<第1実施形態>
近年、安心・安全な食品を提供する観点から、収穫後の新鮮な食材や加工食品などの鮮度を維持する技術の高度化が望まれている。鮮度を維持して食品を貯蔵するためには、貯蔵庫内の空気の温度及び相対湿度を最適に維持する必要がある。
野菜類、くだもの類、肉類、鮮魚等の生鮮食材の鮮度維持について、その最適貯蔵温度及び最適貯蔵相対湿度は、農林水産省の農研機構野菜茶業研究所や日本冷凍空調学会便覧等に整理・公表されている。公表されているデータによれば、多くの生鮮食材の鮮度維持に最適な温度は−3〜10℃程度であり、最適な相対湿度は70%〜98%程度である。
貯蔵庫内の空気の温度及び相対湿度を最適に維持する低温調湿装置として、主に、貯蔵庫内の空気から水分を除去する空気冷却式除湿器及び貯蔵庫内の空気に水分を供給する空気加湿器から構成される装置が広く使用されている。また、空気加湿器の代わりに、貯蔵庫内に冷水を供給して、冷水と貯蔵庫内の空気を気液接触させることにより相対湿度を調節する装置が知られている。
しかしながら、−3〜10℃という低温の空気に含ませることのできる水分量は微量である。そのため、空気加湿器により貯蔵庫内の空気に水分を供給する方法や、冷水と貯蔵庫内の空気と気液接触させる方法により、貯蔵庫内の空気の相対湿度を70〜98%の範囲で高精度に制御・維持するのは困難である。
そこで、本実施形態に係る低温調湿装置1は、吸湿液として脂肪族多価アルコールを使用して、当該吸湿液の濃度を調節することにより貯蔵庫内の空気の相対湿度を調節する。
以下、図面を参照して本実施形態に係る低温調湿装置1を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
図1に示す本実施形態に係る低温調湿装置1は、−3〜10℃の低温度において、貯蔵庫内の空気の相対湿度を高精度に制御・維持可能な食品用の低温調湿装置である。
本実施形態に係る低温調湿装置1は、概説すれば、物品を貯蔵する貯蔵庫20を備えるとともに、当該貯蔵庫20内の空気の相対湿度を吸湿液2により調節する低温調湿装置であって、貯蔵庫20内の空気の温度を調節する温度調節手段30と、吸湿液2の濃度を調節する濃度調節手段40と、濃度調節手段40により濃度が調節された吸湿液2と貯蔵庫20内の空気とを気液接触させる気液接触手段50と、気液接触手段50において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の液滴を捕集する液滴捕集手段60と、を有し、吸湿液2は脂肪族多価アルコールを含み、濃度調節手段40が当該吸湿液2の濃度を調節することにより貯蔵庫20内の空気の相対湿度を調節する低温調湿装置である。
本実施形態では、物品として食品を貯蔵する場合を例に説明する。
図1に示すように、低温調湿装置1における貯蔵庫20は、密閉された空間として構成される。そして、温度調節手段30及び濃度調節手段40は、貯蔵庫20の外部に配置される。
貯蔵庫20内には、吸湿液2を収容する吸湿液タンク3、貯蔵庫20内の空気を循環させる送風機4、天井ダクト5、空気吹出口6が設置される。また、貯蔵庫20内には、吸湿液タンク3内の吸湿液2を温度調節手段30及び濃度調節手段40に輸送するポンプ8が設置される。また、貯蔵庫20内には、貯蔵庫20内の空気の状態を測定する状態測定器9が設置される。吸湿液タンク3には、濃度測定器10が設置される。また、貯蔵庫20内には、吸湿液タンク3内の吸湿液2を気液接触手段50に輸送するポンプ13が設置される。
貯蔵庫20の外部には、ポンプ8により輸送される吸湿液2の流量を調節する流量制御バルブ11が設置される。吸湿液タンク3内の吸湿液2は、ポンプ8により流量制御バルブ11を介して温度調節手段30及び濃度調節手段40に輸送される。また、貯蔵庫20の外部には、吸湿液2の熱交換を行う熱交換器14及び吸湿液2を加熱する加熱器15が設置される。
本実施形態における状態測定器9は、少なくとも、貯蔵庫20内の空気の温度を測定する温度計を含む。状態測定器9に含まれる温度計は、公知のものを使用できる。また、濃度測定器10は、例えば、株式会社アタゴの屈折式濃度測定器により構成できる。
低温調湿装置1は、貯蔵庫20内のエチレンガスを当該貯蔵庫20外に排出するエチレンガス排出手段12を有する。エチレンガスは、貯蔵庫20内に貯蔵される食品から発生し得る。エチレンガス排出手段12は、貯蔵庫20内のエチレンガス濃度を計測する。そして、貯蔵庫20内のエチレンガス濃度が所定の濃度を超えないようにエチレンガスを貯蔵庫20の外部に適宜排出する。低温調湿装置1において、エチレンガス排出手段12は、エチレンガス検出制御器付き熱交換式換気ユニットにより構成される。
低温調湿装置1に使用される吸湿液2は、次の条件(1)〜(3)を満たす必要がある。すなわち、(1)貯蔵庫20内の空気と気液接触させることにより、貯蔵庫20内の空気の温度を低温度域において制御・維持可能である。(2)吸湿液2の濃度を調節して貯蔵庫20内の空気と気液接触させることにより、低温度環境において貯蔵庫20内の空気の相対湿度を高精度に制御・維持可能である。(3)人体に対して害を及ぼさないことが確認されているという条件を満たす必要がある。
上述した条件(1)〜(3)を満たす吸湿液2として、脂肪族多価アルコールの水溶液を使用することができる。
低温調湿装置1では、吸湿液2としてプロピレングリコール水溶液を用いる。プロピレングリコールは日本国内において食品添加物として認められており、プロピレングリコール水溶液は、上述した条件(3)を満たす。そして、上述した条件(1)及び(2)について、少なくとも以下の条件(1A)及び(2A)を満たす。すなわち、(1A)貯蔵庫20内の空気と気液接触させることにより、貯蔵庫20内の空気の温度を−5〜10℃程度の範囲において任意の温度に制御・維持可能である。(2A)吸湿液2の濃度を調節して貯蔵庫20内の空気と気液接触させることにより、貯蔵庫20内の空気の相対湿度を30〜98%程度の範囲において任意の相対湿度に高精度に制御・維持可能であるという条件を満たす。
図2は、プロピレングリコール水溶液(以下、PG水溶液と略称)の重量濃度と水蒸気圧の関係を示す。図2に示すように、同一の濃度の場合、PG水溶液の温度が高くなるほど水蒸気圧は高くなる。また、同一の温度の場合、PG水溶液の濃度が低くなるほど水蒸気圧は高くなる。従って、PG水溶液の濃度を調節することで、PG水溶液に気液接触される空気の相対湿度を調節できる。
例えば、図3は、5℃のPG水溶液と5℃の空気を気液接触させた際のPG水溶液の濃度と気液接触された空気の相対湿度の関係を示す。図3に示すように、例えば、相対湿度を98%程度にしたい場合にはPG水溶液の濃度を10%程度に調節し、相対湿度を95%程度に調節したい場合にはPG水溶液の濃度を25%に調節し、相対湿度を30%程度にしたい場合にはPG水溶液の濃度を90%程度に調節すればよい。
図4は、PG水溶液の凍結温度を示す。図4に示すように、PG水溶液の濃度を所定の濃度より高く維持することで、氷点下であってもPG水溶液を使用して貯蔵庫20内の相対湿度を調節できる。例えば、PG水溶液の濃度が15%のときの凍結温度は−5℃程度であるから、PG水溶液の濃度を15%以上に維持することで、−5℃の温度付近において貯蔵庫20内の相対湿度を調節することができる。また、PG水溶液の濃度が25%の時に凍結温度は−10℃程度であるから、PG水溶液の濃度を25%以上に維持することで、−10℃の温度付近において貯蔵庫20内の相対湿度を調節することができる。
図5は、PG水溶液及びPG水溶液に気液接触される空気の温度と相対湿度の関係を示す。図5に示すように、PG水溶液の濃度が25%から70%と高くなるほど気液接触される空気の相対湿度は低下する。このとき、PG水溶液が同一の濃度の場合、温度が−5℃から50℃まで変化しても、気液接触される空気の相対湿度の変化量は5%程度の範囲内に収まっている。すなわち、PG水溶液の温度が変化しても気液接触された空気の相対湿度の変化は微小である。従って、PG水溶液の温度に依存することなく、PG水溶液の濃度を調節することで、気液接触される貯蔵庫20内の空気の相対湿度を高精度に制御・維持できる。
気液接触手段50は、貯蔵庫20内の空気と吸湿液2とを気液接触させる気液接触部51と、気液接触部51に吸湿液2を滴下する滴下部52を有する。
気液接触手段50は、吸湿液2を滴下部52から気液接触部51に滴下させるとともに、当該気液接触部51に貯蔵庫20内の空気を通過させることにより吸湿液2と貯蔵庫20内の空気を気液接触させる。
滴下部52は、例えば、株式会社いけうち製の超低圧広角扇形ノズルを多数連結して構成できる。当該構成により、液滴飛散が発生しないように、低圧力かつ均一な流量で吸湿液2を気液接触部51へ滴下できる。
滴下部52から滴下される吸湿液2は、ポンプ13により吸湿液タンク3から滴下部52に輸送される。
気液接触部51は、例えば、旭化成ホームプロダクツ株式会社が製造しているサランロック(登録商標)により構成できる。サランロックは塩化ビニリデン系の繊維を立体構造に構成したもので、耐熱性が高く、耐薬品性で表面積が大きく、通気性能に優れるとともに、軽量かつ安価な材料である。
滴下部52から滴下された吸湿液2は気液接触部51の立体構造部分に沿って流下する。気液接触部51は、貯蔵庫20内の空気が吸湿液2の流下方向に対して直交して通過するように配置する。気液接触部51の厚みは、貯蔵庫20内の空気の流れ方向に10〜20cm程度とする。気液接触部51の縦横寸法は、貯蔵庫20内の内寸法が許す限り大きくできる。気液接触部51の縦横寸法を大きくすることで、気液接触される空気の量を増やすことができる。
気液接触部51を通過する貯蔵庫20内の空気の風速は0.3〜0.5m/s程度の極低速とする。風速は、送風機4の出力を制御することで調整可能である。
吸湿液2を気液接触部51の立体構造に付着しつつ流下させるとともに、気液接触部51を通過させる貯蔵庫20内の空気の風速を低速化することにより、吸湿液2の飛散を最大限に抑制できる。
液滴捕集手段60は、気液接触手段50において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の液滴を捕集する液滴捕集部61と、液滴捕集部61を通過した空気を衝突させる偏向板62を有する。液滴捕集部61は、気液接触部51から5cm〜10cm程度下流に設置される。これにより、貯蔵庫20内の空気は気液接触部51において気液接触した後に、液滴捕集部61を通過する。液滴捕集部61は、上述したサランロック(登録商標)により構成され、気液接触部51と同様の塩化ビニリデン系の繊維を立体構造に成形したものである。液滴捕集部61の厚みは、貯蔵庫20内の空気の流れ方向に5〜10cm程度である。液滴捕集部61を通過させることで、気液接触部51において気液接触された空気に残留する吸湿液2の液滴が捕集される。
液滴捕集部61を通過した空気は、貯蔵庫20の空気の流れ方向から下方へ45度程度偏向した偏向板62へ衝突し、吸湿液2の液滴がさらに衝突除去される。これにより、気液接触手段50において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の液滴が確実に除去される。
液滴捕集手段60は、偏向板62を通過した空気に含まれる吸湿液2の微細な液滴を捕集する微細液滴捕集部63をさらに有する。
微細液滴捕集部63は、空気清浄用のHEPAフィルターにより構成できる。微細液滴捕集部63の厚みは、例えば、5cm〜10cmとすることができる。
偏向板62を通過した湿り空気は、送風機4、天井ダクト5を介して、空気吹出口6に配置された微細液滴捕集部63を通過する。このとき、気液接触手段50において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の微細な液滴が確実に除去される。従って、空気吹出口6から吹き出す空気には、吸湿液2の微細な液滴が含まれていない。
温度調節手段30は、貯蔵庫20内の空気と吸湿液2との間の熱交換により当該貯蔵庫20内の空気の温度を調節する。
貯蔵庫20内の空気と吸湿液2との間の熱交換による温度調節は、吸湿液2の温度を所定の温度に調節することにより行うことができる。例えば、貯蔵庫20内の空気の温度を5℃から3℃に下げたい場合には、吸湿液2の温度を3℃よりも低い温度に調節すればよい。
吸湿液2の温度の調節は種々の方法で行えるが、低温調湿装置1の温度調節手段30は、冷却装置31及び温度調整タンク32を含み、吸湿液2の温度は以下のようにして調節される。すなわち、流量制御バルブ11を介して吸湿液タンク3内の吸湿液2を温度調整タンク32に輸送する。温度調整タンク32に輸送された吸湿液2は、冷却装置31を介して外部環境と熱交換されて温度が調節される。熱交換により生成される温風は、後述するように、濃度調節手段40において使用される。温度調節された吸湿液2は、温度調整タンク32から吸湿液タンク3に輸送される。これにより、吸湿液タンク3内の吸湿液2の温度を調節できる。
冷却装置31は、公知のチラーにより構成できる。また、冷却装置31として加熱器付きのチラーを使用してもよい。これにより、吸湿液タンク3の吸湿液2の温度が目標とする温度と比較して下がり過ぎてしまった場合に、吸湿液2の温度を上昇させることができる。そのため、吸湿液2の温度をより安定して調節できる。加熱器付きのチラーとして、例えば、株式会社アピステ製の空冷式チラーを使用することができる。
濃度調節手段40は、貯蔵庫20内の空気が所定の相対湿度となるように、吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度を調節する。具体的には、濃度調節手段40は、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度が目標とする値となるように、吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度を調節する。気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度は、吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度から計算することができる。吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度は、濃度測定器10により計測できる。
濃度調節手段40は、吸湿液2を気液接触させる濃度調節用気液接触部41と、濃度調節用気液接触部41に吸湿液2を滴下する濃度調節用滴下部42を有する。そして、吸湿液2を濃度調節用滴下部42から濃度調節用気液接触部41に滴下させるとともに、濃度調節用気液接触部41に温風を通過させて吸湿液2に含まれる水分を蒸発させることにより吸湿液2の濃度を調節する。
以下に、濃度調節手段40の作用について、具体的に説明する。
吸湿液タンク3内の吸湿液2は、ポンプ8により吸湿液タンク3から流量制御バルブ11へ輸送される。
流量制御バルブ11は、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度と、目標とする相対湿度の関係から、濃度調節手段40に輸送される吸湿液2の流量を制御する。吸湿液2を濃縮して濃度を高める必要がある場合は、吸湿液タンク3から輸送される吸湿液2の一部を熱交換器14へ輸送する。吸湿液2の濃縮が不要な場合は、熱交換器14への輸送を停止する。上述したように、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度は、吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度から計算することができる。
熱交換器14では、吸湿液タンク3から輸送されてきた低温度の吸湿液2と、濃度調節用気液接触部41から流下してくる高温度の吸湿液2との間で熱交換を行う。その結果、吸湿液タンク3から輸送された低温の吸湿液2は昇温されて加熱器15へ送られる。一方、濃度調節用気液接触部41から流下してきた高温の吸湿液2は冷却されて低温となり、吸湿液タンク3に輸送される。熱交換器14の熱交換率は高いほどよい。熱交換率95%程度以上が好ましい。
熱交換器14を通過した吸湿液2は加熱器15へ輸送される。加熱器15は、吸湿液2を加熱して昇温する。昇温は、吸湿液2の温度が100℃を超えない範囲で行われる。加熱器15により吸湿液2を昇温することで、吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度を急速に高めることができる。これにより、貯蔵庫20内の空気の相対湿度を急速に下げることができるため、低温調湿装置1を低温低湿度乾燥装置として使用することもできる。吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度を急速に高める必要がない場合には、加熱器15により吸湿液2を昇温させなくてもよい。
加熱器15を通過した吸湿液2は、濃度調節用気液接触部41の上部に設置した濃度調節用滴下部42から、濃度調節用気液接触部41に滴下される。濃度調節用滴下部42は、吸湿液2の液滴発生及び飛散等を抑制しつつ、濃度調節用気液接触部41に吸湿液2を滴下する。濃度調節用滴下部42は、気液接触手段50の滴下部52と同様に、例えば、株式会社いけうちの超低圧広角扇形ノズル等を用いて構成できる。
濃度調節用気液接触部41は、気液接触手段50の気液接触部51と同様に旭化成ホームプロダクツ株式会社のサランロック等で構成できる。例えば、厚み50mmのサランロックOM−150を2枚重ねて、10cm程度の厚みの濃度調節用気液接触部41を構成できる。濃度調節用気液接触部41の縦横の寸法は、気液接触手段50の気液接触部51の場合と同様に、貯蔵庫20の外寸法が許す限り大きくできる。
濃度調節用気液接触部41に通過させる温風は種々の方法で生成できる。低温調湿装置1では、上述したように温度調節手段30の冷却装置31における熱交換により発生する温風を、濃度調節用気液接触部41に直交するように送風する。温風の平均風速は、0.5m/s以内となるように調整する。濃度調節用気液接触部41において温風と気液接触した吸湿液2は、吸湿液2に含まれる水分が蒸発して濃度が高くなる。
吸湿液2の温度が温風の温度より15℃程度高い場合、PG水溶液の濃度は70%程度まで濃縮される。吸湿液2の濃度を70%より高くする場合は、加熱器15で吸湿液2の温度を昇温させると効率的である。加熱器15で70℃程度以上に昇温した後に濃度調節用気液接触部41において温風と気液接触させることにより、吸湿液2の濃度を90%程度にまで濃縮できる。
吸湿液2の目標濃度から、加熱器15により昇温する際の吸湿液2の温度と、濃度調節用気液接触部41に通過させる温風の温度は、例えば、次のようにして決定できる。例えば、吸湿液2の濃度を90%としたい場合、図2に示すようなPG水溶液の濃度と水蒸気圧の関係から、PG水溶液濃度90%で液温度70℃に対応する水蒸気圧を求める。この水蒸気圧に等しい水蒸気圧を示すPG水溶液濃度0%の液温は40℃程度である。従って、加熱器15により吸湿液2の温度を70℃に昇温させた後に、濃度調節用気液接触部41において40℃程度の温風と気液接触させることで、吸湿液2の濃度を90%に濃縮できる。
濃度調節用気液接触部41を流下した吸湿液2は、熱交換器14で冷却されて、吸湿液タンク3へ返送される。
上述したように、低温調湿装置1の濃度調節手段40は、気液接触手段において貯蔵庫20内の空気と気液接触された後の吸湿液2を回収して再利用する。
濃度調節手段40は、吸湿液2の濃度を25〜90重量%の範囲で調節し、温度調節手段30は、貯蔵庫20内の空気の温度を−5〜10℃の範囲で調節することができる。従って、例えば、貯蔵庫20内の空気の温度−5℃において貯蔵庫20内の空気の相対湿度を95%程度に調節できる。
また、濃度調節手段40は、吸湿液2の濃度を10〜90重量%の範囲で調節し、温度調節手段30は、前記貯蔵庫20内の温度を−3〜10℃の範囲で調節することができる。従って、貯蔵庫20内の空気の温度−3〜10℃の範囲において、貯蔵庫20内の空気の相対湿度を70%〜98%に調節できる。
さらに、濃度調節手段40は、吸湿液2の濃度を約80〜90重量%に調節し、温度調節手段30は、貯蔵庫20内の空気の温度を約−3〜0℃に調節することができる。これにより、貯蔵庫20内の空気の温度−2〜0℃程度の氷温において、貯蔵庫20内の空気の相対湿度を30〜50%程度の低湿度とすることができる。従って、低温調湿装置1を、低温度かつ低湿度で乾燥を行う氷温乾燥装置として使用できる。
次に、本実施形態に係る低温調湿装置1の作用を説明する。
図1を参照して、温度調節手段30は、状態測定器9により計測される貯蔵庫20内の空気の温度が目標温度となるように、吸湿液タンク3に収容されている吸湿液2の温度を上述した方法により調節する。そして、濃度調節手段40は、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度が目標とする相対湿度になるように、吸湿液タンク3に収容されている吸湿液2の濃度を上述した方法により調節する。そして、気液接触手段50は、滴下手段52から吸湿液タンク3に収容されている吸湿液2を気液接触部51に滴下する。これにより、温度及び濃度が調節された吸湿液2が、気液接触部51において貯蔵庫20内の空気と気液接触される。その結果、貯蔵庫20内の空気の温度及び相対湿度が高精度に調節される。
また、液滴捕集手段60は、気液接触手段50において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の液滴を捕集する。具体的には、液滴捕集部61が気液接触手段51において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の液滴を捕集するとともに、液滴捕集部61で捕集されなかった吸湿液2の液滴が偏向板62により衝突除去される。さらに、気液接触手段51において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の微細な液滴が微細液滴捕集部63により除去される。その結果、吸湿液2が貯蔵庫20内に貯蔵されている食品に付着するのが防止されて、貯蔵される食品の品質が高い状態で維持される。
また、温度調節手段30は、貯蔵庫20内の空気と吸湿液2との間の熱交換により貯蔵庫20内の空気の温度を調節する。すなわち、吸湿液2の温度を調節する簡便な方法により、貯蔵庫20内の空気の温度を制御・維持できる。
また、濃度調節手段40は、濃度調節用気液接触部41に温風を通過させて吸湿液2に含まれる水分を蒸発させることにより吸湿液2の濃度を調節する。これにより、簡便かつ効率的に吸湿液2の濃度を任意の濃度に調節できる。また、濃度調節手段40は、気液接触手段51において貯蔵庫20内の空気と気液接触された後の吸湿液2を回収して再利用する。これにより、長期間に亘って吸湿液2をメンテナンスすることなく低温調湿装置1を連続して使用できる。
上述したように、本実施形態に係る低温調湿装置1は、貯蔵庫20内の空気の温度を調節する温度調節手段30と、吸湿液2の濃度を調節する濃度調節手段40と、濃度調節手段40により濃度が調節された吸湿液2と貯蔵庫20内の空気とを気液接触させる気液接触手段50と、を有する。そして、脂肪族多価アルコールを含む吸湿液2を使用して、濃度調節手段40が吸湿液2の濃度を調節することにより貯蔵庫20内の空気の相対湿度を調節する。これにより、貯蔵庫20内の空気の温度によらず、吸湿液2の濃度を調節することにより貯蔵庫20内の空気の相対湿度を高精度に調節できる。従って、本実施形態によれば、低温度環境において、相対湿度を高精度に制御・維持可能な低温調湿装置を提供できる。
また、本実施形態に係る低温調湿装置1は、気液接触手段50において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の液滴を捕集する液滴捕集手段60を有する。これにより、気液接触手段50において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の液滴を捕集することができるため、吸湿液2が貯蔵庫20内に貯蔵されている食品に付着するのを防止できる。従って、本実施形態によれば、貯蔵される食品の品質を高い状態で維持できる。
また、本実施形態によれば、液滴捕集手段60は、気液接触手段50において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の液滴を捕集する液滴捕集部61と、液滴捕集部61を通過した空気を衝突させる偏向板62と、を有する。これにより、気液接触手段50において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の液滴が液滴捕集部61に捕集される。そして、液滴捕集部61を通過した空気が偏向板62に衝突することにより、液滴捕集部61で捕集されなかった吸湿液2の液滴がさらに衝突除去される。そのため、気液接触手段50において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の液滴を確実に除去できる。従って、本実施形態によれば、貯蔵される食品の品質をより高い状態で維持できる。
また、本実施形態によれば、液滴捕集手段60は、偏向板62を通過した空気に含まれる吸湿液2の微細な液滴を捕集する微細液滴捕集部63をさらに有する。これにより、気液接触手段50において気液接触された空気に含まれる吸湿液2の微細な液滴を確実に除去できる。従って、本実施形態によれば、貯蔵される食品の品質をさらに高い状態で維持できる。
また、本実施形態によれば、気液接触手段50は、貯蔵庫20内の空気と吸湿液2とを気液接触させる気液接触部51と、気液接触部51に吸湿液2を滴下する滴下部52を有する。そして、気液接触手段50は、吸湿液2を滴下部52から気液接触部51に滴下させるとともに、気液接触部51に貯蔵庫20内の空気を通過させることにより吸湿液2と貯蔵庫20内の空気を気液接触させる。これにより、吸湿液2と貯蔵庫20内の空気との気液接触を効率良く行える。従って、本実施形態によれば、貯蔵庫20内の相対湿度を効率よく高精度に制御・維持できる。
また、本実施形態によれば、温度調節手段30は、貯蔵庫20内の空気と吸湿液2との間の熱交換により当該貯蔵庫20内の空気の温度を調節する。これにより、貯蔵庫20内の空気の温度と相対湿度を吸湿液2の温度と濃度で制御できる。従って、本実施形態によれば、簡便な構成で貯蔵庫20内の空気の温度と相対湿度を制御できる。
また、本実施形態によれば、濃度調節手段40は、吸湿液2を気液接触させる濃度調節用気液接触部41と、濃度調節用気液接触部41に吸湿液2を滴下する濃度調節用滴下部42を有する。そして、濃度調節手段40は、吸湿液2を濃度調節用滴下部42から濃度調節用気液接触部41に滴下させるとともに、濃度調節用滴下部42に温風を通過させて吸湿液2に含まれる水分を蒸発させることにより吸湿液2の濃度を調節する。これにより、吸湿液2に温風を通過させる簡便な方法で気液接触を効率良く行える。従って、本実施形態によれば、簡便かつ効率的に吸湿液2の濃度を調節できる。
また、本実施形態によれば、濃度調節手段40は、気液接触手段50において貯蔵庫20内の空気と気液接触された後の吸湿液2を回収して再利用する。これにより、溶媒及び溶質を新たに加えることなく、吸湿液2を連続して使用できる。従って、本実施形態によれば、長期間に亘って吸湿液2をメンテナンスすることなく低温調湿装置1を連続して使用できる。
また、本実施形態によれば、濃度調節手段40は、吸湿液2の濃度を25〜90重量%の範囲で調節し、温度調節手段30は、貯蔵庫20内の空気の温度を−5〜10℃の範囲で調節することができる。これにより、−5〜10℃の範囲の低温度において相対湿度を70〜98%に高精度に制御・維持できる。また、濃度調節手段40は、吸湿液2の濃度を10〜90重量%の範囲で調節し、温度調節手段30は、貯蔵庫20内の温度を−3〜10℃の範囲で調節することができる。これにより、−3〜10℃の温度範囲において相対湿度70〜98%に高精度に制御・維持できる。さらに、濃度調節手段40は、吸湿液2の濃度を約80〜90重量%に調節し、温度調節手段30は、貯蔵庫20内の空気の温度を約−3〜0℃に調節できる。これにより、−2〜0℃の氷温において相対湿度を30〜50%に維持できるため、低温調湿装置1を氷温乾燥装置として使用できる。
また、本実施形態によれば、貯蔵庫20は、密閉された空間として構成される。これにより、貯蔵庫20内の空気と外部環境との間で熱及び水分の移動がないから、貯蔵庫20内の空気の温度及び相対湿度を効率よく制御・維持できる。
また、本実施形態によれば、貯蔵庫20は食品を貯蔵できる。そして、低温調湿装置1は、貯蔵庫20内のエチレンガスを貯蔵庫20の外部に排出するエチレンガス排出手段を有する。これにより、エチレンガスの作用で貯蔵されている食品の鮮度が劣化するのを防止できる。従って、本実施形態によれば、より長期間に亘って食品の鮮度を維持できる。
また、本実施形態によれば、プロピレングリコール水溶液により吸湿液2が構成される。プロピレングリコールは人体に対して害を及ぼさないことが確認されているから、低温度において相対湿度を高精度に制御・維持しながら食品をより安全に鮮度高く貯蔵できる。
<変形例1>
上述した第1実施形態の貯蔵庫20の構成は、貯蔵庫20内の空気の温度及び相対湿度が目標温度及び目標濃度に制御・維持されるように温度及び濃度が調節された吸湿液2と貯蔵庫20内の空気とが気液接触される限りにおいて、変更することが可能である。
例えば、図1では貯蔵庫20は密閉された空間として構成される場合を図示しているが、開放された空間として構成してもよい。当該構成により、食品を最適な温度及び相対湿度で貯蔵するとともに、陳列用のショーケースとして使用できる。
<変形例2>
上述した第1実施形態の状態測定器9は、貯蔵庫20内の空気の温度を測定する温度計を含むように構成されたが、これに限定されない。例えば、温度計に加えて、貯蔵庫20内の空気の相対湿度を測定する湿度計を含むように構成してもよい。
この場合、濃度調節手段40は、貯蔵庫20内の空気の実際の相対湿度に基づいて吸湿液2の濃度を調節するように構成できる。これにより、貯蔵庫20内の空気の相対湿度をより正確に安定して調節することができる。
具体的には、上述した第1実施形態では、濃度調節手段40は、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度が目標とする値となるように、吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度を調節した。そして、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度は、吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度から計算された。一方、上述したように状態測定器9が湿度計を含む場合には、濃度調節手段40は、湿度計によって計測される貯蔵庫20内の空気の実際の相対湿度が目標とする相対湿度となるように吸湿液2の濃度を調節できる。そのため、貯蔵庫20内の空気の相対湿度をより正確に安定して調節することができる。
なお、使用する湿度計によっては、相対湿度を計測できる温度域が制限される場合がある。そのような湿度計を使用する場合には、湿度計が相対湿度を計測できる温度域では、湿度計によって計測される貯蔵庫20内の空気の実際の相対湿度が目標とする相対湿度となるように吸湿液2の濃度を調節するように濃度調節手段40を構成する。そして、湿度計が相対湿度を計測できない温度域では、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度が目標とする値となるように濃度調節手段40を構成してもよい。当該構成によれば、少なくとも、湿度計が相対湿度を計測できる温度域において、上述した貯蔵庫20内の空気の相対湿度をより正確に安定して調節できるという効果は達成される。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る低温調湿装置200を説明する。第1実施形態において説明した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
第2実施形態に係る低温調湿装置200は、次の点で第1実施形態に係る低温調湿装置1と異なる。
すなわち、温度調節手段230の構成が、第1実施形態に係る低温調湿装置1の温度調節手段30と相違する。具体的には、温度調節手段30は、貯蔵庫20内の空気と吸湿液2との間の熱交換により貯蔵庫20内の空気の温度を調節したが、温度調節手段230は、貯蔵庫20内の空気と外部環境との間の熱交換により貯蔵庫20内の空気の温度を調節する。
また、低温調湿装置200は、天井ダクト5及び流量制御バルブ11を含まない。低温調湿装置200は、凝縮水輸送管216、凝縮水制御バルブ217、凝縮水還流管218、凝縮水排出管219、温度調節手段230として使用される空気冷却器270、及び、空気冷却器270の室外機280を含む。
上述した相違点に係る構成について以下に説明する。
図6は、第2実施形態に係る低温調湿装置200の概略図である。
上述したように、温度調節手段230は、貯蔵庫20内の空気と外部環境との間の熱交換により貯蔵庫20内の空気の温度を調節する。
貯蔵庫20内の空気と外部環境との間の熱交換の種々の方法があるが、低温調湿装置200では、一般的な低温高湿度貯蔵庫が備える空気冷却器を温度調節手段230として使用する。これにより、既存の低温高湿度貯蔵庫の構成を一部流用できるため、既存の低温高湿度貯蔵庫を、貯蔵庫20内の相対湿度を高精度に制御・維持可能な低温調湿貯蔵庫に容易に改造できる。具体的には、既設の低温高湿貯蔵庫は、貯蔵庫内に空気冷却器、空気加熱器、及び、加湿器を備えている場合が多い。このような既設の低温高湿貯蔵庫において、空気冷却器を温度調節手段230として流用するとともに空気加熱器及び加湿器を撤去し、吸湿液2の濃度を調節する濃度調節手段40と、気液接触手段50と、液滴捕集手段60を追加することにより、低温調湿装置200へ容易に改造できる。
温度調節手段230として使用される空気冷却器270は、冷却ファン271、冷却器用熱交換器272、冷却器側冷媒流出部L1、及び、冷却器側冷媒流入部L4により構成される。貯蔵庫20内の空気の温度は、冷却ファン271及び冷却器用熱交換器272を制御することにより調節される。具体的には、貯蔵庫20内の空気の温度が目標とする温度よりも高い場合には、冷却ファン271及び冷却器用熱交換器272を作動させて貯蔵庫20内の空気と外部環境との間で熱交換をすることにより、貯蔵庫20内の空気の温度を下げることができる。貯蔵庫20内の空気の温度が目標とする温度よりも低い場合には、貯蔵庫20内の空気と外部環境との間の熱交換を停止する。
空気冷却器270の室外機280は、室外機用送風ファン281、室外機用熱交換器282、室外機側冷媒流入部L2、及び、室外機側冷媒流出部L3により構成される。
冷却器用熱交換器272における貯蔵庫20内の空気と外部環境との間の熱交換は、冷媒を介して行われる。冷媒は、冷却器用熱交換器272及び室外機用熱交換器282の間を循環する。具体的には、冷却器側冷媒流出部L1と室外機側冷媒流入部L2、及び、室外機側冷媒流出部L3と冷却器側冷媒流入部L4は、冷媒輸送管(不図示)によりそれぞれ接続されている。そして、冷却器用熱交換器272において貯蔵庫20内の空気と熱交換した冷媒は、冷媒輸送管を介して冷却器側冷媒流出部L1から室外機側流入部L3に輸送される。室外機側流入部L3に輸送された冷媒は、室外機熱交換器282において外部環境と熱交換を行う。室外機熱交換器282において外部環境と熱交換した冷媒は、室外機側冷媒流出部L3から室外機側冷媒流入部L4に輸送される。そして、室外機側冷媒流入部L4に輸送された冷媒は、再び冷却器用熱交換器272において貯蔵庫20内の空気と熱交換を行う。上述したように冷媒が冷却器用熱交換器272及び室外機用熱交換器282の間を循環することにより、冷却器用熱交換器272において貯蔵庫20内の空気と外部環境との間の熱交換が冷媒を介して行われる。
貯蔵庫20内の空気の相対湿度は、第1実施形態と同様に吸湿液2の濃度を調節することで高精度に制御・維持される。
吸湿液2の濃度は、第1実施形態と同様に濃度調節手段40により行われる。第1実施形態の説明において上述したように、濃度調節手段40は、吸湿液2を濃度調節用滴下部42から濃度調節用気液接触部41に滴下させるとともに、濃度調節用気液接触部41に温風を通過させて吸湿液2に含まれる水分を蒸発させることにより吸湿液2の濃度を調節する。濃度調節用気液接触部41に通過させる温風は種々の方法で生成できるが、室外機用熱交換器282において冷媒と外部環境が熱交換した際に発生する温風を使用してもよい。これにより、濃度調節用気液接触部41に通過させる温風を生成するのに必要なエネルギーを節約できる。
温度調節手段230では、貯蔵庫20内の空気を冷却する際に貯蔵庫20内の空気に含まれる水分が凝縮して凝縮水が発生する。温度調節手段230で発生する凝縮水は、吸湿液タンク3に還流させてもよい。具体的には、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度が目標とする値よりも低い場合には凝縮水を吸湿液タンク3に還流させ、目標とする値よりも高い場合には凝縮水を貯蔵庫20の外部に排出してもよい。すなわち、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度が目標とする値よりも低い場合には、吸湿液タンク3に収容されている吸湿液2の濃度を下げる必要がある。このとき、凝縮水を吸湿液タンク3に還流させることにより吸湿液タンク3に収容されている吸湿液2の濃度が下がるから、吸湿液2の濃度の調節幅が少なくて済む。逆に、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度が目標とする値よりも高い場合には、吸湿液タンク3に収容されている吸湿液2の濃度を上げる必要がある。このときは、凝縮水を吸湿液タンク3に還流させずに貯蔵庫20の外部に排出する。これにより、吸湿液タンク3に収容されている吸湿液2の濃度の調節を効率化できる。気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度は、吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度から計算することができる。吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度は、濃度測定器10により計測できる。
温度調節手段230で発生する凝縮水を吸湿液タンク3に還流させる方法及び貯蔵庫20の外部に排出する方法が種々のものがある。低温調湿装置200では、凝縮水輸送管216、凝縮水制御バルブ217、凝縮水還流管218、及び、凝縮水排出管219により行う。具体的には、温度調節手段230で発生した凝縮水は、凝縮水輸送管216により凝縮水制御バルブ217まで輸送される。凝縮水バルブ217は、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度と目標とする相対湿度の関係から、凝縮水還流管218及び凝縮水排出管219に通過させる凝縮水の流量を調節する。
上述したように、本実施形態に係る低温調湿装置200の温度調節手段230は、貯蔵庫20内の空気と外部環境との間の熱交換により貯蔵庫20内の空気の温度を調節する。これにより、貯蔵庫20内の空気と外部環境との間で熱交換が直接的になされるから、貯蔵庫20内の空気の温度を効率的かつ迅速に調節できる。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る低温調湿ユニット300を説明する。第1実施形態及び第2実施形態において説明した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
図7は、第3実施形態に係る低温調湿ユニット300を示す概略図である。
第3実施形態に係る低温調湿ユニット300は、第1実施形態に係る低温調湿装置1と類似するが、貯蔵庫20を含まない点において第1実施形態に係る低温調湿装置1と異なる。
すなわち、低温調湿ユニット300は、吸湿液2と、温度調節手段30と、濃度調節手段40と、気液接触手段50と、液滴捕集手段60を備えるように構成される。
低温調湿ユニット300は、さらに、吸湿液タンク3、送風機4、ポンプ8、状態測定器9、濃度測定器10、ポンプ13、熱交換器14、加熱器15、空気流入口381及び空気流出口382を備える。
低温調湿ユニット300は、食品を貯蔵するのに使用される種々の貯蔵装置に組み込むことができる。これにより、既設の貯蔵装置を、低温度環境において貯蔵空間内の空気の相対湿度を高精度に制御・維持可能な低温調湿装置に容易に改造できる。
具体的には、低温調湿ユニット300を既設の貯蔵装置に組み込んだ状態において、貯蔵装置の貯蔵空間内の空気は、空気流入口381を通過して、気液接触手段50において吸湿液2と気液接触される。気液接触される吸湿液2の温度及び濃度は、貯蔵空間内の空気の温度及び相対湿度が目標とする値になるように、温度調節手段30及び濃度調節手段40により調節される。具体的には、温度調節手段30は、状態測定器9により計測される温度が目標とする値となるように吸湿液2の温度を調節する。また、濃度調節手段40は、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度が目標とする値となるように吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度を調節する。気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度は、吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度から計算することができる。吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度は、濃度測定器10により確認できる。気液接触された空気は、空気流出口382を通過して、貯蔵空間内に還流する。
図8〜図10に、低温調湿ユニット300を既設の貯蔵装置に組み込んだ例を示す。
図8は、食品売り場等に設置して、食品を鮮度維持しながら陳列する棚型オープンショーケース510に低温調湿ユニット300を組み込んだ例を示す。低温調湿ユニット300を組み込むことにより、低温度環境において食品が陳列される貯蔵空間511内の空気の相対湿度を高精度に制御・維持できる。その結果、棚に陳列された食品の鮮度が長期間に亘って維持される。
図9は、フラット平型オープンショーケース520に低温調湿ユニット300を組み込んだ例を示す。棚型オープンショーケース510に組み込んだ場合と同様に、低温度環境において食品が陳列される貯蔵空間521内の空気の相対湿度を高精度に制御・維持できるため、陳列された食品の鮮度を長期間に亘って維持できる。
図10は、食品加工工場等において使用される加工処理材料の鮮度維持貯蔵ストッカー530に低温調湿ユニット300を組み込んだ例を示す。棚型オープンショーケース510に組み込んだ場合と同様に、低温度環境において加工処理材料が貯蔵される貯蔵空間531内の空気の相対湿度を高精度に制御・維持できるため、加工処理材料の鮮度を長期間に亘って維持できる。
図8〜図10に示した例の他、各種の冷蔵コンテナ、冷蔵トラック等へ広範な応用が可能である。
また、低温調湿ユニット300を組み込むことにより、既設の貯蔵装置を氷温乾燥装置として使用することもできる。
上述したように、本実施形態によれば、低温調湿装置1に用いられる吸湿液2と、温度調節手段30と、濃度調節手段40と、気液接触手段50と、液滴捕集手段60を備える低温調湿ユニット300を構成できる。これにより、低温調湿ユニット300を組み込むことで低温調湿装置1と同様の構成を有する種々の形態の低温調湿装置を効率的に製造することが可能になる。
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係る低温調湿ユニット400を説明する。第1実施形態及び第2実施形態において説明した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
図11は、第4実施形態に係る低温調湿ユニット400を示す概略図である。
第4実施形態に係る低温調湿ユニット400は、第2実施形態に係る低温調湿装置200と類似するが、貯蔵庫20を含まない点において第2実施形態に係る低温調湿装置200と異なる。
すなわち、低温調湿ユニット400は、吸湿液2と、温度調節手段230と、濃度調節手段40と、気液接触手段50と、液滴捕集手段60と、を備えるように構成される。
低温調湿ユニット400は、さらに、吸湿液タンク3、送風機4、ポンプ8、状態測定器9、濃度測定器10、ポンプ13、熱交換器14、加熱器15、空気流入口481及び空気流出口482を備える。
低温調湿ユニット400は、食品を貯蔵する種々の貯蔵装置に組み込むことができる。これにより、既設の貯蔵装置を、低温度環境において貯蔵空間内の空気の相対湿度を高精度に制御・維持可能な低温調湿装置に容易に改造できる。
具体的には、低温調湿ユニット400を既設の貯蔵装置に組み込んだ状態において、貯蔵装置の貯蔵空間内の空気は、空気流入口481を通過して、温度調節手段230により温度調節される。温度調節手段230を通過した空気は、気液接触手段50において吸湿液2と気液接触される。気液接触される吸湿液2の濃度は、貯蔵空間内の空気の相対湿度が目標とする値になるように濃度調節手段40により調節される。具体的には、濃度調節手段40は、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度が目標とする値となるように吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度を調節する。気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度は、吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度から計算することができる。吸湿液タンク3内の吸湿液2の濃度は、濃度測定器10により確認できる。気液接触された空気は、空気流出口482を通過して、貯蔵空間内に還流する。
低温調湿ユニット400は、第2実施形態に係る低温調湿装置200と同様に、凝縮水輸送管216、凝縮水制御バルブ217、凝縮水還流管218、及び、凝縮水排出管219を含んでもよい。
低温調湿ユニット400は、第3実施形態に係る調湿装置300と同様に広範な貯蔵装置に組み込むことができる。例えば、棚型オープンショーケース、棚型オープンショーケース、鮮度維持貯蔵ストッカー、各種の冷蔵コンテナ、冷蔵トラックなどの広範な貯蔵装置に組み込むことができる。
また、低温調湿ユニット400を組み込むことにより、既設の貯蔵装置を氷温乾燥装置として使用することもできる。
上述したように、本実施形態によれば、低温調湿装置200に用いられる吸湿液2と、温度調節手段230と、濃度調節手段40と、気液接触手段50を備える低温調湿ユニット400を構成できる。これにより、低温調湿ユニット400を組み込むことで低温調湿装置200と同様の構成を有する種々の形態の低温調湿装置を効率的に製造することが可能になる。
<その他の改変例>
上述した実施形態及びその変形例では、物品として食品を貯蔵する場合を例に説明したが、これに限定されない。低温調湿装置1及び低温調湿装置200、並びに、低温調湿ユニット300及び低温調湿ユニット400は、低温度環境において相対湿度を制御・維持して貯蔵するのが好ましい物品の貯蔵に好適に使用できる。
この場合、吸湿液2は、少なくとも次の条件を満たす必要がある。すなわち、吸湿液2の濃度を調節して貯蔵庫20内の空気と気液接触させることにより、低温度環境において貯蔵庫20内の空気の相対湿度を高精度に制御・維持可能であるという条件を満たす必要がある。
上述した条件を満たす吸湿液2として、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及び、トリプロピレングリコールなどの脂肪族多価アルコールの水溶液を使用することができる。これにより、一般に入手しやすい物質により吸湿液2を構成できるため、低温調湿装置をより容易に提供できる。
<実験例1>
本発明に係る低温調湿装置の効果を実験により検証した。
実験は、上述したその他の改変例に係る低温調湿装置1と同様の構成を有する装置により実施した。
実験では、吸湿液2としてトリエチレングリコール水溶液を使用した。
吸湿液タンク3の容積は、約80リットルとした。
状態測定器9は、株式会社チノーの通風式温湿度計により構成した。
貯蔵庫20の寸法は、縦2.2m、横2.2m、高さ2.2mとした。従って、貯蔵庫20の内容積は約10m3である。
温度調節装置30として、加熱器付きの冷却装置である株式会社アピステ製の空冷式チラーを使用した。温度調節装置30により、貯蔵庫20内の空気の温度が5℃となるように、吸湿液2を3℃程度まで冷却して吸湿液タンク3に還流させた。
濃度調節手段40は、貯蔵庫内の空気の相対湿度が95%となるように、吸湿液2として使用されるトリエチレングリコール水溶液の濃度を30±2%に調節した。また、状態測定器9として使用した株式会社チノーの通風式温湿度計は約3℃以上において相対湿度を測定できる。そのため、約3℃以上の温度域では、状態測定器9によって計測される貯蔵庫20内の空気の実際の相対湿度が目標とする相対湿度となるように吸湿液2の濃度を調節するように濃度調節手段40を構成した。約3℃未満の温度域では、気液接触手段50において吸湿液2に気液接触された空気の相対湿度が目標とする値となるように濃度調節手段40を構成している。
気液接触手段50の気液接触部51は、厚み5cmの旭化成ホームプロダクツ社製のサランロック(登録商標)OM−150を2枚重ねて10cmの厚みとした。気液接触部51の縦横寸法は、縦寸法を約1.5m、横寸法を約1.0mとした。従って、気液接触部51における空気通過面積は約1.5m2である。
気液接触部51を通過する空気は、気液接触部51に対して直交流となるようにして、風速を約0.3〜0.5m/s程度の極低速とした。
気液接触手段50の滴下部52として、株式会社いけうち製の超低圧広角扇形ノズルを15cm間隔で約10個配置した。当該構成により、吸湿液2は滴下部52から気液接触部51に均一に滴下される。
飛散防止手段60の液滴捕集部61は、厚み5cmのサランロック(登録商標)OS−100を使用した。液滴捕集部61の縦横寸法は、気液接触部51と同様とした。液滴捕集部61は、気液接触部51から空気の流れ方向に約5cm離して設置した。
図12は、上述した構成の低温調湿装置に物品を10日間貯蔵した場合の貯蔵庫20内の空気の温度及び相対湿度の変化を示すグラフである。貯蔵庫20内の空気の温度及び相対湿度ともに、目標温度5℃及び目標相対湿度95%にきわめて安定して制御・維持されていることがわかる。
なお、相対湿度の調整ができない従来の冷蔵庫を使用して同様の実験をしたところ、貯蔵庫20内の空気の温度は5±1℃程度で推移したが、相対湿度は70〜90%の範囲で大きく変動した。
<実験例2>
実験例2ではニガウリ(ゴーヤー)の鮮度維持に関する実験を行った。ニガウリは表皮が薄く、鮮度劣化が著しいという特徴を有する。特に、表皮に結露した場合、鮮度維持が困難となり腐敗する傾向がある。従って、ニガウリの鮮度維持実験をすることにより、貯蔵庫20内に貯蔵される食品への結露水の付着がないことを確認できる。
実験例2では、吸湿液2を除いて、実験例1の低温調湿装置と同様の構成の装置を使用した。当該実験装置は、第1実施形態の変形例2に係る低温調湿装置と同様の構成である。
実験例1では吸湿液2としてトリエチレングリコール水溶液を使用したが、実験例2ではPG水溶液を使用した。また、濃度調節手段40は、貯蔵庫20内の空気の相対湿度が95%となるように、吸湿液2として使用されるPG水溶液の濃度を25±2%に調節した。
図13は、上述した構成の低温調湿装置にニガウリを14日間貯蔵した場合の貯蔵庫20内の空気の温度及び相対湿度を示すグラフである。図13に示すように、貯蔵庫20内の空気の温度及び相対湿度ともに、目標温度5℃及び目標相対湿度95%にきわめて安定して制御・維持されていることがわかる。
また、ニガウリの表面への水滴の付着は確認されなかった。これにより、貯蔵庫20内に貯蔵される食品への結露水の付着がないことが実証された。
そして、鮮度維持に関する目視検査の結果、上述した構成の低温調湿装置に貯蔵されたニガウリは、14日が経過した後においてもみずみずしい鮮度維持を示していた。
なお、相対湿度の調整機能のない従来の冷蔵庫で同様の実験を行ったところ、ニガウリの表皮に水滴が付着することによりニガウリの表皮が腐敗するなど、鮮度維持に難点があった。