JP6303580B2 - 熱処理用鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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CuおよびCrの表面濃化状況が下記(1)式を満足し、
表面の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以上2.0μm以下であり、
表面のNi付着量が11mg/m2以上であること
を特徴とする熱処理用鋼板。
ここで、式中の[Cu+Cr]sは鋼板表面から5μm深さ位置までの表層部におけるCuおよびCrの合計最大濃化量(質量%)を示し、式中の[Cu+Cr]bはバルク中のCuおよびCrの合計濃度(質量%)を示し、Cuを含有しない場合には(1)式中のCu濃度は0%とする。
(A)スラブに熱間圧延を施して500℃以上の温度で巻取ることにより熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(B)前記工程(A)により得られた鋼板に下記(2)式を満足する条件で酸洗を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(C)前記工程(B)により得られた鋼板に下記(3)式を満足する条件で研磨処理を施す研磨工程;
(D)前記工程(C)により得られた鋼板に90%以下の圧下率で冷間圧延を施す冷間圧延工程;
(E)前記工程(D)により得られた鋼板に700℃以上900℃以下の温度で焼鈍を施す焼鈍工程;および
(F)前記工程(E)により得られた鋼板の表面に11mg/m2以上のNiを付着させるNiめっきを施すNiめっき工程。
♯36≦研磨材粒度 JIS R 6001(1973)≦♯320 ・・・・・(3)
本発明の熱処理用鋼板の限定理由について説明する。以下の説明において化学組成を示す「%」は「質量%」を意味する。
Cは、熱処理後の鋼板の強度確保のために必要な元素である。C含有量が0.07%未満では熱処理後において980MPa以上の引張強度を確保することが困難となる。したがって、C含有量は0.07%以上とする。熱処理後において1480MPa以上の引張強度を確保するにはC含有量を0.18%以上とすることが好ましく、熱処理後において1780MPa以上の引張強度を確保するにはC含有量を0.28%以上とすることが好ましい。一方、C含有量が0.50%超では溶接性の劣化が著しくなる。したがって、C含有量は0.50%以下とする。
Siは、焼き入れ性を高める作用を有する。Si含有量が0.005%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Si含有量は0.005%以上とする。一方、Si含有量が2.0%超では、上記作用による効果は飽和してしまいコスト的に不利となる。したがって、Siの含有量は2.0%以下とする。
Mnは、焼き入れ性を高める作用を有する。Mn含有量が0.3%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Mn含有量は0.3%以上とする。好ましくは0.5%以上である。一方、Mn含有量が4.0%超では、上記作用による効果は飽和してしまいコスト的に不利となる。したがって、Mn含有量は4.0%以下とする。好ましくは3.0%以下である。
Pは、焼き入れ性を高める作用を有する。P含有量が0.0002%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、P含有量は0.0002%以上とする。好ましくは0.004%以上である。一方、P含有量が0.2%超では、結晶粒界へのP偏析に起因する靭性の劣化が著しくなる。したがって、P含有量は0.2%以下とする。好ましくは0.05%以下である。
Sは、不純物として含有され、鋼中に硫化物を形成して靭性を劣化させる作用を有する。S含有量が0.01%超では靭性の低下が著しくなる。したがって、S含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.008%以下である。S含有量は低ければ低いほど好ましいので、S含有量の下限は規定する必要はないが、製鋼コストの観点からは0.0002%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.0004%以上である。
Alは、鋼を脱酸して鋼板を健全化する作用を有する。sol.Al含有量が0.0002%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、sol.Al含有量は0.0002%以上とする。好ましくは0.0004%以上である。一方、sol.Al含有量が2.0%超では、粗大なアルミナ系介在物が増加して、靭性の劣化が著しくなる。したがって、sol.Al含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.5%以下である。
Cuは、焼き入れ性を高め、かつ焼入れ後の強度を安定して確保するのに有効な元素である。また、高温での熱処理時にスケール生成を抑制するのに有効な元素である。このため、Cuは必要に応じて含有してもよい。しかし、Cu含有量が0.1%超では、上記作用による効果は飽和してしまいコスト的に不利となる。したがって、Cuを含有する場合には、Cu含有量は0.1%以下とする。一方、上記作用による効果を確実に得るためにはCu含有量は0.005%以上とすることが望ましい。
Tiは、鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後の強度を安定して確保するのに有効な元素である。Ti含有量が0.005%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Ti含有量は0.005%以上とする。一方、Ti含有量が0.30%超では、上記作用による効果は飽和してしまいコスト的に不利となる。したがって、Ti含有量は0.30%以下とする。
Crは、鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後の強度を安定して確保するのに有効な元素である。また、高温での熱処理時にスケール生成を抑制するのに有効な元素である。Cr含有量が0.21%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Cr含有量は0.21%以上とする。一方、Cr含有量が1.0%超では、上記作用による効果は飽和してしまいコスト的に不利となる。したがって、Crの含有量は1.0%以下とする。
Bは、鋼板の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後の強度を安定して確保するのに有効な元素である。B含有量が0.0003%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、B含有量は0.0003%以上とする。好ましくは0.0010%以上である。一方、B含有量が0.0200%超では、上記作用による効果は飽和してしまいコスト的に不利となる。したがって、Bの含有量は0.0200%以下とする。
Nは、不純物として含有され、鋼中に窒化物を形成して靭性を劣化させる作用を有する。N含有量が0.01%超では靭性の低下が著しくなる。したがって、N含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.008%以下である。N含有量は低ければ低いほど好ましいので、N含有量の下限は規定する必要はないが、製鋼コストの観点からは0.0002%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.0004%以上である。
Nb、V、Mo、NiおよびWは、いずれも、鋼の焼入性を高める作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかしながら、それぞれ上記上限値を超えて含有させても、上記作用による効果は飽和してしまいコスト的に不利となる。したがって、Nb、V、Mo、NiおよびWの含有量はそれぞれ上記のとおりとする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Nb:0.005%以上、V:0.005%以上、Mo:0.005%以上、Ni:0.005%以上およびW:0.005%以上のいずれかを満足させることが好ましい。
Ca、Mg、BiおよびREMは、いずれも、鋼中の介在物の形態を微細化し、介在物による熱間プレス時の割れを防止する作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかしながら、しかしながら、それぞれ上記上限値を超えて含有させても、上記作用による効果は飽和してしまいコスト的に不利となる。したがって、Ca、Mg、BiおよびREMの含有量は、それぞれ上記のとおりとする。上記作用による効果をより確実に得るには、Ca:0.0005%以上、Mg:0.0005%以上、Bi:0.0005%以上およびREM:0.0005%以上のいずかを満足させることが好ましい。
CuおよびCrの表面濃化状況は下記(1)式を満足するものとする。
ここで、式中の[Cu+Cr]sは鋼板表面から5μm深さ位置までの表層部におけるCuおよびCrの合計最大濃化量(質量%)を示し、式中の[Cu+Cr]bはバルク中のCuおよびCrの合計濃度(質量%)を示し、具体的には実施例において後述する方法により測定される。なお、Cuを含有しない場合には(1)式中のCu濃度は0%とする。
表面粗さRaは0.5μm以上2.0μm以下とする。表面粗さRaが0.5μm未満では、熱間プレス時に、鋼板と金型との摩擦が大きくなり、熱間プレス成形部材に表面疵およびスケール剥離が発生する場合がある。したがって、表面粗さRaは0.5μm以上とする。一方、表面粗さRaが2.0μm超であると、鋼板と金型との接触ムラが発生し、熱間プレス成形部材の表面においてスケール形状のバラツキを生じ易くなり、スケール剥離が発生し易くなる。したがって、鋼板の表面粗さRaは2.0μm以下とする。
鋼板表面のNi付着量は11mg/m2以上とする。鋼鈑表面にNiを付着させることにより、熱処理の高温状態における酸化を抑制することができるので、熱処理後の鋼板部材において酸化スケールの厚みを薄くすることができる。その結果、スケール剥離が抑制され、スケール密着性が一層向上する。Ni付着量が11mg/m2未満では、上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Ni付着量は11mg/m2以上とする。Ni付着量の上限は特に規定する必要はないが、Niは高価な金属であるので、コストの観点からはNi付着量を100mg/m2以下とすることが好ましい。鋼板表面へのNiの付着は、電解めっきや無電解めっき等のように公知の方法によればよい。
次に、本発明に係る熱処理用鋼板の好ましい製造方法について説明する。
(A)熱間圧延工程
上述の化学組成を有するスラブに対する熱間圧延工程における巻取温度は500℃以上とする。
上記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に下記式(2)を満足する条件で酸洗処理を施して酸洗鋼板とする。
酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)の値が30000未満では、熱延鋼板表面のスケールが除去されずに残存する場合がある。一方、酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)の値が1500000超では、酸洗過多となり、冷間圧延後の鋼板の表面粗さRaが2.0μm超となる場合がある。したがって、上記式(2)を満足する条件で酸洗処理を施すものとする。なお、酸の種類は特に限定されるものでなく、塩酸や硫酸が例示される。
上記酸洗工程により得られた酸洗鋼板に下記式(3)を満足する条件の研削ブラシを用い、研磨処理を施す。
研磨ブラシの研磨粒度が♯36未満であると冷間圧延および焼鈍後の表面粗さが2.0μm超となる場合がある。また、研磨粒度が♯320超であると、冷間圧延および焼鈍後の表面粗さが0.5μm未満となる場合がある。したがって、上記式(3)を満足する条件で研磨処理を施すものとする。
上記研磨工程により得られた鋼板には90%以下の圧下率の冷間圧延を施す。
上記冷間圧延工程により得られた鋼板には700℃以上900℃以下の温度で焼鈍を施す。
上記焼鈍工程により得られた鋼板には、11mg/m2以上のNiを付着させるNiめっきを施す。鋼板表面へのNiの付着は、電解めっきや無電解めっき等のように公知の方法によればよい。
1.供試材の作製
表1に示す化学組成を有する鋼を転炉で溶製し、連続鋳造試験機を用いて連続鋳造を実施し、巾1000mmで250mm厚のスラブとした。このようにして得られたスラブを加熱し、熱間圧延試験機により熱間圧延を施して熱延鋼板とし、その後、ラボにて塩酸による酸洗処理を施して酸洗鋼板とした。酸洗処理後、冷間圧延試験機により冷間圧延を施して冷延鋼板とした。冷間圧延後、鋼板を焼鈍し、付着量11〜100mg/m2でNiフラッシュめっきを施した。これらの製造条件を表2に示す。
(2−1)表層部におけるCuおよびCrの合計最大濃化量
表層部におけるCuおよびCrの合計最大濃化量の測定はEPMAの線分析にて実施した。すなわち、鋼板の板厚断面において、鋼板表面から50μm深さ位置までEPMAの線分析を実施した。表層から5μm深さ位置までのCuおよびCrの合計最大濃化量は、線分析から得られたCuおよびCrの合計濃度の波形を読み取ることにより行った。また、バルク中のCuおよびCrの合計濃度については、5μmから50μmまでのCuおよびCrの合計濃度の波形を読み取り、その平均値により求めた。
表面粗さ計を用いて、各鋼板の圧延方向ならびに圧延直角方向について鋼板表面粗さ(Ra)を測定した。各鋼板について圧延方向をn=5ならびに圧延直角方向n=5のRaを測定し、算術計算にて平均値とした。
熱間プレスした鋼板に対して、スケール密着性を次の方法により評価した。すなわち、粘着テープ(ニチバン株式会社製セロテープ(登録商標))を長さ200mmに切り取り、鋼板部材上に貼り付け、その後剥がして、スケールの剥離重量を測定した。
(3−1)本発明
上記の評価試験の結果を表3に示す。なお、表1〜3における、化学組成、製造条件、組織特性および機械特性を示す数値に下線が付されたものは、本発明の規定の範囲外であることを示している。
これに対し、Cr:0.20%(供試材No.17)であるもの、Cu:0.003%(供試材No.18)であるもの、酸濃度(質量%)、酸温度(℃)および酸浸漬時間(秒)の積が155000、25000(供試材No.19,20)であるもの、研磨材粒度が♯30、400であるもの(供試材No.21,22)であるもの、冷間圧延の圧下率が93%であるもの(供試材No.23)、冷間圧延後の焼鈍温度が580℃であるもの(供試材No.24)、鋼板表面へのNi付着重量が5mg/m2であるもの(供試材No.25)についてはスケール密着性が悪かった。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.07%以上0.50%以下、Si:0.005%以上0.35%以下、Mn:0.3%以上1.50%以下、P:0.0002%以上0.2%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.0002%以上0.05%以下、Ti:0.005%以上0.30%以下、Cr:0.25%以上1.0%以下、B:0.0003%以上0.0200%以下、Cu:0.03%以上0.1%以下およびN:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、
CuおよびCrの表面濃化状況が下記(1)式を満足し、
表面の算術平均粗さ(Ra)が0.5μm以上2.0μm以下であり、
表面のNi付着量が11mg/m2以上であること
を特徴とする熱処理用鋼板。
[Cu+Cr]s≧1.1×[Cu+Cr]b ・・・・・(1)
ここで、式中の[Cu+Cr]sは鋼板表面から5μm深さ位置までの表層部におけるCuおよびCrの合計最大濃化量(質量%)を示し、式中の[Cu+Cr]bはバルク中のCuおよびCrの合計濃度(質量%)を示し、Cuを含有しない場合には(1)式中のCu濃度は0%とする。 - 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.5%以下、V:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Ni:0.5%以下およびW:0.5%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱処理用鋼板。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.5以下、Mg:0.5以下、Bi:0.5以下およびREM:0.5以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱処理用鋼板。
- 下記工程(A)〜(F)を有する請求項1から請求項3までのいずれかに記載の熱処理用鋼板の製造方法:
(A)スラブに熱間圧延を施して500℃以上の温度で巻取ることにより熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(B)前記工程(A)により得られた鋼板に下記(2)式を満足する条件で酸洗を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(C)前記工程(B)により得られた鋼板に下記(3)式を満足する条件で研磨処理を施す研磨工程;
(D)前記工程(C)により得られた鋼板に90%以下の圧下率で冷間圧延を施す冷間圧延工程;
(E)前記工程(D)により得られた鋼板に700℃以上900℃以下の温度で焼鈍を施す焼鈍工程;および
(F)前記工程(E)により得られた鋼板の表面に11mg/m2以上のNiを付着させるNiめっきを施すNiめっき工程。
30000≦酸濃度(質量%)×酸温度(℃)×酸浸漬時間(秒)≦150000 ・・・・・(2)
♯36≦研磨材粒度 JIS R 6001(1973)≦♯320 ・・・・・(3)
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