JP6274483B2 - マグネシウム合金コイル材、及びマグネシウム合金コイル材の製造方法 - Google Patents

マグネシウム合金コイル材、及びマグネシウム合金コイル材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、マグネシウム合金からなる板材が渦巻き状に巻き取られたマグネシウム合金コイル材及びその製造方法に関するものである。特に、プレス加工といった塑性加工後において形状安定性に優れる塑性加工部材を成形可能なマグネシウム合金コイル材及びその製造方法に関する。
軽量で比強度、比剛性に優れるマグネシウム合金が、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータといった携帯用電気・電子機器類の筐体や自動車部品などの各種の部材の構成材料に利用されてきている。
マグネシウム合金は、金属のなかでも軽量で、比強度が高く、優れた衝撃吸収性を有する上に、活性なマグネシウムに種々の元素が添加されていることで耐食性にも優れており、上記各種の部材の構成材料に好ましい。具体的なマグネシウム合金として、例えば、Alを含有するMg−Al系合金、より具体的には、ASTM規格において展伸用合金として規定されるAZ31合金や、鋳造用合金として規定されるAZ91合金などがある。
しかし、マグネシウム合金は、六方晶の結晶構造(hcp構造)を有するため、一般に室温といった低温での塑性加工性に劣ることから、ある程度温度が高い状態で加工を行う。特に、添加元素の含有量が多いマグネシウム合金は、添加元素の含有量が少ないマグネシウム合金よりも塑性加工性に劣ることから、加工にあたり、加熱が必要である。特許文献1は、AZ91合金からなる素材に特定の温度制御を行って圧延を施すことで、塑性加工性に優れるマグネシウム合金コイル材が得られることを開示している。このマグネシウム合金コイル材は、加工歪みが存在した組織を有し、プレス加工といった塑性加工時に動的再結晶化を生じることで、塑性加工性に優れる。
特開2011−131274号公報
塑性加工後において形状安定性に優れる塑性加工部材を成形可能なマグネシウム合金コイル材の開発が望まれる。
プレス加工などの塑性加工を施してマグネシウム合金部材(塑性加工部材)を製造する場合、素材として、連続した長尺な板や、更に広幅である長尺な板を利用すると、所定の長さに切断したシート板を利用する場合と比較して、歩留まりを低減でき、生産性を高められると期待される。従って、長尺な板や更には広幅な板を巻き取ったマグネシウム合金コイル材は、マグネシウム合金部材(塑性加工部材)の量産に寄与することができるといえる。また、寸法精度や形状精度に優れる塑性加工部材を成形可能な素材であると、不良品を低減でき、生産性を高められる。
上述のようにある程度温度が高い状態(代表的には200℃以上)とすることで、塑性加工性を高められて、塑性加工部材を良好に製造できる。しかし、本発明者らが調べた結果、プレス加工といった塑性加工を行うにあたり、素材を加熱すると、素材に反りなどの変形が局所的に生じることがある、との知見を得た。具体的には、コイル材を巻き戻して所定の長さに切断したシート片を加熱した場合、シート片の縁部が反り上がることがある。このように素材が部分的に変形した場合、プレス加工といった塑性加工を行う装置に備える成形型の所定の位置に素材が精度よく配置されなかったり、成形型内で素材の位置がずれたり、安定しなかったりする。そのため、所定の形状に精度よく加工できず、塑性加工後に得られた成形体の形状や寸法が安定せずばらつきが生じ、不良率が上がる。その結果、塑性加工部材の生産性の低下を招く。
そこで、本発明の目的の一つは、形状安定性に優れる塑性加工部材を成形可能なマグネシウム合金コイル材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、形状安定性に優れる塑性加工部材を成形可能なマグネシウム合金コイル材を製造できるマグネシウム合金コイル材の製造方法を提供することにある。
本発明のマグネシウム合金コイル材は、マグネシウム合金からなる板材が渦巻き状に巻き取られてなるマグネシウム合金コイル材であって、
前記板材の全長に亘って、残留応力のばらつきが20MPa以内である。
本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、以下の準備工程と、熱処理工程と、巻き取り工程とを備える。
準備工程 マグネシウム合金からなり、圧延が施された素材板が渦巻き状に巻き取られた素材コイル材を準備する工程。
熱処理工程 前記素材コイル材を巻き戻して前記素材板を走行させて、前記素材板に5MPa超25MPa以下の引張応力を付与した状態で、150℃以上300℃以下の熱処理を連続的に施す工程。
巻き取り工程 前記熱処理が施されたマグネシウム合金からなる板材を渦巻き状に巻き取る工程。
本発明のマグネシウム合金コイル材は、形状安定性に優れる塑性加工部材を成形できる。本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、形状安定性に優れる塑性加工部材を成形可能なマグネシウム合金コイル材を製造できる。
実施の形態に係るマグネシウム合金コイル材の製造方法を説明する説明図である。
[本発明の実施の形態の説明]
本発明者らは、上述の温間塑性加工を行うための加熱時に生じる局所的な変形を低減するための対策、好ましくは実質的に無くすための対策を検討した結果、上述の加熱によって局所的な変形が生じる素材は、コイル材の全長でみると、残留応力のばらつきが大きい、との知見を得た。また、この残留応力のばらつきを低減するには、上述の温間塑性加工のための加熱を行う前に、素材に特定の条件で別途熱処理を施すことが好ましい、との知見を得た。本発明は、上記の知見に基づくものである。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1) 実施形態に係るマグネシウム合金コイル材は、マグネシウム合金からなる板材が渦巻き状に巻き取られてなるものであり、上記板材の全長に亘って、残留応力のばらつきが20MPa以内である。上記板材の全長に亘る残留応力のばらつきは、以下のように測定する。
マグネシウム合金コイル材を巻き戻して、所定の長さごとにサンプル板材を切り出し、複数枚のサンプル板材を用意する。上記所定の長さは、コイル材の全長×0.1以上、100m以下とする。例えば、コイル材の全長が10mである場合、所定の長さは1m以上とする。例えば、コイル材の全長が1000m超(1km超)である場合、100mとする。サンプル板材の数は、5枚以上、好ましくは8枚以上とする。1枚のサンプル板材の長さは、少なくともX線回折による残留応力の測定が可能なサイズとする。そして、各サンプル板材の一面において、幅方向の中心位置であって長手方向の任意の1点以上について、残留応力を測定する。各サンプル板材において残留応力を測定する一面とは、巻き取られていたときに外側に配置されていた面、即ち、巻きの外周側の面(表面)とする。測定した残留応力(合計5点以上の残留応力)について、最大値と最小値との差を残留応力のばらつきとする。
実施形態に係るマグネシウム合金コイル材は、全長に亘って、残留応力のばらつきが十分に小さく、均一的な状態である。そのため、実施形態に係るマグネシウム合金コイル材にプレス加工などの塑性加工を施すにあたり、適宜な長さに切断したシート材を所定の温度に加熱した場合でも、反りといった局所的な変形が生じ難い、又は実質的に生じない。また、この塑性加工のための加熱に斑があった場合でも、変形が生じ難い。そのため、実施形態に係るマグネシウム合金コイル材は、このコイル材を構成する板材(切断したものも含む)に塑性加工のための加熱がなされた場合でも、塑性加工用の成形型の適切な位置に精度よく配置できる上に、その配置位置がずれ難く、安定して塑性加工を施すことができる。従って、実施形態に係るマグネシウム合金コイル材を塑性加工部材の素材に用いることで、寸法精度・形状精度に優れる塑性加工部材を連続的に、安定して成形できる。このことから、実施形態に係るマグネシウム合金コイル材は、寸法精度・形状精度に優れる高品位な塑性加工部材、つまり形状安定性に優れる塑性加工部材の量産に寄与することができる。また、実施形態に係るマグネシウム合金コイル材は、残留応力が均一的であることから、塑性加工を施した場合に板材が均一的に伸びることができ、塑性加工性にも優れる。
(2) 実施形態に係るマグネシウム合金コイル材として、上記板材の残留応力が−25MPaから+25MPaの範囲である形態が挙げられる。−(マイナス)は、圧縮残留応力、+(プラス)は、引張残留応力を意味する。
上記形態は、板材の残留応力(絶対値)自体が小さいことから、上述のように温間塑性加工にあたり加熱した場合に、局所的な変形が更に生じ難く、塑性加工性に優れる。また、上記形態は、形状安定性に優れる塑性加工部材の量産に寄与することができる。
(3) 実施形態に係るマグネシウム合金コイル材として、上記マグネシウム合金がAlを含有するMg−Al系合金である形態が挙げられる。
添加元素にAlを含有するMg−Al系合金は、強度、硬度(剛性)といった機械的特性や、耐食性に優れることから、上記形態のマグネシウム合金コイル材を素材に用いることで、機械的特性や耐食性に優れる塑性加工部材や板材を製造できる。
(4) 実施形態に係るマグネシウム合金コイル材として、上記マグネシウム合金の平均結晶粒径が10μm以下である形態が挙げられる。
上記形態は、板材が微細な結晶組織で構成されることで、塑性加工性に優れる。
上述の実施形態に係るマグネシウム合金コイル材は、例えば、以下の実施形態に係るマグネシウム合金コイル材の製造方法によって得られる。
(5) 実施形態に係るマグネシウム合金コイル材の製造方法は、以下の準備工程と、熱処理工程と、巻き取り工程とを備える。
準備工程 マグネシウム合金からなり、圧延が施された素材板が渦巻き状に巻き取られた素材コイル材を準備する工程。
熱処理工程 上記素材コイル材を巻き戻して上記素材板を走行させて、上記素材板に5MPa超25MPa以下の引張応力を付与した状態で、150℃以上300℃以下の熱処理を連続的に施す工程。
巻き取り工程 上記熱処理が施されたマグネシウム合金からなる板材を渦巻き状に巻き取る工程。
温間圧延などの圧延といった塑性加工が施された、マグネシウム合金からなる素材板は、上述のように残留応力を有する。この残留応力を有する素材板に上述の特定の引張応力の付与を伴う熱処理を行うことで、実施形態に係るマグネシウム合金コイル材の製造方法は、上記特定の熱処理後に得られるマグネシウム合金からなる板材(熱処理板)の残留応力を低減できる。かつ、実施形態に係るマグネシウム合金コイル材の製造方法は、連続する素材板(端的にいえば、長尺な板)に対して、特定の低い引張応力を加えた状態で、かつ特定の温間域に素材板を保持するため、熱処理前後における板厚を実質的に変えることなく、素材板の残留応力を低減できる、好ましくは実質的に無くすことができる。つまり、実施形態に係るマグネシウム合金コイル材の製造方法は、温間圧延などの圧延によって調整された板厚を実質的に維持した熱処理板を製造できる。そして、得られた板材(熱処理板)は、上述のように温間塑性加工にあたり加熱した場合にも、局所的な変形が生じ難く、又は実質的に生じず、形状安定性に優れる塑性加工部材を成形できる。従って、実施形態に係るマグネシウム合金コイル材の製造方法は、高精度・高品位な塑性加工部材を生産性よく製造できるマグネシウム合金コイル材を製造することができる。特に、実施形態に係るマグネシウム合金コイル材の製造方法において上記マグネシウム合金がAlを含有するMg−Al系合金である形態では、機械的特性や耐食性に優れるマグネシウム合金コイル材を製造できる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、実施形態に係るマグネシウム合金コイル材、及び実施形態に係るマグネシウム合金コイル材の製造方法をより詳細に説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、後述する試験例において、コイル材の仕様(材質、厚さ、長さ、幅など)、製造条件(圧延条件(圧延温度、圧下率など)、熱処理条件(加熱温度、応力など))などを適宜変更することができる。
(マグネシウム合金コイル材)
実施形態のマグネシウム合金コイル材は、Mgに種々の添加元素を含有した種々の組成のマグネシウム合金(Mgを50質量%以上及び添加元素を含有し、残部不可避不純物)から構成される長尺な板材が渦巻き状に多層に巻き取られて構成される。
・組成
マグネシウム合金の添加元素は、例えば、Al,Zn,Mn,Si,Be,Ca,Sr,Y,Cu,Ag,Sn,Li,Zr,Ce,Ni,Au及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択された1種以上の元素が挙げられる。特に、Alを含有するMg−Al系合金は、耐食性や機械的特性に優れて好ましい。Alの含有量は、0.1質量%以上が挙げられ、多いほど耐食性や機械的特性に優れる傾向にある。Alの含有量は、12質量%を超えると塑性加工性の低下を招くことから、12質量%以下、更に11質量%以下が好ましい。
Al以外の各元素の含有量は、例えば、0.01質量%以上10質量%以下、更に0.1質量%以上5質量%以下が挙げられる。特に、Si,Sn,Y,Ce,Ca及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素を合計0.001質量%以上、好ましくは合計0.1質量%以上5質量%以下含有するマグネシウム合金は、耐熱性や難燃性に優れる。マグネシウム合金中の不純物は、例えば、Feなどが挙げられる。
Mg−Al系合金のより具体的な組成は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg−Al−Zn系合金。Znを0.2質量%以上1.5質量%以下含むもの。例えば、AZ31合金、AZ61合金、AZ80合金、AZ91合金など)、AM系合金(Mg−Al−Mn系合金。Mnを0.05質量%以上、更に0.15質量%以上0.5質量%以下含有するもの。例えば、AM60、AM100など)、AS系合金(Mg−Al−Si系合金。Siを0.2質量%以上6.0質量%以下含有するもの。例えば、AS41など)、AX系合金(Mg−Al−Ca系合金。Caを0.1質量%以上、更に0.2質量%以上6.0質量%以下、更に4.0質量%以下含有するもの。)、AZX系合金(Mg−Al−Zn−Ca系合金。Zn,Caの含有量はAZ系合金、AX系合金と同様。)、AJ系合金(Mg−Al−Sr系合金。Srを0.2質量%以上7.0質量%以下含有するもの。)などが挙げられる。その他、Mg−Al−RE系合金(REは希土類元素であり、REを0.001質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、5質量%以下含有するもの。)などが挙げられる。
Mg−Al系合金のうち、Alを7.2質量%超含有する合金、特にAlを8.3質量%以上9.5質量%以下、Znを0.5質量%以上1.5質量%以下含有するMg−Al系合金、代表的にはAZ91合金やAZX911合金、AZ91合金相当のAl及びZnを含むマグネシウム合金は、耐食性及び機械的特性に更に優れる。
・厚さ
実施形態のマグネシウム合金コイル材を構成する板材の厚さは、適宜選択することができる。このコイル材を塑性加工部材の素材に利用する場合、塑性加工部材の厚さは、コイル材を構成する板材の厚さを実質的に維持することから、板材の厚さが薄いほど、塑性加工部材の薄型化、小型化を図ることができる。そのため、板材の厚さは、2.5mm以下、更に2mm以下、特に1.5mm以下が挙げられる。板材の厚さの下限は0.1mmが挙げられる。特に板材の厚さが0.3mm以上1.2mm以下である形態が挙げられる。後述するように、圧延を施すことで、このような薄板を容易に製造できる。
・幅及び長さ
上記板材の幅及び長さは、適宜選択することができる。例えば、長さが50m以上、更に100m以上、1000m以上(1km以上)といった長尺板から構成されるコイル材は、上述の塑性加工部材の素材に利用すると、上記素材を塑性加工装置に連続供給でき、塑性加工部材を量産できる。例えば、幅が100mm以上、更に200mm以上、特に1000mm以上(1m以上)といった広幅板から構成されるコイル材は、上述の塑性加工部材の素材に利用すると、携帯用機器の部品といった小型なものから、輸送機器の部品といった大型なものまで、種々の大きさの塑性加工部材を製造できる。実施形態のマグネシウム合金コイル材の巻き取り径(内径)も適宜選択することができる。
又は、実施形態のマグネシウム合金コイル材は、その重さが100kg以上、更に1000kg以上である大重量のものとすることができる。このコイル材は、板材の幅や厚さにもよるが、厚さが薄いほど(例えば、1mm以下)、長さが200m以上、更に1000m以上といった長尺板から構成されたコイル材になる。このようなコイル材を上述の塑性加工部材の素材に利用すると、上述のように種々の大きさの塑性加工部材を製造できたり、塑性加工部材の量産に寄与したりすることができる。
・形態
上記板材は、製造工程によって種々の形態をとり得る。代表的には、後述の圧延工程を経た後、後述の特定の熱処理を施した熱処理材が挙げられる。その他、圧延後、後述の熱処理前までに、後述する矯正加工や研磨などが施された平坦性に優れる形態や表面性状に優れる形態、又は、後述の熱処理後に、矯正加工や研磨、化成処理や陽極酸化処理といった防食処理、表面装飾加工(ダイヤカットやヘアラインといった切削加工や、エッチング、ショットブラストなど)、塗装などが施された形態、つまり、矯正材、研磨材、防食処理材、表面加工材、塗装材などが挙げられる。
・組織
上記板材は、代表的には、圧延後に特定の熱処理が施されて製造されるものの、圧延工程を経ていることで、微細な結晶組織から構成された形態とすることができる。例えば、上記板材を構成するマグネシウム合金の結晶粒径が、平均で10μm以下を満たす形態が挙げられる。結晶粒径が小さいほど、塑性加工性を高められる傾向にあり、平均結晶粒径が6μm以下、更に4μm以下を満たす形態とすることができる。
・機械的特性
上記板材は、後述するように圧延(少なくとも1パスは温間圧延)が施されていることで、例えば、同じ組成の鋳造板と比較して、機械的特性にも優れる。例えば、AZ91合金といったAlを7.2質量%超含有するマグネシウム合金から構成される板材では、引張強さが280MPa以上450MPa以下、0.2%耐力が230MPa以上350MPa以下、破断伸びが1%以上15%以下を満たす形態が挙げられる。
・残留応力
そして、上記板材は、全長に亘って残留応力のばらつきが小さい。具体的には上述した残留応力の最大値と残留応力の最小値との差が20MPa以内である。つまり、コイル材を構成する板材について板材の長手方向の任意の位置における残留応力を比較した場合、その差が小さい。このように残留応力のばらつきが小さく、全長に亘って残留応力の大きさが均一的な状態であることで、板材を加熱しても、残留応力が局所的に異なる箇所が存在することに起因する部分的な反りなどの変形が生じ難く、上述のように形状安定性に優れて高精度な塑性加工部材を成形できる。残留応力のばらつきが小さいほど、局所的な変形を防止できることから、残留応力のばらつきは15MPa以内、更に10MPa以内がより好ましく、ばらつきが無いことが理想である。残留応力の測定条件の詳細は、後述する。
また、上記板材の残留応力(絶対値)自体も小さいほど、上述の局所的な変形が生じ難く好ましい。具体的には、板材の残留応力は、−25MPaから+25MPaの範囲、更に−15MPaから+15MPaの範囲を満たすことが好ましい。なお、コイルの内周側に位置する板材(コイルの巻径が小さい部分の板材)は、外周側に位置する板材よりも、引張応力を有する場合がある。しかし、上記残留応力の範囲(0超から+25MPa)を満たすことで、局所的な変形が生じ難い。
コイルを構成する板材について、板材の幅方向の任意の位置における残留応力を比較した場合にその差が小さいこと、即ち、ばらつきが小さいことが好ましい。また、上記板材の幅方向の任意の位置における残留応力(絶対値)が上記の範囲を満たすと、局所的な変形が生じ難くて好ましい。更に、コイルを構成する板材において巻きの外周側の面(表面)と巻きの内周側の面(裏面)とについて、残留応力が実質的に等しいことが好ましい。しかし、コイルの巻径などによって表裏面の残留応力が異なる場合がある。この場合にも、表裏面の双方の残留応力(絶対値)が上記の範囲を満たすことで、局所的な変形が生じ難い。
(コイル材の製造方法)
・準備工程
実施形態のマグネシウム合金コイル材の製造方法では、まず、所望の組成のマグネシウム合金からなる素材板であって、渦巻き状に巻き取られてなる素材コイル材を準備する。この素材コイル材は、圧延が施されたもの、好ましくは1パス以上の温間圧延が施されたものとする。このような素材コイル材は、圧延が施された圧延コイル材、圧延後に矯正加工が施された矯正コイル材、圧延後に研磨が施された研磨コイル材、圧延後に矯正及び研磨の双方が施されたコイル材などが挙げられる。
上記圧延コイル材は、代表的には、マグネシウム合金からなる鋳造材に圧延(温間圧延を1パス以上含む)を施すことで得られる。鋳造材は、例えば、所望の形状の鋳型で製造したインゴットを利用することができる。鋳造材として、マグネシウム合金を双ロール鋳造法といった連続鋳造法によって製造した長尺な鋳造板を巻き取った鋳造コイル材を利用すると、長尺な圧延コイル材を製造し易い。
圧延加工を行う前の素材に、溶体化処理といった熱処理を施すことができる。溶体化条件は、組成にもよるが、例えば、加熱温度が350℃以上420℃以下、保持時間が1時間以上40時間以下、が挙げられる。この熱処理によって、割れの起点となり得る析出物を固溶させて機械的特性や圧延性の向上などを図ることができる。Alといった添加元素の含有量が多いほど、析出物が多く析出する傾向にあるため、保持時間を長くすることが好ましい。
圧延用素材(上述の鋳造材や溶体化処理を施した溶体化材など)に1パス以上の圧延を施す。圧延を施すことで、所望の厚さの素材板が得られる上に、巣などの鋳造欠陥(内部欠陥)が少ない、又は小さい、又は実質的に存在しない組織とすることができる。また、圧延によって加工硬化による強度の向上などが望める。更に、圧延によって結晶粒の微細化を図ることができる。
温間圧延を行う場合、その条件は、圧延を施す圧延ロールに供される直前の素材の温度が150℃以上400℃以下(好ましくは350℃以下、更に300℃以下、特に280℃以下)、1パスあたりの圧下率が5%以上40%以下、が挙げられる。上述の特定の温度範囲とすることで、(i)添加元素の含有量が多い高濃度合金からなる素材板であっても、塑性加工性を高めて、縁部の割れを低減して良好な圧延板が得られる、(ii)1パスあたりの圧下率を大きくでき(例えば、10%以上30%以下程度)、コイル材の生産性を高められる、(iii)焼付きなどによる表面性状の劣化を抑制できる、(iv)圧延ロールの熱劣化を抑制できる、といった効果を奏する。また、素材だけでなく圧延ロールも加熱すると、素材の温度低下を抑制したり、縁部の割れをより低減したりし易い(特許文献1参照)。その他、公知の圧延条件を利用して、温間圧延を行うことができる。仕上げ圧延などで圧下率が小さい圧延を行う場合には、冷間圧延を行うことができる。
温間圧延を行う場合に上述の素材の加熱は、種々の加熱手段を利用することができる。例えば、特許文献1に記載されるように、ヒートボックスといった雰囲気炉を備える圧延ラインを利用することができる。加熱時間はコイルの重量、大きさ(幅、厚さ)、巻き数などに応じて適宜設定することができる。
圧延にあたり潤滑剤を利用すると、素材と圧延ロールとの摩擦を低減して、圧延を良好に行える。
好ましくは1パス以上の温間圧延を行う。圧延工程において複数パスの圧延を行う場合、全パスを温間圧延としたり、一部の圧延を熱間又は室温としたりすることができる。いずれにしても、マグネシウム合金に対して圧延といった塑性加工を行うことで、圧延後のマグネシウム合金(圧延板)には、残留応力が存在する。特に、少なくとも1パスの圧延を温間圧延とすると、つまり、圧延用素材が加熱された状態で圧延を行うと、圧延用素材における幅方向の縁部分は、温度が低下し易く、幅方向の中央部分は、温度が高くなり易い。この温度のばらつきによって、圧下度合いのばらつきが不可避的に生じ得ることから、圧延材に残留応力のばらつきが生じ得る。しかし、実施形態のマグネシウム合金コイル材の製造方法では、圧延後(直後でなくてもよい)に後述する特定の条件で熱処理を行うことで、残留応力のばらつきを低減できる。
複数パスの圧延を行うことで、圧延板の厚さを更に薄くしたり、圧延板を構成する組織の結晶粒径を小さくしたり(例えば、平均結晶粒径が10μm以下、好ましくは5μm以下)することができる。実施形態のマグネシウム合金コイル材の製造方法では、圧延後に特定の熱処理を行うことで、この熱処理によって再結晶化した結晶粒がある程度成長し得る。しかし、圧延工程においてある程度微細な結晶粒としておくと、圧延後の熱処理において、結晶の過度な成長を防止でき、上述のように微細な結晶組織(例えば、平均結晶粒径が10μm以下)を満たすマグネシウム合金コイル材を製造することができる。粗大な結晶粒は、割れの起点となり、塑性加工性の低下を招く。そのため、上述のようにある程度微細な結晶組織であると、塑性加工性の低下を抑制できる。所望の厚さの圧延板や所望の大きさの結晶粒を有する圧延板が得られるように、パス数、各パスの圧下率、及び総圧下率を適宜選択することができる。例えば、1パスあたりの圧下率は10%以上40%以下程度、総圧下率は75%以上85%以下程度が挙げられる。また、複数パスの圧延を行う場合、特許文献1に記載されるように、一対のリールと、これらリール間に配置される圧延ローラとを備える圧延ラインを構築し、1パスごとにリールの回転方向を逆転してリバース圧延を行うと、圧延を効率よく行える。
上記圧延が施された圧延板を最終的に渦巻き状に巻き取ることで、素材コイル材の一形態である圧延コイル材が得られる。この巻き取りも温間とすると、巻き取り時の割れの発生を抑制して、容易に巻き取れる。
その他、上述の圧延コイル材に、更に、矯正や研磨を施すことができる。矯正は、複数のローラが千鳥状に配置され、これらローラ間に素材を通過させて、素材に繰り返し曲げを付与可能なローラレベラ(特許文献1参照)を好適に利用できる。特に、素材を100℃以上300℃以下に加熱した状態にして温間矯正を行うと、割れなどが生じ難い。素材を室温以上100℃未満の状態で冷間矯正を行うと、矯正装置の部品の熱劣化を低減できる。矯正だけでは、素材において残留応力の十分な低減が難しい。一方、矯正加工(温間加工、冷間加工)を行った後、後述するように、素材板に特定の低い応力を加えた状態で加熱を行う特定の熱処理を行うことで、残留応力のばらつきを低減しつつ、平坦性を維持することができる。つまり、実施形態のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、素材板が矯正材である場合に平坦性を損なうことがなく、平坦性にも優れる熱処理材を製造できる。
上記矯正や研磨は、後述する特定の熱処理後に行うこともできる。この場合、後述する特定の熱処理後に素材に残存する熱を利用して矯正加工を行うことができる。その他、後述する特定の熱処理後に、上述した防食処理(陽極酸化処理や化成処理など)、塗装、表面装飾加工などを行ったりすると、耐食性の向上、装飾性や金属質感の向上などを図ることができる。
・熱処理工程
上述の温間圧延を含む圧延工程を経て得られた素材コイル材は、上述のように圧延といった塑性加工によって残留応力が存在しており、かつ、残留応力にばらつきがあり得る。実施形態のマグネシウム合金コイル材の製造方法では、上記残留応力のばらつきの是正(低減)を目的として、この素材コイル材に熱処理を施す。特に、この熱処理は、素材コイル材を巻き戻した素材板を走行させた状態で行うと共に、特定の応力を付与した状態で行う。この応力は、引張応力とする。
代表的には、図1に示すように、素材コイル材100をリール200に取り付けて、マグネシウム合金からなる素材板10を順次繰り出し、別のリール210で順次巻き取る。つまり、両リール200,210間に素材板10及び素材板10に繋がり熱処理された板材11を掛け渡すことで、素材板10及び板材11を走行させることができる。走行速度の調整は、両リール200,210の回転速度を調整することで行える。この素材板10及び板材11の走行ライン上に加熱手段20を設けることで、素材板10を加熱できる。
この熱処理時の加熱温度は、150℃以上とすることで、残留応力を解放することができる。上記加熱温度が高いほど、残留応力(絶対値)を低減し易く、200℃以上がより好ましい。しかし、上記加熱温度が高いほど、素材板10が変形し易くなり、かつ実施形態のマグネシウム合金コイル材の製造方法では特定の応力が付与されているため、熱処理後の板材11の厚さが減少する恐れがある。また、上記加熱温度が高いほど、結晶粒や析出物が成長し、塑性加工時に割れの起点となるような粗大な粒が存在して、塑性加工性の低下を招く恐れがある。従って、上記加熱温度は、300℃以下とし、250℃以下がより好ましい。
具体的な加熱手段20は、例えば、複数の加熱ロールが挙げられる。この形態では、複数の加熱ロールを素材板10の走行方向に並列に配置し、これらの加熱ロールに素材板10を接触させることで、素材板10を所定の温度に加熱する。加熱ロールは、ヒータといった加熱手段を内蔵したもの、加熱された流体が流通される循環機構を内蔵したものなど、素材板10を加熱可能な構成を備えるものが挙げられる。加熱ロールの材質は、耐熱性に優れる鋼などが挙げられる。複数の加熱ロールは、素材板10の表裏面に接触してこれら表裏面を加熱できるように、素材板10の表面側(図1の上側)、及び素材板10の裏面側(図1の下側)の双方に配置することが好ましい。但し、素材板10の表裏面に配置された加熱ロールに挟まれることで加熱された素材板10の厚さが変化しない(薄くならない)ように、複数の加熱ロールは、素材板10の走行方向に沿ってずれた位置に配置する、例えば、千鳥状に配置することが挙げられる。
上記加熱ロールの軸方向の長さは、素材板10の幅に応じて選択することができる。加熱ロールの径や加熱ロールの配置数も、適宜選択することができる。配置数が多いほど、保持時間を長くし易い。その他、走行する素材板10において加熱ロールの配置箇所を覆って、素材板10の温度を保温可能な恒温槽を設けることができる。
又は、加熱手段20は、素材板10を所定の温度に加熱可能な加熱炉が挙げられる。この形態は、加熱炉に走行する素材板10を通過させて、素材板10を所定の温度に加熱する。加熱炉は、雰囲気炉(所定の温度の熱風を循環可能なものや、ヒータといった加熱手段を備えて、所定の温度の雰囲気を保持可能なものなど)、抵抗加熱炉(素材板に通電して抵抗加熱により素材板を加熱するもの)、誘導加熱炉(高周波数の電力を供給して電磁誘導により素材板を加熱するもの)などが挙げられる。加熱炉は、加熱時に素材板10に曲げを実質的に与えず、平坦性に優れる板材からなるマグネシウム合金コイル材1を得易い。
加熱炉の仕様(通電可能な電流値、雰囲気炉の容積や素材板の走行方向に沿った炉の長さなど)は、走行速度や素材板10の厚さなどに応じて、素材板10が所定の温度に所望の時間だけ保持可能なように選択するとよい。雰囲気炉内の雰囲気は、大気でもよいが、アルゴンや窒素といった非酸素含有雰囲気とすると、素材板10の酸化を防止できて好ましい。大気雰囲気とすると、設備の構築が容易である。
又は、上述の複数の加熱ロールと加熱炉との双方を備える加熱手段とすることができる。
熱処理時に素材板10に付与する引張応力の調整は、種々の方法を利用できる。例えば、両リール200,210の回転速度を調整する方法が挙げられる。この形態は、別途、調整設備が不要である。又は、ピンチロールなどを適宜配置して、素材板10及び板材11の少なくとも一方を挟持することで、素材板10に付与される張力を調整する方法が挙げられる。又は、ダンサ装置といった張力調整装置を別途設けることが挙げられる。いずれにしても、素材板10及び板材11の少なくとも一方に張力測定装置30を取り付けておき、素材板10に加わる張力を確認しながら、応力を調整するとよい。
熱処理時に素材板10に付与する引張応力は、大き過ぎると、板厚を減少させたり、最悪の場合、破断したりするため、25MPa以下とする。付与する引張応力が小さ過ぎると、素材板10の残留応力の低減を十分に行えないため、5MPa超とする。引張応力が5MPa超25MPa以下の範囲内では、素材板の板厚が大きいほど、付与する引張応力を大きくすることが好ましい。また、熱処理時の温度が高い場合(例えば、250℃以上300℃以下)には、上記の範囲内で付与する引張応力を小さくしても(例えば、5MPa超10MPa以下)、素材板10の残留応力を十分に低減できる。付与する引張応力のより好ましい値は、10MPa以上20MPa以下、更に15MPa以下である。板材11の残留応力は、上述の熱処理条件によって変化する。例えば、150℃以上300℃以下の範囲において加熱温度が高いほど、又は5MPa超25MPa以下の範囲において付与する引張応力が大きいほど、ばらつきや絶対値が小さくなる傾向にある。
・巻き取り工程
上述の低い応力を付与しながら、上述の加熱手段20によって素材板10を加熱する熱処理が施された板材11をリール210で巻き取ることで、マグネシウム合金からなり、全長に亘って残留応力のばらつきが小さい板材11が渦巻き状に巻き取られてなるマグネシウム合金コイル材1が得られる。巻き取り直前の板材の温度が200℃以下、好ましくは100℃以下といった低温で巻き取ると、板材に巻癖がつき難く、平坦性に優れるコイル材1を得易い。上記低温は、例えば、素材板10の走行速度を調整し、自然放冷によって達成してもよいし、衝風や水冷手段などの強制冷却手段を用いて達成してもよい。
実施形態のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、素材板が多層に積み重なった状態ではなく、一枚に広げられた状態で上述の熱処理を行うため、素材板の全長に亘って均一的な熱処理条件に制御し易い。そのため、得られたコイル材は、全長に亘って、結晶粒の大きさが均一的であったり(粒径のばらつきが小さい)、添加元素の含有量が多い組成では温間圧延によって生じた析出物(主として金属間化合物)が再固溶されて、全長に亘って析出物が小さかったりする(析出物が微細でばらつきが小さかったりする)組織にすることができる。従って、実施形態のマグネシウム合金コイル材の製造方法によって、全長に亘って均一的な組織からなるマグネシウム合金コイル材を製造することができる。
[試験例1]
マグネシウム合金からなるマグネシウム合金コイル材を作製し、このコイル材を素材として塑性加工部材を作製して、形状安定性を評価した。
素材として圧延コイル材を用意した。圧延コイル材は、一対のリール間に圧延ロール(対向配置されたロール対)を備える圧延ラインを利用して製造した。一方の繰り出しリールに以下の圧延用素材を取り付け、繰り出した圧延用素材の一端を他方の巻き取りリールで巻き取って、両リールの回転によって圧延用素材を走行可能とし、走行途中に圧延ロールを通過することで、圧延用素材に圧延を施す。以下の条件で複数パスの温間圧延を施した後(リバース圧延を使用)、最終的に巻き取って圧延コイル材を得た。圧延用素材の加熱には、上述のヒートボックスなどが好適に利用できる。
(圧延用素材)
表1に示す組成からなる双ロール鋳造法によって作製した鋳造コイル材
板厚:4.0mm 長さ:100m
鋳造後に溶体化:400℃×20時間
(圧延条件)
圧延温度:250℃
圧延後の板厚:0.8mm
総圧下率:80%(各パスの圧下率:10%/パス〜25%/パス)
得られた圧延コイル材に、矯正を行った後(ここでは、ローラレベラ装置を使用。素材温度を200℃とした温間矯正)、表1に示す処理条件で、引張応力の付与を行った。表1に示す処理条件の加熱温度が200℃〜280℃の試料は、上述の引張応力の付与時に加熱されたことを意味し、引張応力の付与を伴う熱処理を施したことになる。上記加熱や引張応力の付与は、繰り出し用のリールに巻き取られている矯正コイル材(素材コイル材)を巻き戻し、巻き戻した矯正板(素材板)を巻き取り用のリールで巻き取って、二つのリール間に素材板を掛け渡し、両リール間を素材板(及び素材板に繋がる板材)が走行できるようにして行った。上記処理を施した板材を巻き取って、マグネシウム合金コイル材を作製した。
上述の引張応力の付与を伴う熱処理を行う試料No.2〜No.4,No.12〜No.14,No.22〜No.24では、加熱手段として、加熱炉(ここでは、熱風循環炉)を用意して、上記二つのリール間に配置し(図1参照)、この加熱炉に素材板を通過させることで、素材板を加熱して熱処理を施した。
かつ、試料No.2〜No.4,No.12〜No.14,No.22〜No.24では、表1に示す引張応力が素材板に負荷されるように、上記両リールの回転速度を調整して上述の熱処理を行った。一方、表1に示す処理条件の加熱温度が室温である試料No.1,No.11,No.21では、表1に示す引張応力が素材板に負荷されるように、上記両リールの回転速度を調整して、繰り出し及び巻き取りを行い、素材板の加熱を行わなかった。
得られたマグネシウム合金コイル材(熱処理材又は応力付与材)の残留応力の分布を調べた。具体的には、以下のように調べた。上記コイル材(長さ500m以上、幅230mm)を巻き戻して、両端から5mを切断した残りについて、長さ50mごとに長さ1mのシート片を切り出し、このシート片をサンプル板材とした。ここでは、8枚のシート片を用意した。各シート片(ここでは切り出した1mのシート片から更に長さ300mmの短い片に切断したもの)についてそれぞれ残留応力を測定した。ここでは、各シート片の表面(巻き取られた状態において外周側に配置されていた面)における幅方向の中心位置をとり、この中心位置における長さ方向の任意の1点について残留応力を測定した。残留応力は、以下の微小部X線応力測定装置を用いて、(104)面を測定面とし、sinΨ法にて測定を行った。そして、8枚のシート片における合計8点の残留応力(絶対値)のうち、最大値と最小値とを抽出し、その差を全長のばらつきとした。結果を表1に示す。また、各試料において測定した合計8点の残留応力のうち、最大値を表1に示す。表1に示す最大値について「マイナス」が付された値は、圧縮残留応力を意味し、「マイナス」が付されていない値は、引張残留応力を意味する。
使用装置:微小部X線応力測定装置(株式会社リガク製 MSF−SYSTEM)
使用X線:Cr−Kα(V フィルター)
励起条件:30kV 20mA
測定領域:φ2mm(使用コリメータ径)
測定法 :sinΨ法(並傾法、揺動有り)
Ψ=0゜,10゜,15゜,20゜,25゜,30゜,35゜,40゜,45゜
測定面 :Mg(104)面
使用定数:ヤング率=45,000MPa、ポアソン比=0.306
測定箇所:シート片の表面の中央部(幅方向の中心位置)
測定方向:シート片の圧延方向
得られたマグネシウム合金コイル材(熱処理材又は応力付与材)を所定の長さに切断して、塑性加工用の試験片(矩形状のシート材)を作製した。この塑性加工用の試験片に温間プレス加工を行い、加工時の状態、及び加工後の状態を調べて、形状安定性を評価した。
この試験では、250℃に加熱した成形型を用意して、この成形型に塑性加工用の試験片を配置して加熱し、反りによる周縁の浮き上がり状態を確認する。成形型の表面と上記試験片との間の間隔(浮き上がりによる隙間の大きさ)を隙間ゲージによって測定し、この間隔の最大値が10mm超であるか、10mm以下であるかを調べた。ここでは、試料ごとに20枚の塑性加工用の試験片を用意して、上記間隔を測定し、20枚全ての間隔が10mm以下である場合をGood、20枚のうち間隔が10mm超のものがある場合をBと評価して、表1に加工時の状態の評価を示す。
上記250℃に加熱した成形型を用いて温間プレス加工を行った。得られた成形体(200mm×300mm×深さ5mm、内側角R=1mm)の加工後の状態は、以下のように評価した。得られた成形体の平面部(200mm×300mmの面)を定盤に置き、平面部の浮き上がりを隙間ゲージで測定し、定盤と平面部との間の隙間が1mm超であるか、1mm以下であるかを調べた。ここでは、試料ごとに20個の成形体を作製して、上記浮き上がり(隙間)を測定し、20個全ての隙間が1mm以下である場合をGood、20個のうち隙間が1mm超のものがある場合をBと評価して、表1に加工後の状態の評価を示す。
Figure 0006274483
表1に示すように、温間圧延が施された素材板に、特定の大きさの引張応力を付与した状態で特定の加熱温度で熱処理を施した試料No.2,No.3,No.12,No.13,No.22,No.23はいずれも、全長に亘って、残留応力のばらつきが小さいことが分かる。具体的には、これらの試料はいずれも、残留応力の最大値と最小値との差が20MPa以内である(ここでは19MPa未満、更に10MPa以内である)。また、これらの試料はいずれも、残留応力自体も小さい。具体的には、これらの試料はいずれも、表1に示す残留応力の最大値が−25MPaから+25MPaの範囲を満たす。つまり、各試料について測定した合計8点の残留応力のいずれもが、−25MPaから+25MPaの範囲を満たすといえる。更に、上述の特定の熱処理が施された試料No.2,No.3,No.12,No.13,No.22,No.23はいずれも、温間塑性加工を施す際の加熱を行ったとき、反りといった変形が生じ難いことが分かる。そのため、これらの試料はいずれも、熱処理前に行った矯正加工による平坦性が維持されている、といえる。そして、試料No.2,No.3,No.12,No.13,No.22,No.23のマグネシウム合金コイル材を用いて得られたプレス成形体(塑性加工部材)は、いずれも浮き上がりなどの形状不良が小さく、又は実質的に無く、高精度に成形されており、プレス加工後の形状安定性に優れていることが分かる。
このように試料No.2,No.3,No.12,No.13,No.22,No.23のマグネシウム合金コイル材が形状安定性に優れる塑性加工部材を成形可能である理由は、塑性加工前において全長に亘って残留応力が均一的に存在していたことで、上述の加熱によって残留応力のバランスが崩れ難く、バランスの崩れに起因する局所的な変形(反りなど)を低減できたため、と考えられる。
また、上述の特定の熱処理が施された試料No.2,No.3,No.12,No.13,No.22,No.23のコイル材の平均結晶粒径を測定した。その結果を表1に示す。測定は、「鋼−結晶粒度の顕微鏡試験方法 JIS G 0551(2005)、直線試験線による切断法」に基づいて行った。表1に示すようにこれらの試料はいずれも、平均結晶粒径が10μm以下である(ここではいずれも5μm以下である)。これらの試料はいずれも、素材板の全長に亘って均一的な条件で熱処理が施されたことで、上述のような全長に亘って均一的な結晶組織(再結晶組織)を有しており、この点からも、塑性加工性を高められた、と考えられる。なお、試料No.2,No.3,No.12,No.13,No.22,No.23のそれぞれについて、上述の8枚のシート片のうち、任意の1枚を選択して、幅方向の残留応力のばらつきを調べた。具体的には、選択したシート片について、上述の残留応力を測定した幅方向の中心位置を含むように、幅方向に沿って5点〜10点の残留応力を上述の条件(測定方向は圧延方向)で同様にして測定した。その結果、幅方向の残留応力のばらつきが20MPa以内であることを確認した。
一方、引張応力を付与しただけの試料No.1,No.11,No.21は、残留応力のばらつきが大きく、更には残留応力の最大値も大きく、温間塑性加工を施す際の加熱を行ったとき、反りといった変形が生じ得ることが分かる。他方、非常に低い引張応力を負荷した状態で熱処理を施した試料No.4,No.14,No.24も、残留応力のばらつきが大きく、更には残留応力の最大値も大きい。この理由は、引張応力が低過ぎることで、残留応力のばらつきを十分に改善できなかったため、と考えられる。そして、試料No.4,No.14,No.24は残留応力のばらつきが大きいことで、温間塑性加工を施す際の加熱を行ったとき、反りなどが生じ得ることが分かる。
以上説明したように、マグネシウム合金板の全長に亘って、残留応力のばらつきが小さいマグネシウム合金コイル材は、塑性加工後における形状安定性に優れるマグネシウム合金部材を成形可能であることが確認された。また、圧延(好ましくは1パス以上の温間圧延)が施された素材コイル材を巻き戻した状態で特定の温度及び特定の引張応力を負荷した状態で熱処理を施すことで、全長に亘って残留応力のばらつきが小さいマグネシウム合金板から構成されたマグネシウム合金コイル材が得られることが確認された。
本発明のマグネシウム合金コイル材は、プレス加工、曲げ、鍛造、据え込みなどの種々の塑性加工が施される塑性加工部材の素材に好適に利用できる。特に、このマグネシウム合金コイル材、及びこのコイル材を適宜切断したシート材は、軽量や薄型、高強度、制振性などの特性が望まれる部材、例えば、各種の電子・電気機器類(パーソナルコンピュータ(PC)、タブレット型PC、スマートフォンや折り畳み式携帯電話などの携帯電話、デジタルカメラなど)の筐体やカバーなどの外装部材、自動車や航空機といった輸送機器の構成部材、骨格部材、カバン、種々の保護ケースなどの素材に好適に利用できる。本発明のマグネシウム合金コイル材の製造方法は、マグネシウム合金部材(塑性加工部材)の素材などに利用されるマグネシウム合金コイル材の製造に好適に利用できる。
1 マグネシウム合金コイル材
10 素材板 11 板材 100 素材コイル材
20 加熱手段 30 張力測定装置 200,210 リール

Claims (5)

  1. マグネシウム合金からなる板材が渦巻き状に巻き取られてなるマグネシウム合金コイル材であって、
    前記板材の全長が200m以上であり、
    前記板材の全長に亘って、残留応力のばらつきが8MPa以内であるマグネシウム合金コイル材。
  2. 前記板材の残留応力が−25MPaから+25MPaの範囲である請求項1に記載のマグネシウム合金コイル材。
  3. 前記マグネシウム合金は、Alを含有するMg−Al系合金である請求項1又は請求項2に記載のマグネシウム合金コイル材。
  4. 前記マグネシウム合金の平均結晶粒径が10μm以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金コイル材。
  5. マグネシウム合金からなり、圧延が施された素材板が渦巻き状に巻き取られた素材コイル材を準備する工程と、
    前記素材コイル材を巻き戻して前記素材板を走行させて、前記素材板に5MPa超25MPa以下の引張応力を付与した状態で、150℃以上300℃以下の熱処理を連続的に施す工程と、
    前記熱処理が施されたマグネシウム合金からなる板材を渦巻き状に巻き取る工程とを備え、
    前記板材の全長が200m以上であり、前記板材の全長に亘って、残留応力のばらつきが8MPa以内であるマグネシウム合金コイル材を製造するマグネシウム合金コイル材の製造方法。
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