JP6047118B2 - 湿式摩擦材 - Google Patents

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Description

本発明は、湿式摩擦材に関するものである。
近年、変速機としてオートマチックトランスミッション(以下、ATと略す場合がある。)を採用した自動車が普及している。一般的に、ATとしては、オートマチックトランスミッション液を利用してトルクを伝達するトルクコンバーターと多段変速ギアを組み合わせたものが汎用されている。そして、一般的にトルクコンバーターには、エンジンからの駆動力を入力するポンプインペラと出力軸を駆動するタービンライナーとを係合させるためのロックアップクラッチが具備されている。そして、ロックアップクラッチには、オートマチックトランスミッション液存在下で使用される湿式摩擦材が具備されている。ロックアップクラッチを介してポンプインペラとタービンライナーが係合することで、駆動力の伝達効率が向上する。
特許文献1〜3に記載されるように、通常、湿式摩擦材は、パルプなどの繊維及び添加剤を原料として抄紙体を製造し、次いで、該抄紙体に熱硬化性樹脂を含浸させて、含浸後の抄紙体を加熱することによって製造される。湿式摩擦材は多孔質であり、表面及び内部に無数の連続的な気孔を有している。
湿式摩擦材が劣化すると駆動力の伝達効率が低下するため、湿式摩擦材には高い耐久性が要求される。
特開平6−229434号公報 特開2009−62514号公報 特開2013−32794号公報
本発明は、より高い耐久性を示す湿式摩擦材を提供することを目的とする。
本発明者は、湿式摩擦材の製造に用いられる熱硬化性樹脂に着目して鋭意研究を行った。そして、従来含浸液に用いていた熱硬化性樹脂を低粘度化することで、含浸液中の不揮発分である熱硬化性樹脂の含有率を同じにすることができ、湿式摩擦材に要求される所望の摩擦特性を維持したまま湿式摩擦材の耐久性が著しく向上することを本発明者は見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の湿式摩擦材は、含浸液の不揮発分、つまり含浸液に含まれる揮発成分の溶剤を除いた残りの熱硬化性樹脂の含有分を50%としたとき、含浸液の粘度が液温18℃〜25℃で5〜8cPの範囲内とし、繊維を含む抄紙体にこの含浸液を含浸させて製造されたことを特徴とする。
本発明の湿式摩擦材によれば、含浸させる熱硬化性樹脂の粘度が低く設定されているため抄紙体内部まで容易に含浸させることができる。このことから、抄紙体の繊維に熱硬化性樹脂が容易に被覆することができやすくなり、抄紙体内部に形成される気孔を均一なものとすることができる。これによって抄紙体内部までオートマチックトランスミッション液を均一に浸透させることが可能となる。従って、オートマチックトランスミッション液による冷却性能が抄紙体全体に均一に働きやすくなり、ヒートスポットの発生による耐熱性の悪化等が抑えられ耐久性が向上する。ここで、粘度が規定の範囲を超えると、含浸液の含浸性能が悪化し、規定範囲より小さくなると、含浸液の粘度は含浸液に含まれる熱硬化性樹脂によって決定されるため、熱硬化性樹脂の特性が湿式摩擦材に要求される所望の要求特性を維持することが困難となる。従って、含浸液の粘度は、含浸性能と熱硬化性樹脂の特性維持の観点から規定されている。
評価例1のスリップ耐久性試験の結果を示すグラフである。 (a)実施例1の湿式摩擦材の初期顕微鏡写真、(b)12000サイクル後の実施例1の湿式摩擦材の顕微鏡写真である。 (a)比較例1の湿式摩擦材の初期顕微鏡写真、(b)7600サイクル後の比較例1の湿式摩擦材の顕微鏡写真である。 評価例2のμ−V試験の結果を示すグラフである。 実施例1の湿式摩擦材の断面拡大写真である。 比較例1の湿式摩擦材の断面拡大写真である。
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
本発明の湿式摩擦材は、含浸液の粘度を、不揮発分が50%のとき液温18℃〜25℃で5〜8cPの範囲内とし、繊維を含む抄紙体にこの含浸液を含浸させて製造したことを特徴とする。
本明細書において、粘度とは、JIS K7117−1に準じ、ブルックフィールド形回転粘度計にて測定された値を意味する。
なお、従来、湿式摩擦材の製造に用いられる含浸液は、不揮発分が50%のとき液温18℃〜25℃での粘度が10cP程度のものであった。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂を例示することができ、特に、フェノール樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂は上述のものを単独で用いても良いし、複数を併用してもよい。
粘度を本発明の粘度とするためには、熱硬化性樹脂の分子量等を変更することにより得られる。例えばフェノール樹脂であれば、フェノール誘導体とアルデヒド誘導体を公知の反応条件を参考に適宜適切な条件下で反応させて、所望の粘度の樹脂を合成してもよい。
フェノール誘導体としては、フェノール、フェニルフェノール、アミノフェノール、並びに、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール及びオクチルフェノールなどのアルキルフェノール、レゾルシノール及びカテコールなどの多価フェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールE、チオビスフェノール、ビス(ヒドロキシフェニル)エーテル及びジヒドロキシベンゾフェノンなどのビスフェノール類、クロロフェノール及びブロモフェノールなどのハロゲン化フェノール、α−ナフトール及びβ−ナフトール等のナフトール類を例示できる。フェノール誘導体としては、上述のものを単独で用いても良いし、複数を併用してもよい。
アルデヒド誘導体としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキサール、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレインを例示できる。アルデヒド誘導体としては、上述のものを単独で用いても良いし、複数を併用してもよい。
このように熱硬化性樹脂そのものを変更することで、含浸液の不揮発分である熱硬化性樹脂の含有分を減らさずに含浸液の粘性を低下させることができ、抄紙体への含浸性能を向上させることが可能となる。本発明では、熱硬化性樹脂にフェノール樹脂を使用し、このフェノール樹脂に従来より低分子化した分子量のものを用いることで規定範囲の粘度とした。なお、溶剤は熱硬化性樹脂を溶解し、揮発するものであれば良く、例えばフェノール樹脂であればメチルアルコールやメチルエチルケトンなどが挙げられる。
以下、本発明の湿式摩擦材の製造方法に沿って、本発明を説明する。
本発明の湿式摩擦材の製造方法は、繊維を抄紙した抄紙体を準備する工程と、前記抄紙体に、不揮発分50%のときの粘度が液温18℃〜25℃で5〜8cPの範囲内の含浸液を含浸させる含浸工程と、前記含浸工程後の前記抄紙体、つまり樹脂含浸抄紙体を加熱乾燥する乾燥工程とを含む。
まず、繊維を抄紙した抄紙体を準備する工程について説明する。
繊維としては、ガラス繊維、ロックウール(岩綿)、スラグウール(鉱滓綿)、チタン酸塩繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ−アルミナ繊維、カオリン繊維、ボーキサイト繊維、カヤノイド繊維、ホウ素繊維、マグネシア繊維、金属繊維などの無機繊維、炭素繊維、並びに、リンターパルプ、木材パルプ、合成パルプ、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アラミド繊維、ポリイミド系繊維、ポリビニルアルコール変性繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、アクリル繊維、フェノール繊維、ナイロン繊維、セルロース繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維などの有機繊維の一種又は複数種から選択できる。オートマチックトランスミッション液の浸透しやすさ、耐久性、価格、汎用性などの観点から、アラミド繊維が好ましい。
このような繊維を抄紙することで抄紙体の骨格が形成される。そして湿式摩擦材となる抄紙体には、摩擦を制御する摩擦調整剤等の添加剤が含有される。
添加剤としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、珪藻土、コルク粉末、カシューダスト、グラファイト、カーボンファイバー、カーボン粉末、二硫化モリブデン、三硫化アンチモン、アルミニウム粉末、ワラストナイト、シリカ、炭化珪素、炭化ホウ素、炭化チタン、窒化珪素、窒化ホウ素、アルミナ、ジルコニア、カシュー、タルク、カオリン、ニトリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムを例示できる。
このような添加剤を、所望の摩擦特性を得るために抄紙体中に所定の割合で包含させる。抄紙体の作製方法は通常の抄紙方法が利用できる。つまり、繊維及び必要な添加剤を所望の摩擦特性を得るために必要な割合となるような配合量分準備し、これを水中に分散させてスラリーとする。このスラリーを脱水乾燥させることで抄紙体が得られる。
次に、含浸工程について説明する。含浸工程においては、抄紙体に含浸液を含浸させる。この含浸液が含浸した抄紙体が樹脂含浸抄紙体である。ここで含浸液は、熱硬化性樹脂が抄紙体に含浸しやすくなるように溶剤を含み、溶剤量を増加させると容易に含浸液は低粘度化し、より抄紙体に熱硬化性樹脂が侵入しやすくなる。しかし、溶剤の増量による低粘度化では、含浸液中の不揮発分、つまり熱硬化性樹脂の量は溶剤量を増加させた結果少なくなる。そのため抄紙体中の熱硬化性樹脂の樹脂量は少なくなり、抄紙体中の繊維への被覆が不十分となる部分が残存しやすくなる。その結果、湿式摩擦材の強度不足や所望の摩擦特性等の特性が不足する事態を招きやすくなる。そのため、本発明では、溶剤の増量による低粘度化ではなく、熱硬化性樹脂自体の粘度を低粘度化し、抄紙体中の樹脂量の低下を招くことなく含浸しやすい含浸液としている。本発明では従来のものより分子量を小さく調整することで、含浸液の不揮発分(熱硬化性樹脂含有分)を従来と同じにしても、通常の含浸時の液温(18℃〜25℃)のときの粘度が従来のものより低くした含浸液となっている。このような低粘度化した含浸液の使用によって抄紙体中の熱硬化性樹脂の樹脂量を減らさずに所望の要求特性を満足する湿式摩擦材を作製することを可能とした。ここで、含浸方法については通常の含浸方法を用いることができ、例えば含浸液に抄紙体を浸漬させる方法や、抄紙体に含浸液を滴下する方法などが例示される。
次に、含浸工程後の抄紙体を加熱乾燥する乾燥工程について説明する。この乾燥工程は抄紙体に含浸させた含浸液に含まれる溶剤を揮発させて熱硬化性樹脂を抄紙体に付着させるものである。そのため溶剤が十分揮発すればよく、例えば乾燥温度150〜250℃で乾燥時間30分〜60分とすることができる。
本発明の湿式摩擦材は、従来の熱硬化性樹脂に比べて低粘度のものを用いて製造されているため、抄紙体の内部への侵入が容易となり、熱硬化性樹脂が比較的抄紙体内部で均一に存在し、従来の熱硬化性樹脂を使用したときのような抄紙体内部で部分的に熱硬化性樹脂の塊ができ難い。また抄紙体の樹脂への被覆も均一に被覆しやすくなっている。従来の熱硬化性樹脂を使用したときには、抄紙体の内部で部分的に樹脂の塊が発生しやすく、この発生した塊によって抄紙体内部の気孔に部分的に狭窄部ができ、その結果、湿式摩擦材の気孔分布が不均一となる。このことで、気孔に流入して湿式摩擦材を冷却するオートマチックトランスミッション液が湿式摩擦材中で不均一に存在し、オートマチックトランスミッション液の不足する部分がヒートスポットになり易く、耐久性を悪化させる原因となっていた。また、抄紙体の繊維への被覆が不均一であると繊維の強度が一定せず、被覆されない部分の強度が劣り、これも耐久性を悪化させる原因となっていた。これに対し本発明の湿式摩擦材は、熱硬化性樹脂の塊ができ難く、また抄紙体の樹脂への被覆も均一に被覆しやすくなっているので上記の問題は起こり難く、従来の湿式摩擦材に比べて耐久性能は向上している。
本発明の湿式摩擦材は、オートマチックトランスミッション液存在下で使用されるものである。用途として、ロックアップクラッチ用、湿式多板クラッチ用を挙げることができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
(実施例1)
アラミド繊維40重量%、摩擦調整剤等の添加剤10重量%、珪藻土等の充填剤50重量%を水中に分散させてスラリーを製造した。上記スラリーを抄紙して、乾燥し抄紙体とした。なお抄紙体中に含有するアラミド繊維等の配合材料の種類、配合量は湿式摩擦材に要求される特性によって決定されるものであり、これに限定されるものではない。
次に、揮発成分の溶剤にメタノールを使用して、不揮発分50%で粘度が20℃で6.5cPのフェノール樹脂の含浸液を準備した。ここで、従来の含浸液のフェノール樹脂は、平均分子量(Mn)220〜300のものを使用していたが、本発明では平均分子量(Mn)100〜200に調整したものを使用することで、含浸液の粘度を規定の範囲内に収めている。なお、粘度は、JIS K7117−1に準じ、ブルックフィールド形回転粘度計A形を用い、回転数50/min.、室温(18℃〜25℃)で測定した。
上記抄紙体を規定の範囲に粘度を調整した含浸液に浸漬させて、抄紙体に熱硬化性樹脂を含浸させた樹脂含浸抄紙体を作製した。その後、含浸後の抄紙体である樹脂含浸抄紙体を200℃で60分加熱乾燥させた。なお、実施例1の湿式摩擦材において、湿式摩擦材におけるフェノール樹脂は30〜50重量%を占める。
(比較例1)
不揮発分50%で粘度が20℃で10cPのフェノール樹脂の含浸液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の湿式摩擦材を製造した。なお、比較例1の湿式摩擦材において、湿式摩擦材におけるフェノール樹脂は30〜50重量%を占める。
(評価例1)スリップ耐久性試験
本発明の湿式摩擦材の耐久性を評価するために以下の条件で、湿式摩擦材に対しスリップ5秒間及び非スリップ25秒間を1サイクルとするスリップ耐久性試験を行った。湿式摩擦材の摩擦係数μが初期摩擦係数から10%低下するまで上記サイクルを繰り返した。結果を図1に示す。
試験機:低速すべり摩擦試験装置(LVFA)ACS−XI
湿式摩擦材の形状:外径133mm、内径113.6mmのレコード状
潤滑油:オートマチックトランスミッション液(CVTフルード)
潤滑油量:1000mL (湿式摩擦材全部を浸漬)
油温:100℃
プレート温度:240℃
回転数:1333rpm.
トルク:70Nm
発熱量:130J/(s・cm
図1に示すように、比較例1の湿式摩擦材の摩擦係数μはサイクル数8000足らずで、初期摩擦係数から10%以上低下した。これに対し、実施例1の湿式摩擦材の摩擦係数μは、サイクル数が30000を超えても好適に維持されていた。実施例1の湿式摩擦材は、比較例1の湿式摩擦材と比較して、著しく優れたスリップ耐久性を示した。
図2に実施例1の湿式摩擦材の初期顕微鏡写真、12000サイクル後の顕微鏡写真を示す。各顕微鏡写真の倍率は200倍である。実施例1の湿式摩擦材においては、12000サイクル後においても特段の変化は観察されなかった。図2から、実施例1の湿式摩擦材においては、気孔の目詰まりが観察されず、スリップ耐久性試験における潤滑油の移動経路が好適に維持されていたことがわかる。
図3に比較例1の湿式摩擦材の初期顕微鏡写真、7600サイクル後の顕微鏡写真を示す。各顕微鏡写真の倍率は200倍である。比較例1の湿式摩擦材においては、7600サイクル後に湿式摩擦材の表面が著しく平滑化したことがわかる。すなわち、湿式摩擦材の表面の平滑化の結果として、湿式摩擦材の摩擦係数が小さくなったことが伺える。
比較例1の湿式摩擦材においては、図6に示すように熱硬化性樹脂の塊(ダマ)が観られる。この塊によって気孔は狭窄し、冷却性能を持つオートマチックトランスミッション液が流入、排出する移動経路が塞がれた結果、摩擦熱を十分に放熱することができず、湿式摩擦材が高温状態になることに因り劣化が促進されたと考察される。他方、実施例1の湿式摩擦材においては、低粘度の熱硬化性樹脂を用いたため、図5に示すように塊が形成され難く、冷却性能を持つオートマチックトランスミッション液が十分流入、排出できる移動経路が維持された結果、耐久性が向上したと考察される。
(評価例2)μ−V試験
さらに耐久性能を示す指標として以下の条件で、湿式摩擦材を0rpmから210rpmまで10秒で加速回転させ、次いで、210rpmから0rpmまで10秒で減速するサイクルを1サイクルとするμ−V試験を行った。各サイクルにおける50rpmでの摩擦係数μと、200rpmでの摩擦係数μを測定した。(50rpmでの摩擦係数μ)/(200rpmでの摩擦係数μ)の値をμ比とし、μ比が1を超えるまでサイクルを繰り返した。結果を図4に示す。
試験機:低速すべり摩擦試験装置ACS−XI
湿式摩擦材の形状:外径133mm、内径113.6mmのレコード状
潤滑油:オートマチックトランスミッション液(CVTフルード)
潤滑油量:1000mL (湿式摩擦材全部を浸漬)
油温:100℃
プレート温度:240℃
面圧:1.0MPa
比較例1の湿式摩擦材のμ比はサイクル数5000程度で1を超えた。これに対し、実施例1の湿式摩擦材のμ比は、サイクル数が25000までは好適に1未満を維持していた。μ比が1より小さいとμ−V特性において正勾配を有していることになり、本発明の湿式摩擦材が長期にわたり好適なμ比を示すこと、すなわち、本発明の湿式摩擦材は安定してμ−V特性が正勾配を示すことが裏付けられた。これによって本発明の湿式摩擦材はシャダー防止性に優れるといえる。
(評価例3)油吸収試験
湿式摩擦材へのオートマチックトランスミッション液流入のしやすさを評価するために、湿式摩擦材に7μLのオートマチックトランスミッション液を滴下してから、湿式摩擦材がオートマチックトランスミッション液を吸収するまでの時間を測定した。結果を表1に示す。なお、オートマチックトランスミッション液としては、CVTフルード(商品名:日産純正CVTフルードNS−3)を用いた。
本発明の湿式摩擦材は、油吸収時間が10秒以下であり、従来の湿式摩擦材と比較して、オートマチックトランスミッション液に対するぬれ性及びオートマチックトランスミッション液の浸透性が向上したことが裏付けられた。
(評価例4)樹脂率測定試験
湿式摩擦材へのオートマチックトランスミッション液が均一に湿式摩擦材中に浸透しているかどうかの指標とするために、実施例1、比較例1の各湿式摩擦材の断面を厚み方向で3等分し、表面部(表裏の両面)と内部の各々について樹脂率を測定し、表面部のうちの大きいほうの樹脂率と内部の樹脂率との差が内部の樹脂率に対しどれだけか大きくなっているかの偏率を算出した。つまり次式で算出される比率である。
偏率(%)=(表面部のうちの大きい方の樹脂率−内部の樹脂率)/内部の樹脂率
このような偏率を用いる理由は以下の理由による。湿式摩擦材の厚み方向の樹脂率は内部と表面部で同じになるのが最適であるが、含浸液は表面から内部へ浸透するための内部の樹脂率は表面部に比べて小さくなりやすい。そこで表面部のうちの大きい方の樹脂率と内部の樹脂率との差を求め、この差が内部の樹脂率に対しどれだけの比率になっているか、つまり偏率を算出することで熱硬化性樹脂が抄紙体へ均一に含浸しているかどうか判断できる。なお、樹脂率は、抄紙体の含浸前の重量と、含浸加熱乾燥後の重量を測定し、含浸加熱乾燥後の重量を含浸前の重量で除した値であり、含浸によって抄紙体に樹脂がどれだけ含有されたかを示す指標である。
表2から、従来の比較例1では、内部の樹脂率に対し表面部の樹脂率が高くなっていて内部の樹脂率に対する偏率が73%と大きくなっている。この表面部の樹脂率が内部の樹脂率より高いということは、内部の気孔率は大きいが表面部の気孔率が小さく、表面からオートマチックトランスミッション液が流入し難いことを意味する。これに対し本発明の湿式摩擦材の実施例1では、内部の樹脂率に対し表面部の樹脂率との差が偏率で28%と、70%以下の値を示し、従来の比較例1の73%より大きく減少している。従って内部の気孔率と表面部の気孔率はその差が小さくなり、厚み方向の気孔率が従来のものに比べて表面部の気孔率が上がり、厚み方向全体で均一化されていることが分かる。このことからオートマチックトランスミッション液は湿式摩擦材に均一に流入しやすくなっているといえる。さらに、図5、図6に示した抄紙体の内部の状態、つまり熱硬化性樹脂の塊のでき易さと抄紙体繊維への被覆状態とを合わせて総合的に判断すると、抄紙体内部の気孔分布が従来のものより均一化していると考えることができる。このように気孔分布が均一化すると湿式摩擦材全体に均一にオートマチックトランスミッション液が浸透しやすくなり、この均一に浸透したオートマチックトランスミッション液によって湿式摩擦材全体が均一に冷却されやすい構造を有することになる。
以上の評価結果をまとめると、本発明の湿式摩擦材は、図5、図6の抄紙体の内部観察から抄紙体内部に熱硬化性樹脂の塊ができ難く、樹脂率測定試験から湿式摩擦材の厚み方向の樹脂率の差が偏率70%以下と減少し、湿式摩擦材全体が均一な気孔分布に近づいていることが分かる。そして、この均一に近づいた気孔分布によって油吸収試験の結果からオートマチックトランスミッション液は吸収時間が10秒以下と短くなり、容易に湿式摩擦材内部に吸収されるとともに、排出も容易となる。このためオートマチックトランスミッション液による冷却性能が向上し、スリップ耐久及びμ比測定にて良好な結果を示したといえる。また、図5、図6の抄紙体の内部観察から本発明の湿式摩擦材は、抄紙体の繊維に熱硬化性樹脂を従来のものより均一に被覆していることが証明された。この均一な被覆によって抄紙体繊維の強度のばらつきが抑えられる。このことは、熱硬化性樹脂によって被覆されないか、被覆されても不充分であるときには湿式摩擦材の骨格を構成する抄紙体自体の強度は、部分的に弱い部分が存在することで脆弱部分を生じるが、このような脆弱部分が減ることで強度的にも向上する。この強度の向上も耐久性向上に繋がる。
以上、本発明の湿式摩擦材は、抄紙体の含浸液に含まれる熱硬化性樹脂を、分子量等を制御することで、含浸液の粘度を規定の粘度まで低下させたものを用いて抄紙体を含浸させる。このように含浸液の粘度を溶剤希釈によらず、熱硬化性樹脂自体を調節して規定の粘度とすることで、湿式摩擦材に含有させる熱硬化性樹脂の樹脂量を減らさずに抄紙体への熱硬化性樹脂の浸入性、及び抄紙体内部の繊維への被覆性、つまり含浸性を向上させている。この含浸性の向上によって湿式摩擦材の気孔率分布が従来のものより均一化しオートマチックトランスミッション液の流入、排出が向上し、冷却効率が増加する。また、抄紙体内部の繊維への被覆性向上によって抄紙体自体の脆弱性が抑えられる。これら冷却性能の向上と、脆弱性抑制の効果によって耐久性が向上する。
なお、熱硬化性樹脂によらず、溶剤量を増加させることで含浸液の粘度を低下させたときには含浸回数を増すことで、湿式摩擦材中に含浸させる熱硬化性樹脂の樹脂量を所望の樹脂量とすることができるが、含浸回数の増加に伴い空気中に揮散する溶剤量が増え環境への負荷が増大し、コストの増加に繋がる。本発明は環境負荷を増大せず、コスト増加を伴わないで耐久性を向上させることを可能とした発明である。

Claims (3)

  1. アラミド繊維40重量部及び添加剤60重量部を水中に分散させてスラリーを製造する工程と、
    前記スラリーを抄紙した抄紙体を準備する工程と、
    フェノール樹脂をメタノールに溶かしたフェノール樹脂溶液を準備する工程と、
    前記抄紙体に前記フェノール樹脂溶液のみを含浸液として含浸させる含浸工程と、
    前記含浸工程後の前記抄紙体を加熱乾燥する乾燥工程とを含む湿式摩擦材の製造方法であって、
    前記含浸液は、不揮発分50%のとき、前記含浸液の粘度が液温18℃〜25℃で5〜8cPの範囲内であることを特徴とする湿式摩擦材の製造方法。
  2. 前記含浸工程が、前記抄紙体に前記含浸液が、前記抄紙体の厚み方向の両面から侵入する工程であり
    前記湿式摩擦材における、前記抄紙体の厚み方向の前記熱硬化性樹脂の樹脂率が、前記抄紙体内部で最小となり、かつ、前記抄紙体内部と前記樹脂含浸抄紙体の厚み方向の表面部との差が、前記抄紙体内部に対し偏率70%以下であることを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材の製造方法
  3. 請求項1または請求項2に記載の湿式摩擦材の製造方法であって、前記湿式摩擦材は、前記湿式摩擦材に7μLのオートマチックトランスミッション液を滴下した時に、オートマチックトランスミッション液の吸収時間が10秒以下であることを特徴とする湿式摩擦材の製造方法
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