以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置について説明する。
[エンジンの構成]
まず、図1乃至図3を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置が適用されたエンジンの構成について説明する。図1は、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置が適用されたエンジンの概略構成図であり、図2は、本発明の実施形態によるエンジンにおける排気弁に適用される排気側可変動弁機構の概略側面図(部分的に断面図を示している)であり、図3は、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置に関する電気的構成を示すブロック図である。
図1に示すように、エンジン1は、車両に搭載されると共に、少なくともガソリンを含有する燃料が供給されるガソリンエンジンである。エンジン1は、複数の気筒18が設けられたシリンダブロック11(なお、図1では、1つの気筒のみを図示するが、例えば4つの気筒が直列に設けられる)と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯留されたオイルパン13とを有している。各気筒18内には、コンロッド142を介してクランクシャフト15と連結されているピストン14が往復動可能に嵌挿されている。ピストン14の頂面には、ディーゼルエンジンでのリエントラント型のようなキャビティ141が形成されている。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するときには、後述するインジェクタ67に相対する。シリンダヘッド12と、気筒18と、キャビティ141を有するピストン14とは、燃焼室19を画定する。なお、燃焼室19の形状は、図示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ141の形状、ピストン14の頂面形状、及び、燃焼室19の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
このエンジン1は、理論熱効率の向上や、後述する圧縮着火燃焼の安定化等を目的として、15以上の比較的高い幾何学的圧縮比に設定されている。なお、幾何学的圧縮比は15以上20以下程度の範囲で、適宜設定すればよい。
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、吸気ポート16及び排気ポート17が形成されていると共に、これら吸気ポート16及び排気ポート17には、燃焼室19側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。また、図3に示すように、吸気弁21は、吸気側可変動弁機構71によって開弁時期及び/又はリフト量が変化され、排気弁22は、排気側可変動弁機構72によって開弁時期が変化される。排気側可変動弁機構72は、エンジンオイルの油圧を利用して排気弁22を動作させる油圧作動式の機構にて構成される。なお、一般的に、排気弁22は、気筒18毎に2つ設けられるが、これら2つの排気弁22の両方に排気側可変動弁機構72を適用することに限定はされず、一方の排気弁22にのみ排気側可変動弁機構72を適用し、他方の排気弁22には開弁時期及びリフト量が一定となるメカニカル動弁機構を適用してもよい。吸気弁21についても同様である。
図2に示すように、排気弁22に適用される排気側可変動弁機構72は、外部から供給されたエンジンオイルが通過するオイル供給路72aと、オイル供給路72a上に設けられた三方弁としてのソレノイドバルブ72b(油圧バルブに相当する)と、オイル供給路72aからソレノイドバルブ72bを介して供給されたエンジンオイルが充填される圧力室72cと、を有する。この場合、ソレノイドバルブ72bが開弁しているときに、オイル供給路72aと圧力室72cとが流体連通されて、オイル供給路72aから圧力室72cへとエンジンオイルが供給される(図2中の矢印A11参照)。ソレノイドバルブ72bは、通電されていない状態では開弁しており、通電されると閉弁する。より詳しくは、ソレノイドバルブ72bは、通電され続けることにより、閉弁状態が維持される。なお、ソレノイドバルブ72bの上流側のオイル供給路72a上には、図示しない逆止弁などが設けられている。
また、排気側可変動弁機構72は、タイミングベルトなどを介してクランクシャフト15の回転が伝達される排気カムシャフト23上に設けられたカム72dと、カム72dから伝達された力により揺動するローラーフィンガーフォロア72eと、圧力室72cに連結されており、ローラーフィンガーフォロア72eによって動作されて、圧力室72c内のエンジンオイルの圧力(油圧)を上昇させるポンプユニット72fと、を有する。加えて、排気側可変動弁機構72は、ソレノイドバルブ72bを介して圧力室72cに連結され、圧力室72c内の油圧によって排気弁22を開弁させるように動作するブレーキユニット72gと、ブレーキユニット72gが動作していないときに排気弁22の閉状態を維持するための力を付与するバルブスプリング72hと、を有する。この場合、ソレノイドバルブ72bが閉弁しているときに、オイル供給路72aと圧力室72cとの流体連通が遮断されて、圧力室72cとブレーキユニット72gとが流体連通されることで、圧力室72c内の油圧がブレーキユニット72gに作用する(図2中の矢印A12参照)。
排気側可変動弁機構72が排気弁22を開弁させる動作について具体的に説明する。カム72dが排気カムシャフト23と同期して回転している最中において、カム72dに形成されたカム山(換言するとカムロブ)がローラーフィンガーフォロア72eに接触すると、このカム山がローラーフィンガーフォロア72eを押し込む。これにより、ローラーフィンガーフォロア72eがポンプユニット72fを付勢して、ポンプユニット72fが圧力室72c内のエンジンオイルを圧縮するよう動作する。このときに、ソレノイドバルブ72bを閉弁すると、オイル供給路72aと圧力室72cとの流体連通が遮断されて、圧力室72cとブレーキユニット72gとが流体連通されることで、圧力室72cとブレーキユニット72gとによってほぼ密閉空間が形成されて、この空間内のエンジンオイルの油圧がポンプユニット72fの動作によって上昇する。そして、上昇された油圧によってブレーキユニット72gが動作して排気弁22を付勢することで、排気弁22がリフトする、つまり排気弁22が開弁する。他方で、上記のような状況においてソレノイドバルブ72bを開状態に維持した場合には、オイル供給路72aと圧力室72cとが流体連通しているので、ポンプユニット72fの動作によって圧力室72c内のエンジンオイルがオイル供給路72aへと押し出される(当然、ソレノイドバルブ72bが閉弁しているときには、圧力室72cとブレーキユニット72gとの流体連通が遮断されているため、圧力室72c内の油圧はブレーキユニット72gに作用しない)。
基本的には、カム72dに形成されたカム山がローラーフィンガーフォロア72eに作用している間の何処かのタイミングでソレノイドバルブ72bを閉弁すると、排気弁22を開弁させることができる。したがって、ソレノイドバルブ72bを開状態から閉状態に切り替えるタイミングを変えることで、排気弁22の開弁時期を変化させることができる。本実施形態では、排気行程において排気弁22を開弁できるように、カム72d上の所定位置にカム山が形成されていると共に、排気行程に加えて吸気行程においても排気弁22を開弁できるように、つまり排気の二度開きが行えるように、別のカム山がカム72d上の所定位置に形成されている。本実施形態では、このような2つのカム山のそれぞれがローラーフィンガーフォロア72eに作用している間に、ソレノイドバルブ72bの開閉を切り替える制御を行って、排気弁22の開閉時期を変化させるようにする。また、排気の二度開きは、排気ポート17から燃焼室19へ既燃ガス(内部EGRガス)を逆流させて再導入する場合に実行される。
図1を再度参照すると、シリンダヘッド12には、気筒18毎に、気筒18内に燃料を直接噴射する(直噴)インジェクタ67が取り付けられている。インジェクタ67は、その噴口が燃焼室19の天井面の中央部分から、その燃焼室19内に臨むように配設されている。インジェクタ67は、エンジン1の運転状態に応じて設定された噴射タイミングでかつ、エンジン1の運転状態に応じた量の燃料を、燃焼室19内に直接噴射する。この例において、インジェクタ67は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型のインジェクタである。これによって、インジェクタ67は、燃料噴霧が、燃焼室19の中心位置から放射状に広がるように、燃料を噴射する。ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで、燃焼室19の中央部分から放射状に広がるように噴射された燃料噴霧は、ピストン頂面に形成されたキャビティ141の壁面に沿って流動する。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで噴射された燃料噴霧を、その内部に収めるように形成されている、と言い換えることが可能である。この多噴口型のインジェクタ67とキャビティ141との組み合わせは、燃料の噴射後、混合気形成期間を短くすると共に、燃焼期間を短くする上で有利な構成である。なお、インジェクタ67は、多噴口型のインジェクタに限定されず、外開弁タイプのインジェクタを採用してもよい。
図外の燃料タンクとインジェクタ67との間は、燃料供給経路によって互いに連結されている。この燃料供給経路上には、燃料ポンプ63とコモンレール64とを含みかつ、インジェクタ67に、比較的高い燃料圧力で燃料を供給することが可能な燃料供給システム62が介設されている。燃料ポンプ63は、燃料タンクからコモンレール64に燃料を圧送し、コモンレール64は圧送された燃料を、比較的高い燃料圧力で蓄えることが可能である。インジェクタ67が開弁することによって、コモンレール64に蓄えられている燃料がインジェクタ67の噴口から噴射される。ここで、燃料ポンプ63は、図示は省略するが、プランジャー式のポンプであり、エンジン1によって駆動される。このエンジン駆動のポンプを含む構成の燃料供給システム62は、30MPa以上の高い燃料圧力の燃料を、インジェクタ67に供給することを可能にする。燃料圧力は、最高で120MPa程度に設定してもよい。インジェクタ67に供給される燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更される。なお、燃料供給システム62は、この構成に限定されるものではない。
シリンダヘッド12にはまた、燃焼室19内の混合気に強制点火(具体的には火花点火)する点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、この例では、エンジン1の排気側から斜め下向きに延びるように、シリンダヘッド12内を貫通して配置されている。点火プラグ25の先端は、圧縮上死点に位置するピストン14のキャビティ141内に臨んで配置される。
エンジン1の一側面には、図1に示すように、各気筒18の吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、エンジン1の他側面には、各気筒18の燃焼室19からの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設され、その下流側には、各気筒18への吸入空気量を調節するスロットル弁36が配設されている。また、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、気筒18毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒18の吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
排気通路40の上流側の部分は、気筒18毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置として、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とがそれぞれ接続されている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42はそれぞれ、筒状ケースと、そのケース内の流路に配置した、例えば三元触媒とを備えて構成されている。
吸気通路30におけるサージタンク33とスロットル弁36との間の部分と、排気通路40における直キャタリスト41よりも上流側の部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路50を介して接続されている。このEGR通路50は、排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52が配設された主通路51を含んで構成されている。主通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するためのEGR弁511が配設されている。
エンジン1は、制御手段としてのパワートレイン・コントロール・モジュール(以下では「PCM」と呼ぶ。)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。
PCM10には、図1及び図3に示すように、各種のセンサSW1、SW2、SW4〜SW18の検出信号が入力される。具体的には、PCM10には、エアクリーナ31の下流側で、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1の検出信号と、新気の温度を検出する吸気温度センサSW2の検出信号と、EGR通路50における吸気通路30との接続部近傍に配置されかつ、外部EGRガスの温度を検出するEGRガス温センサSW4の検出信号と、吸気ポート16に取り付けられかつ、気筒18内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサSW5の検出信号と、シリンダヘッド12に取り付けられかつ、気筒18内の圧力を検出する筒内圧センサSW6の検出信号と、排気通路40におけるEGR通路50の接続部近傍に配置されかつ、それぞれ排気温度及び排気圧力を検出する排気温センサSW7及び排気圧センサSW8の検出信号と、直キャタリスト41の上流側に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサSW9の検出信号と、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するラムダO2センサSW10の検出信号と、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11の検出信号と、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW12の検出信号と、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13の検出信号と、吸気側及び排気側のカム角センサSW14、SW15の検出信号と、燃料供給システム62のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ67に供給する燃料圧力を検出する燃圧センサSW16の検出信号と、エンジン1の油圧を検出する油圧センサSW17の検出信号と、エンジン1の油温を検出する油温センサSW18の検出信号と、が入力される。
PCM10は、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じて、(直噴)インジェクタ67、点火プラグ25、吸気側可変動弁機構71、排気側可変動弁機構72、燃料供給システム62、及び、各種の弁(スロットル弁36、EGR弁511)のアクチュエータに対して制御信号を出力する。こうしてPCM10は、エンジン1を運転する。特に、本実施形態では、PCM10は、排気側可変動弁機構72のソレノイドバルブ72bに対して制御信号を出力して(詳しくはソレノイドバルブ72bに対して電圧又は電流を供給する)、ソレノイドバルブ72bの開閉を切り替えることで、排気弁22の開閉時期を変化させる制御を実行する。
[運転領域]
次に、図4を参照して、本発明の実施形態によるエンジン1の運転領域について説明する。図4は、エンジン1の運転制御マップの一例を示している。このエンジン1は、燃費の向上や排気エミッション性能の向上を目的として、エンジン負荷が相対的に低い低負荷域である第1の運転領域R11では、点火プラグ25による点火を行わずに、圧縮自己着火による圧縮着火燃焼を行う。しかしながら、エンジン1の負荷が高くなるに従って、この圧縮着火燃焼では、燃焼が急峻になりすぎてしまい、燃焼騒音が発生したり、着火時期の制御が困難になったりする(失火などが発生する傾向にある)。そのため、このエンジン1では、エンジン負荷が相対的に高い高負荷域である第2の運転領域R12では、圧縮着火燃焼の代わりに、点火プラグ25を利用した強制点火燃焼(ここでは火花点火燃焼)を行うようにする。このように、このエンジン1は、エンジン1の運転状態、特にエンジン1の負荷に応じて、圧縮着火燃焼による運転を実行するCI(Compression Ignition)運転と、火花点火燃焼による運転を実行するSI(Spark Ignition)運転とを切り替えるように構成されている。
ここで、図5を参照して、CI運転を行う第1の運転領域R11での吸気弁21及び排気弁22の基本動作について説明する。図5は、横軸にクランク角を示し、縦軸に弁のリフト量を示している。また、実線のグラフG11は、クランク角に応じた排気弁22の動作(リフトカーブ)を示し、破線のグラフG12は、クランク角に応じた吸気弁21の動作(リフトカーブ)を示している。グラフG11に示すように、CI運転を行う第1の運転領域R11では、排気側可変動弁機構72によって排気弁22を排気行程中に開弁させると共に吸気行程中にも開弁させる排気の二度開きを実行して、相対的に温度の高い内部EGRガスを気筒18内に導入する。こうすることで、CI運転時に、気筒18内の圧縮端温度を高めて、圧縮着火燃焼の着火性及び安定性を高めるようにしている。
[排気弁に対する制御]
次に、本発明の実施形態による排気弁に対する制御内容について具体的に説明する。
まず、図6を参照して、排気弁22を動作させる排気側可変動弁機構72の特性について説明する。ここでは、説明を簡単にするために、排気側可変動弁機構72によって排気弁22を1回だけ開弁させる場合を例に挙げる(実際には排気弁22は二度開きする)。
図6(a)の上には、排気側可変動弁機構72によって排気弁22を比較的早い時期t11にて開弁させたときの排気弁22の動作(リフトカーブ)を示しており、図6(a)の下には、このように排気弁22を動作させたときの排気側可変動弁機構72のソレノイドバルブ72bの開閉状態を示している。例えば、開弁時期t11は、排気側可変動弁機構72によって排気弁22の開弁時期を最大に進角させたときの開弁時期(以下では適宜「最大進角開弁時期」と呼ぶ。)である。一方、図6(b)の上には、比較的遅い時期t12に、具体的には図6(a)に示した開弁時期t11から遅角させた時期t12に(矢印A21参照)、排気側可変動弁機構72によって排気弁22を開弁させたときの排気弁22の動作(リフトカーブ)を示しており、図6(b)の下には、このように排気弁22を動作させたときの排気側可変動弁機構72のソレノイドバルブ72bの開閉状態を示している。また、図6(b)の上には、比較のために、図6(a)の上に示したリフトカーブを破線にて重ねて示してある。
図6(a)と図6(b)とを比較すると、排気弁22の開弁時期を遅角させると、排気弁22のリフト量が小さくなることがわかる(矢印A22参照)。また、符号Ar2で示す面積に対応する、排気弁22のリフト量積分値(開弁期間においてクランク角度に応じて変化する排気弁22のリフト量を積分した値であり、排気弁22を通って流れるガス量は、高回転では概ねこのリフト量積分値に応じた量となり、低回転では同じ通過ガス量に対してポンプ損失がリフト量積分値低下に伴い概ね増加する)が、符号Ar1で示す面積に対応する、排気弁22のリフト量積分値よりも小さいことがわかる。このように排気弁22の開弁時期を遅角させるとリフト量及びリフト量積分値が小さくなる理由は、以下の通りである。
上述したように、排気側可変動弁機構72においては、カム72dに形成されたカム山がローラーフィンガーフォロア72eに接触しているときに、このカム山がローラーフィンガーフォロア72eを押し込むことで、ポンプユニット72fが圧力室72c内のエンジンオイルを圧縮するよう動作する。このときに、ソレノイドバルブ72bを閉弁すると、圧力室72cとブレーキユニット72gとによってほぼ密閉空間が形成されて、この空間内のエンジンオイルの油圧が上昇して、上昇された油圧によってブレーキユニット72gが動作して排気弁22を付勢することで、排気弁22が開弁する。
ここで、圧力室72c内の油圧は、カム72dのカム山がローラーフィンガーフォロア72eに作用し始めると上昇していくが、ある程度まで上昇した後に低下していく。したがって、カム72dのカム山がローラーフィンガーフォロア72eに作用し始めた初期の所定のタイミングにおいてソレノイドバルブ72bを閉弁すると、相対的に早い時期から高圧室の圧力は上昇するため、排気弁22の開弁は早くなり、その後もカム山によって押し込まれるポンプユニット72fの動きに合わせてリフトするため、リフト量及びリフト量積分値は最も大きくなる(図6(a)参照)。この場合、排気弁22のリフト量及びリフト量積分値が最も大きくなるような排気弁22の開弁時期が、排気弁22の最大進角開弁時期として規定される。他方で、そのような最大進角開弁時期からソレノイドバルブ72bの閉弁時期を遅角させていくと、高圧室の圧力上昇は相対的に遅くなり、排気弁22の開弁は遅くなるため、その後カム山によって押し込まれるポンプユニットの動きに合わせてリフトするリフト量およびリフト量積分値も小さくなるのである(図6(b)参照)。
なお、上述してきた通り、排気側可変動弁機構72は排気弁22の開閉時期を変化させることができるが、図6に示したように、排気側可変動弁機構72によって排気弁22の開閉時期を変化させると排気弁22のリフト量も変化するので、このことから、排気側可変動弁機構72は排気弁22の開閉時期に加えてリフト量も変化させることができると言える。
ところで、エンジン1の高回転時には、排気側可変動弁機構72によって排気弁22の開弁時期を排気下死点(TDC)に対して進角させると、筒内から速やかに排気を排出でき、ポンピングロスを低減することができるものと考えられる。例えば、排気弁22の開弁時期を最大進角開弁時期に設定すると、ポンピングロスを効果的に低減することができる。一方で、エンジン1の低回転時には、排気側可変動弁機構72によって排気弁22の開弁時期を排気下死点付近まで遅角させると、膨張比を向上させることができるものと考えられる。
そのため、本実施形態では、PCM10は、エンジン回転数に応じて、排気側可変動弁機構72によって排気弁22の開弁時期を変化させる。具体的には、PCM10は、ポンピングロスの観点から、エンジン回転数が高いほど、排気側可変動弁機構72によって排気弁22の開弁時期を進角させ(詳しくは最大進角開弁時期を限度として排気弁22の開弁時期を進角させる)、また、膨張比の観点から、エンジン回転数が低いほど、排気側可変動弁機構72によって排気弁22の開弁時期を遅角させる。
しかしながら、上記したような排気側可変動弁機構72の特性から(図6参照)、エンジン1の低回転時に膨張比を向上させるために排気弁22の開弁時期を遅角させ過ぎると、所望のリフト量などが確保できずに、筒内から排気をスムーズに排出できなくなる。特に、排気弁22の開弁時期を遅角させ過ぎると、排気上死点での排気弁22のリフト量がかなり小さくなり、排気による損失(ポンピングロス)が生じてしまう。これについて、図7を参照して具体的に説明する。
図7は、排気側可変動弁機構72によって排気弁22の開弁時期を遅角させたときの排気上死点での排気弁22のリフト量の変化についての説明図である。図7は、横軸にクランク角を示し、縦軸に排気弁22のリフト量を示している。グラフG21〜G24は、基本的には排気の二度開き(図5参照)を行うように排気弁22を動作させることとし、そのときの排気行程における排気弁22の開弁時期を遅角させていった場合の排気弁22のリフトカーブの具体例を示している。
図7に示すように、排気弁22の開弁時期を遅角させる度合いを大きくすると(矢印A31参照)、排気上死点での排気弁22のリフト量が小さくなっていくことがわかる(矢印A32参照)。特に、グラフG24に示すように、排気弁22の開弁時期を遅角させる度合いをかなり大きくすると、排気上死点での排気弁22のリフト量が0になること、つまり排気上死点において排気弁22が全閉状態になることがわかる。このように、排気弁22の開弁時期を遅角させることで排気上死点での排気弁22のリフト量が確保されなくなると、排気が筒内から適切に排出されずに筒内圧が上昇し、排気による損失が生じてしまう。
したがって、本実施形態では、排気上死点での排気弁22のリフト量が確保されるように、排気行程での排気弁22の開弁時期を排気側可変動弁機構72によって最大に遅角させる時期である最大遅角開弁時期を設定し、この最大遅角開弁時期よりも進角側の時期において排気弁22を開弁させるように排気側可変動弁機構72を制御する。具体的には、PCM10は、エンジン回転数が低い場合に、最大遅角開弁時期を限度として排気弁22の開弁時期を遅角させることで、排気上死点での排気弁22のリフト量を確保して排気による損失を抑制しつつ、膨張比を改善するようにする。
ところで、上記したように、排気弁22の開弁時期を遅角させ過ぎると排気上死点での排気弁22のリフト量が確保されなくなるが、この問題に対処すべく排気弁22のリフト量が確保されるような開弁時期を設定したとしても、排気側可変動弁機構72が利用するエンジンオイルの状態によっては、排気弁22のリフト量が適切に確保されない場合がある、つまり排気弁22が所望の動作を行わない場合がある。これについて、図8を参照して具体的に説明する。
図8は、エンジンオイルの状態により排気弁22のリフト量が小さくなる場合についての説明図である。図8は、横軸にクランク角を示し、縦軸に排気弁22のリフト量を示している。グラフG31、G32は、それぞれ、基本的には排気の二度開き(図5参照)を行うように排気弁22を動作させることとし、そのときの排気行程における排気弁22の開弁時期を同一に設定した場合における排気弁22のリフトカーブを示している。より具体的には、破線のグラフG32は、実線のグラフG31よりも、排気側可変動弁機構72が利用するエンジンオイルの粘度が高い場合における排気弁22のリフトカーブを示している。グラフG31とグラフG32とを比較すると、エンジンオイルの粘度が高い場合には、排気弁22の開弁時期を同一に設定しても、排気弁22のリフト量が全体的に小さくなることがわかる。特に、排気上死点での排気弁22のリフト量がかなり小さくなっていることがわかる(矢印A4参照)。このようになるのは、エンジンオイルの粘度が高いと、排気側可変動弁機構72において排気弁22に所望の動作を行わせるのに必要な油圧が得られないから、つまり排気側可変動弁機構72の圧力室72c内の油圧が適切な圧力にまで上昇しないからである。このエンジンオイルの粘度は、エンジンオイルの温度や希釈率や空気の混入率や劣化度合いなどによって変化するものである。
次に、図9を参照して、エンジンオイルの状態に起因して排気弁22のリフト量が小さくなった場合(例えば図8のグラフG32に示したようなリフトカーブとなる場合)に生じる問題点について説明する。図9は、横軸に筒内容積を示し、縦軸に筒内圧を示しており、各工程(吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程)での筒内容積と筒内圧との関係を示している(P−V線図)。上記したように、エンジンオイルの状態に起因して排気弁22のリフト量が小さくなった場合、特に排気上死点での排気弁22のリフト量がかなり小さくなった場合、排気が筒内から適切に排出されずに、図9中の矢印A5に示すように(破線参照)、排気行程の後半において、つまり吸気行程の直前において筒内圧が上昇する。この場合には、排気による損失(ポンピングロス)が生じる。
したがって、本実施形態では、PCM10は、排気上死点における筒内圧を筒内圧センサSW6から取得し、この筒内圧の大きさに基づいて、排気弁22を開弁させるように排気側可変動弁機構72を制御するタイミングを補正する、具体的には排気側可変動弁機構72のソレノイドバルブ72bを開から閉に切り替える制御を行うタイミングを補正する。この場合、PCM10は、排気上死点での筒内圧が高いほど、ソレノイドバルブ72bに対する制御タイミングを早くする補正を行って、排気弁22の開弁時期を進角させるようにして、排気上死点での排気弁22のリフト量を所定量以上に確保する。これは、排気弁22の開弁時期を進角させると排気弁22のリフト量及びリフト量積分値が大きくなるという排気側可変動弁機構72の特性を利用したものである(図6や図7参照)。
次に、図10を参照して、本発明の実施形態による排気弁22の制御方法について具体的に説明する。図10は、本発明の実施形態による排気弁22の制御処理を示すフローチャートである。このフローは、排気行程において排気弁22を開弁させている最中に実行される。また、当該フローは、PCM10によって繰り返し実行される。
まず、ステップS1では、PCM10は、クランク角センサSW12が検出したクランク角に基づき、気筒18のピストン14が排気上死点に達したか否かを判定する。ピストン14が排気上死点に達したと判定された場合(ステップS1:Yes)、ステップS2に進み、PCM10は、筒内圧センサSW6が検出した筒内圧を取得し、ステップS3に進む。他方で、ピストン14が排気上死点に達したと判定されなかった場合(ステップS1:No)、ステップS1に戻り、PCM10は、ピストン14が排気上死点に達するまで、ステップS1の判定を繰り返す。
ステップS3では、PCM10は、ステップS2で取得した筒内圧が所定値以上であるか否かを判定する。ここでは、排気側可変動弁機構72において十分な油圧が得られずに排気弁22のリフト量が小さくなったことに起因する、筒内圧の上昇が生じたか否かを判定している。ステップS3の判定で用いる所定値には、例えばエンジン1の運転状態に応じた値が適用される。筒内圧が所定値以上であると判定された場合(ステップS3:Yes)、ステップS4に進み、筒内圧が所定値以上であると判定されなかった場合(ステップS3:No)、処理は終了する。
ステップS4では、PCM10は、ステップS2で取得した筒内圧に応じて、排気弁22を開弁させるように排気側可変動弁機構72を制御するタイミング、つまり排気側可変動弁機構72のソレノイドバルブ72bを開から閉に切り替える制御を行うタイミング(ソレノイドバルブ72bに通電するタイミングに相当する)を補正する。具体的には、PCM10は、筒内圧がステップS3の所定値を超える量が大きいほど、ソレノイドバルブ72bの制御タイミングを早くする補正を行う。また、PCM10は、排気上死点での排気弁22のリフト量が所定量以上になるように、ソレノイドバルブ72bの制御タイミングを補正する。こうすることは、排気上死点での筒内圧を所定値未満にするように、ソレノイドバルブ72bの制御タイミングを補正することに相当する。したがって、この場合に用いる所定量は、例えば、看過できない損失(ポンピングロス)が生じるような排気弁22のリフト量よりも少なくとも大きな量に基づき設定される、換言すると、許容できる範囲内の損失(ポンピングロス)が生じるような排気弁22のリフト量に基づき設定される。ステップS4の後、PCM10は、このように補正したソレノイドバルブ72bの制御タイミングを、次回の排気行程において排気弁22を開弁させるときに適用する。
例えば、PCM10は、エンジン回転数が高いほど、排気弁22の開弁時期を進角させ、エンジン回転数が低いほど、排気弁22の開弁時期を遅角させる場合に、エンジン回転数に応じて排気弁22の開弁時期を進角制御又は遅角制御するに当たって、上記のように筒内圧に応じて補正したソレノイドバルブ72bの制御タイミングを適用すればよい。また、PCM10は、排気上死点での筒内圧に応じたソレノイドバルブ72bの制御タイミングの補正に合わせて、この筒内圧に基づき排気弁22の最大遅角開弁時期も補正して、エンジン回転数が低いときに、補正した最大遅角開弁時期を限度として排気弁22の開弁時期を遅角すればよい。
[作用効果]
次に、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の作用効果について述べる。
本実施形態によれば、エンジンオイルの状態(粘度など)を指し示す筒内圧の大きさに基づいて、排気弁22を開弁させるように排気側可変動弁機構72を制御するタイミングを補正するので、エンジンオイルの状態を適切に考慮に入れたタイミングで、排気弁22を開弁させるように排気側可変動弁機構72を制御することができる。したがって、エンジンオイルの状態に依らずに、排気側可変動弁機構72によって排気弁22に所望の動作を行わせることができる、換言すると所望のカムプロフィールを実現することができる。つまり、排気弁22の開弁期間中におけるリフト量を適切に確保することができる。これにより、排気が筒内から排出されずに筒内圧が上昇することで生じる、排気による損失(ポンピングロス)を適切に抑制することができる。特に、エンジン1の低回転時に、膨張比を向上すべく、排気弁22の開弁時期を遅角させた場合にも、排気弁22のリフト量を確保して排気による損失を適切に抑制することができる。
また、本実施形態によれば、取得した筒内圧が高いほど、排気弁22を開弁させるように排気側可変動弁機構72を制御するタイミングを早くする補正を行うので、エンジンオイルの状態をより適切に考慮した制御タイミングに補正することができ、排気弁22のリフト量を効果的に確保することができる。
また、本実施形態によれば、排気上死点での筒内圧に基づき、排気側可変動弁機構72の制御タイミングを補正するので、排気弁22の排気上死点でのリフト量を確実に確保することができる。
また、本実施形態によれば、排気弁22のリフト量が所定量以上になるように、排気側可変動弁機構72の制御タイミングを補正するので、排気弁22のリフト量を確保して、排気による損失を効果的に抑制することができる。
[変形例]
上記した実施形態では、排気上死点での筒内圧に基づき、排気弁22を開弁させるように排気側可変動弁機構72を制御するタイミングを補正していたが、このタイミングでの筒内圧を用いることに限定はされず、排気側可変動弁機構72による排気弁22の開弁期間中の所定タイミングでの筒内圧を用いればよい。但し、好適には排気上死点での筒内圧を用いるのが良いが、厳密に排気上死点での筒内圧を用いることに限定はされず、排気上死点付近での筒内圧を用いてもよい。
上記した実施形態では、エンジンオイルの状態(粘度など)を間接的に指し示す筒内圧のみに基づき、排気弁22を開弁させるように排気側可変動弁機構72を制御するタイミングを補正していたが、他の例では、筒内圧だけでなく、エンジンオイルの状態を直接的に指し示す、油圧センサSW17が検出した油圧及び/又は油温センサSW18が検出した油温も用いて、排気弁22を開弁させるように排気側可変動弁機構72を制御するタイミングを補正してもよい。
上記した実施形態では、本発明をCI運転とSI運転とを切り替えて運転するガソリンエンジンに対して適用した例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。本発明は、通常のガソリンエンジン(つまりSI運転のみを実行するエンジン)や、ディーゼルエンジンにも適用可能である。