図1はこの発明の実施例に係る無段変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
図1において符号10はエンジン(内燃機関。駆動源)を示す。エンジン10は駆動輪12を備えた車両14に搭載される(車両14は駆動輪12などで部分的に示す)。
エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ16は車両運転席床面に配置されるアクセルペダル18との機械的な接続が絶たれて電動モータなどのアクチュエータからなるDBW(Drive By Wire)機構20に接続され、DBW機構20で開閉される。
スロットルバルブ16で調量された吸気はインテークマニホルド(図示せず)を通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ(図示せず)から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブ(図示せず)が開弁されたとき、当該気筒の燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室において混合気は点火されて燃焼し、ピストンを駆動してクランクシャフト22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
クランクシャフト22の回転はトルクコンバータ24を介して無段変速機(Continuously Variable Transmission)Tに入力される。無段変速機Tはクランクシャフト22にトルクコンバータ24を介して接続された主入力軸(入力軸)26と、主入力軸26に対して平行に配置された第1副入力軸28および第2副入力軸30と、第1副入力軸28および第2副入力軸30の間に配置された無段変速機構32とを備える。
無段変速機構32は第1副入力軸28、より正確にはその外周側シャフトに配置された第1プーリ32aと、第2副入力軸30、より正確にはその外周側シャフトに配置された第2プーリ32bと、その間に掛け回される動力伝達要素、例えば金属製のベルト32cからなる。
第1プーリ32aは、第1副入力軸28の外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体32a1と、第1副入力軸28の外周側シャフトに相対回転不能で固定プーリ半体32a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体32a2と、可動プーリ半体32a2の側方に設けられて油圧(作動油の圧力)を供給されるときに可動プーリ半体32a2を固定プーリ半体32a1に向けて押圧する、ピストンとシリンダとスプリングからなる油圧アクチュエータ32a3を備える。
第2プーリ32bは、第2副入力軸30の外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体32b1と、第2副入力軸30の外周側シャフトに相対回転不能で固定プーリ半体32b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体32b2と、可動プーリ半体32b2の側方に設けられて油圧(作動油の圧力)を供給されるときに可動プーリ半体32b2を固定プーリ半体32b1に向けて押圧する、ピストンとシリンダとスプリングからなる油圧アクチュエータ32b3を備える。
主入力軸26にはLOW摩擦クラッチ34aおよびHIGH摩擦クラッチ34b(入力連結機構)が設けられる。また、主入力軸26には第1減速ギア36が相対回転自在に支持されると共に、第1副入力軸28には第1減速ギア36に噛合する第2減速ギア38が固設される。従って、LOW摩擦クラッチ34aを係合すると、主入力軸26から入力されるエンジン10のトルクは、第1、第2減速ギア36,38で減速された後、第1副入力軸28を介して第1プーリ32aに入力される。なお、この明細書において、第1、第2減速ギア36,38および第1副入力軸28を介して主入力軸26から第1プーリ32aへとトルクを伝達する経路を第1入力経路(入力経路)と呼ぶ。
さらに、主入力軸26には第1増速ギア40が相対回転自在に支持されると共に、第2副入力軸30には第1増速ギア40に噛合する第2増速ギア42が相対回転自在に支持される。従って、HIGH摩擦クラッチ34bを係合すると、主入力軸26から入力されるエンジン10のトルクは第1、第2増速ギア40,42で増速された後、第2副入力軸30を介して第2プーリ32bに入力される。なお、この明細書において第1、第2増速ギア40,42および第2副入力軸30を介して主入力軸26から第2プーリ32bへとトルクを伝達する経路を第2入力経路(入力経路)と呼ぶ。
第2副入力軸30上、換言すれば、第2入力経路と無段変速機構32の間には同期機構付き噛合式係合機構からなる前後進ドグクラッチ機構44(入力連結機構)が介挿される。前後進ドグクラッチ機構44のスリーブ(図示せず)が紙面右側に移動すると第2増速ギア42が第2副入力軸30に係合され、主入力軸26の回転がそのまま(反転されることなく)第2副入力軸30に入力される結果、車両14が前進する。一方、前後進ドグクラッチ機構44のスリーブが紙面左側に移動するとリバースドライブギア44aが第2副入力軸30に係合され、主入力軸26の回転はリバースドリブンギア44b、リバースアイドルギア44c、リバースドライブギア44aによって反転されて第2副入力軸30に入力される結果、車両14が後進する。
中間出力軸46には第1増速ギア40に噛合する第3減速ギア48が相対回転自在に支持されると共に、第3減速ギア48を中間出力軸46に結合するための同期機構付き噛合式係合機構、より具体的には、LOW側ドグクラッチ50およびそのシフトフォーク(LOW側シフトフォーク、図示せず)が設けられる。なお、この明細書においてLOW側ドグクラッチ50およびLOW側シフトフォークを第1出力連結機構(出力連結機構)と呼ぶ。
また、中間出力軸46には第1ファイナルドライブギア52が固設され、第1ファイナルドライブギア52はディファレンシャル機構54のファイナルドリブンギア56に噛合し、ディファレンシャル機構54から左右の駆動輪12に向けて伸びる出力軸58に接続される。
なお、この明細書において、第2副入力軸30、前後進ドグクラッチ機構44、第1、第2増速ギア40,42、第3減速ギア48、中間出力軸46、第1ファイナルドライブギア52、ファイナルドリブンギア56およびディファレンシャル機構54を介して第2プーリ32bから出力軸58へとトルクを伝達する経路を第1出力経路(出力経路)と呼ぶ。
第1副入力軸28には第2ファイナルドライブギア60が相対回転自在に支持されると共に、第2ファイナルドライブギア60を第1副入力軸28に結合するための同期機構付き噛合式係合機構、より具体的には、HIGH側ドグクラッチ62およびそのシフトフォーク(HIGH側シフトフォーク、図示せず)が設けられる。なお、この明細書においてHIGH側ドグクラッチ62およびHIGH側シフトフォークを第2出力連結機構(出力連結機構)と呼ぶ。
なお、この明細書において、第1副入力軸28、第2ファイナルドライブギア60、ファイナルドリブンギア56およびディファレンシャル機構54を介して第1プーリ32aから出力軸58へとトルクを伝達する経路を第2出力経路(出力経路)と呼ぶ。
なお、上記した第1、第2、第3減速ギア36,38,48、第1、第2増速ギア40,42、第1、第2ファイナルドライブギア52,60およびファイナルドリブンギア56はこの実施例に係る無段変速機Tの副変速機構に相当する。
ここで、副変速機構を構成する各ギアのギア比は、以下の通りに設定される。即ち、第1入力経路(第1減速ギア36から第2減速ギア38)のギア比をired、第2入力経路(第1増速ギア40から第2増速ギア42)のギア比をiind、無段変速機構32の第1プーリ32aから第2プーリ32bへの最小変速比をiminとすると、ired×imin=iindとなるように設定される。また、第1出力経路(第2増速ギア42から第1増速ギア40、第1増速ギア40から第3減速ギア48(第1ファイナルドライブギア52)、第1ファイナルドライブギア52からファイナルドリブンギア56)のギア比をiout1、第2出力経路(第2ファイナルドライブギア60からファイナルドリブンギア56)のギア比をiout2、とすると、imin×iout1=iout2となるように設定される。
従って、無段変速機構32の第1プーリ32aから第2プーリ32bへの変速比を最小変速比iminに設定した場合、第1入力経路と第1出力経路とで構成される伝達経路、より正確には、第1入力経路から第1プーリ32a、ベルト32c、第2プーリ32bおよび第1出力経路を通るトルク伝達経路(LOWモードにおけるトルク伝達経路)の変速比と、第2入力経路と第2出力経路とで構成される伝達経路、より正確には、第2入力経路から第2プーリ32b、ベルト32c、第1プーリ32aおよび第2出力経路を通るトルク伝達経路(HIGHモードにおけるトルク伝達経路)の変速比とが同一の変速比となる。
ここで、上記構成を備えた無段変速機Tの変速モードについて説明する。図2は車両14が前進走行時、より正確には、LOWモードで走行中のトルク伝達経路を示す説明図、図3は車両14が後進走行時におけるトルク伝達経路を示す説明図である。LOWモードでは、LOW摩擦クラッチ34aおよびLOW側ドグクラッチ50が係合される一方、HIGH摩擦クラッチ34bおよびHIGH側ドグクラッチ62は解放される。また、前後進ドグクラッチ機構44は前進側、即ち紙面右側に向けて移動され、第2増速ギア42と係合(連結)する。
従って、LOWモードにおけるエンジン10のトルクの伝達経路は、エンジン10→クランクシャフト22→トルクコンバータ24→主入力軸26→LOW摩擦クラッチ34a→第1入力経路(より具体的には、第1減速ギア36→第2減速ギア38→第1副入力軸28)→第1プーリ32a→ベルト32c→第2プーリ32b→第1出力経路(より具体的には、第2副入力軸30→前後進ドグクラッチ機構44→第2増速ギア42→第1増速ギア40→第3減速ギア48→LOW側ドグクラッチ50→中間出力軸46→第1ファイナルドライブギア52→ファイナルドリブンギア56→ディファレンシャル機構54)→出力軸58→駆動輪12となる。
また、後進走行モードでは前後進ドグクラッチ機構44は後進側、即ち紙面左側に向けて移動され、リバースドライブギア44aと係合(連結)する。
従って、後進走行モードにおけるエンジン10のトルク伝達経路は、エンジン10→クランクシャフト22→トルクコンバータ24→主入力軸26→LOW摩擦クラッチ34a→第1入力経路→第1プーリ32a→ベルト32c→第2プーリ32b→第2副入力軸30→前後進ドグクラッチ機構44→リバースドライブギア44a→リバースアイドルギア44c→リバースドリブンギア44b→第1増速ギア40→第3減速ギア48→LOW側ドグクラッチ50→中間出力軸46→第1ファイナルドライブギア52→ファイナルドリブンギア56→ディファレンシャル機構54→出力軸58→駆動輪12となる。
また、図示は省略するが、HIGHモードでは、HIGH摩擦クラッチ34bおよびHIGH側ドグクラッチ62が係合される一方、LOW摩擦クラッチ34aおよびLOW側ドグクラッチ50は解放され、エンジン10のトルクは、エンジン10→クランクシャフト22→トルクコンバータ24→主入力軸26→HIGH摩擦クラッチ34b→第2入力経路→第2プーリ32b→ベルト32c→第1プーリ32a→第2出力経路→出力軸58→駆動輪12と伝達される。
なお、上記したトルク伝達経路(モード)の切替制御や、上記以外の走行モードについては、本発明の要旨と直接関係しないため、詳細な説明は省略するが、例えば、本出願人が先に提案した特願2014−043441号に記載される技術などが妥当する。
図1に戻って説明を続けると、車両運転席にはレンジセレクタ70が設けられ、運転者が例えばP,R,N,Dなどのレンジのいずれかを選択することで前後進ドグクラッチ機構44の切り替えが行われる。即ち、運転者のレンジセレクタ70の操作によるレンジ選択は変速機油圧供給機構72のマニュアルバルブに伝えられ、車両14を前進あるいは後進走行させる。
なお、図示は省略するが、変速機油圧供給機構72にはオイルポンプ(送油ポンプ)が設けられ、エンジン10で駆動されてリザーバに貯留された作動油を汲み上げて油路に吐出する。
油路は無段変速機構32の第1、第2プーリ32a,32bの油圧アクチュエータ32a3,32b3、トルクコンバータ24のロックアップクラッチなどに電磁弁を介して接続される。
エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ74が設けられ、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブ16の下流の適宜位置には絶対圧センサ76が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。
DBW機構20のアクチュエータにはスロットル開度センサ78が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットルバルブ16の開度THに比例した信号を出力する。
前記したアクセルペダル18の付近にはアクセル開度センサ80が設けられて運転者のアクセルペダル操作量に相当するアクセル開度APに比例する信号を出力する。上記したクランク角センサ74などの出力は、エンジンコントローラ82に送られる。
主入力軸26にはNTセンサ(回転数センサ)84が設けられ、主入力軸の回転数NTを示すパルス信号を出力する。
無段変速機構32の第1副入力軸28にはN1センサ(回転数センサ)86が設けられて第1副入力軸28の回転数N1、換言すれば第1プーリ32aの回転数に応じたパルス信号を出力する。また、第2副入力軸30にはN2センサ(回転数センサ)88が設けられて第2副入力軸30の回転数N2、換言すれば第2プーリ32bの回転数に応じたパルス信号を出力する。
第2ファイナルドライブギア60の付近には車速センサ(回転数センサ。車速検出手段)90が設けられて車両14の走行速度を意味する車速Vを示すパルス信号を出力する。また、前記したレンジセレクタ70の付近にはレンジセレクタスイッチ92が設けられ、運転者によって選択されたP,R,N,Dなどのレンジに応じた信号を出力する。
変速機油圧供給機構72において、無段変速機構32の第1、第2プーリ32a,32bに通じる油路にはそれぞれ油圧センサ94が配置され、第1、第2プーリ32a,32bの油圧アクチュエータ32a3,32b3のピストン室(図示せず)に供給される油圧に応じた信号を出力する。また、図示は省略するが、前後進ドグクラッチ機構44のクラッチのピストン室やトルクコンバータ24のロックアップクラッチのピストン室に連結される油路にもそれぞれ油圧センサが配置され、各供給油圧に応じた信号を出力する。
出力連結機構、より具体的には、LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62の付近には第1、第2ストロークセンサ96,98が設けられ、LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62の移動量に応じた信号を出力する。また、図示は省略するが、前後進ドグクラッチ機構44の付近にもストロークセンサが設けられ、前後進ドグクラッチ機構44のクラッチの移動量に応じた信号を出力する。
上記したNTセンサ84などの出力は、図示しないその他のセンサの出力も含め、シフトコントローラ100(制御手段)に送られる。エンジンコントローラ82とシフトコントローラ100はCPU,ROM,RAM,I/Oなどで構成されるマイクロコンピュータを備えると共に、相互に通信自在に構成される。
エンジンコントローラ82は上記したセンサ出力に基づいて目標スロットル開度を決定してDBW機構20の動作を制御し、燃料噴射量や点火時期を決定してインジェクタあるいは点火プラグなどの点火装置の動作を制御する。
シフトコントローラ100は油圧センサ94の出力に基づきプーリ供給油圧(側圧)を算出し、算出された側圧に応じて変速機油圧供給機構72の種々の電磁弁を励磁・消磁することにより第1、第2プーリ32a,32bの油圧アクチュエータ32a3,32b3のピストン室への油圧の給排を制御して無段変速機構32の動作を制御すると共に、前後進ドグクラッチ44とトルクコンバータ24の動作を制御する。
図4はシフトコントローラ100の動作、より具体的には、第1、第2プーリ32a,32bの側圧制御に関する動作を説明するフロー・チャートである。なお、図4の処理は所定時間ごとに繰り返し実行される。
以下説明すると、S10において、各種センサの出力に基づいてエンジン回転数NE、第1プーリ回転数N1、第2プーリ回転数N2および吸気圧PBAを読み込む(S:処理ステップ)。
次いでプログラムはS12に進み、エンジン出力トルクTEを算出する。具体的には、エンジン回転数NEと吸気圧PBAに基づき、予め定められたマップを検索して得られるエンジン駆動トルクをエンジン出力トルクTEとして認定する。但し、燃料カットが行われている場合はエンジン回転数NEに基づき、予め定められたマップを検索して得られるエンジンフリクショントルクをエンジン出力トルクTEとして認定する。
次いでプログラムはS14に進み、各種イナーシャトルクIを算出する。具体的には、エンジン10のエンジンイナーシャトルクIEと、駆動側プーリのプーリイナーシャトルクIDRを算出する。なお、この発明の実施例における無段変速機Tでは、上記した如く、車両14がLOWモードで走行している場合は第1プーリ32aが駆動側プーリとなり、車両14がHIGHモードで走行している場合は第2プーリ32bが駆動側プーリとなる。
次いでプログラムはS16に進み、各種フリクショントルクFを算出する。具体的には、エンジン10によって駆動されるオイルポンプ(図示せず)におけるポンプ駆動フリクショントルクFPUMPと、ベルト32cにて発生するベルト駆動フリクショントルクFBLTと、車両14に設けられるエアコンディショナ(図示せず)などの駆動に要するエアコンフリクショントルクFACを算出する。
次いでプログラムはS18に進み、算出された各種トルクを用いてベルト伝達トルクTBLTを算出する。なお、上記した各種トルクの算出については、例えば、特許文献1に記載されるような公知の技術を用いることができる。
図5はベルト伝達トルクTBLTを算出する処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。なお、以下の説明においては、車両14がLOWモードで走行中、即ち、第1プーリ32aが駆動側プーリとして動作している場合を例にとって説明する。
以下説明すると、S100において、レンジセレクタ70を介して運転者によって選択されているシフトレンジがNまたはPであるか否か、換言すれば、シフトレンジが非走行レンジにあるか否か判断する。
S100で肯定される場合、プログラムはS102に進み、従動側の第2プーリ32bに供給される側圧が駆動側の第1プーリ32aに供給される側圧よりも低圧か否か判断する。従動側プーリの側圧の方が高圧であるときはベルト駆動フリクショントルクFBLTの影響を考慮する必要はないため、S102で否定されるときはS104に進み、駆動側の第1プーリ32aのプーリイナーシャトルクIDRにより、第1プーリ32aからベルト32cを介して伝達される実ベルト伝達トルクTINを決定する。
一方、S102で肯定される場合、プログラムはS106に進み、第1プーリ32aのイナーシャトルクIDRおよびベルト駆動フリクショントルクFBLTにより、実ベルト伝達トルクTINを決定(算出)する。なお、シフトポジションがNまたはPの非走行レンジにある場合、LOW/HIGH摩擦クラッチ34a,34bは解放され、エンジン10からの動力伝達が遮断された状態にあることから、S104,S106においてはその他のトルク(エンジンイナーシャトルクIE、ポンプ駆動フリクショントルクFPUMP、エアコンフリクショントルクFAC)の影響を考慮する必要はない。
他方、S100で否定される場合、プログラムはS108に進み、噛合式係合機構において入出力回転数を同期させる必要があるか否か、換言すれば、車両14の走行状態に応じて実行される無段変速機Tの変速動作において、同期機構付き噛合式係合機構(前後進ドグクラッチ機構44、LOW側ドグクラッチ50、HIGH側ドグクラッチ62)のいずれかを係合させるべき状態にあるか否か判断する。
S108で否定される場合は従来と同様の制御が実行される。即ち、プログラムはS110に進み、S102同様、従動側の第2プーリ32bに供給される側圧が駆動側の第1プーリ32aに供給される側圧よりも低圧か否か判断し、否定されるときはS112に進み、ベルト駆動フリクショントルクFBLTの影響を考慮せず、エンジン出力トルクT E 、エンジンイナーシャトルクIE、第1プーリ32aのプーリイナーシャトルクIDR、ポンプ駆動フリクショントルクFPUMP、エアコンフリクショントルクFACとから実ベルト伝達トルクTINを決定する。
一方、S110で肯定される場合、プログラムはS114に進み、エンジン出力トルクT E 、エンジンイナーシャトルクIE、第1プーリ32aのプーリイナーシャトルクIDR、ポンプ駆動フリクショントルクFPUMP、エアコンフリクショントルクFACおよびベルト駆動フリクショントルクFBLTとから実ベルト伝達トルクTINを決定する。
また、S108で肯定、即ち、同期機構付き噛合式係合機構のいずれかにおいて入出力回転数を同期させる必要があると判断された場合、プログラムはS116に進み、S102,S110と同様、従動側の第2プーリ32bに供給される側圧が駆動側の第1プーリ32aに供給される側圧よりも低圧か否か判断する。
S116で否定される場合、プログラムはS118に進み、同期作業中の噛合式係合機構を係合するため(より正確には、同期・係合動作をするため)に必要なトルク分(同期トルクTSYNC)のみから実ベルト伝達トルクTINを決定する。また、S116で肯定される場合、プログラムはS120に進み、同期トルクTSYNCおよびベルト駆動フリクショントルクFBLTとから実ベルト伝達トルクTINを決定する。なお、同期トルクTSYNCは予め実験により、あるいは設計上の値として求められる。
即ち、この発明の実施例にあっては、S108で肯定されて同期機構付き噛合式係合機構の入出力回転数を同期すべき、換言すれば、入出力回転数の差回転を零とすべきと判断された場合、各種イナーシャトルク(エンジンイナーシャトルクIE、プーリイナーシャトルクIDR、ポンプ駆動フリクショントルクFPUMP、エアコンフリクショントルクFAC)に代えて、同期機構付き係合機構の同期・係合動作に必要なトルク分(同期トルクTSYNC)から実ベルト伝達トルクTINを決定するようにした。
後述するように、第1、第2プーリ32a,32bに供給されるべき側圧は算出された実ベルト伝達トルクTINに基づいて算出される。従って、同期作業中は駆動側プーリのイナーシャトルクIDR等を用いずに実ベルト伝達トルクTINを算出するように構成することで、第1、第2プーリ32a,32bに供給されるべき側圧を低減させることができる。その結果、第1、第2プーリ32a,32bとベルト32c間のプーリフリクションを低減させることが可能となり、同期機構付き噛合式係合機構の同期に要する同期時間を短縮させ、その同期性を向上させることができる。
上記処理(S104,S106,S112,S114,S118,S120)によって実ベルト伝達トルクTINが決定されると、プログラムはS122に進み、実ベルト伝達トルクTINの絶対値に対し、所定の余裕分を加味した安全率SFを乗じてベルト伝達トルクTBLTを算出し、プログラムを終了する。
図4に戻って説明を続けると、次いでプログラムはS20に進み、算出されたベルト伝達トルクTBLTに基づいて第1、第2プーリ32a,32bに供給されるべき目標側圧を算出する。
なお、車両14がHIGHモードで走行中の場合、上記した如く、無段変速機構32におけるトルク伝達経路が反転、即ち、エンジン10のトルクが第2プーリから第1プーリへと伝達される。従って、HIGHモードにあっては、第1、第2プーリ32a,32bに供給される側圧の大小関係も反転することとなるが、当該相違点を除けば、図4における上記説明はHIGHモードにおける制御にも妥当する。
図6は図5フロー・チャートの処理を説明するタイム・チャートである。図6は、図5の処理における同期機構付き噛合式係合機構として前後進ドグクラッチ機構44を例とする場合を示す。
図示するように、時刻t1において運転者がレンジセレクタ70を操作してシフトレンジをDレンジからRレンジ、即ち、前進走行から後進走行へとレンジを切り替えると、前後進ドグクラッチ機構44のシフトフォークが動作し、前進用の第2増速ギア42との係合を解放し、さらに後進用のリバースドライブギア44aと係合する方向へ移動する。
ただし、噛合式係合機構にあっては、入力側と出力側の回転数が同期しなければクラッチを係合することができないため、時刻t1以降、係合されるべきリバースドライブギア44aの回転数と入力側となる第2副入力軸30の回転数との差(後進用ギアの入出力差回転)が零となるように同期制御が実行される。
この際、図5を示して説明したように、第1、第2プーリ32a,32bに供給される側圧は、各種イナーシャトルク(エンジンイナーシャトルクIE、プーリイナーシャトルクIDR、ポンプ駆動フリクショントルクFPUMP、エアコンフリクショントルクFAC)分は考慮せず、同期機構付き噛合式係合機構の同期作業に必要なトルク分(同期トルクTSYNC)から算出されたベルト伝達トルクTBLTに基づいて算出される。従って、図6において矢印および実線で示す如く、第1、第2プーリ32a,32bに供給されるべき側圧は、従来のプーリ側圧(図6に破線で示す)に比して小さい値に低減することができる。
この結果、第1、第2プーリ32a,32bとベルト32cの間に働くプーリフリクションを低減させることが可能となり、同期機構付き噛合式係合機構(前後進ドグクラッチ機構44)の同期に要する同期時間を短縮させ、その同期性を向上させることができる。
時刻t2において第2副入力軸30とリバースドライブギア44aの入出力差回転が零となると、第2副入力軸30とリバースドライブギア44aとが係合、換言すれば、前後進ドグクラッチ機構44のシフトフォークの位置が後進走行用位置(図1の紙面左側位置)に移動する。
なお、上記した例にあっては、同期機構付き噛合式係合機構として前後進ドグクラッチ機構44を例にとって説明したが、LOW側ドグクラッチ50またはHIGH側ドグクラッチ62における同期・係合制御にあっても上記説明は妥当する。
ただし、この発明の実施例にあっては、前後進ドグクラッチ機構44の同期・係合動作中はクラッチの係合の前後にわたって出力軸58と無段変速機構32とが連結された状態にあるため、第1、第2プーリ32a,32bに供給される側圧が低いと、車両14が急停止するなどして出力軸58側からトルクが入力された場合、第1、第2プーリ32a,32bに当該トルクが伝達され、ベルト32cのスリップを発生させる虞がある。従って、前後進ドグクラッチ機構44の同期・係合動作中であっても、出力軸58側からの入力トルクに因るベルト32cのスリップを回避できる程度に第1、第2プーリ32a,32bの側圧を制御する必要がある。
しかしながら、第1、第2出力経路に介挿されて無段変速機構32と出力軸58とを連結するLOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62の同期・係合動作にあっては、LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62が係合するまでは、出力軸58と無段変速機構32のプーリ(第1プーリ32aまたは第2プーリ32b)とが遮断された状態にあるため、上記した不都合が発生することはない。従って、LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62の同期・係合動作中は、前後進ドグクラッチ機構44の同期・係合動作中に比して第1、第2プーリ32a,32bに供給すべき側圧をより一層低減させることも可能となる。
上記した如く、この発明の実施例においては、車両14に搭載されるエンジン(内燃機関。駆動源)10に接続される主入力軸(入力軸)26と、第1プーリ32a、第2プーリ32bおよび前記第1プーリ32aと第2プーリ32bの間に掛け回される無端可撓性部材(ベルト)32cを有すると共に、前記主入力軸26と前記車両14の駆動輪12に接続される出力軸58との間に介挿されて前記主入力軸26から入力される前記エンジン10のトルク(駆動力)を無段階に変速する無段変速機構32と、前記エンジン10のトルクを前記無段変速機構32に入力する入力経路(第1入力経路、第2入力経路)と、前記入力経路に介挿されて前記主入力軸26と前記無段変速機構32とを連結する入力連結機構(LOW摩擦クラッチ34a、HIGH摩擦クラッチ34b、前後進ドグクラッチ機構44)と、前記無段変速機構32を介して伝達される前記エンジン10のトルクを前記出力軸58に出力する出力経路(第1出力経路、第2出力経路)と、前記出力経路に介挿されて前記無段変速機構32と前記出力軸58とを連結する出力連結機構(LOW側シフトフォーク、LOW側ドグクラッチ50、HIGH側シフトフォーク、HIGH側ドグクラッチ62)と、エンジン10に接続される第1プーリ32aまたは第2プーリ32bから無端可撓性部材32cを介して伝達される実ベルト伝達トルクTINを算出するとともに、実ベルト伝達トルクTINに基づいて前記第1、第2プーリ32a,32bに供給すべき側圧を算出する側圧算出手段(シフトコントローラ100)とを備えた無段変速機Tの制御装置(シフトコントローラ100)において、前記入力連結機構と出力連結機構のうちのいずれかは同期機構付き噛合式係合機構からなり、前記車両14の走行状態に応じて前記同期機構付き噛合式係合機構を係合すべきか否か判断する係合判断手段(シフトコントローラ100,S108)を備えると共に、前記側圧算出手段は、前記同期機構付き噛合式係合機構を係合すべきと判断されないとき、予め求められた前記同期機構付き噛合式係合機構を係合するために必要な同期トルクTSYNCを用いずに、少なくとも前記第1、第2プーリ32a,32bのうち前記エンジン10に接続される側のイナーシャトルクIDRに基づいて前記実ベルト伝達トルクTINを算出する一方、前記同期機構付き噛合式係合機構を係合すべきと判断されたとき、前記同期トルクTSYNCに基づいて、または同期トルクTSYNCと前記無端可撓性部材にて発生するフリクショントルク(ベルト駆動フリクショントルクFBLT)とに基づいて、前記実ベルト伝達トルクTINを算出する(S112、S114、S118,S120)ように構成したので、エンジン10に連結される駆動側プーリ(例えば、第1プーリ32a)のイナーシャトルクIDRを用いない分、第1、第2プーリ32a,32bに供給されるべき側圧が低減される結果、プーリとベルト間のプーリフリクションを低減させることが可能となり、同期機構付き噛合式係合機構(前後進ドグクラッチ機構44、LOW側ドグクラッチ50、HIGH側ドグクラッチ62)の同期性を向上させることができる。
また、前記出力連結機構(LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62)が前記同期機構付き噛合式係合機構からなるように構成したので、上記した効果に加え、LOW側/HIGH側ドグクラッチ52,60を係合するまでは、無段変速機構32が出力軸58側からの入力トルクの影響を受ける虞がなく、よって第1、第2プーリ32a,32bに供給すべき側圧をより一層低減させることが可能となり、LOW側/HIGH側ドグクラッチ52,60の同期性をより一層向上させることができる。
即ち、車輪12側から伝達されるトルク(出力軸58側からの入力トルク)が無段変速機構32に入力され得る状況下においてプーリ側圧を低減させ過ぎると、車両14が減速したときなどに当該トルクの影響を受けて第1、第2プーリ32a,32bの間に掛け回されるベルト32cに滑りが発生する虞もある。しかしながら、この発明の実施例にあっては上記のように構成したので、かかる不都合が生じる虞がなく、よってその分だけ第1、第2プーリ32a,32bに供給すべき側圧を低減させて同期機構付き噛合式係合機構の同期性をより一層向上させることができる。
なお、上記した実施例において、図1を示して無段変速機Tの具体的な構成について説明したが、図1の構成は例示に過ぎず、この発明の要旨は同期機構付き噛合式係合機構を有する他の無段変速機Tにあっても妥当する。