携帯電話やノート型パソコンなどの情報機器の電源として、エネルギー密度が高い非水系電解液を使用したリチウムイオン二次電池が広く使用されているが、これらの情報機器の高性能化や取扱う情報量の増大に伴う消費電力の増加に対応するために、リチウムイオン二次電池の放電容量の高容量化が望まれている。また、石油消費量の低減、大気汚染の緩和、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量の低減などの観点から、ガソリン車やティーゼル車に代わる電気自動車やハイブリッド自動車などの低公害車に対する期待が高まっており、これらの低公害車のモーター駆動電源として、エネルギー密度や出力密度の高い、したがって容量密度の高い大型のリチウムイオン二次電池の開発が望まれる。
現在の非水系電解液を使用したリチウムイオン二次電池は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)などのリチウム層状化合物を正極活物質とし、リチウムを吸蔵、放出する黒鉛を負極活物質とし、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)などのリチウム塩をエチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの非水系溶媒に溶解させた液を電解液としたものが主流である。そして、このようなリチウムイオン二次電池の高容量化のためには、負極活物質に吸蔵、放出されるリチウムの量を増大させることが必要である。しかしながら、最大量のリチウムを吸蔵したLiC6から算出される黒鉛の理論容量は372mAhg−1であり、現行の二次電池でも既に理論容量に近い容量が得られているため、さらなる二次電池の高容量化のためには、黒鉛に代わる負極活物質の使用が不可欠である。また、代替物は充放電サイクルの経験に対して安定な特性を示すものでなければならない。
黒鉛に代わる高容量を有する代替物として、アルミニウム、亜鉛、スズなどのリチウムと合金を形成する金属が挙げられる。特に、スズは、Li4.4Snから算出される理論容量が994mAhg−1と高いために好適である。しかし、スズのリチウム吸蔵に伴う体積膨張が極めて大きいという問題がある。Snの体積を100%とすると、Li4.4Snの体積は358%にも及ぶ。そのため、スズを負極活物質とした電池において充放電サイクルを繰り返すと、リチウムの吸蔵及び放出に伴う大きすぎる体積変化のため、負極にクラックが発生し、充放電反応に不可欠な電子伝導パスが破壊され、わずか数回の充放電サイクルの繰り返しでも急速に放電容量が減少してしまう。
この問題を解決するために、スズを炭素材料や酸化物のマトリックス中に分散させ、スズの体積変化による応力を緩和する方法が提案されている。マトリックスとしての導電性炭素材料は、スズの体積変化による応力を緩和させるだけでなく、スズの体積変化により負極活物質が機械的な損傷を受けても電子伝導パスを確保するという役割も果たす。
スズを炭素材料のマトリックス中に分散させた負極活物質として、特許文献1(特開2000−90916号公報)は、スズ源としての二酸化スズと炭素質物源としてのコールタールピッチ熱処理物とを混合して粉末化した粉体を900℃で熱処理し、炭素質物マトリックス中に被覆されたスズ金属微粒子が高分散した負極活物質を示している。しかしながら、この負極活物質を使用し、対極をリチウムとした半電池の放電容量は、わずか4回の充放電サイクル試験後には60%或いは91%まで劣化しており、良好なサイクル特性が得られていない。
スズを酸化物のマトリックスに分散させる方法のひとつとして、二酸化スズを活物質とする方法がある。二酸化スズは、以下の式(I)(II)の反応によりリチウムを吸蔵する。式(I)の二酸化スズの還元と酸化リチウムの生成が起こる反応を「コンバージョン反応」といい、式(II)のスズとリチウムとの合金が生成する反応を「合金化反応」という。コンバージョン反応により生じる酸化リチウムがスズのマトリックスとして作用し、合金化反応領域におけるスズの体積変化による応力を緩和するとともに、合金化反応領域におけるスズの凝集を抑制すると考えられている。
二酸化スズから成る負極活物質に関し、非特許文献1(Journal of Power Sources 159(2006)345−348)は、噴霧熱分解法により形成した、0.5〜1μmの粒径と内部空孔とを有する多孔質の二酸化スズ粒子からなる負極活物質を開示している。この二酸化スズ粒子は、平均約5nmの結晶からなる一次粒子を有し、合金化反応領域におけるスズの体積変化による応力は、酸化リチウムマトリックスだけでなく二酸化スズ粒子内部の空孔によっても抑制される。この負極活物質を使用し、対極をリチウムとした半電池について、100mAg−1の電流密度でLi/Li+電極に対して0.05〜1.35Vの範囲の充放電サイクルを経験させたところ、328mAhg−1の初期不可逆容量が認められている。また、充放電サイクルを50回経験した後の容量維持率は、初期容量(601mAhg−1)の68%に過ぎず、良好なサイクル特性が得られていない。
また、非特許文献2(CARBON 46(2008)35−40)は、数十nm〜300nmの二酸化スズ粒子の表面にリンゴ酸の熱分解による炭素皮膜が形成された負極活物質を開示している。この負極活物質を使用し、対極をリチウムとした半電池について、100mAg−1の電流密度でLi/Li+電極に対して0.05〜1.5Vの範囲の充放電サイクルを経験させたところ、732mAhg−1の初期不可逆容量が認められている。また、この負極活物質は、充放電サイクル試験開始時には約600mAhg−1の容量を示しているが、充放電サイクルを30回経験した後には容量が約400mAhg−1まで減少しており、この容量維持率は実用上満足のいく値ではない。
二酸化スズから成る負極活物質は、上記式(I)のコンバージョン反応と式(II)の合金化反応の全体を利用できるとすると、理論上はLi/Li+電極に対して0V〜約2Vの範囲での充放電が可能であり、コンバージョン反応の理論容量は711mAhg−1であり、合金化反応の理論容量は783mAhg−1であり、全体での理論容量は1494mAhg−1にも達する。しかしながら、従来は、酸化リチウムが熱力学的に安定であるため、上記式(I)で表したコンバージョン反応が不可逆反応であるといわれていた。そのため、二酸化スズを負極活物質としたリチウムイオン二次電池では、もっぱら可逆反応領域である合金化反応領域(Li/Li+電極に対して0V〜約1Vの範囲)のみが利用されており、したがって高い放電容量が得られていなかった。また、コンバージョン反応領域を含む電位まで電位範囲を広げて充放電を行うと、コンバージョン反応の不可逆性に起因する大きな初期不可逆容量が認められていた。非特許文献1及び非特許文献2の負極活物質において認められた初期不可逆容量も、コンバージョン反応の不可逆性が一因となっていると思われる。
したがって、従来の二酸化スズから成る負極活物質は、容量とサイクル特性の点で満足のいくものではなかった。この問題に対し、出願人は、本願の優先権主張の基礎とされた出願の出願日後に公開されたWO2011/040022において、従来は不可逆反応であるとされていたコンバージョン反応が可逆的に進行する負極活物質を提案した。
WO2011/040022に示された負極活物質は、酸化スズ粉末とナノサイズを有する導電性炭素粉末とが高分散状態で含まれている負極活物質である。この負極活物質を使用すると、従来は不可逆反応であるとされ、大きな初期不可逆容量の原因であったコンバーション反応が可逆的に進行するようになり、したがってリチウムの吸蔵及び放出のために合金化反応領域のみでなくコンバージョン反応領域をも利用することができるようになる。
コンバージョン反応が可逆的に進行するようになった理由は、現時点では明確ではないが、以下のように考えられる。ナノサイズを有する導電性炭素粉末には、酸素原子(カルボニル基、ヒドロキシル基などの表面官能基の酸素、吸着酸素)が豊富に含まれており、したがってこの豊富な酸素が介在したSn−O−C結合が生じやすくなると考えられる。そして、コンバージョン反応で生成する酸化リチウムは、以下の式(III)に示すような準安定状態で存在していると考えられ、この準安定状態の酸化リチウムからリチウムが脱離しやすい状態が形成されるため、リチウムの脱離と共に酸化スズの形成が生じやすくなり、コンバージョン反応が可逆的に生じるものと考えられる。そして、ナノサイズの導電性炭素粉末と酸化スズ粉末とが高分散で存在していると、炭素粉末と酸化スズ粉末との接触点が増加するためSn−O−C結合が多くのサイトで形成されるようになり、したがってコンバージョン反応後に式(III)の準安定状態が多くのサイトで形成されるようになる。その結果、Li/Li+電極に対して0V〜約2Vの範囲での充放電サイクルを実現することができ、放電容量を大幅に増加させることができる。
上述の酸化スズ粉末とナノサイズを有する導電性炭素粉末とが高分散状態で含まれている負極活物質により、リチウムの吸蔵及び放出のために合金化反応領域のみでなくコンバージョン反応領域をも利用することができるようになったが、さらに検討した結果、以下に比較例を用いて詳述するが、導電性炭素粉末の表面での電解液の電気化学的分解に起因すると思われる初期不可逆容量が認められることがわかった。この初期不可逆容量は、この負極活物質を正極活物質と組み合わせてリチウムイオン二次電池を構成する際に、より多くの正極活物質を必要とすることにつながり、一定体積のセルにおいては、その分負極活物質の量が少なくなって、セルあたりの容量が低くなるため好ましくない。
そこで、本発明の目的は、上述の酸化スズ粉末とナノサイズを有する導電性炭素粉末とが高分散状態で含まれている負極活物質を基礎として、この負極活物質のコンバージョン反応の可逆的な進行を維持することにより高い可逆容量を維持しつつ、さらに初期不可逆容量を低減させた負極活物質を提供することである。
発明者らは、鋭意検討した結果、上述の酸化スズ粉末とナノサイズを有する導電性炭素粉末とが高分散状態で含まれている負極活物質において、導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズと接触していない部分に酸化スズ以外の金属酸化物を担持させるか、或いは、導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズと接触していない部分を低導電性の無定形炭素皮膜で被覆すると、電解液の電気化学的分解を触媒する導電性炭素粉末表面の活性点が上記金属酸化物及び/又は上記無定形炭素皮膜により被覆されるためであると思われるが、初期不可逆容量が低減し、且つ、コンバージョン反応の可逆的な進行がそのまま維持されることを発見した。
したがって、本発明はまず、ナノサイズを有する導電性炭素粉末と、酸化スズ粉末と、が高分散状態で含まれているリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質であって、酸化スズ以外の金属酸化物をさらに含み、上記導電性炭素粉末の表面に、上記酸化スズ粉末と上記金属酸化物とが接触していることを特徴とする第1の負極活物質に関する。
本明細書において、「金属酸化物」の範囲には、典型金属、遷移金属及び半金属の酸化物が含まれるが、酸化スズは除外される。また、「粉末」の形状には限定がなく、球状粒子に限定されず、針状、管状或いは紐状のものも「粉末」の範囲に含まれる。そして、「ナノサイズを有する」とは、粉末が球状粒子である場合には、平均粒径が1〜500nm、好ましくは1〜50nmであることを意味し、粉末が針状、管状或いは紐状である場合には、平均直径が1〜500nm、好ましくは1〜50nmであることを意味する。また、「高分散状態」とは、導電性炭素粉末及び酸化スズ粉末の一次粒子の、一般的には30質量%以上、好ましくは85質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上が凝集していないことを意味する。ここで、粉末の非凝集率は、透過型電子顕微鏡(TEM)写真により粉末の状態を観察した結果から算出した値である。さらに、「担持」の語は、担体(導電性炭素粉末)より小さい平均サイズを有する被担持物(酸化スズ等)が担体の表面に接触していることを意味する。また、「低導電性の無定形炭素皮膜」とは、複合体に含まれている導電性炭素粉末の電気伝導率の1/100以下、好ましくは1/1000以下、特に好ましくは1/10000以下の電気伝導率を有する無定形炭素皮膜を意味する。
本発明の第1の負極活物質では、高分散状態で存在するナノサイズの導電性炭素粉末と酸化スズ粉末とによりSn−O−C結合が生じやすくなり、したがってコンバージョン反応後に上記式(III)に示す準安定状態が多くのサイトで形成され、その結果、Li/Li+電極に対して0V〜約2Vの範囲での充放電サイクルを実現することができ、放電容量を大幅に増加させることができる。また、電解液の電気化学的分解を触媒する導電性炭素粉末の表面の活性点が金属酸化物により被覆され、電解液の電気化学的分解が阻害されるためであると思われるが、初期不可逆容量が低減する。したがって、本発明の第1の負極活物質は、高い可逆容量を有する上に低減した初期不可逆容量を有する負極活物質である。
本発明の第1の負極活物質において、ナノサイズの導電性炭素粉末は、好ましくはナノサイズの球状粒子であり、導電性を有していれば良いが、粒径が小さい方が好ましく、10〜50nmの平均粒径を有する球状粒子であるのが特に好ましい。粒径が小さく、比表面積が大きい炭素粉末は、豊富に酸素(表面官能基の酸素、吸着酸素)を有し、したがってSn−O−C結合がさらに生じやすくなり、上記準安定状態がさらに形成されやすいからであり、また酸化スズ粉末の分散状態がさらに良好になるからである。
酸化スズ粉末もナノサイズを有しているのが好ましく、ナノサイズを有する球状粒子、特に1〜10nmの平均粒径を有する微細な球状粒子であるのが特に好ましい。このような酸化スズ粉末が導電性炭素粉末上に担持されていると、酸化スズの表面積が増加するため、Sn−O−C結合がさらに生じやすくなり、上記準安定状態がさらに形成されやすくなるからである。そして、ナノサイズを有し且つ表面に金属酸化物を担持している導電性炭素粉末、好ましくは球状粒子と、これに担持されているナノサイズを有する酸化スズ粉末、好ましくは球状粒子により、高い可逆容量を有し、低減した初期不可逆容量を有し、その上、Li/Li+電極に対して0V〜約2Vの範囲での充放電サイクル試験においても放電容量の減少が少ない、サイクル特性が極めて良好な負極活物質が得られる。
酸化スズと炭素とを複合化した負極活物質の体積膨張や凝集といった構造変化については、従来は合金化反応領域のみで考察がなされ、コンバージョン反応領域での考察がなされてこなかった。コンバージョン反応が不可逆反応であるとされ、もっぱら可逆反応領域である合金化反応領域のみが利用されてきたからである。しかしながら、ナノサイズを有する導電性炭素粉末と酸化スズ粉末とが高分散状態で含まれている負極活物質の採用により、コンバージョン領域を含む電位範囲での充放電サイクル試験が可能になり、コンバージョン反応領域における考察が可能となった。その結果、酸化スズと炭素との負極活物質において、コンバージョン反応領域を含む電位範囲で良好なサイクル特性を有する負極活物質を得るためには、合金化反応領域における体積変化による応力の抑制ばかりでなく、コンバージョン反応領域で生ずる負極活物質の凝集を抑制することが重要であることが分かった(本願の優先権主張の基礎とされた出願の出願日後に公開されたWO2011/040022参照)。
この凝集を抑制するために、表面積の大きいナノサイズの導電性炭素粉末の使用が有効であり、この炭素粉末と酸化スズ粉末とが高分散で存在していることが重要であるが、上記導電性炭素粉末が空隙を有しており、上記酸化スズ粉末が実質的に上記空隙内に存在しているのが好ましい。負極活物質の凝集が、特に導電性炭素粉末の外面上に担持された酸化スズ粉末により誘発されることが分かっているからである。なお、「空隙」には、多孔質炭素粉末の孔隙のほか、ケッチェンブラック(登録商標:以下、単に「ケッチェンブラック」と表す。)の内部空孔、カーボンナノファイバやカーボンナノチューブのチューブ内空隙及びチューブ間空隙も含まれる。また、「酸化スズが実質的に空隙内に存在している」の語は、酸化スズ全体の95質量%以上、好ましくは98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上が空隙内に存在していることを意味する。
中でも、上記導電性炭素粉末として、中空シェル構造を有し且つシェルの内面と外面とをつなぐ連続気泡を有するケッチェンブラックを使用するのが好ましい。ケッチェンブラックは、表面積が大きく、内外面及びエッジ面に多くの酸素(表面官能基の酸素、吸着酸素)を有しているため、Sn−O−C結合及び上記準安定状態が豊富に形成される。また、ケッチェンブラックの内部空孔内にナノサイズの酸化スズ粉末を優先的に担持することができるため、コンバージョン反応領域で生ずる負極活物質の凝集が抑制され、さらにシェルにより合金化反応領域のスズの体積膨張が効果的に抑制される。
本発明の第1の負極活物質では、上記導電性炭素粉末の表面を被覆している低導電性の無定形炭素皮膜をさらに含むことができる。電解液の電気化学的分解を触媒する導電性炭素粉末の表面の活性点のうち、金属酸化物により被覆されていない活性点が低導電性の無定形炭素皮膜により効果的に被覆され、電解液の電気化学的分解が効果的に阻害されるためであると思われるが、金属酸化物と低導電性の無定形炭素皮膜との相乗効果により負極活物質の初期不可逆容量が大幅に低減し、且つ、コンバージョン反応の可逆的な進行がそのまま維持される。上記無定形炭素皮膜の表面の状態も導電性炭素粉末の表面の状態と同様であるが、無定形炭素皮膜が低導電性であるため、電解液の電気化学的分解のために必要な電子が無定形炭素皮膜の表面に供給されにくく、したがって無定形炭素皮膜の表面での電解液の電気化学的分解が抑制される。
上記低導電性の無定形炭素皮膜は、グルタミン酸の不完全燃焼により得られた皮膜であるのが好ましい。グルタミン酸の不完全燃焼により緻密な皮膜が得られる。そして、導電性炭素粉末の表面の活性点のうち、金属酸化物により被覆されていない活性点がこの緻密な皮膜により被覆されるためであると思われるが、負極活物質の初期不可逆容量が顕著に低減する。
本発明はさらに、ナノサイズを有する導電性炭素粉末と、酸化スズ粉末と、が高分散状態で含まれているリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質であって、上記導電性炭素粉末の表面に上記酸化スズ粉末が接触しており、上記導電性炭素粉末の表面を被覆している低導電性の無定形炭素皮膜をさらに含むことを特徴とする第2の負極活物質に関する。
本発明の第2の負極活物質では、高分散状態で存在するナノサイズの導電性炭素粉末と酸化スズ粉末とによりSn−O−C結合が生じやすくなり、したがってコンバージョン反応後に上記式(III)に示す準安定状態が多くのサイトで形成され、その結果、Li/Li+電極に対して0V〜約2Vの範囲での充放電サイクルを実現することができ、放電容量を大幅に増加させることができる。また、電解液の電気化学的分解を触媒する導電性炭素粉末の表面の活性点が低導電性の無定形炭素皮膜により被覆され、電解液の電気化学的分解が阻害されるためであると思われるが、初期不可逆容量が低減する。上述したように、上記無定形炭素皮膜の表面の状態も導電性炭素粉末の表面の状態と同様であるが、無定形炭素皮膜が低導電性であるため、電解液の電気化学的分解のために必要な電子が無定形炭素皮膜の表面に供給されにくく、したがって無定形炭素皮膜の表面での電解液の電気化学的分解が抑制される。したがって、本発明の第2の負極活物質は、高い可逆容量を有する上に低減した初期不可逆容量を有する負極活物質である。
本発明の第1の負極活物質と同様に第2の負極活物質においても、低導電性の無定形炭素皮膜は、グルタミン酸を不完全燃焼させることにより得られた皮膜であるのが好ましい。また、ナノサイズの導電性炭素粉末は、好ましくはナノサイズの球状粒子であり、導電性を有していれば良いが、粒径が小さい方が好ましく、10〜50nmの平均粒径を有する球状粒子であるのが特に好ましい。酸化スズ粉末もナノサイズを有しているのが好ましく、ナノサイズを有する球状粒子、特に1〜10nmの平均粒径を有する微細な球状粒子であるのが特に好ましい。ナノサイズを有し且つ表面に低導電性の無定形炭素皮膜を有する導電性炭素粉末、好ましくは球状粒子と、これに担持されているナノサイズを有する酸化スズ粉末、好ましくは球状粒子により、高い可逆容量を有し、低減した初期不可逆容量を有し、その上、Li/Li+電極に対して0V〜約2Vの範囲での充放電サイクル試験においても放電容量の減少が少ない、サイクル特性が極めて良好な負極活物質が得られる。
また、本発明の第1の負極活物質と同様に本発明の第2の負極活物質においても、導電性炭素粉末が空隙を有しており、酸化スズ粉末が実質的に上記空隙内に存在しているのが好ましく、中でも、上記導電性炭素粉末として、中空シェル構造を有し且つシェルの内面と外面とをつなぐ連続気泡を有するケッチェンブラックを使用するのが好ましい。
本発明の第1の負極活物質及び第2の負極活物質のうち、酸化スズ粉末がナノサイズを有する球状粒子であり且つ上記導電性炭素粉末に担持されている形態の負極活物質は、超遠心力場におけるゾルゲル反応と分散とを利用することにより、好適に製造することができる。
したがって、本発明はまた、旋回可能な反応器内に、酸化スズ前駆体及び酸化スズ前駆体以外の金属酸化物前駆体を溶解させた溶液にナノサイズを有する導電性炭素粉末を添加した反応液を導入する工程、及び、上記反応器を旋回させて、上記反応液にずり応力と遠心力とを加えながら上記酸化スズ前駆体及び上記金属酸化物前駆体の加水分解反応と重縮合反応とを行うと同時に、得られた反応生成物を上記ナノサイズを有する導電性炭素粉末に高分散状態で担持させる工程を含むことを特徴とする第1の負極活物質の製造方法に関する。
本明細書において、「酸化スズ前駆体」とは、負極活物質の製造工程を介して酸化スズに変化する化合物を意味する。また、「金属酸化物前駆体」とは、負極活物質の製造工程を介して金属酸化物に変化する化合物を意味し、酸化スズ前駆体は除外される。さらに、後述する「無定形炭素前駆体」の語は、熱処理により熱分解(不完全燃焼)して無定形炭素に変化する化合物を意味し、熱分解の前に揮発する化合物は除外される。また、本明細書では、4種の負極活物質、すなわち、ナノサイズを有する導電性炭素粉末と酸化スズ粉末とが高分散状態で含まれている負極活物質、ナノサイズを有する導電性炭素粉末と酸化スズ粉末とが高分散状態で含まれており、金属酸化物をさらに含む負極活物質、ナノサイズを有する導電性炭素粉末と酸化スズ粉末とが高分散状態で含まれており、低導電性の無定形炭素皮膜をさらに含む負極活物質、及び、ナノサイズを有する導電性炭素粉末と酸化スズ粉末とが高分散状態で含まれており、金属酸化物と低導電性の無定形炭素皮膜とをさらに含む負極活物質が説明される。このうち、ナノサイズを有する導電性炭素粉末と酸化スズ粉末とが高分散状態で含まれている負極活物質、及び、ナノサイズを有する導電性炭素粉末と酸化スズ粉末とが高分散状態で含まれており、金属酸化物をさらに含む負極活物質は、しばしば「複合体」とも表わされる。
この製造方法において、反応液にずり応力と遠心力の双方の機械的エネルギーが同時に加えられることによって、この機械的エネルギーが化学エネルギーに転化することによるものと思われるが、従来にない速度で上記酸化スズ前駆体及び上記金属酸化物前駆体の加水分解反応と重縮合反応とを行うことができ、同時に得られた反応生成物を上記導電性炭素粉末に高分散状態で担持させることができる。その結果、ナノサイズの酸化スズの球状粒子が高分散状態で導電性炭素粉末に担持されており、さらに金属酸化物が少なくとも導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズと接触していない部分に担持されている負極活物質が得られる。
特に、導電性炭素粉末としてケッチェンブラックを使用すると、ケッチェンブラックの内部空孔内にナノサイズの酸化スズの球状粒子、好ましくは1〜10nmの平均粒径を有する球状粒子、特に好ましくは1〜2nmの平均粒径を有する球状粒子を効果的に担持することができるため、コンバージョン反応領域で生ずる負極活物質の凝集が抑制され、さらにシェルにより合金化反応領域のスズの体積膨張が効果的に抑制されるため極めて好ましい。
上記製造方法において、旋回する上記反応器内で上記酸化スズ前駆体及び上記金属酸化物前駆体を含む薄膜を生成させ、該薄膜にずり応力と遠心力とを加えると、薄膜内の上記酸化スズ前駆体及び上記金属酸化物前駆体に大きなずり応力と遠心力が加わり、さらに加水分解反応と重縮合反応とを促進させることができる。上記反応のために、外筒と内筒の同心円筒からなり、内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器を好適に使用することができる。そして、内筒の旋回による遠心力によって、内筒内の反応液を内筒の貫通孔を通じて外筒の内壁面に移動させ、外筒の内壁面に上記酸化スズ前駆体及び上記金属酸化物前駆体を含む薄膜を生成させるとともに、該薄膜にずり応力と遠心力を加えながら上記酸化スズ前駆体及び上記金属酸化物前駆体の加水分解と重縮合反応とを促進させる。ここで、薄膜の厚みを5mm以下とすることにより、また、上記反応器の内筒内の反応液に加える遠心力を1500kgms−2以上に設定することにより、酸化スズの球状粒子及び金属酸化物の微粒子化と高分散化の効果を高めることができる。
また、ナノサイズを有する酸化スズの球状粒子と金属酸化物とが導電性炭素粉末に担持されており、上記導電性炭素粉末の表面を被覆している低導電性の無定形炭素皮膜をさらに含む、極めて好ましい第1の負極活物質は、上述の超遠心力場におけるゾルゲル反応と分散とを利用する製造方法により得られた負極活物質(複合体)と無定形炭素前駆体との混錬物を得る工程、及び、上記混錬物を熱処理することにより上記無定形炭素前駆体を熱分解して低導電性の無定形炭素皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする負極活物質の製造方法により得ることができる。上記無定形炭素前駆体としては、熱処理により熱分解(不完全燃焼)して低導電性の無定形炭素に変化する化合物を特に限定なく使用することができる。例として、単糖、オリゴ糖、多糖、ヒドロキシ酸、脂肪酸、ポリオール、アミノ酸、及びこれらの誘導体が挙げられる。グルタミン酸を上記無定形炭素前駆体として特に好ましく使用することができる。
上記複合体と上記無定形炭素前駆体とを混錬することによって、少なくとも導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズ及び金属酸化物と接触していない部分に無定形炭素前駆体の層が形成される。さらに混錬物を熱処理し、上記無定形炭素前駆体を熱分解して低導電性の無定形炭素に変化させると、少なくとも導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズ及び金属酸化物と接触していない部分に低導電性の無定形炭素皮膜が形成される。この方法により、金属酸化物と低導電性の無定形炭素皮膜との相乗効果により初期不可逆容量が大幅に低減した負極活物質を得ることができる。一般に、混練時に上記無定形炭素前駆体が上記複合体の隣り合う粒の間に形成された間隙部分にも侵入し、熱分解時に上記無定形炭素前駆体の熱分解物である低導電性の無定形炭素層がこの間隙部分においても形成されるため、最終的に得られた負極活物質の比表面積が複合体の比表面積より低下する。このことも初期不可逆容量の低下に寄与していると考えられる。
本発明はまた、旋回可能な反応器内に、酸化スズ前駆体を溶解させた溶液にナノサイズを有する導電性炭素粉末を添加した反応液を導入する工程、上記反応器を旋回させて、上記反応液にずり応力と遠心力とを加えながら上記酸化スズ前駆体の加水分解反応と重縮合反応とを行うと同時に、得られた反応生成物を上記ナノサイズを有する導電性炭素粉末に高分散状態で担持させる工程、上記反応生成物を担持した導電性炭素粉末と無定形炭素前駆体との混錬物を得る工程、及び、上記混錬物を熱処理することにより上記無定形炭素前駆体を熱分解して低導電性の無定形炭素皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする第2の負極活物質の製造方法に関する。
この製造方法において、反応液にずり応力と遠心力の双方の機械的エネルギーが同時に加えられることによって、この機械的エネルギーが化学エネルギーに転化することによるものと思われるが、従来にない速度で酸化スズ前駆体の加水分解反応と重縮合反応とを行うことができ、同時に得られた反応生成物を導電性炭素粉末に高分散状態で担持させることができる。そして、得られた反応生成物を担持した導電性炭素粉末を必要に応じて乾燥させると、ナノサイズを有する導電性炭素粉末とナノサイズを有する酸化スズの球状粒子とが高分散状態で含まれている負極活物質(複合体)が得られる。これに続いて、上記複合体と上記無定形炭素前駆体と混錬することによって、少なくとも導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズと接触していない部分に無定形炭素前駆体の層が形成される。さらに混錬物を熱処理し、上記無定形炭素前駆体を熱分解して低導電性の無定形炭素に変化させると、少なくとも導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズと接触していない部分に低導電性の無定形炭素皮膜が形成される。この製造方法においても一般に、混練時に上記無定形炭素前駆体が上記複合体の隣り合う粒の間に形成された間隙部分にも侵入し、熱分解時に上記無定形炭素前駆体の熱分解物である低導電性の無定形炭素層がこの間隙部分においても形成されるため、最終的に得られた負極活物質の比表面積が複合体の比表面積より低下する。このことも初期不可逆容量の低下に寄与していると考えられる。この製造法においても、導電性炭素粉末としてケッチェンブラックを使用するのが好ましく、無定形炭素前駆体としてグルタミン酸を使用するのが好ましい。
この製造方法において、旋回する上記反応器内で上記酸化スズ前駆体を含む薄膜を生成させ、該薄膜にずり応力と遠心力とを加えると、薄膜内の上記酸化スズ前駆体に大きなずり応力と遠心力が加わり、さらに加水分解反応と重縮合反応とを促進させることができる。この製造方法でも、上記反応のために、外筒と内筒の同心円筒からなり、内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器を好適に使用することができる。そして、内筒の旋回による遠心力によって、内筒内の反応液を内筒の貫通孔を通じて外筒の内壁面に移動させ、外筒の内壁面に上記酸化スズ前駆体を含む薄膜を生成させるとともに、該薄膜にずり応力と遠心力を加えながら上記酸化スズ前駆体の加水分解と重縮合反応とを促進させる。ここで、薄膜の厚みを5mm以下とすることにより、また、上記反応器の内筒内の反応液に加える遠心力を1500kgms−2以上に設定することにより、酸化スズの球状粒子の微粒子化と高分散化の効果を高めることができる。
本発明の第1の負極活物質及び第2の負極活物質は、高い可逆容量を有する上に低減した初期不可逆容量を有するため、リチウムイオン二次電池のために適している。したがって、本発明はさらに、これらの負極活物質を含む負極と、正極と、負極と正極との間に配置された非水系電解液を保持したセパレータとを備えたリチウムイオン二次電池を提供する。この他、本発明の負極活物質は、活性炭などの正極活物質と組み合わせてハイブリッドキャパシタを構成するためにも好適に使用することができる。
本発明における、ナノサイズを有する導電性炭素粉末と酸化スズ粉末とが高分散状態で含まれているリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質であって、酸化スズ以外の金属酸化物をさらに含み、上記導電性炭素粉末の表面に上記酸化スズ粉末と上記金属酸化物とが接触していることを特徴とする負極活物質、或いは、上記導電性炭素粉末の表面に上記酸化スズ粉末が接触しており、上記導電性炭素粉末の表面を被覆している低導電性の無定形炭素皮膜をさらに含むことを特徴とする負極活物質は、高い可逆容量を有する上に低減した初期不可逆容量を有する。特に、上記金属酸化物と上記無定形炭素皮膜の両方を表面に有する導電性炭素粉末を含む負極活物質は、上記金属酸化物と上記無定形炭素皮膜との相乗効果により、初期不可逆容量が大幅に低減する。したがって、本発明の負極活物質は、リチウムイオン二次電池及びハイブリッドキャパシタにおける黒鉛に代わる負極活物質として極めて有望である。
(1)第1の負極活物質
本発明の第1の負極活物質は、ナノサイズを有する導電性炭素粉末と酸化スズ粉末とが高分散状態で含まれているリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質であって、酸化スズ以外の金属酸化物がさらに含まれており、上記導電性炭素粉末の表面に上記酸化スズ粉末と上記金属酸化物とが接触している。リチウムイオン二次電池の電解液の電気化学的分解を触媒する導電性炭素粉末の表面の活性点が金属酸化物により被覆されるためであると思われるが、初期不可逆容量が低減し、且つ、コンバージョン反応の可逆的な進行がそのまま維持される。
負極活物質に含まれる酸化スズ粉末は、二酸化スズ或いは二酸化スズと一酸化スズとの混合物であることができる。酸化スズ粉末は、ナノサイズを有している必要はないが、酸化スズ粉末がナノサイズを有していると、酸化スズの表面積が増加し、ナノサイズを有する炭素粉末との接触点が増加するため、Sn−O−C結合がより多くのサイトで形成されるようになり、したがってコンバージョン反応後に上記式(III)に示す準安定状態が形成されやすくなるため好ましい。また、酸化スズ粉末の平均粒径が小さいと、コンバージョン反応後に、酸化リチウムマトリックス中に微細なスズが分散することになり、可逆的に生じる合金化反応におけるリチウム吸蔵放出に伴うスズの大きな体積変化が抑制され、酸化スズ粉末の反応サイトが増大し、酸化スズ粉末内の拡散距離が短縮する。ナノサイズの酸化スズとしては、ナノサイズの球状粒子のほか、ナノワイヤ、ナノチューブも使用することができるが、球状粒子、好ましくは1〜10nmの平均粒径を有する球状粒子、特に好ましくは1〜2nmの平均粒径を有する球状粒子を使用するのが好ましい。ナノサイズを有する導電性炭素粉末、好ましくは球状粒子と、これに担持されているナノサイズを有する酸化スズ粉末、好ましくは球状粒子により、高い可逆容量を有し、低減した初期不可逆容量を有し、その上、Li/Li+電極に対して0V〜約2Vの範囲での充放電サイクル試験において放電容量の減少が少なく、サイクル特性が極めて良好な負極活物質が得られる。
ナノサイズを有する導電性炭素粉末としては、ナノサイズを有するケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、活性炭、メソポーラス炭素などを挙げることができる。また、気相法炭素繊維を使用することもできる。これらの炭素粉末は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。
コンバーション反応が可逆的に進行するのは、導電性炭素粉末の酸素を介してSn−O−C結合が形成されることに起因すると考えられるため、使用するナノサイズを有する導電性炭素粉末に酸素原子が豊富に含まれているのが好ましい。したがって、表面積が大きい炭素粉末が好ましく、炭素粉末の1gあたりの表面積が1000m2以上であるのが特に好ましく、微細な炭素粉末であるのが好ましく、10〜50nmの平均粒径を有する球状粒子を使用するのが特に好ましい。また、上記炭素粉末の酸素量で表わすと、炭素粉末1gあたりの酸素量が5.0ミリモル以上であるのが好ましい。ここで、「炭素粉末1gあたりの酸素量」は、負極活物質のために使用する炭素粉末について、窒素雰囲気中、30〜1000℃の範囲について1℃/分の昇温速度でTG測定を行い、150〜1000℃の範囲の重量減少量を、全てCO2として脱離したと仮定して算出した酸素量を意味する。例えば、炭素粉末1gの150〜1000℃の範囲の重量減少量が22mgであれば、炭素粉末1gあたりの酸素量は1ミリモルと算出される。このような炭素粉末としては、ナノサイズを有する球状のカーボンブラック、好ましくはケッチェンブラックが挙げられる。
コンバージョン反応領域を含む電位範囲で良好なサイクル特性を有する負極活物質を得るためには、合金化反応領域における体積変化による応力の抑制ばかりでなく、コンバージョン反応領域で生ずる負極活物質の凝集を抑制することが重要であることが分かっている。そして、この凝集を抑制するために、表面積の大きいナノサイズの導電性炭素粉末の使用が有効であり、この炭素粉末と酸化スズとが高分散で存在していることが重要であるが、特に、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、及び多孔質カーボンのように導電性炭素粉末が空隙を有しており、酸化スズ粉末が実質的に上記空隙内に存在しているのが好ましい。負極活物質の凝集は、特に導電性炭素粉末の外面上に担持された酸化スズにより誘発されることが分かっているからである。
したがって、導電性炭素粉末として、中空シェル構造を有するケッチェンブラックを使用するのが好ましい。ケッチェンブラックは、表面積が大きく、内外面及びエッジ面に多くの酸素(表面官能基の酸素、吸着酸素)を有しているため、Sn−O−C結合が豊富に形成され、したがってまた式(III)に示す準安定状態が豊富に形成される。また、ケッチェンブラックの内部空孔内にナノサイズの酸化スズ粉末を優先的に担持することができるため、コンバージョン反応領域で生ずる負極活物質の凝集が抑制され、さらにシェルが合金化反応領域のスズの体積膨張を抑制するため好ましい。
少なくとも導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズと接触していない部分と接触している金属酸化物は、無定形又はナノサイズの微結晶である。金属酸化物を構成する金属には特に制限が無く、Fe、Co、Ni、Cu,Zn、Al、Si、Ti、Zr、La、V、Cr、Mo、W、Mn、Re、Ru、Rh、Pd、Pt、Ag、Sb、Pb、Biなどを例示することができる。上記金属酸化物は、三酸化二鉄、四酸化三鉄、一酸化鉄のように同じ種類の金属ではあるが価数の異なる金属を含む複数の酸化物が存在する場合にはいずれの酸化物であっても良く、2種以上の金属を含む複合酸化物であっても良い。上記金属酸化物は、単独の化合物であっても良く、2種以上の化合物の混合物で有っても良い。特に、酸化鉄が微粒子化しやすいため好ましい。
第1の負極活物質は、少なくとも導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズ及び金属酸化物と接触していない部分を被覆している低導電性の無定形炭素皮膜を含むのが好ましい。電解液の電気化学的分解を触媒する導電性炭素粉末の表面の活性点のうち、金属酸化物により被覆されていない活性点が低導電性の無定形炭素皮膜により効果的に被覆され、電解液の電気化学的分解が効果的に阻害されるためであると思われるが、金属酸化物と低導電性の無定形炭素皮膜との相乗効果により負極活物質の初期不可逆容量が大幅に低減する。
導電性炭素粉末の表面を被覆する低導電性の無定形炭素皮膜を含まない形態の第1の負極活物質の製造方法には、酸化スズ粉末と導電性炭素粉末との高分散状態が実現される方法であれば特に限定がない。例えば、導電性炭素粉末を分散媒中で酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体と混合し、酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体を導電性炭素粉末の表面官能基と反応させた後、熱処理することにより、酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体を酸化スズ及び金属酸化物に変化させることができる。導電性炭素粉末を分散媒中で酸化スズ前駆体と混合し、酸化スズ前駆体と導電性炭素粉末の表面官能基とを反応させて熱処理することにより、酸化スズ前駆体を酸化スズに変化させた後、得られた生成物と金属酸化物前駆体とを分散媒中で混合し、上記生成物の表面官能基と金属酸化物前駆体とを反応させて熱処理することにより、金属酸化物前駆体を金属酸化物に変化させることもできる。また、導電性炭素粉末を分散媒中で金属酸化物前駆体と混合し、金属酸化物前駆体と導電性炭素粉末の表面官能基とを反応させて熱処理することにより、金属酸化物前駆体を金属酸化物に変化させた後、得られた生成物と酸化スズ前駆体とを分散媒中で混合し、上記生成物の表面官能基と酸化スズ前駆体とを反応させて熱処理することにより、酸化スズ前駆体を酸化スズに変化させることもできる。
酸化スズ前駆体としては、二塩化スズ、四塩化スズ、硝酸スズ、炭酸スズなどの無機金属化合物、酢酸スズ、乳酸スズ、テトラメトキシスズ、テトラエトキシスズ、テトライソプロポキシスズなどの有機金属化合物、或いはこれらの混合物を使用することができる。金属酸化物前駆体としては、各種金属の塩化物、硝酸塩、炭酸塩などの無機金属化合物、酢酸塩、乳酸塩、テトラエトキシド、テトライソプロポキシド、テトラブトキシドなどの有機金属化合物、或いはこれらの混合物を使用することができる。分散媒として酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体を溶解可能であり且つ反応に悪影響を及ぼさない媒体を使用すると、得られる負極活物質における酸化スズ及び金属酸化物が微粒子化するため好ましい。
導電性炭素粉末の表面を被覆する低導電性の無定形炭素皮膜を含まない形態の第1の負極活物質は、以下に示す超遠心力場においてゾルゲル法と分散とを同時に行う方法により製造するのが極めて好ましい。この反応により、ナノサイズを有する導電性炭素粉末、好ましくは10〜50nmの粒径を有する球状粒子、特に好ましくはケッチェンブラック、にナノサイズを有する酸化スズの球状粒子、好ましくは1〜10nmの平均粒径を有する球状粒子、特に好ましくは1〜2nmの平均粒径を有する球状粒子を高分散状態で担持することができ、Sn−O−C結合をより多くのサイトで形成することができ、同時に無定形又はナノサイズの微結晶の金属酸化物を少なくとも導電性炭素粉末の表面のうち酸化スズと接触していない部分に担持することができる。特に、導電性炭素粉末としてケッチェンブラックを使用すると、以下の超遠心力場においてゾルゲル法と分散とを同時に行う方法により、ケッチェンブラックの内部空孔内にナノサイズの酸化スズの球状粒子を効果的に担持することができる。
超遠心力場においてゾルゲル法と分散とを同時に行う方法は、旋回可能な反応器内に、酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体を溶解させた溶液にナノサイズを有する導電性炭素粉末を添加した反応液を導入する工程、及び、上記反応器を旋回させて、上記反応液にずり応力と遠心力とを加えながら酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体の加水分解反応と重縮合反応とを行うと同時に、得られた反応生成物を上記ナノサイズを有する導電性炭素粉末に高分散状態で担持させる工程を含む。この方法により、反応液にずり応力と遠心力の双方の機械的エネルギーを同時に加えることができ、この機械的エネルギーが化学エネルギーに転化することによるものと思われるが、従来にない速度で酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体の加水分解反応と重縮合反応とを行うことができ、同時に得られた反応生成物を導電性炭素粉末に高分散状態で担持させることができる。この超遠心力場においてゾルゲル法と分散とを同時に行う方法は、出願人による特開2007−160151号公報において、酸化チタンと酸化ルテニウムを炭素粉末上に高分散で担持した例により開示されているが、この公報における旋回可能な反応器に関する記載及びこの反応器を使用したゾルゲル反応に関する記述は、そのまま本明細書に参考として組み入れられる。酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体と導電性炭素粉末とを含む反応液には、加水分解反応及び重縮合反応のための反応抑制剤を添加しないのが極めて好ましい。
超遠心力場においてゾルゲル法と分散とを同時に行う方法は、特開2007−160151号公報の図1に示されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器を用いて行うことができる。
この反応において、酸化スズ前駆体としては、二塩化スズ、四塩化スズ、硝酸スズ、炭酸スズなどの無機金属化合物、酢酸スズ、乳酸スズ、テトラメトキシスズ、テトラエトキシスズ、テトライソプロポキシスズなどの有機金属化合物、或いはこれらの混合物を使用することができる。金属酸化物前駆体としては、各種金属の塩化物、硝酸塩、炭酸塩などの無機金属化合物、酢酸塩、乳酸塩、テトラエトキシド、テトライソプロポキシド、テトラブトキシドなどの有機金属化合物、或いはこれらの混合物を使用することができる。これらの前駆体を溶解するための溶媒としては、これらの前駆体を溶解可能であり且つ反応に悪影響を及ぼさない溶媒であれば特に限定なく使用することができ、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどを好適に使用することができる。また、加水分解のために、NaOH、KOH、Na2CO3、NaHCO3、NH4OHなどを上述の溶媒に溶解させた液を使用することができる。水を酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体の加水分解のために使用することもできる。
そして、上記反応器の内筒に、酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体を溶解した溶液と、上述した導電性炭素粉末を導入し、内筒を旋回させて酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体と導電性炭素粉末とを混合して分散させる。さらに、酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体の加水分解のためのアルカリ溶液等を添加し、再度内筒を旋回させる。内筒の旋回による遠心力によって、内筒内の反応液が内筒の貫通孔を通じて外筒の内壁面に移動し、外筒の内壁面に酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体を含む薄膜が生成し、この薄膜が外筒内壁上部にずり上がる。その結果、この薄膜にずり応力と遠心力が加わり、この機械的なエネルギーが反応に必要な化学エネルギー、いわゆる活性化エネルギーに転化するものと思われるが、酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体の加水分解と重縮合反応とが短時間で進行する。
上記反応において、薄膜の厚さが薄いほど加えられる機械的エネルギーが大きなものとなる。薄膜の厚みは、一般には5mm以下であり、2.5mm以下であるのが好ましく、1.0mm以下であるのが特に好ましい。薄膜の厚みは、反応器のせき板の幅及び反応器に導入される反応液の量によって設定することができる。
また、上記反応は反応液に加えられるずり応力と遠心力の機械的エネルギーによって実現されると考えられるが、このずり応力と遠心力は内筒の旋回により反応液に加えられる遠心力によって生じる。内筒の反応液に加えられる遠心力は、一般には1500kgms−2以上、好ましくは70000kgms−2以上、特に好ましくは270000kgms−2以上である。
反応終了後に、内筒の旋回を停止し、導電性炭素粉末を回収し、乾燥することにより、ナノサイズを有する酸化スズの球状粒子が導電性炭素粉末の表面に高分散状態で担持されており、無定形又はナノサイズの微結晶の金属酸化物が少なくとも導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズと接触していない部分に担持されている負極活物質を得ることができる。
この反応器を用いた超遠心力場におけるゾルゲル法では、使用する導電性炭素粉末の種類によって、導電性炭素粉末に担持されるナノサイズを有する二酸化スズの球状粒子と一酸化スズの球状粒子との割合が変化する。表面積が大きく且つ酸素原子(表面官能基の酸素、吸着酸素)が豊富に含まれるナノサイズを有する炭素粉末を使用すると、二酸化スズの球状粒子の割合が増加する。導電性炭素粉末として好適なケッチェンブラックを使用した場合には、価数が2価のスズ塩を原料として使用しても、X線粉末回折パターンから判断する限りにおいて、酸化スズは二酸化スズのみからなる。また、TEM写真によると、二酸化スズの球状粒子は優先的にケッチェンブラックの内部空孔内に担持されている。
さらに、上述したゾルゲル法と分散とを同時に行う方法において、酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体と共に、ポリビニルアルコールを併用することができる。ここで、「ポリビニルアルコール」の語は、ポリ酢酸ビニルのけん化度が100%のものを限定的に意味する語ではなく、けん化度が80%以上のものを意味する。この形態では、酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体の加水分解反応と重縮合反応とを行うことができ、ナノサイズを有する球状の酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体の反応生成物を得ることができ、同時に、酸化スズ前駆体及び金属酸化物前駆体の反応生成物を導電性炭素粉末に高分散状態で担持させることができる。また、同時に、酸化スズ前駆体及び/又は酸化スズ前駆体の反応生成物とポリビニルアルコールの水酸基及び/又は水酸基が解離した酸素イオンとの間の強い相互作用により、ポリビニルアルコールを酸化スズ前駆体の反応生成物の表面に付着させることができる。しかも、酸化スズ前駆体の反応生成物の粒径が、ポリビニルアルコールを使用しない反応液から得られた反応生成物のものと比較して微細化する。次いで、得られた生成物を乾燥し、ポリビニルアルコールを非酸化雰囲気下、好適には窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中における約500℃以下の条件下で熱分解(不完全燃焼)すると、ナノサイズを有する酸化スズの球状粒子、好ましくは1〜10nmの平均粒径を有する球状粒子、特に好ましくは1〜2nmの平均粒径を有する球状粒子の表面のうちの上記導電性炭素粉末の表面と接触していない部分がポリビニルアルコールに由来する無定形炭素の薄膜で被覆される。非酸化雰囲気下での熱分解(不完全燃焼)は、以下の負極活物質の製造における無定形炭素前駆体の熱分解と同時に行うこともできる。このポリビニルアルコールに由来する無定形炭素膜により、充放電サイクル経験における負極活物質の凝集が抑制されるため、この形態では、酸化スズ粉末が導電性炭素粉末の外面上に存在しても、良好なサイクル特性が得られる。好適なケッチェンブラックを導電性炭素粉末として使用した場合には、ケッチェンブラックの内部空孔内に収容可能な量を超える量の酸化スズを複合体に含めることができ、旋回可能な反応器に導入する反応液における酸化スズ前駆体の質量を二酸化スズ換算でケッチェンブラックの質量の1.5〜4倍の範囲に高めても、良好なサイクル特性が得られる。なお、「二酸化スズ換算」とは、酸化スズ前駆体に含まれるスズの全てが二酸化スズに変化したと仮定して質量を算出することを意味する。
導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズ及び金属酸化物と接触していない部分を被覆している低導電性の無定形炭素皮膜をさらに含む負極活物質は、上述の超遠心力場においてゾルゲル法と分散とを同時に行う方法により得られた負極活物質(複合体)と無定形炭素前駆体とを混錬して混錬物を得る混錬工程、及び、上記混錬物を熱処理することにより上記無定形炭素前駆体を熱分解して低導電性の無定形炭素皮膜を形成する熱処理工程を実施することにより好適に得ることができる。この製造方法により、金属酸化物と低導電性の無定形炭素との相乗効果により初期不可逆容量が大幅に低減した負極活物質を得ることができる。
無定形炭素前駆体としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸、グルコース、マンノース等の単糖、ラクトース、マルトトリオース等のオリゴ糖、でん粉、セルロース、デキストリン等の多糖、りんご酸、酒石酸、シトラマル酸等のヒドロキシ酸、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の脂肪酸、エチレングリコール、グリセリン、エリトリトール、アラビニトール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等のポリオール、及びこれらの誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、オレオジステアリン,オレオジパルミチンなどを例示することができる。グルタミン酸を無定形炭素前駆体として特に好ましく使用することができる。熱処理工程によりグルタミン酸から緻密な無定形炭素皮膜が得られる。そして、電解液の電気化学的分解を触媒する導電性炭素粉末の表面の活性点のうち、金属酸化物により被覆されていない活性点がこの緻密な皮膜により被覆されるためであると思われるが、負極活物質の初期不可逆容量が顕著に低減する。
混錬工程では、複合体と無定形炭素前駆体と適量の分散媒とを組み合わせ、必要に応じて分散媒を蒸発させながら混錬することにより混錬物を得る。混錬のための分散媒としては、複合体に悪影響を及ぼさない媒体であれば特に限定なく使用することができ、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどを好適に使用することができる。無定形炭素前駆体を溶解可能な分散媒を使用すると均一な無定形炭素皮膜が形成されやすいため好ましく、必要に応じて酸性分散液又はアルカリ性分散液を使用することができる。複合体と無定形炭素前駆体との割合は、質量比で、一般には3:1〜1:3の範囲であり、好適には1.5:1〜1:1.5の範囲である。この混錬工程により、少なくとも導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズ及び金属酸化物と接触していない部分に無定形炭素前駆体の層が形成される。また、一般的には複合体の隣り合う粒の間に形成された間隙部分にも無定形炭素前駆体が侵入する。次いで、熱処理工程では、得られた混錬物を必要に応じて乾燥した後に熱処理を行い、好適には窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中における約500℃以下での熱処理或いは真空中における約200℃以下での熱処理を行い、無定形炭素前駆体を熱分解(不完全燃焼)して低導電性の無定形炭素に変化させる。この熱処理工程により、少なくとも導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズ及び金属酸化物と接触していない部分に低導電性の無定形炭素皮膜が形成される。また、一般的には複合体の隣り合う粒の間に形成された間隙部分にも低導電性の無定形炭素層が形成される。したがって、最終的に得られた負極活物質の比表面積は、一般に複合体の比表面積より低下する。このことも初期不可逆容量の低下に寄与していると考えられる。
(2)第2の負極活物質
本発明の第2の負極活物質は、ナノサイズを有する導電性炭素粉末と、酸化スズ粉末と、が高分散状態で含まれているリチウムの吸蔵及び放出が可能な負極活物質であって、上記酸化スズ粉末が上記導電性炭素粉末の表面に接触しており、上記導電性炭素粉末の表面を被覆している低導電性の無定形炭素皮膜がさらに含まれている。リチウムイオン二次電池の電解液の電気化学的分解を触媒する導電性炭素粉末の表面の活性点が低導電性の無定形炭素皮膜により被覆されるためであると思われるが、初期不可逆容量が低減し、且つ、コンバージョン反応の可逆的な進行がそのまま維持される。
負極活物質に含まれる酸化スズ粉末は、二酸化スズ或いは二酸化スズと一酸化スズとの混合物であることができる。第2の負極活物質における酸化スズ粉末及びその好適な形態については、上の第1の負極活物質における酸化スズ粉末及びその好適な形態についての説明がこの場合も当てはまるため、これ以上の説明を省略する。
ナノサイズを有する導電性炭素粉末としては、ナノサイズを有するケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、活性炭、メソポーラス炭素などを挙げることができる。また、気相法炭素繊維を使用することもできる。これらの炭素粉末は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。第2の負極活物質における導電性炭素粉末及びその好適な形態については、上の第1の負極活物質における導電性炭素粉末及びその好適な形態についての説明がこの場合も当てはまるため、これ以上の説明を省略する。
第2の負極活物質の製造方法には、酸化スズ粉末と導電性炭素粉末との高分散状態が実現される方法であれば特に限定がない。例えば、導電性炭素粉末を分散媒中で酸化スズ前駆体と混合し、酸化スズ前駆体を導電性炭素粉末の表面官能基と反応させた後、熱処理することにより、酸化スズ前駆体を酸化スズに転化させることができる。酸化スズ前駆体としては、二塩化スズ、四塩化スズ、硝酸スズ、炭酸スズなどの無機金属化合物、酢酸スズ、乳酸スズ、テトラメトキシスズ、テトラエトキシスズ、テトライソプロポキシスズなどの有機金属化合物、或いはこれらの混合物を使用することができる。分散媒として酸化スズ前駆体を溶解可能であり且つ反応に悪影響を及ぼさない媒体を使用すると、得られる負極活物質における酸化スズが微粒子化するため好ましい。
第2の負極活物質は、以下に示す超遠心力場においてゾルゲル法と分散とを同時に行う方法により製造するのが極めて好ましい。超遠心力場においてゾルゲル法と分散とを同時に行う方法により、ナノサイズを有する導電性炭素粉末、好ましくは10〜50nmの粒径を有する球状粒子、特に好ましくはケッチェンブラック、にナノサイズを有する酸化スズの球状粒子、好ましくは1〜10nmの平均粒径を有する球状粒子、特に好ましくは1〜2nmの平均粒径を有する球状粒子を高分散状態で担持することができ、Sn−O−C結合をより多くのサイトで形成することができる。特に、導電性炭素粉末としてケッチェンブラックを使用すると、このゾルゲル法と分散とを同時に行う方法により、ケッチェンブラックの内部空孔内にナノサイズの酸化スズの球状粒子を効果的に担持することができる。そして、これに続く混錬と熱処理とを実施することにより、低導電性の無定形炭素皮膜で少なくとも導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズと接触していない部分を被覆することができる。
超遠心力場においてゾルゲル法と分散とを同時に行う方法については、第1の負極活物質の好適な形態の製造方法、すなわち、ナノサイズを有する炭素粉末にナノサイズを有する酸化スズ球状粒子を高分散状態で担持すると同時に金属酸化物を少なくとも導電性炭素粉末の表面のうちの酸化スズと接触していない部分に担持する方法についてした上述の説明が、酸化スズ前駆体と金属酸化物前駆体の両方を使用する代わりに酸化スズ前駆体のみを使用することを除いてこの場合も当てはまるため、これ以上の説明を省略する。また、混錬と熱処理を行う方法についても、導電性炭素粉末の表面を被覆している低導電性の無定形炭素皮膜を含む好適な第1の負極活物質を混錬工程及び熱処理工程により得る方法についてした上述の説明が、混錬工程において無定形炭素前駆体と組み合わせる粉末が酸化スズの球状粒子のみを担持した導電性炭素粉末である点を除いてこの場合にも当てはまるため、これ以上の説明を省略する。
(3)負極活物質の用途
本発明の第1の負極活物質及び第2の負極活物質は、リチウムイオン二次電池のために好適である。したがって、本発明はまた、本発明の第1の負極活物質又は第2の負極活物質を含む負極と、正極と、負極と正極との間に配置された非水系電解液を保持したセパレータとを備えたリチウムイオン二次電池を提供する。
本発明のリチウムイオン二次電池における負極は、本発明の第1の負極活物質又は第2の負極活物質を含有する活物質層を集電体上に設けることにより形成することができる。
集電体としては、白金、金、ニッケル、アルミニウム、チタン、鋼、カーボンなどの導電材料を使用することができる。集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状などの任意の形状を採用することができる。
活物質層は、本発明の第1の負極活物質又は第2の負極活物質に、必要に応じてバインダ、導電材などを添加した混合材料を用いて形成する。
バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニル、カルボキシメチルセルロースなどの公知のバインダが使用される。バインダの含有量は、混合材料の総量に対して1〜30質量%であるのが好ましい。1質量%以下であると活物質層の強度が十分でなく、30質量%以上であると、負極の放電容量が低下する、内部抵抗が過大になるなどの不都合が生じる。導電材としては、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛などの炭素粉末を使用することができる。
上記混合材料を用いた負極は、バインダを溶解した溶媒に本発明の第1の負極活物質又は第2の負極活物質及び必要に応じて他の添加物を分散させ、得られた分散液をドクターブレード法などによって集電体上に塗工し、乾燥することにより作成することができる。また、得られた混合材料に必要に応じて溶媒を添加して所定形状に成形し、集電体上に圧着しても良い。
セパレータとしては、例えばポリオレフィン繊維不織布、ガラス繊維不織布などが好適に使用される。セパレータに保持される電解液は、非水系溶媒に電解質を溶解させた電解液が使用され、公知の非水系電解液を特に制限なく使用することができる。
非水系電解液の溶媒としては、電気化学的に安定なエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、3−メチルスルホラン、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル及びジメトキシエタン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド又はこれらの混合物を好適に使用することができる。
非水系電解液の溶質としては、有機電解液に溶解したときにリチウムイオンを生成する塩を、特に限定なく使用することができる。例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiN(CF3SO2)2、LiCF3SO3、LiC(SO2CF3)3、LiN(SO2C2F5)2、LiAsF6、LiSbF6、又はこれらの混合物を好適に使用することができる。非水系電解液の溶質としてさらに、第4級アンモニウムカチオン又は第4級ホスホニウムカチオンを有する第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を使用することができる。例えば、R1R2R3R4N+又はR1R2R3R4P+で表されるカチオン(ただし、R1、R2、R3、R4は炭素数1〜6のアルキル基を表す)と、PF6 −、BF4 −、ClO4 −、N(CF3SO3)2 −、CF3SO3 −、C(SO2CF3)3 −、N(SO2C2F5)2 −、AsF6 −又はSbF6 −からなるアニオンとからなる塩、又はこれらの混合物を好適に使用することができる。
正極を構成するための正極活物質として、公知のリチウムの吸蔵及び放出が可能な正極活物質を特に限定なく使用することができる。例えば、LiMn2O4、LiMnO2、LiV3O5、LiNiO2、LiCoO2などのリチウムと遷移金属との複合酸化物、TiS2、MoS2などの硫化物、NbSe3などのセレン化物、Cr3O8、V2O5、V5O13、VO2、Cr2O5、MnO2、TiO2、MoV2O8などの遷移金属の酸化物、ポリフルオレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリパラフェニレンなどの導電性高分子を使用することができる。
正極のための活物質層は、上記正極活物質に必要に応じて負極に関して例示したバインダ、導電材などを加えた混合材料を用いて形成することができる。この混合材料を用いた正極は、バインダを溶解した溶媒に正極活物質及び必要に応じて他の添加物を分散させ、得られた分散液をドクターブレード法などによって負極に関して例示した集電体上に塗工し、乾燥することにより作成することができる。また、得られた混合材料に必要に応じて溶媒を添加して所定形状に成形し、集電体上に圧着しても良い。
本発明の第1の負極活物質及び第2の負極活物質は、リチウムイオン二次電池のほか、ハイブリッドキャパシタのための負極活物質としても好適である。ハイブリッドキャパシタにおいては、正極活物質として、活性炭、カーボンナノチューブ、メソポーラス炭素などが使用され、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水系溶媒にLiPF6、LiBF4、LiClO4などのリチウム塩を溶解した電解液が使用される。
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
1:金属酸化物及び低導電性の無定形炭素皮膜の影響
a.負極活物質の製造
実施例1:
特開2007−160151号公報の図1に示されている、外筒と内筒の同心円筒からなり、内筒の側面に貫通孔が設けられ、外筒の開口部にせき板が配置されている反応器の内筒に、10.8gのSnCl2・2H2O及び0.870gのFe(CH3COO)2を水120mLに溶解させた液を導入し、さらに濃度6Mの塩酸0.6mLと4.80gのケッチェンブラック(商品名ケッチェンブラックEC600J、ケッチェンブラック・インターナショナル社製、一次粒子径34nm、細孔径4nm、比表面積1520m2/g、酸素量6.1ミリモル/g)とを導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、SnCl2・2H2O、Fe(CH3COO)2及びケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に濃度12MのNaOH水溶液8.3mLを添加し、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁に薄膜が形成され、この薄膜にずり応力と遠心力が印加され、SnCl2及びFe(CH3COO)2の加水分解と重縮合反応が進行した。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、真空中180℃で12時間乾燥し、さらに窒素中500℃で1時間乾燥することにより、負極活物質を得た。
得られた負極活物質をX線粉末回折により確認したところ(図1(A)参照)、二酸化スズ及び微量のスズが生成していた。酸化鉄の回折ピークは確認されず、無定形又はナノサイズの微結晶の酸化鉄が生成していた。また、TG−DTA測定を空気雰囲気中で昇温速度1℃/分の条件で行い、200℃以上の重量減少量を炭素分として二酸化スズと炭素との組成比を計算したところ、反応時における仕込み量(質量比でSnO2:ケッチェンブラック=60:40)と略一致した値が得られた。さらに、TEM写真により、粒径が1〜2nmの二酸化スズの球状粒子が実質的にケッチェンブラックの内部空孔内に存在しており、一次粒子の96質量%が非凝集状態で存在していることが確認された。また、得られた負極活物質を濃度5質量%の硝酸水溶液に浸漬し、水溶液中に溶解したFeをICP分光分析により確認したところ、反応時における仕込み量(モル比でSn:Fe=1:0.1)と略一致した値が得られた。
実施例2:
実施例1において用いた反応器の内筒に、10.8gのSnCl2・2H2Oを水120mLに溶解させた液を導入し、さらに濃度6Mの塩酸0.6mLと4.80gのケッチェンブラック(商品名ケッチェンブラックEC600J、ケッチェンブラック・インターナショナル社製、一次粒子径34nm、細孔径4nm、比表面積1520m2/g、酸素量6.1ミリモル/g)とを導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、SnCl2・2H2O及びケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に濃度12MのNaOH水溶液8.3mLを添加し、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁に薄膜が形成され、この薄膜にずり応力と遠心力が印加され、SnCl2の加水分解と重縮合反応が進行した。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、真空中180℃で12時間乾燥した。次いで、乾燥後のケッチェンブラックと、水と、グルコースとを1:0.5:1の質量比で混合し、混錬して混錬物を得た。混錬物から水を蒸発させた後、窒素中500℃で1時間熱処理することによりグルコースを熱分解し、ケッチェンブラックの表面がグルコースの熱分解物(低導電性の無定形炭素皮膜)で被覆された負極活物質を得た。
得られた負極活物質をX線粉末回折により確認したところ(図1(B)参照)、二酸化スズに加えて微量の一酸化スズとスズが生成していた。グルコースの熱分解物の回折ピークは確認されず、無定形炭素の皮膜が生成していた。また、実施例1における方法と同時方法により二酸化スズと炭素との組成比を計算したところ、反応時における仕込み量(質量比でSnO2:ケッチェンブラック=60:40)と略一致した値が得られた。さらに、TEM写真により、粒径が1〜2nmの二酸化スズの球状粒子が実質的にケッチェンブラックの内部空孔内に存在しており、一次粒子の96質量%が非凝集状態で存在していることが確認された。
実施例3:
実施例1において用いた反応器の内筒に、10.8gのSnCl2・2H2O及び0.870gのFe(CH3COO)2を水120mLに溶解させた液を導入し、さらに濃度6Mの塩酸0.6mLと4.80gのケッチェンブラック(商品名ケッチェンブラックEC600J、ケッチェンブラック・インターナショナル社製、一次粒子径34nm、細孔径4nm、比表面積1520m2/g、酸素量6.1ミリモル/g)とを導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、SnCl2・2H2O、Fe(CH3COO)2及びケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に濃度12MのNaOH水溶液8.3mLを添加し、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁に薄膜が形成され、この薄膜にずり応力と遠心力が印加され、SnCl2及びFe(CH3COO)2の加水分解と重縮合反応が進行した。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、真空中180℃で12時間乾燥した。次いで、乾燥後のケッチェンブラックと、水と、グルコースとを1:0.5:1の質量比で混合し、混錬して混錬物を得た。混錬物から水を蒸発させた後、窒素中500℃で1時間熱処理することによりグルコースを熱分解し、ケッチェンブラックの表面がグルコースの熱分解物(低導電性の無定形炭素皮膜)で被覆された負極活物質を得た。
得られた負極活物質をX線粉末回折により確認したところ(図1(C)参照)、二酸化スズに加えて微量の一酸化スズとスズが生成していた。酸化鉄及びグルコースの熱分解物の回折ピークは確認されず、無定形又はナノサイズの微結晶の酸化鉄及び無定形炭素の皮膜が生成していた。また、実施例1における方法と同時方法により二酸化スズと炭素との組成比を計算したところ、反応時における仕込み量(質量比でSnO2:ケッチェンブラック=60:40)と略一致した値が得られた。さらに、TEM写真により、粒径が1〜2nmの二酸化スズの球状粒子が実質的にケッチェンブラックの内部空孔内に存在しており、一次粒子の96質量%が非凝集状態で存在していることが確認された。また、得られた負極活物質を濃度5質量%の硝酸水溶液に浸漬し、水溶液中に溶解したFeをICP分光分析により確認したところ、反応時における仕込み量(モル比でSn:Fe=1:0.1)と略一致した値が得られた。
比較例1
実施例1において用いた反応器の内筒に、10.8gのSnCl2・2H2Oを水120mLに溶解させた液を導入し、さらに濃度6Mの塩酸0.6mLと4.80gのケッチェンブラック(商品名ケッチェンブラックEC600J、ケッチェンブラック・インターナショナル社製、一次粒子径34nm、細孔径4nm、比表面積1520m2/g、酸素量6.1ミリモル/g)とを導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、SnCl2・2H2O及びケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に濃度12MのNaOH水溶液8.3mLを添加し、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁に薄膜が形成され、この薄膜にずり応力と遠心力が印加され、SnCl2の加水分解と重縮合反応が進行した。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、真空中180℃で12時間乾燥し、さらに窒素中500℃で1時間乾燥することにより、負極活物質を得た。
得られた負極活物質をX線粉末回折により確認したところ(図1(D)参照)、二酸化スズが生成していた。また、実施例1における方法と同時方法により二酸化スズと炭素との組成比を計算したところ、反応時における仕込み量(質量比でSnO2:ケッチェンブラック=60:40)と略一致した値が得られた。さらに、TEM写真により、粒径が1〜2nmの二酸化スズの球状粒子が実質的にケッチェンブラックの内部空孔内に存在しており、一次粒子の96質量%が非凝集状態で存在していることが確認された。
b.半電池の作成
実施例1〜3及び比較例1の各負極活物質0.7mgにポリフッ化ビニリデンを全体の30質量%加えて成形したものを負極とし、1MのLiPF6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとした半電池を作成した。
c.充放電特性
実施例1〜3及び比較例1の各負極活物質を使用した半電池について、レート0.2C(298mAg−1)の定電流条件で0〜2Vの電位範囲(コンバージョン反応領域を含む範囲)で充放電特性を評価した。この評価は半電池としての評価であるが、正極を用いた全電池においても同様の効果が期待できる。
まず、比較例1の負極活物質を使用した半電池について、1回目の充放電と2回目の充放電とを比較した。図2は、コンバージョン反応領域を含む0〜2Vの電位領域での1回目の充放電における電位と充放電容量の一次微分との関係(dQ/dEプロット)を示した図であり、図3は、2回目の充放電における電位と充放電容量の一次微分との関係(dQ/dEプロット)を示した図である。
図2と図3の比較より、1回目の放電において、電位約1.2V、約0.8V及び約0.2Vに最大値を有する3つの不可逆容量のピークが認められることがわかる。以下、電位1.0〜1.4Vの範囲に認められる不可逆容量を領域Iの不可逆容量、電位0.6〜1.0Vの範囲に認められる不可逆容量を領域IIの不可逆容量、電位0〜0.6Vの範囲に認められる不可逆容量を領域IIIの不可逆容量と表わす。
図4は、実施例1の負極活物質を使用した半電池についての、コンバージョン反応領域を含む0〜2Vの電位領域での1回目の充放電における電位と充放電容量の一次微分との関係(dQ/dEプロット)を示した図であり、図5は実施例2の負極活物質を使用した半電池についての対応する図であり、図6は実施例3の負極活物質を使用した半電池についての対応する図である。
図7は、ケッチェンブラックのみを負極活物質として使用した半電池について充放電試験を行った際の1回目の放電における電位と放電容量の一次微分との関係(dQ/dEプロット)を示した図である。電位約0.8V及び約0.2Vに最大値を有する2つのピークが認められることがわかる。この2つのピークが認められる電位範囲は、図2及び図4〜6における領域II及び領域IIIの不可逆容量が認められる電位範囲とほぼ一致する。この結果を参照し、図2及び図4〜6における領域Iの不可逆容量は、極わずかに残存しているコンバージョン反応の不可逆性に起因する不可逆容量、領域IIの不可逆容量は、ケッチェンブラックの表面での電解液の電気化学的分解反応に起因する不可逆容量、領域IIIの不可逆容量は、ケッチェンブラックの表面やコンバージョン反応後に生じるスズの表面における電解液の電気化学的分解反応等の複数の要因に起因する不可逆容量であると判断された。また、図2及び図4〜6の比較より、実施例1〜3の負極活物質における微量のスズと一酸化スズの生成は不可逆容量に影響を及ぼさないことがわかった。
実施例1〜3及び比較例1の負極活物質を用いた半電池についての1回目の充放電における不可逆容量と可逆容量とを表1にまとめた。
表1より、実施例1のケッチェンブラック表面に酸化鉄を担持した負極活物質も、実施例2のケッチェンブラック表面を低導電性の無定形炭素皮膜により被覆した負極活物質も、比較例1の負極活物質と比較して、可逆容量の減少量よりも不可逆容量の減少量が大きく、したがって実施例1,2の負極活物質が可逆容量の低減を抑制しつつ不可逆容量の低減を達成していることがわかる。さらに、実施例3のケッチェンブラックの表面に酸化鉄と低導電性の無定形炭素皮膜とを有する負極活物質は、実施例2の負極活物質よりもわずかに大きい可逆容量を有し、比較例1の負極活物質を基準とした不可逆容量の減少量(1377−670mAhg−1)は、実施例2の負極活物質における減少量(1377−1077mAhg−1)と実施例3の負極活物質における減少量(1377−1010mAhg−1)との合計量よりも大きかった。したがって、実施例3の負極活物質において、ケッチェンブラックの表面の酸化鉄と低導電性の無定形炭素皮膜との相乗効果により、大幅な不可逆容量の低減が達成されたことがわかる。
実施例1〜3及び比較例1の負極活物質を用いた半電池についての各領域における不可逆容量を表2にまとめた。
表2より、実施例1〜3の負極活物質の不可逆容量は、比較例1の負極活物質のものと比較して、領域Iにおいてわずかに増加しているものの、領域II及び領域IIIにおいて大幅に減少していることがわかる。
上述したように、領域IIの不可逆容量は、ケッチェンブラックの表面での電解液の電気化学的分解反応に起因する不可逆容量、領域IIIの不可逆容量は、ケッチェンブラックの表面やコンバージョン反応後に生じるスズの表面における電解液の電気化学的分解反応等の複数の要因に起因する不可逆容量であると考えられるが、実施例1〜3の負極活物質において、領域II及び領域IIIにおいて不可逆容量の減少が認められ、特に領域IIの不可逆容量の減少率が著しいことから、ケッチェンブラックの表面に存在する電解液の電気化学的分解反応を触媒する活性点が酸化鉄及び/又は低導電性の無定形炭素皮膜により被覆され、したがって電解液の電気化学的分解反応が阻害されたことが不可逆容量全体の低減に導いていると判断された。特に、実施例3の負極活物質は、領域Iにおける不可逆容量の増加が実施例1,2の負極活物質におけるものより少なく、領域II及び領域IIIにおける不可逆容量が著しく減少しており、極めて良好であった。
実施例1〜3及び比較例1の負極活物質を用いた半電池について、レート0.5Cの定電流条件で、0〜2Vの電位範囲(コンバージョン反応領域を含む範囲)での充放電サイクル試験を行った。図8は、充放電サイクル経験における放電容量の変化を示した図であり、図9は容量維持率を示した図である。いずれの負極活物質も、従来の黒鉛の理論容量372mAhg−1よりも大幅に増加した可逆容量を示し、その上、放電容量が安定してからはほとんど放電容量の減少が認められず、優れたサイクル性を示した。したがって、実施例1〜3の負極活物質は、高い可逆容量を有し、低減した初期不可逆容量を有する上に、優れたサイクル特性を有する負極活物質であった。
2.無定形炭素前駆体の影響
a.負極活物質の製造
実施例4:
実施例1において用いた反応器の内筒に、10.8gのSnCl2・2H2O及び0.870gのFe(CH3COO)2を水120mLに溶解させた液を導入し、さらに濃度6Mの塩酸0.6mLと4.80gのケッチェンブラック(商品名ケッチェンブラックEC600J、ケッチェンブラック・インターナショナル社製、一次粒子径34nm、細孔径4nm、比表面積1520m2/g、酸素量6.1ミリモル/g)とを導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、SnCl2・2H2O、Fe(CH3COO)2及びケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に濃度12MのNaOH水溶液8.3mLを添加し、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁に薄膜が形成され、この薄膜にずり応力と遠心力が印加され、SnCl2及びFe(CH3COO)2の加水分解と重縮合反応が進行した。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、真空中180℃で12時間乾燥した。次いで、乾燥後のケッチェンブラックと、水と、グルタミン酸とを1:0.5:1の質量比で混合し、混錬して混錬物を得た。混錬物から水を蒸発させた後、窒素中500℃で1時間熱処理することによりグルタミン酸を熱分解し、ケッチェンブラックの表面がグルタミン酸の熱分解物(低導電性の無定形炭素皮膜)で被覆された負極活物質を得た。
得られた負極活物質をX線粉末回折により確認したところ、二酸化スズに加えて微量の一酸化スズとスズが生成していた。酸化鉄及びグルタミン酸の熱分解物の回折ピークは確認されず、無定形又はナノサイズの微結晶の酸化鉄及び無定形炭素の皮膜が生成していた。また、実施例1における方法と同時方法により二酸化スズと炭素との組成比を計算したところ、反応時における仕込み量(質量比でSnO2:ケッチェンブラック=60:40)と略一致した値が得られた。さらに、TEM写真により、粒径が1〜2nmの二酸化スズの球状粒子が実質的にケッチェンブラックの内部空孔内に存在しており、一次粒子の96質量%が非凝集状態で存在していることが確認された。また、得られた負極活物質を濃度5質量%の硝酸水溶液に浸漬し、水溶液中に溶解したFeをICP分光分析により確認したところ、反応時における仕込み量(モル比でSn:Fe=1:0.1)と略一致した値が得られた。
実施例5:
実施例1において用いた反応器の内筒に、5.64gのSnCl2・2H2O及び0.56gのポリビニルアルコールを水120mLに溶解させた液を導入し、さらに濃度2Mの塩酸3.2mLと1.62gのケッチェンブラック(商品名ケッチェンブラックEC600J、ケッチェンブラック・インターナショナル社製、一次粒子径34nm、細孔径4nm、比表面積1520m2/g、酸素量6.1ミリモル/g)とを導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、SnCl2・2H2O、ポリビニルアルコール及びケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に濃度1MのNaOH水溶液56.4mLを添加し、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁に薄膜が形成され、この薄膜にずり応力と遠心力が印加され、SnCl2の加水分解と重縮合反応が進行した。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、真空中180℃で12時間乾燥した。次いで、乾燥後のケッチェンブラックと、水と、グルタミン酸とを1:0.5:1の質量比で混合し、混錬して混錬物を得た。混錬物から水を蒸発させた後、窒素中500℃で1時間熱処理することによりポリビニルアルコール及びグルタミン酸を熱分解し、酸化スズ粒子の表面及びケッチェンブラックの表面がそれぞれポリビニルアルコールの熱分解物及びグルタミン酸の熱分解物(低導電性の無定形炭素皮膜)で被覆された負極活物質を得た。
得られた負極活物質をX線粉末回折により確認したところ、二酸化スズに加えて微量のスズが生成していた。ポリビニルアルコール及びグルタミン酸の熱分解物の回折ピークは確認されず、無定形炭素の皮膜が生成していた。また、TG−DTA測定を空気雰囲気中で昇温速度1℃/分の条件で行い、200℃以上の重量減少量を炭素分として二酸化スズと炭素との組成比を計算したところ、反応時における仕込み量(質量比でSnO2:ケッチェンブラック=70:30)と略一致した値が得られた。さらに、TEM写真により、粒径が1〜2nmの二酸化スズの球状粒子がケッチェンブラックの内面と外面とに担持されており、一次粒子の96質量%が非凝集状態で存在していることが確認された。
実施例6:
実施例1において用いた反応器の内筒に、5.64gのSnCl2・2H2O、0.43gのFe(CH3COO)2及び0.56gのポリビニルアルコールを水120mLに溶解させた液を導入し、さらに濃度2Mの塩酸3.2mLと1.62gのケッチェンブラック(商品名ケッチェンブラックEC600J、ケッチェンブラック・インターナショナル社製、一次粒子径34nm、細孔径4nm、比表面積1520m2/g、酸素量6.1ミリモル/g)とを導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、SnCl2・2H2O、Fe(CH3COO)2、ポリビニルアルコール及びケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に濃度1MのNaOH水溶液56.4mLを添加し、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁に薄膜が形成され、この薄膜にずり応力と遠心力が印加され、SnCl2及びFe(CH3COO)2の加水分解と重縮合反応が進行した。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、真空中180℃で12時間乾燥した。次いで、乾燥後のケッチェンブラックと、水と、グルタミン酸とを1:0.5:1の質量比で混合し、混錬して混錬物を得た。混錬物から水を蒸発させた後、窒素中500℃で1時間熱処理することによりポリビニルアルコール及びグルタミン酸を熱分解し、酸化スズ粒子の表面及びケッチェンブラックの表面がそれぞれポリビニルアルコールの熱分解物及びグルタミン酸の熱分解物(低導電性の無定形炭素皮膜)で被覆された負極活物質を得た。
得られた負極活物質をX線粉末回折により確認したところ、二酸化スズに加えて微量のスズが生成していた。酸化鉄、ポリビニルアルコール及びグルタミン酸の熱分解物の回折ピークは確認されず、無定形又はナノサイズの微結晶の酸化鉄及び無定形炭素の皮膜が生成していた。また、実施例1における方法と同時方法により二酸化スズと炭素との組成比を計算したところ、反応時における仕込み量(質量比でSnO2:ケッチェンブラック=70:30)と略一致した値が得られた。さらに、TEM写真により、粒径が1〜2nmの二酸化スズの球状粒子がケッチェンブラックの内面と外面とに担持されており、一次粒子の96質量%が非凝集状態で存在していることが確認された。また、得られた負極活物質を濃度5質量%の硝酸水溶液に浸漬し、水溶液中に溶解したFeをICP分光分析により確認したところ、反応時における仕込み量(モル比でSn:Fe=1:0.1)と略一致した値が得られた。
実施例7:
実施例1において用いた反応器の内筒に、5.64gのSnCl2・2H2O、0.43gのFe(CH3COO)2及び0.56gのポリビニルアルコールを水120mLに溶解させた液を導入し、さらに濃度2Mの塩酸3.2mLと1.62gのケッチェンブラック(商品名ケッチェンブラックEC600J、ケッチェンブラック・インターナショナル社製、一次粒子径34nm、細孔径4nm、比表面積1520m2/g、酸素量6.1ミリモル/g)とを導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、SnCl2・2H2O、Fe(CH3COO)2、ポリビニルアルコール及びケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に濃度1MのNaOH水溶液56.4mLを添加し、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁に薄膜が形成され、この薄膜にずり応力と遠心力が印加され、SnCl2及びFe(CH3COO)2の加水分解と重縮合反応が進行した。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、真空中180℃で12時間乾燥した。次いで、乾燥後のケッチェンブラックと、水と、グルコースとを1:0.5:1の質量比で混合し、混錬して混錬物を得た。混錬物から水を蒸発させた後、窒素中500℃で1時間熱処理することによりポリビニルアルコール及びグルコースを熱分解し、酸化スズ粒子の表面及びケッチェンブラックの表面がポリビニルアルコールの熱分解物及びグルコースの熱分解物(低導電性の無定形炭素皮膜)で被覆された負極活物質を得た。
得られた負極活物質をX線粉末回折により確認したところ、二酸化スズに加えて一酸化スズとスズが生成していた。酸化鉄、ポリビニルアルコール及びグルコースの熱分解物の回折ピークは確認されず、無定形又はナノサイズの微結晶の酸化鉄及び無定形炭素の皮膜が生成していた。また、実施例1における方法と同時方法により二酸化スズと炭素との組成比を計算したところ、反応時における仕込み量(質量比でSnO2:ケッチェンブラック=70:30)と略一致した値が得られた。さらに、TEM写真により、粒径が1〜2nmの二酸化スズの球状粒子がケッチェンブラックの内面と外面とに担持されており、一次粒子の96質量%が非凝集状態で存在していることが確認された。また、得られた負極活物質を濃度5質量%の硝酸水溶液に浸漬し、水溶液中に溶解したFeをICP分光分析により確認したところ、反応時における仕込み量(モル比でSn:Fe=1:0.1)と略一致した値が得られた。
比較例2:
実施例1において用いた反応器の内筒に、5.64gのSnCl2・2H2O及び0.56gのポリビニルアルコールを水120mLに溶解させた液を導入し、さらに濃度2Mの塩酸3.2mLと1.62gのケッチェンブラック(商品名ケッチェンブラックEC600J、ケッチェンブラック・インターナショナル社製、一次粒子径34nm、細孔径4nm、比表面積1520m2/g、酸素量6.1ミリモル/g)とを導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、SnCl2・2H2O、ポリビニルアルコール及びケッチェンブラックを分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に濃度1MのNaOH水溶液56.4mLを添加し、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁に薄膜が形成され、この薄膜にずり応力と遠心力が印加され、SnCl2の加水分解と重縮合反応が進行した。内筒の旋回停止後に、ケッチェンブラックをろ過して回収し、真空中180℃で12時間乾燥し、さらに窒素中500℃で1時間乾燥することにより、酸化スズ粒子の表面がポリビニルアルコールの熱分解物で被覆された負極活物質を得た。さらに、TEM写真により、粒径が1〜2nmの二酸化スズの球状粒子がケッチェンブラックの内面と外面とに担持されており、一次粒子の96質量%が非凝集状態で存在していることが確認された。
得られた負極活物質をX線粉末回折により確認したところ、二酸化スズが生成していた。また、実施例1における方法と同時方法により二酸化スズと炭素との組成比を計算したところ、反応時における仕込み量(質量比でSnO2:ケッチェンブラック=70:30)と略一致した値が得られた。さらに、TEM写真により、粒径が1〜2nmの二酸化スズ粒子が実質的にケッチェンブラックの内部空孔内に存在しており、一次粒子の96質量%が非凝集状態で存在していることが確認された。
実施例6の負極活物質では二酸化スズに加えて微量のスズが生成しており、実施例7の負極活物質では二酸化スズに加えて一酸化スズとスズが生成していた(図10参照)が、この原因を調査するために以下の試験を行った。グルタミン酸或いはグルコースを環状炉に導入し、窒素気流を通過させながら1.5時間で環状炉を室温から500℃まで昇温し、次いで500℃に温度を維持した。そして、温度維持開始時から10分間に環状炉から排出された気体を採取し、ガスクロマトグラフィーにより採取した気体中の成分を定量した。
表3に、発生したガスの種類及び水素、一酸化炭素、及び二酸化炭素の組成比を示す。
表3から、グルコースの熱分解過程では、グルタミン酸の熱分解過程に比較して、還元性の化学種である水素及び一酸化炭素が多く発生していることがわかる。実施例7の負極活物質の熱処理工程において、これらの還元性の化学種により複合体の二酸化スズが還元され、一酸化スズとスズが多く生成したものと考えられる。
実施例6、実施例7及び比較例2の負極活物質について、負極活物質1gあたりの比表面積を窒素吸着法により測定した。表4にその結果を示す。
表4から、グルコースの熱分解により得られた無定形炭素層を含む実施例7の負極活物質が、無定形炭素層を含まない比較例2の負極活物質より低下した比表面積を有していることがわかる。また、グルタミン酸の熱分解により得られた無定形炭素層を含む実施例6の負極活物質は、実施例7及び比較例2の負極活物質より著しく低下した比表面積を有していることがわかる。これらの結果から、無定形炭素層の形成により負極活物質(複合体)の比表面積が低下することがわかった。また、実施例7の負極活物質では複合体が疎な無定形炭素層により覆われているのに対し、実施例6の負極活物質では複合体が緻密な無定形炭素層により覆われていると判断された。
b.半電池の作成
実施例4〜7及び比較例2の各負極活物質0.7mgにポリフッ化ビニリデンを全体の30質量%加えて成形したものを負極とし、1MのLiPF6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を電解液とし、対極をリチウムとした半電池を作成した。
c.充放電特性
実施例4〜7及び比較例2の各負極活物質を使用した半電池について、レート0.2C(298mA/g)の定電流条件で0〜2Vの電位範囲(コンバージョン反応領域を含む範囲)で充放電特性を評価した。この評価は半電池としての評価であるが、正極を用いた全電池においても同様の効果が期待できる。表5に、1回目の充放電における不可逆容量と可逆容量とをまとめた。
表5より、いずれの負極活物質も従来の黒鉛の理論容量372mAh/gよりも大幅に増加した可逆容量を有していることがわかる。また、比較例1の負極活物質についての測定結果(表2参照)を比較例2の負極活物質についての測定結果(表5参照)と比較すると、比較例2の負極活物質が低下した不可逆容量を有していることがわかる。この結果は、比較例2の負極活物質の製造過程において酸化スズ粒子をポリビニルアルコールの熱分解物で被覆することにより、負極活物質における酸化スズの含有量を増加させ、ケッチェンブラックの含有量を低下させることができたことを反映したものであると考えられる。さらに、表5から把握されるように、実施例5〜7の負極活物質、すなわち、ケッチェンブラックの表面を被覆している無定形炭素皮膜を有する負極活物質は、比較例2の負極活物質、すなわち、ケッチェンブラックの表面を被覆している無定形炭素皮膜を有しておらず且つ同量のスズ含有量を有する負極活物質と比較して、わずかに低下した可逆容量と大幅に低下した不可逆容量を有していた。したがって、実施例5〜7の負極活物質が可逆容量の低減の抑制と不可逆容量の大幅な低減を達成していることがわかる。
実施例4の負極活物質と実施例3の負極活物質は、いずれもケッチェンブラックの表面に酸化スズ粉末、酸化鉄及び無定形炭素皮膜を有する負極活物質であり、負極活物質における酸化スズ及び酸化鉄の含有量が同じであり、製造過程で使用された無定形炭素前駆体の種類のみが異なる負極活物質である。また、実施例6の負極活物質と実施例7の負極活物質は、いずれもケッチェンブラックの表面にポリビニルアルコールの熱分解物で被覆された酸化スズ粉末、酸化鉄及び無定形炭素皮膜を有する負極活物質であり、負極活物質における酸化スズ及び酸化鉄の含有量が同じであり、製造過程で使用された無定形炭素前駆体の種類のみが異なる負極活物質である。表2及び表5より、グルタミン酸由来の無定形炭素皮膜を有する実施例4及び実施例6の負極活物質が、グルコース由来の無定形炭素皮膜を有する実施例3及び実施例7の負極活物質と比較して、顕著に低下した不可逆容量を有していることがわかる。この結果は、グルタミン酸由来の無定形炭素皮膜がグルコース由来の無定形炭素皮膜より緻密であり、この緻密な無定形炭素皮膜により電解液の電気化学的分解が効果的に抑制されたことを反映したものであると考えられる。特にグルタミン酸の熱分解から得られた緻密な無定形炭素層と酸化鉄とを含む実施例6の負極活物質は、顕著に低減した初期不可逆容量を有していた。
同量のスズ含有量を有する実施例5〜7及び比較例2の負極活物質を用いた半電池について、レート0.5Cの定電流条件で、0〜2Vの電位範囲(コンバージョン反応領域を含む範囲)での充放電サイクル試験を行った。表6に、20回目及び100回目の充放電サイクル試験後の可逆容量の維持率をまとめた。
実施例5,6及び比較例2の負極活物質は同等の容量維持率を示し、100回の充放電サイクル試験を経験後でも75%を超える容量維持率を示した。したがって、実施例5,6の負極活物質は、高い可逆容量を有し、大幅に低減した初期不可逆容量を有する上に、優れたサイクル特性を有する負極活物質であった。実施例7の負極活物質では、還元性の化学種により複合体の二酸化スズが還元され、凝集したスズが多く発生していたため、充放電サイクル試験における安定性が低下したものと考えられる。