図1を説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るワイヤ放電加工装置1を前方から見た外観図である。尚、図1に示す各機構の構成は一例であり、目的や用途に応じて様々な構成例があることは言うまでもない。
図1は本発明におけるワイヤ放電加工システム(半導体基板または太陽電池基板の製造システム)の構成を示す。ワイヤ放電加工システムは、ワイヤ放電加工装置1、電源装置2、加工液供給装置50から構成されている。ワイヤ放電加工システムは、並設された複数本のワイヤの間隔で放電により被加工物を薄片にスライスすることができる。
ワイヤ放電加工装置1には、サーボモータにより駆動されるワーク送り装置3がワイヤ103の上部に設けられ上下方向にワーク105を移動できる。本発明ではワーク105が下(重力)方向に送られ、ワーク105とワイヤ103の間で放電加工がおこなわれる。なお、本明細書において、上下とは重力方向における上方向と下方向にそれぞれ対応し、左右とはワイヤ放電加工装置を正面から見た場合の左及び右にそれぞれ対応する。
電源装置2には、サーボモータを制御する放電サーボ制御回路が放電の状態に応じて効率よく放電を発生させるために放電ギャップを一定の隙間に保つように制御し、またワーク位置決めを行い、放電加工を進行させる。
加工電源回路(図7)は、放電加工のための放電パルスをワイヤ103へ供給するとともに、放電ギャップで発生する短絡などの状態に適応する制御を行いまた放電サーボ制御回路への放電ギャップ信号を供給する。
加工液供給装置50は、放電加工部の冷却、加工チップ(屑)の除去に必要な加工液をポンプによりワーク105とワイヤ103へ送液すると共に、加工液中の加工チップの除去、イオン交換による電導度(1μS〜250μS)の管理、液温(20℃付近)の管理を行う。おもに水が使用されるが、放電加工油を用いることもできる。
メインローラ8,9には、ワークを所望する厚さで加工出来るようにあらかじめ決められたピッチ、数で溝が形成されており、ワイヤ供給ボビンからの張力制御されたワイヤが2つのメインローラに必要回数巻きつけられ、巻き取りボビンへ送られる。ワイヤ速度は100m/minから900m/min程度が用いられる。2つのメインローラが同じ方向でかつ同じ速度で連動して回転することにより、ワイヤ繰出し部から送られた1本のワイヤ103がメインローラ(2つ)の外周を周回し、並設されている複数本のワイヤ103を同一方向に走行させることができる(すなわち走行手段となる)。
ワイヤ103は図8に示すように、1本の繋がったワイヤであり、図示しないボビンから繰り出され、メインローラの外周面のガイド溝(図示しない)に嵌め込まれながら、当該メインローラの外側に多数回(最大で2000回程度)螺旋状に巻回された後、図示しないボビンに巻き取られる。
ワイヤ放電加工装置1は、電源ユニット2と電線513を介して接続されており、電源ユニット2から供給される電力により作動する。
ワイヤ放電加工装置1は、図1に示すように、ワイヤ放電加工装置1の土台として機能するブロック15と、ブロック15の上部の中に設置されている、ワーク送り装置3と、接着部4と、ワーク105と、加工液槽6と、メインローラ8と、ワイヤ103と、メインローラ9と、給電子ユニット10と、給電子104と、を備えている。
図2を説明する。図2は、図1に示す点線16枠内の拡大図である。
メインローラ8,9にはワイヤ103が複数回巻きつけられており、メインローラに刻まれた溝に従い、所定ピッチでワイヤ103が整列している。メインローラは中心に金属を使用し、外側は樹脂で覆う構造である。
2つのメインローラの間であって、メインローラ8,9の内部のほぼ中央部の上の位置には、給電子ユニット10に取り付けられた給電子104が配置され、給電子104は、上向きに露出する表面をワイヤに接触させることで走行する複数本のワイヤ103に加工電圧を一括して給電する。
図3に示したように、給電子104はワイヤ103の10本と接触することで、加工電源部からの放電パルス503(図6)を10本のワイヤに供給している。給電子104が配置される位置は、ワーク105の両端からのワイヤの長さがほぼ等しくなる(511L1=511L2)位置に設けてある。給電子104には、機械的摩耗に強く、導電性があることが要求され超硬合金が使用されている。
2つのメインローラの間であって、メインローラ8,9の内部のほぼ中央部の下の位置には、ワーク送り装置3に取付けたワーク105を配置し、ワーク送り装置3がワーク105を下方向に送り出すことでスライス加工が進行する。
メインローラの下の位置に加工液槽6を設け、ワイヤ103およびワーク105を浸漬し、放電加工部の冷却、加工チップの除去を行う。加工液槽6は加工液を貯留し、送り出されたワークを浸漬するためのものである。
図3では、ワイヤ103の本数を10本に対して接触する給電子104を1個で示しているが、給電子あたりのワイヤ本数や給電子の総数を必要数に応じて変更できることは言うまでもない。
ブロック15は、ワーク送り装置3と接合されている。また、ワーク送り部3は、ワーク105と接着部4により接着(接合)されている。
本実施例では、加工材料(ワーク105)として、シリコンインゴットを例に説明する。
接着部4は、ワーク送り装置3と、ワーク105とを接着(接合)するためのものであれば何でもよく、例えば、電導性の接着剤が用いられる。
ワーク送り部3は、接着部4により接着(接合)されているワーク105を上下方向に移動する機構を備えた装置であり、ワーク105を保持した状態でワーク送り部3が下方向(重力方向)に移動することにより、ワーク105をワイヤ103の方向に近づけることが可能となる。ワーク送り部3は給電子104よりも低い位置に配置されている。保持するワーク105が加工液に浸漬されるように、ワーク送り部3は、ワーク105を、メインローラ8,9を周回するワイヤに接近する方向に送り出している。
加工液槽6は、加工液を貯留するための容器であり複数のメインローラ8,9を周回するワイヤの外側に配置されている。加工液は、例えば、抵抗値が高い脱イオン水である。ワイヤ103と、ワーク105との間に、加工液が設けられることにより、ワイヤ103と、ワーク105との間で放電が起き、ワーク105を削ることができる。
メインローラ8、9には、ワイヤ103を巻き付けるための溝が複数列形成されており、その溝にワイヤ103が巻き付けられている。そして、メインローラ8、9が右又は左回転することにより、ワイヤ103が走行する。また、図2に示すように、ワイヤ103は、メインローラ8、9に巻き付けられ、メインローラ8、9の上側、及び下側にワイヤ列を形成している。
また、ワイヤ103は、伝導体であり、電源ユニット2から電圧が供給された給電子ユニット10の給電子104と、ワイヤ103とが接触することにより、当該供給された電圧が給電子104からワイヤ103に印加される。すなわち、給電子104がワイヤ103に電圧を印加する。
そして、ワイヤ103と、ワーク105との間で放電が起きてワーク105を削り(放電加工)、薄板状のシリコン(シリコンウエハ)を作成することができる。
図3を説明する。図3は、給電子104の拡大図である。
給電子104(1個)はワイヤ103(10本)と接触している。ワイヤ103同士の間隔(ワイヤのピッチ)は0.3mm程度である。
図4を説明する。図4は、従来方式である、ワイヤ毎に個別に加工電圧を給電する個別給電方式での電気回路400とワイヤ放電加工装置4000を示す。
加工電源部401は加工電圧Vmを供給する。ここでVmは放電加工に必要な電流を供給するために設定される加工電圧である。Vmは60V〜150Vで任意の加工電圧に設定することができる。
加工電源部402は誘発電圧Vsを供給する。ここでVsは放電を誘発するために設定される誘発電圧である。加工電源部402は、さらにワイヤとワークとの間の極間での電圧(放電電流)の状態をモニターする目的にも使用される。Vsは60V〜300Vで任意の誘発電圧に設定することができる。
トランジスタ(Tr2)403は、加工電圧VmのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。トランジスタ(Tr1)404は、誘発電圧VsのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
電流制限抵抗体を用いて固定の抵抗値(Rm)405を設定することで、1本毎のワイヤ電流(Iw)や極間での放電電流(Ig)を制限する。Rmは1Ω〜100Ωで任意の抵抗値に設定することができる。つまりVm=60V(ボルト)、Vg=30V、Rm=10Ωとした場合で、Iw(Ig)=(60V−30V)/10Ω=3A(アンペア)となる。
なお、上記の計算式では、加工電源(Vm)から給電点(給電子)までの電圧降下を30Vとしたが、ワイヤ抵抗(Rw)による給電点から放電点までの電圧降下は考慮していない。
つまり従来方式である個別給電方式の場合には加工電流Iwの値は、電流制限抵抗体の抵抗Rmにより決定されるので、1本毎に所望のワイヤ電流や放電電流(Ig)を得るためには、ワイヤ抵抗RwがRm>Rwの関係になるように設定される。
電流制限抵抗体を用いて固定の抵抗値(Rs)406を設定することで放電を誘発する誘発電流を制限する。Rsは1Ω〜100Ωで任意の抵抗値に設定することができる。
放電電圧(Vg)407は、放電中にワイヤ103とワーク105との間(極間)に印加される極間での放電電圧である。放電電流(Ig)408は、放電中にワイヤ103とワーク105との間に流れる極間での放電電流である。加工電流(Iw)410はワイヤ1本毎に個別に供給される。
図5を説明する。図5は、従来方式である、ワイヤ毎に個別に加工電圧を給電する個別給電方式で電気回路400が複数本のワイヤに給電していることを示す。
ワイヤ抵抗(Rw)409はワイヤ1本毎の抵抗を示す。個別の給電子204は、ワーク105の両端の近傍に設けた、2ヶ所の個別給電子から加工電圧のパルスを印加し、放電加工を行う。個別の給電子204は、巻回するワイヤ103の本数と同数の電源回路400に接続されている。
図6を説明する。図6は、本発明の極間での放電電圧(Vgn)及び極間での放電電流(Ign)の変化とTr1、Tr2のON/OFF動作(タイミングチャート)を示す。グラフの横軸は時間を示す。
まずトランジスタTr1 504をONし、誘発電圧を印加する。このときワイヤ103とワーク105間(極間)は絶縁されているため、ほとんど極間での放電電流は流れない。その後、極間での放電電流が流れ始めて放電を開始するとVgnが電圧降下することで、放電開始が検出されてTr2をONにし、大きな極間での放電電流を得る。所定時間経過後にTr2をOFFする。Tr2のOFFから所定時間経過した後に再び一連の動作を繰り返す。
図7を説明する。図7は本発明における複数本のワイヤ(10本)に一括で加工電圧を給電する一括給電方式での電気回路2とワイヤ放電加工装置1との関係を示す。加工電流であるワイヤ電流と極間での放電電流が流れている状態が示されている。図7は、図8に示す電気回路2との等価回路を示している。
仮に図4に示す従来方式の電気回路400を、複数本のワイヤ(10本)に一括で加工電圧を給電する一括給電方式での電気回路にそのまま導入したとすれば、加工電源部から給電点の間にて加工電流を制御するために、複数本のワイヤ(10本)に供給されるワイヤ電流の合計(10倍)の加工電流が供給されるように、Rmをメインローラ8、9を巻回する周回数(10回)で割った抵抗値である電流制限抵抗体を加工電源部から給電点との間に設置すればよい。まず、このようにRm/10に固定された抵抗値を持つ電流制限抵抗体を加工電源部から給電子との間に設置した場合を説明する。
10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こった場合には、10本のワイヤで放電電流が均等に分散され、固定された抵抗値(Rm/10)に応じた放電電流が各ワイヤとワークとの間に供給されるので、過剰な放電電流の供給は問題とならない。
しかしながら、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こらなかった場合には、固定された抵抗値(Rm/10)に応じたワイヤ電流が、放電状態になったワイヤとワークとの間に集中して供給されるので、過剰なワイヤ電流の供給が問題となる。つまり、10本の中で1本のみが放電状態になった場合には、本来1本のワイヤとワークに供給されるべきワイヤ電流の10倍のワイヤ電流が、放電状態になっているワイヤとワークに供給され、ワイヤが断線してしまう。
配線513はインピーダンス(抵抗)505を有する、加工電源部(Vmn)マイナス側に接続する上り用のケーブルである。配線513は、加工電源部(Vmn)から給電子104に加工電圧を供給する。配線514はインピーダンス(抵抗)520を有する、加工電源部(Vmn)プラス側に接続する下り用のケーブルである。
本発明の配線513の抵抗値Rmn505は従来方式の加工電流制限抵抗体のように抵抗値を所定の値に固定するものではなく、本実施形態におけるワイヤ放電加工装置は、10本の中で1本のみが放電状態になった場合であっても、放電状態となった本数に応じて抵抗値が変動するように制御できる機構を備えている。
さらに、本発明の抵抗値Rmn505がワイヤ抵抗Rwn509と比べて十分に小さな抵抗値になる範囲で用いることで、加工電流を制限するにあたってワイヤ抵抗Rwn509の方が支配的になり、抵抗値Rmn505の影響はほぼ無視することができる。
つまり、加工電源部501から給電子104までの間に流れ、極間ではワーク105に放電する放電電流となる加工電流の上限を制限する電流制限抵抗体を備えなくてもよい。または、Rmnをメインローラ8、9を巻回する周回数(10回)で単純に割った抵抗値よりもさらに小さい抵抗値にすればよい。
つまり各ワイヤの抵抗Rwn509であるインピーダンスを利用することで、各ワイヤのワイヤ電流Iwnが安定して供給されるので、ワイヤ電流の集中が起こらなくすることができる。抵抗(Rwn)509はワイヤ1本毎のワイヤによる抵抗である。
ここで給電子104から放電部までのワイヤ抵抗値とは、走行するワイヤ(1本)の給電子104と接触してから放電部までのワイヤの長さよる抵抗である。例えば、ワイヤ10本(メインローラ8、9を10周巻回する)に一括で給電する場合の各ワイヤ抵抗をそれぞれRw1、Rw2、…、Rw10とする。
従来方式のようにRmを1本毎のワイヤ電流(Iw)や放電電流(Ig)を制限する抵抗とするのではなく、Rwnを1本毎のワイヤ電流(Iw)や放電電流(Ig)を制限する抵抗とすることで、1本毎のワイヤ電流(Iwn)や放電電流(Ign)を制限することができる。つまり給電点(給電子)と放電点(放電部)との距離(長さL)を変えることで任意の抵抗値に設定することができる。つまりVmn=60V、Vgn=30V、Rwn=10Ωとした場合には、Iwn(Ign)=(60V−30V)/10Ω=3Aとなる。
なお、上記の計算式では、ワイヤ抵抗(Rwn)による給電点から放電点までの電圧降下を30Vとしたが、加工電源部から給電点までの電圧降下を起こす抵抗(Rmn)による給電点から放電点までの電圧降下は考慮していない。
つまり本発明である一括給電方式の場合にはIwnは、Rwnにより決定されるので、1本毎に所望のワイヤ電流(Iwn)や放電電流(Ign)を得るためには、加工電源部から給電点までの電圧降下を起こす抵抗RmnがRmn<Rwnの関係になるように設定される。
また各ワイヤ個別のワイヤ抵抗Rwnは(1)ワイヤの材質による電気抵抗値ρ、(2)ワイヤの断面積B、(3)ワイヤの長さL、の3つのパラメータからRwn=(ρ×B)/Lの関係式によりで定めることができる。
加工電源部501は加工電圧Vmnを供給する。ここでVmnは放電加工に必要な加工電流を供給するために設定される加工電圧である。Vmnは任意の加工電圧に設定することができる。さらに従来方式よりも加工電流の供給量が大きくなるので、加工電源部501は加工電源部401と比べると大きな電力(加工電圧と加工電流の積)を供給する。加工電源部501は給電子104に加工電圧(Vmn)を供給する。
加工電源部502は誘導電圧Vsnを供給する。ここでVsnは放電を誘発するために設定される誘発電圧である。加工電源部502は、さらにワイヤとワークとの間にて放電電圧(放電電流)の状態をモニターし、ワーク送り装置の制御に利用する目的にも使用される。Vsnは任意の誘発電圧に設定することができる。さらに従来方式よりも誘発電流の供給量が大きくなるので、加工電源部502は加工電源部402と比べると大きな電力を供給する。加工電源部502は給電子104に誘発電圧Vsnを供給する。
トランジスタ(Tr2)503は、加工電圧VmnのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。トランジスタ(Tr1)504は、誘発電圧VsnのON(導通)状態とOFF(非導通)状態をスイッチングで切り替える。
極間での放電電圧(Vgn)507は、放電中にワイヤ103とワーク105との間に印加される電圧である。例えば、ワイヤ10本に一括で給電する場合の各放電電圧をそれぞれVg1、Vg2、…、Vg10とする。
放電によりワイヤ103とワーク105との間に放電極間電圧が印加される部分が放電部である。放電部において、走行する複数本のワイヤと給電子との接触により走行する複数本のワイヤに一括で給電された加工電圧をワークに放電する。
極間での放電電流(Ign)508は、放電中にワイヤ103とワーク105との間に流れる電流である。例えば、ワイヤ10本に一括で給電する場合の各放電電流をそれぞれIg1、Ig2、…、Ig10とする。
放電によりワイヤ103とワーク105との間に放電電流が流れる部分が放電部である。放電部において、走行する複数本のワイヤと給電子との接触により走行する複数本のワイヤに一括で給電された加工電圧をワークに放電する。
ワイヤ電流(Iwn)510はワイヤ1本毎に個別に供給される。例えば、ワイヤ10本に一括で給電する場合の各ワイヤ電流をそれぞれIw1、Iw2、…、Iw10とする。
給電点から放電点までの距離L 511は給電点(給電子)から放電点(ワーク)までのワイヤの長さである。
図8を説明する。図8は本発明における複数本のワイヤ(10本)に一括で加工電圧電流を給電する一括給電方式の電気回路2により複数本のワイヤに一括給電していることを示す。なお、図8に示すワイヤ放電加工装置1の構成の配置は図1及び2に示すワイヤ放電加工装置1の構成の配置と異なっているが、それぞれ電気的な構成は同様であることに留意されたい。
給電子104は走行する複数本のワイヤに一括で接触する。ワーク105と対向する位置に設けた、1ヶ所の給電子104から放電パルスを印加し、放電加工を行う。メインローラを巻回するワイヤ103の本数(10本)に対して1つの電源回路2が接続されている。以下、図8の配置を参照して、ワイヤに流れる加工電流(各ワイヤ電流の合計)を説明する。
図8に示すように、給電点(給電子104とワイヤ103が接触する位置)から放電点(ワイヤ103とワーク105との間)に流れるワイヤ電流は左右のメインローラの2方向に流れるので、各方向に対するワイヤ抵抗が存在している。長さ511L1は電流が左のメインローラ方向に流れた場合の給電点と放電点との長さ(距離)であり、該長さがL1の場合に定まるワイヤ抵抗をRw1aとする。長さ511L2は電流が右のメインローラ方向に流れた場合の、放電点と給電点との長さ(距離)であり、該長さがL2の場合に定まるワイヤ抵抗をRw1bとする。
ワイヤ103がメインローラ8、9を1周巻回する長さを2mとする。給電子104とワーク105とは、1周巻回する長さのほぼ半分の距離に配置されているので、放電点と給電点との距離(ワイヤの長さL)を1mである。ここで、給電子から放電部までを走行するワイヤの距離は0.5mよりも長ければよい。
ワイヤ103の材質の主成分は鉄であり、ワイヤの直径は0.12mm(断面積0.06×0.06×πmm2)である。ワイヤの抵抗値Rw1a、Rw1bはそれぞれ、ワイヤの長さが同じ長さ(L1=L2=1m)であるので各々のワイヤ抵抗値を同一の20Ω程度とすれば、Rw1aとRw1bによる1本(メインローラ8、9を1周巻回する)の合成のワイヤ抵抗値は10Ω程度となる。
また、図8のようにL1及びL2の長さによるワイヤ抵抗値を同じ抵抗値にするために、L1とL2の長さが同じになるように給電子104を配置することが好ましいが、L1とL2の長さの違いが10%程度(例えばL1が1mでL2が1.1m)異なるように給電子104を配置しても特に問題はない。放電電圧Vg1〜Vg10がほぼ等しい場合、VmnがそれぞれのRw1〜Rw10に印加されているので、Iw1〜Iw10は全て同じワイヤ電流である。ここでワイヤ抵抗による電圧降下値(Rw1×Iw1)と放電電圧(Vgn)からVmnを求める。給電子104から放電部までの電圧降下は走行するワイヤの抵抗による電圧降下である。
Rw1=10Ω(給電子104から放電部までの抵抗値)。Iw1=3A、Vgn=30Vとすれば、Vmnは以下のようになる。Vmn=10(Ω)×3(A)+30V=60V。よって給電子から放電部までの電圧降下は10Vよりも大きく、給電子から放電部までの抵抗値は1Ωよりも大きければよい。尚、Rwn=(ρ×B)/Lの関係式により、ワイヤのパラメータによりワイヤ抵抗による電圧降下値を設定してもよい。
よって、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こった場合のRmnを計算すると、全てのワイヤで放電状態となり10本のワイヤにIw1=3Aが流れている場合は、加工電源部から給電点との間では全体で10本×3A=30Aの加工電流が必要となり、この加工電源部から給電点との間の電圧降下をVmnの100分の1(0.6V)とすれば、この場合のRmnは以下のようになる。加工電源部から給電子104までの電圧降下は1Vよりも小さく、加工電源部から給電子までの電圧降下は、給電子から放電部までの電圧降下よりも小さければよい。Rmn(加工電源部501から給電子104までの抵抗値)=0.6V/30A=0.02Ω。よって加工電源部から給電子までの抵抗値は0.1Ωより小さく、加工電源部から給電子までの抵抗値は、給電子から放電部までの抵抗値よりも小さければよい。また、加工電源部から給電子104までの電圧降下と給電子104から放電部までの電圧降下との比は10倍以上である。さらに、加工電源部から給電子104までの抵抗値と給電子から放電部までの抵抗値との比が10倍以上である。ここで、Rmnを考慮して10本の加工電流をもとめると(60V−30V)/((10Ω/10本)+0.02Ω)=29.41Aとなり、ワイヤ1本当たりの加工電流は2.941Aとなる。
また、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こらなかった場合に1本のワイヤ電流が流れたとしても、ワイヤ1本当たりの加工電流は(60V−30V)/(10Ω+0.02Ω)=2.994Aとなり、10本全てのワイヤとワークとの間で放電状態が均一にかつ同時に起こった場合と比べても大きな差は生じない。
また更なる効果として、複数本であるN本(メインローラ8、9をN周巻回する)のワイヤに1箇所(一括)で給電する場合には、1本のワイヤ毎に個別に給電したときの加工速度に比べて加工速度が1/Nとなるが,本発明によれば、N本のワイヤへ1箇所(一括)で給電した場合においても1本のワイヤへ個別に給電したときと同等の加工速度を維持することができる。
図9を説明する。図9は図5と同じように個別給電方式のワイヤ放電加工システムの1例を示す。
4本のメインローラに巻きつけられたワイヤに対して、加工するワーク105に近い位置に一対の個別給電子を配置して給電を行う。巻回するワイヤ1周回毎に2個(一対)の個別給電子を設けている。また一対の個別給電子の上流には一対の個別給電子に流れる加工電流の上限を制限するための内部抵抗Rm405がある。なお、図9においては、説明の簡略のため、内部抵抗Rm405に関する部分以外の電気回路は省略されていることに留意されたい。
この内部抵抗Rm405は並設されて走行するワイヤ1本毎の加工電流値の上限を制限するために、電気配線の中に設けられている。この内部抵抗Rm405の抵抗値は、ワイヤの長さによる抵抗値Rwよりも十分大きい(Rm>>Rw)。この理由は内部抵抗Rm405がワイヤ1周回毎に流れる加工電流値をワイヤ1周回毎にそれぞれ個別に制御するためである。
ワークの放電点から個別給電子204aまでの間のワイヤの長さを411L1とする。このワイヤの長さ411L1がワイヤによる抵抗値となりRw1aに相当する。ワークの放電点から個別給電子204bまでの間のワイヤの長さを411L2とする。このワイヤの長さ411L2がワイヤによる抵抗値となりRw1bに相当する。ワークの放電点を通らない側の、個別給電子204bから個別給電子204cまでの間のワイヤの長さを412Lとする。このワイヤの長さ412Lがワイヤによる抵抗値となりRw12に相当する。
図9のように、放電部側を経由せずにワイヤが一対の給電子の間を走行する412L(第2の距離)が、411L1(第1の距離)よりも長い。これは412Lの長さによる抵抗値を、411L1の長さによる抵抗値よりも大きくしないと、ワイヤの抵抗値Rw12がある方向に加工電流が流れてしまうからである。一例を挙げると411L1または411L2(第1の距離)を1mにして412L(第2の距離)を4mにした場合に412Lの長さによる抵抗値(インピーダンス)が、411L1または411L2の長さによる抵抗値(インピーダンス)よりも大きくなる。
図10を説明する。図10は、図9に示した巻回しているワイヤを直線に仮想的に展開して、ワイヤ103、給電子204、ワークの放電点の配置関係をそれぞれ説明するための図である。図9から加工電源部401を簡略化した等価回路である。
4本のメインローラに巻きつけられたワイヤを仮想的に展開すると一本のワイヤ103に、ワークの放電点W1〜W3に対して個別給電子204a〜給電子個別204fが配置されていることになる。給電子204aと204b、給電子204cと204d、並びに給電子204eと204fのそれぞれの間にワークの放電点(W1〜W3)があり、それぞれの放電点の位置で放電が発生する。
加工電源部401と、ワークの放電点(W1〜W3)から流れる加工電流(Iw1〜Iw3)を個別に制限するために、設置されている配線毎の内部抵抗RmをそれぞれRm1、Rm2、Rm3とする。なお、図10では図4に示した加工電流をパルス化するスイッチング素子(トランジスタ)403、放電電圧Vgを省略している。
ワークの放電点W1から個別給電子204aまでの間のワイヤの長さによる抵抗値をRw1aとする。ワークの放電点W1から個別給電子204bまでの間のワイヤの長さによる抵抗値をRw1bとする。ワークの放電点W2から個別給電子204cまでの間のワイヤの長さによる抵抗値をRw2aとする。ワークの放電点W2から個別給電子204dまでの間のワイヤの長さによる抵抗値をRw2bとする。ワークの放電点W3から個別給電子204eまでの間のワイヤの長さによる抵抗値をRw3aとする。ワークの放電点W3から個別給電子204fまでの間のワイヤの長さによる抵抗値をRw3bとする。
ここで、W1から両側の給電子までは並列回路になるので、ワイヤの抵抗値Rw1aとRw1bを、便宜上その並列回路による合成の、ワイヤの長さ(411L)によるワイヤの抵抗値Rw1とする。同様にW2とW3からの両側の給電子までの並列回路による合成のワイヤの抵抗値をそれぞれRw2、Rw3とする。
さらに個別給電子204bから、放電点側ではない方を経由した個別給電子204cまでの間のワイヤの長さ(412L)によるワイヤの抵抗値をRw12とする。個別給電子204dから、放電点側ではない方を経由した個別給電子204eまでのワイヤの長さ(412L)によるワイヤの抵抗値をRw23とする。
図11を説明する。図11は放電点W1〜W3で同時に放電が発生し、各ワイヤには電流Iw1〜Iw3がそれぞれ流れている状態の個別給電方式のワイヤ放電加工システムを示す、図9から加工電源部401を簡略化した等価回路である。
この等価回路ではワイヤ1周回の各放電点から流れる加工電流Iw1、Iw2、Iw3は、それぞれ下記(式1)のように表すことができる。
・Iw1=Vm/(Rw1+Rm1)
・Iw2=Vm/(Rw2+Rm2)
・Iw3=Vm/(Rw3+Rm3)
ここで、放電点と近い位置に給電子204を配置した場合には、給電子204から放電点Wまでのワイヤの長さは短くなり、各ワイヤによる抵抗値Rw1〜Rw3は、各配線の内部抵抗Rm1〜Rm3と比べても十分小さくなるので、式1において、Rw1、Rw2、Rw3は、Rm1、Rm2、Rm3と比べて無視することができる。ここで、給電子204aまたは204bの電位をV1とし、給電子204cまたは204dの電位をV2とし、給電子204eまたは204fの電位をV3とする。そうすると、各給電子の位置の電位V1、V2、V3およびIw1、Iw2、Iw3は、式1において、以下のように式2に簡略化することができる。
・V1=Iw1*Rm1 Iw1=Vm/Rm1
・V2=Iw2*Rm2 Iw2=Vm/Rm2
・V3=Iw3*Rm3 Iw3=Vm/Rm3
そのため、Rm1、Rm2、Rm3をすべてほぼ同じ抵抗値にして、さらにIw1、Iw2、Iw3にはすべてほぼ同じ加工電流が流れているとすると、簡略化した式2からV1、V2、V3の電位はすべてほぼ等しいことが分かる。従って、この場合は同じ電位であるV1、V2を結ぶRw12には加工電流は流れず、同じ電位であるV2、V3を結ぶRw23にも加工電流は流れない。
図12を説明する。図12は放電点W1〜W3で同時に放電が発生せずに、放電点W2のみで放電が発生し、各ワイヤの中で電流Iw2のみが流れている状態の個別給電方式のワイヤ放電加工システムを示す、図9から加工電源部401を簡略化した等価回路である。
この場合には加工電流Iw2は給電子204cから、3つの経路(方向)に流れる。そのため、電流値は以下のように式3で求めることができる
・Iw2=Vm/(Rw2+Ra)
ただし、Raは以下のように式4で定義される。
・Ra=1/(1/(Rw12+Rm1)+1/Rm2+1/(Rw23+Rm3))
ここでも、図11で説明した場合と同じように、放電点と近い位置に給電子204を配置した場合には、給電子204から放電点Wまでのワイヤの長さは短くなり、各ワイヤによる抵抗値Rw1〜Rw3は、各配線の内部抵抗Rm1〜Rm3と比べて十分小さくなりRw1、Rw2、Rw3は無視することができ、給電子204cまたは204dの電位をV2とすると、式3から給電子の位置の電位V2は、以下のように式5で簡略化することができる。
・Iw2=V2/Ra
ここで、Raは、下記のように式6である。
・Ra=1/(1/(Rw12+Rm1)+1/Rm2+1/(Rw23+Rm3))
従って、Rw12及びRw23の抵抗値の大きさに依存してIw2の電流値が決まることがわかる。
放電点と近い位置に給電子204を配置した場合には、個別給電子204bから、放電点側ではない方を経由した個別給電子204cまでの間のワイヤの長さ(412L)によるワイヤの抵抗値Rw12はRm2と比べても大きくなり、Rm2が大きな抵抗ではなくなるので、Rw12の方向に流れるワイヤ電流は小さく、ワイヤ電流は主にRm2の方に流れる。同じように個別給電子204dから、放電点側ではない方を経由した個別給電子204eまでの間のワイヤの長さ(412L)によるワイヤの抵抗値Rw23はRm2と比べても大きくなり、Rm2が大きな抵抗ではなくなるので、Rw23の方向に流れるワイヤ電流は小さく、ワイヤ電流は主にRm2の方に流れる。
しかしながら、図12に示したように、反対に放電点から遠い位置に給電子204を配置した場合には、個別給電子204bから、放電点側ではない方を経由した個別給電子204cまでの間のワイヤの長さ(412L)によるワイヤの抵抗値Rw12はRm2と比べて十分小さくなり、Rw12は無視することができ、Iw2は3つの方向に流れ、その各電流値であるI1、I2、I3はそれぞれ、以下のような式7になる。
・I1=Vm/Rm1
・I2=Vm/Rm2
・I3=Vm/Rm3
そのため、Rw12の方向にもワイヤ電流I1が流れてしまう。同じように個別給電子204dから、放電点側ではない方を経由した個別給電子204eまでの間のワイヤの長さ(412L)によるワイヤの抵抗値Rw23は、Rm2と比べて十分小さくなりRw23は無視することができ、Rw23の方向にもワイヤ電流I3が流れてしまう。
このように、Rw12及びRw23の方向にワイヤ電流I1、I3を流さないようにするには、放電点と近い位置に給電子204を配置して、Rw12,Rw23の抵抗値を大きくする必要があり、配線毎に内部抵抗Rm1、Rm2、Rm3をそれぞれ設ける場合には、図5のように放電点とできるだけ近い位置に個別給電子204を配置する必然性があり、放電点から離れた位置には個別給電子204を配置することはできない。
図13を説明する。図13のようにメインローラ4本の構成とした場合、以下の問題点がある。このメインローラ4本の構成において、図1と同じように給電子104を配置すると、給電子とワーク(放電点)までの距離、すなわちワイヤ長511Lが長くなってしまう。ワイヤ長511Lが長くなりすぎると、ワイヤの抵抗値(インピーダンス)も増加しすぎるので、その電圧降下の影響により放電電流値が低下してしまう。さらに加工速度(加工レート)は放電電流値に比例するので、加工速度も低下する。
この加工速度低下を防ぐには、印加電圧を増加させ電流を増加させる方法があるが、電圧を増加した分だけの電力が消費され、効率の低下といった問題が起きる。
ワイヤ放電加工システムは、ワイヤガイド、ワークサイズ、加工液槽といった機械的サイズの制約受け、給電点から放電点までの距離つまりワイヤ長Lを任意に設定できない場合がある。
給電子とワークをワイヤのループの内側に配置するため、メインローラ4本の構成となっている。この構成では、一対の給電子をワークから等しい距離の左右の両側に配置している。この給電子104a、104bはワークから距離が等しければ良く任意位置に変動して配置することが可能である。
このようにワイヤの長さで定まる抵抗値(インピーダンス)を任意に調整可能であり、図1と同様に、ワイヤ長で定まる抵抗値(インピーダンス)により、放電電流値を制限することができるので、複数のワイヤには同じ放電電流が流れ、各電流値を同じ印加電圧下で任意に調整可能となる。言い換えれば、メインローラ4本の構成となってワイヤ全長が長くなった場合でも、図1と同じ電気特性を持たせることが可能となる。
一対の給電子104aと104bは放電部Wからのワイヤが走行する511L1及び511L2(第1の距離)がおおよそ等しい距離となる位置にそれぞれ配置されている。図13の例では両側に配置されている。更に、一対の給電子及び給電子ユニットを移動可能な駆動手段は、複数のメインローラを巻回するワイヤの内側に配置されている。
図13のように、1か所の給電点を2か所(一対の給電子)に増やすことにより、給電点から放電点(放電部)までの距離に自由度を持たせ、インピーダンスを調整できるようにした。
図16に示した駆動手段1901が給電子ユニット10全体をスライド駆動させるので、ワイヤが走行する511L1(第1の距離)が変動するように、一対の給電子をワイヤに接触させること、及び該接触する位置を移動することができる。
更に一対の給電子及び駆動手段は、複数のメインローラを巻回するワイヤの内側に配置されているので、それぞれに分岐する電気配線の長さを短くし、電源装置から一対の給電子までの抵抗値をより小さくすることができる。
図13では、放電部側を経由せずにワイヤが一対の給電子の間を走行する512L(第2の距離)が、511L1(第1の距離)よりも短い。これは512Lの長さによる抵抗値を、511L1の長さによる抵抗値よりも小さくしても、ワイヤの抵抗値Rw12、Rw23がある方向には加工電流が流れないからである。一例を挙げると511L1及び511L2(第1の距離)を2mにして512L(第2の距離)を1.9mにした場合に、512Lの長さによる抵抗値(インピーダンス)が、511L1の長さによる抵抗値(インピーダンス)よりも小さくなる。
図1で述べたように図13の走行手段も1本の連続するワイヤを複数(4本)のメインローラに複数回(例えば2000回程度)巻回することで、ほぼ均等間隔にワイヤを並設させて同一方向に走行させている。このように511L1及び511L2(第1の距離)をそれぞれ2mにして512L(第2の距離)を1.9mにした場合、複数のメインローラを1周回するワイヤの走行距離が5.9mになる。ここで、512L(第2の距離)は、複数のメインローラを1周回するワイヤの走行距離の3分の1未満であればよい。
図14を説明する。図14は図10と同様の表現で、一括給電方式でのワイヤと給電子の配置関係と放電回路を示す。ここで、図10との大きな違いは、電気回路内部には配線抵抗値に応じて、配線に流れる最大の電流値を制限するための配線毎の内部抵抗Rm1〜Rm3がないことである。
図15を説明する。図15は放電点W1〜W3で同時に放電が発生せずに、放電点W2のみで放電が発生し、電流Iw2のみが流れている状態の一括給電方式であるワイヤ放電加工システムを示す、図14から給電子104を簡略化した等価回路である。
給電子104a及び104bから電源Vmn501の陰極まで電流制限抵抗体がない。そのため、給電子の位置の電位V1、V2、V3は、V1=V2=V3と等しくなるので、ワイヤの抵抗値Rw12、Rw23がある方向には加工電流は流れない。
つまり、図13のように電気配線内に内部抵抗を無くした給電方式(Rmn<<Rwn)ではRw12及びRw23の方向には加工電流が流れないので、図9に示したように電気配線内に内部抵抗がある給電方式(Rm>>Rw)のように放電点とできるだけ近い位置に個別給電子204を配置する必然性はなく、図13の給電方式(Rmn<<Rwn)では自由な位置に一対の給電子104を配置することが可能となり、一対の給電子104の配置位置が移動されても何ら問題がない。
つまり電源装置から一対の給電子までの抵抗値が、一対の給電子の一方から放電部(放電点W)までのワイヤが走行する511L1(第1の距離)による抵抗値よりも十分に小さいので、ワイヤの抵抗値Rw12、Rw23がある方向には加工電流は流れない。
一対の給電子がそれぞれ、並設されて走行する複数本(例えば10本)のワイヤに一括に跨って加工電圧を給電した場合には、V1とV2とV3の電位が等しくなる。
図16を説明する。図16のA−Cを説明する。図16のAは、駆動手段1901が給電子ユニットを上側(またはスライド面に対して右側)にスライドさせて、給電子104bを配置した状態を示す。
図16Bは、駆動手段1901が給電子ユニットを中央にスライドさせて、給電子104bを配置した状態を示す。
図16Cは、駆動手段1901が給電子ユニットを下側(またはスライド面に対して左側)にスライドさせて、給電子104bを配置した状態を示す。
図17を説明する。駆動機構1901は、本発明の実施形態では、例えは給電子ユニット10全体をワイヤ面に沿って平行にスライドさせることで、ワイヤ面に接触する給電子104の給電位置を移動させる機構である。駆動機構1901により、給電子104の固定位置を自在に変更することができる。なお、固定位置の自在変更の機構はスライドには限定されるものではなく、自在に変更できるように予め定められた多数の固定位置の中から選ばれた任意の位置に給電子ユニット10を、ユーザの手作業により再配置させてもよい。
このように、給電子ユニット10全体をワイヤ面に沿って平行にスライドさせることで、ワイヤ長(511L)を自在に調整することができる。
つまり、ワイヤ長(511L)は放電部から給電子104までのワイヤの長さによるインピーダンス成分であり、駆動機構1901はワーク毎に最適なインピーダンス成分を調整するための機構である。
同じ材料で、かつ同じ形状のワークであっても、大量にワークを生産する場合には、製造工程の製造ロット毎に比抵抗値が一定はでないワークが製造される場合がある。
例えば、ワークの製造ロット毎に放電加工するまえに予め測定して、測定した比抵抗値が管理基準値よりも低かったワークを放電加工する場合には、図17のようにワークからは、給電子104a、104bは遠ざけて配置する。
図17のように駆動手段1901によって給電子ユニット10を移動させて給電子104a、104bを配置することで、放電部から給電子104a、104bまでのインピーダンス成分が大きくなるように調整することができる。
放電部から給電子104a、104bまでのインピーダンス成分を大きくすれば、比抵抗値が管理基準値よりも低下した分を、インピーダンス成分の増加で補正することができる。
例えば、ワークの製造ロット毎に放電加工するまえに予め測定して、測定した比抵抗値が管理基準値よりも高かったワークを放電加工する場合には、図18のようにワークに、給電子104a、104bを近づけて配置する。
図18のように駆動手段1901によって給電子ユニット10を移動させて給電子104a、104bを配置することで、放電部から給電子104a、104bまでのインピーダンス成分が小さくなるように調整することができる。
放電部から給電子104a、104bまでのインピーダンス成分を小さくすれば、比抵抗値が管理基準値よりも増加した分を、インピーダンス成分の減少で補正することができる。
まとめると、測定したワークの比抵抗値が管理基準値に等しい場合は、図16のBの位置に給電子104a、104bを配置する。測定したワークの比抵抗値が管理基準値よりも低い場合は、図16のAの位置に給電子104a、104bを配置する。測定したワークの比抵抗値が管理基準値よりも高い場合は、図16のCの位置に給電子104a、104bを配置すればよい。
このように、製造ロット毎に発生するワークの比抵抗値の増減分をインピーダンス成分の増減で補正することができるので、加工電圧等の設定条件を一定にしたままでも、製造ロット毎に比抵抗値が一定ではでないワークを継続的に放電加工することができる。
つまり複数本のワイヤに加工電圧を一括で給電して放電加工する場合に、ワーク毎の抵抗のバラつきが発生した場合の加工条件の設定を、ワイヤの抵抗(インピーダンス成分)を用いて一括補正させることができる。
図19を説明する。図19は、ワイヤ放電加工装置が内蔵する制御コンピュータ1000のハードウエア構成図である。
図19において、MPU(CPU)1001は、システムバス1004に接続される各デバイスやコントローラを統括的に制御する。また、ROM1002あるいは外部メモリ1011には、CPU1001の制御プログラムであるBIOS(Basic Input / Output System)やオペレーティングシステムプログラム(以下、OS)や、各サーバ或いは各PCの実行する機能を実現するために必要な後述する各種プログラム等が記憶されている。
RAM1003は、CPU1001の主メモリ、ワークエリア等として機能する。CPU1001は、処理の実行に際して必要なプログラム等をROM1002あるいは外部メモリ1011からRAM1003にロードして、該ロードしたプログラムを実行することで各種動作を実現するものである。
入力コントローラ1005は、キーボード(KB)1009や不図示のマウス等のポインティングデバイス等からの入力を制御する。ビデオコントローラ1006は、表示部1010への表示を制御する。なお、表示部1010はCRTだけでなく、液晶ディスプレイ等の他の表示器であってもよい。これらは必要に応じて管理者が使用するものである。また表示部は指やペン等にてユーザが表示画面内の対象位置を指定するタッチパネル機能を含むものであってもよい。
メモリコントローラ1007は、ブートプログラム,各種のアプリケーション,フォントデータ,ユーザファイル,編集ファイル,各種データ等を記憶するハードディスク(HD)や、フレキシブルディスク(FD)、或いはPCMCIAカードスロットにアダプタを介して接続されるコンパクトフラッシュ(登録商標)メモリ等の外部メモリ1011へのアクセスを制御する。
通信I/Fコントローラ1008は、LAN1012またはWANなどの、ネットワーク(通信回線)を介して外部装置と接続・通信するものであり、ネットワークでの通信制御処理を実行する。例えば、TCP/IPを用いた通信等が可能である。
なお、CPU1001は、例えばRAM1003内の表示情報用領域へアウトラインフォントの展開(ラスタライズ)処理を実行することにより、表示部1010上での表示を可能としている。また、CPU1001は、CRT上の不図示のマウスカーソル等でのユーザ指示を可能とする。
本発明を実現するための後述する各種プログラムは、外部メモリ1011に記録されており、必要に応じてRAM1003にロードされることによりCPU1001によって実行されるものである。さらに、上記プログラムの実行時に用いられるデータファイル及びデータテーブル等も、外部メモリ1011または記憶部に格納されている。
また、本発明におけるプログラムは、ワイヤ放電加工方法に従ったワイヤ放電加工動作を制御コンピュータ1000が実行可能なプログラムであり、本発明の記憶媒体はワイヤ放電加工動作を実行可能なプログラムとして記憶している。
(本発明の他の実施形態)
以上のように、前述した実施形態の機能を実現するプログラムを記録した記録媒体を、ワイヤ放電加工装置に供給し、そのシステムあるいは装置内のコンピュータ(またはCPUやMPU)が非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納されたプログラムを読出し実行することによっても、本発明の目的が達成されることは言うまでもない。
この場合、記録媒体から読み出されたプログラム自体が本発明の新規な機能を実現することになり、そのプログラムを記憶した非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体は本発明を構成することになる。
プログラムを供給するための記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク,ハードディスク,光ディスク,光磁気ディスク,CD−ROM,CD−R,DVD−ROM, BD−ROM、磁気テープ,不揮発性のメモリカード,ROM,EEPROM,シリコンディスク等を用いることができる。
また、読み出したプログラムを実行することにより、前述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
さらに、記録媒体から読み出されたプログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用しても、1つの機器からなる装置に適用してもよい。また、本発明は、システムあるいは装置にプログラムを供給することによって達成される場合にも適応できることは言うまでもない。この場合、本発明を達成するためのプログラムを格納した記録媒体を該システムあるいは装置に読み出すことによって、そのシステムあるいは装置が、本発明の効果を享受することが可能となる。
さらに、本発明を達成するためのプログラムをネットワーク上のサーバ,データベース等から通信プログラムによりダウンロードして読み出すことによって、そのシステムあるいは装置が、本発明の効果を享受することが可能となる。
なお、上述した各実施形態およびその変形例を組み合わせた構成も全て本発明に含まれるものである。