以下、図面を参照しながらターボ過給機付きエンジンの排気装置を説明する。尚、以下の説明は、例示である。図1は、ロータリピストンエンジン1(以下、単にロータリエンジン1ともいう)の構造を示している。ロータリエンジン1は、図2に示すように、2つのロータ2を備えた2ロータタイプであり、前側(便宜上、図2における紙面左側)及び後側(便宜上、図2における紙面右側)の2つのロータハウジング3、3が、インターミディエイトハウジング(つまり、サイドハウジング)4をその間に挟んだ状態で、これらの両側からさらに2つのサイドハウジング41、41で挟み込むようにして一体化されることによって構成されている。尚、ロータ2の個数(気筒数)はこれに限定されるものではない。
ロータハウジング3の、平行トロコイド曲線で描かれるトロコイド内周面3aと、これらロータハウジング3を両側から挟むサイドハウジング41の内側面と、インターミディエイトハウジング4の両側の内側面4aとによって、回転軸Xの一方側から回転軸Xに沿う方向にロータリピストンエンジン1を見たときに、繭のような略楕円形状をしたロータ収容室31が、前側及び後側の2つ横並びに区画されており、これらロータ収容室31にロータ2が1つずつ収容されている。各ロータ収容室31は、インターミディエイトハウジング4に対して対称に配置されており、ロータ2の位置及び位相が異なっている点を除けば構成は同じであるため、以下、1つのロータ収容室31について説明する。
ロータ2は、回転軸Xの方向から見て各辺の中央部が膨出する略三角形状をしたブロック体からなり、その外周に、各頂部間に3つの略長方形をしたフランク面2a、2a、2aを備えている。
ロータ2は、各頂部に図示しないアペックスシールを有し、これらアペックスシールがロータハウジング3のトロコイド内周面3aに摺接しており、このロータハウジング3のトロコイド内周面3aと、インターミディエイトハウジング4の内側面4aと、サイドハウジング41の内側面と、ロータ2のフランク面2aとで、ロータ収容室31の内部に、3つの作動室8、8、8がそれぞれ区画形成されている。従ってこのエンジン1は、車両前後方向の前側に第1〜第3の3つの作動室8と、後側に第4〜第6の3つの作動室8の、合計6個の作動室を有している。
ロータ2の内側には位相ギアが設けられている(図示せず)。すなわち、ロータ2の内側の内歯車(ロータギア)とサイドハウジング41側の外歯車(固定ギア)とが噛合するとともに、ロータ2は、インターミディエイトハウジング4及びサイドハウジング41を貫通しかつ、出力軸Xを構成するエキセントリックシャフト6に対して、遊星回転運動をするように支持されている。尚、符号21は、ロータ2の側面に設けられたオイルシールであり、余分な潤滑オイルが作動室8内に流入することを防止する。
ロータ2の回転運動は内歯車と外歯車との噛み合いによって規定され、ロータ2は、3つのシール部が各々ロータハウジング3のトロコイド内周面3aに摺接しつつ、エキセントリックシャフト6の偏心輪(偏心軸)6aの周りを自転しながら、回転軸Xの周りに自転と同方向に公転する(この自転及び公転を含め、広い意味で単にロータの回転という)。そして、ロータ2が1回転する間に3つの作動室8、8、8が周方向に移動し、それぞれで吸気、圧縮、膨張(燃焼)及び排気の各行程が行われて、これにより発生する回転力がロータ2を介してエキセントリックシャフト6から出力される。
より具体的に、ロータ2は矢印で示すように、時計回りに回転し、回転軸Xを通るロータ収容室31の長軸Yを境に分けられるロータ収容室31の右側が概ね吸気及び排気行程の領域となり、左側が概ね圧縮及び膨張行程の領域となっている。
これに対し、従来構成のロータリピストンエンジンは、長軸Yを境に分けられるロータ収容室31の左側が概ね吸気及び排気行程の領域となり、右側が概ね圧縮及び膨張行程の領域となっている。つまり、本構成のロータリピストンエンジンは、従来構成のロータリピストンエンジンを、回転軸Xを中心として180°回転させたような状態で車両に搭載している。
図1における右下の作動室8に着目すると、これは吸気と噴射された燃料とによって混合気を形成する吸気行程を示しており、この作動室8がロータ2の回転につれて圧縮行程に移行すると、その内部にて混合気が圧縮される。その後、図1の左側に示す作動室8のように圧縮行程の終盤から膨張行程にかけて所定のタイミングにて点火プラグ82、83により点火されて、燃焼・膨張行程が行われる。そして、最後に図1の右上の作動室8のような排気行程に至ると、燃焼ガスが排気ポート10から排気された後、再び吸気行程に戻って各行程が繰り返されるようになっている。
吸気行程の状態にある作動室8には、吸気ポート11が連通している。吸気ポート11の開口部は、より詳細には、吸気行程の状態にある作動室8に面するインターミディエイトハウジング4の内側面4aに、ロータ収容室31の外周側の、回転軸Xを通るロータ収容室31の短軸Z寄りで設けられていると共に、吸気ポート11は、インターミディエイトハウジング4内を、ほぼ水平方向に延びて、エンジン1の側面に開口している。また、図示は省略するが、吸気行程の状態にある作動室8に面するサイドハウジング41の内側面にも、吸気ポート11の開口部に対向するように、別の吸気ポートの開口部が設けられており、この吸気ポートも、サイドハウジング41内を、ほぼ水平方向に延びて、エンジン1の側面に開口している。エンジン1の側面には、吸気ポート11に連通する吸気マニホールド12が取り付けられる。
排気行程の状態にある作動室8には、排気ポート10が連通している。排気ポート10の開口部は、より詳細には、排気行程の状態にある作動室8に面するインターミディエイトハウジング4の内側面4aに、ロータ収容室31の外周側の短軸Z寄りで設けられていると共に、排気ポート10は、インターミディエイトハウジング4内を、斜め上方に向かって延びて、エンジン1の上面と側面との角部付近に開口している。また、図2に示すように、排気行程の状態にある作動室8に面するサイドハウジング41の内側面にも、前記排気ポート10の開口部に対向して、別の排気ポート10の開口部が設けられている。サイドハウジング41に形成された排気ポートも、サイドハウジング41内を、斜め上方に向かって延びて、エンジン1の上面と側面との角部付近に開口している。このエンジン1では、いわゆるサイド排気方式が採用されており、この排気ポート10の開口部の位置及び形状は、吸気のオープンタイミングと排気のオープンタイミングとがオーバーラップしないように設定されている。これによって、次行程に持ち込まれる残留排ガスを低減している。詳しくは後述するが、サイドハウジング41の側面に設けた排気ポート10の開口部の形状と、インターミディエイトハウジング4の側面に設けた排気ポート10の開口部の形状とは、異なっており、両排気ポート10の開くタイミングは異なる一方で、両排気ポート10の閉じるタイミングは同じに設定されている。尚、以下においては、サイドハウジング41に形成された排気ポート10は、プライマリポート10aと呼び、インターミディエイトハウジング4に形成された排気ポートは、セカンダリポート10bと呼び、それらの排気ポートを総称するときには、単に排気ポート10と呼ぶ場合がある。エンジン1には、排気ポート10に連通する排気通路13が接続される。排気通路13の構成についての詳細は、後述する。
尚、図1における符号103は、排気通路13内に二次エアを供給するための二次エア通路である。
作動室8内に燃料を供給するためのインジェクタ81は、インターミディエイトハウジング4に取り付けられており、このインターミディエイトハウジング4に設けた吸気ポート11内に燃料を噴射する。
ロータハウジング3の側部における、短軸Zを挟んだロータ回転方向のトレーリング側(遅れ側)位置と、リーディング側(進み側)位置とにはそれぞれ、T側点火プラグ82とL側点火プラグ83とが取り付けられている。これら2つの点火プラグ82、83は、圧縮・膨張状態にある作動室8に臨んでおり、作動室8内の混合気に、同時に点火、又は位相差を持って順に点火をする。
図2は、ターボ過給機付きロータリエンジン1の排気装置の構成を概念的に示している。図2は、排気装置に含まれる要素と要素との間の接続関係を概念的に示す図であり、各通路の接続位置、合流位置、及び分岐位置や、通路形状等を、必ずしも、具体的に表すものではない。
排気装置は、ターボ過給機5のタービン51と、その下流側の触媒装置100と、排気ガスの一部を吸気側に還流させるEGRシステム9と、を備えている。触媒装置100は、例えば三元触媒を備えて構成される。
前述したように、2ロータタイプのロータリエンジン1において、各気筒(つまり、ロータ2を収容するロータ収容室31であり、以下、説明の便宜上、図2における左側の気筒を前側気筒31aと呼び、図2における右側の気筒を後側気筒31bと呼ぶ)には、サイドハウジング41に開口部を有するプライマリポート10aと、インターミディエイトハウジング4に開口部を有するセカンダリポート10bと、が設けられている。この排気装置では、各気筒31a、31bのプライマリポート10aと、セカンダリポート10bとは、互いに別の排気通路13に接続されている。具体的に、プライマリポート10aは、独立通路131に接続され、セカンダリポート10bは、集合通路132に接続されている。
独立通路131は、前側気筒31aのプライマリポート10aと、後側気筒31bのプライマリポート10aとを、集合させずにタービン51に接続させるよう構成されている。従って、独立通路131は、前側気筒31aのプライマリポート10aに接続される通路と、後側気筒31bのプライマリポート10aに接続される通路との2つからなる。2ロータタイプのロータリエンジン1において、前側気筒31aと後側気筒31bとの位相差は180°に設定されており、後述するように、前側気筒31aの排気行程と、後側気筒31bの排気行程とは一部が重なるが、独立通路131は、2つの通路が集合しないため、各プライマリポート10aから排出される排気ガスは、他の気筒の方に流れて膨張してしまうことは起こらない。各独立通路131では、排気エネルギを、タービン51に対しロス無く供給することが可能である。具体的な独立通路131の構成は、前側気筒31aのプライマリポート10aに接続される独立通路131と、後側気筒31bのプライマリポート10aに接続される独立通路131とが、タービン51の直上流までは、互いに独立しており、そのタービン51の直上流において、2つの独立通路131及び集合通路132が合流しタービン51に接続される。尚、前側気筒31aのプライマリポート10aに接続される独立通路131と、後側気筒31bのプライマリポート10aに接続される独立通路131とは、適宜の箇所で合流させることが可能である。
集合通路132は、前側気筒31aのセカンダリポート10bと、後側気筒31bのセカンダリポート10bとを、集合させた上で、タービン51に接続される通路である。前側気筒31aのセカンダリポート10bと、後側気筒31bのセカンダリポート10bとは、インターミディエイトハウジング4の外側面において隣り合って開口している。集合通路132は、その2つ並んだセカンダリポート10bの開口部の両方に接続されるよう構成されている。また、集合通路132は、インターミディエイトハウジング4の外側面から、集合通路の途中まで延びるように配設される仕切り壁1321を有している。仕切り壁1321は、前側気筒31aのセカンダリポート10bに接続される通路と、後側気筒31bのセカンダリポート10bに接続される通路とが、互いに独立状態のままで平行に延びるように構成されている。この仕切り壁1321の下流側において、2つの通路は集合するようになる。集合通路132の下流側は、図2に示すように、2つの独立通路131と集合した上で、タービン51に接続される。
仕切り壁1321が2つの通路を平行にする構成により、一方の気筒から排出された排気ガスの一部が、他方の気筒の方に流れてしまうことをできる限り抑制している。しかしながら、集合通路132は、排気行程の一部が重なり合う前側気筒31aと後側気筒31bとの2つの気筒のセカンダリポート10b同士が互いにつながっているため、独立通路131とは異なり、一方の気筒から排出された排気ガスの一部が、他方の気筒の方に流れて膨張してしまうことが起こり得る。特にセカンダリポート10bの開口時に生じるブローダウンによって、高圧の排気ガスの一部が、開いているセカンダリポート10bを通じて他方の気筒内に流入して膨張するようになり、その結果、ターボ過給機5のタービン51に供給されるブローダウンエネルギが低下し得る。
ターボ過給機5は、排気通路13上に配設されたタービン51と、図示を省略する吸気通路上に配設されたコンプレッサ52とを有している。排気ガス流によってタービン51が回転し、このタービン51の回転によって、タービン51に連結されたコンプレッサ52が作動をすることで、所望の過給圧を得る。タービン51の下流側は、第1通路133を介して、触媒装置100に接続される。ターボ過給機5はまた、タービン51をバイパスして触媒装置100に接続される第2通路134を有しており、この第2通路134上には、ウェストゲートバルブ1341が介設している。ウェストゲートバルブ1341を開弁したときには、排気ガスはタービン51をバイパスして流れるようになる。これにより、ターボ過給機5の過過給を防止する。
ここで、ロータリエンジンに取り付けられたターボ過給機の特性について説明をする。図3(a)は、ロータリエンジンに取り付けられたターボ過給機の特性を示し、図3(b)は、同じターボ過給機を、レシプロエンジンに取り付けたときの特性を示している。先ず、図3(b)の一点鎖線は、ウェストゲートバルブを開くインターセプトポイントを示しており、レシプロエンジンにおいて、インターセプトポイント以下の低回転域では、ウェストゲートバルブが閉じていると共に、同図に実線で示す過給圧の方が、同図に破線で示すタービン前背圧よりも高くなる。一方、インターセプトポイントを超える中回転域から高回転域では、ウェストゲートバルブが開いて過給圧を制限することに伴い、タービン前背圧の方が過給圧よりも高くなる。ウェストゲートバルブを開けることで、タービン前背圧は低下するものの、それ以上に過給圧の低下が大きい。
ロータリエンジンに取り付けられたターボ過給機では、図3(a)に示すように、ウェストゲートバルブを閉じるインターセプトポイント以下の低回転域では、同図に実線で示す過給圧の方が、同図に破線で示すタービン前背圧よりも高くなる。これは、レシプロエンジンと同じである。一方、インターセプトポイントを超える中回転域から高回転域では、ウェストゲートバルブを開いて過給圧を制限するものの、過給圧の方がタービン前背圧よりも高い状態が維持される。これは以下に述べるように、排気ポートの開口特性が相違するためと考えられる。
つまり、排気ポートをポペット弁の上下動によって開閉するレシプロエンジンにおいては、排気ポートを開く時に、ポペット弁のリフト量が徐々に大きくなる。これに対し、ロータリエンジンでは、図4からも明らかなように、サイドハウジング41及びインターミディエイトハウジング4の側面の開口部が、ロータ2の回転に伴い開閉する構造であるため、排気ポート10を開く時に、その開口面積が急激に拡大するようになる。このように、排気ポートを開く時の開口状態の変化特性が、ロータリエンジン1とレシプロエンジンとでは、大きく相違する。排気ポートを開いた時には、ブローダウンにより、排気ガスが高い圧力で排気通路に噴出するが、ロータリエンジン1は、排気ポートを開く時に開口面積が急拡大する特性に起因して、レシプロエンジンよりも高いブローダウンエネルギをタービンに供給することができる。このことが、図3に示すような、ターボ過給機の特性の相違を生むと考えられる。尚、図3(a)において、流量が増大する高回転域では、過給圧よりもタービン前背圧が高くなるが、これは、コンプレッサ効率の低下によるものである。
図2の排気装置に戻り、EGRシステム9は、集合通路132に連通するEGR通路91と、EGR通路91の途中に介設されたEGRクーラー92と、EGRクーラー92の下流側に配設されたEGR弁93とを備えている。EGR通路91は、前側気筒31a及び後側気筒31bのそれぞれに連通する集合通路132に接続されることで、前側気筒31aからの排気ガス、及び、後側気筒31bからの排気ガスを均等に取り出すことが可能である。EGRクーラー92は、エンジン冷却水によって排気ガスを冷却するように構成されている。吸気側には、冷却した低温の排気ガスが還流する。EGR弁93は、吸気側に還流させる排気ガス量の調整を行う流量調整弁である。
このように、EGR通路91を集合通路132に接続し、独立通路131からは、EGRガスの取り出しを行わないことで、独立通路131を通じてターボ過給機5のタービン51に供給される排気エネルギは、独立通路131においては、その途中でロスが生じないこととも関係して、高くなる。特にロータリエンジン1では、前述の通り、高いブローダウンエネルギを得ることができるため、集合通路132からEGRガスの取り出しを行っても、独立通路131によって高いブローダウンエネルギをタービン51に供給することで、ターボ過給機5の過給効率を高めることが可能になる。
一方、集合通路132は、前側気筒31aと後側気筒31bとのそれぞれに連通し、前述したように、各気筒31a、31bから排出された排気ガスを均等に取り出すことが可能になる。集合通路132もまた、タービン51に接続されていて、残余の排気ガスをタービン51に供給することになるが、各気筒31a、31bから排出された排気ガスを均等に取り出すことにより、タービン51に送られる排気ガスの脈動を均質化することが可能になる。このこともまた、ターボ過給機5の過給効率の向上に有利になる。
排気装置はさらに、EGRクーラー92の下流側においてEGR通路91から分岐すると共に、触媒装置100の上流側で第2通路134に接続される第3通路135を備えている。第3通路135には、当該第3通路135を流れる排気ガスの流量を調整する流量調整弁136が介設されている。
ECU20は、ロータリエンジン1の運転を制御する。図2に示す排気装置に関しては、ウェストゲートバルブ1341の開度、EGR弁93の開度、及び、第3通路135の流量調整弁136の開度をそれぞれ調整制御する。
具体的にECU20は、ロータリエンジン1の運転状態に応じて、過給圧が所定の過給圧となるように、ウェストゲートバルブ1341の開度調整を行う。
また、ECU20は、ロータリエンジン1の運転状態に応じてEGR弁93の開度を調整する。これにより、所望の量の排気ガスが、集合通路132から取り出されると共に、EGRクーラー92を通過して冷却された後に、吸気側へと還流される。
触媒装置100には、タービン51を通過後の比較的低温の排気ガスと、ウェストゲートバルブ1341が開いているときには、第2通路134によってタービン51をバイパスした比較的高温の排気ガスとがそれぞれ流入する。触媒装置100を流れる排気ガスの温度は、適宜の温度となる。
ロータリエンジン1の運転状態が高回転及び/又は高負荷領域にあるときには、触媒装置100の温度が高くなり易い。ECU20は、触媒装置100の温度に応じて、その温度が高くなるときには、第3通路135の流量調整弁136を開いて、集合通路132から取り出しかつ、EGRクーラー92によって冷却した排気ガスを、触媒装置100の上流側で第2通路134に導入する。これにより、触媒装置100に流入する排気ガスの温度が低くなるため、触媒装置100の温度が高くなりすぎることが回避される。これは、触媒装置100の信頼性向上と共に、触媒装置100の耐久性を向上する。
尚、触媒装置100の温度が高くなる運転状態では、EGRガスの還流量は少ないため、EGRクーラー92を通過した排気ガスを、吸気側に流さずに、触媒装置100に流しても、EGRガスが不足することにはならない。
次に、図4を参照しながら、エンジン1の排気ポート10の構成についてさらに詳細に説明をする。図4は、エンジン1における排気ポート10の開口部付近を拡大して示す図である。前述したように、このロータリエンジン1は、サイド排気方式であり、排気ポート10は、サイドハウジング41に開口部を有する(つまり、プライマリポート10a)と共に、インターミディエイトハウジング4においても、このサイドハウジング41の開口部に向かい合うように、排気ポート10の開口部が設けられている(つまり、セカンダリポート10b)。
ここで、排気ポート10の開口部は、3つの開口縁からなる細長い略三角形状を有している。この細長略三角形状の開口部の形状は、次のようにして定められる。つまり、図4における紙面上側に位置する開口縁の形状は、図4に仮想的に示すように、回転するロータ2が、所定のタイミングで排気ポート10を開くように、ロータ2の周縁形状にほぼ一致するように設定され、紙面右側に位置する開口縁の形状は、回転するロータ2が、所定のタイミングで排気ポート10を閉じるように、ロータ2の周縁形状にほぼ一致するように設定される。紙面左側に位置しかつ、最も長さの長い開口縁の形状は、ロータ2に設けられたオイルシール21(図1参照)の軌跡に基づいて、設定される。
このロータリエンジン1では、図4において一点鎖線で示されるプライマリポート10aの開口部101の形状と、図4において実線で示されるセカンダリポート10bの開口部102の形状とが異なる。プライマリポート10aの開口部101は、ポート開タイミングに係る開口縁の位置が、相対的にロータ回転方向の遅れ側(つまり、図4における紙面上側)に位置し、セカンダリポート10bの開口部102は、ポート開タイミングに係る開口縁の位置が、相対的にロータ回転方向の進み側(つまり、図4における紙面下側)に位置する。これにより、プライマリポート10aは、相対的に早いタイミングで開きかつ、セカンダリポート10bは、相対的に遅いタイミングで開く。
一方、プライマリポート10aの開口部101と、セカンダリポート10bの開口部102とは、ポート閉口に係る開口縁の位置は、互いに同じ位置に設定されている。これにより、プライマリポート10aとセカンダリポート10bとは、同じタイミングで閉口する。
この構成は、ターボ過給機付きエンジン1において、ブローダウンエネルギを有効に利用して、ターボ過給機5の過給効率を向上させる。以下、この点について、図5、6を参照しながら説明をする。
従来構成のサイド排気方式のロータリエンジンでは、サイドハウジングに設けた排気ポート(つまり、プライマリポート)の開口部の形状と、インターミディエイトハウジングに設けた排気ポート(つまり、セカンダリポート)の開口部の形状とは互いに同じであった。従って、プライマリポートの開タイミングと、セカンダリポートの開タイミングとは互いに同じでありかつ、プライマリポートの閉タイミングと、セカンダリポートの閉タイミングとは互いに同じである。図5は、従来構成におけるターボ過給機付きロータリエンジンの、プライマリポートの開口面積の変化及びセカンダリポートの開口面積の変化に対する、各ポート内の圧力の変動を例示している。横軸は、エキセン角である。先ず、前側気筒において、プライマリポート及びセカンダリポートが共に、同じタイミングで開くに伴い、プライマリポートの開口部及びセカンダリポートの開口部の両方から、ブローダウンガスが噴出する。前述したように、サイド排気方式のロータリエンジンでは、排気ポートの開口面積が急拡大することから、強いブローダウンエネルギが得られる。その結果、排気ポートの開口直後には、ポート内の圧力が急激に高まる。その後、ロータの回転に伴い、作動室内の既燃ガスがプライマリポートの開口部及びセカンダリポートの開口部を通じて各排気ポートに押し出されるようになり、ポート内の圧力は、エキセン角の進行に対し所定の圧力を維持するようになる。
2ロータタイプのロータリエンジン1では、前側気筒と後側気筒との位相差が180°に設定されている。このため、前側気筒が排気行程の中期にあるときに、後側気筒の排気ポートが開く。つまり、後側気筒のプライマリポート及びセカンダリポートのそれぞれが、同時に開くが、セカンダリポートは、集合通路を介して、前側気筒の、開いているセカンダリポートにつながっていると共に、排気行程の中期にある前側気筒の排気ポートの圧力は比較的低い。このため、後側気筒のセカンダリポートから排出されるブローダウンガスの一部が、前側気筒のセカンダリポートを介して、前側気筒の作動室内に流れ込んで膨張する。このことにより、セカンダリポートにおける圧力の低下は勿論のこと、作動室を介してセカンダリポートに連通するプライマリポートにおける圧力の低下も招き得る。結果として、ロータリエンジンは、高いブローダウンエネルギが得られるものの、ターボ過給機のタービンに供給されるブローダウンエネルギは、その分、低下する(図5のP1参照)。
これに対し、前記の構成では、独立通路131に接続されるプライマリポート10aの開タイミングを相対的に早くかつ、集合通路132に接続されるセカンダリポート10bの開タイミングを相対的に遅くなるように構成している。この場合、図6に示すように、後側気筒31bのプライマリポート10aが開くときには、セカンダリポート10bは閉じているため、ブローダウンガスが、プライマリポート10aにのみ流れる。その結果、図6に実線で示すように、プライマリポート10aの圧力は、従来構成の圧力P1よりも高まる。しかも、プライマリポート10aは、独立通路131に接続されているため、その高いブローダウンエネルギをロス無くタービン51に供給することが可能になる。
プライマリポート10aの開口に遅れて、後側気筒31bのセカンダリポート10bが開く。このタイミングでは、作動室8内の既燃ガスの一部が既に、プライマリポート10aに排出されているため、セカンダリポート10bにおいてもブローダウンが生じるものの、図6に破線で示すように、その圧力は相対的に低くなる。また、セカンダリポート10bは、集合通路132を通じて前側気筒31aのセカンダリポート10bに連通しており、ブローダウンガスの一部は、前側気筒31aの作動室8内に流れ込むが、セカンダリポート10bのブローダウン時の圧力は相対的に低いため、その分、前側気筒31aの方にブローダウンガスが流れ込むことは抑制される。従って、集合通路132を通じても、比較的高いブローダウンエネルギを、ターボ過給機5のタービン51に供給することが可能になる。尚、図4からも明らかなように、セカンダリポート10bの開口部102の最大開口面積は、プライマリポート10aの開口部101の最大開口面積よりも小さい。
こうして、プライマリポート10aの開タイミングを相対的に早くかつ、セカンダリポート10bの開タイミングを相対的に遅くすることによって、ブローダウンエネルギを効率的にタービン51に供給することが可能になり、ターボ過給機5の過給効率の向上が図られる。これは特に、排気エネルギが低くなるため過給効率が低下し易いエンジンの低回転域において、過給効率を向上させる上で有効である。尚、プライマリポート10aの開タイミングと、セカンダリポート10bの開タイミングとの位相差は、エキセン角で20°程度に設定してもよい。
プライマリポート10aの開タイミングとセカンダリポート10bの開タイミングとが異なる一方で、プライマリポート10aの閉タイミングとセカンダリポート10bの閉タイミングとは同じに設定されている。プライマリポート10a及びセカンダリポート10bの閉タイミングは共に、アイドル運転時の安定性が確保されるように、次行程の作動室8に送られる排気ガス量が所定量以下になるタイミングに設定されているためである。言い換えると、セカンダリポート10bの閉タイミングを、開タイミングの遅れに対応して遅らせてしまうと、次行程の作動室8に送られる排気ガス量が増えてしまい、アイドル運転時の安定性が確保されなくなるのである。
尚、ここに開示する技術は、ロータリエンジン1に適用することに限らず、多気筒のレシプロエンジンの排気装置に適用することも可能である。例えば、図7(a)は、水平対向4気筒レシプロエンジン1001に、ここに開示する技術を適用した例を示している。このエンジン1001は、第1、第2、第3及び第4の気筒311、312、313、314を有しており、第1及び第3気筒311、313が、回転軸(つまり、クランク軸)Xを挟んだ一側に、第2及び第4気筒312、314が、回転軸Xを挟んだ他側に配設される。このエンジン1001の点火順序は、第1気筒311、第3気筒313、第4気筒314、第2気筒312の順に設定されており、回転軸Xを挟んだ一側に配設された第1気筒311と第3気筒313とは、排気行程の一部が重なり合う2つの特定気筒を構成し、回転軸Xを挟んだ他側に配設された第2気筒312と第4気筒314とも、排気行程の一部が重なり合う2つの特定気筒を構成する。排気通路13は、回転軸Xを挟んだ一側と他側とのそれぞれで、個別に設けられている。
各気筒311〜314には、プライマリポート10aとセカンダリポート10bとの2つの排気ポートが設けられており、第1気筒311及び第3気筒313においては、セカンダリポート10bが集合通路132に接続されている。集合通路132は、その途中で集合した後に、ターボ過給機5のタービン51に接続される。一方、プライマリポート10aは独立通路131に接続され、途中で集合することなく、ターボ過給機5のタービン51に接続される。第2気筒312及び第4気筒314においても同様に、セカンダリポート10bが集合通路132に接続され、プライマリポート10aは独立通路131に接続されている。尚、符号51aは、可変ベーンであり、このターボ過給機5は、可変容量ターボ過給機である。但し、ターボ過給機5の構成は適宜変更することが可能である。
このレシプロエンジン1001ではまた、各気筒311〜314において、2つの排気ポートを開閉する排気弁(図示省略)の開弁タイミングが異なるように構成されており、具体的には、独立通路131に接続されたプライマリポート10aの開弁タイミングが相対的に早くかつ、集合通路132に接続されたセカンダリポート10bの開弁タイミングが相対的に遅くされる。このような構成を実現する上で、排気弁を駆動する動弁機構は、例えば油圧式の可変駆動機構を採用してもよい。油圧式の可変駆動機構は、油圧の供給を受けて排気弁をリフトさせるピストンと、ピストンに供給する作動油圧を昇圧するポンプとを備え、ポンプからピストンへの作動油の給排を制御することによって、排気弁の開弁タイミングを変更することが可能である。また、電磁駆動式の排気弁を採用することによっても、2つの排気ポートの開弁タイミングを異ならせることが可能である。
このような構成のレシプロエンジン1001では、前述したロータリエンジン1と同様に、独立通路131に接続されたプライマリポート10aを、相対的に早いタイミングで開くことで、独立通路131を通じて、より高いブローダウンエネルギをタービン51に供給することが可能になる。また、集合通路132に接続されたセカンダリポート10bを、相対的に遅いタイミングで開くが、ブローダウンガスの圧力が相対的に低くなって、集合通路132を通じて隣の気筒内へと流れ込むブローダウンガスが減ることで、比較的高いブローダウンエネルギを、集合通路132を介して、タービン51に供給することが可能になる。その結果、特に低回転域において、ブローダウンエネルギを有効に利用して、ターボ過給機5の過給効率を向上させることが可能になる。尚、レシプロエンジン1001において、各気筒311〜314における2つの排気ポートの閉タイミングは、同じにしてもよいし、異ならせてもよい。
この構成ではまた、回転軸Xを挟んだ一側と他側とのそれぞれで個別に排気通路13を設けることが可能になる。これにより、排気通路13のレイアウト性が向上する。尚、図7(a)の構成は、V型4気筒レシプロエンジンに対しても、同様に、適用可能である。
図7(b)は、直列4気筒レシプロエンジン1002の構成例を示している。このエンジン1002は、第1気筒311、第2気筒312、第3気筒313及び第4気筒314が、回転軸Xに沿って一列に配設されている。このエンジン1002の点火順序は、第1気筒311、第2気筒312、第4気筒314、第3気筒313の順に設定されている。従って、このエンジン1002では、第1気筒311及び第2気筒312が、排気行程の一部が重なり合う2つの特定気筒となり、第3気筒313及び第4気筒314が、排気行程の一部が重なり合う2つの特定気筒となる。排気通路13は、第1気筒311及び第2気筒312に接続される排気通路13と、第3気筒313及び第4気筒314に接続される排気通路13との2系統に分かれている。
このエンジン1002においても、各気筒311〜314には、プライマリポート10aとセカンダリポート10bとの2つの排気ポートが設けられており、セカンダリポート10bが集合通路132に接続されている。集合通路132は、その途中で集合した後に、ターボ過給機5のタービン51に接続される。一方、プライマリポート10aは独立通路131に接続され、途中で集合することなく、ターボ過給機5のタービン51に接続される。第3気筒313及び第4気筒314においても同様である。
また、このエンジン1002でも、例えば油圧式の可変駆動機構や、電磁駆動式の排気弁によって、各気筒311〜314において、2つの排気ポートを開閉する排気弁(図示省略)の開弁タイミングが異なるように構成されている。つまり、独立通路131に接続されたプライマリポート10aの開弁タイミングが相対的に早くかつ、集合通路132に接続されたセカンダリポート10bの開弁タイミングが相対的に遅くされている。従って、この構成のレシプロエンジンでは、前述したロータリエンジン1と同様に、独立通路131に接続されたプライマリポート10aを、相対的に早いタイミングで開くことで、独立通路131を通じて、より高いブローダウンエネルギをタービン51に供給することが可能になり、集合通路132に接続されたセカンダリポート10bを、相対的に遅いタイミングで開くことで、比較的高いブローダウンエネルギを、集合通路132を介して、タービン51に供給することが可能になり、特に低回転域において、ブローダウンエネルギを有効に利用して、ターボ過給機5の過給効率を向上させることが可能になる。尚、レシプロエンジン1002において、各気筒311〜314における2つの排気ポートの閉タイミングは、同じにしてもよいし、異ならせてもよい。
図7(c)は、直列2気筒レシプロエンジン1003の構成例を示している。このエンジン1003は、第1気筒311及び第2気筒312が、回転軸Xに沿って一列に配設されている。このエンジン1003の第1気筒311と第2気筒312との点火位相差は、180°に設定されており、これにより、第1気筒311及び第2気筒312の排気行程の一部が重なり合う。排気通路13の構成は、図7(b)に示す直列4気筒レシプロエンジンにおける、第1気筒311及び第2気筒312の排気通路13と同じである。従って、同じ構成について同じ符号を付して、その説明は省略する。この構成のレシプロエンジン1003でも、ブローダウンエネルギを有効に利用して、ターボ過給機5の過給効率を向上させることが可能になる。尚、レシプロエンジン1003において、各気筒311〜314における2つの排気ポートの閉タイミングは、同じにしてもよいし、異ならせてもよい。
尚、レシプロエンジンは、ガソリンエンジン(つまり、火花点火式エンジン)及びディーゼルエンジンのいずれであってもよい。