JP6288780B2 - τタンパク質リン酸化抑制剤 - Google Patents

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Description

本発明は、8−[2−(2−ペンチル−シクロプロピルメチル)−シクロプロピル]−オクタン酸(DCP−LA)の新規用途、より詳細にはDCP−LAのプロテインチロシンホスファターゼ1B阻害剤、Akt活性化剤、GSK−3βリン酸化促進剤及びτタンパク質リン酸化抑制剤としての用途に関する。
近年、認知症が世界的に医療上の大きな問題となっている。認知症は、学習・記憶障害及び判断力の低下を中心にした多種の症状を伴う疾患であるが、その原因となる病気によって症状及びその経過は異なる。しかし、いずれの場合も、患者の生活の質を著しく損なうという点で共通している。また、患者の家族をはじめとする介護者にも多大な労苦を強いるという事実を考えたとき、認知症は社会的にたいへん重大な問題であるといえる。寿命の長期化による高齢者人口の増加が、認知症患者の増加と関係しているため、日本では今後更に認知症患者が増加すると予測されている。また、認知症には分類されない老化に伴う認知障害を患う人も多い。
認知症を改善し得る化合物が種々報告されている。リノール酸誘導体である8−[2−(2−ペンチル−シクロプロピルメチル)−シクロプロピル]−オクタン酸(DCP−LA)は、体内での代謝の遅延を可能とし、且つシナプス伝達の安定なLTP(long-term potentiation)様増強を持続できる、シナプス伝達効率の長期増強作用を有する化合物である(特許文献1)。LTPは、例えばアルツハイマー病などの種々の神経及び精神疾患の改善に関与すると考えられている。従って、LTP発現を誘導する物質は、認知症を含むこれらの神経及び精神疾患の治療薬又は予防薬となる可能性を有する。
DCP−LAについてはまた、幾つかの報告がなされている。例えば、DCP−LAが選択的かつ直接的にPKC−εを活性化すること(非特許文献1)、DCP−LAが老化促進マウスの認知機能障害を改善すること(非特許文献2)、DCP−LAが海馬神経細胞からのγアミノ酪酸の放出を増加させること(非特許文献3)、DCP−LAがアミロイドβペプチドあるいはスコポラミン処理ラットの認知機能障害を改善すること(非特許文献4)、DCP−LAがグルタミン酸作動性シナプス前細胞に発現するα7ニコチン性アセチルコリン受容体を標的として海馬シナプス伝達を促進させること(非特許文献5)が報告されている。さらに、近年DCP−LAに酸化ストレスによって誘導される神経細胞死を抑制する作用があることが報告されている(特許文献2)。
しかしながら、DCP−LAのシナプス伝達促進作用の詳細なメカニズムは未だ解明されていない。該メカニズムを解明し、DCP−LAの作用点を明らかにすることは、アルツハイマー病をはじめとした種々の神経変性疾患に対する、既存の薬物とは異なる作用機序を有する予防・治療薬の開発に繋がる。
国際公開第02/50013号パンフレット 特開2008−143819号公報
Kanno Tら,J Lipid Res., 2006, 47(6):1146-56. Yaguchi Tら,Neuroreport, 2006, 23;17(1):105-8. Kanno Tら,J Neurochem., 2005, 95(3):695-702. Nagata Tら, Psychogeriatrics, 2005, 5:122-126. Yamamotoら, Neuroscience 2005, 130(1):207-213.
本発明は、DCP−LAが有する薬理作用、生体に及ぼす影響を解明し、新規用途を提供することを目的とする。
本発明者らは、より効果的に認知機能を改善し得る薬剤を得ることを目的として鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、DCP−LAにLTP様増強作用以外にも種々の認知機能の改善に有用な薬理作用が存することを見出して本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の通りである。
[1]DCP−LAを有効成分として含有する、プロテインチロシンホスファターゼ1B(PTP1B)阻害剤。
[2]DCP−LAを有効成分として含有する、Akt活性化剤。
[3]DCP−LAを有効成分として含有する、GSK−3βリン酸化促進剤。
[4]DCP−LAを有効成分として含有する、τタンパク質リン酸化抑制剤。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の剤を含むアルツハイマー型認知症治療薬。
[6]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の剤を含む抗うつ薬。
[7]上記[1]〜[4]のいずれかに記載の剤を含む抗老化薬。
[8]研究用試薬である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の剤。
[9]DCP−LAで細胞を処理することを特徴とする、PTP1Bを阻害する方法。
[10]DCP−LAで細胞を処理することを特徴とする、Aktを活性化する方法。
[11]DCP−LAで細胞を処理することを特徴とする、GSK−3βリン酸化を活性化する方法。
[12]DCP−LAで細胞を処理することを特徴とする、τタンパク質リン酸化を抑制する方法。
[13]DCP−LAの有効量を、それを必要とする患者に投与することによりPTP1Bを阻害してアルツハイマー型認知症あるいはうつ病を予防又は治療する方法。
[14]DCP−LAの有効量を、それを必要とする患者に投与することによりAkt活性を活性化してアルツハイマー型認知症あるいはうつ病を予防又は治療する方法。
[15]DCP−LAの有効量を、それを必要とする患者に投与することによりGSK−3βリン酸化を活性化してアルツハイマー型認知症あるいはうつ病を予防又は治療する方法。
[16]DCP−LAの有効量を、それを必要とする患者に投与することによりτタンパク質リン酸化を抑制してアルツハイマー型認知症あるいはうつ病を予防又は治療する方法。
DCP−LAは認知機能の改善に優れた薬理作用(プロテインチロシンホスファターゼ1B(PTP1B)阻害作用、Akt活性化作用、GSK−3βリン酸化促進作用及びτタンパク質リン酸化抑制作用)を有し、それらの作用に基づいた各種試薬、並びにアルツハイマー型認知症治療薬、抗うつ薬及び抗老化薬としても有用である。本発明の剤は、既存の薬物とは異なる作用機序を有するので、既存の薬物において問題となっていたような副作用を回避することができる。また、本発明の剤は、そのような予防・治療薬の開発に有用なツールとなり得る研究用試薬として用いることができる。
図1は、DCP−LAがプロテインチロシンホスファターゼ(PTP1B)阻害を誘導することを示したグラフである。PTP1Bを、無細胞条件下、p−NPPとNaVO(1〜10μM)存在下及び非存在下で反応させ、脱リン酸化されたp−NPPを定量した。グラフ中、各カラムは、基準となるホスファターゼ活性(コントロール)に対するパーセンテージの平均値(±SD)を表している(各実験においてn=4)。***P<0.0001、Dunnett’s test. 図2は、DCP−LAがPTP1Bを阻害することにより、間接的にチロシンキナーゼを活性化し、Aktを活性化する、あるいはDCP−LAがPKCεを活性化し、活性化されたPKCεが直接的にAktをリン酸化して活性化することによりGSK−3βをリン酸化して不活性化し、τタンパク質のリン酸化を抑制する経路を示している。また、DCP−LAはPKCεを活性化し、活性化されたPKCεがGSK−3βをリン酸化して不活性化し、τタンパク質のリン酸化を抑制する経路を示している。 図3は、DCP−LAがAktの活性化を誘導することを示すグラフである。ラットの海馬切片をDCP−LA(100nM)で処理しないか、あるいは3分間処理して、その後phospho-threonine 308 AKT(P-T308)、phospho-serine 473 Akt(P-S473)及びAktに対する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行なった。P-T308又はP-S473のシグナル強度はAktのシグナル強度によって標準化した。グラフ中、各カラムは、全Aktに対するリン酸化Aktの割合の平均値(±SEM)を表している(各実験においてn=4)。P値、unpaired t-test. 図4は、DCP−LAがGSK−3βのリン酸化を促進することを示すグラフである。ラットの海馬切片をDCP−LA(100nM)で処理しないか、あるいは3分間処理して、その後phospho-serine 9 GSK-3β(P-Ser9-GSK-3β)及びGSK-3βに対する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行なった。P-Ser9-GSK-3βのシグナル強度はGSK-3βのシグナル強度によって標準化した。グラフ中、各カラムは、全GSK−3βに対するSer9リン酸化されたGSK−3βの割合の平均値(±SEM)を表している(各実験においてn=4)。P値、unpaired t-test. 図5は、DCP−LAがアミロイドβ1-42(Aβ1-42)で誘導されるτタンパク質のリン酸化を抑制することを示すグラフである。ラットの海馬切片をDCP−LA(100nM)の存在下、あるいは非存在下でAβ1-42(1μM)で3時間処理して、その後phospho serine 202/threonine 205 τタンパク質(P-Ser202/Thr205-Tau)及びτタンパク質に対する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行なった。P-Ser202/Thr205-Tauのシグナル強度は全τタンパク質のシグナル強度によって標準化した。グラフ中、各カラムは、全τタンパク質に対するSer202/Thr205リン酸化τタンパク質の割合の平均値(±SEM)を表している(各実験においてn=4)。P値、Dunnett’s test. 図6は、DCP−LAが5XFADマウスにおける空間学習及び記憶障害を改善することを示すグラフである。マウスにDCP−LA(1mg/kg)、ガランタミン(Galant)(2.5mg/kg)あるいはPEG30を水迷路試験を実施する30分前に投与した。水迷路試験は毎日行い、各薬物の投与も毎日行なった。(A,C) 各ポイントは連続した2日間での習得潜時の平均値(±SEM)を表している(各実験においてn=11〜12)。***P<0.0001, Fisher’s PLSD(制約付最小有意差検定) NS, not significant.(B,D)各カラムは滞納潜時の平均値を表している(各実験においてn=11〜12)。P値、Dunnett’s test. NS, not significant. 図7は、DCP−LAによって活性化されたPKCεが、GSK−3βをリン酸化することを示すグラフである。GSK−3βを、無細胞条件下、DCP−LA存在下あるいは非存在下、GF109203X(グラフ中GF)(100nM)添加あるいは非添加で、PKCε(1μg/ml)と反応させた。その後セリン9リン酸化 GSK-3β(P-Ser9-GSK-3β)及びGSK-3βに対する抗体を用いてウエスタンブロッティングを行なった。P-Ser9-GSK-3βのシグナル強度はGSK-3βのシグナル強度によって標準化した。グラフ中、各カラムは、非リン酸化GSK−3βシグナル強度に対するセリン9リン酸化GSK−3βシグナル強度の割合の平均値(±SEM)を表している(各実験においてn=4)。P値、Dunnett’s test.
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において有効成分として用いられる8−[2−(2−ペンチル−シクロプロピルメチル)−シクロプロピル]−オクタン酸(本明細書中、必要に応じてDCP−LAと省略)は、以下の構造式を有する。
DCP−LAは、例えば、WO02/50013で示される方法によって製造することができる。また、DCP−LAには4つの光学異性体が存在する(α,α−DCP−LA、α,β−DCP−LA、β,α−DCP−LA、β,β−DCP−LA)が、このような異性体及びそれらの混合物の全てが本発明の範囲に含まれる。これらの異性体は、例えば、WO2012/067111で示される方法によって製造することができる。
本発明においてDCP−LAはまた、その塩として用いられてもよい。かかる塩は、特に限定されないが、医薬又は食品として許容され得る塩が好ましく、例えば無機塩基(例、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属;アルミニウム、アンモニウム)、有機塩基(例、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジベンジルエチレンジアミン)、無機酸(例、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸)、有機酸(例、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸)、塩基性アミノ酸(例、アルギニン、リジン、オルニチン)又は酸性アミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)との塩などが挙げられる。
本明細書中で用いられる場合、被験体は哺乳動物であり得る。このような哺乳動物としては、例えば、霊長類(例、ヒト、サル、チンパンジー)、げっ歯類(例、マウス、ラット、モルモット)、ペット(例、イヌ、ネコ、ウサギ)、使役動物又は家畜(例、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ)が挙げられるが、ヒトが好ましい。
本明細書中で用いられる場合、DCP−LAで処理する対象となる細胞は、上記哺乳動物由来の細胞であり、好ましくは、脳神経細胞、PC−12細胞株(副腎髄質由来の褐色細胞腫)等の神経細胞モデル細胞株である。ここで「処理」とは、上記細胞とDCP−LAとを必要十分な時間接触させることであり、その時間は所望される効果や用いる細胞の種類によっても異なるが、通常1分〜5時間、好ましくは3〜30分程度である。簡便には、DCP−LAを含有する培養液中で培養することによって実施される。
DCP−LAは、実施例にてデータで示されるように、(1)プロテインチロシンホスファターゼ1B(PTP1B)阻害作用、(2)Akt活性化作用、(3)GSK−3βリン酸化を促進する作用、及び(4)アミロイドβペプチド1−42(Aβ1−42)誘導τタンパク質リン酸化抑制作用を有する。これらの優れた薬理作用により、本発明により認知障害を伴う疾患の予防又は治療用として有用であり、医薬品(以下、本発明の医薬とも称する)として提供され得る。さらにGSK−3βをリン酸化する、即ち不活化することでうつ病が改善するとの報告(Mol Psychiatry 2011;16:1068-1070、PNAS 2008;105:1333-1338)がある。従ってGSK−3βのリン酸化をもたらすDCP−LAは抗うつ薬としても有用である。
認知障害を伴う疾患又は状態としては、具体的には、認知症(例、老人性認知症、アルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)、脳血管性認知症、外傷後認知症、脳腫瘍により生じる認知症、慢性硬膜下血腫により生じる認知症、正常圧脳水腫により生じる認知症、髄膜炎後認知症及びパーキンソン型認知症などの種々の疾患により生じる認知症)、非認知症性の認知障害(例、軽度認知障害(MCI))、学習又は記憶障害(例、脳発達障害に伴う学習及び記憶障害)などを含む様々の疾患又は状態が挙げられる。本明細書中で用いられる場合、「予防」とは、認知障害、学習・記憶障害等を示さない被験体において、該症状が顕在化するのを防ぐことを意味し、「治療」とは、認知障害、学習・記憶障害等を示す被験体において、該症状を軽減すること、あるいは該症状の悪化を防ぐこと又は遅延させることを意味する。「改善」とは、認知障害、学習・記憶障害等を示さない被験体においては、認知能力や学習・記憶能力の向上を意味し、認知障害、学習・記憶障害等を示す被験体においては、該症状を緩和、好ましくは日常生活に差し支えない程度にまで症状を緩和することを意味する。
好ましい適用疾患としてはアルツハイマー病が挙げられる。また、上記特性により抗老化薬としての効果も期待できる。
本発明において明らかになったDCP−LAの薬理作用としては以下のものが挙げられる。
(1)PTP1B阻害作用
プロテインチロシンホスファターゼ(PTP)1Bは細胞質型のチロシンホスファターゼであり、チロシンキナーゼのリン酸化状態をコントロールすることによって、チロシンキナーゼの調整に関与している。近年、神経活動におけるタンパク質リン酸化の関与が注目されるに伴い、PTP1B阻害の神経変性疾患への適用が期待されている。
PTP1B阻害剤の医薬用途への可能性を示す報告としては例えば以下のものが挙げられる。
1. He R et al. Small molecule tools for functional interrogation of protein tyrosine phosphatases. FEBS J 2013;280:731-750.
2. Popov D. Endoplasmic reticulum stress and the on site function of resident PTP1B. Biochem Biophys Res Commun 2012;422:535-538.
3. Mody N et al. Susceptibility to diet-induced obesity and glucose intolerance in the APP (SWE)/PSEN1 (A246E) mouse model of Alzheimer's disease is associated with increased brain levels of protein tyrosine phosphatase 1B (PTP1B) and retinol-binding protein 4 (RBP4), and basal phosphorylation of S6 ribosomal protein. Diabetologia 2011;54:2143-2151.
(2)Akt活性化作用
Akt(プロテインキナーゼBとも称される)セリンスレオニンリン酸化酵素の1種であり、その活性化にはスレオニン308基(Thr308)、セリン473基(Ser473)の2つのアミノ酸のリン酸化が必須であると考えられている。Aktは、細胞内タンパク質のセリン又はスレオニン残基を特異的にリン酸化する機能を有しており、抗老化因子として知られている。
Akt活性剤の医薬用途への可能性を示す報告としては例えば以下のものが挙げられる。
1. O'Neill C et al. Insulin and IGF-1 signalling: longevity, protein homoeostasis and Alzheimer's disease. Biochem Soc Trans 2012;40:721-727.
2. Wu M et al.Important roles of Akt/PKB signaling in the aging process. Front Biosci (Schol Ed) 2010;2:1169-1188.
3. Camins A et al.Potential mechanisms involved in the prevention of neurodegenerative diseases by lithium. CNS Neurosci Ther 2009;15:333-344.
(3)GSK−3βリン酸化促進作用
(4)Aβ1−42誘導τタンパク質リン酸化抑制作用
グリコーゲン合成酵素キナーゼ−3β(GSK−3β)は、τ(Tau)タンパク質にリン酸基を付加する酵素として知られている。リン酸化されたτタンパク質は重合し、神経原繊維(neurofibrillary tangle)としてアルツハイマー病患者の脳内に蓄積していることが知られている。この神経原線維変化は,アルツハイマー病だけではなく進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症、家族性前頭側頭痴呆、ボクサー脳症等の変性疾患でも観察される。神経原線維変化が観察される部位では、神経細胞脱落が同時に起きており、アルツハイマー病等の特徴である認知障害に深く関与しているとみられている。神経原線維変化は加齢に伴って、早いヒトでは20歳代で出現し、80歳までにはほとんどのヒトに神経原線維変化が出現している。また、βアミロイド沈着は神経原線維変化形成を促進、拡大することが知られている。
GSK−3βリン酸化促進剤やτタンパク質リン酸化抑制作剤の医薬用途への可能性を示す報告としては例えば以下のものが挙げられる。
1. Braak H and Braak E. Staging of Alzheimer’s disease related neurofibrillary changes. Neurobiol Aging 1995;16:271-278.
2. Braak H and Braak E. Development of Alzheimer-related neurofibrillary changes in the neocortex inversely recapitulates cortical myelogenesis. Acta Neuropathol 1996;92:197-201.
3. Braak H and Braak E. Frequency of stages of Alzheimer related lesions in different age categories. Neurobiol Aging 1997;18:351-357.
4. Beurel E, Song L, Jope RS. Inhibition of glycogen synthase kinase-3 is necessary for the rapid antidepressant effect of ketamine in mice. Mol Psychiatry 2011;16:1068-1070.
5. Beaulieu JM, Zhang X, Rodriguiz RM, Sotnikova TD, Cools MJ, Wetsel WC, Gainetdinov RR, Caron MG. Role of GSK3 beta in behavioral abnormalities induced by serotonin deficiency. PNAS 2008;105:1333-1338.
本発明の医薬は、治療する各個別の患者の年齢及び状態に応じて変動するが、静脈内投与の場合には、DCP−LAの1日用量としてヒト又は動物の体重1kg当たり0.001〜100mg、筋肉内投与の場合には、該化合物の1日用量としてヒト又は動物の体重1kg当たり0.001〜10mg、経口投与の場合には、該化合物の1日用量としてヒト又は動物の体重1kg当たり0.01〜100mgが、上記疾患の予防及び/又は治療のために一般的に与えられる。
本発明の医薬は、有効成分であるDCP−LA以外に、任意の添加物、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されない。
一つの実施態様において、本発明の医薬は経口投与に好適な製剤として処方され得る。経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、顆粒剤、散剤又は錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
別の実施態様において、本発明の医薬は非経口的な投与に好適な製剤として処方され得る。非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
DCP−LAは、食品として提供することができる。有効成分であるDCP−LAは、上述の通り、哺乳動物(例、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)に対して(1)プロテインチロシンホスファターゼ1B(PTP1B)阻害作用、(2)Akt活性化作用、(3)GSK−3βリン酸化促進作用、及び(4)アミロイドβペプチド1−42(Aβ1−42)誘導τタンパク質リン酸化抑制作用を有し、アルツハイマー型認知症の予防・治療に、うつ病の予防・治療に効果的な機能性食品として提供することができる。また、抗老化効果を期待した機能性食品として提供することができる。
本発明において「食品」とは、医薬品及び医薬部外品以外の全ての飲食物を意味する。例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、及びいわゆるサプリメントを含むが、これらに限定されない。
本発明の医薬は、該医薬の単位摂取量又はその分割量が個別に包装又は充填されたもの、あるいは多数の単位摂取量又はその分割量が包括的に包装又は充填されたものであり得る。
本発明の医薬が、単一の製剤として提供される場合には、該医薬の単位摂取量又はその分割量は、本発明のリン脂質化合物全体の単位摂取量又はその分割量である。
単位摂取量又はその分割量が個別に包装又は充填された医薬品あるいは食品としては、例えば、単位摂取量又はその分割量を、通常の包装物(例えば、PTP(press through packing)シート、紙容器、フィルム(例、プラスチックフィルム)容器、ガラス容器、プラスチック容器)中に別々に包装又は充填したものが挙げられる。このように個別に包装又は充填された医薬品あるいは食品は、さらに組み合わされて、1つの容器(例えば、紙容器、フィルム(例、プラスチックフィルム)容器、ガラス容器、プラスチック容器)中に一緒に包装又は充填されていてもよい。多数の単位摂取量又はその分割量が包括的に包装又は充填された医薬品あるいは食品としては、例えば、多数の錠剤又はカプセル剤が区分されることなく1つの容器(例えば、紙容器、フィルム(例、プラスチックフィルム)容器、ガラス容器、プラスチック容器)中に包装又は充填されたものが挙げられる。本発明の医薬品あるいは食品はまた、単位摂取量又はその分割量を、長期間の摂取に十分な数で含み得るが、例えば食品の場合であれば3日以上、好ましくは7日、10日、14日又は21日以上あるいは1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月以上の摂取に十分な数で含み得る。
本発明の医薬には、必須の有効成分であるDCP−LAに加え、他の、神経変性疾患を予防又は治療し得る1種類以上の化合物を含めてもよい。
他の神経変性疾患を予防又は治療する化合物の例として、ポリフェノール、コエンザイムQ10、β−シトステロール、イソフラボン、メビニン酸、ビタミンC、ビタミンE、フラボノイド類、テルペン類、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、セスキルペンラクトン、ウロキナーゼ、ナットウキナーゼ、ジリノレオイルホスファチジルエタノールアミン、硫化プロピル、リンゴペクチン、酢酸、EPA、及びDHAが挙げられる。
さらに、DCP−LAは、上述の通り、(1)プロテインチロシンホスファターゼ1B(PTP1B)阻害作用、(2)Akt活性化作用、(3)GSK−3βリン酸化促進作用、及び(4)アミロイドβペプチド1−42(Aβ1−42)誘導τタンパク質リン酸化抑制作用を有し、従って各種試薬としても提供され得る。当該試薬としては、具体的には、プロテインチロシンホスファターゼ1B(PTP1B)阻害剤、Akt活性化剤、GSK−3βリン酸化促進剤及びτタンパク質リン酸化抑制剤が挙げられる。いずれの試薬も、従来にない新しい作用メカニズムを有する、副作用の軽減された、及び/又はより効果が増強された、認知症治療薬や抗うつ薬、あるいは抗老化薬を開発する有用なツールとなる。
例えば、GSK−3βをリン酸化する化合物やτタンパク質リン酸化を抑制する化合物は、アルツハイマー型認知症の治療薬となり得ることが報告されているが、そのような治療薬を開発する際に、DCP−LAはポジティブコントロールとして使用することができる。
本明細書中で挙げられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例に何ら制限されるものではない。
実施例1:プロテインチロシンホスファターゼ1B(PTP1B)阻害作用
(材料と方法)
1.無細胞条件下でのPTP1B活性のアッセイ
無細胞条件下でのプロテインチロシンホスファターゼの測定は既報(Baba Y, et al. J Am Chem Soc 2003;125;9740-9749; Rice RL, et al. Biochemistry 1997;36:15965-15974)に記載された方法を部分的に改変した方法により行なった。ヒトPTP1BをNH末端にGSTタグを有するpGEX−6P−3ベクターにクローニングし、形質転換及び蛋白質発現に適したコンピテントE.coli BL21(DE3)中で発現させた。GST融合PTP1Bをグルタチオンセファロース4B(GE Healthcare Bio-Science KK, Tokyo, Japan)を用いてアフィニティー精製した。基質としてp−ニトロフェニルホスフェート(p-NPP)(Sigma, St. Louis, MO, USA)と反応させてPTP1B活性を測定した。酵素を反応メディウム[50 mM HEPES, 1 mM EDTA, 50 mM NaCl, 1 mM dithiothreitol, pH7.2]中37℃で30分間、所定の濃度(1〜100 μM)のDCP−LA存在下及び非存在下、PTP1B阻害剤であるNaVOを添加及び未添加でプレインキュベートした。次いで、p−NPP(10 mM)を反応メディウムに添加して60分間インキュベートした。反応は0.1N NaOHを添加することにより停止させた。脱リン酸化されたp−NPP、即ちp−NPをSpectraMax PLUS384(Molecular Devices, Sunnyvale, CA, USA)を用い405nmの吸光度で定量した。
(結果)
結果を図1に示す。
この結果は、DCP−LAが濃度依存性にPTP1Bを阻害することを示している。このことは更に、DCP−LAが受容体チロシンキナーゼ(RTK)を間接的に活性化し、Akt活性化経路に関与することを示唆している(参考経路を図2に示す)。
実施例2:Akt活性化作用、GSK−3βリン酸化促進作用及びAβ1−42誘導τタンパク質リン酸化抑制作用
(材料と方法)
95%O2及び5%CO2で酸素化した人工脳脊髄液(117 mM NaCl, 3.6 mM KCl, 1.2 mM NaH2PO4, 1.2 mM MgCl2, 2.5 mM CaCl2, 25 mM NaHCO3, 及び11.5 mM glucose)中、ラット海馬切片(雄性ウイスターラット、6週齢、400μm)をDCP-LA (100 nM)の存在下または非存在下、34℃で3分間インキュベートした。別の実験セットでは、切片をDCP-LA (100 nM)の存在下または非存在下、Aβ1−42(1 μM)で3時間インキュベートした。インキュベート後、切片を、氷冷した、1% (v/v) プロテアーゼインヒビターカクテル及び1% (v/v)ホスファターゼインヒビターカクテルを含む細胞溶解バッファー中、ソニケーションによりホモジナイズし、続いて、ホモジネートを遠心分離した(3,000 rpm, 5 min, 4℃)。上清のタンパク質濃度はBCAプロテインアッセイキット(Thermo Fisher Scientific, Rockford, IL, USA)を用いて測定した。蛋白質をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で分離し、ポリビニリデンジフルオライド膜に転写した。
ブロッティング膜は5%(w/v)BSAを含むTBS−T[150 mM NaCl, 0.1% (v/v)Tween20 and 20 mM Tris, pH7.5]でブロッキングし、続いて、以下の抗体とそれぞれ反応させた。
抗ホスホ-Akt(Thr308)抗体(Cell Signaling Technology, Inc., Danvers,, MA, USA)
抗ホスホ-Akt(Ser473)抗体(Cell Signaling Technology, Inc., Danvers,, MA, USA)
抗Akt抗体(Cell Signaling Technology, Inc., Danvers,, MA, USA)
抗ホスホ-GSK-3β(Ser9)抗体(Cell Signaling Technology, Inc., Danvers,, MA, USA)
抗-GSK-3β抗体(Cell Signaling Technology, Inc., Danvers,, MA, USA)
抗ホスホ-Tau (Ser202/Thr205)抗体(Thermo Fisher Scientific)
抗-Tau抗体(Cell Signaling Technology, Inc., Danvers,, MA, USA)
洗浄後、膜をホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗マウスIgG抗体あるいはヤギ抗ウサギIgG抗体と反応させた。免疫反応性は、ECLキット(GE Healthcare, Piscataway, NJ, USA)を用いて検出し、化学発光検出システム(chemiluminescence detection system;GE Healthcare)を用いて可視化した。
(結果)
Akt活性化について調べた結果を図3に示す。この結果は、DCP−LAにAktを活性化作用があることを示している(AktはThr308とSer473のリン酸化で活性化状態となる)。
GSK−3βのリン酸化について調べた結果を図4に示す。この結果は、DCP−LAがGSK−3βをリン酸化(不活性化)させることを示している。
Aβ1−42誘導τタンパク質のリン酸化について調べた結果を図5に示す。この結果は、DCP−LAがAβ1−42誘導τタンパク質リン酸化を抑制することを示している。換言すると、DCP−LAが神経原線維変化(NFT)の形成を抑制することを示唆している。
実施例3:習得潜時及び滞納潜時における改善作用
(材料と方法)
5XFADトランスジェニックマウスはアルツハイマー病(AD)のモデル動物であり、5つの家族性アルツハイマー病(FAD)変異[スウェーデン型、フロリダ型及びロンドン型のヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)の変異、並びにM146L及びL286Vのプレセニリン(PS)の変異;Oakley Hら、 J. Neurosci. 2006;26: 10129-10140]を有する。5XFADマウスでは、スウェーデン型変異により全アミロイドβペプチド(Aβ)の産生が上昇し、残りの変異により特にAβ1−42の産生が促進される。
動物に関する取扱いは、全て兵庫医科大学動物実験委員会の認可を受け、NIH(国立衛生研究所)の実験動物の管理と使用に関する指針に準拠している。
5XFADマウスはジャクソン研究所(Bar Harbor, ME, USA)から購入し、B6/SJLF1種蓄とのヘテロ接合トランスジェニックマウスと交配することにより維持した。非トランスジェニックの野生型同腹仔をコントロールとして用いた。全ての実験は5.5〜6.5ヶ月齢で実施した。
円形のプラスチック製の水槽(直径90cm、深さ36cm)を用いた。水槽の内側は全て白色に塗り、底から20cmまでホワイトインディアンインクを含む水を満たした(22〜25℃)。白色に塗ったプラットホーム(直径11cm)を水中に置き、水面下1cm水没するようにした。水槽は試験室に置き、マウスが水槽から見られる目印を幾つか設けた。試験を行っている間は、目印の位置は変えずにおいた。プラットホームを水槽の中央と端から等距離のところにある一定の位置、すなわち、4分円の一つの中心に設けた。無作為に選択した3箇所のうちの一つに水槽の壁に向き合わせてマウスを放し、プラットホーム上に退避するまでの時間(習得潜時:acquisition latency)を測定した。うまく退避できれば、マウスをそのままプラットホーム上で10秒間滞在させた。90秒以内にプラットホームを見つけることができなかったマウスは、試験を中止し、プラットホーム上に10秒間滞在させた。1日に2回試験を行い、2回目の試験は最初の試験の後30秒後に開始した。連続して8日間試験を行い、連続した2日間からプラットホームにたどりつくまでの習得潜時の平均値(±SEM)を計算した。7日後、プラットホームを除去し、プラットホームがあった場所に到達するまでの時間(滞納潜時:retention latency)を測定した。
DCP−LA及びガランタミンはポリエチレングリコール(PEG)に溶解した。DCP−LA、ガランタミン又はPEGは水迷路試験の30分前に経口ゾンデを用いて投与した。
(結果)
結果を図6に示す。5XFADマウスにおける習得潜時、滞納潜時は野生型マウスと比較して有意に延長していた。DCP−LAはどちらの潜時延長もほぼ正常レベルにまで改善した。これに対して、ガランタミンは全く効果を示さなかった。この結果は、DCP−LAがアルツハイマー型認知症を改善する有効な薬剤であることを示している。
実施例4:GSK−3βリン酸化促進作用
(材料と方法)
無細胞条件下でのGSK−3βアッセイ
ヒトリコンビナントGSK−3β(Sigma, St. Louis, MO, USA)を、無細胞条件下、所定の濃度(1〜100 μM)のDCP−LA存在下あるいは非存在下、GF109203X添加あるいは非添加で、HisタグされたヒトリコンビナントPKCε(Calbiochem, San Diego, CA, USA)と、20 mM Tris-HCl (pH 7.5)、5 mM Mg-acetate、12.5 mM glycerol 2-phosphate及び250 μM ATPを含有する培養液中で、30℃で20分間反応させた。タンパク質をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で分離し、ポリビニリデンジフルオライド膜に転写した。ブロッティング膜は5%(w/v)BSAを含むTBS−T[150 mM NaCl, 0.1% (v/v) Tween20 及び20 mM Tris, pH7.5]でブロッキングし、続いて、抗セリン9リン酸化GSK-3β抗体(Cell Signaling Technology, Inc., Danvers, MA, USA)あるいは抗GSK-3β抗体(Cell Signaling Technology, Inc., Danvers, MA, USA)と反応させた。洗浄後、膜をホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗マウスIgG抗体あるいはヤギ抗ウサギIgG抗体と反応させた。免疫反応性は、ECLキット(GE Healthcare, Piscataway, NJ, USA)を用いて検出し、化学発光検出システム(chemiluminescence detection system;GE Healthcare)を用いて可視化した。
(結果)
結果を図7に示す。この結果は、DCP−LAがPKCε存在下でGSK−3βをリン酸化(不活性化)させることを示している。このリン酸化は、PKC阻害剤のGF109203Xで抑制されることから、PKCε依存的であることがわかる。
DCP−LAは、プロテインチロシンホスファターゼ1B(PTP1B)阻害作用、Akt活性化作用、GSK−3βリン酸化促進作用、及びAβ1−42誘導τタンパク質リン酸化抑制作用を有し、従ってアルツハイマー型認知症治療薬、抗うつ薬及び/又は抗老化薬として有用である。またかかる薬理作用に基づいて種々の研究用試薬としても有用であり、当該試薬は新規な認知症治療薬や抗うつ薬、抗老化薬の開発に有望なツールとなる。
本出願は、日本で出願された特願2013−033668(出願日2013年2月22日)を基礎としておりその内容は本明細書に全て包含されるものである。

Claims (1)

  1. 8−[2−(2−ペンチル−シクロプロピルメチル)−シクロプロピル]−オクタン酸を有効成分として含有する、プロテインチロシンホスファターゼ1B阻害剤であって、研究用試薬である剤
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