーフ処理部35に出力する。
状態比較診断部342は、車両の状態を示す車両状態信号を取得し、その車両状態信号と、平均化処理部311からの電圧信号V1の平均値V1’及び電圧信号V2の平均値V2’とに基づいて、非接触検出部20が異常であるか否かを判断する。
車両状態信号としては、電動機10に設けられた電流センサから出力されるモータ駆動電流の検出値や、指令値演算部32から出力される指令値などが含まれる。
状態比較診断部342は、例えば、車両状態信号に含まれたモータ駆動電流の時間変化率が、ロータ12の温度上昇が生じる所定の値を超えた否かを判断する。そしてモータ駆動電流の時間変化率が所定の値を超えた場合には、状態比較診断部342は、電圧信号V1の平均値V1’と電圧信号V2の平均値V2’との差分が大きくなれば、第1検出素子21及び第2検出素子22が正常であると判定する。一方、状態比較診断部342は、電圧信号V1の平均値V1’と電圧信号V2の平均値V2’とがほぼ等しい場合には、第1検出素子21又は第2検出素子22が異常と判定し、異常信号を出力する。
このように状態比較診断部342は、ロータ12の温度が上昇するほどの大きなモータ駆動電流が電動機10に供給されているにも関わらず、電圧信号V1の平均値V1’と電圧信号V2の平均値V2’が等しい場合にセンサが異常と判定する。これにより、異常診断の信頼性を高めることができる。
フェールセーフ処理部35は、異常診断部34から異常信号を受信すると、電動機10を安全側に制御するための指令値を電流供給部33に出力する。
図4は、制御ユニット30によってロータ12の温度を検出するための非接触検出部20の異常を診断する診断処理方法の一例を示すフローチャートである。
まず、ステップS901において制御ユニット30は、イグニッションキーがオン(ON)状態に設定されたことを検出して、電動機10を起動する。
そしてステップS902において制御ユニット30は、非接触検出部20が異常か否かを診断する異常診断処理を開始する。
ステップS903において制御ユニット30は、第1検出素子21から出力される電圧信号V1と、第2検出素子22から出力される電圧信号V2とを所定周期で取得する。平均化処理部311は、所定周期で取得される電圧信号V1及び電圧信号V2の平均値を、演算回数設定部312で設定される演算回数ごとに算出する。
ステップS904において状態比較診断部342は、ロータ12の温度上昇に係わる車両状態信号を取得する。この車両状態信号には、例えば、モータ駆動電流の検出値や指令値が示されている。
ステップS905において感度悪化判定部314は、温度特性データ保持部313に保持された換算値を用いて、電圧信号V2により示される電圧値を、第1検出素子21の周囲温度に相当するブラケット13の筐体温度T2に換算する。あるいは、感度悪化判定部314は、図3に示したマップを参照し、電圧信号V2に対応付けられた筐体温度T2を演算する。
ステップS906において、感度悪化判定部314は、第1検出素子21の温度が感度悪化領域にあるか否かを判定するための温度閾値Tth1を取得する。これと共に演算回数設定部312は、電圧信号V1及びV2を平均化処理する処理回数を設定するための温度閾値Tth2を取得する。温度閾値Tth1及び温度閾値Tth2は、温度特性データ保持部313に予め保持されている。
ステップS907において感度悪化判定部314は、図2で述べた式(1−1)及び式(1−2)のとおり、電圧信号V1と電圧信号V2とが互いにほぼ等しく、かつ、筐体温度T2が温度閾値Tth1よりも低いか否かを判断する。
そして感度悪化判定部314は、式(1−1)及び式(1−2)が共に成立している場合には、筐体温度T2の低下に伴い第1検出素子21の検出精度が悪化していると判断する。例えば、図3に示したように、筐体温度T2が0℃よりも低く、ロータ12の温度が変化しても電圧信号V1の変化量がほぼゼロの場合には、検出精度が悪化していると判断される。この場合には感度悪化判定部314は、非接触検出部20の代替を許可する代替許可信号を代替温度算出部315Bに出力する。
ステップS908において代替温度算出部315Bは、感度悪化判定部314から代替許可信号を受信すると、電動機10の冷却水温度をロータ12の温度に換算する。すなわち、代替温度算出部315Bは、第1検出素子21及び第2検出素子の検出精度が悪化している場合には、電動機10の冷却水温度に基づいてロータ12の温度を算出する。
ステップS909において代替温度算出部315Bは、電動機10の冷却水温度を用いて求めたロータ12の温度を指令値演算部32に出力する。
また、ステップS907で式(1−1)又は式(1−2)が成立していない場合、すなわち、筐体温度T2の低下に伴い検出精度が悪化していないと判断された場合には、ステップS913の処理に進む。これと共に感度悪化判定部314は、代替温度算出部315Bへの代替許可信号の出力を停止する。
ステップS913において演算回数設定部312は、次式に示すとおり、筐体温度T2が温度閾値Tth2よりも低いか否かを判断する。
(数2)
T2 < Tth2 ・・・(2)
温度閾値Tth2は、温度閾値Tth1よりも大きな値である。温度閾値Tth2は、例えば、図3に示したロータ温度検出マップに基づいて、ロータ12の温度変化に対して電圧信号V1の変化量が小さくなる筐体温度に設定される。
ステップS914において演算回数設定部312は、筐体温度T2が温度閾値Tth2よりも低いと判断した場合には、平均化処理部311の演算回数Nを、低温領域での演算回数「100」に設定する。
一方、ステップS917において演算回数設定部312は、筐体温度T2が温度閾値Tth2以上であると判断した場合には、平均化処理部311の演算回数Nを、高温領域での演算回数「10」に設定する。
このように、演算回数設定部312は、第1検出素子21の検出精度が低下する低温領域では平均化処理部311の演算回数Nを増加させ、低温領域よりも高い高温領域では演算回数Nを減少させる。
ステップS915において平均化処理部311は、電圧信号V1の平均値及び電圧信号V2の平均値を演算回数Nごとに算出する。そして平均化処理部311は、演算回数Nによって定まる算出周期で、電圧信号V1の平均値及び電圧信号V2の平均値を検出温度算出部315Aに順次出力する。
ステップS916において検出温度算出部315Aは、平均化処理部311から出力される電圧信号V1の平均値、及び電圧信号V2の平均値に基づいて、ロータ12の温度を演算する。
具体的には、検出温度算出部315Aは、電圧信号V1及びV2の平均値の両者を取得すると、図3に示したロータ温度検出マップを参照し、これらの平均値に基づいてロータ12の温度を算出する。検出温度算出部315Aは、電圧信号V1及びV2の平均値を用いて求められたロータ12の温度を指令値演算部32に出力する。
ステップS910において電圧異常診断部341は、電圧信号V1の平均値及び電圧信号V2の平均値が共に所定の正常範囲内にあるか否かを判断する。
そしてステップS918において電圧異常診断部341は、電圧信号V1の平均値、及び電圧信号V2の平均値のうちいずれか一方が正常範囲を超えた場合には、非接触検出部20が異常であると判定する。一方、電圧信号V1の平均値及び電圧信号V2の平均値が共に所定の正常範囲内にある場合には、電圧異常診断部341は、非接触検出部20が正常であると判定する。
次にステップS911において状態比較診断部342は、電圧異常診断部341によって正常と判定された場合には、ステップS904で取得された車両状態信号に基づいて、非接触検出部20が異常か否かを診断する。ここでは状態比較診断部342は、車両状態信号に示されるモータ駆動電流Iが、ロータ12の温度上昇が発生する所定の電流閾値Ithを超えるか否かを判断する。
そしてステップS918において状態比較診断部342は、モータ駆動電流Iが電流閾値Ithを超えた場合において、電圧信号V1の平均値と電圧信号V2の平均値とが略等しいときには、非接触検出部20が異常であると判定して診断処理方法を終了する。
一方、状態比較診断部342は、モータ駆動電流Iが電流閾値Ithを超えた場合において、電圧信号V1の平均値が電圧信号V2の平均値よりも大きくなる、すなわち互いに異なる値になるときには、非接触検出部20が正常であると判定する。
ステップS912において電圧異常診断部341及び状態比較診断部342の双方で非接触検出部20が正常と判定された場合には、イグニッションキーがオフ(OFF)状態に設定されたか否かを判断する。制御ユニット30は、イグニッションキーがオフ状態に設定されるまではステップS903からS917までの一連の処理を繰り返し、イグニッションキーがオフ状態に設定されると、診断処理方法が終了する。
なお、本実施形態では平均化処理部311は、電圧信号V1及びV2を演算する演算処理として、電圧信号V1及びV2の平均値を演算する例について説明したが、これに限られるものではない。例えば、平均値に代えて平均化処理部311は、演算回数Nごとに、電圧信号V1及びV2の中央値や最頻値などの統計量や、二乗和平方根などを算出するものであってもよい。
本発明の実施形態によれば、温度検出装置は、ロータ12などの計測対象物の温度に関する信号を非接触により検出する非接触検出部20と、計測対象物の温度を検出又は推定する温度検出部31とを含む。
そして非接触検出部20は、第1検出素子21自身の温度低下に伴い検出精度が低下する第1検出素子21と、第1検出素子21の周囲温度に相当する筐体温度T2を検出する第2検出素子22とを備える。温度検出部31は、第1検出素子21から出力される検出信号を順次取得して平均化処理などの演算をすることにより、計測対象物の温度を算出する。そして演算回数設定部312は、計測対象物の温度を算出するたびに検出信号を取得する回数Nを、筐体温度T2に基づいて設定する。
これにより、温度検出装置は、非接触検出部20の筐体温度T2が低下することに伴い、第1検出素子21による検出精度が低下するにつれて演算回数Nを増加させることが可能となる。したがって、温度検出部31で求められる計測対象物の温度について検出精度の低下を抑制することができる。
さらに温度検出装置は、筐体温度T2が上昇することに伴い、第1検出素子21による検出精度が向上するにつれて演算回数Nを減少させることが可能となる。これにより、筐体温度T2が検出精度を確保するのに十分に高い状況においては、温度検出部31によって計測対象物の温度を演算するのに要する検出時間が無用に長くなるのを抑制できる。
したがって本実施形態によれば、計測対象物の温度を非接触で検出する精度が低下するのを抑制しつつ、検出に要する時間の増加を抑制することができる。
また本実施形態では、演算回数設定部312は、筐体温度T2が、第1検出素子21による検出精度が低下する低温領域にある場合には演算回数Nを増加させ、温度領域よりも高い高温領域にある場合には演算回数Nを減少させる。
これにより、第1検出素子21の温度低下に伴い温度検出部31による検出精度が低下するのを抑制することができると共に、高温環境下で検出に要する時間を短縮することで温度検出部31の応答性を向上させることができる。
また本実施形態では、温度算出部315は、演算回数設定部312により設定される演算回数Nごとに、第1検出素子21から出力される電圧信号V1を平均することにより、計測対象物であるロータ12の温度を算出する。電圧信号V1の平均値を用いることにより、電圧信号V1に含まれるノイズが低減されるので、ロータ12の温度を検出する精度を向上させることができる。
また本実施形態では、感度悪化判定部314が、電圧信号V1や電圧信号V2に基づいて、非接触検出部20の感度が悪化する感度悪化領域にあるかを判定する。例えば、感度悪化判定部314は、式(1−1)及び式(1−2)に基づいて、第1検出素子21の感度が悪化する感度悪化領域を判定する。なお、感度悪化判定部314は、電動機10の冷却水温度に基づいて非接触検出部20が感度悪化領域にあるか否かを判定するものであってもよい。
そして温度算出部315は、感度悪化判定部314によって感度悪化領域にあると判定された場合には、電動機10が搭載された車両に関する車両状態信号に基づいてロータ12の温度を演算する。例えば、温度算出部315は、車両状態信号に含まれる電動機10の冷却水温度に基づいて、ロータ12の温度を算出する。車両状態信号を用いることにより、制御ユニット30は、非接触検出部20の感度が悪化した場合であっても、電動機10を精度よく制御することができる。なお、車両状態信号に含まれる電動機10の電流値や筐体温度などを用いてロータ12の温度を算出してもよい。
また非接触検出部20では、ロータ12の温度に関する信号として、第1検出素子21が赤外線の放射エネルギーを吸収する吸収材211の温度を検出し、第2検出素子22が吸収材211近傍の温度変動を補償するためにブラケット13の筐体温度T2を検出する。
そして温度算出部315は、図3に示したロータ温度検出マップを用いて、筐体温度T2の変化に伴う電圧信号V1の変動を補償してロータ12の温度を算出する。演算回数設定部312は、筐体温度T2が高くなるほど演算回数Nを少なくし、筐体温度T2が低くなるほど演算回数Nを多くする。
このように、第1検出素子21に設けられる吸収材211の温度変動を補償するための第2検出素子22を用いて筐体温度T2が取得されるので、新たに検出素子を設けずに演算回数Nを的確に変更することが可能となる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
なお、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。