以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.被切断材料>
まず、本実施形態の被切断材料W(図1参照)について説明する。なお、以下の説明において、「被切断材料Wの表面」は、被切断材料Wの厚さ方向に垂直な2つの平面のうち、レーザビームLB(図2参照)が照射される面を意味する。「被切断材料Wの裏面」は、被切断材料Wの厚さ方向に垂直な2つの平面のうち、「被切断材料Wの表面」に対向する面を意味する。
本実施形態の被切断材料Wに求められる要件は以下の2つである。(1)レーザビームLBによる熱エネルギーによって溶融する。(2)酸素によって酸化され、これによって発生した熱エネルギーによって溶融する。すなわち、本実施形態に係るレーザ切断方法は、レーザビームLBによる熱エネルギーと、酸素と被切断材料Wとの反応によって生じた熱エネルギーとを併用することで、被切断材料Wを切断するものである。これらの要件を満たす被切断材料W、すなわち本実施形態に適用可能な被切断材料Wとしては、例えば軟鋼が挙げられる。なお、被切断材料Wの板厚は特に制限されないが、本実施形態は、板厚が19mmより大きく25mm以下の厚板に特に好適である。本実施形態は、板厚が19mmより大きく25mm以下の厚板を切断した場合であっても、レーザ切断材料(被切断材料WをレーザビームLBにより切断することで作製される材料)のコーナ部の溶け落ち量を低減することができる。
ここで、レーザ切断材料のコーナ部は、互いに異なる方向に伸びる切断面(断面)が交差する箇所、すなわち幾何学上の「角」を構成する部分である。本実施形態では、互いに異なる方向に伸びる切断面が曲面状の切断面(以下、「切断曲面」とも称する)を介して連結される場合、この切断曲面部分もコーナ部に含まれる。この場合、互いに異なる方向に伸びる切断面を長さ方向に延長した面によって幾何学上の「角」が形成される。また、コーナ部の角度は、互いに異なる方向に伸びる切断面(またはこれらの切断面を長さ方向に延長した面)同士が交差する角度である。このように、コーナ部は、互いに異なる方向に伸びる2つの切断面(またはこれらの切断面及び切断曲面)によって構成される。
<2.レーザ切断装置の構成>
次に、図1〜図3にもとづいて、本発明の実施形態に係るレーザ切断装置1の構成について説明する。レーザ切断装置1は、図1に示すように、台車2と、レール3と、レーザ発振器4と、ミラーボックス5a〜5cと、レーザ導通管5dと、レーザ振動部6と、トーチ部7と、制御装置8とを備える。
台車2は、レール3上を図1中X軸方向(正方向または負方向)に移動するものであり、第1側面部2a、第2側面部2b、第1底面部2c、及び第2底面部2dを備える。台車2の移動は制御装置8により制御される。第1側面部2aは、台車2の側面を構成し、レール3の長さ方向に伸びる。第2側面部2bは、台車2の側面を構成し、第1側面部2aの長さ方向の一方の端部に設けられる。第2側面部2bの高さは第1側面部2aの高さよりも大きい。
第1底面部2cは、第1側面部2aの上端部同士を連結する平面であり、第1底面部2c上にレーザ発振器4及び制御装置8が載せられる。第2底面部2dは、第2側面部2bの上端部同士を連結する平面であり、第2底面部2d上にミラーボックス5a〜5cが載せられる。第2底面部2dには、第2底面部2dを厚さ方向に貫通する貫通穴2eが第2底面部2dの長さ方向に亘って形成されている。この貫通穴2eには、レーザ導通管5dが通される。
レーザ発振器4は、例えばCO2レーザ発振器であり、レーザビームLBをミラーボックス5aに向けて射出する。ミラーボックス5aは、第2底面部2dの長さ方向の両端部の内、一方の端部に設けられる。ミラーボックス5aは、ミラーを内蔵しており、ミラーボックス5aに到達したレーザビームLBをミラーボックス5bに向けて反射する。
ミラーボックス5bは、第2底面部2dの長さ方向の両端部の内、他方の端部に設けられる。ミラーボックス5bは、ミラーを内蔵しており、ミラーボックス5bに到達したレーザビームLBをミラーボックス5cに向けて反射する。すなわち、ミラーボックス5bは、レーザビームLBの光路長を調整するものである。
ミラーボックス5cは、ミラーボックス5a、5bの間に配置される。ミラーボックス5cは、ミラーを内蔵しており、ミラーボックス5cに到達したレーザビームLBをレーザ振動部6に向けて反射する。また、ミラーボックス5cは、第2底面部2d上をY軸方向(正方向及び負方向)に移動可能となっている。ミラーボックス5cの移動は制御装置8によって制御される。レーザ導通管5dは、ミラーボックス5cの下端部に設けられ、ミラーボックス5cとレーザ振動部6とを連結する。また、レーザ導通管5dは、ミラーボックス5cで反射されたレーザビームLBをレーザ振動部6に伝達する。
レーザ振動部6は、レーザ導通管5dの下端部に設けられる。レーザ振動部6は、図2に示すように、ミラーボックス6aと、ミラー6b、6dと、ミラーホルダー6c、6eと、ピエゾ素子6fとを備える。ミラーボックス6aは、中空構造となっており、ミラー6b、6dと、ミラーホルダー6c、6eと、ピエゾ素子6fとを格納する。レーザ振動部6に導入されたレーザビームLBは、ミラー6b、6dに反射された後、トーチ部7に導入される。
ミラー6bは、ミラーホルダー6cによってミラーボックス6a内に固定される。また、ミラー6bの反射面は、ミラー6d及び後述する集光レンズ7dに対向している。ミラー6dは、ミラーホルダー6eに固定されている。また、ミラー6dの反射面は、ミラー6bの反射面に対向している。ミラーホルダー6eは、ピエゾ素子6fによって互いに直交する2つの回動方向に回動可能となっている。なお、ミラー6dはミラーホルダー6eと一体となって回動する。ミラーホルダー6e、すなわちミラー6dが一方の回動方向(第1の回動方向)に回動することで、レーザビームLBの集光点Pが図1中X軸方向に移動する。また、ミラーホルダー6e、すなわちミラー6dが他方の回動方向(第2の回動方向)に回動することで、レーザビームLBの集光点Pが図1中Y軸方向に移動する。ピエゾ素子6fは、ミラーホルダー6eに設けられており、電気的に伸縮することで、ミラーホルダー6e、すなわちミラー6dを2つの回動方向に回動させる。ピエゾ素子6fの伸縮、すなわちミラー6dの回動は制御装置8によって制御される。
制御装置8は、トーチ部7、すなわち集光点PをXY軸方向に移動させる一方、集光点Pをトーチ部7の移動方向と直交する方向に振動させることで、集光点Pの軌跡を正弦波形状とする。具体的には、制御装置8は、ミラーボックス5cをY軸方向に移動させる際に、ミラー6dを第1の回動方向に振動させる。これにより、制御装置8は、トーチ部7をY軸方向に進行させ、かつ、集光点PをX軸方向に振動させる。一方、制御装置8は、台車2をX軸方向に移動させる際に、ミラー6dを第2の回動方向に振動させる。これにより、制御装置8は、トーチ部7をX軸方向に進行させ、かつ、集光点PをY軸方向に振動させる。これにより、集光点Pの軌跡は正弦波形状となる。
なお、本実施形態では、ミラー6dを2つの回動方向に回動させることとしたが、ミラー6dを第1の回動方向(または第2の回動方向)に回動させ、かつ、ミラー6bを第2の回動方向(または第1の回動方向)に回動させるようにしてもよい。この場合、ミラーホルダー6cにもピエゾ素子が設けられる。また、ミラー6b、6dは直接または間接的に水冷されてもよい。また、レーザビームLBの伝送方向から見てミラー6dの手前のミラー、例えばミラーボックス5cに内蔵されたミラーに同様の機能を具備させることでレーザ振動部6を省略し、前記ミラー以降のレーザ光路を直線化してミラーボックス5cとトーチ部7とを直結することもできる。その場合、トーチ7の長さを適切な長さに延長して、トーチ7と被切断材料Wの距離を適切に保つ必要があることは言うまでもない。
トーチ部7は、レーザビームLBを被切断材料Wに集光照射するものであり、トーチ本体部7aと、レーザ加工ノズル7bと、アシストガス供給口7cと、集光レンズ7dとを備える。トーチ本体部7aは、中空構造となっている。トーチ本体部7aの上端に集光レンズ7dが配置され、側面にアシストガス供給口7cが配置され、下端(先端)にレーザ加工ノズル7bが配置される。レーザビームLBは、トーチ本体部7aの中空部を通ってレーザ加工ノズル7bから被切断材料Wに集光照射される。
レーザ加工ノズル7bは、レーザビームLB及びアシストガスの出口となる開口面である。アシストガス供給口7cは、図示しないアシストガス供給装置から供給されるアシストガスをトーチ本体部7aの中空部に導入する。アシストガスは、酸素ガスとなる。トーチ本体部7aの中空部に導入されたアシストガスは、レーザ加工ノズル7bからレーザビームLBと同軸方向に噴射され、被切断材料Wに吹きつけられる。
集光レンズ7dは、トーチ本体部7a内に導入されたレーザビームLBを被切断材料Wに集光することで、被切断材料WにレーザビームLBの集光点Pを形成する。また、集光レンズ7dは、レーザ振動部6とトーチ部7との隔壁の役割も果たすので、容易にレーザ振動部6の気密性を保つことができる。ここで、集光点Pは、被切断材料Wの表面に形成してもよく、被切断材料Wの内部または上方に形成してもよい。
制御装置8は、図3に示すように、制御部8aと、移動速度検出部8bと、演算部8cと、振動制御部8dと、アシストガス制御部8eとを備える。ここで、制御装置8は、CPU、ROM、RAM等のハードウェア構成を備え、これらのハードウェア構成によって制御部8aと、移動速度検出部8bと、演算部8cと、振動制御部8dと、アシストガス制御部8eとが実現される。すなわち、ROMには、制御部8aと、移動速度検出部8bと、演算部8cと、振動制御部8dと、アシストガス制御部8eとを実現するために必要なプログラムが記録されており、CPUは、ROMに記録されたプログラムを読みだして実行する。これにより、制御部8aと、移動速度検出部8bと、演算部8cと、振動制御部8dと、アシストガス制御部8eとが実現される。
制御部8aは、レーザ切断装置1全体の制御を行う他、以下の処理を行う。すなわち、制御部8aは、レーザ発振器4からレーザビームLBを射出させる。また、制御部8aは、トーチ部7を予め設定された経路(走査線)、及び移動速さ(送り速さ)に従って移動させる。具体的には、制御部8aは、台車2及びミラーボックス5cを移動させることで、トーチ部7を移動させる。トーチ部7の経路、及び移動速さは例えばレーザ切断装置1のユーザによって予め設定される。また、制御部8aは、トーチ部7の現在の移動速度(移動速さ及び方向)に関するトーチ部移動速度情報を生成し、移動速度検出部8bに出力する。なお、トーチ部7の移動速度は、図1中のX軸方向の速度成分と、Y軸方向の速度成分とで示される。
移動速度検出部8bは、制御部8aからトーチ部移動速度情報を取得し、演算部8cに出力する。なお、光学式または電磁式の位置センサをレーザ振動部6の下端面(被切断材料Wに対向する面)に設けておき、移動速度検出部8bは、この位置センサからの信号にもとづいて、トーチ部7の現在の移動速度を算出してもよい。
演算部8cは、トーチ部移動速度情報にもとづいて、集光点Pの振動の方向と振動の時間周波数、及びピエゾ素子6fの駆動電圧を決定する。具体的には、演算部8cは、集光点Pの振動方向がトーチ部7の移動方向と直交するように、集光点Pの振動方向を決定する。
また、演算部8cは、トーチ部7の移動速さと、以下の式(1)とにもとづいて、集光点Pの振動の時間周波数を算出(決定)する。
ここで、fは集光点Pの振動の時間周波数(Hz)であり、cは定数であり、vはトーチ部7の移動速さ(mm/s)である。
ここで、cは集光点Pの振動の空間周波数、すなわちトーチ部7の移動方向の単位長さ(mm)あたりに生じるレーザ条痕の数に一致する。したがって、cの逆数は、レーザ条痕の幅(ピッチ)に一致する。cを大きくすればレーザ条痕のピッチが小さくなり、cを小さくすればレーザ条痕のピッチが大きくなる。発明者の実験によれば、cは2以上6以下が好ましく、より好ましくはc=4である。c=4の場合、レーザ条痕のピッチは0.25(mm)となる。
ここで、レーザ条痕は、被切断材料Wの切断面に生じる条痕のうち、目視により1つ1つが識別可能な条痕を意味する。レーザ条痕の形成には、レーザビームLBによる熱エネルギーが被切断材料Wの酸化反応による熱エネルギーよりも大きく寄与する。レーザ条痕が長いほど、切断面の美観が向上する。本実施形態では、後述するように、集光点Pが振動しない(すなわち、集光点Pがトーチ部7の移動方向に垂直な方向に振動しない)場合よりもレーザ条痕を長くすることができる。
演算部8cは、例えば、以下の式(2)にもとづいて、ピエゾ素子6fの駆動電圧を算出する。
ここで、Aはピエゾ素子6fの駆動電圧(V)であり、vはトーチ部7の移動速さ(mm/s)である。式(2)によれば、トーチ部7の移動速さが大きいほど、ピエゾ素子6fの駆動電圧が小さくなる。例えば、トーチ部7の移動速さが500(mm/min)=8.33(mm/s)となる場合、ピエゾ素子6fの駆動電圧は1.5(V)となる。
ここで、ピエゾ素子6fの駆動電圧は、集光点Pの振幅に対応する値である。ピエゾ素子6fの駆動電圧が大きいほど、集光点Pの振幅が大きくなる。したがって、トーチ部7の移動速さが大きいほど、集光点Pの振幅が小さくなる。例えば、ピエゾ素子6fの駆動電圧が1.5(V)となる場合、集光点Pの振幅は80μmに設定される。したがって、トーチ部7の移動速さが620(mm/min)=10.3(mm/s)となる場合、ピエゾ素子6fの駆動電圧は式(2)により1.2(V)となり、集光点Pの振幅は80×1.2/1.5=64(μm)となる。
なお、集光点Pの振幅をレーザビームLBのスポット径で除算した値は、0.04以上0.2以下であることが好ましい。ここで、レーザビームLBのスポット径は、被切断材料Wの表面のうち、レーザビームLBが照射される部分(いわゆるスポット)の直径である。この条件が満たされる場合、被切断材料W裏面での溶け落ち量が抑制される。
演算部8cは、上記の各パラメータの他、アシストガス圧を決定してもよい。すなわち、本発明者は、カーフ幅が大きくなるほどアシストガス圧を低下させることで、切断面の美観が向上することを見出した。ここで、カーフ幅は、レーザビームLBの集光照射により溶融した部分、すなわちカーフの幅である。本実施形態では、集光点Pはトーチ部7の移動方向と直交する方向に振動するので、カーフ幅は集光点Pが振動しない場合よりも拡大する。集光点Pの振幅が大きいほど、カーフ幅は拡大する。したがって、演算部8cは、集光点Pの振幅が大きくなるほど、アシストガス圧を小さくする。
例えば、演算部8cは、カーフ幅が0.7mmとなる場合のアシストガス圧を0.025MPaに決定し、カーフ幅が0.82mmとなる場合のアシストガス圧を0.020Mpaに決定してもよい。なお、アシストガス圧の具体的な値は、被切断材料Wの種類毎に設定される。
演算部8cは、集光点Pの振動方向、振動の時間周波数、及びピエゾ素子6fの駆動電圧に関する振動制御情報を生成し、振動制御部8dに出力する。演算部8cは、アシストガス圧を決定した場合には、アシストガス圧に関するアシストガス制御情報を生成し、アシストガス制御部8eに出力する。
振動制御部8dは、演算部8cから与えられた振動制御情報にもとづいて、ピエゾ素子6fを駆動する。具体的には、振動制御部8dは、集光点Pの振動方向がX軸方向となる場合、ミラー6dが第1の回動方向に振動するように、ピエゾ素子6fを駆動する。また、振動制御部8dは、ミラー6dを集光点Pの振動の時間周波数で振動させる。また、振動制御部8dは、ピエゾ素子6fを振動制御情報が示す駆動電圧で駆動する。アシストガス制御部8eは、アシストガスを予め設定されたアシストガス圧及び流量でトーチ本体部7a内に導入する。アシストガス制御部8eは、アシストガス制御情報が与えられた場合には、アシストガスをアシストガス制御情報が示すアシストガス圧でトーチ本体部7a内に導入する。
<3.レーザ切断方法>
次に、レーザ切断装置1の動作、すなわちレーザ切断装置1を用いたレーザ切断方法について説明する。
制御部8aは、レーザ発振器4にレーザビームLBを射出させる。レーザビームLBは、ミラーボックス5a〜5c、レーザ振動部6、及びトーチ部7を通って被切断材料Wに集光照射される。さらに、制御部8aは、トーチ部7を予め設定された経路、及び移動速さ(送り速さ)に従って移動させる。また、制御部8aは、トーチ部7の現在の移動速度に関するトーチ部移動速度情報を生成し、移動速度検出部8bに出力する。
次いで、移動速度検出部8bは、制御部8aからトーチ部移動速度情報を取得し、演算部8cに出力する。演算部8cは、トーチ部移動速度情報にもとづいて、集光点Pの振動方向、振動の時間周波数、及びピエゾ素子6fの駆動電圧を決定する。演算部8cは、アシストガス圧を決定してもよい。演算部8cは、集光点Pの振動方向、振動の時間周波数、及びピエゾ素子6fの駆動電圧に関する振動制御情報を生成し、振動制御部8dに出力する。演算部8cは、アシストガス圧を決定した場合には、アシストガス圧に関するアシストガス制御情報を生成し、アシストガス制御部8eに出力する。
振動制御部8dは、演算部8cから与えられた振動制御情報にもとづいて、ピエゾ素子6fを駆動する。アシストガス制御部8eは、アシストガスを予め設定されたアシストガス圧及び流量でトーチ本体部7a内に導入する。アシストガス制御部8eは、アシストガス制御情報が与えられた場合には、アシストガスをアシストガス制御情報が示すアシストガス圧でトーチ本体部7a内に導入する。トーチ本体部7a内に導入されたアシストガスは、レーザ加工ノズル7bからレーザビームLBと同軸方向に噴射され、被切断材料Wに吹きつけられる。
これにより、レーザ切断装置1は、レーザビームLBを被切断材料Wに集光照射し、レーザビームLBの集光点Pを被切断材料W上でトーチ部7の移動方向と直交する方向に振動させながら走査する。これにより、レーザ切断装置1は、被切断材料Wを切断する。具体的には、被切断材料Wは、レーザビームLBの熱エネルギーを吸収することで、溶融する。さらに、レーザ切断装置1は、アシストガス(酸素ガス)をレーザビームLBと同軸方向に噴射する。未溶融の被切断材料Wは、溶融した被切断材料W(例えば溶鋼。以下、「溶融材料」とも称する。)から熱エネルギーが与えられ、昇温する。そして、昇温した未溶融の被切断材料Wは、酸素ガスによって酸化され、これによって発生した熱エネルギーによっても溶融する。溶融材料は、アシストガスにより被切断材料Wの下方から排出される。これにより、被切断材料Wが切断される。レーザ切断装置1は、被切断材料Wを切断することで、所望の形状のレーザ切断材料を作製する。
ここで、レーザ切断装置1は、レーザビームLBの集光点Pを被切断材料W上でトーチ部7の移動方向と直交する方向に振動させるので、カーフの幅を集光点Pが振動しない場合よりも大きくすることができる。したがって、レーザ切断装置1は、集光点Pが振動しない場合よりも溶融材料を効率よく排出することができる。
さらに、レーザ切断装置1は、レーザビームLBの集光点Pを被切断材料W上でトーチ部7の移動方向と直交する方向に振動させるので、被切断材料Wの切断面に一定の空間周波数でレーザビームLBを接触させることができる。したがって、切断面に形成されるレーザ条痕の幅(ピッチ)を一定にすることができる。ここで、レーザ条痕の幅が一定であるとは、レーザ条痕の最大幅(最大ピッチ)と最小幅(最小ピッチ)との比(最大幅/最小幅)が2未満であることを意味する。
ここで、レーザ条痕は、上述したように、被切断材料Wの切断面に生じる条痕のうち、目視により1つ1つが識別可能な条痕を意味する。レーザ条痕の形成には、レーザビームLBによる熱エネルギーが被切断材料Wの酸化反応による熱エネルギーよりも大きく寄与する。レーザビームLBの熱エネルギーにより溶融する部分は、レーザビームLBが通過する部分及びその周辺の一定領域に限られるので、レーザ条痕の各々は目視により区別可能である。一方、昇温した未溶融の被切断材料Wはランダムに酸化反応を起こす。したがって、レーザ条痕以外の条痕、すなわち被切断材料Wの酸化反応による熱エネルギーがレーザビームLBによる熱エネルギーよりも大きく寄与することで形成された条痕は、目視により区別できない。
このように、レーザ条痕は、切断面の美観に大きく寄与する。本実施形態では、レーザ条痕の幅(ピッチ)を一定にすることができるので、切断面形状が規則的になり、ひいては、切断面の美観が向上する。具体的には、本実施形態のレーザ条痕の最大幅と最小幅との比(最大幅/最小幅)は2未満である。一方、集光点Pを振動させずに走査することで形成されるレーザ条痕の最大幅と最小幅との比は2以上となる。詳細は後述する実施例及び比較例にて示す。
さらに、本実施形態では、レーザ条痕の幅(ピッチ)が一定となるので、レーザ条痕を通る溶融材料の流速が一定となる。すなわち、カーフ内での溶融材料の流れが安定する。これにより、被切断材料Wの下方から排出される溶融材料の量がカーフの長さ方向で一定となる。
一方、集光点Pを振動させずに形成したレーザ条痕の幅(ピッチ)はばらつくので、レーザ条痕を通る溶融材料の流速もばらつく。すなわち、溶融材料の流速に脈動が生じる。そして、例えば隣接するレーザ条痕の幅(ピッチ)の比が2倍以上となる領域では、溶融材料がカーフの側方に溢れる。被切断材料Wを構成する材料のうち、溶融材料に接触した部分は昇温し、酸化反応を起こす。そして、酸化反応を起こした部分は、当該酸化反応により発生した熱エネルギーによって溶融する。このため、溶け落ちが発生する。また、溶融材料が過剰に生成されるので、カーフ内で溶融材料が詰まる場合がある。カーフ内に詰まった材料は、未溶融の被切断材料Wを昇温する。昇温した未溶融の被切断材料Wは、酸化反応を起こし、この酸化反応によって発生した熱エネルギーにより溶融する。したがって、溶融材料がさらに過剰になるので、溶け落ち量が増大する他、切断面のえぐれ、セルフバーニングも発生しやすくなる。
これに対し、本実施形態では、被切断材料Wの下方から排出される溶融材料の量がカーフの長さ方向で一定となるので、裏面の溶け落ち量が低減し、切断面のえぐれ、及びセルフバーニングの発生も抑制される。
本実施形態に係るレーザ切断装置1は、特に、コーナ部の形成においても、上述した処理を行う。これにより、レーザ切断装置1は、コーナ部の溶け落ち量を低減することができ、かつ、コーナ部の美観を向上することができる。すなわち、上述したように、レーザ切断装置1が被切断材料Wのコーナ部を形成する場合、集光点Pのトーチ部7の移動速さが低下する。例えばコーナ部の角度が90度となる場合、コーナ部の頂点でトーチ部7の移動速さが一旦ゼロとなり、その後、トーチ部は、コーナ部の頂点に到達するまでの経路と直交する経路上を移動する。
このため、レーザビーム及び被切断材料Wの酸化反応による熱エネルギーがコーナ部で過剰になりやすい。しかし、レーザ切断装置1は、集光点Pを振動させることで、溶融材料のコーナ部での流れを安定させることができるので、コーナ部の溶け落ち量を低減することができる。
具体的には、後述する実施例で示されるように、レーザ切断装置1を用いて板厚が19mmより大きい被切断材料Wを切断することで、コーナ部の溶け落ち量を0.3mm以内に抑えることができる。これに対し、後述する比較例で示されるように、従来の切断方法(集光点Pを振動させない切断方法)を用いて板厚が19mmより大きい被切断材料Wを切断した場合、コーナ部の溶け落ち量は0.3mmを大幅に超える。したがって、本実施形態では、板厚が19mmより大きく、かつコーナ部の溶け落ち量が0.3mm以下のレーザ切断材料を提供することができる。
ここで、図4に基づいて、コーナ部の溶け落ち量の評価方法について説明する。すなわち、コーナ部200を構成する2つの切断面100、101と裏面102との交点P1から、各切断面100、101の下端部(裏面側の端部)のうち、溶け落ちが終了した部分P2、P3までの長さL1、L2を測定する。なお、コーナ部が2つの切断面及びこれらを連結する切断曲面により構成される場合には、これらの切断面を長さ方向に延長した面と裏面との交点から、各切断面の下端部のうち、溶け落ちが終了した部分までの長さをコーナ部の長さとして測定する。そして、2つの測定値の内、値が大きいものをコーナ部の溶け落ち量とする。本実施形態に係るレーザ切断材料は、図4の長さL1、L2がいずれも0.3mm以下となる。
また、本実施形態では、レーザ条痕を通る溶融材料の流速が一定となることから、本実施形態のレーザ条痕は、集光点Pを振動させずに形成したレーザ条痕よりも長くなる。この点でも、切断面の美観が向上し、かつ、カーフ内での溶融材料の流れが安定する。このように、レーザ条痕の幅(ピッチ)を一定とすること、及びレーザ条痕を長くすることは、裏面の溶け落ち量を低減するための手段であるとともに、切断面の美観を向上するという効果も有する。すなわち、レーザ切断材料には、切断面の美観を向上することが求められている。これに対し、本実施形態では、レーザ条痕を一定にし、かつレーザ条痕を長くすることで、切断面の美観を向上するという目的を達成することができる。
<4.レーザ切断材料>
次に、上記のレーザ切断装置1及びレーザ切断方法により作製されるレーザ切断材料、すなわち本実施形態に係るレーザ切断材料の構成について説明する。
図4に示すように、レーザ切断材料のコーナ部200の溶け落ち量は、集光点Pを被切断材料W上で振動させずに走査することで形成されたレーザ切断材料(従来のレーザ切断材料)よりもコーナ部の溶け落ち量が少ない。具体的には、本実施形態に係るレーザ切断材料では、板厚が19mmより大きくても、コーナ部200の溶け落ち量が0.3mm以下となる。これに対し、従来のレーザ切断材料では、板厚が19mmより大きい場合、コーナ部の溶け落ち量が0.3mmを大幅に超える。したがって、本実施形態に係るレーザ切断材料では、コーナ部の美観が従来のレーザ切断材料よりも大幅に向上する。
また、本実施形態に係るレーザ切断材料では、切断面(例えば切断面100、101)に形成されるレーザ条痕の幅を一定にすることができる。具体的には、レーザ条痕の最大幅(最大ピッチ)と最小幅(最小ピッチ)との比(最大幅/最小幅)が2未満となる。これに対し、従来のレーザ切断材料では、切断面に形成されるレーザ条痕の幅がばらつく。具体的には、レーザ条痕の最大幅(最大ピッチ)と最小幅(最小ピッチ)との比(最大幅/最小幅)が2以上となる。また、本実施形態に係るレーザ切断材料では、従来のレーザ切断材料よりもレーザ条痕が長くなる。したがって、本実施形態に係るレーザ切断材料では、切断面の美観が従来のレーザ切断材料よりも大幅に向上する。
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。実施例及び比較例では、被切断材料WとしてSS400黒皮材を用いた。板厚は25mmであった。また、実施例の切断条件を以下のように設定した。
集光レンズのf(焦点距離)=8.75インチ=222.25(mm)
レーザ出力:4300(W)
パルス周波数:1000(Hz)
パルスデューティ:70%
トーチ部7の移動速さ:620mm/min
酸素圧力0.25kgf/cm2=0.025MPa
倣い高さ(レーザ加工ノズル7bから被切断材料Wの表面までの距離):2(mm)
焦点位置(集光点PのZ座標値。Z軸は図1に示される。また、Z軸の原点は被切断材料Wの表面に配置される。):−0.5mm
アシストガス流量:80L/min
また、振動条件を以下のように設定した。
集光点Pの振動の振幅:64(μm)
集光点Pの振動の時間周波数:41.3(Hz)
式(1)中のc=4(トーチ部7の移動方向の単位長さ(mm)あたりにレーザ条痕は4つ形成される。レーザ条痕の幅の理論値は0.25mm。)
なお、振動条件は、トーチ部7の移動速さが500(mm/min)となる場合に集光点Pの振幅が80μmとなるように設定された。すなわち、トーチ部7の移動速さが500(mm/min)となる場合のピエゾ素子6fの駆動電圧は1.5(V)となる。したがって、トーチ部7の移動速さが620(mm/min)となる場合のピエゾ素子6fの駆動電圧は1.2(V)となり、集光点Pの振幅は80×1.2/1.5=64(μm)となる。さらに、集光点Pの振動の時間周波数は、4×620/60=41.3(Hz)となる。
実施例では、上記の切断条件、振動条件の下で被切断材料Wを切断した。また、コーナ部として、90度の角度のコーナ部を形成した。
比較例では、上記の切断条件の下で(集光点Pの振動は行わずに)被切断材料Wを切断した。また、コーナ部として、90度の角度のコーナ部を形成した。
実施例により作製されたレーザ切断材料の切断面の写真を図5、6に、比較例により作製されたレーザ切断材料の切断面の写真を図7、8に示す。なお、これらの写真は、レーザ条痕を拡大して示している。また、図5、図7の数値はレーザ条痕の幅(ピッチ)の大きさ(単位はmm)をしめし、図6、図8の数値はレーザ条痕の長さ(単位はmm)を示している。
図5に示すように、実施例では、レーザ条痕の最大幅が0.28、最小幅が0.23となるので、これらの比は1.2となり、2以下となる。さらに、図6に示すように、実施例では、レーザ条痕の長さは最大で4.3mmとなる。また、コーナ部の溶け落ち量は0.25mm程度であった。
一方、図7に示すように、比較例では、レーザ条痕の最大幅が0.34、最小幅が0.14となるので、これらの比は2.4となり、2を超える。さらに、図8に示すように、比較例では、レーザ条痕の長さは最大でも2.0(mm)となる。また、コーナ部の溶け落ち量は0.45mm程度であった。
以上により、本実施形態によるレーザ切断材料は、集光点Pを被切断材料W上でトーチ部7の移動方向と直交する方向に振動させずに走査することで形成されたレーザ切断材料よりもコーナ部の溶け落ち量が少ない。したがって、本実施形態によるレーザ切断材料は、コーナ部の溶け落ち量を従来よりも低減することができる。特に、本実施形態では、板厚が19mmより大きい厚板であっても、コーナ部の溶け落ち量を0.3mm以下にすることができる。
さらに、本実施形態のレーザ切断材料の断面に形成されたレーザ条痕の最大幅と最小幅との比は、集光点Pを振動させずに走査することで被切断材料Wの断面に形成されたレーザ条痕の最大幅と最小幅との比よりも小さい。すなわち、本実施形態のレーザ条痕の幅(ピッチ)は一定となる。このため、本実施形態では、カーフ内での溶鋼流れが安定するので、コーナ部の溶け落ち量が低減する。さらに、切断面のえぐれ、セルフバーニングの発生も抑制される。さらに、本実施形態では、レーザ切断材料の美観が向上する。
さらに、本実施形態のレーザ切断材料の断面に形成されたレーザ条痕は、集光点Pを振動させずに走査することで被切断材料Wの断面に形成されたレーザ条痕よりも長い。このため、本実施形態では、カーフ内での溶鋼流れが安定するので、コーナ部の溶け落ち量が低減する。さらに、切断面のえぐれ、セルフバーニングの発生も抑制される。さらに、本実施形態では、レーザ切断材料の美観が向上する。
さらに、本実施形態に係るレーザ切断方法は、集光点Pを被切断材料W上でトーチ部7の移動方向と交差する方向に振動させながら走査することで、被切断材料Wのコーナ部を形成する。したがって、本実施形態に係るレーザ切断方法は、コーナ部の溶け落ち量を低減することができる。
さらに、集光点Pの振動の時間周波数は、上述した式(1)で示される。これにより、本実施形態に係るレーザ切断方法は、レーザ条痕の幅(ピッチ)を一定とすることができ、かつ、レーザ条痕の長さを集光点Pを振動させずに走査することで被切断材料Wに形成されたレーザ条痕よりも長くすることができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態では、集光点Pの振動方向をトーチ部7の移動方向と直交する方向としたが、集光点Pの振動方向はトーチ部7の移動方向に交差する方向であれば良い。
また、上述した実施形態では、被切断材料Wとして、軟鋼を挙げたが、被切断材料Wは、レーザビームLBによる熱エネルギーによって溶融するものであればどのようなものであってもよい。本実施形態は、被切断材料WをレーザビームLBによる熱エネルギーによって切断(溶断)する際にレーザ条痕の幅を一定にすることによって、溶融材料(溶融した被切断材料W)を効率よくかつ安定して排出するものである。したがって、被切断材料WとしてレーザビームLBによる熱エネルギーによって溶融するものを用いることによって、上記の効果が得られる。
たとえば、被切断材料Wは、軟鋼以外の鋼材、例えば高強度鋼、ステンレス鋼であってもよい。ここで、上述した実施例では軟鋼を切断する際のレーザ切断条件を列挙したが、他の鋼材を被切断材料Wとする際のレーザ切断条件は以下のとおりである。すなわち、高強度鋼をレーザ切断する場合には、溶鋼を排除するアシストガスとしての酸素ガスの圧力を本実施例よりも高く、レーザ出力も高く、また、必要に応じ送り速度を低く設定すれば良い。それ以外のレーザ切断条件は、上述した実施例と同じでよい。また、ステンレス鋼をレーザ切断する場合は、溶融物を排除するアシストガスを窒素とし、レーザ出力を本実施例よりも高く、また、必要に応じ送り速度を低く設定すれば良い。それ以外のレーザ切断条件は、上述した実施例と同じでよい。また、被切断材料Wは、レーザビームLBによる熱エネルギーによって溶融するものであれば軟鋼、高強度鋼、及びステンレス鋼以外の鋼材であってもよく、さらには鋼材以外の材料であってもよい。