以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、作用、機能が同じ働きを担う構成要素及び処理には、全図面を通して同じ符合を付与し、重複する説明を適宜省略する場合がある。
図1に、本発明の各実施形態に共通した、インクジェット記録装置12における電気系の要部構成を表したブロック図を示す。
図1に示すように、インクジェット記録装置12は、例えば、コンピュータ70、操作表示部72、用紙供給部74、用紙搬送部76、画像形成部78、濃度読取部80、及び通信部82を含む。
コンピュータ70は、CPU(Central Processing Unit)70A、ROM(Read Only Memory)70B、RAM(Random Access Memory)70C、不揮発性メモリ70D、及び入出力インターフェース(I/O)70Eが、バス70Fを介して各々接続された構成であり、I/O70Eには、操作表示部72、用紙供給部74、用紙搬送部76、画像形成部78、濃度読取部80、及び通信部82が接続されている。コンピュータ70は、例えばROM70Bに予めインストールされているプログラムをCPU70Aで実行し、プログラムに従って各部72〜82と相互にデータ通信を行うことで各部72〜82を制御し、インクジェット記録装置12による画像形成を実現する。
操作表示部72は、インクジェット記録装置12のユーザからの指示を受け付けると共に、ユーザに対してインクジェット記録装置12の動作状況等に関する各種情報を通知する。操作表示部72は、例えば、プログラムによって操作指示の受け付けを実現する表示ボタンや各種情報が表示されるタッチパネル式のディスプレイ、及び、テンキーやスタートボタンなどのハードウェアキー等を含んで構成される。
用紙供給部74は、例えば、用紙が収容される用紙収容ユニットや、用紙収容ユニットから後述する用紙搬送部76へ用紙を供給する供給機構を含んで構成される。
用紙搬送部76は、用紙供給部74から供給された用紙を、後述する画像形成部78及び濃度読取部80に搬送すると共に、画像形成部78によって画像が形成された用紙をインクジェット記録装置12の筐体外部に排出する。用紙搬送部76は、例えば、駆動モータや、駆動モータによって回転駆動され、間隙に用紙を挟み込みながら搬送するローラ対等を含んで構成される。
画像形成部78は、用紙搬送部76の処理によって搬送される用紙に対して、コンピュータ70により指示された量のインクを指示された吐出位置から吐出し、用紙上に画像を形成すると共に、赤外線レーザを用いた乾燥装置によって用紙上の液滴を乾燥させ、画像の定着を図る。画像形成部78は、例えば、インク吐出部材、レーザ乾燥部材、並びに各部材に電圧や電流を供給する電圧源及び電流源の少なくとも一方等を含んで構成される。
なお、インクとしては水性インク、溶媒が蒸発するインクである油性インク、紫外線硬化型インク等が存在するが、以下の各実施形態では水性インクを使用するものとする。以下、単に「インク」又は「インク滴」とある場合は、「水性インク」又は「水性インク滴」を意味しているものとする。また、「赤外線レーザ」のことを、単に「レーザ」として表すものとする。
レーザの波長としては、概ね800[nm]から12000[nm]までの範囲の波長が用いられるが、特に800[nm]から1200[nm]までの範囲の波長が用いられる
濃度読取部80は、画像形成部78によって用紙に形成された画像の濃度を読み取る。読み取った画像の濃度情報はコンピュータ70に通知され、コンピュータ70は、画像の種別、画像の濃度情報、及び液滴の吐出位置情報等を含むユーザによって指定された画像(原画像)の画像情報と比較して、用紙に形成された画像の濃度が、原画像の画像情報に含まれる濃度情報で示された濃度に近づくように、用紙搬送部76及び画像形成部78等に対する制御を補正する。ここで画像の種別とは、画像情報で示される画像が、例えば、写真なのか、図形、表、グラフ等のグラフィックなのか、又は文字や記号等なのかといった画像の要素を表す情報である。
通信部82は、図示しない通信回線に接続され、通信回線に接続されている図示しないパーソナルコンピュータ等の端末装置と、相互にデータ通信を行うためのインターフェースである。この図示しない通信回線は有線回線及び無線回線の何れであってもよく、例えば、図示しない端末装置から、画像形成要求と共に原画像の画像情報を受け付ける。
なお、画像形成に関する各種プログラムは、ROM70Bに予めインストールされて提供される形態に限られず、CD−ROMやメモリカード等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納された状態で提供される形態、通信部82を介して有線又は無線により配信される形態等であってもよい。
以下では、インクジェット記録装置12によって用紙に形成される画像の画質に影響を与える属性、例えば、用紙の種別、印字速度、画像形成部78に含まれる各部材の配置や動作状況、及び画像の濃度や種別等の少なくとも1つの属性に基づいて画像の濃度を制御する、インクジェット記録装置12に係る様々な実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図2に、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の要部構成を示す概略側面図を示す。
インクジェット記録装置12の筐体14内の下部には給紙トレイ16が備えられており、例えば、用紙Pとして、A4サイズ等のカット紙が積層されて収容されている。給紙トレイ16内の用紙Pはピックアップロール18により1枚ずつ取り出される。取り出された用紙Pは、予め定められた搬送経路22を構成する複数の搬送ローラ対20で搬送される。以下、単に「搬送方向」というときは、記録媒体である用紙Pの搬送方向(副走査方向)をいい、単に「幅方向」というときは、記録媒体である用紙Pの幅方向(主走査方向)をいい、「上流」、「下流」というときはそれぞれ、搬送方向の上流及び下流を意味するものとする。
給紙トレイ16の上方には、駆動ロール24及び従動ロール26に張架された無端状の搬送ベルト28が配置されている。搬送ベルト28の上方にはヘッドアレイ30が搬送ベルト28の平坦部分28Fに対向して配置される。この対向した領域が、ヘッドアレイ30からインク滴が吐出される吐出領域SEとなっている。
一方、ヘッドアレイ30の上流側には、図示しない電源が接続された帯電ロール36が配置されている。帯電ロール36は、従動ロール26との間で搬送ベルト28及び用紙Pを挟みつつ従動し、用紙Pを搬送ベルト28に押圧する押圧位置と、搬送ベルト28から離間した離間位置との間を移動可能とされている。押圧位置では、接地された従動ロール26との間に予め定められた電位差が生じるため、用紙Pに電荷を与えることにより、用紙Pが搬送ベルト28に静電吸着される。
搬送経路22を搬送された用紙Pは、搬送ベルト28に保持されて吐出領域SEに至り、ヘッドアレイ30に対向した状態で、ヘッドアレイ30から原画像の画像情報に応じたインク滴が吐出される。
なお、用紙Pを搬送させる手段としては、搬送ベルト28に限られない。たとえば円筒状あるいは円柱状に形成された搬送ローラの外周に、用紙Pを吸着保持して回転させる構成でもよい。また、本実施形態では用紙Pとしてカット紙を用いた例を示しているが、搬送方向に長尺状の連続紙を、搬送ローラ対20及び駆動ロール24等によって吐出領域SEに搬送する構成であってもよい。
ヘッドアレイ30は、本実施形態では、有効な液滴吐出領域が用紙Pの幅(搬送方向と直交する方向の長さ)以上とされた長尺状とされ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、及びブラック(K)の4色それぞれに対応した4つのインクヘッド32が搬送方向に沿って配置されており、フルカラーの画像が記録される。なお、各々のインクヘッド32においてインク滴を吐出する方法は特に限定されず、いわゆるサーマル方式や圧電方式等、公知のものが適用される。
なお、図1には1つのヘッドアレイ30しか図示されていないが、必要に応じて複数のヘッドアレイ30を搬送ベルト28に対向するように配置してもよい。
ヘッドアレイ30の搬送方向下流側には、有効なレーザ照射領域が用紙Pの幅以上とされた幅方向に長尺状のレーザ乾燥ユニット56が、レーザ照射面を搬送ベルト28と対向させた形態で配置される。
レーザ乾燥ユニット56は、搬送ベルト28によって搬送される用紙P上のインク滴にレーザを照射することでインク滴を乾燥させ、用紙Pへの画像の定着を促進させる。なお、図2には1つのレーザ乾燥ユニット56しか図示されていないが、必要に応じて複数のレーザ乾燥ユニット56を搬送ベルト28に対向するように配置してもよい。
更に、レーザ乾燥ユニット56の搬送方向下流側には、有効な濃度読取領域が用紙Pの幅以上とされた幅方向に長尺状の濃度読取センサ58が、濃度読取面を搬送ベルト28と対向させた形態で配置される。
濃度読取センサ58は、例えば、濃度読取センサ58内部に含まれる発光素子から搬送ベルト28によって搬送される用紙Pの画像形成面に対して光を照射し、その反射光を濃度読取センサ58内部に含まれる受光素子で受光することで、反射光に含まれるスペクトル成分の強度から、画像の濃度を読み取る。
そして、濃度読取センサ58によって読み取った画像の濃度はコンピュータ70に通知され、以降の画像形成処理における用紙Pに形成された画像の濃度を補正するフィードバック制御量として用いられる。なお、濃度読取センサ58は、インクジェット記録装置12に必須のものではなく、本実施形態では一例として、濃度読取センサ58がインクジェット記録装置12に配置されている。
濃度読取センサ58の下流側には、剥離プレート40が配置されており、剥離プレート40が搬送される用紙Pと搬送ベルト28との間隙に入り込むことで、用紙Pが搬送ベルト28から剥離される。
剥離された用紙Pは、剥離プレート40の下流側で排出経路44を構成する複数の排出ローラ42で搬送され、筐体14の上部に設けられた排紙トレイ46に排出される。
給紙トレイ16と搬送ベルト28の間には、複数の反転用ローラ50を含んで構成された反転経路52が設けられており、一方の面に画像が形成された用紙Pを反転させて、再び搬送ベルト28に保持させることで、用紙Pの他方の面へも画像を形成する、所謂両面印刷を行う機構が設けられている。
また、搬送ベルト28と排紙トレイ46との間には、CMYK各色のインクをそれぞれ貯留するインクタンク54が設けられている。インクタンク54のインクは、図示しないインク供給配管によってヘッドアレイ30に供給される。
以上、画像形成に関する一連の処理は、コンピュータ70によって制御される。なお、図2では給紙トレイ16は1つしか図示されていないが、給紙トレイ16を複数備え、異なる用紙サイズや異なる種別の用紙Pを各々の給紙トレイ16に収容し、ユーザからの指定に従って、指定された用紙Pを取り出すためのピックアップロール18を駆動させ、指定された用紙Pを搬送経路22に搬送するようにしてもよい。
図3は、ヘッドアレイ30、レーザ乾燥ユニット56、及び濃度読取センサ58の構造を説明するための模式図である。なお、図3では、説明を簡略化するため、ヘッドアレイ30に含まれる各色に対応したインクヘッド32のうち、例えばK色のインク滴を吐出するインクヘッド32を記載している。
ヘッドアレイ30は、例えば、インク滴を吐出するインク吐出口(ノズル)Nのインク吐出面が用紙Pと対向するように、幅方向に沿って予め定めた間隔でn個配置された構造となっている。そして、ノズルN1からノズルNnまでの距離が用紙Pの幅以上になっていることで、用紙Pの全面に対してインク滴が吐出される。
レーザ乾燥ユニット56は、例えば、レーザ発光素子Vのレーザ照射面が用紙Pと対向するように、幅方向に沿って予め定めた間隔でm個配置された構造となっている。そして、レーザ発光素子V1からレーザ発光素子Vmまでの距離が用紙Pの幅以上になっていることで、用紙Pの全面に対してレーザが照射される。
そして、レーザ乾燥ユニット56における各レーザ発光素子Vのレーザ照射量は、例えば、各レーザ発光素子Vに供給する電流値に応じて、レーザ発光素子V毎に調整されるようになっている。具体的には、レーザ発光素子Vに供給する電流値を大きくするに従って、レーザ発光素子Vから照射されるレーザ照射量が大きくなる。なお、本実施形態におけるレーザ乾燥ユニット56のレーザ発光素子Vは、図示しない電流源を制御して供給電流値を変更することでレーザ照射量を調節するものとして説明するが、例えば、図示しない電圧源を制御してレーザ発光素子Vへの供給電圧値を変更することで、レーザ発光素子Vから照射されるレーザ照射量の調整が行われるものであってもよい。
濃度読取センサ58は、例えば、発光素子及び受光素子を含む濃度センサSの濃度読取面が用紙Pと対向するように、幅方向に沿ってm個配置された構造となっている。そして、濃度センサS1から濃度センサSmまでの距離が用紙Pの幅以上になっていることで、用紙Pの全面の濃度が読み取られる。
そして、例えば、レーザ発光素子V1によってレーザ照射された領域の濃度は濃度センサS1で読み取り、レーザ発光素子V2によってレーザ照射された領域の濃度は濃度センサS2で読み取るというように、各レーザ発光素子Vと各濃度センサSとが予め対応付けられている。
なお、本実施形態では、ノズル数をn個、レーザ発光素子数及び濃度センサ数をm個としたが、これに限定されず、例えば、ノズル数、レーザ発光素子数、及び濃度センサ数を一致させてもよいし、レーザ発光素子数及び濃度センサ数が異なるようにしてもよい。
また、図3では、ノズル、レーザ発光素子、及び濃度センサを幅方向に沿って1列に配置した形態を示しているが、搬送方向に複数列配置するようにしてもよい。
更に、ヘッドアレイ30及びレーザ乾燥ユニット56の取り付け位置を固定とする形態の他、ヘッドアレイ30及びレーザ乾燥ユニット56の少なくとも一方を、搬送方向に移動させるようなモータ等を備えるようにしてもよい。
図4は、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の電気系の要部構成を表したブロック図である。
本実施形態では、図1の操作表示部72としてボタン62及びディスプレイ64が、また、図1の用紙供給部74及び用紙搬送部76として図示しない用紙搬送モータ84が、I/O70Eに接続されている。
更に、図1の画像形成部78として、図示しないレーザ乾燥ユニット搬送モータ88、ヘッドアレイ30、及びレーザ乾燥ユニット56がI/O70Eに接続されると共に、図1の濃度読取部80として濃度読取センサ58が、また、図1の通信部82として図示しない通信回線I/F60がI/O70Eに接続されている。
なお、用紙搬送モータ84の駆動力はギヤ等を介してローラ10に伝達され、ローラ10を回転駆動させる。ここでローラ10とは、例えば、ピックアップロール18、搬送ローラ対20、駆動ロール24、排出ローラ42、及び反転用ローラ50等の用紙Pの供給、搬送に関連する各種ロール部材を示している。
同様に、レーザ乾燥ユニット搬送モータ88の駆動力はギヤ等を介してレーザ乾燥ユニット56に伝達され、レーザ乾燥ユニット56を搬送方向に移動させる。
ところで、発明者らは鋭意検討の結果、ヘッドアレイ30によって用紙Pに対してインク滴を吐出してから、レーザ乾燥ユニット56によって用紙P上のインク滴にレーザが照射されるまで時間(照射開始時間)を可変することで、画像の光学濃度が変化することを見出した。
図5は、この様子を示したグラフであり、印字速度を1000[mm/s]とし、レーザ乾燥ユニット56から照射されるレーザ照射量を、0[J/m2]、1.5×104[J/m2]、2.5×104[J/m2]、3.5×104[J/m2]とした際の光学濃度の変化を示した実験結果である。グラフの横軸は照射開始時間、縦軸は光学濃度を示している。なお、光学濃度とは、インク滴の光の吸収度合いを対数で表示したものであり、その値が大きい程インク滴を透過する光の透過率が低い、すなわち、インク滴の濃度が高いことを表している。
グラフ98は、用紙Pとして、インク滴の吸引浸透を促進しつつ滲みを抑制する加工が施されたインクジェット専用用紙を用いた場合の光学濃度特性であり、照射開始時間が約20[ms]の場合に光学濃度が最大となり、照射開始時間が遅くなる程光学濃度が低下する傾向が見られ、照射開始時間が約120[ms]の場合には、レーザを照射しない場合と同程度の光学濃度になることが示されている。
一方、グラフ99は、用紙Pとして、インクジェット専用用紙に施された加工が行われておらず、インク浸透時間がインクジェット専用用紙よりも遅い、所謂普通紙を用いた場合の光学濃度特性である。普通紙の場合、インク滴吐出後照射開始時間が約60[ms]までの期間は光学濃度が上昇し、照射開始時間が約60[ms]の場合に光学濃度が最大となる。そして、照射開始時間が約60[ms]より大きくなるに従って光学濃度が低下する傾向が見られる。
すなわち、用紙Pの種別毎に画像の光学濃度を最大にする照射開始時間が異なり、画像の光学濃度を最大にする照射開始時間は普通紙の場合約60[ms]であり、インクジェット専用用紙の場合は約20[ms]であることが判明した。
以下では、用紙Pの種別、及び画像の印字速度に基づいて、画像の光学濃度が最大となる照射開始時間で画像にレーザが照射されるように、レーザ乾燥ユニット56の位置を制御するインクジェット記録装置12の作用に関して詳細に説明する。
図6は、例えば、ユーザから画像形成要求を受け付けた際に、コンピュータ70のCPU70Aによって実行される照射開始時間の制御プログラムの流れを示すフローチャートである。
まず、ステップS10では、ユーザによって指定された画像形成の際に用いる用紙Pの種別を、例えばRAM70Cの予め定めた領域から取得する。用紙Pの種別は、例えば、図示しない端末装置から通信回線I/F60を介して受け付けた画像形成要求に含まれ、CPU70Aは、通信回線I/F60から画像形成要求を受け付けた際に、用紙Pの種別をRAM70Cの予め定めた領域に記憶する。その他、ユーザによるボタン62の操作により用紙Pの種別を受け付け、RAM70Cの予め定めた領域に記憶するようにしてもよい。
ステップS12では、インクジェット記録装置12の予め定められている印字速度を、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域から取得する。なお、インクジェット記録装置12では、使用する印字速度が予め定めた複数の印字速度の中から選択されるようになっており、例えば、図示しない端末装置から通信回線I/F60を介して使用する印字速度を受け付け、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に記憶するようにしてもよい。また、ユーザによるボタン62の操作により使用する印字速度を受け付け、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に記憶するようにしてもよい。
本実施形態におけるインクジェット記録装置12では、例えば、50[m/min]、100[m/min]、200[m/min]の中から印字速度が選択される。
ステップS14では、ステップS10の処理で取得した用紙Pの種別と、ステップS12の処理で取得したインクジェット記録装置12の印字速度とに基づいて、レーザ照射位置テーブルを参照し、ヘッドアレイ30のノズルから吐出されるインク滴が用紙Pに着弾する搬送方向に沿った位置(インク滴吐出位置)から、レーザ乾燥ユニット56のレーザ発光素子から照射されるレーザのレーザ照射範囲における、搬送方向に沿った中央位置(レーザ照射位置)までの距離(最大濃度距離)を取得する。
レーザ照射位置テーブルは、図5の実験結果に基づいて、指定された印字速度に対して、画像の光学濃度が最大となる最大濃度距離が用紙Pの種別毎に定められたテーブルであり、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。
すなわち、レーザ照射位置テーブルは、印字速度に応じて、照射開始時間がインクジェット専用用紙の場合には約20[ms]、普通紙の場合には約60[ms]となる、ヘッドアレイ30のインク滴吐出位置からレーザ照射位置までの搬送方向に沿った距離を示したものと言える。
ステップS16では、レーザ乾燥ユニット56が、ステップS14の処理で取得した最大濃度距離に配置されるように、レーザ乾燥ユニット搬送モータ88を駆動制御して、レーザ乾燥ユニット56を搬送方向に移動する。
図7は、本ステップの処理によるレーザ乾燥ユニット56の移動の様子を示した図である。図7に示されるように、本実施形態ではヘッドアレイ30のインク滴吐出位置Q0は不変であり、レーザ乾燥ユニット56のレーザ照射位置が、例えば位置Q1や位置Q2に可変する。
例えば、印字速度が50[m/min]の場合で、且つ、用紙Pがインクジェット専用用紙の場合には、インク滴吐出位置Q0からレーザ照射位置までの距離1が16.7[mm]になるようにレーザ乾燥ユニット56を位置Q1に移動させる。また、印字速度が50[m/min]の場合で、且つ、用紙Pが普通紙の場合には、インク滴吐出位置Q0からレーザ照射位置までの距離2が50[mm]になるようにレーザ乾燥ユニット56を位置Q2に移動させる。
そして、ステップS20では、レーザ乾燥ユニット56を制御して、レーザ乾燥ユニット56からレーザ照射を開始させて、用紙Pに形成された画像を構成するインク滴の乾燥を行う。
このように本実施形態では、印字速度及び用紙Pの種別に応じてレーザ乾燥ユニット56を移動させ、ヘッドアレイ30とレーザ乾燥ユニット56との搬送方向に沿った距離を変更することで、用紙Pに吐出された画像の光学濃度が最大となるタイミングで画像にレーザが照射されるようにした。
従って、インクジェット記録装置12の印字速度及び用紙Pの種別の少なくとも一方が替わっても、画像の光学濃度の低下を抑制する効果が期待される。また、画像にレーザを照射することで画像の光学濃度が高められることから、予め定められた濃度を実現するために必要となるインク量が低減し、ランニングコストを抑制する効果も期待される。
また、レーザ乾燥ユニット56が搬送方向に沿って移動することでレーザの照射タイミングが制御されるため、搬送方向に沿って予め複数のレーザ乾燥ユニット56を配置することでレーザの照射タイミングを制御する場合と比較して、レーザ乾燥ユニット56の数が削減される。
なお、レーザを照射するタイミングは、画像の光学濃度を最大にするタイミングに限られず、予め定めた光学濃度となるタイミングでレーザが照射されるように、レーザ乾燥ユニット56を移動するようにしてもよい。
また、本実施形態では、レーザ乾燥ユニット56を搬送方向に移動するようにしたが、インク滴吐出位置Q0からレーザ照射位置までの搬送方向に沿った距離の変更方法はこれに限られない。例えば、照射手段がレーザ乾燥ユニット56及びミラー等の光学部材を含み、レーザ乾燥ユニット56から光学部材にレーザを照射し、光学部材でレーザの照射方向を変えて、用紙Pにレーザを照射する形態の場合、レーザ乾燥ユニット56は固定しておき、光学部材を搬送方向に移動させることで、インク滴吐出位置Q0からレーザ照射位置までの搬送方向に沿った距離を変更するようにしてもよい。
このように、レーザ乾燥ユニット56の位置は変化しないが、光学部材の移動によってレーザの照射位置を搬送方向に沿って変更する形態も、レーザ乾燥ユニット56の移動の一形態に含まれる。
<第2実施形態>
第1実施形態では、レーザ乾燥ユニット56を搬送方向に移動させて、画像に対するレーザ照射タイミングを変更するようにしたが、第2実施形態では、複数のレーザ乾燥ユニット56を用いることで、画像に対するレーザ照射タイミングを変更する。
図8に、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の電気系の要部構成を表したブロック図を示す。
図8が第1実施形態におけるインクジェット記録装置12の電気系の要部構成を示した図4と異なる点は、レーザ乾燥ユニット搬送モータ88が削除された点と、複数のレーザ乾燥ユニット56がI/O70Eに接続された点である。
まず、図9を用いて、搬送方向に沿った複数のレーザ乾燥ユニット56の配置場所について説明する。図9は、インクジェット記録装置12を側面から見た場合の、ヘッドアレイ30とレーザ乾燥ユニット56の位置関係を説明するための図である。
本実施形態では、ヘッドアレイ30及び複数のレーザ乾燥ユニット56は、搬送方向に関して予め定めた位置に配置されている。例えば、ヘッドアレイ30のインク滴吐出位置をQ0とした場合、レーザ乾燥ユニット56Aは、インク滴吐出位置Q0から、レーザ照射位置である位置Q1までの距離が距離1となるように配置されている。
ここで距離1は、用紙Pの種別がインクジェット専用用紙である場合の最大濃度距離であり、表1のレーザ照射位置テーブルにおいて、用紙Pの種別がインクジェット専用用紙である場合の各印字速度に対する距離である。例えば、印字速度が100[m/min]の場合、インク滴吐出位置Q0から搬送方向に沿って33.3[mm]離れた位置にレーザ照射位置がくるようにレーザ乾燥ユニット56Aを配置すれば、画像の光学濃度が最大となる。
同様に、レーザ乾燥ユニット56Bは、インク滴吐出位置Q0から、レーザ照射位置である位置Q2までの距離が距離2となるように配置されている。
ここで距離2は、用紙Pの種別が普通紙である場合の最大濃度距離であり、表1のレーザ照射位置テーブルにおいて、用紙Pの種別が普通紙である場合の各印字速度に対する距離である。例えば、印字速度が100[m/min]の場合、インク滴吐出位置Q0から搬送方向に沿って100[mm]離れた位置にレーザ照射位置がくるようにレーザ乾燥ユニット56Bを配置すれば、画像の光学濃度が最大となる。
図9では説明を簡略化するため、2つのレーザ乾燥ユニット56A、56Bしか図示していないが、ヘッドアレイ30に対して、レーザ乾燥ユニット56を印字速度及び用紙Pの種別の全ての組み合わせに対する各々の最大濃度距離となる位置に予め配置することで、インクジェット記録装置12に適用される印字速度及び用紙Pの種別の全ての組み合わせに対して、画像の光学濃度を最大にするタイミングで用紙Pにレーザが照射される。
以下では、用紙Pの種別、及び画像の印字速度に基づいて、画像の光学濃度が最大となる照射開始時間で画像にレーザが照射されるように、レーザの照射位置を制御するインクジェット記録装置12の作用に関して詳細に説明する。
図10は、例えば、ユーザから画像形成要求を受け付けた際に、コンピュータ70のCPU70Aによって実行される照射開始時間の制御プログラムの流れを示すフローチャートである。
図10のフローチャートが、図6に示した第1実施形態のフローチャートと異なる点は、ステップS14及びステップS16の処理がステップS13の処理に置き換わった点である。
ステップS13では、ステップS10の処理で取得した用紙Pの種別と、ステップS12の処理で取得したインクジェット記録装置12の印字速度とに基づいて、レーザ照射ユニットテーブルを参照し、複数のレーザ乾燥ユニット56の中から、レーザを照射するレーザ乾燥ユニット56を一意に示す識別子を取得する。
レーザ照射ユニットテーブルは、インクジェット記録装置12に適用される印字速度及び用紙Pの種別の全ての組み合わせに対して、画像の光学濃度を最大にするタイミングで画像にレーザを照射するレーザ乾燥ユニット56の識別子が予め定められたテーブルであり、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。
ステップS20では、ステップS13の処理で取得した識別子に対応するレーザ乾燥ユニット56からレーザ照射を開始するように、当該レーザ乾燥ユニット56を制御し、画像の乾燥を行う。
このように本実施形態では、インクジェット記録装置12に適用される印字速度及び用紙Pの種別の全ての組み合わせ毎に、ヘッドアレイ30から最大濃度距離の位置にレーザ乾燥ユニット56を予め配置することで、画像の光学濃度が最大となるタイミングで画像にレーザが照射されるようにした。
従って、レーザ乾燥ユニット56を駆動する機構が不要となり、耐故障性の向上が期待される。なお、レーザを照射するタイミングは、画像の光学濃度を最大にするタイミングに限られず、予め定めた光学濃度となるタイミングでレーザが照射されるように、レーザ乾燥ユニット56を配置するようにしてもよい。
<第3実施形態>
第2実施形態では、ヘッドアレイ30に対して最大濃度距離となる位置に複数のレーザ乾燥ユニット56を配置して、画像に対するレーザ照射タイミングを変更するようにしたが、第3実施形態では、複数のレーザ乾燥ユニット56を面発光レーザ素子に置き換えることで、画像に対するレーザ照射タイミングを変更する。
図11に、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の電気系の要部構成を表したブロック図を示す。
図11が第2実施形態におけるインクジェット記録装置12の電気系の要部構成を示した図8と異なる点は、複数のレーザ乾燥ユニット56がVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)56’に置き換えられた点である。
VCSEL56’は、図12に示すように、用紙Pと対向する面上の搬送方向及び幅方向に、複数の面発光レーザ素子が配置された面発光型半導体レーザである。例えば、ノズルNi(i=1,2,・・,n)を通る搬送方向に沿った直線上に、複数の面発光レーザ素子V1i、V2i、及びV3iが配置され、ノズルNiから吐出されたインク滴で構成された画像に、面発光レーザ素子V1i、V2i、及びV3iからレーザを照射することで、画像を乾燥させる。
なお、図12には、一例として、n×3の面発光レーザ素子を備えたVCSEL56’が示されているが、搬送方向に沿った面発光レーザ素子数が3に限られないことは言うまでもない。
次に、図13を用いて、搬送方向に沿ったVCSEL56’の配置場所について説明する。図13は、インクジェット記録装置12を側面から見た場合の、ヘッドアレイ30とVCSEL56’の位置関係を示した図である。
本実施形態では、ヘッドアレイ30及びVCSEL56’は、搬送方向に関して予め定めた位置に配置されている。図12で説明したように、VCSEL56’は搬送方向に沿って複数の面発光レーザ素子が配置されているため、ヘッドアレイ30のインク滴吐出位置Q0からVCSEL56’の各面発光レーザ素子V1n1、V2n1、及びV3n1(n1=1,2,・・,n)までの距離は異なることになる。
従って、例えば、用紙Pの種別がインクジェット専用用紙であって、且つ、印字速度が100[m/min]である場合、表1に従って、各面発光レーザ素子のうち、インク滴吐出位置Q0から搬送方向に沿って33.3[mm]離れた位置に対応する面発光レーザ素子、例えば、面発光レーザ素子V1n1を選択して、面発光レーザ素子V1n1から画像にレーザを照射すれば、画像の光学濃度が最大となる。
また、例えば、用紙Pの種別がインクジェット専用用紙であって、且つ、印字速度が200[m/min]である場合、表1に従って、各面発光レーザ素子のうち、インク滴吐出位置Q0から搬送方向に沿って66.7[mm]離れた位置に対応する面発光レーザ素子、例えば、面発光レーザ素子V2n1を選択して、面発光レーザ素子V2n1から画像にレーザを照射すれば、画像の光学濃度が最大となる。
また、例えば、用紙Pの種別が普通紙であって、且つ、印字速度が100[m/min]である場合、表1に従って、各面発光レーザ素子のうち、インク滴吐出位置Q0から搬送方向に沿って100[mm]離れた位置に対応する面発光レーザ素子、例えば、面発光レーザ素子V3n1を選択して、面発光レーザ素子V3n1から画像にレーザを照射すれば、画像の光学濃度が最大となる。
すなわち、VCSEL56’に含まれる面発光レーザ素子のレーザ照射位置が、インクジェット記録装置12に適用される印字速度及び用紙Pの種別の全ての組み合わせにおける最大濃度距離と対応する位置となるように、VCSEL56’が配置されている。
以下では、用紙Pの種別及び画像の印字速度に基づいて、画像の光学濃度が最大となる照射開始時間で画像にレーザが照射されるように、VCSEL56’を用いて、レーザの照射位置を制御するインクジェット記録装置12の作用に関して詳細に説明する。
図14は、例えば、ユーザから画像形成要求を受け付けた際に、コンピュータ70のCPU70Aによって実行される照射開始時間の制御プログラムの流れを示すフローチャートである。
図14のフローチャートが第2実施形態における図10のフローチャートと異なる点は、ステップS13の処理がステップS15の処理に置き換わった点である。
ステップS15では、ステップS10の処理で取得した用紙Pの種別と、ステップS12の処理で取得したインクジェット記録装置12の印字速度とに基づいて、VCSELテーブルを参照し、VCSEL56’に含まれる面発光レーザ素子の中から、レーザを照射する面発光レーザ素子を一意に示す識別子を取得する。
VCSELテーブルは、インクジェット記録装置12に適用される印字速度及び用紙Pの種別の全ての組み合わせに対して、画像の光学濃度を最大にするタイミングで画像にレーザを照射する面発光レーザ素子の識別子が予め定められたテーブルであり、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。
ステップS20では、ステップS15の処理で取得した面発光レーザ素子の識別子に従って、VCSEL56’に含まれる面発光レーザ素子のうち、識別子に対応した面発光レーザ素子からレーザを照射するように、VCSEL56’によるレーザ照射を制御する。
このように本実施形態では、VCSEL56’に含まれる面発光レーザ素子のレーザ照射位置が、インクジェット記録装置12に適用される印字速度及び用紙Pの種別の全ての組み合わせにおける最大濃度距離と対応する位置となるようにVCSEL56’を配置することで、画像の光学濃度が最大となるタイミングで画像にレーザが照射されるようにした。
従って、レーザ乾燥ユニット56を複数用いる第2実施形態の場合と比較して、部品点数が削減されることから、インクジェット記録装置12の小型化が期待されると共に、インクジェット記録装置12の組み立て工数の削減が期待される。
なお、レーザを照射するタイミングは、画像の光学濃度を最大にするタイミングに限られず、予め定めた光学濃度となるタイミングでレーザが照射されるように、VCSEL56’を配置するようにしてもよい。
<第4実施形態>
第1実施形態から第3実施形態では、ユーザによって予め指定された印字速度及び用紙Pの種別に応じて、インク滴吐出位置Q0からレーザ照射位置までの距離を変更することで、照射開始時間を制御した。
本実施形態では、インク滴吐出位置Q0からレーザ照射位置までの距離及び用紙Pの種別に応じて、印字速度を変更することで照射開始時間を制御する。
なお、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の電気系の要部構成は、図11のVCSEL56’を、レーザ乾燥ユニット56に置き換えた構成となる。
図15は、インクジェット記録装置12を側面から見た場合の、ヘッドアレイ30とレーザ乾燥ユニット56の位置関係を表した図である。
図15に示すように、ヘッドアレイ30及びレーザ乾燥ユニット56は、搬送方向に沿ったインク滴吐出位置Q0からレーザ照射位置までの距離が、予め定めた距離Lとなるように、例えば、インクジェット記録装置12の筐体14等に取り付けられている。一例として、本実施形態における距離Lは40[mm]に設定されているものとする。
次に、図16を用いて、図15に示した構造を有するインクジェット記録装置12において、用紙Pの種別及び距離Lに基づいて、画像の光学濃度が最大となる照射開始時間で画像にレーザが照射されるように、レーザの照射タイミングを制御するインクジェット記録装置12の作用に関して詳細に説明する。
図16は、例えば、ユーザから画像形成要求を受け付けた際に、コンピュータ70のCPU70Aによって実行される照射開始時間の制御プログラムの流れを示すフローチャートである。
ステップS10で、第1実施形態〜第3実施形態と同様に用紙Pの種別を取得した後、ステップS11で、印字速度を決定する。
ステップS11では、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている距離Lの値と、ステップS10の処理で取得した用紙Pの種別とに基づいて、印字速度テーブルを参照し、画像形成に係る印字速度を決定する。
印字速度テーブルは、図5の実験結果に基づいて、距離L及び指定された用紙Pの種別に対して、画像の光学濃度が最大となる印字速度が定められたテーブルであり、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。
すなわち、印字速度テーブルは、距離Lに応じて、照射開始時間がインクジェット専用用紙の場合には約20[ms]、普通紙の場合には約60[ms]となるための印字速度を示したものと言える。
ステップS17では、インクジェット記録装置12の印字速度がステップS11の処理で決定した印字速度となるように、例えば、用紙搬送モータ84等に供給する電圧等を制御して、用紙Pの搬送速度を調整する。
なお、ヘッドアレイ30及びレーザ乾燥ユニット56は移動せず、予め定めた場所に取り付けられているものとしたが、例えば、第1実施形態に示したように、レーザ乾燥ユニット56が搬送方向に移動する等によって、距離Lが変動するような場合であってもよい。
この場合、用紙Pの種別毎に複数の距離Lに対する印字速度を記載した印字速度テーブルを、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶しておき、例えば、レーザ乾燥ユニット搬送モータ88から通知されてくるモータの回転角に応じた物理量、例えば、パルスの数等を計測することで距離Lを算出した後、印字速度テーブルを参照して、インクジェット記録装置12の印字速度を決定すればよい。
このように本実施形態では、ヘッドアレイ30及びレーザ乾燥ユニット56との距離L及び用紙Pの種別に応じて、インクジェット記録装置12の印字速度を調整することで、画像の光学濃度が最大となるタイミングで画像にレーザが照射されるようにした。
従って、第1実施形態〜第3実施形態で用いた、レーザ乾燥ユニット搬送モータ88、複数のレーザ乾燥ユニット56、及びVCSEL56’のような部材が不要となり、コストの削減が期待される。
なお、レーザを照射するタイミングは、画像の光学濃度を最大にするタイミングに限られず、予め定めた光学濃度となるタイミングでレーザが照射されるように、印字速度を調整するようにしてもよい。
<第5実施形態>
第1実施形態〜第3実施形態におけるインクジェット記録装置12では、共通のインク滴吐出位置に対してレーザ乾燥ユニット56のレーザ照射位置を変更することで、画像に対するレーザの照射タイミングを制御した。
本実施形態におけるインクジェット記録装置12は、第1実施形態〜第3実施形態におけるインクジェット記録装置12とは異なり、共通のレーザ照射位置に対してヘッドアレイ30のインク滴吐出位置を変更することで、画像に対するレーザの照射タイミングを制御する。
図17に、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の電気系の要部構成を表したブロック図を示す。図17に示すように、本実施形態におけるI/O70Eには、複数のヘッドアレイ30が接続されている。
次に、本実施形態における複数のヘッドアレイ30の搬送方向に沿った配置場所について説明する。
図18は、インクジェット記録装置12を側面から見た場合の、複数のヘッドアレイ30とレーザ乾燥ユニット56の位置関係を示した図である。
ここでは説明を簡略化するために、1つのレーザ乾燥ユニット56に対して、2つのヘッドアレイ30A、30Bを有するインクジェット記録装置12について説明を行うが、ヘッドアレイ30を3つ以上備えたインクジェット記録装置12であっても構わない。
図18に示すように、ヘッドアレイ30Aは、インク滴吐出位置Q0からレーザ乾燥ユニット56のレーザ照射位置Q1までの距離が、予め定めた距離L2となるように、例えば、インクジェット記録装置12の筐体14等に取り付けられている。
また、ヘッドアレイ30Bは、インク滴吐出位置Q0’からレーザ乾燥ユニット56のレーザ照射位置Q1までの距離が、予め定めた距離L1となるように、例えば、インクジェット記録装置12の筐体14等に取り付けられている。一例として、距離L1は40[mm]、距離L2は120[mm]とする。
ここで、インクジェット記録装置12の印字速度が120[m/min]で、且つ、用紙Pの種別がインクジェット専用用紙であれば、ヘッドアレイ30Bからインク滴を吐出すると、約20[ms]後に、レーザ乾燥ユニット56のレーザがインク滴に照射される。
この約20[ms]という照射開始時間は、インクジェット専用用紙に形成された画像の光学濃度が最大となる照射開始時間に相当する。
また、インクジェット記録装置12の印字速度が120[m/min]で、且つ、用紙Pの種別が普通紙であれば、ヘッドアレイ30Aからインク滴を吐出すると、約60[ms]後に、レーザ乾燥ユニット56のレーザがインク滴に照射される
この約60[ms]という照射開始時間は、普通紙に形成された画像の光学濃度が最大となる照射開始時間に相当する。
すなわち、ヘッドアレイ30A、30Bは、レーザ乾燥ユニット56に対して、用紙Pの種別及びインクジェット記録装置12の印字速度に応じた最大濃度距離となる位置に配置される。
以下では、用紙Pの種別、及びインクジェット記録装置12の印字速度に基づいて、画像の光学濃度が最大となる照射開始時間で画像にレーザが照射されるように、インク滴を吐出する位置を制御するインクジェット記録装置12の作用に関して詳細に説明する。
図19は、例えば、ユーザから画像形成要求を受け付けた際に、コンピュータ70のCPU70Aによって実行される照射開始時間の制御プログラムの流れを示すフローチャートである。
図19のフローチャートが、例えば、図10に示した第2実施形態のフローチャートと異なる点は、ステップS13の処理がステップS18の処理の処理に置き換わった点である。
ステップS18では、ステップS10の処理で取得した用紙Pの種別と、ステップS12の処理で取得したインクジェット記録装置12の印字速度とに基づいて、ヘッドアレイテーブルを参照し、複数のヘッドアレイ30の中から、インク滴を吐出するヘッドアレイ30を一意に示す識別子を取得する。
ヘッドアレイテーブルは、インクジェット記録装置12に適用される印字速度及び用紙Pの種別の全ての組み合わせに対して、画像の光学濃度が最大となるインク滴吐出位置に対応したヘッドアレイ30の識別子が予め定められたテーブルであり、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。
ステップS19では、ステップS18の処理で取得した識別子に対応するヘッドアレイ30からインク滴を吐出するように、当該ヘッドアレイ30を制御すると共に、レーザ乾燥ユニット56からレーザ照射を開始するように、レーザ乾燥ユニット56を制御する。
このように本実施形態では、インクジェット記録装置12の印字速度及び用紙Pの種別に応じて、複数のヘッドアレイ30のうち、インク滴吐出位置からレーザ照射位置までの距離が最大濃度距離となるようなヘッドアレイ30を選択する。そして、選択したヘッドアレイ30からインク滴を吐出することで、用紙Pに形成された画像の光学濃度が最大となるタイミングで画像にレーザが照射されるようにした。
なお、レーザを照射するタイミングは、画像の光学濃度を最大にするタイミングに限られず、予め定めた光学濃度となるタイミングでレーザが照射されるように、ヘッドアレイ30を配置するようにしてもよい。
また、第3実施形態において、第2実施形態におけるレーザ乾燥ユニット56をVCSEL56’に置き換えたように、第1実施形態、第4実施形態、及び第5実施形態におけるレーザ乾燥ユニット56をVCSEL56’に置き換えてもよいことは言うまでもない。
<第6実施形態>
これまで説明した各実施形態では、用紙Pの種別、インクジェット記録装置12の印字速度、及び搬送方向に沿ったインク滴吐出位置からレーザ照射位置までの距離のうち、少なくとも1つに基づいて、用紙Pに形成された画像の光学濃度(以下、単に濃度という場合がある)が最大となるようにレーザの照射タイミングを制御した。
しかし、レーザ乾燥ユニット56に含まれる各レーザ発光素子Vから照射されるレーザ照射量にばらつきがある場合には、画像の乾燥ムラが生じる結果、用紙Pに形成された画像の濃度ムラを引き起こす場合が考えられる。
レーザ照射量のばらつきの原因が、例えば、レーザ乾燥ユニット56の製造ロット差等にある場合には、レーザ乾燥ユニット56の製造工程において、予めレーザ乾燥ユニット56のレーザ照射量のばらつきに関するデータ(イニシャルデータ)を取得し、イニシャルデータに基づいて、例えば、レーザ照射量のばらつきを低減させるような各レーザ発光素子Vへの供給電流値が記載された補正データを、不揮発性メモリ70Dに記憶しておく。そして、画像へのレーザ照射の際、補正データに従ってレーザ乾燥ユニット56の各レーザ発光素子Vに電流を供給することで、レーザ乾燥ユニット56のレーザ照射量のばらつきが抑制されることがある。
しかし、レーザ乾燥ユニット56のインクジェット記録装置12搭載後における経年劣化や、インクジェット記録装置12内部での冷却ムラ等によって生じる、レーザ乾燥ユニット56のレーザ照射量のばらつきまでは、補正データを用いた補正では対応が困難である。
一方、経年劣化等による各レーザ発光素子Vのレーザ照射量のばらつきを補正するためには、インクジェット記録装置12に各レーザ発光素子Vのレーザ照射量を計測する照射量センサ等を設置する方法が考えられるが、照射センサ等の設置は、インクジェット記録装置12の大型化及びコスト増を招く恐れがある。
従って、以下では、照度センサ等を設置することなく、レーザ発光素子Vの製造ロット差等によって生じるレーザ照射量のばらつきの他、レーザ乾燥ユニット56の経年劣化や冷却ムラ等によって生じるレーザ照射量のばらつきをも抑制するインクジェット記録装置12の作用に関して詳細に説明する。
なお、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の構成は、これまでに説明した各実施形態におけるインクジェット記録装置12の何れの構成であってもよい。
図20は、例えば、インクジェット記録装置12の電源投入直後やユーザから画像形成要求を受け付ける前(ジョブ開始前)等の、画像形成期間以外のタイミングでコンピュータ70のCPU70Aによって実行される、レーザ照射量の補正プログラムの流れを示すフローチャートである。
まず、ステップS30では、ヘッドアレイ30から用紙Pに対して、例えば、K色のインク滴を吐出して、用紙P上に補正用画像Rを生成する。この際、補正用画像Rの濃度が予め定めた中間濃度となるように、インク滴の吐出密度を制御する。
ここで中間濃度とは、インクジェット記録装置12が、形成する画像の濃度に対して8ビット、すなわち256階調の分解能を有する場合に、256階調の濃度のうち、最大濃度と最小濃度以外の濃度をいい、好ましくは、256階調ある濃度の中央付近の濃度である、第128階調の近傍の濃度を指す。
ステップS32では、レーザ乾燥ユニット56により、ステップS30の処理で用紙Pに形成された補正用画像Rにレーザを照射する。この際、レーザ乾燥ユニット56に含まれる全てのレーザ発光素子Vに同じ電流値(基準電流値)を供給して、補正用画像Rにレーザを照射する。この基準電流値は、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に記憶されているものとする。
図21は、ステップS32での処理を実行した後の補正用画像Rの様子を示した図である。
図21に示すように、補正用画像Rのうち、レーザ乾燥ユニット56によってレーザを照射された領域(レーザ照射領域R0)の濃度は、レーザ照射領域R0以外の補正用画像Rの濃度と異なる。
これは、インク滴が用紙Pに浸透する前にインク滴がレーザによって乾燥されると、インク滴に含まれる色材が用紙Pの表面により凝集した形態で用紙Pに定着するためである。
この際、レーザ発光素子Vの製造ロット差等によって生じるレーザ照射量のばらつきや、レーザ乾燥ユニット56の経年劣化や冷却ムラ等によって生じるレーザ照射量のばらつきがあれば、画像の乾燥度合いに影響を与えるため、レーザ照射領域R0の濃度のばらつきとなって現れる。
なお、補正用画像Rの形状に特に制限はないが、本実施形態では一例として補正用画像Rの形状を矩形とした。
ステップS34では、濃度読取センサ58に対して、幅方向にレーザ照射領域R0の濃度を少なくとも1ライン分読み取るように制御すると共に、濃度読取センサ58で読み取ったレーザ照射領域R0の濃度を、濃度センサS毎に取得する。取得した濃度は、各濃度センサSを一意に示す識別子と対応付けて、例えば、RAM70Cの予め定めた領域に記憶する。
ステップS36では、レーザ乾燥ユニット56に含まれるレーザ発光素子Vのうち、まだ本ステップの処理で選択されていないレーザ発光素子Vを1つ選択する。
ステップS38では、ステップS36の処理で選択したレーザ発光素子Vに対応する濃度センサSで読み取った濃度を取得する。具体的には、ステップS34の処理で濃度センサS毎に読み取った濃度を記憶した、RAM70Cの予め定めた領域から、ステップS36の処理で選択したレーザ発光素子Vに対応する濃度センサSで読み取られた濃度を取得する。
ここで、レーザ発光素子Vと濃度センサSとの対応関係は、例えばレーザ濃度対応テーブルとして、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。レーザ発光素子Vに対応する濃度センサSとは、当該レーザ発光素子Vによって照射された画像の濃度を読み取る濃度センサSのことをいう。
本実施形態の場合、図3に示すように、レーザ乾燥ユニット56のレーザ発光素子数と、濃度読取センサ58の濃度センサ数とが共にm個であり、レーザ乾燥ユニット56及び濃度読取センサ58の幅方向における取り付け位置も同じであることから、レーザ発光素子V1と濃度センサS1、レーザ発光素子V2と濃度センサS2、・・・、レーザ発光素子Vmと濃度センサSmのように、1対1に対応した状況がレーザ濃度対応テーブルに記載されている。
ステップS40では、ステップS38の処理で取得した、レーザ発光素子Vに対応する濃度センサSの濃度が、予め定めた許容範囲内に含まれているか否かを判定する。
この予め定めた許容範囲とは、ステップS32の処理でレーザ乾燥ユニット56の各レーザ発光素子Vに供給した基準電流値に対応したレーザ照射量で補正用画像Rをレーザ照射した際に、濃度読取センサ58で読み取られるレーザ照射領域R0の濃度範囲を示したものであり、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。
すなわち、濃度センサSで読み取ったレーザ照射領域R0の濃度が許容範囲内であれば、濃度センサSに対応したレーザ発光素子Vのレーザ照射量のばらつきは、予め定めたばらつきの範囲内にあるものと判断され、補正対象から除外される。
本ステップにおける判定が、肯定判定の場合にはステップS44へ移行し、否定判定の場合にはステップS42へ移行する。
そして、ステップS42では、レーザ発光素子Vに対応する濃度センサSの濃度が予め定めた許容範囲内に含まれるように、当該レーザ発光素子Vに供給する電流を補正量ΔIで調整する。
この補正量ΔIは、レーザ発光素子V毎に、例えば不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に記憶される。なお、ステップS40の処理にて肯定判定となったレーザ発光素子Vの補正量ΔIは0とされる。
ステップS44では、ステップS36からステップS42までの処理を、レーザ乾燥ユニットに含まれる全てのレーザ発光素子Vに対して実行したか否かを判定し、肯定判定の場合には、本プログラムを終了する。
一方、否定判定の場合にはステップS36に移行して、レーザ乾燥ユニット56に含まれるレーザ発光素子Vのうち、まだ選択されていないレーザ発光素子Vに対して、ステップS36からステップS42までの処理を実行する。
以上の処理により、レーザ発光素子Vのレーザ照射量のばらつきを補正する補正量ΔIが、レーザ発光素子毎に得られることになる。
以後、レーザ乾燥ユニット56からレーザを照射する際、レーザ発光素子V毎に、レーザ発光素子Vに供給する電流値として予め定めた電流値に対して、補正量ΔIで補正した電流値を供給すれば、レーザ発光素子Vのレーザ照射量のばらつきが予め定めた範囲内に収まることになる。
なお、例えば、ステップS40とステップS42の処理の間で、レーザ発光素子Vに対応する濃度センサSの濃度が予め定めた許容範囲内に収まっていない場合には、その旨のメッセージをディスプレイ64に表示したり、音声で通知したりすることで、ユーザに対してレーザ乾燥ユニット56の保守を促すようにしてもよい。
このように本実施形態では、レーザ乾燥ユニット56に含まれるレーザ発光素子Vのレーザ照射量のばらつきを、レーザ照射領域R0の濃度のばらつきの度合いに置き換えて補正するようにした。
従って、レーザ発光素子Vのレーザ照射量を直接計測する照射量センサ等を設置することなく、レーザ乾燥ユニット56に含まれるレーザ発光素子Vのレーザ照射量のばらつき度合いが把握される。
<第7実施形態>
第6実施形態におけるインクジェット記録装置12では、基準電流値に基づいて各レーザ発光素子Vの補正量ΔIを定めて、レーザ発光素子Vのレーザ照射量のばらつきを補正したが、本実施形態では、レーザ発光素子V毎に供給電流に対するレーザ照射領域の濃度特性を算出し、レーザ発光素子V毎に目標とする濃度を実現するための供給電流を決定する。
なお、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の構成は、第6実施形態におけるインクジェット記録装置12の構成と同様に、第1実施形態〜第5実施形態におけるインクジェット記録装置12の何れの構成であっても
よい。
図22は、例えば、インクジェット記録装置12におけるジョブ開始前等の、画像形成期間以外のタイミングでコンピュータ70のCPU70Aによって実行される、レーザ発光素子への供給電流値を算出するためのプログラムの流れを示すフローチャートである。
図22のフローチャートが、図20に示した第6実施形態のフローチャートと異なる点は、ステップS32、ステップS40、及びステップS42の処理が、それぞれステップS31、ステップS39、及びステップS41の処理に置き換わった点である。
ステップS31では、レーザ乾燥ユニット56により、ステップS30の処理で用紙Pに形成された補正用画像Rにレーザを照射する。この際、レーザ乾燥ユニット56に含まれる全てのレーザ発光素子Vに順次複数の基準電流値、例えばA1、A2、及びA3を供給して、補正用画像Rにレーザを照射する。この複数の基準電流値は、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に記憶されているものとする。
図23は、ステップS31での処理を実行した後の補正用画像Rの様子を示した図である。
図23に示すように、補正用画像R上には、レーザ発光素子Vに基準電流値A1を供給した場合に、レーザ発光素子Vから照射されるレーザで照射されたレーザ照射領域R1、レーザ発光素子Vに基準電流値A2を供給した場合に、レーザ発光素子Vから照射されるレーザで照射されたレーザ照射領域R2、及びレーザ発光素子Vに基準電流値A3を供給した場合に、レーザ発光素子Vから照射されるレーザで照射されたレーザ照射領域R3が生成される。
そして、第6実施形態のレーザ照射領域R0と同様に、レーザ照射領域R1〜レーザ照射領域R3の各レーザ照射領域の濃度は、レーザ照射領域R1〜レーザ照射領域R3以外の補正用画像Rの濃度と異なるようになる。
更に、レーザ発光素子Vに供給した基準電流値が各々のレーザ照射領域R1〜R3で異なるため、レーザ照射領域R1〜R3毎の濃度の度合いも異なったものとなる。
そして、ステップS34では、濃度読取センサ58に対して、幅方向にレーザ照射領域R1〜R3の各濃度を少なくとも1ライン分読み取るように制御すると共に、濃度読取センサ58で読み取ったレーザ照射領域R1〜R3の各濃度を、濃度センサS毎に取得する。取得したレーザ照射領域R1〜R3の濃度をレーザ発光素子Vと対応付けて、例えば、RAM70Cの予め定めた領域に電流−濃度テーブルとして記憶する。
ここで、濃度センサSで取得した濃度をレーザ発光素子Vと対応づけるとは、各濃度センサSの濃度読取領域をレーザ照射するレーザ発光素子Vに、濃度センサSで読み取った濃度を関連付けることをいう。
図24に、電流−濃度テーブルの一例を示す。電流−濃度テーブルは、例えば、テーブル横方向にレーザ発光素子Vの番号、テーブル縦方向にレーザ発光素子Vに供給した基準電流値が設けられたテーブルである。そして、レーザ発光素子Vの番号と基準電流値との組み合わせ毎に、レーザ発光素子Vに対応する濃度センサSで読み取られた濃度が記憶される。
図25は、図24の電流−濃度テーブルを、レーザ照射領域R1〜R3毎の濃度分布として示した図の一例である。
図25において、分布90Aはレーザ照射領域R1の濃度分布、すなわち、基準電流値A1に応じたレーザ照射量で補正用画像Rを照射した場合の濃度分布を示している。
同様に、分布90Bはレーザ照射領域R2の濃度分布、すなわち、基準電流値A2に応じたレーザ照射量で補正用画像Rを照射した場合の濃度分布を示し、分布90Cはレーザ照射領域R3の濃度分布、すなわち、基準電流値A3に応じたレーザ照射量で補正用画像Rを照射した場合の濃度分布を示している。
なお、分布90A〜90Cは一例であり、本実施形態では説明を簡略化するため、レーザ乾燥ユニット56のレーザ発光素子番号が大きくなるに従って、各レーザ発光素子Vに対応する濃度センサSで取得した濃度も大きくなる、所謂線形の濃度分布になっているものとした。しかし、実際には非線形の濃度分布となる場合もある。
そして、ステップS38では、ステップS36の処理で選択したレーザ発光素子Vに対応する濃度センサSで読み取ったレーザ照射領域R1〜R3の各濃度を、電流−濃度テーブルから取得する。
ステップS39では、ステップS36で選択したレーザ発光素子Vに対して、基準電流値と濃度との関係を示すレーザ発光素子濃度特性を算出する。
レーザ発光素子毎のレーザ発光素子濃度特性は、レーザ発光素子番号がm1のレーザ発光素子Vm1における基準電流値と当該基準電流における濃度との組み合わせ(A1、D1(m1))、(A2、D2(m1))、(A3、D3(m1))に対して、例えば、最小二乗法やラグランジュ補間等の公知の補間手法を適用することで得られる。
そして、ステップS41では、ステップS39の処理で得たレーザ発光素子濃度特性に基づいて、用紙Pに形成された画像を目標濃度D0にするために必要となるレーザ発光素子Vへの供給電流値を算出し、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に記憶する。
図26は、図22に示したフローチャートを実行した際に作成される、目標濃度D0に対するレーザ発光素子V毎の供給電流値を記憶した供給電流テーブルの一例である。なお、図26では、1つの目標濃度D0に対する供給電流値しか記憶されていないが、複数の目標濃度に対する供給電流値を記憶するようにしてもよい。
コンピュータ70は、ユーザから画像形成要求を受け付け、用紙Pにインク滴を吐出して画像を形成する際、例えば、目標とする画像濃度が濃度D0であれば、供給電流テーブルを参照して、レーザ発光素子V1への供給電流値をA0(1)、レーザ発光素子V2への供給電流値をA0(2)、・・・、及びレーザ発光素子Vmへの供給電流値をA0(m)とすればよい。
なお、ステップS38の処理で、レーザ発光素子Vに対応する濃度センサSで読み取ったレーザ照射領域R1〜R3の各濃度が、レーザ照射領域R1〜R3毎に予め定めた許容範囲内に含まれていない場合には、その旨のメッセージをディスプレイ64に表示したり、音声で通知したりすることで、ユーザに対してレーザ乾燥ユニット56の保守を促すようにしてもよい。
このように本実施形態では、レーザ乾燥ユニット56に含まれるレーザ発光素子Vへの複数の供給電流値と、当該複数の供給電流値に対応したレーザ照射領域の濃度のばらつきの度合いから、レーザ発光素子V毎にレーザ発光素子濃度特性を算出し、レーザ発光素子濃度特性に基づいて、目的とする画像の濃度を得るために必要なレーザ発光素子Vへの供給電流値を決定した。
従って、第6実施形態と同様に、レーザ発光素子Vのレーザ照射量を直接計測する照射量センサ等を設置することなく、レーザ乾燥ユニット56に含まれるレーザ発光素子Vのレーザ照射量のばらつき度合いが把握される。
なお、第6実施形態及び第7実施形態では、補正用画像RをK色で形成する例を示したが、補正用画像Rの色はK色に限られず、YMC等の他のインク色であってもよい。しかし、Y色は他のインク色と比較して、濃度読取センサ58における濃度読取感度が低くなるため、補正用画像Rの色としては好ましくなく、K色が好ましい。
また、第6実施形態及び第7実施形態では、レーザ照射領域の濃度を、インクジェット記録装置12に備えられた濃度読取センサ58を用いて読み取るようにしたが、例えば、図示しない通信回線に接続されたスキャナ等の濃度読取装置を用いて、レーザ照射領域の濃度を読み取るようにしてもよい。この場合、図24に示す電流−濃度テーブルを、例えば、通信回線I/F60を介して受け付け、RAM70Cの予め定めた領域に記憶するようにすればよい。
<第8実施形態>
これまで説明した各実施形態では、用紙Pに形成された画像を乾燥する際、従来から用いられているカーボンヒータではなく、複数のレーザ発光素子Vを含んだレーザ乾燥ユニット56が用いられている。
カーボンヒータを用いた画像の乾燥では、用紙Pの画像形成面全体に温風を吹きつけて画像の乾燥を行うため、画像を構成するインク滴の位置とカーボンヒータの取り付け位置に関して、例えば、カーボンヒータが、予め定めた取り付け位置に対して、インク滴1滴分程度の長さだけずれた位置に取り付けられたとしても、特に問題となることはなかった。
しかし、レーザ乾燥ユニット56を用いて画像を乾燥させる場合、レーザ乾燥ユニット56に含まれる各々のレーザ発光素子Vのレーザ照射範囲は、カーボンヒータの温風吹き付け範囲よりも狭く、第1実施形態〜第5実施形態にも示したように、インク滴毎にレーザの照射タイミングを制御するような場合も想定される。
この際、例えば、ヘッドアレイ30のノズルN1からインク滴が吐出された場合、レーザ発光素子V1からレーザを照射する、というように、ヘッドアレイ30の各ノズルNとレーザ乾燥ユニット56の各レーザ発光素子Vとの対応関係を固定にすると、ヘッドアレイ30及びレーザ乾燥ユニット56の取り付け位置の誤差や振動等により、各ノズルNと各レーザ発光素子Vと間で幅方向の位置ずれが発生した場合、各ノズルNから吐出されたインク滴に予め定めたレーザ照射量のレーザが照射されない等の状況が発生する場合が考えられる。
例えば、Y色のインクヘッド32及びM色のインクヘッド32の幅方向におけるノズル位置を調整する場合、各々のインクヘッド32のノズルNから搬送方向に線を形成し、各々の線の幅方向の位置ずれを目視や濃度読取センサ58で読み取り、その結果に基づいて幅方向におけるノズル間の位置ずれを補正するという手法が用いられることが多い。
しかし、レーザ乾燥ユニット56からレーザを照射しても、上記インクヘッド32の位置ずれの補正と異なり、用紙Pにレーザ照射跡が目に見える形で残らないため、各ノズルNと各レーザ発光素子Vとの幅方向の位置ずれ量はわからない。
従って、本実施形態では、画像にレーザを照射した場合に画像の光学濃度が変化するという既に説明した特性を利用して、レーザ照射跡を用紙Pに記録することにより、ヘッドアレイ30の各ノズルNとレーザ乾燥ユニット56の各レーザ発光素子Vとの幅方向の位置ずれを補正するインクジェット記録装置12の作用に関して説明する。
なお、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の構成は、これまでに説明した各実施形態におけるインクジェット記録装置12の何れの構成であってもよい。
図27は、例えば、インクジェット記録装置12におけるジョブ開始前等の画像形成期間以外のタイミングでコンピュータ70のCPU70Aによって実行される、各ノズルNと各レーザ発光素子Vとの幅方向の位置ずれを補正するためのプログラムの流れを示すフローチャートである。
まず、ステップS30では、第6実施形態及び第7実施形態と同様に、中間濃度を有するK色の補正用画像Rを用紙Pに生成する。
この際、図28に示すように、ノズル番号がn1のノズルNn1からノズル番号がn2のノズルNn2までに含まれる各ノズルからインク滴を吐出して、補正用画像Rを用紙Pに生成する。なお、ノズル番号の大小関係についてn1<n2であり、ノズルNn1からノズルNn2までに含まれるノズル数をdata個とする。また、補正用画像Rの搬送方向に沿った端部にインク滴を吐出するノズルのノズル番号は、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されているものとする。
ここで、補正用画像Rの搬送方向に沿った端部にインク滴を吐出するノズルのうち、何れか一方のノズルの番号を特に画像書き出しノズル番号といい、本実施形態の場合には、一例として、ノズル番号がより小さいノズル番号n1を画像書き出しノズル番号とする。そして、画像書き出しノズル番号に対応したノズル(本実施形態の場合にはノズルNn1)によって形成された、補正用画像Rの搬送方向に沿った端部を、特に基準位置RAという。
なお、ノズル番号n1、n2の設定に関して、ノズル番号n1とノズル番号n2との差分がより大きくなるように、ノズル番号n1、n2を設定することが望ましい。これは、補正用画像Rの幅方向に沿った長さが出来るだけ長くなるようにするためである。
ステップS52では、レーザ乾燥ユニット56に含まれる予め定めたレーザ発光素子番号(基準レーザ発光素子番号)のレーザ発光素子Vから補正用画像Rに対して予め定めた期間ほどレーザを照射し、補正用画像Rの搬送方向に沿って基準マークRBを生成する。この基準マークRBは、レーザ発光素子Vによるレーザ照射跡であり、基準マークRBが補正用画像Rの範囲内に生成されるように、基準レーザ発光素子番号Mmarkを設定する。
次に、ステップS54では、ステップS30の処理によって形成された基準位置RAと、ステップS52の処理によって生成された基準マークRBとの幅方向に沿った距離Lを算出する。
そのためには、まず、濃度読取センサ58に対して、補正用画像Rの幅方向の濃度を少なくとも1ライン分読み取るように制御すると共に、濃度読取センサ58で読み取った補正用画像Rの濃度を濃度センサS毎に取得して、例えばRAM70Cの予め定めた領域に記憶する。
図29は、補正用画像Rの幅方向に沿った濃度分布を示した図である。図29に示したグラフの横軸は濃度センサ番号を表し、縦軸は濃度センサSの出力値(濃度)を表している。なお、図29のグラフでは、濃度センサSの出力値が高い程、濃度が低いことを意味している。
図29に示すように、濃度分布97は、基準位置RAで予め定めた閾値F1を跨いで変化すると共に、基準マークRBで予め定めた閾値F2に達する分布となっている。
従って、閾値F1及び閾値F2を、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶しておき、閾値F1を超える値に相当する濃度から閾値F1以下に相当する濃度に変化した箇所に相当する濃度センサから、閾値F2を超える値に相当する濃度から閾値F2以下に相当する濃度に変化した箇所に相当する濃度センサまでに含まれる濃度センサ数をLpixとして算出する。
濃度読取センサ58のスキャナ解像度をRscan[dpi](dpi:dot per inch)、すなわち1インチあたりに含まれる幅方向の濃度センサ数とすると、距離L[mm]は(1)式により求められる。
L=Lpix×25.4/Rscan ・・・(1)
(1)式によって求められた距離Lを用いて、(2)式により、ノズルNn1から吐出されたインク滴にレーザを照射するレーザ乾燥ユニット56のレーザ発光素子番号m1を算出する。
m1=Mmark−L×Rlaser/25.4=Mmark−Lpix×Rlaser/Rscan・・・(2)
ここで、Rlaserはレーザ乾燥ユニット56のレーザ照射解像度[dpi]、すなわち、1インチあたりに含まれる幅方向のレーザ発光素子数である。なお、レーザ発光素子番号m1が自然数でない場合には、小数点以下を四捨五入、切り捨て、切り上げ等することで自然数にする。
そして、ステップS56では、ステップS54の処理で算出したノズルNn1に対応したレーザ発光素子番号m1を基準として、ヘッドアレイ30の各ノズルNとレーザ乾燥ユニット56の各レーザ発光素子Vとを対応づけたレーザ照射対応テーブルを生成し、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に記憶する。
図30は、ノズル解像度Rheadとレーザ照射解像度Rlaserが同じ場合のレーザ照射対応テーブルの一例を示した図である。
以後、コンピュータ70は、レーザ照射対応テーブルを参照して、インク滴を照射するレーザ発光素子番号を取得し、当該レーザ発光素子番号に対応するレーザ発光素子からレーザを照射するようにレーザ乾燥ユニット56を制御する。
例えば、原画像の画像情報に、ノズルNn1からインク滴を吐出する旨の吐出位置情報が含まれている場合には、ノズルNn1からインク滴を吐出した後、ノズル番号n1に対応したレーザ発光素子番号m1のレーザ発光素子Vm1からレーザを照射することで、インク滴にレーザが照射される。
このように本実施形態では、補正用画像R上に、基準レーザ発光素子番号Mmarkに対応するレーザ発光素子からレーザを照射して基準マークRBを生成し、補正用画像Rの濃度分布に基づいて、基準マークRBから基準位置RAまでの距離を算出する。そして、画像書き出しノズル番号のノズルNn1に対応したレーザ発光素子Vm1を特定し、各ノズルNと各レーザ発光素子Vとを対応づけたレーザ照射対応テーブルを生成することで、各ノズルNと各レーザ発光素子Vとの幅方向の位置ずれを補正するようにした。
従って、ヘッドアレイ30の各ノズルNとレーザ乾燥ユニット56の各レーザ発光素子Vとの対応関係を固定とした場合と比較して、各ノズルNと各レーザ発光素子Vとの幅方向の位置ずれが補正される。
<第9実施形態>
第8実施形態では、ヘッドアレイ30の各ノズルNと、レーザ乾燥ユニット56の各レーザ発光素子Vとの幅方向の位置ずれを補正した。
しかし、例えば、レーザ乾燥ユニット56にレーザ照射を開始するよう指示して、実際にレーザが照射されるまでの遅延時間等の影響により、ヘッドアレイ30の各ノズルNでインク滴が吐出されてから、当該インク滴にレーザを照射するまでの照射タイミングのずれ(各ノズルNと各レーザ発光素子Vとの搬送方向の位置ずれ)も存在する。
そこで、本実施形態では、各ノズルNと各レーザ発光素子Vとの搬送方向の位置ずれを補正するインクジェット記録装置12の作用に関して説明する。
なお、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の構成は、これまでに説明した各実施形態におけるインクジェット記録装置12の何れの構成であってもよい。ただし、本実施形態では、例えば、図2における駆動ロール24に、回転した角度に応じた数のパルスを出力するエンコーダ66が取り付けられ、図31に示すように、I/O70Eに接続されているものとする。すなわち、エンコーダ66は、用紙Pの搬送に伴ってパルスを出力し、エンコーダ66から出力されるパルス数は、用紙Pの搬送距離を表している。
図32は、例えば、インクジェット記録装置12におけるジョブ開始前等の画像形成期間以外のタイミングでコンピュータ70のCPU70Aによって実行される、各ノズルNと各レーザ発光素子Vとの搬送方向の位置ずれを補正するためのプログラムの流れを示すフローチャートである。
まず、ステップS30では、第8実施形態と同様の処理によって、中間濃度を有するK色の補正用画像Rを用紙Pに生成する。
ステップS51では、補正用画像Rを形成するため、各ノズルNから用紙Pにインク滴を吐出し始めた後、駆動ロール24の回転によって用紙Pが予め定めた距離だけ搬送されたタイミングで、レーザ乾燥ユニット56の各レーザ発光素子Vから補正用画像Rに対してレーザを照射する。
図33は、ノズルNからインク滴を吐出し始めて、レーザ発光素子Vによりレーザを照射するまでのタイミングを示した図である。
搬送される用紙Pに補正用画像Rを形成する際に、ヘッドアレイ30によって印字開始信号92が時刻T0でオンされて、ヘッドアレイ30のノズルNからインク滴が吐出され始めたことがCPU70に通知される。CPU70は、時刻T0の時点から、用紙Pの搬送に伴ってエンコーダによって通知されるエンコーダ信号91に含まれるパルス数を計測し、パルス数が予め定めたパルス数に達した場合に、レーザ乾燥ユニット56を制御して、各レーザ発光素子Vからレーザを照射させる。
ここで、予め定めたパルス数とは、設計に基づくヘッドアレイ30とレーザ乾燥ユニット56との距離(設計距離Ldesign[mm])に対応したエンコーダ66からのパルス数(設計パルス数Tdesign)に、遅延距離Ladjust[mm]に対応したパルス数(遅延パルス数Tadjust)を加えたパルス数であり、基準マーク照射開始パルス数という。
なお、設計距離Ldesignに遅延距離Ladjustを加算している理由は、仮に各ノズルNと各レーザ発光素子Vとの搬送方向の位置ずれが生じている場合、設計距離Ldesignに対応した設計パルス数Tdesignに達したタイミングT1でレーザを照射すると、場合によっては補正用画像Rにレーザが照射されない恐れがあるためである。
そこで、設計距離Ldesignに遅延距離Ladjustを加算することで、レーザ照射タイミングを時刻T1から遅延パルス数Tadjustに相当する時間だけ遅らせて、時刻T2で補正用画像Rにレーザが照射されるよう調整している。
なお、設計パルス数Tdesign及び遅延パルス数Tadjustは、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。
なお、駆動ロール24の直径をDroll[mm]、用紙Pの厚みをDpaper[mm]、駆動ロール24が1回転した際に、エンコーダ66が出力するパルス数(エンコーダ66の分解能)をRenc[パルス/回転]とした場合、設計パルス数Tdesignは(3)式、遅延パルス数Tadjustは(4)式によって算出される。
Tdesign=Round(2ΘencLdesign/(Droll+Dpaper),0) ・・・(3)
Tadjust=Round(2ΘencLadjust/(Droll+Dpaper),0) ・・・(4)
ここで、Θenc=2π/Rencであり、Round(x,0)は値xの小数点以下を切り捨て、値xを自然数にする演算子である。なお、値xの小数点以下を四捨五入あるいは切り上げることによって、値xを自然数にするようにしてもよい。
図34は、時刻T2でレーザ乾燥ユニット56の各レーザ発光素子Vから補正用画像Rに対してレーザを照射した際の状況を示した図である。
本ステップでは、レーザ乾燥ユニット56の各レーザ発光素子Vから補正用画像Rに対してレーザを照射するため、第8実施形態におけるステップS52の処理で生成された基準マークRBと異なり、基準マークRBは補正用画像Rの幅方向に沿って生成される。また本実施形態では、補正用画像Rの搬送方向下流側に位置する、補正用画像Rの幅方向に沿った端部を基準位置RAとする。換言すれば、基準位置RAは補正用画像Rを書き始めた位置を表すものであり、基準マークRBの生成方向に沿った補正用画像Rの端部である。
次に、ステップS53では、ステップS30の処理によって生成された基準位置RAと、ステップS51の処理によって生成された基準マークRBとの搬送方向に沿った距離Lを算出する。
そのためには、濃度読取センサ58で補正用画像R全体の濃度を読み取る。そして、補正用画像Rの搬送方向に沿った濃度分布に基づいて距離Lを算出する。
図35は、読み取った補正用画像Rの搬送方向に沿った濃度分布の一例を示した図である。図35に示したグラフの横軸は予め定めたスキャナ解像度で濃度を読み取る際の読取地点番号、すなわち濃度センサ番号に相当する番号を表し、縦軸は濃度センサSの出力値(濃度)を表している。
図35の濃度分布96は、図29の濃度分布97と同様の傾向を示すことから、既に第8実施形態における図27のステップS54で説明したようにして、濃度センサ数Lpixを算出した後、(1)式から距離Lを得る。
ステップS55では、ステップS53の処理で取得した距離Lと、設計距離Ldesignに遅延距離Ladjustを加算した距離との差分ΔLに対応する補正パルス数ΔTを求め、基準マーク照射開始パルス数を補正パルス数ΔTで補正することによって、レーザ照射タイミングを調整する。
ここで、基準マークRBと直交する方向に沿った基準位置RAから基準マークRBまでの距離Lには、既に差分ΔLが含まれているものと考えられるため、ステップS53の処理で算出した距離Lは(5)式のように表される。
L=Ldesign+Ladjust+ΔL ・・・(5)
すなわち、ΔLは(6)式によって算出される。
ΔL=Ldesign+Ladjust−L ・・・(6)
一方、R=(Droll+Dpaper)/2とおけば、ΔLは(7)式によって表される。
ΔL=RΘencΔT ・・・(7)
すなわち、ΔTは(8)式によって算出される。
ΔT=round(2ΔL/{(Droll+Dpaper)Θenc},0) ・・・(8)
以上より、差分ΔLに相当する補正パルス数ΔTが求められる。
従って、印字開始信号92がオンになった時点から計測し始めたパルス数がTdesign−ΔTに達したタイミングで、レーザ乾燥ユニット56からレーザを照射するようにすれば、各ノズルNと各レーザ発光素子Vとの搬送方向の位置ずれが抑制される。
このように本実施形態では、第8実施形態と同様に、補正用画像R上に基準マークRBを生成し、補正用画像Rの濃度分布に基づいて、基準マークRBから基準位置RAまでの距離を算出した上で、各ノズルNと各レーザ発光素子Vとの搬送方向の位置ずれをパルス数として算出することで、予め定めたレーザ乾燥ユニット56からのレーザ照射タイミングを補正した。
なお、第8実施形態及び第9実施形態では、補正用画像Rの濃度分布を濃度読取センサ58で読み込むことによって、基準位置RAから基準マークRBまでの距離Lを算出したが、距離Lの算出方法はこれに限られない。基準マークRBの濃度は補正用画像Rの濃度と異なることから、例えば、定規等を用いて目視で計測するようにしてもよい。
また、第8実施形態では、基準レーザ発光素子番号Mmarkに対応するレーザ発光素子VMmarkから補正用画像Rにレーザを照射して基準マークRBを生成するものとして説明したが、図36に示すように、複数のレーザ発光素子Vからレーザを照射して基準マークRBを生成するようにしてもよい。この場合、基準位置RAと基準マークRBとの距離Lは、基準位置RAから補正用画像Rの濃度分布が変化する地点までの距離、例えば距離L’や距離L’’としてもよい。
このように、複数のレーザ発光素子Vからレーザを照射して基準マークRBを生成した場合、1つのレーザ発光素子Vからレーザを照射して基準マークRBを生成した場合と比較して、基準マークRBの幅方向の長さが長くなり、スキャナ解像度のより低い濃度読取センサ58を使用した場合であっても、基準マークRBの位置を判別しやすくなるという効果が期待される。
同様の基準マークRBの生成に関する内容は、第9実施形態での基準マークRBの生成にも適用される。図32のステップS51の処理において、レーザ乾燥ユニット56の各レーザ発光素子Vから補正用画像Rに対してレーザを照射する際、レーザを照射する時間を長くすることで、基準マークRBの搬送方向の長さを長くすればよい。
また、第8実施形態及び第9実施形態では、補正用画像RをK色で形成する例を示したが、補正用画像Rの色はK色に限られず、YMC等の他のインク色であってもよい。しかし、Y色は他のインク色と比較して、濃度読取センサ58における濃度読取感度が低くなるため、補正用画像Rの色としては好ましくなく、K色が好ましい。
また、第8実施形態の実施例及び第9実施形態の実施例を組み合わせて、各ノズルNと各レーザ発光素子Vとの幅方向及び搬送方向の両方の位置ずれを補正するようにしてもよいことは言うまでもない。
<第10実施形態>
これまで説明した各実施形態では、用紙Pに形成された画像を乾燥する際、従来から用いられているカーボンヒータではなく、複数のレーザ発光素子Vを含んだレーザ乾燥ユニット56が用いられている。
カーボンヒータを用いて画像を乾燥する従来の方法の場合、用紙Pの画像形成面全体に温風を吹きつけて画像の乾燥を行っている。この場合、例えば、初期不良や経年劣化等の原因によりカーボンヒータに動作不良が発生すると、用紙Pの画像形成面全体の乾燥が行われなくなるため、カーボンヒータが正常に動作している場合の画像品質と比較して、画像品質の劣化が生じていることが容易に判断される。すなわち、ユーザは、カーボンヒータの故障により、インクジェット記録装置12に何らかの異常が発生していることを認識することができた。そして、カーボンヒータが故障していると判断された場合には、カーボンヒータ全体を交換して対応していた。
一方、第1実施形態〜第5実施形態のインクジェット記録装置12のように、レーザ乾燥ユニット56を用いて画像の乾燥を行う場合には、レーザ乾燥ユニット56全体の故障よりも、レーザ乾燥ユニット56に含まれるレーザ発光素子V毎の故障の方が多い傾向にある。
この場合、動作不良が生じているレーザ発光素子V(不良レーザ発光素子)を特定することが困難であり、仮に不良レーザ発光素子を特定したとしても、不良レーザ発光素子だけを交換することはレーザ乾燥ユニット56の構造上困難である。そうかといって、レーザ乾燥ユニット56はレーザ発光素子Vに比べて高価であるため、レーザ乾燥ユニット56自体を交換した場合、インクジェット記録装置12のランニングコストの上昇につながってしまう。
そこで、本実施形態では、既に説明した、画像にレーザを照射した場合に画像の光学濃度が変化するという特性を利用して、レーザ照射跡を用紙Pに記録することにより不良レーザ発光素子を特定すると共に、不良レーザ発光素子周辺のレーザ発光素子Vのレーザ照射量を調整して、不良レーザ発光素子によってレーザが照射されるはずであった領域のレーザ照射量を補正するインクジェット記録装置12の作用に関して説明する。
なお、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の構成は、これまでに説明した各実施形態におけるインクジェット記録装置12の何れの構成であってもよい。
図37は、例えば、インクジェット記録装置12のジョブ開始前等の、画像形成期間以外のタイミングでコンピュータ70のCPU70Aによって実行される、レーザ照射量の補正プログラムの流れを示すフローチャートである。
まず、S60では、図20におけるステップS30の処理と同様に、ヘッドアレイ30から用紙Pに対して、例えば、K色のインク滴を吐出して、用紙P上に中間濃度を有する補正用画像Rを生成する。
ステップS62では、予め定めたレーザ照射パターンに従って、レーザ乾燥ユニット56に含まれる各レーザ発光素子Vから補正用画像Rに対してレーザが照射されるように、レーザ乾燥ユニット56を制御する。
この予め定めたレーザ照射パターンは、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されており、一例として、1onXoff照射パターンが用いられる。
1onXoff照射パターンとは、レーザ発光素子番号を(X+1)で割った余りが等しいレーザ発光素子をグループ化し、レーザ発光素子グループ毎に異なるタイミングで順次レーザを照射する照射パターンである。
図38は、1on3off照射パターンでレーザを照射した場合の補正用画像Rの一例を示した図である。なお、本実施形態では説明を簡略化するため、レーザ発光素子番号m1が取り得る値をm1=(1,・・,16)として説明する。
この場合、1行目に、レーザ発光素子番号m1=(1、5、9、13)に対応するレーザ発光素子(第1レーザ発光素子グループ)のレーザ照射跡が記録され、2行目に、レーザ発光素子番号m1=(2、6、10、14)に対応するレーザ発光素子(第2レーザ発光素子グループ)のレーザ照射跡が記録され、3行目に、レーザ発光素子番号m1=(3、7、11、15)に対応するレーザ発光素子(第3レーザ発光素子グループ)のレーザ照射跡が記録され、4行目に、レーザ発光素子番号m1=(4、8、12、16)に対応するレーザ発光素子(第4レーザ発光素子グループ)のレーザ照射跡が記録されている。
図38に示すように、各レーザ発光素子Vから1onXoff照射パターンでレーザを補正用画像Rに照射した場合、各々のレーザ照射跡が他のレーザ照射跡と重なり合うことなく、予め定めた配置となるように記録される。従って、レーザ乾燥ユニット56にレーザ照射が行われていない不良レーザ発光素子が含まれている場合には、図38に示した、1on3off照射パターンに対応するレーザ照射跡の予め定めた配置がくずれるため、目視によって不良レーザ発光素子が特定される。
図39は、例えば、レーザ発光素子番号11に対応するレーザ発光素子Vが不良レーザ発光素子であった際に、レーザ乾燥ユニット56から1on3off照射パターンでレーザ照射した場合の補正用画像Rの一例である。
図39では、3行3列目のレーザ照射跡が認められないため、1onXoff照射パターンの場合、Aをレーザ照射跡が認められない位置の行番号、Bをレーザ照射跡が認められない位置の列番号とすれば、(9)式によって、不良レーザ発光素子に対応するレーザ発光素子番号merrorが11であることが特定される。
merror=(1+X)(B−1)+A ・・・(9)
このように、不良レーザ発光素子を目視で特定してもよいが、本実施形態では、以降の処理を実行して、1onXoff照射パターンに基づいてレーザ照射された補正用画像Rの濃度特性に基づいて、不良レーザ発光素子を特定する。
ステップS64では、レーザ発光素子グループ毎のレーザ照射跡の濃度、すなわち、図39における行毎の濃度を用紙Pの幅方向に読み取るように、濃度読取センサ58を制御する。取得した行毎の濃度は各レーザ発光素子Vと対応付けて、例えば、RAM70Cの予め定めた領域に行毎の濃度特性として記憶する。
ステップS66では、ステップS64で取得した行毎の濃度特性の中から、1行分の濃度特性を選択する。
ステップS68では、ステップS64で選択した1行分の濃度特性と、当該選択行に対応した第1標準濃度プロファイルとを比較して、不良判定基準値以上の濃度となる濃度特性のピーク数が同じか否かを判定する。そして、肯定判定の場合にはステップS74に移行し、否定判定の場合にはステップS70に移行する。
ここで、第1標準濃度プロファイルとは、動作不良が認められないレーザ発光素子Vのみを含むレーザ乾燥ユニット56によって、1onXoff照射パターンに基づいたレーザ照射を実施した際に得られる、補正用画像Rの各行毎の濃度を表した濃度特性である。
例えば、不良レーザ発光素子がない状況で、1on3off照射パターンに基づいてレーザ照射された補正用画像Rの各行の濃度特性を見ると、図40に示すように、不良判定基準値の濃度以上となるピークが4つ存在する。これは、補正用画像Rの幅方向に、4つのレーザ発光素子Vからレーザを照射するためである。ここで、不良判定基準値とは、この値以上の濃度であれば、動作不良とは認められないと判定するための予め定めた基準値であり、例えば、実機による実験や、コンピュータシミュレーション等の結果に基づいて定められる。
しかし、例えば、レーザ発光素子番号11のレーザ発光素子V11が不良レーザ発光素子である場合には、図40に示すように、3行目の濃度特性には3つのピークしか存在しない。
なお、図40の縦軸は濃度を表しているが、縦軸の上方に行くほど濃度が低くなることを示している。また、行毎の第1標準濃度プロファイル、レーザ発光素子グループの情報、及び不良判定基準値は、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。
次に、ステップS70では、ステップS64で選択した1行分の濃度特性、及びレーザ発光素子グループの情報に基づいて、不良レーザ発光素子を特定する。
具体的には、ステップS64で選択した1行分の濃度特性と当該選択行に対応した第1標準濃度プロファイルとの比較結果から、ステップS64で選択した1行分の濃度特性に何列目のピークが存在しないかを判定し、レーザ発光素子グループの情報を参照して不良レーザ発光素子を特定すると共に、特定した不良レーザ発光素子の番号をRAM70Cの予め定めた領域に記憶する。
例えば、図40に示す各行の濃度特性では、3行3列目の濃度ピークが存在しないため、第3レーザ発光素子グループの3番目に対応するレーザ発光素子V11が不良レーザ発光素子として特定される。
そして、ステップS72では、不良レーザ発光素子の幅方向に隣接するレーザ発光素子V(補正用レーザ発光素子)への供給電流値を大きくして、補正用レーザ発光素子のレーザ照射量を、予め定めたレーザ照射量と異なるレーザ照射量に設定する。例えば、予め定めたレーザ照射量として「中」に設定している場合には、「強」に相当するレーザ照射量に設定して、補正用レーザ発光素子のレーザ照射量を、予め定めたレーザ照射量より増加させる。ここで、レーザ照射量が「中」とは約1.5×104[J/m2]、レーザ照射量が「強」とは、レーザ照射量が「中」を超えるレーザ照射量、例えば、約3.5×104[J/m2]程度のレーザ照射量をいう。
図41は、本ステップで実施する補正用レーザ発光素子によるレーザ照射量の補正と、レーザ照射範囲の関係について説明した図である。
図41(A)において、不良レーザ発光素子をレーザ発光素子Vm1とした場合、レーザ発光素子V(m1−1)及びV(m1+1)が補正用レーザ発光素子となる。
補正用レーザ発光素子のレーザ照射量を「中」に維持した場合、図41(B)に示すように、不良レーザ発光素子Vm1によってレーザ照射されるはずであった領域に、レーザが照射されないケースや、あるいは、正常動作をしているレーザ発光素子V(m1−1)等によってレーザ照射される領域と比較して、低い照射量しかレーザが照射されないケースが想定される。
しかし、図41(C)に示すように、不良レーザ発光素子Vm1に隣接するレーザ発光素子V(m1−1)及びV(m1+1)のレーザ照射量を「強」にすることにより、レーザ照射範囲が拡大され、不良レーザ発光素子Vm1によってレーザ照射されるはずであった領域にもレーザが照射される。
そして、ステップS74では、ステップS66からステップS72までの処理を、ステップS64で取得した全ての行の濃度特性に対して実行したか否かを判定し、肯定判定の場合には、本プログラムを終了する。
一方、否定判定の場合にはステップS66に移行して、ステップS64で取得した各行の濃度特性のうち、まだ選択されていない行の濃度特性に対して、ステップS66からステップS72までの処理を実行する。
このように本実施形態では、1onXoff照射パターンに基づいて各レーザ発光素子Vからレーザを照射した際の補正用画像Rの濃度特性と、第1標準濃度プロファイルとに基づいて不良レーザ発光素子を特定し、不良レーザ発光素子に隣接するレーザ発光素子Vのレーザ照射量を制御することで、不良レーザ発光素子によりレーザ照射される領域のレーザ照射量を補正するようにした。
従って、レーザ乾燥ユニット56に含まれるレーザ発光素子V毎に動作不良が発生した場合であっても、レーザ乾燥ユニット56全体を交換することなく、画像品質の劣化を抑制する効果が期待される。
なお、本実施形態では、予め定めたレーザ照射パターンとして、1onXoff照射パターンを用いたが、レーザ照射によって生じる補正用画像Rの濃度変化の状況から、不良レーザ発光素子が一意に特定できるようなレーザ照射パターンであれば、どのようなレーザ照射パターンを用いてもよい。
また、ステップS72では、不良レーザ発光素子の幅方向に隣接するレーザ発光素子Vを補正用レーザ発光素子としたが、補正用レーザ発光素子の選択方法はこれに限られない。
例えば、不良レーザ発光素子の幅方向に隣接するレーザ発光素子Vの少なくとも一方を補正用レーザ発光素子とする形態や、不良レーザ発光素子から予め定めた範囲内に含まれるレーザ発光素子Vを補正用レーザ発光素子とする形態であってもよい。
また、図42(A)に示すように、不良レーザ発光素子をレーザ発光素子Vm1とした場合、隣接するレーザ発光素子V(m1−1)及びV(m1+1)のレーザ照射量を「強」に設定すると共に、レーザ発光素子V(m1−1)及びV(m1+1)に隣接するレーザ発光素子V(m1−2)及びV(m1+2)のレーザ照射量を「弱」にする補正を行ってもよい(図42(B)参照)。なお、レーザ照射量が「弱」とは、レーザ照射量が「中」未満のレーザ照射量、例えば、約1.0×104[J/m2]程度のレーザ照射量をいう。
レーザ発光素子V(m1−2)及びV(m1+2)のレーザ照射量を「弱」にするのは、レーザ発光素子V(m1−1)及びV(m1+1)のレーザ照射量を「強」とし、これに隣接するレーザ発光素子V(m1−2)及びV(m1+2)のレーザ照射量を「中」に維持したままにすると、レーザ発光素子V(m1−2)及びV(m1+2)によってレーザ照射される領域のレーザ照射量が、予め定めたレーザ照射量である「中」を超えることがあるためである。
また、こうした、レーザ照射量が予め定めたレーザ照射量を超える領域をできるだけ少なくするため、図42(C)に示すように、交互にレーザ発光素子V(m1−1)及びV(m1+1)の何れか一方のレーザ発光素子のレーザ照射量を「強」にして、他方のレーザ発光素子からレーザを照射しないようにしてもよい。
なお、図43に示すように、レーザ乾燥ユニット56の替わりに、搬送方向にも複数のレーザ発光素子Vが並べられたVCSEL56’が用いられている場合には、レーザ発光素子Vの行毎に、1onXoff照射パターンに基づいたレーザ照射を実施することで、不良レーザ発光素子が特定される。
そして、例えば、レーザ発光素子Vm11を不良レーザ発光素子とした場合、レーザの照射範囲がレーザ発光素子Vm11によるレーザの照射範囲と重複するレーザ発光素子Vm21及びVm31のレーザ照射量を、予め定めたレーザ照射量より大きくし、レーザ発光素子Vm11、Vm21、及びVm31の各々が予め定めたレーザ照射量でレーザ照射している場合のレーザ照射量の総量と同じレーザ照射量となるように補正する。
具体的には、レーザ発光素子Vm21及びVm31のレーザ照射量を、予め定めたレーザ照射量の1.5倍にすればよい。また、例えば、レーザ発光素子Vm31のレーザ照射量は予め定めたレーザ照射量に維持したままで、レーザ発光素子Vm21のレーザ照射量を2倍にする補正を行ってもよい。
また、本実施形態では、補正用画像RをK色で形成する例を示したが、補正用画像Rの色はK色に限られず、YMC等の他のインク色であってもよい。しかし、Y色は他のインク色と比較して、濃度読取センサ58における濃度読取感度が低くなるため、補正用画像Rの色としては好ましくなく、K色が好ましい。
また、本実施形態では、補正用画像Rの濃度を、インクジェット記録装置12に備えられた濃度読取センサ58を用いて読み取るようにしたが、例えば、図示しない通信回線に接続されたスキャナ等の濃度読取装置を用いて、補正用画像Rの濃度を読み取るようにしてもよい。この場合、補正用画像Rの濃度を、例えば、通信回線I/F60を介して受け付け、RAM70Cの予め定めた領域に記憶するようにすればよい。
<第11実施形態>
一般的に、ヘッドアレイ30に含まれる各ノズルNにおいて、例えば、ノズルNの取り付け誤差、インク詰まり、及びインク滴を吐出するための圧電素子等の故障等の原因により、予め定めた位置にインク滴が吐出されず、インク滴が吐出されなかった箇所が搬送方向に所謂白スジとして残ることがある。
このような白スジが発生する状況において、レーザ乾燥ユニット56に含まれる各レーザ発光素子Vから、画像の濃度がレーザ照射によって得られる最大の濃度となるようなレーザ照射タイミングで予め定めたレーザ照射量のレーザを照射すると、インク滴の用紙Pへの浸透が抑制されるため、白スジが用紙Pに残ったままとなる場合が考えられる。
そこで、本実施形態では、第10実施形態と同様の方法により、ヘッドアレイ30において動作不良が生じているノズルN(不良ノズル)を特定すると共に、不良ノズルに対応したレーザ発光素子Vのレーザ照射量を制御することで、不良ノズルのためインク滴が吐出されなかった箇所の濃度を補正するインクジェット記録装置12の作用に関して説明する。
なお、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の構成は、これまでに説明した各実施形態におけるインクジェット記録装置12の何れの構成であってもよい。
図44は、例えば、インクジェット記録装置12におけるジョブ開始前等の画像形成期間以外のタイミングでコンピュータ70のCPU70Aによって実行される、ヘッドアレイ30に含まれるノズルNの動作状況に応じて、レーザ照射量を補正するためのプログラムの流れを示すフローチャートである。
なお、以下ではノズル番号31のノズルN31が不良ノズルであるものとして説明する。
まず、ステップS80では、予め定めたインク滴吐出パターンに従って、ヘッドアレイ30に含まれる各ノズルNから用紙Pに対してインク滴を吐出する。
この予め定めたインク滴吐出パターンは、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されており、一例として、第10実施形態において説明した1onXoff吐出パターンが用いられる。
図45は、一例として、1on9off吐出パターンでインク滴を吐出した場合の用紙Pの状態を示した図である。なお、1onXoffにおけるXの値は9に限らず、他の値であってもよいことは言うまでもない。また、説明を簡略化するため、ノズル数を50とした。
図45に示すように、1行目に、ノズル番号n1=(1、11、21、31、41)に対するノズル(第1ノズルグループ)から吐出されたインク滴が付着し、2行目に、ノズル番号n1=(2、12、22、32、42)に対応するノズル(第2ノズルグループ)から吐出されたインク滴が付着し、以下同様に、10行目まで各ノズルグループから吐出されたインク滴が用紙Pに付着している。ただし、不良ノズルはノズルN31であることから、インク滴は1行4列目の位置に付着されない。
このように、本ステップでは、例えば1on9off吐出パターンに基づいて、ノズルグループ毎に異なるタイミングで順次インク滴を吐出するように、ヘッドアレイ30を制御する。
ステップS82では、ノズルグループ毎のインク滴の濃度、すなわち、図45における行毎の濃度を用紙Pの幅方向に読み取るように、濃度読取センサ58を制御する。取得した行毎の濃度は濃度センサSと対応付けて、例えば、RAM70Cの予め定めた領域に行毎の濃度特性として記憶する。
ステップS84では、ステップS82で取得した行毎の濃度特性の中から、1行分の濃度特性を選択する。
ステップS86では、ステップS82で選択した1行分の濃度特性と、当該選択行に対応した第2標準濃度プロファイルとを比較して、不良判定基準値以上の濃度となる濃度特性のピーク数が同じか否かを判定する。そして、肯定判定の場合にはステップS92に移行し、否定判定の場合にはステップS88に移行する。
ここで、第2標準濃度プロファイルとは、動作不良が認められないノズルNのみを含むヘッドアレイ30によって、1onXoff吐出パターンに基づいたインク滴の吐出を実施した際に得られる、用紙Pの各行毎の濃度を表した濃度特性である。
例えば、ノズル数n=50で、且つ、不良ノズルがない状況で、1on9off吐出パターンに基づいてインク滴が吐出された用紙Pの各行の濃度特性を見ると、不良判定基準値の濃度以上となるピークが5つ存在する。これは、用紙Pの幅方向に、5つのノズルNからインク滴を吐出するためである。
しかし、ノズルN31が不良ノズルである場合には、図45に示すように、1行目の濃度特性には4列目のピークが存在せず、濃度のピークは4つとなる。
なお、行毎の第2標準濃度プロファイル、ノズルグループの情報、及び不良判定基準値は、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。
次にステップS88では、ステップS84で選択した1行分の濃度特性、及びノズルグループの情報に基づいて、不良ノズルを特定する。
具体的には、ステップS84で選択した1行分の濃度特性と当該選択行に対応した第2標準濃度プロファイルとの比較結果から、ステップS84で選択した1行分の濃度特性に何列目のピークが存在しないかを判定し、ノズルグループの情報を参照して不良ノズルを特定すると共に、特定した不良ノズルの番号をRAM70Cの予め定めた領域に記憶する。
例えば、図45に示す各行の濃度特性では、1行4列目の濃度ピークが存在しないため、第1ノズルグループの4番目に対応するノズルN31が不良ノズルとして特定される。
そして、ステップS90では、例えば、予め第8実施形態に示す処理を実行して生成された、図30に示すレーザ照射対応テーブルを参照して、ステップS88の処理で特定した不良ノズルのノズル番号に対応するレーザ発光素子番号を取得し、当該レーザ発光素子番号に対応するレーザ発光素子(特定レーザ発光素子)からのレーザ照射を停止するように、レーザ乾燥ユニット56を制御する。
図46は、不良ノズルと特定レーザ発光素子との関係を示した図である。なお、図46では、ヘッドアレイ30のノズル解像度及びレーザ乾燥ユニット56のレーザ照射解像度が同じものとして説明する。
不良ノズルをノズルNn1とすると、ノズルNn1の搬送方向下流側にはインク滴の不吐出による白スジが現れるが、この場合、ノズルNn1に対応するレーザ発光素子Vm1に供給する電流値は0に設定され、レーザ発光素子Vm1からレーザを照射しないようにする。なお、レーザ発光素子Vm1以外のレーザ発光素子Vは予め定めたレーザ照射量でインク滴にレーザを照射する。
この場合、白スジ部分の乾燥進行度は、白スジ部分の幅方向に隣接した箇所の乾燥進行度よりも遅くなるため、白スジ部分の幅方向に隣接した箇所にあるインク滴が白スジ部分に広がるように浸透し(滲み)、白スジ部分を覆い隠そうとするため、ユーザによる白スジの視認性がより低下することになる。
一方、レーザ発光素子Vm以外のレーザ発光素子Vからは、インク滴に予め定めたレーザ照射量でレーザを照射しているため、用紙Pへのインク滴の定着が図られることになる。
そして、ステップS92では、ステップS84からステップS90までの処理を、ステップS82で取得した全ての行の濃度特性に対して実行したか否かを判定し、肯定判定の場合には、本プログラムを終了する。
一方、否定判定の場合にはステップS84に移行して、ステップS82で取得した各行の濃度特性のうち、まだ選択されていない行の濃度特性に対して、ステップS84からステップS90までの処理を実行する。
図47に、本実施形態におけるプログラムを実行した場合の結果を示す。
図47(A)は、ヘッドアレイ30に不良ノズルが認められる場合であっても、本実施形態におけるプログラムを実行せずに、各レーザ発光素子から予め定めたレーザ照射量のレーザを照射した場合の画像であり、図47(B)は、不良ノズルに対応する特定レーザ発光素子からのレーザ照射を停止した場合の画像である。
図47に示すように、図47(A)では矢印P1で示した箇所に搬送方向に沿って白スジが確認されるが、図47(B)の同箇所の白スジは、図47(A)の白スジに比べて視認性が低下している。
このように本実施形態では、1onXoff吐出パターンに基づいて各ノズルNからインク滴を吐出した際の用紙Pの濃度特性と、第2標準濃度プロファイルとに基づいて不良ノズルを特定し、不良ノズルに対応する特定レーザ発光素子のレーザ照射を停止することで、不良ノズルの存在によって現れる白スジの視認性を低下させるようにした。
なお、本実施形態では、予め定めたインク滴吐出パターンとして、1onXoff吐出パターンを用いたが、インク滴の吐出によって生じる用紙Pの濃度変化の状況から、不良ノズルが一意に特定できるようなインク滴吐出パターンであれば、どのようなインク滴吐出パターンを用いてもよい。
また、本実施形態では、特定レーザ発光素子のレーザ照射を停止するように制御したが、レーザ発光素子Vのレーザ照射量の制御はこれに限られない。
例えば、特定レーザ発光素子のレーザ照射量を、予め定めたレーザ照射量未満としてもよい。この場合であっても、白スジ部分に予め定めたレーザ照射量のレーザを照射する場合と比較して、白スジ部分にインク滴の滲みが進行する度合いが高くなるため、白スジの視認性が低下する。
また、特定レーザ発光素子だけでなく、特定レーザ発光素子から予め定めた範囲に含まれるレーザ発光素子Vのレーザ照射量も低下させることにより、白スジの視認性がより低下する効果が期待される。
例えば、図46において、レーザ発光素子Vm1のレーザ照射量を0にすると共に、レーザ発光素子V(m1−1)及びV(m1+1)のレーザ照射量を、予め定めたレーザ照射量未満にする。
また、各ノズルNから吐出するインク滴の色に制限はないが、Y色は他のインク色と比較して、濃度読取センサ58における濃度読取感度が低くなるため好ましくなく、K色が好ましい。
また、本実施形態では、用紙Pの濃度を、インクジェット記録装置12に備えられた濃度読取センサ58を用いて読み取るようにしたが、例えば、図示しない通信回線に接続されたスキャナ等の濃度読取装置を用いて、用紙Pの濃度を読み取るようにしてもよい。この場合、用紙Pの濃度を、例えば、通信回線I/F60を介して受け付け、RAM70Cの予め定めた領域に記憶するようにすればよい。
<第12実施形態>
第11実施形態では、ヘッドアレイ30に不良ノズルが存在する場合に、特定レーザ発光素子のレーザ照射量を予め定めたレーザ照射量未満にすることで、インク滴の滲みを利用し、白スジ部分の視認性を低下するようにした。
一方、ヘッドアレイ30に不良ノズルが存在しない場合であっても、例えばヘッドアレイ30のノズル解像度が予め定めたノズル解像度より低い場合や、原画像の画像情報に含まれる吐出位置情報で指示されたインク滴吐出密度が、予め定めたインク滴吐出密度より少ない等の理由により、用紙Pに形成されたインク滴の密度が予め定めた画像密度より低い画像(低密度画像)にレーザを照射すると、インク滴が用紙Pに滲む前に乾燥し始めることで、各インク滴の間にインク滴の未着弾部分が生じ、画像品質が劣化する場合がある。
図48(A)及び図48(B)は、レーザを照射した低密度画像の状態を説明するための図である。
この場合には、図48(A)及び図48(B)に示すように、これらの画像には、インク滴の未着弾部分や白スジ(矢印P2部分)が発生する。
一方、低密度画像に対してレーザを照射しないようにすれば、インク滴の滲みによりインク滴の未着弾部分の面積は減少するが、輪郭が滲んだような画像となり、画像品質の劣化を抑制することが難しい。
図48(C)は、レーザ未照射の低密度画像の状態を説明するための図である。
この場合には、図48(C)に示すように、インク滴の未着弾部分の面積は減少するが、画像の輪郭が滲む。
本実施形態では、用紙Pに形成される画像が低密度画像であると判定された場合に、レーザ乾燥ユニット56から照射するレーザの照射位置及びレーザ照射量を制御して、インク滴の未着弾部分の面積を減少させると共に、輪郭の滲みを抑制するインクジェット記録装置12の作用に関して説明する。
なお、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の構成は、これまでに説明した各実施形態におけるインクジェット記録装置12の何れの構成であってもよい。
図49は、例えば、ユーザから画像形成要求を受け付け、用紙Pに形成する画像が低密度画像であると判定された際に、コンピュータ70のCPU70Aによって実行される、レーザ照射制御プログラムの流れを示すフローチャートである。
まず、ステップS100では、ユーザによって指定された原画像の画像情報に基づいて、用紙供給部74、用紙搬送部76、及び画像形成部78を制御し、用紙Pに画像を形成する。
次に、ステップS102では、原画像の画像情報に含まれる吐出位置情報に基づいて、画像の輪郭を形成するインク滴(輪郭形成インク滴)を吐出したノズル番号を取得すると共に、図30に示すレーザ照射対応テーブルを参照して、輪郭形成インク滴を吐出したノズル番号に対応するレーザ発光素子番号を取得する。そして、当該レーザ発光素子番号と、当該レーザ発光素子番号に対応するレーザ発光素子Vの照射開始時間と、を関連付けた輪郭照射テーブルを、例えば、RAM70Cの予め定めた領域に記憶する。
ステップS104では、輪郭照射テーブルを参照し、照射開始時間に達したレーザ照射番号に対応するレーザ発光素子Vから、用紙Pに対してレーザを照射する。この際、レーザの照射時間は、予め定めた数のインク滴を照射する時間に設定されており、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。具体的には、輪郭を形成するインク滴を照射する時間に設定される。
図48(D)に、本実施形態におけるプログラムを実行した場合の結果を示す。
図48(D)に示すように、輪郭以外の部分を形成するインク滴にはレーザ乾燥ユニット56からレーザが照射されないため、輪郭によって囲まれた領域(画像の内部)に含まれるインク滴は滲む。
一方、画像の輪郭を形成するインク滴にはレーザ乾燥ユニット56からレーザが照射されるため、輪郭を形成するインク滴の滲みは抑えられる上、画像の光学濃度が最大となるタイミングでレーザが照射されるため、画像の内部の濃度との濃度差がより大きくなり、輪郭が強調される。
このように本実施形態では、画像の輪郭を形成するインク滴にレーザを照射して画像の滲みを抑制する一方、画像の内部を形成するインク滴にはレーザを照射しないようにして、画像が滲む度合いを高くすることで、白スジ等のインク滴の未着弾部分の面積を減少させ、画像品質を向上させるようにした。
また、画像の部分に応じてレーザの照射量を制御しない場合と比較して、エネルギーの消費量を抑制する効果も期待される。
なお、本実施形態では、画像の内部に含まれるインク滴にはレーザを照射しないものとして説明したが、予め定めたレーザ照射量未満のレーザを照射するようにしてもよい。
この場合であっても、予め定めたレーザ照射量のレーザを照射する場合と比較して、インク滴が滲む度合いが高くなるため、インク滴の未着弾部分の面積が減少する効果が期待される。例えば、印字速度が200[m/min]といった高速領域では、インク滴が乾燥するまでの時間を短縮させる必要があるため、画像の内部に予め定めたレーザ照射量未満のレーザを照射することがある。
また、用紙の種別に応じて、輪郭を形成するインク滴に照射するレーザのレーザ照射量を変更するようにしてもよい。例えば、インクジェット専用用紙よりインク滴が滲みやすい普通紙では、インクジェット専用用紙の場合に用いるレーザ照射量より大きくする。ただし、2色以上のインク滴が接するような画像の輪郭では、画像の境界で滲みが発生する場合があるので、用紙の種別に限らず、レーザ照射量を予め定めたレーザ照射量よりも大きくすることが望ましい。
<第13実施形態>
図50は、レーザ照射の有無による各印字率での画像の濃度変化を示したグラフであり、縦軸は濃度、横軸は印字率を示している。縦軸の濃度は上方向へいく程、濃度が高いことを示し、横軸の印字率は右方向へいく程、印字率が高いことを示している。特性94は、ある印字率の画像に対してレーザ照射を行った場合の濃度を示し、特性95は、レーザ照射を行わなかった場合の濃度を示している。
ここで印字率とは、予め定めた領域(例えば1インチ四方の領域)のうち、インク滴を打滴することができる箇所の総数に対して、実際にインク滴が打滴された箇所の割合をいう。
図50により、印字率がH3未満の範囲では、画像にレーザを照射した方が、レーザを照射しなかった場合よりも画像の濃度が低くなり、反対に印字率がH3を超える範囲では、画像にレーザを照射した方が、レーザを照射しなかった場合よりも画像の濃度が高くなる傾向があることが示される。
これは別の見方をすれば、レーザ照射の有無によって、ある濃度Dが異なる印字率で表されることを示している。
この場合、ある濃度Dを、印字率をH1としてレーザを照射しないで表現した場合と、印字率をH2としてレーザを照射して表現した場合とでは、同じ濃度Dの画像であっても画像の質感が異なる。
濃度Dの画像を、印字率をH2としてレーザを照射して表現した場合、印字率をH1としてレーザを照射しないで表現した場合に比べて、単位面積あたりのインク滴の打滴数が多く、更にレーザ照射によってインク滴の滲みも抑制されるため、画像の粒状性が向上し、光沢感(グロス)が増す。
なお、粒状性とは画像のざらつき感を表す尺度であり、粒状性が良いほど画像のざらつき感が減少する。
本実施形態では、この性質を利用して、用紙Pに形成する画像の種別毎に、インク滴に照射するレーザの照射量を可変し、指示された画像の濃度を変えることなく画像の質感を変えるインクジェット記録装置12の作用に関して説明する。
なお、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の構成は、これまでに説明した各実施形態におけるインクジェット記録装置12の何れの構成であってもよい。
図51は、例えば、ユーザから画像形成要求を受け付けた際に、コンピュータ70のCPU70Aによって実行される、レーザ照射制御プログラムの流れを示すフローチャートである。
なお、原画像の画像情報は、例えば、図示しない通信回線に接続された図示しない端末装置から、通信回線I/F60を介して画像形成要求と共に受け付けたものであり、RAM70Cの予め定めた領域に予め記憶されているものとする。
まず、ステップS110では、RAM70Cの予め定めた領域から原画像の画像情報を取得する。この際、例えばRAM70Cの予め定めた領域に記憶されている、粒状性優先画像フラグをオフにする。
次に、ステップS112では、ステップS110で取得した原画像の画像情報に含まれる画像の種別を参照し、原画像が粒状性を優先する画像、例えば、写真なのか、それとも粒状性を優先しない画像、例えば、文字やグラフィックなのかを判定する。そして、肯定判定の場合にはステップS114に移行し、否定判定の場合にはステップS116へ移行する。
なお、本ステップでは、画像の種別を原画像の画像情報から取得するようにしたが、例えば、ユーザが指定した画像の種別を、操作表示部72を介して取得するようにしてもよく、また、ユーザによる画像の種別の指定もなく、且つ、原画像の画像情報に画像の種別が含まれていない場合には、CPU70が原画像の画像情報に含まれる画像の種別以外の情報に基づいて、画像の種別を判別するようにしてもよい。
ステップS114では、粒状性優先画像フラグをオンにする。
ステップS116では、原画像の画像情報に含まれる画像の濃度情報及びインク滴の吐出位置情報に基づいて、ヘッドアレイ30からインク滴を吐出して、用紙Pに画像を形成する。
この際、例えば印字率テーブルを参照して、画像の印字率を決定する。ここで印字率テーブルとは、粒状性優先画像フラグの状態、すなわち画像の種別に応じて画像の各濃度を実現するための印字率を図50に基づいて設定したテーブルであり、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。
例えば、粒状性優先画像フラグがオフで、画像の濃度情報で濃度Dが指示されている場合には、印字率H1で用紙Pにインク滴を吐出する。また、粒状性優先画像フラグがオンで、画像の濃度情報で濃度Dが指示されている場合には、印字率がH1より大きいH2の印字率で用紙Pにインク滴を吐出する。
ステップS118では、粒状性優先画像フラグの状態がオンか否かを判定し、否定判定の場合には本プログラムを終了する。肯定判定の場合にはステップS120へ移行する。
そして、ステップS120では、レーザ乾燥ユニット56を制御して、予め定めたレーザ照射量のレーザを、レーザ乾燥ユニット56に含まれる各レーザ発光素子Vから画像に対して照射し、本プログラムを終了する。
以上の一連の処理により、同じ濃度の画像を形成する場合であっても、画像の種別が写真等の粒状性を重視する画像である場合には、印字率を、画像の種別が粒状性を重視する画像ではない場合に用いる印字率よりも大きくした上で、画像にレーザが照射されることになる。
一方、画像の種別が粒状性を重視しない画像である場合には、印字率を、画像の種別が粒状性を重視する画像である場合に用いる印字率よりも小さくした上で、画像にレーザが照射されないことになる。
表7に、図51に示したプログラムを実行した場合の実験結果(結果1)と、比較のため、画像をレーザではなくカーボンヒータで乾燥させた場合の実験結果(結果2)を示す。
ここで、インク滴の量が小滴とは、インク滴の容量が4[pl]以下であることをいう。また、粒状性が「○」とは粒子のざらつき感が認められず、粒状性が良いことを表し、「△」とは粒状性が「○」に比べて劣ることを意味している。なお、粒状性及びグロスの評価は官能評価の結果である。
結果1では、同じ濃度であっても、レーザ照射の有無により粒状性及びグロスの評価が異なる画像が得られることが示されている。一方、結果2の場合、印字率の違いがそのまま濃度の違いとして表れ、しかも、粒状性及びグロスの評価にも違いが見られない結果となった。
すなわち、表7の実験結果から、レーザ照射の有無により、同じ濃度に対して画像の質感が異なる2つの画像が得られることがわかる。
なお、本実施形態では、粒状性優先画像フラグがオフの場合、レーザ乾燥ユニット56からレーザを照射しないようにしたが、例えば、ステップS120の処理で照射する予め定めたレーザ照射量未満のレーザを照射するようにしてもよい。この場合であっても、表7の実験結果と同等の効果が得られる。
このように本実施形態では、用紙Pに形成する画像の種別に応じて、画像に照射するレーザの照射量を可変することで、ユーザによって指定された画像の濃度を変えることなく、画像の質感を変化させるようにした。従って、画像の種別に応じて画質の品質を向上させる効果が期待される。
<第14実施形態>
第13実施形態では、図50に示した特性94及び特性95の関係から、画像に対するレーザ照射量を制御することにより、異なる印字率であっても同じ濃度を示すようになるという特徴を利用して、画像の種別に応じてレーザの照射量を制御することで、画像の質感を変化させるようにした。
ここで、更に、図50に示した特性94及び特性95の関係について検討すると、画像にレーザを照射した場合の最大の濃度はDmax1である一方、画像にレーザを照射しなかった場合の最大濃度はDmax2となり、Dmax1>Dmax2の関係があることが示されている。
そこで本実施形態では、この性質を利用して、レーザ照射量を制御することにより、画像にレーザを照射しない場合に実現可能な濃度範囲を上方に拡大するインクジェット記録装置12の作用に関して説明する。
なお、本実施形態におけるインクジェット記録装置12の構成は、これまでに説明した各実施形態におけるインクジェット記録装置12の何れの構成であってもよい。
図52は、例えば、ユーザから画像形成要求を受け付けた際に、コンピュータ70のCPU70Aによって実行される、レーザ照射制御プログラムの流れを示すフローチャートである。
なお、本実施形態でも第13実施形態と同様に、原画像の画像情報は、例えば、図示しない通信回線に接続された図示しない端末装置から、通信回線I/F60を介して画像形成要求と共に受け付けたものであり、RAM70Cの予め定めた領域に予め記憶されているものとする。
まず、ステップS130では、RAM70Cの予め定めた領域から原画像の画像情報を取得する。この際、例えばRAM70Cの予め定めた領域に記憶されている、レーザ照射フラグをオフにする。
次に、ステップS132では、ステップS130で取得した原画像の画像情報に含まれる画像の濃度情報を参照し、画像の濃度がDmax2を超える濃度であるか否かを判定する。そして、肯定判定の場合にはステップS134に移行し、否定判定の場合にはステップS136へ移行する。
なお、濃度Dmax2の値は、例えば、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶されている。
ステップS134では、レーザ照射フラグをオンにする。
ステップS136では、原画像の画像情報に含まれる画像の濃度情報及びインク滴の吐出位置情報に基づいて、ヘッドアレイ30からインク滴を吐出して、用紙Pに画像を形成する。
この際、例えば、表6の印字率テーブルの粒状性優先画像フラグ状態をレーザ照射フラグ状態に読み替えて、印字率テーブルを参照して、画像の印字率を決定する。
ステップS138では、レーザ照射フラグの状態がオンか否かを判定し、否定判定の場合には本プログラムを終了する。肯定判定の場合にはステップS140へ移行する。
そして、ステップS140では、レーザ乾燥ユニット56を制御して、予め定めたレーザ照射量のレーザを、レーザ乾燥ユニット56に含まれるレーザ発光素子Vから画像に対して照射し、本プログラムを終了する。
以上の一連の処理により、指定された画像の濃度が、画像にレーザを照射しなかった場合の最大の濃度Dmax2を超える濃度であっても、画像にレーザを照射することにより、実現される濃度範囲が上方に拡張されることになる。
例えば、図52に示したプログラムを実行して、普通紙に画像を形成した場合の一例として、レーザ照射を行わなかった場合の画像の最大の濃度Dmax2が約1.2であったのに対して、レーザ照射を行った場合には画像の最大の濃度Dmax1が約1.4まで上方に拡張するという結果が認められた。
なお、第13実施形態及び第14実施形態で用いられる用紙Pの種別及びインク滴の色に特に制限はない。
<第15実施形態>
これまでに説明した各実施形態におけるインクジェット記録装置12では、例えば、A4サイズ等のカット紙に画像を形成するものであったが、本実施形態では、連続紙に形成された画像をレーザ乾燥ユニット56で乾燥するインクジェット記録装置13について説明する。
図53に、本実施形態におけるインクジェット記録装置13の要部構成を示す概略図を示す。
図53に示すように、本実施形態におけるインクジェット記録装置13は、用紙Pとして幅方向の長さがWの連続紙が用いられており、連続紙は駆動ロール24の回転に伴い、連続紙の表面がヘッドアレイ30のインク吐出面と対向するように搬送される。そして、ヘッドアレイ30により連続紙の表面に吐出されたインク滴で構成された画像は、搬送方向に移動自在に設置されたレーザ乾燥ユニット56Aから照射されるレーザによって乾燥され、連続紙の表面に定着する。
そして、表面に画像が形成された連続紙は、裏面を上にして用紙反転装置17に搬送され、用紙反転装置17で連続紙の表面と裏面が反転される。そして、用紙反転装置17から表面を上にして搬送される連続紙は、反転用ローラ50及び搬送ローラ対20を介して、今度は、連続紙の裏面がヘッドアレイ30のインク吐出面と対向するように搬送される。この際、連続紙は、表面を画像形成面として搬送される連続紙と搬送方向に沿って並走するように搬送される。
ヘッドアレイ30により連続紙の裏面に形成された画像は、搬送方向に移動自在に設置されたレーザ乾燥ユニット56Bから照射されるレーザによって乾燥され、連続紙の裏面に定着する。
そして、両面に画像が形成された連続紙は、排出ローラ42を介して図示しない連続紙排出部に搬送される。
また、連続紙を挟んでレーザ乾燥ユニット56A及び56Bと対向する位置には、レーザ乾燥ユニット56によるレーザの照射範囲に亘ってレーザ受光装置19が配置され、レーザ乾燥ユニット56Aから照射されたレーザのうち、連続紙を透過したレーザや、連続紙上ではなく、連続紙の幅方向の長さを超えて照射されたレーザを受光する。なお、レーザ受光装置19は、受光したレーザを、レーザ受光装置19の外部に透過させ難い構造となっている。
更に、搬送ローラ対20とヘッドアレイ30との間における連続紙の搬送路下方には、図54に示すように、連続紙の用紙幅を検出する用紙幅センサ15が複数設けられている。用紙幅センサ15は、表面を画像形成面とした連続紙及び裏面を画像形成面とした連続紙の搬送方向に沿った一端の幅方向の位置を検出する。なお、連続紙の搬送方向に沿った他端の幅方向の位置は、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bの幅方向の端部の位置に揃えられている。
このように用紙幅センサ15を設けた理由は、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bから照射されるレーザの照射範囲を、連続紙上に制限するためである。
図55(A)に示すように、用紙幅センサ15を設けない場合には、連続紙の幅方向の長さが不明である場合があり、その場合、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bの幅方向に沿って配置された、すべてのレーザ発光素子Vからレーザを照射する必要がある。
しかし、用紙幅センサ15により、連続紙の幅方向の長さが予めわかっている場合には、図55(B)に示すように、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bからは、連続紙の幅方向の長さに合わせて、連続紙の全面をレーザ照射するのに必要なレーザ発光素子からレーザを照射するようにすればよい。用紙幅センサ15の情報に基づいて、このようにレーザ乾燥ユニット56A及び56Bを制御することにより、インクジェット記録装置13の消費電力の低減につながる。また、レーザ照射範囲が減少することから、インクジェット記録装置13筐体内部の温度上昇が抑制されると共に、連続紙以外の部材へのレーザ照射による部材の劣化が抑制される。
なお、レーザ乾燥ユニット56Aとレーザ乾燥ユニット56Bは、幅方向に距離W1離れた位置に設置される。この距離W1は、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bを搬送方向に移動可能に設置するため、構造上の理由から設けられた間隔である。
図56は、本実施形態におけるインクジェット記録装置13の電気系の要部構成を表したブロック図である。図56に示すように、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bは、独立したレーザ乾燥ユニット搬送モータ88によって移動される。また、用紙反転装置17は、用紙搬送モータ84及びローラ10を含んで構成される。
このように、ヘッドアレイ30の幅方向に沿って配置された複数のノズルを論理的なブロックに分割し、あるブロックに含まれるノズルでは連続紙の表面にインク滴を吐出し、別のブロックに含まれるノズルからは連続紙の裏面にインク滴を吐出する画像形成方式は、SED(Single Engine Duplex)方式と称される。
従来のSED方式を用いた装置では、画像の乾燥にカーボンヒータ等が用いられ、連続紙の全面に温風を吹き付けることで画像の乾燥を行っていた。この場合、たとえ同じ温度で連続紙の表面と裏面を乾燥したとしても、形成される画像の濃度に相違が発生する場合があった。
そこで、本実施形態では、インクジェット記録装置13のレーザ乾燥ユニット56A及び56Bの各々に対して、第1実施形態において説明した図6の制御プログラムを実行する。
図6のステップS14では、表1に示したレーザ照射位置テーブルを参照して、レーザ乾燥ユニット56を、用紙Pに形成された画像の濃度が最大となる照射タイミングに対応した位置に移動させたが、本実施形態の場合、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bを、連続紙の表面に形成された画像の濃度と、連続紙の裏面に形成された画像の濃度との濃度差がより小さくなる照射タイミングに対応した位置にそれぞれ移動させればよい。
この濃度差がより小さくなる照射タイミングに対応したレーザ乾燥ユニット56A及び56Bの各々の位置は、例えば、印字速度及び連続紙の種別の組み合わせ毎に、実機による実験や、コンピュータシミュレーション等の結果に基づいて濃度差補正テーブルとして定められ、不揮発性メモリ70Dの予め定めた領域に予め記憶される。そして、図6のステップS14の処理を実行する際、レーザ照射位置テーブルの替わりに、濃度差補正テーブルを参照するようにして、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bの搬送方向に沿った各々の位置を決定すればよい。
このように本実施形態では、SED方式のインクジェット記録装置13において、連続紙の表面にレーザを照射するレーザ乾燥ユニット56A及び連続紙の裏面にレーザを照射するレーザ乾燥ユニット56Bの、ヘッドアレイ30からレーザ照射位置までの距離を制御して、各々異なるタイミングで画像にレーザを照射することで画像の濃度を調整し、レーザ照射以外の方法で画像を乾燥させる場合と比較して、各々の画像の濃度差を減少させるようにした。
次に、図57に示すように、連続紙として全幅用紙が用いられる場合での、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bのレーザ照射に関する制御について説明する。
全幅用紙とは、幅方向の長さW2が、図53に示した連続紙の幅方向の長さWの2倍ある連続紙をいう。全幅用紙を用いた場合、本実施形態におけるヘッドアレイ30では、全幅用紙の表面及び裏面に並行して画像を形成することはできないが、連続紙の表面及び裏面に並行して画像を形成する際に用いられる連続紙よりも、幅方向に長い連続紙を用いることができる。
従って、全幅用紙を用いる場合、片面に画像が形成された全幅用紙は、駆動ロール24から用紙反転装置17を介することなく排出ローラ42に搬送され、更に、図示しない連続紙排出部に搬送される。
図58(A)は全幅用紙の画像記録面方向から、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bの配置位置を示した図である。
この場合、図53のように、全幅用紙の両面を並行して乾燥させる場合と異なり、全幅用紙の片面に形成された画像を乾燥させればよいため、ヘッドアレイ30からレーザ乾燥ユニット56A及び56Bまでの距離が同じになるように、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bの位置が制御される。
図58(B)は、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bが図58(A)のように配置された場合の、レーザ照射範囲を示した図である。
既に説明したように、レーザ乾燥ユニット56Aとレーザ乾燥ユニット56Bとは、幅方向に距離W1離れた位置に配置されている。従って、図58(B)に示すように、全幅用紙の領域R4にレーザが照射されない状況が考えられる。
従って、本実施形態におけるインクジェット記録装置13では、全幅用紙に対してレーザを照射する場合、レーザ乾燥ユニット56A及び56Bから照射するレーザの幅方向における照射角度を制御する。
すなわち、図58(C)に示すように、レーザ乾燥ユニット56Aから照射されるレーザの照射範囲が、領域R4内でレーザ乾燥ユニット56Bから照射されるレーザの照射範囲と接するように、レーザ乾燥ユニット56Aの幅方向における照射角度を制御する。また、レーザ乾燥ユニット56Bから照射されるレーザの照射範囲が、領域R4内でレーザ乾燥ユニット56Aから照射されるレーザの照射範囲と接するように、レーザ乾燥ユニット56Bの幅方向における照射角度を制御する。
このようにレーザ乾燥ユニット56A及び56Bの幅方向におけるレーザ照射角度を制御することで、全幅用紙の全面にレーザが照射され、全幅用紙に形成された画像の濃度差をより少なくする効果が期待される。
<第16実施形態>
これまでの各実施形態では、画像に照射するレーザの照射タイミング、照射位置、及び照射量の少なくとも1つを制御することで、画像の濃度を調整する例について説明したが、本実施形態では、レーザの照射に適したインクの成分について説明する。
従来のカーボンヒータ等を用いた画像の乾燥では、レーザを用いた画像の乾燥に比べて乾燥効率が悪いため、インク滴がより用紙Pへ浸透しやすいようインクの成分を調整することで、画像乾燥後にインクが他所へ色移りする度合い(転写濃度)を抑制した。この際、温風を用いた乾燥方式では、乾燥に係る機構部の大きさが、レーザを用いた乾燥方式に比べて大きくなり、ヘッドアレイ30の近傍に配置することが困難となるため、インク滴が吐出されてから数百ms以内に画像を乾燥させることは困難であった。
一方、レーザを照射して画像を乾燥させる方式に適したインクの成分について、これまで具体的な検討が行われていなかった。
そこで、発明者らは、レーザを照射して画像を乾燥させる方式に適したインクの成分について検討を行った。
図59は、2000倍希釈液の分光光度測定による400〜800nmの可視光域におけるインクのピーク吸光度と、当該インクを用いて普通紙に形成された画像の光学濃度との関係を示したグラフであり、特性100はレーザ照射量2.5×104[J/m2]のレーザを画像に照射した場合の特性を示し、特性102は画像にレーザを照射しなかった場合の特性を示す。なお、インク滴を吐出してから、当該インク滴にレーザを照射するまでの時間は60[ms]に設定した。
図59からわかるように、画像にレーザを照射した場合、画像の光学濃度が上昇し、例えば、濃度Dを表す画像を形成するインクのピーク吸光度は、レーザを照射しない場合のピーク吸光度G2に比べて、レーザを照射した場合のピーク吸光度G1の方が小さくなる。
これは、レーザを照射して画像を乾燥させる場合、レーザを照射しない場合と比較してより短時間にインク滴が乾燥するため、普通紙の表面近傍に色材が凝集した状態になるためと考えられる。
すなわち、同じ濃度を表す場合、レーザを照射した方が、レーザを照射しない場合のインク滴に含まれる色材の質量パーセント濃度を低減できることを意味しており、インクのコストが低減される。
また、より少ない色材でより高い光学濃度を得るためには、インクの平均浸透時間を調整することも重要である。これは、インクの平均浸透時間が長い方が、より多くの色材を普通紙の表面近傍に留められるからである。すなわち、インクの平均浸透時間を予め定めた時間以上にすることが望ましい。
ここで、平均浸透時間とは、インクジェット記録装置12で使用される最大のインク滴量を、インクジェット記録装置12で使用される最大のノズル解像度で、用紙Pに1ドットライン(インク滴1滴に相当する幅の線)吐出した際、あるインク滴が用紙Pに着弾してから、当該インク滴の液面低下が終了するまでの時間を浸透時間とした上で、15か所のインク滴の着弾位置での浸透時間を平均した時間をいう。
また、K色以外のインク色、すなわちCMY色のインクでは、赤外線吸収剤を含ませるようにした方がよい。これは、K色の色材として一般に使用される物質、例えばカーボンブラックには、赤外線を吸収する性質が備わっているが、CMY色の色材は、カーボンブラックに比べて赤外線を吸収しにくく、乾燥までの時間を要するためである。
なお、赤外線吸収剤としては、例えば、シアニン系化合物、ジイモニウム系化合物、アミニウム系化合物等が挙げられる。
赤外線吸収剤として具体的には、例えば、「KAYASORB IRG−140」日本化薬社製、「KAYASORB IRG−022」日本化薬社製、「KAYASORB CY−40MC」日本化薬社製、「NIR−IM1」ナガセケムテック社製、「NIR−AM1」ナガセケムテック社製等が挙げられる。
赤外線吸収剤の含有量は、例えばインクに対して0.01質量%以上1質量%以下(望ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下、より望ましくは0.1質量%以上0.2質量%以下)が挙げられる。
更に、インク滴に含まれる成分の観点から、インク滴に照射されるレーザの波長について検討した場合、800[nm]から12000[nm]までの範囲の波長のうち、水に吸収されない波長を用いることが望ましい。
レーザの波長として水に吸収される波長を用いた場合と比較して、より赤外線吸収剤にレーザを吸収させるようにしてインク滴の乾燥時間を短縮させると共に、インク滴の吐出位置以外の場所、すなわち用紙P自体へのレーザ照射を抑制することで、用紙Pの乾燥、及びインク滴の用紙Pへの浸透による用紙Pの伸縮差から生じるシワの発生を抑制する効果が期待される。
また、発明者らは、1.5インチ四方の領域にK色のインクを印字率100%で吐出して形成した評価画像(パッチ画像)に対して、レーザ照射の有無の違いにより、パッチ画像の光学濃度及び転写濃度がどのように変化するかを調べた。
なお、表8における光学濃度は、インク滴の吐出から1時間後の光学濃度を示したものであり、転写濃度は、インク滴の吐出から30秒後に、パッチ画像の画像形成面に転写用普通紙を重ねて10[N]の力で押さえつけた際に、転写用普通紙に色移りするパッチ画像の光学濃度を示したものである。
また、表8の実施例において使用したインクはピーク吸光度が1.0のK色のインクであり、インク滴の容量は3.5[pl]である。また、普通紙の平均浸透時間は70[ms]であり、照射したレーザのレーザ照射量は1.5×104[J/m2]、印字速度は60[m/min]、インク滴の吐出位置からレーザの照射位置までの距離は60[mm]である。なお、表8の比較例では、インク滴の吐出位置からカーボンヒータによる温風の吹き付け位置までの距離が500[mm]である点を除いて、実施例と同じ条件とした。
表8からわかるように、実施例では、用紙Pにインク滴を吐出してからインク滴にレーザが照射されるまでの時間が60[ms]であり、比較例では500[ms]となる。この場合、既に説明したように、インク滴にレーザを照射すると普通紙の表面近傍に色材が凝集した状態で乾燥することから、比較例に比べて実施例の光学濃度が高くなる。また、インク滴の乾燥の度合いが比較例と実施例とで近づくことから、転写濃度に関して共に同じ値を示したものと考えられる。
そして、発明者らは、普通紙にインク滴を吐出してからインク滴にレーザが照射されるまでの時間を、平均浸透時間×10以内の時間にすれば、インク滴にレーザを照射した方が、レーザを照射しなかった場合に比べて、画像の光学濃度が大きくなる結果を得た。また、この場合、レーザを照射して光学濃度が上昇した画像の転写濃度の度合いは、レーザを照射しなかった場合の転写濃度の度合いと変わらないという結果も得た。
そこで、発明者らは、上記の検討に基づき、レーザを照射して画像を乾燥させる方式に適したインクの成分について検討すると共に、このインクの成分に適したヘッドアレイ30とレーザ乾燥ユニット56の配置の一例を検討した。
図60は、本実施形態におけるインクジェット記録装置12のヘッドアレイ30とレーザ乾燥ユニット56との位置関係を示した図である。
図60に示すように、レーザ乾燥ユニット56は、K色のインクヘッド32のインク吐出口から搬送方向に沿って距離L3だけ離れた位置に配置されている。そして、ヘッドアレイ30内部では、例えば、各色のインクヘッド32が搬送方向に沿って配置され、K色のインクヘッド32のインク吐出口からC色のインクヘッド32のインク吐出口までの距離がL4、C色のインクヘッド32のインク吐出口からM色のインクヘッド32のインク吐出口までの距離がL5、M色のインクヘッド32のインク吐出口からY色のインクヘッド32のインク吐出口までの距離がL6となるように配置されている。具体的には、L3=60[mm]、L4=L5=L6=100[mm]となっている。また、印字速度は100[m/min]である。
表9は、図60に示した構造を有するインクジェット記録装置12に適したK色のインク組成成分の一例であり、表10は、YMC各有彩色のインク組成成分の一例を示したものである。
なお、表9に示したK色のインクの普通紙に対する平均浸透時間は100[ms]である。また、表10に示した有彩色のインクの普通紙に対する平均浸透時間は、表9に比べて浸透剤の質量%を少なくすることで、250[ms]とした。これは、有彩色のインク吐出口の位置が、K色のインク吐出口の位置に比べて、レーザ乾燥ユニット56から搬送方向に沿って遠い位置にあるためである。なお、既に説明したように、各有彩色のインクには赤外線吸収剤が含まれている。
表9及び表10からわかるように、本実施形態で用いられるインクには水溶性有機溶剤が含まれない。これは、既に説明したように、レーザを照射して画像を乾燥させる場合、レーザを照射しない場合と比較してより短時間にインク滴が乾燥するため、インクに水溶性有機溶剤を添加しなくとも、普通紙の表面近傍に色材が凝集して光学濃度が高められるからである。
なお、本実施形態では、普通紙を例として説明を進めたが、普通紙以外の他の用紙、例えばインクジェット専用用紙等であってもよい。この場合、普通紙とは平均浸透時間が異なる(一般に、平均浸透時間が短くなる)ため、図60に示したヘッドアレイ30とレーザ乾燥ユニット56の配置は、平均浸透時間に合わせて修正するようにすればよい。
このように本実施形態では、レーザを照射して画像を乾燥させる方式に適したインクの成分について検討を行い、レーザを照射しない場合と比較して、インクに含まれる色材の質量%を低減しても、画像の光学濃度が指示された値を示すインクの成分について明らかにした。
従って、レーザを照射しない場合に用いられる従来のインクより廉価なインクで、従来のインクと同程度の画像光学濃度を実現する効果が期待される。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
例えば、各実施形態で示された処理をソフトウエア構成によって実現した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ハードウエア構成、又はソフトウエア構成及びハードウエア構成の組み合わせにより実現する形態としてもよい。
この場合の形態例としては、例えば、コンピュータ70と同等の処理を実行する機能デバイスを作成して用いる形態がある。この場合は、上記実施の形態に比較して、処理の高速化が期待される。
なお、各実施形態におけるレーザ乾燥ユニット56をVCSEL56’に置き換えてもよいことは言うまでもない。