本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1乃至図4を用いて説明する。なお、このX線回折測定システムが、先行技術文献の特許文献2に示されているX線回折測定システムと異なっている点は、X線回折測定装置の筐体50を出射X線の光軸方向に移動させるZ軸方向移動機構5を備えている点、対象物セット装置60の構造の点、及びコンピュータ装置90のコントローラ91が実行するプログラムであり、それ以外の構成は同一であるので、特許文献2に示されているX線回折測定システムで既に説明されている箇所は、簡略的に説明するにとどめる。
このX線回折測定システムは、対象物セット装置60に微小な孔が形成された遮蔽物が密着された測定対象物OBをセットしてX線回折測定を行い、微小な孔部分に対応する測定対象物OBの残留応力を測定するものである。対象物セット装置60とZ軸方向移動機構5は、X線回折測定装置に対する測定対象物OBの位置と姿勢を調整できるようになっており、これにより、測定対象物OBに対するX線の照射方向とX線照射点から回折環が形成されるイメージングプレート15までの距離を調整したうえで、測定対象物OBへX線を照射することができる。なお、本実施形態では、測定対象物OBは鉄製の部材である。
X線回折測定装置は、筐体50内に、X線出射器10、イメージングプレート15を取り付けるテーブル16、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20及び回折環を検出するレーザ検出装置30を備えている。そして、X線回折測定システムは、このX線回折測定装置とともに、コンピュータ装置90、高電圧電源95、対象物セット装置60、及びZ軸方向移動機構5を備える。筐体50内には、上述した装置および機構に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1において筐体50外に示された2点鎖線で示された各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。
筐体50は、略直方体状に形成されるとともに、底面壁50a、前面壁50b、後面壁50e、上面壁50f、側面壁(図示せず)、及び底面壁50aと前面壁50bの角部を紙面の表側から裏側に向けて切り欠くように設けた切欠き部壁50cと繋ぎ壁50dを有するように形成されている。切欠き部壁50cは底面壁50aに垂直な平板と平行な平板とからなり、繋ぎ壁50dは側面壁と垂直であり底面壁50aと所定の角度を有している。この所定の角度は、例えば30〜45度である。この筐体50の図示裏側の側面壁の一部は、後述するZ軸方向移動機構5の移動体(図示せず)に接続されており、筐体50はZ軸方向移動機構5により図面の縦方向であるZ軸方向に移動する。
これにより、測定対象物OBに対する筐体50(X線回折測定装置)のZ軸方向位置を調整することができる。なお、Z軸方向は、後述する対象物セット装置60に定まるX軸、Y軸に垂直な軸として定義される方向であり、前面壁50b、後面壁50e、及び側面壁と略平行であり、底面壁50a及び上面壁50fと略垂直である。また、後述するX線出射器10から出射されるX線の光軸は、Z軸方向と略平行である。
対象物セット装置60は、いわゆるゴニオメータで構成されており、測定対象物OBが載置される傾斜体65を、図示X,Y軸方向にそれぞれ移動させるとともに、図示X軸及びY軸周りに回動(傾斜)させるものである。対象物セット装置60は、設置面上に第1乃至第4プレート61〜64及び傾斜体65がそれぞれ下から上に順に載置されている。第1プレート61には操作子61aが組み付けられており、操作子61aの回動操作により、図示しない機構を介して第2プレート62が第1プレート61に対してX軸周りに回動されて、第2プレート62の第1プレート61に対するX軸周りの傾斜角すなわち傾斜体65のX軸周りの傾斜角が変更される。第2プレート62には操作子62aが組み付けられており、操作子62aの回動操作により、図示しない機構を介して第3プレート63が第2プレート62に対してY軸周りに回動されて、第3プレート63の第2プレート62に対するY軸周りの傾斜角すなわち傾斜体65のY軸周りの傾斜角が変更される。第3プレート63には操作子63aが組み付けられており、操作子63aの回動操作により、図示しない機構を介して第4プレート64が第3プレート63に対してX軸方向に移動されて、第4プレート64の第3プレート67に対するX軸方向の位置すなわち傾斜体65のX軸方向の位置が変更される。第4プレート64には操作子64aが組み付けられており、操作子64aの回動操作により、図示しない機構を介して傾斜体65が第4プレート64に対してY軸方向に移動されて、傾斜体65の第4プレート64に対するY軸方向の位置すなわち傾斜体65のY軸方向の位置が変更される。
傾斜体65の傾斜面には測定対象物OBが載置される。よって、傾斜体65のX軸周り、Y軸周りの傾斜角の調整と、X軸方向、Y軸方向の位置の調整は、測定対象物OBの傾斜角と位置の調整である。傾斜体65の傾斜面は第1プレート61及び第2プレート62の傾きを「0」にし、Y軸方向をX線回折測定装置の筐体50の側面壁と平行にしたとき、筐体50の側面壁に対して垂直であり、底面壁50aと所定の角度を成している。この所定の角度は例えば30°である。よって、第1プレート61及び第2プレート62の傾きが「0」であり、Y軸方向が筐体50の側面壁と平行であるとき、後述するX線出射器10から出射されるX線は、傾斜体65の傾斜面に所定の角度で入射するとともに、傾斜面のX線照射点における法線と出射X線の光軸とを含む平面は筐体50の側面壁およびYZ平面に平行である。
Z軸方向移動機構5は、支持体51、枠体52、スクリューロッド53、フィードモータ54、及び移動体(図示せず)から構成される。枠体52は直方体状であり、土台となる支持体51に取り付けられ、Z軸方向に沿って凹部が形成されている。枠体52の凹部にはX線回折測定装置の筐体50の側面壁の一部と連結された移動体(図示せず)がZ軸方向のみに摺動可能に収容されている。この移動体は中心部分にZ軸方向に雌ねじが形成されており、この雌ねじはスクリューロッド53の雄ねじと螺合していて、スクリューロッド53が回転することによりZ軸方向に移動する。スクリューロッド53の端部は、枠体52の上端に取り付けられたフィードモータ54の出力軸に連結されており、もう1つの端部は枠体52の下端に設けられた軸受部55に回転可能に支持されている。これにより、フィードモータ54を回転させると、フィードモータ54の回転運動が移動体の直線運動に変換され、X線回折測定装置の筐体50はZ軸方向に移動する。なお、上述したように、Z軸方向は後述するX線出射器10から出射されるX線の光軸方向である。
フィードモータ54内には、エンコーダ54aが組み込まれている。エンコーダ54aは、フィードモータ54が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を距離検出回路89及びZ軸方向モータ制御回路88へ出力する。
距離検出回路89は、エンコーダ22aから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、カウント値を移動距離に換算した信号にしてコントローラ91に出力する。距離検出回路89は、コントローラ91から原点定義の指令が入力すると、カウント値を「0」に設定し、以後、移動体(筐体50)の移動方向に応じて、カウント値をカウントアップまたはカウントダウンして、移動距離に換算する。すなわち、距離検出回路89は、任意の位置を原点にして移動体(筐体50)の移動位置を検出する。コントローラ91は距離検出回路89から入力した移動距離を、制御プログラムに用いると共に表示装置93に表示する。なお、移動方向は、パルス列信号には互いにπ/2だけ位相のずれたA相信号とB相信号があるため、これにより判定する。
Z軸方向モータ制御回路88は、コントローラ91から移動方向と移動開始の指令が入力すると、エンコーダ54aから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数が設定値になり、移動方向が指令された方向になるよう、フィードモータ54に駆動信号を出力する。また、コントローラ91から移動停止の指令が入力すると、駆動信号の出力を停止する。これにより移動体(筐体50)は、コントローラ91から指令された方向に設定された速度で移動すると共に、コントローラ91が距離検出回路89から入力する移動距離により停止と判定したタイミング、または作業者が入力装置92から停止を入力したタイミングで停止する。
X線出射器10は、筐体50内の上部にて図示左右方向に延設されて筐体50に固定されており、高電圧電源95からの高電圧の供給を受け、X線をZ軸方向の負方向に出射する。X線制御回路71は、コントローラ91から指令が入力すると、X線出射器10から一定強度のX線が出射されるように、X線出射器10に高電圧電源95から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。
テーブル駆動機構20は、筐体50に固定され、X線出射器10の下方にて移動ステージ21を備えている。移動ステージ21は、テーブル駆動機構20における対向する1対の板状のガイド25,25により挟まれていて、テーブル駆動機構20に固定されたフィードモータ22、スクリューロッド23及び軸受部24により、出射X線の光軸が含まれる筐体50の側面壁に平行な平面内であって、出射X線の光軸に垂直な方向に移動する。フィードモータ22内には、エンコーダ22aが組み込まれており、エンコーダ22aはフィードモータ22が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。
位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73は、コントローラ91からの指令により作動する。測定開始直後において、フィードモータ制御回路73は、移動ステージ21をフィードモータ22側へ移動させるようフィードモータ22に駆動信号を出力し、位置検出回路72は、ステージ21が移動限界位置に達して、エンコーダ22aからパルス列信号が入力されなくなると、駆動信号停止を意味する信号をフィードモータ制御回路73に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路73は、これにより駆動信号の出力を停止する。この移動限界位置が移動ステージ21の原点位置となり、位置検出回路72は、以後、移動ステージ21が移動するごとにエンコーダ22aからのパルス列信号をカウントし、移動方向によりカウント値を加算または減算して移動限界位置からの移動距離xを位置信号として出力する。フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ21の移動先位置を入力すると、位置検出回路72から入力する位置信号が入力した移動先位置に等しくなるまで、フィードモータ22を正転又は逆転駆動する。 また、フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ21の移動速度を入力すると、エンコーダ22aから入力したパルス列信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ21の移動速度を計算し、計算した移動速度が入力した移動速度になるようにフィードモータ22を駆動する。
一対のガイド25,25の上端は、板状の上壁26によって連結されており、上壁26には貫通孔26aが設けられていて、貫通孔26aの中心位置はX線出射器10の出射口11の中心位置に対向しており、出射X線は、出射口11及び貫通孔26aを介してテーブル駆動機構20内に入射する。後述するイメージングプレート15が回折環撮像位置にある状態(図1乃至図3の状態)において、移動ステージ21の貫通孔26aと対向する位置には、図3に拡大して示すように、貫通孔21aが形成されている。移動ステージ21には、出射口11及び貫通孔26a,21aの中心軸線位置を回転中心とするスピンドルモータ27が組み付けられており、スピンドルモータ27の出力軸27aは円筒状で断面円形の貫通孔27a1を有する。スピンドルモータ27の出力軸27aの反対側には、貫通孔27bが設けられ、貫通孔27bの内周面上には、貫通孔27bの一部の内径を小さくするための円筒状の通路部材28が固定されている。
また、スピンドルモータ27内にはエンコーダ27cが組み込まれ、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75へ出力する。さらに、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラ91及び回転角度検出回路75に出力する。
スピンドルモータ制御回路74は、コントローラ91から回転速度を入力すると、エンコーダ27cから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数から計算される回転速度が、入力した回転速度になるように、駆動信号をスピンドルモータ27に出力する。回転角度検出回路75は、エンコーダ27cから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値から回転角度θpを計算してコントローラ91に出力する。また、回転角度検出回路75は、エンコーダ27cからインデックス信号を入力すると、カウント値をリセットして「0」にする。これが回転角度0°の位置である。なお、イメージングプレート15の回転角度0°の位置とは、後述するレーザ検出装置30からのレーザ照射によりイメージングプレート15に形成された回折環を読み取る際、インデックス信号を入力した時点でレーザ光が照射されている位置である。この位置はイメージングプレート15の各半径位置においてあるためラインである。
テーブル16は、円形状であり、スピンドルモータ27の出力軸27aの先端部に固定されている。テーブル16は、下面中央部から下方へ突出した突出部17を有し、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。テーブル16の下面にはイメージングプレート15が取付けられる。イメージングプレート15の中心部には貫通孔15aが設けられていて、この貫通孔15aに突出部17を通し、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15が、固定具18とテーブル16の間に挟まれて固定される。固定具18は、円筒状の部材で、内周面に、突出部17のねじ山に対応するねじ山が形成されている。
テーブル16、突出部17及び固定具18にも貫通孔16a,17a,18aがそれぞれ設けられており、貫通孔18aの内径は通路部材28の内径と同じである。すなわち、出射X線は、貫通孔26a,21a,通路部材28,貫通孔27b,27a1,16a,17a,18aを介して出射され、通路部材28の内径及び貫通孔18aの内径は小さいので、貫通孔18aから出射されるX線は貫通孔27a1の軸線に平行な平行光となり、筐体50の円形孔50c1から出射される。
イメージングプレート15は、移動ステージ21、スピンドルモータ27及びテーブル16と共に、回折環撮像位置へ移動し、また、後述する撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域、及び回折環を消去する回折環消去領域へ移動する。この移動において、イメージングプレート15の中心軸は、出射X線の光軸とイメージングプレート15における回転角度0°の位置(ライン)とが成す平面内に保たれた状態で、出射X線の光軸に垂直な方向に移動する。
レーザ検出装置30は、回折環を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射し、イメージングプレート15が発光した光の強度を検出する。レーザ検出装置30は、回折環撮像位置にあるイメージングプレート15からフィードモータ22側に充分離れており、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置30によって遮られないようになっている。レーザ検出装置30は、レーザ光源31、コリメートレンズ32、反射鏡33、ダイクロイックミラー34、及び対物レンズ36等を備えた光ヘッドであり、光ディスクの記録再生に用いられるものと同様な構成である。 レーザ駆動回路77は、コントローラ91から指令が入力すると、フォトディテクタ42から入力する信号の強度が所定の強度になるようレーザ光源31に駆動信号を出力し。レーザ光源31からは一定強度のレーザ光が出射される。フォトディテクタ42は後述するダイクロイックミラー34で微量が反射し、集光レンズ41を介して受光したレーザ光の強度に相当する強度の信号を出力するが、ダイクロイックミラー34での反射の割合は一定であるので、出射したレーザ光の強度に相当する強度の信号を出力すると見なせる。コリメートレンズ32はレーザ光を平行光にし、反射鏡33はレーザ光を、ダイクロイックミラー34に向けて反射し、ダイクロイックミラー34は、入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。対物レンズ36は、レーザ光をイメージングプレート15の表面に集光させる。対物レンズ36には、フォーカスアクチュエータ37が組み付けられており。後述するフォーカスサーボにより、レーザ光の焦点は常にイメージングプレート15の表面に合致する。
集光されたレーザ光が、イメージングプレート15の回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じ、回折環撮像時における回折X線の強度に応じた光が発生する。この輝尽発光により発生した光はレーザ光の波長よりも波長が短く、レーザ光の反射光と共に対物レンズ36を通過するが、ダイクロイックミラー34にて大部分が反射し、レーザ光の反射光は大部分が透過する。ダイクロイックミラー34で反射した光は、集光レンズ38、シリンドリカルレンズ39を介してフォトディテクタ40に入射する。フォトディテクタ40は、4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子からなり、4つの受光信号(a,b,c,d)を増幅回路78に出力する。なお、シリンドリカルレンズ39は非点収差を生じさせるためにある。
増幅回路78は、入力した4つの受光信号(a,b,c,d)を増幅してフォーカスエラー信号生成回路79及びSUM信号生成回路80へ出力する。フォーカスエラー信号生成回路79は、非点収差法におけるフォーカスエラー信号を生成してフォーカスサーボ回路81へ出力する。フォーカスサーボ回路81は、コントローラ91により指令が入力すると作動開始し、入力したフォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路82に出力する。ドライブ回路82は、入力したフォーカスサーボ信号に応じてフォーカスアクチュエータ37を駆動して、対物レンズ36をレーザ光の光軸方向に変位させ、これにより、レーザ光の焦点は常にイメージングプレート15の表面に合致する。
SUM信号生成回路80は、入力した4つの受光信号を合算してSUM信号を生成し、A/D変換回路83に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート15にて反射し、ダイクロイックミラー34で反射した微量のレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート15にて反射するレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、撮像された回折環における回折X線の強度に相当する。A/D変換回路83は、コントローラ91から指令が入力すると、入力するSUM信号の瞬時値をデジタルデータに変換してコントローラ91に出力する。
また、対物レンズ36に隣接して、LED光源43が設けられている。LED光源43は、LED駆動回路84によって制御されて、可視光を発して、イメージングプレート15に撮像された回折環を消去する。LED駆動回路84は、コントローラ91から指令を入力すると、LED光源43に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
また、X線回折測定装置は、LED光源44を有する。LED光源44は、図2乃至図4に示すように、X線出射器10とテーブル駆動機構20の上壁26との間に配置されたプレート45の一端部下面に固定されている。プレート45は、その他端部上面にて、筐体50内に固定されたモータ46の出力軸46aに固着されており、モータ46の回転により、上壁26に平行な面内を回転する。上壁26にはストッパ部材47a,47bが設けられており、ストッパ部材47aは、プレート45を図6のD1方向に回転させたとき、LED光源44がX線出射器10の出射口11及びテーブル駆動機構20の上壁26の貫通孔26aに対向する位置(A位置)で静止するように、プレート45の回転を規制する。一方、ストッパ部材47bは、プレート45を図4のD2方向に回転させたとき、プレート45がX線出射器10の出射口11とテーブル駆動機構20の上壁26の貫通孔26aとの間を遮断しない位置(B位置)で静止するように、プレート45の回転を規制する。言い換えれば、A位置は、プレート45が図2及び図3に示す状態にある位置であり、LED光源44から出射されるLED光がスピンドルモータ27の貫通孔27a1に設けた通路部材28の通路に入射する位置である。B位置は、X線出射器10から出射されるX線がプレート45によって遮られない位置である。LED光源44は、コントローラ91によって作動制御されるLED駆動回路85からの駆動信号によりLED光を出射する。LED光は拡散する可視光であるが、プレート45がA位置にあるとき、その一部は、出射X線と同様の経路で貫通孔18aから出射するので、出射X線と同様、貫通孔27a1の軸線に平行な平行光になる。
モータ46はエンコーダ46bを備えており、エンコーダ46bはモータ46が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を回転制御回路86に出力する。回転制御回路86は、コントローラ91から回転方向と回転開始の指令が入力されると、モータ46に駆動信号を出力し、モータ46を指示方向に回転させる。そして、エンコーダ46bからパルス列信号の入力が停止すると、駆動信号の出力を停止する。これにより、プレート45を、上述したA位置及びB位置までそれぞれ回転させることができる。
筐体50の切欠き部壁50cには結像レンズ48が設けられ、筐体50内部には撮像器49が設けられている。撮像器49は、CCD受光器又はCMOS受光器で構成され、各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路87に出力する。結像レンズ48及び撮像器49は、イメージングプレート15に対して設定された位置にある測定対象物OBにおけるLED光の照射点を中心とした領域の画像を撮像するデジタルカメラとして機能する。イメージングプレート15に対して設定された位置とは、測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点からイメージングプレート15までの垂直距離Lが、予め決められた所定距離となる位置である。この場合の結像レンズ48及び撮像器49による被写界深度は、前記照射点を中心とした前後の範囲で設定されている。センサ信号取出回路87は、撮像器49の各撮像素子ごとの信号強度データを、各撮像素子の位置(すなわち画素位置)が分かるデータと共にコントローラ91に出力する。
また、結像レンズ48の光軸は、X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面に含まれるとともに、この光軸と測定対象物OBに照射されるX線及びLED光の光軸が交わる点は、イメージングプレート15に対して設定された位置にある測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点であるように調整されている。さらに、X線及びLED光の測定対象物OBに対する入射角度が設定値であるとき、結像レンズ48の光軸と測定対象物OBのX線及びLED光の照射点における法線方向とが成す角度は前記入射角度に等しい角度であるようにされている。したがって、測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点がイメージングプレート15に対して設定された位置にあり、LED光が測定対象物OBに設定された入射角度で照射された場合には、撮影画像におけるLED光の照射点と測定対象物OBで反射したLED光の受光点は同じ位置に生じる。測定対象物OBに照射されるLED光は平行光であるので、照射点において、LED光は散乱光と、略平行光のまま反射する反射光を発生させるが、散乱光のうち結像レンズ48に入射した光は撮像器49の位置で結像して照射点の画像となり、結像レンズ48に入射した反射光は結像レンズ48により集光されて撮像器49で受光され、受光点の画像となる。そして、LED光の照射点がイメージングプレート15に対して設定された位置にあり、LED光が測定対象物OBに設定された入射角度で照射されたとき、結像レンズ48に入射する散乱光の光軸と反射光の光軸は、いずれも結像レンズ48の光軸と一致するため、照射点の画像と受光点の画像は同じ位置になる。
コンピュータ装置90は、コントローラ91、入力装置92及び表示装置93からなる。コントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された各種プログラムを実行してX線回折測定装置の作動を制御する。入力装置92は、コントローラ91に接続されて、作業者により、各種パラメータ、作業指示などの入力のために利用される。表示装置93は、表示画面上に撮像器49によって撮像された照射点及び受光点を含む画像に加えて、測定対象物OBの測定箇所に対するX線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を適正に設定するためのマークも表示される。さらに、表示装置93は、作業者に対して各種の設定状況、作動状況、測定結果なども視覚的に知らせる。高電圧電源95は、X線出射器10にX線出射のための高電圧及び電流を供給する。
次に、上記のように構成したX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBの微小部分の残留応力を測定する具体的方法について説明する。まず、作業者は測定対象物OBにおいて残留応力を測定したい微小部分と遮蔽物Sの孔が一致するよう、遮蔽物Sを測定対象物OBに密着させる。遮蔽物Sは、例えば塩化ビニールのシールに微小な孔を形成したものであると密着と除去が容易である。次に作業者は、測定対象物OBを対象物セット装置60の傾斜体65の傾斜面に載置する。このとき、残留垂直応力の測定方向がYZ平面と傾斜体65の傾斜面が交差するライン方向になるよう測定対象物OBの向きを定める。
次に作業者は、電源を投入することによりX線回折測定システムを作動させ、図5に示すように位置姿勢調整工程S1、回折環撮像工程S2、回折環読取り工程S3,回折環消去工程S4、Z軸方向移動工程S6を行い、再度、回折環撮像工程S2、回折環読取り工程S3,回折環消去工程S4を行って、残留応力計算工程S7を行うことで、測定対象物OBの残留応力を測定する。以下、それぞれの工程について詳細に説明する。なお、先行技術文献の特許文献2に示されているX線回折測定システムによるX線回折測定で、既に詳細に説明されている工程は、簡略的に説明するにとどめる。
まず、位置姿勢調整工程S1について説明する。作業者は、対象物セット装置60の4つの操作子61a,62a,63a,64aを操作し、入力装置92からの移動指令入力により、筐体50をZ軸方向に移動することで、X線回折測定装置(筐体50)に対する測定対象物OBの位置と姿勢を調整する。これにより、おおよそで測定対象物OBにおけるX線の照射点を遮蔽物Sの孔部分にし、X線の入射角度を設定角度にし、X線の照射点からイメージングプレート15までの距離を設定距離になるようにする。次に作業者は、入力装置92から位置姿勢の調整を行うことを入力する。この入力により、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、イメージングプレート15を回折環撮像位置(図1乃至図3の状態)に移動させ、モータ46を駆動させてプレート45をA位置まで回転させ、LED光源44を点灯させる。これにより平行光であるLED光が筐体50の円形孔50c1から外部へ出射され、測定対象物OBの遮蔽物Sの孔付近に照射される。さらに、コントローラ91は、撮像器49による撮像信号をセンサ信号取出回路87からコントローラ91に出力させ、この撮像信号から作成したLED光の照射位置近傍の画像を表示装置93に表示させる。このとき、表示される画像には、撮像信号によって表示される画像とは独立して、結像レンズ48の光軸が撮像器49と交差する位置に相当する撮影画像上の位置に、十字マークが表示される。
この場合、十字マークのクロス点は表示装置93の画面の中心に位置し、十字マークのX軸方向は画面の横方向に対応し、十字マークのY軸方向は画面の縦方向に対応する。そして、十字マークのクロス点は、LED光の照射点からイメージングプレート15までの距離Lが設定値であるときに、照射点が撮像される位置であると同時に、距離Lが設定値であり、LED光が測定対象物OBに設定された入射角度で入射されるとき、受光点が撮像される位置である。また、十字マークのY軸方向がLED光及びX線の照射方向であり、この方向を測定対象物OBに投影させた方向が残留垂直応力の測定方向である。
作業者は、表示装置93に表示される画像を見ながら、対象物セット装置60の4つの操作子61a,62a,63a,64aを操作し、入力装置92からの移動指令入力により筐体50をZ軸方向に移動して、X線回折測定装置(筐体50)に対する測定対象物OBの位置と姿勢を調整し、画面上における照射点が測定対象物OBにおける遮蔽物Sの孔部分になるとともに、十字マークのクロス点と合致し、受光点が十字マークのクロス点と合致するようにする。これにより出射X線は遮蔽物Sの孔部分に照射され、X線の照射点からイメージングプレート15までの距離Lは設定値になり、測定対象物OBに対するX線の入射角度は設定値になる。
次に作業者は、入力装置92から位置姿勢の調整終了を入力する。これにより、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、LED光源44を消灯させ、撮像信号の出力を停止させ、モータ46を駆動させてプレート45をB位置まで回転させる。これにより、X線出射器10からのX線がテーブル駆動機構20の上壁26の貫通孔26aに入射され得る状態となる。
次の回折環撮像工程S2において、作業者は入力装置92から測定対象物OBの材質(本実施形態では、鉄)を入力し、測定開始を入力する。これにより、コントローラ91は、スピンドルモータ制御回路74を制御して、イメージングプレート15を低速回転させ、エンコーダ27cからインデックス信号を入力した時点で、イメージングプレート15の回転を停止させる。これにより、回折環の読取り時において回転角度0°となる状態で、イメージングプレート15に回折環が撮像されるようになる。次に、コントローラ91は、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を開始させる。これにより、測定対象物OBにおける遮蔽物Sの孔部分で発生した回折X線により、イメージングプレート15に回折環が撮像されていく。そして、所定時間の経過後に、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を停止させる。
次にコントローラ91は、自動または作業者の入力により回折環読取り工程S3を実行する。コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させる。読取り開始位置とは、レーザ光の照射位置が回折環基準半径Roの円に対して若干だけ内側になるような位置である。回折環基準半径Roとは、測定対象物OBの残留応力が「0」であるときに、イメージングプレート15上に形成される回折環の半径であり、測定対象物OBにおけるX線の回折角度2Θx(Θxはブラッグ角)及びX線照射点からイメージングプレート15までの距離LからRo=L・tan(2Θx)の計算式で計算される。そして、X線の回折角度2Θxは測定対象物OBの材質で決まり、距離Lは設定値に調整されているので、測定対象物OBの材質ごとに予め回折角2Θxを記憶しておけば、測定対象物OBの材質を入力することで回折環基準半径Roは計算できる。
次に、コントローラ91は、スピンドルモータ制御回路74を制御して、スピンドルモータ27を所定の回転速度で回転させ、レーザ駆動回路77を制御してレーザ検出装置30からレーザ光をイメージングプレート15に照射させ、フォーカスサーボ回路81を制御してフォーカスサーボを開始させる。さらに、回転角度検出回路75を制御して、スピンドルモータ27(イメージングプレート15)の回転角度θpの出力を開始させ、A/D変換回路83を制御して、SUM信号の瞬時値Iのデータ出力を開始させ、フィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ22を回転させ、イメージングプレート15を読取り開始位置から図1及び図2の右下方向へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置は、相対的にイメージングプレート15上を螺旋状に回転し始める。その後、コントローラ91は、イメージングプレート15が所定の小さな角度だけ回転するごとに、A/D変換回路83が出力するSUM信号の瞬時値Iのデータと、回転角度検出回路75が出力する回転角度θpのデータと位置検出回路72が出力する移動距離xのデータとを入力し、それぞれのデータを対応させて記憶する。なお、移動距離xはレーザ光照射位置の径方向距離r(半径値r)に変換したうえで記憶する。これにより、螺旋状に回転するレーザ光の照射位置に関して、SUM信号の瞬時値I、回転角度θp及び半径値rを表すデータが所定回転角度ごとに順次記憶されていく。
SUM信号の瞬時値I、回転角度θp及び半径値rを表すデータの所定回転角度ごとの記憶動作と並行して、コントローラ91は、回転角度θpごとに半径値rに対するSUM信号の瞬時値Iの曲線を作成し、曲線のピークに対応した半径値rαとSUM信号強度値Iαを記憶する。これは回折環の回転角度αごとに半径方向における回折X線の強度分布を求め、回折X線の強度がピークとなる箇所の半径値rαと回折X線の強度に相当する強度Iαを求める処理である。そして、すべての回転角度θp(回転角度α)において半径値rαと強度Iαを取得し、検出するSUM信号の瞬時値Iが強度Iαに対して充分小さくなった時点で、データの記憶を終了する。これにより、回折環における回折X線の強度に相当する強度の分布が瞬時値I、回転角度θp及び半径値rのデータ群で、および回折環の形状が回転角度αごとの半径値rαで検出されたことになる。その後、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、フォーカスサーボを停止させ、レーザ光の照射を停止させ、A/D変換回路83と回転角度検出回路75の作動を停止させ、フィードモータ22の作動を停止させる。なおイメージングプレート15の回転は、継続されている。
次にコントローラ91は、自動または作業者の入力により回折環消去工程S4を実行する。コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート15を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート15の消去開始位置とは、LED光源43から出力されるLED光の中心が回折環基準半径Roの円に対して前記読取り開始位置の場合よりもさらに内側になる位置である。次に、コントローラ91は、LED駆動回路84を制御してLED光源43によるLED光をイメージングプレート15に対して照射させ、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15が前記消去開始位置から消去終了位置まで図1及び図2の右下方向に一定速度で移動するよう、フィードモータ22を回転させる。消去終了位置とは、LED光の中心が回折環基準半径Roよりも前記消去開始位置と同じ程度の距離だけ外側となる位置である。これにより、LED光がイメージングプレート15上に螺旋状に照射され、撮像された回折環が消去される。
イメージングプレート15が消去終了位置になると、コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート15の移動を停止させ、LED駆動回路84を制御してLED光の照射を停止させ、位置検出回路72の作動を停止させ、スピンドルモータ制御回路74を制御してスピンドルモータ27(イメージングプレート15)の回転を停止させる。
次にコントローラ91又は作業者は、X線回折測定が1回目であるかの判定S5を行い、1回目であればZ軸方向移動工程S6を行う。コントローラ91が自動で行う場合は、コントローラ91は距離検出回路89に原点定義の指令を出力し、Z軸方向モータ制御回路88に設定された方向へ移動する指令を出力する。本実施形態では正方向(図1および図2の上方向)に移動する指令を出力するとする。これにより、X線回折測定装置の筐体50はZ軸方向(出射X線の光軸方向)に移動を開始し、コントローラ91には距離検出回路89から移動距離のデジタルデータが入力する。そして、コントローラ91は入力する移動距離が予め設定された距離と等しくなったタイミングで、Z軸方向モータ制御回路88に駆動停止指令を出力する。これにより、X線回折測定装置の筐体50は設定されたZ軸方向に設定された距離だけ移動する。また、作業者が入力装置92からの入力により行う場合は、入力装置92から原点定義の指令を入力し、移動方向と移動指令を入力する。これにより、X線回折測定装置の筐体50はZ軸方向に移動し、距離検出回路89から入力する移動距離が表示装置93に表示されるので、設定された距離になったときに入力装置92から停止指令を入力する。移動距離は実際に移動した距離を後述する正規回折環の形状計算に使用すればよいので、ほぼ設定された距離であればよい。以後、移動した距離を距離Ltとする。
次にコントローラ91は、自動または作業者の入力により再度、回折環撮像工程S2を実行する。この工程は上述した1回目の回折環撮像工程S2と同一である。次にコントローラ91は、自動または作業者の入力により再度、回折環読取り工程S3を実行する。この工程も上述した1回目の回折環読取り工程S3と同一である。なお、X線照射点からイメージングプレート15までの距離は(距離L+距離Lt)であり、回折環基準半径Roは、(距離L+距離Lt)から計算される。これにより、回転角度αごとの半径値rαデータとして2つの回折環の形状データがコントローラ91のメモリに記憶される。以後、2つのデータを区別するため、1回目に得られる回転環の半径値をrα1、2回目に得られる回転環の半径値をrα2とする。次にコントローラ91は、自動または作業者の入力により再度、回折環消去工程S4を実行する。この工程も上述した1回目の回折環消去工程S4と同一である。
次にコントローラ91又は作業者は、X線回折測定が1回目であるかの判定S5を行い、2回目であれば残留応力計算工程S7を行う。なお、残留応力計算工程S7は、2回目の回折環消去工程S4と並行して行ってもよい。残留応力計算工程S7は、2つの回折環の形状データである回転角度αごとの半径値rα1と半径値rα2を用いて、コントローラ91が行うプログラムによる演算処理である。この演算処理は、半径値rα1,rα2データから出射X線の光軸が遮蔽物Sの孔に一致したときの回折環である正規回折環の形状を求め、次に、正規回折環の形状から測定対象物OBの微小部分の残留応力を求めるものである。
まず、正規回折環の形状を求める演算について説明する。図6は、出射X線の光軸と遮蔽物Sの孔部分がずれている状態で、回折X線発生点Pから2つの距離L1,L2でイメージングプレート15に回折環を撮像したときの様子を示したものである。イメージングプレート15が、それぞれの距離L1,L2で撮像した回折環の同じ円周位置(同じ回転角度αの位置)を結んだ線の方向と、出射X線の光軸方向とがなす角度θhは、正規回折環において回折X線の方向と出射X線の光軸方向が成す角度θdと等しい角度である。そして、角度θhは、2つの回折環の半径値rα1,rα2、及び2つの距離L1,L2を用いるとtan−1{(rα2−rα1)/(L2−L1)}で計算されるので、この式から正規回折環の角度θdを計算することができる。なお、図6は、回折X線発生点Pと出射X線の光軸とが同一平面内にある場合であり、2つの回転角度α以外は回折X線発生点Pと出射X線の光軸とは同一平面内にはないが、回折環の半径に比べて回折X線発生点Pの出射X線の光軸からのずれは僅かであるので、上述した(rα2−rα1)と回折環の中心(回折X線発生点Pを含み出射X線の光軸に平行な直線がイメージングプレート15と交差する点)から回転角度αにおける(rα2−rα1)とのずれは無視できるほど小さい。よって、どの回転角度αにおいても、tan−1{(rα2−rα1)/(L2−L1)}から正規回折環の角度θdを計算することができる。そして、X線照射点からイメージングプレート15までの距離Lのときの正規回折環の形状は、回転角度αごとの半径値L・tanθdであり、距離Lは任意の値にすることができるので、回転角度αごとの角度θdを求めれば、正規回折環の形状を求めたことになる。すなわち、回転角度αごとのtan−1{(rα2−rα1)/(L2−L1)}を計算すれば、正規回折環の形状を求めたことになる。本実施形態では(L2−L1)は距離Ltであるので回転角度αごとのtan−1{(rα2−rα1)/Lt}を計算すればよい。
次に残留応力を求める演算であるが、正規回折環の回折X線の方向と出射X線の光軸方向がなす角度θdは、回折角度を2θxとすると、(180°−2θx)であり、回転角度αごとの角度θdが得られたということは、回転角度αごとの回折角度2θxが得られたということであるので、後はcosα法を用いた演算を行うのみである。この演算は公知技術であり、例えば特開2005−241308号公報の〔0026〕〜〔0044〕に詳細に説明されているので、説明は省略する。
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においては、測定対象物OBの測定箇所に孔の開いた遮蔽物Sを密着させ、測定対象物OBの遮蔽物Sの孔部分における残留応力を測定するために用いるX線回折測定装置を、測定対象物OBに密着させた遮蔽物Sの孔に向けてX線を出射するX線出射器10と、X線出射器10から遮蔽物Sの孔に向けてX線が照射された際、遮蔽物Sの孔部分にて発生した回折X線を、X線出射器10から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する面にて受光し、面に回折X線の像である回折環を形成するイメージングプレート15と、イメージングプレート15に形成された回折環の形状を検出するレーザ検出装置30、テーブル駆動機構20及び各種回路とを備えたX線回折測定装置であって、イメージングプレート15を、X線出射器10から出射されるX線の光軸と略平行な方向に移動するZ軸方向移動機構5と、Z軸方向移動機構5による移動位置を検出する距離検出回路89と、Z軸方向移動機構5によりイメージングプレート15を移動させ、遮蔽物Sからの距離が異なる2つの移動位置においてそれぞれ、距離検出回路89により移動位置を検出するとともに、X線出射器10から遮蔽物Sの孔に向けてX線を出射してイメージングプレート15に回折環を形成し、レーザ検出装置30、テーブル駆動機構20及び各種回路により形成された回折環の形状を検出するコントローラ91にインストールされた制御プログラムと、制御プログラムにより得られた、2つの移動位置と2つの回折環の形状とから、遮蔽物Sの孔部分にX線出射器10から出射されたX線の光軸が一致した場合の回折環である正規回折環の形状を計算するコントローラ91にインストールされた演算プログラムとを備えたX線回折測定装置としている。
これによれば、背景技術で示された従来のX線回折測定装置に、イメージングプレート15をX線出射器10から出射されるX線の光軸方向に移動するZ軸方向移動機構5と、Z軸方向移動機構5による移動位置を検出する距離検出回路89を設け、複数の移動位置で回折環の形状を検出して計算するのみで、X線の光軸と測定対象物OBに密着させた遮蔽物Sの孔とが一致した場合の回折環を求めることができる。すなわち、X線の光軸と測定対象物OBに密着させた遮蔽物Sの孔とがずれていても、精度よく微小な点の残留応力を求めることができる。
また、上記実施形態においては、X線出射器10、イメージングプレート15、レーザ検出装置30、テーブル駆動機構20及び各種回路を内部に含む筐体50を備え、Z軸方向移動機構5は、筐体50を移動する機構であるようにしている。これによれば、Z軸方向移動機構5が複雑にならず、X線回折測定装置の筐体50をコンパクトにすることができる。
また、上記実施形態からも理解できるように、コントローラ91に制御プログラムがインストールされていなくても、作業者が入力装置92から入力を行って制御を行うことで同様の効果を得ることができる。その場合、X線回折測定装置は、測定対象物OBに向けてX線を出射するX線出射器10と、X線出射器10から測定対象物OBに向けてX線が照射された際、測定対象物OBにて発生した回折X線を、X線出射器10から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差する面にて受光し、面に回折X線の像である回折環を形成するイメージングプレート15と、イメージングプレート15に形成された回折環の形状を検出するレーザ検出装置30、テーブル駆動機構20及び各種回路と、イメージングプレート15を、X線出射器10から出射されるX線の光軸と略平行な方向に移動するZ軸方向移動機構5と、Z軸方向移動機構5による移動位置を検出する距離検出回路89とを備えたX線回折測定装置であればよい。そして、作業者は、測定対象物OBの測定箇所に孔の開いた遮蔽物Sを密着させるステップと、Z軸方向移動機構5によりイメージングプレート15を移動させ、遮蔽物Sからの距離が異なる2つの移動位置においてそれぞれ、距離検出回路89により移動位置を検出するとともに、X線出射器10から遮蔽物Sの孔に向けてX線を出射してイメージングプレート15に回折環を形成し、レーザ検出装置30、テーブル駆動機構20及び各種回路により形成された回折環の形状を検出するステップと、得られた2つの移動位置と2つの回折環の形状とから、遮蔽物Sの孔部分にX線出射器10から出射されたX線の光軸が一致した場合の回折環である正規回折環の形状を計算するステップとを行えばよい。
(変形例)
上記実施形態においては、Z軸方向移動機構5によるX線回折測定装置の筐体50の移動方向は、出射X線の光軸方向に精度よく一致しているとした。しかし、X線回折測定装置の筐体50(イメージングプレート15)の移動方向と出射X線の光軸方向にずれがあっても、このずれ分を補正して計算を行うことで、正規回折環の形状を精度よく計算することができる。この場合、Z軸方向移動機構5による移動方向と出射X線の光軸方向とのずれを検出し、コントローラ91のメモリに記憶する必要があるので、まずこのずれの検出の仕方から説明する。
Z軸方向移動機構5による移動方向と出射X線の光軸方向とがずれていると、Z軸方向移動機構5により筐体50(イメージングプレート15)を移動させたとき、遮蔽物Sの孔を通る出射X線の光軸に平行な直線が、イメージングプレート15と交差する点Piの座標は、Z軸方向移動機構5による移動位置ごとに異なった値になる。そして、2つの移動位置Lp1とLp2において該交差する点Piの座標(xp1,yp1),(xp2,yp2)をそれぞれ求めれば、出射X線の光軸方向に対するZ軸方向移動機構5による移動方向のずれを、2つの移動位置間距離および2つの点Piの座標間におけるベクトルとして求めることができる。
出射X線の光軸方向に垂直な平面に投影させた状態で見ると、図7に示すように移動位置Lp1における点Piの座標は、移動位置Lp1における座標原点O1からのベクトルrp1の成分である。また、移動位置Lp2における点Piの座標は、移動位置Lp2における座標原点O2からのベクトルrp2の成分である。座標原点O1と座標原点O2のずれは、出射X線の光軸方向に対するZ軸方向移動機構5による移動方向のずれによるものであり、座標原点O1から座標原点O2に向かうベクトルrcは、2つの移動位置間距離である(Lp2−Lp1)だけZ軸方向に移動したとき、出射X線の光軸方向に対しZ軸方向移動機構5による移動方向がどれだけずれるかをXY平面で示すものである。ベクトルrcは、ベクトルrp1からベクトルrp2を減算したベクトルであるので、ベクトルrcの成分は、(xp1−xp2,yp1−yp2)である。よって、上述したように2つの移動位置Lp1とLp2において点Piの座標(xp1,yp1),(xp2,yp2)をそれぞれ求めれば、出射X線の光軸方向に対するZ軸方向移動機構5による移動方向のずれを(Lp2−Lp1),(xp1−xp2,yp1−yp2)として求めることができる。
遮蔽物Sの孔を通る出射X線の光軸に平行な直線が、イメージングプレート15と交差する点Piの座標は、残留応力「0」の測定対象物OBに遮蔽物Sを密着させたときに撮像される回折環の中心の座標として求めることができる。そして、残留応力「0」の測定対象物OBは、鉄粉等の金属粉を測定対象物OBに糊塗することで得ることができる。よって、出射X線の光軸方向に対するZ軸方向移動機構5による移動方向のずれを求めるときは、鉄粉等の金属粉を測定対象物OBに糊塗し、遮蔽物Sを密着させて、上記実施形態と同様のX線回折測定を行う。
この場合、上記実施形態と異なる点は、残留応力計算工程S7が行う演算に変えて、出射X線の光軸方向に対するZ軸方向移動機構5による移動方向のずれを求める演算を行う点のみである。この演算は2つの回折環の形状である回転角度αごとの半径値rα1,rα2をX,Y座標値である(rα1・cosα,rα1・sinα),(rα2・cosα,rα2・sinα)にし、最小2乗法により円の中心座標(xp1,yp1),(xp2,yp2)を求める。後は上述したように、(xp1−xp2,yp1−yp2)を計算し、2つの移動位置間距離である(Lp2−Lp1)とともに記憶すればよい。なお、2つの移動位置間距離は上記実施形態と同様のX線回折測定を行う場合は距離Ltであるが、回折環を撮像することが可能ならば2つの移動位置間距離は任意でよい。
次に、上記実施形態の残留応力計算工程S7において、コントローラ91のメモリに記憶した、(Lp2−Lp1),(xp1−xp2,yp1−yp2)を用いた補正を行ったうえで、正規回折環の形状を計算する方法について説明する。これは、移動位置L2の回折環の形状である回転角度αごとの半径値rα2を、移動位置L1のときの座標原点による値に補正した上で、上記実施形態と同じ計算を行えばよい。
出射X線の光軸方向に垂直な平面に投影させた状態で見ると、図8に示すように、移動位置L1のときの座標原点O1は、移動位置L2のときは座標原点O2になる。この移動は、出射X線の光軸方向に対するZ軸方向移動機構5による移動方向のずれによるものであり、座標原点O1から座標原点O2に向かうベクトルrc’は、ベクトルrcに{Lt/(Lp2−Lp1)}を乗算したベクトルである。すなわち、ベクトルrc’の成分は〔{Lt/(Lp2−Lp1)}・(xp1−xp2),{Lt/(Lp2−Lp1)}・(yp1−yp2)〕である。そして、回転角度αごとの半径値rα2をXY座標にすると(rα2・cosα,rα2・sinα)となり、これは座標原点O2からこの座標に向かうベクトルrα2の成分と見なせる。図8を見るとわかるように、(rα2・cosα,rα2・sinα)の座標を移動位置L1のときの座標原点による座標にするには、ベクトルrα2とベクトルrc’を加算したベクトルの成分を求めればよく、この座標のX座標値,Y座標値は以下の数1の式で計算される値である。
(数1)
X=rα2・cosα+{Lt/(Lp2−Lp1)}・(xp1−xp2)
Y=rα2・sinα+{Lt/(Lp2−Lp1)}・(yp1−yp2)
このXY座標を回転角度ごとの半径値で表す座標にするには、以下の数2の式で計算すればよい。
(数2)
α’=tan−1(Y/X)
rα2’=(X2+Y2)1/2
これにより、移動位置L2の回折環の形状である回転角度αごとの半径値rα2を、移動位置L1のときの座標原点による値に補正したことになるが、回転角度αと回転角度α’は値が一致しないので、回転角度αに最近傍で大きい回転角度α’と最近傍で小さい回転角度α’と、これらの回転角度α’における半径値rα2’とから補間法により回転角度αのときの半径値rα2’を求める。後は上記実施形態と同様にして正規回折環の形状(回転角度αごとの回折X線の方向と出射X線の光軸方向が成す角度θd)を計算すればよい。
上記説明からも理解できるように、上記変形例においては、コントローラ91には、X線出射器10から出射されるX線の光軸に対するZ軸方向移動機構5によるイメージングプレート15の移動方向のずれ分が記憶されており、2つの移動位置と2つの回折環の形状とにずれ分を加味して正規回折環の形状を計算している、これによれば、より精度よく正規回折環の形状を計算することができ、より精度よく微小な点の残留応力を求めることができる。
また上記説明からも理解できるように、上記変形例においては、正規回折環の形状を計算する際に用いられるずれ分は、残留応力が「0」である基準物体を用いて、測定対象物OBのX線回折測定と同様の測定を行うことにより求めている。ずなわち、Z軸方向移動機構5によりイメージングプレート15を移動させ、孔の開いた遮蔽物Sを密着させた残留応力が「0」である基準物体からの距離が異なる複数の移動位置においてそれぞれ、距離検出回路89により移動位置を検出するとともに、X線出射器10から遮蔽物Sの孔に向けてX線を出射してイメージングプレート15に回折環を形成し、レーザ検出装置30、テーブル駆動機構20及び各種回路により形成された回折環の形状を検出するステップと、得られた複数の移動位置と複数の回折環の形状とから、移動位置と回折環の中心座標との関係を計算し、計算した関係からずれ分を計算するステップとを行うことにより求めている。これによれば、簡単な方法で出射されるX線の光軸に対するZ軸方向移動機構5による移動方向のずれ分を求めることができる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記実施形態および変形例では、Z軸方向移動機構5によりX線回折測定装置の筐体50(イメージングプレート15)を移動させ、2つの移動位置において回折環の形状を検出し、正規回折環の形状を計算している。しかし、測定時間がかかってもよければ、これに替えて、3つ以上の移動位置において回折環の形状を検出し、正規回折環の形状を計算してもよい。この場合は、回転角度αごとにtan−1{(rα2−rα1)/(L2−L1)}を計算する替わりに、回転角度αごとに回折環半径と移動位置を縦軸と横軸にとったときの回帰線の傾きSLを最小二乗法により求め、tan−1(SL)を計算すればよい。これによれば、正規回折環の形状をより精度よく検出でき、残留応力をより精度よく測定することができる。
また、上記変形例では、Z軸方向移動機構5によりX線回折測定装置の筐体50(イメージングプレート15)を移動させ、2つの移動位置において回折環の中心座標を検出し、出射X線の光軸方向に対するZ軸方向移動機構5による移動方向のずれを計算した。しかし、この場合も、3つ以上の移動位置において回折環の中心座標を検出し、該ずれを計算してもよい。この場合は、該ずれを(Lp2−Lp1),(xp1−xp2,yp1−yp2)で計算する替わりに、次のように計算する。各移動位置に自然数nを割り当て、それぞれの回折環の中心座標を(xpn,ypn),n=1,2,3・・・とすると、(xp1−xpn,yp1−ypn)をn=1以外のすべてのnにおいて計算する。次に、(xp1−xpn,yp1−ypn)のX成分、Y成分を横軸と縦軸にとったときの回帰線を計算して、nが大きくなる方向における回帰線の方向を極座標の回転角度θで求める。次に(xp1−xpn,yp1−ypn)をベクトルと見なしてベクトルの大きさを求め、該ベクトルの大きさと移動位置を縦軸と横軸にとったときの回帰線の傾きSCを最小二乗法により求める。このとき、出射X線の光軸方向に対するZ軸方向移動機構5による移動方向のずれは、(SC・cosθ,SC・sinθ)で表される。これは、Z軸方向に単位距離だけ移動したとき、出射X線の光軸方向に対しZ軸方向移動機構5による移動方向はXY平面で見て、(SC・cosθ,SC・sinθ)だけ移動することを意味し、上記実施形態で(Lp2−Lp1)を「1」としたときの、(xp1−xp2,yp1−yp2)に相当する。よって、このずれを用いた補正は、上記実施形態における{Lt/(Lp2−Lp1)}をLtに変えるのみである。
また、上記実施形態および変形例では、正規回折環の形状(回転角度αごとの回折X線の方向と出射X線の光軸方向が成す角度θd)を、回転角度αごとにtan−1{(rα2−rα1)/(L2−L1)}を計算することで求めた。しかし、正規回折環の形状を計算することができれば、計算方法はどのような方法を用いてもよい。例えば、片方の回折環の円周上のある点から他方の回折環の円周上の点において距離が最短になる点を検出し、これらの2つの点を結んだ直線を計算することを、回折環の複数の円周上の点において行い、複数の直線が交差する点の座標値を平均して、遮蔽物Sの孔部分(回折X線発生点P)のX,Y座標を求める。次に、回折環の形状データである回転角度αごとの半径値rαを、求めた回折X線発生点PのX,Y座標を座標原点にしたときの回転角度α’ごとの半径値rα’に補正することで正規回折環の形状を計算する、というようにしてもよい。
また、上記実施形態および変形例では、X線回折測定装置を、イメージングプレート15に回折環を撮像し、レーザ検出装置30からのレーザ照射と光の強度検出により、回折環の形状を検出する装置としたが、回折環を撮像して形状を検出することができるならば、どのような方式の装置でもよい。例えば、イメージングプレート15の代わりにイメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDを備え、X線出射器10からのX線照射の際、X線CCDの各画素が出力する電気信号により回折環における回折X線の強度分布を検出する装置でもよい。また、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDの代わりに、微小サイズのX線CCDを位置を検出しながら走査し、X線CCDの各画素が出力する電気信号とX線CCDの走査位置から、回折環における回折X線の強度分布を検出する装置でもよい。また、X線CCDに替えてシンチレータから出た蛍光を、光電子増倍管(PMT)で検出するシンチレーションカウンタを用いる装置でもよい。
また、上記実施形態および変形例では、X線回折測定装置の筐体50をZ軸方向移動機構により出射X線の光軸方向に移動させる構造にした。しかし、少なくともイメージングプレート15を出射X線の光軸方向に移動させることができれば、本発明は実施可能であるので、筐体50内部の構造が複雑になり筐体50が大型になってもよければ、イメージングプレート15をセットするテーブル16を含む筐体50内部のユニット及び部品を、出射X線の光軸方向に移動させる構造にしてもよい。
また、上記実施形態および変形例では、フィードモータ54によりX線回折測定装置の筐体50を移動させ、移動位置を、距離検出回路89にてフィードモータ54のエンコーダ54aが出力するパルス列信号のパルス数をカウントして、距離に変換することで検出するようにした。しかし、Z軸方向への移動と移動位置の検出を行うことができれば、どのような方法を用いてもよい。例えば、フィードモータ54の替わりに対象物セット装置60の操作子63a,64aのような操作子を設け、手で操作子を回転させてZ軸方向への移動を行うようにしてもよい。また、このときの移動位置を操作子に付けられた目盛りから読み取るようにしてもよい。
また、上記実施形態および変形例では、Z軸方向移動機構5によりX線回折測定装置の筐体50を移動させた。しかし、測定対象物OBと相対的にイメージングプレート15を出射X線の光軸方向に移動させることができれば、本発明は実施可能であるので、X線回折測定装置の筐体50を固定し、対象物セット装置60にZ軸方向移動機構を設け測定対象物OBをZ軸方向に移動させるようにしてもよい。
また、上記実施形態および変形例では、対象物セット装置60により測定対象物OBのXY方向の位置、及びX軸周り、Y軸周りの傾斜角度を調整するようにした。しかし、装置の構造が複雑になってもよければ、測定対象物OBをセットするステージは固定されたものとし、Z軸方向移動機構5にXY方向位置調整機構とX軸周り、Y軸周りの傾斜角度調整機構を設けてもよい。
また、上記実施形態および変形例では、LED光源44からLED光を照射して、結像レンズ48及び撮像器49等のカメラ機能で、LED照射点の領域を撮影し、撮影画像を見ながら測定対象物OBのXY方向位置と姿勢、及びX線回折測定装置の筐体50のZ軸方向位置を調整するようにした。しかし、測定対象物OBが同じ形状と大きさのものに限定されていれば、定まったZ軸方向位置のX線回折測定装置の筐体50に対して、位置と姿勢が適切になる測定対象物OBのセット位置を定め、LED光源44等のLED光照射機能およびカメラ機能は設けないようにしてもよい。また、この場合は測定対象物OBのXY方向位置と姿勢の調整機能をなくすことができる。
また、上記実施形態および変形例では、コントローラ91に複数の回折環の形状を用いて、正規回折環の形状を計算し、残留応力を計算する演算プログラムを備えた。しかし、X線回折測定に時間がかかってもよい場合は、X線回折測定システムは回折環の形状を得るまでにし、別のコンピュータ装置に回折環のデータを入力して、同様の演算プログラムにより同様の処理を行うようにしてもよい。この場合、別のコンピュータ装置に回折環のデータを入力する方法としては、記録媒体を介する方法、ネット回線等を使用して転送する方法等、様々な方法が考えられる。また、計算の一部または全部を人為的に行ってもよい。