JP6263296B2 - 異種材料溶接用ワイヤ及びその製造方法 - Google Patents
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Description
以下、本発明の異種材料溶接用ワイヤの製造方法の実施の形態及び該方法によって製造する異種材料溶接用ワイヤについて詳細に説明する。図1(A)は本発明の第1の製造方法を実施する製造装置の一部の概略を示す図であり、図1(B)は図1(A)の丸印で囲んだ部分Bの概略拡大断面図である。
上記の製造方法によって製造した本実施の形態の異種材料溶接用ワイヤは、Fe系被溶接材とAl系被溶接材とを溶接するための異種材料溶接用ワイヤである。本実施の形態の異種材料溶接用ワイヤ1は、図4に示す模擬横断面(ワイヤの長手方向と直交する方向に切断した断面)に示されるように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管状の金属外皮3内に、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導電性心線5が配置され、金属外皮3と導電性心線5との間に、被溶接材料の表面から酸化皮膜を除去する機能を少なくとも有し且つ溶融金属の合金元素としての金属粉を含むフラックスの層7もしくは金属粉を含まない金属弗化物のフラックスの層7が、乾燥コーティング層の形で存在している。そして本実施の形態の異種材料溶接用ワイヤ1の外径寸法は1.0〜2.0mmである。この寸法は、既存の溶接機で使用する溶接用ワイヤの一般的な線径寸法である。またフラックス充填率は、異種材料溶接用ワイヤ1全体の質量に対して0.2〜4.9質量%である。
アルミニウム又はアルミニウム合金の接合において、母材表面のアルミニウム酸化皮膜は、溶融金属の流れ、広がりを阻害するため除去する必要がある。このため、フラックスにて、母材表面の酸化皮膜を除去する。特にアルカリ金属弗化物のフラックスは、母材表面のアルミニウム酸化皮膜を溶融アルカリにて溶かし、表面を活性にして溶融金属との濡れを容易にする作用がある。
以下、本発明の異種材料溶接用ワイヤの実施例と比較例を用いて溶接試験を実施した結果を説明する。図5に示した表1には、乾燥コーティング層をフラックスの層として備えた、本発明の異種材料溶接用ワイヤの実施例1〜20の構造、金属外皮、導電性心線の種類、固相線温度差、フラックス充填率、フラックス供給方法、内包フラックスの種類を表示した。また表1には、本発明の効果を比較確認するために乾燥コーティング層を用いてフラックス充填率を多くした比較例1と、乾燥コーティング層を用いずに粉状のフラックスを充填した比較例2と、フラックスコアードワイヤの比較例3〜5の構造、金属外皮、導電性心線の種類、固相線温度差、フラックス充填率、フラックス供給方法、内包フラックスの種類を示した。以下の実施例1〜20及び比較例1においては、異種材料溶接用ワイヤ1の外径寸法は1.2mmまたは1.6mmとし、金属外皮3の内径寸法及び導電性心線5の外径寸法を変え且つ乾燥コーティング層としてフラックスを充填することにより、金属外皮3と導電性心線5との間に形成される僅かの隙間の寸法を変えることにより、フラックス充填率を変えている。比較例3〜5については、特許文献1及び2に示すワイヤと同様に、導電性心線を用いることなく金属外皮の内部に粉状のフラックスだけを充填している。
以下溶接用ワイヤに含まれる化学成分について説明する。
図6に示した表2には、表1に示した実施例1〜20及び比較例1〜5の異種材料溶接用ワイヤを用いた評価試験の評価結果が示されている。評価試験では、継手形状、母材組合せ(アルミニウム合金と炭素鋼及びステンレス鋼の組合せ)及び接合方法の相違に応じて、ミグ溶接及びレーザー溶接にて1パスで作製した際のミグ溶接におけるアークの安定性、レーザー溶接における溶融状態、スパッタ発生状態、作製された試験体についてのビード形状、溶接金属部の割れの有無、引張試験における破断荷重、鋼材側界面(炭素鋼及びステンレス鋼側界面)の金属間化合物(IMC)層の厚さの確認試験を行った。なお継手の試験片としては、1パスで作製したフレア溶接継手の試験片[図7(A)]、重ね溶接継手の試験片[図7(B)]または突合せ溶接継手の試験片[図7(C)]のいずれかを用いた。
ミグ溶接では、径1.2mmの異種材料溶接用ワイヤを用い、下向姿勢により交流パルス溶接又は直流パルス溶接にて、電流65〜122A、電圧12.0〜16.2V、溶接速度600〜2000mm/minの条件で行った。一方、レーザー溶接は、径1.2及び1.6mmの異種材料溶接用ワイヤを用い、下向姿勢によりファイバーレーザーにて、レーザー出力2〜4kW、溶接速度500〜1000mm/minの条件で行った。各実施例及び比較例において実際に採用した試験条件は、上記の範囲の中から最良の条件を選択した。また、いずれの溶接方法もシールドガスとしてアルゴンを使用した。
ミグ溶接におけるアーク安定性の評価では、主にアーク移行形態、アーク長の変動有無、アークの集中性(片側母材へのアーク片寄り有無)を確認し、アーク長の変動がなく、アークの集中性が良好で安定したスプレー移行のアークが得られた場合を○(良好)とし、いずれか1つでも劣る場合について、程度により△(許容範囲)又は×(不良)とした。
レーザー溶接における溶融状態の評価では、レーザー照射下の異種材料溶接用ワイヤの溶融状況を高速度カメラにて観察し、金属外皮、導電性心線、フラックスが正常に溶融し溶融池を形成している場合を○(良好)とし、いずれかが未溶融の状態で溶融池に供給されている場合又は安定した溶融池が形成されない場合について、程度により△(許容範囲)又は×(不良)とした。
スパッタ発生状態の評価では、目視による溶接時のスパッタ発生状態の観察及び溶接後の試験片表面へのスパッタの付着状況を観察し、スパッタ発生がほとんどなく、付着もないものを〇(良好)とし、発生は若干あるが、除去出来る程度のものを△(許容範囲)とし、発生が多く付着が多いものを×(不良)とした。
ミグ及びレーザー溶接にて作製した継手のビード形状の評価では、目視により継手表面のビード形状を確認するとともに、溶接ビードの断面形状についても光学顕微鏡を用いて約15倍に拡大し観察した。なお、光学顕微鏡観察用試料は、継手から切り出した溶接継手断面を樹脂に埋め込んでバフ研磨仕上げを施した。
ミグ及びレーザー溶接にて作製した継手の溶接金属部の割れの評価では、溶接継手断面について光学顕微鏡を用いて約15〜400倍に拡大し溶接金属部の割れの有無を確認し、溶接金属部の割れがない場合を○(良好)、溶接金属部の割れが発生している場合を×(不良)とした。
ミグ及びレーザー溶接にて作製した継手の引張試験では、図7(A)〜(C)に示す溶接継手から溶接方向に直角に20mm幅の引張試験片を採取し、テンシロン万能材料試験機を使用し、アルミニウム合金母材及び炭素鋼及びステンレス鋼板に引張荷重を付加し、破断荷重を測定した。
ミグ及びレーザー溶接にて作製した継手の金属間化合物(IMC)の評価では、溶接継手断面について光学顕微鏡を用いて約400倍に拡大し、炭素鋼及びステンレス鋼板側界面の全長に渡りIMC層の厚さを測定した。アルミニウム又はアルミニウム合金と鋼板の接合において、鋼板側界面に生成するFeAl系のIMC層は、継手強度を著しく低下させるため、層の厚さを低く抑えることが好ましく、最大幅が4μm以下の場合を良好(○)とし、5μm以上の場合を×(不良)とした。
(結果説明:ミグアーク安定性/レーザー溶融状態/スパッタ発生状態)
図6の表2に示す各試験結果に基づいて、本実施の形態の効果を具体的に説明する。実施例1〜7,9,14〜18は、金属外皮にアルミニウム、導電性心線にAl−Si合金を用い、金属外皮よりも導電性心線の固相線温度が低い組合せとした。これらの実施例では、ミグ溶接において、65〜122Aの低電流域でも液柱(溶融柱)の不安定な挙動が抑制され、アーク長の変動がなく、アークの集中性が良好で安定したスプレー移行のアークが得られている。実施例20は、金属外皮及び導電性心線にアルミニウムを用い、両者の固相線温度に差がなかったため、ミグ溶接において、効果が得られず、アークの集中性がやや弱かった。
ビード形状の評価結果において、実施例1〜7,9,14〜18は、ミグ溶接用であり、金属外皮よりも導電性心線の固相線温度が低い組合せである。そして、適正なフラックス充填率、フラックス供給方法、フラックスの種類、化学成分に調整されており、良好なビード形状が得られている。これらの中で、実施例1〜5,7,9,14,15,17,18はフラックス充填率が1.0〜1.8%の範囲内であることから、よりアーク安定性が増し、さらに良好なビードが形成されるという効果が得られている。また、実施例20は、金属外皮と導電性心線に固相線温度差がなく、ミグ溶接におけるアークの安定性にやや劣ったため、ビード幅がわずかに乱れた。
溶接金属部の割れ確認結果において、実施例1〜20は本発明の範囲内のフラックス充填率、フラックス供給方法、フラックスの種類であり、Si,Cu,Mn,Znが適正量含有されており、残部がAlからなる組成を備えているため、析出物による過度なマトリックスの硬化もなく、溶接金属に割れは確認されなかった。
継手の引張試験結果において、実施例1〜13、16〜20は、本発明の範囲内のフラックス充填率、フラックス供給方法、フラックスの種類であり、かつAl−Si−Cu系の化学組成であり、いずれもSiによるIMC生成抑制効果によりIMC層の厚さは4μm以下に抑制された上で、Cuの固溶強化及び析出強化により、充分な破断荷重が得られた。
3 金属外皮
5 導電性心線
7 乾燥コーティング層
Claims (13)
- アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管状の金属外皮内に、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導電性心線が配置されており、
前記金属外皮と前記導電性心線との間に、被溶接材料の表面から酸化皮膜を除去する機能を少なくとも有するフラックスが存在しており、
前記フラックスの充填率がワイヤ全体の質量に対して4.9質量%以下であるFe系被溶接材とAl系被溶接材とを溶接するための異種材料溶接用ワイヤの製造方法であって、
前記導電性心線を形成するための導電性心線材料の表面に前記フラックスの材料と溶媒とを混練したフラックスペーストを塗布してコーティング層を備えたコーティング導電性心線材料を形成し、
前記コーティング導電性心線材料が中心に位置するように、前記コーティング導電性心線材料の外側に前記管状の金属外皮を形成するための管状の金属外皮材料を形成することにより線引き用ワイヤを形成し、
前記線引き用ワイヤを所定の外径寸法になるまで線引き作業を行うことを特徴とする異種材料溶接用ワイヤの製造方法。 - 前記コーティング層を前記溶媒が一部残る程度まで乾燥した後、前記管状の金属外皮材料を形成する請求項1に記載の異種材料溶接用ワイヤの製造方法。
- アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管状の金属外皮内に、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導電性心線が配置されており、
前記金属外皮と前記導電性心線との間に、被溶接材料の表面から酸化皮膜を除去する機能を少なくとも有するフラックスが存在しており、
前記フラックスの充填率がワイヤ全体の質量に対して4.9質量%以下であるFe系被溶接材とAl系被溶接材とを溶接するための異種材料溶接用ワイヤの製造方法であって、
長手方向と直交する横断面形状が円弧状を呈する金属外皮材料の内表面に前記フラックスの材料と溶媒とを混練したフラックスペーストを塗布してコーティング層を備えたコーティング金属外皮材料を形成し、
前記コーティング金属外皮材料の内部に前記導電性心線を形成するための導電性心線材料を配置した状態で、前記コーティング金属外皮材料を成形して前記導電性心線材料の外側に管状の金属外皮材料を形成することにより線引き用ワイヤを形成し、
前記線引き用ワイヤを所定の外径寸法になるまで線引き作業を行うことを特徴とする異種材料溶接用ワイヤの製造方法。 - 前記コーティング層を前記溶媒が一部残る程度まで乾燥した後、前記管状の金属外皮材料を形成する請求項3に記載の異種材料溶接用ワイヤの製造方法。
- アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる管状の金属外皮内に、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる導電性心線が配置されており、
前記金属外皮と前記導電性心線との間に、被溶接材料の表面から酸化皮膜を除去する機能を少なくとも有するフラックスが存在しており、
前記フラックスの充填率がワイヤ全体の質量に対して4.9質量%以下であるFe系被溶接材とAl系被溶接材とを溶接するための異種材料溶接用ワイヤにおいて、
前記金属外皮と前記導電性心線との間の前記フラックスが乾燥コーティング層として存在していることを特徴とする異種材料溶接用ワイヤ。 - 前記Fe系被溶接材は炭素鋼またはステンレス鋼であり、
前記導電性心線は、前記金属外皮よりも固相線温度が低いアルミニウム合金からなる請求項5に記載の異種材料溶接用ワイヤ。 - 前記フラックスの充填率が0.2〜4.9質量%であり、
前記乾燥コーティング層の厚みが、最大で200μm以下である請求項5に記載の異種材料溶接用ワイヤ。 - 前記溶接はミグ溶接であり、
前記異種材料溶接用ワイヤの外径寸法が1.0mm〜1.6mmであり、
前記フラックスの充填率が前記異種材料溶接用ワイヤ全体の質量に対して0.2〜1.8質量%であることを特徴とする請求項6または7に記載の異種材料溶接用ワイヤ。 - 前記フラックスの充填率が前記異種材料溶接用ワイヤ全体の質量に対して1.0〜1.8質量%である請求項8に記載の異種材料溶接用ワイヤ。
- 前記溶接はレーザー溶接であり、
前記異種材料溶接用ワイヤの外径寸法が1.0mm〜2.0mmであり、
前記フラックスの充填率が前記異種材料溶接用ワイヤ全体の質量に対して1.0〜4.9質量%であることを特徴とする請求項7に記載の異種材料溶接用ワイヤ。 - 前記フラックスの充填率が前記異種材料溶接用ワイヤ全体の質量に対して1.3〜4.4質量%である請求項10に記載の異種材料溶接用ワイヤ。
- 前記フラックスが、溶融金属の合金元素としての金属粉を含む請求項5乃至11のいずれか1項に記載の異種材料溶接用ワイヤ。
- 前記フラックスは、KAlF系金属弗化物を主成分とし、CsAlF4,KF,NaF,LiF,CeF,CsF,AlF 3 の金属弗化物のいずれか1種以上が添加されており、さらにAl,Si,Cu,Zn,Mnのいずれか1種以上の金属粉末が添加されている請求項5乃至12のいずれか1項に記載の異種材料溶接用ワイヤ。
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