A.実施形態:
図1は、本発明の実施形態における印刷装置100の概略構成を示す説明図である。本実施形態の印刷装置100は、液体インクを吐出することによって印刷媒体上にインクドット群を形成し、これにより、ホストコンピューター200から供給された画像データに応じた画像(文字、図形等を含む)を印刷するインクジェットプリンターである。
印刷装置100は、印刷ヘッド140と、フレキシブルフラットケーブル139を介して印刷ヘッド140と接続された制御ユニット110とを備えている。制御ユニット110は、ホストコンピューター200から画像データ等を入力するためのホストインターフェイス(IF)112と、ホストインターフェイス112を介して入力された画像データに基づいて画像の印刷のための所定の演算処理を実行するメイン制御部120と、印刷媒体の搬送のための紙送りモーター172を駆動制御する紙送りモータードライバー114と、印刷ヘッド140を駆動制御するヘッドドライバー116と、各ドライバー114、116と紙送りモーター172、印刷ヘッド140とをそれぞれ接続するメインインターフェイス(IF)119と、を有している。ヘッドドライバー116は、メイン側駆動回路80と発振回路40とを含んでいる。
メイン制御部120は、各種演算処理を実行するCPU122と、プログラムやデータを一時的に格納・展開するRAM124と、CPU122が実行するプログラム等を格納するROM126と、を含んでいる。メイン制御部120の各種の機能は、CPU122がROM126に格納されたプログラムをRAM124上に読み出して実行することによって実現される。例えば、CPU122は、後述の周波数制限部128として機能する。なお、メイン制御部120は電気回路を備えていてもよく、メイン制御部120の機能の少なくとも一部はメイン制御部120が備える電気回路がその回路構成に基づいて動作することによって実現されてもよい。
メイン制御部120は、ホストコンピューター200からホストインターフェイス112を介して画像データを取得すると、画像データに基づいて画像展開処理、色変換処理、インク色分版処理、ハーフトーン処理といった印刷実行のための演算処理を行うことにより、印刷ヘッド140の何れのノズルからインクを吐出するか、あるいは、どの程度の量のインクを吐出するかを規定するノズル選択データ(駆動信号選択データ)を生成し、駆動信号選択データ等に基づいて各ドライバー114、116に制御信号を出力する。なお、メイン制御部120が実行する印刷実行のための各演算処理の内容は、印刷装置の技術分野において周知の事項であるため、ここでは説明を省略する。各ドライバー114、116は、それぞれ紙送りモーター172、印刷ヘッド140の動作を制御するための信号を出力する。例えば、ヘッドドライバー116は、印刷ヘッド140に対して、後述する基準クロック信号SCKとラッチ信号LATと駆動信号選択信号SI&SPとチャンネル信号CHとを供給する。
印刷ヘッド140には、図示しない1つまたは複数のインク容器から1色または複数色のインクが供給される。印刷ヘッド140は、ヘッドインターフェイス(IF)142と、ヘッド側駆動回路90と、スイッチングコントローラー160と、吐出部150と、を有している。ヘッド側駆動回路90およびスイッチングコントローラー160は、ヘッドインターフェイス142を介して制御ユニット110から入力される各種信号に基づき動作する。吐出部150は、インクを吐出する複数のノズル開口部152と、複数のノズル開口部152に対応して設けられた複数の圧電素子156とを有している。本実施形態では、圧電素子156としてピエゾ素子が用いられる。ノズル開口部152は、インクが供給される圧力室154と連通している。圧電素子156は、ヘッド側駆動回路90およびスイッチングコントローラー160を介して供給される駆動信号COM(後述)に従い変形することによって、圧力室154を膨張または収縮させる。圧力室154が膨張または収縮して圧力室154内に圧力変化が発生すると、その圧力変化によって対応するノズル開口部152からインクが吐出される。圧電素子156の駆動に用いられる駆動信号COMの波高値や電圧増減傾きを調整することで、インクの吐出量(すなわち形成するドットの大きさ)を調整することができる。
本実施形態の印刷装置100は、第1の解像度と第1の解像度より高い第2の解像度との少なくとも2つの印刷解像度で印刷を行うことができる。また、印刷装置100は、第1の印刷速度と第1の印刷速度より速い第2の印刷速度との少なくとも2つの印刷速度で印刷を行うことができる。印刷解像度および印刷速度の選択は、例えばホストコンピューター200で動作するプリンタードライバーによって表示されるユーザーインターフェイス上で行われる。このユーザーインターフェイスには、上記少なくとも2つの印刷解像度のいずれか1つを選択させる部分と、上記少なくとも2つの印刷速度のいずれか1つを選択させる部分とが含まれる。ユーザーインターフェイス上で選択された印刷解像度および印刷速度を示す情報を含む印刷コマンドがホストコンピューター200から印刷装置100に送られると、メイン制御部120は、選択された印刷解像度および印刷速度での印刷を開始する。なお、ユーザーインターフェイス上の1つの選択部分で、印刷解像度および印刷速度の両方を選択させるとしてもよい。例えば、ユーザーインターフェイスが、印刷解像度および印刷速度の組み合わせが互いに異なる複数の印刷モード(例えば、「きれいモード」や「はやいモード」)のいずれか1つを選択させる部分を含み、印刷モードが選択されると、選択された印刷モードに対応付けられた印刷解像度および印刷速度の組み合わせが選択されるものとしてもよい。例えば、「きれいモード」が選択された場合には、比較的高い印刷解像度と比較的遅い印刷速度とが選択され、「はやいモード」が選択された場合には、比較的低い印刷解像度と比較的速い印刷速度が選択される。また、ユーザーインターフェイスは印刷装置100に表示されるとしてもよい。また、印刷解像度および印刷速度は、ユーザーインターフェイス上で選択される代わりに、ホストコンピューター200または印刷装置100によって自動的に選択されるとしてもよい。例えば、ホストコンピューター200や印刷装置100が、印刷対象の画像の種別を判定し、判定された画像種別に対応付けられた印刷解像度および印刷速度の組み合わせが選択されるものとしてもよい。
印刷装置100がいわゆるラインプリンター(印刷媒体の搬送方向と交差する方向に配列された複数のノズルを有するライン型のヘッドを用い、上記交差する方向に沿ったヘッドの印刷媒体に対する相対移動を伴うことなく印刷を行う印刷装置)である場合には、印刷の際に、紙送りモーター172による印刷媒体の搬送と、印刷媒体に対するノズル開口部152からのインク吐出とが実行される。この場合に、紙送りモーター172は、搬送速度の異なる複数の動作モードを有する。上述したように印刷速度および印刷解像度が選択されると、紙送りモータードライバー114は、選択された印刷速度および印刷解像度に応じた動作モードで紙送りモーター172を動作させる。例えば、比較的高い印刷解像度や比較的遅い印刷速度が選択された場合には、紙送りモーター172は搬送速度の比較的遅いモードで動作し、比較的低い印刷解像度や比較的速い印刷速度が選択された場合には、紙送りモーター172は搬送速度の比較的速いモードで動作する。一方、印刷装置100がいわゆるシリアルプリンター(印刷媒体の搬送(副走査)と、印刷媒体の搬送方向と交差する方向に沿ったヘッドの印刷媒体に対する相対移動(主走査)と、を行いつつ印刷を行う印刷装置)である場合には、印刷の際に、紙送りモーター172による印刷媒体の搬送と、ヘッドを搭載するキャリッジ(図示しない)の上記交差する方向(主走査方向)に沿った往復移動と、印刷媒体に対するノズル開口部152からのインク吐出とが実行される。この場合に、紙送りモーター172は、搬送速度の異なる複数の動作モードを有し、キャリッジを駆動するキャリッジモーター(図示しない)はキャリッジ移動速度の異なる複数の動作モードを有する。上述したように印刷速度および印刷解像度が選択されると、紙送りモータードライバー114は、選択された印刷速度および印刷解像度に応じた動作モードで紙送りモーター172を動作させ、キャリッジモーターを制御するキャリッジモータードライバー(図示しない)は、選択された印刷速度および印刷解像度に応じた動作モードでキャリッジモーターを動作させる。例えば、比較的高い印刷解像度や比較的遅い印刷速度が選択された場合には、紙送りモーター172は搬送速度の比較的遅いモードで動作し、キャリッジモーターはキャリッジ移動速度の比較的遅いモードで動作する。また、比較的低い印刷解像度や比較的速い印刷速度が選択された場合には、紙送りモーター172は搬送速度の比較的速いモードで動作し、キャリッジモーターはキャリッジ移動速度の比較的速いモードで動作する。なお、紙送りモーター172およびキャリッジモーターのいずれか一方のみが複数の動作モードを有し、他の一方は単一の動作モードを有するとしてもよい。この場合には、複数の動作モードを有する方のモーターが、選択された印刷速度および印刷解像度に応じた動作モードで動作する。
図2は、印刷ヘッド140において用いられる各種信号の一例を示す説明図である。図2(a)には、駆動信号COMと、ラッチ信号LATと、チャンネル信号CHと、駆動信号選択信号SI&SPとの一例を示している。駆動信号COMは、印刷ヘッド140の吐出部150に設けられた圧電素子156を駆動するための信号である。駆動信号COMは、圧電素子156を駆動する駆動信号の最小単位(単位駆動信号)としての駆動パルスPCOM(駆動パルスPCOM1ないしPCOM4)が時系列的に連続した信号である。駆動信号COMの各周期Tcom内に含まれる駆動パルスPCOM1、PCOM2、PCOM3およびPCOM4の4つの駆動パルスPCOMの組は、1つの画素(印刷画素)に対応している。
図2(b)には、駆動パルスPCOM2の一例を拡大して示している。駆動パルスPCOM2は、膨張要素E1と、膨張保持要素E2と、吐出要素E3と、収縮保持要素E4と、制振要素E5とから構成されている。駆動パルスPCOM3およびPCOM4についても同様である。各駆動パルスPCOMの膨張要素E1は、圧電素子156の定常状態に相当する中間電位Vmから膨張電位(最大電圧)Vhまで電位を上昇させて圧電素子156を変形させることにより圧力室154の体積を膨張させ、インクを引き込む(インクの吐出面で考えればメニスカスを引き込むとも言える)ための部分である。膨張保持要素E2は、膨張電位Vhを保持して圧力室154の膨張状態を維持する部分である。吐出要素E3は、膨張電位Vhから収縮電位(最小電圧)Vlまで電位を下降させて圧電素子156を変形させることにより圧力室154の体積を収縮させ、インクを押し出す(インクの吐出面で考えればメニスカスを押し出すとも言える)ための部分である。収縮保持要素E4は、収縮電位Vlを保持して圧力室154の収縮状態を維持する部分である。制振要素E5は、収縮電位Vlから中間電位Vmまで電位を上昇させて圧電素子156を定常状態に戻すことにより圧力室154の体積を定常状態に復帰させる(インクの吐出面で考えればメニスカスの振動を抑えるとも言える)部分である。圧電素子156は、各駆動パルスPCOMの各要素に従って、定常状態と、圧力室154の体積を膨張させる膨張状態と、膨張した圧力室154の体積を保持する膨張ホールド状態と、圧力室154の体積を収縮させる収縮状態と、収縮した圧力室154の体積を保持する収縮ホールド状態と、圧力室154の体積を定常状態まで復帰させる制振状態とを順に遷移する。駆動パルスPCOM2、PCOM3およびPCOM4の中から1つまたは複数の駆動パルスPCOMを選択して圧電素子156に供給することにより、種々の大きさのインクドットを形成することができる。なお、本実施形態では、駆動信号COMに、微振動と呼ばれる駆動パルスPCOM1が含まれる。駆動パルスPCOM1は、インクを引き込むのみで押し出しを行わない場合、例えばノズル開口部152の増粘を抑制する場合に用いられる。また、後述するように、駆動信号COMは基駆動信号WCOMを増幅することにより生成されるのであり、基駆動信号WCOMの信号波形も図2(a)に示した駆動信号COMの波形と同様である。
駆動信号選択信号SI&SPは、インクを吐出するノズル開口部152を選択すると共に、圧電素子156を駆動信号COMへ接続させるタイミングを決定する信号である。ラッチ信号LATおよびチャンネル信号CHは、全てのノズル開口部152分のノズル選択データが入力された後、駆動信号選択信号SI&SPに基づいて駆動信号COMと印刷ヘッド140の圧電素子156とを接続させる信号である。図2(a)に示すように、ラッチ信号LATおよびチャンネル信号CHは、駆動信号COMに同期した信号である。すなわち、ラッチ信号LATは、駆動信号COMの開始タイミングに対応してハイレベルとなる信号であり、チャンネル信号CHは、駆動信号COMを構成する各駆動パルスPCOMの開始タイミングに対応してハイレベルとなる信号である。ラッチ信号LATに応じて一連の駆動信号COMの出力が開始され、チャンネル信号CHに応じて各駆動パルスPCOMが出力される。また、基準クロック信号SCKは、駆動信号選択信号SI&SPをシリアル信号として印刷ヘッド140に送信するための信号である。すなわち、基準クロック信号SCKは、印刷ヘッド140のノズル開口部152からインクを吐出するタイミングの決定に使用される信号である。
図3は、印刷ヘッド140のスイッチングコントローラー160(図1)の構成を示す説明図である。スイッチングコントローラー160は、駆動信号COMを圧電素子156に選択的に供給する。スイッチングコントローラー160は、駆動信号選択信号SI&SPを保存するシフトレジスター162と、シフトレジスター162のデータを一時的に保存するラッチ回路164と、ラッチ回路164の出力をレベル変換して選択スイッチ168に供給するレベルシフター166と、駆動信号COMを圧電素子156に接続する選択スイッチ168とを有している。
シフトレジスター162には、駆動信号選択信号SI&SPが順次入力され、基準クロック信号SCKの入力パルスに応じて記憶される領域が順次後段にシフトする。ラッチ回路164は、ノズル数分の駆動信号選択信号SI&SPがシフトレジスター162に格納された後、入力されるラッチ信号LATに従いシフトレジスター162の各出力信号をラッチする。ラッチ回路164に保存された信号は、レベルシフター166によって次段の選択スイッチ168を切り替え(オン/オフ)できる電圧レベルに変換される。レベルシフター166の出力信号により閉じられる(接続状態となる)選択スイッチ168に対応する圧電素子156は、駆動信号選択信号SI&SPの接続タイミングで駆動信号COM(駆動パルスPCOM)に接続される。これにより、圧電素子156が変形し、駆動信号COMに応じた量のインクがノズルから吐出される。また、シフトレジスター162に入力された駆動信号選択信号SI&SPがラッチ回路164にラッチされた後、次の駆動信号選択信号SI&SPがシフトレジスター162に入力され、インクの吐出タイミングに合わせてラッチ回路164の保存データを順次更新する。この選択スイッチ168によれば、圧電素子156を駆動信号COM(駆動パルスPCOM)から切り離した後も、当該圧電素子156の入力電圧は切り離す直前の電圧に維持される。なお、図3中の符号HGNDは、圧電素子156のグランド端である。
図4は、印刷装置100における駆動信号COMを生成するための構成を示す説明図である。図4では、印刷装置100の構成の内、駆動信号COMの生成に直接関係のない構成の図示を適宜省略している。本実施形態では、駆動信号COMは、制御ユニット110のメイン側駆動回路80と印刷ヘッド140のヘッド側駆動回路90とによって生成される。メイン側駆動回路80は、基駆動信号生成回路81と、信号変調回路82と、信号増幅回路83と、を含んでいる。また、ヘッド側駆動回路90は、信号変換回路91を含んでいる。
基駆動信号生成回路81は、上述した駆動信号COMの基となるアナログ信号である基駆動信号WCOMを生成する回路である。基駆動信号生成回路81は、例えば、特開2011−207234号公報に記載されているように、メイン制御部120から入力される波形形成用データを所定のアドレスに対応する記憶素子に記憶する波形メモリーと、波形メモリーから読出された波形形成用データを第1のクロック信号によってラッチする第1のラッチ回路と、第1のラッチ回路の出力と後述する第2のラッチ回路から出力される波形生成データWとを加算する加算器と、加算器の加算出力を第2のクロック信号によってラチする第2のラッチ回路と、第2のラッチ回路から出力される波形生成データをアナログ信号である基駆動信号WCOMに変換するD/A変換器と、を含むように構成される。
信号変調回路82は、基駆動信号生成回路81から基駆動信号WCOMを受け取り、基駆動信号WCOMに対するパルス変調を行ってデジタル信号である変調基駆動信号MSを生成する回路である。信号変調回路82については、後に詳述する。
信号増幅回路83は、信号変調回路82から変調基駆動信号MSを受け取り、変調基駆動信号MSを電力増幅して変調駆動信号MASを生成する回路(いわゆるD級アンプ)である。信号増幅回路83は、実質的に電力を増幅するための2つのスイッチング素子(ハイサイド側スイッチング素子Q1およびローサイド側スイッチング素子Q2)からなるハーフブリッジ出力段85と、信号変調回路82からの変調基駆動信号MSに基づいてスイッチング素子Q1およびQ2のゲート−ソース間信号GHおよびGLを調整するゲート駆動回路84とを含んでいる。信号増幅回路83では、変調基駆動信号MSがハイレベルであるとき、ハイサイド側スイッチング素子Q1はゲート−ソース間信号GHがハイレベルとなってオン状態となり、ローサイド側スイッチング素子Q2はゲート−ソース間信号GLがローレベルとなってオフ状態となり、その結果、ハーフブリッジ出力段85の出力は供給電圧VDDとなる。一方、変調基駆動信号MSがローレベルであるとき、ハイサイド側スイッチング素子Q1はゲート−ソース間信号GHがローレベルとなってオフ状態となり、ローサイド側スイッチング素子Q2はゲート−ソース間信号GLがハイレベルとなってオン状態となり、その結果、ハーフブリッジ出力段85の出力は0となる。このように、信号増幅回路83では、変調基駆動信号MSに基づくハイサイド側スイッチング素子Q1およびローサイド側スイッチング素子Q2のスイッチング動作により電力増幅が行われ、変調駆動信号MASが生成される。なお、上述の動作により、各スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数は、信号変調回路82から入力される変調基駆動信号MSの周波数、すなわち、信号変調回路82の発振周波数に等しくなる。
信号変換回路91は、信号増幅回路83から変調駆動信号MASを受け取り、変調駆動信号MASを平滑化してアナログ信号である駆動信号COM(駆動パルスPCOM)を生成する回路(いわゆる平滑フィルター)である。本実施形態では、信号変換回路91として、コンデンサCとコイルLとの組み合わせを用いたローパスフィルター(低域通過フィルター)を用いている。信号変換回路91は、信号変調回路82で生じた変調周波数成分を減衰させて、上述したような波形特性の駆動信号COMを出力する。信号変換回路91により生成された駆動信号COMは、スイッチングコントローラー160の選択スイッチ168を介して吐出部150の圧電素子156に供給される。
図5は、駆動回路の具体的な構成の一例を示す説明図である。本実施形態では、信号変調回路82における変調方式として、自励式のパルス密度変調(PDM)を用いている。図5に示すように、信号変調回路82は、基駆動信号WCOMと、基駆動信号WCOMの電圧に応じて周波数が変化する三角波または鋸波からなる比較信号とを電圧比較器に入力することで、変調基駆動信号MSを生成する。一般に、パルス密度変調は、入力信号と所定値とを比較して入力信号が所定値以上であるときにハイレベルとなる信号を出力する比較器と、比較器の入力信号と出力信号との誤差を算出する減算器と、誤差を遅延する遅延器と、遅延された誤差を原信号に加算または減算する加減算器と、を備えるいわゆるΔΣ変調回路を用いて実行される。しかし、図5に示した例では、パルス密度変調を用いた信号変調回路82は、遅延器を有していない。信号変換回路91として構成されたローパスフィルターは表現を変えれば遅延器でもあるので、図5にVFBとして示すように、遅延器の代わりにLCローパスフィルター出力(COM)を遅延信号として用いている。また、本実施形態では、高域成分を強調する回路(ハイパスフィルタ(HP−F)および高域ブースト(G))と、高域成分を帰還する回路(「IFB」として示す)とが追加されている。すなわち、この例では、信号変調回路82は、信号増幅回路83による増幅後の変調信号を帰還信号として受け取り、生成する変調基駆動信号MSを補正する。なお、信号変調回路82は、ΔΣ変調回路を用いた回路を含め、パルス密度変調を行うことができる他の回路を用いて構成するとしてもよい。
本実施形態の変調回路82における変調方式は自励発振型パルス密度変調方式であり、発振周波数が、入力される駆動波形信号WCOMの信号レベル(パルスデューティ比)に応じて変動する。図6は、変調回路82における発振周波数を示す説明図である。パルス密度変調方式における発振周波数は、図6において実線で示されるように、入力信号レベルが中間値L1である場合に最も高くなり(最大値f(t)となり)、入力信号レベルが中間値L1から大きくあるいは小さくなるにつれて低くなる。中間値付近でのパルスデューティー比はほぼ50%であるが、発振周波数の低下と共にパルスデューティー比が変化する。本方式の利点は、変調周波数固定のパルス幅変調方式と比較して、パルスデューティー比の変化幅を大きく取ることができ、広い出力ダイナミックレンジを確保することができるという点である。すなわち、変調回路全体で扱うことができる最小の正パルス幅と負パルス幅はその回路特性で制約されるので、それ未満のパルス信号は途中で消失してしまう。そのため、周波数固定のパルス幅変調方式では、所定の範囲(例えば10%から90%)のパルスデューティー比変化幅しか確保できない。これに対し、本実施例の自励発振型パルス密度変調方式では、入力信号レベルが中間値から大きくあるいは小さくなるにつれて発振周波数が低くなるため、入力信号レベルがごく大きい部分においてはパルスデューティー比がより大きい信号を扱うことができ、またごく小さい部分においてはパルスデューティー比がより小さい信号を扱うことができるので、より広い範囲(例えば5%から95%)のパルスデューティー比変化幅を確保することができる。以下、具体例を示す。例えば、回路全体で扱うことができる正負最小パルス幅が共に25nsであるとすると、変調周波数が4MHz固定の場合には、パルスデューティー比変化幅はその周期に対する比率で決まるので、10%から90%のパルスデューティー比変化幅しか確保できない。一方、本実施例の自励発振型パルス密度変調方式では、発振周波数が入力信号レベルに応じて変化し、例えば入力信号低レベル時と高レベル時において共に2MHzになるとすると、5%から95%のパルスデューティー比変化幅を確保することができる。これにより、広い出力ダイナミックレンジを確保することができる。また、本実施例の自励発振型パルス密度変調方式は、周波数固定の他励変調方式のように外部に高周波数信号を発生する回路を設ける必要がないため、例えば1チップ化が比較的容易であるといったシステム構成上の利点がある。
ここで、周波数制限部128(図1)は、後述する所定の場合に、発振回路40に、信号変調回路82に対して周波数制限用クロック信号LCKを供給させる。周波数制限用クロック信号LCKが信号変調回路82に入力されると(図4)、変調回路82において、周波数制限用クロック信号LCKは加減算器ASに入力される(図5)。入力された周波数制限用クロック信号LCKは、加減算器ASにより、駆動波形信号WCOMに対して加算または減算される。信号変調回路82に周波数制限用クロック信号LCKが入力された状態では、変調回路82における発振周波数が周波数制限用クロック信号LCKの周波数に制限される。すなわち、信号変調回路82の発振周波数が周波数制限用クロック信号LCKに近づくと、発振周波数が周波数制限用クロック信号LCKに引き込まれて周波数制限用クロック信号LCKの周波数f(p)に固定される(図6の破線参照)。入力信号レベルが変化して、本来の発振周波数が周波数制限用クロック信号LCKの周波数f(p)から大きく外れると、周波数制限用クロック信号LCKへの固定が解除され、変調回路82の発振周波数は入力信号レベルに応じた通常の発振周波数へと復帰する。このように、周波数制限部128は、発振回路40から信号変調回路82へ周波数制限用クロック信号LCKを供給するか否かを切り換えることにより、信号変調回路82の発振周波数を周波数制限用クロック信号LCKの周波数f(p)未満に制限するか制限しないかを切り換えることができる。上述したように、信号変調回路82の発振周波数は信号増幅回路83の各スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数に等しいため、周波数制限部128は、各スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数を所定値未満に制限するか制限しないかを切り換えることができるとも表現できる。
図7は、周波数制限の切り換え態様を示す説明図である。図7に示すように、本実施形態の印刷装置100は、印刷速度として3つの速度(6,12,18ipm(image per minute))の内の1つを選択可能であり、印刷解像度として6つの解像度(300×300dpi(dot per inch)から2400×2400dpiまで)の内の1つを選択可能である。印刷解像度の右隣の数字は、最低解像度(300×300dpi)を基準値1とした場合の比率を示している。
本実施形態では、周波数制限部128は、印刷速度と印刷解像度(より具体的には上記比率の値、以下同様)との積が所定の閾値以上である第1の場合には、各スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数の制限を行い、印刷速度と印刷解像度との積が上記閾値未満である第2の場合には、各スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数の制限を行わない。上記閾値は、例えば、100に設定される。図7に示すように、印刷速度が6ipmであり、印刷解像度が1200×1200dpiである場合は、上記積は96となるため、周波数制限部128はスイッチング周波数の制限を行わない。一方、印刷速度が6ipmであり、印刷解像度が1200×2400dpiである場合は、上記積は192となるため、周波数制限部128はスイッチング周波数の制限を行う。
印刷速度が速かったり印刷解像度が高かったりすると、信号増幅回路83の各スイッチング素子Q1,Q2の単位時間あたりスイッチング回数が増加するため、消費電力が増大すると共に発熱による不具合が発生する恐れがある。本実施形態の印刷装置100では、周波数制限部128が、印刷速度と印刷解像度との積が所定の閾値以上である第1の場合には、各スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数の制限を行うため、消費電力の増大や発熱による不具合の発生を回避することができる。この場合には、波形再現性が低下して若干の画質への影響が発生するが、周波数の制限はパルスデューティー比が中間レベルの部分のみで行われるのであり(図6)、画質への影響を極力抑制することができる。また、本実施形態の印刷装置100では、周波数制限部128が、印刷速度と印刷解像度との積が上記閾値未満である第2の場合には、各スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数の制限を行わないため、忠実な波形再現による高画質な印刷を実現することができる。
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
B1.変形例1:
上記実施形態における印刷装置100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、信号変調回路82における変調方式としてパルス密度変調(PDM)を用いているが、代わりにパルス幅変調(PWM)を用いるとしてもよい。図8は、パルス幅変調を用いた信号変調回路82aの構成の一例を示す説明図である。図8(a)に示すように、信号変調回路82aは、単一の波形を所定の周波数で繰り返す三角波(または鋸波)からなる比較信号を出力する比較信号生成回路51と、基駆動信号WCOMと比較信号とを比較する電圧比較器52とを含んでいる。図8(b)には、比較信号生成回路51の構成の一例を示している。この信号変調回路82aによれば、基駆動信号WCOMが比較信号以上であるときにHiとなり、基駆動信号WCOMが比較信号未満であるときにLoとなる変調基駆動信号MSが生成される。すなわち、変調基駆動信号MSの周波数は比較信号の周波数に等しい。この変形例では、周波数制限部128(図1)は、比較信号の周波数を変更することによって、変調基駆動信号MSの周波数(すなわち、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数)を変更することができる。本変形例では、周波数制限部128は、印刷速度と印刷解像度との積が所定の閾値以上である第1の場合には、比較信号の周波数を所定値未満に設定する。そのため、各スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数が上記所定値未満に制限され、消費電力の増大や発熱による不具合の発生を回避することができる。また、周波数制限部128は、印刷速度と印刷解像度との積が上記閾値未満である第2の場合には、比較信号の周波数を上記所定値以上に設定する。そのため、各スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数が上記所定値未満には制限されず、忠実な波形再現による高画質な印刷を実現することができる。
また、信号変調回路82における変調方式として、パルス振幅変調(PAM)を用いるとしてもよい。図9は、パルス振幅変調を用いた信号変調回路82bの構成の一例を示す説明図である。図9に示すように、信号変調回路82bは、所定のサンプリング周波数で基駆動信号WCOMの振幅をパルス化することにより、変調基駆動信号MSを生成する。具体的には、図9に示す信号変調回路82bは、3つのオペアンプ(A1,A2,A3)を有するビデオアンプIC1(例えば、米Analog Devices社製の「ADA4856-3」)を用いて構成されている。オペアンプA1,A2,A3のそれぞれには、2個の抵抗が接続されている。図示した配線により、オペアンプA1およびA3はゲイン(増幅度)が1の正転増幅器として機能し、オペアンプA2はゲインが−1の反転増幅器として機能する。IC2は、BBM(Break-Before-Make:先切り後入れ)型の高速マルチプレクサ(例えば、米Analog Devices社製の「ADG772」)であり、オペアンプA3の入力への接続先を、オペアンプA1の出力とオペアンプA2の出力とで交互に切り替える。IC2の制御用ロジック信号IN2は、デューティサイクルが50%近くに保たれる。これにより、オペアンプA3の出力電圧の平均値は、ほぼ0Vとなる。例えば、変調速度、つまり制御用ロジック信号の周波数が約6MHzの場合、出力電圧のDC成分は、わずかに平均4mV以下の低周波オフセット電圧だけとなる。スイッチの接点S2AとS2Bは、典型的には5nsのtBBM(Break-Before-Make Time Delay:遮断から接続までの遅延時間)で両方が一時的にオフになる。制御周波数が60MHzの場合、各スイッチがオンしているのはその半周期の約8.3nsとなるはずだが、実際のオン状態の期間はtBBMが存在するため3.3nsとなる。また、スイッチの接点S2AとS2Bのターンオン時間に違いがあると、それもDC成分として結果に現れる。図9に示す回路によれば、入力端子INに入力された基駆動信号WCOMを、各パルスの振幅の絶対値が基駆動信号WCOMの波形の瞬時電圧レベルに等しく、その符号が交互に正負に変わるパルス振幅変調波としての変調基駆動信号MSを生成することができる。生成された変調基駆動信号MSの波形は、平均値がほぼ0Vになるため、トランスによって絶縁した状態で容易に伝送可能な信号となる。なお、図9の回路に使用するマルチプレクサとして、MBB(Make-Before-Break:先入れ後切り)型動作を行う他のマルチプレクサを用いるとしてもよい。このタイプのマルチプレクサであれば、周波数が60MHzでの導通期間が3倍以上にもなり、スイッチ間のターンオン時間の差がもたらす影響も小さくなる。なお、MBB型のマルチプレクサを使用する場合、オペアンプA1およびA2の出力が短絡することによる過負荷を防ぐ必要があるため、オペアンプA1およびA2の出力に、表面実装抵抗(例えば約20Ω)を挿入するのが望ましい。なお、信号変調回路82bは、パルス振幅変調を行うことができる他の回路を用いて構成するとしてもよい。
図9に示した変形例では、変調基駆動信号MSの周波数はサンプリング周波数に等しい。この変形例では、周波数制限部128(図1)は、サンプリング周波数を変更することによって、変調基駆動信号MSの周波数(すなわち、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数)を変更することができる。本変形例では、周波数制限部128は、印刷速度と印刷解像度との積が所定の閾値以上である第1の場合には、サンプリング周波数を所定値未満に設定する。そのため、各スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数が上記所定値未満に制限され、消費電力の増大や発熱による不具合の発生を回避することができる。また、周波数制限部128は、印刷速度と印刷解像度との積が上記閾値未満である第2の場合には、サンプリング周波数を上記所定値以上に設定する。そのため、各スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数が上記所定値未満には制限されず、忠実な波形再現による高画質な印刷を実現することができる。
B2.変形例2:
上記実施形態における印刷速度や印刷解像度の選択肢の例(図7)は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、印刷速度の選択肢が2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。同様に、印刷解像度の選択肢が2,3,4,5,6つであってもよいし、8つ以上であってもよい。また、上記実施形態では、印刷速度と印刷解像度との積が閾値未満か否かによって周波数制限を行うか否かの場合分けを行っているが、この積を算出する際の印刷速度や印刷解像度の単位は任意に変更可能である。印刷速度や印刷解像度の単位に応じて、適切な閾値が設定されればよい。また、閾値は複数の選択肢の中から選択可能であるとしてもよい。
B3.変形例3:
上記実施形態において例示した各種信号は、あくまで一例である、種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、駆動信号COMは複数の台形状の波形から構成された信号であるとしているが、駆動信号COMは、複数の矩形状の波形から構成された信号であるとしてもよいし、曲線状の波形を含む信号であるとしてもよい。
また、上記実施形態では、信号増幅回路83が制御ユニット110のメイン側駆動回路80内に配置されるとしているが、信号増幅回路83が印刷ヘッド140のヘッド側駆動回路90内に配置されるとしてもよい。また、上記実施形態では、信号変換回路91が印刷ヘッド140のヘッド側駆動回路90内に配置されるとしているが、信号変換回路91が制御ユニット110と印刷ヘッド140とを結ぶフレキシブルフラットケーブル139上に配置されるとしてもよい。
また、上記実施形態では、印刷装置100は、ホストコンピューター200から画像データを受信して印刷処理を行うとしているが、これに代えて、印刷装置100は、例えば、メモリーカードから取得した画像データや所定のインターフェイスを介してデジタルカメラから取得した画像データ、スキャナーによって取得した画像データ等に基づき印刷処理を行うものとしてもよい。また、上記実施形態では、画像データを受信した印刷装置100のメイン制御部120が、画像展開処理、色変換処理、インク色分版処理、ハーフトーン処理といった印刷実行のための演算処理を行うものとしているが、これらの演算処理はホストコンピューター200により実行されるとしてもよい。この場合には、印刷装置100は、ホストコンピューター200による演算処理によって生成された印刷コマンドを受信して、印刷コマンドに従った印刷処理を実行する。また、本発明は、印刷の際に印刷ヘッド140を搭載するキャリッジが往復移動するシリアルプリンターにも適用可能であるし、そのような往復移動を伴わないラインプリンターにも適用可能である。また、本発明は、インク容器がキャリッジと共に往復移動するオンキャリッジ方式のプリンターにも適用可能であるし、インク容器を装着するホルダーがキャリッジとは別の場所に設けられ、インク容器から可撓性チューブ等を介して印刷ヘッド140にインクを供給するオフキャリッジ方式のプリンターにも適用することが可能である。また、本発明は、インク以外の液体(機能材料の粒子が分散された液状体やジェルなどの流状体を含む)を用いて印刷媒体に画像を形成する印刷装置にも適用可能である。
また、上記実施形態において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。また、本発明の機能の一部または全部がソフトウェアで実現される場合には、そのソフトウェア(コンピュータープログラム)は、コンピューター読み取り可能な記録媒体に格納された形で提供することができる。この発明において、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスクやCD−ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種のRAMやROM等のコンピューター内の内部記憶装置や、ハードディスク等のコンピューターに固定されている外部記憶装置も含んでいる。