以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
(第1の実施形態)
本実施形態は、窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハに係る。実施形態に係る窒化物半導体素子は、半導体発光素子、半導体受光素子、及び、電子デバイスなどの半導体装置を含む。半導体発光素子は、例えば、発光ダイオード(LED)及びレーザダイオード(LD)などを含む。半導体受光素子は、フォトダイオード(PD)などを含む。電子デバイスは、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、電界トランジスタ(FET)及びショットキーバリアダイオード(SBD)などを含む。実施形態に係る窒化物半導体ウェーハは、実施形態に係る窒化物半導体素子の少なくとも一部を含む。
図1は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する模式的断面図である。
図1に表したように、本実施形態に係る窒化物半導体素子110は、積層体50と、機能層15と、を含む。機能層15は、積層体50の上に設けられる。
この例では、窒化物半導体素子110は、バッファ層60をさらに含む。バッファ層60は、窒化物半導体を含む。バッファ層60の上に積層体50が設けられる。この例では、バッファ層60として、AlNバッファ層62が用いられている。
この例では、窒化物半導体素子110は、基板40をさらに含む。基板40と積層体50との間に、バッファ層60が配置される。
基板40は、例えば、シリコン基板である。基板40として、例えば、Si(111)基板が用いられる。基板40として、シリコン基板を用いる場合、シリコン基板の面方位は、例えば、(11n)(n:整数)で表される面方位でも良い。面方位は、例えば(100)面でも良い。基板40として、例えば(110)面のシリコン基板を用いることが好ましい。これにより、シリコン基板と窒化物半導体層との格子不整合が小さくなる。
基板40として、酸化物層を含む基板を用いても良い。例えば、基板40として、SOI(silicon on insulator)基板が用いられる。基板40として、機能層15の格子定数とは異なる材料の基板を用いることができる。基板40として、機能層15の熱膨張係数とは異なる材料の基板を用いることができる。例えば、基板40として、サファイア、スピネル、GaAs、InP、ZnO、Ge、SiGe及びSiCのいずれかの基板を用いることができる。
例えば、基板40の上にバッファ層60が形成される。バッファ層60の上に、積層体50が形成される。積層体50の上に機能層15が形成される。これらの形成においてエピタキシャル成長が行われる。
本実施形態において、各層の形成の後に基板40の少なくとも一部が除去されていも良い。本実施形態において、各層の形成の後にバッファ層60の少なくとも一部が除去されていても良い。
図1に表したように、積層体50は、AlGaN層51aと、第1Si含有層51sと、第1GaN層51gと、第2Si含有層52sと、第2GaN層52gと、を含む。
AlGaN層51aには、AlxGa1−xN(0<x≦1)が用いられる。AlGaN層51aは、上面51auを有する。
AlGaN層51aは、1つの層でも良く、複数の層を含んでも良い。この例では、AlGaN層51aは、第1AlGaN層51aa、第2AlGaN層51ab及び第3AlGaN層51acを含む。AlGaN層51aに含まれる層の数は、2でも良く、4以上でも良い。第2AlGaN層51abは、第1AlGaN層51aaの上に設けられる。第3AlGaN層51acは、第2AlGaN層51abの上に設けられる。第2AlGaN層51abにおけるAl組成比(III元素中におけるAl組成比)は、第1AlGaN層51aaにおけるAl組成比よりも低い。第3AlGaN層51acにおけるAl組成比は、第2AlGaN層51abにおけるAl組成比よりも低い。
第1Si含有層51sは、AlGaN層51aの上面51auに接する。このように、第1Si含有層51sは、AlGaN層51aの上に設けられる。第1Si含有層51sは、7×1019/cm3以上4×1020/cm3以下の濃度でSiを含有する。第1Si含有層51sは、上面51suを有する。第1Si含有層51sの上面51suは、AlGaN層51aの上面51auに対して実質的に平行である。
第1GaN層51gは、第1Si含有層51sの上に設けられる。第1GaN層51gは、第1Si含有層51sの上面51suに接している。第1GaN層51gは、凸部51gpを含む。凸部51gpは、斜面51gsを有する。斜面51gsは、AlGaN層51aの上面51auに対して傾斜している。斜面51gsは、曲面でも良い。
凸部51gpは、斜面51gsの他に、頂面51gtを有していても良い。頂面51gtは、AlGaN層51aの上面51auに対して平行である。凸部51gpには、AlGaN層51aの上面51auに対して平行な頂面51gtが必ずしも設けられなくても良い。
第1GaN層51gは、例えば、島状である。島状の膜も「層」ということにする。複数の独立した複数の凸部51gpが設けられても良い。また、第1GaN層51gは、連続的でも良い。
第2Si含有層52sは、第1GaN層51gの上に設けられる。第2Si含有層52sは、第1GaN層51gに接する。第2Si含有層52sは、Siを含有する。第2Si含有層52sは、例えば、第1GaN層51gを覆う。
この例では、第2Si含有層52sの一部が、第1Si含有層51sと接している。例えば、第1Si含有層51sの上面51suは、第1領域51spと、第2領域51sqと、を含む。第1GaN層51gは、第1領域51spの上に設けられている。例えば、第1GaN層51gの凸部51gpは、第1領域51spの上に設けられている。第1GaN層51gは、第2領域51sqの上には設けられていない。第2Si含有層52sの一部は、第2領域51sqにおいて第1Si含有層51sと接している。
後述するように、第1GaN層51gは、第1Si含有層51sの上面51suを覆っても良い。この場合は、第2Si含有層52sは、第1Si含有層51sには接しない。以下では、第2Si含有層52sの一部が、第1Si含有層51sと接する場合の例(窒化物半導体素子110)について説明する。
第2Si含有層52sは、第1GaN層51gの形状(凸部51gpの形状)に沿っている。第2Si含有層52sの上面は、凸部51gpの形状に沿って凹凸状である。
第2Si含有層52sの上に、第2GaN層52gが設けられる。第2GaN層52gにより、第1GaN層51gの凹凸(第2Si含有層52sの凹凸)の凹部が埋め込まれる。第2GaN層52gの上面は、実質的に平坦である。
第1GaN層51gは、例えばAlz1Ga1−z1N(0≦z1<1、z1<x)を含む。第1GaN層51gには、例えばGaNが用いられる。第1GaN層51gは、n形の不純物を含んでも良い。
第2GaN層52gは、例えばAlz2Ga1−z2N(0≦z2<1、z2<x)を含む。第2GaN層52gには、例えばGaNが用いられる。第2GaN層52gは、n形の不純物を含んでも良い。
n形の不純物として、例えば、Si、Ge、Te、Sb及びOの少なくともいずれかが用いられる。
AlGaN層51aの上面51auに対して垂直な方向をZ軸方向とする。Z軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。Z軸方向とX軸方向とに対して垂直な方向をY軸方向とする。
機能層15は、積層体50とZ軸方向に沿って積層される。本願明細書において、「積層」とは、互いに接して重ねられる場合の他に、間に他の層が挿入されて重ねられる場合も含む。また、「上に設けられる」とは、直接接して設けられる場合の他に、間に他の層が挿入されて設けられる場合も含む。
Z軸方向は、第1Si含有層51sの上面51suに対して垂直である。積層体50と機能層15との間の界面15lは、Z軸方向に対して垂直である。
AlGaN層51aの厚さは、例えば、100ナノメートル(nm)以上500nm以下(例えば、約250nm)である。AlGaN層51aにおけるIII族元素中のAlの組成比は、例えば0.15以上0.35以下(例えば0.25)である。
第1Si含有層51sの厚さts1は、例えば、0.4原子層以上2原子層以下である。厚さts1は、例えば、0.1nm以上2nm以下である。第1Si含有層51sは、一様な膜でなくても良く、不連続な島状の膜などでも良い。第1Si含有層51sは、開口部が設けられた膜でも良い。
第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1は、例えば、100nm以上1000nm以下である。この例のように、第1Si含有層51sの一部の上に第1GaN層51gが設けられる場合は、凸部51gpの高さtg1は、第1Si含有層51sの上面51suと、第1GaN層51gの凸部51gpの上端と、の間の距離である。凸部51gpが頂面51gtを有する場合は、高さtg1は、第1Si含有層51sの上面51suと、頂面51gtと、の間の距離である。第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1は、第1GaN層51gの凸部51gpのうちで最も高さが高い凸部51gpにおける、第1Si含有層51sの上面51suと、第1GaN層51gの凸部51gpの上端と、の間の距離とする。
後述するように、第1GaN層51gが第1Si含有層51sを覆っても良い。この場合には、第1GaN層51gにおける凸部51gpの高さは、第1GaN層51gの凹凸の高さ(深さ)、すなわち、凹凸の凸部と凹部との間のZ軸方向に沿った距離に対応する。
第1GaN層51gには、凸部51gpが設けられ、第1GaN層51gの厚さは均一ではない。第1GaN層51gの厚さは、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1とは、異なる。第1GaN層51gの厚さは、第1GaN層51gの平均の厚さとする。
第2Si含有層52sの厚さts2は、例えば、0.4原子層以上1.5原子層以下である。厚さts2は、例えば、0.1nm以上1.5nm以下である。第2Si含有層52sは一様な膜でなくても良く、不連続な島状の膜などでも良い。第2Si含有層52sは、開口部が設けられた膜でも良い。
第2GaN層52gの厚さtg2は、例えば、100nm以上5000nm以下である。第2GaN層52gの厚さtg2は、第2Si含有層52sの上端と、第2GaN層52gの上面(この例では、積層体50と機能層15との間の界面15l)と、の間のZ軸方向に沿った距離である。
AlGaN層51aの厚さ、第1Si含有層51sの厚さts1、第1GaN層51gの厚さ、第2Si含有層52sの厚さts2は、Z軸方向に沿う長さである。第2Si含有層52sの厚さは、例えば、第2Si含有層52sのうちで第1GaN層51gの凸部51gpの斜面51gs上に設けられている部分の、斜面51gsに対して垂直な方向に沿う長さである。
これらの厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)像及び透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)像の少なくともいずれかから得られる。
機能層15の厚さは、例えば、約1.5マイクロメートル(μm)以上5μm以下(例えば2μm)である。
機能層15は、例えば、半導体発光素子の発光機能を有する層を含む。機能層15は、例えば、半導体受光素子の受光機能を有する層を含む。機能層15は、例えば、電子デバイスの整流、スイッチング及び増幅の少なくともいずれかの機能を有する層を含む。以下では、機能層15が発光機能を有する層を含む場合の例について説明する。
図2は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の一部を例示する模式的断面図である。
図2は、機能層15の構成の例を示している。図2に表したように、この例では、機能層15は、n形半導体層10と、p形半導体層20と、発光層30と、を含む。発光層30は、n形半導体層10とp形半導体層20との間に設けられる。n形半導体層10は窒化物半導体を含む。p形半導体層20は、窒化物半導体を含む。発光層30は、窒化物半導体を含む。
機能層15は、低不純物濃度層10iをさらに含んでも良い。低不純物濃度層10iにおける不純物濃度は、n形半導体層10における不純物濃度よりも低い。低不純物濃度層10iは必要に応じて設けられ、省略しても良い。積層体50の上に低不純物濃度層10iが設けられる。
n形半導体層10は、積層体50の上に設けられる。n形半導体層10は、低不純物濃度層10iの上に設けられる。n形半導体層10の上に発光層30が設けられる。発光層30の上にp形半導体層20が設けられる。
発光層30は、複数の障壁層31と、複数の障壁層31の間に設けられた井戸層32と、を含む。井戸層32の数は、1つでも良く、複数でも良い。すなわち、発光層30は、例えば、SQW(Single-Quantum Well)構造、または、MQW(Multi-Quantum Well)構造を有する。
障壁層31のバンドギャップエネルギーは、井戸層32のバンドギャップエネルギーよりも大きい。井戸層32には、例えば、InGaNが用いられる。障壁層31には、GaNが用いられる。障壁層31にInGaNが用いられる場合は、障壁層31におけるIn組成比は、井戸層32におけるIn組成比よりも低い。発光層30から放出される光のピーク波長は、例えば200nm以上1900nm以下である。
図1及び図2は、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハ210の構成も例示している。窒化物半導体ウェーハ210は、基板40と、バッファ層60と、積層体50と、を含む。窒化物半導体ウェーハ210は、機能層15をさらに含んでも良い。基板40、バッファ層60、積層体50及び機能層15には、窒化物半導体素子110に関して説明した構成のそれぞれを適用できる。
本実施形態に係る窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハの製造方法の例について説明する。
基板40として、例えば主面が(111)面であるシリコン基板を用いる。基板40を、例えば、硫酸と過酸化水素との混合薬液、並びに、希フッ酸を用いて洗浄を行う。洗浄の後、基板40をMOCVD装置の反応室内に導入する。
基板40を例えば1080℃まで加熱する。水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、トリメチルアルミニウム(TMAl)を流量50cc/分、アンモニア(NH3)を流量0.8L/分にて、20分間供給する。これにより、AlNのバッファ層60(AlNバッファ層62)が形成される。AlNバッファ層62の厚さは、例えば、約100nmである。
基板温度(基板40の温度)を1040℃とする。水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、トリメチルガリウム(TMGa)を流量10cc/分、TMAlを流量50cc/分、アンモニアを流量2.5L/分で、5分間供給する。これにより、第1AlGaN層51aaが形成される。第1AlGaN層51aaにおけるAl組成比は、0.55である。第1AlGaN層51aaの厚さは、例えば、約100nmである。
TMGaの流量を17cc/分、TMAlの流量を30cc/分に変更し、10分間供給する。これにより、第2AlGaN層51abが形成される。第2AlGaN層51abにおけるAl組成比は、例えば、0.3である。第2AlGaN層51abの厚さは、例えば、約200nmである。
TMGaの流量を20cc/分、TMAlの流量を15cc/分に変更し、11分間供給する。これにより、第3AlGaN層51acが形成される。第3AlGaN層51acにおけるAl組成比は、例えば、0.15である。第3AlGaN層51acの厚さは、例えば、約250nmである。
基板温度を1040℃のままに維持し、水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、濃度10ppmのシラン(SiH4)を流量350cc/分、アンモニアを流量20L/分で、8分間供給する。これにより、第1Si含有層51sが形成される。第1Si含有層51sの厚さは、例えば、約1原子層である。第1Si含有層51sのSi濃度は、例えば、2×1020/cm3である。
基板温度を1090℃とし、水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、TMGaを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、5分間供給する。これにより、第1GaN層51gが形成される。例えば、第1GaN層51gは、島状の結晶である。第1GaN層51gの凸部51gpは、X−Y平面に対して傾斜した斜面51gsを有する。第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1は、例えば、約400nmである。
基板温度を1040℃とし、と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、濃度10ppmのシラン(SiH4)を流量350cc/分、アンモニアを流量20L/分で、3分間供給する。これにより、第2Si含有層52sが形成される。第2Si含有層52sの厚さは、例えば、約0.4原子層である。第2Si含有層51sのSi濃度は、例えば、7.5×1019/cm3である。
基板温度を1090℃とし、水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、TMGaを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、60分間供給する。これにより、第2GaN層52gが形成される。第2GaN層52gの厚さは、例えば、約2μmである。
さらに、TMGaを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分、濃度10ppmのシラン(SiH4)を流量56cc/分にて、30分間供給する。これにより、n形GaN層が形成される。n形GaN層におけるSi濃度は、例えば、5×1018(/cm3)である。n形GaN層の厚さは、例えば、約1μmである。n形GaN層はn形半導体層10(機能層15の少なくとも一部)となる。これにより、本実施形態に係る窒化物半導体素子または窒化物半導体ウェーハが形成できる。
n形GaN層の形成の前に、低不純物濃度層10iを形成しても良い。n形半導体層10の上に、さらに、発光層30及びp形半導体層20を形成することで、窒化物半導体素子110及び窒化物半導体ウェーハ210が形成できる。
図3(a)及び図3(b)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する図である。
図3(a)は、窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハの断面TEM像である。図3(b)は、図3(a)を基に描いた模式図である。図3(b)においては、積層体50に含まれる第1Si含有層51s、第1GaN層51g、第2Si含有層52s及び第2GaN層52gの構成が模式的に描かれている。第1Si含有層51sの形状及び第2Si含有層52sの形状が、実線で描かれている。第1Si含有層51sよりも上の領域における転位80が点線で模式的に描かれている。
図3(a)及び図3(b)から分かるように、基板40とAlNバッファ層62との界面で転位80が発生している。転位80の密度は、AlNバッファ層62中及びAlGaN層51a中では非常に高い。転位80は、第1Si含有層51sよりも上側の層において大幅に減少している。第1Si含有層51sを設けることで、転位80の密度が減少している。第1Si含有層51sは、転位80を遮蔽する効果を有する。
この例では、第2Si含有層52sの一部は第1Si含有層51sに接している。第2Si含有層52sが第1Si含有層51sに接する領域では、Si含有層の合計の厚さが厚い。この領域においては、第1Si含有層51sと第2Si含有層52sとにより、転位80の遮蔽効果が増強されると考えられる。これにより、転位80の密度がさらに減少すると考えられる。
さらに、第2GaN層52g中において、転位80の密度はさらに減少している。すなわち、第1Si含有層51sと第2GaN層52gとの間の領域(すなわち、第1GaN層51g及び第2Si含有層52sとを含む領域)において、転位80の密度が減少している。
第1GaN層51gの内部において、転位80の一部が屈曲している。これは、第1Si含有層51sの上に第1GaN層51gを形成することで、第1GaN層51gが三次元成長するためである。転位80の一部が屈曲することで、転位80の積層方向への伝播が抑制されている。
さらに、第1GaN層51gの凸部51gpの斜面51gsにおいて、転位80がさらに減少している。この現象について、さらに説明する。
図4(a)〜図4(d)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する図である。
図4(a)及び図4(c)は、窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハの断面TEM像である。図4(a)は、第1GaN層51gの斜面51gsの部分を拡大した像である。図4(c)は、第1GaN層51gの頂面51gtの部分を拡大した像である。図4(b)は、図4(a)を基に描いた模式図である。図4(d)は、図4(c)を基に描いた模式図である。図4(b)及び図4(d)においては、第1Si含有層51sの形状及び第2Si含有層52sの形状が、実線で描かれている。第1Si含有層51sよりも上の領域における転位80が点線で模式的に描かれている。
図4(a)及び図4(b)から分かるように、第1GaN層51gの凸部51gpの斜面51gsの上に設けられた第2GaN層52gにおいては、転位80が消失している。このように、斜面51gsにおいて、転位80が減少する。例えば、第1GaN層51gは、凸部51gp内において斜面51gsに繋がる複数の第1転位81を有する。第2Si含有層52sを介して第1転位81と連続する、第2GaN層52g内の転位80の数は、複数の第1転位81の数よりも少ない。図4(a)及び図4(b)に示した範囲の領域においては、第2Si含有層52sを介して第1転位81と連続する、第2GaN層52g内の転位80の数は0と観察される。これに対して、凸部51gp内において斜面51gsに繋がる第1転位81の数が多い。このように、斜面51gsにおいて、転位80が減少する現象は、本願発明者が新たに見出した現象である。
一方、図4(c)及び図4(d)に表したように、第1GaN層51gの凸部51gpの頂面51gtの上に設けられた第2GaN層52gにおいては、転位80の抑制効果が小さい。この例では、頂面51gtの下側(第1GaN層51g)における転位80(第2転位82)は、頂面51gtの上側(第2GaN層52g)における転位80(第3転位83)と繋がっている。第2Si含有層52sのうちで、頂面51gtの上に位置する部分においては、転位80の伝播の変化は小さく、第1GaN層51gから第2GaN層52gに向けて転位80が伝播している。
このように、斜面51gsにおける転位の減少効果は、頂面51gtにおける転位の減少効果よりも大きい。
例えば、第1GaN層51gの凸部51gpが、AlGaN層51aの上面51auに対して平行な頂面51gtを有する場合において、第1GaN層51gは、第1転位81(図4(b)参照)と、第2転位82(図4(d)参照)と、を有する。第1転位81は、凸部51gp内において凸部51gpの斜面51gsに繋がる。第2転位82は、凸部51gp内において頂面51gtに繋がる。
第2GaN層52gは、複数の第3転位83を有している。複数の第3転位83のうちの一部は、第2転位82と連続している。薄い第2Si含有層52sを介して転位が連続する場合も、転位は連続している、とする。複数の第3転位83のうちで第1転位81と連続する第3転位83の数(例えば、0以上の正の整数N1)の複数の第3転位の数(例えば、正の整数N3)に対する比を第1比(N1/N3)とする。複数の第3転位83のうちで第2転位82と連続する第3転位83の数(例えば、正の整数N2)の複数の第3転位の数(N3)に対する比を第2比(N2/N3)とする。第1比(N1/N3)は、第2比(N2/N3)よりも低い。
凸部51gp内の複数の第1転位81の数をN01とする。凸部51g内の複数の第2転位82の数をN02とする。例えば、複数の第3転位83のうちで第1転位81と連続する第3転位83の数(N1)の複数の第1転位の数(N01)に対する比(N1/N01)は、複数の第3転位83のうちで第2転位82と連続する第3転位83の数(N2)の複数の第2転位82の数(N02)に対する比(N2/N02)よりも低い。
このように、斜面51gsを有する凸部51gpが設けられる場合において、その斜面51gsに接して第2Si含有層52sを形成することで、第2GaN層52gに伝わる転位80を大幅に低減できる。これにより、機能層15に到達する転位80を大幅に低減できる。
図3(a)及び図3(b)、並びに、図4(a)〜図4(d)は、本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハの特性も示している。実施形態に係る窒化物半導体ウェーハにおいても窒化物半導体素子と同様に、転位を少なくすることがでる。
実施形態によれば、転位が少ない窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハが提供できる。
以下、各種の構成を有する窒化物半導体素子(または窒化物半導体ウェーハ)の試料に関する実験結果について説明する。
図5(a)〜図5(f)は、試料を例示する模式的断面図である。
図5(a)に表したように、第1試料151においては、上記のAlGaN層51a、第1Si含有層51s、第1GaN層51g、第2Si含有層52s及び第2GaN層52gが設けられている。第1GaN層51gは、第1Si含有層51sの一部の上に設けられており、第2Si含有層52sの一部が、第1Si含有層51sに接している。第1GaN層51gは、斜面51gsを有する凸部51gpを含む。第1試料151は、上記の窒化物半導体素子110または窒化物半導体ウェーハ210に対応する。第1試料151の製造方法は、窒化物半導体素子110に関して説明した製造方法と同じである。
図5(b)に表したように、第2試料152においても、AlGaN層51a、第1Si含有層51s、第1GaN層51g、第2Si含有層52s及び第2GaN層52gが設けられている。第2試料152においては、第1GaN層51gは、第1Si含有層51sの全面の上に設けられている。第2Si含有層52sは、第1Si含有層51sに接していない。第1GaN層51gは、斜面51gsを有する凸部51gpを含む。第1GaN層51gは、連続的である。第2試料152の製造方法の一部は、第1試料151の製造方法とは異なる。第2試料152においては、第1GaN層51gの形成において、TMGaを流量112cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、2.5分間供給する。すなわち、第2試料152における第1GaN層51gの成長速度は、第1試料151における第1GaN層51gの成長速度の2倍である。その他の条件については、第1試料151と同じである。
図5(c)に表したように、第3試料153においても、AlGaN層51a、第1Si含有層51s、第1GaN層51g、第2Si含有層52s及び第2GaN層52gが設けられている。第3試料153においては、第1GaN層51gは、凸部51gpを含まない。第1GaN層51gは平坦である。第1GaN層51gの厚さは、約600nmである。第2Si含有層52sも平坦である。第3試料153の作製においては、第1GaN層51gの成長時間は15分である。その他の条件については、第1試料151と同じである。
図5(d)に表したように、第4試料154においては、AlGaN層51a、第1GaN層51g、第2Si含有層52s及び第2GaN層52gが設けられている。第4試料154においては、第1Si含有層51sが設けられていない。第1GaN層51gは、斜面51gsを有する凸部51gpを含む。第1GaN層は、連続的である。第4試料154においては、第1GaN層51gの形成において、アンモニアの供給量は2.5L/分である。すなわち、第4試料154における第1GaN層51gの形成の際のV/III比は、第1試料151におけるそれの1/16である。その他の条件については、第1試料151と同じである。
図5(e)に表したように、第5試料155においては、AlGaN層51a、第1GaN層51g、第2Si含有層52s及び第2GaN層52gが設けられている。第5試料155においては、第1Si含有層51sが設けられていない。さらに、第1GaN層51gは、凸部51gpを含んでおらず、第1GaN層51gは、平坦である。第5試料155は、第3試料153において、第1Si含有層51sを設けない構成に対応する。
図5(f)に表したように、第6試料156においては、AlGaN層51a、第2Si含有層52s及び第2GaN層52gが設けられている。第6試料156においては、第3試料153において、第1Si含有層51s及び第1GaN層51gが設けられていない。
図6(a)〜図6(f)は、試料の断面の走査型電子顕微鏡像である。
図6(a)〜図6(f)は、それぞれ第1〜第6試料151〜156の断面SEM像を示している。
図6(a)から分かるように、第1試料151においては、第1GaN層51gは、斜面51gsを有する凸部51gpを含む。凸部51gpどうしの間の領域において、第2Si含有層52sの一部が、第1Si含有層51sに接している。第1GaN層51gにおける凹凸の高さ(凸部51gpの高さtg1)は、約400nmである。
図6(b)からわかるように、第2試料152において、第1GaN層51gには、凸部51gpが設けられているが、第1GaN層51gは、連続的な結晶である。第2Si含有層52sは第1Si含有層51sに接していない。第1GaN層51gにおける凸部51gpの高さ(凹凸の高さ)は、約300nmである。第2試料152における第1GaN層51gの凹凸の高さは、第1試料151(窒化物半導体素子110)における第1GaN層51gの凹凸の高さよりも小さい。第2試料152においては、第1GaN層51gの結晶の密度が高くなり、第1GaN層51gが連続的な結晶となっている。GaN層の成長速度を速くすると、凹凸の高さが小さくなり、結晶の密度が高くなる。
図6(c)からわかるように、第3試料153においては、第1GaN層51gには、凸部が設けられていない。第1GaN層51gは、平坦な膜である。
図6(d)からわかるように、第4試料154においては、第1Si含有層51sが設けられていない。そして、第1GaN層51gは、斜面51gsを有する凸部51gpを含む。第1GaN層51gは、連続的である。
図6(e)からわかるように、第5試料155においては、第1Si含有層51sが設けられていない。さらに、第1GaN層51gは、平坦である。
図6(f)からわかるように、第6試料156においては、第1Si含有層51s及び第1GaN層51gが設けられていない。
図7は、試料における転位密度の測定結果を例示すグラフ図である。
図7は、第1〜第6試料151〜156における転位密度(刃状転位密度)の測定結果を示している。縦軸は、刃状転位密度Deである。刃状転位密度Deは、X線回折測定のロッキングカーブ半値幅から導かれる。
図7に示したように、第1試料151における刃状転位密度Deは、2.8×10−8(/cm2)であり、転位密度は低い。第1試料151における刃状転位密度Deは、窒化物半導体素子110または窒化物半導体ウェーハ210における刃状転位密度に対応する。第1試料151においては、以下により、刃状転位密度Deが低減していると考えられる。
第1GaN層51gが三次元的に成長し、バッファ層60で生じた転位80を第1GaN層51g内において、積層方向(Z軸方向)に対して平行方向に向けて曲げることができる。これにより、上層(機能層15)に到達する転位80を減らすことができる。
第1Si含有層51sによって第1GaN層51gの成長が抑制される領域(凸部51gpどうしの間の領域)では、バッファ層60で生じた転位80が第1Si含有層51sによって遮蔽される。これにより、転位80の上層への伝播が抑制され、転位80を減らすことができる。
さらに、第1GaN層51gの凸部51gpの斜面51gsにおいては、上層側に伝播する転位80の数が減少する。斜面51gsにおいて、転位80が屈曲する。すなわち、斜面51gs上に設けられた第2Si含有層52sにおいて、転位80が屈曲する。斜面51gsにおいて、転位80の伝播が遮られる。その結果、上層に到達する転位80を大幅に減らすことができる。
図7に示したように、第2試料152における刃状転位密度Deは、4.8×10−8(/cm2)であり、転位密度は低い。第1試料151における刃状転位密度Deの方が、第2試料152における刃状転位密度Deよりも低い。第2試料152においては、第2Si含有層52sは第1Si含有層51sと接していない。このため、第2試料152においては、AlGaN層51aから伝播する転位80の遮蔽効果が小さいと考えられる。第2Si含有層52sが第1Si含有層51sと接する構成(例えば第1試料151)においては、接しない構成(例えば第2試料152)に比べて、刃状転位密度Deを60%程度に低減できる。
図7から分かるように、第3試料153においては、刃状転位密度Deは、6.2×10−8(/cm2)であり、転位密度は高い。第3試料153においては、第1GaN層51gに凸部51gpが設けられていない。このため、凸部51gpの斜面51gsにおける転位80の屈曲効果または遮蔽効果が得られない。さらに、第2Si含有層52sは第1Si含有層51sと接していない。このため転位80の遮蔽効果が小さい。以上により、第3試料153においては、刃状転位密度Deが高いと考えられる。
図7から分かるように、第4試料154においては、刃状転位密度Deは、7.5×10−8(/cm2)であり、転位密度は高い。第4試料154においては、第1Si含有層51sが設けられていないため、第1Si含有層51sによる転位80の遮蔽効果が得られない。第4試料154における刃状転位密度Deは、第2試料152における刃状転位密度Deの約1.6倍である。すなわち、第1Si含有層51s設ける構成(例えば第2試料152)においては、設けない構成(例えば第4試料154)に比べて、刃状転位密度Deを64%程度に低減できる。
図7から分かるように、第5試料155においては、刃状転位密度Deは、1.1×10−9(/cm2)であり、転位密度は高い。第5試料155においては、第1Si含有層51sが設けられていない。このため、第1Si含有層51sによる、転位80の遮蔽効果が得られない。さらに、第5試料155においては、第1GaN層51gに凸部51gpが設けられていない。このため、凸部51gpの斜面51gs(または斜面51gs上に設けられた第2Si含有層52s)による転位80の屈曲効果または遮蔽効果が得られない。このため、第5試料155においては、刃状転位密度Deが高いと考えられる。第5試料155における刃状転位密度Deは、第4試料154に比べ、約1.7倍である。すなわち、第1GaN層51gが斜面51gsを有する凸部51gpを含む構成(例えば第4試料154)においては、第1GaN層51gが平坦な構成(例えば第5試料155)に比べて、刃状転位密度Deを70%程度に低減できる。
図7から分かるように、第6試料156においては、刃状転位密度Deは、6.0×10−8(/cm2)であり、転位密度は高い。第6試料156においては、第1GaN層51g及び第2Si含有層52sが設けられていない。このため、第1GaN層51gの凸部51gpの斜面51gs(または斜面51gs上に設けられた第2Si含有層52s)による転位80の屈曲効果または遮蔽効果が得られない。また、Si含有層が1層であり、第2Si含有層52sが第1Si含有層51sに接することによる、転位80の遮蔽効果の増強が得られない。以上により、第6試料156においては、刃状転位密度Deが高いと考えられる。
このように、積層体50に、AlGaN層51aと、第1Si含有層51sと、斜面51gsを有する凸部51gpを含む第GaN層51gと、第2Si含有層52sと、第2GaN層52gと、を設けることで、転位密度を低減できる。転位の少ない窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハが得られる。
第1試料151及び第2試料152の構成により、転位を減少できる。第1試料151のように、第1GaN層51gが第1Si含有層51sの一部の上に設けられ、第2Si含有層52sの一部が、第1Si含有層51sと接する構成において、転位密度の低減効果が高い。
図8(a)〜図8(c)は、実施形態に係る窒化物半導体素子を示す模式図である。
図8(a)及び図8(b)は、実施形態に係る110(または窒化物半導体ウェーハ210)のエネルギー分散型X線分光分析(EDS分析)の結果の例を示すグラフである。図8(c)は、EDS分析における分析の場所を示している。図8(c)は、EDS分析の場所として、第1分析位置Ap1及び第2分析位置Ap2を、図4(c)に例示した断面TEM像上に示している。第1分析位置Ap1は、第1Si含有層51sの位置に対応する。第2分析位置Ap2は、第2Si含有層52sの位置に対応する。
図8(a)は、第1分析位置Ap1の分析結果に対応する。図8(b)は、第2分析位置Ap2の分析結果に対応する。図8(a)及び図8(b)の横軸は、エネルギーEg(keV:キロエレクトロンボルト)である。縦軸は、強度I(counts)である。このEDS分析における、Siの検出限界は、1000ppmである。
この例では、第1Si含有層51sの成長時間TMs1は8分である。この条件は、第1Si含有層51sにおけるSi面密度が1.2×1015/cm2である条件に対応する。第2Si含有層52sの成長時間TMs2は3分である。この条件は、第2Si含有層52sにおけるSi面密度が3.8×1014/cm2である条件に対応する。
図8(a)及び図8(b)からわかるように、本実施形態においては、第1Si含有層51s及び第2Si含有層52sから、Siが検出される。第1Si含有層51sにおけるSi濃度は、約4.5(atomic/%)と見積もられる。第2Si含有層52sにおけるSi濃度は、約3.9(atomic/%)と見積もられる。このように、本実施形態においては、Si含有層におけるSi濃度は、検出限界(1000ppm)以上である。Si含有層におけるSi濃度を1000ppm以上とすることで、転位低減の大きな効果が得られる。
III族窒化物半導体の成長方法として、III族窒化物半導体の結晶核を島状に形成し、その後、窒素源ガスを供給しながら珪素源ガスとIII族源ガスを交互に供給して、その結晶核を島状に成長させ、さらに、窒素源ガスとIII族源ガスを供給し、島状の結晶核からIII族窒化物半導体を各々成長させる方法がある。この方法においては、結晶核からIII族窒化物半導体を横方向に成長させ、隣り合う結晶核から各々成長した結晶が接合する接合部に転位を集中させ、結晶核の厚さの差を利用し転位を閉じ込めて、上層での転位密度を減少させる。すなわち、結晶核どうしの間で転位を減少させる。この方法では、Siの検出限界が1000ppmのEDS分析において、バッファ層や結晶核からSiはほぼ検出されないようにされる。
これに対して、本実施形態に係る窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハにおいては、第1GaN層51gの凸部51gp内の転位80が、凸部51gpの斜面51gs上に設けられた第2Si含有層52sにおいて、減少する。そして、既に説明したように、本実施形態においては、Si含有層におけるSi濃度は、十分に検出限界以上である。第1Si含有層51sにおけるSi濃度は、例えば、7×1019/cm3以上4×1020/cm3以下である。
以下、本実施形態に係る構成の例について説明する。
バッファ層60は、例えばAlNバッファ層62を有する。AlNバッファ層62の厚さは、例えば約100nm(例えば10nm以上400nm以下)である。バッファ層60として、GaN層を用いても良い。バッファ層60としてGaN層を用いる場合、そのGaN層の厚さは、約30nm(例えば20nm以上50nm以下)である。バッファ層60には、AlGaN、InGaN、または、AlInNなどの混晶を用いても良い。
基板40としてシリコン基板を用いる場合は、シリコンと化学的反応が生じにくいAlNを、シリコンに接するバッファ層60として用いることで、シリコンとガリウムとの反応によって生じるメルトバックエッチングを抑制し易い。バッファ層60がInを含むと、シリコン基板との格子不整合が抑制され、転位を抑制し易くなる。バッファ層60がInを含む場合、結晶成長中にInの脱離反応が発生しやすい。このため、平坦性の良いバッファ層60を得るために、In組成比は、0.5以下とすることが好ましい。
積層体50にAlGaN層51aを設けることで、メルトバックエッチングの抑制効果を増大させることができる。AlGaN層51a中に圧縮応力が形成され、結晶成長後の降温過程において、窒化物半導体とシリコン基板との間の熱膨張係数の差によって生じる引っ張り応力が低減される。これにより、クラックの発生を抑制することができる。
既に説明したように、AlGaN層51aは複数の層(例えば、第1〜第3AlGaN層51aa、51ab及び51acなど)を含んでも良い。これにより、AlGaN層51a中に形成される圧縮応力を増大することができる。AlGaN層51aが複数の層を含む場合、上方向に向かって、Al組成比が小さくなることが好ましい。
例えば、バッファ層60としてAlNを用いる場合、AlGaN層51aに設ける複数のAlGaN層のAl組成比は、例えば、AlNとGaNとの格子定数を積層数で等間隔に分割した格子定数差となるように設定される。AlNとGaNとの室温における格子不整合は、約2.1%である。
例えば、AlGaN層51a中に3つのAlGaN層を設ける場合は、AlGaN層どうしの格子定数差がおよそ0.7%程度となるように設定される。例えば、第1AlGaN層51aaにおけるAl組成比は、約0.55である。第2AlGaN層51abにおけるAl組成比は、例えば0.3である。第3AlGaN層51acにおけるAl組成比は、例えば0.15である。
例えば、AlGaN層51a中に2つのAlGaN層を設ける場合は、AlGaN層どうしの格子定数差がおよそ1.0%程度となるように設定される。例えば、第1AlGaN層51aaにおけるAl組成比は、約0.5である。第2AlGaN層51abにおけるAl組成比は、例えば0.2である。
AlGaN層どうしのAl組成比の差は一定ではない。これは、AlGaN層中に歪みが形成されているためである。AlGaN層における室温での格子不整合率は、例えば、X線回折測定により算出される。
第1Si含有層51s及び第2Si含有層52sの少なくともいずれかは、SiN層を含んでも良い。第1Si含有層51s及び第2Si含有層52sの少なくともいずれかは、GaNの一部に高濃度にSiがドーピングされた層(δドーピング層)でもよい。
第1Si含有層51sを設けることで、第1Si含有層51sの上に第1GaN層51gを形成する際に、第1GaN層51gが三次元的に成長する。第1Si含有層51sにおいて、積層方向に垂直な面(X−Y平面)内で、Si濃度や厚さに揺らぎがある。例えば、Si濃度の低い部分または厚さが薄い部分に、選択的に第1GaN層51gが成長し易い。これにより、第1GaN層51gが三次元的に成長する。
第1GaN層51gが三次元的に成長することで、バッファ層60で発生した転位80が積層方向(Z軸方向)に対して平行方向に向けて曲がる。これにより、上層(機能層15)に到達する転位80の数を低減できる。
第1Si含有層51sによって第1GaN層51gの成長が抑制される領域(第1GaN層51gの凸部51gpどうしの間の領域)では、バッファ層60で生じた転位80が第1Si含有層51sによって遮蔽される。これにより、転位80の上層への伝播が抑制される。第1Si含有層51sの被覆率が高いと、転位80の低減効果は増大する。
第1Si含有層51sは、AlGaN層51aに接する。AlGaN層51aと第1GaN層51gとが第1Si含有層51sを介して近接する。これにより、第1GaN層51gは、AlGaN層51aとの格子不整合差の影響を受けながら成長する。格子不整合差を設けることで、第1GaN層51gは、より三次元成長しやすくなり、転位低減効果が増大する。さらに、AlGaN層51aと第1GaN層51gとが第1Si含有層51sを介して近接する部分で生じる転位を低減できる。
第1Si含有層51sの厚さは、0.4原子層以上2原子層以下であり、例えば、例えば1原子層である。第1Si含有層51sの厚さが0.4原子層よりも薄いと、第1GaN層51gの三次元成長が生じ難くなり、転位80の低減効果が小さくなる。第1Si含有層51sの厚さが2原子層よりも厚いと、第1GaN層51gの成長が困難になる。
第1Si含有層51sの厚さは、透過型電子顕微鏡像による直接観察、または、二次イオン質量分析法(SIMS)により見積もることができる。SIMS分析法の場合、層中のSi濃度が2×1020cm3程度の場合が、1原子層に相当する。このSi濃度は、面密度に換算すると、1×1015cm2程度のSi面密度に対応する。
第1GaN層51gの上に第2Si含有層52sが設けられる。第1GaN層51gは、凸部51gpを含む。凸部51gpは、積層方向(Z軸方向)に垂直な平面(X−Y平面)に対して傾斜した斜面51gsを有する。斜面51gsは、例えば、(10−11)面または(11−22)面などのファセット面である。また、斜面51gsは、特定の結晶面でなくても良い。凸部51gpにおいて、斜面51gsとX−Y平面との間の角度は、変化しても良い。凸部51gpは、錐状、または、ドーム状の形状を有しても良い。
第1GaN層51gに含まれる凸部51gpどうしの間において、第1Si含有層51sの一部が露出している。露出した第1Si含有層51sの上、第1GaN層51gの上(凸部51gpの斜面51gsの上、及び、凸部51gpの上面(頂面51gt)の上)に、第2Si含有層52sが形成される。第1GaN層51gの斜面51gsの上に第2Si含有層52sを形成することで、斜面51gsと第2Si含有層52sとの界面で、転位80の屈曲を生じさせ、機能層15に伝播する転位80を低減できる。
第2Si含有層52sの一部が第1Si含有層51sと接すると、Si含有層による転位80の遮蔽効果が増大する。これにより、バッファ層60で生じた転位80の上層(機能層15)への伝播の抑制効果が増大する。
第2Si含有層52sの厚さは、0.2原子層以上2原子層以下(例えば0.5原子層)であることが好ましい。第2Si含有層52sの厚さが0.2原子層よりも薄いと、斜面51gsでの転位80の屈曲効果または遮蔽効果が十分に得られず、転位密度の低減効果が小さくなる。第2Si含有層52sの厚さが、2原子層よりも厚いと、第2GaN層52gが成長し難くなる。結果として、第2GaN層52gでの平坦化が困難となる。
第2Si含有層52sの厚さは、第1Si含有層51sの厚さよりも薄いことが好ましい。第2Si含有層52sの厚さが第1Si含有層51sの厚さよりも厚くなると、第1GaN層51gの凸部51gpの斜面51gs上に、高密度の凹凸が形成され、表面平坦性が低下する。このため、機能層15の特性が低下し易くなる。
第1Si含有層51sの厚さと第2Si含有層52sの厚さとの和は、0.7原子層以上2原子層以下とすることが好ましい。厚さの和が0.7原子層よりも薄いと、Si含有層による転位80の屈曲効果または遮蔽効果が得難くなる。厚さの和が2原子層よりも厚いと、GaN層での凹凸形成が過剰となり、平坦性が悪化する。さらに、厚さの和が2原子層よりも厚いと、凹凸形成によるGaN層中の引っ張り応力の形成により、クラックが生じやすくなる。
第2Si含有層52sの上に、十分な厚さの第2GaN層52gが形成されることで、第2GaN層52gの上面は平坦になる。そして、第2GaN層52gの上に形成される機能層15の主面は、平坦になる。
図9(a)〜図9(c)は、実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する電子顕微鏡写真像である。
これらの図は、第1Si含有層51sの上に第1GaN層51gを形成した3つの試料のSEM像である。これらの図においては、第1GaN層51gの形状が表されている。これらの試料においては、層の形成状件が、互いに異なる。これらの図は、窒化物半導体ウェーハの例も示している。
図9(a)に示した第1例S01では、AlGaN層51aの上に、基板温度が1040℃で、濃度10ppmのシラン(SiH4)を流量350cc、アンモニアを流量20L/分で、3分間供給し、第1Si含有層51sが形成される。その後、基板温度が1090℃で、TMGaを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、5分間供給し、第1GaN層51gが形成される。TMGaの流量56cc/分は、273μmol/分に相当する。したがって、第1例S01においては、第1GaN層51gの形成の際のV/III比は、6500である。第1Si含有層51sの厚さは、約0.4原子層である。
図9(b)に示した第2例S02では、第1Si含有層51sの形成の際の成長時間が、8分である。それ以外は、第1例S01と同じである。第2例S02における第1Si含有層51sの厚さは、約1原子層である。
図9(c)に示した第3例S03では、第1GaN層51gの形成の際のアンモニア流量が2.5L/分である。それ以外は、第1例S01と同じである。第3例S03においては、第1GaN層51gの形成の際のV/III比は、490と低い。
図9(a)から分かるように、第1例S01においては、第1GaN層51gは、島状の結晶である。第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1は、150nm〜200nmである。第1GaN層51gの凸部51gpの径(幅、すなわち、X−Y平面に対向な方向の長さ))は、約1.5μmである。第1例S01においては、高さが50nm以下の微結晶が多数観察される。
図9(b)から分かるように、第2例S02(第1Si含有層51sの形成時間を8分と長い)では、第1GaN層51gの高さtg1が、200nm〜500nmに増大する。一方、第1GaN層51gの凸部51gpの径(幅)は約0.8μm程度に減少する。第2例S02においては、上記の微結晶(高さが50nm以下の微結晶)は、実質的に観察されない。
このように、第1Si含有層51sの厚さによって、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1と径(幅)とを変化させることができる。Si含有層51sの成長時間が長い、すなわち、第1Si含有層51sの厚さが厚いと、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1が大きくなる。
図9(c)から分かるように、第3例S03(第1GaN層51gの形成の際のV/III比が490と低い)では、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1が、400nm〜700nmに増大する。そして、斜面51gsの面積が増大する。凸部51gpは、錐状、または、ドーム状の形状となる。一方、第1GaN層51gの凸部51gpの径(幅)は、約1.5μmであり、第1例S01と実質的に同様である。
このように、第1GaN層51gの形成におけるV/III比によって、第1GaN層51gの凸部51gp高さtg1、及び、斜面51gsの形状を変化させることができる。V/III比が低いと、高さtg1が高くなる。V/III比が低いと、斜面51gsの凸部51gpの全体に占める割合が、増大する。
図10(a)〜図10(d)は、窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。 これらの図は、第1Si含有層51sの成長時間(厚さ)、並びに、第1GaN層51gの形成の際のV/III比、成長温度、及び、成長速度を変えたときの、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1の例を表している。これらの図は、窒化物半導体ウェーハの特性の例も例示している。
この例では、第1Si含有層51s及び第1GaN層51gに関して以下で説明しない条件は、図9(a)に関して説明した条件と同じである。
これらの図の縦軸は、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1である。図10(a)の横軸は、第1Si含有層51sの成長時間TMs1(分)である。図10(b)の横軸は、第1GaN層51gの形成の際のV/III比であるRg1(V/III)である。図10(c)の横軸は、第1GaN層51gの形成の際の成長温度GTg1(℃)である。図10(d)の横軸は、第1GaN層51gの形成の際の成長速度GRg1(nm/分)である。
図10(a)に表したように、第1Si含有層51sの成長時間TMs1が長いと、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1が大きくなる。例えば、第1Si含有層51sの成長時間TMs1が5分の場合には、高さtg1は、300nmである。成長時間TMs1が11分の場合には、高さtg1は、600nmである。
図10(b)は、第1GaN層51gの形成の際にV/III比を変えたときの、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1の変化を表している。この実験では、III族原料ガスであるTMGaの供給量を56cc/分で一定とし、アンモニアの供給量が変化させられている。
図10(b)に表したように、第1GaN層51gの形成の際のV/III比(Rg1(V/III))が低いと、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1が大きくなる。V/III比が3250の場合には、高さtg1は450nmである。V/III比が410の場合には、高さtg1は1000nmである。
図10(c)に表したように、第1GaN層51gの形成の際の、成長温度GTg1(基板温度)が低いと、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1が大きくなる。例えば、第1GaN層51gの形成における成長温度GTg1が1050℃の場合には、高さtg1は550nmである。成長温度GTg1が1120℃の場合には、高さtg1は210nmである。第1GaN層51gの成長温度GTg1が1120℃よりも高いと、メルトバックエッチングが発生しやすくなり、結晶が劣化しやすい。第1GaN層51gの成長温度GTg1が1000℃よりも低いと、ピットが発生しやすくなり、結晶が劣化しやすい。第1GaN層51gの成長温度GTg1は、1000℃以上1120℃以下が好ましい。
図10(d)は、第1GaN層51gの形成の際の成長速度GRg1を変えたときの、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1の変化を表している。この実験では、TMGaの供給量が変化させられている。その際、第1GaN層51gの形成時の原料ガスの総供給量が一定となるように成長時間を変化させている。例えば、TMGaの流量を112cc/分と2倍にした場合には、成長時間を2.5分と、1/2倍にされている。
図10(d)に表したように、第1GaN層51gの成長速度GRg1が低い(遅い)と、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1が大きくなる。例えば、第1GaN層51gの成長速度GRg1が19nm/分の場合には、高さtg1は550nmである。成長速度GRg1が48nm/分の場合には、高さtg1は250nmである。
図11は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。 図11は、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1と、窒化物半導体素子(及び窒化物半導体ウェーハ)における刃状転位密度Deと、の関係を例示している。
図11の横軸は、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1である。高さtg1は、断面SEM像で観察される複数の凸部51gpのうちで、最も高い凸部51gpの高さである。この値は、断面SEM像で観察される複数の凸部51gpのうちで、最も大きな島の高さに対応する。
第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1は、前述したように、第1Si含有層51sの成長時間TMs1(第1Si含有層51sの厚さに対応)、並びに、第1GaN層51gの形成におけるV/III比(Rg1(V/III))、第1GaN層51gの形成における成長温度GTg1、及び、第1GaN層51gの形成における成長速度GRg1を変えることで、変化させた。具体的には、第1Si含有層51sの成長時間TMs1を長くする(第1Si含有層51sを厚くする)ことで、高さtg1が増大する。第1GaN層51gの形成時のアンモニア供給量(V/III比)を減少することで、高さtg1が増大する。第1GaN層51gの形成時の成長温度GTg1を低くすることで、高さtg1が増大する。第1GaN層51gの成長速度GRg1を低く(遅く)することで、高さtg1が増大する。
図11に表したように、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1が0nmの場合、刃状転位密度Deは高い。高さtg1が0nmの場合は、第1GaN層51gが平坦な場合に対応する。一方、高さtg1が1000nmよりも大きい場合も、刃状転位密度Deは高い。
これに対して、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1が100nm以上1000nm以下の場合は、刃状転位密度Deが低い。高さtg1が100nm以上1000nm以下の場合は、刃状転位密度Deは、4×108(/cm2)以下(例えば、3×108(/cm2)以上4×108(/cm2)以下)である。
凸部51gpの高さtg1が100nmよりも低い場合には、斜面51gsの形成が不十分であり、積層方向に対して垂直な平坦面(頂面51gt)の結晶表面に占める割合が大きい。このため、斜面51gs上に設けられた第2Si含有層52sによる転位80の屈曲効果または遮蔽効果が十分に得られないと考えられる。凸部51gpの高さtg1が100nmよりも低い場合には、第1GaN層51gの結晶の体積(表面積)が小さいため、結晶内で転位80の伝播方向が変化せず、第1GaN層51g中での転位低減効果が小さくなると考えられる。
凸部51gpの高さtg1が1000nmよりも高い場合には、隣り合う凸部51gpどうしが合体しやすくなり、第1Si含有層51sと第2Si含有層52sとが接する領域が小さくなる。その結果、バッファ層60で生じた転位80の遮蔽効果が低減し、転位密度が増加すると考えられる。
高さtg1が1000nmよりも大きな凹凸を形成すると、第2GaN層52gにおける平坦化が困難となり、第2GaN層52gの表面にピットが形成されやすくなる。実験の結果、第2GaN層52gの厚さが、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1の2倍程度以上になると、平坦な第2GaN層52gが得られることがわかった。本実施形態においては、第2GaN層52gの厚さは、例えば約2μmである。第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1は、第2GaN層52gの厚さの1/2以下である。
平坦な層においては、その層の表面の面積の90%以上の面積の領域が、層の主面と平行である。
このように、第1GaN層51gの凸部51gpの高さtg1は、100nm以上1000nm以下であることが好ましい。この場合に、転位密度が効果的に低減する。高さtg1は、より好ましくは、300nm以上800nm以下である。
図12は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。 図12は、第1Si含有層51sの成長時間を変えたときの、刃状転位密度Deの変化に関する実験結果を例示している。横軸は、第1Si含有層51sの成長時間TMs1であり、第1Si含有層51sの厚さに対応する。この実験では、第2Si含有層52sの成長時間TMs2は、3分である。第1GaN層51gは、基板温度を1090℃とし、水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、TMGaの流量が56cc/分、アンモニアの流量が40L/分にて形成される。第1GaN層51gの成長時間は、5分である。
図12からわかるように、第1Si含有層51sの成長時間TMs1が3分以上16分以下において、刃状転位密度Deが低くなる。成長時間TMs1が3分よりも短い、または、16分よりも長い場合には、刃状転位密度Deは高い。第1Si含有層51sの成長時間TMs1が17分のときは、機能層15の表面にピットが形成され、十分に平坦化ができない。
本実験では、第1Si含有層51sの成長時間TMs1が8分のときが、第1Si含有層51sの厚さが1原子層である条件に相当する。
図12の結果から、第1Si含有層51sの厚さが0.4原子層以上2原子層以下の場合に、低い刃状転位密度Deが得られることが分かる。第1Si含有層51sの厚さが0.4原子層よりも薄い場合には、転位密度が高くなる。これは、第1GaN層51gの三次元成長が生じ難く、転位密度の低減効果が小さいためと考えられる。第1Si含有層51sの厚さが2原子よりも厚い場合には、転位密度が高くなる。これは、第1GaN層51gが実質的に成長しなくなるためと考えられる。
第1Si含有層51s及び第2Si含有層52sの厚さは、TEM像による直接観察、または、SIMS分析により見積もることができる。
SIMS分析の場合、スパッタレートなどの測定条件によって、Si濃度が厚さ(深さ)方向に広がりを有するように観測される場合がある。この場合、例えば、Si含有層に相当する領域でのSi濃度の極大値(最大値)に対して、Si濃度が10%の値に低減する領域までのSi濃度の総和(Si原子の厚さ方向の積分値)を、Si含有層に含まれる単位面積あたりのSi原子の数(Si面密度)とみなすことができる。
Si含有層の厚さは、このSi濃度の総和(Si面密度)を用いて見積もることができる。すなわち、Si含有層中のSi原子が、一様に、GaN層のGa原子(III族原子)と置換した場合における、Siに置換されたGaN層の厚さとして見積もることができる。
本願明細書においては、Si含有層中のSi原子の数が、GaN層の1層分に相当するGa原子を置換する数である場合のSi含有層の厚さを、1原子層とする。
GaN層における(0001)面のGa原子(III族原子)の面密度は、約1×1015(/cm2)である。したがって、膜中のSiの面密度が1×1015(/cm2)程度の場合に、第1Si含有層51s、及び第2Si含有層52sの厚さが1原子層であることに相当する。
SIMS分析において、例えば、Si濃度のピーク値が2×1020(/cm3)であって、幅200nmの拡がりを有する場合は、面密度に換算すると、1×1015(/cm2)程度のSi面密度に相当する。
すなわち、膜中のSi濃度が2×1020(/cm3)程度の場合が、Si含有層の厚さが1原子層であることに相当する。したがって、「第1Si含有層51sの厚さが0.4原子層以上2原子層以下の場合に転位密度が低減する」は、「第1Si含有層51sにおけるSi濃度が、7×1019/cm3以上4.0×1020(/cm3)以下の場合に転位密度が低減する」ことに相当し、転位密度が低くなる。そして、膜中のSi面密度が3.5×1014(/cm2)以上2.0×1015(/cm2)以下の場合に、転位密度が低くなる。
第1Si含有層51sの成長時間TMs1を変えると、第1Si含有層51sにおけるSi濃度が変化する。第1Si含有層51sの成長時間TMs1を変えて第1Si含有層51sにおけるSi濃度を変化させた試料について、第1Si含有層51sにおけるSi濃度と、転位密度と、の関係について説明する。
図13(a)及び図13(b)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。
これらの図は、図12に示した試料に関して、第1Si含有層51sにおけるSi濃度と刃状転位密度Deと、の関係を示す。図13(a)の横軸は、第1Si含有層51sにおけるSi濃度CSv1(/cm3)である。図13(b)の横軸は、第1Si含有層51sにおけるSi面密度CSa1(/cm2)である。CSv1は、実質的に、CSa1×2×105である。
図13(a)から分かるように、第1Si含有層51sにおけるSi濃度CSv1が7×1019以上4×1020(/cm3)のときに、低い刃状転位密度Deが得られる。
図13(b)から分かるように、第1Si含有層51sにおけるSi面密度CSa1が3.5×1014以上2×1015(/cm2)のときに、低い刃状転位密度Deが得られる。
図14は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。 図14は、第2Si含有層52sの成長時間を変えたときの、刃状転位密度Deの実験結果を例示している。横軸は、第2Si含有層52sの成長時間TMs2であり、第2Si含有層52sの厚さに対応する。この実験では、第1Si含有層51sの成長時間TMs1は、8分である。第1GaN層51gは、基板温度を1090℃とし、水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、TMGaの流量が56cc/分で、アンモニアの流量40L/分により形成される。第1GaN層51gの成長時間は、5分である。
図14からわかるように、第2Si含有層52sの成長時間TMs2が3分以上12分以下において、刃状転位密度Deが低くなる。成長時間TMs2が3分よりも短い、または、12分よりも長い場合には、刃状転位密度Deは高い。
第2Si含有層52sの成長時間TMs2が8分のときが、第2Si含有層52sの厚さが1原子層に相当する。
図14の結果から、第2Si含有層52sの厚さが0.4原子層以上1.5原子層以下の場合に、低い刃状転位密度Deが得られる。第2Si含有層52sの厚さが0.4原子層よりも薄い場合は、第2Si含有層52sでの転位の屈曲効果または遮蔽効果が十分に得られない。第2Si含有層52sの厚さが1.5原子層よりも厚い場合は、第2Si含有層52s上への第2GaN層52gの成長が阻害され、第2Si含有層52sでの転位の屈曲効果または遮蔽効果が十分に得られない。また、第2GaN層52gの表面平坦性が、低くなる。
図14に示した結果からわかるように、第2Si含有層52sの厚さが、第1Si含有層51sの厚さ以下の場合に、転位密度が低減し易い。第2Si含有層52sの厚さが、第1Si含有層51sの厚さよりも大きくなると、第2GaN層52gで凹凸が過剰に形成され、平坦性が悪化し易い。このため、転位密度が高くなる。さらに、例えば、過剰な凹凸によって引っ張り応力が生じ、クラックが増大し易い。
第2Si含有層52sの成長時間TMs2を変えると、第2Si含有層52sにおけるSi濃度が変化する。第2Si含有層52sの成長時間TMs2を変えて第2Si含有層52sにおけるSi濃度を変化させた試料について、第2Si含有層52sにおけるSi濃度と、転位密度と、の関係について説明する。
図15(a)及び図15(b)は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。
これらの図は、図14に示した試料に関して、第2Si含有層52sにおけるSi濃度と刃状転位密度Deと、の関係を示す。図15(a)の横軸は、第2Si含有層52sにおけるSi濃度CSv2(/cm3)である。図15(b)の横軸は、第2Si含有層52sにおけるSi面密度CSa2(/cm2)である。CSv2は、実質的に、CSa2×2×105である。これら図において、第1Si含有層51sにおけるSi濃度CSv1は2×1020(/cm3)であり、第1Si含有層51sにおけるSi面密度CSa1は1×1015(/cm2)である。
図15(a)から分かるように、第2Si含有層52sにおけるSi濃度CSv2が7×1019以上3×1020(/cm3)以下のときに、低い刃状転位密度Deが得られる。
図15(b)から分かるように、第2Si含有層52sにおけるSi面密度CSa2が3.5×1014以上1.5×1015(/cm2)以下のときに、低い刃状転位密度Deが得られる。
第2Si含有層52sにおけるSi濃度CSv2は、第1Si含有層51sにおけるSi濃度CSv1以下であることが好ましい。この場合に、図15(a)に表したように、転位密度が低減し易い。
第2Si含有層52sにおけるSi面密度CSa2は、第1Si含有層51sにおけるSi面密度CSa1以下であることが好ましい。この場合に、図15(b)に表したように、転位密度が小さくなり易い。
第2Si含有層52sにおけるSi濃度CSv2が、第1Si含有層51sにおけるSi濃度CSv1よりも大きくなると、第2GaN層52gで凹凸が過剰に形成され、平坦性が悪化し易い。このため、転位密度が高くなる。さらに、例えば、過剰な凹凸によって引っ張り応力が生じ、クラックが増大し易い。
図16は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子の特性を例示するグラフ図である。 図16は、第1Si含有層51sの厚さ及び第2Si含有層52sの厚さの合計の厚さと、刃状転位密度Deと、の関係を例示している。横軸は、合計の厚さtsであり、単位は原子層である。
図16からわかるように、第1Si含有層51sの厚さ及び第2Si含有層52sの厚さの合計の厚さtsが、0.7原子層以上2原子層において、低い刃状転位密度Deが得られる。合計の厚さtsが0.7原子層よりも薄い、または、2原子層よりも厚い場合には、転位密度が高い。合計の厚さtsが0.7原子層よりも薄いと、Si含有層による転位の屈曲効果または遮蔽効果が低くなる。合計の厚さtsが2原子層よりも厚いと、GaN層での凹凸形成が過剰となり、平坦性が悪化する。これにより、転位密度が高くなる。さらに、合計の厚さtsが2原子層よりも厚いと、凹凸形成によるGaN層中の引っ張り応力の形成によりクラックが生じやすくなり、結晶品質が低下する。
第1Si含有層51sの厚さ及び第2Si含有層52sの厚さの合計の厚さtsが0.7原子層であるときは、第1Si含有層51s及び第2Si含有層52sのSi濃度の和が、1.5×1020/cm3に相当する。合計の厚さtsが2原子層であるときは、第1Si含有層51s及び第2Si含有層52sのSi濃度の和が、4.0×1020/cm3に相当する。第1Si含有層51s及び第2Si含有層52sのSi濃度の和は、1.5×1020/cm3以上4.0×1020/cm3以下が好ましい。
合計の厚さtsが0.7原子層であるときは、第1Si含有層51s及び第2Si含有層52sのSi面密度の和が7.5×1014/cm2に相当する。合計の厚さtsが2原子層であるときは、第1Si含有層51s及び第2Si含有層52sのSi面密度の和が2.0×1015/cm2に相当する。第1Si含有層51s及び第2Si含有層52sのSi面密度の和は、7.5×1014/cm2以上2.0×1015/cm2に以下が好ましい。
図17は、第1の実施形態に係る窒化物半導体素子を例示するグラフ図である。
図17は、本実施形態に係る窒化物半導体素子110(または窒化物半導体ウェーハ210)のSIMS分析結果の例を示している。この例では、深さ(積層方向)に沿って、5nm間隔で測定される。図17の横軸は、深さZd(Z軸方向の位置に相当する)である。縦軸は、Si濃度CS(atoms/cm3)である。この例では、第1Si含有層51sの成長時間TMs1は8分である。この条件は、第1Si含有層51sにおけるSi面密度が1.2×1015/cm2である条件に対応する。第2Si含有層52sの成長時間TMs2は3分である。この条件は、第2Si含有層52sにおけるSi面密度が3.8×1014/cm2である条件に対応する。
図17から分かるように、積層体50の範囲において、3段階のSiのピークが観察される。例えば、積層体50におけるSi濃度プロファイルは、第1〜第7部分p1〜p7を有する。第1〜第7部分p1〜p7は、Z軸方向に沿って積層される。第2部分p2は、第1部分p1の上側に設けられる。
第1部分p1は、Si濃度が7×1019/cm3以上4×1020/cm3以下の第1濃度を有する。
第2部分p2は、Si濃度が第1濃度よりも低い第2濃度を有する。第2濃度は、例えば、2×1017/cm3未満である。第2部分p2においては、Si濃度は比較的一定である。
第3部分p3は、第1部分p1と第2部分p2との間に設けられる。第3部分p3は、Si濃度が第1濃度と第2濃度との間の第3濃度を有する。第3濃度は、例えば3×1018/cm3以上5×1019/cm3である。第3部分p3においては、Si濃度は比較的一定である。
第4部分p4は、第3部分p3と第2部分p2との間に設けられる。第4部分p4は、Si濃度が第3濃度と第2濃度との間の第4濃度を有する。第4濃度は、例えば2×1017/cm3以上2×1018/cm3以下である。第4部分p4においては、Si濃度は比較的一定である。
第5部分p5は、第1部分p1と第3部分p3との間に設けられる。第5部分p5におけるSi濃度の厚さに対する変化率は、第3部分p3におけるSi濃度の厚さに対する変化率よりも高い。第5部分p5においては、Si濃度が急激に変化する。
第6部分p6は、第3部分p3と第4部分p4との間に設けられる。第6部分p6におけるSi濃度の厚さに対する変化率は、第3部分p3におけるSi濃度の厚さに対する変化率よりも高い。第6部分p6におけるSi濃度の厚さに対する変化率は、第4部分p4におけるSi濃度に対する変化率よりも高い。第6部分p6においては、Si濃度が急激に変化する。
第7部分p7は、第4部分p4と第2部分p2との間に設けられる。第7部分p7におけるSi濃度の厚さに対する変化率は、第4部分p4におけるSi濃度の厚さに対する変化率よりも高い。第7部分p7におけるSi濃度の厚さに対する変化率は、第2部分p2におけるSi濃度に対する変化率よりも高い。
第1部分p1においては、Si濃度のピークの幅(厚さ方向の幅)が狭い。第1部分p1は、第1Si含有層51sに対応する。第5部分p5の少なくとも一部が、第1Si含有層51sにさらに含まれる。
この例では、第1部分p1におけるSi濃度のピーク(最大値)は2.8×1020/cm3である。Si濃度がピーク値の10%の値に低減するまでのピークの幅は、約160nmである。この領域の総Si濃度(厚さ方向のSi濃度の積分値)は、1.2×1015/cm2であり、第1Si含有層51sのSi面密度に対応する。
第1部分p1の厚さ(幅)は、例えば、1nm以上200nm以下である。第1部分p1の厚さが1nmよりも小さいと、第1GaN層51gの三次元成長が十分に生じない。第1部分p1の厚さが200nmよりも厚い場合は、第1GaN層51gの成長が阻害され、斜面の面積が減少し、転位密度の低減効果が十分に得られない。
第3部分p3及び第6部分p6は、第1GaN層51g及び第2Si含有層52sに対応する。第2Si含有層52sにおけるSi濃度は、8.0×1018/cm3である。第1GaN層51gは、凸部51gpを含んでおり、その凸部51gpの上に第2Si含有層52sが設けられる。前述したように、凸部51gpの径は例えば、50nm以上1500nm以下であり、SIMS分析において、分析の面積は、凸部51gpの大きさ(面積)よりも広い。このため、SIMS分析によるSi濃度は、複数の凸部51gpを含む範囲(第2GaN層52g、第2Si含有層52s及び第1GaN層51gの範囲)の平均の値として検出される。このため、Si濃度プロファイルにおいて、厚さ(深さ)方向に広がりが生じるとともに、ピーク値が実際のSi濃度に比べ小さくなり、第3部分p3及び第6部分p6が生じる。
この例では、第3部分p3におけるSi濃度のピークは、約8.0×1018/cm3であり、第3部分p3及び第6部分p6の幅(Si濃度がピーク値の10%の値に低減するまでのピークの幅に相当)は約500nmである。この領域の総Si濃度(厚さ方向のSi濃度の積分値)は、3.8×1014/cm2であり、第2Si含有層52sのSi面密度に対応する。
第3部分p3の厚さ(幅)は、例えば、100nm以上1000nm以下である。第3部分p3の厚さが100nmよりも小さい場合は、第1GaN層51gの高さが100nm以下の場合に相当する。このときには、斜面の形成が不十分であり、転位密度の低減効果が減少する。第3部分p3の厚さが1000nmよりも厚い場合は、第1GaN層51gの高さが1000nm以下の場合に相当する。このときには、第2GaN層51gの平坦性が低下しやすい。
例えば、第4部分p4、第7部分p7及び第2部分p2は、第2GaN層52gに対応する。第2GaN層52gの一部(下側の一部)に、第1Si含有層51s及び第2Si含有層52sの少なくともいずれかから、Siが拡散すると考えられる。このSiの拡散領域が、第4部分p4に対応していると考えられる。
第4部分p4の厚さは、例えば、300nm以上2500nm以下である。第4部分p4の厚さが300nmより小さい場合は、第2Si含有層52sでの転位の屈曲効果または遮蔽効果が十分に得られない。第4部分p4の厚さが2500nmよりも厚い場合は、第2GaN層51gの平坦性が低下しやすい。
例えば、SIMS分析において、第1部分p1が存在することにより、第1Si含有層51sの存在が判断できる。
SEM観察やTEM観察において凸部51gpを含む第1GaN層51gが観察されることから、第2Si含有層52sの存在が判断できる。SIMS分析において第3部分p3及び第4部分p4が生じていることから、第2Si含有層52sの存在が判断できる。
図18(a)及び図18(b)は、参考例の窒化物半導体素子を例示するグラフ図である。
図18(a)及び図18(b)は、それぞれ第1参考例及び第2参考例の窒化物半導体素子(または窒化物半導体ウェーハ)のSIMS分析結果の例をそれぞれ示している。
第1参考例においては、積層体50のAlGaN層51aに変えて、GaN層が設けられ、そのGaN層の上に第1Si含有層51sが設けられている。その上に、凸部51gpを含む第1GaN層51gが設けられている。その上に第2GaN層52gが設けられている。すなわち、第2Si含有層52sが設けられていない。
一方、第2参考例においては、平坦なGaN層と、平坦なSi含有層と、が交互に複数積層されている。この例では、Si含有層の数は、4である。
図18(a)に示したように、第2Si含有層52sが設けられない第1参考例においては、Si濃度のピークは2段である。
図18(b)に示したように、平坦なGaN層の上にSi含有層を設ける場合には、鋭いSi濃度のピークが観察される。Si濃度のピークは1段である。
一方、既に説明したように、本実施形態に係る窒化物半導体素子110及び窒化物半導体ウェーハ210においては、Si濃度に3段のピークが観察される。
図19は、第1の実施形態に係る別の窒化物半導体素子を例示する模式的断面図である。
図19に表したように、本実施形態に係る別の窒化物半導体素子111及び窒化物半導体ウェーハ211においては、第1GaN層51gとして、n形のn−GaN層51nが用いられる。それ以外の構成は、窒化物半導体素子110及び窒化物半導体ウェーハ210と同様である。
窒化物半導体素子111及び窒化物半導体ウェーハ211によっても、転位が少ない窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハを提供できる。
以下、実験結果について説明する。
n−GaN層51nは、例えば、基板温度を1090℃とし、水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、TMGaを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分、濃度10ppmのシラン(SiH4)を流量56cc/分にて、5分間供給して形成される。n−GaN層51nにおけるSi濃度は、例えば、5×1018(/cm3)である。この例では、n−GaN層51nは、島状の結晶である。n−GaN層51nは、連続的でも良い。n−GaN層51nは凸部51gpを含む。n−GaN層51nの凸部51gpは、X−Y平面に対して傾斜した斜面51gsを有する。n−GaN層51nの凸部51gpの高さtg1は、例えば、約500nmである。その他の層の製造方法は、窒化物半導体素子110に関して説明した製造方法と同じである。
窒化物半導体素子111における刃状転位密度Deは、2.1×108(/cm2)であり、窒化物半導体素子110における刃状転位密度(2.8×108(/cm2))に比べて、さらに低い値を示す。n−GaN層51nを設ける構成においては、第1GaN層51gを設ける構成に対して、転位密度が約75%に低減する。
図9(a)〜図9(c)に関して説明した評価と同様の評価により、n−GaN層51nの形状を調べた結果、n−GaN層51nにおいては、n形不純物(Si)をドープしない場合に比べ、凸部の高さが高くなり、斜面の面積が増大する。n形不純物をドープすることで、ファセットの形成が促進されたためであると考えられる。n−GaN層51nの凸部51gpの斜面51gs上に形成された第2Si含有層52sの面積が増大することで、転位の遮蔽効果または屈曲効果が増大し、転位が低減すると考えられる。
n−GaN層51nにおけるn形不純物の濃度は、1.0×1017(/cm3)以上1.0×1019(/cm3)以下であることが好ましい。n−GaN層51nにおけるn形不純物の濃度は、5.0×1017(/cm3)以上6.0×1018(/cm3)以下であることがさらに好ましい。n−GaN層51nにおけるn形不純物の濃度が1.0×1017(/cm3)よりも低い場合は、ファセットの形成が十分でなく、第2Si含有層52sでの転位密度の低減効果が減少する。n−GaN層51nにおけるn形不純物の濃度が1.0×1019(/cm3)よりも高い場合は、n形不純物によってn−GaN層51nの成長が阻害され、n−GaN層51nの凸部51gpの斜面51gsの面積が減少し、転位密度の低減効果が減少する。
n−GaN層51nの凸部51gpの高さtg1は、100nm以上1000nm以下であることが好ましい。この場合に、転位密度が効果的に低減する。高さtg1は、より好ましくは、300nm以上800nm以下である。
凸部51gpの高さtg1が100nmよりも低い場合には、斜面51gsの形成が不十分であり、積層方向に対して垂直な平坦面(頂面51gt)の結晶表面に占める割合が大きい。このため、斜面51gs上に設けられた第2Si含有層52sによる転位80の屈曲効果または遮蔽効果が十分に得られない。また、n−GaN層51nの結晶の体積(表面積)が小さいため、結晶内で転位80の伝播方向が変化せず、n−GaN層51n内での転位低減効果が小さくなる。
凸部51gpの高さtg1が1000nmよりも高い場合には、隣り合う凸部51gpどうしが合体しやすくなり、第1Si含有層51sと第2Si含有層52sとが接する領域が小さくなる。その結果、バッファ層60で生じた転位80の遮蔽効果が低減し、転位密度が増加すると考えられる。
(第2の実施形態)
図20は、第2の実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する模式的断面図である。
図20に表したように、本実施形態に係る窒化物半導体素子120は、バッファ層60と、積層中間層70と、積層体50と、機能層15と、を含む。バッファ層60の上に積層体50が設けられる。積層中間層70は、バッファ層60と積層体50との間に設けられる。積層体50の上に機能層15が設けられる。本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハ220は、基板40、バッファ層60、積層中間層70及び積層体50を含む。窒化物半導体ウェーハ220は、機能層15をさらに含んでも良い。基板40、バッファ層60、積層体50及び機能層15のそれぞれには、第1の実施形態に関して説明した構成を適用することができる。以下、積層中間層70について説明する。
この例では、積層中間層70は、第1中間層70aと第2中間層70bとを含む。第2中間層70bは、第1中間層70aの上に設けられる。
第1中間層70aは、第1AlGaN中間層71aと、第1GaN中間層72aと、第1AlN中間層73aと、を含む。第1GaN中間層72aは、第1AlGaN中間層71aの上に設けられる。第1AlN中間層73aは、第1GaN中間層72aの上に設けられる。
第2中間層70bは、第2AlGaN中間層71bと、第2GaN中間層72bと、第2AlN中間層73bと、を含む。第2GaN中間層72bは、第2AlGaN中間層71bの上に設けられる。第2AlN中間層73bは、第2GaN中間層72bの上に設けられる。
この例では、AlGaN中間層と、GaN中間層と、AlN中間層と、を含む構成が、2回繰り返して積層されている。繰り返しの数は、1回でも良く、3回以上でも良い。
本実施形態において、第1中間層70aにおいて、積層方向(Z軸方向)に対して垂直な方向の格子間隔(この例では、a軸の格子間隔に相当する)は、第1GaN中間層72aで最も大きく、第1AlN中間層73aで急激に小さくなる。第2中間層70bにおいて、積層方向(Z軸方向)に対して垂直な方向の格子間隔(この例では、a軸の格子間隔に相当する)は、第2GaN中間層72bで最も大きく、第2AlN中間層73bで急激に小さくなる。
本明細書において、窒化物半導体の無歪みの格子間隔を「格子定数」とする。形成した窒化物半導体層の実際の格子の長さを「格子間隔」とする。格子定数は、例えば、物性定数である。格子間隔は、例えば、形成された窒化物半導体素子に含まれる窒化物半導体層における実際の格子の長さのことである。格子間隔は、例えば、X線回折測定から求められる。
第1AlGaN中間層71aがバッファ層60(例えばAlNバッファ層62)の上に形成される。第1AlGaN中間層71aの形成温度は、例えば、約1040℃である。AlGaNは、厚さが薄い状態すなわち成長の初期では、AlNの格子定数に格子整合するように形成され、圧縮歪みを受けながら成長する。そして、AlGaNの成長が進むにつれて徐々に歪みが緩和し、AlGaNは、歪みを受けない状態のAlXGa1−XNの格子間隔に近づく。
第1AlGaN中間層71aの上に、第1AlGaN中間層71aよりも格子定数の大きい第1GaN中間層72aが形成される。第1GaN中間層72aの形成温度は、例えば約1090℃である。第1GaN中間層72aの厚さは、例えば約300nmである。第1GaN中間層72aは、成長の初期では、AlGaNの格子定数に格子整合するように形成され、圧縮歪みを受けながら成長する。そして、GaNの成長が進むにつれて徐々に歪みが緩和し、GaNの格子定数は、歪みを受けない状態のGaNの格子定数に近づく。
さらに、第1AlN中間層73aが第1GaN中間層72aの上に形成される。第1AlN中間層73aの厚さは、例えば約12nmである。第1AlN中間層73aの結晶成長温度は、例えば500℃以上1050℃以下であることが好ましい。第1AlN中間層73aの形成温度は、例えば800℃である。そのため、第1AlN中間層73aは、格子緩和し易くなる。これにより、第1AlN中間層73aの形成の初期から、下地となる第1GaN中間層72aからの引っ張り歪みを受け難くなる。その結果、下地となる第1GaN中間層72aからの歪みの影響を減少するように、第1AlN中間層73aを形成することができる。このようにして、格子緩和した第1AlN中間層73aが第1GaN中間層72aの上に形成される。
続いて、第2AlGaN中間層71bが第1AlN中間層73aの上に形成される。第2AlGaN中間層71bにおけるAlの組成比(III族元素中のAlの比率)は、第1AlN中間層73aの緩和率α以下である。
緩和率αは、無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgと、無歪みのAlNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔daと、の差の絶対値に対する、無歪みのGaNの第1軸(例えばa軸)の格子間隔dgと第1AlN中間層73aの第1軸(例えばa軸)の実際の格子間隔Daと、の差の比である。第1軸は、積層方向(Z軸方向に対して垂直な1つの軸である。
第2AlGaN中間層71bの厚さは、例えば5nm以上100nm以下であることが好ましい。第2AlGaN中間層71bの厚さが5nmよりも薄いと、クラックの発生を抑制する効果及び転位を低減させる効果が得難い。第2AlGaN中間層71bの厚さが100nmよりも厚いと、転位を低減させる効果が飽和する。さらに、クラックが生じ易くなる。第2AlGaN中間層71bの厚さは、より好ましくは50nm未満である。第2AlGaN中間層71bの厚さを50nm未満にすることで、転位密度を効果的に低減することができる。第2AlGaN中間層71bの厚さは、例えば約25nmである。
第2AlGaN中間層71bの形成温度が第1AlN中間層73aの形成温度よりも高く、その差が80℃以上であると、AlNの格子定数に格子整合するように成長する効果がより大きく得られる。さらに、転位を低減する効果がより大きく得られる。第2AlGaN中間層71bの形成温度は、例えば約1120℃である。
第2GaN中間層72bが第2AlGaN中間層71bの上に形成される。第2GaN中間層72bについては、第1GaN中間層72aと同様の構成を適用できる。
さらに、第2AlN中間層73bが第2GaN中間層72bの上に形成される。第2AlN中間層73bには、第1AlN中間層73aと同様の構成を適用できる。
本実施形態に係る窒化物半導体素子120(及び窒化物半導体ウェーハ220)の製造方法の例について説明する。
基板40を1080℃まで加熱し、水素と窒素との比率が2:1の混合雰囲気において、トリメチルアルミニウム(TMAl)を流量50cc/分、アンモニア(NH3)を流量0.8L/分にて、20分間供給する。これにより、AlNのバッファ層60(Alバッファ層62)が形成される。AlNバッファ層62の厚さは、約100nmである。
基板温度を1040℃とし、TMGaを流量18cc/分、TMAlを流量25cc/分、アンモニアを流量2.5L/分で11分間供給する。これにより、第1AlGaN中間層71aが形成される。第1AlGaN中間層71aにおけるAl組成比は、例えば、0.25である。
基板温度を1090℃とし、TMGaを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、15分間供給する。これにより、第1GaN中間層72aが形成される。第1GaN層51gの厚さは、例えば、約300nmである。
基板温度を800℃とし、TMAlを流量17cc/分、アンモニアを流量10L/分にて、3分間供給する。これにより、第1AlN中間層73aが形成される。第1AlN中間層73aの厚さは、例えば、約12nmである。
基板温度を1120℃とし、TMGaを流量18cc/分、TMAlを流量6cc/分、アンモニアを流量2.5L/分で2.5分間供給する。これにより、第2AlGaN中間層71bが形成される。第2AlGaN中間層71bにおけるAl組成比は、例えば、0.5である。
基板温度を1090℃とし、TMGaを流量56cc/分、アンモニアを流量40L/分にて、15分間供給する。これにより、第2GaN中間層72bが形成される。第2GaN中間層72bの厚さは、例えば、約300nmである。
基板温度を800℃とし、TMAlを流量17cc/分、アンモニアを流量10L/分にて、3分間供給する。これにより、第2AlN中間層73bが形成される。第2AlN中間層73bの厚さは、例えば、約12nmである。以上により、積層中間層70が形成される。
積層中間層70の上に、積層体50及び機能層15が形成される。積層体50及び機能層15については、第1の実施形態に関して説明した条件が適用される。
これにより、本実施形態に係る窒化物半導体素子120及び窒化物半導体ウェーハ220が作製される。
本実施形態に係る窒化物半導体素子120及び窒化物半導体ウェーハ220において、刃状転位密度Deは、2.0×108(/cm2)と低い値を示す。
第1の実施形態に係る窒化物半導体素子110及び窒化物半導体ウェーハ210における刃状転位密度Deは、2.8×108(/cm3)である(図7に例示した第1試料151)。積層中間層70を設ける構成においては、設けない構成に対して、転位密度が約70%に低減する。
基板40を含む窒化物半導体素子120、及び、窒化物半導体ウェーハ220の、室温での反りは、凹状であり、反りの大きさは、約10μmである。一方、第1実施形態に係る窒化物半導体素子110及び窒化物半導体ウェーハ210における反りは、凹状であり、反りの大きさは約40μmである。積層中間層70を設ける構成においては、設けない構成に対して、反りが低減するすなわち、積層中間層70を設けることで、窒化物半導体素子120、及び、窒化物半導体ウェーハ220に形成される引っ張り歪みを低減でき、クラックを低減できる。
このように、積層中間層70は、GaN中間層(例えば第1GaN中間層72a)と、AlN中間層(例えば第1AlN中間層73a)と、AlGaN中間層(例えば第2AlGaN中間層71b)と、を含む。AlN中間層(例えば第1AlN中間層73a)は、GaN中間層(例えば第1GaN中間層72a)の上に設けられる。AlGaN中間層(例えば第2AlGaN中間層71b)は、AlN中間層(例えば第1AlN中間層73a)の上に設けられる。
このように、バッファ層60と積層体50との間に積層中間層70を設けることで、さらに転位密度の低い窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハが得られる。さらに、積層中間層70を設けることで、反りを低減でき、クラックを抑制できる。
X線回折測定により、第1AlN中間層73aの、積層方向に対して垂直な第1軸の格子間隔(この例では、a軸の格子間隔に相当する)が評価できる。この測定において、第1AlN中間層73aの格子間隔Daは、0.3145nmであり、無歪みのAlNの格子間隔daの0.3112nmよりも大きい。そのため、第1AlN中間層73aの上に形成した第2AlGaN中間層73bには圧縮応力が形成されている。無歪みのGaNのa軸の格子間隔dgは、0.3189nmである。したがって、第1AlN中間層73aの緩和率αは、0.57に相当する。
一方、Al組成比が0.7の第2AlGaN中間層73bを形成した参考例では、クラックが発生した。この試料について、上記と同様の評価を行ったところ、第2AlGaN中間層73bには引っ張り応力が形成されていることがわかった。すなわち、AlN層の上に、AlNよりも無歪みの格子間隔の大きな、Al組成比が0.7のAlGaN層を形成しているにもかからず、AlGaN層に引っ張り応力が形成された。これは、第1AlN中間層73aが歪んでおり、実際の格子間隔が無歪みの格子間隔よりも大きくなっているためである。
このように、緩和率α以下のAl組成比のAlGaN中間層を形成することで、クラックの少ない高品質の窒化物半導体素子が得られる。
このような窒化物半導体素子120及び窒化物半導体ウェーハ220により、転位が少ない窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハを提供することができる。さらに、クラックを抑制できる。
図21は、実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する模式的断面図である。
図21に表したように、実施形態に係る窒化物半導体素子121は、第1電極10eと第2電極20eとをさらに含む。機能層15には、n形半導体層10と、p形半導体層20と、発光層30と、が設けられている。この例では、低不純物濃度層10iも設けられている。窒化物半導体素子121は、半導体発光素子である。
この例では、n形半導体層10は、第1の部分11と、第2の部分12と、を含む。第2の部分12は、第1の部分11と、X−Y平面内において並ぶ。第2の部分12とp形半導体層20との間に発光層30が設けられる。
第1電極10eは、n形半導体層10の第1の部分11と電気的に接続される。第2電極20eは、p形半導体層20に電気的に接続される。第1電極10e及び第2電極20eを介して、機能層15に電流を供給し、発光層30から光が放出される。
窒化物半導体素子121においては、実施形態に係る積層体50が設けられていることで、転位密度が低く、その結果、例えば高い発光効率が得られる。
図22は、実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する模式的断面図である。
図22に表したように、実施形態に係る窒化物半導体素子122においても、第1電極10eと第2電極20eとが設けられる。この例では、機能層15が積層体50の上に形成された後に、基板40、バッファ層60及び積層体50が除去されている。例えば、機能層15のn形半導体層10、発光層30及びp形半導体層20を形成した後に、p形半導体層20の上に、第2電極20eが形成される。そして、第2電極20eの上に、第1接合金属層46が形成される。一方、主面上に第2接合金属層47が形成された支持基板45(例えばシリコン板など)が準備される。第1接合金属層46と第2接合金属層47とを互いに接合する。その後、結晶成長のために用いた基板40、バッファ層60、及び、積層体50の少なくとも一部が除去される。
窒化物半導体素子122においては、実施形態に係る積層体50の上に形成された機能層15を用いることで、転位密度が低く、その結果、例えば高い発光効率が得られる。
図23は、本実施形態に係る別の窒化物半導体素子を例示する模式的断面図である。
図23に表したように、実施形態に係る別の窒化物半導体素子123は、バッファ層60と、積層中間層70と、積層体50と、機能層15と、を含む。バッファ層60の上に、積層体50が設けられる。積層体50の上に積層中間層70が設けられる。積層中間層70の上に機能層15が設けられる。本実施形態に係る窒化物半導体ウェーハ223は、基板40、バッファ層60、積層中間層70及び積層体50を含む。窒化物半導体ウェーハ220は、機能層15をさらに含んでも良い。基板40、バッファ層60、積層体50、積層中間層70、及び機能層15のそれぞれには、窒化物半導体素子120に関して説明した構成を適用することができる。
窒化物半導体素子123(及び窒化物半導体ウェーハ223)においては、積層中間層70は、第1中間層70aと第2中間層70bとを含む。第2中間層70bは、第1中間層70aの上に設けられる。
第1中間層70aは、第1AlGaN中間層71aと、第1GaN中間層72aと、第1AlN中間層73aと、を含む。第1AlGaN中間層71aは、第1AlN中間層73aの上に設けられる。第1GaN中間層72aは、第1AlGaN中間層71aの上に設けられる。
第2中間層70bは、第2AlGaN中間層71bと、第2GaN中間層72bと、第2AlN中間層73bと、を含む。第2AlN中間層73bは、第1GaN中間層72aは、の上に設けられる。第2AlGaN中間層71bは、第2AlN中間層73bの上に設けられる。第2GaN中間層72bは、第2AlGaN中間層71bの上に設けられる。
窒化物半導体素子123(及び窒化物半導体ウェーハ223)の製造方法は、窒化物半導体素子120に関して説明した製造方法を、適宜変更して、適用することができる。
窒化物半導体素子123及び窒化物半導体ウェーハ223において、刃状転位密度Deは、2.2×108(/cm2)と低い値を示す。
基板40を含む窒化物半導体素子123、及び、窒化物半導体ウェーハ223の、室温での反りは、凸状であり、反りの大きさは、約10μmである。
一方、基板40を含む窒化物半導体素子110、及び、窒化物半導体ウェーハ210における反りは、凹状であり、反りの大きさは約40μmである。基板40を含む窒化物半導体素子120、及び、窒化物半導体ウェーハ220における反りは、凹状であり、反りの大きさは約10μmである。
窒化物半導体素子123及び窒化物半導体ウェーハ223のように、積層体50の上に積層中間層70を設けることで、窒化物半導体素子に形成される引っ張り歪みを低減でき、クラックを低減する効果が増大する。
図24は、実施形態に係る窒化物半導体素子を例示する模式的断面図である。
図24に表したように、実施形態に係る窒化物半導体素子130は、HEMT(High Electron Mobility Transistor)素子である。窒化物半導体素子130においては、機能層15は、第1層16と、第2層17と、ゲート電極18gと、ソース電極18sと、ドレイン電極18dと、が設けられる。
第1層16は、積層体50の上に設けられる。第2層17は、第1層16の上に設けられる。第1層16には、例えば不純物を含まないアンドープのAlαGa1−αN(0≦α≦1)が用いられる。第2層17には、例えばアンドープまたはn形のAlβGa1−βN(0≦β≦1、α<β)が用いられる。例えば、第1層16にはアンドープのGaN層が用いられ、第2層17にはアンドープまたはn形のAlGaN層が用いられる。
ゲート電極18g、ソース電極18s及びドレイン電極18dは、第2層17の上に設けられる。ソース電極18sは、X−Y平面内においてドレイン電極18dと離間している。ソース電極18s及びドレイン電極18dは、第2層17とオーミック接触している。ソース電極18sとドレイン電極18dとの間において、第2層17の上に、ゲート電極18gが配置される。ゲート電極18gは、第2層17とショットキー接触している。
第2層17の格子定数は、第1層16の格子定数よりも小さい。これにより、第2層17に歪みが生じて、ピエゾ効果により第2層17内にピエゾ分極が生じる。第1層16のうちの第2層17との界面付近に、2次元電子ガス17gが形成される。窒化物半導体素子130においては、ゲート電極18gに印加する電圧を制御することで、ゲート電極18g下の2次元電子ガス濃度が増減し、ソース電極18sとドレイン電極18dとの間に流れる電流が制御される。
窒化物半導体素子130においては、実施形態に係る積層体50の上に形成された機能層15を用いることで、転位密度が低く、その結果、良好な電気的特性が得られる。
本実施例において、バッファ層60の上に、積層体50が設けられ、積層体50の上に積層中間層70が設けられ、積層中間層70の上に機能層15が設けられても良い。
(第3の実施形態)
図25は、第3の実施形態に係る窒化物半導体層の形成方法を例示するフローチャート図である。
図25に表したように、本実施形態に係る窒化物半導体層の形成方法では、基板40の上に設けられ窒化物半導体を含むバッファ層60の上に、AlxGa1−xN(0<x≦1)のAlGaN層51aを形成する(ステップS110)。
さらに、AlGaN層51aの上面51auに接し7×1019/cm3以上4×1020/cm3以下の濃度でSiを含有する第1Si含有層51sを形成する(ステップS120)。
さらに、第1Si含有層51sの上に、上面51auに対して傾斜した斜面51gsを有する凸部51gpを含む第1GaN層51gを形成する(ステップS130)。
さらに、第1GaN層51gの上に、Siを含有する第2Si含有層52sを形成する(ステップS140)。
さらに、第2Si含有層52sの上に、第2GaN層52gを形成する(ステップS150)。
これにより、AlGaN層51aと、第1Si含有層51sと、第1GaN層51gと、第2Si含有層52sと、第2GaN層52gと、を含む積層体50を形成する(ステップS110a)。
本形成方法によれば、転位が少ない窒化物半導体層の形成方法を提供できる。
図25に表したように、本形成方法は、第2GaN層52gの上に機能層15を形成する処理(ステップS160)を、さらに含んでも良い。本形成方法は、基板40の上に、バッファ層60を形成する処理(ステップS105)をさらに含んでも良い。本形成方法は、バッファ層60の上に積層中間層70を形成する処理(ステップS106)をさらに含んでも良い。この場合には、AlGaN層51aの形成(ステップS110)においては、AlGaN層51aを積層中間層70の上に形成する。
実施形態において、窒化物半導体層の成長には、例えば、有機金属気相堆積(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition: MOCVD)法、有機金属気相成長(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)法、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法、及び、ハライド気相エピタキシー法(HVPE)法などを用いることができる。
例えば、MOCVD法またはMOVPE法を用いた場合では、各半導体層の形成の際の原料には、以下を用いることができる。Gaの原料として、例えばTMGa(トリメチルガリウム)及びTEGa(トリエチルガリウム)を用いることができる。Inの原料として、例えば、TMIn(トリメチルインジウム)及びTEIn(トリエチルインジウム)などを用いることができる。Alの原料として、例えば、TMAl(トリメチルアルミニウム)などを用いることができる。Nの原料として、例えば、NH3(アンモニア)、MMHy(モノメチルヒドラジン)及びDMHy(ジメチルヒドラジン)などを用いることができる。Siの原料としては、SiH4(モノシラン)、Si2H6(ジシラン)などを用いることができる。
実施形態によれば、転位が少ない窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の形成方法が提供できる。
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、BxInyAlzGa1−x−y−zN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,x+y+z≦1)なる化学式において組成比x、y及びzをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含むものとする。またさらに、上記化学式において、N(窒素)以外のV族元素もさらに含むもの、導電形などの各種の物性を制御するために添加される各種の元素をさらに含むもの、及び、意図せずに含まれる各種の元素をさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれば良い。
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、窒化物半導体素子及び窒化物半導体ウェーハに含まれる基板、バッファ層、積層中間層、積層体、AlGaN層、GaN層、Si含有層及び機能層などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
その他、本発明の実施の形態として上述した窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の形成方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての窒化物半導体素子、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体層の形成方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。