以下、本発明の積層型圧電素子について図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)は本発明の積層型圧電素子の実施の形態の一例を示す概略斜視図、図1(b)は図1(a)に示す積層型圧電素子をA−A線で切断した断面の要部(領域X)の拡大図である。また、図2(a)は図1(a)に示すB−B線で切断した横断面図、図2(b)は図1(a)に示すC−C線で切断した横断面図である。
図1および図2に示す本発明の積層型圧電素子1は、圧電体層11、第1の内部電極層121および第2の内部電極層122が積層された積層体13と、該積層体13の側面に設けられた導体層(外部電極)15と、当該導体層15の設けられた領域を除く積層体13の側面に設けられたセラミック被覆層14とを含み、第1の内部電極層121の外縁および第2の内部電極層122の外縁のうちの少なくとも一方とセラミック被覆層14との間には、当該第1の内部電極層121の外縁および第2の内部電極層122の外縁のうちの少なくとも一方に沿って延びる空隙部16がある。
積層型圧電素子1を構成する積層体13は、複数の圧電体層11が積層されるとともに、圧電体層11の層間に第1の内部電極層121および第2の内部電極層122が1層おきに交互に形成されてなるものである。積層体13は、例えば縦4〜7mm、横4〜7mm、高さ20〜50mm程度の直方体状に形成されている。
積層体13を構成する複数の圧電体層11は、圧電特性を有する圧電磁器(圧電セラミックス)からなる。圧電体層11を構成するセラミック粒子は平均粒径が例えば1.7〜4.0μmに形成されたものである。この圧電磁器としては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PbZrO3−PbTiO3)等からなるペロブスカイト型酸化物、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)などを用いることができる。図1および図2に示す積層体13は、四角柱形状であるが、例えば六角柱形状や八角柱形状などであってもよい。
第1の内部電極層121および第2の内部電極層122は、例えば銀、銀−パラジウム合金、銀−白金、銅などからなるものであり、圧電体層11の層間に交互に形成され、積層順に交互に配置されることにより、それらの間に挟まれた圧電体層11に駆動電圧を印加するものである。具体的には、第1の内部電極層121および第2の内部電極層122は、一方が正極で他方が負極となっていて、それぞれ積層体13の対向する1組の側面に互い違いに導出されて、その端面の一部が露出している。すなわち、対向する1組の側面の一方に第1の内部電極層121の端部が導出され、他方に第2の内部電極層122の端部が導出されている。
第1の内部電極層121および第2の内部電極層122のうちの一方の端部が導出された対向する一対の側面には、それぞれ外部電極としての導体層15が設けられて、第1の内部電極層121または第2の内部電極層122と電気的に接続されている。導体層15は、例えば銀とガラスからなる導体ペーストを塗布して焼き付けて形成されたものである。導体層15の厚みは、例えば5〜500μmとされる。
図示しないが、導体層15の表面上には導電性接合材を介して外部電極板が取り付けられるのがよい。この場合の外部電極板としては、銅、鉄、ステンレス、リン青銅等からなる板状体であり、例えば幅0.5〜10mm、厚み0.01〜1.0mmに形成されたものである。積層体13の伸縮により生じる応力を緩和する効果の高い形状として、例えば長手方向(積層方向)に垂直な幅方向にスリットの入った形状、網目状に加工された金属板などであってもよい。また、スリットにかえてまたはスリットとともに孔、特に幅方向に延びる孔が設けられた構成であってもよい。このスリットおよび孔が積層体13の積層方向に複数配置されているのが好ましく、特に圧電体層11の層間に第1の内部電極層121および第2の内部電極層122が1層おきに交互に形成されて積層された領域(活性部)に対応する位置に複数配置されているのが好ましい。
導電性接合材としては、はんだや、例えばAg粒子やCu粒子など導電性の良好な導電粒子を含んだエポキシ樹脂やポリイミド樹脂であるのが好ましい。導電性接合材は、例えば5〜500μmの厚さに形成される。
なお、外部電極板が取り付けられる場合に、導体層15は設けられていなくてもよい。すなわち、本実施形態における外部電極としては、導電性接合材を介して取り付けられた外部電極板であってもよい。
一対の導体層15または外部電極板にそれぞれリード線またはリードピンがはんだなどによって取り付けられ、駆動電圧が印加されるようになっている。
外部電極としての導体層15が設けられた領域を除く積層体13の側面である対向する他の一対の側面には、第1の内部電極層121の外縁および第2の内部電極層122の外縁の両方が面している。ここで、側面に面しているとは、後述する空隙部13bを除いて側面に達しているかまたは近接していることを意味している。この一対の側面には、第1の内部電極層121と第2の内部電極層122との間で、当該側面を経て生じる沿面放電
を防止するために、セラミック被覆層14が設けられている。
セラミック被覆層14は、積層型圧電素子1を駆動した際の積層体13の駆動変形(伸縮)に追随でき、セラミック被覆層14が剥がれて沿面放電が生じるおそれのないように、応力によって変形可能な材料からなることが好ましい。
具体的には、応力が生じると局所的に相変態して体積変化して変形可能な部分安定化ジルコニア、Ln1−XSiXAlO3+0.5X(Lnは、Sn,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,TmおよびYbのうちから選ばれるいずれか少なくとも一種を示す。x=0.01〜0.3)などのセラミック材料、あるいは、生じた応力を緩和するように結晶格子内のイオン間距離が変化するチタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛(チタン酸ジルコン酸鉛)などの圧電材料が挙げられる。
セラミック被覆層14の厚みについては、欠陥を防ぐとともに駆動時の変位量を確保する点で、例えば5μm〜30μmが好ましい。さらに、圧電体層11およびセラミック被覆層14が同じ組成の圧電材料からなるのが好ましい。これらを同じ組成の圧電材料とすることにより、圧電特性が同じなので分極を制御しやすくなる。また、同一組成の為、密着性も良くなり、さらに圧電体層11の組成ずれが起きることがない為、酸素空孔の発生が抑制されて耐久性も良くなる。
そして、図1および図2に示すように、第1の内部電極層121の外縁および第2の内部電極層122の外縁のうちの少なくとも一方とセラミック被覆層14との間に、当該第1の内部電極層121の外縁または第2の内部電極層122の外縁に沿って延びる空隙部16がある。なお、空隙部16が第1の内部電極層121の外縁および第2の内部電極層122の外縁のうちの少なくとも一方に沿って延びるとは、第1の内部電極層121の外縁および第2の内部電極層122の外縁の少なくともいずれか一方において、セラミック被覆層14に面する領域のほぼ全域(90%以上の領域)にわたって延びて設けられることを意味している。
これによって、積層型圧電素子1の絶縁抵抗が低下しにくくなる。これは、積層型圧電素子1に電界を加えると、第1の内部電極層121の外縁および第2の内部電極層122の外縁に電界が集中するが、空隙部16があることにより、第1の内部電極層121の外縁または第2の内部電極層122の外縁とセラミック被覆層14とが隔離されるようになるため、セラミック被覆層14において、第1の内部電極層121の外縁側や第2の内部電極層の外縁側に、酸素空孔やホールが発生しにくくなる。
第1の内部電極層121の外縁または第2の内部電極層122の外縁とセラミック被覆層14とが接していると、マイナス極(負極)となる内部電極層の端部では、電界集中により電子がセラミック被覆層14へ供給され、電気的中性条件を満たすために酸素が抜けて酸素空孔が発生するものと思われる。一方、プラス極(正極)となる内部電極層の端部では、電界集中によりセラミック被覆層へ導体成分(Ag)が移動してPbサイトに入り、電気的中性条件を満たすため、酸素空孔やホールが発生するものと思われる。これに対し、空隙部16があることにより、セラミック被覆層14が第1の内部電極層121の外縁または第2の内部電極層122の外縁から隔離されるため、セラミック被覆層14の内部での酸素空孔やホールの発生が抑制される。
このため、過酷なDC環境で使用しても、絶縁抵抗の低下が小さくなり、耐久性を向上させて長寿命化させることができる。
なお、第1の内部電極層121の外縁または第2の内部電極層122の外縁とセラミック被覆層14と間にある空隙部16の幅は、内部電極層(第1の内部電極層121および第2の内部電極層122)の外縁に沿って延びる形状を効果的に低コストで作製する点から、例えば1μm〜50μmの範囲が好ましい。
空隙部16の幅は、測定試料を図1(a)に示すA−A線をクロスセクションポリッシャーで研磨し、SEM(走査型電子顕微鏡)にて測定することができる。空隙部16が内部電極層(第1の内部電極層121および第2の内部電極層122)の外縁に沿って延びている状態は、図1(a)に示すB−B線あるいはC−C線を同様な方法で研磨し、SEM(走査型電子顕微鏡)にて観察すれば良い。
ここで、図3に示すように、空隙部16は、外部へと通じる開口161を有しているのが好ましい。第1の内部電極層121の外縁または第2の内部電極層122の外縁に沿って延びる空隙部16が開口161を有していると、排熱効果により第1の内部電極層121の外縁近傍または第2の内部電極層122の外縁近傍の温度上昇が抑えられ、絶縁抵抗の低下が起きにくくなる。ここで、開口161の距離は、低コストおよび性能維持の点で、例えば1μm〜500μmの範囲が好ましい。
また、図1〜図3に示すように、セラミック被覆層14の内側の第1の内部電極層の外縁および第2の内部電極層の外縁の両方の外縁に沿ってそれぞれ空隙部16があってもよいが、図4に示すようにセラミック被覆層14の内側の第1の内部電極層の外縁または第2の内部電極層の外縁(いずれか一方)に沿って空隙部16がある構成であってもよい。この場合において、第1の内部電極層121がプラス極、第2の内部電極層122がマイナス極として駆動する圧電素子であって、空隙部16が第2の内部電極層122の外縁とセラミック被覆層14との間にあるのが好ましい。セラミック被覆層14にある酸素空孔はマイナス極へ、ホールはプラス極へ移動し、それぞれの極の圧電体層11の絶縁抵抗を低下させるが、特にマイナス極では電子の供給により、酸素空孔が増加する。これは電界の集中する第2の内部電極層122の外縁で顕著であり、ここに空隙部16を設けることにより、酸素空孔の発生を効果的に抑制することができる。
また、図5に示すように、積層体13の稜部が、傾斜面(C面)または曲面(R面)になっているのが好ましい。なお、図5では曲面(R面)になっている。積層体13の稜部を傾斜面(C面)または曲面(R面)にすることにより、外部へ通じる空隙部16の開口161を傾斜面(C面)または曲面(R面)の形成とともに形成でき、かつ空隙部16の開口161を大きな開口として設けることができる。C面またはR面の面取り距離(仮想的な角部から面取りの起点までの距離)は、大きな開口161の形成および性能維持の点で例えば10μm〜500μmの範囲が好ましい。
また、図6に示すように、空隙部16が積層体13の側面よりも内側にあって、セラミック被覆層14の一部が積層体13の側面よりも内側に入り込んでいてもよい。セラミック被覆層14の一部が積層体13の側面よりも内側に入り込んでいることで、アンカー効果により、セラミック被覆層14が剥がれにくくなる。この場合、セラミック被覆層14の一部は積層体13の側面より例えば0.1〜10μm入り込んでいて、セラミック被覆層14の一部と内部電極層との間隔(空隙部16の幅)は例えば0.5〜50μmに設定される。
なお、図1および図2に示す積層型圧電素子1は、第1の内部電極層121および第2の内部電極層122の両方の外縁が面する側面が、導体層15の形成された側面とは異なる側面であったが、図7に示すように、導体層15の形成された側面において導体層15の形成されていない領域に当該導体層15と導通しないように第1の内部電極層121お
よび第2の内部電極層122の両方の外縁が面する構成になっていてもよい。この図7に示す形態の場合、導体層15の設けられた側面と同じ側面における導体層15の形成されていない領域まで、圧電セラミック被覆層14が設けられている。そして、第1の内部電極層121の外縁または第2の内部電極層122の外縁とセラミック被覆層14との間には、当該第1の内部電極層121の外縁または第2の内部電極層122の外縁に沿って延びる空隙部16が形成されている。本発明における積層型圧電素子は、このような形態であってもよい。
次に、本発明の圧電アクチュエータの実施の形態の例について説明する。図8は、本発明の圧電アクチュエータの実施の形態の一例を示す概略断面図であり、図8に示す例の圧電アクチュエータ10は上述の積層型圧電素子1と、積層型圧電素子1を内部に収容するケース2とを備えている。
ケース2は、例えばSUS304(オーステナイト系ステンレス鋼のJIS規格)やSUS316L(オーステナイト系ステンレス鋼のJIS規格)などの金属材料で形成されたものである。具体的には、上面に積層型圧電素子1の下面が当接された基体21と、下面に積層型圧電素子1の上面が当接された蓋体22と、基体21と蓋体22とに接合された筒体23とを有している。
基体21は、SUS304やSUS316Lなどの金属材料で円板状に形成されたもので、図では周縁部が薄肉のフランジ状になっている。また、基体21にはリードピン31を挿通可能な貫通孔211が2つ形成されており、リード線32と電気的に接続されたリードピン31を貫通孔211に挿通させて導体層15と外部とを電気的に導通させている。そして、貫通孔211の隙間には軟質ガラス34が充填されていて、リードピン31を固定するとともに、外気の侵入を防いでいる。なお、筒体23との溶接のために、基体21の上面に例えば環状の突起が設けられていてもよい。
蓋体22は、基体21と同様にSUS304やSUS316Lなどの金属材料からなる。そして、蓋体22は、外径が筒体23の内径と同じ程度に形成されており、後述する筒体23の一端側開口に嵌め込まれて、一端側開口の近傍の内壁にその外周が例えばレーザー溶接などの溶接により接合されている。そして、蓋体22には凹部が形成されていて、この凹部に積層型圧電素子1の上端部が当接している。ここで、凹部の内周壁面を覆うように絶縁材24が設けられ、導体層15同士の短絡等が防止されていてもよい。
また、筒体23は、基体21および蓋体22と同様にSUS304やSUS316Lなどの金属材料からなるもので、所定の形状のシームレス管を作製した後、圧延加工や静水圧プレスなどにより、例えばベロー(蛇腹)形状などの複数の周方向の溝231を有する形状に形成されたものである。具体的には、図に示す筒体23は、溝231の部分で外径および内径が小さくなるように、内側に湾曲して形成されたものである。この筒体23は、積層型圧電素子1に電圧を印加した際に積層型圧電素子1(積層体13)の伸縮に追従できるように、所定のバネ定数を有しており、厚み、溝形状および溝数によってそのバネ定数を調整している。例えば、筒体23の厚みが0.1〜0.2mmで、溝数は積層体13の高さが20mmのときは3本程度、積層体13の高さが40mmのときは6本程度である。
そして、筒体23の一端側開口は円筒状に形成され、筒体23の他端側開口は径方向外側に向かって広がるいわゆるラッパ状に形成されている。このように、筒体23の他端側開口がラッパ状になっていることで、筒体23が下端部に鍔部232を有する構造になっている。
そして、積層型圧電素子1に圧縮荷重をかけた状態で筒体23と基体21との溶接がなされ、積層型圧電素子1は筒体23、基体21および蓋体22によって形成される収納空間に不活性ガスとともに封入されて圧電アクチュエータ10が構成されている。
このようなケース2にて積層型圧電素子1が封止されているため、例えば腐食性のガス中、水中等でも使用することができる。また、第1の内部電極層121および第2の内部電極層122のイオンマイグレーションを抑制するために、不活性ガスを用いて封止してもよい。
以上の構成により、絶縁抵抗の低下が抑えられた積層型圧電素子を搭載しているため、過酷なDC環境で使用しても、絶縁抵抗が長期間安定した圧電アクチュエータとすることができる。
次に、本実施の形態の積層型圧電素子1および圧電アクチュエータ10の製造方法について説明する。
まず、圧電体層11となるセラミックグリーンシートを作製する。具体的には、圧電セラミックスの仮焼粉末と、アクリル系,ブチラール系等の有機高分子からなるバインダーと、可塑剤とを混合してセラミックスラリーを作製する。そして、ドクターブレード法、カレンダーロール法等のテープ成型法を用いることにより、このセラミックスラリーを用いてセラミックグリーンシートを作製する。圧電セラミックスとしては圧電特性を有するものであればよく、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛からなるペロブスカイト型酸化物等を用いることができる。また、可塑剤としては、フタル酸ジブチル(DBP),フタル酸ジオクチル(DOP)等を用いることができる。
次に、第1の内部電極層121および第2の内部電極層122となる導電性ペーストを作製する。具体的には、銀−パラジウムの金属粉末にバインダーおよび可塑剤を添加混合することによって導電性ペーストを作製する。この導電性ペーストを上記のセラミックグリーンシート上に、スクリーン印刷法を用いて第1の内部電極層121および第2の内部電極層122のパターンで塗布する。さらに、この導電性ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートを複数枚積層し、所定の温度で脱脂処理を行なった後、850〜1100℃の温度で焼成し、平面研削盤等を用いて所定の形状になるよう研削処理を施すことによって、交互に積層された圧電体層11、第1の内部電極層121および第2の内部電極層122を備えた積層体13を作製する。
なお、積層体13は、上記の製造方法によって作製されるものに限定されるものではなく、圧電体層11、第1の内部電極層121および第2の内部電極層122を複数積層してなる積層体13を作製できれば、どのような製造方法によって作製されてもよい。
次に、第1の内部電極層121の外縁および第2の内部電極層122の外縁と後述するセラミック被覆層14との間に、当該第1の内部電極層121の外縁および第2の内部電極層122の外縁に沿って延びる空隙部16を形成するために、第1の内部電極層121の外縁および第2の内部電極層122の外縁の両方が露出する面の内部電極層をエッチング処理する。このときエッチング液として、圧電体層11を溶かさないアルカリ系(例えばシアン化ナトリウムなど)のエッチング液を用いるのがよい。また、急激にエッチングすると、エッチング深さにばらつきを生じる為、エッチング液の濃度を30%以下として、液温を30℃以下にするのが良い。
一方、第1の内部電極層121および第2の内部電極層122のうちのいずれか一方のみの外縁とセラミック被覆層14との間に空隙部16がある形態(図4に示す形態)にす
るには、第1の内部電極層121および第2の内部電極層122のうちのいずれか一方の外縁となる部分のみ、レーザーで焼失させれば良い。
次に、積層体13の第1の内部電極層121および第2の内部電極層122(両極)が露出した対向する他の1組の側面に、セラミック被覆層14となる酸化物のインクを例えばディッピングやスクリーン印刷によって形成する。このとき、導体層15が形成される領域をマスキングしたうえで酸化物のインクが塗布される。また、焼成後の密着性をより強固にするため、積層体13の側面の表面を研磨等で粗しておくとよい。その後、850〜1100℃で焼成し、積層体13の側面に酸化物からなるセラミック被覆層14を形成する。
酸化物のインクは、例えば、安定化ジルコニアや、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛などからなる酸化物の粉体を溶剤、分散剤、可塑剤およびバインダーの溶液に分散させた後、3本ロールを数回通すことにより、粉体の凝集を解砕するとともに、粉体を分散させて作製可能である。また、溶剤、分散剤、酸化物の粉体が入ったボールミルを回転させ、粉体を粉砕、及び解砕した後、バインダーおよび可塑剤を投入し、更に回転させる方法でも作製可能である。
そして、セラミック被覆層14は、ディッピングでは、酸化物のインクの中へ、積層体13の第1の内部電極層121および第2の内部電極層122(両極)が露出した側面を浸し、引き上げた後、乾燥させて形成する。このとき、インクの粘度や引き上げ速度を適宜調整することにより、セラミック被覆層14の厚みを制御することができる。また、スクリーン印刷では積層体13の大きさに合わせて、製版に印刷開口部を設け、その中にインクを充填し、積層体13の側面にインクを塗布し、乾燥させて形成する。このとき、インクの粘度、製版メッシュ数、印刷速度等を適宜調整することにより、セラミック被覆層14の厚みを制御することができる。得られた乾燥膜を850〜1100℃の温度で焼成する。
ここで、空隙部16が外部へと通じる開口161を有している形態(図3に示す形態)にするのは、セラミック被覆層14を形成する際に、製版の印刷開口部を制御することにより形成することができる。
また、図5に示す形態にするには、焼成後の積層体13の稜部を、例えば工業用ダイヤモンド等の砥石で研磨すると良い。
また、図6に示す形態にするには、前述の第1の内部電極層121の外縁および第2の内部電極層122の外縁をエッチングして空隙部16を設けた後に、内部電極層が露出した側面に、酸化物インクをディッピングもしくはスクリーン印刷する時のインク粘度を調整することで、空隙部16を維持したまま、セラミック被覆層14の一部が積層体13の側面よりも内側に入り込んだ構造をとることができる。
なお、セラミック被覆層14の形成工程について、積層成形体(積層体13の生の状態)の内部電極層をレーザーにより焼失させ、酸化物のインクを塗布した後、同時に焼成を行なう方法であってもよい。
次に、必要により、銀を主成分とする導電性粒子とガラスとを混合したものに、バインダー,可塑剤および溶剤を加えて作製した銀ガラス含有導電性ペーストを、導体層15のパターンで積層体13の側面にスクリーン印刷法等によって印刷後、乾燥させた後、650〜750℃の温度で焼き付け処理を行ない、外部電極としての導体層15を形成する。
そして、導体層15にそれぞれリード線32をはんだ33で取り付けて、積層型圧電素子1が完成する。
次に、貫通孔211が形成され、軟質ガラス34によってこの貫通孔211を貫くようにそれぞれリードピン31が固定された基体21の上面に積層型圧電素子1を接着剤で固定するとともに、リード線32とリードピン31とをはんだ付けで接続する。
次に、SUS304製のシームレスの円筒を圧延加工により、ベローズ形状を形成した筒体23とSUS304製の蓋体22とをレーザー溶接によって溶接する。
次に、筒体23と蓋体22とを溶接したものを基体21に接着した積層型圧電素子1に被せ、所定の荷重で筒体23を引張り、積層型圧電素子1に荷重を印加する。
次に、筒体23と基体21とが重なったところをレーザー溶接で溶接し、積層型圧電素子1を封入(ケース2を封止)する。
次に、ケース2の所定の位置にドリルで不活性ガス注入用の穴を開け、真空チャンバーにて真空引きして、ケース2内の空気を抜いた後、真空チャンバーへ窒素ガスを注入し、ケース2内の窒素パージを行なう。その後、窒素パージ用の穴をレーザー溶接で溶接することにより、穴を塞ぎ、ケース2内への不活性ガスの注入を完了する。
その後、基体21に取り付けられたリードピン31に0.1〜3kV/mmの直流電界を印加し、積層体13(圧電体層11)を分極することによって、本実施の形態の圧電アクチュエータ10が完成する。
完成した圧電アクチュエータ10は、リードピン31を介して外部電源と接続して、圧電体層11に電圧を印加することにより、各圧電体層11を逆圧電効果によって大きく変位させることができる。これにより、半導体製造装置のガス制御を目的としたマスフローコントローラとして機能させることが可能となる。
なお、本実施の形態の積層型圧電素子は、半導体製造装置等のマスフローコントローラに限らず、自動車エンジンの燃料噴射装置、インクジェット等の液体噴射装置、光学装置等の精密位置決め装置等としても用いることができる。
次に、これまで説明してきた圧電アクチュエータを備えたマスフローコントローラについて説明する。図9は、マスフローコントローラの実施の形態の一例の構成図である。
図9に示すマスフローコントローラ4は、流路41と、流路41内を流れる流体の流量を検出する流量センサ部42と、上述の積層型圧電素子1(圧電アクチュエータ10)を備えた流体の流量を制御する流量制御弁43と、制御回路部44とを有しており、流量制御弁43は積層型圧電素子1(圧電アクチュエータ10)の伸縮により流量制御を行うものである。
流路41には、例えばガスなどの流体が流れるようになっていて、流入口411から流入して流出口412から流出するようになっている。
流路41の一部には、流量センサ部42が例えばバイパス状に接続されていて、この流量センサ部42が流路41内を流れる流体の流量(質量流量)を検出するようになっている。
流量センサ部42で検出された流量信号は、増幅回路にて増幅されるなどして、制御回路部44へ伝達される。
制御回路部44では、制御回路部44へ伝達された流量信号があらかじめ設定された流量信号と比較される。
そして、伝達された流量信号とあらかじめ設定された流量信号との差をなくすような駆動信号(駆動電圧)が流量制御弁43を形成する圧電アクチュエータ10に入力される。
積層型圧電素子1(圧電アクチュエータ10)は、入力された駆動電圧に応じて伸縮し、この伸縮により流量制御弁43の開閉量が制御され、流路41を流れる流体の流量を制御するようになっている。
上述したように、絶縁抵抗低下が抑えられた積層型圧電素子を備えているため、過酷なDC環境で使用しても、絶縁抵抗が長期間安定したマスフローコントローラとすることができる。
本発明の実施例の圧電アクチュエータを以下のようにして作製した。
まず、平均粒径が0.4μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PbZrTiO3)を主成分とする圧電体セラミックスの粉末にバインダー及び可塑剤を混合したセラミックスラリーを作製し、ドクターブレード法で厚み80μmの圧電セラミック層となるセラミックグリーンシートを作製した。
次に、銀−パラジウム合金にバインダーを加えて作製した内部電極層となる導電性ペーストを、セラミックグリーンシートにスクリーン印刷法により印刷した印刷体を260枚積層し、その上下に導電性ペーストなしのセラミックグリーンシートを各20枚積層した積層成形体を作製した。
次に、所定の大きさとなるようにダイシングソーマシンで切断した後、積層成形体を400℃で脱脂し、1000℃で3時間焼成して積層焼結体を作製した。得られた積層焼結体は直方体状であり、その大きさは、端面が縦5mm、横5mmであり、高さが35mmであった。
次に、焼成して得られた積層体に、平面研削盤を用いて所定の形状になるよう側面に研削加工処理をしたのち、シアン化ナトリウム系のアルカリ性エッチング液に積層体を1分間浸漬した後、積層体を純水で30分間洗浄した。
次に、平均粒径が0.8μmのチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電セラミックスの仮焼粉末にバインダー及び可塑剤を加えてインクを作製し、セラミック被覆層の厚みが20μmとなるように、スクリーン印刷にて、内部電極層の両極が露出している積層体の対向する1組の側面に印刷し、その後、1000℃で焼成し、積層体の対向する1組の側面に被膜を形成した。
次に、銀粒子およびガラス粉末にバインダーを加えて銀ガラス含有導電性ペーストを作製し、これを積層体の対向する他の1組の側面にスクリーン印刷法によって印刷し、700℃程度の温度で焼き付け処理して導体層を形成した後、これにはんだ付けにてリード線を接続した。
次に、SUS304で円板形状の蓋体を作製した。また、同じくSUS304で円板を作製した後、2箇所に穴を開け、軟質ガラスでリードピンを取り付けた基体を作製した。
次に、基体の上面に積層型圧電素子を接着剤で固定し、導体層にはんだ付けしたリード線と基体に取り付けられたリードピンとをはんだ付けで電気的に接続した。
次に、SUS304製のシームレス管を圧延加工することによりベローズ形状の筒体を作製し、この筒体と蓋体とをレーザー溶接で溶接し、これを基体に接着した積層型圧電素子に被せ、所定の荷重で筒体を基体側に引っ張り、積層型圧電素子に荷重を印加した後、筒体と基体とが重なったところをレーザー溶接で溶接し、積層型圧電素子の封止を行なった。
次に、筒体と蓋体と基体とからなるケースの所定の位置にドリルで不活性ガス注入用の穴を開け、真空チャンバーにて真空引きして、ケース内の酸素を抜いた後、真空チャンバーへ高純度窒素ガスを注入し、ケース内の窒素パージを行なった後、窒素パージ用の穴をレーザー溶接で溶接して、穴を塞ぎ、窒素パージを完了させ、図1に示すような積層型圧電素子を備えた本発明の実施例の圧電アクチュエータを作製した。
なお、本発明の実施例の圧電アクチュエータにおいて、内部電極層の外縁とセラミック被覆層と間にある空隙部の距離は5μmであり、空隙部は内部電極層の外縁に沿って延びていた。また、開口部の距離は13μmであった。
また、比較例として、内部電極層の外縁とセラミック被覆層と間に空隙部のないものを作製した。
これらの圧電アクチュエータに、リード線およびリードピンを介して3kV/mmの直流電界を15分間印加して、ポーリング処理を行った。
さらに、DC300V、150℃の試験条件でHALT試験を行ったところ、比較例の圧電アクチュエータの故障寿命が120時間だったのに対し、実施例の圧電アクチュエータの故障寿命が380時間となり、耐久性が向上し、長寿命化していることが確認できた。