JP6294962B2 - プレス成形性および形状凍結性に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents

プレス成形性および形状凍結性に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、自動車用ボディーシートに適するプレス成形性および形状凍結性を備えたアルミニウム合金板およびその製造方法に関する。
Al−Mg系の5000系アルミニウム合金板を、鋼板の代替材料として、自動車用ボディーパネル等へ適用することが検討されている。5000系アルミニウム合金板を所望形状に成形するためには、プレス金型によって成形する必要がある。このため、従来、いわゆるプレス成形性に優れた5000系アルミニウム合金板が開発されてきた。
しかしながら、5000系アルミニウム合金板は鋼板に比べてプレス成形性に劣る。このため、5000系アルミニウム合金板のプレス成形においては、部品を分割してプレス成形するなどの工夫が必要となり、部品点数、金型数が増加する等の弊害が生じている。特に形状の複雑なプレス成形では、平面ひずみ領域近傍において割れなどの不良が発生する場合が多い。このため、5000系アルミニウム合金板には、いわゆる平面ひずみ破断限界のさらなる向上が要求されている。
ところで、成形性に優れるアルミニウム合金板としては、たとえば特許文献1に、製品板の板厚表面で集合組織を測定した場合に圧延集合組織に属するCu方位、S方位、BRASS方位の何れかの方位成分がランダム方位の6倍以上、且つ、最大長さ5μm以上の金属間化合物数を板厚表面で測定した場合に1mm2あたり30個以上、480個以下であるアルミニウム合金缶蓋材が記載されている。特許文献1によれば、このアルミニウム合金缶蓋材が、リベット成形性やスコア加工性に優れる。また、特許文献1には、冷間圧延されたアルミニウム合金板の集合組織とプレス成形性との関係に着目し、集合組織を制御して結晶方位の体積分率を特定することにより、アルミニウム合金板の成形性を向上させることが記載されている。
また、成形性に優れるアルミニウム合金板としては、たとえば特許文献2に、Al−Mg系合金板であって、CUBE方位の体積分率とS方位の体積分率の比(S/Cube)が1以上、GOSS方位が5%以下の集合組織を有し、且つ結晶粒径が20〜100μmの範囲にあるAl−Mg系合金板が記載されている。特許文献2によれば、このAl−Mg系合金板は、深絞り成形性の指標とされる限界絞り比(LDR)が大きく、深絞り成形性に優れる。特許文献2には、特に深絞り成形における限界絞り比(LDR)と集合組織との関係に着目することにより、5000系アルミニウム合金板の深絞り成形性を向上させることが記載されている。
さらに、成形性に優れるアルミニウム合金板としては、たとえば特許文献3に、再結晶粒径が12μm以下、限界絞り比(LDR)が2.13以上である成形加工用アルミニウム合金板が記載されている。特許文献3によれば、この成形加工用アルミニウム合金板は、深絞り性及び耐焼付け軟化性に優れる。また、特許文献3には、DC材に比べてCC材が深絞り性に優れることが記載されている。
ところで、アルミニウム合金板の成形性を向上させる技術として、圧延面法線方向に対して面心立方の{100}面が垂直であり、<100>方向が圧延方向に平行である、Cube方位を有する結晶の体積率を高くすることが有効であることが知られている。また、Cube方位を成長させる手段として、部分焼鈍、軽圧下冷延、焼鈍を施すことが知られている。たとえば非特許文献1には、EBSP、X線回折等を用いて、部分焼きなまし、軽圧下冷延、中間焼きなましを施した際の立方体方位粒の核生成および成長挙動を検討することにより、立方体方位集合組織が発達する機構の解明が試みられている。非特許文献1には、部分焼きなましがされかつ軽圧下にある立方体集合組織の発達は、立方体方位粒の核生成の促進により生じるものではなく、部分焼きなまし時に生成した立方体方位粒の成長が他方位粒よりも速いために生じると記載されている。また、非特許文献1では、立方体方位粒が成長しやすい主な理由は、軽圧下による立方体方位粒中の残留ひずみの増加が他方位粒より少ないためであると考察されている。
特許第3904868号公報 特許第4339869号公報 特許第5050577号公報
3004アルミニウム合金の立方体集合組織の形成に及ぼす部分焼なましと軽圧下圧延の影響(軽金属 第49巻 第12号(1999),583-588)
上記従来の知見に鑑みると、5000系アルミニウム合金板の製造において、元スラブを薄スラブ連続鋳造材(CC材)とすれば、最終焼鈍板の金属組織における再結晶粒の平均結晶粒径を12μm以下とすることが可能となり、深絞り性に優れたアルミニウム合金板が得られると考えられる。しかしながら、5000系アルミニウム合金板の製造において、元スラブを単に薄スラブ連続鋳造材(CC材)とすると、Mn、Fe、Si等の遷移元素のマトリックスへの固溶量が高くなり、最終焼鈍板の耐力が高くなるという問題があった。また、5000系アルミニウム合金板には、実際のプレス成形を想定した条件下で成形性が良好であること、及びボディー材への適用のために複雑な形状のプレス成形での成形性を確保することが所望されている。しかし、元スラブを薄スラブ連続鋳造材(CC材)として得られた冷間圧延材から作製された5000系アルミニウム合金板は、実際のプレス成形を想定した条件下での成形性や複雑な形状のプレス成形での成形性が十分でないという問題があった。
そこで、本願発明者らは、薄スラブ連続鋳造材を元スラブとした冷延焼鈍材の集合組織と成形性との関係を調査する中で、冷延焼鈍材におけるCube方位の体積率と平面ひずみ破断限界との関係に着目し、合金組成や製板条件について鋭意検討したところ、プレス成形性および形状凍結性に優れたアルミニウム合金板を得ることに成功した。
本発明は、プレス成形性及び形状凍結性に優れたアルミニウム合金板及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明の第1の態様に係るアルミニウム合金板は、Mgを4.0〜5.5質量%、Tiを0.005〜0.10質量%含有するとともに、不純物としてのFe、Mn及びSiの含有量がそれぞれ0.10質量%未満であり、かつ残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、平均結晶粒径が30μm未満、Cube方位結晶の体積率に対するS方位結晶の体積率の比率(S方位結晶の体積率/Cube方位結晶の体積率)が0.3未満、Cube方位結晶の体積率が10〜25%であり、引張強度が250MPa以上、耐力が130MPa未満、伸びが30%以上、平面ひずみ破断限界が0.22以上であることを特徴とする。
前記第1の態様に係るアルミニウム合金板は、Cuを0.03〜0.2質量%さらに含有することが好ましい。
本発明の第2の態様に係るアルミニウム合金板の製造方法は、本発明の第1の態様に係るアルミニウム合金板を製造する製造方法であって、Mgを4.0〜5.5質量%、Tiを0.005〜0.10質量%含有するとともに、不純物としてのFe、Mn及びSiの含有量がそれぞれ0.10質量%未満であり、かつ残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯を、連続的に鋳造して厚さ2〜15mmのスラブを得るスラブ作製工程と、前記スラブを、熱間圧延をせずにロールに巻き取る巻き取り工程と、前記ロールに巻き取ったスラブを、保持温度380〜470℃で1〜15時間保持して、焼鈍析出処理材を作製する焼鈍析出処理工程と、前記焼鈍析出処理材に最終冷延率70〜95%の冷間圧延を行って最終冷延材を得る最終冷間圧延工程と、前記最終冷延材を、保持温度400〜500℃で10〜60秒保持する最終焼鈍を行って最終焼鈍材を得る最終焼鈍工程と、を有することを特徴とする。
前記第2の態様に係るアルミニウム合金板の製造方法は、前記アルミニウム合金溶湯が、Cuを0.03〜0.2質量%さらに含有することが好ましい。
本発明の第3の態様に係るアルミニウム合金板の製造方法は、本発明の第1の態様に係るアルミニウム合金板を製造する製造方法であって、Mgを4.0〜5.5質量%、Tiを0.005〜0.10質量%含有するとともに、不純物としてのFe、Mn及びSiの含有量がそれぞれ0.10質量%未満であり、かつ残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯を、連続的に鋳造して厚さ2〜15mmのスラブを得るスラブ作製工程と、前記スラブを、熱間圧延をせずにロールに巻き取る巻き取り工程と、前記ロールに巻き取ったスラブを、保持温度380〜470℃で1〜15時間保持して、焼鈍析出処理材を得る焼鈍析出処理工程と、前記焼鈍析出処理材に冷間圧延を行って第一次冷延材を得る第一次冷間圧延工程と、前記第一次冷延材に中間焼鈍を行って中間焼鈍材を得る中間焼鈍工程と、前記中間焼鈍材に最終せせ冷延率10〜30%の冷間圧延を行って最終冷延材を得る最終冷間圧延工程と、前記最終冷延材を、保持温度400〜500℃で10〜60秒保持する最終焼鈍を行って最終焼鈍材を得る最終焼鈍工程と、を有することを特徴とする。
前記第3の態様に係るアルミニウム合金板の製造方法は、前記アルミニウム合金溶湯が、Cuを0.03〜0.2質量%さらに含有することが好ましい。
前記第3の態様に係るアルミニウム合金板の製造方法は、前記中間焼鈍工程は、連続焼鈍炉を用いて保持温度250〜350℃で10〜60秒間保持することが好ましい。
前記第3の態様に係るアルミニウム合金板の製造方法は、前記中間焼鈍工程は、バッチ炉を用いて保持温度200〜300℃で0.5〜8時間保持することが好ましい。
本発明に係るアルミニウム合金板は、プレス成形性及び形状凍結性に優れる。本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法は、プレス成形性及び形状凍結性に優れるアルミニウム合金板を効率よく製造することができる。
プレス成型品の一例を示す図である。 EBSDによる結晶方位測定結果の一例を示す図(実施例2)である。 EBSDによる結晶方位測定結果の一例を示す図(比較例1)である。 平面ひずみ破断限界の試験片の形状及び寸法を示す平面図である。
[アルミニウム合金板]
本実施形態に係るアルミニウム合金板の説明の前に、従来の5000系アルミニウム合金板の課題について説明する。
従来の5000系アルミニウム合金板は、高強度であっても、特に形状の複雑なプレス成形では平面ひずみ領域近傍において割れなどの不良が発生する場合があった。このため、平面ひずみ領域においてその破断限界が低かった。また、従来の5000系アルミニウム合金板は、成分組成により耐力が高くなることがあり、この場合には、プレス成形後にスプリングバックが発生しやすい。そうすると、プレス成形後のアルミニウム合金板が所定の設計形状に収まらないという、いわゆる形状凍結性が悪いという問題もあった。さらに、従来の5000系アルミニウム合金板は、プレス成形後の表面外観に肌荒れが生じることがあった。従来のDC鋳造材では、再結晶粒の平均結晶粒径が30μm以上と大きすぎて、プレス成形後に肌荒れ外観となる場合があった。このため、従来の5000系アルミニウム合金板には、再結晶粒の平均結晶粒径をある程度小さくすることが望まれていた。
従来の5000系アルミニウム合金板には上記のような課題があった。このため、5000系アルミニウム合金板には、現在、高強度で、伸びが高く、耐力が低く、結晶粒径、Cube方位結晶及びS方位結晶の体積率が適切に調整されたものが求められている。
従来の5000系アルミニウム合金板のプレス成形性を改善する方法としては、薄スラブ連続鋳造法により、元スラブにおける金属間化合物を細かくして、最終板(焼鈍板)における再結晶粒をできるだけ微細化しておく方法も考えられる。しかしながら、この方法では、元スラブにおける遷移元素の固溶量が高くなるため、特に高Mg組成のアルミニウム合金板において、耐力が高くなりすぎて形状凍結性が劣るという問題がある。また、元スラブにおける遷移元素の固溶量が高くなるため、その後の冷間圧延工程において、塑性異方性を支配する集合組織につき、個々の結晶方位の割合を制御することが困難になる。このため、薄スラブ連続鋳造法を採用する場合において、集合組織、特に最終焼鈍板におけるCube方位の体積率等を高めて成形性を向上させるためには、元スラブにおける遷移元素の固溶量を低下させた上で、その後の冷間圧延等の工程を調整し、適切な調質を施す必要がある。
また一方、成形性の評価方法として、従来は引張り試験における伸びの値を採用する場合が多く、この場合は、一軸引張り試験となるため、いわゆる絞り領域における成形性の評価となり、実際のプレス成形における成形性を評価するには不適切であった。アルミニウム合金板のプレス成形における割れは、一般的に、絞り領域と張出し領域の中間領域である平面ひずみ領域において起こり易い。このため、プレス成形における割れなどの不良発生率を低減するためには、アルミニウム合金板のプレス成形において成形限界が最も低いとされる平面ひずみ領域において破断限界を評価する必要がある。
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、冷延焼鈍材におけるCube方位の体積率と平面ひずみ破断限界との関係に着目し、合金組成や製板条件について鋭意検討した結果、プレス成形性および形状凍結性に優れたアルミニウム合金板を得るに至ったものである。
以下、本実施形態に係るアルミニウム合金板について説明する。本実施形態に係るアルミニウム合金板は、Mg及びTiを所定量含有するとともに、不純物としてのFe、Mn及びSiの含有量がそれぞれ所定量未満であり、かつ残部が実質的にAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金板である。
(Mg:4.0〜5.5質量%)
本実施形態に係るアルミニウム合金板において、Mgは、マトリックス中に固溶して固溶体強化を図り、アルミニウム合金板の強度を高めるために含まれる必須元素である。また、Mgは、プレス成形時における加工硬化能を高めるため、材料を均一に塑性変形させ、平面ひずみ領域における破断限界を向上させる元素でもある。
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、アルミニウム合金板のMgの含有量を4.0〜5.5質量%の範囲内に限定する。好ましいMgの含有量は、4.3〜5.2質量%の範囲内にある。より好ましいMgの含有量は、4.5〜5.0質量%の範囲内にある。アルミニウム合金板のMgの含有量が4.0質量%未満であると、アルミニウム合金板の強度および伸びが低下するとともに、平面ひずみ領域における破断限界が低下し、プレス成形性が低下するため、好ましくない。一方、Mgの含有量が5.5質量%を超えると、耐力が高くなりすぎて、プレス成形時の形状凍結性が低下するため、好ましくない。
(Ti:0.005〜0.10質量%)
本実施形態に係るアルミニウム合金板において、Tiは、鋳塊鋳造時に結晶粒微細化剤として作用し、鋳造割れを防止するために含まれる必須元素である。
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、アルミニウム合金板のTiの含有量を0.005〜0.10質量%の範囲内に限定する。好ましいTiの含有量は、0.005〜0.07質量%の範囲内にある。より好ましいTiの含有量は、0.01〜0.05質量%の範囲内にある。アルミニウム合金板のTiの含有量が0.005質量%未満であると、鋳塊鋳造時の微細化効果が不十分なため、鋳造割れを招くおそれがあるため、好ましくない。一方、Tiの含有量が0.10質量%を超えると、鋳塊鋳造時にTiAl等の粗大な金属間化合物が析出して、最終板におけるプレス成形性を低下させるおそれがあるため、好ましくない。
なお、本実施形態に係るアルミニウム合金板において、TiとBとが共存すると、結晶粒の微細化効果がより強くなりやすい。このため、本実施形態に係るアルミニウム合金板はTiに加えBも含むことが好ましい。Ti及びBは、アルミニウム合金板の製造工程において、Al−5%Ti−1%B等のロッドハードナー(結晶粒微細化剤)の添加等により、アルミニウム合金板に含有される。
(Fe、Mn及びSi:各々0.10質量%未満)
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、不純物としてのFe、Mn及びSiの含有量を、それぞれアルミニウム合金板の0.10質量%未満の範囲内に限定する。このようにFe、Mn及びSi等の含有量を規制することにより、後述する薄スラブ連続鋳造法においても、元スラブの状態でこれら遷移元素の固溶量をできるだけ少なくしておくことが可能となる。Fe、Mn及びSiのうち、Mnはマトリックス(母相)中に固溶しやすい元素である。このため、元スラブにおけるMnの含有量が0.10質量%以上であると、アルミニウム合金板の0.2%耐力が高くなりすぎて形状凍結性が低下するおそれがある。また、マトリックス中の固溶MnやAl(Fe・Mn)、AlMn等の微細なMn系析出物は、最終焼鈍時にCube方位結晶の成長を妨げる。このため、Mnの含有量が0.10質量%以上であると、マトリックス中に固溶Mnや微細なMn系析出物が生じることにより、アルミニウム合金板の平面ひずみ領域における破断限界が低下して、プレス成形性が低下するおそれがある。したがって、好ましいMnの含有量は、0.04質量%未満の範囲内にある。より好ましいMnの含有量は、0.02質量%未満の範囲内にある。
また、Feは鋳造時に金属間化合物として晶出しやすい元素である。アルミニウム合金溶湯中に含有されるFeの含有量が0.10質量%以上であると、鋳造時に晶出するAlFe、Al−Fe−Si等の金属間化合物のサイズが大きくなり、アルミニウム合金板のプレス成形時に比較的粗い金属間化合物の周囲にひずみが集中することにより成形性が低下するおそれがある。したがって、アルミニウム合金板のFeの含有量は、0.10質量%未満の範囲内に限定する。
また、Siは鋳造時に金属間化合物として晶出するほか、一部は元スラブにおいてマトリックスに固溶している元素である。アルミニウム合金板のSiの含有量が0.10質量%以上であると、以下の問題が生じることがある。すなわち、鋳造時に晶出するAl−Fe−Si等の金属間化合物のサイズが大きくなり、アルミニウム合金板のプレス成形時に比較的粗い金属間化合物の周囲にひずみが集中することにより成形性が低下するおそれがある。したがって、アルミニウム合金板のSiの含有量は、0.10質量%未満の範囲内に限定する。
(Cu:0.2質量%以下)
本実施形態に係るアルミニウム合金板において、Cuは、強度を高める元素であり、任意の元素である。
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、Cuを0.2質量%以下の範囲で含有していても、本発明の効果を妨げるものではない。アルミニウム合金板の、好ましいCuの含有量は、0.03〜0.2質量%の範囲内にある。より好ましいCuの含有量は、0.03〜0.15質量%の範囲内にある。さらに好ましいCuの含有量は、0.03〜0.1質量%の範囲内にある。アルミニウム合金板のCuの含有量が0.03質量%未満であると、強度を高める効果を十分に発揮することができない。一方、Cuの含有量が0.2質量%を超えると、アルミニウム合金板の耐食性が低下するため、好ましくない。
(不可避的不純物)
不可避的不純物は原料地金、返り材等から不可避的に混入するものである。不可避的不純物としては、例えば、Cr、Zn、Ni、Ga、V、Pb、Bi、Sn、Na、Ca、Srが挙げられる。アルミニウム合金板において許容できる不可避的不純物の含有量は、例えば、Crが0.02質量%未満、Znが0.10質量%未満、Niが0.02質量%未満、Ga及びVが0.05質量%未満である。また、アルミニウム合金板において許容できる不可避的不純物の含有量は、例えば、Pb、Bi、Sn、Na、Ca及びSrが、それぞれ0.02質量%未満、その他の元素が各0.05質量%未満である。本実施形態に係るアルミニウム合金板が、上記量で不可避的不純物を含有していても、本発明の効果を妨げるものではない。
(平均結晶粒径:30μm未満)
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、平均結晶粒径が30μm未満である。平均結晶粒径が30μm未満であれば、プレス成形後の肌荒れを防止することができ、表面外観の優れたプレス成型品を得ることができる。
(Cube方位結晶の体積率に対するS方位結晶の体積率の比率:0.3未満)
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、Cube方位結晶の体積率に対するS方位結晶の体積率の比率(S方位結晶の体積率/Cube方位結晶の体積率)が0.3未満である。Cube方位結晶の体積率に対するS方位結晶の体積率の比率(S方位結晶の体積率/Cube方位結晶の体積率)が0.3未満であると、いわゆる平面ひずみ変形におけるテイラー因子(Taylor Factor)が小さくなるため、プレス成形性に優れたアルミニウム合金板となる。
(Cube方位結晶の体積率:10〜25%)
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、Cube方位結晶の体積率が10〜25%である。Cube方位結晶の体積率が10〜25%であると、いわゆる平面ひずみ変形におけるテイラー因子が小さくなるため、プレス成形性に優れたアルミニウム合金板となる。Cube方位結晶の体積率は、好ましくは12〜25%である。Cube方位結晶の体積率が12〜25%であると、平面ひずみ変形におけるテイラー因子がより小さくなるため、よりプレス成形性に優れたアルミニウム合金板となる。
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、上記の組成、結晶粒の大きさ及び結晶配向性を有するとともに、引張強度、伸び及び平面ひずみ破断限界が大きく、耐力が小さい。なお、耐力が小さいほど、プレス成形時のスプリングバック量が小さくなり、形状凍結性が良好であることを示す。
このため、本実施形態に係る5000系アルミニウム合金板は、高強度性を示し、優れたプレス成形性及び形状凍結性を備えており、自動車用ボディーシート等の用途に好適である。
ここで、アルミニウム合金板の高強度性は、引張り試験を行った時の引張り強度の大きさで評価することができる。また、アルミニウム合金板のプレス成形性は、引張り試験時の平面ひずみ破断限界の数値で評価することができる。さらに、アルミニウム合金板の形状凍結性は、引張り試験時の耐力によって評価することができる。なお、耐力が小さいほど、プレス成形時のスプリングバック量が小さくなり、形状凍結性が良好であることを示す。
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、引張強度、耐力、伸び及び平面ひずみ破断限界等の数値が以下の通りであるため、自動車用ボディーシート等の用途に好適である。
(引張強度:250MPa以上)
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、引張強度が250MPa以上である。引張強度が250MPa以上であると、アルミニウム合金板が、高い強度が要求される自動車用ボディーシート等の用途に好適である。
(耐力:130MPa未満)
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、耐力が130MPa未満である。アルミニウム合金板の引張り試験時の耐力は、形状凍結性の評価の指標となる。耐力が小さいほど、形状凍結性が良好であることを示す。すなわち、本実施形態に係るアルミニウム合金板は、形状凍結性が良好である。耐力が130MPa未満であると、アルミニウム合金板が、形状凍結性が良好であることが要求される自動車用ボディーシート等の用途に好適である。
(伸び:30%以上)
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、伸びが30%以上である。伸びが30%以上であると、アルミニウム合金板が、高い伸びが要求される自動車用ボディーシート等の用途に好適である。
(平面ひずみ破断限界:0.22以上)
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、平面ひずみ破断限界が0.22以上である。平面ひずみ破断限界が0.22以上であると、プレス成形性に優れるため好ましい。なお、本明細書において、平面ひずみ領域における破断限界のことを単に平面ひずみ破断限界と記載する。
本実施形態に係るアルミニウム合金板は、プレス成形性及び形状凍結性に優れる。
上記の本実施形態に係るアルミニウム合金板は、例えば、下記のアルミニウム合金板の製造方法により製造される。
[アルミニウム合金板の製造方法]
本実施形態に係るアルミニウム合金板の製造方法は、第1の製造方法と第2の製造方法とがある。第1の製造方法と第2の製造方法との相違点は、冷間圧延工程の途中に中間焼鈍工程を行うか否かにあり、その他の工程についてはほぼ同じである。具体的には、第1の方法は、中間焼鈍工程を行わずに冷間圧延処理のみを数パス連続して行う方法であり、第2の方法は、数パスの冷間圧延処理の途中で中間焼鈍工程を行う方法である。本明細書において、第1の方法の冷間圧延工程を最終冷間圧延工程という。また、第2の方法において、中間焼鈍工程前の冷間圧延工程を第一次冷間圧延工程といい、中間焼鈍工程後の冷間圧延工程を最終冷間圧延工程という。以下、第1の製造方法について詳細に説明し、第2の製造方法については、説明の一部を省略又は簡略化する。
(第1の製造方法)
第1の製造方法は、スラブ作製工程と、巻き取り工程と、焼鈍析出処理工程と、最終冷間圧延工程と、最終焼鈍工程と、を有する。
<スラブ作製工程>
スラブ作製工程は、特定の組成を有するアルミニウム合金溶湯を、連続的に鋳造して厚み2〜15mmのスラブを得る工程である。スラブ作製工程で用いられるアルミニウム合金溶湯は、本実施形態に係るアルミニウム合金板と同じ組成を有する溶湯である。このため、アルミニウム合金溶湯の組成に付いての説明を省略する。
本工程で用いられるアルミニウム合金溶湯は、例えば、以下のように、原料を溶解炉に投入し、溶解・溶製工程を経て、薄スラブ連続鋳造機を用いて、鋳塊(スラブ)に鋳造する。
溶解・溶製工程は、原料を溶解し特定組成のアルミニウム合金溶湯を溶製する工程である。溶解・溶製工程としては、例えば、溶解炉に原料を投入し、所定の溶解温度に到達したら、フラックスを適宜投入して攪拌を行い、さらに必要に応じてランス等を用いて炉内脱ガスを行った後、鎮静保持して溶湯の表面から滓を分離する工程が用いられる。
この溶解・溶製工程では、アルミニウム合金溶湯を特定の合金成分に調整するため、通常、Mg等の原料を投入するが、必要に応じて再度の投入を行う場合もある。また、溶解・溶製工程では、前記フラックス及び滓がアルミニウム合金溶湯中から湯面に浮上分離するまで、鎮静時間を十分に取ることが極めて重要である。鎮静時間は、通常30分以上、好ましくは45分以上である。
溶解炉で溶製されたアルミニウム合金溶湯は、保持炉に一旦移湯した後に鋳造したり、直接溶解炉から出湯した後に鋳造したりする。
また、溶解・溶製工程では、必要に応じて、アルミニウム合金溶湯をインライン脱ガス装置やフィルターに通してもよい。インライン脱ガス装置としては、例えば、回転ローターからアルミニウム溶湯中に不活性ガスを吹き込み、溶湯中の水素ガスを不活性ガスの泡中に拡散させ除去するものが用いられる。不活性ガスとして窒素ガスを用いる場合は、露点を、例えば−60℃以下に管理する。
溶解・溶製工程を経て得られる鋳塊は、水素ガス含有量を、通常0.20cc/100g以下、好ましくは0.15cc/100g以下にする。鋳塊が含有する水素ガス量が多いと、鋳塊の最終凝固部にポロシティが発生するおそれがある。このため、冷間圧延工程における1パス当たりの圧下率を例えば20%以上に規制することにより、鋳塊が含むポロシティを潰しておくことが好ましい。鋳塊の水素ガス含有量を0.15cc/100g以下とすると、焼鈍析出処理工程におけるフクレを防止することができる。
本工程では、上記のようなアルミニウム合金溶湯を、連続的に鋳造して厚み2〜15mmのスラブを得る。アルミニウム合金溶湯を連続的に鋳造する方法としては、例えば、薄スラブ連続鋳造機を用いる方法が挙げられる。
次に、薄スラブ連続鋳造機及びこれを用いた連続鋳造方法について説明する。薄スラブ連続鋳造機を用いると、アルミニウム合金溶湯から、厚み2〜15mmの薄スラブを連続的に鋳造することが可能になる。本工程で用いられる薄スラブ連続鋳造機としては、例えば、双ベルト鋳造機、双ロール鋳造機が挙げられる。
ここで、双ベルト鋳造機とは、エンドレスベルトを備え上下に対峙する一対の回転ベルト部と、当該一対の回転ベルト部の間に形成されるキャビティーと、前記回転ベルト部の内部に設けられた冷却手段とを備え、耐火物からなるノズルを通して前記キャビティー内に金属溶湯が供給されて連続的に薄スラブを鋳造するものである。
また、双ロール鋳造機とは、エンドレスロールを備え上下に対峙する一対の回転ロール部と、当該一対の回転ロール部の間に形成されるキャビティーと、前記回転ロール部の内部に設けられた冷却手段とを備え、耐火物からなるノズルを通して前記キャビティー内に金属溶湯が供給されて連続的に薄スラブを鋳造するものである。
アルミニウム合金溶湯を、連続的に鋳造して得られるスラブの厚みは、2〜15mmの範囲内に限定する。好ましいスラブ厚みは、3〜12mmの範囲内にある。より好ましいスラブ厚みは、5〜10mmの範囲内にある。スラブの厚みが2mm未満であると、最終冷延率70〜95%に設定した場合に、所定厚みの最終板を得ることが困難となる。一方、スラブの厚みが15mmを超えると、スラブを直接ロールに巻き取ることが困難となる。スラブの厚みが2〜15mmの範囲内にあると、スラブの凝固冷却速度が、スラブ厚さ1/4の付近で40〜1000℃/sec程度となり好ましい。
薄スラブ連続鋳造機を用いて作製されるスラブは、アルミニウム合金溶湯の組成と同様に、不可避的不純物としてのFe、Mn、Siの含有量が、それぞれ0.10質量%未満である。このため、スラブの金属組織は、AlFe、Al−Fe−Si等の金属間化合物が微細に晶出したものになる。このため、薄スラブ連続鋳造機を用いて作製されるスラブに後述の焼鈍析出工程を行うと、元スラブに固溶しているFe、Mn、Si等の遷移元素はAlFe、Al−Fe−Si、Al−(Fe・Mn)−Si等の微細な金属間化合物に拡散吸収されるため、これら遷移元素の固溶量をさらに低減させることができる。
このように、後述する焼鈍析出工程によって、スラブ中の遷移元素の固溶量をさらに低減させることができる。
<巻き取り工程>
巻き取り工程は、前記スラブを、熱間圧延をせずにロールに巻き取る工程である。本工程では、スラブに対して通常行われる熱間圧延をせずにそのままロールに巻き取る。
<焼鈍析出処理工程>
焼鈍析出処理工程は、前記ロールに巻き取ったスラブ(コイル)を、バッチ焼鈍炉を用いて保持温度380〜470℃で1〜15時間保持して、焼鈍析出処理材を作製する工程である。
焼鈍析出処理工程は、第1の製造方法及び後述の第2の製造方法において、マトリックス(母相)中に固溶しているFe、Mn及びSiの固溶量を減少させる重要な工程である。具体的には、焼鈍析出処理工程を行うと、ロールに巻き取ったスラブ中に固溶しているFe、Mn及びSi等の遷移元素を、微細に晶出しているAlFe、Al−Fe−Si、Al−(Fe・Mn)−Si等の金属間化合物に拡散吸収させる。これにより、スラブにおけるFe、Mn及びSi等の遷移元素の固溶量を減少させることができる。
このように、焼鈍析出処理工程によって、スラブ中の遷移元素の固溶量を予め低減させることが可能となるため、最終焼鈍におけるCube方位結晶の成長を促進することが可能になる。このため、このスラブを用いて最終的に得られる最終焼鈍板は、平均結晶粒径が30μm未満、Cube方位結晶の体積率に対するS方位結晶の体積率の比率(S方位結晶の体積率/Cube方位結晶の体積率)が0.3未満、Cube方位結晶の体積率が10〜25%の範囲内になる。なお、本明細書において、最終焼鈍板とは、本実施形態に係るアルミニウム合金板である。
焼鈍析出処理工程で用いられる焼鈍炉としては、例えば、バッチ焼鈍炉を用いることができる。保持温度は、380〜470℃の範囲内に限定する。好ましい保持温度は、400〜450℃の範囲内にある。保持温度が380℃未満であると、遷移元素の固溶量を十分に低減することができない。一方、保持温度が470℃を超えると、コイルの冷却に時間がかかりすぎて、生産性が低下するため、好ましくない。
焼鈍析出処理工程での保持時間は、1〜15時間の範囲内に限定する。好ましい保持時間は、2〜10時間の範囲内にある。保持時間が1時間未満であると、遷移元素の固溶量を十分に低減することができなくなるおそれがある。一方、保持時間が15時間を越えると生産性が低下する。
焼鈍析出処理工程の終了後、前記ロールに巻き取ったスラブ(コイル)は、冷延機に通され、冷間圧延処理が行われる。この冷間圧延処理は、通常、数パスの冷間圧延処理からなる。第1の方法では、中間焼鈍工程を行わずに冷間圧延処理のみを数パス連続して行う最終冷間圧延工程が行われる。
<最終冷間圧延工程>
最終冷間圧延工程は、前記焼鈍析出処理材に最終冷延率70〜95%の冷間圧延を行って最終冷延材を得る工程である。最終冷間圧延工程の後は、最終冷延材に後述の最終焼鈍工程が行われる。
最終冷延材の最終冷延率は、70〜95%の範囲内に限定する。好ましい最終冷延率は、70〜90%の範囲内にある。より好ましい最終冷延率は、70〜85%の範囲内にある。最終冷延率が70〜95%の範囲内にあると、平均結晶粒径が30μm未満の最終焼鈍板を得ることができる。この結果、プレス成形後のアルミニウム合金板の外観肌を綺麗に仕上げることができる。
最終冷延率が70%未満であると、冷間圧延時に蓄積される加工歪量が少なすぎるため、最終焼鈍によって平均結晶粒径30μm未満の再結晶組織を得ることが困難となる。一方、最終冷延率が95%を超えると、冷間圧延時に蓄積される加工歪量が多すぎるため、エッジに耳割れを生じて圧延が困難になる。
<最終焼鈍工程>
最終焼鈍工程は、連続焼鈍炉を用いて、前記最終冷延材に保持温度400〜500℃で10〜60秒保持する連続焼鈍を施して最終焼鈍材を得る工程である。この最終焼鈍材は、本実施形態に係るアルミニウム合金板となる。
保持温度が400℃未満であると、再結晶が遅延してしまい、平均結晶粒径30μm未満の完全再結晶組織を得ることが困難となる。一方、保持温度が500℃を超えると、熱歪が激しくなるとともに、連続焼鈍処理中の板がバーニングを起こすおそれがある。
保持時間が10秒未満であると、板の実体温度が所定の温度に到達せず焼鈍処理が不十分となるおそれがある。一方、保持時間が60秒を超えると、処理に時間がかかりすぎ、生産性が低下する。最終焼鈍工程は、連続焼鈍炉を用いて連続焼鈍することが好ましい。
最終焼鈍工程は、焼鈍炉を用いたバッチ処理の焼鈍、又は連続焼鈍炉を用いた連続焼鈍が行われる。このうち、連続焼鈍炉を用いた連続焼鈍は、焼鈍後に急速に冷却することができるため好ましい。
最終冷延板に最終焼鈍処理を施すことで、平均結晶粒径が30μm未満、Cube方位結晶の体積率に対するS方位結晶の体積率の比率(S方位結晶の体積率/Cube方位結晶の体積率)が0.3未満、Cube方位結晶の体積率が10〜25%である最終焼鈍板を得ることができる。また、最終焼鈍工程により、伸びを高めるための軟化処理も兼ねることができる。
最終焼鈍工程を経て得られたアルミニウム合金板は、焼鈍材であり、成形工程におけるプレス成形性が高い。
(第2の製造方法)
第2の製造方法は、スラブ作製工程と、巻き取り工程と、焼鈍析出処理工程と、第一次冷間圧延工程と、中間焼鈍工程と、最終冷間圧延工程と、最終焼鈍工程と、を有する。
第2の製造方法は、第1の製造方法に比較して、第1の製造方法の最終冷間圧延工程に代えて、第一次冷間圧延工程と、中間焼鈍工程と、最終冷間圧延工程とを行う点で相違する。このため、第2の製造方法の説明は、第1の製造方法の工程と同じ工程についての説明を省略又は簡略化し、第一次冷間圧延工程、中間焼鈍工程、及び最終冷間圧延工程について説明する。
第2の製造方法では、第1の製造方法と同様にスラブ作製工程から焼鈍析出処理工程までが行われた後、下記の第一次冷間圧延工程が行われる。
<第一次冷間圧延工程>
第一次冷間圧延工程は、焼鈍析出処理工程で得られた前記焼鈍析出処理材に冷間圧延を行って第一次冷延材を得る工程である。なお、この第一次冷間圧延工程は、中間焼鈍工程の前に行われる冷間圧延工程であり、中間焼鈍工程の後に行われる後述の冷間圧延工程(最終冷間圧延工程)と区別するため特に第一次冷間圧延工程と称する。第一次冷延材の冷延率は、70〜95%の範囲内に限定する。好ましい第一次冷延材の冷延率は、80〜90%の範囲内である。第一次冷延材の冷延率が70〜95%の範囲内にあると、中間焼鈍時にCube方位結晶の核が生成するため好ましい。
<中間焼鈍工程>
中間焼鈍工程は、前記第一次冷延材に中間焼鈍を行って中間焼鈍材を得る工程である。この中間焼鈍工程は、前述の第一次冷間圧延工程によって圧延集合組織となっている冷延材に比較的低温で保持する部分焼鈍処理を施して、部分的に再結晶させる工程である。前述の第一次冷間圧延工程では、圧延ロールによって冷延材に対してND方向の圧縮応力、RD方向の引張応力が作用し、塑性変形によって多数の転位が導入されるとともに、特に元スラブの結晶粒界に相当する領域近傍に転位が堆積されている。したがって、中間焼鈍工程では、元スラブの結晶粒界に相当する領域近傍から、多数の小さな再結晶粒が成長する。
中間焼鈍は、連続焼鈍炉又はバッチ焼鈍炉を用いて行われる。中間焼鈍の処理条件は、連続焼鈍炉又はバッチ焼鈍炉のいずれかを用いるかにより変わる。
中間焼鈍が連続焼鈍炉を用いる連続焼鈍である場合、中間焼鈍工程は、第一次冷延材を保持温度250〜350℃で10〜60秒間保持する工程とすることが好ましい。好ましい保持温度は、250〜350℃の範囲内にある。より好ましい保持温度は、250〜300℃の範囲内にある。
保持温度が250℃未満であると、部分再結晶が起こらず、金属組織が未再結晶組織となるため、好ましくない。一方、保持温度が350℃を超えると、再結晶が進み過ぎるため、好ましくない。保持時間が10秒未満であると、板の温度が不均一となる虞があるため、好ましくない。保持時間が60秒を超えると、生産性が低下するため、好ましくない。
中間焼鈍がバッチ焼鈍炉を用いるバッチ焼鈍である場合、中間焼鈍工程は、第一次冷延材を保持温度200〜300℃で0.5〜8時間保持する工程とすることが好ましい。好ましい保持温度は、200〜300℃の範囲内にある。より好ましい保持温度は、250〜300℃の範囲内にある。
保持温度が200℃未満であると、部分再結晶が起こらず、金属組織が未再結晶組織となるため、好ましくない。一方、保持温度が300℃を超えると、再結晶が進み過ぎるため、好ましくない。保持時間が0.5時間未満であると、コイルの温度が不均一となる虞があるため、好ましくない。保持時間が8時間を超えると、生産性が低下するため、好ましくない。
以上のような中間焼鈍工程を経ることで、元スラブの結晶粒界に相当する領域近傍から、多数の小さな再結晶粒が成長するが、この部分焼鈍処理によって得られた多数の小さな再結晶粒について、Cube方位結晶が特に優先的に成長しているというわけではない。
<最終冷間圧延工程>
最終冷間圧延工程は、前記中間焼鈍材に最終冷延率10〜30%の冷間圧延を行って最終冷延材を得る工程である。なお、この最終冷間圧延工程は、中間焼鈍工程の後に行われる冷間圧延工程であり、中間焼鈍工程の前に行われる前述の冷間圧延工程(第一次冷間圧延工程)と区別するため特に最終冷間圧延工程と称する。この最終冷間圧延工程は、第2の製造方法における2回目の冷間圧延工程であるから、第二次冷間圧延工程とも称すべき工程である。
最終冷延材の最終冷延率は、10〜30%の範囲内に限定する。好ましい最終冷延率は、10〜25%の範囲内である。より好ましい最終冷延率は、15〜25%の範囲内である。最終冷延率が10〜30%の範囲内にあると、前述の部分焼鈍によって得られた多数の小さな再結晶粒のうちCube方位結晶について、その結晶構造を維持させながら、Cube方位結晶の周囲の領域において歪エネルギーを蓄積することができ、後述する最終焼鈍処理によって、Cube方位結晶の体積率を高めることが可能となる。
最終冷延率が10%未満であると、冷間圧延時に蓄積される加工歪量が少なすぎ、最終焼鈍時にCube方位結晶の核からの結晶成長に必要な駆動力が不足するため、最終焼鈍板におけるCube方位結晶の体積率を高めることが困難になる。一方、最終冷延率が30%を超えると、中間焼鈍によって金属組織に形成されたCube方位結晶の結晶構造が塑性変形によって潰されてしまい、最終焼鈍板におけるCube方位体積率の低下を招く虞があるため、好ましくない。
以上のような最終冷間圧延では、前述の部分焼鈍処理によって得られた多数の小さな再結晶粒のうち、Cube方位結晶であった再結晶粒内では、いわゆる圧延加工におけるテイラー因子が小さく、すべり転位の活動が高まっている。このため、Cube方位結晶であった再結晶粒は、すべり変形が容易に起こり、圧延加工を受けてもその結晶構造を維持することができる。なお、Cube方位結晶の周囲の領域では、前述の部分焼鈍処理によってある程度の回復が起こっているものの、金属組織は再結晶化されていない。このため、Cube方位結晶の周囲の領域では、比較的軽圧下の最終冷間圧延であっても、さらに転位が堆積される。
一方、前述の部分焼鈍処理によって得られた多数の小さな再結晶粒のうち、Cube方位以外の方位結晶であった再結晶粒内では、いわゆる圧延加工におけるテイラー因子が比較的大きく、すべり転位の活動が低下している。このため、Cube方位以外の方位結晶であった再結晶粒は、圧延加工を受けると転位の導入量が増加して、その結晶構造を維持することが難しくなる。
最終冷間圧延工程後は、第1の製造方法と同様に、最終焼鈍工程が行われる。この最終焼鈍処理では、前述の部分焼鈍処理によって得られた多数の小さな再結晶粒のうち、Cube方位結晶であった再結晶粒が核(種結晶)として作用し、その周囲の領域を再結晶化する。前述のように、Cube方位結晶の周囲の領域は、部分焼鈍処理によっても再結晶化されておらず、最終冷間圧延によってさらに転位が堆積している。したがって、この歪エネルギーが再結晶化の駆動力となって、Cube方位結晶の成長が促進される。
一方、前述の部分焼鈍処理によって得られた多数の小さな再結晶粒のうち、Cube方位以外の方位結晶であった再結晶粒内では、最終冷間圧延によってその結晶構造に多数の転位が堆積されている。このため、Cube方位以外の方位結晶であった再結晶粒は、最終焼鈍処理の際に核(種結晶)として作用し難くなる。
以上のように、第2の製造方法によれば、最終焼鈍板におけるCube方位結晶の体積率をさらに高めることが可能となり、平均結晶粒径が30μm未満、Cube方位結晶の体積率に対するS方位結晶の体積率の比率(S方位結晶の体積率/Cube方位結晶の体積率)が0.3未満、Cube方位結晶の体積率が10〜25%である最終焼鈍板を得ることができる。
本実施形態(第1の製造方法及び第2の製造方法)に係るアルミニウム合金板の製造方法によれば、プレス成形性及び形状凍結性に優れるアルミニウム合金板を効率よく製造することができる。
本願発明のアルミニウム合金板は、自動車車体用パネル及び構造用部材等として好適である。例えば、図1に示すフード10、ドア11、フェンダー12、ルーフ13、トランク14等のアウターパネル及びインナーパネルやレインフォース類として好適である。
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(元スラブ材の作製)
表1に示す組成(合金No.1〜No.6)の合金溶湯を溶製し、双ベルト鋳造機によって厚さ10mmの薄スラブを連続鋳造(CC鋳造)し、この薄スラブを直接コイルに巻き取った。次に、この薄スラブから所定の大きさのスラブ材(元スラブ材)を採取した。なお、合金No.4〜No.6の元スラブ材は、成分組成が本発明の規定範囲外である元スラブ材である。以下の実施例、比較例では、これらの元スラブ材を原料として用いた。
[実施例1]
はじめに、合金No.1の元スラブ材をアニーラーに挿入して440℃、10時間の焼鈍析出処理を行った後、中間焼鈍処理を行うことなく、冷間圧延を行って板厚1.0mmの最終冷延材を得た。この場合の最終冷延材の最終冷延率は90%であった。
次に、この最終冷延材を所定の大きさに切断後、連続焼鈍による最終焼鈍処理を模して最終冷延材をソルトバスに挿入し、460℃で15秒間保持した後、ソルトバスから素早く取り出して水冷する最終焼鈍処理を行って、板厚1.0mmの最終焼鈍板を得た。表2に製造条件を示す。以下の実施例及び比較例の製造条件も、表2に示す。
[実施例2]
はじめに、合金No.1の元スラブ材をアニーラーに挿入して440℃、10時間の焼鈍析出処理を行った後、冷間圧延を行って、板厚1.33mmの第一次冷延材を得た。
次に、この第一次冷延材を、ソルトバスに挿入して290℃で15秒間保持した後、ソルトバスから素早く取り出して水冷する中間焼鈍処理を行った後、最終冷延率25%の冷間圧延を行って、板厚1.0mmの最終冷延材を得た。
さらに、この最終冷延材を所定の大きさに切断後、連続焼鈍による最終焼鈍処理を模して最終冷延材をソルトバスに挿入し、460℃で15秒間保持した後、ソルトバスから素早く取り出して水冷する最終焼鈍処理を行って、板厚1.0mmの最終焼鈍板を得た。
[実施例3]
合金No.1の元スラブ材に代えて合金No.2の元スラブ材を用いた以外は実施例2と同様にして、板厚1.0mmの最終焼鈍板を得た。
[実施例4]
はじめに、合金No.2の元スラブ材をアニーラーに挿入して440℃、10時間の焼鈍析出処理を行った後、冷間圧延を行って、板厚1.25mmの第一次冷延材を得た。
次に、この第一次冷延材を、アニーラーに挿入して240℃で1時間保持した後、空冷する中間焼鈍処理を行った後、最終冷延率20%の冷間圧延を行って、板厚1.0mmの最終冷延材を得た。
さらに、この最終冷延材を所定の大きさに切断後、連続焼鈍による最終焼鈍処理を模して最終冷延材をソルトバスに挿入し、460℃で15秒間保持した後、ソルトバスから素早く取り出して水冷する最終焼鈍処理を行って、板厚1.0mmの最終焼鈍板を得た。
[実施例5]
合金No.1の元スラブ材に代えて合金No.3の元スラブ材を用いた以外は実施例2と同様にして、板厚1.0mmの最終焼鈍板を得た。
[実施例6]
合金No.2の元スラブ材に代えて合金No.3の元スラブ材を用いた以外は実施例4と同様にして、板厚1.0mmの最終焼鈍板を得た。
[比較例1]
はじめに、合金No.1の元スラブ材を用い、焼鈍析出処理、中間焼鈍処理を行わないで最終冷延率90%の冷間圧延を行い板厚1.0mmの冷延材を得た。次に、この最終冷延材を所定の大きさに切断後、連続焼鈍による最終焼鈍処理を模して最終冷延材をソルトバスに挿入し、460℃で15秒間保持した後、ソルトバスから素早く取り出して水冷する最終焼鈍処理を行って、板厚1.0mmの最終焼鈍板を得た。
[比較例2]
合金No.1の元スラブ材に代えて合金No.4の元スラブ材を用いた以外は比較例1と同様にして、板厚1.0mmの最終焼鈍板を得た。
[比較例3]
はじめに、合金No.4の元スラブ材を用い、焼鈍析出処理、中間焼鈍処理を行わないで最終冷延率90%の冷間圧延を行い板厚1.0mmの冷延材を得た。
次に、この冷延材を所定の大きさに切断後、バッチ焼鈍による最終焼鈍処理を模して冷延材をアニーラーに挿入し、390℃で1時間保持した後、200℃まで炉冷し、さらに空冷する最終焼鈍処理を行って、板厚1.0mmの最終焼鈍板を得た。
[比較例4]
合金No.1の元スラブ材に代えて合金No.4の元スラブ材を用いた以外は実施例1と同様にして、板厚1.0mmの最終焼鈍板を得た。冷延材の最終冷延率は90%であった。
[比較例5]
合金No.1の元スラブ材に代えて合金No.5の元スラブ材を用いた以外は実施例1と同様にして、板厚1.0mmの最終焼鈍板を得た。冷延材の最終冷延率は90%であった。
[比較例6]
合金No.1の元スラブ材に代えて合金No.6の元スラブ材を用いた以外は比較例1と同様にして、板厚1.0mmの最終焼鈍板を得た。冷延材の最終冷延率は90%であった。
(評価)
上記の実施例及び比較例のアルミニウム合金板について、以下のようにして、引張特性(引張強さ、0.2%耐力、伸び)、平均結晶粒径、結晶方位、平面ひずみ破断限界、肌荒れ性、強度、形状凍結性、及びプレス成形性を評価した。
<引張特性>
得られたアルミニウム合金板について、引張り試験の引張強さ(UTS)、0.2%耐力(YS)及び伸び(El)を測定した。
具体的には、はじめに、アルミニウム合金板から圧延平行方向、垂直方向、及び45°方向の3方向に沿ってそれぞれJIS-5号引張試験片を採取した。
次に、50kNオートグラフを用い、室温にて、引張試験片を、0.2%耐力以下の領域では歪速度:6.7×10−4/secで引っ張り、0.2%耐力を超える領域では歪速度:3.3×10−3/secで引っ張った。そして、このときの引張強さ(UTS)及び0.2%耐力(YS)を測定した。また、伸び(%)は、{(引張強さの測定時に破断した引張試験片をつなぎ合わせた長さL)−(引張強さの測定前の引張試験片の長さL)}/(引張強さの測定前の引張試験片の長さL)×100により算出した。
<平均結晶粒径>
はじめに、得られたアルミニウム合金板から、このアルミニウム合金板の圧延方向に平行な縦断面(LT方向に垂直な縦断面)が観察されるように試片を切り出した。次に、この試片を熱可塑性樹脂に埋め込み、前記縦断面を鏡面研磨した後、ホウフッ化水素酸水溶液中で陽極酸化処理を行い、試片の前記縦断面の再結晶組織が明確に観察できるようにした。再結晶組織の観察の際は、再結晶組織を偏光顕微鏡を用いて写真撮影し(1視野当たりの面積;0.135mm、各試料3視野撮影)、得られた写真から交線法を用いて平均結晶粒径を測定した。
<結晶方位>
結晶方位は、EBSD(Electron Backscatter Diffraction:後方散乱電子回折)法を用いて測定した。
具体的には、はじめに、得られたアルミニウム合金板から圧延方向に平行な縦断面(LT方向に垂直な縦断面)が観察されるように試片を切り出した。次に、この試片の前記縦断面を鏡面研磨した後、研磨によるひずみを除去するために研磨面を電解研磨した。
得られた試験片について、EBSDを用いて結晶方位を測定した。具体的には、走査型電子顕微鏡として日本電子製JSM6490Aを用い、加速電圧15kV、WD3mm、試料の傾斜角65°に設定した。そして、株式会社TSLソリューションズ製OIM型を用い、400μm×800μmの領域を2μmステップで測定するようにした。得られた結果を、解析ソフト(OIM analysis)によって解析し、Cube方位結晶の体積率およびS方位結晶の体積率を求めた。ここで、Cube方位は{100}<100>から15°の範囲内にある方位とした。S方位は{123}<634>から15°の範囲内にある方位とした。
なお、図2は、実施例2のEBSDによる結晶方位測定結果の一例を示す図である。また、図3は、比較例1のEBSDによる結晶方位測定結果の一例を示す図である。図2及び3において、符号20はCube方位結晶を示す。
<平面ひずみ破断限界>
はじめに、平面ひずみ破断限界測定用の試験片として、得られたアルミニウム合金板から図4に示す試験片40を切り出した。なお、図4は試験片40の平面図であり、試験片40の厚さ方向は図4の紙面に垂直な方向になる。また、試験片40はアルミニウム合金板からの切り出し方を変えて3種類作製した。具体的には、引張方向(長手方向。図4中200mmの長さの方向)が、圧延方向に対して平行な方向、45°方向、及び90°方向、の3方向になるようにそれぞれアルミニウム合金板から切り出して試験片を作製した。そして、これらの試験片それぞれの中央部に、スクライブドサークルテストのためのφ10mmの円形パターンを描いた。
次に、これら3種類の試験片を用い、ひずみ速度10−3/secに設定して引張試験を行った。引張試験後、試験片の中央部でかつ破断部近傍から20mm程度の範囲内の複数個の測定地点での引張方向のひずみ(最大ひずみ)及び幅方向ひずみを、スクライブドサークルから読み取った。
引張方向に延びたスクライブドサークルの長径を変形後径dとした。そして、これらの複数個の測定地点の変形後径dと、変形前径d(10mm)とを、下記式(1)に適用することにより、複数個の測定地点の真ひずみeを算出した。
e = Ln(d/d) (1)
(e :真ひずみ、d :変形後径、d :変形前径)
一方、ポイントマイクロメータを用い、試験片の破断部近傍から約1mmおきに板厚ひずみを測定した。そして、板厚ひずみの測定値に基づいて作成されたひずみ分布から試験片の一様伸びの領域を特定した。そして、一様伸びの領域内にある複数個の測定地点の最大ひずみ値のうち、最も大きな最大ひずみ値を、平面ひずみ破断限界eとした。
この平面ひずみ破断限界eの測定は、3種類の各試験片につき各3回(n=3)ずつ行った。
具体的には、引張方向(長手方向)が圧延方向に対して平行な方向になる試験片を用いて平面ひずみ破断限界eを3回測定し、その平均値を平面ひずみ破断限界(圧延方向)eとした。また、引張方向(長手方向)が圧延方向に対して45°方向になる試験片を用いて平面ひずみ破断限界eを3回測定し、その平均値を平面ひずみ破断限界(圧延方向45°)eとした。さらに、引張方向(長手方向)が圧延方向に対して90°方向になる試験片を用いて平面ひずみ破断限界eを3回測定し、その平均値を平面ひずみ破断限界(圧延方向90°)eLTとした。
そして、平面ひずみ破断限界(圧延方向)e、平面ひずみ破断限界(圧延方向45°)e、及び平面ひずみ破断限界(圧延方向90°)eLTを下記式(2)に適用して、平面ひずみ破断限界(平均値)eaveを算出した。
ave.=(e+eLT+2e)/4 (2)
(eave.:平面ひずみ破断限界(平均値)、e:平面ひずみ破断限界(圧延方向)、eLT:平面ひずみ破断限界(圧延方向90°):平面ひずみ破断限界(圧延方向45°))
<肌荒れ性>
平面ひずみ破断限界を測定した試験片について、割れ部分に最も近くかつ割れ部分に接していないスクライブドサークルについて、オレンジピール(ゆず肌)の有無を目視確認する目視評価を行った。ここで、オレンジピールとは、Al−Mg合金等の金属について、引張試験や張出し成形すると試験片の表面に生じる、小さな凹凸を有する表面模様のことである。Al−Mg合金では、一般的に、Mg濃度が高いほどオレンジピールが生じやすい。オレンジピールが観察されなかったものを肌荒れ性が良好(○)、オレンジピールが観察されたものを肌荒れ性が不良(×)と評価した。
<強度>
試験片を用いて引張り強度を測定した。引張り強度が250MPa以上のものを強度が良好(○)と評価し、引張り強度が250MPa未満のものを強度が不良(×)と評価した。
<形状凍結性>
試験片を用いて0.2%耐力を測定した。0.2%耐力が130MPa未満のものを形状凍結性が良好(○)と評価し、0.2%耐力が130MPa以上のものを形状凍結性が不良(×)と評価した。
<プレス成形性>
平面ひずみ破断限界の平均値eaveからプレス成形性を評価した。平面ひずみ破断限界の平均値eaveが0.22以上のものをプレス成形性が良好(○)と評価し、平面ひずみ破断限界の平均値eaveが0.22未満のものをプレス成形性が不良(×)と評価した。
<総合評価>
肌荒れ性、強度、形状凍結性、及びプレス成形性の全項目で良好(○)と評価されたものを、総合評価が良好(○)と評価した。肌荒れ性、強度、形状凍結性、及びプレス成形性のうち1個以上に不良(×)と評価されたものを、総合評価が不良(×)と評価した。
表3に、引張特性(引張強さ、0.2%耐力、伸び)、平均結晶粒径、結晶方位、平面ひずみ破断限界、肌荒れ性、強度、形状凍結性、及びプレス成形性の結果を示す。
実施例1〜6は、合金組成が本願発明の範囲内であり、且つ製造条件が本願発明の範囲内である。実施例1〜6は、肌荒れ性、強度、形状凍結性、及びプレス成形性の全ての評価項目において良好(○)であり、総合評価が良好(○)であった。
なお、比較例1は、合金組成は本願発明の範囲内であったが、焼鈍析出処理を施さなかったため、プレス成形性の評価が不良(×)であった。
また、比較例2は、合金組成においてMg含有量が低く、Fe、Mn含有量が高すぎたことに加え、焼鈍析出処理を施さなかったため、形状凍結性、プレス成形性の評価が不良(×)であった。
さらに、比較例3は、合金組成においてMg含有量が低く、Fe、Mn含有量が高すぎたこと、焼鈍析出処理を施さなかったことに加え、最終焼鈍処理をアニーラー内でのバッチ焼鈍により行ったため、形状凍結性、プレス成形性の評価が不良(×)であった。
また、比較例4は、合金組成においてMg含有量が低く、Fe、Mn含有量が高すぎたため、焼鈍析出処理を施したものの、形状凍結性、プレス成形性の評価が不良(×)であった。
さらに、比較例5は、合金組成においてFe含有量が高すぎたため、焼鈍析出処理を施したものの、プレス成形性の評価が不良(×)であった。
また、比較例6は、合金組成においてFe、Mn含有量が高すぎたことに加え、焼鈍析出処理を施さなかったため、形状凍結性、プレス成形性の評価が不良(×)であった。
以上の結果から、本願発明の成分組成の範囲内であれば、平均結晶粒径30μm未満にして、Cube方位結晶の体積率に対するS方位結晶の体積率の比率(S方位結晶の体積率/Cube方位結晶の体積率)が0.3未満、Cube方位結晶の体積率が10〜25%の範囲内である再結晶組織を有することにより、引張強度250MPa以上、耐力130MPa未満、伸び30%以上、歪速度10−3/secにおける平面ひずみ破断限界が0.22以上である、という特性を発現できることがわかる。
特願2014−133554号(出願日:2014年6月30日)の全内容は、ここに援用される。
以上、本発明を実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
本発明に係るアルミニウム合金板は、自動車用ボディーシート等に使用することができる。本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法は、自動車用ボディーシート等の製造に用いることができる。
20 Cube方位結晶
40 試験片

Claims (8)

  1. Mgを4.0〜5.5質量%、Tiを0.005〜0.10質量%含有するとともに、不純物としてのFe、Mn及びSiの含有量がそれぞれ0.10質量%未満であり、かつ残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、
    平均結晶粒径が30μm未満、Cube方位結晶の体積率に対するS方位結晶の体積率の比率(S方位結晶の体積率/Cube方位結晶の体積率)が0.3未満、Cube方位結晶の体積率が10〜25%であり、
    引張強度が250MPa以上、耐力が130MPa未満、伸びが30%以上、平面ひずみ破断限界が0.22以上であることを特徴とするアルミニウム合金板。
  2. Cuを0.03〜0.2質量%さらに含有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金板。
  3. 請求項1に記載されたアルミニウム合金板を製造する製造方法であって、
    Mgを4.0〜5.5質量%、Tiを0.005〜0.10質量%含有するとともに、不純物としてのFe、Mn及びSiの含有量がそれぞれ0.10質量%未満であり、かつ残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯を、連続的に鋳造して厚さ2〜15mmのスラブを得るスラブ作製工程と、
    前記スラブを、熱間圧延をせずにロールに巻き取る巻き取り工程と、
    前記ロールに巻き取ったスラブを、保持温度380〜470℃で1〜15時間保持して、焼鈍析出処理材を作製する焼鈍析出処理工程と、
    前記焼鈍析出処理材に最終冷延率70〜95%の冷間圧延を行って最終冷延材を得る最終冷間圧延工程と、
    前記最終冷延材を、保持温度400〜500℃で10〜60秒保持する最終焼鈍を行って最終焼鈍材を得る最終焼鈍工程と、
    を有することを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
  4. 前記アルミニウム合金溶湯が、Cuを0.03〜0.2質量%さらに含有することを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム合金板の製造方法。
  5. 請求項1に記載されたアルミニウム合金板を製造する製造方法であって、
    Mgを4.0〜5.5質量%、Tiを0.005〜0.10質量%含有するとともに、不純物としてのFe、Mn及びSiの含有量がそれぞれ0.10質量%未満であり、かつ残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯を、連続的に鋳造して厚さ2〜15mmのスラブを得るスラブ作製工程と、
    前記スラブを、熱間圧延をせずにロールに巻き取る巻き取り工程と、
    前記ロールに巻き取ったスラブを、保持温度380〜470℃で1〜15時間保持して、焼鈍析出処理材を得る焼鈍析出処理工程と、
    前記焼鈍析出処理材に冷間圧延を行って第一次冷延材を得る第一次冷間圧延工程と、
    前記第一次冷延材に中間焼鈍を行って中間焼鈍材を得る中間焼鈍工程と、
    前記中間焼鈍材に最終冷延率10〜30%の冷間圧延を行って最終冷延材を得る最終冷間圧延工程と、
    前記最終冷延材を、保持温度400〜500℃で10〜60秒保持する最終焼鈍を行って最終焼鈍材を得る最終焼鈍工程と、
    を有することを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
  6. 前記アルミニウム合金溶湯が、Cuを0.03〜0.2質量%さらに含有することを特徴とする請求項5に記載のアルミニウム合金板の製造方法。
  7. 前記中間焼鈍工程は、連続焼鈍炉を用いて保持温度250〜350℃で10〜60秒間保持することを特徴とする請求項5又は6に記載のアルミニウム合金板の製造方法。
  8. 前記中間焼鈍工程は、バッチ炉を用いて保持温度200〜300℃で0.5〜8時間保持することを特徴とする請求項5又は6に記載のアルミニウム合金板の製造方法。
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