JP6007426B2 - 清酒の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、清酒の製造方法に関する。
近年、酒類や食品などのラベル表示の誤記載や不当表示などによって、消費者の安全性に対する不安が増大している。
このため、飲食品の内容物を直接確認することによって、この飲食品に使用している原材料の由来を確認したり、また、この飲食品のラベル表示の信頼性を担保する技術が求められている。
このような目的のために、簡便且つ正確に酒類や食品などの飲食品の産地判別や原材料の識別が可能な技術として、例えば、清酒酵母のAWA1遺伝子を指標にして清酒酵母の同定や判別を行うことの提案(非特許文献2)、また、互いに極近縁である各種の清酒酵母同士を識別するために、ゲノムの一塩基多形型(SNPs)領域を抽出して遺伝子増幅することの提案(非特許文献3)がある。
また、同様に、清酒やビールの醸造に用いる近種の酵母を判別するために、酵母の種々の特定の遺伝子領域に対して特有のプライマー対を用いて遺伝子増幅する方法が多数提案されており、例えば、特許文献1には、ビール酵母の同一染色体上でSaccharomyces cerevisiae型塩基配列とSaccharomyces bayanus型塩基配列との組換えが起こっている箇所を含む領域を特異的に増幅するプライマー対を用いて核酸増幅を行って、ビール酵母菌株を判別する技術の開示があり、また、特許文献2には、醸造用酵母のFLO5遺伝子,YHR213W遺伝子又はYAR062W遺伝子を含むDNA遺伝子を増幅させるプライマーを用いて、醸造用酵母の判別を行うことが示されている。また、特許文献3には酵母のトランスポゾンを利用し所定の遺伝子領域を核酸増幅するプライマーを用いることの開示があり、また、特許文献4には、多形を示す遺伝子を検出するプライマーセットの詳細が開示されて、このプライマーを用いて酵母の菌株の同定を行うことの開示があり、更に、特許文献5〜8にも酵母のその他の特異的な遺伝子領域を利用して酵母の同定や判別を行えることが開示されている。
上述の非特許文献2には清酒酵母間の差異を区別し易いAWA1遺伝子を利用することにより酵母の判別を行えることの開示があり、また、非特許文献3には、ゲノムDNAの一塩基多形型(SNPs)解析によってきょうかい清酒酵母の判別が可能であることが示され、更に、特許文献1〜8にも同様に、限定した酵母間の特定部位の塩基配列が多様性を有することを利用した酵母の識別法の開示されており、これらも産地判別や原材料の識別を目標にしている。
これら特許文献1〜8及び非特許文献2及び3のいずれの技術も相同でありながら多形を有する遺伝子部分を見出すことにより酵母の菌株を識別する方法であるが、適用できる酵母や検出方法が限定され、飲食品の製造用の酵母には適用し難いという問題がある。また、これらいずれの検出方法も飲食品の内容物の組成と、この飲食品を入れる容器や袋に貼付するラベル表示の内容との一致性、同一性を保証するものではなかった。
一方、簡便且つ正確に酒類や食品などの飲食品の産地判別や原材料の識別が可能な核酸解析技術による判別法として、酵母のFAS2遺伝子にセレルニン耐性を付与することでこの遺伝子部分を変異させ、この変異部分を酵母の識別に利用することの提案(非特許文献1)もある。
特開2008−245636号公報 特開2008−193904号公報 特開2007−181438号公報 特開2007−082431号公報 特開2006−340671号公報 特開2005−027527号公報 特開2004−329086号公報 特開2003−245077号公報
Akada R. et al., J. Biosci. Bioeng., Vol.92, p.189-192, 2001. 岸ら,"PCR-DGGE法による清酒もろみ中の清酒酵母の判別",第62回日本生物工学会大会 講演要旨集(平成22年度), p.43, 2010.10. 蓮田ら,"ゲノムDNAの一塩基多形型解析によるきょうかい清酒酵母の判別", 日本醸造協会誌(J. Brew. Soc. Japan), Vol.106, p.706, 2011.
しかしながら、非特許文献1のAkadaらの方法は、セレルニン耐性の付与による酵母のFAS2遺伝子の変異部位を利用した判別法であるが、酵母にFAS2遺伝子を導入すると、この酵母はカプロン酸エチル高生産性になるため、製品の品質に影響を及ぼし品質の維持管理が困難になるという問題があった。
また、上述した特許文献及び非特許文献によるいずれの従来方法でも、同一種或いは近縁種の酵母同士を識別することは極めて困難であり、即ち、従来の遺伝子の多形の性質を識別に利用する方法では、きょうかい7号酵母と、きょうかい9号酵母とを識別することは可能であるが、例えば、選抜した時期や場所が異なるきょうかい7号酵母同士及びきょうかい9号酵母同士のより正確な属性の分類や識別には利用できず、酵母のより詳細な性質や機能などの属性の識別に利用することは困難であった。
本発明は、酵母の同一性を容易に判別せしめる手段を提供して、酵母を用いて製造する飲食品の品質及び信頼性を向上させることを目的とする。
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
清酒酵母をカナバニン、アルギニン及びオルニチンを含有する選択培地で培養し該清酒酵母のアルギナーゼ遺伝子を変異せしめてアルギナーゼ欠損酵母を得、このアルギナーゼ欠損酵母のアルギナーゼ遺伝子の塩基配列を確知し、この既知となった前記塩基配列に識別情報を関連付け、この識別情報が関連付けられたアルギナーゼ欠損酵母を用いて清酒を製造することを特徴とする清酒の製造方法に係るものである。
また、請求項1記載の清酒の製造方法であって、前記識別情報は、酵母の種類、選抜時期及び選抜場所の少なくともいずれか一つを含む同一性判別用管理情報と、製造場所、製造時期、製造ロット、製造履歴、製品種別及び製造者の少なくともいずれか一つを含む製造用管理情報のいずれか一方若しくは双方であることを特徴とする清酒の製造方法に係るものである。
また、請求項1,2いずれか1項に記載の清酒の製造方法であって、前記アルギナーゼ欠損酵母は、変異前のアルギナーゼ遺伝子の塩基配列中に存在する反復数2〜5の4塩基〜10塩基から成る反復配列内の塩基が、2塩基以上欠失若しくは1塩基置換したアルギナーゼ欠損酵母であることを特徴とする清酒の製造方法に係るものである。
本発明は上述のように構成して、酵母の所定の遺伝子を変異させて、酵母の同一性判定に際しての識別情報を付与したから、酵母の識別性が向上して酵母の同一性判別が容易な飲食品製造用酵母になり、従来、遺伝子の相同且つ多形な部分を見出して酵母の菌株を識別するしかなかったのに対して、本発明は、酵母の所定の遺伝子に変異を生じさせることにより、変異した部分を簡単迅速に検出できるようにすると共に、この変異を酵母の識別情報として付与したことによって酵母を簡易に識別できることになる。即ち、酵母の所定の遺伝子に識別情報を付与することによって飲食品の製造に用いる酵母の同一性を簡易に判別できることになるから、酵母を用いて製造した飲食品の酵母の所定の遺伝子からこの識別情報を判別することによって所定の飲食品製造用酵母を用いて製造した飲食品か否かが直ちに判定できることになる。
しかも、本発明は、この変異させた所定の遺伝子を、飲食品の製造において発現させる必要のない遺伝子としたから、この遺伝子が発現しなくとも飲食品を製造でき、この酵母を用いて製造した飲食品の品質の低下を可及的に低減できることになる。
また、変異させた遺伝子の塩基配列パターンを識別情報として付与し、この識別情報を酵母の分類識別用の管理情報と関連付けて用いる場合には、酵母の性質や機能別に詳細に分類することが可能となり、酵母の性質や機能が同一の酵母か否かを一層厳密且つ容易に判別できるようになるから、この酵母を用いて飲食品を製造した場合、酵母の均一性をより高く維持した酵母を使用できることになり、それ故、飲食品製造時の酵母が有する醸造特性や発酵特性がより一層安定化し、この酵母を用いて製造する飲食品の品質の安定化や品質の向上に寄与できることになる。また、この識別情報をこの酵母を用いて製造する飲食品の製造用の管理情報に関連付けて用いる場合には、この飲食品製造用酵母を用いて製造した飲食品の製造情報を酵母自体に付与できることになるから、酵母を用いて製造した飲食品の酵母の所定の遺伝子から識別情報を判別することによって、この飲食品の製造由来が判別可能になり、この飲食品製造用酵母を用いて製造した飲食品の信頼性を向上することが可能になる。
また、酵母の同一性判別が容易な飲食品製造用酵母を用いて製造した飲食品は、この飲食品の製造において発現させる必要のない遺伝子を変異させた酵母を用いるから、この遺伝子が発現しなくとも飲食品を製造でき、従って、この酵母の醸造特性や発酵特性の劣化や低下の少ない良好な品質な飲食品になる。しかも、この飲食品の製造に用いた酵母の所定の遺伝子を判別することによってこの酵母の識別情報を確認できるから、この飲食品の由来を正確に把握することが可能になる。そこで、例えば、この識別情報をこの酵母を用いて製造する飲食品の製造用の管理情報に関連付けた場合には、製造に用いた酵母の由来を判別が可能となり飲食品のトレーサビリティを向上することができてこの飲食品の信頼性を高めることが可能になる。また、識別情報をこのような酵母の分類識別用の管理情報と関連付けて用いる場合には、酵母の分類をより正確に行えることになるから、例えば、酵母純度測定等の製造管理(微生物管理)を迅速かつ簡便に行うことが可能となるため、酵母を用いて製造する飲食品の製造過程における、例えば、酒母や醪中の酵母純度をこれまでよりも高く維持できることになってこれら飲食品の製造工程の安定性が向上し、この酵母を用いて製造した飲食品の品質を安定化させることもできる。
また、酵母を用いて製造した飲食品中から酵母若しくは酵母核酸を取得して、この酵母の所定の遺伝子の塩基配列パターンが、予め設定した酵母、即ち、酵母の同一性判別が容易な飲食品製造用酵母の所定の遺伝子の塩基配列パターンと一致するか否かを判定し、一致した場合には、前記飲食品製造用酵母で製造した飲食品であると判別するだけで済むから、この飲食品の由来を容易に判別することが可能となり、この飲食品のトレーサビリティを向上することができ、この飲食品の製品としての信頼性を高めることが可能になる。また、この所定の飲食品製造用酵母を用いていない飲食品の判別が可能となり、例えば、飲食品の真贋判別も可能になって、製品ラベル表示の信頼性を高める効果を生ずる。また、酵母の識別情報を酵母の所定の遺伝子に付与した飲食品製造用酵母では、酵母のより微細な性質や機能などの属性の精密な分類識別が容易に行えて、この酵母を用いた飲食品の品質を一定に保つことが容易になり、製品品質の安定化や向上に寄与できる、飲食品の製造に用いた酵母の同一性判別方法になる。
本実施例に係る各種酵母のアルギナーゼ遺伝子(1位〜480位)の塩基配列パターンである。 本実施例に係る各種酵母のアルギナーゼ遺伝子(481位〜960位)の塩基配列パターンである。 本実施例に係る各種酵母のアルギナーゼ遺伝子(961位〜1002位)の塩基配列パターンである。 本実施例に係る実験3による飲食品製造用酵母(G74NFarg1)の塩基配列解析の説明図である。 本実施例に係る実験3による飲食品製造用酵母(G74NFarg2)の塩基配列解析の説明図である。 本実施例に係る実験3による飲食品製造用酵母(G74NFarg3)の塩基配列解析の説明図である。 本実施例に係る実験3による飲食品製造用酵母(G74NFarg4)の塩基配列解析の説明図である。 本実施例に係る実験3による飲食品製造用酵母を複数混合した際の酵母の塩基配列解析の説明図である。 本実施例に係る実験4による清酒醪中の酵母を判別する電気泳動パターンである。 本実施例に係る実験4による製成酒中の酵母を判別する電気泳動パターンである。 本実施例に係る実験5の試料の電気泳動パターンである。
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
本発明の酵母の同一性判別が容易な飲食品製造用酵母(以下、単に、「飲食品製造用酵母」と記す。)は、酵母の所定の遺伝子を変異させて、酵母の同一性判定に際しての識別情報を付与した酵母であり、酵母の所定の遺伝子を変異させて酵母に識別情報を付与したから、酵母の識別性が向上して酵母の同一性判別が容易な飲食品製造用酵母になり、従来、遺伝子の相同且つ多形な部分を見出して酵母の菌株を識別するしかなかったのに対して、本発明は、所定の遺伝子に変異を生じさせることにより、変異した部分を簡単迅速に検出できるようにすると共に、この変異を酵母の識別情報として付与したことによって酵母を簡易に識別できることになる。従って、例えば、酵母を用いて製造した飲食品の酵母の所定の遺伝子から識別情報を判別することによって所定の飲食品製造用酵母を用いて製造した飲食品か否かが直ちに判定できることになる。
しかも、この変異させた所定の遺伝子は、飲食品製造において発現させる必要のない遺伝子としたから、この遺伝子が発現しなくとも飲食品を製造でき、この酵母を用いて製造した飲食品の品質の低下を可及的に低減できることになり、例えば、酵母の醸造特性や発酵特性の劣化を可及的に低減した飲食品が製造できることになる。
従って、例えば、この識別情報をこの酵母を用いて製造する飲食品の製造用の管理情報に関連付けて用いる場合には、この飲食品製造用酵母を用いて製造した飲食品の製造情報を酵母自体に付与したことになるから、酵母を用いて製造した飲食品から酵母若しくは酵母核酸を取得してこの酵母の所定の遺伝子から識別情報を判別することによって、この飲食品の製造由来をも判別可能になり所定の飲食品製造用酵母を用いて製造した飲食品か否かが直ちに判定できることになって、その飲食品のトレーサビリティを向上させてこの飲食品の信頼性も向上できることが可能となる。
また、例えば、変異した遺伝子の塩基配列パターンを識別情報として付与すると共に、酵母の性質や機能などの属性によって異なった識別情報を付与して、この識別情報をこのような酵母の分類識別用の管理情報と関連付けて用いる場合には、酵母の性質や機能別に酵母を詳細に分類することが可能となり、同一の性質や機能を有する酵母を一層厳密に分類できると共に極めて容易に判別できることになる。よって、このように精密に分類された飲食品製造用酵母を用いて飲食品を製造すると、この酵母を用いて製造した飲食品の品質の安定化や向上に寄与できることになる。
また、本発明の飲食品によれば、酒類や各種食品などの飲食品の製造に用いる酵母として、飲食品の製造において発現させる必要のない遺伝子としたから、この遺伝子が発現しなくとも飲食品を製造でき、例えば、醸造特性や発酵特性の劣化や低下が可及的に少ない飲食品の製造を行うことができる。しかも、飲食品の製造に用いた酵母の所定の遺伝子を判別することによってこの酵母の識別情報を確認できるから、この飲食品の由来を正確に把握することが可能になる。そこで、例えば、この識別情報をこの酵母を用いて製造する飲食品の製造用の管理情報に関連付けた場合には、製造に用いた酵母の由来を判別が可能となり飲食品のトレーサビリティを向上することができてこの飲食品の信頼性を高めることが可能になり、例えば、本発明の飲食品製造用酵母を用いずに製造された飲食品と区別することが可能となって製品としての飲食品の識別性を向上させることができる。また、識別情報をこのような酵母の分類識別用の管理情報と関連付けて用いる場合には、酵母の属性や分類をより正確に行えることになるから、他の酵母との識別性にも優れるのみならず、例えば、酵母の性質や機能が均一に揃って酵母純度を一層高く維持することが可能となるため、これら飲食品の製造工程の安定性が向上し、従って、この酵母を用いて製造した飲食品の品質を一定に保つことが更に容易になって、製造した飲食品の品質を安定化したり品質を向上することに寄与できることになる。
また、本発明の飲食品の製造に用いた酵母の同一性判別方法(以下、単に、「酵母の同一性判別方法」と記す。)によれば、酵母を用いて製造した、例えば、流通品である飲食品から酵母若しくは酵母核酸を取得して、この酵母の遺伝子の塩基配列パターンが、飲食品の製造時に予め設定した飲食品製造用酵母の識別情報に対応させた塩基配列パターンと一致するか否かを判定し、一致した場合には、前記飲食品製造用酵母で製造した飲食品であると判別して、この飲食品の由来を容易に判別することが可能となり、この飲食品のトレーサビリティを向上することができてこの飲食品の製品としての信頼性を高めることが可能になると共に、所定の酵母を用いていない飲食品の判別が可能となり、例えば、飲食品の真贋判別も可能になって、飲食品の流通過程における品質確認を行うことが可能となり、また、製品ラベル表示の信頼性を高めて製品の信頼性を高める効果を生ずる。また、酵母の分類識別用の管理情報を酵母の所定の遺伝子に識別情報として付与した飲食品製造用酵母を用いた場合には、酵母のより微細な性質や機能などの属性の精密な分類識別が容易になり、また、この酵母を用いた飲食品の品質を一定に保つことが容易になって製品品質の安定化や向上に寄与できる、飲食品の製造に用いた酵母の同一性判別方法になる。
本発明者らは、清酒酵母のアルギナーゼ遺伝子(CAR1若しくはYPL111W)に変異を付与すると、アルギナーゼ遺伝子産物が所定の機能を欠損してアルギナーゼ欠損酵母(即ち、アルギナーゼ遺伝子が変異してアルギニンを代謝する能力の無い若しくは低下した、尿素非生産性酵母)が得られ、この酵母は酒類製造では醸造特性に影響を与えないという知見(北本ら, J. Brew. Soc. Japan, Vol.87, p.602-607, 1992)を利用し、また、カナバニン、アルギニン及びオルニチンを含むCAO培地(特公平6−97993号公報)から取得したアルギナーゼ欠損酵母のアルギナーゼ遺伝子には塩基のランダムな置換や欠損が見られて変異部位や変異の種類に多様性があることを見出し、この変異の多様性を用いると、特定のアルギナーゼ欠損酵母そのものの個体識別に利用できることを見出すと共に、これにより醸造特性などの品質に影響を与えないで酵母の同一性の判別に利用可能となることを見出し、また、これらの変異の夫々に対応した変異部位を検出する検出用プライマーを使用した簡便かつ迅速な検出系も設計できることも確認できたことによって、本発明を完成した。
詳細には、この酵母のアルギナーゼ遺伝子は約1000塩基長であることを確認して、上述の変異がランダムに発生した場合には、変異の組合せ数は、41000個、即ち、10602個以上存在し得る(また、一塩基の置換のみとしても1000パターンが存在し得る)から、この配列パターンを識別情報、具体的には、酒類や食品など飲食品の製造用の管理情報、若しくは、従来同一発酵特性の同一種や同一株とされていた酵母の個体の属性を更に識別分類する管理情報として用いることができ、また、製造用の管理情報として、例えば、製造地域毎や酒造場毎、或いは、酒の種類毎に割り当てることが可能であるとの考えに至ったものである。
そこで、例えば、酵母のアルギナーゼ遺伝子に変異を付与し、この変異した酵母を飲食品の識別情報、例えば、飲食品の製造場所、製造時期、製造ロット、製品種別或いは製造者の少なくともいずれかを含む製造用の管理情報として割り当て、この製造管理単位ごとに同一の変異のアルギナーゼ遺伝子を有する酵母を用いて製品を製造すると、この飲食品を製造する酵母そのものに、遺伝子の塩基によって4進符号化した識別情報、即ち、製造管理情報を付与できると共に、このアルギナーゼ遺伝子が変異した酵母は発酵特性を損なわずに尿素非生産酵母になるため、極めて良質な飲食品を得ることができることになる。
更に、本発明者らは、所定の遺伝子に変異が付与されると、この遺伝子の遺伝子産物の所定の機能が失われて欠損すると共に、発酵特性への影響がない酵母の遺伝子として、上述のアルギナーゼ遺伝子(CAR1若しくはYPL111W)の他、酸性フォスファターゼ遺伝子(PHO3若しくはYBR092C)の存在も確認し、この遺伝子領域を変異させた酵母を、この酵母を用いて製造する飲食品の製造情報を備えた担体として機能させることができることも見出している。
本発明者らは、既に、この酸性フォスファターゼ活性の有無を利用して、特定の清酒酵母と、清酒酵母以外の酵母とを判別する方法を開発している(特許第4627972号)が、清酒酵母は上述の酸性フォスファターゼ遺伝子(PHO5遺伝子の下流にPHO3遺伝子が融合した融合遺伝子を形成している。)が変異して、醸造特性や発酵特性を維持した状態で酸性フォスファターゼ活性が失活しているから、アルギナーゼ遺伝子と同様、例えば、酸性フォスファターゼを有する清酒酵母(きょうかい8号、リンゴ酸高生産性多酸酵母No.28など)の酸性フォスファターゼ遺伝子を変異させて、この遺伝子領域に飲食品の製造情報若しくは酵母の識別情報を付与できることを見出した。
なお、本発明に用いる酵母は、例えば、清酒酵母(日本醸造協会きょうかい7号酵母、きょうかい9号酵母、きょうかい10号酵母、高エステル生成酵母1701号、高エステル生成酵母1801号など)、ワイン酵母(日本醸造協会ブドウ酒1号酵母、同ブドウ酒3号酵母、同ブドウ酒4号酵母など)、ビール酵母、パン酵母などのアルコール飲料や食品の製造に常用される、主にサッカロマイセス属セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母をいう。
これらの異種の酵母間の判別は従来から行われているが、同一株に属する酵母の判別は極めて困難であった。酵母の識別情報に対応した変異をこの酵母の所定の遺伝子に付与する本発明を用いると、同一種に属する酵母、例えば、きょうかい7号酵母同士、きょうかい8号酵母同士であっても、遺伝子解析や選抜により分離した酵母個体にこの個体固有の識別情報をマーカーとして付与できることになる。従って、この識別情報を目印とすることにより取得した酵母を容易に識別することができるから、酵母の識別や管理が極めて容易になると共にこの酵母を用いた飲食品の管理も容易になって製品品質の安定化や品質の向上も可能になる。
また、これらの酵母に対して自然変異処理、突然変異処理若しくは遺伝子組換え処理して酵母の所定の遺伝子に変異を付与すればよい。
また、酵母は特別に人工的に変異処理を施さなくともある程度の確率で自然に変異を引き起こすので、このような自然変異によっても目的の所定の遺伝子に変異を引き起こすことが可能である。従って、例えば、アルギナーゼ欠損酵母は、酵母を前述のCAO培地(カナバニン,アルギニン及びオルニチンを含む培地)で自然変異処理させ、北本らによる酵母菌体内のアルギナーゼ活性の測定法(Kitamoto K. et al, J. Ferment. Bioeng., Vol.75, p.359-363, 1993)、若しくは、オルニチン培地とアルギニン培地を用いた検定方法(北本ら, J. Brew. Soc. Japan, Vol.87, p.598-601, 1992)を用いて、アルギナーゼ活性のない若しくは低減した酵母、即ちアルギナーゼ欠損酵母を得ることができる。
また、突然変異による方法としては、物理的手段による方法として、例えば、紫外線照射や放射線照射などによる方法、化学的手段による方法として、エチルメタンスルホン酸(EMS)や、N-メチルN'-ニトロ-N−ニトロソグアニジン(NTG)などの変異剤の溶液に菌体を懸濁する方法があり、これらの方法を単独又は組み合わせて適宜実施できる。
以上のように変異処理した酵母の変異状態の確認は、化学分解法(Maxam & Gilbert法)及びチェーンターミネータ法(Sangerジデオキシ法)などによって、この酵母の所定の遺伝子の塩基配列解析を行って、この塩基配列を、変異のない所定の遺伝子のデータベースの遺伝子配列と比較して、変異個所を判定し、所定の遺伝子に一塩基以上の塩基の挿入若しくは欠失若しくは置換が一個所以上ある酵母を選んで、所定の遺伝子に変異が付加された酵母とすることができる。
例えば、アルギナーゼ遺伝子の場合、アルギナーゼ遺伝子内の塩基配列解析を行い、欠損前のアルギナーゼ遺伝子の塩基配列や、Roberta A.らの報告(Roberta A. et al.,J. Bacteriol., Vol.103, p.1079-1087, 1984)や、遺伝子データベース(清酒酵母ゲノムの場合、Sake Yeast Genome Database (http://nribf1.nrib.go.jp/SYGD/)のSYGD ID:e8011600201(Systematic Name:K7_YPL111W) )に登録されている塩基配列と、アルギナーゼ遺伝子を変異させた酵母のアルギナーゼ遺伝子の塩基配列とを比較して変異個所を判定し、所定のアルギナーゼ遺伝子に一塩基以上の塩基の挿入、欠失、置換が一個所以上ある酵母を選んで、アルギナーゼ遺伝子に変異が生じて欠損した特定のアルギナーゼ欠損酵母とすればよい。なお、アルギナーゼの欠損をアルギナーゼ遺伝子の塩基配列のみから判定して特定のアルギナーゼ欠損酵母としてもよい。
本発明は、酵母のこの所定の遺伝子を飲食品の製造用の管理情報若しくは酵母の分類識別用の管理情報を保持する情報記録領域としたものといえる。また、この遺伝子を変異させた酵母を用いて飲食品を製造する際、上記の所定の遺伝子を変異させて製造用の管理情報や分類識別用の管理情報を付与した酵母だけを使って飲食品を製造してもよいが、通常のきょうかい酵母など、所定の遺伝子に変異を生じていない酵母を用いて製造した酒類若しくは食品に、本発明の、所定の遺伝子を変異させて飲食品製造用の管理情報や酵母の分類識別用の管理情報を付与した飲食品製造用酵母を予め設定した適宜な量だけ添加するようにしてもよいし、管理情報の異なる複数種類の飲食品製造用酵母を用いるようにしてもよい。
また、飲食品から取得した酵母の遺伝子の核酸増幅は、所定の遺伝子領域に結合して特異的にアニーリングする、フォワードプライマー及びリバースプライマーからなる少なくとも一対のプライマーを用いて、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法、等温遺伝子増幅(ICAN)法、SDA(Strand displacement amplification)法などによって行えばよい。
この核酸増幅によって得た遺伝子の塩基配列パターンを、予め設定した酵母の識別情報に対応させたパターンと比較することにより、飲食品に含まれている酵母が、所定の遺伝子を有する酵母か否か、更に、所定の酵母である場合には、この酵母の所定の遺伝子から、例えば、その飲食品の製造用の管理情報や、酵母の分類識別用の管理情報を得ることができる。
従って、本発明は、飲食品の製造に用いる酵母の遺伝子にこの飲食品若しくは酵母の識別情報を付与するから、酵母を用いて製造した適宜な飲食品中から酵母を取得して、この酵母の所定の遺伝子から予め設定した飲食品や酵母の識別情報が検出されるか否か、またその内容から該飲食品や酵母の由来を判別することができることになるから製品としての飲食品のトレーサビリティを向上することができて製品の信頼性を高めることが可能になると共に、所定の酵母を用いていない飲食品の判別が可能であるから、例えば、製品の真贋判別も可能になって、製品ラベル表示の信頼性を高める効果も生ずる。
また、酵母のより詳細な性質や醸造特性や発酵特性などの属性の識別分類が可能になるから、例えば、酵母純度測定等の製造管理(微生物管理)を迅速かつ簡便に行うことが可能となるため、酒母や醪といった酵母を用いて製造する飲食品の製造過程における酵母純度をこれまでよりも高く維持できることになるから、これら飲食品の製造工程の安定性が向上し、この酵母を用いて製造した飲食品の品質を一定に保つことも容易になり、製品品質の安定化や向上にも寄与できることになる。
なお、本発明の飲食品製造用酵母を用いて、各種飲食品、例えば、清酒,果実酒,その他の醸造酒,連続式蒸留しょうちゅう,単式蒸留しょうちゅう,ウイスキー,ブランデー,原料用アルコール,スピリッツ,ビール,発泡酒,その他の発泡性酒類,合成清酒,みりん,甘味果実酒,リキュール,粉末酒,雑酒、若しくは、これらを混和した酒などの酒類、又は、パン,酒粕,漬け物などの食品、酵母エキスなどの調味料、酵母を含有した健康食品若しくはサプリメント、又は、味噌,醤油,酢などの発酵調味料、又は、ケーキ,クッキー,酒饅頭,中華饅頭などの菓子、又は、サイダ,ジュース,ビールテイスト飲料などの清涼飲料を製造可能であり、更に、これら飲食品を原料とした加工品でもよく、酵母若しくは酵母核酸を得ることのできる飲食品であればよい。
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
本実施例は、飲食品の製造に用いる酵母の所定の遺伝子を変異させて、酵母の同一性判定に際しての識別情報を付与した酵母の同一性判別が容易な飲食品製造用酵母であって、前記変異させる所定の遺伝子は、食品製造において発現させる必要のない遺伝子であり、具体的には、この遺伝子は酵母の発酵特性を劣化させない若しくは劣化の少ない遺伝子としたことを特徴とする酵母の同一性判別が容易な飲食品製造用酵母(以下、単に、「飲食品製造用酵母」という。)であり、この飲食品製造用酵母の取得方法である。
また、本実施例は、この飲食品製造用酵母を用いて清酒を製造し、この飲食品製造用酵母を用いて製造した清酒は、この飲食品製造用酵母を用いずに製造した他の清酒と容易に判別できることを確認したものである。
本実施例の識別情報は、変異させた所定の遺伝子の塩基配列パターンを酵母の識別情報として付与し、酵母の同一性の判別のみならず、酵母の分類識別用の管理情報、若しくは、飲食品の製造用の管理情報に予め関連付けて用いる。
ここで、飲食品の製造用の管理情報とは、この酵母を使って製造する飲食品の製造場所(国、都道府県、市町村など)、製造時期(年月など)、製造ロット、製造履歴、製品種別、製造者などの少なくともいずれかを含む飲食品の製造用の管理情報である。この飲食品の製造用の管理情報を酵母の識別情報に関連付けて用いる場合には、飲食品の製造情報を酵母自体に付与したことになるから、酵母を用いて製造した飲食品から酵母を取得、若しくは飲食品から酵母由来の核酸を抽出して、この酵母の所定の遺伝子から識別情報を判別することによって、この飲食品の製造由来を判別でき、所定の飲食品製造用酵母を用いて製造した飲食品か否かが直ちに判定できるから、その飲食品のトレーサビリティを向上させてこの飲食品の信頼性も向上できることが可能となる。
また、酵母の分別識別用の管理情報とは、清酒酵母(日本醸造協会きょうかい7号酵母、きょうかい9号酵母、きょうかい10号酵母、高エステル生成酵母1701号、高エステル生成酵母1801号など)、ワイン酵母(日本醸造協会ブドウ酒1号酵母、同ブドウ酒3号酵母、同ブドウ酒4号酵母など)、ビール酵母、パン酵母など、アルコール飲料や食品の製造に常用される主にサッカロマイセス属セレビシエに属する酵母において、例えば、きょうかい7号酵母同士など同一種、若しくは近縁種の酵母同士を分類するための酵母の分類識別情報であり、例えば、酵母の選抜時期や場所、或いは、酵母のより詳細な性質や醸造特性や発酵特性などの属性の識別に利用することが可能になる。従って、酵母の分別識別用の管理情報を付与することによって、他の酵母との識別性にも優れるのみならず、酵母の性質や機能が均一に揃って酵母純度を一層均一に高めることが可能となって、この酵母を用いて製造した飲食品の品質を一定に保つことが更に容易になり、更に、製造した飲食品の品質を安定化したり品質を向上することに寄与できることになる。
また、本実施例において酵母に付与した識別情報としての製造用の管理情報若しくは酵母分類識別用の管理情報は、清酒酵母として予め選抜した酵母の所定の遺伝子を自然変異処理若しくは突然変異処理によって変異させ、この変異した遺伝子の塩基配列パターンを飲食品の製造管理情報、若しくは、酵母の識別管理情報の夫々に対応させたものであって、例えば、酵母の遺伝子の塩基を遺伝子組換え技術によって組換えたものではない(遺伝子組換え技術によって所定の遺伝子を組換えることは勿論可能である。)。
また、この飲食品製造用酵母において、変異させる所定の遺伝子は、この変異によって、この酵母の醸造特性若しくは発酵特性を劣化させない遺伝子若しくは劣化の少ない遺伝子が選ばれる。本実施例の飲食品製造用酵母においては、この所定の遺伝子は変異によっても醸造特性を劣化させない遺伝子であると共に、この変異が付与されることによって、遺伝子産物の所定の機能が欠損若しくは強化されて変化することによって、遺伝子が変異した酵母のスクリーニングを容易に行える遺伝子である。
なお、酵母の醸造特性や発酵特性を劣化させない遺伝子若しくは劣化の少ない遺伝子とは、換言すれば、特に清酒醸造などの飲食品用の酵母においては、醸造用として発現させる必要がない遺伝子であって、従って、醸造用として発現しない遺伝子、若しくは、発現させたくない遺伝子であり、更に云えば、酵母で発現しなくとも飲食品を支障なく製造することができる遺伝子である。
このような飲食品製造において発現させる必要のない遺伝子としては、変異前と変異後の酵母による飲食品製造を比較した場合、酵母を用いた飲食品若しくは飲食品製造物中から発生する炭酸ガス発生量を減少させない遺伝子、酵母を用いた飲食品若しくは飲食品製造物中における酵母の増殖能を低下させない遺伝子が選ばれる。
具体的には、清酒酵母においては、変異前と変異後の清酒酵母による清酒製造を比較した場合、発酵期間中の醪の炭酸ガス発生量を減少させない遺伝子、アルコールの生成量を減少させない遺伝子、清酒中の酸度を上昇させない遺伝子、酵母のアルコール耐性を低下させない遺伝子、発酵中における酵母の増殖能を低下させない遺伝子、清酒中の吟醸香である酢酸イソアミル濃度またはカプロン酸エチル濃度を減少させない遺伝子などである。
更に詳細には、例えば、清酒製造においては、Akaoらの報告(Akao T. et al, DNA Res., Vol.18, p.423-434, 2011)に記載されているように、酸性フォスファターゼ等の実験室酵母では発現するが、清酒酵母(きょうかい7号)では存在しない、若しくは、発現しない遺伝子や、前述の北本らの報告(北本ら, J. Brew. Soc. Japan, Vol.87, p.602-607, 1992)しているアルギナーゼ遺伝子が挙げられる。また、パン製造においては、Shimaらが報告(Shima J. et al., Appl. Environ. Microbiol., Vol.69, p.715-718, 2003)しているアルギナーゼ遺伝子が挙げられる。
本発明者らは、酵母のこのような所定の遺伝子として、アルギナーゼ遺伝子及び酸性フォスファターゼ遺伝子を見出しており、本実施例では、これらの遺伝子を自然変異させて、上述の識別情報としている。
本実施例において、所定の遺伝子が変異した酵母は、少なくともカナバニン、アルギニン及びオルニチンを含有する選択培地(CAO培地、特公平6−97993号公報)で自然変異されて取得された、アルギナーゼ遺伝子が変異してアルギナーゼが欠損したアルギナーゼ欠損酵母である。なお、このCAO培地によるポジティブセレクション法のほか、大内らによるレプリカ法(大内ら,発酵工学, Vol.61, p.349-352, 1983)などによってもよい。
本実施例のCAO培地で得られた所定の遺伝子に変異が付与された酵母は、アルギナーゼ遺伝子が変異して、変異前のアルギナーゼ遺伝子の反復配列中の塩基が1塩基以上欠失、挿入若しくは置換したアルギナーゼ欠損酵母であればよいが、本実施例では、変異前のアルギナーゼ遺伝子の塩基配列中に存在する反復数2〜5の4塩基〜10塩基から成る反復配列内の塩基が2塩基以上欠失、又は1塩基置換したアルギナーゼ欠損酵母を得た。
本実施例では、また、このアルギナーゼ遺伝子の変異部位は、変異前のアルギナーゼ遺伝子の30位の塩基Cが塩基Aに置換した変異、若しくは、422位の塩基Gが塩基Aに置換した変異、448位の塩基Gが塩基Aに置換した変異、若しくは、490位の塩基Gが塩基Aに置換した変異、若しくは、491位の塩基Gが塩基Aに置換した変異、若しくは、622位の塩基Gが塩基Aに置換した変異、若しくは、761位の塩基Cが塩基Tに置換した変異、若しくは、817位から820位の塩基配列AGAGからAGが欠失した変異、若しくは、834位から839位の塩基配列GAGAGAからGAが欠失した変異のいずれかを生じたが、これらの変異いずれかが同時に2種類以上生じた変異でもよい。
本実施例で用いた酵母のアルギナーゼ遺伝子の塩基配列の概要を表1に示す。この表1には、アルギナーゼ遺伝子の配列の配列識別子が配列表のSEQ ID NO:1で示されるきょうかい酵母7号の501番目の塩基がGであるアルギナーゼ遺伝子の塩基配列(表1及び図1〜3では菌株名をK7Gと表記)、アルギナーゼ遺伝子の塩基配列の配列識別子が配列表のSEQ ID NO:2で示されるきょうかい酵母7号の501番目の塩基がTであるアルギナーゼ遺伝子の塩基配列(表1及び図1〜3では菌株名をK7Tと表記)、アルギナーゼ遺伝子の配列の配列識別子が配列表のSEQ ID NO:3で示される新潟清酒酵母G74NFのCAR1塩基配列、及び、遺伝子配列の配列識別子が配列表のSEQ ID NO:4〜10で示される塩基配列を有する、夫々、親株であるG74NFのアルギナーゼ遺伝子に変異が付与された新潟清酒酵母G74NFarg1〜7、及び、アルギナーゼ遺伝子の配列の配列識別子が配列表のSEQ ID NO:11で示される新潟清酒酵母G9、及び、遺伝子配列の配列識別子が配列表のSEQ ID NO:12,13で示される塩基配列を有する、夫々、親株であるG9のアルギナーゼ遺伝子に変異が付与された新潟清酒酵母G9arg1,32を示し、これらの遺伝子の塩基配列データを配列表に示す。
この表1に示すG74NFarg1〜7はG74NFを親株とし、G9arg1及びG9arg32はG9を親株として、これらのG74NFarg1〜7、G9arg1及びG9arg32は、夫々、G74NF及びG9夫々のアルギナーゼ遺伝子の異なった塩基の位置に変異が付与され、これらの変異によってアルギナーゼ遺伝子が変異してアルギニンを代謝する能力のない若しくは低下した酵母であり、換言すれば、アルギナーゼ欠損酵母であって、アルギナーゼ遺伝子が変異してアルギニンをオルニチンへ変換する能力がない若しくは低下した酵母であり、アルギニンを窒素源として利用できない酵母であり、即ち、酵母発酵物中へ尿素を生成しない若しくは尿素の生成量が低下した酵母(尿素非生産性酵母)である。従って、尿素非生産酵母になって発ガン性のカルバミン酸エチルの生成が抑制されるから、このアルギナーゼ欠損酵母で製造した飲食品はその品質を向上できることになる。
また、突然変異による方法としては、物理的手段による方法として、例えば、紫外線照射や放射線照射などによる方法、化学的手段による方法として、エチルメタンスルホン酸(EMS)や、N-メチルN'-ニトロ-N−ニトロソグアニジン(NTG)などの変異剤の溶液に菌体を懸濁する方法があり、これらの方法を単独又は組み合わせて適宜実施してもよい。
無論、遺伝子組み換え技術によって所定の遺伝子を組み換えることは可能である。変異の導入は常法に従い行うことができ、例えば、Methods in Enzymology, Vol.194, Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology(1991 by Academic Press, Inc., p.281-301)や酵母遺伝子実験マニュアル(丸善株式会社、平成14年12月10日発行)の記載に従い行なうことができる。より具体的には、Aritomiらの方法(Aritomi K. et al., Bioscience. Biotechnology. Biochem., Vol.68, p.206-214, 2004)やpAUR135 DNAを使用したAureobasidinA耐性酵母形質転換システム(タカラバイオ(株))によって、上述の変異を有するアルギナーゼ遺伝子若しくはCAO培地より取得されたアルギナーゼ欠損株のアルギナーゼ遺伝子の塩基配列解析より得られたアルギナーゼ遺伝子を、アルギナーゼが欠損していない酵母に導入し、特定のアルギナーゼ欠損酵母を取得することができる。酵母の形質転換方法としては、酢酸リチウム法(Ito H. et al., J. Bacteriol., Vol.153, p.163-168, 1983)、スフェロプラスト法やエレクトロポレーション法などの一般的な各種方法を採用できる。さらに、S. cerevisiae Direct Transformation Kit Wako(和光純薬工業(株) )やDS Yeast Transformation kit(Dualsystems Biotech 社)のような形質転換キットも使用できる。
また、PCR産物を利用した形質転換法(例えば、バイオ実験イラストレイテッド第7巻使おう酵母できるTwo Hybrid (秀潤社、2003年10月30日発行)の"2章形質転換の理論と実験法, 5.遺伝子の破壊, 5-1PCRを用いた遺伝子の破壊(置換)法, 5-2置換の確認", p.70-74)やManivasakamらの方法(Manivasakam P. et al., Nucleic Acids Res., Vol.23, p.2799-2800, 1995)を用いることもできる。具体的には、特定のアルギナーゼ欠損酵母のアルギナーゼ遺伝子の変異部位を含む、酵母のアルギナーゼ遺伝子を増幅させるためのプライマーを常法により作成し、きょうかい7号やきょうかい9号などの酵母からGenとるくん(タカラバイオ(株))等のDNA抽出キットを用いて調製した酵母ゲノムDNA、若しくは実施例に記載のように調製したアルギナーゼ遺伝子由来のPCR産物を鋳型として、PCR法(例えば、Saikiらの方法(Saiki R.K. et al., Science, Vol.230, p.1350-1354, 1985)でアルギナーゼ遺伝子の変異部位を含むアルギナーゼ遺伝子由来のPCR産物を得た後、このPCR産物を使用してアルギナーゼを欠損していない酵母へ常法による形質転換を行い、この形質転換体から上述のCAO培地で生育できる酵母を選抜し、実施例に記載のアルギナーゼ変異部位の検出やアルギナーゼ遺伝子の塩基配列解析を行い、この酵母に変異が導入されていることを確認し、特定のアルギナーゼ欠損酵母とすればよい。さらに、酵母の分類識別用の管理情報、若しくは、前記飲食品の製造用の管理情報といった識別情報に対応させた塩基配列をプライマーの配列内に付与若しくは鋳型の一部としてPCR法に供し、得られたPCR産物で形質転換することによって容易にアルギナーゼ遺伝子内に識別情報を付与することも可能である。なお、遺伝子組換えによって遺伝子を導入する酵母は、1倍体が好ましく、酵母の培養法、一倍体取得法、胞子形成法などの一般的な操作は、酵母分子遺伝学実験法(大嶋泰治編著、学会出版センター、1996年4月発行)等に記載の常法を用いればよい。
また、変異させる所定の遺伝子を酸性フォスファターゼ遺伝子とする場合には、所定の遺伝子が変異した酵母は、少なくとも、リン酸イオン、5−bromo−4−chloro−3−indolyl Phosphate Disodium Saltを含有する選択培地で変異させて、酸性フォスファターゼが欠損した酸性フォスファターゼ欠損酵母を取得することができる。この酸性フォスファターゼが欠損した清酒酵母は、この酸性フォスファターゼを有する野生酵母との識別性も有することになる。
以上のように変異処理した酵母の変異状態の確認は、化学分解法(Maxam & Gilbert法)及びチェーンターミネータ法(Sangerらによるジデオキシ法)などによって、この酵母の所定の遺伝子の塩基配列解析を行って、この塩基配列を、変異のない所定の遺伝子のデータベースの遺伝子配列と比較して、変異個所を判定し、所定の遺伝子に一塩基以上の塩基の挿入、欠失、置換が一個所以上ある酵母を選んで、所定の遺伝子に変異が付加された飲食品製造用酵母とすればよい。
このようにして所定の遺伝子を変異させると酵母自身に特定の識別情報をマーカーとして付与できることになり、この識別情報を目印にすると取得した酵母を容易に識別することができるから、酵母の識別や管理が極めて容易になり、更に、この酵母を用いた飲食品の管理も容易になり、更に、この飲食品の製造品質の安定化や向上も可能になる。
また、本実施例の飲食品は、この飲食品製造用酵母を用いて製造した飲食品であって、飲食品の製造に用いる酵母として所定の遺伝子に変異を生じせしめた上述した飲食品製造用酵母を用いて飲食品を夫々の定法に基づいて製造し、この飲食品に含まれる前記酵母の所定の遺伝子を判別することにより飲食品の製造用の管理情報、若しくは、この飲食品の製造に用いた酵母の分類識別用の管理情報を確認できるようにした。
ここで、この飲食品は、清酒,果実酒,その他の醸造酒,連続式蒸留しょうちゅう,単式蒸留しょうちゅう,ウイスキー,ブランデー,原料用アルコール,スピリッツ,ビール,発泡酒,その他の発泡性酒類,合成清酒,みりん,甘味果実酒,リキュール,粉末酒,雑酒、若しくは、これらを混和した酒などの酒類、又は、パン,酒粕,漬け物などの食品、酵母エキスなどの調味料、酵母を含有した健康食品若しくはサプリメント、又は、味噌,醤油,酢などの発酵調味料、又は、ケーキ,クッキー,酒饅頭,中華饅頭などの菓子、又は、サイダ,ジュース,ビールテイスト飲料などの清涼飲料であり、更に、これら飲食品を原料とした加工品でもよく、酵母若しくは酵母核酸を得ることのできる飲食品であればよい。
なお、これらの飲食品に、所定の遺伝子に異なる変異が付与された複数種類の飲食品製造用酵母を用いてもよく、複数種類の識別情報、例えば、製造用の管理情報を有する飲食品製造用酵母、及び、酵母の分類識別用の管理情報を有する飲食品製造用酵母の二種類の酵母を用いて製造してもよいし、異なる製造用の管理情報を有する飲食品製造用酵母を複数種類用いて製造してもよいし、異なる酵母の分類識別用の管理情報を有する飲食品製造用酵母を複数種類用いて製造してもよい。
本実施例の飲食品は、米と米麹と酵母とを用いて発酵させ醪を製造する際、米と米麹とにより製造する酒母の仕込み時、又は、前記醪の仕込み時、又は、前記酒母並びに前記醪の発酵途時に、前記飲食品製造用酵母を用いて製造した清酒であり、この清酒製造は常法による方法であって特別な製造方法によるものではなく、上述のような生産地判別や酵母の分類識別などの識別性を有することになる。なお、醪の製造や酒母の仕込み時用いる米として、通常、蒸米を使えばよいが、アルファ化した米を用いてもよく、さらに醪を製造する際、米,米麹及び酵母の他、醸造アルコールやぶどう糖などの副原料を使用してもよい。
また、本実施例の飲食品の同一性判別方法は、酵母を用いて製造した飲食品の同一性を判別する飲食品の同一性判別方法であって、酵母を用いて製造した飲食品から酵母若しくは酵母核酸を取得し、この酵母の所定の遺伝子の塩基配列パターンが本実施例の飲食品製造用酵母の所定の遺伝子の配列パターンと一致するか否かを判定して、一致した場合には、この酵母を用いて製造した飲食品は、本実施例の飲食品製造用酵母を用いて製造した飲食品と同一であると判別する方法である。即ち、本実施例の飲食品の同一性判別方法は、この飲食品に使用している酵母の同一性を確認することによって飲食品の同一性を判定する方法である。
この飲食品に用いている酵母の同一性判別方法において、酵母の所定の遺伝子の塩基配列パターンは、この酵母の所定の遺伝子の所定の領域に結合して特異的にアニーリングする、フォワードプライマー及びリバースプライマーからなる少なくとも一対のプライマーを用いて核酸増幅して得られる。
本実施例のプライマーは、酵母のアルギナーゼ遺伝子の変異部位を含む配列を増幅させるプライマーであるが、このプライマーの設計にあたっては、変異部位がDNA増幅断片として得られるようにしてもよいし、変異部位をプライマーの配列にしてもよい。この変異部位をプライマーの配列とした場合には、アレルPCR法やリアルタイムPCR法などによってその変異部位を確認することができる。
具体的には、本実施例においては、酵母の所定の遺伝子を検出は、飲食品をそのまま核酸試料とするか、市販の核酸抽出キットを使用するなど適宜な方法で核酸を抽出又は濃縮した後に核酸試料を得てから所定のプライマー共存化で核酸増幅して行うと共に、フォワードプライマー及びリバースプライマーから成るプライマーの組合せとして、塩基配列が表2及び配列表のSEQ ID NO:18及び19、SEQ ID NO:20及び21若しくはSEQ ID NO:22及び23のいずれかの配列識別子で示される塩基配列の一対のプライマーを用いた下記(1)〜(5)の方法を1種類以上用いて飲食品の製造に用いた酵母の同一性を判別する(詳細は、実験3に詳述する。)ことにより、飲食品の同一性を判定している。
(1)配列表のSEQ ID NO:18に示す塩基配列のフォワードプライマーと、
SEQ ID NO:19に示す塩基配列のリバースプライマーとを用い、前記酵
母のアルギナーゼ遺伝子をPCR法により核酸増幅し、この増幅断片を制限酵素B
stXIで処理後、アガロースゲル電気泳動し、この電気泳動パターンの相違で酵
母の同一性を判別する。
(2)配列表のSEQ ID NO:20に示す塩基配列のフォワードプライマーと、
SEQ ID NO:21に示す塩基配列のリバースプライマーとを用い、前記酵
母のアルギナーゼ遺伝子をPCR法により核酸増幅し、この増幅断片を制限酵素C
viKI−1で処理後、アガロースゲル電気泳動し、この電気泳動パターンの相違
で酵母の同一性を判別する。
(3)配列表のSEQ ID NO:18に示す塩基配列のフォワードプライマーと、
SEQ ID NO:19に示す塩基配列のリバースプライマーとを用い、前記酵
母のアルギナーゼ遺伝子をPCR法により核酸増幅し、この増幅断片を制限酵素B
siHKAIで処理後、アガロースゲル電気泳動し、この電気泳動パターンの相違
で酵母の同一性を判別する。
(4)配列表のSEQ ID NO:20に示す塩基配列のフォワードプライマーと、
SEQ ID NO:21に示す塩基配列のリバースプライマーとを用い、前記酵
母のアルギナーゼ遺伝子をPCR法により核酸増幅し、この増幅断片を制限酵素B
slIで処理後、アガロースゲル電気泳動し、この電気泳動パターンの相違で酵母
の同一性を判別する。
(5)配列表のSEQ ID NO:22に示す塩基配列のフォワードプライマーと、
SEQ ID NO:23に示す塩基配列のリバースプライマーとを用い、前記酵
母のアルギナーゼ遺伝子をPCR法により核酸増幅し、この増幅断片を制限酵素B
slIで処理後、アガロースゲル電気泳動し、この電気泳動パターンの相違で酵母
の同一性を判別する。
少なくともこれら(1)〜(5)のいずれかのプライマーを用いたPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法によって行う核酸増幅の反応液組成やサイクリング条件は、使用する核酸増幅法、プライマーのTm値、サーマルサイクラーの仕様にあわせて決定する。PCR法を用いて核酸増幅した具体例を下記の実験3〜5に示す。
なお、本実施例において、核酸試料は、DNAであるが、RNAを核酸増幅する場合には、例えば、逆転写反応によって相補的DNAを合成してから核酸増幅すればよい。
本実施例では、上述の核酸増幅の結果得られる増幅産物の塩基の配列パターンから、酵母を用いた酒類若しくは食品などの飲食品の産地判別を行っている。この増幅産物の塩基の配列パターンとは、核酸増幅反応を終了した後の反応液に含まれる各核酸増幅断片の分子量サイズ、塩基長、塩基配列、存在量(相対量若しくは絶対量)のいずれかのパターンをいう。
具体的には、核酸増幅反応を終了した後の反応液を直接、若しくは、更に制限酵素で処理したものを、電気泳動して得たバンドパターン及びこの各バンドの相対的な濃さである。また、電気泳動としては、例えば、Spreadexゲル(Elchrom Scientific 社)を用いた一塩基の欠失や挿入の検出や、GMAゲル(Elchrom Scientific 社)を用いたSSCP(一本鎖高次構造型)法などの塩基置換の検出、また、PCR産物を制限酵素で処理する方法などを用いて行うことができる。また、定量的PCR法やリアルタイムPCR法を用いてもよい。
本実施例による、飲食品の酵母の同一性判別方法を用いると、アルギナーゼが欠損していない通常の酵母では、上述のようにして得られる核酸増幅産物のアルギナーゼ遺伝子には、多くの菌株間で共通した結果が得られる。一方、本実施例のアルギナーゼ欠損酵母(例えば、G74NFarg1〜7、G9arg1やG9arg32)においては、アルギナーゼ遺伝子領域の塩基配列に明らかな部分的相違を生じている。従って、上述のようにして遺伝子産物のアルギナーゼ遺伝子の配列パターンを比較すれば、特定のアルギナーゼ欠損酵母を検出することができる。また、このような特定のアルギナーゼ欠損酵母と、それ以外の通常の酵母とを確実に判別できることになる。
上記を確認した実験を以下に示す。以後、アルギナーゼ遺伝子を、主に、CAR1と表記する。
1 実験1 アルギナーゼ欠損酵母の取得
1−1 実験方法
(1)使用酵母及び培地
使用した酵母は、新潟県醸造試験場が保有する新潟清酒酵母G74NF株、G9
株である。培地は、CAO平板培地(0.17%イーストニトロゲンベース w/o a
mino acid and ammonium sulfate(Difco社)、20ppmカナバニン(Sigma社)
、1mMアルギニン塩酸塩、5mMオルニチン塩酸塩、2%グルコース、2%寒天
)、アルギニン平板培地(0.17%イーストニトロゲンベース w/o amino acid
and ammonium sulfate(Difco社)、5mMアルギニン塩酸塩、2%グルコース、
2%寒天)、オルニチン平板培地(0.17%イーストニトロゲンベース w/o ami
no acid and ammonium sulfate(Difco社)、5mMオルニチン塩酸塩、2%グル
コース、2%寒天)、YPD液体培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%
グルコース)を使用した。
(2)CAO平板培地を用いたアルギナーゼ欠損酵母の取得
(a)自然変異による取得
北本らの方法(北本ら, J. Brew. Soc. Japan, Vol.87, p.598-601, 1992)
によりアルギナーゼ欠損株を選抜した。詳細には、G74NF株およびG9株
の夫々をYPD液体培地5mLに植菌し、30℃で3日間の静置培養させた後
、変異処理せず直接CAO平板培地に塗布し、30℃で14日間培養し、出現
したコロニーを釣菌し、アルギニン平板培地とオルニチン平板培地との双方に
夫々塗布し、アルギニン平板培地で生育できず、オルニチン平板培地で生育で
きるものをアルギナーゼ欠損株の候補として選抜し、更に、この選抜候補株を
再度CAO平板培地を用いてシングルコロニー単離を行って、アルギナーゼ欠
損株を得た。
(b)変異処理による取得
G74NF株をYPD液体培地5mLに植菌し、30℃で3日間の静置培養
させた後、G74NF株を小田等の方法(小田ら,"醸造用酵母からのリジン要
求性変異株の単離",J. Brew. Soc. Japan, Vol.83, p.614-617, 1988)によっ
て、エチルメタンスルホネート(EMS)(Sigma社)による変異処理を行い
、前項(a)と同様な方法によって、CAO平板培地からアルギナーゼ欠損株
を得た。
1−2 実験結果
G74NF株およびG9株の夫々をCAO平板培地に塗布し、比較的大きなコロニ
ーを釣菌し、アルギニン平板培地で生育できず、オルニチン平板培地で生育できるも
のを夫々選抜した。
自然変異による方法では、G74NF株よりCAO平板培地で生育した1,115
株を検定し、アルギニン平板培地で生育できず、オルニチン平板培地で生育できる株
、アルギナーゼ欠損株を1株(以下、この株をG74NFarg1株と表記する。)
得た。同様にG9株よりCAO平板培地で生育した160株を検定し、アルギナーゼ
欠損株を2株(以下、この株を夫々G9arg1、G9arg32株と表記する。)
得た。
また、変異処理を施した方法では、CAO平板培地で生育した96株のコロニーを
検定し、アルギニン平板培地で生育せず、オルニチン平板培地で生育できる株、アル
ギナーゼ欠損株を6株(以下、G74NF2〜7株と表記する。)得た。
これらの結果の概要を前出の表1に示した。
2 実験2 アルギナーゼ欠損酵母のCAR1の塩基配列解析
2−1 実験方法
(1)酵母ゲノムDNAの抽出
G74NF株、G9株および実験1で取得したG74NFarg1〜7、G9a
rg1、G9arg32株をYPD液体培地5mLに植菌し、30℃で2日間の静
置培養した後、培養液を遠心分離して得られた菌体から、酵母用DNA抽出精製キ
ットである、Genとるくん(酵母用)(タカラバイオ(株))を用いてゲノムD
NAを抽出した。抽出したゲノムDNAは、3ng/μLの濃度になるようにTE
緩衝液(10mM Tris−HCl,1mM EDTA,pH8.0,(株)ニッ
ポンジーン)に溶解し、−20℃で保存した。
(2)CAR1の塩基配列解析
各酵母の塩基配列解析はクローニングシーケンス法またはダイレクトシーケンス
法により行った。
(a)クローニングシーケンス法による塩基配列解析
PCR法に用いる試薬には、EmeraldAmp PCR Master Mix(タカラバイオ(
株))を使用した。また、このPCR法に使用するフォワードプライマー及び
リバースプライマーとして、前出の表2に示した、SEQ ID NO:14
のCAR1−4F及びSEQ ID NO:15のCAR1−12Rからなる
プライマーセット、並びに、SEQ ID NO:16のCAR1−14F及
びSEQ ID NO:17のCAR1−3Rからなるプライマーセットを用
いてCAR1を増幅した。
また、PCR反応液は、表3及び表4に示した組成に調製し、サーマルサイ
クラー(TAKARA PCR Thermal cycler MP, 宝酒造(株))を用いて、98℃で
1分間熱変性させた後、98℃ 10秒間・55℃ 30秒間・72℃ 1分間
を1サイクルの温度プロファイルとして30サイクルのサイクリング条件でP
CR反応を行った。
得られたPCR産物は、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)で精製
し、精製したDNA断片を、DNA Ligation kit Ver.2.1(タカラバイオ(株)
)を用いてプラスミドベクター pT7 Blue T-vector(Novagen社)に挿入した
。このDNA断片が挿入されたプラスミドは、大腸菌(E.coli, DH5α株)を
用いて常法によりクローニングし、クローニングしたプラスミドを、Wizard
Plus SV minipreps(Promega社)を用いて精製した。精製したプラスミドは
、BigDye Terminator Ver.3.1(Applied Biosystems社)を用いてDNAシー
ケンス反応に供し、Applied Biosystems 3130xlジェネティックアナライザ(
Applied Biosystems 社)によって塩基配列を決定した。
(b)ダイレクトシーケンス法による塩基配列解析
PCR法によるCAR1の増幅は、前項(a)と同様に行った。得られたP
CR産物を、2%アガロースゲル(SeaKem GTG Agarose, Lonza社)上で10
0V、40分間かけて電気泳動し、ゲルレッド(Biotium社)で染色した後、
紫外線の照射下でDNA断片を含むアガロースゲルを切り出した。得られたゲ
ルからQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)を用いてPCR産物を抽出
した後、BigDye Terminator Ver.3.1(Applied Biosystems社)を用いてDN
Aシーケンス反応に供し、Applied Biosystems 3730xl ジェネティックアナラ
イザ(Applied Biosystems社)によって塩基配列を決定した。
2−2 実験結果
シーケンスにより得られたG74NF株、G9株、G74NFarg1〜7株、G
9arg1株及びG9arg32株と、Sake Yeast Genome Database (http://nribf
1.nrib.go.jp/SYGD/)で公開されている、きょうかい7号(K7株)のCAR1(SYG
D ID:e8011600201, Systematic Name:K7_YPL111W)の配列と比較した。
その結果を図1〜3に示す。塩基配列を比較した結果、K7株とG74NF株およ
びG9株は同一の塩基配列であった。一方、G74NFarg1株は、K7株及びG
74NF株と比較した結果、1個所の2bpの欠失変異があり、G74NFarg2
〜7株は、夫々の株で異なる1個所の1塩基置換が確認された。また、G9arg1
株はK7株及びG9株と比較した結果、1個所の1塩基置換があり、G9arg32
株は1個所の2bpの欠失変異が確認された。
さらに、欠失変異においては、G74NFarg1ではCAR1の817位から8
20位の塩基配列AGAGからAGが欠失した変異、G9arg32ではCAR1の
834位から839位の塩基配列GAGAGAからGAが欠失した変異が確認され、
CAR1の塩基配列内の反復配列部位に、マイクロサテライト配列でみられるスリッ
プ変異(例えば、特開2009−219451号公報、特表2010−521156
号公報、Agrafioti I., Nucleic Acids Res., Vol.35(Database issue), D71-D75, 2
007)様の欠失が生ずることが示された。
以上の結果から、CAO培地を用いて取得されたアルギナーゼ欠損酵母のCAR1
の変異は、特定の塩基配列部位に依存するものではなく、変異部位や変異の種類に多
様性があり、例えば、本実験で得られたような1塩基置換がCAR1に発生した場合
、置換パターンは約1000パターン存在することになる。複数置換が生じた場合に
は更に多様なCAR1の変異なパターンを有するアルギナーゼ欠損酵母が得られる
ことになる。
3 実験3 アルギナーゼ欠損酵母間の判別法の構築
3−1 実験方法
(1)使用酵母及び培地
判別に使用した酵母として、G74NF株と、実験1で取得したG74NFar
g1〜4株を選抜して使用した。
(2)酵母ゲノムDNAの抽出
各酵母からのゲノムDNAの抽出は、実験2と同様な方法で行った。
(3)アルギナーゼ欠損酵母間の判別
調製した酵母ゲノムDNA試料を鋳型として用い、PCR法による酵母のCAR
1由来のDNAの増幅を行った。このPCR反応には、表5に示す、各菌株に対応
したフォワードプライマーとリバースプライマーとを組み合わせたプライマーセッ
トを用いた。各プライマーの配列は前出の表2と同じである。
PCR法は、EmeraldAmp PCR Master Mix(タカラバイオ(株))を使用し、P
CR反応液を表6〜9に示した組成で調製し、サーマルサイクラー(TKARA PCR Th
ermal cycler MP, 宝酒造(株))を用いて、98℃で1分間熱変性させた後、9
8 ℃10秒間・58℃ 30秒間・72℃ 30秒間を1サイクルの温度プロファ
イルとして30サイクルのサイクリング条件で反応させた。
得られたPCR産物をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)によって精製、 精製後の試料量が40μLになるように、TE緩衝液(10mM Tris−HCl
,1mM EDTA,pH8.0,(株)ニッポンジーン)でスピンカラムよりPCR
産物を溶出した。精製したPCR産物を表10〜13に示す反応液条件によって制
限酵素処理を行った後、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)で精製した。
なお、各制限酵素は全てNew England Biolabs社製を用いた。得られた精製試料
を2.5%アガロースゲル(Agalose XP,(株)ニッポンジーン)上で100V,
30分間かけて電気泳動し、ゲルレッド(Biotium社)で染色した後、紫外線の照
射下でDNA断片を検出した。
3−2 実験結果
各アルギナーゼ欠損酵母の判別結果を図4〜7に示した。これらの図に示されるよ
うに、G74NFarg1〜4株ではCAR1の変異によって、各制限酵素により得
られるDNA断片のパターンが、G74NF株と異なる結果となった。
従って、上記のプライマーを用いて清酒酵母ゲノムDNAをPCR増幅し、その増
幅産物を上記の制限酵素を用いて制限酵素処理し、電気泳動により現れるDNA断片
のパターンを判定することによって、G74NFarg1〜4株のいずれかであるか
を、簡便且つ正確に判定することができた。
なお、図4〜7に示した制限酵素処理によるDNA断片の塩基数は、Saccharomyce
s Genome DatabaseのYeast Genome restriction Analysis(http://www.yeastgenome.
org/cgi-bin/PATMATCH/RestrictionMapper)による解析結果Sorted Fragment Size(bp
)の値である。
4 実験4 清酒製造における判別試験
4−1 実験方法
(1)清酒仕込み
表14に示す仕込配合により3段仕込で清酒の製造を行った。酵母は、G74N
F株とG74NFarg1株を各仕込に使用した。原料米には越淡麗(精米歩合4
0%)を用いた。製麹は酒母麹から留麹を一括して製造し、0℃にて貯蔵したもの
を使用した。酒母は、高温糖化酒母により、一般的な吟醸酒母の育成法に従い、8
日目で使用した。なお、各酒母は、ボーメ6の麹汁培地300mLに1白金耳の菌
体を植菌し、25℃で7日間静置培養したもの2本を夫々酒母に使用した。また、
醪を、添仕込10℃、踊り12.5℃、仲仕込7℃、留仕込6℃で仕込み、以後、
一般的な吟醸酒の仕込方法に従い、最高品温11℃になるように温度管理し、G7
4NF株は醪日数26日、G74NFarg1株は27日まで発酵させた後、藪田
式ろ過圧搾機(藪田産業(株))により上槽して、製成酒を得た。なお、本実施例
において、製成酒とは、上槽直後の未調整の清酒をいう。
(2)清酒醪中の酵母の判別
醪日数25日目の各醪から清酒製造に使用した酵母の判別を行った。核酸増幅の
PCR反応には、表2に示した、re74NF−1とre74NF−2とを組み合
わせたプライマーセットを用いた。このプライマーセットによる検出系の詳細を図
8に示した。なお、図8に示した制限酵素処理によるDNA断片の塩基数は、Sacc
haromyces Genome DatabaseのYeast Genome restriction Analysis(http://www.ye
astgenome.org/cgi-bin/PATMATCH/RestrictionMapper)による解析結果Sorted Frag
ment Size(bp)の値である。
また、PCR法には、MightyAmp DNA Polymerase Ver.2(タカラバイオ(株))
を使用し、核酸試料として醪をそのまま用いた。PCR反応液を表15に示した組
成に調製し、サーマルサイクラー(TKARA PCR Thermal cycler MP, 宝酒造(株)
)を用いて、99℃で2分間熱変性させた後、98℃ 10秒間・60℃ 15秒間
・68℃ 30秒間を1サイクルの温度プロファイルとして30サイクルのサイク
リング条件で反応させ、得られたPCR産物をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAG
EN社)によって精製し、精製後の試料量が40μLになるように、TE緩衝液(10
mM Tris−HCl,1mM EDTA,pH8.0,(株)ニッポンジーン)で
スピンカラムよりPCR産物を溶出した。精製したPCR産物を制限酵素BslI
(New England Biolabs社)で表13に示す反応液条件によって制限酵素処理した
後、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)で精製した。得られた精製試料を
2.5%アガロースゲル(Agalose XP,(株)ニッポンジーン)上で100V,4
0分間かけて電気泳動し、ゲルレッド(Biotium社)で染色した後、紫外線の照射
下でDNA断片を検出した。
(3)培養法による清酒醪中の酵母の判別
醪日数25日目のG74NF株とg74NFarg1株の各醪中の酵母純度を北
本らの方法(北本ら, J. Brew. Soc. Japan, Vol.87, p.602-607, 1992)により、
測定した。
(4)製成酒の成分分析
各製成酒の一般的特性は、国税庁所定分析法(国税庁所定分析法,3清酒,国税
庁訓令第6号別冊,平成19年6月22日,http://www.nta.go.jp/shiraberu/zei
ho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/sonota/070622/01.htm)により測定した。また、
製成酒中の尿素はジアセチルモノオキシム法(DAMO法、Coulombe J. et al.,
Clin. Chem., Vol.9, p.102-108, 1963)により測定した。
(5)製成酒の判別
各製成酒から核酸試料の抽出を、Hotzelらの方法(Hotzel H. et al, Eur. Foo
d Res. Technol., Vol.209, p.192-196, 1999)を参考に行い、各製成酒200μL
からInvisorb Genomeic DNA kitIII(STRATEC Molecular 社)で清酒中の核酸抽
出液100μLを得た。
次いで、上記のように調製した核酸試料を鋳型として用いて、製成酒の判別を行
った。この判別には、実験3で構築したG74NFarg1核酸を判別する60F
−Car1と60R−CAR1のプライマーセットを用いた検出系を使用した。
また、PCR法にはEmeraldAmp PCR Master Mix(タカラバイオ(株))を使用
し、PCR反応液を表16に示した組成で調製し、サーマルサイクラー(TAKARA P
CR Thermal cycler MP, 宝酒造(株))を用いて、98℃で1分間熱変性させた後
、98℃ 10秒間・58℃ 30秒間・72℃ 30秒間を1サイクルの温度プロ
ファイルとして30サイクルのサイクリング条件で反応を行った。
得られたPCR産物をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社)によって精製
し、精製後の試料量が40μLになるように、TE緩衝液(10mM Tris−H
Cl,1mM EDTA,pH8.0,(株)ニッポンジーン)でスピンカラムよりP
CR産物を溶出した。精製したPCR産物を制限酵素BstXI(New England Bi
olabs社)で表10に示す条件で、制限酵素処理を行った後、QIAquick Gel Extrac
tion Kit(QIAGEN社)によって精製した。得られた精製試料を2.5% アガロー
スゲル(Agalose XP,(株)ニッポンジーン)上で100V,30分間かけて電気
泳動し、ゲルレッド(Biotium社)で染色した後、紫外線の照射下でDNA断片を
検出した。
4−2 実験結果
(1)清酒醪中の酵母の判別
清酒醪からの核酸増幅による酵母の判別の結果を図9に示す。G74NFarg
1株を使用した醪からはG74NFarg1株由来である118bpのDNA断片
のみがG74NF株を使用した醪からはG74NF株由来である98bpのDNA
のみが検出された。また、各醪の純度判定を培養法によって行ったところ、G74
NFarg1株由来の醪からはアルギナーゼ欠損酵母のみが検出され、G74NF
株の醪からはアルギナーゼ欠損酵母は、全く検出されなかったことから、両者の結
果が一致した。この結果から、本判別法によって清酒醪中の酵母の純度判定が可能
であることが明らかになった。
なお、制限酵素処理前のPCR産物を常法によってゲル電気泳動で精製し、BigD
ye Terminator Ver.3.1(Applied Boisystems社)を用いてDNAシーケンス反応
させ、Applied Biosystems 3170xlジェネティックアナライザ(Applied Biosystem
s社)によって塩基配列決定し、PCR増幅産物が清酒酵母CAR1由来であるこ
とを確認した。
(2)製成酒からの判別
製成酒からの核酸増幅による酵母の判別の結果を図10に示す。G74NFar
g1株を使用した製成酒からはG74NFarg1由来のDNA断片のパターンが
検出され、G74NF株を使用した製成酒からはG74NF由来のDNA断片のパ
ターンが検出された。従って、特定のアルギナーゼ欠損酵母を使用して清酒を製造
し、この清酒から製造に使用した酵母由来のCAR1の変異部位を検出することに
よって、清酒製品間の判別が可能であることがわかった。
また、夫々の製成酒の一般成分と尿素濃度を表17に示した。
G74NFarg1株を使用した製成酒からは尿素は検出されず、G74NFa
rg1株は尿素非生産株であった。従って、G74NFarg1株由来のDNA断
片のパターンは尿素非生産酵母を使用したことを裏付ける指標となる。
なお、制限酵素処理前のPCR産物を常法によってゲル電気泳動で精製し、BigD
ye terminator Ver.3.1(Applied Biosystems社)を用いてDNAシーケンス反応
させ、Applied Biosystems 3170xlジェネリックアナライザ(Applied Biosystems
社)によって塩基配列決定し、PCR増幅産物が清酒酵母CAR1由来であること
を確認した。
5 実験5 酒類の産地並びに製造場の識別試験
5−1 実験方法
(1)酒類製品
判別に用いた製品は、新潟市内の酒販店から購入し、兵庫県神戸市内の酒造メー
カーが製造した清酒(発泡性)(以下、A社製品と表記する。)、新潟県新発田市
の酒造メーカーが製造したリキュール(以下、B社製品と表記する。)、新潟県柏
崎市の酒造メーカーが製造した清酒(以下、C社製品と表記する。)と、実験4で
得られたG74NFarg1を使用した製成酒(新潟県醸造試験場(新潟県新潟市
)で製造。)を用いた。
(2)酒類製品の産地並びに製造場の識別
酒類の判別は、実験4−1(5)と同じ方法で行った。なお、A社製品のみ、製
品をそのまま用いてMightyAmp DNA Polymerase Ver.2(タカラバイオ(株))に
よるPCR法行った。PCR反応液は表18の組成に調製し、このPCR反応液を
用いて、99℃で2分間の熱変性させた後、98℃ 10秒間・60℃ 15秒間・
68℃ 30秒間を1サイクルの温度プロファイルとして30サイクルのサイクリ
ング条件で反応させた。PCR後の操作は実験4−1(5)と同様に行った。
5−2 実験結果
酵母由来のCAR1による酒類製品の判別結果を図11に示した。G74NFar
g1株を用いた製成酒からは、G74NFarg1株由来のDNA断片のパターンが
検出された。一方、A、B、Cの各社の製品からは、G74NFarg1を使用した
製成酒とは異なるDNA断片のパターンが得られた。従って、特定のアルギナーゼ欠
損酵母を使用した酒類を製造し、この清酒から製造に使用した酵母由来のCAR1の
変異部位を検出することによって、産地や製造場の判別が可能となる。
以上、本実施例は、所定の遺伝子を自然変異若しくは突然変異させたが、遺伝子組換えによっても行うことは可能であり、この遺伝子組換え技術を用いた場合、酵母の所定の遺伝子の領域を複数に区分し、この区分した1以上の領域に上述した識別情報、即ち、製造用の識別情報若しくは酵母の分類用の識別情報を付与することが容易に行うことができる。このようにした場合には、飲食品製造用酵母の所定の遺伝子に複数の識別情報を適宜に付与することが可能となるから、一つの飲食品に用いる飲食品製造用酵母の種類を低減できるから、この飲食品製造用酵母の管理、及び、この飲食品製造用酵母を用いて製造する飲食品の製造工程の管理を簡略化することができることになる。
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。

Claims (3)

  1. 清酒酵母をカナバニン、アルギニン及びオルニチンを含有する選択培地で培養し該清酒酵母のアルギナーゼ遺伝子を変異せしめてアルギナーゼ欠損酵母を得、このアルギナーゼ欠損酵母のアルギナーゼ遺伝子の塩基配列を確知し、この既知となった前記塩基配列に識別情報を関連付け、この識別情報が関連付けられたアルギナーゼ欠損酵母を用いて清酒を製造することを特徴とする清酒の製造方法
  2. 請求項1記載の清酒の製造方法であって、前記識別情報は、酵母の種類、選抜時期及び選抜場所の少なくともいずれか一つを含む同一性判別用管理情報と、製造場所、製造時期、製造ロット、製造履歴、製品種別及び製造者の少なくともいずれか一つを含む製造用管理情報のいずれか一方若しくは双方であることを特徴とする清酒の製造方法
  3. 請求項1,2いずれか1項に記載の清酒の製造方法であって、前記アルギナーゼ欠損酵母は、変異前のアルギナーゼ遺伝子の塩基配列中に存在する反復数2〜5の4塩基〜10塩基から成る反復配列内の塩基が、2塩基以上欠失若しくは1塩基置換したアルギナーゼ欠損酵母であることを特徴とする清酒の製造方法
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