JP5962592B2 - 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置 - Google Patents

内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置 Download PDF

Info

Publication number
JP5962592B2
JP5962592B2 JP2013120661A JP2013120661A JP5962592B2 JP 5962592 B2 JP5962592 B2 JP 5962592B2 JP 2013120661 A JP2013120661 A JP 2013120661A JP 2013120661 A JP2013120661 A JP 2013120661A JP 5962592 B2 JP5962592 B2 JP 5962592B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
reaction
fuel
rate waveform
amount
heat generation
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Fee Related
Application number
JP2013120661A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2014238039A (ja
Inventor
灘 光博
光博 灘
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Toyota Motor Corp
Original Assignee
Toyota Motor Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Toyota Motor Corp filed Critical Toyota Motor Corp
Priority to JP2013120661A priority Critical patent/JP5962592B2/ja
Publication of JP2014238039A publication Critical patent/JP2014238039A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5962592B2 publication Critical patent/JP5962592B2/ja
Expired - Fee Related legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Classifications

    • YGENERAL TAGGING OF NEW TECHNOLOGICAL DEVELOPMENTS; GENERAL TAGGING OF CROSS-SECTIONAL TECHNOLOGIES SPANNING OVER SEVERAL SECTIONS OF THE IPC; TECHNICAL SUBJECTS COVERED BY FORMER USPC CROSS-REFERENCE ART COLLECTIONS [XRACs] AND DIGESTS
    • Y02TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE
    • Y02TCLIMATE CHANGE MITIGATION TECHNOLOGIES RELATED TO TRANSPORTATION
    • Y02T10/00Road transport of goods or passengers
    • Y02T10/10Internal combustion engine [ICE] based vehicles
    • Y02T10/12Improving ICE efficiencies

Landscapes

  • Combustion Methods Of Internal-Combustion Engines (AREA)
  • Combined Controls Of Internal Combustion Engines (AREA)

Description

本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関の熱発生率波形を作成する装置、および、その作成された熱発生率波形を利用して実際の燃焼状態を診断する装置に関する。
従来から周知のように、自動車用エンジン等として使用されるディーゼルエンジン(以下、単にエンジンと呼ぶ場合もある)にあっては、エンジン運転状態に応じて燃料噴射量等の各制御パラメータを補正する場合に、気筒内における燃料の反応状態(以下、燃焼状態という場合もある)を認識し、それに応じて、所望の反応状態が得られるように各制御パラメータを補正することが望ましい。
このように気筒内における燃料の反応状態に応じて各制御パラメータを補正する手段の一つとして、燃焼時における熱発生率波形を求め、その熱発生率波形が理想的な波形となるように各制御パラメータを補正することが知られている(特許文献1)。
特開2011−106334号公報 特開2011−89445号公報 特開2006−52676号公報
一般に、燃料が反応する際の熱発生率(クランク軸の単位回転角度当たりの熱発生量)は、EGR(Exhaust Gas Recirculation)の実施の有無や、EGRを実施する場合のEGR率等に応じて変化する。これは、前記熱発生率が気筒内の酸素量の影響を大きく受けるためである。
この点に鑑み、本発明の発明者は、気筒内における酸素密度に基づいて熱発生率を規定することで、理想熱発生率波形の適正化が図れることに着目した。このように理想熱発生率波形の適正化が図れることにより、この理想熱発生率波形と実際の熱発生率波形とを対比することによって燃焼状態の診断を行う場合の信頼性が高まることになる。
さらに、本発明の発明者は、特に酸素密度が比較的低い状況にあっては、この酸素密度のみに従って熱発生率を規定したのでは理想熱発生率波形を適正なものにできないことに着目した。そして、気筒内における二酸化炭素の量が熱発生率に大きく影響していることを見出した。これは、二酸化炭素の存在が酸素分子と燃料粒子との邂逅率を低下させ、この二酸化炭素が燃焼阻害物質となっていることに起因するものと推測される。
なお、特許文献2および特許文献3には気筒内の二酸化炭素量が燃料の着火時期に影響を与えることについて開示されている。
しかしながら、実際に熱発生率に対する二酸化炭素の影響度合いは、気筒内の酸素密度によって異なっており、この二酸化炭素の量による熱発生率への影響を考慮する際にあっては、酸素密度による熱発生率が規定されていることが必要となる。前記各特許文献では、そのことに関する記載は一切無く、これら特許文献の技術的思想のみでは、気筒内における二酸化炭素の量と熱発生率との関係を適切に規定することはできず、その結果、理想熱発生率波形の適正化には限界がある。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内燃機関の気筒内での燃料の燃焼状態を高い精度で規定することが可能な内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置を提供することにある。
−発明の解決原理−
前記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、熱発生率波形を規定するパラメータとして、酸素密度に加えて二酸化炭素量を適用し、この二酸化炭素量に応じて熱発生率を規定することで、理想熱発生率波形の適正化が図れるようにしている。
−解決手段−
具体的に、本発明は、燃料噴射弁から気筒内に噴射された燃料の燃焼を行う内燃機関における燃料の反応の熱発生率波形を作成する装置を対象とする。この熱発生率波形作成装置に対し、前記燃料噴射弁から噴射された燃料の反応の理想熱発生率波形を作成するに際し、気筒内の酸素密度に基づいて規定された基準熱発生率を、気筒内の二酸化炭素量に応じて補正することによって理想熱発生率を算出する構成としている。
なお、ここでいう「理想熱発生率波形」とは、指令噴射量に応じた燃料噴射量、指令噴射圧力に応じた燃料噴射圧力、指令噴射期間に応じた燃料噴射期間が確保された状態であって、燃焼効率が十分に高い場合を想定した理論上得られるべき熱発生率波形をいう。
前記特定事項により、気筒内の酸素密度に基づいて規定された基準熱発生率を、気筒内の二酸化炭素量に応じて補正することによって理想熱発生率を算出し、この理想熱発生率に基づいて理想熱発生率波形を作成する。つまり、本解決手段では、酸素密度のみでは十分な精度を得ることができなかった理想熱発生率を、反応の阻害要因となる気筒内の二酸化炭素量に応じて補正することによって精度を高め、この補正後の理想熱発生率に基づいて理想熱発生率波形を作成するようにしている。これにより、適正な理想熱発生率波形を作成することができる。
なお、本発明でいう「理想熱発生率波形の作成」は、実際に理想熱発生率波形を描くものには限定されず、例えば理想熱発生率波形の作成が可能な程度まで、クランク軸の単位回転角度毎の熱発生量が規定された状態となっていることも含まれる概念である。
具体的には、前記気筒内の酸素密度に基づいて規定された理想熱発生率波形の反応勾配を、前記気筒内の二酸化炭素量および筒内容積から求められた二酸化炭素密度に応じて補正することによって理想熱発生率波形を作成する構成としている。
この場合、前記二酸化炭素密度が高いほど理想熱発生率波形の反応勾配を小さくして前記理想熱発生率波形を作成するようにしている。
二酸化炭素密度が高いほど酸素分子と燃料粒子との邂逅率は低下する傾向にある。つまり、気筒内での反応の進み度合いが小さくなる。このため二酸化炭素密度が高いほど理想熱発生率波形の反応勾配を小さくして理想熱発生率波形を作成するようにしている。このため、理想熱発生率波形を特定する波形構成要素である反応勾配を高い精度で規定することができ、適正な理想熱発生率波形を作成することが可能になる。
また、燃料の反応速度に対する二酸化炭素密度の影響度合いは酸素密度によって異なる。具体的に、前記二酸化炭素密度が高いほど燃料の反応速度を低くし、前記気筒内の酸素密度が低いほど、二酸化炭素密度による燃料の反応速度への影響度合いを大きくして前記理想熱発生率波形を作成するようにしている。
EGR率の上昇等に伴って気筒内の二酸化炭素密度が高くなっていく場合、気筒内の酸素量の一部が二酸化炭素量に置き換わることになり、酸素量の減少分だけ二酸化炭素量が増加することになる。つまり、総ガス量に対する酸素量と二酸化炭素量との合算量の比率は一定に維持されながらも酸素量に対する二酸化炭素量の比率は大きくなっていく。このため、気筒内の酸素密度が低くなっていくに従って二酸化炭素密度は高くなっていく。この場合に、気筒内の酸素密度が低いほど、二酸化炭素の存在による前記邂逅率(酸素分子と燃料粒子との邂逅率)の低下は著しくなるため、二酸化炭素密度による燃料の反応速度への影響度合いは大きくなり、二酸化炭素密度の上昇に伴う反応速度の低下割合は大きくなっていく。このように、酸素密度および二酸化炭素密度それぞれに応じて燃料の反応速度を規定することにより、適正な理想熱発生率波形を作成することが可能になる。
前記理想熱発生率を算出するためのパラメータは、気筒内における混合気の状態が均一である場合と、気筒内における混合気の状態が不均一である場合とで異ならせるようにしている。具体的に、気筒内における混合気の状態が均一である場合には、気筒内の酸素密度、酸素過剰率、二酸化炭素密度に基づいて理想熱発生率を算出する。一方、気筒内における混合気の状態が不均一である場合には、気筒内の酸素密度、酸素過剰率、二酸化炭素密度、燃料密度に基づいて理想熱発生率を算出するようにしている。
気筒内における混合気の状態が均一である場合には、気筒内の全体に亘って燃料密度が略均一であるため、この燃料密度を考慮することなく、気筒内全体の酸素過剰率に従って理想熱発生率を算出することが可能である。これに対し、気筒内における混合気の状態が不均一である場合には、気筒内の各燃焼場における燃料密度が異なっている可能性があるため、各燃焼場(気筒内の領域)毎の燃料密度を考慮し、これら燃焼場毎に理想熱発生率を算出することが必要になる。このように、気筒内における混合気の状態が均一であるか否かによって理想熱発生率を算出するためのパラメータを異ならせることで混合気の状態に応じた理想熱発生率を適切に得ることが可能になる。
前記二酸化炭素密度を求めるタイミングとして具体的にはピストンが圧縮上死点に達したタイミングに設定している。
この場合、気筒内(特にピストンの頂面にキャビティを有するものにあってはキャビティ外領域)の容積(圧縮端容積)が予め決定されているため、二酸化炭素密度の算出が簡素化でき、また、その信頼性も高まることになる。その結果、二酸化炭素密度を高い精度で算出することができて、理想熱発生率波形の適正化を図ることができる。
前記理想熱発生率波形の具体的な作成手法として、前記気筒内を、ピストンに設けられたキャビティの内部領域とキャビティの外部領域とに分割し、これらキャビティの内部領域およびキャビティの外部領域それぞれにおける燃料の反応の理想熱発生率波形を作成して、これら各領域それぞれの理想熱発生率波形を合成することによって気筒内全体を対象とする理想熱発生率波形を作成する構成としている。
これにより、作成された気筒内全体を対象とする理想熱発生率波形に高い信頼性が得られることになる。
また、前記理想熱発生率波形の作成手順としては、前記燃料の各反応の開始時期を基点として、反応速度を斜辺の勾配、反応量を面積、反応期間を底辺の長さとする三角形で成る理想熱発生率波形モデルを作成し、各反応の理想熱発生率波形モデルをフィルタ処理によって円滑化することで作成される。
このように三角形に近似させた熱発生率波形モデルを作成し、この熱発生率波形モデルを利用して理想熱発生率波形を作成することにより、その作成のための演算処理の簡素化を図ることができ、ECU等の演算手段への負荷の軽減を図ることができる。
前述した内燃機関の熱発生率波形作成装置によって求められた理想熱発生率波形を利用して燃焼状態を診断する装置として具体的には以下の構成が挙げられる。つまり、前記理想熱発生率波形と、気筒内で実際に燃料が反応した際の実熱発生率波形とを比較し、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定量以上となっている場合に、燃料の反応に異常が生じていると診断する構成とするものである。
ここでいう「反応の異常」とは、内燃機関の運転に支障を来す程度の反応異常(機器の故障など)に限らず、内燃機関の制御パラメータの補正(または学習)が可能な(例えば排気エミッションや燃焼音を規制の範囲内に抑えるための補正が可能な)程度に、熱発生率波形に乖離が生じている場合も含むものである。
この特定事項により、燃料の反応(反応形態)において、実熱発生率波形が理想熱発生率波形から所定量以上乖離している場合には、その反応に異常が生じていると診断することになる。例えば複数の反応それぞれに対して診断を行う場合、燃料の各反応それぞれは、特性(反応開始温度や反応速度等)が互いに異なっているため、それぞれの理想的な特性と、実際に得られた(実測された)実熱発生率波形の特性とを比較することにより、異常が生じている反応の特定を高い精度で行うことができる。このため、診断精度の向上を図ることができる。そして、異常であると診断された反応形態に対して改善策(例えば内燃機関の制御パラメータの補正)を講じることにより、異常であると診断された反応形態に適した制御パラメータを選択し、その制御パラメータを補正することができる。このため、内燃機関の制御性を大幅に改善することができる。
前記反応に異常が生じていると診断された場合の具体的な動作としては以下のものが挙げられる。つまり、前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定の異常判定乖離量以上となっている反応が存在しており、その反応に異常が生じていると診断された際において、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定の補正可能乖離量以下である場合には、内燃機関の制御パラメータの補正を行って前記乖離を前記異常判定乖離量未満にする制御を行う一方、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が前記補正可能乖離量を超えている場合には、内燃機関に故障が生じていると診断する構成となっている。
このように、反応に異常が生じていると診断された場合において、その異常が解消可能であるか否かを、前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離量に基づいて判断するようにしている。このため、制御パラメータの補正によって正常な反応状態が得られる状態と、部品交換などのメンテナンスが必要な状態とを正確に判別することが可能となる。
なお、内燃機関の制御パラメータの補正を行って前記乖離を前記異常判定乖離量未満にする制御を行う場合の制御パラメータとしては、気筒内の酸素量や二酸化炭素量や燃料量が挙げられる。気筒内の酸素量は酸素密度によって決定され、EGR率や吸気の過給率等によって調整が可能である。また、気筒内の二酸化炭素量は二酸化炭素密度によって決定され、EGR率等によって調整が可能である。さらに、気筒内の燃料量は燃料密度によって決定され、燃料噴射時期や燃料噴射圧力や燃料噴射量によって調整が可能である。一方、内燃機関に故障が生じていると診断する場合の一例としては、実熱発生率波形の乖離が補正可能乖離量を超えている場合であり、この場合には、内燃機関の制御パラメータの補正量が所定のガード値を超えることになるので、これによって内燃機関に故障が生じていると診断することが可能である。具体的には、気筒内温度、酸素密度、燃料密度それぞれに下限値を予め設定しておき、これら気筒内温度、酸素密度、燃料密度の何れかがその下限値を下回っている場合や、二酸化炭素密度の上限値を予め設定しておき、この二酸化炭素密度がその上限値を上回っている場合には、内燃機関の制御パラメータの補正量が所定のガード値を超えるとして、内燃機関に故障が生じていると診断することになる。
前記内燃機関の燃焼状態診断装置の使用形態として具体的には、車両への実装または実験装置への搭載が挙げられる。
本発明では、気筒内の酸素密度に基づいて規定された基準熱発生率を、気筒内の二酸化炭素量に応じて補正することによって理想熱発生率を算出するようにしたことにより、理想熱発生率波形に高い信頼性を得ることが可能になる。また、この理想熱発生率波形を利用して燃焼状態の異常診断を行うようにした場合には、診断精度の向上を図ることができる。
実施形態に係るディーゼルエンジンおよびその制御系統の概略構成を示す図である。 ディーゼルエンジンの燃焼室およびその周辺部を示す断面図である。 ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。 燃焼室内での燃焼形態の概略を説明するための吸排気系および燃焼室の模式図である。 メイン噴射実行時における燃焼室およびその周辺部を示す断面図である。 メイン噴射実行時における燃焼室の平面図である。 噴射燃料の略全量がキャビティ内領域に向けて噴射される状態を示す燃焼室周辺の模式図であって、図7(a)はピストンが圧縮上死点に向かって移動する圧縮行程での燃料噴射時を、図7(b)はピストンが下死点に向かって移動する膨張行程での燃料噴射時をそれぞれ示す図である。 噴射燃料の略全量がキャビティ外領域に向けて噴射される状態を示す燃焼室周辺の模式図であって、図8(a)はピストンが圧縮上死点に向かって移動する圧縮行程での燃料噴射時を、図8(b)はピストンが下死点に向かって移動する膨張行程での燃料噴射時をそれぞれ示す図である。 噴射燃料の一部がキャビティ内領域に向けて噴射され、他がキャビティ外領域に向けて噴射される状態を示す燃焼室周辺の模式図であって、図9(a)はピストンが圧縮上死点に向かって移動する圧縮行程での燃料噴射時を、図9(b)はピストンが下死点に向かって移動する膨張行程での燃料噴射時をそれぞれ示す図である。 クランク角度位置とキャビティ内燃料分配率との関係を示す図である。 キャビティ内燃料分配率の算出手法を説明するための図である。 EGR率の変化に対する気筒内ガス中のN2、O2、CO2の各量の変化の一例を示す図である。 気筒内における二酸化炭素密度が互いに異なる熱発生率波形の例を示す図である。 燃焼状態診断および制御パラメータ補正の手順を示すフローチャート図である。 回転速度補正係数マップの一例を示す図である。 二酸化炭素密度に応じた勾配補正係数を抽出するための勾配補正係数マップの一例を示す図である。 理想熱発生率波形モデルを示し、図17(a)は理想熱発生率波形モデルが二等辺三角形である場合を、図17(b)は理想熱発生率波形モデルが不等辺三角形である場合をそれぞれ示す図である。 図18(a)は、インジェクタから燃料噴射が行われた場合における経過時間と気筒内への燃料供給量との関係を示し、図18(b)は、各噴射期間で噴射された燃料の反応量を示す図である。 キャビティ外領域に1回の燃料噴射が行われた場合の各反応形態における理想熱発生率波形モデルの一例を示す図である。 図19の理想熱発生率波形モデルをフィルタ処理によって円滑化して得られた各波形を合成することにより作成された理想熱発生率波形を示す図である。 キャビティ内領域に1回の燃料噴射が行われた場合の各反応形態における理想熱発生率波形モデルの一例を示す図である。 図21の理想熱発生率波形モデルをフィルタ処理によって円滑化して得られた各波形を合成することにより作成された理想熱発生率波形を示す図である。 キャビティ外領域を対象とした理想熱発生率波形とキャビティ内領域を対象とした理想熱発生率波形とを合成することにより作成された筒内全体を対象とした理想熱発生率波形を示す図である。 理想熱発生率波形(実線)および実熱発生率波形(破線および一点鎖線)の一例を示す図である。 図25(a)はエンジン回転数が変化した場合における酸素過剰率とスモーク発生量との関係を示し、図25(b)は二酸化炭素密度が変化した場合における酸素過剰率とスモーク発生量との関係を示す図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジン(圧縮自着火式内燃機関)に、本発明に係る燃焼状態診断装置を搭載した場合について説明する。
−エンジンの構成−
図1は本実施形態に係るディーゼルエンジン1(以下、単にエンジンという)およびその制御系統の概略構成図である。
この図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を主要部とするディーゼルエンジンシステムとして構成されている。
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、インジェクタ(燃料噴射弁)23、機関燃料通路27等を備えている。
前記サプライポンプ21は、燃料タンクから汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路27を介してコモンレール22に供給する。コモンレール22は、高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23,23,…に分配する。インジェクタ23は、内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備えたピエゾインジェクタである。
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63に吸気管64が接続されている。また、この吸気系6には、上流側から順にエアクリーナ65、エアフローメータ43、吸気絞り弁(ディーゼルスロットル)62が配設されている。
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に対して、排気管73が接続されている。また、この排気系7には排気浄化ユニット77が配設されている。この排気浄化ユニット77には、NOx吸蔵還元型触媒としてのNSR(NOx Storage Reduction)触媒75およびDPF(Diesel Paticulate Filter)76が備えられている。
図2に示すように、シリンダブロック11には、各気筒(4気筒)毎にシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部にはピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
ピストン13の頂面13aの上側には燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部に取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとにより区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ(凹陥部)13bが凹設されており、このキャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
このキャビティ13bの形状としては、その中央部分(シリンダ中心線P上)では凹陥寸法が小さく、外周側に向かうに従って凹陥寸法が大きくなっている。
前記ピストン13は、コネクティングロッド18によってエンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。
前記シリンダヘッド15には、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16および排気ポート71を開閉する排気バルブ17が配設されている。
さらに、図1に示す如く、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト51を介して連結されたタービンホイール52およびコンプレッサホイール53を備えている。本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール52側に可変ノズルベーン機構(図示省略)が設けられている。
前記吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ61が設けられている。
また、エンジン1には、排気の一部を吸気系6に適宜還流させる排気還流通路(EGR通路)8が設けられている。また、このEGR通路8にはEGRバルブ81とEGRクーラ82とが設けられている。
−ECU−
ECU100は、図示しないCPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータと入出力回路とを備えている。図3に示すように、ECU100の入力回路には、クランクポジションセンサ40、レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44a,44b、排気温センサ45a,45b、水温センサ46、アクセル開度センサ47、吸気圧センサ48、吸気温センサ49、筒内圧センサ4A、外気温センサ4B、および、外気圧センサ4Cなどが接続されている。各センサの機能は周知であるため、ここでの説明は省略する。
一方、ECU100の出力回路には、前記サプライポンプ21、インジェクタ23、吸気絞り弁62、EGRバルブ81、および、前記ターボチャージャ5の可変ノズルベーン機構54などが接続されている。
そして、ECU100は、前記した各種センサからの出力、その出力値を利用する演算式により求められた演算値、または、前記ROMに記憶された各種マップに基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。
例えば、ECU100は、インジェクタ23の燃料噴射制御として、パイロット噴射(副噴射)とメイン噴射(主噴射)とを実行する。これらパイロット噴射およびメイン噴射の機能は周知であるため、ここでの説明は省略する。
燃料噴射を実行する際の燃料噴射圧は、コモンレール22の内圧により決定される。このコモンレール内圧として、一般に、コモンレール22からインジェクタ23へ供給される燃料圧力の目標値、即ち目標レール圧は、エンジン負荷(機関負荷)が高くなるほど、および、エンジン回転速度(機関回転速度)が高くなるほど高いものとされる。
なお、上述したパイロット噴射およびメイン噴射の他に、アフタ噴射やポスト噴射が必要に応じて行われる。これら噴射の機能も周知であるため、ここでの説明は省略する。
また、ECU100は、エンジン1の運転状態に応じてEGRバルブ81の開度を制御し、吸気マニホールド63に向けての排気還流量(EGR量)を調整する。
−燃焼形態の概略説明−
次に、本実施形態に係るエンジン1における燃焼室3内での燃焼形態の概略について説明する。
図4に示すように、気筒内に吸入されるガスには、吸気管64から吸入された新気と、EGR通路8から吸入されるEGRガスとが含まれる。
このようにして気筒内に吸入された新気およびEGRガスは、吸気行程において開弁している吸気バルブ16を介し、ピストン13(図4では図示省略)の下降に伴って気筒内に吸入されて筒内ガスとなる。この筒内ガスは、エンジン1の運転状態に応じて決定されるバルブ閉弁時にて吸気バルブ16が閉弁することにより気筒内(燃焼室3内)に密閉され(筒内ガスの閉じ込め状態)、その後の圧縮行程においてピストン13の上昇に伴って圧縮される。そして、ピストン13が圧縮上死点近傍に達すると、上述したECU100による噴射量制御によって所定時間だけインジェクタ23が開弁されることで燃料を燃焼室3内に直接噴射する(パイロット噴射やメイン噴射を実行する)。
図5は、メイン噴射実行時における燃焼室3およびその周辺部を示す断面図であり、図6は、この燃料噴射時における燃焼室3の平面図(ピストン13の上面を示す図)である。
前記メイン噴射で噴射された燃料の燃焼により発生したエネルギは、ピストン13を下死点に向かって押し下げるための運動エネルギ、燃焼室3内を温度上昇させる熱エネルギ、シリンダブロック11やシリンダヘッド15を経て外部(例えば冷却水)に放熱される熱エネルギとなる。
そして、燃焼後の筒内ガスは、排気行程において開弁する排気バルブ17を介し、ピストン13の上昇に伴って排気ポート71および排気マニホールド72へ排出されて排ガスとなる。
−燃料の噴射形態−
次に、前記インジェクタ23から噴射された燃料の気筒内における形態について説明する。
インジェクタ23の各噴孔から噴射された燃料の噴霧A,A,…は略円錐状に拡散していく。一般に、前記パイロット噴射は、ピストン13が圧縮上死点に達するクランク角度位置よりも進角側のクランク角度位置で実行され、噴射燃料の略全量がキャビティ13bの外側の領域(ピストン13の頂面13aとシリンダヘッド15の下面との間の空間;以下、この空間を「キャビティ外領域」という)に向けて噴射される。これにより、キャビティ外領域の予熱に寄与することになる。
また、このパイロット噴射の噴射期間によっては、その噴射期間の前半ではキャビティ外領域に向けて燃料が噴射され、その噴射期間の後半ではキャビティ13bの内部空間(以下、この空間を「キャビティ内領域」という)に向けて燃料が噴射される場合もある。この際、キャビティ外領域およびキャビティ内領域がそれぞれ予熱されることになる。
また、前記メイン噴射は、ピストン13が圧縮上死点近傍に達したクランク角度位置において実行され、例えば図7(図7(a)はピストン13が圧縮上死点に向かって移動する圧縮行程での燃料噴射時を示し、図7(b)はピストン13が下死点に向かって移動する膨張行程での燃料噴射時を示している)に示すように、一般的には、噴射燃料の略全量がキャビティ内領域に向けて噴射されることになる。
なお、前記メイン噴射で噴射される燃料は、必ずしも全量がキャビティ内領域に噴射されるとは限らず、早期噴射が行われる場合や噴射期間が長い場合などにあっては、そのメイン噴射の噴射開始時期や噴射終了時期によっては、一部の燃料がキャビティ外領域に噴射される場合もある。以下、具体的に説明する。
例えば図8(a)(ピストン13が圧縮上死点に向かって移動する圧縮行程での燃料噴射時)に示すように、ピストン13が圧縮上死点に達するクランク角度位置よりも所定量だけ進角側のクランク角度位置にある状態でメイン噴射が開始された場合には、このメイン噴射の噴射期間の初期に噴射された燃料については前記キャビティ外領域に向けて噴射されることになる。また、例えば図8(b)(ピストン13が下死点に向かって移動する膨張行程での燃料噴射時)に示すように、ピストン13が圧縮上死点に達したクランク角度位置よりも所定量だけ遅角側のクランク角度位置にある状態までメイン噴射が継続された場合には、このメイン噴射の噴射期間の終期に噴射された燃料については前記キャビティ外領域に向けて噴射されることになる。
また、図7(a)で示すピストン位置では、このピストン位置よりも進角側で燃料噴射が行われた場合には、その噴射燃料の一部はキャビティ外領域に向けて噴射されることになるため、この図7(a)で示すピストン位置は、キャビティ内噴射進角限界と呼ぶことができる。また、図7(b)で示すピストン位置では、このピストン位置よりも遅角側で燃料噴射が行われた場合には、その噴射燃料の一部はキャビティ外領域に向けて噴射されることになるため、この図7(b)で示すピストン位置は、キャビティ内噴射遅角限界と呼ぶことができる。
さらに、図8(a)で示すピストン位置では、このピストン位置よりも遅角側で燃料噴射が行われた場合には、その噴射燃料の一部はキャビティ内領域に向けて噴射されることになるため、この図8(a)で示すピストン位置は、キャビティ外噴射遅角限界と呼ぶことができる。また、図8(b)で示すピストン位置では、このピストン位置よりも進角側で燃料噴射が行われた場合には、その噴射燃料の一部はキャビティ内領域に向けて噴射されることになるため、この図8(b)で示すピストン位置は、キャビティ外噴射進角限界と呼ぶことができる。
前述した各限界に対応するクランク角度位置は、エンジン諸元やインジェクタ23から噴射される燃料の噴霧角等によって予め規定することができる。一例として、前記キャビティ外噴射遅角限界(図8(a))はクランク角度で圧縮上死点前28°CAの位置であり、キャビティ内噴射進角限界(図7(a))はクランク角度で圧縮上死点前18°CAの位置である。また、キャビティ内噴射遅角限界(図7(b))はクランク角度で圧縮上死点後18°CAの位置であり、キャビティ外噴射進角限界(図8(b))はクランク角度で圧縮上死点後28°CAの位置である。これら値はこれに限定されるものではない。
そして、前記キャビティ内噴射進角限界(図7(a))とキャビティ内噴射遅角限界(図7(b))との間の期間のみにおいて燃料噴射が行われた場合には、噴射燃料の略全量がキャビティ内領域に向けて噴射されることになる。また、前記キャビティ外噴射遅角限界(図8(a))よりも進角側の期間で燃料噴射が行われた場合や、キャビティ外噴射進角限界(図8(b))よりも遅角側の期間で燃料噴射が行われた場合には、その期間に噴射された燃料はキャビティ外領域に向けて噴射されることになる。
また、例えば図9(a)(ピストン13が圧縮上死点に向かって移動する圧縮行程での燃料噴射時)に示すように、キャビティ外噴射遅角限界(図8(a))からキャビティ内噴射進角限界(図7(a))に亘って燃料噴射が行われた場合や、例えば図9(b)(ピストン13が下死点に向かって移動する膨張行程での燃料噴射時)に示すように、キャビティ内噴射遅角限界(図7(b))からキャビティ外噴射進角限界(図8(b))に亘って燃料噴射が行われた場合には、噴射燃料の一部はキャビティ内領域に向けて噴射され、他はキャビティ外領域に向けて噴射されることになる。つまり、燃料がキャビティ内領域とキャビティ外領域とに噴き分けられることになる。
このように燃料がキャビティ外領域とキャビティ内領域とに噴き分けられた場合、各領域に存在する燃料量が所定量を超えない範囲である状況では、各領域の噴霧およびその既燃ガスの大部分は、その噴射された領域内に留まり、他方の領域内に流れ込む量は殆ど無い。このため、キャビティ外領域およびキャビティ内領域それぞれの燃焼を個別に扱うことができる。
−筒内環境パラメータの算出−
後述する燃焼状態診断に利用される理想熱発生率波形を作成する際には、燃料の反応開始時期、反応速度、反応量を規定する必要がある。そして、これら波形構成要素(反応開始時期、反応速度、反応量)を規定するためには、気筒内における燃料密度および酸素密度を求めておく必要がある。また、本実施形態では、これら燃料密度および酸素密度に加えて、気筒内における二酸化炭素密度を求め、この二酸化炭素密度に基づいた熱発生率の補正を行うことによって理想熱発生率波形を作成するようにしている。言い換えると、気筒内の酸素密度等に基づいて規定された基準熱発生率を、気筒内の二酸化炭素密度(二酸化炭素量に相関のある値)に応じて補正することによって理想熱発生率を算出し、この補正後の理想熱発生率に基づいて理想熱発生率波形を作成するようにしている。
また、前記キャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれにおける燃料密度が互いに異なっている場合には、これらキャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれの燃料密度を個別に求め、この各領域の燃料密度と、前記酸素密度および二酸化炭素密度等によって各領域それぞれにおける理想熱発生率波形を作成するようにしている。なお、気筒内の酸素過剰率が必要である場合には、前記燃料密度および酸素密度から酸素過剰率を求めることが可能である。この酸素過剰率は、特にスモーク発生量を予測する場合に用いられるパラメータとなる。詳しくは後述する。
以下、これら筒内環境パラメータ(燃料密度、酸素密度、二酸化炭素密度、酸素過剰率)の算出手法について説明する。なお、以下では前記キャビティ内領域およびキャビティ外領域のうち燃料噴射が行われた領域を「対象領域」と呼ぶこととする(一方の領域に燃料噴射が行われた場合には、この一方の領域が対象領域に該当し、両領域に燃料噴射が行われた場合には、この両領域が対象領域に該当することになる)。
(燃料密度)
まず、気筒内における燃料密度を求めるための手法について説明する。
ここでは、気筒内における混合気の状態が均一である場合、つまり、キャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれの燃料密度が互いに略同一である場合と、気筒内における混合気の状態が不均一である場合、つまり、キャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれの燃料密度が互いに異なっている場合とについて説明する。気筒内における混合気の状態が均一であるか否かの判断は、前記キャビティ内領域総燃料分配率等に基づいて算出される各領域の燃料量および各領域の行程容積から求められる燃料密度に基づいて行われる。
<混合気の状態が均一である場合>
気筒内における混合気の状態が均一である場合には、以下の式(1)または式(2)によって燃料密度ρfuelが算出される。
燃料密度ρfuel=燃料噴射量/反応開始時の行程容積 …(1)
燃料密度ρfuel=燃料噴射量/燃料噴射開始時の行程容積 …(2)
ここで、燃料噴射量はインジェクタ23から噴射された燃料量(例えばメイン噴射での燃料量)である。この燃料噴射量は、レール圧センサ41によって検出された燃料噴射圧力およびインジェクタ23の開弁期間(指令噴射期間)から算出できる。また、反応開始時の行程容積は、筒内温度が後述する反応温度に達した時点での筒内容積(キャビティ内領域の容積とキャビティ外領域の容積との和)である。この筒内温度と筒内容積との関係は、外気温センサ4Bによって検出された外気温度、圧縮比、気筒内の予熱量(パイロット噴射等による予熱量)等をパラメータとし、予め実験やシミュレーションによって規定されている。燃料の各反応(気化反応、低温酸化反応、熱分解反応、予混合燃焼による高温酸化反応、拡散燃焼による高温酸化反応)それぞれにおける反応開始時期、反応速度、反応量は、その反応時における燃料密度に応じて変化する。このため、各反応それぞれにおける反応開始時期、反応速度、反応量を求めるためには、その反応時における燃料密度を個別に特定しておく必要がある。本実施形態では、燃料の各反応それぞれに対応した燃料密度ρfuelの算出タイミングを設定しておき、このタイミングにおける行程容積を利用して、各反応それぞれに対応した燃料密度ρfuelを個別に特定できるようにしている。また、燃料噴射開始時の行程容積は、インジェクタ23からの燃料噴射が開始された時点(ECU100から燃料噴射指令信号が発信された時点)での筒内容積である。筒内容積はクランク角度位置に応じて決定されるため、インジェクタ23からの燃料噴射が開始された時点でのクランク角度位置に基づいて筒内容積を求めることができる。
<混合気の状態が不均一である場合>
気筒内における混合気の状態が不均一である場合には、キャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれに存在する燃料量を算出し、その燃料量を反応開始時における対象領域の容積(行程容積)または燃料噴射開始時における対象領域の容積によって除算することにより各領域それぞれの燃料密度を算出する。
以下、キャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれに存在する燃料量の算出手法について説明する。
図10は、クランク角度位置と、各クランク角度位置においてインジェクタ23から噴射されている燃料量に対するキャビティ内領域への噴射量の比率(以下、「キャビティ内燃料分配率」という)との関係を示す図である。この図10では、横軸がクランク角度であり、縦軸がキャビティ内燃料分配率となっている。
図10におけるクランク角度位置αは前記キャビティ外噴射遅角限界(図8(a))のピストン位置に対応している。図10におけるクランク角度位置βは前記キャビティ内噴射進角限界(図7(a))のピストン位置に対応している。また、図10におけるクランク角度位置γは前記キャビティ内噴射遅角限界(図7(b))のピストン位置に対応している。さらに、図10におけるクランク角度位置δは前記キャビティ外噴射進角限界(図8(b))のピストン位置に対応している。
この図10に示すように、インジェクタ23からの燃料噴射時期が、図中のクランク角度位置αよりも進角側である場合や、図中のクランク角度位置δよりも遅角側である場合には、噴射燃料の略全量がキャビティ外領域に向けて噴射されることになるため、キャビティ内燃料分配率は「0」となる。
また、インジェクタ23からの燃料噴射時期が、図中のクランク角度位置βとγとの間である場合には、噴射燃料の略全量がキャビティ内領域に向けて噴射されることになるため、キャビティ内燃料分配率は「1」となる。
また、インジェクタ23からの燃料噴射時期が、図中のクランク角度位置αとβとの間である場合や、図中のクランク角度位置γとδとの間である場合には、インジェクタ23から噴射された燃料はキャビティ外領域とキャビティ内領域とに噴き分けられることになるため、その燃料噴射時期に応じてキャビティ内燃料分配率は「0」〜「1」の間の値となる。
以下の説明では、前記クランク角度位置αよりも進角側の期間を第1期間、前記クランク角度位置αとβとの間の期間を第2期間、前記クランク角度位置βとγとの間の期間を第3期間、前記クランク角度位置γとδとの間の期間を第4期間、前記クランク角度位置δよりも遅角側の期間を第5期間とそれぞれ呼ぶこととする。
前記キャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれの燃料量を求めるためには、インジェクタ23から噴射された総燃料量に対する各領域の燃料分配率を求めることが必要である。以下、インジェクタ23から噴射された総燃料量に対するキャビティ内領域の燃料量の比率を「キャビティ内領域総燃料分配率」と呼び、インジェクタ23から噴射された総燃料量に対するキャビティ外領域の燃料量の比率を「キャビティ外領域総燃料分配率」と呼ぶこととする。
前述した如くインジェクタ23からの燃料噴射期間が前記第3期間である場合にはキャビティ内燃料分配率が「1」となっているため、総燃料噴射期間に対する第3期間での燃料噴射期間の比率が、前記キャビティ内領域総燃料分配率のうちの第3期間分(総燃料噴射期間に対する第3期間での燃料噴射期間の比率×「1」)として算出可能である。
これに対し、前記第2期間にあっては、キャビティ内燃料分配率が変化していくため、この期間におけるキャビティ内燃料分配率の代表値を求め、総燃料噴射期間に対する第2期間での燃料噴射期間の比率に、前記キャビティ内燃料分配率の代表値を乗算して、前記キャビティ内領域総燃料分配率のうちの第2期間分(総燃料噴射期間に対する第2期間での燃料噴射期間の比率×第2期間でのキャビティ内燃料分配率の代表値)を算出することが必要である。また、前記第4期間においても同様である。
以下、このキャビティ内燃料分配率の代表値を求めるための手法を図11を用いて具体的に説明する。図11は、前記第2期間における所定期間で燃料が噴射されている場合のクランク角度位置とキャビティ内燃料分配率との関係を示している。
この図11に示す波形は、クランク角度位置の変化に対するキャビティ内燃料分配率の変化をWiebe関数によって簡易化したものであり、第2期間の始期であるACOを「0(X=0)」とし、この「ACO=0」のタイミングでのキャビティ内燃料分配率を「0」とするように、また、第2期間の終期であるACIを「1(X=1)」とし、この「ACI=1」のタイミングでのキャビティ内燃料分配率を「1」とするようにWiebe関数の形状パラメータであるa項およびm項が設定されている。例えばa=8.06、m=2.54にそれぞれ設定されている。
今、この第2期間中における図中のタイミングAisで燃料噴射が開始され、タイミングAieで燃料噴射が終了した場合について考える。
この場合、クランク角度が角度位置α(ACO=0)に達した時点から燃料噴射が開始した時点までの期間の長さXis、および、クランク角度が角度位置αに達した時点から燃料噴射が終了した時点までの期間の長さXieは、以下の式(3),(4)で与えられる。
Xis=(Ais−ACO)/(ACI−ACO) …(3)
Xie=(Aie−ACO)/(ACI−ACO) …(4)
そして、この場合のキャビティ内燃料分配率の代表値f(X)としては、以下の式(5)によって算出される。
f(X)={f(Xis)+f(Xie)}/2 …(5)
ここで、f(Xis)はタイミングAisにおけるキャビティ内燃料分配率であり図中のYisに相当する。また、f(Xie)はタイミングAieにおけるキャビティ内燃料分配率であり図中のYieに相当する。
このようにして、キャビティ外領域とキャビティ内領域とに燃料が噴き分けられた場合のキャビティ内燃料分配率の代表値f(X)を算出することが可能である。
そして、実際には、前記第2期間だけでなく、第1、第3、第4および第5の各期間でも燃料噴射が行われる可能性があるので、これら期間での燃料噴射も考慮して、燃料噴射期間全体を対象とした総燃料分配率(キャビティ内領域総燃料分配率)を算出することが必要である。
このため、まず、各期間i(i=1〜5)それぞれにおける燃料噴射率ΔAinj(i)を以下の式(6)で求める。
ΔAinj(i)=期間X(i)/総燃料噴射期間 …(6)
この式(6)における「i」は対象とする期間1〜5に対応する値である。
つまり、インジェクタ23からの総燃料噴射期間に対する第1〜第5の各期間での噴射期間の比率が、それぞれの期間における燃料噴射率(ΔAinj(1)〜ΔAinj(5))として算出される。
また、第1期間および第5期間におけるキャビティ内燃料分配率は「0」であり、第3期間におけるキャビティ内燃料分配率は「1」である(図10を参照)。このため、第1期間および第5期間における燃料噴射率(ΔAinj(1)、ΔAinj(5))はキャビティ内領域総燃料分配率に寄与しないことになり、第3期間における燃料噴射率(ΔAinj(3))は噴射燃料の全量がキャビティ内領域総燃料分配率に寄与する(キャビティ内領域総燃料分配率を左右する)ものとなる。また、第2期間および第4期間におけるキャビティ内燃料分配率(ΔAinj(2)、ΔAinj(4))はそれぞれの期間における燃料噴射期間(燃料噴射期間の長さ)に応じて変化する。
このため、燃料噴射の全期間を対象とするキャビティ内領域総燃料分配率は以下の式(7)によって求めることができる。
キャビティ内領域総燃料分配率=ΔAinj(2)×f(X(2))+ΔAinj(3)
+ΔAinj(4)×f(X(4)) …(7)
これにより、燃料噴射期間の全体を対象としたキャビティ内領域の総燃料分配率が算出されることになる。
そして、インジェクタ23からの総燃料噴射量に、このキャビティ内領域総燃料分配率を乗算すれば、キャビティ内領域に存在する燃料量が算出できる。また、このキャビティ内領域総燃料分配率から前記キャビティ外領域総燃料分配率を求め(1−キャビティ内領域総燃料分配率)、このキャビティ外領域総燃料分配率に総燃料噴射量を乗算すれば、キャビティ外領域に存在する燃料量が算出できる。なお、キャビティ内領域に存在する燃料量を、前記総燃料噴射量から減算することによってもキャビティ外領域に存在する燃料量は算出可能である。
このようにしてキャビティ内領域に存在する燃料量およびキャビティ外領域に存在する燃料量を算出した後、以下の式(8)または式(9)によって燃料密度ρfuelが算出される。
燃料密度ρfuel=対象領域内の燃料量/反応開始時の対象領域の容積 …(8)
燃料密度ρfuel=対象領域内の燃料量/燃料噴射開始時の対象領域の容積…(9)
ここで、対象領域をキャビティ内領域とした場合には、ピストン13の位置に関わりなく対象領域の容積は一定である。一方、対象領域をキャビティ外領域とした場合には、ピストン13の位置に応じて対象領域の容積は変化する。この場合、キャビティ外領域の容積はクランク角度位置に応じて決定されるため、このクランク角度位置に基づいてキャビティ外領域の容積(対象領域の容積)を求めることができる。
また、前記式(1),(2),(8),(9)の何れかで算出した燃料密度ρfuelに対し、以下の補正を行って補正後の最終燃料密度を求めるようにしてもよい。具体的に、燃料密度ρfuelを変動させるパラメータとしては、燃料噴射圧力PCR(燃料噴射圧力による燃料の分散度合いの変動)、燃料噴射量Fq(燃料噴射量による燃料飛行距離の変動)、燃料噴射時期Ainj、筒内圧力Pcylが挙げられる。このため、これら燃料噴射圧力PCR、燃料噴射量Fq、燃料噴射時期Ainj、筒内圧力Pcylを変数とする演算式F(PCR,Fq,Ainj,Pcyl)によって補正係数を求め、この補正係数を前記燃料密度ρfuelに乗算することによって最終燃料密度を求めるようにする(以下の式(10)を参照)。
最終燃料密度=ρfuel×F(PCR,Fq,Ainj,Pcyl) …(10)
なお、演算式F(PCR,Fq,Ainj,Pcyl)は、予め実験やシミュレーションに基づき、燃料噴射圧力PCR、燃料噴射量Fq、燃料噴射時期Ainj、筒内圧力Pcylそれぞれの燃料密度ρfuelに対する影響度合いを考慮して規定されている。
また、前記補正係数としては、前記燃料噴射圧力PCR、燃料噴射量Fq、燃料噴射時期Ainj、筒内圧力Pcylの全てを反映させるものには限定されない。例えば、これら4つのパラメータのうちから選択された2つまたは3つのパラメータを反映させた補正係数を求めて最終燃料密度を求めるようにしてもよい。なお、前記燃料噴射圧力PCRを変数とする演算式F(PCR)としては以下の式(11)を使用してもよい。
F(PCR)=A×(PCR/基準PCR)+B …(11)
ここで、基準PCRは、コモンレール内圧の基準となる圧力であって適宜設定される。また、AおよびBは予め実験やシミュレーションに基づいて設定された定数である。
前記式(1),(2),(8),(9),(10)のうち何れの式で算出された燃料密度ρfuelを採用するかは、演算処理の簡素化や燃料密度ρfuelの信頼性の高さなどを考慮して適宜選択されることになる。
(酸素密度)
次に、気筒内における酸素密度を求めるための手法について説明する。
酸素密度は、燃料に対する酸素供給能力(時間的な酸素供給能力)を表す指標であり、EGRの実施の有無や、EGR量(気筒内の残留ガス量(所謂内部EGR量)も含む)や、走行している道路の標高などに応じて変動するものである。そして、この酸素密度が変化すると、燃料の各反応における反応開始時期、反応速度および反応量に影響を及ぼす。つまり、酸素密度が低くなるほど、反応開始時期は遅角側に移行し、反応速度は低くなり(反応が緩慢になり)、反応量が低下することになる。特に、燃料の各反応のうち低温酸化反応、熱分解反応、高温酸化反応については、その影響が現れる。
ここでは、仮に燃料の多段噴射(例えばパイロット噴射とメイン噴射)が行われた場合であってもパイロット噴射等で噴射された燃料の燃焼による酸素消費量は気筒内全体の酸素量に対して微少である(仮に一方の領域(例えばキャビティ外領域)のみで酸素が消費されたとしてもその消費量は微少である)ことから、キャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれの酸素密度が同一であると仮定し、気筒内全体を対象として酸素密度を求めるようにした場合について説明する。
気筒内全体を対象とする酸素密度ρo2は以下の式(12)または式(13)によって求められる。
酸素密度ρo2=吸気中の酸素量/隙間容積 …(12)
酸素密度ρo2=吸気中の酸素量/反応開始時の行程容積 …(13)
ここで、吸気中の酸素量(質量)は、エアフローメータ43によって検出された吸入空気量、外気温センサ4Bによって検出された外気温度、外気圧センサ4Cによって検出された外気圧力等から算出できる。また、隙間容積の一例としては、ピストン13が圧縮上死点に達した時点の行程容積(圧縮端容積)が挙げられる。これによれば、隙間容積を固定値として扱えるため、酸素密度ρo2の算出が簡素化でき、また、その信頼性も高まることになる。式(12)で使用される隙間容積はこれに限定されるものではない。
なお、前記式(13)によって酸素密度ρo2を算出する場合、燃料の各反応それぞれにおける反応開始時期、反応速度、反応量は、その反応時における酸素密度に応じて変化する。このため、各反応それぞれにおける反応開始時期、反応速度、反応量を求めるためには、その反応時における酸素密度を個別に特定しておく必要がある。本実施形態では、燃料の各反応それぞれに対応した酸素密度ρo2の算出タイミングを設定しておき、このタイミングにおける行程容積を利用して、各反応それぞれに対応した酸素密度ρo2を個別に特定できるようにしている。
前記式(12),(13)のうち何れの式で算出された酸素密度ρo2を採用するかは、演算処理の簡素化や酸素密度ρo2の信頼性の高さなどを考慮して適宜選択されることになる。
なお、EGRの非実施時にあっては、総ガス量に応じて酸素量が決定されるため、酸素密度ρo2を総ガス量で代用することも可能である。
このようにして酸素密度ρo2を算出することにより、この酸素密度ρo2と前記燃料密度ρfuelとを利用して気筒内の酸素過剰率λo2を算出することが可能になる。この酸素過剰率λo2は酸素供給能力(量的な酸素供給能力)を表す指標であり、以下の式(14)によって算出される。
酸素過剰率λo2=酸素密度ρo2/燃料密度ρfuel …(14)
(二酸化炭素密度)
次に、気筒内における二酸化炭素密度を求めるための手法について説明する。
二酸化炭素は反応障害物(燃焼阻害物質)となるものである。また、二酸化炭素密度は、燃料に対する酸素供給能力を表す指標であり、EGRの実施の有無や、EGR量(気筒内の残留ガス量(所謂内部EGR量)も含む)などに応じて変動するものである。そして、この二酸化炭素密度が変化すると、燃料の各反応における反応速度に影響を及ぼす。つまり、二酸化炭素密度が高くなるほど、反応速度は低くなる(反応が緩慢になる)。特に、酸素密度が低い状況にあっては、この二酸化炭素密度による反応速度への影響は大きくなる。この反応速度の低下は、排気中のNOx量の削減に繋がるものの、スモークやCOの生成を促進させてしまう可能性がある。
なお、二酸化炭素密度は燃料の各反応における反応開始時期および反応量に対しても影響を及ぼす可能性があるが、特に、反応速度に及ぼす影響が大きいため、以下では、この反応速度に及ぼす影響について説明する。
図12は、EGR率の変化に対する気筒内ガス中のN2、O2、CO2の各量の変化の一例を示す図である。この図12に示すように、EGR率の上昇に伴って気筒内のガス量が減少していくが、総ガス量に対するN2量の比率は変化せず(例えば77%に維持され)、その他の成分であるO2量およびCO2量の比率のみが変化していく。つまり、EGR率が「0」である場合には、排気ガスの還流が無いことから総ガス量に対するO2量の比率は約23%となっているのに対し、EGR率が上昇していくと、このO2量の一部がCO2量に置き換わる(還流されたCO2量に置き換わる)ことになり、O2量の比率の減少分だけ、CO2量の比率が増加することになる。つまり、総ガス量に対するO2量とCO2量との合算量の比率は約23%に維持されながらもO2量に対するCO2量の比率は大きくなっていく。
ここでは、仮に燃料の多段噴射(例えばパイロット噴射とメイン噴射)が行われた場合であってもパイロット噴射等で噴射された燃料の燃焼に伴って発生する二酸化炭素量は微少である(仮に一方の領域(例えばキャビティ外領域)のみで二酸化炭素が発生したとしてもその発生量は微少である)ことから、キャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれの二酸化炭素密度が同一であると仮定し、気筒内全体を対象として二酸化炭素密度を求めるようにした場合について説明する。
気筒内全体を対象とする二酸化炭素密度ρco2は以下の式(15)または式(16)によって求められる。
二酸化炭素密度ρco2=気筒内の二酸化炭素量/隙間容積 …(15)
二酸化炭素密度ρco2=気筒内の二酸化炭素量/反応開始時の行程容積 …(16)
ここで、気筒内の二酸化炭素量(質量)は、クランクポジションセンサ40からの出力に基づいて算出されるエンジン回転速度、EGR率等から算出できる。また、隙間容積の一例としては、ピストン13が圧縮上死点に達した時点の行程容積(圧縮端容積)が挙げられる。これによれば、隙間容積を固定値として扱えるため、二酸化炭素密度ρco2の算出が簡素化でき、また、その信頼性も高まることになる。式(15)で使用される隙間容積はこれに限定されるものではない。
なお、前記式(16)によって二酸化炭素密度ρco2を算出する場合、燃料の各反応それぞれにおける反応速度は、その反応時における二酸化炭素密度に応じて変化する。このため、各反応それぞれにおける反応速度を求めるためには、その反応時における二酸化炭素密度を個別に特定しておく必要がある。本実施形態では、燃料の各反応それぞれに対応した二酸化炭素密度ρco2の算出タイミングを設定しておき、このタイミングにおける行程容積を利用して、各反応それぞれに対応した二酸化炭素密度ρco2を個別に特定できるようにしている。
前記式(15),(16)のうち何れの式で算出された二酸化炭素密度ρco2を採用するかは、演算処理の簡素化や二酸化炭素密度ρco2の信頼性の高さなどを考慮して適宜選択されることになる。
図13は、燃料噴射形態(噴射タイミング、噴射圧および噴射量)が同一であって二酸化炭素密度が互いに異なる熱発生率波形の形状変化の例を示している。図13(a)、(b)、(c)、(d)の順で二酸化炭素密度が高くなっている。
これらの図から明らかなように、二酸化炭素密度が高くなるに従って、燃料の反応速度は低くなり(反応が緩慢になり)、その最大値(ピーク値)は低くなり、反応期間が長期化している。このように、気筒内の二酸化炭素密度は、燃料の反応速度に大きな影響を及ぼし、その結果、熱発生率波形を大きく変化させる要因となっている。
なお、EGR率が比較的低い場合であって、二酸化炭素の分布の影響が比較的小さい場合には、二酸化炭素密度ρco2をEGR率で代用することも可能である。
(窒素について)
吸入空気中には窒素が存在している。この窒素は大気中の約77%を占めている。そして、EGRが実施されていない場合と実施されている場合とにおける気筒内のガス組成の関係は図12から以下の式(17)のように規定できる。
2:O2=N2:(O2+CO2) …(17)
この式(17)の左辺はEGRが実施されていない場合の気筒内のガス組成を表し、右辺はEGRが実施されている場合の気筒内のガス組成を表している。
窒素も二酸化炭素と同様に燃料に対する反応障害物となり、燃料中の炭素の酸化反応を阻害するものとなるが、その阻害の度合いは、EGR率が上昇しても総ガス量中の窒素量の比率が一定であるため変化することはない。つまり、気筒内の総ガス量が変化しても、その総ガス量中に占める窒素の比率は一定であるため、燃料の反応に対する阻害の度合いはEGR率が変化しても不変である。このため、EGR率の変化に応じて総ガス量中の比率が変化する二酸化炭素密度とは異なり、窒素密度は燃焼評価指標から除外することができる。
このため、本実施形態では、燃料密度、酸素密度、酸素過剰率、二酸化炭素密度を燃焼評価指標として扱って理想熱発生率波形を作成するようにしている。
より具体的に、気筒内における混合気の状態が均一である場合には、気筒内の全体に亘って燃料密度が略均一であるため、この燃料密度を考慮することなく、気筒内全体の酸素過剰率に従って理想熱発生率を算出することが可能である。このため、気筒内における混合気の状態が均一である場合には、気筒内の酸素密度、酸素過剰率、二酸化炭素密度に基づいて理想熱発生率を算出することになる。これに対し、気筒内における混合気の状態が不均一である場合には、キャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれの燃料密度が互いに異なっている可能性があるため、各領域毎の燃料密度を考慮し、これら領域毎に理想熱発生率を算出することが必要になる。このため、気筒内における混合気の状態が不均一である場合には、気筒内の酸素密度、酸素過剰率、二酸化炭素密度、燃料密度に基づいて理想熱発生率を算出することになる。
−熱発生率波形の作成、燃焼状態診断、および、制御パラメータの補正−
次に、本実施形態の特徴である熱発生率波形の作成(理想熱発生率波形の作成)、燃焼状態診断(気筒内での燃料の各反応形態の診断)、および、その診断結果に応じて実行される制御パラメータの補正について説明する。なお、以下の説明では、気筒内における混合気の状態が不均一である場合、つまり、キャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれの燃料密度が互いに異なっている場合を例に挙げて説明する。
この熱発生率波形の作成、燃焼状態診断、および、制御パラメータの補正では、図14に示すように、(1)理想熱発生率波形の作成、および、(2)実熱発生率波形の作成、が行われた後、(3)理想熱発生率波形と実熱発生率波形との比較による燃焼状態診断が行われる。そして、(4)この燃焼状態診断の結果に応じたエンジン1の制御パラメータの補正が行われることになる。これら(1)〜(4)の各動作を行うための構成の全てが車両に搭載(実装)されていてもよいし、(1)の動作のみが実験室等によって行われ、その結果(作成された理想熱発生率波形)が前記ROMに記憶され、(2)〜(4)の各動作を行うための構成が車両に搭載された構成となっていてもよい。
本実施形態では、筒内を前記キャビティ内領域とキャビティ外領域とに分割し、それぞれにおける燃焼状態を個別に規定するようにしている。このため、前記(1)理想熱発生率波形の作成においては、キャビティ内領域を対象とした理想熱発生率波形の作成、および、キャビティ外領域を対象とした理想熱発生率波形の作成が個別に行われ、これら理想熱発生率波形を合成することによって筒内全体を対象とした理想熱発生率波形(合成理想熱発生率波形)が作成される。
本実施形態の特徴は、これらキャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれを対象として理想熱発生率波形を作成するに際し、前述した如く、気筒内における酸素密度、燃料密度、酸素過剰率に加えて、二酸化炭素密度を利用するようにしている。
そして、前記(3)燃焼状態診断においては、この筒内全体を対象とした理想熱発生率波形と実熱発生率波形との比較による燃焼状態診断が行われるようになっている。
より具体的に、前記理想熱発生率波形の作成にあっては、(1−A)反応領域の分割、(1−B)燃料の反応形態の分離、(1−C)分離された各反応形態それぞれに対する理想熱発生率波形モデルの作成、(1−D)理想熱発生率波形モデルのフィルタリング(フィルタ処理)による理想熱発生率波形の作成および理想熱発生率波形の合成、が順に行われる。
以下、各動作について具体的に説明する。
(1)理想熱発生率波形の作成
前記理想熱発生率波形の作成について説明する。まず、理想熱発生率波形の作成の概略について説明する。
前記インジェクタ23から対象領域に噴射された燃料の反応(化学反応等)の律速条件としては、対象領域内温度、対象領域内酸素量(対象領域内の酸素密度に相関がある値)、対象領域内燃料量(対象領域内の燃料密度に相関がある値)、対象領域内燃料分布が挙げられる。これらのうち、制御自由度の低い順としては、対象領域内温度、対象領域内酸素量、対象領域内燃料量、対象領域内燃料分布の順である。
つまり、対象領域内温度は、燃料が反応する前段階にあっては、吸入空気温度とエンジン1の圧縮比とによって略決定されることになり、制御の自由度は最も低い。また、この対象領域内温度は、先行して燃料噴射が行われた場合(例えば予熱のための燃料噴射が行われた場合)に、その燃料の燃焼による予熱量によっても変動する。また、対象領域内酸素量(酸素密度)は、前記吸気絞り弁62の開度や、前記EGRバルブ81の開度によって調整できるため、対象領域内温度に比べて制御自由度は高い。また、この対象領域内酸素量は、ターボチャージャ5による過給率によっても変動する。また、対象領域内燃料量(燃料密度)は、前記サプライポンプ21による燃料噴射圧力(コモンレール圧力)の制御や前記インジェクタ23からの燃料の多段噴射それぞれの噴射期間の制御によって調整できるため、対象領域内酸素量に比べて制御自由度は高い。また、対象領域内燃料分布も、前記燃料噴射圧力の制御や前記燃料の多段噴射それぞれの噴射期間の制御によって調整が可能であることから制御自由度は高いものである。
そして、本実施形態では、エンジン1の暖機運転が完了しており、且つ外気温度が所定温度(例えば0℃)以上であることを条件として、前記制御自由度の低い順に、燃料の反応状態を決定する条件の優先順位を高く設定している。なお、ここでは、対象領域内温度、対象領域内酸素量および対象領域内燃料量の量的条件を、対象領域内燃料分布よりも優先順位の高いものとしている。つまり、対象領域内温度を機軸として燃料の各反応の開始タイミング(反応開始時期)を決定するものとしている。即ち、対象領域内温度(対象領域内の圧縮ガス温度)から基準温度到達角度(各反応形態それぞれの反応開始時期におけるクランク角度位置)を確定する。なお、本実施形態では、前記各反応の開始時期を決定するに当たっては、前記酸素密度に応じて開始時期を補正するようにしている。
そして、この反応開始時期(酸素密度によって補正された反応開始時期)を基点として、反応速度および反応量の基準値をそれぞれ求めると共に、前記酸素密度に基づいて前記反応速度および反応量の基準値に対する補正量を求める。さらに、前記二酸化炭素密度に基づいて前記反応速度に対する補正量を求める。これら補正量による補正を行って反応速度、反応量、反応期間を求めて各反応形態毎に理想熱発生率波形モデルを対象領域について作成する。
具体的には、前記酸素密度が低くなるほど、反応開始時期は遅角側に移行し、反応速度は低くなり(反応が緩慢になり)、反応量が低下することになる。また、酸素密度による前記反応開始時期、反応速度、反応量それぞれに対する影響度合いは異なっている。さらに、燃料の反応としては、気化反応、低温酸化反応、熱分解反応、予混合燃焼による高温酸化反応、拡散燃焼による高温酸化反応が挙げられるが、これら反応に対する酸素密度の影響度合いも異なっている。
また、前記二酸化炭素密度が高くなるほど、反応速度は低くなる(反応が緩慢になる)。また、二酸化炭素密度による反応速度に対する影響度合いは酸素密度によって異なっている。具体的には、酸素密度が低いほど、二酸化炭素密度による反応速度に対する影響度合いは大きくなる。つまり、酸素密度が低いほど二酸化炭素密度が高くなることに伴う反応速度の低下度合いは大きくなる。詳しくは後述する。
このように、対象領域内に噴射された燃料の複数の反応形態それぞれの反応速度、反応量、反応期間を対象領域内の温度(反応開始時期を決定する対象領域内ガス温度)、燃料組成(反応に寄与する燃料量および燃料密度を含む)、および、対象領域内の酸素密度および二酸化炭素密度に応じて算出して、各反応それぞれにおける理想熱発生率波形モデルを作成するようにしている。即ち、キャビティ内領域およびキャビティ外領域のうち一方の領域に燃料噴射が行われた場合には、この一方の領域(対象領域)に対して理想熱発生率波形モデルが作成され、両領域に燃料噴射が行われた場合には、これら両領域(両対象領域)に対して理想熱発生率波形モデルが個別に作成されることになる。
前述したように、この理想熱発生率波形モデルの作成は、キャビティ内領域およびキャビティ外領域のうち噴霧の存在する領域においてのみ実施される。これは、噴霧が存在しない場合には、燃料の反応が生じていないため理想熱発生率波形モデルの作成ができないからである。何れの領域に噴霧が存在しているか(或いは両領域に噴霧が存在しているか否か)の判定は、前述した如く燃料の噴射期間に基づいて行うことができる。
理想熱発生率波形モデルの作成動作として、具体的には、前記反応開始時期における対象領域内ガス温度(基準温度)および燃料組成等に対応した基準反応速度効率[J/CA2/mm3]と、基準反応量効率[J/mm3]とを各反応形態毎に確定し、燃焼場に対する酸素供給能力(酸素密度)から前記基準反応速度効率および基準反応量効率を修正し、これら修正された反応速度効率と反応量効率とから反応速度および反応量を確定する。
また、反応速度に対しては、二酸化炭素密度に基づいて前記反応速度効率に対する補正係数(勾配補正係数)を求め、この勾配補正係数によって前記反応速度効率(酸素密度に基づいて補正された反応速度効率;基準熱発生率に相関のある反応速度効率)を補正することにより、補正後の反応速度効率(理想熱発生率に相関のある反応速度効率)を求める(本発明でいう「気筒内の酸素密度に基づいて規定された基準熱発生率を、気筒内の二酸化炭素量に応じて補正することによって理想熱発生率を算出する動作」に相当)。さらに、後述するエンジン回転速度に応じた反応速度の補正を行って最終的な反応速度効率を求める。なお、前記「反応速度効率」は「反応速度勾配」とも呼ばれ、また、前記「反応量効率」は「燃焼効率」とも呼ばれる。以下では、「反応速度効率」を「反応速度勾配」として説明する。
そして、前記反応開始時期、反応速度および反応量から後述する理想熱発生率波形モデル(三角形モデル)を作成し、これにより、反応期間を確定する。この反応期間としては以下の式(18)により求められる。
反応期間=2×(反応量/反応速度)1/2 …(18)
なお、前記理想熱発生率波形モデル(三角形モデル)の作成の詳細については後述する。
(1−A)反応領域の分割
次に、前記理想熱発生率波形の作成の第1手順である反応領域の分割について具体的に説明する。
前述したように、インジェクタ23から筒内に噴射された燃料が存在する領域としては、キャビティ外領域およびキャビティ内領域がある。そして、これら領域それぞれにあっては、存在する燃料量および温度が互いに異なっている可能性があり、これらを領域毎に求める必要がある。以下、具体的に説明する。
(a)領域内に存在する燃料量
前記キャビティ外噴射遅角限界(図8(a))よりも進角側で燃料噴射が行われた場合や、キャビティ外噴射進角限界(図8(b))よりも遅角側で燃料噴射が行われた場合には、噴射燃料の略全量がキャビティ外領域に向けて噴射されることになり、この燃料の略全量はキャビティ外領域に存在し、キャビティ内領域には殆ど噴霧が存在しないことになる。このため、インジェクタ23から筒内に噴射された燃料量がそのままキャビティ外領域に存在する燃料量となる。
また、前記キャビティ内噴射進角限界(図7(a))とキャビティ内噴射遅角限界(図7(b))との間の期間のみにおいて燃料噴射が行われた場合には、噴射燃料の略全量がキャビティ内領域に向けて噴射されることになり、この燃料の略全量はキャビティ内領域に存在し、キャビティ外領域には殆ど噴霧が存在しないことになる。このため、インジェクタ23から筒内に噴射された燃料量がそのままキャビティ内領域に存在する燃料量となる。
さらに、前記キャビティ外噴射遅角限界(図8(a))からキャビティ内噴射進角限界(図7(a))に亘って燃料噴射が行われた場合や、キャビティ内噴射遅角限界(図7(b))からキャビティ外噴射進角限界(図8(b))に亘って燃料噴射が行われた場合には、噴射燃料の一部はキャビティ外領域に向けて噴射され、他はキャビティ内領域に向けて噴射されることになり、この噴射された燃料の一部はキャビティ外領域に存在し、他はキャビティ内領域に存在することになる。この場合に、キャビティ外領域に存在する噴霧量(燃料量)とキャビティ内領域に存在する噴霧量との比率は、前述した如く、式(7)で算出されたキャビティ内領域総燃料分配率等に基づいて算出することができる。
つまり、インジェクタ23からの総燃料噴射量にキャビティ内領域総燃料分配率を乗算することによってキャビティ内領域に向けて噴射された燃料の量(キャビティ内領域に存在する噴霧量)を算出することができる。また、このキャビティ内領域に向けて噴射された燃料の量を前記総燃料噴射量から減算することによってキャビティ外領域に向けて噴射された燃料の量(キャビティ外領域に存在する噴霧量)を算出することができる。
このように本実施形態では、筒内をキャビティ外領域とキャビティ内領域とに分割(区画)し、それぞれについての燃料量を前記キャビティ内領域総燃料分配率を利用して個別に求める。
なお、前述したように、気筒内における混合気の状態が均一である場合、または、均一であるとみなす場合には、気筒内の全体に亘って燃料密度が略均一であるため、キャビティ外領域およびキャビティ内領域それぞれの燃料量を個別に求めることなく、気筒内全体の酸素過剰率に従って理想熱発生率を算出することが可能である。
(b)領域内温度
前記キャビティ外領域およびキャビティ内領域それぞれの温度(燃料噴射実行時の各領域の温度)を求めるための手法としては、吸気温度、ピストン位置(吸入ガスの圧縮度合い)、前記パイロット噴射等による対象領域の予熱状態等をパラメータとし、予め実験やシミュレーションによって、これらパラメータとキャビティ外領域およびキャビティ内領域それぞれの温度との関係を求めてマップ化し、このマップを前記ROMに記憶させている。つまり、吸気温度、ピストン位置、各領域の予熱状態等のパラメータを前記マップに当て嵌めることでキャビティ外領域およびキャビティ内領域それぞれの温度が個別に求められるようになっている。また、キャビティ内領域の温度を求める際に、前記キャビティ内領域総燃料分配率を利用してもよい。具体的には、圧縮比に基づいて算出される圧縮ガス温度と、キャビティ内領域総燃料分配率から得られた燃料量と燃料の単位質量当たりの発生熱量との積で得られる温度上昇分との和をキャビティ内領域の温度として求めるものである。キャビティ外領域の温度も同様に求めることが可能である。
なお、これら温度を求めるための手法としてはこれに限らず、筒内平均温度から所定温度を減算した値をキャビティ外領域の温度として設定し、筒内平均温度に所定温度を加算した値をキャビティ内領域の温度として設定するようにしてもよい。この場合に減算および加算される前記所定温度は、エンジン1の運転状態に応じたマップ値が実験またはシミュレーションによって求められ、このマップ値に従って可変とされる。また、熱エネルギ方程式Q=mcTから温度を算出するようにしてもよい。ここで、Qは対象領域(キャビティ外領域またはキャビティ内領域)への投入熱エネルギ、mは対象領域でのガスの質量、cはガスの比熱、Tは対象領域の温度である。
なお、前述した如く、本実施形態ではキャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれの酸素密度および二酸化炭素密度を同一と仮定しているため、各領域毎に酸素密度および二酸化炭素密度を求める必要はなく、前述したように気筒内全体を対象として酸素密度および二酸化炭素密度が求められる。
(1−B)燃料の反応形態の分離
次に、前記理想熱発生率波形の作成の第2手順である燃料の反応形態の分離について説明する。
前記インジェクタ23から燃料噴射が行われた場合、対象領域内においては、気化反応、低温酸化反応、熱分解反応、予混合燃焼による高温酸化反応、拡散燃焼による高温酸化反応が対象領域内環境に応じて行われる。つまり、キャビティ外領域およびキャビティ内領域のそれぞれに燃料が噴射された場合には、これら領域それぞれにおいて、これら反応がそれぞれの環境に応じて行われる。以下、各反応形態について説明する。
(a)気化反応
気化反応は、前記インジェクタ23から噴射された燃料が対象領域内の熱を受けて気化するものである。この反応は、一般的には対象領域内ガス温度が500K以上となっている環境下に燃料が晒された状態で、燃料噴霧の拡散がある程度進んだ際に開始する噴霧律速の反応となっている。
ディーゼルエンジン1で使用されている軽油の沸点は、一般には453K〜623Kであって、対象領域内に燃料噴射が行われる実用域(例えば前記パイロット噴射が行われる時期)はBTDC(圧縮上死点前)40°CAである。このタイミングにおける対象領域内ガス温度は一般には550K〜600K程度まで上昇しているため(寒冷地以外)、この気化反応においては、温度律速条件を考慮する必要はない。
そして、この気化反応における前記基準反応量効率としては、例えば−1.14[J/mm3]となっている。
また、この気化反応における有効噴射量(気化反応に寄与する燃料量)としては、燃料噴射量から壁面付着量(シリンダボア12の壁面(キャビティ外領域に噴射された場合)やキャビティ13bの内壁面(キャビティ内領域に噴射された場合)に付着した燃料量)および未燃浮遊燃料量(噴霧塊の外周囲に存在して反応に寄与しない燃料)を減算した量である。以下、これら燃料量を未燃燃料量という。これら未燃燃料量は、噴射量(燃料の貫徹力に相関がある)と噴射時期(気筒内圧力に相関がある)に応じて実験的に求めることが可能である。
具体的に、キャビティ内領域に燃料が噴射される場合に比べてキャビティ外領域に燃料が噴射される場合の方が、噴霧が拡散しやすいため、総噴射燃料量に対する未燃燃料量の比率は高くなる。例えば、キャビティ内領域に燃料が噴射された場合の未燃燃料量の比率は15%程度であるのに対し、キャビティ外領域に燃料が噴射された場合の未燃燃料量の比率は20%程度である。これら値はこれに限らず、各領域の温度や圧力、および、燃料噴射圧力等によって変動するため、予め実験やシミュレーションによって求められている。
そして、前記気化反応における反応量としては、以下の式(19)により求められる。
気化反応における反応量=−1.14×有効噴射量 …(19)
なお、この気化反応は吸熱反応であるため、この反応量(発生熱量)としては負の値となる。また、この気化反応は、反応に要する酸素量が僅かであるため、酸素密度の影響を殆ど受けないものとなっている。
(b)低温酸化反応
低温酸化反応は、ディーゼルエンジン1の燃料である軽油中に含まれる低温酸化反応成分(n−セタン(C1634)等の直鎖単結合組成の燃料等)が燃焼する反応である。この低温酸化反応成分は、対象領域内温度が比較的低い場合であっても着火が可能な成分であって、このn−セタン等の量が多いほど(高セタン燃料であるほど)対象領域内での低温酸化反応が進みやすく着火遅れが抑制されることになる。具体的に、n−セタン等の低温酸化反応成分は、一般的には、対象領域内温度が約750Kに達した時点で燃焼(低温酸化反応)を開始する。なお、n−セタン等以外の燃料成分(高温酸化反応成分)は対象領域内温度が約900Kに達するまで燃焼(高温酸化反応)を開始しない。
そして、この低温酸化反応における前記基準反応速度勾配(基準反応速度効率)としては、例えば4.0[J/CA2/mm3]となっている。また、基準反応量効率としては、例えば5.0[J/mm3]となっている。
また、この低温酸化反応の反応量は、前記基準反応量効率が酸素密度によって補正されることにより求められた反応量効率に基づいて算出される(例えば前記有効噴射量を乗算することで算出される)。
また、この低温酸化反応の反応速度は、前記基準反応速度勾配が酸素密度および二酸化炭素密度によって補正されることにより求められた反応速度勾配に基づいて算出される(例えば前記有効噴射量を乗算することで算出される)。さらに、この低温酸化反応の反応速度を算出するに当たっては、前記反応速度勾配に有効噴射量を乗算した値に対してエンジン回転速度に応じた係数(回転速度補正係数=(基準回転速度/実回転速度)2)が乗算される。なお、この回転速度補正係数を求めるための基準回転速度としては任意の回転速度(例えば2000rpm)が設定可能である。これにより、ガス組成等が変化しても反応速度を時間に依存した値として求めることができる。
なお、回転速度補正係数は、図15に示す回転速度補正係数マップから求められるものであってもよい。この図15に示す回転速度補正係数マップは、基準回転速度を2000rpmに設定したものである。エンジン1の実回転速度が基準回転速度(2000rpm)以上である領域では、「(基準回転速度/実回転速度)2」に応じた値(図中に一点鎖線で示すエンジン回転速度に応じた値)として回転速度補正係数が求められる。これに対し、エンジン1の実回転速度が基準回転速度(2000rpm)未満である領域では、「(基準回転速度/実回転速度)2」に応じた値に対して所定割合だけ補正(低い側に補正)された値が回転速度補正係数として求められる(基準回転速度未満である領域の実線を参照)。この場合の補正割合は実験やシミュレーションによって求められている。
前記基準回転速度は、上述した値には限定されず、エンジン1の使用頻度が最も高い回転速度域に設定することが好ましい。
なお、この低温酸化反応は発熱反応であるため、この反応量(発生熱量)としては正の値となる。
(c)熱分解反応
熱分解反応は、燃料成分の熱分解を行う反応であって、一般に、その反応温度は約800Kとなっている。
また、この熱分解反応における前記基準反応速度勾配としては、例えば−0.2[J/CA2/mm3]となっている。また、基準反応量効率としては、例えば5.0[J/mm3]となっている。
また、この熱分解反応の反応量も、前記基準反応量効率が酸素密度によって補正されることにより求められた反応量効率に基づいて算出される(例えば前記有効噴射量を乗算することで算出される)。
また、この熱分解反応の反応速度も、前記基準反応速度勾配が酸素密度および二酸化炭素密度によって補正されることにより求められた反応速度勾配に基づいて算出される(例えば前記有効噴射量を乗算することで算出される)。さらに、この熱分解反応の反応速度を算出するに当たっても、前記反応速度勾配に有効噴射量を乗算した値に対してエンジン回転速度に応じた前記回転速度補正係数が乗算される。
なお、本実施形態では、この熱分解反応を吸熱反応として扱うものとする。つまり、反応量(発生熱量)が負の値であるものとする。
(d)予混合燃焼による高温酸化反応
予混合燃焼による高温酸化反応の反応温度は、一般に約900Kとなっている。つまり、対象領域内温度が900Kに達したことで燃焼を開始する反応が、この予混合燃焼による高温酸化反応である。
また、この予混合燃焼による高温酸化反応における前記基準反応速度勾配としては、例えば4.3[J/CA2/mm3]となっている。また、基準反応量効率としては、例えば30.0[J/mm3]となっている。
また、この予混合燃焼による高温酸化反応の反応量も、前記基準反応量効率が酸素密度によって補正されることにより求められた反応量効率に基づいて算出される(例えば前記有効噴射量を乗算することで算出される)。
また、この予混合燃焼による高温酸化反応の反応速度も、前記基準反応速度勾配が酸素密度および二酸化炭素密度によって補正されることにより求められた反応速度勾配に基づいて算出される(例えば前記有効噴射量を乗算することで算出される)。さらに、この予混合燃焼による高温酸化反応の反応速度を算出するに当たっても、前記反応速度勾配に有効噴射量を乗算した値に対してエンジン回転速度に応じた前記回転速度補正係数が乗算される。
なお、この予混合燃焼による高温酸化反応は発熱反応であるため、この反応量(発生熱量)としては正の値となる。
(e)拡散燃焼による高温酸化反応
拡散燃焼による高温酸化反応の反応温度は、一般に約1000Kとなっている。つまり、温度が1000K以上となっている対象領域内に向けて噴射された燃料が、噴射後、直ちに燃焼を開始する反応が、この拡散燃焼による高温酸化反応である。
また、この拡散燃焼による高温酸化反応における反応速度は、コモンレール圧力に応じて変化し、以下の式(20)および式(21)から求められる。
GrdB=A×コモンレール圧力+B …(20)
Grd=GrdB×(基準エンジン回転速度/実エンジン回転速度)2
×(d/基準d)×(N/基準N) …(21)
GrdB:基準反応速度、Grd:反応速度、d:インジェクタ23の噴孔径、N:インジェクタ23の噴孔数、A,B:実験等により求められた定数
なお、前記式(21)は、インジェクタ23の基準噴孔径に対する実噴孔径の比、および、インジェクタ23の基準噴孔数に対する実噴孔数の比が乗算されていることにより、一般化された式となっている。また、この式(21)は、回転速度補正係数が乗算されていることで、エンジン回転速度に応じて補正された反応速度が求められるものとなっている。
また、この拡散燃焼による高温酸化反応の基準反応量効率としては、例えば30.0[J/mm3]となっており、この拡散燃焼による高温酸化反応の反応量も、前記基準反応量効率が酸素密度によって補正されることにより求められた反応量効率に基づいて算出される(例えば有効噴射量を乗算することで算出される)。
なお、この拡散燃焼による高温酸化反応も発熱反応であるため、この反応量(発生熱量)としては正の値となる。
以上のようにして燃料の反応形態を分離することができる。
(f)各反応に対する酸素密度の影響
前述したように酸素密度は燃料の各反応における反応開始時期、反応速度および反応量に影響を及ぼす。つまり、酸素密度が低くなるほど、反応開始時期は遅角側に移行し、反応速度は低くなり(反応が緩慢になり)、反応量が低下することになる。
以下、各反応の反応開始時期、反応速度および反応量に対する酸素密度の影響について具体的に説明する。
<反応開始時期>
前述したように酸素密度が低くなるほど反応開始時期は遅角側に移行する。この場合の反応開始時期は以下の式(22)によって算出される。
反応開始時期=基準温度到達時期+酸素密度低下補正遅角量 …(22)
ここで、基準温度到達時期は、一般に、低温酸化反応では約750K、熱分解反応では約800K、予混合燃焼による高温酸化反応では約900K、拡散燃焼による高温酸化反応では約1000Kそれぞれの温度に到達する時期(クランク角度位置)となっている。
また、酸素密度低下補正遅角量は、酸素密度の影響による反応開始時期の補正量である。この酸素密度と酸素密度低下補正遅角量との関係は、予め実験やシミュレーションによって求められて作成された補正遅角量マップが前記ROMに記憶されており、この補正遅角量マップから酸素密度低下補正遅角量が抽出される。
<反応速度勾配>
前述したように酸素密度が低くなるほど反応速度は低くなる。つまり、反応速度勾配が小さくなる。この場合の反応速度勾配は以下の式(23)によって算出される。
反応速度勾配=(基準反応速度勾配×勾配補正係数)×(2000/NE)2 …(23)
ここで、基準反応速度勾配は、低温酸化反応では約40[J/CA2/mm3]、熱分解反応では約−0.2[J/CA2/mm3]となっている。NEは前記酸素密度の算出タイミングにおけるエンジン回転速度である。この式(23)では、基準回転速度を2000rpmに設定して前記酸素密度の算出タイミングにおける反応速度勾配を求めるものとなっている。
また、勾配補正係数は、酸素密度の影響による反応速度勾配の補正量である。この酸素密度と勾配補正係数との関係は、予め実験やシミュレーションによって求められて作成された勾配補正係数マップが前記ROMに記憶されており、この勾配補正係数マップから勾配補正係数が抽出される。
<反応量>
前述したように酸素密度が低くなるほど反応量は低下する。この場合の反応量効率は以下の式(24)によって算出される。
反応量効率=基準反応量効率×酸素密度補正係数 …(24)
ここで、酸素密度補正係数は、酸素密度の影響による反応量効率の補正量である。この酸素密度と酸素密度補正係数との関係は、予め実験やシミュレーションによって求められて作成された酸素密度補正係数マップが前記ROMに記憶されており、この酸素密度補正係数マップから酸素密度補正係数が抽出される。
酸素密度は全ての反応に対して影響を及ぼす可能性があるが、特に、酸素密度の影響を大きく受ける反応および波形構成要素に対してのみ、この酸素密度の影響を考慮することが好ましい。具体的には、酸素密度によって反応開始時期の影響を大きく受ける反応としては低温酸化反応および熱分解反応が挙げられる。また、酸素密度によって反応速度の影響を大きく受ける反応としては低温酸化反応、熱分解反応および予混合燃焼による高温酸化反応が挙げられる。さらに、酸素密度によって反応量の影響を大きく受ける反応としては予混合燃焼による高温酸化反応および拡散燃焼による高温酸化反応が挙げられる。なお、酸素密度の影響を考慮する反応および波形構成要素はこれらに限定されるものではない。
(g)各反応に対する二酸化炭素密度の影響
前述したように二酸化炭素密度は燃料の各反応における反応速度に影響を及ぼす。つまり、二酸化炭素密度が高くなるほど反応速度は低くなる(反応が緩慢になる)。なお、前述した如く、二酸化炭素密度は燃料の各反応における反応開始時期および反応量に対しても影響を及ぼす可能性があるが、特に、反応速度に及ぼす影響が大きいため、ここでは、この反応速度に及ぼす影響について説明する。
二酸化炭素密度の影響による反応速度勾配は以下の式(25)によって算出される。
二酸化炭素密度の影響による反応速度勾配=(反応速度勾配×勾配補正係数)×(1600/NE)2 …(25)
ここで、反応速度勾配は、前記酸素密度等の影響を考慮して求められた反応速度勾配(基準熱発生率に相関のある反応速度勾配)である(前記式(23)を参照)。また、NEは前記二酸化炭素密度の算出タイミングにおけるエンジン回転速度である。この式(25)では、基準回転速度を1600rpmに設定して前記二酸化炭素密度の算出タイミングにおける反応速度勾配を求めるものとなっている。
また、勾配補正係数は、二酸化炭素密度の影響による反応速度勾配の補正量である。この二酸化炭素密度と勾配補正係数との関係は、予め実験やシミュレーションによって求められて作成された勾配補正係数マップが前記ROMに記憶されており、この勾配補正係数マップから勾配補正係数が抽出される。
図16は、前記勾配補正係数マップ(例えば予混合燃焼による高温酸化反応を対象とした勾配補正係数マップ)の一例を示している。この勾配補正係数マップは、二酸化炭素密度の変化に対する勾配補正係数の変化をWiebe関数によって簡易化したものである。
この勾配補正係数マップにあっては、二酸化炭素密度が0〜ρ1まで変化する場合に、二酸化炭素密度が「0」である場合の勾配補正係数を「1」とし、二酸化炭素密度がρ1である場合の勾配補正係数を「A(例えば0.2)」とするようにWiebe関数の形状パラメータであるa項およびm項が設定されている。これらの値はこれに限定されるものではない。
(1−C)分離された各反応形態それぞれに対する理想熱発生率波形モデルの作成
次に、前記キャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれにおいて分離された各反応形態それぞれに対する理想熱発生率波形モデルの作成について説明する。
上述の如く反応形態を分離したことにより、それぞれの反応形態における理想熱発生率波形モデルが作成可能となる。つまり、気化反応、低温酸化反応、熱分解反応、予混合燃焼による高温酸化反応、拡散燃焼による高温酸化反応それぞれに対して、理想熱発生率波形モデルが作成可能となる。
本実施形態では、各反応それぞれに対し、理想熱発生率波形モデルを二等辺三角形に近似させるものとしている。つまり、上述した反応開始温度を基点として、反応速度(酸素密度および二酸化炭素密度に応じて補正された反応速度)を二等辺三角形の斜辺の勾配とし、反応量(酸素密度に応じて補正された反応量)を二等辺三角形の面積とし、反応期間を二等辺三角形の底辺の長さとする理想熱発生率波形モデルをキャビティ内領域およびキャビティ外領域それぞれについて作成する。前記反応開始時期としては、上述したように、基準温度到達時期を酸素密度低下補正遅角量によって補正した値となっている。以下の理想熱発生率波形モデルの作成は、上述した各反応形態それぞれに対して適用される。以下、具体的に説明する。
(a)反応速度(反応速度勾配)
反応速度は、前記反応速度勾配に基づいて設定され、理想熱発生率波形モデルを二等辺三角形に近似させた場合、熱発生率が上昇する期間での反応速度と、熱発生率が下降する期間での反応速度とでは、それらの絶対値は一致している。
なお、前記熱発生率が上昇する期間での反応速度に対して、熱発生率が下降する期間での反応速度が低い場合(理想熱発生率波形モデルが不等辺三角形である場合)には、前記上昇勾配に所定値α(<1)を乗算することで下降勾配が求められることになる。
前記拡散燃焼による高温酸化反応での理想熱発生率波形モデルにあっては、反応速度は噴射率波形勾配に比例し、燃料噴射圧(コモンレール内圧)が一定であれば反応速度も一定である。また、他の反応(例えば予混合燃焼による高温酸化反応)での理想熱発生率波形モデルにあっては、反応速度は燃料噴射量に比例することになる。
前述した如く、本実施形態では、筒内をキャビティ外領域とキャビティ内領域とに分割し、それぞれについての理想熱発生率波形モデルを作成するようにしている。また、前記各反応では、燃焼場における酸素密度、燃料密度、二酸化炭素密度等の物理量に応じて反応速度勾配が変化する。このため、本実施形態では、反応速度についても各領域それぞれについて個別に求め、それに基づいて理想熱発生率波形モデルを作成するようにしている。具体的には、燃焼場における酸素密度および燃料密度に基づいて基準となる反応速度を求めた後、この基準となる反応速度に対して二酸化炭素密度に基づく補正を行って反応速度を算出するようにしている。
(b)発生熱量(面積)
各反応における反応量効率[J/mm3]は燃焼期間を適正化すれば定数(例えば高温酸化反応の場合は30J/mm3)と見なすことができる。このため、発生熱量としては、この反応量効率に燃料噴射量(前記有効噴射量)を乗算したものとなる。
但し、前記低温酸化反応については高温酸化反応との和で完結し、拡散燃焼による高温酸化反応では単独で完結することになる。
このようにして求められた発生熱量が理想熱発生率波形モデルである三角形の面積に相当することになる。
(c)燃焼期間(底辺)
以上の三角形の勾配(反応速度)および三角形の面積(発生熱量)から三角形の底辺の長さに相当する燃焼期間が求められる。
図17に示すように、三角形の面積(発生熱量に相当)をS、底辺の長さ(燃焼期間に相当)をL、高さ(熱発生率ピーク時点での熱発生率に相当)をH、燃焼開始時点から熱発生率ピーク時点までの期間をA、熱発生率ピーク時点から燃焼終了時点までの期間をB(理想熱発生率波形モデルが二等辺三角形の場合にはB=A)、上昇勾配(熱発生率が上昇する期間での反応速度に相当)をG、この上昇勾配に対する下降勾配(熱発生率が下降する期間での反応速度に相当)の比をα(≦1)とした場合、以下の関係が成り立つ。なお、図17(a)は理想熱発生率波形モデルが二等辺三角形の場合を、図17(b)は理想熱発生率波形モデルが不等辺三角形の場合をそれぞれ示している。
H=A×G=B×α×G
これより、B=A/αとなる。
S=A2×G/2+A×G×B/2=(1+1/α)×A2×G/2
よって、A=SQRT[2S/{(1+1/α)G}]となる。
従って、底辺の長さLは、
L=A+B=A(1+1/α)
=(1+1/α)×SQRT[2S/{(1+1/α)G}]
理想熱発生率波形モデルが二等辺三角形の場合にはα=1であり、
L=2×SQRT(S/G)=2×SQRT(30×Fq/G)となる。
(Fqは燃料噴射量(有効噴射量)であり、上述した如く燃料1mm3当たりの発生熱量を30Jとした場合には「30×Fq」が三角形の面積Sとなる)
このようにして、噴射量(噴射量指令値:発生熱量に相関のある値)と勾配(反応速度)が与えられれば燃焼期間が確定されることになる。
以下、理想熱発生率波形モデルを三角形(特に二等辺三角形)に近似できる理由について説明する。図18(a)は、インジェクタ23から燃料噴射が行われた場合における経過時間と一つの反応形態における気筒内への燃料供給量(その反応形態で使用される燃料の量)との関係を示している。また、この図18(a)では、その燃料供給量が得られる燃料噴射期間を10個の期間に区分している。つまり、その燃料噴射期間を、互いに燃料供給量が等しい10個の期間に区分しており、それぞれに第1の期間から第10の期間の期間番号を付している。つまり、第1の期間での燃料噴射が終了した後、燃料噴射が途切れることなく第2の期間での燃料噴射が開始され、第2の期間での燃料噴射が終了した後、燃料噴射が途切れることなく第3の期間での燃料噴射が開始されるといった噴射形態で第10の期間の終了時点まで燃料噴射が継続されることになる。
また、図18(b)は前記各期間で噴射された燃料の反応量(この図18(b)に示すものは発熱反応における発熱量)を示している。この図18(b)に示すように、第1の期間での燃料噴射が開始され、第2の期間での燃料噴射が開始されるまでの間(図18(b)における期間t1)は、第1の期間で噴射された燃料の反応のみが行われている。そして、第2の期間での燃料噴射が開始され、第3の期間での燃料噴射が開始されるまでの間(図18(b)における期間t2)は、第1の期間で噴射された燃料の反応および第2の期間で噴射された燃料の反応が共に行われている。このようにして、新たな噴射期間を迎える度に、燃料の総反応量としては次第に増加していく(新たに噴射が開始された期間の燃料分だけ総反応量が増加していく)。この増加期間が、前記理想熱発生率波形モデルの正側の勾配の期間(反応のピーク位置よりも進角側の期間)に相当する。
その後、第1の期間で噴射された燃料の反応が終了する。この時点(図18(b)におけるタイミングT1)では、第2の期間以降で噴射された燃料の反応は終了しておらず、第2の期間から第10の期間で噴射された燃料の反応が継続している。そして、第2の期間で噴射された燃料の反応が終了すると(図18(b)におけるタイミングT2)、第3の期間以降で噴射された燃料の反応は終了していないため、第3の期間から第10の期間で噴射された燃料の反応が継続することになる。このようにして、各期間で噴射された燃料の反応が順次終了していくことにより、燃料の総反応量としては次第に減少していく(反応が終了した燃料分だけ総反応量が減少していく)。この減少期間(図18(b)において反応量を破線で示している期間)が、前記理想熱発生率波形モデルの負側の勾配の期間(反応のピーク位置よりも遅角側の期間)に相当する。
以上のような形態で燃料の反応が行われるため、理想熱発生率波形モデルは三角形(二等辺三角形)として近似できることになる。
以上が、燃料の各反応形態に対する理想熱発生率波形モデルの作成手順である。
(1−D)理想熱発生率波形モデルのフィルタリングによる理想熱発生率波形の作成
以上のようにして理想熱発生率波形モデルを作成した後、この理想熱発生率波形モデルを周知のフィルタ処理(例えばWiebeフィルタによる処理)によって円滑化することにより、理想熱発生率波形を作成する。以下、具体的に説明する。
図19は、キャビティ外領域に1回の燃料噴射が行われた場合の各反応形態における理想熱発生率波形モデル(各反応に対応した二等辺三角形)の一例を示している。この図19では、1回の燃料噴射によって気化反応、低温酸化反応、熱分解反応、各高温酸化反応が順次行われた理想熱発生率波形モデル(各反応に対応した二等辺三角形)となっている。具体的に、図中のIは気化反応の理想熱発生率波形モデル、IIは低温酸化反応の理想熱発生率波形モデル、IIIは熱分解反応(吸熱となる熱分解反応)の理想熱発生率波形モデル、IVは予混合燃焼による高温酸化反応の理想熱発生率波形モデル、Vは拡散燃焼による高温酸化反応の理想熱発生率波形モデルである。
また、図20は、このキャビティ外領域に1回の燃料噴射が行われた場合の理想熱発生率波形モデルをフィルタ処理によって円滑化することで得られた各波形を合成することにより作成された理想熱発生率波形(キャビティ外噴射理想熱発生率波形)を示している。このように、各反応(気化反応、低温酸化反応、熱分解反応、各高温酸化反応)それぞれに応じた理想熱発生率波形モデル(二等辺三角形)がフィルタ処理によって円滑化されて合成されることでキャビティ外領域のみを対象とした理想熱発生率波形が作成されることになる。
一方、図21は、キャビティ内領域に1回の燃料噴射が行われた場合の各反応形態における理想熱発生率波形モデル(各反応に対応した二等辺三角形)の一例を示している。この図21では、キャビティ内領域の温度が急速に上昇することに起因し、1回の燃料噴射によって気化反応、熱分解反応が順に行われた後、低温酸化反応と予混合燃焼による高温酸化反応とが並行し、これらの反応の開始後に、拡散燃焼による高温酸化反応が行われた理想熱発生率波形モデル(各反応に対応した二等辺三角形)となっている。具体的に、図中のI’は気化反応の理想熱発生率波形モデル、II’は低温酸化反応の理想熱発生率波形モデル、III’は熱分解反応(吸熱となる熱分解反応)の理想熱発生率波形モデル、IV’は予混合燃焼による高温酸化反応の理想熱発生率波形モデル、V’は拡散燃焼による高温酸化反応の理想熱発生率波形モデルである。
また、図22は、このキャビティ内領域に1回の燃料噴射が行われた場合の理想熱発生率波形モデルをフィルタ処理によって円滑化することで得られた各波形を合成することにより作成された理想熱発生率波形(キャビティ内噴射理想熱発生率波形)を示している。このように、各反応(気化反応、低温酸化反応、熱分解反応、各高温酸化反応)それぞれに応じた理想熱発生率波形モデル(二等辺三角形)がフィルタ処理によって円滑化されて合成されることでキャビティ内領域のみを対象とした理想熱発生率波形が作成されることになる。
さらに、1回の燃料噴射において、燃料の一部がキャビティ外領域に噴射され、他の燃料がキャビティ内領域に噴射された場合、つまり、燃料がキャビティ外領域とキャビティ内領域とに噴き分けられた場合には、これらキャビティ外領域を対象とする理想熱発生率波形とキャビティ内領域を対象とする理想熱発生率波形とがそれぞれ作成され、これらを合成することにより、筒内全体を対象とした理想熱発生率波形が作成されることになる。例えば、キャビティ外領域を対象とした理想熱発生率波形が図20に示すものであり、キャビティ内領域を対象とした理想熱発生率波形が図22に示すものであった場合には、筒内全体を対象とした理想熱発生率波形として図23に示すような理想熱発生率波形(気筒内理想熱発生率波形)が作成されることになる。
前述したように、酸素密度は、燃料の各反応における反応開始時期、反応速度および反応量に影響を及ぼす。つまり、酸素密度が低くなるほど、反応開始時期は遅角側に移行し、反応速度は低くなり(反応が緩慢になり)、反応量が低下することになる。また、二酸化炭素密度は、燃料の各反応における反応速度に影響を及ぼす。つまり、二酸化炭素密度が高くなるほど反応速度は低くなる(反応が緩慢になる)。このため、前述した手法によって作成される理想熱発生率波形は、酸素密度および二酸化炭素密度によって形状が異なることになり、これら酸素密度および二酸化炭素密度の影響を反映した波形となっている。
なお、実際のエンジン1では、メイン噴射以外にパイロット噴射やアフタ噴射等が行われる。このため、これらパイロット噴射やアフタ噴射に対しても、前述の場合と同様に対象領域における理想熱発生率波形モデルを作成し、これをフィルタ処理によって円滑化することにより理想熱発生率波形が作成される。一般にパイロット噴射はピストン13の圧縮上死点よりも所定角度以上進角側のクランク角度位置で実行され、アフタ噴射はピストン13の圧縮上死点よりも所定角度以上遅角側のクランク角度位置で実行されるため、これら噴射はキャビティ外領域に向けて行われる。このため、これら噴射を対象とする理想熱発生率波形は前記キャビティ外噴射理想熱発生率波形として求められることになる。
そして、前記メイン噴射における筒内全体を対象とした理想熱発生率波形と、これら理想熱発生率波形(パイロット噴射やアフタ噴射を対象とする理想熱発生率波形)とを合成することによって1サイクルを対象とした理想熱発生率波形が作成されることになる。
また、メイン噴射を複数回に分割して実行(分割メイン噴射)した場合にあっても、各メイン噴射それぞれにおける理想熱発生率波形同士を合成することによって1サイクルを対象とした理想熱発生率波形が作成されることになる。
このように複数回の噴射が実行される場合に、それぞれの理想熱発生率波形を合成するに当たっては、前段(進角側)で燃料が噴射されるタイミングでの対象領域内温度と、その後に(遅角側で)燃料が噴射されるタイミングでの対象領域内温度とが互いに異なっていることを考慮する必要がある。具体的には、エンジンの定常運転状態において、進角側で燃料が噴射されるタイミングにおいて前記予熱等が行われていない場合には、外部から吸入される新気、気筒内の残留ガスおよびEGRガス等のガスがピストン13の移動に伴って温度上昇したことによる圧縮ガス温度を基点として反応が開始される。なお、エンジンの始動時やフューエルカットからの燃料噴射復帰時等にあっては、外部から吸入される新気がピストン13の移動に伴って温度上昇したことによる圧縮ガス温度を基点として反応が開始されることになる。一方、その遅角側で燃料が噴射される場合には、前記圧縮ガス温度に対して、既燃ガス(進角側で噴射された燃料の燃焼ガス)の温度等が加算されて温度上昇した温度場に対して燃料が噴射されることになるため、既燃ガスによる温度上昇がない場合に比べて反応開始時期が進角側に移行することになる。このことを考慮し、進角側で噴射された燃料の反応による理想熱発生率波形、および、遅角側で噴射された燃料の反応による理想熱発生率波形それぞれを前述した温度変化を考慮して求める。つまり、各噴射における各反応の開始時点等を温度管理によって規定する。これにより、各噴射における各反応の開始時点を適切に求めることが可能になる。その結果、反応の開始順序や反応同士が並行される期間等を適正に規定することが可能になり、各噴射に応じて作成された理想熱発生率波形を合成することによる理想熱発生率波形を高い精度で作成することが可能になる。
(2)実熱発生率波形の作成
前記理想熱発生率波形と比較される実熱発生率波形は、前記筒内圧センサ4Aによって検出される筒内圧力の変化に応じて作成される。つまり、気筒内での熱発生率と筒内圧力との間には相関がある(熱発生率が高いほど筒内圧力は高くなる)ので、この筒内圧センサ4Aによって検出される筒内圧力から実熱発生率波形を作成することができる。この検出した筒内圧力から実熱発生率波形を作成する処理については公知であるため、ここでの説明は省略する。
(3)理想熱発生率波形と実熱発生率波形との比較による燃焼状態の診断
燃焼状態の診断(反応形態の診断)としては、前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離の大きさに基づいて行われる。例えば、その乖離が予め設定された閾値(本発明でいう異常判定乖離量)以上となっている反応形態が存在している場合には、その反応形態に異常が生じていると診断することになる。例えば熱発生率の偏差が10[J/°CA]以上となっている反応形態が存在する場合や、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形のクランク角度の偏差(進角側または遅角側の偏差)が3°CA以上となっている反応形態が存在する場合には、その反応形態に異常が生じていると診断する。これら値はこれに限定されるものではなく、実験やシミュレーションによって適宜設定される。
例えば、図23に示した理想熱発生率波形が作成された場合を例に挙げて説明すると、図24に破線で示す実熱発生率波形のように、実線で示した理想熱発生率波形(図23で示した波形)に対して各高温酸化反応(予混合燃焼による高温酸化反応および拡散燃焼による高温酸化反応)における実熱発生率波形が遅角側にずれており、その偏差が閾値を超えている場合には、各高温酸化反応に異常が生じている、つまり、各高温酸化反応の反応開始時期に異常が生じていると診断することになる。
また、図24に一点鎖線で示す実熱発生率波形のように、実線で示した理想熱発生率波形に対して各高温酸化反応における熱発生率波形のピーク値が高く、その偏差が閾値を超えている場合には、各高温酸化反応に異常が生じている、つまり、各高温酸化反応での反応量に異常が生じていると診断することになる。また、このような診断は、高温酸化反応に限らず、前記気化反応、低温酸化反応、熱分解反応それぞれに対しても同様に行われる。
なお、前記反応形態に異常が生じているか否かを診断するためのパラメータとしては、上述した反応時期の偏差(着火遅れ等)や、熱発生率波形のピーク値の偏差に限らず、反応速度の偏差、反応期間の偏差、ピーク位相等も挙げられる。
(4)診断結果に応じたエンジン1の制御パラメータの補正
前記理想熱発生率波形と実熱発生率波形との比較による燃焼状態の診断において、上述した如く理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が予め設定された閾値を超える反応形態が存在する場合、その反応形態に異常が生じていると診断され、この乖離を小さくするようにエンジン1の制御パラメータが補正されることになる。
例えば、実熱発生率波形が、図24に破線で示したものである場合には、燃料の着火遅れが生じており、酸素不足であると判断して、前記インタークーラ61による吸気の冷却能力を高めるようにしたり、EGRバルブ81の開度を小さくしてEGRガス量を減量したり、吸気の過給率を上昇させたりすることで酸素不足を解消する。
また、実熱発生率波形が、図24に一点鎖線で示したものである場合には、燃料の反応量が大きすぎると判断して、燃料噴射量の減量補正や、EGRガスの増量補正等を行う。
その他の補正動作として、実熱発生率波形における反応開始時期が理想熱発生率波形に対して遅角側に位置している場合には、吸気の過給率を上昇させたり、対象領域に対するパイロット噴射による予熱量を増量させる等の補正を行うことも挙げられる。
また、実熱発生率波形を理想熱発生率波形に近付けるための制御パラメータとしては、上述したもの以外に、燃料噴射時期、気筒内のガス組成、吸入空気量(ガス量)、各種の学習値(燃料噴射量や燃料噴射時期の学習値など)であってもよい。例えば、対象領域の酸素密度に過不足が生じている場合、学習値としては、EGRガスの補正や吸気の過給率の補正を行うように学習する。また、対象領域の燃料密度に過不足が生じている場合、学習値としては、燃料噴射時期や、燃料噴射圧力や、燃料噴射量の補正を行うように学習する。
このような制御パラメータの補正は、この制御パラメータの補正によって実熱発生率波形を理想熱発生率波形に略一致させることが可能な場合に実行される。具体的には、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離量が所定の補正可能乖離量以下である場合に実行される。この補正可能乖離量としては、実験またはシミュレーションによって予め設定されている。そして、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離量が前記補正可能乖離量を超えている場合には、制御パラメータの補正量が所定のガード値を超えることになるので、これによってエンジン1を構成している機器の一部に故障が生じていると診断する。具体的には、気筒内温度、酸素密度、燃料密度それぞれの下限値を予め設定しておき、これら気筒内温度、酸素密度、燃料密度の何れかがその下限値を下回っている場合や、二酸化炭素密度の上限値を予め設定しておき、この二酸化炭素密度がその上限値を上回っている場合には、エンジン1の制御パラメータの補正量が所定のガード値を超えるとして、エンジン1に故障が生じていると診断することになる。
この場合、前記制御パラメータの補正を行うことなく、例えば、車室内のメータパネル上のMIL(警告灯)を点灯させて運転者に警告を促すと共に、前記ECU100に備えられたダイアグノーシスに異常情報が書き込まれることになる。
−スモーク指標−
前述した如く、二酸化炭素密度は排気中におけるスモークの生成量に影響がある。このため、二酸化炭素密度を求めることによって生成されるスモークの量を予め求めることが可能である。そして、このスモーク生成量が許容範囲を超える状況となっていることが推定される場合には、スモーク生成量を抑制するべく二酸化炭素密度の低減を図る制御を行うことが可能となる。
EGRの非実施時におけるスモーク生成量の算出式としては以下の式(26)が挙げられる。なお、この式(26)は排気ガス中におけるスモーク量の比率(%)を表すスモーク指標の算出式である。
スモーク指標=28×λo2 -12.5 …(26)
この式(26)は、酸素過剰率λo2とスモーク指標との関係を表している。つまり、気筒内の酸素の量的な不足量(酸欠の度合い)とスモーク指標との関係を表している。この式(26)における各定数は実験またはシミュレーションによって規定されたものである。
一方、EGRの実施時におけるスモーク生成量の算出式としては以下の式(27)が挙げられる。なお、この式(27)も排気ガス中におけるスモーク量の比率(%)を表すスモーク指標の算出式となっている。
スモーク指標=F(ρco2)×λo2 -12.5×F(PCR,Fq,ρo2,NE) …(27)
この式(27)におけるF(PCR,Fq,ρo2,NE)は、燃料噴射圧力PCR、燃料噴射量Fq、気筒内の酸素密度ρo2、エンジン回転速度NEを変数とする演算式である。この式(27)における定数も実験またはシミュレーションによって規定されたものである。
図25(a)はエンジン回転数が互いに異なる場合の酸素過剰率とスモーク発生量との関係を示している。この図において、破線で示す酸素過剰率とスモーク発生量との関係は、実線で示すものに比べてエンジン回転速度が高い場合であり、一点鎖線で示す酸素過剰率とスモーク発生量との関係は、実線で示すものに比べてエンジン回転速度が低い場合である。
エンジン回転速度が高い場合、単位時間当たりの筒内容積変化が大きいため、膨張行程における燃焼場での酸素密度が局部的に低下しやすい状況となり、この酸素密度の低下に伴って燃焼場における酸欠状態が発生し、気筒内全体としても酸素過剰率が同一であってもエンジン回転速度が低い場合に比べてスモーク発生量は多くなる傾向にある。
また、図25(b)は二酸化炭素密度が変化した場合における酸素過剰率とスモーク発生量との関係を示す図である。この図において、実線、破線、一点鎖線、二点鎖線の順で二酸化炭素密度は高くなっている。つまり、二酸化炭素密度が高くなるに従って燃焼場における酸欠状態が発生してスモーク発生量は多くなる傾向にあることが解る。
このようにしてスモーク発生量が予め推定できることにより、スモーク生成量が許容範囲を超える状況となっていることが推定される場合には、気筒内の二酸化炭素密度を低下させる制御(例えばEGR率の低下制御)や、酸素密度を上昇させる制御(例えば過給率の上昇制御)を実行することでスモーク生成量を許容範囲内に抑えることが可能になる。
以上説明したように、本実施形態では、筒内をキャビティ内領域とキャビティ外領域とに分割し、各領域を対象として熱発生率波形を作成している。つまり、温度や燃料密度等の物理量が互いに異なっている可能性のあるキャビティ内部領域およびキャビティ外部領域それぞれに対し、各領域に噴射された燃料の反応状態を領域内の環境に応じて個別に求めて理想熱発生率波形をそれぞれ作成している。このため、各領域における燃料の反応状態をより正確に規定することができ、作成された理想熱発生率波形に高い信頼性を得ることが可能になる。
特に、本実施形態では、前記熱発生率波形を作成するに際し、気筒内の酸素密度に基づいて規定された基準熱発生率を、気筒内の二酸化炭素量に応じて補正することによって理想熱発生率を算出し、この理想熱発生率に基づいて理想熱発生率波形を作成するようにしている。具体的には、酸素密度に基づいて補正された反応速度勾配を二酸化炭素密度に応じて補正して二酸化炭素密度の影響に応じた反応速度勾配を求め、これに基づいて理想熱発生率波形を作成するようにしている。このため、酸素密度のみでは十分な精度を得ることができなかった理想熱発生率を、気筒内の二酸化炭素量に応じて補正することによって精度を高めることができる。これにより、理想熱発生率波形に高い信頼性を得ることが可能になる。
そして、本実施形態では、前記各理想熱発生率波形を合成して気筒内全体を対象とする理想熱発生率波形を作成し、この理想熱発生率波形を利用して燃焼状態の診断を行っている。このため、燃料の複数の反応形態それぞれに対し、実熱発生率波形が理想熱発生率波形から所定量以上乖離している場合には、その反応形態に異常が生じていると診断することができる。つまり、各反応形態を個別に扱い、それぞれについて異常の有無を診断することができる。このため、異常が生じている反応形態の特定を高い精度で行うことができ、診断精度の向上を図ることができる。そして、異常であると診断された反応形態に対して改善策(制御パラメータの補正)を講じることで(乖離が所定の補正可能乖離量以下である場合)、その反応形態の反応状態を適正化するための最適な制御パラメータを補正することが可能になり、効果的な補正動作が行える。これにより、燃料の各反応全体を理想的な反応に近付ける(各反応の実熱発生率波形を理想熱発生率波形に近付ける)ことが可能になって、エンジン1の制御性を大幅に改善することができる。
また、反応に異常が生じていると診断された場合において、その異常が解消可能であるか否かを、前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離量に基づいて判断するようにしているため、制御パラメータの補正によって正常な反応状態が得られる状態と、部品交換などのメンテナンスが必要な状態とを正確に判別することが可能になる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態は、自動車に搭載された直列4気筒ディーゼルエンジン1に本発明を適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン、水平対向型エンジン等の別)についても特に限定されるものではない。また、本発明は軽油を燃料とするディーゼルエンジンに限らず、ガソリンやその他の燃料を使用するエンジンに対しても適用が可能である。
また、前記実施形態では、本発明に係る燃焼状態診断装置を車載のECU100のROMに格納(車両に実装)し、エンジン1の運転状態において燃焼状態の診断を行うようにしていた。本発明はこれに限らず、実験装置(エンジンベンチ試験器)に前記燃焼状態診断装置を備えさせ、エンジン1の設計段階において、この実験装置上でエンジン1を試験運転させる際に燃焼状態の診断を行って、制御パラメータの適正値を取得するといった使用形態に適用することも可能である。
また、前記実施形態は、キャビティ外領域およびキャビティ内領域それぞれについて理想熱発生率波形を作成し、これらを合成することによって燃焼状態の診断に利用するものであった。本発明は、これに限定されるものではなく、前記領域毎に作成された理想熱発生率波形を個別に用いて燃焼状態の診断を行うようにしたり、エンジンの設計や制御パラメータの適合値を求めるために利用してもよい。
また、前記実施形態では、通電期間においてのみ全開の開弁状態となることにより燃料噴射率を変更するピエゾインジェクタ23を適用したエンジン1について説明したが、本発明は、可変噴射率インジェクタを適用したエンジンへの適用も可能である。
本発明は、自動車に搭載されるディーゼルエンジンにおいて、燃料の各反応の熱発生率波形の作成および各反応の診断に適用可能である。
1 エンジン(内燃機関)
12 シリンダボア
13 ピストン
13b キャビティ
23 インジェクタ(燃料噴射弁)
3 燃焼室
4A 筒内圧センサ
100 ECU
I,I' 気化反応の理想熱発生率波形モデル
II,II' 低温酸化反応の理想熱発生率波形モデル
III,III' 熱分解反応の理想熱発生率波形モデル
IV,IV' 予混合燃焼による高温酸化反応の理想熱発生率波形モデル
V,V' 拡散燃焼による高温酸化反応の理想熱発生率波形モデル

Claims (11)

  1. 燃料噴射弁から気筒内に噴射された燃料の燃焼を行う内燃機関における燃料の反応の熱発生率波形を作成する装置であって、
    前記燃料噴射弁から噴射された燃料の反応の理想熱発生率波形を作成するに際し、気筒内の酸素密度に基づいて規定された基準熱発生率を、気筒内の二酸化炭素量に応じて補正することによって理想熱発生率を算出する構成となっていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  2. 請求項1記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    前記気筒内の酸素密度に基づいて規定された理想熱発生率波形の反応勾配を、前記気筒内の二酸化炭素量および筒内容積から求められた二酸化炭素密度に応じて補正することによって理想熱発生率波形を作成する構成となっていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  3. 請求項2記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    前記二酸化炭素密度が高いほど理想熱発生率波形の反応勾配を小さくして前記理想熱発生率波形を作成する構成となっていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  4. 請求項3記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    前記二酸化炭素密度が高いほど燃料の反応速度を低くし、前記気筒内の酸素密度が低いほど、二酸化炭素密度による燃料の反応速度への影響度合いを大きくして前記理想熱発生率波形を作成する構成となっていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  5. 請求項1〜4のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    気筒内における混合気の状態が均一である場合には、気筒内の酸素密度、酸素過剰率、二酸化炭素密度に基づいて理想熱発生率を算出する一方、
    気筒内における混合気の状態が不均一である場合には、気筒内の酸素密度、酸素過剰率、二酸化炭素密度、燃料密度に基づいて理想熱発生率を算出する構成となっていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  6. 請求項1〜5のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    前記気筒内の二酸化炭素量および筒内容積から求められた二酸化炭素密度によって基準熱発生率を補正することにより理想熱発生率を算出する場合に、
    前記二酸化炭素密度を求めるタイミングはピストンが圧縮上死点に達したタイミングに設定されていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  7. 請求項1〜6のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    前記気筒内を、ピストンに設けられたキャビティの内部領域とキャビティの外部領域とに分割し、これらキャビティの内部領域およびキャビティの外部領域それぞれにおける燃料の反応の理想熱発生率波形を作成して、これら各領域それぞれの理想熱発生率波形を合成することによって気筒内全体を対象とする理想熱発生率波形を作成する構成となっていることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  8. 請求項1〜7のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置において、
    前記理想熱発生率波形は、前記燃料の各反応の開始時期を基点として、反応速度を斜辺の勾配、反応量を面積、反応期間を底辺の長さとする三角形で成る理想熱発生率波形モデルを作成し、各反応の理想熱発生率波形モデルをフィルタ処理によって円滑化することで作成されることを特徴とする内燃機関の熱発生率波形作成装置。
  9. 請求項1〜8のうち何れか一つに記載の内燃機関の熱発生率波形作成装置によって求められた理想熱発生率波形と、気筒内で実際に燃料が反応した際の実熱発生率波形とを比較し、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定量以上となっている場合に、燃料の反応に異常が生じていると診断する構成となっていることを特徴とする内燃機関の燃焼状態診断装置。
  10. 請求項9記載の内燃機関の燃焼状態診断装置において、
    前記理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定の異常判定乖離量以上となっている反応が存在しており、その反応に異常が生じていると診断された際において、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が所定の補正可能乖離量以下である場合には、内燃機関の制御パラメータの補正を行って前記乖離を前記異常判定乖離量未満にする制御を行う一方、理想熱発生率波形に対する実熱発生率波形の乖離が前記補正可能乖離量を超えている場合には、内燃機関に故障が生じていると診断することを特徴とする内燃機関の燃焼状態診断装置。
  11. 請求項9または10記載の内燃機関の燃焼状態診断装置において、
    車両に実装または実験装置に搭載されていることを特徴とする内燃機関の燃焼状態診断装置。
JP2013120661A 2013-06-07 2013-06-07 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置 Expired - Fee Related JP5962592B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2013120661A JP5962592B2 (ja) 2013-06-07 2013-06-07 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2013120661A JP5962592B2 (ja) 2013-06-07 2013-06-07 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2014238039A JP2014238039A (ja) 2014-12-18
JP5962592B2 true JP5962592B2 (ja) 2016-08-03

Family

ID=52135367

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2013120661A Expired - Fee Related JP5962592B2 (ja) 2013-06-07 2013-06-07 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP5962592B2 (ja)

Family Cites Families (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP4325505B2 (ja) * 2004-08-11 2009-09-02 トヨタ自動車株式会社 圧縮着火内燃機関の燃焼制御システム
JP2008190403A (ja) * 2007-02-05 2008-08-21 Honda Motor Co Ltd 内燃機関の制御装置
JP5299181B2 (ja) * 2009-09-07 2013-09-25 トヨタ自動車株式会社 内燃機関の筒内ガス温度推定装置
JP2011106334A (ja) * 2009-11-17 2011-06-02 Mitsubishi Fuso Truck & Bus Corp Wiebe関数モデルを用いたエンジンの熱発生率の推定方法
JP2011163251A (ja) * 2010-02-12 2011-08-25 Mitsubishi Heavy Ind Ltd ディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置および方法
KR101317413B1 (ko) * 2011-11-22 2013-10-10 서울대학교산학협력단 녹스 제어 시스템 및 방법

Also Published As

Publication number Publication date
JP2014238039A (ja) 2014-12-18

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP6070346B2 (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置
JP5716869B2 (ja) 内燃機関の燃焼状態診断装置
JP5853891B2 (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置
CN102797569B (zh) 发动机瞬态操作期间对利用生物柴油的稀NOx捕集器再生的自适应控制
JP5962584B2 (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置
JP2013224613A (ja) 内燃機関のNOx生成量推定装置およびNOxセンサ故障診断装置
JP6015563B2 (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置及び燃焼状態診断装置
JP5949675B2 (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置及び燃焼状態診断装置
EP2757238B1 (en) Control device for an internal combustion engine
JP5962585B2 (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置
JP6036562B2 (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置
JP2012092748A (ja) 内燃機関のNOx発生量推定装置及び制御装置
JP5720479B2 (ja) 内燃機関の制御装置
JP5983560B2 (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置
JP5962592B2 (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置
JP2014202182A (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置
JP5983559B2 (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置
JP2014202181A (ja) 内燃機関の筒内温度推定装置および熱発生率波形作成装置ならびに燃焼状態診断装置
JP2014214647A (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置
JP5949676B2 (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置
JP5892144B2 (ja) 内燃機関の制御装置
JP2013224616A (ja) 内燃機関のトルク推定装置および運転制御装置
JP5949669B2 (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置
JP5817342B2 (ja) 内燃機関の制御目標値設定方法及び内燃機関の制御装置
JP2014190251A (ja) 内燃機関の熱発生率波形作成装置および燃焼状態診断装置

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20150702

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20160526

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20160531

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20160613

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 5962592

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees