図1に示すように、以下に説明する空調制御装置2は、第1の取得部21と第2の取得部22と判断部23と制御部25とを備える。第1の取得部21は、環境情報を環境センサ3から取得する。第2の取得部22は、室内11の環境を調整する空調機器1について動作状態を含む動作情報を取得する。判断部23は、環境情報および動作情報の関係があらかじめ定められた環境条件を満足するか否かを判断し、環境条件を満足していない場合に、空調機器1の動作状態を変更する制御ルールを生成する。制御部25は、判断部23が生成した制御ルールに従って空調機器1の動作状態を指示する。制御ルールは、環境情報および動作情報の関係を環境条件に近づけ、かつ、空調機器1の動作状態の変化が人に知覚されない微小な変化となるように生成される。ここに、環境条件は、室内11の気温を用いて定められていることが好ましい。
また、制御ルールは、空調機器1の動作状態を段階的に変化させるように生成されることが好ましい。この場合、1段階の変化量は、動作状態の変化が人に知覚されない微小な変化となるように定められ、段階間の継続時間は、変化後の動作状態に人が馴化する時間となるように定められることが好ましい。
制御ルールは、長期ルールと短期ルールとを含むことが好ましい。環境条件が室内11の気温を用いて定められる場合、長期ルールは、1回以上の冷房期間の暑熱馴化または1回以上の暖房期間の寒冷馴化を行うことによって環境条件が満足されるように、空調機器1の設定温度と当該設定温度を適用する日時とを定める。短期ルールは、長期ルールで定められた設定温度を目標の設定温度に用い、空調機器1の設定温度がこの目標の設定温度と異なる場合に、空調機器1の設定温度をこの目標の設定温度に近づけるように定められる。
以下に説明する空調設備は、空調制御装置2と、空調制御装置2に制御され室内11の気温を調節する空調機器1と、室外12の気温を含む環境情報を監視する環境センサ3とを備える。
(実施形態1)
以下に説明する空調設備は、図1に示すように、室内11の環境を制御する空調機器1と、空調機器1の動作を制御する空調制御装置2と、室外12の環境を監視する環境センサ3とを備える。
本実施形態において、空調機器1は、室内11の環境のうちの主として温度を制御する装置を想定する。この種の空調機器1は、ヒートポンプ式のエアコンディショナ(以下、「エアコン」という)のほか、各種の冷房装置および暖房装置から選択される。空調機器1は、温度を含む動作状態が、利用者が使用する操作装置(図示せず)からの指示により変更可能であり、また空調制御装置2からの制御信号によっても変更可能となるように構成されている。
本実施形態は、主として温度を制御することを想定しているから、扇風機、加湿器、除湿器、空気清浄機などのように室温を実質的に変化させない空調機器は、本実施形態では扱わない。ただし、これらの空調機器の動作を制御するために本実施形態において説明する技術を採用してもよい。
空調機器1が環境を制御する室内11は、空調機器1の動作によって環境の制御が可能な範囲を意味しており、必ずしも1つの部屋の内部という意味ではない。すなわち、集合住宅の共用部、店舗ビル、病院、ホテルなどの建物の館内などを除外しない。ただし、以下では、1人ないし数人(4〜5人程度)が常用する空間として、住居の部屋が室内11である場合を想定する。
環境センサ3が環境を監視する室外12は、上述した室内11の外界となる空間を意味する。以下では、建物の外部である屋外を想定する。ただし、建物内であっても、部屋の内部と外部とにおいて環境に差異が生じる場合には、部屋の外部を室外12として扱うことも可能である。
空調制御装置2は、プログラムに従って動作するプロセッサを備えるデバイスとインターフェイス用のデバイスとを主なハードウェア要素とする。プロセッサを備えるデバイスは、メモリとプロセッサとを一体に備えるマイコン、メモリを外部に備えるプロセッサなどから選択される。
これらのデバイスにより以下に説明する機能を実現するプログラムは、あらかじめ空調制御装置2に設けられたROMに内蔵される。また、プログラムは、インターネットのような電気通信回線を通して提供されてもよく、あるいは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体により提供されてもよい。
空調制御装置2は、室外12に設置される環境センサ3から環境情報を取得する第1の取得部21を備える。環境情報は、少なくとも室外12の気温に関する情報を含む。環境情報には、気温のほか、湿度、空気質などに関する情報を含んでいてもよい。また、空調制御装置2は、空調機器1の動作状態に関する動作情報を取得する第2の取得部22を備える。動作情報は、原則として、空調機器1の動作状態を設定する設定器(図示せず)から取得される。ただし、空調機器1が動作状態に関する情報を取り出すインターフェイス部を備えている場合には、空調機器1から取得することが可能である。
第1の取得部21と第2の取得部22とは、空調機器1の設定温度が変更されてから室内11の気温が設定温度に達する程度の時間を単位時間とし、単位時間ごとに情報を取得する。単位時間は、たとえば10〜60分の範囲で定められ、一例を示すと、単位時間は30分に設定される。
第1の取得部21が取得した環境情報と第2の取得部22が取得した動作情報とは、空調制御装置2に設けられた判断部23に入力される。判断部23は、環境情報に含まれる室外12の気温と、動作情報に含まれる空調機器1の設定温度(利用者が指示した温度)とを、あらかじめ定められた環境条件に照らし合わせ、環境条件に応じた制御ルールを生成する。すなわち、判断部23は、環境条件に制御ルールが対応付けられており、環境情報および動作情報が環境条件を満足するように空調機器1の制御ルールを決定する。制御ルールの具体的な内容については後述する。
制御ルールは、判断部23において生成され、空調制御装置2に設けられた記憶部26に保存される。あるいはまた、判断部23が生成した制御ルールは、空調制御装置2に設けられた通信インターフェイス部(以下、「通信I/F部」)24を通して外部装置30に保存される。通信I/F部24がインターネットのような電気通信回線NTに接続可能である場合、外部装置30はコンピュータサーバあるいはクラウドコンピューティングシステムが用いられる。通信I/F部24は、パーソナルコンピュータのような支援装置を、外部装置30として直接接続するように構成されていてもよい。
制御ルールは、室内11と室外12との気温差、室内11の気温の上限値あるいは下限値などを環境条件として定められる。本実施形態における環境条件は、室内11の気温について、人の健康管理上で適切と言われている温度に基づいて定められる。
そのため、本実施形態における環境条件は、ISO7730で推奨されている条件、日本建築学会あるいは国土交通省などが推奨する条件、医学的見地により推奨される条件などから選択される。たとえば、日本建築学会によれば、冷房時(夏季)における居室の温度は25〜28℃、暖房時(冬季)における居室の温度は17〜22℃が推奨されている。また、国土交通省は、夏季における室温として28℃、冬季における室温として20〜22℃を推奨している。
記憶部26あるいは外部装置30は、環境条件および制御ルールのような空調機器1を制御するために必要な情報に加えて、空調機器1の動作時における設定温度、室外12の気温、日時などを対応付けた履歴情報を記憶することが望ましい。履歴情報を保存するには比較的大きな記憶容量が必要であるから、一時的に記憶部26に記憶させた後、外部装置30に転送することが望ましい。
空調制御装置2は、記憶部26(あるいは外部装置30)に保存された制御ルールに従って空調機器1の制御を行う制御部25を備える。制御部25は、利用者が空調機器1に動作状態を指示していない状態に場合に、判断部23から与えられた制御ルールに従って空調機器1の動作状態を制御する。
環境条件には、立場によるばらつきがあり、また新たな医学的知見が発見されることもあるから、採用する環境条件は選択可能であることが望ましい。また、制御ルールを定めるときに必要なパラメータ(設定温度の変化量、設定温度を維持する期間など)は、あらかじめ定めた値を用いてもよいが、複数の選択肢あるいは所定の範囲から選択可能にしてもよい。これらの選択は、必ずしも利用者が行う必要はないが、利用者による選択を可能にする場合には、空調制御装置2に、情報の対話的な入力を可能にするための表示器および操作器を設けるか、通信I/F部24を通して端末装置を接続すればよい。端末装置は、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などから選択すればよい。
選択可能な環境条件は、たとえば、夏季であれば、室内11の気温について、(1)27〜28℃、(2)(室外12の気温)−7℃、(3)(室外12の気温)−5℃の選択肢から選択することが考えられる。また、これらの選択肢に優先度を与えておくことも可能である。パラメータについては、設定温度の変化量についての大小、設定温度を維持する期間の長短、設定温度の微調節などを可能にしてもよい。このような調節が可能であれば、利用者は、好み、癖、体質、健康状態などに合うように、制御ルールを調節することが可能になる。選択可能になる情報は、記憶部26(あるいは外部装置30)に保存されていることが望ましい。
(動作)
以下、空調制御装置2の動作を説明する。空調制御装置2は、2種類の制御ルールを用いて空調機器1の動作状態を制御する。一方の制御ルールは、数時間程度までの期間について適用される制御ルールであって、以下では「短期ルール」と呼ぶ。他方の制御ルールは、数ヶ月から数年の期間について適用される制御ルールであって、以下では「長期ルール」と呼ぶ。
<短期ルール>
短期ルールは、単位時間ごとに第1の取得部21が取得した環境情報のうちの室外12の気温と、単位時間ごとに第2の取得部22が取得した動作情報のうちの設定温度とを条件に用いる。判断部23は、室外12の気温および設定温度を、記憶部26に記憶されている環境条件に照らし合わせ、環境条件に対応する制御ルールを設定する。
短期ルールは、室内11と室外12との気温差の範囲、室内11の気温の上限値あるいは下限値を環境条件として定められる。この種の環境条件は、たとえば、ISO7730で推奨されている条件、日本建築学会などが推奨する条件、医学的見地により推奨される条件などから選択される。
ISO7730では、夏季において、室内11と室外12との温度差が5〜7℃以下であることが推奨され、冬季において、室内11の気温の下限値が20℃であることが推奨されている。また、日本建築学会では、冷房時における室内11と室外12との温度差を7℃以内にすることが推奨され、暖房時における室内11(居室)の気温の下限値は17℃が推奨されている。さらに、医学的見地からは、ヒートショック予防などの観点によって、7〜9月には室内11の気温を室外12の気温に対して5〜7℃低い範囲とし、11〜4月には室内11の気温を18〜22℃の範囲とすることが推奨されている。
判断部23は、この気温に関する条件を環境条件とし、空調機器1の設定温度を決める制御ルール(短期ルール)を定めている。以下では、夏季である場合を想定し、環境条件を「室外の気温−7℃≦室内の気温≦室外の気温−5℃」とする。なお、室内11の気温は空調機器1の設定温度に一致すると仮定する。
室内11の気温と室外12の気温との関係が上述の環境条件を満たしている場合、判断部23は、短期ルールとして、設定温度を変更しないという指示を制御部25に与える。この場合、判断部23は、空調機器1の設定温度と、環境センサ3が検出した室外12の気温と、日時とを対応付けて記憶部26(あるいは外部装置30)に記憶させる。
一方、室内11の気温と室外12の気温との関係が上述の環境条件を満たしていない場合、判断部23は、短期ルールとして、空調機器1の設定温度(制御内容)を変更する指示を制御部25に与える。指示する設定温度は、たとえば、以下のように定める。
いま、室外12の気温が33℃であり、空調機器1の設定温度が24℃であるとする。この場合、室内11と室外12との気温差は、9℃であるから、上述した環境条件を満足しない。この場合、判断部23は、記憶部26(あるいは外部装置30)に制御ルールが存在するか否かを探索する。また、制御部25は、制御ルールが適用中である場合、空調機器1の動作状態が制御ルールを満足する動作か否かを判断する。
探索により制御ルールの適用中であって、かつ空調機器1が制御ルールを満足する動作状態である場合、判断部23は、空調機器1が適用中の制御ルールによる動作状態を継続するように制御部25に指示する。また、空調機器1が制御ルールの適用による動作状態である場合、判断部23は、空調機器1の設定温度と、環境センサ3が検出した室外12の気温と、日時とを対応付けて記憶部26(あるいは外部装置30)に記憶させる。
一方、探索により制御ルールの適用中であって、かつ空調機器1の動作状態が制御ルールを満たしていない場合、判断部23は、空調機器1の設定温度と、制御ルールを満たす場合の設定温度との温度差を求める。たとえば、制御ルールに基づく設定温度が26℃であるとすれば、空調機器1の設定温度が上述のように24℃であることは、空調機器1の動作状態が制御ルールを満足していないことになる。
このように、空調機器1の設定温度が制御ルールに基づく設定温度とは異なっている場合、判断部23は、空調機器1の設定温度を、制御ルールにより定まる設定温度に近づけるように、設定温度を時間経過に伴って変化させる。すなわち、判断部23は、時間経過に伴って設定温度を段階的に変化させる。
判断部23は、上述した単位時間ごとに、あらかじめ定めた微小の変化量ずつ設定温度を変化させ、単位時間の所定数倍の時間が経過した時点で、制御ルールに基づく設定温度に達しているように設定温度を定める。つまり、判断部23は、単位時間ごとに、1段階の変化量ずつ設定温度を変化させることにより、目標とする設定温度に到達させる。目標とする設定温度は、後述する長期ルールによって設定される。
単位時間および単位時間ごとの1段階の変化量は、設定温度の変化を人が知覚できない程度に定める。また、単位時間は、変化後の設定温度に人が馴化(順化)する程度の時間であることが望ましい。単位時間は、たとえば30分に定められ、変化量は、たとえば0.3℃に定められる。要するに、制御ルールは、環境情報(室外12の気温)および動作情報(現状の設定温度)の関係を環境条件に近づけ、かつ、空調機器1の動作状態(設定温度)の変化が人に知覚されない程度の微小な変化となるように生成される。
上述した例では、制御ルールに従って設定温度を定めた場合との温度差は2℃であり、2℃/0.3℃≒7であるから、設定温度は、単位時間の7倍の時間(=3.5時間)で制御ルールに従う設定温度に到達する。すなわち、判断部23は、「30分ごとに0.3℃ずつ設定温度を上昇させる制御を7回繰り返す」という短期ルールを設定する。
上述した制御ルール(短期ルール)において、単位時間が30分に定められ、設定温度の1段階の変化量が0.3℃に定められているのは、以下の理由による。すなわち、人の生理学的な特性によれば、人の温度受容器は、皮膚に対する温度刺激が16〜40℃程度の範囲では、30分ほどでほぼ順応することが知られている。また、人が知覚可能な温度差は、50歳以下では0.5℃、65歳以上では1〜5℃と言われている。したがって、1段階の変化量が0.3℃であれば、年齢にかかわらず温度差が知覚されず、単位時間が30分であれば、設定した温度にほぼ馴化すると考えられる。なお、これらの値は一例であって、適宜に変更することが可能である。
ちなみに、皮膚温が33〜34℃程度であるとき、人は暑さおよび寒さを感じることがない。このような皮膚温は、中立状態の皮膚温であって、無感温度と呼ばれている。
制御部25は、判断部23が設定した短期ルールを用いて空調機器1に動作状態を指示する。ここでは、動作状態のうち設定温度のみに着目しているから、制御部25は、設定温度を短期ルールに従って設定するように、空調機器1に指示を与える。空調機器1は、制御部25から設定温度が指示されると設定温度を変更する。
制御部25は、空調機器1の設定温度を変更するたびに、空調機器1の設定温度と、環境センサ3が検出した室外12の気温と、日時とを対応付けて記憶部26(あるいは外部装置30)に記憶させる。
上述した例において、14:00における室内11の気温が24℃であって、到達させる気温が26℃であるとすれば、記憶部26(あるいは外部装置30)に記憶される内容は、表1のようになる。このようにして、設定温度が26℃に達するまで、30分ごとに記憶部26(あるいは外部装置30)にデータが追記される。
ところで、空調機器1の設定温度が制御ルールに従っていない状態から制御ルールに従う設定温度に近づける期間において、空調機器1の設定温度を利用者が変更する可能性がある。上述した例では、30分ごとに設定温度を0.3℃ずつ変化させる動作を7回繰り返すから、所望の設定温度に達するには、3.5時間を要する。そのため、利用者が設定温度を変更する可能性がある。利用者が設定温度を変更した場合、判断部23は、変更された設定温度と、制御ルールに従う設定温度との温度差を求め、短期ルールをあらためて設定する。
空調機器1の設定温度を利用者が変更したか否かを判断部23が認識するには、たとえば、設定温度を指示した主体を示すフラグを用いるか、空調制御装置2が指示した設定温度と空調機器1の設定温度とを比較する技術を用いる。
フラグを用いる場合、制御部25が制御ルールに従って空調機器1に設定温度を指示する際に、制御部25が記憶部26(または外部装置30)にフラグを設定する。また、空調機器1から第2の取得部22が受け取る動作情報に、利用者が設定温度を変更したことを示す情報を含めておき、この情報を受け取ると、判断部23がフラグを解除する。この動作により、判断部23は、フラグの有無によって、空調機器1の設定温度が、制御ルールに基づいて設定されたか、利用者に設定されたかを区別することができる。
また、設定温度を比較する場合、判断部23は、単位時間ごとに、制御部25が空調機器1に前回指示した設定温度と、空調機器1から第2の取得部22が取得した設定温度とを比較する。比較結果が一致していれば、空調機器1の設定温度は制御ルールに従って設定されたと判断され、比較結果が不一致であれば、空調機器1の設定温度は利用者に設定されたと判断される。
上述した短期ルールを適用した動作を図2にまとめて示す。空調制御装置2は、空調機器1の動作情報を取得し(S1)、環境センサ3から環境情報を取得する(S2)。動作情報と環境情報との取得の順序は問わない。環境情報および動作情報の関係が所定の環境条件を満足しているときは(S3:Y)、空調機器1の制御は行わずに、動作情報と環境情報とが記憶部26(あるいは外部装置30)に保存される(S8)。
環境情報および動作情報の関係が環境条件を満足していないときには(S3:N)、制御ルールの適用中ではないか、制御ルールの適用中であっても制御情報が制御ルールを満たしていない場合(S4:N)、短期ルールを新たに作成する(S5)。空調制御装置2は、新たに作成された短期ルールに従って設定温度(制御内容)を更新する(S6)。一方、制御ルールが適用中であり、かつ制御情報が制御ルールを満足している場合(S4:Y)、短期ルールに従って制御内容を更新する(S6)。新された制御内容は空調機器1に指示され(S7)、指示された制御内容は、動作情報および環境情報とともに記憶部26(あるいは外部装置30)に保存される(S8)。
<長期ルール>
ところで、短期ルールにおいて目標とする設定温度は、上述したように、長期ルールにより設定される。長期ルールは、数ヶ月から数年について適用される制御ルールであり、季節を単位として用いられる。季節を単位としているのは、暖房時と冷房時とでは制御ルールが異なるからである。
長期ルールを設定するために、判断部23は、所定期間における室外12の気温および空調機器1の設定温度を、記憶部26(または外部装置30)から読み出す。室外12の気温および空調機器1の設定温度は、記憶部26(または外部装置30)に空調制御装置2が記憶させた情報を用いる。所定期間は、空調機器1の冷房時あるいは暖房時に対応する期間であって、通常は季節に対応する。所定期間は、たとえば2ヶ月とする。
判断部23は、記憶部26(または外部装置30)から読み出した情報の平均値を求める。いま、室外12の気温をθo、空調機器1の設定温度をθacとし、室外12の気温の平均値をθom、空調機器1の設定温度の平均値をθacmとする。
判断部23は、空調機器1の設定温度の平均値θacmについて、室外12の気温との温度差を環境条件に用いる。長期ルールでは、空調機器1の設定温度の平均値θacmを室内11の気温とみなし、室外12の気温の平均値θomを室外12の気温とみなす。短期ルールと同様に夏季である場合を想定し、環境条件を、「室外の気温−7℃≦室内の気温≦室外の気温−5℃」とする。
空調機器1の設定温度の平均値θacmと室外12の気温の平均値θomとの関係が、上述した環境条件を満たしている場合、判断部23は、長期ルールとして、空調機器1が適用中の制御ルールによる動作状態を継続するように制御部25に指示する。すなわち、判断部23は、長期ルールによって空調機器1に指示する設定温度を、設定温度の平均値θacmとする。
一方、空調機器1の設定温度の平均値θacmと室外12の気温の平均値θomとの関係が、上述した環境条件を満たしていない場合、判断部23は、目標とする温度差Δθtを定め、温度差Δθtを0にするように、設定温度を時間経過に伴って変化させる。
温度差Δθtは、室外12の気温の平均値θomと、空調機器1の設定温度の平均値θacmと、環境条件とにより定められる。目標とする温度差Δθtは、たとえば、(θom−7℃)−θacm≦Δθt≦(θom−5℃)−θacmという関係で表される。ここで、θom−θacm=θdmとおけば、上述した関係は、θdm−7℃≦Δθt≦θdm−5℃と表される。
短期ルールと同様に、長期ルールにおいても、判断部23は、空調機器1の設定温度を時間経過に伴って段階的に変更する。1段階の変化量θstpは、人が知覚可能な温度差に基づいて設定され、たとえば0.3℃に設定される。また、長期ルールでは、設定温度を1段階変化させる期間が1〜2週間程度に定められる。
判断部23は、温度差Δθtを0に近づけるように空調機器1の設定温度を変更するために、設定温度を変化させる必要回数Nを、N=Δθt/θstpによって求める。設定温度を1段階変化させる期間Tstpに回数Nを乗じた期間が、空調機器1による暑熱馴化あるいは寒冷馴化を行う期間になる。判断部23は、各期間Tstpに設定温度を割り当てることにより長期ルールを設定する。
ここに、運動を行って発汗を促せば、運動強度に応じて数日から10日程度で暑熱馴化がなされるが、日常的に運動を行っていない人にとって、この方法での暑熱馴化は苦痛を伴う。これに対して、本実施形態は、空調機器1の設定温度を徐々に変化させて室内11の気温を調節するだけであるから、利用者は苦痛を伴うことなく暑熱馴化あるいは寒冷馴化がなされることになる。
暑熱馴化は夏季(冷房期間)に行われ、寒冷馴化は冬季(暖房期間)に行われるから、判断部23が制御ルールを設定するために、冷房期間か暖房期間かはあらかじめ定めておくことが必要である。
ところで、設定温度を1段階変化させる期間Tstpは、たとえば1〜2週間であるから、たとえば期間Tstpが1週間であっても、長期ルールで温度差Δθtを0にするには、N週間を要する。そのため、温度差Δθtが比較的大きい場合、温度差Δθtが0に達する前に、冷房期間あるいは暖房期間が終了する場合がある。このような場合、長期ルールは、次の冷房期間あるいは暖房期間に持ち越される。すなわち、長期ルールの残りの制御は、冷房期間であれば翌年の冷房期間に実施され、暖房期間であれば年末からの暖房期間に実施されることになる。
たとえば、7月1日から9月30日までを冷房期間(夏季)とする場合であって、8月の2週目から長期ルールを適用する場合を想定する。設定温度を1段階変化させる期間Tstpが1週間、設定温度を変化させる必要回数が9回であると、長期ルールの適用期間が終了するのは10月になり、設定温度を変化させる回数が3回残ることになる。このような場合、翌年の冷房期間が開始される7月1日以後に残りの3回を実施する。
長期ルールの適用期間が決まると、判断部23は、日ごとに設定温度を割り当てる。つまり、判断部23は、長期ルールの適用期間において、月日で指定した期間に設定温度を割り当てたデータ(X1月Y1日〜X2月Y2日,θx℃)を長期ルールとして作成し、この長期ルールを、記憶部26(あるいは外部装置30)に保存する。記憶部26(あるいは外部装置30)に保存された長期ルールは、月日で指定された期間に該当する設定温度が適用されるように、制御部25が読み出す。すなわち、制御部25は、長期ルールの設定温度を、短期ルールにおける目標とする設定温度に定める。
(実施形態の効果)
以上説明したように、長期ルールによって、暑熱馴化あるいは寒冷馴化が長期的になされるようにし、利用者が一時的に空調機器1の設定温度を変更した場合には、短期ルールを適用することにより、短期的な馴化を行うようにして、長期ルールに復帰させる。短期ルールが適用される事例としては、たとえば、夏季であれば、利用者が帰宅直後に空調機器1の設定温度を通常時よりも下げた場合などが該当する。
すなわち、利用者が自身が快適になるように空調機器1の設定温度を調節した場合に、短期的には、利用者が知覚できない程度の変化量で設定温度を変化させ、かつ変化させた設定温度に順応する程度の時間が経過するまで設定温度を維持する。この動作を繰り返すことにより、長期ルールで設定されている目標の設定温度に近づけ、結果的に、利用者にとって適正と考えられる設定温度に馴化させることが可能になる。
この動作では、室内11の温度が急激に変化することがなく、利用者は、気付かない間に適正な設定温度に馴化するから、苦痛を伴わずに適正な温熱環境に馴れることになる。
(他の構成例)
上述した構成例では、判断部23が定めた制御ルールは継続して利用されているが、判断部23が定めた制御ルールが利用者に適合しない場合がある。すなわち、利用者は、好み、癖、体質、健康状態などにばらつきがあるから、判断部23が定めた制御ルールが利用者に適合しない場合もある。
空調制御装置2が入力器を備えるか、空調制御装置2が端末装置と通信する場合、判断部23は、入力器あるいは端末装置からの指示を受けて、制御ルールを破棄し、作成しなおすことが可能であることが望ましい。また、入力器あるいは端末装置からの指示ではなく、利用者が設定温度を変更する頻度を監視し、頻度が規定値以上である場合に制御ルールを変更する構成を採用してもよい。たとえば、利用者が設定温度を5日間続けて変更した場合に、適用中の制御ルールを破棄すればよい。
上述した構成例では、室外12の環境を監視する環境センサ3を設け、環境センサ3により室外12の温度を監視しているが、室内11の環境を監視する環境センサ3を設けることも可能である。たとえば、室外12の気温に加えて、室内11の気温を監視することが可能である。室内11の気温を監視すれば、冬季において床付近と天井付近との温度差が3℃以内にするという、ISO7730の推奨値を満足するように、扇風機、サーキュレータのような空調機器1を用いて、室内11の環境を制御することが可能になる。
また、環境センサ3は、室内11の気温、室外12の気温のほかに、湿度、風速のように人の快適性に関与する環境を監視してもよい。この種の情報は、PMV(Predicted Mean Vote=予測平均温熱感)、SET*(Standard New Effective Temperature)、OT(Operative Temperature=作用温度)などの温熱感指標を算出するために用いてもよい。この種の温熱感指標を算出することにより、空調機器1により制御可能な環境のうち温度、湿度、風速などの制御を行うことも可能である。
この場合の空調制御装置2の制御対象は、暖房機器、扇風機、除湿器などから選択される空調機器1を含む。扇風機、除湿器は、単独では室内11の気温を変化させることができないから、室内11の気温を変化させる他の空調機器1と組み合わせて用いられる。
空調機器1が扇風機、除湿器などを含む場合、たとえば、設定温度の変更によって快適性が損なわれる場合に、湿度、風速の調節によって、快適性を維持し、利用者に目標とする設定温度を達成させることが考えられる。すなわち、室内11の温度が同じであるとしても、湿度が下がるか、あるいは風速が大きくなれば、気温が低下したかのような体感が得られる。
したがって、冷房時において設定温度を26℃にするという制御ルールである場合に、制御部25は、湿度と風速との少なくとも一方を調節することにより、設定温度を26.8℃などに設定することが可能になる。要するに、制御部25は、設定温度を変更した場合に、温熱感指標が変化しないように、湿度と風速との少なくとも一方を制御する。湿度と風速との制御に要する電力にもよるが、温熱感指標が同じであれば、一般的には設定温度の制御に要する電力のほうが大きいから、上述した制御を行えば、省エネルギーにつながる。
長期ルールは、月日に応じて設定温度が定まっているから、たとえば、夏季において室外12の気温が38℃などと特別に高い日が例外的に生じた場合、熱中症などを防止するために、長期ルールを無視して設定温度を変更することが必要になる。本実施形態は、利用者による設定温度の変更を許容する短期ルールを適用するから、例外的な設定温度が必要である場合にも、長期ルールを破棄することなく、短期ルールで柔軟に対応することができる。
長期ルールを設定するには、上述したように、室外12の気温の平均値および空調機器1の設定温度の平均値が必要である。平均値を求める際には、例外的な値を異常値として平均の演算から除外すればよい。また、平均値を算出する場合に、記憶部26(あるいは外部装置30)に保存されているデータだけでは不足する場合には、気象庁のような公的機関が発表しているデータを取得して利用してもよい。この種のデータには、たとえば、地域気象観測システム(いわゆるアメダス)のデータがある。
本実施形態で説明した空調制御装置2は、単独で用いることが可能である。また、通信機能を備える電気負荷と通信することにより、電気負荷の動作の監視および電気負荷の動作の制御を可能にするHEMS(Home Energy Management System)コントローラに、空調制御装置2の機能が組み込まれていてもよい。
(実施形態2)
本実施形態は、図3のように、実施形態1の構成に対して、室内11と室外12との間で自然換気を可能にする開閉部4と、室内11の環境を監視する環境センサ3Aとを付加した構成を備える。
空調制御装置2に設けられた第1の取得部21は、環境センサ3から室外12の環境情報を取得するだけではなく、環境センサ3Aから室内11の環境情報も取得する。本実施形態において、環境センサ3が監視する室外12の環境情報は気温および風速を含み、環境センサ3Aが監視する室内11の環境情報は気温および風速を含む。本実施形態は、温熱感指標を考慮する。したがって、環境センサ3,3Aは環境情報として湿度などの情報も含めて監視する構成であってもよい。
空調制御装置2に設けられた制御部25は、空調機器1の制御だけではなく、開閉部4の開口率も制御する。開閉部4は、窓、ドアなどから選択され、建物の複数箇所に設けられる。適宜部位の開閉部4を開放することによって、室内11に外気が通気され、自然換気がなされる。開閉部4の開口率は、動作情報として第2の取得部22が取得する。
環境センサ3,3Aが監視する環境情報のうち風速に関する情報は、開閉部4から室外12の空気を取り入れるために用いられるから、少なくとも風速を監視する環境センサ3,3Aは、開閉部4の近傍に配置されていることが望ましい。
本実施形態は、空調制御装置2が、開閉部4を空調機器1に優先して用いるように制御を行うことにより、利用者の外気温に対する馴化を促し、かつ省エネルギーにも寄与させている。判断部23は、開閉部4の近傍に配置された室外12の環境センサ3で監視される風速を用い、環境センサ3で計測された風速が所定範囲(たとえば、0.5〜5m/s)であれば、開閉部4を開くように制御部25に指示する。
一方、第1の取得部21は環境センサ3Aから室内11の環境を定期的に取得する。ここで、制御部25が開閉部4を開いた後に、室内11の環境が所定の環境条件を満たさない場合(すなわち、風速、風量が基準値に達しない場合)、判断部23は、室内11の環境を改善するように空調機器1および開閉部4を制御する。
すなわち、開閉部4が全開でなければ、判断部23は開閉部4の開口率を増加させるように開閉部4を制御する。また、空調機器1が、扇風機あるいはサーキュレータを含む場合は、扇風機あるいはサーキュレータを動作させる。さらに、これらの空調機器1を動作させても依然として室内11の環境が所定の環境条件を満足しない場合は、冷房あるいは暖房を行う空調機器1を動作させる。
判断部23は、実施形態1で説明した処理と同様にして、温熱感指標から求められる設定温度について長期ルールと短期ルールとの制御ルールを設定する。制御部25は、実施形態1と同様に、冷房あるいは暖房を行う空調機器1を動作させる際には、判断部23が定めた制御ルールを用いて空調機器1を制御する。
この動作により、制御ルールにより設定された設定温度と同程度の温熱環境指数が得られる場合には、可能な限り室内11に室外12の空気を取り入れることによって、空調機器1への依存性を下げることが可能になる。ここに、室外12の風速は一様ではなく、時々刻々と変化するから、風速の瞬時値を用いても温熱環境指数を評価することは困難である。したがって、環境センサ3,3Aが監視する風速については、判断部23において求めた一定時間の平均値を用いる。開閉部4を開くことによって、室外12の空気を取り入れる場合には、風速が変化するから、室内11における利用者の温熱感覚は、一定ではなく、時間とともに変化する。それゆえ、暑熱馴化の一層の促進がなされ、温熱環境に対する人の調整能力を賦活させることになる。
ところで、気温が体温を上回るほど高い(たとえば、38℃以上)場合には、風速が大きくても人体からの放熱量は増加せず、むしろ空気から人体に放熱されることが知られている。すなわち、室外12の気温が、所定温度を超えると、開閉部4を開いて外気を室内11に取り込んだとしても、空気流による冷却効果は期待できなくなる。また、人体は、発汗および汗の蒸発に伴う気化熱の放散によって放熱しているが、湿度が上昇した場合には、汗の気化が阻害されるから、放熱の効率が著しく低下する。
このような事象に鑑みて、室外12の気温、風速、湿度を組み合わせることによって、開閉部4を開放せずに、空調機器1を動作させるほうが望ましい条件が定められる。したがって、本実施形態では、開閉部4を開放する条件の範囲と、空調機器1を動作させる条件の範囲とを定め、記憶部26(あるいは外部装置30)に保存している。ここに、雨天時には、開閉部4を開くと室内11が濡れることがあり、また室内11の湿度が上昇することがある。したがって、環境センサ3Aには、天候を判断する機能を付加し、制御部25は、雨天時には開閉部4を閉じることが望ましい。
判断部23は、環境センサ3,3Aが監視した環境情報を、これらの条件に照らし合わせることにより、開閉部4を開くか、空調機器1を動作させるかを決定する。また、空調機器1の運転に際しては、実施形態1と同様に、長期ルールおよび短期ルールに従って設定温度を調節する。
なお、本実施形態では、環境センサ3,3Aを用いて風速、湿度を監視しているが、室外12の風速、湿度に関しては、地域気象観測システム(いわゆるアメダス)などのデータを用いてもよい。
上述した構成例では、空調制御装置2が、空調機器1の動作と開閉部4の開閉とを自動的に組み合わせているが、利用者によっては、開閉部4の開閉を自動的に行うことを忌避する場合もある。そのため、空調制御装置2は、空調機器1と開閉部4とを併用する動作モードと、空調機器1のみを用いる動作モードとの選択が可能になっていることが望ましい。すなわち、利用者に2種類の動作モードの一方を選択させる構成であることが望ましい。本実施形態の他の構成および動作は実施形態1と同様である。
なお、上述した実施形態は本発明の一例であって、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。