以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、各実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について説明すると、本実施形態では、本発明の燃料電池監視装置5を、電気自動車の一種である燃料電池車両に搭載された燃料電池1に適用した例について説明する。
燃料電池1は、反応ガスである水素(燃料ガス)および酸素(酸化剤ガス)の電気化学反応を利用して電気エネルギを出力するものであり、本実施形態では、燃料電池1として固体高分子型燃料電池を採用している。
図1の全体構成図に示すように、燃料電池1は、DC−DCコンバータ2を介して主に車両走行用電動モータや二次電池といった電気負荷(図示略)に電力を供給するように構成されている。本実施形態の燃料電池1は、最小単位となるセル10が複数積層されたスタック構造であり、各セル10を電気的に直列接続した直列接続体として構成されている。
各セル10は、図2の断面図に示すように、電解質膜101の両面に一対の触媒層102a、102bを接合してなる膜電極接合体100、膜電極接合体100の両側に配置された一対の拡散層103a、103b、これらを挟持するセパレータ110で構成されている。
電解質膜101は、含水性を有する炭化フッ素系や炭化水素系等の高分子材料により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。
一対の触媒層102a、102bは、それぞれ電極をなすもので、アノード電極を構成するアノード側触媒層102a、およびカソード電極を構成するカソード側触媒層102bで構成されている。各触媒層102a、102bは、図3の模式図に示すように、触媒作用を発揮する物質(例えば、白金粒子)102c、当該物質102cを担持する担持カーボン102d、担持カーボン102dを被覆するアイオノマー(電解質ポリマー)102eで構成されている。
拡散層103a、103bは、反応ガスを各触媒層102a、102bへ拡散させるもので、ガス透過性および電子伝導性を有する多孔質部材(例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス)で構成されている。
セパレータ110は、例えば、導電性を有するカーボン製の基材で構成されている。各セパレータ110には、アノード側触媒層102aに対向する部位に、燃料ガス(本例では水素)が流れる水素流路111が形成され、カソード側触媒層102bに対向する部位に、酸化剤ガス(本例では空気)が流れる空気流路112が形成されている。
各セル10は、水素および空気が供給されると、以下に示す水素および酸素の電気化学反応により、電気エネルギを出力する。
(アノード側)H2→2H++2e−
(カソード側)2H++1/2O2+2e−→H2O
図1に戻り、燃料電池1は、双方向に電力供給可能なDC−DCコンバータ2を介して、各種電気負荷に電気的に接続されている。DC−DCコンバータ2は、燃料電池1から各種電気負荷、あるいは、各種電気負荷から燃料電池1への電力の流れを制御するものである。
ここで、各セル10における各流路111、112の下流側には、水素と酸素の電気化学反応により生成される水分(生成水)が滞留し易い。各流路111、112に生成水が滞留すると、各触媒層102a、102bへの反応ガスの拡散が阻害されてしまう。
このため、燃料電池1には、セル10内における反応ガスの拡散状態や内部水分量等を監視する燃料電池監視装置5が接続されている。なお、燃料電池監視装置5については後述する。
燃料電池1のカソード側には、酸化剤ガスである空気を燃料電池1に供給する空気供給経路20a、および燃料電池1から排出される未反応空気や電気化学反応により生成された生成水を外部へ排出する空気排出経路20bが接続されている。
空気供給経路20aの最上流部には、大気中から吸入した空気を燃料電池1へ圧送するための空気ポンプ21が設けられている。また、空気排出経路20bには、燃料電池1内の空気の圧力を調整する空気調圧弁23が設けられている。
さらに、空気供給経路20aおよび空気排出経路20bには、空気調圧弁23から流出した空気中の水分を空気ポンプ21から圧送された空気へ移動させるための加湿器22が設けられている。
燃料電池1のアノード側には、燃料ガスである水素を燃料電池1に供給する水素供給経路30a、および燃料電池1から排出される微量の未反応水素および生成水を外部へ排出する水素排出経路30bが接続されている。
水素供給経路30aの最上流部には、高圧水素が充填された水素タンク31が設けられ、その下流側に燃料電池1へ供給する水素の圧力を調整する水素調圧弁32が設けられている。
また、水素排出経路30bには、未反応水素を生成水と共に、外部へ排出するために所定の時間間隔で開閉する電磁弁33が設けられている。なお、セル10内の電気化学反応では、基本的にアノード側では生成水が生じないが、生成水がカソード側からアノード側へ透過することで、アノード側に生成水が溜まることがある。このため、本実施形態では、水素排出経路30bに電磁弁33を設けている。
ところで、燃料電池1は、高い発電効率を発揮させるために、運転中は一定温度(例えば、80℃程度)に維持する必要がある。このため、燃料電池1には、その温度を調整するための冷却水回路40が接続されている。
この冷却水回路40には、燃料電池1内部に冷却水を循環させる循環ポンプ41、電動ファン42を備えるラジエータ43が設けられている。また、冷却水回路40には、ラジエータ43を迂回するように冷却水を流すバイパス流路44が設けられている。そして、冷却水回路40におけるラジエータ43側の流路とバイパス流路44との合流点には、ラジエータ43に流れる冷却水の流量を調整するための流路切替弁45が設けられている。また、冷却水回路40には、燃料電池1に流入させる冷却水の温度Twを検出する温度センサ46が設けられている。
次に、燃料電池監視装置5について説明する。燃料電池監視装置5は、主な構成機器として、電流測定部51、電圧測定部52、信号処理装置53、および制御装置54を備える構成となっている。
まず、電流測定部51、電圧測定部52、および信号処理装置53について図4を用いて説明する。なお、図4では、燃料電池1の内部構造を示すために、燃料電池1を構成するセル10の一部を透視図で示している。
電流測定部51は、セル10に設定された局所部位における出力電流を検出する電流検出手段である。本実施形態の電流測定部51は、燃料電池1におけるセル積層方向の中段部に位置する所定のセル10に隣接して配置された測定板511、測定板511におけるセル10の局所部位に対応する位置に設けられて、局所部位に流れる電流を検出する電流センサ512で構成されている。なお、電流センサ512としては、シャント抵抗を用いたセンサやホール素子を用いたセンサ等を採用することができる。
また、電流測定部51は、燃料電池1におけるセル積層方向の中段部に限らず、セル積層方向の端部側の積層端部に配設してもよい。なお、本実施形態では、燃料電池1におけるセル積層方向の両端付近の部位(セル群)が「積層端部」を構成し、燃料電池1における「積層端部」を構成する部位を除いた中段付近の部位(セル群)が「中段部」を構成している。
電圧測定部52は、セル10から出力される出力電圧を検出する電圧検出手段である。本実施形態の電圧測定部52は、セル積層方向の中段部および積層端部のうち、中段部に位置するセル10の出力電圧を検出するように構成されている。なお、電流測定部51、および電圧測定部52は、それぞれ信号処理装置53に接続されており、電流測定部51、および電圧測定部52からの各出力信号が信号処理装置53に入力される。
信号処理装置53は、各種入力信号に基づいて、制御処理や演算処理を実行するものであり、CPU、記憶手段を構成する各種メモリ530等からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。
本実施形態の信号処理装置53は、信号重畳部531、インピーダンス算出部532、第1水分量推定部533、温度算出部534、および第2水分量推定部535といった構成(ソフトウェアおよびハードウェア)を備えている。
信号重畳部531は、DC−DCコンバータ2を介して燃料電池1に接続され、図5に示すように、燃料電池1の出力電流(直流成分I)に対して所定周波数の交流信号(交流成分ΔI)を重畳させる信号重畳手段である。
本実施形態の信号重畳部531は、高周波数(例えば、1kHz)の交流信号、および低周波数(例えば、20Hz)の交流信号といった異なる周波数の交流信号を、燃料電池1の出力電流に重畳するように構成されている。なお、信号重畳部531にて重畳する各交流信号は、燃料電池1の発電状態への影響を考慮して、燃料電池1の出力電流の10%以内とすることが望ましいが、燃料電池1の発電状態に応じて変更するようにしてもよい。
インピーダンス算出部532は、信号重畳部531にて燃料電池1の出力電流に各交流信号を重畳した際の電流測定部51の検出電流、および電圧測定部52の検出電圧から異なる周波数毎のインピーダンスを算出するインピーダンス算出手段を構成している。
本実施形態では、電圧測定部52にてセル積層方向の中段部に位置するセル10の出力電圧を測定する構成としていることから、インピーダンス算出部532では、セル積層方向の中段部に位置するセル10のインピーダンスを算出することになる。なお、本実施形態のインピーダンス算出部532は、例えば、高速フーリエ変換処理等によって、異なる周波数毎のインピーダンスの絶対値および位相角を算出するように構成されている。
第1水分量推定部533は、インピーダンス算出部532にて算出された異なる周波数毎のインピーダンスに基づいて、セル積層方向の中段部に位置するセル10の内部水分量を第1内部水分量として推定するもので、「第1水分量推定手段」を構成している。
ここで、燃料電池1の内部水分量は、その内部における反応ガスの拡散の困難性を示すガス拡散抵抗と相関性があり、当該ガス拡散抵抗に基づいて推定することが考えられる。本発明者らの調査によれば、燃料電池1の内部水分量は、ガス拡散抵抗のうち、燃料電池1内部のフラディングに依拠して変化する拡散特性を示す第1拡散抵抗Rwetと相関性があることが判っている。
そこで、第1水分量推定部533では、インピーダンス算出部532にて算出された異なる周波数毎のインピーダンスから第1拡散抵抗Rwetを算出した後、当該第1拡散抵抗Rwetに基づいて、中段部に位置するセル10の内部水分量を推定する。
本実施形態の第1水分量推定部533は、図6に示すように、抵抗算出部533a、限界電流密度算出部533b、ガス拡散抵抗算出部533c、第2拡散抵抗算出部533d、第1拡散抵抗算出部533e、および水分量算出部533fといった演算部を備えている。
抵抗算出部533aは、インピーダンス算出部532にて算出した異なる周波数毎のインピーダンスに基づいて、プロトン移動抵抗Rmem、およびガス反応抵抗Rctそれぞれを算出する演算部である。なお、プロトン移動抵抗Rmemは、電解質膜101の乾燥に伴って増大する抵抗過電圧を抵抗換算した成分であり、ガス反応抵抗Rctは、活性化過電圧および濃度過電圧を抵抗換算した成分である。
本実施形態の抵抗算出部533aは、異なる周波数のうち、高い方の周波数に対応する高周波インピーダンスからプロトン移動抵抗Rmemを算出する。また、異なる周波数のうち、低い方の周波数に対応する低周波インピーダンスの絶対値、および位相角、およびプロトン移動抵抗Rmemを用いて、ガス反応抵抗Rctを算出する。
以下、本実施形態における燃料電池1のプロトン移動抵抗Rmem、およびガス反応抵抗Rctの算出手法について図7および図8を用いて説明する。なお、図7および図8は、周波数を低周波から高周波に変化させた際のインピーダンスを複素平面上に示した特性図(コールコールプロット図)である。
本実施形態では、図7および図8に示すように、高周波数fHにおけるインピーダンスの実軸の値がプロトン移動抵抗Rmemに相当し、円弧状のインピーダンスの軌跡と実軸とが交わる2つの交点間の値がガス反応抵抗Rctに相当するものとしている。
プロトン移動抵抗Rmemについては、高周波数fHにおけるインピーダンスの絶対値R1および位相θ1を、以下の数式F1に適用して算出する。
Rmem=R1cosθ1…(F1)
また、異なる周波数fL、fHにおけるインピーダンスの絶対値R1、R2、および位相θ2を、以下の数式F2、F3に適用して、低周波数fLにおけるインピーダンス中のガス反応抵抗Rctの特性を示す成分を算出する。
φ=tan−1[(R2sinθ2)/{(R2cosθ2)−Rmem}]…(F2)
A=(R2sinθ2)/(R2sinφ)…(F3)
そして、前述の数式F2、F3により得られたφ、およびAを、以下の数式F4に適用して、ガス反応抵抗Rctを算出する。
Rct=A/cosφ…(F4)
図6に戻り、限界電流密度算出部533bは、燃料電池1の発電時における限界電流密度Ilimを算出する演算部である。本実施形態の限界電流密度算出部533bは、ガス反応抵抗Rct、およびセル10に生ずる濃度過電圧ηc等から限界電流密度Ilimを算出する。なお、限界電流密度算出部533bは、理論起電圧Eoから、セル10の出力電圧(制御電圧)E、活性化電圧、および抵抗過電圧を引いた残りを濃度過電圧ηcとして算出する。
具体的には、本実施形態では、限界電流密度Ilimを、例えば、以下の数式F5〜F9により算出する。
Ilim={eβ/(eβ−1)}I…(F5)
β=(ηcnF)/(2RT)…(F6)
ηc=Eo−E−ηa−ηR…(F7)
ηa={(RT)/(2αF)}ln(I/Io)…(F8)
ηR=IRmem…(F9)
但し、数式F5〜F9における「F」はファラデー定数、「R」は気体定数、「T」は温度、「n」は定数を示している。また、「I」は電流密度、「Io」は交換電流密度、「E」は制御電圧、「Eo」は理論起電圧を示している。また、「ηc」は濃度過電圧、「ηa」は活性化過電圧、「ηR」は抵抗過電圧を示し、「α」は電荷移動係数(定数)を示している。
ガス拡散抵抗算出部533cは、セパレータ110の各流路111、112を流通する反応ガスの触媒層102a、102bへの拡散の困難性を示すパラメータ(単位:s/m)であるガス拡散抵抗Rtotalを測定する演算部である。なお、ガス拡散抵抗Rtotalは、フラッディング(内部水分量が過剰となる状態)に依拠して変化する拡散特性を示す第1拡散抵抗Rwet、およびドライアップ(内部水分量が不足した状態)に依拠して変化する拡散特性を示す第2拡散抵抗Rdryが含まれている(Rtotal=Rwet+Rdry)。
本実施形態のガス拡散抵抗算出部533cは、予めガス拡散抵抗Rtotalと限界電流密度Ilimおよびガス反応抵抗Rctとの相関特性を関数にモデル化し、当該相関特性をモデル化した関数に基づいて、ガス拡散抵抗Rtotalを算出する。
具体的には、本実施形態のガス拡散抵抗算出部533cは、限界電流密度Ilimおよびガス反応抵抗Rctを、以下の数式F10に適用してガス拡散抵抗Rtotalを算出する。
Rtotal=ρ(Ilim/Rct)ξ…(F10)
ここで、数式F10は、予めガス拡散抵抗Rtotal、限界電流密度Ilim、およびガス反応抵抗Rctの相関特性をモデル化した数式の一例である。なお、数式F10は、ガス反応抵抗Rct、および限界電流密度Ilimそれぞれをガス拡散抵抗Rtotalおよび反応ガスのガス濃度を変数とする関数として定義し、各関数から反応ガスのガス濃度に関する項を除去することで導出することができる。
但し、数式F10中のρおよびξは、セル10内の反応ガスのガス濃度を変化させた際の限界電流密度により予め測定しておいたガス拡散抵抗の実測値と、ガス反応抵抗Rct、および限界電流密度Ilimから算出するガス拡散抵抗の推定値とをフィッティングして設定するパラメータ(定数)である。
第2拡散抵抗算出部533dは、抵抗算出部533aにて算出したプロトン移動抵抗Rmemから燃料電池1内部のドライアップに依拠して変化する拡散特性を示す第2拡散抵抗Rdryを算出する演算部である。
この第2拡散抵抗Rdryは、プロトン移動抵抗Rmemと同様に、燃料電池1内部の湿度RHの低下に応じて増大する特性を有する。なお、プロトン移動抵抗Rmemは、以下の数式F11に示すように、燃料電池1内の湿度RHに相関性を有し、第2拡散抵抗Rdryは、以下の数式F12に示すように、燃料電池1内の湿度RHに相関性を有する拡散係数Ddryの逆数に比例する。
RH∝B(Rmem)C…(F11)
Rdry∝D(σ/Ddry)…(F12)
但し、数式F11中の「B」および「C」は定数を示している。また、数式F12中の「D」は定数、「σ」は拡散層103a、103bの厚みを示している。
本実施形態の第2拡散抵抗算出部533dは、まず、メモリ530に予め記憶されたプロトン移動抵抗Rmemと燃料電池1内の湿度RHとの相関関係を規定した制御マップを用いて、プロトン移動抵抗Rmemから燃料電池1内の湿度RHを算出する。
そして、第2拡散抵抗算出部533dは、メモリ530に予め記憶された燃料電池1内の湿度RHと拡散係数Ddryとの相関関係を規定した制御マップ、および数式F12を用いて、先に算出した燃料電池1内の湿度RHから第2拡散抵抗Rdryを算出する。
第1拡散抵抗算出部533eは、ガス拡散抵抗Rtotalから第2拡散抵抗Rdryを除去して、燃料電池1内部のフラディングに依拠して変化する拡散特性を示す第1拡散抵抗Rwetを算出する演算部である。
本実施形態の第1拡散抵抗算出部533eは、ガス拡散抵抗算出部533cにて算出したガス拡散抵抗Rtotalから第2拡散抵抗算出部533dで算出した第2拡散抵抗Rdryを減算した値を第1拡散抵抗Rwet(=Rtotal−Rdry)として算出する。
水分量算出部533fは、第1拡散抵抗算出部533eにて算出した第1拡散抵抗Rwetを、セル積層方向の中段部に位置するセル10の内部水分量に換算するものである。なお、水分量算出部533fは、算出した内部水分量を第1内部水分量W1としてメモリ530に記憶する。
本実施形態の水分量算出部533fでは、図9に示すセル10の第1拡散抵抗Rwetが変化した際のセル10内部における水分量の測定結果から求めた以下の近似式F13に、第1拡散抵抗Rwetを適用して内部水分量Wを算出する。
W=10−8Rwet 4−10−7Rwet 3−10−5Rwet 2+7×Rwet −4…(F13)
図6に戻り、温度算出部534は、燃料電池1におけるセル積層方向の温度分布を算出する演算部である。なお、本実施形態では、温度算出部534が「温度算出手段」を構成している。
ここで、図10は、燃料電池1の発電時におけるセル積層方向の温度、1セル当りの内部水分量、圧力損失、反応ガスのガス流量(1セル当り)を実際に測定した測定結果を示している。
図10に示すように、燃料電池1の発電時には、セル積層方向の中段部の温度T1が比較的安定した温度となるのに対して、セル積層方向の積層端部の温度T2が中段部に比べて低温となる傾向がある。理由としては、セル積層方向の積層端部は、中段部に比べて外部に露出する部位の面積が大きく、外気温の影響を受け易いことが挙げられる。
そこで、本実施形態の温度算出部534は、燃料電池1における温度分布が生じ易いセル積層方の中段部、および積層端部それぞれの温度T1、T2を算出するように構成されている。
本実施形態の温度算出部534では、燃料電池1における放熱量、および燃料電池1における発熱量を計算し、その計算結果に基づいて、燃料電池1におけるセル積層方向の中段部の温度T1、および積層端部の温度T2それぞれを算出する。なお、温度算出部534における中段部の温度T1、および積層端部の温度T2の具体的な算出方法については後述する。
第2水分量推定部535は、セル積層方向の積層端部に位置するセル10の内部水分量を第2内部水分量として推定する演算部である。なお、本実施形態では、第2水分量推定部535が「第2水分量推定手段」を構成している。
ここで、本発明者らの調査によれば、燃料電池1における1セル当たりの内部水分量は、燃料電池1におけるセル積層方向の温度分布に相関性があることが判っている。具体的には、図10に示すように、比較的安定した温度となるセル積層方向の中段部に位置するセル10の内部水分量W1が少ないのに対して、中段部に比べて低温となるセル積層方向の積層端部に位置するセル10の内部水分量W2が、中段部に比べて多くなる傾向がある。
この理由としては、燃料電池1におけるセル積層方向の積層端部に位置するセル10では、セル積層方向の中段部に比べて低温となることで、反応ガス中の水蒸気が凝縮し易いことが考えられる。
そこで、本実施形態の第2水分量推定部535では、第1水分量推定部533の推定結果、および温度算出部534の算出結果に基づいて、セル積層方向の積層端部に位置するセル10の内部水分量を「第2内部水分量」として推定する。なお、第2水分量推定部535における第2内部水分量の具体的な推定方法については後述する。
図1に戻り、燃料電池監視装置5の制御装置54について説明する。制御装置54は、各種入力信号に基づいて、制御処理や演算処理を実行するものであり、CPU、記憶手段を構成する各種メモリ54a等からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。
本実施形態の制御装置54の入力側には、信号処理装置53等が接続されており、各入力機器から出力信号が入力される。また、制御装置54の出力側には、DC−DCコンバータ2、空気ポンプ21、循環ポンプ41、空気調圧弁23、水素調圧弁32、電磁弁33といった各種制御機器が接続されており、これら制御機器が制御装置54からの制御信号により制御される。
本実施形態の制御装置54は、各種制御機器を制御することで、燃料電池1にて出力する電力を調整する電力調整処理、燃料電池1の内部水分量を調整する水分量調整処理、燃料電池1へ供給する冷却水の温度や流量を調整する冷却水調整処理を実行する。
なお、本実施形態では、制御装置54における電力調整処理を実行する構成が電力調整手段54bを構成し、制御装置54における水分量調整処理を実行する構成が水分量制御手段54cを構成している。また、本実施形態では、制御装置54における冷却水調整処理を実行する構成が冷却水調整手段54eを構成している。
次に、本実施形態の燃料電池監視装置5における燃料電池1の内部水分量の監視について、図11のフローチャートを用いて説明する。なお、図11に示す制御ルーチンは、信号処理装置53および制御装置54が実行する処理をまとめたもので、燃料電池1の発電状態において周期的に実行される。
図11に示すように、まず、燃料電池1におけるセル積層方向の中段部に位置するセル10の内部水分量を第1内部水分量W1として推定する(S10)。このステップS10の処理については、図12に示すフローチャートを用いて説明する。
図12に示すように、まず、信号処理装置53の信号重畳部531にて、DC−DCコンバータ2を介して、燃料電池1の出力電流に予め定めた高周波数の交流信号および低周波数の交流信号を重畳する(S100)。
続いて、信号重畳部531にて交流信号を付加した際の電流測定部51、および電圧測定部52の出力信号(検出値)を読み込む(S110)。そして、信号処理装置53のインピーダンス算出部532にて、異なる周波数それぞれに対応するインピーダンスを算出する(S120)。
続いて、信号処理装置53の第1水分量推定部533にて、セル積層方向の中段部に位置するセル10における第1拡散抵抗Rwetを算出する(S130)。このステップS130の処理の詳細については、図13のフローチャートを用いて説明する。
図13に示すように、まず、第1水分量推定部533の抵抗算出部533aにて、セル積層方向の中段部に位置するセル10のプロトン移動抵抗Rmemおよびガス反応抵抗Rctを算出する(S131)。そして、限界電流密度算出部533bにて、限界電流密度Ilimを算出する(S132)。
そして、第1水分量推定部533のガス拡散抵抗算出部533cにて、ガス反応抵抗Rctおよび限界電流密度Ilimに基づいて、セル積層方向の中段部に位置するセル10のガス拡散抵抗Rtotalを算出する(S133)。また、第1水分量推定部533の第2拡散抵抗算出部533dにて、セル積層方向の中段部に位置するセル10の第2拡散抵抗Rdryを算出する(S134)。
次に、ステップS133で算出したガス拡散抵抗RtotalからステップS134で算出した第2拡散抵抗Rdryを除去して、セル積層方向の中段部に位置するセル10の第1拡散抵抗Rwetを算出する(S135)。
図12に戻り、第1拡散抵抗Rwetの測定処理が完了すると、第1水分量推定部533の水分量算出部533fにて、第1拡散抵抗Rwetからセル積層方向の中段部に位置するセル10の内部水分量を第1内部水分量W1として算出する(S140)。なお、本実施形態の第1水分量推定部533では、算出した第1内部水分量W1をメモリ530に記憶する。
図11に戻り、信号処理装置53の温度算出部534にて、燃料電池1におけるセル積層方向の中段部の温度T1、および積層端部の温度T2を算出する(S20)。このステップS20の処理については、図14に示すフローチャートを用いて説明する。
図14に示すように、まず、冷却水の温度、冷却水の流量、燃料電池1周囲の温度(外気温)、燃料電池1の発電時に出力される電力(出力電流、制御電圧)等の各種信号を読み込む(S200)。なお、冷却水の流量Gwについては、冷却水回路40に設けられた循環ポンプ41の回転数から推定し、燃料電池1の発電時に出力される電力については、DC−DCコンバータ2にて検出する。
続いて、冷却水の温度Tw、流量Gw、外気温に基づいて、燃料電池1全体における放熱量Q1を算出する(S210)。このステップS210では、予め冷却水の温度Tw、流量Gw、外気温と、放熱量Q1との相関関係を規定した制御マップを参照して、燃料電池1全体における放熱量Q1を算出する。
また、燃料電池1の発電時に出力される電電力(出力電流、制御電圧)に基づいて、燃料電池1全体の発熱量Q1を算出する(S220)。このステップS220では、予め燃料電池1の発電時に出力される電力と、発熱量Q2との相関関係を規定した制御マップを参照して、燃料電池1全体における発熱量Q2を算出する。
続いて、ステップS210で算出した放熱量Q1、ステップS220で算出した発熱量Q2に基づいて、中段部の温度T1を算出する(S230)。具体的には、ステップS230では、図15に示す燃料電池1における放熱量Q1、発熱量Q2と中段部の温度T1との相関関係を規定した制御マップを参照して、中段部の温度T1を算出する。
また、ステップS210で算出した放熱量Q1、ステップS220で算出した発熱量Q2に基づいて、積層端部の温度T2を算出する(S240)。具体的には、ステップS240では、図16に示す燃料電池1における放熱量Q1、発熱量Q2と積層端部の温度T2との相関関係を規定した制御マップを参照して、積層端部の温度T2を算出する。
なお、燃料電池1におけるセル積層方向の積層端部の温度T2は、中段部の温度T1に比べて、放熱量Q2の増大に伴う低下率が大きくなる傾向がある。このため、図16に示す制御マップは、図15に示す制御マップに比べて、放熱量Q2の増加に対する温度の低下率(傾き)が大きくなるように設定されている。
図11に戻り、信号処理装置53の第2水分量推定部535にて、燃料電池1におけるセル積層方向の積層端部に位置するセル10の内部水分量を第2内部水分量W2として推定する(S30)。このステップS30の処理については、図17に示すフローチャートを用いて説明する。
図17に示すように、まず、ステップS20にて算出した燃料電池1におけるセル積層方向の中段部の温度T1から、中段部の飽和水蒸気圧h1を算出する(S300)。なお、ステップS300では、予め反応ガスの温度と飽和水蒸気圧との関係(飽和水蒸気圧特性)を規定した制御マップやTetensの公式等を参照して、中段部の飽和水蒸気圧h1を算出する。
続いて、ステップS20にて算出した燃料電池1におけるセル積層方向の積層端部の温度T2から、積層端部の飽和水蒸気圧h2を算出する(S310)。なお、ステップS310では、予め反応ガスの温度と飽和水蒸気圧との関係(飽和水蒸気圧特性)を規定した制御マップやTetensの公式等を参照して、積層端部の飽和水蒸気圧h2を算出する。
そして、燃料電池1におけるセル積層方向の積層端部の飽和水蒸気圧h2から中段部の飽和水蒸気圧h1を減算して、積層端部および中段部の飽和水蒸気圧の差分Δh(=h2−h1)を算出する(S320)。
続いて、ステップS10にて算出した第1内部水分量W1、およびステップS320にて算出した積層端部および中段部の飽和水蒸気圧の差分Δhからセル積層方向の積層端部に位置するセル10の内部水分量を第2内部水分量W2として算出する(S330)。
具体的には、ステップS330では、積層端部および中段部の飽和水蒸気圧の差分Δhから中段部および積層端部における内部水分量の差分ΔWを算出し、この差分ΔWを第1内部水分量W1に加算することで、第2内部水分量を算出する。この際、中段部および積層端部における内部水分量の差分ΔWについては、予め飽和水蒸気圧の差分Δhと内部水分量の差分ΔWとの相関関係を規定した制御マップを参照して算出する。なお、本実施形態の第2水分量推定部535では、算出した第2内部水分量W2をメモリ530に記憶する。
図11に戻り、燃料電池1におけるセル積層方向の積層端部を流れる反応ガス(本実施形態では、酸化剤ガス)のガス流量V2を算出する(S40)。なお、本実施形態では、積層端部に位置するセル10内部を流れる反応ガスのガス流量V2を推定する処理(S40)がガス流量推定手段を構成している。
このステップS40の処理については、図18に示すフローチャートを用いて説明する。図18に示すように、まず、ステップS10で算出した第1内部水分量W1から燃料電池1におけるセル積層方向の中段部に位置するセル10内部の圧力損失P1を算出する(S400)。ステップS400では、中段部に位置するセル10内部の圧力損失P1として、湿潤状態における圧力損失と乾燥状態における圧力損失の比であるWet/Dry圧損比を算出する。このWet/Dry圧損比は、図19に示すように、内部水分量と相関性を有していることから、ステップS400では、予めWet/Dry圧損比と内部水分量との関係を規定した制御マップを参照して、中段部に位置するセル10内部の圧力損失P1を算出する。
続いて、ステップS30で算出した第2内部水分量W2から燃料電池1におけるセル積層方向の積層端部に位置するセル10内部の圧力損失P2を算出する(S410)。ステップS410では、積層端部に位置するセル10内部の圧力損失P2として、湿潤状態における圧力損失と乾燥状態における圧力損失の比であるWet/Dry圧損比を算出する。なお、ステップS410では、予めWet/Dry圧損比と内部水分量との関係を規定した制御マップを参照して、積層端部に位置するセル10内部の圧力損失P2を算出する。
続いて、燃料電池1におけるセル積層方向の積層端部の圧力損失P2から中段部の圧力損失P1を減算して、積層端部および中段部の圧力損失の差分ΔP(=P2−P1)を算出する(S420)。
そして、燃料電池1への反応ガス(本実施形態では、酸化剤ガス)の供給量Vを算出する(S430)。なお、燃料電池1への反応ガスの供給量Vは、空気ポンプ21の回転数および空気調圧弁23の絞り開度により変化する。このため、本実施形態では、空気ポンプ21の回転数および空気調圧弁23の絞り開度から逆算して、燃料電池1への反応ガスの供給量Vを算出する。
ここで、図10や図20に示すように、燃料電池1では、圧力損失(Wet/Dry圧損比)が大きくなるに伴い、反応ガスのガス流量が低下する。具体的には、積層端部では中段部に比べて圧力損失が大きいことから、積層端部に流れる反応ガスのガス流量V2が燃料電池1への反応ガスの供給量Vに対して低下する。
そこで、燃料電池1への反応ガスの供給量V、および積層端部および中段部の圧力損失の差分ΔPから、積層端部に位置するセル10に流れる反応ガスのガス流量V2を算出する(S440)。なお、ステップS440では、燃料電池1への反応ガスの供給量Vから、積層端部および中段部の圧力損失の差分ΔPをガス流量に換算した値を減算して、積層端部に位置するセル10に流れる反応ガスのガス流量V2を算出する。
図11に戻り、積層端部に位置するセル10のガス流量V2が予め定めた基準ガス流量Vthよりも大きいか否かを判定する(S50)。なお、基準ガス流量Vthは、積層端部に位置するセル10の内部水分量が過剰となった際のガス流量に設定されている。
ステップS50の判定処理の結果、積層端部に位置するセル10のガス流量V2が基準ガス流量Vthよりも大きいと判定された場合、積層端部に位置するセル10の内部水分量が過剰となっていないと判断できるので、異常がないとして処理を終える。
一方、ステップS50の判定処理の結果、積層端部に位置するセル10のガス流量V2が基準ガス流量Vth以下と判定された場合、積層端部に位置するセル10の内部水分量が過剰となっていると判断できるので、水分量調整処理を実行して(S60)、再びステップS10に戻る。
ここで、本実施形態の水分量調整処理は、積層端部に位置するセル10の内部水分量を減少させる処理である。本実施形態の水分量調整処理は、例えば、空気ポンプ21および各調圧弁23を制御して、反応ガス(本実施形態では、酸化剤ガス)の供給圧力を低下さると共に供給量を増加させる。これにより、燃料電池1内部に存する余剰な水分が外部へ排出され易くなることで、積層端部に位置するセル10の内部水分量を減少させることができる。
以上説明した本実施形態の燃料電池監視装置5では、燃料電池1における中段部に位置するセル10の内部水分量の推定値(第1内部水分量)、および中段部と積層端部の温度から、積層端部に位置するセル10の内部水分量(第2内部水分量)を推定する構成としている。
これによれば、燃料電池1におけるセル積層方向の中段部に位置するセル10のインピーダンスを算出するだけでよいので、インピーダンスを算出するための構成機器が増加することがない。従って、本実施形態の燃料電池監視装置5、インピーダンスを算出するための構成機器の肥大化を抑制しつつ、セル積層方向における燃料電池1の内部水分量のばらつきを把握することができる。
また、本実施形態の燃料電池監視装置5では、燃料電池1における放熱量Q1および発熱量Q2から積層端部および中段部それぞれの温度を計算により算出する構成としている。これによれば、積層端部および中段部それぞれの温度を検知する専用の検知手段が不要となるため、燃料電池監視装置5の装置構成のさらなる簡素化を図ることができる。
さらに、本実施形態の燃料電池監視装置5は、制御装置54にて、燃料電池1の内部水分量を調整する水分量調整処理を実行する構成としている。これによれば、燃料電池1の内部水分量を適正量に維持することができるので、燃料電池1を出力のバラツキを抑制して、燃料電池1を効率良く運転させることが可能となり、燃料電池1の燃費向上を図ることができる。
さらにまた、本実施形態の燃料電池監視装置5は、ガス拡散抵抗Rtotalから第2拡散抵抗Rdryを除去することで、第1拡散抵抗Rwetを算出する構成としている。これにより、燃料電池1内部のフラディングに依拠して変化する拡散特性を第1拡散抵抗Rwetとして定量化して測定することができる。この結果、燃料電池内部の水分量が過剰となるような状態をより的確に把握することが可能となる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。なお、本実施形態では、第1実施形態と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
本実施形態の燃料電池監視装置5は、水分量調整処理に加えて、燃料電池1におけるセル積層方向の積層端部の温度および中段部の温度の温度差を縮小させる温度調整処理を実行する構成としている。
本実施形態の制御装置54は、燃料電池1にて出力する電力を調整すると共に、燃料電池1へ供給する冷却水の温度や流量を調整することで、燃料電池1におけるセル積層方向の積層端部の温度および中段部の温度の温度差を縮小する。なお、本実施形態では、制御装置54における温度調整処理を実行する構成(電力調整手段54bおよび冷却水調整手段54e)が「温度制御手段」を構成している。
本実施形態の制御装置54が実行する温度調整処理については、図21に示すフローチャートを用いて説明する。図21に示す制御ルーチンは、信号処理装置53および制御装置54が実行する処理をまとめたもので、第1実施形態で説明した「水分量調整処理」と制御干渉が生じないように、燃料電池1の発電が抑制される発電抑制状態(アイドリング状態)において周期的に実行される。
図21に示すように、まず、燃料電池1におけるセル積層方向の中段部および積層端部の温度差ΔTを算出する(S70)。このステップS70では、図11のステップS20の処理と同様手法により、中段部の温度T1および積層端部の温度T2を算出した後、中段部の温度T1から積層端部の温度T2を減算した値を温度差ΔT(=T1−T2)として算出する。
続いて、中段部および積層端部の温度差ΔTが、予め定めた基準温度差ΔTth(例えば、5℃〜10℃)より小さいか否かを判定する(S80)。この結果、中段部および積層端部の温度差ΔTが、基準温度差ΔTthよりも小さいと判定された場合、異常がないとして処理を終える。
一方、ステップS80の判定処理の結果、中段部および積層端部の温度差ΔTが、基準温度差ΔTth以上と判定された場合、温度調整処理を実行して(S90)、再びステップS70に戻る。
温度調整処理では、燃料電池1の発熱量を増大させる昇温促進処理、および燃料電池1を冷却する冷却水の外部への放熱量を減少させた状態で燃料電池1内部における冷却水の循環量を増大させる伝熱促進処理を実行する。さらに、本実施形態の温度調整処理では、前述の昇温促進処理および伝熱促進処理を実行した後、積層端部の温度T2が予め設定された目標温度Toに維持されるように冷却水の循環量を調整する温度維持処理を実行する。なお、本実施形態の温度調整処理の具体的な内容について、図22に示すフローチャートを用いて説明する。
図22に示すように、制御装置54は、まず、燃料電池1に接続された二次電池の蓄電残量(SOC)や、冷却水の温度Tw、燃料電池1の負荷電流(出力電流)といった各種状態を読み込む(S900)。
続いて、制御装置54は、燃料電池1の発熱量を増大させる昇温促進処理を実行する(S910)。この昇温促進処理では、燃料電池1をアイドリング状態から所定電流を出力する発電状態に移行すると共に、燃料電池1へ供給する反応ガス(酸化剤ガス)の供給量を低下させることで、意図的にエネルギ損失を発生させて燃料電池1を昇温させる。なお、昇温促進処理の際に燃料電池1で生ずる電気エネルギは、二次電池に蓄えるようにすればよい。この際、燃料電池1を発電状態に移行させる際の所定電流の電流値、および発電状態に維持する期間は、二次電池の蓄電残量が所定容量(例えば90%)を超えないように設定することが望ましい。
また、制御装置54は、燃料電池1を冷却する冷却水の外部への放熱量を減少させた状態で燃料電池1内部における冷却水の循環量を増大させる伝熱促進処理を実行する(S920)。
この伝熱促進処理では、冷却水回路40を流路切替弁45によって冷却水がラジエータ43を迂回してバイパス流路44に流れる回路構成に設定し、燃料電池1を冷却する冷却水の外部への放熱量を減少させる。この状態で、循環ポンプ41の回転数を高くして、燃料電池1内部における冷却水の循環量を増大させる。これにより、燃料電池1の高温となる中段部で昇温した冷却水が、燃料電池1の低温となる積層端部で放熱することで、積層端部と中段部との温度差が縮小する。なお、伝熱促進処理では、電動ファン42を停止して燃料電池1を冷却する冷却水の外部への放熱量を減少させるようにしてもよい。
続いて、燃料電池1におけるセル積層方向の積層端部の温度T2を算出し(S930)、当該積層端部の温度T2が、予め定めた目標温度Toよりも高くなったか否かを判定する(S940)。なお、積層端部の温度T2は、図11のステップS20の処理と同様手法により算出すればよい。
ステップS940の判定処理の結果、積層端部の温度T2が目標温度Toよりも高くなっていないと判定された場合、ステップS900に戻り、昇温促進処理および伝熱促進処理を継続する。
一方、積層端部の温度T2が目標温度Toよりも高くなっていると判定された場合、昇温促進処理および伝熱促進処理を停止して、積層端部の温度T2を目標温度Toに維持する温度維持処理を実行する(S960)。この温度維持処理では、積層端部の温度T2が目標温度Toに維持されるように、冷却水の循環流量を循環ポンプ41で制御すると共に、ラジエータ43へ流入させる冷却水の流量を流路切替弁45で制御する。
以上説明した本実施形態の燃料電池監視装置5では、燃料電池1におけるセル積層方向に温度分布が生じた際に、前述の温度調整処理(S90)を実行する構成としている。これによれば、燃料電池1における温度分布を均一化させることができる。
なお、本実施形態の如く、温度調整処理として、昇温促進処理(S910)および伝熱促進処理(S920)の実行後に、温度維持処理(S950)を実行することが望ましいが、これに限定されず、温度維持処理を省略してもよい。
また、図22に示すフローチャートでは、昇温促進処理(S910)の実行後に伝熱促進処理(S920)を実行する流れとなっているが、これに限定されず、例えば、昇温促進処理(S910)および伝熱促進処理(S920)を同時実行してもよい。
さらに、伝熱促進処理(S920)の実行時には、循環ポンプ41の作動に伴う騒音を抑制するために、騒音を考慮して定めた上限回転数以下の範囲内で、循環ポンプ41の回転数を増加させることが望ましい。
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。例えば、以下のように種々変形可能である。
(1)上述の各実施形態では、セル積層方向の中段部(一方の部位)に位置するセル10の内部水分量を第1内部水分量として推定し、セル積層方向の積層端部(他方の部位)に位置するセル10の内部水分量を第2内部水分量として推定する例について説明したが、これに限定されない。
例えば、セル積層方向の積層端部に位置するセル10の内部水分量を第1内部水分量として推定し、当該第1内部水分量を用いて、セル積層方向の中段部に位置するセル10の内部水分量を第2内部水分量として推定するようにしてもよい。この場合、電圧測定部52にてセル積層方向の積層端部に位置するセル10の出力電圧を検出するように変更し、インピーダンス算出部532にて、セル積層方向の積層端部に位置するセル10のインピーダンスを測定すればよい。
(2)上述の各実施形態の如く、燃料電池監視装置5の装置構成の簡素化を図る上では、セル積層方向の積層端部および中段部の温度を温度算出部534にて算出することが望ましいが、これに限定されない。例えば、セル積層方向の積層端部および中段部それぞれに温度センサ(温度算出手段)を配置し、当該温度センサによりセル積層方向の積層端部および中段部の温度を算出してもよい。
(3)上述の各実施形態では、インピーダンス算出部532にて算出されたインピーダンスから第1拡散抵抗Rwetを算出し、当該第1拡散抵抗Rwetに基づいて、中段部に位置するセル10の内部水分量を推定する例について説明したが、これに限定されない。例えば、インピーダンス算出部532にて算出されたインピーダンスからガス拡散抵抗Rtotalを算出し、当該ガス拡散抵抗Rtotalに基づいて、中段部に位置するセル10の内部水分量を推定するようにしてもよい。
(4)上述の第1実施形態では、セル積層方向の積層端部に位置するセル10のガス流量V2が基準ガス流量以下となった際に、水分量調整処理(S60)を実行する例について説明したが、これに限定されない。例えば、セル積層方向の積層端部に位置するセル10の内部水分量W2が基準水分量以下となった際に、水分量調整処理(S60)を実行するようにしてもよい。
(5)上述の各実施形態では、セル10の局所部位を流れる電流を検出する電流測定部51を電流検出手段として用いる例について説明したが、これに限らず、例えば、燃料電池1全体の出力電流を検出する電流センサを電流検出手段として用いてもよい。
また、電流測定部51は、セル10内部に配置するようにしてもよい。これによれば、電流測定部51の配置に伴って燃料電池1のセル積層方向の体格が大きくなってしまうことを抑制できる。
(6)上述の各実施形態では、セル積層方向の中段部に位置するセル10に接続された電圧測定部(電圧検出手段)52により、セル積層方向の中段部に位置するセル10の出力電圧を検出する例について説明したが、これに限定されない。
セル積層方向の中段部に位置するセル10の出力電圧は、燃料電池1全体の出力電圧の平均値と殆ど同様の値となる。このため、電圧測定部(電圧検出手段)52として、燃料電池1全体の出力電圧を検出し、検出した電圧値をセル数で割った値を、セル積層方向の中段部に位置するセル10の出力電圧として出力するものを採用してもよい。
(7)上述の実施形態の如く、燃料電池1を効率よく運転させるためには、燃料電池監視装置5にて水分量調整処理を実行することが望ましいが、これに限定されず、例えば、その旨を乗員等に対して報知するようにしてもよい。
(8)上述の各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
(9)上述の各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
(10)上述の各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。