JP5977966B2 - アーク溶接方法 - Google Patents

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本発明は、建築用鉄骨等に使用される鋼材を溶接して構造物を建造する際に、天地反転作業が不可能な場合であっても効率よく溶接することができるアーク溶接方法に関する。
鋼材同士を突合わせて一体化させるアーク溶接方法は、建築をはじめ、あらゆる鋼構造物に適用されている。突合わせ溶接を行う場合は、開先のルートギャップ(最狭隘間隔)が、ゼロだと溶込み残しが生じて全断面が溶融せず、完全溶込みができない場合がある。このため、溶接する部材の片側あるいは両側に開先を形成して、アークが開先内の傾斜面に当たり易くすることにより、適正な溶込みができるようにしてから、溶接金属を開先内に充填させている。
また、ルートギャップは、溶接熱歪みや不可避的な部材取付精度の低下によっても生じることがある。このため、ほとんどの突合わせ溶接の場合、ルートギャップを設けて溶接が行われている。ルートギャップは、溶接時に溶けた溶融鉄が溶落ちし易いので、高い技量が要求される。溶落ちを避けるための溶接方法としては、開先をV型もしくはレ型にして、最深部のルートギャップに鋼製の裏当金を仮付けし、開先内の溶接時に裏当金を母材の鋼板と共に一体に接合する方法がよく用いられている。この溶接方法では、鋼板の片側を下向で全て溶接することができるという利点がある。しかしながら、この裏当金を取付ける溶接方法は、後記するように接合部の強度が弱くなるという問題点がある。
図9は、従来のアーク溶接方法で溶接した溶接部分の状態を示す要部拡大図である。
例えば、図9に示すように、板厚の厚い第1鋼板A100に板厚の薄い第2鋼板B100を突合わせ、第2鋼板B100側の鉛直上側に開口したレ型の開先D100を設け、この開先D100の底部に裏当金S100を当てて溶接を行った場合、第1鋼板A100と第2鋼板B100は全断面で溶接されるので、継手としての静的な引張強度を確保することができる。
しかしながら、第1鋼板A100が固定された第2鋼板B100が、曲げ方向あるいは軸方向の周期的変動、例えば、高層建築における地震や、強風による応力Pを受けた場合、板厚が不連続な溶接部に応力集中が加わり、疲労的破壊を起こすことがある。この場合、不連続部点の角度が小さいほど応力集中が大きくなるので、破壊され易くなるという問題点がある。
図9に示す溶接継手の場合は、裏当金S100が溶接された止端部B101,B102に切欠部(「ノッチ」とも呼ばれる)が形成され、この切欠部に非常に大きい応力が集中することになる。したがって、裏当金S100を使用する溶接方法は、耐震性や耐疲労特性が劣り易く、継手品質が低いという問題点がある。
図10(a)〜(e)は、従来のアーク溶接方法で溶接した溶接部分の状態を溶接作業順に示す要部拡大図である。
静的引張強度、耐震性及び耐疲労特性に優れた継手品質を得るためには、裏当金S100(図9参照)を用いない溶接方法が必要である。この目的のために最も好適とされる溶接方法は、図10(a)に示すように、開先D200を表側と裏側に二分したK型にして、ルートギャップを設けない両面溶接法である。この溶接方法では、図10(b)に示すように、開先D200の表側を溶接した後、図10(c)に示すように、鋼板A200,B200を天地反転させる。そして、図10(d)に示すように、ルートギャップ無しで溶接することに伴って生じ易い溶込み不良部分、及び、溶接割れ部分をガウジング等によって抉り取った後、図10(e)に示すように、開先D200の表側(上側)を溶接して仕上げる。
開先D200の両側を溶接する両側溶接による継手形状の場合は、溶融金属の止端部B101,B102(図9参照)に切欠部が存在せず、鋼板B200が周期的な応力Pを受けても、溶接ビードF200の止端部B201,F201に、大きな応力集中が発生せず、鋼板A200に応力Pが伝達される。このため、この場合、高い耐震性及び耐疲労特性を得ることができる。
しかし、両側溶接法は、天地反転作業が不可欠であり、鉄骨現場での組立作業で物理的に反転が不可能な場合も多く、使用される場所が限定されるという問題点がある。
継手の表側と裏側とを逆にして溶接する天地反転作業が不可能な場合において、金属製の裏当金を取付けず、切欠部が無い継手を形成するための溶接方法としては、セラミック製やガラス繊維製の溶接用の裏当材S300(図11(a)参照)を用いた方法がある。
図11(a)〜(c)は、非特許文献1に記載されたアーク溶接方法で溶接した場合の溶接部分の状態を示す要部拡大図である。
例えば、非特許文献1に記載された裏当てビード工法では、図11(a)に示すように、裏当材S300をバネなどの力で開先D300の裏側(下側)に仮固定し、表側(上側)から溶接を行って開先D300に溶融金属を充填している。この場合、裏当材S300は、金属に対して溶接されない特性を持つ材料が使用され、溶接後に開先D300の溶接ビードF300から容易に外すことができる。
図11(b)に示すように、溶接ビードF300の裏側の止端部B301は、滑らかな形状に形成され、切欠部が形成されることがない。
しかし、非特許文献1でも指摘されているとおり、裏当材S300は、図11(c)に示すように、熱伝導速度が遅いことに起因して、溶接ビードF300に割れE300が発生し易い。割れE300が生じた場合は、補修しない限りそのまま残存して切欠部として作用するため、耐震性及び耐疲労特性を著しく劣化させるという問題点がある。
このようなことから、アーク溶接方法では、裏当金S100(図9参照)及び裏当材S300を用いず、溶接する際に、天地反転作業する必要がなく、高能率で、耐震性及び耐疲労特性に優れた方法が望まれていた。
このような要望に対する策としては、鉛直上側に開口したレ型の開先の裏側を上向姿勢で溶接を行ってルートギャップを埋めた(以下、「架橋」という)後、開先の表側(上側)を、上向溶接よりも能率よく作業ができる下向姿勢で溶接する手段がある。
その他の溶接方法としては、広いルートギャップが存在した場合に、非開先側に肉盛溶接を行って架橋させる建築鉄鋼構造物の柱梁接合部の溶接方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
図12(a)は、特許文献1に記載の溶接方法で溶接した溶接部を示す要部拡大図であり、図12(b)及び図12(c)は共に特許文献2,3に記載の溶接方法で溶接した溶接部を示し、さらに具体的には図12(b)は溶接部に応力がかかったときの状態を示す、図12(c)は溶接部に亀裂が発生したときの状態を示す。
しかしながら、特許文献1に記載された溶接方法は、上向姿勢で溶接した場合、溶接ビードの重力によって溶落ちし易いので、従来の下向溶接法と同じ溶接材料や溶接機器では施工能率が著しく悪く、かつ、図12(a)に示すように、溶接後の裏側の溶接ビードF410の形状が凸状になっているため、止端部B401,B402の応力集中が高く、さほどの耐震性や耐疲労特性の向上が認められない。
また、その他の溶接方法としては、溶接材料を特殊なフラックス入りワイヤとすると共に、電流を通常とは逆の正極性にすることにより、上向溶接時の施工能率及び溶接ビードF400の形状を改善して、裏当金や裏当材を使用しない溶接方法が知られている(例えば、特許文献2,3参照)。
特許第4749067号公報 特開2001−71141号公報 特許第3877843号公報 「鉄構技術」(鋼構造出版)2000年6月号 第39〜43頁「柱梁接合部の現場溶接に適用する裏当てビード工法」
しかしながら、特許文献2,3の溶接方法では、施工性が向上したものの、未だに耐震性及び耐疲労特性あるいは溶接能率が満足できていない。
その理由には、次の3点がある。
第1の理由は、従来の逆極性と汎用溶接ワイヤの組み合せに比べた場合、形状面の改善がなされているものの、図12(b)に示すように、特許文献2,3の溶接方法で溶接した場合、継手形状の上下非対称性が著しく、裏側の溶接ビードF410の全体が応力集中箇所になっていることである。
振幅応力Pの動作点から見て、裏側の止端部B401にかかるモーメントMB401[力×距離]は、表側の止端部F401にかかるモーメントMF401よりも距離が長い分だけ大きくなり、伝達バランスが上下不均等であるため、裏側に大きく作用する。
また、応力伝達も、表側が、止端部F401から止端部F402に亘って経路が広がっているので緩やかであるのに対し、裏側が、止端部B401から止端部B402に亘ってほとんど経路として分散されずに鋼板A400に達する。継手は、これらの上下非対称形状的因子から、裏側の溶接部に応力が集中し、早く破壊し易くなっており、耐震性に乏しい。
第2の理由は、上向姿勢によるルートギャップ溶接の裏側の溶接ビードF410が架橋しているものの、裏側の溶接ビードF410の厚さが薄く、その後の下向溶接時に溶落ちし易いことから、下向溶接下層部の電流等の溶接条件を低くしなければならず、溶接作業の能率が上がらないことである。
第3の理由は、図12(c)に示すように、表側の溶接ビードF400の止端部F401、または、裏側の溶接ビードF410の止端部B401に亀裂Cが生じた場合に、最も脆い性質を持つ溶接金属と母材との母材−溶接金属境界線W(図12(b)の裏側の止端部B401から表側の止端部F401までの間の境界線)、いわゆるボンド部や熱影響部(HAZ)を一気に逆側に向かって伝達して破断することがあり、耐震性に問題がある。
前記第1及び第2の理由に対する問題は、従来の常識として、ルートギャップの溶接が架橋することを最終目的としていることに原因がある。
このため、前記した諸問題を究明して改善し、大きな地震に対する耐震性や、周期的な応力に対する耐疲労特性を向上させることができると共に、効率よく溶接することができるアーク溶接方法が要望されていた。
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、天地反転作業が不可能であっても効率よく溶接して耐震性及び耐疲労特性が優れた溶接継手を形成することができるアーク溶接方法を提供することを課題とする。
前記した課題を解決するために、本発明に係るアーク溶接方法は、第1鋼材と第2鋼材とを完全溶込みで継手溶接するアーク溶接方法であって、前記第1鋼材は、前記第2鋼材に対して突合せ方向、または、前記突合せ方向に直交する直交方向に向けて配置されると共に、前記第2鋼材よりも板厚が大きく形成され、前記第2鋼材は、前記第1鋼材に対して前記突合せ方向に向けて配置され、当該第2鋼材の表側に裏側よりも大きく開口する片側開先を有し、前記第1鋼材と前記第2鋼材とを溶接する際、前記片側開先の裏側を前記第1鋼材側の端面の直交方向に2パス以上上向溶接し、かつ、前記第2鋼材側の裏面を前記突合せ方向に前記片側開先を架橋する上向溶接を行うと共に、架橋後1パス以上、非開先内である前記第2鋼材側の裏面に沿って水平方向に上向肉盛溶接した後、前記第2鋼材側の表側を下向溶接で前記片側開先の充填溶接と余盛溶接とを行い、前記上向溶接と前記下向溶接とによって形成される溶接金属と前記第2鋼材の母材との母材−溶接金属境界線の角度が、135度以下になるように溶接することを特徴とする。
かかる構成によれば、本発明に係るアーク溶接方法は、第1鋼材と第2鋼材とを溶接する際、片側開先の裏側(下側)を第1鋼材側の端面の直交方向に2パス以上上向溶接し、かつ、前記第2鋼材側の裏面を前記突合せ方向に前記片側開先を架橋する上向溶接を行うと共に、架橋後1パス以上、非開先内である第2鋼材側の裏面に沿って水平方向に上向肉盛溶接した後、第2鋼材側の表側(上側)を下向溶接で片側開先の充填溶接と余盛溶接とを行っている。つまり、このアーク溶接方法は、まず、片側開先の裏側を、2パス以上に亘って上向溶接することにより、ルートギャップを確実に架橋させて蓋をすることができる。その架橋部位は、溶接ビードで積層して重ねることにより、溶接ビードの厚さを厚くすることができるため、この後で、片側開先の表側を溶接する際に、高い電流条件で下向溶接を行っても溶落ちするのを防止することができ、溶接作業の高能率化を図ることができる。
また、アーク溶接方法は、第2鋼材側の表側を下向溶接で片側開先の充填溶接と余盛溶接とを行うことによって、溶接ビードにかかる外力に対する強度及び応力伝達性を向上させることができる。
また、アーク溶接方法は、上向溶接と下向溶接とによって形成される母材−溶接金属境界線の角度が、135度以下になるように溶接することにより、母材−溶接金属境界線に沿って亀裂が発生するのを抑制することができると共に、発生する亀裂を母材−溶接金属境界線に追従できなくして、亀裂が発生してもその速度を遅くすることができる。
また、前記上向溶接には、フラックス入りワイヤが用いられ、前記下向溶接には、ソリッドワイヤまたはフラックス入りワイヤが用いられることが好ましい。
かかる構成によれば、上向溶接に使用するフラックス入りワイヤは、ソリッドワイヤと比較して、スパッタの発生量が少なく、溶接ビードの形状を平坦にすることができると共に、比較的高電流であっても、溶滴の表面張力が高く、スラグが溶滴の表面に固体として生じ、溶落ちし難い。このため、フラックス入りワイヤは、上向溶接に使用することが可能である。
また、前記上向溶接に用いられる前記フラックス入りワイヤは、極性を正極性とし、フラックスとしてフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムを合計0.5〜10質量%含有していることが好ましい。
かかる構成によれば、極性とフッ化物を組み合わせることによって、上向姿勢でもより溶融池が垂れ難くなり、止端部の馴染み性が改善されて応力集中を緩和させることができる。
また、前記上向溶接に用いられる前記フラックス入りワイヤは、炭酸ガスシールドと組み合わせたガスシールドアーク溶接法からなることが好ましい。
かかる構成によれば、フラックス入りワイヤは、炭酸ガスをシールドガスとして用いて溶接することにより、窒素の混入を防ぎ、高靭性な溶接金属を得ることで、亀裂伝播速度を遅くすることができる。
また、前記第1鋼材は、柱部材からなり、前記第2鋼材は、H形鋼から形成された梁部材からなると共に、前記柱部材に接合する際に接合される下フランジとして形成されていることが好ましい。
かかる構成によれば、第2鋼材は、柱部材に接合する際に接合される下フランジとして形成されていることによって、H形鋼の柱部材であっても、裏当材を用いずに、開先を上向溶接することができると共に、梁全体の溶接として耐震性及び耐疲労特性を向上させることができる。
本発明は、天地反転作業が不可能であっても効率よく溶接して耐震性及び耐疲労特性が優れた溶接継手を形成することができるアーク溶接方法を提供することができる。
また、アーク溶接方法は、ルートギャップの裏側を上向溶接して架橋後に、さらに裏側に溶接ビードを重ねるように積層することによって、ルートギャップを確実に閉塞することができる。このため、開先の表側を下向溶接する際に、溶落ちすることがないので、溶接作業の作業効率を向上させることができると共に、溶接部に外力がかかったときの応力伝達性を良好にして亀裂を発生し難くし、さらには亀裂が生じた後の伝播をも遅らせることができる。
(a)、(b)は、本発明の実施形態に係るアーク溶接方法における開先のパターンをそれぞれ示す要部拡大縦断面図である。 本発明の実施形態に係るアーク溶接方法を示す要部拡大縦断面図であり、(a)は1パス目の上向溶接をした状態を示す、(b)は溶接が完了した溶接継手を示す。 本発明に係るアーク溶接方法でルートギャップを溶接して架橋するときの積層例を示す説明図であり、(a)〜(d)はその第1積層例から第4積層例を示す。 (a)〜(c)は、本発明の実施形態に係るアーク溶接方法で第1鋼板と第2鋼板とを接合した溶接部分に亀裂が発生するときのそれぞれのパターンを示す。 本発明の実施形態に係るアーク溶接方法の比較例及び変形例を示す図であり、(a)は比較例及び変形例を示す斜視図、(b)は(a)のX部(比較例)の拡大断面図、(c)は(a)のY部(変形例)の拡大断面図である。 本発明に係るアーク溶接方法の実施例1を示す要部拡大断面図である。 実施例2の比較例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。 本発明に係るアーク溶接方法の実施例2を示す図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図である。 従来のアーク溶接方法で溶接した溶接部分の状態を示す要部拡大図である。 (a)〜(e)は、従来のアーク溶接方法で溶接した溶接部分の状態を溶接作業順に示す要部拡大図である。 (a)〜(e)は、非特許文献1に記載されたアーク溶接方法で溶接した場合の溶接部分の状態を示す要部拡大図である。 (a)は、特許文献1に記載の溶接方法で溶接した溶接部を示す要部拡大図であり、(b)及び(c)は共に特許文献2,3に記載の溶接方法で溶接した溶接部を示し、さらに具体的には(b)は溶接部に応力がかかったときの状態を示す、(c)は溶接部に亀裂が発生したときの状態を示す。
以下、本発明の実施形態について図1〜図4を参照して説明する。
なお、実施形態の説明において、第1鋼板A、第2鋼板Bは、溶接する際の被溶接部材の配置状態等によって左右の向きが変化する。このため、本発明の実施形態では、便宜上、図面に対して上側を「表」、下側を「裏」、左側を「左」、右側を「右」として説明する。
図1(a)、(b)に示すように、本発明に係るアーク溶接方法は、第1鋼板A,A1(第1鋼材)と第2鋼板B(第2鋼材)とを裏当材を用いずに完全溶込みで溶接継手を溶接する方法である。このアーク溶接方法を詳述する前に、まず、このアーク溶接方法によって接合される第1鋼板A,A1と第2鋼板Bを説明する。
≪第1鋼板及び第2鋼板の構成≫
第1鋼板A,A1(第1鋼材)及び第2鋼板B(第2鋼材)は、例えば、建築用鉄骨等に使用される鋼材を溶接して構造物を建造する際に使用される被溶接部材である。
第1鋼板A,A1は、第2鋼板Bに対して、図1(a)に示す第1鋼板Aのように、水平方向(突合せ方向)に向けて配置されるか、あるいは、図1(b)に示す第1鋼板A1のように、鉛直方向(突合せ方向に直交する直交方向)に向けて配置されて、第2鋼板Bに接合される部材からなる。第1鋼板A,A1は、第2鋼板Bよりも板厚が大きく形成されている。つまり、第1鋼板A,A1は、図1(a)に示すように、第2鋼板Bよりも板厚の厚い厚板(第1鋼板A)、あるいは、図1(b)に示すように、第2鋼板Bに対して直交方向に延設された平板材あるいは柱状部材(第1鋼板A1)からなる。
図1(a)、(b)に示すように、第2鋼板Bは、第1鋼板A,A1に対して水平方向(突合せ方向)にルートギャップGを介して配置される鋼板であり、レ型の開先Dを形成するために、第1鋼板A,A1の対向面に対して、例えば、約45度傾斜した傾斜面Bdが形成されている。
開先Dは、図1(a)、(b)に示すように、2つのパターンによってレ型に形成されて、レ型開先溶接される。開先Dの形状は、レ型以外に、このレ型に近い形状であればよく、例えば、傾斜面Bdの45度の傾斜角度を45度よりも大きく形成した急斜面にしたもの、または、傾斜面Bdの傾斜角度を45度よりも小さく形成した緩斜面のもの、あるいは、傾斜面Bdを曲面状に形成したJ型であっても構わない。
≪溶接ワイヤの構成≫
図2(a)、(b)に示すように、溶接トーチ1に取り付けられる溶接ワイヤ2(溶接材料)は、開先Dを裏側(下側)から上向溶接する際に、フラックス入りワイヤが用いられることが望ましい。上向溶接に用いられるフラックス入りワイヤは、極性を正極性とし、フラックスとしてフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムを合計0.5〜10質量%含有する溶接ワイヤ2で、炭酸ガスシールドと組み合わせたガスシールドアーク溶接法で溶接されることが望ましい。
また、図2(b)に示すように、溶接ワイヤ2は、表側(上側)から下向溶接する際に、ソリッドワイヤまたはフラックス入りワイヤが用いられる。
上向溶接用の溶接材料がフラックス入りワイヤで、下向溶接用の溶接材料がソリッドワイヤまたはフラックス入りワイヤであることについて説明する。
一般的に下向溶接には全姿勢溶接用のような溶接ビードFbの垂れ防止機能を重視する必要が無い。このため、溶接ワイヤ2として、ソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤ共に適用できる。継手溶接部の大部分の面積を占めるこれらの溶接ワイヤ2には、大気からの窒素の混入を防ぎ、高品質な溶接金属を得るためにCO、または、COとArあるいはOとの混合ガスなどのシールドガスを適用するのが望ましい。
一方、上向溶接する場合、溶接ビードFaが垂れ易いので、上向溶接用の溶接材料には、フラックス入りワイヤが望ましい。ソリッドワイヤは、スラグの発生量が非常に少ないため、上向溶接に重力によって垂れ落ちようとする溶融池を支えることができず、溶接ビードFaが凸形状になり易い。凸形状の溶接ビードFaになれば、止端部Baの形状が切欠状に近づき、応力集中が増して耐震性や耐疲労特性が劣化する。フラックス入りワイヤは、内包される酸化物によって発生するスラグが凝固することにより、溶落ちを防止し、上向姿勢にもかかわらず平坦かつ止端部Baの形状が滑らかで、応力集中が発生し難い溶接ビードFaを得ることができる。この場合、溶接材料は、電流を上げても垂れ難いため、溶接作業の高能率化も図れる。
次に、フラックス入りワイヤが正極性(ワイヤ−&母材+)で配電され、内包されるフラックスとしてフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムを合計0.5〜10質量%含有していることについて説明する。
溶接ワイヤ2の溶接材料として最も普及しているフラックス入りワイヤは、逆極性用であり、かつ、アーク安定性が劣化するため、フッ化カルシウムまたはフッ化バリウムを含有しない。
これに対して、本発明の上向溶接で使用する溶接材料は、正極性で配電され、内包されるフラックスとしてフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムを含有するものが望ましい。正極性とフッ化物を組み合わせると、上向姿勢でも、溶融池が垂れ難くなり、止端部Baの馴染み性が改善して応力集中を緩和させることができる。また、アークの安定性も改善することができる。また、溶込みが浅くなり、上向溶接の最終パスによって制御する「溶込み交差角度θ135度以下」を容易に得ることができる。
逆極性の従来溶接法を適用すると、「第2鋼板B側の裏側の水平方向(突合せ方向)に架橋必要パス+架橋後1パス以上」の最終パスで溶込みが深くなってしまい、下向溶接部との交差角度が小さくなるためである。
フラックスに含有させるフッ化物としては、フッ化カルシウムまたはフッ化バリウムが最も好適である。外周の鋼部分も合わせた全ワイヤ重量換算でフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムが0.5質量%未満では、アークが不安定となり、溶接が困難となる。なお、その含有率が10質量%を超えるとスパッタが多く発生するので、溶接が困難となる。
したがって、フッ化カルシウムまたはフッ化バリウムは、合計0.5〜10質量%とする。
次に、フラックス入りワイヤが炭酸ガスシールドと組み合わせたガスシールドアーク溶接法である点について説明する。
正極性+フッ化物のフラックス入りワイヤは、さらに、アルミニウム等を適量添加するとシールドガスが不要で溶接が可能となる。しかし、ノーガス溶接では、溶接金属中に大気から窒素が混入し、靭性が低くなって、亀裂伝播速度が高くなる。このため、炭酸ガスをシールドガスとして用いることにより、窒素の混入を防ぎ、高靭性な溶接金属を得ることで、亀裂伝播速度を遅くすることができる。
なお、フラックス入りワイヤは、フッ化カルシウムまたはフッ化バリウムの他に、溶接金属調質のための脱酸材、あるいは、アーク安定剤としてとしてC,Si,Mn,Mg,Ti,Al,Zr,P,S,K,Na,Ca等を単体元素あるいは化合物としてさらに添加して適用することができる。
≪アーク溶接方法≫
次に、第1鋼板Aと第2鋼板Bとを溶接する場合を例に挙げてアーク溶接方法を説明する。
アーク溶接方法は、例えば、建築用鉄骨等に使用される第1鋼板A,A1と第2鋼板Bとを溶接して構造物を建造する際に利用される溶接方法であり、溶接する際に、天地反転作業が不可能な場合であっても溶接することができる。
<第1工程>
第1鋼板Aと第2鋼板Bとをアーク溶接する際は、まず、図2(a)に示すように、溶接機の溶接トーチ1を上向きにして第1鋼板A及び第2鋼板Bの下方に配置し、溶接ワイヤ2と開先Dの下部との間に、溶接電源(図示省略)からの電圧を印加すると、アーク電流が流れてアークが生成され、溶接が行われる。そして、開先Dの裏側(下側)を第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に上向溶接して、1パス目でルートギャップGを架橋する。これにより、開先D内の下端部が溶接ビードFによって閉塞される。
<第2工程>
次に、1パス目と同様に、溶接トーチ1を上向きにした状態で、開先Dの裏側(下側)を第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に1パス以上上向溶接して、1パス目と合わせて合計、第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に2パス以上上向溶接する。
さらに、第2鋼板B側の裏面架橋済み溶接部を突合せ方向に1パス以上上向溶接する。
こうすることで、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に2パス以上」と、「第2鋼板B側の裏側の水平方向(突合せ方向)に架橋するのに必要なパス+架橋後1パス以上」が満足する。
図2(b)に示すように、振幅応力Pの動作点から表側の止端部BbにかかるモーメントMBb[力×距離]と、裏側の止端部BaにかかるモーメントMBa[力×距離]が、それらのモーメントMBa,MBbの距離が近づくことによって近い値となり、応力伝達のバランスが上下均等に近づくため、裏側への作用が実質的に小さくなる。この作用により、第2鋼板B側から作用する応力の応力集中が緩和され、第1鋼板A側の伝達効率が向上されて、耐震性及び耐疲労特性が大きく改善される。
この場合、モーメントMBa,MBbの距離の理想的な上限は、表側の止端部BbにかかるモーメントMBbの距離と、裏側の止端部BaにかかるモーメントMBaの距離とが、同一となる距離である。
<第3工程>
次に、図2(b)に示すように、溶接トーチ1を第2鋼板Bの表側(上側)に配置して、第2鋼板Bの表側を下向きで開先Dを溶接ビードFで埋めて蓋をするように充填溶接及び余盛溶接を行う。このため、ルートギャップGの架橋部位は、厚みを増すことができるので、溶接ビードFにかかる外力に対する強度及び応力伝達性を向上させることができる。
また、裏側を上向溶接して溶接ビードFaでルートギャップGを架橋した後に、表側を下向溶接する場合、上向溶接の溶接ビードFaによって架橋部位が形成されたことにより、高い電流条件を用いて溶接を行ったとしても溶落ちし難くなるため、溶接作業の高能率化を図ることができる。
このようにして上向溶接と下向溶接とによって形成される溶接ビードF(溶接金属)と第2鋼板Bの母材との母材−溶接金属境界線Wの角度θは、135度以下になるように溶接して形成される。上向溶接の溶接ビードFaと下向溶接の溶接ビードFbとが交差する角度θは、135度以下になるようにすれば、発生する亀裂の進行が、母材−溶接金属境界線Wに追従しなくなる。
≪ルートギャップの架橋の積層例≫
図3は、本発明に係るアーク溶接方法でルートギャップGを溶接して架橋するときの積層例を示す説明図であり、(a)〜(d)はその第1積層例から第4積層例を示す。
次に、規定した上向溶接による「第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に2パス以上」と、「第2鋼板B側の裏側の水平方向(突合せ方向)に架橋するのに必要なパス+架橋後1パス以上」の積層例1〜4について説明する。
<第1積層例>
図3(a)に示すように、第1積層例は、1パス目の溶接ビードF1でルートギャップGを架橋し、2パス目の溶接ビードF2で第1鋼板A側の端面の鉛直方向に1パスの溶接ビードF2を積層する。さらに、3パス目の溶接ビードF3を第2鋼板B側の裏側の水平方向に積層する。
第1積層例は、このようにして、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に2パス以上」と第2鋼板B側の裏側水平方向に(架橋必要パス+架橋後1パス以上)」を実現している。
<第2積層例>
図3(b)に示すように、第2積層例は、1パス目の溶接ビードF1でルートギャップGを架橋し、2パス目の溶接ビードF2で広いウィービング溶接を行うことにより、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向に+1パス」と、「第2鋼板B側の裏側の水平方向に+1パス」を兼用した溶接施工を行う。
第2積層例は、このようにして、第1鋼板A側の端面の鉛直方向に2パス以上」と、「第2鋼板B側の裏側の水平方向に架橋必要パス+架橋後1パス以上」と、を実現させている。
<第3積層例>
図3(c)に示す第3積層例は、ルートギャップGが広すぎて1パスで架橋できない場合の積層例である。この場合は、まず、ルートギャップGの第1鋼板A側に1パス目の溶接ビードF1として上向溶接で肉盛溶接を行ってルートギャップGを狭める。
次に、2パス目の溶接ビードF2としてその肉盛溶接端面と第2鋼板B側の裏側端面間をさらに上向溶接によってルートギャップGを架橋する溶接を行う。ルートギャップGが広くても、この2パス目の溶接ビードF2によりルートギャップGが架橋される。
さらに、3パス目の溶接ビードF3を第1鋼板A側の端面の鉛直方向に1パス目の溶接ビードF1に積層して、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向に+1パス」を行う。
さらに、4パス目として、4パス目の溶接ビードF4を第2鋼板B側の裏側の水平方向に積層して完了する。
第3積層例は、このようにして、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向(直交方向)に2パス以上」と「第2鋼板B側の裏側水平方向に(架橋必要パス+架橋後1パス以上)」を実現させている。
<第4積層例>
図3(d)に示すように、第4積層例は、まず、ルートギャップGの第1鋼板A側に4パス目として上向溶接で肉盛溶接を行って、1パス目の溶接ビードF1でルートギャップGを狭める。
2パス目として1パス目の溶接ビードF1を土台として第1鋼板Aと第2鋼板Bを繋ぐように2パス目の溶接ビードF2を上向溶接で積層する。これでルートギャップGの架橋が完了されて、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向に+1パス」が行われたことになる。
さらに、3パス目として、第1鋼板A側の裏側の水平方向に上向溶接して3パス目の溶接ビードF3を積層する。
第3積層例は、このようにして、「第2鋼板B側の裏側の水平方向に(架橋必要パス+架橋後1パス以上)」が実現される。なお、ルートギャップGがさらに広く2パスで架橋できない場合は、さらに上向溶接で肉盛溶接を水平方向(突合せ方向)に重ねて行う。
≪亀裂について≫
本発明のアーク溶接方法は、以上のような積層方法の改善によるマクロ形状的な応力集中を改善した効果と、下向溶接の能率向上の効果の他に、さらに、重要な規定が母材−溶接金属境界線Wの形状の改善による、亀裂発生後の伝播抵抗増加である。
これによって溶接止端部からの亀裂発生後に、その亀裂進展速度を低下させ、破断に至る時間を遅らせることができる。
さらに、図12(a)及び図4(a)〜(c)を主に参照しながら、亀裂の発生と、本発明が亀裂進展速度を低下させることができる点について、従来と比較して説明する。
図12(a)に示す前記した従来の第3の問題点として説明した溶接ビードF400の止端部B401または止端部F401から亀裂Cが生じた場合、その亀裂Cが進む方向は、母材−溶接金属境界線W(図12の止端部B401−止端部F401)、ボンド部や熱影響部(HAZ)であることが多い。
これは、この部位が溶接時に最も急冷を受けることにより、硬くて脆い性質へ組織変化する性質があるためである。相対的に鋼板の非熱影響部や溶接金属よりも亀裂抵抗が小さいことから、大きい速度で伝播する。亀裂Cの方向が一直線であると、それは顕著となる。
しかし、亀裂の方向を途中で大きく迂回させれば、亀裂は、それに追従することができず、溶接金属内部を進行することになる。この場所は、ボンド部や熱影響部よりも相対的に高靭性であり、亀裂伝播抵抗が高いことから、亀裂の進行速度が遅くなり、破断に至る時間を長くすることができる。このメカニズムを実現する手段として、本発明は、上向溶接と下向溶接との混用溶接法を利用している。
亀裂進行方向が母材−溶接金属境界線Wに追従しないようにするためには、母材−溶接金属境界線Wを図2(b)に示すように、途中で急峻に曲げればよい。すなわち、上向溶接の溶接ビードFa(溶接金属)と下向溶接の溶接ビードFb(溶接金属)とでそれぞれ形成される溶込み形状の違いを利用して、それぞれの交差の角度θが135度以下になるように制御すれば、発生する亀裂が、母材−溶接金属境界線Wに追従できなくなる。
図4(a)〜(c)は、本発明の実施形態に係るアーク溶接方法で第1鋼板と第2鋼板とを接合した溶接部分に亀裂が発生するときのそれぞれのパターンを示す。
例えば、図4(a)に示すように、表側の止端部Bbから亀裂C1が発生した場合は、母材−溶接金属境界線Wに沿って進行した後、途中で境界部から溶接金属を通り、進展速度が小さく減速された後、貫通に至る。
図4(b)に示すように、これとは逆に、裏側の止端部Baから亀裂C2が発生した場合は、止端部Baから母材と溶接金属との境界部に沿って進行して溶接金属、さらに母材原質部を通り、進展速度が小さく減速された後、貫通に至る。
図4(c)に示すように、母材−溶接金属境界線Wの角度θが135度を超えている場合は、亀裂C4が母材−溶接金属境界線Wに沿ってその方向に追従し、早期に破断に至る。
これを実現する手段として、上述した「第2鋼板B側の裏側の水平方向に(架橋必要パス+架橋後1パス以上)」が必要となる。ルートギャップGを架橋させるパスだけでは、溶込み交差角度θを135度に制御することはできない。
また、架橋後の最終パスの溶接条件から算出される入熱(電流×電圧×60/溶接速度、単位J/cm)も、過大であれば交差の角度θが135度を超える場合も生じるため、開先角度などを勘案して入熱抑制することで、交差の角度θが135度を満足させるようにする必要がある。
また、図4(a)に示す亀裂C1の進行は、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向に+1パス」が破断亀裂時間の長時間化に有効となっている。なお、従来のようにルートギャップGの架橋後にそのまま溶接を終えていると、裏側の溶接ビードFの厚さが薄く、止端部Bbから止端部Bcの方向の距離が短く、早くに破断する。
しかし、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向に+1パス」の溶接施工によって、溶接ビードFの厚みを増しておくと、溶接金属進展後の破断までに至る距離が大きいため、破断までの時間を稼ぐことができる。
図4(b)に示すように、裏側の溶接金属の止端部Baから表側の溶接金属の止端部Bbの方向に向けて亀裂C3が発生することがある。このタイプの場合、従来の施工法では、図12(c)に示すように、亀裂Cの進展が母材−溶接金属境界線Wと合致し、脆性的金属特性領域のため、進展速度が非常に速い。
しかし、図4(b)に示すように、「第2鋼板B側の裏側の水平方向に(架橋必要パス+架橋後1パス以上)」溶接を行うことにより、亀裂C3が、高靭性な母材原質部を貫通するため、その亀裂C3の進展速度を遅くすることができる。
このように、本発明のアーク溶接方法は、「第1鋼板A側の端面の鉛直方向に+1パス」、「第2鋼板B側の裏側の水平方向に(架橋必要パス+架橋後1パス以上)」、「上向溶接とその後の下向溶接によって形成される第2鋼板Bの断面の母材−溶接金属境界線Wの交差角度θが、135度以下の角度で交差するように選定した入熱溶接条件で行う」ことを満足すれば、マクロ形状的応力集中の改善効果と下向溶接の能率向上の効果を得ることができると共に、亀裂C1〜C4の発生後の伝播抵抗の増加による寿命長時間化の効果を得ることができる。
なお、溶込み交差角度θとして110度以下、さらに好ましくは90度以下になるようにすれば、耐震性及び耐疲労特性を向上させることができる。
[変形例]
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更は可能である。なお、既に説明した構成は同じ符号を付してその説明を省略する。
図5は、本発明の実施形態に係るアーク溶接方法の比較例及び変形例を示す図であり、(a)は比較例及び変形例を示す斜視図、(b)は(a)のX部(比較例)の拡大断面図、(c)は(a)のY部(変形例)の拡大断面図である。
前記実施形態では、図2(a)、(b)に示すように、第1鋼板Aと第2鋼板Bとを溶接する場合を説明したが、本発明のアーク溶接方法は、板材に限定されるものではない。例えば、本発明に係るアーク溶接方法は、図5(a)、(c)に示すように、柱部材からなる第1鋼材A2と、H形鋼から形成された梁部材からなる第2鋼材B2とを溶接する場合にも適用できる。
まず、図5(a)、(b)を参照して比較例を説明する。
比較例の第1鋼材A500は、高い耐震性や耐疲労性が要求される鉄骨建築の柱であり、角形鋼管からなるコラム部A510と、このコラム部A510に挿入結合された上通しダイヤフラムA520と、この上通しダイヤフラムA520の下方に挿入結合された下通しダイヤフラムA530と、を有する。
第2鋼材B500は、第1鋼材A500に溶接されるH形鋼からなる梁部材であり、コラム部A510に隅肉溶接される側面ウェブB510と、上通しダイヤフラムA520に裏当金S500を当てて下向溶接で完全溶込み接合される上フランジB520と、下通しダイヤフラムA530に裏当金S500を当てて下向溶接で完全溶込み接合される下フランジB530と、を有している。
このように、H形鋼と柱を接合する現場溶接においては、第1鋼材A500と第2鋼材B500とを天地反転させて作業ができない。このため、比較例では、角形鋼管の第1鋼材A500とH形鋼の第2鋼材B500とを溶接する場合、上通しダイヤフラムA520と上フランジB520との溶接箇所、及び、下通しダイヤフラムA530と下フランジB530との2つの溶接箇所に、いずれも裏当金S500を使用している。
特に、比較例では、梁の第2鋼材B500から柱の第1鋼材A500に対して曲げ方向あるいは軸方向に地震等による周期的変動が加わった場合、応力集中が、上フランジB520の外側と下フランジB530の外側に最も強く働く。そして、応力集中箇所は、上フランジB520側がビードの止端部B501であるのに対し、下フランジB530側が裏当金S500の切欠部となる。
つまり、上フランジB520がある部位の止端部B501に発生する応力集中は小さいものの、下フランジB530がある部位の止端部B502に発生する応力集中は大きく、破壊速度が下フランジB530側に律速となっている。このため、裏当金S500を用いる比較例では、耐震性や耐疲労特性が低い。
これに対して、本発明のアーク溶接方法の変形例に使用される第1鋼材A2及び第2鋼材B2は、図5(a)、(c)に示すように、いずれも比較例の第1鋼材A500と第2鋼材B500とそれぞれ同一形状のものであるが、裏当金Sが上通しダイヤフラムA22と上フランジB22との接合部位のみで、下通しダイヤフラムA23と下フランジB23との接合部位には使用されていない点で相違している。
つまり、第1鋼材A2及び第2鋼材B2は、高い耐震性や耐疲労性が要求される鉄骨建築の柱材及び梁材である。
第1鋼材A2は、角形鋼管からなるコラム部A21と、このコラム部A21に設けた上通しダイヤフラムA22と、この上通しダイヤフラムA22の下側に設けた下通しダイヤフラムA23と、を有する角形鋼管からなる。
第2鋼材B2は、コラム部A21に隅肉溶接される側面ウェブB21と、上通しダイヤフラムA22に裏当金Sを当てて下向溶接で完全溶込み接合される上フランジB22と、下通しダイヤフラムA23に裏当金Sを使用せずに上向溶接して溶接ビードFaで架橋した後、下向溶接の溶接ビードFbで完全溶込み接合される下フランジB23と、を有するH形鋼からなる。
上フランジB22及び下フランジB23は、上通しダイヤフラムA22及び下通しダイヤフラムA23に対向する接合面がそれぞれ傾斜面に形成されて、レ型の開先を形成している。
現場溶接においては、天地反転作業ができないので、上フランジB22を接合する場合、梁内側に裏当金Sが取り付けられる。そこで、下通しダイヤフラムA23と下フランジB23を溶接する際に、まず、開先の裏側を下通しダイヤフラムA23側の端面の直交方向に2パス以上上向溶接し、かつ、下フランジB23側の裏面を突合せ方向に開先を架橋する上向溶接を行うと共に、架橋後1パス以上上向溶接してから、その後、下フランジB23側の表側を下向溶接で開先の充填溶接及び余盛溶接を行うことにより、梁全体の溶接として耐震性及び耐疲労特性の向上させることができる。
このように、本発明のアーク溶接方法は、平らな鋼板同士の溶接だけでなく、柱部材と、梁部材との溶接にも適用することが可能である。
なお、上フランジB22にも、このアーク溶接方法を適宜同じように適用しても構わない。
次に、図6を参照して本発明に係るアーク溶接方法の実施例1を説明する。
図6は、本発明に係るアーク溶接方法の実施例1を示す要部拡大断面図である。
図6に示すように、鋼板A(第1鋼材)は、材質がSN490B(建築構造用圧延鋼材)、板厚が32mmで、溶接する側の端面が垂直の板材からなる。鋼板B(第2鋼材)は、材質がSN490B、板厚が22mmで、溶接する側の端面が35度の傾斜角度θ1でレ型の開先D1を形成する板材からなる。鋼板Aと鋼板Bとは、それぞれの中心線を揃えてルートギャップGが1〜10mmで突合わせて、完全溶込み溶接を行った。
そして、溶接後に鋼板Aを固定する一方、鋼板Bに対して開先D1側の止端部Baから200mm離れた位置で両振り曲げ振幅応力を負荷して疲労試験を行った。その結果が表1である。負荷応力は、500MPaとし、破断回数を評価した。1×10以下の場合を不合格(×)とし、1×10を超えた場合は合格とした。その中でも10×10以上を最も優れるとして◎とし、5×10以上10×10未満の場合をそれに次ぐ○、1×10超5×10未満の場合をさらに下位合格範囲△として表した。また、表1では、実施例No.1〜18及び比較例No.1〜9における上向溶接及び下向溶接を行った際の溶接ワイヤの種類、成分、溶接条件及び試験結果を示す。
Figure 0005977966
なお、表1に示す実験で使用した溶接ワイヤの組成は、ワイヤWF1が0.05質量%C+0.5質量%Si+2.0質量%Mn+1質量%CaF+1質量%Al+0.5質量%Mgであり、種類がフラックス入りワイヤである。
ワイヤWF2は、0.06質量%C+0.7質量%Si+2.0質量%Mn+2質量%Tiであり、種類がフラックス入りワイヤ(フッ化物無添加)である。
ワイヤWF3は、0.10質量%C+0.2質量%Si+1.2質量%Mn+1質量%CaF+5質量%Al+0.5質量%Mg+0.5質量%CaCO3であり、種類はフラックス入りワイヤである。
ワイヤWF4は、0.05質量%C+1.0質量%Si+1.6質量%Mn+5質量%BaF+0.2質量%Mgであり、種類がフラックス入りワイヤである。
ワイヤWF5は、0.03質量%C+0.1質量%Si+2.6質量%Mn+0.5質量%CaF+0.4質量%Mg+0.5質量%Al+0.2質量%CaCO3であり、種類がフラックス入りワイヤである。
ワイヤWF6は、0.05質量%C+0.5質量%Si+2.0質量%Mn+10.0質量%CaF+1質量%Al+0.5質量%Mgであり、種類がフラックス入りワイヤである。
ワイヤWF7は、0.05質量%C+0.5質量%Si+2.0質量%Mn+11.0質量%CaF+1質量%Al+0.5質量%Mgであり、種類がフラックス入りワイヤ(フッ化物超)である。
ワイヤWS1は、0.05質量%C+0.8質量%Si+1.7質量%Mn+0.18質量%Tiであり、種類がソリッドワイヤである。
ワイヤWS2は、0.05質量%C+0.5質量%Si+1.5質量%Mn+0.09質量%Tiであり、種類がソリッドワイヤである。
表1に示すように、実施例No.1〜18では、本発明の課題を満足する条件で溶接施工を行った結果、良好な溶接性と継手の耐疲労特性が得られた。
つまり、実施例No.1では、上向溶接の際にリソッドワイヤを使用して溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが136度で、疲労試験による破断回数が2×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.2では、上向溶接の際にフラックスコアードワイヤ(FCW)の組成外の溶接ワイヤを使用して逆極で溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが100度で、疲労試験による破断回数が4×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.3では、上向溶接の際にフラックスコアードワイヤ(FCW)の組成外の溶接ワイヤを使用して溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが94度で、疲労試験による破断回数が3×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.4では、上向溶接の際に逆極で溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが88度で、疲労試験による破断回数が4×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.5では、上向溶接の際にシールドガス無しでワイヤWF3を使用して溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが100度で、疲労試験による破断回数が5×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.6では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が2パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが76度で、疲労試験による破断回数が12×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.7では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が3パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが65度で、疲労試験による破断回数が15×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.8では、上向溶接の際にワイヤWF4を使用して総パス数が3パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが60度で、疲労試験による破断回数が16×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.9では、上向溶接の際にワイヤWF5を使用して総パス数が4パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが95度で、疲労試験による破断回数が7×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.10では、上向溶接の際にワイヤWF6を使用して総パス数が2パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが83度で、疲労試験による破断回数が10×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.11では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が2パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが100度で、疲労試験による破断回数が7×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.12では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が2パスで、鋼板Bの方向への最終パスの入熱を18[kJ/cm]に上げて溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが100度で、疲労試験による破断回数が9×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.13では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が5パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが80度で、疲労試験による破断回数が12×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.14では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が6パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが72度で、疲労試験による破断回数が14×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.15では、上向溶接の際にワイヤWF5を使用して総パス数が2パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが87度で、疲労試験による破断回数が11×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.16では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が2パスで溶接し、下向溶接の際にAr80%+CO20%のシールドガスを使用して溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが79度で、疲労試験による破断回数が13×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.17では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が3パスで溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが85度で、疲労試験による破断回数が10×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
実施例No.18では、上向溶接の際にワイヤWF1を使用して総パス数が3パスで、鋼板Bの方向への最終パスの入熱を5[kJ/cm]に下げて溶接を行った結果、母材−溶接金属境界線の交差角度θが61度で、疲労試験による破断回数が17×10回であり、本発明の課題を満足する実験結果が得られた。
以上のように、実施例No.1〜18では、鋼板Bで上向溶接と下向溶接とによって形成される母材−溶接金属境界線の溶込み交差角度θが、135度以下になり、溶接性及び継手の耐疲労特性が向上したことを確認することができた。
次に、比較例1〜9の実験結果について説明する。
比較例1では、裏当金付の下向溶接施工法であり、裏当金と母材間に不可避的に生じる切欠き形状によって、継手の耐疲労特性が悪かった。
比較例2では、セラミック製の裏当材を取り付けて溶接を行い、その後外したが、溶接金属中央部に高温割れが発生した。このため、継手の耐疲労特性が悪かった。
比較例3では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものだが、架橋目的である上向溶接のパスの回数が1パスで少なく、架橋が十分に形成されなかったため、下向溶接時に溶落ちが発生した。また、継手の耐疲労特性が悪かった。
比較例4では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものだが、上向溶接の鋼板A側の端面を2層に積層することにより、下向溶接時に溶落ちしなかった。しかし、鋼板B側の裏面に架橋後のパスによる積層を行っていないので、上向溶接による溶接ビードの厚さが薄いため、継手疲労強度が悪かった。
比較例5では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものだが、鋼板B側の裏面に架橋後のパスの積層を適切に行ったため、溶込み交差角度θも良好で継手疲労強度の改善が認められた。しかし、鋼板A側の端面を2層積層していないので、下向溶接時に溶け落ちた。
比較例6では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものであり、鋼板A側の鉛直端面を肉盛するパスを複数回した後、鋼板B側の裏面への架橋後の1パスの積層を行った。しかし、鋼板B側の裏面への架橋後の最終パスは入熱が高かったことから、母材−溶接金属境界線Wの交差角度θが135度を超え、継手の耐疲労特性は悪かった。
比較例7では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものであり、鋼板A側の鉛直端面を肉盛するパスを複数回した後、鋼板B側の裏面への架橋後の2パスの積層を行った。しかし、比較例7では、鋼板B側の裏面への架橋後の最終パスの入熱が高かったことから、母材−溶接金属境界線Wの交差角度θが135度を超え継手の耐疲労特性が悪かった。
比較例8では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものであり、ルートギャップGが広いことから、鋼板A側の鉛直端面を肉盛するパスを複数回した後、鋼板BのルートギャップGを架橋する溶接を行った。しかし、比較例8では、架橋後の積層を行わなかったため、継手の耐疲労特性が悪かった。
比較例9では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものであり、上向溶接にソリッドワイヤを用いた。ルートギャップGが広いことから、鋼板A側の鉛直端面を肉盛するパスを複数回した後、鋼板BのルートギャップGを架橋する溶接を行った。しかし、比較例9では、架橋後の積層を行わなかったため、継手の耐疲労特性が悪かった。
比較例10では、裏当金なしで、上向溶接と下向溶接とを組み合わせたものであり、上向溶接の鋼板A側の端面を2層に積層することにより、下向溶接時に溶落ちしなかった。1パス目の入熱調整で母材−溶接金属境界線Wの交差角度θが135度以下とはなったが、架橋後の積層を行わなかったため、上下モーメントのバランスが悪く、応力集中が裏側に集中して改善しなかったため、継手の耐疲労特性は悪かった。
このように、比較例1〜4,6〜9では、母材−溶接金属境界線Wの交差角度θが135度を超えて、疲労試験の破断回数による継手の耐疲労特性が悪かった。なお、比較例5では、母材−溶接金属境界線Wの交差角度θが135度以下の90度で、疲労試験の破断回数による継手の耐疲労特性も良好であったが、下向溶接の際に溶落ちが発生するという結果になった。
これに対して、実施例1は、実施例No.1〜18の全てで、母材−溶接金属境界線の溶込み交差角度θが135度以下になり、溶接性及び継手の耐疲労特性が良好で、溶落ちがなかった。
次に、図7及び図8を参照して、比較例と比較しながら本発明に係るアーク溶接方法の実施例2を説明する。
図7は、実施例2の比較例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。図8は、本発明に係るアーク溶接方法の実施例2を示す図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図である。
実施例2は、実際の鉄骨造の建築において最も多用される形式である梁貫通式あるいは通しダイヤフラム式と呼ばれる柱−梁構造への本発明のアーク溶接方法を適用したものである。
≪実施例2の比較例について≫
まず、図7(a)〜(c)を参照して比較例を説明する。
図7(a)〜(c)に示すように、第1鋼材A600は、鉄骨建築の柱を形成する角形鋼管からなり、上下方向に延設されたコラム部A610と、コラム部A610に挿入結合された上通しダイヤフラムA620と、この上通しダイヤフラムA620の下方に挿入結合された下通しダイヤフラムA630と、を有する。
第2鋼材B600は、第1鋼材A600に溶接される梁であり、H形鋼からなる。第2鋼材B600は、コラム部A610に隅肉溶接された側面ウェブB610と、上通しダイヤフラムA620に裏当金S610を当てて下向溶接で完全溶込み接合された上フランジB620と、下通しダイヤフラムA630に裏当金S620を当てて下向溶接で完全溶込み接合された下フランジB630と、を有している。
上通しダイヤフラムA620と上フランジB620との溶接箇所、及び、下通しダイヤフラムA630と下フランジB630との溶接箇所に、いずれも裏当金S610,S620を使用して、ワイヤ組成がSW1のソリッドワイヤと炭酸ガスシールドの組み合せで全パスで下向姿勢によって溶接された。そして、溶接後、実施例1と同様に、本テストワークを用いて耐震性評価試験を実施した。
具体的には、コラム部A610を固定し、両梁のスティフナ位置の上下から第2鋼材B600の耐力の1.2倍の荷重を上下振幅方向に周期的に作用させ、上フランジB620と下フランジB630のどちらかの破断までの回数を測定したところ、21回であった。その破断した位置は、下フランジB630と下通しダイヤフラムA630との溶接部であり、裏当金S620によって不可避的に生じる切欠部から下フランジB630に上方に向かって亀裂が進展していた。
すなわち、第2鋼材B600である梁のH形鋼全体への負荷応力に対しては、上フランジB620の外側(上側)に形成された余盛溶接のビード形状よりも、下フランジB630の外側(下側)に形成された裏当金S620がある部位のビード形状の方が著しく応力が集中し易いことを示している。逆に、上フランジB620に下側の裏当金S610と、下フランジB630の上側の溶接余盛は、相対的に耐震性に対して支配要因では無いことも示している。
≪実施例2について≫
図8(a)、(b)に示すように、本発明の実施例2の基本的な構造は、前記した図7(a)〜(c)に示す実施例2の比較例と比較して、第1鋼材A3及び第2鋼材B3と、第1鋼材A600及び第2鋼材B600とが、同一である点で似ている。本発明の実施例2と比較例とは、実施例2が、下フランジB33と下通しダイヤフラムA33との溶接部の開先に裏当金を設けていない点と、その下フランジB33と下通しダイヤフラムA33との溶接部の開先の裏側を上向溶接して架橋した後、開先の表側を下向溶接で充填溶接と余盛溶接とを行う点と、が相違している。
第1鋼材A3は、コラム部(図示省略)と、上通しダイヤフラムA32と、下通しダイヤフラムA33と、を有する角形鋼管からなる。
第2鋼材B3は、コラム部(図示省略)に隅肉溶接された側面ウェブB31と、上通しダイヤフラムA32に裏当金Sを当てて下向溶接で完全溶込み接合された上フランジB32と、下通しダイヤフラムA33に上向溶接と下向溶接とで接合された下フランジB33とを有したH形鋼の梁からなる。
バッキングレスの下フランジB33と下通しダイヤフラムA33との溶接の際には、最初に、ワイヤWF1と炭酸ガスシールドで上向姿勢の溶接を行って架橋させた。このルートギャップGを架橋する溶接に1パスを要した。その後、「下通しダイヤフラムA33側(第1鋼板A側)の端面の鉛直方向に+1パス」、及び、「下フランジB33(第2鋼板B側)の裏側の水平方向に+架橋後1パス以上」を兼用して幅広にウィービングしながら計2パス(図2(b)と同じ積層法)で開先の裏側の溶接を行った。
その後、上フランジB32の溶接法と同様に、溶接ワイヤ2を下向きにしてSW1のソリッドワイヤと炭酸ガスシールドの組み合せで開先Dの充填溶接及び余盛溶接を行った。上向溶接とその後の下向溶接によって形成される下フランジB33の溶接部の断面の母材−溶接金属境界線Wの角度θは、101度であることを確認した。
この後、テストワークを用いて前記した比較例と同一の耐震性評価試験を実施した。その結果、第1鋼材A3とこの第1鋼材A3に溶接して連結した第2鋼材B3は、45回で破断した。その破断位置は、下フランジB33と下通しダイヤフラムA33との溶接部であり、裏側の最終ビードの止端部から表側に向けて進展していたが、母材−溶接金属境界線Wとは一致していなかった。したがって、溶込み交差角度θが、135度以下になり、溶接性及び継手の耐疲労特性が進展したことが確認できた。
このように、本発明のアーク溶接方法は、従来の溶接方法に対して、下フランジB33の溶接に本発明のアーク溶接方法を用いることにより、応力集中が改善されて、疲労試験で破断する破断回数が2倍以上に大きくなり、耐震性及び耐疲労特性を有する接合構造様式に改善することができることを確認した。
なお、下フランジB33と合わせて上フランジB32にも本発明のアーク溶接方法を用いることにより、さらに、耐震性及び耐疲労特性を向上できることは明らかである。
1 溶接トーチ
2 溶接ワイヤ
A 鋼板(第1鋼材)
A1 第1鋼板(第1鋼材)
A2,A3 第1鋼材
A22,A32 上通しダイヤフラム
A23,A33 下通しダイヤフラム
B 鋼板(第1鋼材)
B1 第2鋼板(第2鋼材)
B2,B3 第2鋼材
B22,B32 上フランジ
B23,B33 下フランジ
D,D1 開先
F 溶接ビード(溶接金属)
Fa 上向溶接の溶接ビード
Fb 下向溶接の溶接ビード
F1 1パス目の溶接ビード
F2 2パス目の溶接ビード
F3 3パス目の溶接ビード
F4 4パス目の溶接ビード
W 母材−溶接金属境界線
θ,θ2 母材−溶接金属境界線の角度

Claims (5)

  1. 第1鋼材と第2鋼材とを完全溶込みで継手溶接するアーク溶接方法であって、
    前記第1鋼材は、前記第2鋼材に対して突合せ方向、または、前記突合せ方向に直交する直交方向に向けて配置されると共に、前記第2鋼材よりも板厚が大きく形成され、
    前記第2鋼材は、前記第1鋼材に対して前記突合せ方向に向けて配置され、当該第2鋼材の表側に裏側よりも大きく開口する片側開先を有し、
    前記第1鋼材と前記第2鋼材とを溶接する際、前記片側開先の裏側を前記第1鋼材側の端面の直交方向に2パス以上上向溶接し、かつ、前記第2鋼材側の裏面を前記突合せ方向に前記片側開先を架橋する上向溶接を行うと共に、架橋後1パス以上、非開先内である前記第2鋼材側の裏面に沿って水平方向に上向肉盛溶接した後、前記第2鋼材側の表側を下向溶接で前記片側開先の充填溶接と余盛溶接とを行い、
    前記上向溶接と前記下向溶接とによって形成される溶接金属と前記第2鋼材の母材との母材−溶接金属境界線の角度が、135度以下になるように溶接することを特徴とするアーク溶接方法。
  2. 前記上向溶接には、フラックス入りワイヤが用いられ、
    前記下向溶接には、ソリッドワイヤまたはフラックス入りワイヤが用いられることを特徴とする請求項1に記載のアーク溶接方法。
  3. 前記上向溶接に用いられる前記フラックス入りワイヤは、極性を正極性とし、フラックスとしてフッ化カルシウムまたはフッ化バリウムを合計0.5〜10質量%含有していることを特徴とする請求項2に記載のアーク溶接方法。
  4. 前記上向溶接に用いられる前記フラックス入りワイヤは、炭酸ガスシールドと組み合わせたガスシールドアーク溶接法からなることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のアーク溶接方法。
  5. 前記第1鋼材は、柱部材からなり、
    前記第2鋼材は、H形鋼から形成された梁部材からなると共に、前記柱部材に接合する際に接合される下フランジが形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のアーク溶接方法。
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