以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる変速機のスケルトン図である。図1に示すように、車両に搭載される変速機1は、エンジン(駆動源)Eのクランクシャフト11と入力軸13との間にトルクコンバータ12が設置されている。変速機1は、エンジンEからトルクコンバータ12を介して接続された入力軸13と、入力軸13からの駆動力が伝達される第一入力経路14と第二入力経路15とを備える。
第一入力経路14と第二入力経路15の下流側には、無段変速機構20が配設される。無段変速機構20は、第一入力経路14の下流端に設けられた第二プーリ22と、第二入力経路15の下流端に設けられた第一プーリ21と、第一プーリ21と第二プーリ22との間に巻き掛けられた無端ベルト23とを備える。第一プーリ21及び第二プーリ22の溝幅は油圧によって相互に逆方向に増減し、第一入力経路14又は第二入力経路15から入力した駆動力の回転の変速比を連続的に変化させる。
第一入力経路14上には、入力軸13からの入力を減速させて駆動力を無段変速機構20に伝達する第一伝達ギヤ列51が配設される。第一伝達ギヤ列51は、第一入力経路14の入力軸13側に配設される第一伝達駆動ギヤ51Aと、第一入力経路14の無段変速機構20側に配設される第一伝達従動ギヤ51Bとを有する。第一伝達駆動ギヤ51Aと第一伝達従動ギヤ51Bとのギヤ比は1よりも大きい。そのため、第一伝達ギヤ列51は、入力軸13からの駆動力を減速させて伝達する減速ギヤ列として機能する。
第二入力経路15上には、入力軸13からの入力を増速させて駆動力を無段変速機構20に伝達する第二伝達ギヤ列52が配設される。第二伝達ギヤ列52は、第二入力経路15の入力軸13側に配設される第二伝達駆動ギヤ52Aと、第二入力経路15の無段変速機構20側に配設される第二伝達従動ギヤ52Bとを有する。第二伝達駆動ギヤ52Aと第二伝達従動ギヤ52Bとのギヤ比は1よりも小さい。そのため、第二伝達ギヤ列52は、入力軸13からの駆動力を増速させて無段変速機構20に伝達する増速ギヤ列として機能する。
第二入力経路15と最終出力機構30との間の第三入力経路16には、入力軸13からの駆動力を回転方向を逆転させて最終出力機構30に伝達する第三伝達ギヤ列53が配設される。第三伝達ギヤ列53は、第三入力経路16の第二入力経路15側に配設される第三伝達駆動ギヤ53Aと、最終出力機構30側に配設される第三伝達従動ギヤ53Cと、第三伝達駆動ギヤ53Aと第三伝達従動ギヤ53Cとの間に配設される第三伝達アイドルギヤ53Bを有する。第三伝達アイドルギヤ53Bはアイドル軸53D上に支持されている。第三伝達アイドルギヤ53Bがあることによって、第三伝達ギヤ列53は、駆動力の回転方向を逆転させて伝達するギヤ列として機能する。
無段変速機構20の第一プーリ21と最終出力機構30との間の第一出力経路17には、中間伝達ギヤ列54が配設される。中間伝達ギヤ列54は、第一出力経路17の第一プーリ21側に配設される中間伝達駆動ギヤ54Aと、最終出力機構30側に配設される中間伝達従動ギヤ54Cと、中間伝達駆動ギヤ54Aと中間伝達従動ギヤ54Cとの間に配設される中間伝達アイドルギヤ54Bとを有する。中間伝達アイドルギヤ54Bはアイドル軸54D上に支持されている。
なお、本実施形態では、中間伝達駆動ギヤ54Aから中間伝達従動ギヤ54Cへの駆動力を伝達する中間伝達部材として中間伝達アイドルギヤ54Bを用いたが、必ずしもギヤを用いる必要はない。例えば、中間伝達駆動ギヤ54Aと中間伝達従動ギヤ54Cとの間にチェーンを掛け渡すことで駆動力を伝達する構成でもよい。
入力軸13と第二伝達ギヤ列52及び第三伝達ギヤ列53との間には、前後進切替機構(リバースセレクタ機構)70が配設される。前後進切替機構70は、第二入力経路15と第三入力経路16とを切り替えるドグクラッチ(噛合式クラッチ)71を備え、このドグクラッチ71によって入力軸13からの駆動力を第二伝達ギヤ列52に伝達するか第三伝達ギヤ列53に伝達するかを選択的に切り替えるように構成されている。すなわち、ドグクラッチ71は、第二伝達ギヤ列52側の第一受歯71aと、第三伝達ギヤ列53側の第二受歯71bと、これら第一受歯71aと第二受歯71bとの間で移動(ストローク)可能に設けた移動歯(スリーブ)71cとを備えている。
移動歯71cが第一受歯71a側に移動して該第一受歯71aと噛み合うことで、入力軸13からの駆動力が第二伝達ギヤ列52に伝達する状態(以下では、この状態を「D側の選択状態」という。)となる。一方、移動歯71cが第二受歯71b側に移動して該第二受歯71bと噛み合うことで、入力軸13からの駆動力が第三伝達ギヤ列53に伝達する状態(以下では、この状態を「R側の選択状態」という。)となる。すなわち、前後進切替機構70は、移動歯71cが第一受歯71aと第二受歯71bのいずれかに選択的に噛み合うことで、入力軸13の回転を増速させる第二伝達ギヤ列52と、入力軸13の回転を逆回転させる第三伝達ギヤ列53とを切り替える構成である。
このように、変速機1は、第一入力経路14、第二入力経路15、第三入力経路16の入力を切り替えるため、第一摩擦クラッチ61、第二摩擦クラッチ62、ドグクラッチ71を有する。また、それらを切り替えるため、それらに油圧を供給する油圧供給機構103を有する。このように、入力経路を切り替えるための機構を入力切替機構とする。
無段変速機構20の第二プーリ22の下流側には、第二出力経路18が配設される。そして、第一出力経路17及び第二出力経路18の下流側には、これら第一出力経路17又は第二出力経路18へ伝達された駆動力が出力される最終出力機構30が配設される。最終出力機構30は、第一出力経路17及び第二出力経路18から駆動輪Wへの動力伝達経路における上流側に配設される最終駆動ギヤ31と、この最終駆動ギヤ31に噛み合う最終従動ギヤ(ディファレンシャルギヤ)32と、最終従動ギヤ32で配分された駆動力を駆動輪Wに伝達するための駆動軸35とを備える。
また、本実施形態の変速機1は、動力伝達切替機構として4つの摩擦クラッチを備えている。具体的には、入力軸13から第一伝達ギヤ列51への動力伝達の有無を切り替える第一摩擦クラッチ61を第一入力経路14における第一伝達ギヤ列51の上流側に備える。また、入力軸13から第二伝達ギヤ列52への動力伝達の有無を切り替える第二摩擦クラッチ62を第二入力経路15における第二伝達ギヤ列52及び前後進切替機構70の上流側に備える。また、第一プーリ21から最終出力機構30への動力伝達の有無を切り替える第三摩擦クラッチ63を第一出力経路17上の第一プーリ21と中間伝達ギヤ列54との間に備える。また、第二プーリ22から最終出力機構30への動力伝達の有無を切り替える第四摩擦クラッチ64を第二出力経路18上の第二プーリ22と最終出力機構30との間に備える。
次に、変速機1に関する油圧供給機構及びセンサ群について説明する。車両運転席にはレンジセレクタ101が設けられ、運転者が例えばP,R,N,Dなどのレンジのいずれかを選択することで、変速機1における動力伝達経路の切り替えが行われる。即ち、運転者のレンジセレクタ101の操作によるレンジ選択はコントローラ(制御部)102を介して油圧供給機構103に伝えられ、車両を前進あるいは後進走行させる。なお、油圧供給機構103に作動油を供給するオイルポンプ108が設けられている。オイルポンプ108は、エンジンEで駆動されてリザーバ(ストレーナ)106に貯留された作動油を汲み上げて油圧供給機構103に送る。モータ109で駆動する電動オイルポンプ105も設けられている。
油圧供給機構103は、無段変速機構20の第一、第二プーリ21,22、第一〜第四摩擦クラッチ61〜64などに油圧を供給する。第一伝達ギヤ列51、第二伝達ギヤ列52、中間伝達ギヤ列54にはそれぞれ回転数センサ111,112,113,114が設けられ、第一伝達ギヤ列51、第二伝達ギヤ列52、第三伝達ギヤ列53、中間伝達ギヤ列54の回転数に応じたパルス信号を出力する。また、最終駆動ギヤ31の付近には車速センサ(回転数センサ)120が設けられて車両の走行速度を意味する車速Vを示すパルス信号を出力する。また、レンジセレクタ101の付近にはレンジセレクタスイッチ130が設けられ、運転者によって選択されたP,R,N,Dなどのレンジに応じた信号を出力する。
また、第一摩擦クラッチ61の付近には移動量(ストローク)を検出するストロークセンサ150が設けられ、第一摩擦クラッチ61の移動量に応じた信号を出力する。ドグクラッチ71の付近には移動歯71cの移動量(ストローク)を検出するストロークセンサ140が設けられ、ドグクラッチ71の移動量に応じた信号を出力する。
上記した各センサの出力は、図示しないその他のセンサの出力も含め、コントローラ102に送られる。このため、コントローラ102は、各センサの出力値を受けて、当該出力値から各値を算出する。たとえば、回転数センサ111,112,113,114によって回転数が直接計測されるギヤの出力値がコントローラ102へ送られると、当該ギヤと噛み合うギヤのギヤ比を考慮することによって、コントローラ102は、例えば、第一入力経路14、第二入力経路15、第三入力経路16、第一出力経路17の各ギヤや各軸の回転数を計測することができる。なお、回転数センサ111,112,113,114の位置は、本実施形態の位置や個数に限るものではない。
また、コントローラ102は、センサの出力に基づきプーリ供給油圧(側圧)を算出し、算出された側圧に応じて油圧供給機構103の種々の電磁弁を励磁・消磁する。これにより、第一、第二プーリ21,22の油圧アクチュエータのピストン室への油圧の給排を制御して無段変速機構20の動作を制御する。また、第一〜第四摩擦クラッチ61〜64のピストン室に供給される油圧を制御して、これら第一〜第四摩擦クラッチ61〜64の係合を制御する。また、前後進切替機構70のドグクラッチ71の係合切り替えを制御する。
ここで、前後進切替機構70の具体的構成を説明する。図2は、前後進切替機構70の具体的構成を説明する模式図である。説明の都合上、図1では前後進切替機構70における第一受歯71aと第二受歯71bとを並列に記載した。しかしながら、実際の前後進切替機構70のドグクラッチ71は、第一受歯71aと、第二受歯71bが同じ軸線上に対向して配置されている。そして、不図示のシフトフォークを操作することで移動歯71cと一体となるスリーブ72を移動させ、移動歯71cを、第一受歯71aと第二受歯71bのいずれかに選択的に噛み合わせる。これにより、第一受歯71aと同軸で回転する第二伝達駆動ギヤ52Aか、第二受歯71bと同軸で回転する第三伝達駆動ギヤ53Aかのいずれか一方に、駆動力を選択的に伝達させる。
また、コントローラ102は、上述の回転数センサ111,112,113,114のうち、特に回転数センサ112からの信号を用いて第一受歯71aの回転数NDを求め、また、特に回転数センサ113からの信号を用いて第二受歯71bの回転数NRを求める。そして、コントローラ102は、これらの回転数の差を計算することで、前後進切替機構70における回転数の差を把握する。
本実施形態の油圧供給機構103について詳細に説明する。図3は、油圧供給機構103の具体的構成を説明する模式図である。図3に示すように、油圧供給機構103は、前後進切替機構70を作動させるための第一油圧回路103Aと、摩擦クラッチ61,62,63,64その他の前後進切替機構70以外の油圧機構を作動させるための第二油圧回路103Bと、を有する。第一油圧回路103Aと第二油圧回路103Bとは、互いに独立した油圧回路である。このため、前後進切替機構70のスリーブ72移動させるタイミングと、クラッチ61,62,63,64を係合や非係合をするタイミングとを独立して制御することができる。
また、油圧供給機構103において、少なくとも、第一摩擦クラッチ61の油路には第一油圧センサD1、第二摩擦クラッチ62の油路には第二油圧センサD2、第三摩擦クラッチ63の油路には第三油圧センサD3、第四摩擦クラッチ64の油路には第四油圧センサD4、がそれぞれ配置されている。これらは、それぞれ、第一〜第四摩擦クラッチ61〜64のピストン室(図示せず)に供給される油圧に応じた信号を出力し、コントローラ102に送られる。
次に、上記構成の変速機1の各変速モードの動力伝達経路について説明する。まず、変速機1で前進走行用のLOWモード(低速モード)を設定する場合を説明する。図4は、変速機1のLOWモードの動力伝達経路を示す図である。LOWモードでは、第一摩擦クラッチ61が係合する一方、第二摩擦クラッチ62が非係合となる。このため、エンジンEから入力軸13に伝達された駆動力は、第一摩擦クラッチ61を介して第一伝達ギヤ列51のみに伝達され、第二摩擦クラッチ62の下流側にある第二伝達ギヤ列52には伝達されない。また、LOWモードでは、第三摩擦クラッチ63が係合し第四摩擦クラッチ64が非係合となる。
この結果、図4に示すように、エンジンEの駆動力は、入力軸13→第一入力経路14→第一伝達ギヤ列51→第二プーリ22→無端ベルト23→第一プーリ21→第一出力経路17→第三摩擦クラッチ63→中間伝達ギヤ列54→最終駆動ギヤ31→最終従動ギヤ32→駆動軸35の経路で駆動輪Wへ伝達される。
次に、変速機1において前進走行用のHIモード(高速モード)を設定する場合を説明する。図5は、変速機1のHIモードの動力伝達経路を示す図である。HIモードでは、第一摩擦クラッチ61が非係合となる一方、第二摩擦クラッチ62が係合する。また、ドグクラッチ71の移動歯71cは第一受歯71a側(D側)に噛み合う。このため、エンジンEから入力軸13に伝達された駆動力は、第二摩擦クラッチ62及びドグクラッチ71を介して第二伝達ギヤ列52のみに伝達され、第一伝達ギヤ列51及び第三伝達ギヤ列53には伝達されない。また、このHIモードでは、第三摩擦クラッチ63が非係合となる一方、第四摩擦クラッチ64が係合する。
この結果、図5に示すように、エンジンEの駆動力は、入力軸13→第二入力経路15→第二伝達ギヤ列52→第一プーリ21→無端ベルト23→第二プーリ22→第二出力経路18→最終駆動ギヤ31→最終従動ギヤ32→駆動軸35の経路で駆動輪Wへ伝達される。
次に、変速機1において後進走行用のRVSモード(後進モード)を設定する場合を説明する。図6は、変速機1のRVSモードの動力伝達経路を示す図である。RVSモードでは、第一摩擦クラッチ61が非係合となる一方、第二摩擦クラッチ62が係合する。また、ドグクラッチ71の移動歯71cは第二受歯71b側(R側)に噛み合う。このため、エンジンEから入力軸13に伝達された駆動力は、第二摩擦クラッチ62及びドグクラッチ71を介して第三伝達ギヤ列53のみに伝達され、第一伝達ギヤ列51及び第二伝達ギヤ列52には伝達されない。
この結果、図6に示すように、エンジンEの駆動力は、入力軸13→第二入力経路15→第三伝達ギヤ列53→第三入力経路16→第二出力経路18→最終駆動ギヤ31→最終従動ギヤ32→駆動軸35の経路で駆動輪Wへ伝達される。このように、本実施形態のRVSモードによれば、無段変速機構20を用いることがない。
ここで、車両の走行状態が後進走行状態から前進走行状態へ移行する際に、上記構成の変速機1でRVSモードからLOWモードへの切り替えを行う際の制御について説明する。変速機1でRVSモードからLOWモードへの切り替えを行うには、第一摩擦クラッチ61を非係合状態から係合状態に切り替えると共に、第二摩擦クラッチ62を係合状態から非係合状態に切り替え、かつ第三摩擦クラッチ63を係合状態に切り替え、その後にドグクラッチ71をR側からD側へ切り替える第一切替制御を行う。
図7は、このRVSモードからLOWモードへの切り替えを行う際の各値の変化について示すタイミングチャートである。同図及び後述する図10のタイミングチャートでは、シフトポジション(レンジセレクタ101で切り替えられたシフトポジション)、車速V、ドグクラッチ71(前後進切替機構70)のストローク(移動歯71cのストローク)、第一〜第四摩擦クラッチ61〜64の供給油圧(第一〜第四クラッチ圧P1〜P4)それぞれの経過時間Tに対する変化を示している。
ここでは、まず運転者によるレンジセレクタ101の操作で、時刻T11にシフトポジションがR(リバース)からD(ドライブ)に切り替わるが、その前(時刻T11以前のリバース駆動中)の段階で既に第一摩擦クラッチ61に油圧が供給されており、第一クラッチ圧P1=PM1となっている。この第一クラッチ圧P1=PM1は、第一摩擦クラッチ61が係合する油圧よりも小さい所定の準備油圧である。この第一クラッチ圧P1=PM1によって第一摩擦クラッチ61の無効ストローク詰めがなされている。
そして、時刻T11にシフトポジションがR(リバース)からD(ドライブ)に切り替わったことで、第一摩擦クラッチ61にさらに油圧が供給されて第一クラッチ圧P1がPM1から上昇する。その一方で、それまで第二摩擦クラッチ62に供給されていた油圧が停止することで、第二クラッチ圧P2が係合圧PX2から低下する。また、第三摩擦クラッチ63にも油圧が供給されることで、それまで0であった第三クラッチ圧P3が上昇を開始する。
そして、時刻T12に第一クラッチ圧P1が係合圧PX1に達することで、該第一クラッチ圧P1の上昇が停止する。これにより第一摩擦クラッチ61の係合が完了する。その後、時刻T3に第三クラッチ圧P3=PM3となる。この第三クラッチ圧P3=PM3は、該第三摩擦クラッチ63が係合する油圧よりも小さい所定の準備油圧である。この第三クラッチ圧P3=PM3によって第三摩擦クラッチ63の無効ストローク詰めがなされている。そして、時刻T14以降、第三摩擦クラッチ63にさらに油圧が供給されて第三クラッチ圧P3がPM3から上昇する。そして、時刻T15に第三クラッチ圧P3が係合圧PX3に達することで、該第三クラッチ圧P3の上昇が停止する。これにより第三摩擦クラッチ63の係合が完了する。こうして、前進用駆動力伝達経路(LOWモード)が形成される。
その後、車速V(R車速)が次第に減少してゆく。車速Vが十分に減少した時刻T16にドグクラッチ71がR側からD側に切り替えられる。すなわちここでは、ドグクラッチ71に入力する差回転が所定値よりも小さな値となったことをもってR側からD側に切り替えられる。その後、時刻T17に車速Vが0となり、以降、車速V(D車速)が上昇してゆく。
ドグクラッチ71のR側からD側への切替え制御について、差回転数ΔNとの関係で具体的に説明する。図8は、RVSモード→LOWモードの切り替えを行う際のフローチャートである。シフトポジションがR(リバース)からD(ドライブ)に切り替わった場合、ドグクラッチ71をR側からD側へ切替える制御を開始する。まず、図8に示すように、第二摩擦クラッチ62を非係合にした後(ステップS1)、第一摩擦クラッチ61を係合し(ステップS2)、次に第三摩擦クラッチ63を係合する(ステップS3)。
ここで、コントローラ102は、前後進切替機構70において、R側の第二受歯71bの回転数NRに対するD側の第一受歯71aの回転数NDの信号(図2参照)から、R側の回転数NRに対するD側の回転数NDの相対的な差回転数ΔNDを計測する(ステップS4)。そして、当該差回転数ΔNDが、後述する所定値であるD側切替禁止差回転数ΔNDx以上の場合には、ドグクラッチ71の切替えを行わない。一方、D側切替禁止差回転数ΔNDx未満になった場合には、ドグクラッチ71のR側からD側への切替えを行う(ステップS5)。
なお、コントローラ102が、第二摩擦クラッチ62の非係合の状態であることを判断するためには、第二摩擦クラッチ62の供給油圧を把握する第二油圧センサD2からの検知信号を受信することによって行う。これにより、コントローラ102は、第二摩擦クラッチ62が非係合状態になったことを確認した後、前後進切替機構70の切替え制御を開始する。
次に、D側切替禁止差回転数ΔNDxの設定方法を説明する。図9は、D側切替禁止差回転数ΔNDxの値を決定するためのグラフである。(a)がR側の回転数NRに対するD側の回転数NDの差回転数ΔNDと車速V(D車速)との関係を示し、(b)が耐久回数とR側の回転数NRに対するD側の回転数NDの差回転数ΔNDとの関係を示す。
シフトポジションをR(リバース)からD(ドライブ)に切り替える場合、図9(a)に示すように、車速Vが矢印Aに示すように小さくなっていくとともに、R側の回転数に対するD側の回転数の差回転数ΔNDも小さくなっていく。そして、差回転数ΔNDが十分に小さくなってから、ドグクラッチ71のR側からD側への切替えを行う。この切替えの閾値となるのがD側切替禁止差回転数ΔNDxである。すなわち、コントローラ102は、上述の差回転数ΔNDがD側切替禁止差回転数ΔNDxを下回った場合に、ドグクラッチ71のR側からD側への切替えを行う。
D側切替禁止差回転数ΔNDxの値は、次のように設定する。図9(b)に示すように、まず、R側の回転数に対するD側の回転数の差回転数ΔNDに応じた耐久回数のグラフを作成し、使用可能となる耐久回数CDsを設定する。すると、グラフ上から使用可能となる差回転数ΔNDsを求めることができる。ここで、実際には当該差回転数ΔNDsを用いるのではなく、安全率を考慮してΔNDsよりも十分に小さい値をD側切替禁止差回転数ΔNDxとして設定する。本実施形態のΔNDxは、図9(b)に示すように、一般の使用態様では確実な耐久回数を計測できない程度に安全性が高い範囲で所定値としてのD側切替禁止差回転数ΔNDxを設定している。
次に、車両の前進状態から後進状態への移行において、上記構成の変速機1でLOWモードからRVSモードへの切り替えを行う際の制御について説明する。変速機1でLOWモードからRVSモードへの切り替えを行う際には、第一摩擦クラッチ61を係合状態から非係合状態に切り替えると共に、第二摩擦クラッチ62を非係合状態から係合状態に切り替え、かつ、第三摩擦クラッチ63を係合状態から非係合状態に切り替え、それと同時にドグクラッチ71をD側からR側へ切り替える第二切替制御を行う。
図10は、LOWモードからRVSモードへの切り替えを行う際の各値の変化について示すタイミングチャートである。ここでは、まず運転者によるレンジセレクタ101の操作で時刻T21にシフトポジションがD(ドライブ)からR(リバース)に切り替わる。このとき、ドグクラッチ71のD側からR側への切り替えが開始される。また同時に、それまで第一摩擦クラッチ61に供給されていた油圧が停止することで、第一クラッチ圧P1が係合圧PX1から低下すると共に、それまで第三摩擦クラッチ63に供給されていた油圧が停止することで、第三クラッチ圧P3が係合圧PX3から低下する。
その一方で、第二摩擦クラッチ62に油圧が供給されることで、それまで0であった第二クラッチ圧P2が上昇を開始する。その後、時刻T22にドグクラッチのD側からR側への切り替えが完了する。この時刻T22から時刻T23までの間は、第二クラッチ圧P2はPM0となる。このPM0は、第二摩擦クラッチ62が係合する油圧よりも小さい所定の準備油圧である。この第二クラッチ圧P2=PM0によって第二摩擦クラッチ62の無効ストローク詰めがなされている。なお、この時刻T22から時刻T23までの所定時間TMは、ストロークセンサでドグクラッチ71のD側からR側への切り替え完了を検知してからタイマで計測した設定時間が経過するまでの時間である。
その後、第二クラッチ圧P2が再び上昇し、時刻T24から時刻T25までの間、第二クラッチ圧P2=PM2(PM2>PM0)となる。この第二クラッチ圧P2=PM2は、第二摩擦クラッチ62が係合する油圧よりも小さい他の所定の準備油圧である。この第二クラッチ圧P2=PM2によって第二摩擦クラッチ62の更なる無効ストローク詰めがなされる。その後、第二クラッチ圧P2が再び上昇し、時刻T26に第二クラッチ圧P2が係合圧PX2に達することで、該第二クラッチ圧P2の上昇が停止する。これにより第二摩擦クラッチ62の係合が完了する。
こうしてRVSモードが形成される。その後、車速V(D車速)が次第に減少してゆき、時刻T27に車速Vが0となり、以降、車速V(R車速)が上昇してゆく。
なお、ここではシフトポジションがD(ドライブ)からR(リバース)に切り替わった(ドグクラッチ71のD側からR側への切り替えが開始された)時刻T21以降に第二クラッチ圧P2として準備油圧(PM0又はPM2)を供給する場合を示したが、これ以外にも、時刻T21よりも前の段階から第二クラッチ圧P2として準備油圧(PM0又はPM2)を供給するようにすることも可能である。
ドグクラッチ71のD側からR側への切替え制御について、差回転数ΔNとの関係で具体的に説明する。図11は、LOWモード→RVSモードの切り替えを行う際のフローチャートである。シフトポジションがD(ドライブ)からR(リバース)に切り替わった場合、ドグクラッチ71をD側からR側へ切替える制御を開始する。
まず、図11に示すように、コントローラ102は、第三摩擦クラッチ63を非係合にし(ステップS11)、第一摩擦クラッチ61を非係合する(ステップS12)。次に、前後進切替機構70において、D側の第一受歯71aの回転数NDに対するR側の第二受歯71bの回転数NRの信号(図2参照)から、D側の回転数NDに対するR側の回転数NRの相対的な差回転数ΔNRを計測する(ステップS13)。そして、当該差回転数ΔNRが、後述する所定値であるR側切替禁止差回転数ΔNRx以上の場合には、ドグクラッチ71の切替えを行わない。一方、R側切替禁止差回転数ΔNRx未満になった場合には、ドグクラッチ71のD側からR側への切替えを行う(ステップS14)。その後、第二摩擦クラッチ62を係合する(ステップS15)。
なお、コントローラ102が、前後進切替機構70の切替え制御が完了したことを判断するためには、前後進切替機構70の移動歯71cと一体となっているスリーブ72位置を把握するストロークセンサ140からの検知信号を受信することによって行う。これにより、コントローラ102は、前後進切替機構70の切替え制御が完了したことを確認した後、第二摩擦クラッチ62の係合動作を開始する。
次に、R側切替禁止差回転数ΔNRxの設定方法を説明する。図12は、R側切替禁止差回転数ΔNRxの値を決定するためのグラフである。(a)がD側の回転数NDに対するR側の回転数NRの差回転数ΔNRと車速V(D車速)との関係を示し、(b)が耐久回数とD側の回転数NDに対するR側の回転数NRの差回転数ΔNRとの関係を示す。
シフトポジションをD(ドライブ)からR(リバース)に切り替える場合、図12(a)に示すように、車速Vが矢印Bに示すように小さくなっていくとともに、D側の回転数に対するR側の回転数の差回転数ΔNRも小さくなっていく。そして、差回転数ΔNRが十分に小さくなってから、ドグクラッチ71のD側からR側への切替えを行う。この切替えの閾値となるのがR側切替禁止差回転数ΔNRxである。すなわち、コントローラ102は、上述の差回転数ΔNRがR側切替禁止差回転数ΔNRxを下回った場合に、ドグクラッチ71のD側からR側への切替えを行う。
R側切替禁止差回転数ΔNRxの値は、次のように設定する。図12(b)に示すように、まず、D側の回転数に対するR側の回転数の差回転数ΔNRに応じた耐久回数のグラフを作成し、使用可能となる耐久回数CRsを設定する。すると、グラフ上から使用可能となる差回転数ΔNRsを求めることができる。ここで、実際には当該差回転数ΔNRsを用いるのではなく、安全率を考慮してΔNRsよりも十分に小さい値をR側切替禁止差回転数ΔNRxとして設定する。本実施形態のΔNRxは、図12(b)に示すように、一般の使用態様では確実な耐久回数を計測できない程度に安全性が高い範囲で所定値としてのR側切替禁止差回転数ΔNRxを設定している。
以上説明したように、本実施形態の変速機1では、ドグクラッチ71の第一受歯71aと第二受歯71bとの差回転ΔND,ΔNRが所定値ΔNDx,ΔNRx未満になったときに前後進切替機構70によって、車両の後進状態と前進状態とを切り替える。すると、差回転ΔND,ΔNRが小さいタイミングにおいて車両の後進状態と前進状態とを切り替えることができる。このため、ドグクラッチ71の第一受歯71aまたは第二受歯71bに対する衝撃を低減した状態において車両の前後進の切り替えを行うことができる。これにより、前後進切替時のドグクラッチの耐久性の向上を図ることができる変速機を提供することができる。
また、本実施形態の変速機1においては、耐久回数に基づいて安全とされる範囲で前後進切替時の所定値を設定する。これにより、耐久性の向上を確実に図ることができる。
また、本実施形態の変速機1においては、第一油圧回路103Aと第二油圧回路103Bとを有し、制御部102が、それぞれ独立して制御することを可能とする。すると、ドグクラッチ71と摩擦クラッチ61,62の切替えタイミングの自由度が高まり、より前後進切替機構70に衝撃を与えないタイミングで前後進切替機構70の切替えを行うことができる。
また、本実施形態の変速機1においては、第三入力経路16から第一入力経路14へ入力を切り替える際、すなわち、RVSモード→LOWモードの切り替えの際、第一摩擦クラッチ61及び第三摩擦クラッチ63を係合した後に、前後進切替機構70によって車両の後進状態と前進状態とを切り替える。すると、第一出力経路17への駆動伝達と第三入力経路16への駆動伝達が同時に行われる時点において、第一出力経路17が後進方向への駆動力を吸収することとなる。このため、差回転ΔNRの減少を速めることができる。したがって、前後進切替機構70に衝撃を与えないように制御しつつも、応答性を高くすることができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。