一般に、自動車等に配される車両用シートや事務用椅子は、発泡ウレタンなどの合成樹脂が所定の形状に成形されたクッション部材に、同クッション部材の表面を被覆するようにシートカバー等の表皮材が組み付けられて構成されている。また、車両用シート等では、表皮材の一部をクッション部材の表面に止着した後、表皮材がクッション部材を包むようにして組み付けられる。
この場合、表皮材の一部をクッション部材の表面に止着するための止着手段として、複数のフック状又はキノコ状の雄係合素子を備えた雄型の面ファスナーが、クッション部材の表面に取り付けられており、また、雄係合素子と係合可能な複数のループ状の雌係合素子を備えた雌型の面ファスナーが、表皮材の裏面に取り付けられている。
ループ状の雌係合素子を備えた雌型の面ファスナーとしては、一般に、編機を用いて製造される編成面ファスナーと、織機を用いて製造される織成面ファスナーが知られている。ここで、従来の一般的な雌型の編成面ファスナーについて、図17及び図18を参照しながら説明する。
従来の雌型の編成面ファスナー70は、複数のループ状の雌係合素子を有する面ファスナー領域72と、面ファスナー領域72の左右外側に隣接して配され、表皮材などの面ファスナー被着物に縫着される左右の縫製領域71とを有している。
また、編成面ファスナー70の経編組織は、面ファスナー領域72及び左右の縫製領域71の各ウェールを形成する鎖編糸75(0−1/1−0)と、面ファスナー領域72において互いに隣接する2ウェールに配されるトリコット編糸76(0−1/2−1)と、面ファスナー領域72及び縫製領域71の全ウェール(編成面ファスナー70の全幅)に亘ってジグザグ状に挿入される1本の緯挿入糸77とによって構成されている。
この場合、編成面ファスナー70を経編機により編成するときに、その経編機における面ファスナー領域72のウェール間に対応する位置に、薄板状の挿入部材をウェール形成面の一方の面(例えばテープ表面)側から突出させるように設けておき、トリコット編糸76が当該挿入部材を跨ぎながら編み込まれる。それにより、トリコット編糸76の挿入部材を跨ぐ部分が編成後に弛んだ状態となるため、面ファスナー領域72の各ウェール間にループ状の雌係合素子が形成される。
なお、編成面ファスナー70を構成する鎖編糸75、トリコット編糸76、及び緯挿入糸77には、ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸が用いられていることが多く、例えば、鎖編糸75及びトリコット編糸76には、150〜300デシテックスの太さを有するポリエステル加工糸が用いられており、緯挿入糸77には、250〜400デシテックスの太さを有するポリエステル加工糸が用いられている。
このような経編組織を有する編成面ファスナー70は、トリコット編糸76による雌係合素子が面ファスナー領域72に形成されるとともに、左右の縫製領域71が鎖編糸75と太い緯挿入糸77とによってしっかりと形成され、縫製領域71に編目のズレを生じ難くすることが可能となる。これにより、編成面ファスナー70の縫製領域71を表皮材などの面ファスナー被着物に安定して縫い付けることができ、また、左右の縫製領域71に挟まれた面ファスナー領域72を、雄型の面ファスナーの係合素子に安定して係合させることができる。
一方、例えば国際公開第2010/125675号パンフレット(特許文献1)には、編成又は織成された雌型の面ファスナー(止着部材)が開示されている。
この特許文献1に係る面ファスナーの実施例の1つとなる編成面ファスナーは、表皮材などの面ファスナー被着物に縫着される左右の縫製領域と、左右の縫製領域の間に配され、複数の雌係合素子を有する面ファスナー領域と、各縫製領域と面ファスナー領域との間を連結する連結領域とを有して構成されている。
また、この編成面ファスナーの経編組織は、面ファスナー領域及び左右の縫製領域の各ウェールを形成する鎖編糸と、面ファスナー領域に配され、雌係合素子となる多数のループを形成するトリコット編糸と、編成面ファスナーの全幅に亘ってジグザグ状に挿入される1本の緯挿入糸とによって構成されている。
この特許文献1の編成面ファスナーでは、経編機により編成するときに、その経編機における鎖編糸によるウェールを形成する編針と、当該編針に隣接し、鎖編糸が絡まない編針とを用いて、面ファスナー領域のトリコット編糸が編み込まれる。それにより、トリコット編糸の鎖編糸と交絡しない側のニードルループによって、面ファスナー領域に配されるループ状の雌係合素子が、鎖編糸によるウェール間に形成される。
また、面ファスナー領域と左右の縫製領域との間を連結する左右の連結領域は、面ファスナー領域及び左右の縫製領域に共通して挿入されている緯挿入糸のみによって構成されており、左右の連結領域は、左右の縫製領域に比べて、小さい編糸密度で構成されている。
このような特許文献1の編成面ファスナーでは、複数の雌係合素子を有する面ファスナー領域と、面ファスナー被着物に縫着される左右の縫製領域との間に、小さい糸密度で構成されて容易に変形することが可能な連結領域が配されている。このため、当該編成面ファスナーは、連結領域を構成している構成糸条の動きや伸縮等を利用して連結領域を変形させることにより、面ファスナー領域を左右の縫製領域に対して相対的に容易に変位させることが可能となる。
このため、特許文献1の編成面ファスナーが取着された表皮材を、雄型の面ファスナーが取着されたクッション部材に止着させるときに、例えば、表皮材の止着位置がずれていたり、また、表皮材ごとに寸法や形状のばらつきが生じていたりする場合でも、編成面ファスナーの面ファスナー領域が左右の縫製領域に対して相対的に変位することによって、編成面ファスナーが取着された表皮材に皺が発生することを効果的に防止できるという顕著な効果が得られる。
更に特許文献1に係る面ファスナーの別の実施例として、図19に示したような経編組織により構成された編成面ファスナーが記載されている。
図19に示した編成面ファスナー80も、表皮材などの面ファスナー被着物に縫着される左右の縫製領域81と、左右の縫製領域81の間に配され、複数の雌係合素子を有する面ファスナー領域82と、各縫製領域81と面ファスナー領域82との間を連結する連結領域83とを有して構成されている。
また、この編成面ファスナー80における面ファスナー領域82の経編組織は、各ウェールを形成する鎖編糸85と、雌係合素子となる多数のループを形成するトリコット編糸86と、面ファスナー領域82の全体(面ファスナー領域82の全ウェール)に亘ってジグザグ状に挿入される1本の第1緯挿入糸87とによって構成されている。
また、同編成面ファスナー80において、縫製領域81の経編組織は、各ウェールを形成する鎖編糸85と、縫製領域81の全体(縫製領域81の全ウェール)に亘ってジグザグ状に挿入される第2緯挿入糸88とによって構成されている。更に、連結領域83の経編組織は、面ファスナー領域82の外端縁に配されるウェールと、縫製領域81の内端縁に配されるウェールとの間を連結するように挿入される第3緯挿入糸89のみによって、縫製領域81に比べて疎密に構成されている。
上述のような第1〜第3緯挿入糸87〜89を用いて構成された編成面ファスナー80も、面ファスナー領域82と左右の縫製領域81との間に、小さい糸密度で構成された連結領域83が配されているため、面ファスナー領域82を左右の縫製領域81に対して相対的に容易に変位させることが可能となり、前述した効果と同様の効果が得られる。
更に、図19に示した編成面ファスナー80は、面ファスナー領域82、左右の縫製領域81、及び左右の連結領域83を同時に編成することによって製造されるが、例えば、面ファスナー領域82と左右の縫製領域81とを予め別々に編成しておき、その後、得られた面ファスナー領域82と左右の縫製領域81との間を連結するように第3緯挿入糸89を編み込んで左右の連結領域83を形成することによっても製造することが可能である。
図17に示した編成面ファスナー80の経編組織や、特許文献1の実施例の1つとなる編成面ファスナーでは、鎖編糸により形成された各ウェールを連結するために、1本の緯挿入糸が編成面ファスナーの全幅に亘ってジグザグ状に挿入されている。またこの場合、編成面ファスナーの縫製領域を、編目のズレが生じ難いようにしっかりと編成するために、緯挿入糸に繊度の大きなマルチフィラメント糸が一般的に用いられている。
また一方で、このような雌型の編成面ファスナーは、雄型の編成面ファスナーに対する安定した係合力を確保しながら、編成面ファスナーの軽量化や生産コストの削減を図ることが求められている。
しかしながら、編成面ファスナーの全幅に亘って、繊度の大きな太い1本の緯挿入糸が挿入されて構成された編成面ファスナーの場合、左右の縫製領域の経編組織はしっかりするものの、左右の縫製領域間に挟まれた面ファスナー領域も必要以上にしっかりと形成されてしまい、面ファスナー領域の柔軟性が損なわれる虞があり、また、編成面ファスナーの軽量化やコスト削減を妨げる要因の一つとなっていた。
更に、上述のような編成面ファスナーを編機により編成する場合、各コースで鎖編糸のニードルループを形成する度に、1本の緯挿入糸を編成面ファスナーの全幅に振って挿入するという時間を要する動作が必要となるため、生産性(生産効率)が低く、生産コストの増大を招いていた。
また雌型の編成面ファスナーでは、面ファスナー領域に、ループ状の雌係合素子を形成するトリコット編糸が編み込まれるため、面ファスナーの編成時に、面ファスナー領域の各鎖編糸(各ウェール)に加えられる張力が、左右の縫製領域の各鎖編糸(各ウェール)に加えられる張力よりも一般的に高くなる。
この場合、鎖編糸に加えられる張力が高くなり過ぎると編糸が切れるため、面ファスナー領域内の鎖編糸の張力を適切な大きさに調整しながら面ファスナーが編成される。しかしながら、このように面ファスナー領域内の鎖編糸の張力を適切に調整しながら面ファスナーを編成すると、その一方で縫製領域の内の鎖編糸の張力が低くなり、その結果、編成時に鎖編の形が崩れること(編崩れ)や、緯挿入糸が弛むことが生じ易く、縫製領域の編成が行い難くなることもあった。
別の問題点として、面ファスナーの編成時に、左右の縫製領域内の鎖編糸の張力が、面ファスナー領域内の鎖編糸の張力よりも低くなると、順次編成される面ファスナーを搬送ローラーで送って巻取部で巻き取る際に、面ファスナーにおける左右の縫製領域に弛みが生じ易くなり、搬送ローラーによる送り動作や、巻取部での巻取り動作が行い難くなることがあった。
一方、図19に示した編成面ファスナー80では、緯挿入糸として、前述のように、面ファスナー領域に配される第1緯挿入糸87と、縫製領域に配される第2緯挿入糸88と、縫製領域と縫製領域の間を連結する第3緯挿入糸89とが用いられている。
また、特許文献1には、連結領域における編糸の密度を縫製領域に比べて小さくすることは記載されているものの、第1〜第3緯挿入糸87〜89の各糸の繊度や、第1〜第3緯挿入糸87〜89間の繊度の関係については何も説明されていない。また通常では、複数の緯挿入糸を複数のウェール間に挿入しながら編物を編成する場合、編物の風合いを全体的に等しくするために、緯挿入糸として同じ繊度を有する糸が用いられている。
従って、図19に示した編成面ファスナー80においても、第1〜第3緯挿入糸87〜89が同じ繊度を有する場合には、前述の場合と同様に、左右の縫製領域の経編組織はしっかりするものの、左右の縫製領域間に挟まれた面ファスナー領域も必要以上にしっかりと形成されてしまい、面ファスナー領域の柔軟性が損なわれる虞があり、また、編成面ファスナーの軽量化やコスト削減を妨げる要因の一つとなっていた。
更に、編成面ファスナー80を経編機により編成する場合に、面ファスナー領域内の鎖編糸の張力を適切に調整できるものの、左右の縫製領域の内の鎖編糸の張力が低くなり易い。その結果、縫製領域の編成が行い難くなることや、搬送ローラーによる送り動作や、巻取部での巻取り動作が行い難くなることがあった。
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、縫製領域の経編組織がしっかり形成されるとともに、面ファスナー領域の安定した係合力や柔軟性を確保しつつ、軽量化や生産コストの削減を図ることができ、更には、編機による編成を円滑に安定して行うことが可能な編成面ファスナーを提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明により提供される編成面ファスナーは、基本的な構成として複数のウェールを有し、面ファスナー被着物に縫着される左右一対の縫製領域と、左右の前記縫製領域間に配され、複数の雌係合素子が一面に形成された面ファスナー領域とを備え、前記縫製領域及び前記面ファスナー領域の各ウェールを形成する鎖編糸と、前記面ファスナー領域に配され、前記雌係合素子を形成するトリコット編糸と、隣り合う2列以上のウェールに亘ってジグザグ状に配される複数本の緯挿入糸とを含む経編組織からなる編成面ファスナーであって、繊度又は挿入密度に基づく前記縫製領域における前記緯挿入糸の平均使用量が、繊度又は挿入密度に基づく前記面ファスナー領域における前記緯挿入糸の平均使用量よりも大きくされてなる、ことを主要な特徴とするものである。
本発明に係る編成面ファスナーにおいて、前記面ファスナー領域における前記緯挿入糸は、所定の繊度を有する第1緯挿入糸と、前記縫製領域における前記第1緯挿入糸よりも大きな繊度を有する第2緯挿入糸とを有していることが好ましい。この場合、前記第1緯挿入糸は、前記面ファスナー領域内の2列以上のウェールに亘って配され、前記第2緯挿入糸は、前記面ファスナー領域内の前記縫製領域に隣接するウェール及び前記縫製領域内のウェールのうちの2列以上のウェールに亘って配されていることが特に好ましい。
本発明に係る編成面ファスナーにおいて、前記緯挿入糸として、複数のウェールに亘ってジグザグ状に走行する第1方向の緯挿入糸と、複数のウェールに亘って、前記第1方向の緯挿入糸に対してコース間で交差する方向にジグザグ状に走行する第2方向の緯挿入糸とが配されていることが好ましい。この場合、前記第1方向の緯挿入糸と前記第2方向の緯挿入糸とが、前記面ファスナー領域内の前記縫製領域隣接するウェール上の同じ編目に交絡して互いに反対方向に折り返されていることが特に好ましい。
また、本発明に係る編成面ファスナーでは、前記面ファスナー領域の全ウェールに亘って、1本の前記第1方向の緯挿入糸が配され、各縫製領域の全ウェールと前記面ファスナー領域内の前記縫製領域に隣接するウェールとに亘って、1本の前記第2方向の緯挿入糸が配されていることが好ましい。
更に、本発明の編成面ファスナーは、前記面ファスナー領域と前記縫製領域との間に、前記第1方向の緯挿入糸又は前記第2方向の緯挿入糸のみにより構成された連結領域を有していることが好ましい。
また、本発明に係る編成面ファスナーでは、前記面ファスナー領域に、1本の前記第1方向の緯挿入糸が、前記連結領域を跨いで前記面ファスナー領域の全ウェールと前記縫製領域内の前記連結領域に隣接するウェールとに亘って配されるとともに、複数本の前記第1方向の緯挿入糸が、2列以上のウェールに亘って配され、左右の各縫製領域に、1本の前記第2方向の緯挿入糸が、前記縫製領域の全ウェールに亘ってそれぞれ配されていることが好ましい。
更に、本発明に係る編成面ファスナーでは、前記面ファスナー領域と左右の前記縫製領域とに、3列以上のウェールに亘って走行する複数本の前記第1方向の緯挿入糸と、前記第1方向の緯挿入糸と同じ列数のウェールに亘って走行する複数本の前記第2方向の緯挿入糸とが配され、前記第1方向の緯挿入糸と前記第2方向の緯挿入糸の両方が同じコースにおいて交絡して互いに反対方向に折り返されるウェール上の編目が、経編組織に綾目状に配されていることが好ましい。
更にまた、前記面ファスナー領域に、2列のウェールに亘って走行する複数本の前記第1方向の緯挿入糸が配され、左右の各縫製領域に、複数本の前記第1方向の緯挿入糸と複数本の前記第2方向の緯挿入糸とが配されていることが好ましい。
本発明に係る編成面ファスナーは、左右一対の縫製領域と、左右の縫製領域間に配される面ファスナー領域とを有しており、面ファスナー領域における緯挿入糸の平均使用量よりも、縫製領域における緯挿入糸の平均使用量が大きく設定されている。ここで、緯挿入糸の平均使用量とは、編成面ファスナーを表裏方向から見たときに(すなわち、編成面ファスナーの平面視において)、各領域の単位面積当たりにおける緯挿入糸の重量を言う。
例えばそれぞれの領域に挿入される緯挿入糸の繊度や挿入される密度などを制御することによって、上述のように、縫製領域における緯挿入糸の平均使用量を面ファスナー領域における緯挿入糸の平均使用量よりも大きくすることによって、縫製領域の経編組織がしっかりと形成され、編目の位置がずれることを生じ難くすることができる。
また、本発明の編成面ファスナーでは、面ファスナー領域における緯挿入糸の平均使用量を相対的に小さくすることによって、例えば面ファスナー領域と縫製領域との間で緯挿入糸の平均使用量が同じである場合に比べて、面ファスナー領域の柔軟性を高めることができるとともに、緯挿入糸の全体的な使用量を低減して編成面ファスナー全体の軽量化や、原単位の低減に伴う生産コストの削減を図ることができる。
更に、縫製領域における緯挿入糸の平均使用量を面ファスナー領域における緯挿入糸の平均使用量よりも大きくすることによって、後述するように、編成面ファスナーの編成時に、縫製領域内の各鎖編糸に加えられる張力の大きさを相対的に増大させて、面ファスナー領域の各鎖編糸に加えられる張力の大きさに近づけること、又は面ファスナー領域の各鎖編糸に加えられる張力の大きさよりも大きくすることが可能となる。
このように、本発明では、編成面ファスナーの編成時における縫製領域内の各鎖編糸に加えられる張力の大きさを、面ファスナー領域の各鎖編糸に加えられる張力の大きさと略等しくし、又はそれ以上にすることによって、編成面ファスナーの幅方向全体に亘って鎖編糸の張力を適切な大きさに調整することが可能となる。このため、例えば従来の編成面ファスナーを編成する場合のように、縫製領域内で鎖編の形が崩れることや、緯挿入糸が弛むことなどの不具合の発生を効果的に防止することができ、経編機による編成面ファスナーの編成工程を安定して円滑に行うことができる。
更に本発明では、編成面ファスナーの幅方向全体に亘って鎖編糸の張力を適切な大きさに調整できることによって、経編機において順次編成される面ファスナーを搬送ローラーで送って巻取部で巻き取る際に、搬送ローラーによる送り動作や、巻取部での巻取り動作も円滑に行うことが可能となる。
特に本発明において、前記緯挿入糸は、所定の繊度を有する第1緯挿入糸と、前記第1緯挿入糸よりも大きな繊度を有する第2緯挿入糸とを有している。この場合、前記第1緯挿入糸は、前記面ファスナー領域内の2列以上のウェールに亘って配され、前記第2緯挿入糸は、前記面ファスナー領域内の前記縫製領域に隣接するウェール及び前記縫製領域内のウェールのうちの2列以上のウェールに亘って配されている。
すなわち、本発明に係る編成面ファスナーの経編組織は、縫製領域及び面ファスナー領域の各ウェールを形成する鎖編糸と、面ファスナー領域に配され、雌係合素子を形成するトリコット編糸と、面ファスナー領域内の2列以上のウェールに亘って配され、所定の繊度を有する第1緯挿入糸と、面ファスナー領域内の縫製領域に隣接するウェール及び縫製領域内のウェールのうちの2列以上のウェールに亘って配され、第1緯挿入糸よりも大きな繊度を有する第2緯挿入糸とを有して構成されている。
なお、本発明では、第1緯挿入糸が、面ファスナー領域内の2列以上のウェールに亘って配されていれば、当該第1緯挿入糸が縫製領域内のウェールに跨って挿入されていても良く、また、第2緯挿入糸が、面ファスナー領域内の縫製領域に隣接するウェール及び縫製領域内のウェールのうちの2列以上のウェールに亘って配されていれば、当該第2緯挿入糸が面ファスナー領域内の2列以上のウェールに跨って挿入されていても良い。
このような本発明の編成面ファスナーによれば、縫製領域が第1緯挿入糸よりも大きな繊度を有する第2緯挿入糸(言い換えると、第1緯挿入糸よりも太い第2緯挿入糸)を用いて構成されているため、縫製領域の経編組織がしっかりと形成され、編目の位置がずれることを生じ難くすることができる。
また、本発明の編成面ファスナーでは、面ファスナー領域の2列以上のウェールに亘って、第2緯挿入糸よりも繊度が小さい第1緯挿入糸が縫製領域に配されるため、面ファスナー領域の安定した係合力を確保しつつ、例えば面ファスナー領域と縫製領域とに同じ繊度を有する緯挿入糸が配される場合に比べて、面ファスナー領域の柔軟性を高めることができるとともに、緯挿入糸の全体的な使用量を低減して編成面ファスナー全体の軽量化や、原単位の低減に伴う生産コストの削減を図ることができる。
更に、本発明の編成面ファスナーは、例えば図17に経編組織を示した従来の編成面ファスナーなどとは異なり、例えば1本又は複数本の第1緯挿入糸を面ファスナー領域の全体に挿入するとともに、1本又は複数本の第2緯挿入糸を各縫製領域の全体に挿入することにより、第1緯挿入糸及び第2緯挿入糸を編成面ファスナーの全幅(すなわち、面ファスナー領域及び左右の縫製領域の全体)に亘って挿入しなくても、編成面ファスナーを構成することができる。
このため、経編機により本発明の編成面ファスナーを編成する工程において、各コースで鎖編糸のニードルループを形成する際に、第1及び第2緯挿入糸を挿入する動作を、第1及び第2緯挿入糸が編成面ファスナーの全幅に振って挿入される場合に比べて小さくできるため、編成面ファスナーの編成工程を効率的に行って編成に要する時間を短縮することができる。これにより、編成面ファスナーの生産性(作業効率)を高めることができるため、生産コストの更なる削減を図ることができる。
更に、本発明者等は、編成面ファスナーを編成するときに各鎖編糸(各ウェール)に加えられる張力の大きさについて調査を行ったところ、本発明の編成面ファスナーでは、左右の縫製領域に配される第2緯挿入糸を、トリコット編糸が編み込まれる面ファスナー領域の第1緯挿入糸よりも太くすることにより、縫製領域内の各鎖編糸に加えられる張力の大きさを相対的に増大させて、面ファスナー領域の各鎖編糸に加えられる張力の大きさに近づけること、又は面ファスナー領域の各鎖編糸に加えられる張力の大きさよりも大きくすることが可能であることが判明した。
このように、本発明では、編成面ファスナーの編成時における縫製領域内の各鎖編糸に加えられる張力の大きさを、面ファスナー領域の各鎖編糸に加えられる張力の大きさと略等しくし、又はそれ以上にすることによって、編成面ファスナーの幅方向全体に亘って鎖編糸の張力を適切な大きさに調整することが可能となる。このため、例えば従来の編成面ファスナーを編成する場合のように、縫製領域内で鎖編の形が崩れることや、緯挿入糸が弛むことなどの不具合の発生を効果的に防止することができ、経編機による編成面ファスナーの編成工程を安定して円滑に行うことができる。
更に本発明では、編成面ファスナーの幅方向全体に亘って鎖編糸の張力を適切な大きさに調整できることによって、経編機において順次編成される面ファスナーを搬送ローラーで送って巻取部で巻き取る際に、搬送ローラーによる送り動作や、巻取部での巻取り動作も円滑に行うことが可能となる。
このような本発明の編成面ファスナーにおいて、前記緯挿入糸として、複数のウェールに亘ってジグザグ状に走行する第1方向の緯挿入糸と、複数のウェールに亘って、第1方向の緯挿入糸に対してコース間で交差する方向にジグザグ状に走行する第2方向の緯挿入糸とが配されている。これにより、第1方向の緯挿入糸と第2方向の緯挿入糸とが交絡して互いに反対方向に折り返される鎖編糸の編目の位置がずれることを防ぎ、編成面ファスナーの経編組織を安定化させることができる。
この場合、第1方向の緯挿入糸と第2方向の緯挿入糸とが、面ファスナー領域内の縫製領域に隣接するウェール上の同じ編目に交絡して互いに反対方向に折り返されていることにより、当該ウェール上の編目の位置がずれることを効果的に防いで、編成面ファスナーにおける面ファスナー領域の相対的な位置を安定させることができる。このため、編成面ファスナーの所定の位置に複数の雌係合素子を安定して配置することができる。
また、本発明に係る編成面ファスナーでは、面ファスナー領域の全ウェールに亘って、1本の第1方向の緯挿入糸が配され、各縫製領域の全ウェールと面ファスナー領域内の縫製領域に隣接するウェールとに亘って、1本の第2方向の緯挿入糸が配されている。ここで、1本の第1方向の緯挿入糸、及び1本の第2方向の緯挿入糸とは、各領域にて緯挿入糸が走行するルートがウェール方向及びコース方向に関して1つであることを言い、例えば2つ以上の糸(モノフィラメント及びマルチフィラメントを含む)を引き揃えた状態で、ウェール方向及びコース方向に関して同じ走行ルート上に配される第1方向の緯挿入糸(又は第2方向の緯挿入糸)は、1本の第1方向の緯挿入糸(又は第2方向の緯挿入糸)に含まれるものとする。
このように第1及び第2方向の緯挿入糸が配されていることにより、編成面ファスナーの軽量化や、原単位の低減による生産コストの削減を効果的に行うことができるとともに、編成面ファスナーの編成工程を効率的に行って、編成面ファスナーの生産性をより高めることができる。
更に、本発明の編成面ファスナーは、面ファスナー領域と縫製領域との間に、第1方向の緯挿入糸又は第2方向の緯挿入糸により構成され、鎖編糸が配されていない連結領域を有して構成されていても良い。例えば、本発明の編成面ファスナーは、面ファスナー領域に、1本の第1方向の緯挿入糸が、連結領域を跨いで面ファスナー領域の全ウェールと縫製領域内の連結領域に隣接するウェールとに亘って配されるとともに、複数本の第1方向の緯挿入糸が、2列以上のウェールに亘って配されており、また、左右の各縫製領域に、1本の第2方向の緯挿入糸が、当該縫製領域の全ウェールに亘ってそれぞれ配されて構成されている。ここで、複数本の第1方向の緯挿入糸が配されるとは、各第1方向の緯挿入糸が互いにコース方向に走行ルートをずらして配置されていることを言う。
本発明の編成面ファスナーがこのような連結領域を有していることにより、連結領域では鎖編糸が排除されて編成面ファスナーの原単位を低減させることができるため、編成面ファスナーの幅方向に所定の寸法(幅寸法)を有する編成面ファスナーの生産コストを更に削減することができる。
更に、本発明に係る編成面ファスナーでは、面ファスナー領域と左右の縫製領域とに、3列以上のウェールに亘って走行する複数本の第1方向の緯挿入糸と、第1方向の緯挿入糸と同じ列数のウェールに亘って走行する複数本の第2方向の緯挿入糸とが配されており、また、第1方向の緯挿入糸と第2方向の緯挿入糸の両方が同じコースにおいて交絡して互いに反対方向に折り返されるウェール上の編目が、経編組織に綾目状に配されている。
本発明の編成面ファスナーが、このような第1方向の緯挿入糸と第2方向の緯挿入糸を用いて構成されていることにより、編成面ファスナーの編目の位置がずれることを全体的に防止できるため、経編組織がしっかりと形成されるとともに、その経編組織を長期に亘って安定して維持することができる。
更にまた、本発明に係る編成面ファスナーでは、面ファスナー領域に、2列のウェールに亘って走行する複数本の第1方向の緯挿入糸が配され、左右の各縫製領域に、複数本の第1方向の緯挿入糸と複数本の第2方向の緯挿入糸とが配されている。これにより、編成面ファスナーにおける面ファスナー領域の柔軟性をより一層高めることができるとともに、左右の縫製領域の経編組織がよりしっかりと形成され、編目の位置がずれることを効果的に防止することができる。
以下、本発明の好適な実施の形態について、実施例を挙げて図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。
例えば、以下の各実施例において説明する編成面ファスナーは、自動車に配される車両用シートの表皮材に縫着されて用いられているが、本発明に係る編成面ファスナーは、自動車以外の車両に配されるシートや事務用椅子などにも使用することもできる。また、編成面ファスナーにおける面ファスナー領域、及び縫製領域の寸法や形成されるウェール数等も任意に変更することが可能である。
図1は、本実施例1に係る編成面ファスナーの経編組織を示す編組織図である。図2は、同編成面ファスナーにおいて用いられる緯挿入糸の組織図であり、図3は、同編成面ファスナーにおいて用いられる鎖編糸及びトリコット編糸の組織図である。
なお、以下の説明において、編成面ファスナーの長さ方向(経方向)を前後方向とし、編成面ファスナーの幅方向(緯方向)を左右方向と規定する。
本実施例1の編成面ファスナー10は、面ファスナー領域12に複数のループ状の雌係合素子12aが配された雌型の面ファスナーとして構成されており、後述するように、車両用シート1の表皮材2に縫着されて用いられる。
本実施例1の編成面ファスナー10は、経編機を用いて編成された経編組織により構成されており、また、複数のループ状の雌係合素子12aを有する面ファスナー領域12と、面ファスナー領域12の左右両側に隣接して配された左右の縫製領域11とを有している。この場合、左右の縫製領域11は、本実施例1の編成面ファスナー10を表皮材2の縫合部2bに縫い付けるときに(図5を参照)、縫製糸7が刺通する部分となる。
また、本実施例1の編成面ファスナー10は、26列の鎖編糸15によるウェールを有しており、編成面ファスナー10における一方の側端縁(左側の側端縁)に形成されるウェールを第1ウェールW1とし、その第1ウェールW1に隣接するウェールから、編成面ファスナー10における他方の側端縁(右側の側端縁)に形成されるウェールまでを順番に第2ウェールW2〜第26ウェールW26と規定したときに、面ファスナー領域12は、第8ウェールW8〜第19ウェールW19により形成されており、左側及び右側の縫製領域11は、第1ウェールW1〜第7ウェールW7、及び第20ウェールW20〜第26ウェールW26によりそれぞれ形成されている。
本実施例1の面ファスナー領域12は、各ウェールを形成する鎖編糸15(0−1/1−0)と、互いに隣接する2列のウェールに亘って配される開き目のトリコット編糸16(0−1/2−1)と、面ファスナー領域12の全ウェール(すなわち、第8ウェールW8〜第19ウェールW19)に亘ってジグザグ状に挿入される1本の第1方向の緯挿入糸17(12−12/0−0)とによって構成されている。
この面ファスナー領域12の各トリコット編糸16は、鎖編糸15のニードルループと交絡するニードルループを形成しながら、隣り合う2列のウェールに跨ってジグザグに走行するとともに、各ウェール間にて、雌係合素子12aとなる多数のループを形成している。なお、本発明において、面ファスナー領域12に配されるトリコット編糸16は、開き目ではなく、閉じ目で編み込まれていても良い。
この場合、編成面ファスナー10を経編機により編成するときに、その経編機における面ファスナー領域12のウェール間に対応する位置に、薄板状の挿入部材を、ウェール形成面の一方の面(例えば面ファスナー表面)側から突出させるように設けておき、トリコット編糸16を当該挿入部材を跨ぐようにして面ファスナー領域12に編み込む。それにより、トリコット編糸16の挿入部材を跨ぐように編まれた部分が、編成後に挿入部材が外されることによって弛んだ状態となるため、面ファスナー領域12の各ウェール間にループ状の雌係合素子12aとして形成される。
また本実施例1において、トリコット編糸16のニードルループは、鎖編糸15のニードルループと交絡するときに、鎖編糸15のニードルループとは反対の方向に回転するように形成されている。このように、トリコット編糸16と鎖編糸15とが互いに反対の方向にニードルループを回転させるように編み込まれることにより、理由は判らないものの、雌係合素子12aを構成するトリコット編糸16のループにおける根元部分のしまりを良くすることができ、その結果、面ファスナー領域12の各ウェールをしっかりと強く形成することが可能となる。なお、本発明において、トリコット編糸16のニードルループは、鎖編糸15のニードルループと交絡するときに、鎖編糸15のニードルループとは同じ方向に回転するように形成することも可能である。
本実施例1において、面ファスナー領域12を構成する鎖編糸15、トリコット編糸16、及び、第1方向の緯挿入糸17には、ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸が用いられている。なお、本発明において、鎖編糸15、トリコット編糸16、第1方向の緯挿入糸17、及び、後述する第2方向の緯挿入糸18の材質は特に限定されるものではなく、任意に変更することができる。
面ファスナー領域12を構成する鎖編糸15及びトリコット編糸16は、110デシテックス以上300デシテックス以下の繊度を有している。特に本実施例1では、鎖編糸15が280デシテックスの繊度を有し、トリコット編糸16が167デシテックスの繊度を有している。また、面ファスナー領域12を構成する第1方向の緯挿入糸17は、167デシテックス以上990デシテックス以下の繊度を有しており、特に本実施例1では、167デシテックスの繊度を有する2つ糸を引き揃えた状態(すなわち、167デシテックス×2本)で用いられており、合計で334デシテックスの繊度を有している。
左右の各縫製領域11は、各ウェールを形成する鎖編糸15(0−1/1−0)と、面ファスナー領域12内の縫製領域11に隣接する第8ウェールW8又は第19ウェールW19並びに縫製領域11内の全ウェール(すなわち、第1ウェールW1〜第7ウェールW7、又は第20ウェールW20〜第26ウェールW26)に亘ってジグザグ状に挿入される1本の第2方向の緯挿入糸18(0−0/8−8)とによってそれぞれ構成されている。
各縫製領域11に配される第2方向の緯挿入糸18は、8列のウェール(第1ウェールW1〜第8ウェールW8、又は第19ウェールW19〜第26ウェールW26)に亘って、面ファスナー領域12に配される第1方向の緯挿入糸17とコース間で交差する第2方向にジグザグ状に挿入されており、上述の8列のウェールを相互に連結している。
この場合、面ファスナー領域12に配される第1方向の緯挿入糸17と、各縫製領域11に配される第2方向の緯挿入糸18とは、面ファスナー領域12内の縫製領域11に隣接する第8ウェールW8と第19ウェールW19上の同じ編目に交絡して、互いに反対方向に折り返されるように配されている。これにより、第1方向の緯挿入糸17と第2方向の緯挿入糸18とが交絡する第8ウェールW8及び第19ウェールW19上の編目の位置が左右方向に相対的にずれることを防止し、編成面ファスナー10の経編組織(特に、面ファスナー領域12の経編組織)を安定させることができる。
本実施例1において、縫製領域11を構成する鎖編糸15、及び、第2方向の緯挿入糸18には、ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸が用いられている。また、縫製領域11に配される鎖編糸15は、面ファスナー領域12に配される鎖編糸15と同じ繊度を有している。
本実施例1の縫製領域11に配される第2方向の緯挿入糸18は、面ファスナー領域12に配される第1方向の緯挿入糸17よりも大きな繊度を有しており、且つ、280デシテックス以上1320デシテックス以下の繊度を有している。特に本実施例1の第2方向の緯挿入糸18は、167デシテックスの繊度を有する2つ糸を引き揃えた状態(すなわち、167デシテックス×2本)で用いられている。このように縫製領域11に配される第2方向の緯挿入糸18の繊度を、面ファスナー領域12に配される第1方向の緯挿入糸17よりも大きくすることによって、縫製領域11の経編組織をしっかりと形成することができ、縫製領域11における編目のずれを生じ難くすることができる。
このような本実施例1の雌型の編成面ファスナー10は、例えば図4に示すような車両用シート1において、表皮材2をクッション部材3に止着する止着部材として使用される。ここで、本実施例1の編成面ファスナー10を表皮材2の縫合部2bに縫着して、表皮材2をクッション部材3に止着する構造について説明する。
図4に示した車両用シート1は、シートクッション(座部)1aとシートバック(背当て部)1bとを有しており、これらのシートクッション1aとシートバック1bとは、それぞれ、所定の形状に成形された樹脂発泡体からなるクッション部材3に、複数の表皮片2aを縫合して得られた表皮材2を組み付けることによって形成されている。また、シートクッション1a及びシートバック1bの表面には、表皮材2の縫合部2bによって構成される意匠溝4が形成されており、また、クッション部材3の意匠溝4に対応する位置には、図5に示すような凹溝5が設けられている。
このような車両用シート1を製造するために、本実施例1の雌型編成面ファスナー10は、クッション部材3に止着する止着部材として、表皮材2の縫合部2bに沿って縫着される。この編成面ファスナー10は、複数の雌係合素子12aを下方に向けるようにして面ファスナー領域12を表皮片2aの端面に接触させるとともに、左右の縫製領域11を表皮片2aに沿って折り曲げることにより、表皮片2aの端部を包み込んでいる。
特に、本実施例1の編成面ファスナー10では、面ファスナー領域12に配される第1方向の緯挿入糸17の繊度を、縫製領域11に配される第2方向の緯挿入糸18の繊度よりも小さくして、面ファスナー領域12と縫製領域11との間で緯挿入糸の繊度を相違させている。これにより、本実施例1の編成面ファスナー10は、面ファスナー領域12と縫製領域11との境界部で折り曲げ易くなるため、表皮材2に取り付ける際に表皮片2aに沿って編成面ファスナー10を折り曲げる作業が行い易くなるとともに、編成面ファスナー10で表皮片2aの端部を安定して包み込むことができる。
更に、本実施例1の編成面ファスナー10は、縫製糸7を用いて2枚の表皮片2aを縫合すると同時に、その縫製糸7によって、編成面ファスナー10の左右の縫製領域1112が、表皮片2aに縫い付けられることによって縫着されている。この場合、編成面ファスナー10の左右の縫製領域11は、太い第2方向の緯挿入糸18が挿入されていることにより、編目の位置がずれ難いしっかりとした経編組織を有しているため、左右の縫製領域11が縫製糸7によって表皮材2の縫合部2bにしっかりと縫着される。
一方、クッション部材3に形成された凹溝5の底部には、複数のフック状の雄係合素子9aを上面側に有する雄型の面ファスナー9が固定されている。この雄型の面ファスナー9は、モールドイン成形によりクッション部材3と一体化されている。
そして、表皮材2の縫合部2bに縫着された雌型の編成面ファスナー10をクッション部材3の凹溝5に挿入し、同編成面ファスナー10の面ファスナー領域12に配したループ状の雌係合素子12aを、クッション部材3に固定した雄型の面ファスナー9の雄係合素子9aと係合させることにより、表皮材2をクッション部材3に容易に止着させて、車両用シート1を製造することができる。
上述のように表皮材2に縫着される本実施例1の雌型編成面ファスナー10では、面ファスナー領域12に配される第1方向の緯挿入糸17が、縫製領域11に配される第2方向の緯挿入糸18よりも小さい繊度を有しており、細く形成されている。このため、面ファスナー領域12に配される第1方向の緯挿入糸17の平均使用量よりも、縫製領域11に配される第2方向の緯挿入糸18の平均使用量が大きく設定されている。
従って、本実施例1の編成面ファスナー10は、例えば面ファスナー領域と縫製領域とに同じ繊度を有する緯挿入糸が用いられている従来の雌型編成面ファスナーに比べて、面ファスナー領域12の安定した係合力を確保しつつ、面ファスナー領域12の柔軟性を高めることができる。また、編成面ファスナー10全体の軽量化や、原単位の低減による生産コストの削減を図ることができる。
また、本実施例1の編成面ファスナー10は、第1方向の緯挿入糸17も第2方向の緯挿入糸18も、編成面ファスナー10の全幅に亘って挿入されておらず、編成面ファスナー10を構成する全列のウェールのうちの半分以下の数のウェールに亘って挿入されている。言い換えると、編成面ファスナー10の全ウェールは、1本の第1方向の緯挿入糸17と2本の第2方向の緯挿入糸18の合計3本の緯挿入糸で連結されている。このため、各ウェールを構成する鎖編糸15の編目の位置が左右方向にずれようとする場合でも、それぞれの編目は、第1方向の緯挿入糸17又は第2方向の緯挿入糸18が配されている領域内でしか動くことができないため、編目の位置ずれを小さく抑えることができる。
更に、編成面ファスナー10に配される第1方向の緯挿入糸17と第2方向の緯挿入糸18の何れもが、編成面ファスナー10を構成する全列のウェールのうちの半数以下のウェールに亘って挿入されることにより、編成面ファスナー10を経編機を用いて編成するときに、経編機による第1及び第2方向の緯挿入糸17,18を挿入する動作を、従来の編成面ファスナー10のように編成面ファスナー10の全幅に振って挿入する場合に比べて小さくすることができるため、編成面ファスナー10の編成工程を効率的に行って、編成時間を短縮することができる。これにより、編成面ファスナー10の生産速度を向上させて、その生産性(生産効率)を高めることができるため、生産コストの更なる削減を図ることができる。
なお、1本の第1方向の緯挿入糸17と2本の第2方向の緯挿入糸18を挿入して本実施例1の編成面ファスナーを編成する経編機は、従来の編成面ファスナーのように緯挿入糸を編成面ファスナーの全幅に振って挿入する経編機に比べて、装置の構造が複雑になることはなく、むしろ、緯挿入糸を編成面ファスナーの全幅に振って挿入するための専用の部品が不要になるため、経編機の構造が簡略化されることもある。
更に、本実施例1の編成面ファスナー10では、縫製領域11に配される第2方向の緯挿入糸18を、面ファスナー領域12にトリコット編糸16とともに配される第1方向の緯挿入糸17よりも太くしたことにより、経編機による編成面ファスナー10の編成時に、左右の縫製領域11の各鎖編糸15(各ウェール)に加えられる張力の大きさと面ファスナー領域12の各鎖編糸15(各ウェール)に加えられる張力の大きさとを略等しくすること、又は、左右の縫製領域11の各鎖編糸15(各ウェール)に加えられる張力の大きさを、面ファスナー領域12の各鎖編糸15(各ウェール)に加えられる張力の大きさよりも大きくすることができる。
これにより、縫製領域11に編み込まれる鎖編糸15の張力が小さいことに起因して、縫製領域11に編み込まれる鎖編の形が崩れること(編崩れ)や、縫製領域11に挿入される緯挿入糸が弛むことを防止できるため、編成面ファスナー10の編成が行い易くなり、また、編成面ファスナー10を円滑に安定して編成することができる。更に、経編機によって編成面ファスナー10を編成した後、編成された面ファスナーを搬送ローラーで送って巻取部で巻き取る際に、搬送ローラーによる送り動作や、巻取部での巻取り動作も円滑に行うことが可能となるため、編成面ファスナー10の製造を、不具合を生じさせることなく安定して行うことができる。
図6は、本実施例2に係る編成面ファスナーの経編組織を示す編組織図である。図7は、同編成面ファスナーにおいて用いられる緯挿入糸の組織図であり、図8は、同編成面ファスナーにおいて用いられる鎖編糸、トリコット編糸、及び緯挿入糸の組織図である。
なお、本実施例2、及び、後述する実施例3及び実施例4において、前述の実施例1で説明した編糸と実質的に同じように編み込まれている編糸については、同じ符号を用いて表すことによってその説明を省略することとする。
本実施例2の編成面ファスナー20は、複数のループ状の雌係合素子を有する面ファスナー領域22と、面ファスナー領域22の左右両側に隣接して配された左右の連結領域23と、左右の連結領域23の更に外側に隣接して配された左右の縫製領域21とを有している。
また、本実施例2の編成面ファスナー20は、22列の鎖編糸15によるウェールを有しており、編成面ファスナー20における一方の側端縁(左側の側端縁)に形成されるウェールを第1ウェールW1とし、その第1ウェールW1に隣接するウェールから、編成面ファスナー20における他方の側端縁(右側の側端縁)に形成されるウェールまでを順番に第2ウェールW2〜第24ウェールW24と規定したときに、面ファスナー領域22は、第8ウェールW8〜第15ウェールW15により形成されており、左側及び右側の縫製領域21は、第1ウェールW1〜第7ウェールW7、及び第16ウェールW16〜第22ウェールW22によりそれぞれ形成されている。
なお、左右の連結領域23は、後述するように、14針間の第1方向の緯挿入糸27aのみによって構成されており、連結領域23に鎖編糸15によるウェールは形成されていない。また本発明において、編成面ファスナー20の中で連結領域23を設ける位置や、連結領域23の大きさ(幅寸法)は、編成面ファスナー20の用途等に応じて任意に変更することができる。
本実施例2の面ファスナー領域22は、各ウェールを形成する鎖編糸15(0−1/1−0)と、互いに隣接する2列のウェールに亘って配されるトリコット編糸16(0−1/2−1)と、連結領域23を跨いで、面ファスナー領域22の全ウェール(すなわち、第8ウェールW8〜第15ウェールW15)と左右の縫製領域21の最も内側のウェール(すなわち、第7ウェールW7及び第16ウェールW16)に亘ってジグザグ状に挿入される1本の第1方向の緯挿入糸27aと、面ファスナー領域22内の2列のウェールに亘ってジグザグ状に挿入される7本の第1方向の緯挿入糸27b(2−2/0−0)によって構成されている。また、この面ファスナー領域22の各トリコット編糸16は、前述の実施例1の場合と同様に、各ウェール間にて、雌係合素子となる多数のループを形成している。
なお、本実施例2においては、連結領域23を跨いで、面ファスナー領域22の全ウェールと左右の縫製領域21の最も内側のウェールとに亘って挿入される1本の第1方向の緯挿入糸27aは、経編機によって編成面ファスナー20を編成する際に、14本の編み針に亘って挿入されるため、当該1本の第1方向の緯挿入糸27aを、14針間の第1方向の緯挿入糸27aと呼ぶこととする。
一方、面ファスナー領域22内の2列のウェールに亘って挿入される7本の第1方向の緯挿入糸27bについては、同様の理由により、2針間の第1方向の緯挿入糸27bと呼ぶこととする。本実施例2の面ファスナー領域22では、鎖編糸15により形成される各ウェールが、トリコット編糸16と2針間の第1方向の緯挿入糸27bとによって、隣接するウェールと連結されており、それによって、ウェール間の間隔が必要以上に大きくならないように規制されている。
本実施例2において、面ファスナー領域22を構成する鎖編糸15、トリコット編糸16、並びに、振り幅が異なる2種類の14針間及び2針間の第1方向の緯挿入糸27a,27bには、何れもポリエステル繊維のマルチフィラメント糸が用いられている。また、14針間及び2針間の第1方向の緯挿入糸27a,27bは、110デシテックス以上990デシテックス以下の繊度を有しており、特に本実施例2では、第1方向の緯挿入糸27aは、330デシテックスの繊度を有する2つ糸を引き揃えた状態(すなわち、330デシテックス×2本)で構成されており、第1方向の緯挿入糸27bは、167デシテックスの繊度を有する1つの糸(167デシテックス×1本)で構成されている。
また、本実施例2では、面ファスナー領域22に配される複数の2針間の第1方向の緯挿入糸27bの繊度を上述のように小さくすることにより、それぞれの2針間の第1方向の緯挿入糸27bが交わる面ファスナー領域22内の鎖編糸15及びトリコット編糸16のニードルループを弛ませることなく形成でき、それによって、面ファスナー領域22の経編組織を安定させることができる。また、トリコット編糸16のニードルループがしまることによって、トリコット編糸16により形成されるループ状の雌係合素子に量感を与えることができるため、本実施例2における面ファスナー領域22に、係合相手である雄型面ファスナーに配された雄係合素子9aを引っ掛かり易くすることができる。
左右の各縫製領域21は、各ウェールを形成する鎖編糸15(0−1/1−0)と、縫製領域21内の全ウェール(すなわち、第1ウェールW1〜第7ウェールW7、又は第16ウェールW16〜第22ウェールW22)に亘って、第1方向の14針間及び2針間の第1方向の緯挿入糸27a,27bに対して、コース間で交差する方向にジグザグ状に挿入される1本の第2方向の緯挿入糸28(0−0/8−8)とによってそれぞれ構成されている。
この場合、面ファスナー領域22に14針間で配される第1方向の緯挿入糸27aと、各縫製領域21に配される第2方向の緯挿入糸28とは、左右の縫製領域21の最も内側の第7ウェールW7と第16ウェールW16上の同じ編目に交絡して、互いに反対方向に折り返されるように配されている。これにより、編成面ファスナー20における第7ウェールW7と第16ウェールW16の相対的な位置が安定し、左右の縫製領域21間の間隔を規制することができる。
本実施例2において、縫製領域21を構成する鎖編糸15、及び、第2方向の緯挿入糸28には、ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸が用いられている。また、縫製領域21に配される鎖編糸15は、面ファスナー領域22に配される鎖編糸15と同じ繊度を有している。
本実施例2の縫製領域21に配される第2方向の緯挿入糸28は、面ファスナー領域22に配される14針間及び2針間の第1方向の緯挿入糸27a,27bよりも大きな繊度を有しており、且つ、167デシテックス以上1320デシテックス以下の繊度を有している。特に本実施例2の第2方向の緯挿入糸28は、300デシテックスの繊度を有する2つ糸を引き揃えた状態(すなわち、300デシテックス×2本)で構成されている。すなわち、本実施例2の面ファスナー領域22に配される第1方向の緯挿入糸27a,27bの平均使用量よりも、縫製領域21に配される第2方向の緯挿入糸28の平均使用量が大きく設定されている。
このように縫製領域21に配される第2方向の緯挿入糸28の繊度を、面ファスナー領域22に配される2種類の第1方向の緯挿入糸27a,27bよりも大きくすることによって、縫製領域21の経編組織をしっかりと形成することができ、縫製領域21における編目のズレを生じ難くすることができる。
面ファスナー領域22と左右の縫製領域21との間を連結する左右の連結領域23は、面ファスナー領域22に挿入される14針間の第1方向の緯挿入糸27aのみによって構成されており、鎖編糸15もトリコット編糸16も編み込まれていない。
このような本実施例2の雌型の編成面ファスナー20は、前述の実施例1における雌型の編成面ファスナー20と同様に、車両用シート1において、表皮材2をクッション部材3に止着する止着部材として使用される。
本実施例2の編成面ファスナー20では、面ファスナー領域22に配される14針間及び2針間の第1方向の緯挿入糸27a,27bが、縫製領域21に配される第2方向の緯挿入糸28よりも小さい繊度を有しているため、前述の実施例1における雌型の編成面ファスナー10と同様に、面ファスナー領域22の安定した係合力を確保しつつ、面ファスナー領域22の柔軟性を高めることができ、また、編成面ファスナー20全体の軽量化や、原単位の低減による生産コストの削減を図ることができる。
また、本実施例2の編成面ファスナー20は、第1方向の緯挿入糸27aも第2方向の緯挿入糸28も、編成面ファスナー20の全幅に亘って挿入されておらず、編成面ファスナー20を構成する全列のウェールのうちの一部の複数列のウェールに亘って挿入されているため、編成面ファスナー20の編成工程を効率的に行って、編成面ファスナー20の生産性(生産効率)を高めることができる。
更に、本実施例2の編成面ファスナー20では、縫製領域21に配される第2方向の緯挿入糸28を、面ファスナー領域22に配される14針間及び2針間の第1方向の緯挿入糸27a,27bよりも太くしたことにより、前述の実施例1における編成面ファスナー10と同様に、編成面ファスナー20の編成時に、縫製領域21の鎖編糸15の張力が小さいことに起因して、縫製領域21に編み込まれる鎖編の形が崩れること(編崩れ)や、縫製領域21に挿入される緯挿入糸が弛むことを防止できるため、編成面ファスナー20を円滑に安定して編成することができる。更には、搬送ローラーによる送り動作や、巻取部での巻取り動作も円滑に行うことも可能となる。
その上、本実施例2の編成面ファスナー20は、面ファスナー領域22と左右の縫製領域21との間に鎖編糸15もトリコット編糸16も配されていない連結領域23を有していることにより、編成面ファスナー20の編成に要する編糸全体の使用量を減らして、編成面ファスナー20を大きく軽量化できるといった効果や、編成面ファスナー20の原単位を大きく低減させて、編成面ファスナー20における生産コスト(特に、材料費)の更なる削減を図ることができるといった効果を得ることができる。
また、本実施例2の編成面ファスナー20に連結領域23が配されていることにより、トリコット編糸16と2針間の第1方向の緯挿入糸27bとによって各ウェールが連結された面ファスナー領域22の全体を、左右の縫製領域21間で左右方向に移動させることが可能となるため、編成面ファスナー20における面ファスナー領域22の左右方向における相対的な位置を容易に調整することができる。
これにより、例えば本実施例2の編成面ファスナー20を、車両用シート1の表皮材2に取り付ける際に(図5を参照)、表皮材2の寸法に多少の誤差が生じても、表皮材2に対する面ファスナー領域22の位置を容易に調整することができるため、表皮片2aの端部の先端に編成面ファスナー20の雌係合素子を安定して配置することが可能となる。
なお、この時の面ファスナー領域22は、2針間の第1方向の緯挿入糸27bによって目ズレしないように固定されているので、安定して面ファスナー領域22の相対的な位置を調整することができる。なお、この2針間の第1方向の緯挿入糸27bは面ファスナー領域22の目ズレ、特にループ間が互いに拡がらないように隣り合う鎖編糸15同士を連結する組織であればなんでも良い。
図9は、本実施例3に係る編成面ファスナーの経編組織を示す編組織図である。図10は、同編成面ファスナーにおいて用いられる第1方向の緯挿入糸の組織図であり、図11は、同編成面ファスナーにおいて用いられる第2方向の緯挿入糸の組織図である。また、図12は、同編成面ファスナーにおいて用いられる第1方向及び第2方向の緯挿入糸の組織図である。
本実施例3の編成面ファスナー30は、複数のループ状の雌係合素子を有する面ファスナー領域32と、面ファスナー領域32の左右両側に隣接して配された左右の縫製領域31とを有している。
また、本実施例3の編成面ファスナー30は、27列の鎖編糸15によるウェールを有しており、編成面ファスナー30における一方の側端縁(左側の側端縁)に形成されるウェールを第1ウェールW1とし、その第1ウェールW1に隣接するウェールから、編成面ファスナー30における他方の側端縁(右側の側端縁)に形成されるウェールまでを順番に第2ウェールW2〜第27ウェールW27と規定したときに、面ファスナー領域32は、第9ウェールW9〜第19ウェールW19により形成されており、左側及び右側の縫製領域31は、第1ウェールW1〜第8ウェールW8、及び第20ウェールW20〜第27ウェールW27により形成されている。
本実施例3の面ファスナー領域32は、各ウェールを形成する鎖編糸15(0−1/1−0)と、互いに隣接する2列のウェールに亘って配されるトリコット編糸16(0−1/2−1)と、面ファスナー領域32内の3列のウェールに亘ってジグザグ状に挿入される第1方向の第1緯挿入糸37a(3−3/0−0)と、面ファスナー領域32内の3列のウェールに亘って第1方向の第1緯挿入糸37aとコース間で交差する方向にジグザグ状に挿入される第2方向の第1緯挿入糸37b(0−0/3−3)とによって構成されている。
本実施例3において、面ファスナー領域32を構成する鎖編糸15、トリコット編糸16、第1方向の第1緯挿入糸37a、及び第2方向の第1緯挿入糸37bには、何れもポリエステル繊維のマルチフィラメント糸が用いられている。また、第1方向及び第2方向の第1緯挿入糸37a,37bは、両方とも110デシテックス以上330デシテックス以下の繊度を有しており、特に本実施例3では、両第1緯挿入糸37a,37bともに、167デシテックスの繊度を有する1つの糸(167デシテックス×1本)で構成されている。
また、本実施例3では、面ファスナー領域32に配される複数の第1方向及び第2方向の第1緯挿入糸37a,37bの繊度を上述のように小さくすることにより、それぞれの第1緯挿入糸37aが交わる面ファスナー領域32内の鎖編糸15及びトリコット編糸16のニードルループを弛ませることなく形成でき、それにより、面ファスナー領域32の経編組織を安定させることができる。また、トリコット編糸16のニードルループがしまることによって、トリコット編糸16により形成されるループ状の雌係合素子に量感を与えることができるため、本実施例3における面ファスナー領域32に、係合相手である雄型面ファスナーに配された雄係合素子を引っ掛かり易くすることができる。
左右の各縫製領域31は、各ウェールを形成する鎖編糸15(0−1/1−0)と、縫製領域31内の3列のウェールに亘ってジグザグ状に挿入される第1方向の第2緯挿入糸38a(3−3/0−0)と、縫製領域31内の3列のウェールに亘って第1方向の第2緯挿入糸38aとコース間で交差する方向にジグザグ状に挿入される第2方向の第2緯挿入糸38b(0−0/3−3)とによって構成されている。
また、本実施例3の編成面ファスナー30では、面ファスナー領域32及び左右の縫製領域31の経編組織において、第1方向の第1又は第2緯挿入糸37a,38aと、第2方向の第1又は第2緯挿入糸37b,38bとが同コースにおいて同時に交絡して互いに反対方向に折り返されるウェール上の編目が綾目状に配されるように、第1方向の第1及び第2緯挿入糸37a,38aと、第2方向の第1及び第2緯挿入糸37b,38bとが、互いに同じ振り幅となるように(言い換えると、第1方向の第1及び第2緯挿入糸37a,38aと、第2方向の第1及び第2緯挿入糸37b,38bが挿入されるウェールの列数が同じになるように)規則的に挿入されている(図10〜図12を参照)。
これにより、面ファスナー領域32及び左右の縫製領域31における編成面ファスナー30の厚さを厚くできるとともに、編成面ファスナー30の経編組織を全体的にしっかりと形成して面ファスナー領域32及び左右の縫製領域31における編目の位置が左右方向にずれることを防止できる。このため、編成面ファスナー30の経編組織を長期に亘って安定して保持することができる。更に、面ファスナー領域32及び左右の縫製領域31に第1方向の第1及び第2緯挿入糸37a,38aと、第2方向の第1及び第2緯挿入糸37b,38bとが効果的に、且つ効率的に配されるため、編成面ファスナー30に使用される緯挿入糸の使用量が抑えられ、編成面ファスナー30の重量が増大することも抑えられる。
なお、本発明の編成面ファスナー30では、第1方向の第1又は第2緯挿入糸37a,38aと、第2方向の第1又は第2緯挿入糸37b,38bとが同コースにおいて同時に交絡して互いに反対方向に折り返されるウェール上の編目を綾目状に配置することが可能であれば、第1方向の第1及び第2緯挿入糸37a,38aと、第2方向の第1及び第2緯挿入糸37b,38bとを、4列又は5列以上のウェールに亘ってジグザグ状に挿入することも可能である。
この場合、経編機による編成面ファスナー30の生産効率や生産速度を考慮すると、各第1緯挿入糸37a,37b及び各第2緯挿入糸38a,38bが挿入されるウェールの列数は、15列以下に、特に10列以下に設定されることが好ましい。更に、得られる編成面ファスナー30の厚さなども考慮すると、各第1緯挿入糸37a,37b及び各第2緯挿入糸38a,38bは、3列又は4列のウェールに亘ってジグザグ状に挿入されることが望ましい。
本実施例3において、縫製領域31を構成する鎖編糸15、第1方向の第2緯挿入糸38a、及び第2方向の第2緯挿入糸38bには、ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸が用いられている。また、縫製領域31に配される鎖編糸15は、面ファスナー領域32に配される鎖編糸15と同じ繊度を有している。
一方、第1方向及び第2方向の第2緯挿入糸38a,38bは、面ファスナー領域32に配される第1方向及び第2方向の第1緯挿入糸37a,37bよりも大きな繊度を有しており、且つ、167デシテックス以上660デシテックス以下の繊度を有している。特に本実施例3における第1方向及び第2方向の第2緯挿入糸38a,38bは、300デシテックスの繊度を有する1つの糸(300デシテックス×1本)で構成されている。すなわち、本実施例3の面ファスナー領域32に配される第1方向及び第2方向の第1緯挿入糸37a,37bの平均使用量よりも、縫製領域31に配される第1方向及び第2方向の第2緯挿入糸38a,38bの平均使用量が大きく設定されている。
このように縫製領域31に配される第1方向及び第2方向の第2緯挿入糸38a,38bの繊度を、面ファスナー領域32に配される第1方向及び第2方向の第1緯挿入糸37a,37bよりも大きくすることによって、縫製領域31の経編組織を更にしっかりと形成することができ、縫製領域31における編目のズレをより生じ難くすることができる。
このような本実施例3の雌型の編成面ファスナー30は、前述の実施例1及び2における編成面ファスナー10,20と同様に、車両用シート1において、表皮材2をクッション部材3に止着する止着部材として使用される。
本実施例3の編成面ファスナー30では、面ファスナー領域32に配される第1方向及び第2方向の第1緯挿入糸37a,37bが、縫製領域31に配される第1方向及び第2方向の第2緯挿入糸38a,38bよりも小さい繊度を有しているため、前述の実施例1及び2における編成面ファスナー10,20と同様に、面ファスナー領域32の安定した係合力を確保しつつ、面ファスナー領域32の柔軟性を高めることができ、また、編成面ファスナー30全体の軽量化や、原単位の低減による生産コストの削減を図ることができる。
また、本実施例3の雌型編成面ファスナー30では、第1方向の第1及び第2緯挿入糸37a,38aも、第2方向の第1及び第2緯挿入糸37b,38bも3列のウェールに亘ってジグザグ状に挿入されており、前述の実施例1における編成面ファスナー10の第1及び第2方向の緯挿入糸17,18よりも、各緯挿入糸の振り幅(挿入されるウェールの列数)を更に小さくしている。これにより、経編機による編成面ファスナー30の編成工程を、前述の実施例1における編成面ファスナー10の場合に比べて、より効率的に行うことが可能となり、編成面ファスナー30の生産性(生産効率)を一層高めることができる。
更に、本実施例3の編成面ファスナー30では、縫製領域31に配される第1方向及び第2方向の第2緯挿入糸38a,38bを、面ファスナー領域32に配される第1方向及び第2方向の第1緯挿入糸37a,37bよりも太くしたことにより、前述の実施例1及び2における編成面ファスナー10,20と同様に、編成面ファスナー30の編成時に縫製領域31の鎖編糸15の張力が小さいことに起因して、縫製領域31に編み込まれる鎖編の形が崩れること(編崩れ)や、縫製領域31に挿入される緯挿入糸が弛むことを防止でき、また、搬送ローラーによる送り動作や、巻取部での巻取り動作も円滑に行うことも可能となる。
図13は、本実施例4に係る編成面ファスナーの経編組織を示す編組織図であり、図14は、同編成面ファスナーにおいて用いられる緯挿入糸の組織図である。また、図15は、同編成面ファスナーにおいて用いられる第1方向の緯挿入糸の組織図であり、図16は、同編成面ファスナーにおいて用いられる第2方向の緯挿入糸の組織図である。
本実施例4の編成面ファスナー40は、複数のループ状の雌係合素子を有する面ファスナー領域42と、面ファスナー領域42の左右両側に隣接して配された左右の縫製領域41とを有している。
また、本実施例4の編成面ファスナー40は、前述の実施例3における編成面ファスナー30と同様に、27列の鎖編糸15によるウェールを有しているものの、この編成面ファスナー40の面ファスナー領域42は、第8ウェールW8〜第20ウェールW20により形成されており、左側及び右側の縫製領域41は、第1ウェールW1〜第7ウェールW7、及び第21ウェールW21〜第27ウェールW27により形成されている。
本実施例4の面ファスナー領域42は、各ウェールを形成する鎖編糸15(0−1/1−0)と、互いに隣接する2列のウェールに亘って配されるトリコット編糸16(0−1/2−1)と、面ファスナー領域42内の2列のウェールに亘ってジグザグ状に挿入される第1方向の第1緯挿入糸47(2−2/0−0)とによって構成されている。
本実施例4において、面ファスナー領域42を構成する鎖編糸15、トリコット編糸16、及び第1方向の第1緯挿入糸47には、何れもポリエステル繊維のマルチフィラメント糸が用いられている。また、第1方向の第1緯挿入糸47は、110デシテックス以上330デシテックス以下の繊度を有しており、特に本実施例4では、167デシテックスの繊度を有する1つの糸(167デシテックス×1本)で構成されている。
左右の各縫製領域41は、各ウェールを形成する鎖編糸15(0−1/1−0)と、縫製領域41内の3列のウェールに亘ってジグザグ状に挿入される第1方向の第2緯挿入糸48a(3−3/0−0)と、縫製領域41内の3列のウェールに亘って第1方向の第1緯挿入糸47とコース間で交差する方向にジグザグ状に挿入される第2方向の第2緯挿入糸48b(0−0/3−3)とによって構成されている。
この場合、縫製領域41の経編組織では、第1方向の第2緯挿入糸48aと、第2方向の第2緯挿入糸48bとが同時に交絡して互いに反対方向に折り返されるウェール上の編目が綾目状に配されるように、第1方向の第2緯挿入糸48aと、第2方向の第2緯挿入糸48bとが、互いに同じ振り幅となるように規則的に挿入されている。
これにより、左右の縫製領域41における編成面ファスナー40の厚さを厚くできるとともに、縫製領域41の経編組織をしっかりと形成できるため、編目の位置がずれ難くなる。なお、本発明では、第1方向及び第2方向の第2緯挿入糸48a,48bを、4列又は5列以上のウェールに亘ってジグザグ状に挿入することも可能である。
また、縫製領域41を構成する鎖編糸15、第1方向の第2緯挿入糸48a、及び第2方向の第2緯挿入糸48bには、ポリエステル繊維のマルチフィラメント糸が用いられている。更に、縫製領域41に配される鎖編糸15は、面ファスナー領域42に配される鎖編糸15と同じ繊度を有している。
一方、第1方向及び第2方向の第2緯挿入糸48a,48bは、面ファスナー領域42に配される第1方向の第1緯挿入糸47よりも大きな繊度を有しており、且つ、167デシテックス以上660デシテックス以下の繊度を有している。特に本実施例4における第1方向及び第2方向の第2緯挿入糸48a,48bは、330デシテックスの繊度を有する1つの糸(330デシテックス×1本)で構成されている。この場合、面ファスナー領域42に配される緯挿入糸の平均使用量よりも、縫製領域41に配される緯挿入糸の平均使用量が大きく設定されている。
このような本実施例4の雌型の編成面ファスナー40は、前述の実施例1〜3における編成面ファスナー10〜30と同様に、車両用シート1において、表皮材2をクッション部材3に止着する止着部材として使用される。
本実施例4の編成面ファスナー40では、面ファスナー領域42に2針間で配される第1方向の第1緯挿入糸47が、縫製領域41に配される第1方向及び第2方向の第2緯挿入糸48a,48bよりも小さい繊度を有しているため、前述の実施例1〜3における編成面ファスナー10〜30と同様に、面ファスナー領域42の安定した係合力を確保しつつ、面ファスナー領域42の柔軟性を高めるとともに面ファスナー領域42を薄く形成することができる。また、編成面ファスナー40全体の軽量化や、原単位の低減による生産コストの削減を図ることもできる。
特に、本実施例4の編成面ファスナー40では、面ファスナー領域42に挿入される第1方向の第1緯挿入糸47の振り幅を2ウェールにしたことにより、例えば面ファスナー領域42に挿入される第1方向の第1緯挿入糸47の振り幅を3ウェール以上にした場合に比べて、面ファスナー領域42の柔軟性や伸縮性をより高めるとともに、面ファスナー領域42を編成面ファスナー40の表裏方向に曲げ易く構成することができる。
これにより、例えば本実施例4の編成面ファスナー40を、車両用シート1の表皮材2に取り付ける際に(図5を参照)、表皮材2の寸法に多少の誤差が生じても、表皮材2に対する面ファスナー領域42の位置を合わせ易くなるため、表皮片2aの端部の先端に編成面ファスナー40の雌係合素子を安定して配置することが可能となる。一方、縫製領域41は、面ファスナー領域42よりも伸縮性はなく、あえて伸縮性の無いような経編組織としているので、左右の縫製領域11が縫製糸7によって表皮材2の縫合部2bにしっかりと縫着される。
また、本実施例4の雌型編成面ファスナー40では、面ファスナー領域42に配される第1方向の第1緯挿入糸47が2列のウェールに亘ってジグザグ状に挿入されているとともに、縫製領域41に配される第1方向及び第2方向の第2緯挿入糸48a,48bが3列のウェールに亘ってジグザグ状に挿入されており、前述の実施例1における編成面ファスナー10の第1及び第2方向の緯挿入糸17,18よりも、各緯挿入糸の振り幅を小さくしている。これにより、経編機による編成面ファスナー40の編成工程を、前述の実施例1における編成面ファスナー10の場合に比べて、より効率的に行うことが可能となり、編成面ファスナー40の生産性(生産効率)を一層高めることができる。
更に、本実施例4の編成面ファスナー40では、縫製領域41に配される第1方向及び第2方向の第2緯挿入糸48a,48bを、面ファスナー領域42に配される第1方向の第1緯挿入糸47よりも太くしたことにより、前述の実施例1〜3における編成面ファスナー10〜30と同様に、編成面ファスナー40の編成時に縫製領域41の鎖編糸15の張力が小さいことに起因して、縫製領域41に編み込まれる鎖編の形が崩れることや、縫製領域41に挿入される緯挿入糸が弛むことを防止でき、また、搬送ローラーによる送り動作や、巻取部での巻取り動作も円滑に行うことも可能となる。