JP6094794B2 - 非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂およびスラリー組成物、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池 - Google Patents
非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂およびスラリー組成物、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池 Download PDFInfo
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Description
一般に、非水電解質二次電池の電極としては、金属箔等の集電体と、集電体上に設けられた合剤層とを備えるものが用いられており、合剤層には電極活物質および導電助剤がバインダによって保持されている。かかる電極は、電極活物質、導電助剤、バインダ、および液体媒体を混練してスラリーを調製し、これを転写ロール等で集電体の片面又は両面に塗工し、液体媒体を乾燥除去して合剤層を形成、その後必要に応じてロールプレス機等で圧縮成形することによって作製されている。液体媒体としては、電極活物質および導電助を分散し、バインダを溶解するものが用いられる。
しかしPVDFやSBRは、結着力が低い問題がある。そのためPVDFやSBRをバインダとして用いた場合、非水電解質二次電池の容量、レート特性、サイクル特性等の電池性能の向上が困難であった。例えば、電子の移動の容易さに影響されるレート特性の向上には、導電助剤の増量が効果的である。電池内の限られた空間で導電助剤を増量するにはバインダ量を低減する必要があるが、バインダ量を低減すると、集電体と合剤層との密着性や電極活物質間の密着性が低下し、充放電の繰り返しによって合剤層が集電体から剥離したり、合剤層から電極活物質が欠落したりして電池性能が低下してしまう。
このような問題に対し、集電体に対する密着性等のために、種々のパラメータを規定する方法が提案されている。例えば特許文献1では、THFゲル含有量が5%以下のポリマーと、N−メチルピロリドン(NMP)を主成分とする有機溶媒とを含有したバインダ組成物の、静的光散乱法により測定される第二ビリアル係数を特定値以下とし、前記ポリマーの回転半径を特定範囲内に規定する方法が提案されている。また、特許文献2では、一次粒子の最頻粒径がそれぞれ特定範囲内である重合体の液状媒体分散液2種を特定の配合量で混合する方法が提案されている。
スラリーのチキソ性は、スラリーの貯蔵安定性や電池性能に影響を及ぼす。たとえばスラリーのチキソ性が悪いと、塗工時(せん断応力を受けた時)に低粘度に変化せず、塗工を良好に行うことができなかったり、その後、高粘度へ回復せず、乾燥時に合剤層の内部構造が変化(活物質の沈降による偏在化等)してしまう。結果、集電体と合剤層との密着性、合剤層の平滑性等が不良となり、電池性能が低下する。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、チキソ性の良好なスラリーが得られるバインダ樹脂、該バインダ樹脂を用いたスラリー組成物、非水電解質二次電池用電極および非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
バインダ樹脂を、スラリー調製工程で液体媒体として用いる有機溶剤に、スラリー中の濃度と同程度である5%の濃度で溶解して樹脂溶液とした際に、動的光散乱法(DLS)による測定を行うと、一見完全に溶解しているにもかかわらず粒度分布が測定できる場合がある。このDLSによる測定にて1〜100000nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和に対する1〜100nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和の比率(1〜100nm粒子量)が、シアン化ビニル単量体単位を有する重合体を含有する樹脂を用いて得られるスラリーのチキソ性と正の相関を示す。
[1]バインダ樹脂、活物質および有機溶剤を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物に前記バインダ樹脂として用いられる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂であって、
シアン化ビニル単量体単位を有する重合体を含有し、かつ当該バインダ樹脂を前記有機溶剤に溶解して濃度5質量%の溶液とし、25℃にて動的光散乱法による粒度分布測定を行ったときに、下記式(1)を満足する非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂である。
0.05≦IS/IT ・・・(1)
[式中、ITは、1〜100000nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示し、ISは、1〜100nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示す。]
[2]シアン化ビニル単量体単位を有する重合体を用いたバインダ樹脂、活物質および有機溶剤を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物に前記バインダ樹脂として用いられる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂であって、
当該バインダ樹脂を前記有機溶剤に溶解して濃度5質量%の溶液とし、25℃にて動的光散乱法による粒度分布測定を行ったときに、下記式(2)を満足する非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂。
I S ≧30 ・・・(2)
[式中、I S は、1〜100nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示す。]
[3]前記バインダ樹脂が、0.03sec −1 から測定を開始し、高せん断速度へと移行し、100sec −1 まで測定した後、低せん断速度へ移行し、再度0.03sec −1 まで測定するせん断速度プログラムにおいて、
前記活物質100質量部、導電助剤5質量部、および前記バインダ樹脂2質量部を自公転式攪拌機を用いて、前記有機溶媒40質量部と混合して得られたスラリー組成物の25℃におけるレオロジー測定を行ったときに下記式(3)を満足する、[1]または[2]に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂。
η 0.1 /η 80 ≧20 ・・・(3)
[式中、η 80 とη 0.1 は、最高せん断速度100sec −1 に到達後から低せん断速度へ移行した後の、せん断速度80sec −1 と0.1sec −1 での粘度を示す。]
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、活物質および有機溶剤を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物。
[5]集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備える非水電解質二次電池用電極であって、
前記合剤層が、[1]〜[3]のいずれかに記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂および活物質を含有する非水電解質二次電池用電極。
[6]集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備える非水電解質二次電池用電極であって、
前記合剤層が、[4]に記載の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物を集電体に塗工し、乾燥させて得られるものである非水電解質二次電池用電極。
[7][5]または[6]に記載の非水電解質二次電池用電極を備える非水電解質二次電池。
本発明の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂(以下、単にバインダ樹脂という。)
は、バインダ樹脂、活物質および有機溶剤を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物に前記バインダ樹脂として用いられる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂であって、
シアン化ビニル単量体単位を有する重合体(以下、重合体(A1)という。)を含有し、かつ当該バインダ樹脂を前記有機溶剤に溶解して濃度5質量%の溶液とし、25℃にて動的光散乱法(DLS)による粒度分布測定を行ったときに、下記式(1)を満足するものである。
0.05≦IS/IT ・・・(1)
[式中、ITは、1〜100000nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示し、ISは、1〜100nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示す。]
重合体(A1)は、シアン化ビニル単量体単位を有する。シアン化ビニル単量体単位を有することで、電気化学的安定性、等に優れる。
シアン化ビニル単量体単位は、シアン化ビニル単量体(以下、単量体(m1)という。)に由来する構成単位を意味する。
単量体(m1)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−シアノアクリレート、ジシアノビニリデン、フマロニトリルが挙げられる。これらの中でも、重合のし易さ、安価に入手できる点で、アクリロニトリルが好ましい。
単量体(m1)は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
単量体(m1)単位の含有率の上限は特に限定されず、100モル%であってもよい。任意に単量体(m1)単位以外の構成単位(任意構成単位)を含有させる場合は、任意構成単位とのバランスを考慮して適宜設定できる。
任意構成単位の由来源となる単量体(任意単量体)としては、単位(m1)と共重合可能なものであればよく、電池電極用バインダ樹脂に用いられる単量体として公知の単量体のなかから適宜選択して用いることができる。
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート・モノエタノールアミン塩、ジフェニル((メタ)アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、3−クロロ−2−アシッド・ホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のリン酸基含有(メタ)アクリレート及びその塩;
アリルアルコールアシッドホスフェート等のリン酸基含有アリル化合物及びその塩;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの三級塩若しくは四級アンモニウム塩;
上記以外の(メタ)アクリレート{例えば、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル
(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシ−n−プロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−n−プロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシ−n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、1−エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の直鎖状、分岐状または環状構造を持つ(メタ)アクリレート};
塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;
(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等のカルボキシ基含有単量体及びその塩;スチレン、α−メチルスチレン、ヒドロキシスチレン等の芳香族ビニル単量体;
マレイミド、フェニルマレイミド等のマレイミド類;
(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有ビニル単量体及びその塩;
(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;
酢酸ビニル、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム、N−ビニルカルバゾール等が挙げられる。
なお、「ビニル単量体」は、ビニル基、またはビニル基のα位の炭素原子に結合した水素原子がメチル基で置換されたα−メチルビニル基を少なくとも1つ有する化合物である。
「アシッドホスフェート」は、リン酸のリン原子に結合した3つの水酸基のうち、1つまたは2つがエステル化された化合物(リン酸のモノエステルまたはジエステル)である。
任意単量体は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
単量体(m2)単位としては、上記のなかでも、リン酸基含有(メタ)アクリレートが好ましい。
重合体(A1)中の単量体(m2)単位の含有率は、重合体(A1)を構成する全ての構成単位の合計(100モル%)に対し、0〜20モル%が好ましく、0.05〜10モル%がより好ましい。20モル%以下であれば、重合体(A1)がスラリー調製に用いる有機溶剤に充分に溶解する。0.05モル%以上であれば、集電体に対する密着性等が充分に優れたものとなる。
単量体(m3)としては、たとえばN,N−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
重合体(A1)中の多官能単量体(m3)単位の含有率は、重合体(A1)を構成する全ての構成単位の合計(100モル%)に対し、0〜10モル%が好ましく、0.01〜5モル%がより好ましい。
重合の際、単量体(m1)は重合発熱が大きいため、溶媒中に滴下しながら重合を進めることが好ましい。
重合方法としては、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が挙げられる。これらの中でも懸濁重合が好ましい。従来、バインダ樹脂の製造方法としては乳化重合が汎用されているが、乳化剤を使用するため、得られるバインダ樹脂に乳化剤が含まれることになる。乳化剤は集電体への密着性や電池特性に悪影響を与えてしまう。そのため乳化重合の場合、回収、精製等の後処理に手間がかかる。懸濁重合によれば、実質的に乳化剤を含まない樹脂が得られるため、後処理が容易である。
懸濁重合に用いられる重合開始剤としては、重合開始効率等に優れることから、水溶性重合開始剤が好ましい。
水溶性重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;過酸化水素等の水溶性過酸化物;2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等の水溶性アゾ化合物等が挙げられる。中でも、重合が容易であることから、過硫酸塩が好ましい。
過硫酸塩等の酸化剤は、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイト等の還元剤、及び硫酸、硫酸鉄、硫酸銅等の重合促進剤と組み合わせて、レドックス系開始剤として用いることができる。
懸濁重合には、得られる電池電極用バインダの粒子径を調節するため、水以外の溶媒を加えることができる。水以外の溶媒としては、例えば、NMP、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;N,N−ジメチルエチレンウレア、N,N−ジメチルプロピレンウレア、テトラメチルウレア等のウレア類;γ−ブチロラクトン、γ−カプロラクトン等のラクトン類;プロピレンカーボネート等のカーボネート類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル類;ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類;トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;スルホラン等のスルホン類;メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
あると結着力に優れ、合剤層と集電体との密着性等が向上する。5,000,000以下であると、スラリー調製に用いられる有機溶剤への溶解性が良好である。また、得られるスラリー組成物の粘度が高くなりすぎず、塗工性等が良好である。
重合体(A1)の分子量分布(Mw/数平均分子量(Mn))は、1.05〜10.0が好ましく、1.1〜5.0がより好ましい。
Mw、Mnはそれぞれ、溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、標準ポリマーとしてポリスチレンを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定できる。
「実質的に含まない」とは、乳化剤が重合体(A1)全体に対して、50mg/kg未満であることを意味する。乳化剤は、重合体(A1)から水などを用いて抽出した抽出液をガスクロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法などにより分離分析することで、定量することができる。
乳化剤を実質的に含まない重合体は、懸濁重合により容易に製造できる。
特に、有する単量体(m1)単位の比率および/またはMwが異なる2種以上の重合体(A1)を使用すると、それらの配合比を調節することで前記式(1)におけるIS/ITの値を容易に調節でき、好ましい。
重合体(A1−11):単量体(m1)単位99.89〜80モル%、酢酸ビニル単位0.1〜〜19.99モル%及びN,N−メチレンビスアクリルアミド単位0.01〜10モル%を有する共重合体。
重合体(A1−12):単量体(m1)単位99.9〜60モル%、N−ビニルアセトアミド単位0.1〜40モル%を有する共重合体。
重合体(A1−13):単量体(m1)単位99.9〜60モル%、N−ビニルホルムアミド単位0.1〜40モル%を有する共重合体。
組み合わせ1:単量体(m1)単位からなる重合体(A1−21)と、単量体(m1)単位99.99〜85モル%及びリン酸基含有(メタ)アクリレート単位0.01〜15モル%を有する共重合体(A1−22)との組み合わせ。
組み合わせ2:単量体(m1)単位99.9〜85モル%及び酢酸ビニル単位0.1〜15モル%を有する共重合体(A1−23)と、前記共重合体(A1−22)との組み合わせ。
ただし、集電体への密着性や電極合剤の可とう性を考慮すると、本発明のバインダ樹脂中、重合体(A1)の含有量は、樹脂固形分(100質量%)に対し、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
重合体(A1)の含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。すなわち本発明のバインダ樹脂は重合体(A1)からなるものであってもよい。
重合体(A2)としては、単量体(m1)単位を有さず、かつ非水電解質二次電池電極用スラリー組成物の調製に用いられる有機溶剤に溶解して濃度5質量%以上の溶液となし得る溶解性を有するものであれば特に限定されず、これまで、非水電解質二次電池電極用のバインダ樹脂として提案されている重合体のなかから適宜選択できる。このような重合体としては、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTEF)、ポリペンタフルオロプロピレン等の含フッ素重合体、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)等が挙げられる。
本発明のバインダ樹脂は、当該バインダ樹脂を活物質、有機溶剤等と混合してスラリー組成物を調製する際に使用する有機溶剤に溶解して濃度5質量%の溶液とし、25℃にてDLSによる粒度分布測定を行ったときに、下記式(1)を満足する。
0.05≦IS/IT ・・・(1)
[式中、ITは、1〜100000nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示し、ISは、1〜100nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示す。]
バインダ樹脂として有機溶剤に対する溶解性が極めて高いものを用いた場合、IS、ITともに強度不足で測定できないが、溶解性が低くなると、一見溶解しているにもかかわらず、IS、ITが測定可能となる。これは重合体分子が折りたたまれて塊状になっているためで、この塊の大きさが粒子径としてDLSにより検出されていると考えられる。
そして、上記式(1)におけるIS/ITの値は、当該バインダ樹脂を活物質、有機溶剤等と混合して得られるスラリーのチキソ性と相関しており、バインダ樹脂のIS/ITの値が高いほど、得られるスラリー組成物のチキソ性が高まる。
IS/ITの値が0.05以上、つまり粒子径1〜100000nmの粒子のうちの粒子径1〜100nmの粒子の割合(1〜100nm粒子量)が5%以上であれば、スラリーを用いて非水電解質二次電池用電極を形成する際に、形成される合剤層が充分に均一なものとなり、該電極を用いた非水電解質二次電池が充分に優れた電池特性を有するものとなる。
一方、IS/ITの値が0.05未満の場合、例えばバインダ樹脂が完全に溶解してIT、ISともに測定できない場合や、IS/ITの値が0.95を超える場合、すなわち100nm超100000nm以下の粒子の割合が95%を超える場合、得られるスラリー組成物の均一性が不充分となる。
IS/ITは、0.07以上が好ましく、0.10以上がより好ましい。
IS/ITがとり得る上限は1であり、チキソ性の点では1に近いほど好ましいが、スラリーの再撹拌の容易さの点では0.99以下が好ましく、0.97以下がより好ましい。
なお、背景技術で挙げた特許文献1においては、静的光散乱法によりNMPまたはn−ヘプタンで希釈した溶液を用いてポリマーの回転半径を測定しているが、その濃度は0.2〜0.8%と極めて薄い。そのため該回転半径は、スラリー中のポリマーの粒子径とは
大きく異なる。また、特許文献2においては、水を重合媒体として用いた乳化重合により重合体ラテックスを製造し、その後、水をNMP置換してバインダ組成物としている。一次粒子の最頻粒径は、NMP置換前、つまりラテックス状態のときに測定しており、スラリー中のポリマーの粒子径とは大きく異なる。
「ラテックス」と「溶液」とは、レーザー回折式の粒径分布測定で粒子径が観測されるか否かにより区別できる。「溶液」の場合、レーザー回折式の粒径分布測定では粒子径が観測されない。
たとえば、ある重合体を用いた場合にIS/ITが0.05未満である場合は、その重合体よりも前記有機溶剤に対する溶解度が高い重合体を配合すると、IS/ITが大きくなる。
また、重量平均分子量が大きいほど、前記有機溶媒に対する溶解度が低下し、IS/ITが大きくなる傾向がある。
<IS>
本発明のバインダ樹脂は、当該バインダ樹脂を活物質、有機溶剤と混合してスラリー組成物を調製する際に使用する有機溶剤に溶解して濃度5質量%の溶液とし、25℃にてDLSによる粒度分布測定を行ったときに、下記式(2)を満足する。
IS≧30 ・・・(2)
[式中、ISは、1〜100nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示す。]
バインダ樹脂として有機溶剤に対する溶解性が極めて高いものを用いた場合、ISが強度不足で測定できないが、溶解性が低くなると、一見溶解しているにもかかわらず、ISが測定可能となる。これは重合体分子が折りたたまれて塊状になっているためで、この塊の大きさが粒子径としてDLSにより検出されていると考えられる。
そして、上記式(2)におけるISの値は、当該バインダ樹脂を活物質、有機溶剤と混合して得られるスラリーのチキソ性と相関しており、バインダ樹脂のISの値が高いほど、得られるスラリー組成物のチキソ性が高まる。
ISの値が30以上、つまり粒子径1〜100nmの粒子の散乱強度の絶対値が30以上であれば、スラリーを用いて非水電解質二次電池用電極を形成する際に、形成される合剤層が充分に均一なものとなり、該電極を用いた非水電解質二次電池が充分に優れた電池特性を有するものとなる。
一方、ISの値が30未満の場合、例えばバインダ樹脂が完全に溶解してISが測定できない場合や、100nm超の粒子の散乱強度が大きい場合、得られるスラリー組成物の均一性が不充分となる。
ISは、40以上が好ましく、50以上がより好ましい。
本発明のバインダ樹脂は、当該バインダ樹脂を、活物質、導電助剤および有機溶剤を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物に前記バインダ樹脂として用いられる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂であって、0.03sec−1から測定を開始し、高せん断速度へと移行し、100sec−1まで測定した後、低せん断速度へ移行し、再度0.03sec−1まで測定するせん断速度プログラムにおいて、
前記活物質100質量部、前記導電助剤5質量部、および本発明のバインダ樹脂2質量部を自公転式攪拌機を用いて、前記有機溶媒40質量部と混合して得られたスラリー組成物の25℃におけるレオロジー測定を行ったときに下記式(3)を満足する非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂である。
η0.1/η80≧20 ・・・(3)
[式中、η80とη0.1は、最高せん断速度100sec−1に到達後から低せん断速度へ移行した後の、せん断速度80sec−1と0.1sec−1での粘度を示す。]
前記スラリーのレオロジー測定は、応力制御方式と歪み制御方式の、どちらのレオメーターを用いて測定しても良いが、スラリー粘度の点で、応力制御方式のレオメーターが好ましい。測定に使用するプレートなどの条件は、特に限定されないが、広いスラリー粘度範囲に対応できる点で、φ40mm、角度2°のコーンプレートを用い、ギャップを69mmに設定するのが好ましい。測定温度は20℃とする。
せん断速度プログラムは、まず0.03sec−1から測定を開始し、高せん断速度へと移行し、100sec−1まで測定した後、低せん断速度へ移行し、再度0.03sec−1まで測定する。
η80とη0.1は、前記せん断プログラムにおいて、最高せん断速度100sec−1に到達後から低せん断速度へ移行した後の、せん断速度80sec−1と0.1sec−1での粘度である。
η0.1/η80の値が大きいほど、スラリーのチキソ性が高いことを示す。η0.1/η80の値が20以上であれば、チキソ性が良好といえる。
η0.1/η80の値が20未満の場合は、活物質や導電助剤が経時的に沈降し、合剤層が不均一になる。
η0.1/η80の上限値は特に限定されないが、スラリーを塗工した後の急激なスラリーの固化を防止する点で、500が好ましい。
たとえば、ある重合体を用いたスラリーの場合に、η0.1/η80の値が20未満であるときは、その重合体よりも前記有機溶剤に対する溶解度が低い重合体を配合すると、η0.1/η80が大きくなる。
また、ある重合体を用いたスラリーの場合に、η0.1/η80の値が500より大きいときは、重量平均分子量や粘度平均分子量の小さい重合体を配合すると、前記有機溶媒に対する溶解度が増し、η0.1/η80が小さくなる傾向がある。
本発明の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物(以下、単にスラリーという。)は、前記本発明のバインダ樹脂、活物質および有機溶剤を含有するものである。すなわち、本発明のスラリーは、バインダ樹脂、活物質および有機溶剤を含有するスラリーであって、前記バインダ樹脂が、シアン化ビニル単量体単位を有する重合体を含有し、かつ当該バインダ樹脂を前記有機溶剤に溶解して濃度5質量%の溶液とし、25℃にて動的光散乱法による粒度分布測定を行ったときに、下記式(1)を満足する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物である。
0.05≦IS/IT ・・・(1)
[式中、ITは、1〜100000nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示し、ISは、1〜100nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示す。]
本発明のスラリー中のバインダ樹脂の含有量は、特に限定されないが、スラリーの総固形分(有機溶剤を除く全成分)に対し、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜7質量%がより好ましい。0.01質量%以上であれば、当該スラリーを用いて形成される合剤層と集電体との密着性がより高まる。10質量%以下であれば、活物質や任意の導電助剤を充分に含有できるため、電池特性が向上する。
例えばリチウムイオン二次電池の場合、正極の電極活物質(正極活物質)としては、負極の活物質(負極活物質)より高電位(金属リチウムに対し)であり、充放電時にリチウムイオンを吸脱できる物質が用いられる。
正極活物質の具体例としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン及びバナジウムから選ばれる少なくとも1種類以上の金属と、リチウムとを含有するリチウム含有金属複合酸化物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリパラフェニレン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリチエニレン及びその誘導体、ポリピリジンジイル及びその誘導体、ポリイソチアナフテニレン及びその誘導体等のポリアリーレンビニレン及びそれらの誘導体等の導電性高分子が挙げられる。導電性高分子としては、有機溶媒に可溶なアニリン誘導体の重合体が好ましい。正極活物質は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
負極活物質としては、例えば、黒鉛、非晶質炭素、炭素繊維、コークス、活性炭等の炭
素材料;前記炭素材料とシリコン、錫、銀等の金属又はこれらの酸化物との複合物等が挙げられる。負極活物質は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
リチウムイオン二次電池においては、正極活物質としてリチウム含有金属複合酸化物を用い、負極活物質として黒鉛を用いることが好ましい。このような組み合わせとすることで、リチウムイオン二次電池の電圧を例えば4V以上に高められる。
本発明のスラリー中の活物質の含有量は、特に限定されないが、スラリーの総固形分(有機溶剤を除く全成分)に対し、80〜99.9質量%が好ましく、85〜99質量%がより好ましい。80質量%以上であれば、合剤層としての機能が充分に発揮される。99.9質量%以下であれば、合剤層と集電体との密着性が良好である。
本発明のスラリー中の有機溶剤の含有量は、常温でバインダ樹脂が溶解した状態を保てる必要最低限の量であればよいが、5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。スラリー中の溶媒の含有量は、該スラリーを用いて合剤層を形成する際に、集電体に塗工しやすい粘度を勘案して決定される。
任意成分として、例えば導電助剤、酸化防止剤、増粘剤等が挙げられる。
特に、本発明のスラリーが正極の合剤層を形成するものである場合、導電助剤を含有することが好ましい。導電助剤を含有することで、活物質同士の電気的接触を向上させることができ、非水電解質二次電池の放電レート特性等の電池性能をより高めることができる。
導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、チャンネルブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等が挙げられる。これらの導電助剤は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
本発明のスラリー中の合剤層中の導電助剤の含有量は、特に限定されないが、スラリーの総固形分(有機溶剤を除く全成分)に対し、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜7質量%がより好ましい。0.01質量%以上であれば、電池性能がより高められる。10質量%以下であれば、合剤層と集電体との密着性が良好である。
スラリー調製時、本発明のバインダ樹脂は、粉末状のものをそのまま使用してもよく、活物質や任意の導電助剤と混合する前に予め、有機溶剤に溶解して樹脂溶液として用いてもよいであってもよい。
本発明の非水電解質二次電池用電極(以下、単に電極という。)は、集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備え、前記合剤層が、前記本発明のバインダ樹脂および活物質を含有するものである。
集電体の形状は、目的とする電池の形態に応じて決定でき、例えば、薄膜状、網状、繊維状が挙げられ、中でも、薄膜状が好ましい。
集電体の厚みは、特に限定されないが、5〜30μmが好ましく、8〜25μmがより好ましい。
合剤層中のバインダ樹脂の含有量は、特に限定されないが、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜7質量%がより好ましい。0.01質量%以上であれば、当該スラリーを用いて形成される合剤層と集電体との密着性がより高まる。10質量%以下であれば、活物質や任意の導電助剤を充分に含有できるため、電池特性が向上する。
合剤層中の活物質の含有量は、特に限定されないが、80〜99.9質量%が好ましく、85〜99質量%がより好ましい。80質量%以上であれば、合剤層としての機能が充分に発揮される。99.9質量%以下であれば、合剤層と集電体との密着性が良好である。
導電助剤としては、前記本発明のスラリーの説明で挙げた活物質と同様のものが挙げられる。導電助剤は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
合剤層中の導電助剤の含有量は、特に限定されないが、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜7質量%がより好ましい。0.01質量%以上であれば、電池性能がより高められる。10質量%以下であれば、合剤層と集電体との密着性が良好である。
集電体が薄膜状または網状である場合、合剤層は、集電体の片面に設けられても両面に設けられてもよい。
スラリーの塗工方法は、集電体にスラリーを任意の厚みで塗布できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、刷毛塗り法等の方法が挙げられる。
塗工量は、形成しようとする合剤層の厚みに応じて適宜設定できる。
乾燥方法は、有機溶剤を除去できればよく、特に制限されない。例えば、有機溶剤の沸点以上に加熱する方法、減圧条件下で有機溶剤を蒸発させる方法等が挙げられる。
乾燥後、必要に応じて、形成された合剤層を圧延してもよい。圧延を行うことで、合剤層の面積を広げ、かつ任意の厚みに調節できる。
本発明の非水電解質二次電池(以下、単に電池という。)は、前記本発明の非水電解質二次電池用電極を備えるものである。
「非水電解質二次電池」は、電解質として、水を含まない非水電解質を用いたものであり、たとえばリチウムイオン二次電池等が挙げられる。非水電解質二次電池は、通常、電極(正極および負極)と、非水電解質と、セパレータとを備える。例えば、正極と負極とをポリエチレン微多孔膜等からなるセパレータを介して重ね合わせ捲回した捲回物が、非水電解質と共に電池容器に収容されたもの、等が挙げられる。
電解液の有機溶剤としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、NMP等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル等のエステル類;ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類;アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;スルホラン等のスルホン類;3−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、4−ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
リチウムイオン二次電池の電解液としては、カーボネート類にLiPF6を溶解したものが好ましい。
正極および負極のいずれか一方が本発明の電極である場合、他方の電極としては、公知のものが利用できる。
負極とをセパレータを介して対向させ、電池形状に応じて渦巻き状に捲回する、折るなどして電池容器に入れ、非水電解質を注入して封口するなどの、公知の方法が挙げられる。
電池の形状は、コイン型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
製造例1〜4における重合体の重量平均分子量および分子量分布の測定方法は次の通りである。
製造例で得られた重合体10mgを10mLのN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記す)に溶解し、0.5μmメンブレンフィルターで濾過して試料溶液を調製した。この試料溶液を東ソー社製ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)HLC−8020を用いて測定した。この測定には、分離カラムとして東ソー社製 TSKgel SuperHZM−H(商品名)(内径4.6mm×長さ15cm)を2本直列にしたものを用い、溶媒として0.01モル/Lの塩化リチウムを含有したDMF、流量0.6mL/min、検出器として示差屈折計、測定温度40℃、注入量0.1mL、標準ポリマーとしてポリスチレンを使用して測定した。
撹拌機、温度計、冷却管及び窒素ガス導入管を装備した2LのSUS314製セパラブルフラスコに、蒸留水940gを仕込んだ後、窒素ガス通気量100mL/分で蒸留水内へ15分間バブリングした。その後、窒素ガスの通気をオーバーフローに切り替え、撹拌しながら、フラスコを60℃まで昇温した。次いで、重合開始剤として過硫酸アンモニウム2.16g、50%亜硫酸アンモニウム水溶液6.48g、0.1%硫酸鉄水溶液0.15gを、蒸留水30gを用いて流し入れた。
アクリロニトリル100gに、窒素ガス通気量20mL/分で15分間バブリングした後、30分かけてフラスコ内に滴下した。滴下終了後、同温度で2時間保持して重合を進行させた。その後、攪拌を止めて水冷し、この反応液を吸引ろ過し、得られた沈殿物を55℃の温水10Lで洗浄した。この沈殿物のスラリー液を吸引ろ過し、得られた沈殿物を65℃で24時間乾燥して、重合体A−1(ポリアクリロニトリル)を得た。重量収率は78%であった。重量平均分子量は284,000であり、分子量分布は1.79であった。
単量体として、アクリロニトリル100gに代えて、アクリロニトリル93.1gおよび酢酸ビニル6.9gを用いた以外は、製造例1と同様の条件と手順で、重合体A−2(アクリロニトリル単位/酢酸ビニル単位=92.7/7.3(モル比)の共重合体)を得た。重量収率は82%であった。重量平均分子量は307,000であり、分子量分布は1.85であった。
撹拌機、温度計、冷却管及び窒素ガス導入管を装備した2LのSUS314製セパラブルフラスコに、蒸留水940gを仕込んだ後、窒素ガス通気量100mL/分で蒸留水内へ15分間バブリングした。その後、窒素ガスの通気をオーバーフローに切り替え、撹拌しながら、フラスコを60℃まで昇温した。次いで、重合開始剤として過硫酸アンモニウム8.64g、50%亜硫酸アンモニウム水溶液25.92g、0.1%硫酸鉄水溶液0.6gを、蒸留水30gを用いて流し入れた。
アクリロニトリル82.32g、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェー
ト(共栄社化学(株)製、商品名:ライトアクリレートP1−M)17.68gを均一に混合し、窒素ガス通気量20mL/分で15分間バブリングした後、30分かけてフラスコ内に滴下した。その後は、製造例1と同様の手順で、重合体A−3(アクリロニトリル単位/2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート単位=96.5/3.5(モル比)の共重合体)を得た。重量収率は70%であった。重量平均分子量は195,000であり、分子量分布は1.98であった。
単量体として、アクリロニトリルと酢酸ビニルに加え、N,N−メチレンビスアクリルアミド1.0gを用いた以外は、製造例2と同様の条件と手順で、重合体A−4(アクリロニトリル単位/酢酸ビニル単位/N,N−メチレンビスアクリルアミド単位=92.4/7.2/0.4(モル比)の共重合体)を得た。重量収率は94%であった。重量平均分子量は594,000であり、分子量分布は2.59であった。
製造例1〜4で得た重合体A−1〜A−4を、表1で示したバインダ樹脂組成(%)となるように混合してバインダ樹脂を得た。
得られたバインダ樹脂の1〜100nm粒子量IS/ITを下記の手順で測定した。
また、各バインダ樹脂を用いたスラリー、該スラリーを用いて製造した電極、該電極を用いて製造した二次電池の各種特性を下記の手順で評価した。結果を表1に示した。
各例のバインダ樹脂0.5部に、N−メチルピロリドン(以下、NMP)9.5部を添加し、撹拌子にて24時間に撹拌することで、試料溶液を調製した。
試料溶液中のバインダ樹脂の粒径分布を、大塚電子社製濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(高感度仕様、希薄用プローブ)を用いて、下記の測定条件で測定した。
測定条件:温度25℃、積算時間180秒間の測定を3回繰り返した後、マルカッド法により解析し、3回の測定で得られた粒径分布データを平均し、バインダ樹脂の粒径分布とした。なお、粒子径範囲は、0.1nm〜1000000nmと設定した。
測定結果から、1〜100nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和ISと、0.1〜1000000nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和ITを求め、ISをITで除することにより、バインダ樹脂のIS/ITを求めた。
活物質としてコバルト酸リチウム(日本化学工業(株)製、商品名:セルシードC−5H、以下、LCO)100部、導電助剤としてアセチレンブラック5部(電気化学工業(株)製 商品名:デンカブラック、以下、AB)、および各例のバインダ樹脂2部を自公転式攪拌機(自転1000rpm、公転2000rpm、Thinky社製、泡とり練太郎、以下、ミキサー)を用いて、NMP60部と混合し、スラリーを調製した。
得られたスラリーのせん断速度−粘度曲線を、TA Instruments Waters LC社製の応力制御レオメーターAR550を用いて測定した。測定には、φ40mm、角度2°のコーンプレートを用い、ギャップを69mm、温度を20℃とした。せん断速度プログラムは、まず0.03sec−1から測定を開始し、高せん断速度へと移行し、100sec−1まで測定した後、低せん断速度へ移行し、再度0.03sec−1まで測定した。
スラリーのチキソ性は、いわゆるチキソトロピー指数TIにより評価した。TIは、上記せん断速度プログラムのうち、最高せん断速度100sec−1に到達後から低せん断速度へ移行した後の、80における粘度で、さらに低せん断速度となった0.1における粘度を除した値とした。
このTIが大きいほど、スラリーのチキソ性が高いことを示している。TIの値が20
以上であれば、チキソ性が良好といえる。TIとしては、20〜500がより好ましい。
活物質としてLCOを100部、導電助剤としてABを5部、および各例のバインダ樹脂2部を、ミキサーを用いて、NMP60部と混合し、スラリーを調製した。
得られたスラリーを、アルミ箔(19cm×25cm 厚み20μm)上にドクターブレードを用いて塗布し、循環式熱風乾燥機中80℃で1時間乾燥させた後、さらに、真空乾燥機にて100℃で12時間減圧乾燥することにより、膜厚80μmの合剤層がアルミ箔に塗布されてなる電極を得た。
断面試料作成装置(日本電子社製SM−09010)を用いて、得られた電極の垂直断面を切り出した後、その断面を、走査型電子顕微鏡(SU1510、日立ハイテク社製)を用いて、合剤層の表面と、アルミ箔と合剤層の密着界面とが同時に観察できるような部分を、1000倍の視野で3箇所観察した。得られた画像のうち、合剤層表面から合剤層中央部へ向かって10μm×幅50μmの画像におけるLCO部分が占める面積の割合(SU)と、アルミ箔と合剤層の密着界面から合剤層中央部へ向かって10μm×幅50μmの画像における、LCO部分が占める面積の割合(SB)を画像解析ソフト(Media Cybernetics社製 Image−Pro PLUS ver4.5.0)により求め、以下のように評価した。
○:(SU/SB)−1の絶対値が0.1以下である。
△:(SU/SB)−1の絶対値が0.1より大きく0.2以下である。
×:(SU/SB)−1の絶対値が0.2より大きい。
「○」であることは、合剤層全体に均質に活物質が存在していることになり、塗料特性が良好であることを示す。
活物質としてLCOを100部、導電助剤としてABを5部、および各例のバインダ樹脂2部を、ミキサーを用いて、NMP60部と混合し、スラリーを調製した。得られたスラリーを、アルミ箔(19cm×25cm 厚み20μm)上にドクターブレードを用いて塗布し、循環式熱風乾燥機中80℃で1時間乾燥させた後、さらに、真空乾燥機にて100℃で12時間減圧乾燥することにより膜厚80μmの電極を得た。
前記正極電極及び金属リチウム負極電極を、セパレータ(商品名:セルガード♯2400)を介して対向させた。非水電解液として、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/2(体積比)の混合物を溶媒とした1Mの六フッ化リン酸リチウム溶液を用いて、2016型コイン電池を製造した。
前記2016型コイン電池の製造直後に、60℃で充放電レートを0.5Cとし、定電流法(電流密度:0.6mA/g−活物質)で4.2Vに充電したときの電池容量を測定し、その測定値を初期電池容量とした。
より詳細に検討する。まず、製造例2で得られた重合体A−2のみを使用した比較例1のバインダ樹脂では、散乱強度不足でISおよびITが測定できなかった。これは重合体A−2がNMPに完全に溶解しているためと考えられる。これに対し、重合体A−2と他の重合体を併用した実施例2および3のバインダ樹脂は、1〜100nm粒子量IS/ITが多く、その結果として、得られるスラリーのチキソ性が向上し、該スラリーを用いた合剤層の均一性、該電極を用いた二次電池の初期電池容量が向上したと考えられる。
また、製造例3で得られた重合体A−3のみを使用した比較例2のバインダ樹脂に対し、重合体A−3と他の重合体を併用した実施例1〜3のバインダ樹脂は、1〜100nm粒子量IS/ITが多く、その結果として、得られるスラリーのチキソ性が向上し、該スラリーを用いた合剤層の均一性、該電極を用いた二次電池の初期電池容量が向上したと考えられる。
また、重合体A−2、A−3をそれぞれ単独で使用した比較例1、2はいずれもスラリーのチキソ性が低かったが、それらを併用した実施例2〜3では、得られるスラリーのチキソ性が比較例1、2を上回っていた。
本発明の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物は、前記非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂を用いて得られるものであり、良好なチキソ性を有する。そのため本発明の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物は貯蔵安定性が良好である。また本発明の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物を用いることで、集電体上に、均一性、集電体との密着性等の良好な合剤層が形成された非水電解質二次電池用電極が得られる。
本発明の非水電解質二次電池用電極は、合剤層の均一性、集電体との密着性等が良好である。そのため該電極を備えた非水電解質二次電池によれば、良好な電池特性が得られる
。
Claims (7)
- バインダ樹脂、活物質および有機溶剤を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物に前記バインダ樹脂として用いられる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂であって、
シアン化ビニル単量体単位を有する重合体を含有し、かつ当該バインダ樹脂を前記有機溶剤に溶解して濃度5質量%の溶液とし、25℃にて動的光散乱法による粒度分布測定を行ったときに、下記式(1)を満足する非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂である。
0.05≦IS/IT ・・・(1)
[式中、ITは、1〜100000nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示し、ISは、1〜100nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示す。] - シアン化ビニル単量体単位を有する重合体を用いたバインダ樹脂、活物質および有機溶剤を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物に前記バインダ樹脂として用いられる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂であって、
当該バインダ樹脂を前記有機溶剤に溶解して濃度5質量%の溶液とし、25℃にて動的光散乱法による粒度分布測定を行ったときに、下記式(2)を満足する非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂。
IS≧30 ・・・(2)
[式中、ISは、1〜100nmの粒子径範囲で観測される散乱強度の総和を示す。] - 前記バインダ樹脂が、0.03sec−1から測定を開始し、高せん断速度へと移行し、100sec−1まで測定した後、低せん断速度へ移行し、再度0.03sec−1まで測定するせん断速度プログラムにおいて、
前記活物質100質量部、導電助剤5質量部、および前記バインダ樹脂2質量部を自公転式攪拌機を用いて、前記有機溶媒40質量部と混合して得られたスラリー組成物の25℃におけるレオロジー測定を行ったときに下記式(3)を満足する、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂。
η 0.1 /η 80 ≧20 ・・・(3)
[式中、η80とη0.1は、最高せん断速度100sec−1に到達後から低せん断速度へ移行した後の、せん断速度80sec−1と0.1sec−1での粘度を示す。] - 請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、活物質および有機溶剤を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物。
- 集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備える非水電解質二次電池用電極であって、
前記合剤層が、請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂および活物質を含有する非水電解質二次電池用電極。 - 集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備える非水電解質二次電池用電極であって、
前記合剤層が、請求項4に記載の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物を集電体に塗工し、乾燥させて得られるものである非水電解質二次電池用電極。 - 請求項5または6に記載の非水電解質二次電池用電極を備える非水電解質二次電池。
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