[第1の実施の形態]
以下、本発明をセラミック多層基板に具体化した第1の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1に示されるように、本実施の形態のセラミック多層基板11は、上面12(基板主面)及び下面13(基板裏面)を有する板状の部材であり、ICチップを実装するために用いられる。セラミック多層基板11は、複数のセラミック絶縁層14,15,16と導体層18とを交互に積層してなる多層配線基板である。本実施の形態において、各セラミック絶縁層14,15,16は、いずれもアルミナ焼結体からなる。また、導体層18は、例えばタングステンを主体とするメタライズ導体層である。なお、本実施の形態のセラミック多層基板11では3層構造としたが、4層以上の多層構造を採用しても構わない。
セラミック多層基板11には、上面12に開口するキャビティ19(非貫通凹部)と、下面13に開口するキャビティ20(非貫通凹部)とが設けられている。セラミック多層基板11において、中間層に位置するセラミック絶縁層15が各キャビティ19,20の底部となっている。また、セラミック絶縁層15の上層に位置するセラミック絶縁層14がキャビティ19の周囲に形成される枠部21となっている。さらに、セラミック絶縁層15の下層に位置するセラミック絶縁層16がキャビティ20の周囲に形成される枠部22となっている。
本実施の形態において、枠部21の幅は250μm程度であり、枠部21の高さ(キャビティ19の深さ)は650μm程度である。また、枠部22の幅は275μm程度であり、枠部22の高さ(キャビティ20の深さ)は650μm程度である。
キャビティ19の底面となるセラミック絶縁層15の上面23には、ICチップ搭載用の複数の端子パッド24が設けられている。また、キャビティ20の底面となるセラミック絶縁層15の下面25には、ICチップ搭載用の複数の端子パッド26が設けられている。これら端子パッド24,26もタングステンを主体とするメタライズ導体層である。また、セラミック絶縁層14,15の界面及びセラミック絶縁層15,16の界面に、導体層18が形成されている。
セラミック多層基板11において、キャビティ19の外周部の上面12(セラミック絶縁層14の上面)には、キャビティ19を取り囲むようにシール用のメタライズ導体層28が設けられている。このメタライズ導体層28上には、図示しないめっき層やロウ材層が設けられるとともに、そのロウ材層等を介して図示しないキャップが取り付けられる。このキャップによってキャビティ19の開口が塞がれる。
セラミック多層基板11において、キャビティ20の外周部の下面13(セラミック絶縁層16の下面)には、他の基板上に実装するための複数の端子パッド29が形成されている。これら端子パッド29もタングステンを主体とするメタライズ導体層である。
セラミック多層基板11を構成する各セラミック絶縁層14〜16の側面には、断面円形の凹部30が形成されており、その凹部30の表面にキャスタレーション31(端面スルーホール導体)が設けられている。キャスタレーション31は、端子パッド29と内層の導体層18とを電気的に接続している。
各セラミック絶縁層14,15,16には、複数のビア穴33が形成されており、各ビア穴33内にはタングステンを主体とするビア導体34が設けられている。ビア導体34は、各導体層18,28、及び各端子パッド24,26,29を相互に電気的に接続している。
次に、上記セラミック多層基板11を製造する方法について図2〜図11に基づいて説明する。
まず、セラミック材料としてのアルミナ粉末、有機バインダ、溶剤等を混合してスラリーを作製する。そしてこのスラリーを従来周知の手法(例えばドクターブレード法やカレンダーロール法)によりシート状に成形し、所定サイズに切断する。この結果、図2に示されるように、表面41及び裏面42を有するシート状に成形されたセラミックグリーンシート43(未焼成セラミックシート)を複数枚準備する(シート準備工程)。なお、本実施の形態において、セラミックグリーンシート43は、650μm程度の厚さで形成される。
またこのシート準備工程では、接着用セラミックシート46を作製する。詳しくは、セラミック材料としてのアルミナ粉末、液状の粘着剤、溶剤、加熱によって溶融する有機化合物等を混合してスラリーを作製する。このスラリー形成時には、アルミナ粉末の100重量部に対して、粘着剤を25重量部以上100重量部以下の割合で含有させ、かつ加熱によって溶融する有機化合物を3重量部以上15重量部以下の割合で含有させている。そしてこのスラリーを従来周知の手法によりシート状に成形し、乾燥後、所定サイズに切断する。この結果、図2に示されるように、表面44及び裏面45を有するシート状に成形された接着用セラミックシート46を準備する。
なお、本実施の形態において、接着用セラミックシート46は、フィルム状の離型材47の上面に、例えば10μm以上50μm以下の厚さで形成されている。接着用セラミックシート46に含まれる粘着剤としては、例えばアクリル系溶剤タイプの接着剤(ビックテクノス社製AR-2040)を用いる。また、有機化合物としては、例えば融点が56℃程度のセチルアルコール(高沸点アルコール)を用いている。具体的には、シート準備工程において、スラリーを離型材47(キャリアフィルム)にキャステイングする際に、スラリー自体を乾燥させる。その際の接着剤の溶剤が抜けて、接着剤の接着性能が低下する。さらに、セチルアルコール自体もスラリー中では溶剤に溶けているが、この乾燥においては融点以下なので固化する。このとき、固化したセチルアルコールは、シート表面側に集まった状態となる。従って、接着用セラミックシート46の表面は、粘着性のないセチルアルコールが大半を占め、接着性能の落ちた接着剤が少し露出している状態となる。その結果、常温では、粘着性を発現しない接着用セラミックシート46が形成され、シートの工程流動は容易となる。
そして、セラミックグリーンシート43の裏面42に接着用セラミックシート46を配置し、60℃に加熱したヒーターブロック(図示略)により離型材47を介して低圧(例えば、3kgf/cm2以下の圧力)でプレスする(シート貼付工程)。このとき、接着用セラミックシート46においてセチルアルコールが溶解して液状化する。そして、液状化したセチルアルコールは接着剤の溶剤となってその接着剤の接着性能が復活し、さらに接着用セラミックシート46の表面は、接着剤が大半をしめるので、粘着性が発現する。このため、低圧のプレスにより、接着用セラミックシート46をセラミックグリーンシート43の裏面42に圧着させることができる。その後、常温まで冷却し接着用セラミックシート46から離型材47を剥離する。この結果、図3に示されるように、セラミックグリーンシート43の裏面42に接着用セラミックシート46が貼り付けられる。なおこのとき、室温まで冷却されているので、接着用セラミックシート46の離型材47があった面は粘着性が発現していない。
上層及び下層のセラミック絶縁層14,16となるセラミックグリーンシート43では、表面41または裏面42に接着用セラミックシート46を貼り付けた状態(図3参照)で、導体部形成工程(ビア導体部形成工程及びキャスタレーション形成工程を含む工程)を行う。一方、中間層のセラミック絶縁層15となるセラミックグリーンシート43は、接着用セラミックシート46を貼り付けない状態で導体部形成工程を行う。
具体的には、図4に示されるように、各セラミックグリーンシート43の複数箇所に、そのセラミックグリーンシート43の厚さ方向に貫通する貫通穴48,49を形成する。ここで、上層のセラミックグリーンシート43では、裏面42に配置されている接着用セラミックシート46にも貫通穴48,49が形成され、下層のセラミックグリーンシート43では、表面41に配置されている接着用セラミックシート46にも貫通穴48,49が形成される。これら貫通穴48,49は、例えばレーザを用いたレーザ穴あけ加工にて形成される。なお、レーザ穴あけ加工以外に、パンチング(打ち抜き)加工などの他の手法によって貫通穴48,49を形成してもよい。また、接着用セラミックシート46の接着性が発現していないので、上記工程を流動する際に、治具などに接着用セラミックシートが張り付いてしまうといった不具合はない。
セラミックグリーンシート43において、貫通穴48は、ビア導体34を形成するための穴部であり、貫通穴49は、キャスタレーション31を形成するための穴部である。つまり、セラミック焼成後には、貫通穴48がビア穴33となり、貫通穴49の一部が凹部30となる。
そして、貫通穴48,49内にそれぞれ導体部を形成する。より具体的にいうと、まず従来周知のペースト印刷装置によるビアメタライズ充填を行って、貫通穴48内にタングステンペーストを充填し、ビア導体34となる未焼成ビア導体部50を形成する(図5参照)。即ち、貫通穴48を完全にタングステンペーストで満たすようにして未焼成ビア導体部50を形成する。次いで、キャスタレーション印刷を行って、貫通穴49の内周面にタングステンペーストを付着させ、キャスタレーションとなる未焼成キャスタレーション用導体部51を形成する(図6参照)。従って、貫通穴49内は完全にタングステンペーストで満たされていなくてもよく、未焼成キャスタレーション用導体部51の中心部は空洞状になっている。なお、上記のようにビアメタライズ充填後にキャスタレーション印刷を行ってもよいほか、キャスタレーション印刷後にビアメタライズ充填後を行ってもよい。
そして次に、スクリーン印刷法によって、各セラミックグリーンシート43の上に未焼成導体部53を形成する(図7参照)。なおここでは、各セラミックグリーンシート43において、接着用セラミックシート46が貼り付けられていない表面41及び裏面42上に、マスク(図示略)を用いてタングステンペーストを印刷することで、未焼成導体部53をパターン形成する。これらの未焼成導体部53は、後に導体層18,28、各端子パッド24,26,29となるべき部分である。
この後、所定の温度に加熱して、各セラミックグリーンシート43に形成した未焼成導体部53を乾燥させる。このように導体部形成工程を行うことで、セラミックグリーンシート43に未焼成ビア導体部50、未焼成キャスタレーション用導体部51及び未焼成導体部53を形成する。またここでは、接着用セラミックシート46の接着性が発現していないので、上記工程を流動する際に、治具などに接着用セラミックシート46が張り付いてしまうといった不具合はない。
そして、上層側及び下層側のセラミック絶縁層14,16となる各セラミックグリーンシート43に対して従来周知のパンチング(打ち抜き)加工を施す。この結果、図8に示されるように、各セラミックグリーンシート43に、キャビティ19,20となる貫通穴部55,56を形成する(キャビティ形成工程)。ここで、各セラミックグリーンシート43の表面41または裏面42に貼り付けられている接着用セラミックシート46にも、キャビティ19,20となる貫通穴部55,56が形成される。また、中間層のセラミック絶縁層15となるセラミックグリーンシート43は、パンチング加工を施すことなく、貫通穴部55,56が非形成の平板状のシートとなっている。
その後、各セラミックグリーンシート43を用いて、積層体形成工程を行う。積層体形成工程では、先ず、貫通穴部55,56が非形成の平板状のセラミックグリーンシート43を真ん中に配置する。そして、その平板状のセラミックグリーンシート43の表面41に、貫通穴部55を形成した枠状のセラミックグリーンシート43を重ね合わせて配置するとともに、裏面42には、貫通穴部56を形成した枠状のセラミックグリーンシート43を重ね合わせて配置する。ここで、上層側となる枠状のセラミックグリーンシート43は、接着用セラミックシート46が貼られた裏面42側を下側に向けた状態で平板状のセラミックグリーンシート43の表面41に配置される。一方、下層側となる枠状のセラミックグリーンシート43は、接着用セラミックシート46が貼られた表面41側を上側に向けた状態で平板状のセラミックグリーンシート43の裏面42に配置される。この結果、平板状のセラミックグリーンシート43と枠状のセラミックグリーンシート43との間に枠状の接着用セラミックシート46が介在された形で各セラミックグリーンシート43が積層される(図9参照)。
そして、図10に示されるように、例えばヒーターブロック58を用いて、各セラミックグリーンシート43に介在される接着用セラミックシート46をセチルアルコールの融点以上の温度(例えば、70℃)に加熱する。このとき、接着用セラミックシート46に含まれるセチルアルコールを溶融させ、引張強度で50gF以上の粘着力を接着用セラミックシート46に発現させる。その後、セラミックグリーンシート43の貫通穴部55,56にヒーターブロック58(加圧治具)が非接触の状態で、そのヒーターブロック58を用い、1kgf/cm2以上5kgf/cm2以下の低圧力、かつ、1秒以上120秒以下の短時間の条件で、各セラミックグリーンシート43を積層方向に加圧する。より具体的に、本実施の形態では、2kgf/cm2の圧力、5秒の加圧時間で各セラミックグリーンシート43を加圧する。この結果、接着用セラミックシート46を介して各セラミックグリーンシート43を一体化した未焼成セラミック積層体59を形成する。
その後、未焼成セラミック積層体59をアルミナが焼結しうる所定の温度(例えば1500℃〜1800℃程度の温度)に加熱する焼成工程を行う。この焼成工程を経ると、各セラミックグリーンシート43及び接着用セラミックシート46が焼結してセラミック多層基板100が得られる(図11参照)。またこのとき、タングステンペーストの焼結によって、導体層18,28、端子パッド24,26,29、スルーホール導体31A、ビア導体34が形成される。なお、セラミック焼成時には、セラミックグリーンシート43間の界面において接着用セラミックシート46の粘着剤が脱脂されて焼失される。その後、接着用セラミックシート46のアルミナが焼結するとともにセラミックグリーンシート43のアルミナが焼結し、各セラミック絶縁層14,15,16が一体化したセラミック多層基板100が得られる。
ここで得られるセラミック多層基板100は、製品領域を平面方向に沿って縦横に複数配列した構造の多数個取り用の多層基板である。そして、分割工程を行い多数個取り用のセラミック多層基板100を分割することにより、図1に示すセラミック多層基板11が複数同時に得られる。またこの分割工程において、スルーホール導体31Aのある位置(図11では一点鎖線で示す位置)においてセラミック多層基板11を分割することにより、基板側面にて露出するキャスタレーション31(端面スルーホール導体)が形成される。
なお、本発明者らは、上記製造方法で製造したセラミック多層基板11を厚さ方向に切断し、その基板断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果、各セラミック絶縁層14,15,16間では、接着用セラミックシート46が介在したことによる境界の見極めが困難であり、クラックがなく均一にセラミックが焼結されていることが確認された。
また、本発明者らは、積層体形成工程における接着用セラミックシート46の引張強度(接着力)を図12に示す試験装置61を用いて確認した。その結果を表1に示している。
具体的には、図12に示されるように、表面41に接着用セラミックシート46を貼り付けたセラミックグリーンシート43を準備する。そして、各シート43,46を70℃に加熱して接着用セラミックシート46に粘着性を発現させる。その後、セラミックグリーンシート43を平坦なテーブル62上に置くとともに、接着用セラミックシート46の上面に分銅63(具体的には、5gの分銅)を置く。さらに、セラミックグリーンシート43が浮かび上がらないように分銅63の周囲部分を円筒状の押さえ治具64で押さえつける。この後、バネ秤65を上昇させることでワイヤ66を介して分銅63を引っ張り、接着用セラミックシート46から分銅63が剥がれた時点の荷重を接着用セラミックシート46の引張強度として測定する。ここでは、3種類の異なる粘着剤をそれぞれ含ませて接着用セラミックシート46のサンプル1〜3を形成し、それらサンプル1〜3の接着用セラミックシート46について、3回ずつ引張強度を確認した。
表1に示されるように、各サンプル1〜3の接着用セラミックシート46では、引張強度で70gF以上の粘着力を有することが確認された。特に、サンプル1またはサンプル2の接着用セラミックシート46では、150gF以上の粘着力が発現されることを確認することができた。なお、常温においても同様に引張強度を測定した。その結果、常温の場合では、各サンプル1〜3の接着用セラミックシート46の粘着力が0gFであり、粘着力が発現していないことを確認した。上記した製造方法では冷却/加熱を繰り返しているが、接着用セラミックシート46における粘着性の発生の繰り返しは5回程度まで復元できることを確認した。
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)本実施の形態の場合、積層体形成工程において加熱することで接着用セラミックシート46におけるセチルアルコールが溶融し、そのセチルアルコールが粘着剤の溶剤として機能することで接着用セラミックシート46に粘着力が発現する。本実施の形態における接着用セラミックシート46は、粘着剤を25重量部以上の割合で含むため、引張強度で50gF以上の粘着力を確実に発現させることができる。特に、粘着剤によっては、160gF以上の粘着力を発現させることができる。このように、接着用セラミックシート46が十分な粘着力を有するので、低圧力かつ短時間での圧着が可能となる。このため、従来技術のように貫通穴部55,56の内面側に加圧治具を挿入して加圧する必要がなく、貫通穴部55,56の内面に対してヒーターブロック58が非接触の状態で積層方向に加圧することにより、各セラミックグリーンシート43を一体化した未焼成セラミック積層体59を形成することができる。このように、本実施の形態では、低圧力で未焼成セラミック積層体59を形成しているので、キャビティ19,20の周囲に形成される枠部21,22の変形を低く抑えることができる。また、未焼成セラミック積層体59における内部応力を低く抑えることができるため、焼成時におけるセラミック多層基板11の反りを抑えることができる。さらに、積層体形成工程では、接着用セラミックシート46は有機化合物が溶融することで軟化するため、未焼成導体部53の凹凸を接着用セラミックシート46にて確実に吸収することができ、セラミック多層基板11の平坦度を十分に確保することができる。この結果、寸法精度が良好なセラミック多層基板11を製造することができる。
(2)本実施の形態のセラミック多層基板11のように、上面12及び下面13の両面にキャビティ19,20を形成する場合、従来技術では、枠状のセラミックグリーンシート43を上面側と下面側とで別々の工程で積層する必要があった。これに対して、本実施の形態では、接着用セラミックシート46を介在させることにより低圧力での圧着が可能となるため、それら枠状のセラミックグリーンシート43を同時に積層することが可能となる。このため、製造工程を簡素化することができ、セラミック多層基板11の製造コストを低く抑えることができる。
(3)本実施の形態では、2kgf/cm2の低圧力、5秒間の短時間の条件で各セラミックグリーンシート43を積層方向に加圧することにより、未焼成セラミック積層体59を形成している。このようにすると、従来技術のように仮接着後に長時間放置するといった工程がなく、積層体形成工程での加圧時間も短いため、セラミック多層基板11を効率よく製造することができる。また、従来技術のように貫通穴部55,56の内側にゴムなどの弾性材を嵌め込んだ状態で各セラミックグリーンシート43を加圧する必要がない。さらに、高圧プレス機などの大掛かりな装置が不要となる。従って、セラミック多層基板11の製造コストを低く抑えることができる。
(4)本実施の形態では、従来技術のようにセラミックグリーンシート43の表面に溶剤を塗布してペースト化する必要がない。従って、ペースト化したセラミックグリーンシート43の一部がキャスタレーション形成用の貫通穴49に食み出すことがなく、キャスタレーション31を確実に形成することができる。また、溶剤の塗布バラツキや溶剤の調合率等による接着性にバラツキが生じることなく、接着用セラミックシート46を介在させることでセラミックグリーンシート43の界面で均一な接着性を確保できる。このため、セラミック多層基板11におけるセラミック絶縁層14〜16間でのデラミネーションやスキマ等を確実に防止することができる。また、枠部21,22にキャスタレーション31を形成すると、その形成部分の強度が弱くなる。本実施の形態では、積層時の圧力を十分に低くすることができるため、枠部21,22の変形を抑えつつ、キャスタレーション31のあるセラミック多層基板11を確実に製造することができる。
[第2の実施の形態]
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態を図面に基づき説明する。図13に示されるように、本実施の形態のセラミック多層基板11Aは、上面12側に開口し、段差を有するキャビティ19A(非貫通凹部)を備える点が上記第1の実施の形態と異なる。以下、セラミック多層基板11Aの構成について説明する。
図13に示されるように、セラミック多層基板11Aも、第1の実施の形態と同様に、複数のセラミック絶縁層14,15,16と導体層18とを交互に積層してなる多層配線基板である。各セラミック絶縁層14〜16及び導体層18の形成材料は上記第1の実施の形態と同じである。
本実施の形態のキャビティ19Aは二段構造となっており、キャビティ19Aにおける底面の外周側に段差70が形成されている。セラミック多層基板11Aにおいて、上層に位置するセラミック絶縁層14と中間層に位置するセラミック絶縁層15とがキャビティ19Aの周囲に形成される枠部71,72となっている。また、下層に位置するセラミック絶縁層16がキャビティ19Aの底部となっている。セラミック多層基板11Aでは、セラミック絶縁層14の枠部71よりもセラミック絶縁層15の枠部72の幅が広く形成されており、これら枠部71,72の幅の違いにより露出するセラミック絶縁層15によって段差70が形成されている。
そして、キャビティ19Aの段差70(セラミック絶縁層15の上面)上には、電子部品(例えば水晶振動子)搭載用の複数の端子パッド24が設けられている。キャビティ19A内において、電子部品が各端子パッド24に接続されることにより、電子部品がキャビティ19Aの底面から浮いた状態で収納される。
セラミック多層基板11Aにおいて、キャビティ19Aの外周部の上面12(セラミック絶縁層14の上面)には、キャビティ19Aを取り囲むようにシール用のメタライズ導体層28が設けられている。このメタライズ導体層28上には、図示しないめっき層やロウ材層が設けられるとともに、そのロウ材層等を介して図示しないキャップが取り付けられる。このキャップによってキャビティ19Aの開口が塞がれる。また、セラミック多層基板11の下面13(セラミック絶縁層16の下面)には、他の基板上に実装するための複数の端子パッド29が形成されている。
各セラミック絶縁層14〜16の側面には、断面円形の凹部30が形成されており、その凹部30の表面にキャスタレーション31(端面スルーホール導体)が設けられている。キャスタレーション31は、端子パッド29と内層の導体層18とを電気的に接続している。
各セラミック絶縁層14,15,16には、複数のビア穴33が形成されており、各ビア穴33内にはタングステンを主体とするビア導体34が設けられている。ビア導体34は、各導体層18,28、及び各端子パッド24,29を相互に電気的に接続している。
次に、上記セラミック多層基板11Aを製造する方法について説明する。
まず、上記第1の実施の形態と同様に、シート準備工程によって、セラミックグリーンシート43及び接着用セラミックシート46を準備する(図2参照)。次いで、シート貼り付け工程を行う。上記第1の実施の形態では、上層のセラミック絶縁層14となるセラミックグリーンシート43と、下層のセラミック絶縁層16となるセラミックグリーンシート43とに接着用セラミックシート46を貼り付けた。これに対して、本実施の形態では、上層のセラミック絶縁層14となるセラミックグリーンシート43と、中間層のセラミック絶縁層15となるセラミックグリーンシート43とに接着用セラミックシート46を貼り付ける。
この後、第1の実施の形態と同様に、導体部形成工程を行い、各セラミックグリーンシート43に未焼成ビア導体部50、未焼成キャスタレーション用導体部51及び未焼成導体部53を形成する(図14参照)。
そして、上層及び中間層のセラミック絶縁層14,15となる各セラミックグリーンシート43に対して従来周知のパンチング(打ち抜き)加工を施す。この結果、図15に示されるように、各セラミックグリーンシート43に、キャビティ19Aとなる貫通穴部55A,56Aを形成する(キャビティ形成工程)。ここでは、各セラミックグリーンシート43の裏面42に貼り付けられている接着用セラミックシート46にも、キャビティ19Aとなる貫通穴部55A,56Aが形成される。なお、上層側の貫通穴部55Aのサイズは、中間層側の貫通穴部56Aのサイズよりも大きくなっている。また、下層のセラミック絶縁層16となるセラミックグリーンシート43は、パンチング加工を施すことなく、貫通穴部55A,56Aが非形成の平板状のシートとなっている。
その後、各セラミックグリーンシート43を用いて、積層体形成工程を行う。積層体形成工程では、貫通穴部55A,56Aの非形成の平板状のセラミックグリーンシート43を下層に配置する。そして、平板状のセラミックグリーンシート43上に、貫通穴部55A,56Aのサイズの異なる枠状のセラミックグリーンシート43を重ね合わせて配置する。ここで、枠状の各セラミックグリーンシート43は、接着用セラミックシート46が貼られた裏面42側を下側に向けた状態で順次配置する。この結果、各セラミックグリーンシート43の間に枠状の接着用セラミックシート46が介在された形で各セラミックグリーンシート43が積層される。
そして、図16に示されるように、例えばヒーターブロック58を用いて、各セラミックグリーンシート43に介在される接着用セラミックシート46をセチルアルコールの融点以上の温度(例えば、70℃)に加熱する。このとき、接着用セラミックシート46に含まれるセチルアルコールを溶融させ、引張強度で50gF以上の粘着力を接着用セラミックシート46に発現させる。そして、セラミックグリーンシート43の貫通穴部55A,56Aにヒーターブロック58が非接触の状態で、そのヒーターブロック58を用いて2kgf/cm2の低圧力、5秒間の短時間の条件で各セラミックグリーンシート43を積層方向に加圧する。この結果、接着用セラミックシート46を介して各セラミックグリーンシート43を一体化した未焼成セラミック積層体59Aを形成する。
その後、焼成工程を行うことにより、各セラミックグリーンシート43が焼結してセラミック多層基板100Aが得られる(図17参照)。得られるセラミック多層基板100Aは、製品領域を平面方向に沿って縦横に複数配列した構造の多数個取り用の多層基板である。そして、分割工程を行い多数個取り用のセラミック多層基板100Aを分割することにより、図13に示すセラミック多層基板11Aが複数同時に得られる。
このように、セラミック多層基板11Aを製造する場合でも、上記第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
[第3の実施の形態]
次に、本発明を具体化した第3の実施の形態を図面に基づき説明する。本実施の形態では、セラミック多層基板の製造方法が第1の実施の形態と異なる。
図18に示されるように、本実施の形態のセラミック多層基板11Bでは、中間層のセラミック絶縁層15の上面23側に形成される各導体層18や各端子パッド24は、その上面23に埋まり込むとともに、セラミック絶縁層15の下面25側に形成される各導体層18や各端子パッド26は、その下面25に埋まり込むようにして形成されている。
以下、本実施の形態の製造方法について詳述する。
まず、シート準備工程を行って、セラミックグリーンシート43及び接着用セラミックシート46Aを準備する(図19参照)。なお、セラミックグリーンシート43及び接着用セラミックシート46Aの形成材料及び製法は、上記第1の実施の形態と同じであるが、接着用セラミックシート46Aは、上記第1の実施の形態の接着用セラミックシート46よりも厚く形成される。具体的には、本実施の形態で用いる接着用セラミックシート46Aは、中間層のセラミック絶縁層15となる部分であって、セラミックグリーンシート43とほぼ同じ厚さで形成される。
次に、接着用セラミックシート46Aに対する導体部形成工程を行う。具体的には、接着用セラミックシート46Aの複数箇所に、そのセラミックシート46Aの厚さ方向に貫通する貫通穴48,49を形成する(図20参照)。そして、貫通穴48,49内にそれぞれ導体部を形成する。より具体的にいうと、まず従来周知のペースト印刷装置によるビアメタライズ充填を行って、貫通穴48内にタングステンペーストを充填し、ビア導体34となる未焼成ビア導体部50を形成する。次いで、キャスタレーション印刷を行って、貫通穴49の内周面にタングステンペーストを付着させ、キャスタレーション31となる未焼成キャスタレーション用導体部51を形成する(図21参照)。
そして次に、転写法によって、接着用セラミックシート46Aの上に未焼成導体部53を形成する。ここでは、転写用フィルム75の表面に、タングステンペーストを印刷することで、未焼成導体部53を形成する(図22参照)。その後、ヒーターブロック58等を用いて、各接着用セラミックシート46Aをセチルアルコールの融点以上の温度(例えば、70℃)に加熱する。このとき、接着用セラミックシート46Aにおいてセチルアルコールが溶解して液状化する。そして、液状化したセチルアルコールは接着剤の溶剤となってその接着剤の接着性能が復活し、さらに接着用セラミックシート46Aの表面は、接着剤が大半をしめるので、粘着性が発現する。この状態で、接着用セラミックシート46Aの表面44及び裏面45に転写用フィルム75を押し付けて未焼成導体部53を埋め込むようにして、未焼成導体部53を転写する(図23参照)。
その後、接着用セラミックシート46Aが粘着性を発現しない温度、つまり有機化合物の融点以下の温度(例えば、50℃)まで接着用セラミックシート46Aを冷却し、転写用フィルム75を剥離する。この結果、中間層のセラミック絶縁層15となる接着用セラミックシート46Aの表面44及び裏面45に未焼成導体部53を形成する(図24参照)。
また、上層側及び下層側のセラミック絶縁層14,16となるセラミックグリーンシート43に対しては、第1の実施の形態と同様に、導体部形成工程を行い、セラミックグリーンシート43に未焼成ビア導体部50、未焼成キャスタレーション用導体部51及び未焼成導体部53を形成する(図24参照)。但し、本実施の形態では、各セラミックグリーンシート43に接着用セラミックシート46を貼り付けない状態で、導体部形成工程を行う。
各導体部50,51,53の形成後、各セラミックグリーンシート43に対してパンチング加工を施すことにより、各セラミックグリーンシート43に、キャビティ19,20となる貫通穴部55,56を形成する(キャビティ形成工程)。なお、中間層のセラミック絶縁層15となる接着用セラミックシート46Aは、パンチング加工を施すことなく、貫通穴部55,56が非形成の平板状のシートとなっている。
その後、各セラミックグリーンシート43及び接着用セラミックシート46Aを用いて、積層体形成工程を行う。積層体形成工程では、先ず、貫通穴部55,56が非形成の平板状の接着用セラミックシート46Aを真ん中に配置する。そして、その平板状の接着用セラミックシート46Aの表面44及び裏面45に、貫通穴部55,56を形成した枠状のセラミックグリーンシート43を重ね合わせて配置する。この結果。各セラミックグリーンシート43の間に接着用セラミックシート46Aが介在された形で各シート43,46が積層される。
そして、第1の実施の形態と同様に、ヒーターブロック58を用いて、セチルアルコールの融点以上の温度(例えば、70℃)に加熱し、接着用セラミックシート46Aに粘着力を発現させる。そして、ヒーターブロック58を用い、2kgf/cm2の低圧力、5秒間の短時間の条件で各セラミックグリーンシート43を積層方向に加圧する。この結果、接着用セラミックシート46Aを介して各セラミックグリーンシート43を一体化して未焼成セラミック積層体59Bを形成する(図25参照)。
その後、焼成工程を行うことにより、各セラミックグリーンシート43が焼結してセラミック多層基板が得られる。得られるセラミック多層基板は、製品領域を平面方向に沿って縦横に複数配列した構造の多数個取り用の多層基板である。そして、分割工程を行い多数個取り用のセラミック多層基板を分割することにより、図18に示すセラミック多層基板11Bが複数同時に得られる。
このように、セラミック多層基板11Bを製造する場合でも、上記第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施の形態では、中間層のセラミック絶縁層15に各導体層18や各端子パッド24,26が埋まり込むようにして設けられているため、各導体層18や各端子パッド24,26とセラミック絶縁層15との密着性を十分に確保することができる。
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
・上記第1の実施の形態では、枠状のセラミックグリーンシート43と平板状のセラミックグリーンシート43との間に枠状の接着用セラミックシート46を介在させて各セラミックグリーンシート43を積層していたが、これに限定されるものではない。枠状のセラミックグリーンシート43と平板状のセラミックグリーンシート43との間に平板状の接着用セラミックシート46を介在させて各セラミックグリーンシート43を積層してもよい。この場合、中間層のセラミック絶縁層15となるセラミックグリーンシート43の表面41及び裏面42に平板状の接着用セラミックシート46を貼り付けた後に、ビア導体部形成工程及びキャスタレーション形成工程を行う。また、上層及び下層のセラミック絶縁層14,16となるセラミックグリーンシート43は、接着用セラミックシート46を貼り付けない状態でビア導体部形成工程及びキャスタレーション形成工程等を行う。このようにしても、低圧力で未焼成セラミック積層体59を形成することができ、枠部21,22の変形を抑えることができる。
・上記第3の実施の形態では、中間層のセラミック絶縁層15のみが接着用セラミックシート46Aを用いて形成され、他のセラミック絶縁層14,15は通常のセラミックグリーンシート43を用いて形成されるものであった。これに対して、3枚の接着用セラミックシート46Aを用いて各セラミック絶縁層14〜16を形成するものでもよい。
・上記各実施の形態のセラミック多層基板11,11A,11Bでは、キャスタレーション31(端面スルーホール導体)を形成していたが、キャスタレーション31を形成しないセラミック多層基板としてもよい。
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した各実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
(1)手段1または2において、前記積層体形成工程では、前記接着用セラミックシートが引張強度で150gF以上の粘着力を発現させた状態で、各セラミックシートを積層方向に加圧することを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
(2)手段1または2において、前記積層体形成工程では、1kgf/cm2以上5kgf/cm2以下の低圧力、かつ、1秒以上120秒以下の短時間の条件で、各セラミックシートを積層方向に加圧することを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
(3)手段1または2において、前記シート準備工程で準備される前記接着用セラミックシートは、前記セラミック材料100重量部に対して、前記粘着剤を25重量部以上の割合で含有させ、かつ、前記有機化合物を3重量部以上15重量部以下の割合で含有させたものであること特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
(4)手段1または2において、前記未焼成セラミックシートは、樹脂材料からなる有機バインダを含んで成形され、前記接着用セラミックシートは、前記有機バインダを含まずに成形されること特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
(5)手段1または2において、前記積層体形成工程の後に、前記未焼成セラミック積層体を焼結させて、前記セラミック絶縁層及び前記導体層を形成する焼成工程をさらに含むことを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
(6)手段1または2において、前記有機化合物は、60℃以上の温度で溶融する有機化合物であることを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
(7)手段1または2において、前記有機化合物は、常温にて固体状である高沸点アルコールであることを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
(8)手段2において、前記貫通穴部のサイズが異なる枠状の前記未焼成セラミックシートを枠状の前記接着用セラミックシートを介在させて積層することを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。