以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
本発明者等は、上記目的を達成するために検討した結果、斜め延伸処理を用いた遅相軸が傾斜した長尺延伸フィルムの製造方法において、長尺フィルム原反に、斜め延伸工程で発生するボウイングに対して逆方向のボウイングをあえて付与することで、上記目的が達成できることを見出した。そして、さらに検討を進め、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
即ち、本発明に係る実施態様は、熱可塑性樹脂からなる長尺フィルム原反を供給する長尺フィルム原反供給工程、前記長尺フィルム原反を幅手方向に対して0°より大きく90°未満の方向に斜め延伸する斜め延伸工程、及び、斜め延伸工程後の長尺延伸フィルムを巻き取る工程を有する長尺延伸フィルムの製造方法であって、前記長尺フィルム原反供給工程では、前記斜め延伸工程直後の長尺延伸フィルムの搬送方向とは異なる方向から前記長尺フィルム原反を供給し、前記斜め延伸工程では、供給された長尺フィルム原反の両端部を把持具により把持しながら搬送し、把持状態を保持したまま搬送方向を変えて、一方の把持部と他方の把持部の移動距離を異ならせることで、前記長尺フィルム原反を巻取方向に対して0°より大きく90°未満の斜め方向に延伸する工程であり、前記長尺フィルム原反供給工程においては、前記斜め延伸工程において発生するボウイングに対して、逆の方向のボウイングを有する長尺フィルム原反を供給することを特徴とする長尺延伸フィルムの製造方法である。
なお、上記におけるボウイングの方向とは、長尺方向における方向を表している。即ち、本実施形態においては、斜め延伸工程において発生するボウイングが搬送方向の上流側(長尺フィルム原反の供給側)に対して凸の弓型形状を呈する場合には、前記長尺フィルム原反供給工程において供給する長尺フィルム原反は、搬送方向の下流側(長尺延伸フィルムの巻取り側)に凸の弓型形状を有するものとすることを表す。
このような構成によれば、斜め延伸を行う際のボウイングの発生を効果的に抑制し、遅相軸傾斜角度の幅手均一性に優れた長尺延伸フィルムの製造方法を提供することができる。また、このような製造方法により得られた長尺延伸フィルムを用いれば、長尺状の偏光フィルムとロール・トゥ・ロールで貼り合わせることで、円偏光板を得ることができる。このため、生産性や歩留まりを大幅に改善できるとともに、得られた円偏光板を用いたディスプレイ装置においては、優れた色味の均一性を示す。
以下において本発明を、適宜図面を参照して具体的に説明する。
<長尺延伸フィルムの製造方法>
本実施形態に係る長尺延伸フィルムの製造方法は、長尺フィルム原反を斜め延伸することによって、フィルムの延長方向に対して任意の角度に面内遅相軸を付与する長尺延伸フィルムの製造方法である。
なお、ここで長尺とは、フィルムの幅に対する、フィルムの長さが、少なくとも5倍程度以上のことを指し、10倍以上であることが好ましい。すなわち、長尺フィルムとは、フィルムの幅に対して、少なくとも5倍程度以上の長さを有するフィルムを指す。また、長尺フィルムは、具体的には、ロール状に巻回されて、フィルムロールとして、保管又は運搬される程度の長さを有するものである。長尺のフィルムの製造方法では、フィルムを連続的に製造することにより、所望の任意の長さにフィルムを製造しうる。
また、長尺延伸フィルムの製造方法は、長尺フィルム原反を製膜した後に一度巻芯に巻き取り、巻回体(フィルムロール)にしてから、フィルムロールから長尺フィルム原反を繰り出して、斜め延伸工程に供給するようにしてもよい。また、製膜後の長尺フィルム原反を巻き取ることなく、製膜工程から長尺フィルム原反を連続して斜め延伸工程に供給してもよい。製膜工程と斜め延伸工程とを連続して行うことは、延伸後の膜厚や光学値の結果をフィードバックして製膜条件を変更し、所望の長尺延伸フィルムを得ることができるので好ましい。
具体的には、長尺延伸フィルムの製造方法は、以下のような方法が挙げられる。
まず、長尺フィルム原反は、熱硬化性樹脂からなるフィルム材料を製膜後、一旦巻き取って、ロール状の長尺フィルム原反とされた後に、再度繰り出すことで供給されるものであり、フィルム材料は、ロール状の長尺フィルム原反とされる前に、斜め延伸工程において発生するボウイングに対して、同一方向のボウイングを発生する条件で製造されたものであることが好ましい。
そうすることによって、ロール状の長尺フィルム原反を製造する際に、発生したボウイングが、ロール状の長尺フィルム原反を繰り出す際、巻き取り方向とは、反対の方向に繰り出されるので、長尺フィルム原反供給工程において、斜め延伸工程において発生するボウイングに対して、逆の方向のボウイングを有するボウイングを有する長尺フィルムを、連続的に供給することができる。すなわち、斜め延伸を行う際のボウイングの発生を効果的に抑制し、遅相軸傾斜角度の幅手均一性に優れた長尺延伸フィルムを、より容易に製造することができる。
また、他の方法として、以下のような方法が挙げられる。
長尺フィルムは、斜め延伸工程において発生するボウイングに対して、逆方向のボウイングを発生させる工程を経て、その後巻き取られることなく斜め延伸工程に供給されることが好ましい。
そうすることによって、長尺フィルム原反供給工程において、斜め延伸工程において発生するボウイングに対して、逆の方向のボウイングを有するボウイングを有する長尺フィルムを、連続的に供給することができる。すなわち、斜め延伸を行う際のボウイングの発生を効果的に抑制し、遅相軸傾斜角度の幅手均一性に優れた長尺延伸フィルムを、より容易に製造することができる。
なお、逆方向のボウイングを発生させる工程については、後述する。
本実施形態に係る長尺延伸フィルムの製造方法では、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度に遅相軸を有する長尺延伸フィルムを製造する。ここで、フィルムの幅手方向に対する角度とは、フィルム面内における角度である。遅相軸は、通常延伸方向又は延伸方向に直角な方向に発現するので、本実施形態に係る製造方法では、フィルムの延長方向(長手方向)に対して0°を超え90°未満の角度で延伸を行うことにより、かかる遅相軸を有する長尺延伸フィルムを製造しうる。
長尺延伸フィルムの延長方向(長手方向)と遅相軸とがなす角度、すなわち配向角は、0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができるが、より好ましくは10°〜80°、さらに好ましくは40°〜50°であり、具体例としては45°とすることができる。
<長尺フィルム原反の製造方法>
長尺延伸フィルムを作成するために用いられる長尺フィルム原反は、公知の方法、例えば、溶液キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などによって得ることができる。これらのうち、溶液キャスト成形法は、フィルムの平面性、透明度に優れるので、好ましい。また、押出成形法は、斜め延伸後の厚み方向のリターデーションRtを小さくすることが容易となり、残留揮発性成分量が少なくフィルムの寸法安定性にも優れるので、好ましい。この長尺フィルム原反は、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは、共押出成形法、共流延成形法、フィルムラミネイション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち、共押出成形法、共流延成形法が好ましい。
本実施形態では、延伸に供給される長尺フィルム原反の流れ方向の厚みムラσmは、後述する斜め延伸テンター入口でのフィルムの引取張力を一定に保ち、配向角やリターデーションといった光学特性を安定させる観点から、0.30μm未満、好ましくは0.25μm未満、さらに好ましくは0.20μm未満であることが好ましい。長尺フィルム原反の流れ方向の厚みムラσmが大きすぎると、長尺延伸フィルムのリターデーションや配向角といった光学特性のバラツキが顕著に悪化する傾向がある。
長尺フィルム原反の流れ方向の厚みムラσmを上記範囲とするためには、押出成形法の場合は、冷却ドラムに密着させる時の溶融状態の熱可塑性樹脂を安定な状態に保つ方法により達成可能である。あえて一例を挙げるとすれば、特開2004−233604号公報に記載の方法で達成可能である。具体的には、1)溶融押出法で長尺フィルム原反を製造する際に、ダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;2)溶融押出法で長尺フィルム原反を製造する際に、ダイス開口部から最初に密着する冷却ドラムまでを囲い部材で覆い、囲い部材からダイス開口部又は最初に密着する冷却ドラムまでの距離を100mm以下とする方法;3)溶融押出法で長尺フィルム原反を製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂より10mm以内の雰囲気の温度を特定の温度に加温する方法;4)関係を満たすようにダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;5)溶融押出法で長尺フィルム原反を製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂に、最初に密着する冷却ドラムの引取速度との速度差が0.2m/s以下の風を吹き付ける方法;が挙げられる。
また、長尺フィルム原反として、幅方向の厚み勾配を有するフィルムが供給されてもよい。延伸が完了した位置におけるフィルム厚みを最も均一なものとしうるような長尺フィルム原反の厚みの勾配は、実験的に厚み勾配を様々に変化させたフィルムを延伸することにより、経験的に求めることができる。長尺フィルム原反の厚みの勾配は、例えば、厚みの厚い側の端部の厚みが、厚みの薄い側の端部よりも0.5〜3%程度厚くなるように調整することができる。
長尺フィルム原反の幅は、特に限定されないが、500〜4000mm、好ましくは1000〜2000mmとすることができる。また、長尺フィルム原反の総膜厚は、特に限定されないが、20〜400μm、好ましくは20〜200μmの範囲内であることが好ましい。
長尺フィルム原反の斜め延伸時の延伸温度での好ましい弾性率は、ヤング率で表して、0.01MPa以上5000MPa以下、さらに好ましくは0.1MPa以上500MPa以下である。弾性率が低すぎると、延伸時・延伸後の収縮率が低くなり、シワが消えにくくなる傾向がある。また、弾性率が高すぎると、延伸時にかかる張力が大きくなり、フィルムの両側縁部を保持する部分の強度を高くする必要が生じ、後工程のテンターに対する負荷が大きくなる傾向がある。
斜め延伸の際には、図1に示すように、フィルムの繰出方向に対して機械的な収縮力3が働く。これに対して、フィルムの収縮速度が追いつけずにフィルム幅手方向における中央部に弛緩が発生するため、搬送方向の上流側に凸型のボウイングが発生する。
上述の搬送方向の上流側に凸型に形成したボウイングを解消するためには、搬送方向の下流側に凸型のボウイングが形成された長尺フィルム原反を用いる必要がある。
なお、例えば、特許文献4に記載の発明のようにフィルム予熱時と延伸時の温度、及びフィルム延伸時の温度と延伸直後の温度を制御することでボウイングの発生を抑えることは、横方向あるいは縦方向に一軸延伸する際には有効な手法ではある。しかしながら、斜め方向への延伸について言えば、上述の通り、フィルムの繰出方向に対して収縮する力が大きいためにフィルムの温度制御だけではボウイングの発生を抑制するには不十分である。
本実施形態では、長尺フィルム原反は、斜め延伸工程に供給される際に、図2に示すような、予め搬送方向下流側に凸型のボウイング13−1を持つように製造されることが望ましい。
逆方向のボウイングを発生させる工程としては、斜め延伸工程において発生するボウイングに対して、逆方向のボウイングを発生させることができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、後述する、長尺フィルム原反に搬送方向の下流側に凸型のボウイングを持たせる方法等が挙げられる。
長尺フィルム原反に搬送方向の下流側に凸型のボウイングを持たせる方法としては、長尺フィルム原反を横延伸テンターあるいは縦延伸テンターにおいて、フィルム延伸時と延伸直後の温度を制御して横延伸あるいは縦延伸してやるといった方法が挙げられる。具体的には、比較的高い温度で延伸すると、搬送方向の上流側に凸型のボウイングが発生しやすくなるため、温度条件を調整することでボウイング発生の程度を調整することが可能となる。また、延伸工程後に再加熱領域を設け、テンター搬送しながら加熱することで、搬送方向の上流側に凸型のボウイングを発生させることも可能である。このように搬送方向の上流側に凸型のボウイングを有するフィルムを一度巻取り、再度繰り出して長尺フィルム原反として用いることで、搬送方向の下流側に凸型のボウイングを有する長尺フィルム原反を斜め延伸工程に供給することが可能である。また、搬送方向に複数設けたニップロールの速度差を利用して縦延伸する方法において、ニップロールを幅手方向に分割し、幅手方向の回転速度が異なるニップロールとすることで、任意のボウイングを発生することが可能である。
また、フィルムを加熱しながら地面と垂直な方向にテンター搬送する領域を設けることで、任意のボウイングを発生することも可能である。例えば、搬送方向の下流側が下側を向くようにして高温条件下でテンター搬送した場合は、搬送方向の下流側に凸型のボウイングが発生し易くなり、逆に搬送方向の下流側が上側を向くようにして高温条件下でテンター搬送した場合は、搬送方向の上流側に凸型のボウイングが発生し易くなる。
なお、本発明における斜め延伸により発生するボウイング量の定義及び解析方向については、実施例で図6を用いて詳述するものとする。
但し、本発明におけるボウイング量の測定方法としては、特に限定はなく、フィルムの幅手方向の少なくとも複数個所における遅相軸の向きを測定することでボウイング量を算出することも可能である。また、斜め延伸前のフィルム表面の幅手方向の複数個所にマーキングを行い、斜め延伸後にその位置を検出することで簡易的にボウイング量を算出することができる。
なお、長尺フィルムのボウイング量は、搬送方向の下流側(長尺延伸フィルムの巻取り側)に凸のボウイングを+(プラス)とし、搬送方向の上流側に凸のボウイングを−(マイナス)とする。
また、長尺フィルム原反におけるボウイング量も同様の方法で測定が可能である。なお、長尺フィルム原反におけるボウイング量は、搬送方向における同一位置の端部を結んだ直線に対して、フィルム中心部の樹脂がどの程度ずれたかをボウイング量とする。その場合、上記と同様に、フィルム中心部の樹脂が搬送方向下流側にずれる場合を+(プラス)、搬送方向の上流側にずれる場合を−(マイナス)として表す。
長尺フィルム原反を製膜した後に、製膜後のフィルム原反を巻き取ることなく連続して斜め延伸工程に供給する場合は、長尺フィルム原反を製膜した後に、搬送方向の下流側に凸型のボウイングを付与するために上述の方法で横延伸あるいは縦延伸を行い、その後に連続して斜め延伸工程に供給すればよい。
また、長尺フィルム原反を製膜した後に一度巻芯に巻取った後に巻回体にしてから斜め延伸工程に供給する場合は、長尺フィルム原反を製膜した後に、横延伸あるいは縦延伸にて搬送方向の上流側に凸型のボウイングを付与した後に巻芯に巻取って巻回体にしておくと、巻回体から斜め延伸テンターに供給する際に、搬送方向の下流側に凸型ボウイングとなるようにフィルムが繰り出すことが可能である。
本実施形態では、また、斜め延伸テンターに供給される際に予めボウイングを有していない長尺フィルム原反を用いることもできる。
前記予めボウイングを有していないフィルム材料を用いる場合は、斜め延伸前の何れかの領域で、図2に示すように、搬送方向の下流側に凸型のボウイング13−2を付与することが必要である。
搬送方向の下流側に凸型のボウイングを付与する具体的な方法としては、例えば、斜め延伸ゾーン前のゾーンを下記のような組合せで分割し、横延伸ゾーンの上流側のゾーンと、下流側のゾーンに温度差を設け、下流側のゾーンの温度が上流側のゾーンの温度よりも低くすることで、搬送方向の下流側に凸型のボウイングを付与することができる。
より具体的には、例えば、下記(1)のようなゾーン構成とした際には、横延伸ゾーンAに対して下流側となる斜め延伸ゾーンの温度が予熱ゾーンの温度よりも低くなるように設定すればよい。
また、斜め延伸ゾーン前に複数の横延伸ゾーンを設けてもよく、その場合はいずれかの横延伸ゾーンの上流側、下流側のゾーンの温度の関係が上述の関係を満たせばよい。例えば、下記(2)のようなゾーン構成とした際には、横延伸ゾーンAの下流側となる横延伸ゾーンBの温度が、上流側となる予熱ゾーンの温度よりも低くなるよう設定されていてもよいし、横延伸ゾーンBの下流側となる斜め延伸ゾーンの温度が、横延伸ゾーンAの温度よりも低くなるように設定されていてもよいし、その両方が満たされる関係であってもよい。斜め延伸時に発生する凹型のボウイングの大きさに応じて、適宜設定すればよい。
ただし、複数の横延伸ゾーンが設けられる場合に、上記の関係の逆となる、すなわち、横延伸ゾーンの上流側のゾーンの温度が下流側のゾーンよりも低くなる関係を含むと、凸型のボウイングを打ち消すこととなるため、複数の横延伸ゾーンを設ける場合には、全ての横延伸ゾーンの上流側、下流側において、下流側の温度が低くなっているか、上流側、下流側の温度が等しくなっていることが好ましい。斜め延伸ゾーンの前のゾーン構成としては、他にも(3)〜(6)のような構成が考えられるが、上記と同様の方法で、適宜温度関係を調整することで、ボウイングの大きさを調整可能である。また、言うまでもないが、ゾーン構成は以下の構成に限定されるものではない。
(1)予熱ゾーン/横延伸ゾーンA/斜め延伸ゾーン
(2)予熱ゾーン/横延伸ゾーンA/横延伸ゾーンB/斜め延伸ゾーン
(3)予熱ゾーン/横延伸ゾーンA/保持ゾーン/斜め延伸ゾーン
(4)予熱ゾーン/横延伸ゾーンA/横延伸ゾーンB/横延伸ゾーンC/斜め延伸ゾーン
(5)予熱ゾーン/横延伸ゾーンA/保持ゾーン/横延伸ゾーンB/斜め延伸ゾーン
(6)予熱ゾーン/横延伸ゾーンA/横延伸ゾーンB/保持ゾーン/斜め延伸ゾーン
上記の工程においては、前記横延伸ゾーンA、横延伸ゾーンB、および横延伸ゾーンCにおける横延伸倍率はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。
<斜め延伸テンターによる延伸>
本実施形態に係る製造方法における延伸に供される長尺の長尺フィルム原反に斜め方向の配向を付与するために、斜め延伸テンターを用いる。本実施形態で用いられる斜め延伸テンターは、レールパターンを多様に変化させることにより、フィルムの配向角を自在に設定でき、さらに、フィルムの配向軸をフィルム幅方向に渡って左右均等に高精度に配向させることができ、かつ、高精度でフィルム厚みやリターデーションを制御できるフィルム延伸装置であることが好ましい。
図2は、本発明の実施形態に係る長尺延伸フィルムの製造方法に用いられる斜め延伸可能なテンターの模式図である。但し、これは一例であって本発明はこれに限定されるものではない。
テンター入り口側のガイドロール12−1によって方向を制御された長尺フィルム原反4は、まず、外側のフィルム保持開始点8−1、内側のフィルム保持開始点8−2の位置で把持具(クリップつかみ部ともいう)によって担持(把持)される。そして、担持された長尺フィルム原反4は、斜め延伸テンター6にて外側のフィルム保持手段の軌跡7−1、内側のフィルム保持手段の軌跡7−2で示される斜め方向に搬送、延伸され、外側のフィルム保持終了点9−1、内側のフィルム保持終了点9−2によって把持を解放され、テンター出口側のガイドロール12−2によって搬送を制御されて斜め延伸フィルム5が形成される。図中、長尺フィルム原反は、フィルムの送り方向15−2に対して、フィルムの延伸方向14の角度(配向角θ)で斜め延伸される。
本発明の実施形態に係る長尺延伸フィルムの製造方法は、上記斜め延伸可能なテンターを用いて行う。このテンターは、長尺フィルム原反を、オーブンによる加熱環境下で、その進行方向(フィルム幅方向の中点の移動方向)に対して斜め方向に拡幅する装置である。このテンターは、オーブンと、フィルムを搬送するための把持具が走行する左右で一対のレールと、該レール上を走行する多数の把持具とを備えている。フィルムロールから繰り出され、テンターの入口部に順次供給されるフィルムの両端を、把持具で把持し、オーブン内にフィルムを導き、テンターの出口部で把持具からフィルムを開放する。把持具から開放されたフィルムは巻芯に巻き取られる。一対のレールは、それぞれ無端状の連続軌道を有し、テンターの出口部でフィルムの把持を開放した把持具は、外側を走行して順次入口部に戻されるようになっている。
なお、テンターのレール形状は、製造すべき長尺延伸フィルムに与える配向角θ、延伸倍率等に応じて、左右で非対称な形状となっており、手動で又は自動で微調整できるようになっている。本実施形態においては、長尺の熱可塑性樹脂フィルムを延伸し、配向角θが延伸後の巻取り方向に対して、好ましくは10°〜80°の範囲内で任意の角度に設定できるようになっている。本発明の実施形態において、テンターの把持具は、前後の把持具と一定間隔を保って、一定速度で走行するようになっている。
把持具の走行速度は適宜選択できるが、通常、1〜100m/分である。左右一対の把持具の走行速度の差は、走行速度の通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。これは、延伸工程出口でフィルムの左右に進行速度差があると、延伸工程出口におけるシワ、寄りが発生する傾向があるためである。すなわち、左右の把持具の速度は、実質的に同速度であることが好ましいためである。一般的なテンター装置等では、チェーンを駆動するスプロケットの歯の周期、駆動モーターの周波数等に応じ、秒以下のオーダーで発生する速度ムラがあり、しばしば数%のムラを生ずるが、これらは本発明の実施形態で述べる速度差には該当しない。
また、本発明の実施形態に係る製造方法で用いられる斜め延伸テンターでは、各レール部及びレール連結部の位置を自由に設定できることが好ましい。したがって、斜め延伸テンターは、任意の入り口幅及び出口幅を設定すると、これに応じた延伸倍率にすることができる(下記、図2の○部は連結部の一例である。)。
本発明の実施形態に係る製造方法で用いられる斜め延伸テンターにおいて、把持具の軌跡を規制するレールには、しばしば大きい屈曲率が求められる。急激な屈曲による把持具同士の干渉、あるいは局所的な応力集中を避ける目的から、屈曲部では把持具の軌跡が曲線を描くようにすることが望ましい。
また、本発明の実施形態に係る製造方法で用いられる斜め延伸テンターでは、フィルムを把持した把持具が屈曲部を通過する際にかかる延伸応力で、屈曲部のレールに、望まない変形(屈曲には関係しない変形)が発生しないようにするため、屈曲部における曲線形状を一定に保持する機構を有していることが望ましい。
以下の記載で屈曲部における曲線形状を保持する機構の具体例をいくつか説明するが、本発明はこれに限らず、同様の機能を有する機構を設けていてもよい。
また、曲線形状は、特に限定されず、曲線形状の中心から見て左右対称であっても、左右非対称であってもよく、円弧形状でも楕円形状でもよい。これらの曲線形状は、長尺フィルムの製造条件によって任意に選択することができる。
図7は、本発明の実施形態に係る製造方法に用いる斜め延伸テンターの屈曲部における曲線形状を一定に保持する機構の一具体例を示す概略図である。
曲線形状を一定に保持する機構である保持機構31は、屈曲部レール32、レール幅出用リード33、レールベース連結部34、屈曲部レールベース35、屈曲部保持部材36、アームフレーム37、屈曲部保持アーム38、屈曲部保持アーム支点39を備える。
屈曲部レール32は、屈曲部レールベース35上に来るよう配置される。屈曲部レールベース35は、レールベース連結部34を回転中心として任意の角度に開閉することができ、また、レール幅出用リード33上に沿ってスライドできる。
また、屈曲部レールベース35は、アームフレーム37に支持された屈曲部保持アーム38で屈曲部の曲線形状が保持されている。屈曲部保持アーム38は、屈曲部保持アーム支点39を回転中心として任意の角度に開閉することができ、また、アームフレーム37上に沿ってスライドできる。この屈曲部保持アーム38は、屈曲前レール41と屈曲後レール42との交差角度の二等分線上をスライドすることができる。なお、屈曲前レール41と屈曲後レール42とは、屈曲前レールベース43と屈曲後レールベース44とに載置されている。
また、屈曲部レール32の中央部に位置する屈曲部保持部材36は、屈曲前レール41と屈曲後レール42との交差角度の二等分線上をスライドすることができる屈曲部保持アーム38によって常に保持されている。これによって、屈曲部レール32の形状を任意の曲線形状に保つことができる。
また、アームフレーム37とレール幅出用リード33とは、固定されておらず、アームフレーム37が、レール幅出用リード33とは無関係に回転できるので、屈曲部レール32の曲線形状に応じて、屈曲部レール32の歪みを解消できる。
この機構により、屈曲部レール32に強い延伸応力がかかった際でも、屈曲部レール32が変形することなく、曲線形状を一定に保つことができる。
また、図8は、本発明の実施形態に係る製造方法に用いる斜め延伸テンターの屈曲部における曲線形状を一定に保持する機構の他の一具体例を示す概略図である。
ここでの保持機構31は、屈曲部レール32、レール幅出用リード33、レールベース連結部34、屈曲部レールベース35、屈曲部保持部材36を備える。
屈曲部レール32は、屈曲部レールベース35上に来るよう配置される。屈曲部レールベース35は、レールベース連結部34を回転中心として任意の角度に開閉することができ、また、レール幅出用リード33上に沿ってスライドできる。
また、屈曲部レール32の形状を、任意の曲線形状、すなわち、要求される延伸条件にとって最適な形状になるように調整した後に、屈曲部保持部材36を用いて屈曲部レール32の形状を固定することができる。なお、図8においては、屈曲部レール32の延びる方向に、一箇所固定した図を例示したが、屈曲部レール32の延びる方向に、複数個所固定してもよい。
この機構により、屈曲部レール32に強い延伸応力がかかった際でも、屈曲部レール32が変形することなく、曲線形状を一定に保つことができる。また、屈曲部レール32の形状を、任意の曲線形状になるように調整した後に、屈曲部保持部材36を用いて屈曲部レール32の形状を固定するので、屈曲部レール32を様々な曲線形状にすることができる。
また、図9は、本発明の実施形態に係る製造方法に用いる斜め延伸テンターの屈曲部における曲線形状を一定に保持する機構の他の一具体例を示す概略図である。
ここでの保持機構31は、屈曲部レール32、レール幅出用リード33、レールベース連結部34、屈曲部レールベース35、屈曲部スライド保持部材45を備える。
屈曲部レール32は、屈曲部レールベース35上に来るよう配置される。屈曲部レールベース35は、レールベース連結部34を回転中心として任意の角度に開閉することができ、また、レール幅出用リード33上に沿ってスライドできる。
また、屈曲部スライド保持部材45は、屈曲部レール32を、その延びる方向には移動可能に、すなわち、スライド可能に固定することができる。そうすることによって、屈曲部レール32の形状を、任意の曲線形状、すなわち、要求される延伸条件にとって最適な形状になるように調整可能である。また、屈曲部スライド保持部材45は、屈曲部レール32の位置を完全に固定しておらず、スライド可能に保持しているので、屈曲部レール32の曲線形状に応じて、屈曲部レール32の歪みを解消できる。
この機構により、屈曲部レール32に強い延伸応力がかかった際でも、屈曲部レール32が変形することなく、曲線形状を一定に保つことができる。
また、図10は、本発明の実施形態に係る製造方法に用いる斜め延伸テンターの屈曲部における曲線形状を一定に保持する機構の他の一具体例を示す概略図である。
ここでの保持機構31は、屈曲部レール32、レール幅出用リード33、レールベース連結部34、屈曲部レールベース35、アームフレーム37、屈曲部保持アーム38、屈曲部保持アーム支点39、屈曲部スライド保持部材45を備える。
屈曲部レール32は、屈曲部レールベース35上に来るよう配置される。屈曲部レールベース35は、レールベース連結部34を回転中心として任意の角度に開閉することができ、また、レール幅出用リード33上に沿ってスライドできる。
また、屈曲部スライド保持部材45は、屈曲部レール32を、その延びる方向には移動可能に、すなわち、スライド可能に固定することができる。そうすることによって、屈曲部レール32の形状を、任意の曲線形状、すなわち、要求される延伸条件にとって最適な形状になるように調整可能である。また、屈曲部スライド保持部材45は、屈曲部レール32の位置を完全に固定しておらず、スライド可能に保持しているので、屈曲部レール32の曲線形状に応じて、屈曲部レール32の歪みを解消できる。
また、屈曲部レールベース35は、アームフレーム37に支持された屈曲部保持アーム38で屈曲部の曲線形状が保持されている。屈曲部保持アーム38は、屈曲部保持アーム支点39を回転中心として任意の角度に開閉することができ、また、アームフレーム37上に沿ってスライドできる。この屈曲部保持アーム38は、曲部スライド保持部材45が屈曲部レール32をスライド可能に保持しているので、屈曲前レール41と屈曲後レール42との交差角度の二等分線に限らず、比較的自由に移動することができる。
また、アームフレーム37とレール幅出用リード33とは、固定されておらず、アームフレーム37が、レール幅出用リード33とは無関係に回転できるので、屈曲部レール32の曲線形状に応じて、屈曲部レール32の歪みを解消できる。
この機構により、屈曲部レール32に強い延伸応力がかかった際でも、屈曲部レール32が変形することなく、曲線形状を一定に保つことができる。また、屈曲部スライド保持部材45による保持と、アームフレーム37の回転とにより、屈曲部レール32の曲線形状に応じた、屈曲部レール32の歪みをより解消できる点から、この機構は、特に好ましい。
また、図11は、本発明の実施形態に係る製造方法に用いる斜め延伸テンターの屈曲部における曲線形状を一定に保持する機構の他の一具体例を示す概略図である。
ここでの保持機構31は、屈曲部レール32、レール幅出用リード33、レールベース連結部34、屈曲部レールベース35、屈曲部保持部材36、アームフレーム37、屈曲部保持アーム38、屈曲部保持アーム支点39、アームフレーム用リード46を備える。
屈曲部レール32は、屈曲部レールベース35上に来るよう配置される。屈曲部レールベース35は、レールベース連結部34を回転中心として任意の角度に開閉することができ、また、レール幅出用リード33上に沿ってスライドできる。
また、屈曲部レールベース35は、アームフレーム37に支持された屈曲部保持アーム38の先端に位置する屈曲部保持部材36で屈曲部の曲線形状が保持されている。屈曲部保持アーム38は、屈曲部保持アーム支点39を回転中心として任意の角度に開閉することができ、また、アームフレーム37上に沿ってスライドできる。また、アームフレーム37は、アームフレーム用リード46上に沿ってスライドできる。また、屈曲部保持アーム38は、レール幅出用リード33やアームフレーム用リード46の移動方向に垂直、又は略垂直な方向に移動できる。屈曲部レール32は、屈曲部保持アーム38の開閉具合、屈曲部保持アーム支点39の位置、アームフレーム37の位置等によって、屈曲部レール32の形状を、所望の曲線形状に変形することができる。
また、アームフレーム37とレール幅出用リード33とは、固定されておらず、アームフレーム37が、レール幅出用リード33とは無関係に回転でき、さらに、アームフレーム37とレールベース連結部34とが別個で移動できるので、屈曲部レール32の曲線形状に応じて、屈曲部レール32の歪みを解消できる。
この機構により、屈曲部レール32に強い延伸応力がかかった際でも、屈曲部レール32が変形することなく、曲線形状を一定に保つことができる。
また、図12は、本発明の実施形態に係る製造方法に用いる斜め延伸テンターの屈曲部における曲線形状を一定に保持する機構の他の一具体例を示す概略図である。
ここでの保持機構31は、屈曲部レール32、レール幅出用リード33、屈曲部保持部材36、屈曲保持部材スライド板47を備える。
屈曲部レール32は、屈曲保持部材スライド板47の上に来るよう配置される。屈曲保持部材スライド板47は、その両端に、屈曲前レールベース43と屈曲後レールベース44とを連結する。そして、屈曲前レールベース43と屈曲後レールベース44との交差角度を変えることができる。なお、屈曲前レール41と屈曲後レール42とは、屈曲前レールベース43と屈曲後レールベース44とに載置されている。そして、屈曲保持部材スライド板47には、屈曲部保持部材36を移動可能に保持している。
屈曲部レール32は、屈曲部保持部材36の、屈曲保持部材スライド板47上の移動や屈曲前レールベース43と屈曲後レールベース44との交差角度を変えることによって、屈曲部レール32の形状を、所望の曲線形状に変形することができる。
この機構により、屈曲部レール32に強い延伸応力がかかった際でも、屈曲部レール32が変形することなく、曲線形状を一定に保つことができる。
長尺フィルム原反のテンター入口での進行方向15−1は、延伸後のフィルムのテンター出側での進行方向15−2と異なっており、これにより、比較的大きな配向角θをもつ延伸フィルムにおいても広幅で均一な光学特性を得ることが可能となっている。繰出し角度θiは、テンター入口での進行方向15−1と延伸後のフィルムのテンター出側での進行方向15−2とのなす角度である。本実施形態においては、上述のように好ましくは10°〜80°の配向角θを持つフィルムを製造するため、繰出し角度θiは、10°<θi<60°、好ましくは15°<θi<50°で設定される。繰出し角度θiを前記範囲とすることにより、得られるフィルムの幅方向の光学特性のバラツキが良好となる(小さくなる)。
長尺フィルム原反は、テンター入口(符号aの位置)において、その両端(両側)を左右の把持具によって順次把持されて、把持具の走行に伴い走行される。テンター入口(符号aの位置)で、フィルム進行方向(15−1)に対して略垂直な方向に相対している左右の把持具は、左右非対称なレール上を走行し、予熱ゾーン、横延伸ゾーン、斜め延伸ゾーン、保持ゾーン、冷却ゾーンを有するオーブンを通過する。ここで、略垂直とは、前述の向かい合う把持具同士を結んだ直線とフィルム繰出し方向(フィルム進行方向)15−1とがなす角度が、90±1°以内にあることを示す。
予熱ゾーンとは、オーブン入口部において、両端を把持した把持具の間隔が一定の間隔を保ったまま走行する区間をさす。
横延伸ゾーンとは、両端を把持した把持具の間隔が開きだし、所定の間隔になるまでの区間をさす。このとき、両端の把持具が走行するレールの開き角度は、両レールともに同じ角度で開いてもよいし、各々異なる角度で開いてもよい。
斜め延伸ゾーンとは、両端を把持した把持具が、把持具間隔を一定に保ったままあるいは広がりながら、屈曲するレール上を走行しはじめてから両把持具がともに再度直線レール上を走行しはじめるまでの区間をさす。
保持ゾーンとは、横延伸ゾーンあるいは斜め延伸ゾーンより後の把持具の間隔が再び一定となる期間において、両端の把持具が互いに平行を保ったまま走行する区間をさす。
冷却ゾーンとは、保持ゾーンより後の区間において、ゾーン内の温度がフィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg℃以下に設定される区間をさす。
このとき、冷却によるフィルムの縮みを考慮して、予め対向する把持具間隔を狭めるようなレールパターンとしてもよい。
各ゾーンの温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンの温度はTg〜Tg+30℃、延伸ゾーンの温度はTg〜Tg+30℃、冷却ゾーンの温度はTg−30〜Tg℃に設定することが好ましい。
なお、幅方向の厚みムラの制御のために延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差を付けてもよい。延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差を付けるように調整する方法や、ヒーターを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。予熱ゾーン、延伸ゾーン及び冷却ゾーンの長さは適宜選択でき、延伸ゾーンの長さに対して、予熱ゾーンの長さが通常100〜150%、固定ゾーンの長さが通常50〜100%である。
また、本実施形態では、上述した斜め延伸の際に発生する搬送方向上流側に凸型のボウイング自体を低減することを実施してもよい。
具体的には、予熱ゾーンの温度が斜め延伸ゾーンの温度あるいは斜め延伸ゾーンより手前の横延伸ゾーンの温度よりも高くなるように温度区分をつけることで搬送方向上流側に凸型のボウイング自体を低減することができる。
予熱ゾーンの温度と斜め延伸ゾーンの温度あるいは斜め延伸ゾーンより手前の横延伸ゾーンの温度の差としては、1〜30℃が好ましく、1〜10℃とすることがさらに好ましい。
また、斜め延伸ゾーンにて斜め延伸した後、さらに横延伸することもボウイングをある程度低減する手段として有効である。
さらに、前記長尺延伸フィルムのシワ、寄りの発生を解決するために、延伸時にフィルムの支持性を保ち、揮発分率が5体積%以上の状態を存在させて延伸した後、収縮させながら揮発分率を低下させることも好ましい。フィルムの支持性を保つとは、フィルムの膜性を損なうことなく両側縁を把持することを意味する。揮発分率については、延伸操作工程において常に5体積%以上の状態を維持していてもよいし、延伸操作工程の一部の区間に限って揮発分率が5体積%以上の状態を維持してもよい。後者の場合、入り口位置を起算点として全延伸区間の50%以上の区間、揮発分率が12体積%以上の状態となっていることが好ましい。いずれにせよ、延伸前に揮発分率が12体積%以上の状態を存在させておくことが好ましい。ここで、揮発分率(単位;体積%)とは、フィルムの単位体積あたりに含まれる揮発成分の体積を表し、揮発成分体積をフィルム体積で除した値とする。
延伸工程における延伸倍率R(W/W0)は、好ましくは1.3〜3.0、より好ましくは1.5〜2.5である。延伸倍率がこの範囲にあると幅方向厚みムラが小さくなるので好ましい。斜め延伸テンターの延伸ゾーンにおいて、幅方向で延伸温度に差を付けると幅方向厚みムラをさらに良好なレベルにすることが可能になる。なお、W0は延伸前のフィルムの幅、Wは延伸後のフィルムの幅をあらわす。
テンターの入口に最も近いガイドロールは、フィルムの走行を案内する従動ロールであり、不図示の軸受部を介してそれぞれ回転自在に軸支されている。ロールの材質は、公知のものを用いることが可能であるが、フィルムの傷つきを防止するためにセラミックコートを施したり、アルミニウム等の軽金属にクロームメッキを施す等、軽量化を図るのが好適である。このロールは、フィルムの走行時の軌道を安定させるために設けられるものである。
また、このロールの上流側のロールのうちの1本は、ゴムロールを圧接させてニップすることが好ましい。このようなニップロールにすることで、フィルムの流れ方向における繰出張力の変動を抑えることが可能だからである。
テンターの入口に最も近いガイドロールの両端(左右)の一対の軸受部には、当該ロールにおいてフィルムに生じている張力を検出するための第1張力検出装置、第2フィルム張力検出装置がそれぞれ設けられている。フィルム張力検出装置としては、例えばロードセルを用いることができる。ロードセルとしては、引張または圧縮型の公知のものを用いることができる。ロードセルは、着力点に作用する荷重を起歪体に取り付けられた歪ゲージにより電気信号に変換して検出する装置である。
ロードセルは、斜め延伸テンターの入口に最も近いガイドロールの左右の軸受部に設置されることにより、走行中のフィルムがロールに及ぼす力、即ちフィルムの両側縁近傍に生じているフィルム進行方向における張力を左右独立に検出するものである。なお、ロールの軸受部を構成する支持体に歪ゲージを直接取り付けて、該支持体に生じる歪に基づいて荷重、即ちフィルム張力を検出するようにしてもよい。発生する歪とフィルム張力との関係は、予め計測され、既知であるものとする。
上述したようなフィルム張力検出装置を設けて、斜め延伸テンターの入口に最も近いガイドロールにおけるフィルムの両側縁近傍の張力を検出するようにしたのは、フィルムの位置及び方向が、フィルム延伸装置の入口部の位置及び方向に対してズレが生じている場合、このズレ量に応じて、斜め延伸テンターの入口に最も近いガイドロールにおけるフィルムの両側縁近傍の張力に差を生じることになるため、この張力差を検出することによって、当該ズレの程度を判別するためである。フィルムの位置及び方向が、フィルム延伸装置の入口部の位置及び方向との関係で適正であれば、ロールに作用する荷重は左右で粗均等になり、互いの位置がズレていれば左右のフィルム張力に差が生じるのである。
従って、斜め延伸テンターの入口に最も近いガイドロールにおける左右のフィルム張力差が等しくなるように、フィルムの位置及び角度を、適切に調整すれば、フィルム延伸装置の入口部における把持具による把持が安定し、把持具外れ等の障害の発生を少なくできる。さらに、フィルム延伸装置による斜め延伸後のフィルムの幅方向における物性を安定させることができる。
配向角の微調整や製品バリエーションに対応するために斜め延伸テンター入口でのフィルム進行方向と斜め延伸テンター出口でのフィルム進行方向とがなす角度の調整が必要となる。その際、製膜および斜め延伸を連続して行うことが、生産性や収率の点で好ましい。製膜工程、斜め延伸工程、巻取工程を連続して行う場合、製膜工程と巻取工程でのフィルムの進行方向が一致していることが、工程の幅を小さくできる点で好ましい。そのような工程とするには、製膜したフィルムを斜め延伸テンター入口に導くためにフィルムの搬送方向を変更する、及び/または斜め延伸テンター出口から出たフィルムを巻取装置方向に戻すためにフィルムの搬送方向を変更する方法が必要となる。フィルムの搬送方向を変更する装置としては、エアーフローロールなどを用いるなど公知の方法を実施することができる。斜め延伸テンター出口以降の装置(ワインダー装置、アキューム装置、ドライブ装置など)は横方向にスライドできる構造が好ましい。
上記種々な本実施形態に係る製造方法の例について、図3に(a)〜(c)、図4に(d)及び(e)として概略図として示した。図3は一旦ロール状に巻き取られた長尺フィルム原反を繰り出して斜め延伸するパターンを示すものである。図4は、長尺フィルム原反を巻き取ることなく連続的に斜め延伸工程を行うパターンを示すものである。
図中、フィルム繰り出し装置16、搬送方向変更装置17、巻き取り装置18、製膜装置19を各々示す。それぞれの図において、同じものを示す記号については省略している場合がある。
フィルム繰り出し装置16は、斜め延伸テンター入口に対して所定角度で前記フィルムを送り出せるように、スライドおよび旋回可能となっているか、フィルム繰り出し装置16は、スライド可能となっており、搬送方向変更装置17により斜め延伸テンター入口に前記フィルムを送り出せるようになっていることが好ましい。前記フィルム繰り出し装置16、及び搬送方向変更装置17をこのような構成とすることにより、より製造装置全体の幅を狭くすることが可能となるほか、フィルムの送り出し位置および角度を細かく制御することが可能となり、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺延伸フィルムを得ることが可能となる。また、前記フィルム繰り出し装置16、及び搬送方向変更装置17を移動可能とすることにより、前記左右のクリップのフィルムへの噛込み不良を有効に防止することができる。
巻き取り装置18は、斜め延伸テンター出口に対して所定角度でフィルムを引き取れるように形成することにより、フィルムの引き取り位置および角度を細かく制御することが可能となり、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺延伸フィルムを得ることが可能となる。そのため、フィルムのシワの発生を有効に防止することができるとともに、フィルムの巻き取り性が向上するため、フィルムを長尺で巻き取ることが可能となる。本実施形態において、延伸後のフィルムの引取り張力T(N/m)は、100N/m<T<300N/m、好ましくは150N/m<T<250N/mの間で調整することが好ましい。
前記引取張力が100N/m以下ではフィルムのたるみや皺が発生しやすく、リターデーション、配向軸の幅方向のプロファイルも悪化する。逆に引取張力が300N/m以上となると幅方向の配向角のバラツキが悪化し、幅収率(幅方向の取り効率)を悪化させてしまう。
また、本実施形態においては、上記引取張力Tの変動を±5%未満、好ましくは±3%未満の精度で制御することが好ましい。上記引取張力Tの変動が±5%以上であると、幅方向及び流れ方向の光学特性のバラツキが大きくなる。上記引取張力Tの変動を上記範囲内に制御する方法としては、テンター出口部の最初のロールにかかる荷重、すなわちフィルムの張力を測定し、その値を一定とするように、一般的なPID制御方式により引取ロールの回転速度を制御する方法が挙げられる。前記荷重を測定する方法としては、ロールの軸受部にロードセルを取り付け、ロールに加わる荷重、すなわちフィルムの張力を測定する方法が挙げられる。ロードセルとしては、引張型や圧縮型の公知のものを用いることができる。
延伸後のフィルムは、把持具による把持が開放され、テンター出口から排出され、フィルムの両端(両側)がトリミングされた後に、順次巻芯(巻取りロール)に巻き取られて、長尺延伸フィルムの巻回体にすることができる。
また、必要に応じて、巻取ロールに巻き取る前に、テンターの把持具で把持されていたフィルムの両端をトリミングしてもよい。また、巻き取る前に、フィルム同士のブロッキングを防止する目的で、マスキングフィルムを重ねて同時に巻き取ってもよいし、長尺延伸フィルムの少なくとも一方、好ましくは両方の端にテープ等を張り合わせながら巻き取ってもよい。マスキングフィルムとしては、上記フィルムを保護することができるものであれば特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムは、配向角θが巻取り方向に対して、例えば10°〜80°の範囲に傾斜しており、少なくとも1300mmの幅において、幅方向の、面内リターデーションRoのバラツキが4nm以下、配向角θのバラツキが1.0°以下であることが好ましい。
本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムの面内リターデーションRoのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、4nm以下、好ましくは3nm以下であることが好ましい。面内リターデーションRoのバラツキを、上記範囲にすることにより、液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。
本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムの配向角θのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、1.0°以下、好ましくは0.80°以下であることが好ましい。配向角θのバラツキが1.0°を超える長尺延伸フィルムを偏光子と貼り合せて円偏光板を得、これを液晶表示装置に据え付けると、光漏れが生じ、コントラストを低下させることがある。
本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムの面内リターデーションRoは、用いられる表示装置の設計によって最適値が選択される。なお、前記Roは、面内遅相軸方向の屈折率nxと面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率nyとの差にフィルムの平均厚みdを乗算した値(Ro=(nx−ny)×d)である。
また、本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムは、斜め延伸後のボウイング量が、−1.0%以上1.0%以下であることが好ましい。すなわち、得られた長尺延伸フィルムのボウイング量が小さいほど好ましい。そうすることによって、ディスプレイ装置の色味の不均一を十分に抑制することができる円偏光板を製造することができる。
本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムの平均厚みは、機械的強度などの観点から、好ましくは20〜80μm、さらに好ましくは30〜60μm、特に好ましくは30〜40μmである。
また、幅方向の厚みムラは、巻取りの可否に影響を与えるため、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
<フィルム原料>
フィルムの原料としては、主として熱可塑性樹脂が用いられる。ここで、「熱可塑性樹脂」とは、ガラス転移温度又は融点まで加熱することによって軟らかくなり、目的の形に成形できる樹脂のことをいう。
一般的な光学フィルム用樹脂としてのポリカーボネート、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリオレフィン等を用いることができる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、脂環式オレフィンポリマー、アクリル系ポリマー、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースエステル等を用いてもよい。特にセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステル、ラクトン環構造を有するアクリル系ポリマー等がより好ましい。これらの原料は単独で用いても良いし、異なる熱可塑性樹脂を混合して用いてもよい。混合して使用する場合は、セルロースエステルとアクリル系ポリマーの混合がより好ましい。透明樹脂は、顔料や染料のごとき着色剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、溶剤などの配合剤が適宜配合されたものであってもよい。
なお、フィルムは、単層フィルムであっても、多層フィルムであってもよい。
フィルムとしては、主として長尺フィルム原反が用いられるが、既に縦延伸、横延伸、斜め延伸のいずれかを単独で、あるいは複数回実施したフィルムであっても構わない。
<セルロースエステル>
本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムは、種々の樹脂基材を用いて作製することができるが、セルロースエステルを含有する態様であることが好ましい。従って以下、本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムや本実施形態で用いる延伸前のフィルム(長尺フィルム原反)をセルロースエステルフィルムと呼称する場合がある。
本実施形態で用いることができるセルロースエステルは、セルロース(ジ、トリ)アセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
これらの中で特に好ましいセルロースエステルは、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。
混合脂肪酸エステルの置換度として、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有している場合、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルであることが好ましい。
式(I) 2.0≦X+Y≦3.0
式(II) 0≦X≦2.5
さらに、本実施形態で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2.0〜5.0であり、さらに好ましくは2.5〜5.0であり、さらに好ましくは3.0〜5.0のセルロースエステルが好ましく用いられる。
本実施形態で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することができる。
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
本実施形態において、セルロースエステルは、20mlの純水(電気伝導度0.1μS/cm以下、pH6.8)に1g投入し、25℃、1hr、窒素雰囲気下にて攪拌した時のpHが6〜7、電気伝導度が1〜100μS/cmであることが好ましい。
なお、本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムには、本発明の効果を害しない限りにおいて、上記セルロースアセテート以外の熱可塑性樹脂を併用することもできる。
熱可塑性樹脂としては、一般的汎用樹脂としては、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)等を用いることができる。
また、強度や壊れにくさを特に要求される場合、ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、環状ポリオレフィン(COP)等を用いることができる。
さらに、高い熱変形温度と長期使用できる特性を要求される場合は、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等を用いることができる。
なお、本発明の用途にそって樹脂の種類、分子量の組み合わせを行うことが可能である。
また、工業的にはセルロースエステルは硫酸を触媒として合成されているが、この硫酸は完全には除去されておらず、残留する硫酸が溶融製膜時に各種の分解反応を引き起こし、得られるセルロースエステルフィルムの品質に影響を与えるため、本実施形態に用いられるセルロースエステル中の残留硫酸含有量は、硫黄元素換算で0.1〜40ppmの範囲であることが好ましい。これらは塩の形で含有していると考えられる。残留硫酸含有量が40ppmを超えると熱溶融時のダイリップ部の付着物が増加するため好ましくない。また、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際に破断しやすくなるため好ましくない。少ない方が好ましいが、0.1未満とするにはセルロースエステルの洗浄工程の負担が大きくなり過ぎるため好ましくないだけでなく、逆に破断しやすくなることがあり好ましくない。これは洗浄回数が増えることが樹脂に影響を与えているのかもしれないがよく分かっていない。さらに0.1〜30ppmの範囲が好ましい。残留硫酸含有量は、同様にASTM−D817−96により測定することができる。
また、その他(酢酸等)の残留酸を含めたトータル残留酸量は1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がさらに好ましく、100ppm以下がより好ましい。
セルロースエステルの洗浄は、水に加えて、メタノール、エタノールのような貧溶媒、或いは結果として貧溶媒であれば貧溶媒と良溶媒の混合溶媒を用いることができ、残留酸以外の無機物、低分子の有機不純物を除去することができる。
また、セルロースエステルの耐熱性、機械物性、光学物性等を向上させるため、セルロースエステルの良溶媒に溶解後、貧溶媒中に再沈殿させ、セルロースエステルの低分子量成分、その他不純物を除去することができる。さらに、セルロースエステルの再沈殿処理の後、別のポリマー或いは低分子化合物を添加してもよい。
また、本実施形態で用いられるセルロースエステルはフィルムにした時の輝点異物が少ないものであることが好ましい。輝点異物とは、二枚の偏光板を直交に配置し(クロスニコル)、この間にセルロースエステルフィルムを配置して、一方の面から光源の光を当てて、もう一方の面からセルロースエステルフィルムを観察した時に、光源の光が漏れて見える点のことである。このとき評価に用いる偏光板は輝点異物がない保護フィルムで構成されたものであることが望ましく、偏光子の保護にガラス板を使用したものが好ましく用いられる。輝点異物はセルロースエステルに含まれる未酢化もしくは低酢化度のセルロースがその原因の1つと考えられ、輝点異物の少ないセルロースエステルを用いることと、溶融したセルロースエステルもしくはセルロースエステル溶液を濾過すること、或いはセルロースエステルの合成後期の過程や沈殿物を得る過程の少なくともいずれかにおいて、一度溶液状態として同様に濾過工程を経由して輝点異物を除去することもできる。溶融樹脂は粘度が高いため、後者の方法のほうが効率がよい。
本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムは後述するセルロースエステル以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにした時の透過率が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上であることが好ましい。
<添加剤>
ドープ中に添加される添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、リターデーション調整剤、酸化防止剤、劣化防止剤、剥離助剤、界面活性剤、染料、微粒子等がある。本実施形態において、微粒子以外の添加剤についてはセルロースエステル溶液の調製の際に添加してもよいし、微粒子分散液の調製の際に添加してもよい。液晶画像表示装置に使用する偏光板には耐熱耐湿性を付与する可塑剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等を添加することが好ましい。
これらの化合物は、セルロースエステルに対して1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%となるように含まれていることが好ましい。また、延伸及び乾燥中のブリードアウト等を抑制させるため、200℃における蒸気圧が1400Pa以下の化合物であることが好ましい。
これらの化合物は、セルロースエステル溶液の調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
(リターデーション調整剤)
リターデーションを調整するために添加する化合物は、欧州特許911,656A2号明細書に記載されているような、二つ以上の芳香族環を有する芳香族化合物を使用することができる。
また、二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。該芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族性ヘテロ環であることが特に好ましく、芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。中でも1,3,5−トリアジン環が特に好ましい。
<ポリマー又はオリゴマー>
本実施形態におけるセルロースエステルフィルムは、セルロースエステルと、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、及びスルホン酸基から選ばれる置換基を有しかつ重量平均分子量が500〜200,000の範囲内であるビニル系化合物のポリマー又はオリゴマーとを含有することが好ましい。当該セルロースエステルと、当該ポリマー又はオリゴマーとの含有量の質量比が、95:5〜50:50の範囲内であることが好ましい。
(マット剤)
本実施形態では、マット剤として微粒子を延伸フィルム中に含有させることができ、これによって、延伸フィルムが長尺フィルムの場合、搬送や巻き取りをしやすくすることができる。
マット剤の粒径は10nm〜0.1μmの1次粒子もしくは2次粒子であることが好ましい。1次粒子の針状比は1.1以下の略球状のマット剤が好ましく用いられる。
微粒子としては、ケイ素を含むものが好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。本実施形態に好ましい二酸化珪素の微粒子としては、例えば、日本アエロジル(株)製のアエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されているものを挙げることができ、アエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812を好ましく用いることができる。ポリマーの微粒子の例として、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(東芝シリコーン(株)製)を挙げることができる。
二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/L以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmがより好ましく、5〜12nmがさらに好ましい。1次粒子の平均径が小さい方がヘイズが低く好ましい。見かけ比重は90〜200g/L以上が好ましく、100〜200g/L以上がより好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の微粒子分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が発生せず好ましい。
本実施形態におけるマット剤の添加量は、長尺延伸フィルム1m2当たり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがより好ましく、0.08〜0.16gがさらに好ましい。
(その他の添加剤)
その他、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等の熱安定剤を加えてもよい。さらに界面活性剤、剥離促進剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤等も加えてもよい。
<セルロースエステルフィルムの製造>
本実施形態におけるセルロースエステルフィルムは、溶液流延法、溶融流延法のいずれの方法で製造されてもよい。以下溶液流延法について説明する。
本実施形態におけるセルロースエステルフィルムの製造は、セルロースエステル及び前記可塑剤などの添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープをベルト状若しくはドラム状の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸する工程、さらに乾燥する工程、必要であれば得られたフィルムをさらに熱処理する工程、冷却後巻き取る工程により行われる。本実施形態におけるセルロースエステルフィルムは固形分中に好ましくはセルロースエステルを60〜95質量%含有するものである。
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、濃度が高い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減出来て好ましい。しかしながら、セルロースエステルの濃度が高過ぎると、濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、さらに好ましくは、15〜25質量%である。
セルロースエステルを溶解しセルロースエステル溶液又はドープ形成に有用な有機溶媒としては、塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒がある。塩素系の有機溶媒としてメチレンクロライド(塩化メチレン)を挙げることができ、セルロースエステル、特にセルローストリアセテートの溶解に適している。昨今の環境問題から非塩素系有機溶媒の使用が検討されている。非塩素系有機溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができる。これらの有機溶媒をセルローストリアセテートに対して使用する場合には、常温での溶解方法も使用可能であるが、高温溶解方法、冷却溶解方法、高圧溶解方法等の溶解方法を用いることにより不溶解物を少なくすることができるので好ましい。セルローストリアセテート以外のセルロースエステルに対しては、メチレンクロライドを用いることはできるが、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンが好ましく使用される。特に酢酸メチルが好ましい。本実施形態において、上記セルロースエステルに対して良好な溶解性を有する有機溶媒を良溶媒といい、また溶解に主たる効果を示し、その中で大量に使用する有機溶媒を主(有機)溶媒又は主たる(有機)溶媒という。
本実施形態で用いられるドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。これらはドープを金属支持体に流延後溶媒が蒸発をし始めアルコールの比率が多くなるとドープ膜(ウェブ)がゲル化し、ウェブを丈夫にし金属支持体から剥離することを容易にするゲル化溶媒として用いられたり、これらの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒のセルロースエステルの溶解を促進する役割もある。炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらのうちドープの安定性に優れ、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等からエタノールが好ましい。これらの有機溶媒は単独ではセルロースエステルに対して溶解性を有していないので貧溶媒という。
ドープ中のセルロースエステルの濃度は15〜30質量%、ドープ粘度は100〜500Pa・sの範囲に調製されることが良好なフィルム面品質を得る上で好ましい。
上記記載のドープを調製する時の、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱できる。溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤或いは膨潤させた後、さらに良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましい。しかしながら、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。好ましい加熱温度は、45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃がさらに好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
若しくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステルを溶解させることができる。
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましい。しかしながら、絶対濾過精度が小さ過ぎると、濾過材の目詰まりが発生しやすいという問題がある。このため、絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材がさらに好ましい。
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
輝点異物とは、二枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間にセルロースエステルフィルムを置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm2以下であることが好ましい。より好ましくは100個/cm2以下であり、さらに好ましくは50個/m2以下であり、最も好ましくは0〜10個/cm2である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
ドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることがさらに好ましい。
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることがさらに好ましい。
ここで、ドープの流延について説明する。
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましい。金属支持体としては、ステンレススティールベルト若しくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。キャストの幅は1〜4mとすることができる。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤が沸騰して発泡しない温度以下に設定される。温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましい。しかしながら、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。好ましい支持体温度としては0〜100℃で適宜決定され、5〜30℃がさらに好ましい。或いは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風又は冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は溶媒の蒸発潜熱によるウェブの温度低下を考慮して、溶媒の沸点以上の温風を使用しつつ、発泡も防ぎながら目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。特に、流延から剥離するまでの間で支持体の温度及び乾燥風の温度を変更し、効率的に乾燥を行うことが好ましい。
セルロースエステルフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、さらに好ましくは20〜40質量%又は60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%又は70〜120質量%である。また、該金属支持体上の剥離位置における温度を−50〜40℃とするのが好ましく、10〜40℃がより好ましく、15〜30℃とするのが最も好ましい。
本実施形態においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
なお、Mはウェブ又はフィルムを製造中又は製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
また、セルロースエステルフィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、さらに乾燥し、残留溶媒量が0.5質量%以下となるまで乾燥される。
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールをウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送、必要ならば延伸させながら乾燥する方式が採られる。
前記金属支持体から剥離する際に、剥離張力及びその後の搬送張力によってウェブは縦方向に延伸するため、本実施形態においては流延支持体からウェブを剥離する際は剥離及び搬送張力をできるだけ下げた状態で行うことが好ましい。具体的には、例えば50〜170N/m以下にすることが効果的である。その際、20℃以下の冷風を当て、ウェブを急速に固定化することが好ましい。
次いで、上記乾燥したフィルムを、横延伸テンターを用いて、搬送方向と直交する方向(Transverse Direction:TD方向)に延伸させる。具体的には、フィルムの搬送方向に垂直な方向の両端部をクリップ等で把持して、対向するクリップ間の距離を大きくすることによって、TD方向に延伸する。その際、下記式で求められる延伸率が1〜30%となるように延伸することが好ましい。
延伸率(%)={(延伸後の幅方向の長さ−延伸前の幅方向の長さ)/延伸前の幅方向の長さ}×100
フィルムを延伸させる際は、フィルムを加熱して行う。このフィルムの加熱は、例えば、加熱風をフィルムに吹きつけることによって行ってもよいし、赤外線ヒーター等の加熱装置で加熱してもよい。
前記横延伸テンターは予熱ゾーン、横延伸ゾーン、保持ゾーン、冷却ゾーンを有するオーブンが用いられる。
予熱ゾーンとは、オーブン入口部において、両端を把持した把持具の間隔が一定の間隔を保ったまま走行する区間をさす。
横延伸ゾーンとは、両端を把持した把持具の間隔が開きだし、所定の間隔になるまでの区間をさす。このとき、両端の把持具が走行するレールの開き角度は、両レールともに同じ角度で開いてもよいし、各々異なる角度で開いてもよい。
保持ゾーンとは、横延伸ゾーンあるいは斜め延伸ゾーンより後の把持具の間隔が再び一定となる期間において、両端の把持具が互いに平行を保ったまま走行する区間をさす。
冷却ゾーンとは、保持ゾーンより後の区間において、ゾーン内の温度がフィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg℃以下に設定される区間をさす。このとき、冷却によるフィルムの縮みを考慮して、予め対向する把持具間隔を狭めるようなレールパターンとしてもよい。
各ゾーンの温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンの温度はTg〜Tg+30℃、延伸ゾーンの温度はTg〜Tg+30℃、冷却ゾーンの温度はTg−30〜Tg℃に設定することが好ましい。
次いで、上記作成したフィルムを長尺フィルム原反として、前述の本実施形態に係る斜め延伸テンターにより所望の角度に延伸を行い、長尺延伸フィルムとすることができる。
<円偏光板>
本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムは、下記特徴と有するλ/4板であることが好ましい。
(λ/4板)
λ/4板とは、ある特定の波長の直線偏光を円偏光に(または、円偏光を直線偏光に)変換する機能を有するものをいう。λ/4板は、所定の光の波長(通常、可視光領域)に対して、層の面内の位相差値Roが約1/4となるように設計されている。波長550nmで測定したリターデーション値Ro(550)が100〜160nmの範囲であることが好ましく、120〜150nmであることがより好ましい。
また、λ/4板は、可視光の波長の範囲においてほぼ完全な円偏光を得るため、可視光の波長の範囲において概ね波長の1/4のリターデーションを有する位相差板であることが好ましい。
「可視光の波長の範囲において概ね1/4のリターデーション」とは、波長400から700nmにおいて長波長ほどリターデーションが大きく、波長450nmで測定した下記式(i)で表されるリターデーション値であるRo(450)と波長590nmで測定したリターデーション値であるRo(590)が、1<Ro(590)/Ro(450)≦1.6を満たすことが好ましい。さらにλ/4板として有効に機能するためには、Ro(450)が100〜125nmの範囲内であり、波長550nmで測定したリターデーション値Ro(550)が125〜142nmの範囲内であり、Ro(590)が130〜152nmの範囲内の位相差フィルムであることがより好ましい。
式(i):Ro=(nx−ny)×d
式(ii):Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、nx、nyは、23℃・55%RH、450nm、550nm、590nmの各々における屈折率nx(フィルムの面内の最大の屈折率、遅相軸方向の屈折率ともいう。)、ny(フィルム面内で遅相軸に直交する方向の屈折率)、nz(フィルムの膜厚方向の屈折率)であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。
Ro、Rtは自動複屈折率計を用いて測定することができる。自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、各波長での複屈折率測定によりRoを算出する。
λ/4板の遅相軸と後述する偏光子(長尺偏光フィルム)の透過軸との角度が実質的に45°になるように積層すると円偏光板が得られる。「実質的に45°」とは、40〜50°であることを意味する。λ/4板の面内の遅相軸と偏光子の透過軸との角度は、41〜49°であることが好ましく、42〜48°であることがより好ましく、43〜47°であることがさらに好ましく、44〜46°であることが最も好ましい。
すなわち、本実施形態に係る長尺延伸フィルムは、上記式(i)で表される面内リターデーションRo(550)が100〜160nmであり、長尺延伸フィルムの幅手方向に対する遅相軸の角度である配向角θが40〜50°であることが好ましい。
そうすることによって、ディスプレイ装置の色味の不均一を十分に抑制することができる円偏光板を製造することができる。
本実施形態に係る円偏光板(偏光板とも称する。)は、偏光子としてヨウ素、又は二色性染料をドープしたポリビニルアルコールを延伸したものを使用し、本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムであるλ/4板/偏光子/光学フィルムの構成で貼合して製造することができる。立体映像表示装置である液晶表示装置に本実施形態に係る円偏光板(長尺偏光板)を使用する場合、上記λ/4板は視認側に貼合する。
前記光学フィルムは、ポリマーフィルムであることが好ましく、製造が容易であること、光学的に均一性であること、光学的に透明性であることが好ましい。これらの性質を有していれば何れでもよく、例えば、セルロースエステル系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリアリレート系フィルム、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンも含む)系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、セルロースジアセテートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、シンジオタクティックポリスチレン系フィルム,ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン樹脂系フィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリエーテルケトンイミドフィルム、ポリアミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリビニルアセタール系樹脂フィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム又はアクリルフィルム等を挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
セルロースエステル系フィルムの場合は、前述の延伸フィルムで用いられるセルロースアセテート、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、リターデーション調整剤、マット剤、劣化防止剤、剥離助剤、界面活性剤等を好ましく用いることができる。
偏光子に対して前記λ/4板を貼合した面と反対側の面に貼合される光学フィルムは、上記式で定義されるリターデーション値Ro、Rtが各々20〜150nm、70〜400nmである光学フィルム、又は0nm≦Ro≦2nm、かつ−15nm≦Rt≦15nmであることが好ましい。
上記光学フィルムとして、例えば、負の一軸性を有する化合物であるディスコティック液晶性化合物を支持体上に担持させる方法(例えば、特開平7−325221号公報参照。)、正の光学異方性を有するネマティック型高分子液晶性化合物を深さ方向に液晶分子のプレチルト角が変化するハイブリッド配向をさせたものを支持体上に担持させる方法(例えば、特開平10−186356号公報参照。)、正の光学異方性を有するネマティック型液晶性化合物を支持体上に2層構成にして各々の層の配向方向を略90°とすることにより擬似的に負の一軸性類似の光学特性を付与させる方法(例えば、特開平8−15681号公報参照。)等による光学異方性層を支持体上に設けた光学フィルム、又は、従来のTACフィルムの代わりにセルロース誘導体フィルムを延伸により位相差を発現させ、これをケン化処理してPVA偏光子をラミネートすることにより位相差フィルムの機能を併せ持つ光学フィルム(例えば、特開2003−270442号公報参照。)、セルロースエステルフィルムにリターデーション調整剤を添加し、位相差フィルムを得る方法(例えば、特開2000−275434号公報、2003−344655号公報参照。)等による光学補償フィルムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
例えば、市販のセルロースエステルフィルムとして、コニカミノルタタック KC8UX、KC4UX、KC5UX、KC8UCR3、KC8UCR4、KC8UCR5、KC8UY、KC4UY、KC12UR、KC16UR、KC4UE、KC8UE、KC4FR−1、KC4FR−2(以上コニカミノルタオプト(株)製)なども好ましく用いられる。
偏光子の膜厚は5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。
偏光板の製造方法は、特に限定されないが、例えば、前記長尺延伸フィルムを、長尺偏光フィルムと貼り合わせる方法が挙げられる。より具体的な製造方法は、後述する。
そうすることによって、ディスプレイ装置の色味の不均一を十分に抑制することができる円偏光板を製造することができる。
偏光板は一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理した本発明の実施形態に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面には、前記光学フィルムを貼合することが好ましい。
偏光板は、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することができる。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
<液晶表示装置>
本実施形態に係る長尺延伸フィルムを用いて得られた偏光板を液晶セルの視認側の面に貼合した液晶表示装置とすることによって、液晶表示装置を作製することができる。本実施形態に係る円偏光板は反射型、透過型、半透過型LCD或いは、スーパーツイステッドネマティック(STN)モード、ツイステッドネマティック(TN)モード、インプレーンスイッチング(IPS)モード、垂直配向(VA)モード、ベンドネマチック(OCB:Optically Aligned Birefringence)モードおよびハイブリッド配向(HAN:Hybrid Aligned Nematic)モードの液晶表示装置に用いることができる。
また、本実施形態に係る長尺延伸フィルムを用いたλ/4板は、立体画像表示装置において、種々の態様において用いることができる。例えば、液晶表示装置と液晶シャッタメガネとからなる立体画像表示装置であって、当該液晶シャッタメガネが、(1)λ/4板、液晶セル、及び偏光子がこの順に設けられている、又は(2)λ/4板、偏光子、液晶セル、及び偏光子がこの順に設けられている液晶シャッタメガネであることを特徴とする態様の立体画像表示装置において用いることができる。
なお、いずれの態様の場合も、液晶表示装置の前側偏光板は、λ/4板、偏光子、及び光学フィルムセル、及び偏光子がこの順に設けられている構成になっている。
本実施形態においては、上記の態様・構成により、立体(3D)画像観賞時に首を傾けた際のクロストーク若しくは輝度低下及び色味変化を低減でき、使用環境に対して優れた視認性を保つことが可能で、使用環境に対してより耐久性が高い立体画像表示装置とすることができる。
<EL素子での実施態様>
また、本発明の実施形態に係る長尺延伸フィルムを用いたλ/4板は、有機EL表示装置のような自発光型表示装置の反射防止の用途に用いられる円偏光板として特に好ましく用いられる。本発明の実施形態に係る長尺延伸フィルムは、幅手方向における遅相軸の方向(配向角)の均一性に優れるため、有機EL表示装置に用いられた場合には、特に色味の均一性に優れた表示装置とすることができる。
図5は、本実施形態に係るλ/4板(円偏光素子)をEL素子に使用した場合の、好ましい実施態様の概略図である。
ここで、吸収型直線偏光板1は、吸収型直線偏光子501の両面を偏光板保護フィルムで挟んだものである。これに対して、1/4波長板として本発明の実施形態に係る長尺延伸フィルム502を、吸収型直線偏光子501の透過軸と本発明の実施形態に係る長尺延伸フィルム502の遅相軸が約45°(または135°)の関係になるように貼り合わせることで、円偏光素子503とされている。なお、ここでは吸収型直線偏光子501の両面に偏光板保護フィルム貼り合わされているとしたが、本発明の実施形態に係る長尺延伸フィルム502を光源側の保護フィルムとして兼用する形態が好ましい。
図5に示すように、本実施形態に係るEL素子10は、吸収型直線偏光板1と、1/4波長板として本発明の実施形態に係る長尺延伸フィルム502を有する円偏光素子503を具備している。
ここで、吸収型直線偏光板1の透過軸と、本発明の実施形態に係る長尺延伸フィルム502の遅相軸とは、45°(または135°)で交差するように配置されており、吸収型直線偏光板1を透過した直線偏光は、本発明の実施形態に係る長尺延伸フィルム502によって円偏光に変換されることになる。
また、EL素子10は、円偏光素子503に対向配置された透明基板504と、透明基板504上に形成された陽極505と、陽極505に対向配置された陰極506と、陽極505および陰極506の間に配置された発光層507とを備えている。
このような構成を有するEL素子10において、陰極506から電子を、陽極505から正孔を注入し、両者が発光層507で再結合することにより、発光層507の発光特性に対応した可視光線の発光が生じる。発光層7で生じた光は、直接又は陰極506で反射した後、陽極505、透明基板504、円偏光素子503を介して外部に取り出されることになる。
一方、室内照明等によりEL素子10の外部から入射した外光I1(吸収型直線偏光板1の面に垂直な方向から入射した外光)は、吸収型直線偏光板1によって半分は吸収され、残りの半分は直線偏光として透過し、1/4波長板である実施形態に係る長尺延伸フィルム502に入射する。
延伸フィルム502に入射した光は、吸収型直線偏光板1の透過軸と長尺延伸フィルム502の遅相軸とが45°(または135°)で交差するように配置されているため、入射光は長尺延伸フィルム502を透過することにより円偏光R2に変換される。
長尺延伸フィルム502を出射した円偏光R2は、陰極506で鏡面反射する際に、位相が180度反転し、逆廻りの円偏光R1として反射される。
当該反射光R1は、長尺延伸フィルム502に入射することにより、吸収型直線偏光板1の吸収軸(光軸に直交する軸)に平行な直線偏光に変換されるため、吸収型直線偏光板1で全て吸収され、外部に出射されないことになる。
これに対し、斜め方向から入射する外光I2は、長尺延伸フィルム502を通過する際、その光路長が長くなるため、円偏光からずれてしまい、楕円偏光となるため、反射光の一部の光(図5に点線で示す光)が外部に漏れ、観察者に視認される場合がある。
それに対して、長尺延伸フィルムのRtを−20〜20nmとすると、斜め方向からの入射光の光漏れを低減し、色味変化をさらに小さくすることが可能である。
本実施形態に係る円偏光素子は、ボトムエミッション方式だけでなく、トップエミッション方式に対しても使用することが可能である。
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
本発明の一局面は、熱可塑性樹脂からなる長尺フィルム原反を供給する長尺フィルム原反供給工程、前記長尺フィルム原反を幅手方向に対して0°より大きく90°未満の方向に斜め延伸する斜め延伸工程、及び、前記斜め延伸工程後の長尺延伸フィルムを巻き取る工程を有する長尺延伸フィルムの製造方法であって、前記長尺フィルム原反供給工程では、前記斜め延伸工程直後の長尺延伸フィルムの搬送方向とは異なる方向から前記長尺フィルム原反を供給し、前記斜め延伸工程では、供給された長尺フィルム原反の両端部を把持具により把持しながら搬送し、把持状態を保持したまま搬送方向を変えて、一方の把持部と他方の把持部の移動距離を異ならせることで、前記長尺フィルム原反を巻取方向に対して0°より大きく90°未満の斜め方向に延伸し、前記長尺フィルム原反供給工程においては、前記斜め延伸工程において発生するボウイングに対して、逆の方向のボウイングを有する長尺フィルム原反を供給することを特徴とする長尺延伸フィルムの製造方法である。
なお、上記におけるボウイングの方向とは、長尺方向における方向を表している。即ち、本実施形態においては、斜め延伸工程において発生するボウイングが搬送方向の上流側(長尺フィルム原反の供給側)に対して凸の弓型形状を呈する場合には、前記長尺フィルム原反供給工程において供給する長尺フィルム原反は、搬送方向の下流側(長尺延伸フィルムの巻取り側)に凸の弓型形状を有するものとすることを表す。
このような構成によれば、斜め延伸を行う際のボウイングの発生を効果的に抑制し、遅相軸傾斜角度の幅手均一性に優れた長尺延伸フィルムの製造方法を提供することができる。また、このような製造方法により得られた長尺延伸フィルムを用いれば、長尺状の偏光フィルムとロール・トゥ・ロールで貼り合わせることで、円偏光板を得ることができる。このため、生産性や歩留まりを大幅に改善できるとともに、得られた円偏光板を用いたディスプレイ装置においては、優れた色味の均一性を示す。
また、長尺延伸フィルムの製造方法において、前記長尺フィルム原反は、前記熱可塑性樹脂からなるフィルム材料を製膜後、一旦巻き取って、ロール状の長尺フィルム原反とされた後に、再度繰り出すことで前記斜め延伸工程に供給されるものであり、前記フィルム材料は、前記ロール状の長尺フィルム原反とされる前に、前記斜め延伸工程において発生するボウイングに対して、同一方向のボウイングを発生する条件で製造されたものであることが好ましい。
このような構成によれば、ロール状の長尺フィルム原反を製造する際に、発生したボウイングが、ロール状の長尺フィルム原反を繰り出す際、巻き取り方向とは、反対の方向に繰り出されるので、長尺フィルム原反供給工程において、斜め延伸工程において発生するボウイングに対して、逆の方向のボウイングを有するボウイングを有する長尺フィルムを、連続的に供給することができる。すなわち、斜め延伸を行う際のボウイングの発生を効果的に抑制し、遅相軸傾斜角度の幅手均一性に優れた長尺延伸フィルムを、より容易に製造することができる。
また、長尺延伸フィルムの製造方法において、前記長尺フィルム原反は、前記斜め延伸工程において発生するボウイングに対して、逆方向のボウイングを発生させる工程を経て、その後巻き取られることなく前記斜め延伸工程に供給されることが好ましい。
このような構成によれば、長尺フィルム原反供給工程において、斜め延伸工程において発生するボウイングに対して、逆の方向のボウイングを有するボウイングを有する長尺フィルムを、連続的に供給することができる。すなわち、斜め延伸を行う際のボウイングの発生を効果的に抑制し、遅相軸傾斜角度の幅手均一性に優れた長尺延伸フィルムを、より容易に製造することができる。
また、長尺延伸フィルムの製造方法において、前記長尺延伸フィルムは、斜め延伸後のボウイング量が−1.0%以上+1.0%以下であることが好ましい。
このような構成によれば、ディスプレイ装置の色味の不均一を十分に抑制することができる円偏光板を製造することができる。
また、長尺延伸フィルムの製造方法において、前記長尺延伸フィルムの下記式で表される面内リターデーションRo(550)が100〜160nmであり、長尺延伸フィルムの幅手方向に対する遅相軸の角度である配向角θが40〜50°であることが好ましい。
Ro=(nx−ny)×d
なお、nxは、前記長尺延伸フィルムの面内の遅相軸方向における波長550nmの光に対する屈折率を表し、nyは、前記長尺延伸フィルムの面内の前記nxに垂直な方向における波長550nmの光に対する屈折率を表し、dは前記長尺延伸フィルムの厚さ(nm)を表す。
このような構成によれば、ディスプレイ装置の色味の不均一を十分に抑制することができる円偏光板を製造することができる。
また、本発明の他の一局面は、前記長尺延伸フィルムの製造方法により得られた長尺延伸フィルムを、長尺偏光フィルムと貼り合わせることを特徴とする円偏光板の製造方法である。
このような構成によれば、ディスプレイ装置の色味の不均一を十分に抑制することができる円偏光板を製造することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<ドープ液の作製>
(ポリエステルAの作製)
窒素雰囲気下、テレフタル酸ジメチル4.85g、1,2−プロピレングリコール4.4g、p−トルイル酸6.8g、テトライソプロピルチタネート10mgを混合し、140℃で2時間攪拌を行った後、さらに210℃で16時間攪拌を行った。次に、170℃まで降温し、未反応物の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、ポリエステルAを得た。
〈微粒子分散液1〉
微粒子(アエロジル R812 日本アエロジル(株)製)
11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
〈微粒子添加液1〉
メチレンクロライドを入れた溶解タンクに十分攪拌しながら、微粒子分散液1をゆっくりと添加した。さらに、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液1を調製した。
メチレンクロライド 99質量部
微粒子分散液1 5質量部
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースエステル、糖エステル化合物、ポリエステルA、TINUVIN928、微粒子添加液1を攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。
〈主ドープ液の組成〉
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースエステル(セルロースアセテートプロピオネート:アセチル基置換度1.5、プロピオニル基0.9、総置換度2.4) 100質量部
糖エステル化合物(1−22) 7.0質量部
ポリエステルA 2.5質量部
TINUVIN928(BASFジャパン社製) 1.5質量部
微粒子添加液1 1質量部
以上を密閉容器に投入し、攪拌しながら溶解してドープ液を調製した。
<実施例1>
(長尺フィルム原反1の作成)
無端ベルト流延装置を用い、上記ドープ液を温度33℃、2000mm幅でステンレススティールベルト支持体上に均一に流延した。ステンレススティールベルトの温度は30℃に制御した。
ステンレススティールベルト支持体上で、流延(キャスト)したフィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、次いで剥離張力110N/mで、ステンレススティールベルト支持体上から剥離した。
剥離したセルロースエステルフィルムを、横延伸テンターにて幅方向に1.1倍延伸した。その時の横延伸テンターオーブンの温度条件としては、予熱ゾーンは160℃、延伸ゾーンは165℃、保持ゾーンは172℃、冷却ゾーンは110℃に調整した。
次いで、フィルム両端部のテンタークリップ痕部をトリミングし、乾燥温度は130℃で、搬送張力は100N/mとして、長尺フィルム原反を多数のロールを用いて乾燥ゾーン内を搬送させながら乾燥を終了させた後、巻取工程において巻回体として巻き取った。
以上のようにして、乾燥膜厚80μmのロール状の長尺フィルム原反1を得た。
横延伸した後の長尺フィルム原反のボウイング量を測定するため、横延伸テンターに入る直前のフィルムに対して、幅手方向に描線するための冶具を設けた。
具体的には、フィルム上部に墨のついた天蚕糸もしくは凧糸をフィルム搬送方向に垂直な方向に、糸が張った状態で渡しておき、任意の位置で天蚕糸もしくは凧糸を弾くことでフィルム幅手方向にわたって直線を描線できるような機構の冶具を設けた。
図6を用いて、本発明におけるボウイング量の定義及び解析方法を説明する。
前記冶具を用いて、テンター入り前の段階で、フィルム面に直線L601を描線する。ボウイングが発生する条件のときには、前記直線L601は、テンター通過後においては直線状態からボウイング状態に応じた湾曲線Cに形状が変化する。
このとき、湾曲線Cの両端を結ぶ直線(破線)L603の長さをa(幅手方向の長さに等しい)[mm]とし、直線L603の中点M604から湾曲線C602まで搬送方向に平行にひいた直線L605の長さをb[mm]としたときのボウイング量Bを下記式(1)にて定義した。
このとき湾曲線Cが搬送方向下流側に向かって凸状に湾曲している状態を、搬送方向に対して凸型のボウイングと表現し、ボウイング量を+として定義した。
逆に、湾曲線Cが搬送方向とは逆側即ち上流側に向かって凸状に湾曲している状態を、搬送方向に対して凹型のボウイングと表現し、ボウイング量を−として定義した。
長尺フィルム原反1上に描線された湾曲線はテンターの搬送方向に対して凹型のボウイングを有しており、そのときのボウイング量は、−8%であった。
(長尺延伸フィルム1の作成)
次いで、長尺フィルム原反1をフィルム巻出工程より巻出し、図2で示されるような斜め延伸テンターを用いて斜め延伸する斜め延伸工程について説明する。
このとき、前工程で巻き取ったフィルム巻回体において、その後尾より巻出す形とした。
すなわち、前工程で付与した、前工程における搬送方向に対して凹型のボウイングは、斜め延伸テンター搬送方向の下流側に凸型のボウイングとなって搬送されることとなる。
ロール状の長尺フィルム原反1を、図2の装置のスライド可能な繰出装置にセットし、角度θi=47°となるようにレールパターンが設定された斜め延伸テンターに供給した。なお、この斜め延伸テンターは、予熱ゾーン、横延伸ゾーン、斜め延伸ゾーン、保持ゾーン、冷却ゾーンを有する。そのとき、斜め延伸テンターの入口部に最も近いガイドロールの主軸と斜め延伸テンターの把持具(クリップつかみ部)との距離を80cmとした。クリップは、搬送方向の長さが2インチのものを、上記ガイドロールは直径10cmのものを使用した。斜め延伸テンター内にて、予熱ゾーンの温度を180℃、横延伸ゾーンの温度を177℃、斜め延伸ゾーンの温度を177℃、保持ゾーンの温度を177℃、冷却ゾーンの温度を110℃とした。またテンター出口における引取張力200N/mとし、横延伸ゾーンにおいて横延伸倍率が1.3倍となるよう延伸し、さらに斜め延伸ゾーンにおいて斜め延伸倍率が1.5倍となるように延伸を行った。なお、この際、配向角θは、45°となるように斜め方向に延伸を行った。延伸後のフィルムは、斜め延伸テンター出口側第一ロールで測定した張力の変動を引取モーター回転数に反映させるフィードバック制御を行って、引取張力の変動が3%未満となるように制御した。その後、フィルム両端をトリミングして、エアーフローロールからなる搬送方向変更装置で搬送方向を変更し、スライド可能な巻取装置で巻き取り、2000mm幅のロール状の長尺延伸フィルム1を得た。
なお、ここで記載した斜め延伸テンターでの延伸倍率とは、テンター入口部で把持したクリップ両端の間隔Woがテンター出口部において間隔Wとなったときの倍率W/Woの比で定義される値となる。
なお、加熱および延伸する際におけるフィルム移動速度は5m/分とした。
また、フィルムの幅方向に渡って温度制御をするための加熱装置を使用して延伸を行った。加熱装置は延伸後のフィルム幅方向のフィルムの厚さが、延伸前の幅方向フィルム厚さ分布と同程度になるように温度制御を行った。
長尺延伸フィルム1上に描線された湾曲線は搬送方向の上流側に凸型のボウイングを有しており、そのときのボウイング量は、−0.2%であった。
その時の長尺延伸フィルム1の総膜厚は60μmだった。
その他、光学特性を表1に示す。
<実施例2>
(長尺フィルム原反2の作成)
横延伸テンターオーブンの温度条件のうち、保持ゾーンを158℃に調整した他は、長尺フィルム原反1の作成方法と同様にして、長尺フィルム原反2を作成した。
長尺フィルム原反2上に描線された湾曲線はテンターの搬送方向に下流側に凸型のボウイングを有しており、そのときのボウイング量は、+8%であった。
その時の長尺フィルム原反2の膜厚は80μmだった。
(長尺延伸フィルム2の作成)
前記作成した長尺フィルム原反2を、前工程にて巻取ることをせず、直接連続的に斜め延伸テンター内に導入した他は、長尺延伸フィルム1の作成方法と同様にして、長尺延伸フィルム2を得た。
長尺延伸フィルム2上に描線された湾曲線はテンターの搬送方向に対して凹型のボウイングを有しており、そのときのボウイング量は、−0.2%であった。
その時の長尺延伸フィルム2の膜厚は60μmだった。
その他、光学特性を表1に示す。
<比較例1>
(長尺フィルム原反3の作成)
横延伸テンターオーブンの温度条件のうち、保持ゾーンを164℃に調整した他は、長尺フィルム原反1の作成方法と同様にして、長尺フィルム原反3を作成した。
このとき、長尺フィルム原反3の3ボウイング量は、0%であった。
(長尺延伸フィルム3の作成)
前記作成した長尺フィルム原反3を斜め延伸テンター原反として用いる他は、長尺延伸フィルム1の作成方法と同様にして、長尺延伸フィルム3を得た。
その時の長尺フィルム原反3の膜厚は80μmだった。
このとき、長尺延伸フィルム3上に描線された湾曲線はテンターの搬送方向に対して凹型のボウイングを有しており、そのときのボウイング量は、−7.5%だった。
その時の長尺延伸フィルム3の膜厚は60μmだった。
その他、光学特性を表1に示す。
<比較例2>
(長尺フィルム原反4の作成)
長尺フィルム原反3の作成と同様にして長尺フィルム原反4を作成した。
このとき、長尺フィルム原反4のボウイング量は、0%であった。
(長尺延伸フィルム4の作成)
前記作成した長尺フィルム原反4を、前工程にて巻取ることをせず、直接連続的に斜め延伸テンター内に導入した他は、長尺延伸フィルム2の作成方法と同様にして、長尺延伸フィルム4を得た。
その時の長尺フィルム原反4の膜厚は80μmだった。
このとき、長尺延伸フィルム4上に描線された湾曲線は搬送方向の上流側に凸型のボウイングを有しており、そのときのボウイング量は、−7.5%だった。
その時の長尺延伸フィルム4の膜厚は60μmだった。
その他、光学特性を表1に示す。
次いで、以下の実施例では、斜め延伸テンターのレールパターンを、予熱ゾーン、第1の横延伸ゾーン、第1の保持ゾーン、第2の横延伸ゾーン、斜め延伸ゾーン、第2の横延伸ゾーン、第2の保持ゾーン、第3の横延伸ゾーン及び冷却ゾーンを有するように変更した。
<実施例3>
(長尺フィルム原反5の作成)
長尺フィルム原反1の作成方法と同様にして、長尺フィルム原反5を作成した。長尺フィルム原反5上に描線された湾曲線はテンターの搬送方向に対して凹型のボウイングを有しており、そのときのボウイング量は、−8%であった。
(長尺延伸フィルム5の作成)
斜め延伸テンターオーブンの温度条件として、予熱ゾーンは180℃、第1の横延伸ゾーンは177℃、第1の保持ゾーンは173℃、第2の横延伸ゾーンは177℃、斜め延伸ゾーン温度は177℃、第2の保持ゾーンは177℃、第3の横延伸ゾーンは173℃、冷却ゾーンは110℃とした。また、テンター出口における引取張力200N/mとし、横延伸ゾーン1における横延伸倍率が1.2倍となるよう延伸し、さらに横延伸ゾーン2における延伸倍率が1.1倍となるように延伸し、斜め延伸ゾーンにおける斜め延伸倍率が1.5倍となるように延伸し、さらに横延伸3ゾーンにおける延伸倍率が1.02倍延伸となるよう延伸を行った。他は、長尺延伸フィルム1の作成方法と同様にして、長尺延伸フィルム5を得た。
その時の長尺フィルム原反5の膜厚は80μmだった。
長尺延伸フィルム5上に描線された湾曲線はテンターの搬送方向に対して凸型のボウイングを有しており、そのときのボウイング量は、+0.2%であった。
その時の長尺延伸フィルム5の膜厚は60μmだった。
その他、光学特性を表1に示す。
<実施例4>
(長尺フィルム原反6の作成)
斜め延伸テンターのレールパターン及び温度条件を実施例3と同様に変更した以外は、長尺フィルム原反1の作成方法と同様にして、長尺フィルム原反6を作成した。長尺フィルム原反6上に描線された湾曲線はテンターの搬送方向の上流側に凸型のボウイングを有しており、そのときのボウイング量は、−8%であった。
その時の長尺フィルム原反6の膜厚は80μmだった。
(長尺延伸フィルム6の作成)
前記作成した長尺フィルム原反6を、前工程にて巻取ることをせず、直接連続的に斜め延伸テンター内に導入した他は、長尺延伸フィルム5の作成方法と同様にして、長尺延伸フィルム6を得た。
長尺延伸フィルム6上に描線された湾曲線はテンターの搬送方向に対して凸型のボウイングを有しており、そのときのボウイング量は、+0.2%であった。
その時の長尺延伸フィルム6の膜厚は60μmだった。
その他、光学特性を表1に示す。
<評価条件>
前記作成した長尺延伸フィルム1〜6の配向角θおよび面内方向リターデーションRo、厚み方向リターデーションRtを位相差測定装置(王子計測社製、KOBRA−WXK)を用いて測定した。
評価方法としては、フィルム幅方向にフィルムの50mmの間隔で測定を行い、全データの平均をとった。また、全測定値の最大値−最小値の値をバラツキとして評価した。
なお、フィルム厚み方向リターデーションRtは下記式を用いて算出した。
式(i):Ro=(nx−ny)×d
式(ii):Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
式中、nx、nyは、23℃・55%RH、590nmにおける屈折率nx(フィルムの面内の最大の屈折率、遅相軸方向の屈折率ともいう。)、ny(フィルム面内で遅相軸に直交する方向の屈折率)、nz(フィルムの膜厚方向の屈折率)であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。
<円偏光板1〜6の作製>
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸(温度110℃、延伸倍率5倍)した。
これをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。これを水洗、乾燥し偏光子(長尺偏光フィルム)を得た。
次いで、下記工程1〜5に従って偏光子と前記長尺延伸フィルム1〜6と、裏面側には市販の偏光板保護フィルムであるKC4UY(膜厚40μmのTACフィルム)を長手方向を合わせるようにロール・トゥ・ロールで貼り合わせて円偏光板1〜6を作製した。ここでは長尺延伸フィルム1〜6が偏光子の片側の偏光板保護フィルムの機能を兼ねるものとして利用した。
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、次いで、水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側を鹸化した長尺延伸フィルム1〜6を得た。
工程2:前記偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒間浸漬した。
工程3:工程2で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理した長尺延伸フィルム1〜6の上にのせて配置した。
工程4:工程3で積層した長尺延伸フィルム1〜6と偏光子と偏光板保護フィルムを圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
工程5:80℃の乾燥機中に工程4で作製した偏光子と長尺延伸フィルム1〜6と偏光板保護フィルムとを貼り合わせた試料を2分間乾燥し、それぞれ、長尺延伸フィルム1〜6に対応する円偏光板1〜6を作製した。
<有機EL表示装置の作製>
視野角測定を行う有機EL表示パネルを以下のようにして作製し、有機EL表示装置としての特性を評価した。
<評価>
前記作成した円偏光板1〜6について、幅手中央部および端部より50mmの箇所を15mm角のサンプル片として切出した。次いで、有機ELパネルを搭載する携帯電話GALAXY S((株)Samsung電子製)についていた表面フィルムを剥がし、前記切り出した円偏光板1〜6の中央部および端部のサンプル片を貼り付けた。
<外光反射率の測定>
この有機EL表示装置の中央部および端部のサンプル片を貼りつけた箇所について、分光測色計(CM−2500d)を用いて480nmの波長における外光反射率を各々測定し、中央部と端部にあたる箇所で外光反射率の比率を算出した。
<色味変化の評価尺度>
さらに、上記の有機EL表示装置の中央部及び端部のサンプル片を貼り付けた箇所の色味の違いを下記の基準で目視評価した。
◎:貼り付けたサンプル片の箇所ごとの色味に違いは見られない
○:貼り付けたサンプル片の箇所ごとに色味にわずかな違いが見られるが問題ないレベル
△:貼り付けたサンプル片の箇所ごとに色味に違いがあるが使用可能なレベル
×:貼り付けたサンプル片の箇所ごとに色味違いが大きく製品として使用できないレベル
以上の評価結果を表2に示す。
上表から、本発明に係る製造方法により得られた長尺延伸フィルムは、幅手方向の配光角が、非常に均一であり、それを用いた円偏光板および有機EL表示装置は、幅手に均一な外光反射特性を持ち、色味変化が抑制された優れた表示装置を得ることができることが分かる。