本発明の一実施形態に係るX線回折測定装置を含むX線回折測定システムの構成について図1乃至図4を用いて説明する。なお、このX線回折測定システムが、先行技術文献の特許文献3に示されているX線回折測定システムと異なっている点は、コンピュータ装置90のコントローラ91が実行する演算処理のプログラムであり、それ以外の構成はほぼ同一であるので、特許文献3に示されているX線回折測定システムで既に説明されている箇所は、簡略的に説明するにとどめる。
このX線回折測定システムは、X線回折測定システムを測定対象物OBの所まで運搬してX線回折測定を行い、測定対象物OBの残留応力を測定するものである。X線回折測定装置はアーム式移動装置の先端に連結され、X線回折測定装置の位置と姿勢を調整できるようになっており、これにより、測定対象物OBに対するX線の照射方向とX線照射点から回折環が形成されるイメージングプレート15までの距離を調整したうえで、測定対象物OBへX線照射することができる。また、X線回折測定システムは、測定対象物OBへのX線照射によりイメージングプレート15に回折環を撮像し、撮像した回折環の形状を検出し、検出した回折環の形状から、演算処理により測定対象物OBの残留応力を求めるとともに、3軸残留応力測定の必要性を判定することができる。
X線回折測定装置は、筐体50内に、X線出射器10、イメージングプレート15を取り付けるテーブル16、テーブル16を回転及び移動させるテーブル駆動機構20及び回折環を検出するレーザ検出装置30を備えている。そして、X線回折測定システムは、このX線回折測定装置とともに、コンピュータ装置90、高電圧電源95を備える。筐体50内には、上述した装置および機構に接続されて作動制御したり、検出信号を入力したりするための各種回路も内蔵されており、図1において筐体50外に示された2点鎖線で示された各種回路は、筐体50内の2点鎖線内に納められている。
筐体50は、略直方体状に形成されるとともに、底面壁50a、前面壁50b、後面壁50e、上面壁50f、側面壁(図示せず)、及び底面壁50aと前面壁50bの角部を紙面の表側から裏側に向けて切り欠くように設けた切欠き部壁50cと繋ぎ壁50dを有するように形成されている。切欠き部壁50cは底面壁50aに垂直な平板と平行な平板とからなり、繋ぎ壁50dは側面壁と垂直であり底面壁50aと所定の角度を有している。この所定の角度は、例えば30〜45度である。側面壁の1つには、支持アーム51に接続される接続部(図示せず)が設けられており、接続部は図1及び図2の紙面の垂直周りに回転可能になっている。支持アーム51は、図示されていないアーム式移動装置の先端であり、アーム式移動装置を操作することにより、筐体50(X線回折測定装置)を任意の位置と姿勢にすることができる。これにより、測定対象物OBに対して筐体50(X線回折測定装置)の位置と姿勢を調整することができる。
X線出射器10は、筐体50内の上部にて図示左右方向に延設されて筐体50に固定されており、高電圧電源95からの高電圧の供給を受け、X線を図1の下方に向けて出射する。筐体50の底面壁50aは出射X線の光軸に対して略垂直であり、繋ぎ壁50dを測定対象物OBの表面と平行にすると、出射X線の光軸は測定対象物OBの表面の法線に対して繋ぎ壁50dと底面壁50aとが成す角度(例えば30〜45度)になる。X線制御回路71は、コントローラ91から指令が入力すると、X線出射器10から一定強度のX線が出射されるように、X線出射器10に高電圧電源95から供給される駆動電流及び駆動電圧を制御する。また、X線出射器10は、図示しない冷却装置を備えていて、X線制御回路71は、この冷却装置に供給される駆動信号も制御する。
テーブル駆動機構20は、筐体50に固定され、X線出射器10の下方にて移動ステージ21を備えている。移動ステージ21は、テーブル駆動機構20における対向する1対の板状のガイド25,25により挟まれていて、テーブル駆動機構20に固定されたフィードモータ22、スクリューロッド23及び軸受部24により、出射X線の光軸が含まれる繋ぎ壁50dの法線に平行な平面内であって、出射X線の光軸に垂直な方向に移動する。フィードモータ22内には、エンコーダ22aが組み込まれており、エンコーダ22aはフィードモータ22が所定の微小回転角度だけ回転するたびに、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73へ出力する。
位置検出回路72及びフィードモータ制御回路73は、コントローラ91からの指令により作動する。測定開始直後において、フィードモータ制御回路73は、移動ステージ21をフィードモータ22側へ移動させるようフィードモータ22に駆動信号を出力し、位置検出回路72は、ステージ21が移動限界位置に達して、エンコーダ22aからパルス列信号が入力されなくなると、駆動信号停止を意味する信号をフィードモータ制御回路73に出力し、カウント値を「0」に設定する。フィードモータ制御回路73は、これにより駆動信号の出力を停止する。この移動限界位置が移動ステージ21の原点位置となり、位置検出回路72は、以後、移動ステージ21が移動するごとにエンコーダ22aからのパルス列信号をカウントし、移動方向によりカウント値を加算または減算して移動限界位置からの移動距離xを位置信号として出力する。フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ21の移動先位置を入力すると、位置検出回路72から入力する位置信号が入力した移動先位置に等しくなるまで、フィードモータ22を正転又は逆転駆動する。 また、フィードモータ制御回路73は、コントローラ91から移動ステージ21の移動速度を入力すると、エンコーダ22aから入力したパルス列信号の単位時間当たりのパルス数を用いて、移動ステージ21の移動速度を計算し、計算した移動速度が入力した移動速度になるようにフィードモータ22を駆動する。
一対のガイド25,25の上端は、板状の上壁26によって連結されており、上壁26には貫通孔26aが設けられていて、貫通孔26aの中心位置はX線出射器10の出射口11の中心位置に対向しており、出射X線は、出射口11及び貫通孔26aを介してテーブル駆動機構20内に入射する。後述するイメージングプレート15が回折環撮像位置にある状態(図1乃至図3の状態)において、移動ステージ21の貫通孔26aと対向する位置には、図3に拡大して示すように、貫通孔21aが形成されている。移動ステージ21には、出射口11及び貫通孔26a,21aの中心軸線位置を回転中心とするスピンドルモータ27が組み付けられており、スピンドルモータ27の出力軸27aは円筒状で断面円形の貫通孔27a1を有する。スピンドルモータ27の出力軸27aの反対側には、貫通孔27bが設けられ、貫通孔27bの内周面上には、貫通孔27bの一部の内径を小さくするための円筒状の通路部材28が固定されている。
また、スピンドルモータ27内にはエンコーダ27cが組み込まれ、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を、スピンドルモータ制御回路74及び回転角度検出回路75へ出力する。さらに、エンコーダ27cは、スピンドルモータ27が1回転するごとに、所定の短い期間だけローレベルからハイレベルに切り替わるインデックス信号を、コントローラ91及び回転角度検出回路75に出力する。
スピンドルモータ制御回路74は、コントローラ91から回転速度を入力すると、エンコーダ27cから入力するパルス列信号の単位時間当たりのパルス数から計算される回転速度が、入力した回転速度になるように、駆動信号をスピンドルモータ27に出力する。回転角度検出回路75は、エンコーダ27cから入力するパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値から回転角度θpを計算してコントローラ91に出力する。また、回転角度検出回路75は、エンコーダ27cからインデックス信号を入力すると、カウント値をリセットして「0」にする。これが回転角度0°の位置である。なお、イメージングプレート15の回転角度0°の位置とは、後述するレーザ検出装置30からのレーザ照射によりイメージングプレート15に形成された回折環を読み取る際、インデックス信号を入力した時点でレーザ光が照射されている位置である。この位置はイメージングプレート15の各半径位置においてあるためラインである。
テーブル16は、円形状であり、スピンドルモータ27の出力軸27aの先端部に固定されている。テーブル16は、下面中央部から下方へ突出した突出部17を有し、突出部17の外周面には、ねじ山が形成されている。テーブル16の下面にはイメージングプレート15が取付けられる。イメージングプレート15の中心部には貫通孔15aが設けられていて、この貫通孔15aに突出部17を通し、突出部17の外周面上にナット状の固定具18をねじ込むことにより、イメージングプレート15が、固定具18とテーブル16の間に挟まれて固定される。固定具18は、円筒状の部材で、内周面に、突出部17のねじ山に対応するねじ山が形成されている。
テーブル16、突出部17及び固定具18にも貫通孔16a,17a,18aがそれぞれ設けられており、貫通孔18aの内径は通路部材28の内径と同じである。すなわち、出射X線は、貫通孔26a,21a,通路部材28,貫通孔27b,27a1,16a,17a,18aを介して出射され、通路部材28の内径及び貫通孔18aの内径は小さいので、貫通孔18aから出射されるX線は貫通孔27a1の軸線に平行な平行光となり、筐体50の円形孔50c1から出射される。
イメージングプレート15は、移動ステージ21、スピンドルモータ27及びテーブル16と共に、回折環撮像位置へ移動し、また、後述する撮像した回折環を読み取る回折環読取り領域、及び回折環を消去する回折環消去領域へ移動する。この移動において、イメージングプレート15の中心軸は、出射X線の光軸とイメージングプレート15における回転角度0°の位置(ライン)とが成す平面内に保たれた状態で、出射X線の光軸に垂直な方向に移動する。
レーザ検出装置30は、回折環を撮像したイメージングプレート15にレーザ光を照射し、イメージングプレート15が発光した光の強度を検出する。レーザ検出装置30は、回折環撮像位置にあるイメージングプレート15からフィードモータ22側に充分離れており、測定対象物OBにて回折したX線がレーザ検出装置30によって遮られないようになっている。レーザ検出装置30は、レーザ光源31、コリメートレンズ32、反射鏡33、ダイクロイックミラー34、及び対物レンズ36等を備えた光ヘッドであり、光ディスクの記録再生に用いられるものと同様な構成である。 レーザ駆動回路77は、コントローラ91から指令が入力すると、フォトディテクタ42から入力する信号の強度が所定の強度になるようレーザ光源31に駆動信号を出力し。レーザ光源31からは一定強度のレーザ光が出射される。フォトディテクタ42は後述するダイクロイックミラー34で微量が反射し、集光レンズ41を介して受光したレーザ光の強度に相当する強度の信号を出力するが、ダイクロイックミラー34での反射の割合は一定であるので、出射したレーザ光の強度に相当する強度の信号を出力すると見なせる。コリメートレンズ32はレーザ光を平行光にし、反射鏡33はレーザ光を、ダイクロイックミラー34に向けて反射し、ダイクロイックミラー34は、入射したレーザ光の大半(例えば、95%)をそのまま透過させる。対物レンズ36は、レーザ光をイメージングプレート15の表面に集光させる。対物レンズ36には、フォーカスアクチュエータ37が組み付けられており。後述するフォーカスサーボにより、レーザ光の焦点は常にイメージングプレート15の表面に合致する。
集光されたレーザ光が、イメージングプレート15の回折環が撮像されている部分に照射すると、輝尽発光(Photo−Stimulated Luminesence)現象が生じ、回折環撮像時における回折X線の強度に応じた光が発生する。この輝尽発光により発生した光はレーザ光の波長よりも波長が短く、レーザ光の反射光と共に対物レンズ36を通過するが、ダイクロイックミラー34にて大部分が反射し、レーザ光の反射光は大部分が透過する。ダイクロイックミラー34で反射した光は、集光レンズ38、シリンドリカルレンズ39を介してフォトディテクタ40に入射する。フォトディテクタ40は、4つの同一正方形状の受光素子からなる4分割受光素子からなり、4つの受光信号(a,b,c,d)を増幅回路78に出力する。なお、シリンドリカルレンズ39は非点収差を生じさせるためにある。
増幅回路78は、入力した4つの受光信号(a,b,c,d)を増幅してフォーカスエラー信号生成回路79及びSUM信号生成回路80へ出力する。フォーカスエラー信号生成回路79は、非点収差法におけるフォーカスエラー信号を生成してフォーカスサーボ回路81へ出力する。フォーカスサーボ回路81は、コントローラ91により指令が入力すると作動開始し、入力したフォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路82に出力する。ドライブ回路82は、入力したフォーカスサーボ信号に応じてフォーカスアクチュエータ37を駆動して、対物レンズ36をレーザ光の光軸方向に変位させ、これにより、レーザ光の焦点は常にイメージングプレート15の表面に合致する。
SUM信号生成回路80は、入力した4つの受光信号を合算してSUM信号を生成し、A/D変換回路83に出力する。SUM信号の強度は、イメージングプレート15にて反射し、ダイクロイックミラー34で反射した微量のレーザ光の強度と輝尽発光により発生した光の強度を合わせた強度に相当するが、イメージングプレート15にて反射するレーザ光の強度はほぼ一定であるので、SUM信号の強度は、輝尽発光により発生した光の強度に相当する。すなわち、SUM信号の強度は、撮像された回折環における回折X線の強度に相当する。A/D変換回路83は、コントローラ91から指令が入力すると、入力するSUM信号の瞬時値をデジタルデータに変換してコントローラ91に出力する。
また、対物レンズ36に隣接して、LED光源43が設けられている。LED光源43は、LED駆動回路84によって制御されて、可視光を発して、イメージングプレート15に撮像された回折環を消去する。LED駆動回路84は、コントローラ91から指令を入力すると、LED光源43に、所定の強度の可視光を発生させるための駆動信号を供給する。
また、X線回折測定装置は、LED光源44を有する。LED光源44は、図2乃至図4に示すように、X線出射器10とテーブル駆動機構20の上壁26との間に配置されたプレート45の一端部下面に固定されている。プレート45は、その他端部上面にて、筐体50内に固定されたモータ46の出力軸46aに固着されており、モータ46の回転により、上壁26に平行な面内を回転する。上壁26にはストッパ部材47a,47bが設けられており、ストッパ部材47aは、プレート45を図6のD1方向に回転させたとき、LED光源44がX線出射器10の出射口11及びテーブル駆動機構20の上壁26の貫通孔26aに対向する位置(A位置)で静止するように、プレート45の回転を規制する。一方、ストッパ部材47bは、プレート45を図4のD2方向に回転させたとき、プレート45がX線出射器10の出射口11とテーブル駆動機構20の上壁26の貫通孔26aとの間を遮断しない位置(B位置)で静止するように、プレート45の回転を規制する。言い換えれば、A位置は、プレート45が図2及び図3に示す状態にある位置であり、LED光源44から出射されるLED光がスピンドルモータ27の貫通孔27a1に設けた通路部材28の通路に入射する位置である。B位置は、X線出射器10から出射されるX線がプレート45によって遮られない位置である。LED光源44は、コントローラ91によって作動制御されるLED駆動回路85からの駆動信号によりLED光を出射する。LED光は拡散する可視光であるが、プレート45がA位置にあるとき、その一部は、出射X線と同様の経路で貫通孔18aから出射するので、出射X線と同様、貫通孔27a1の軸線に平行な平行光になる。
モータ46はエンコーダ46bを備えており、エンコーダ46bはモータ46が所定の微小回転角度だけ回転する度に、ハイレベルとローレベルとに交互に切り替わるパルス列信号を回転制御回路86に出力する。回転制御回路86は、コントローラ91から回転方向と回転開始の指令が入力されると、モータ46に駆動信号を出力し、モータ46を指示方向に回転させる。そして、エンコーダ46bからパルス列信号の入力が停止すると、駆動信号の出力を停止する。これにより、プレート45を、上述したA位置及びB位置までそれぞれ回転させることができる。
筐体50の切欠き部壁50cには結像レンズ48が設けられ、筐体50内部には撮像器49が設けられている。撮像器49は、CCD受光器又はCMOS受光器で構成され、各撮像素子ごとの受光強度に相当する強度の信号をセンサ信号取出回路87に出力する。結像レンズ48及び撮像器49は、イメージングプレート15に対して設定された位置にある測定対象物OBにおけるLED光の照射点を中心とした領域の画像を撮像するデジタルカメラとして機能する。イメージングプレート15に対して設定された位置とは、測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点からイメージングプレート15までの垂直距離Lが、予め決められた所定距離となる位置である。この場合の結像レンズ48及び撮像器49による被写界深度は、前記照射点を中心とした前後の範囲で設定されている。センサ信号取出回路87は、撮像器49の各撮像素子ごとの信号強度データを、各撮像素子の位置(すなわち画素位置)が分かるデータと共にコントローラ91に出力する。
また、結像レンズ48の光軸は、X線出射器10から出射されるX線の光軸とイメージングプレート15の回転基準位置のラインを含む平面に含まれるとともに、この光軸と測定対象物OBに照射されるX線及びLED光の光軸が交わる点は、イメージングプレート15に対して設定された位置にある測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点であるように調整されている。さらに、X線及びLED光の測定対象物OBに対する入射角度が設定値であるとき、結像レンズ48の光軸と測定対象物OBのX線及びLED光の照射点における法線方向とが成す角度は前記入射角度に等しい角度であるようにされている。したがって、測定対象物OBにおけるX線及びLED光の照射点がイメージングプレート15に対して設定された位置にあり、LED光が測定対象物OBに設定された入射角度で照射された場合には、撮影画像におけるLED光の照射点と測定対象物OBで反射したLED光の受光点は同じ位置に生じる。測定対象物OBに照射されるLED光は平行光であるので、照射点において、LED光は散乱光と、略平行光のまま反射する反射光を発生させるが、散乱光のうち結像レンズ48に入射した光は撮像器49の位置で結像して照射点の画像となり、結像レンズ48に入射した反射光は結像レンズ48により集光されて撮像器49で受光され、受光点の画像となる。そして、LED光の照射点がイメージングプレート15に対して設定された位置にあり、LED光が測定対象物OBに設定された入射角度で照射されたとき、結像レンズ48に入射する散乱光の光軸と反射光の光軸は、いずれも結像レンズ48の光軸と一致するため、照射点の画像と受光点の画像は同じ位置になる。
コンピュータ装置90は、コントローラ91、入力装置92及び表示装置93からなる。コントローラ91は、CPU、ROM、RAM、大容量記憶装置などを備えたマイクロコンピュータを主要部とした電子制御装置であり、大容量記憶装置に記憶された各種プログラムを実行してX線回折測定装置の作動を制御する。入力装置92は、コントローラ91に接続されて、作業者により、各種パラメータ、作業指示などの入力のために利用される。表示装置93は、表示画面上に撮像器49によって撮像された照射点及び受光点を含む画像に加えて、測定対象物OBの測定箇所に対するX線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を適正に設定するためのマークも表示される。さらに、表示装置93は、作業者に対して各種の設定状況、作動状況、測定結果なども視覚的に知らせる。高電圧電源95は、X線出射器10にX線出射のための高電圧及び電流を供給する。
次に、上記のように構成したX線回折測定装置を含むX線回折測定システムを用いて、測定対象物OBのX線回折測定を行う具体的方法について説明する。X線回折測定は図5に示すように位置姿勢調整工程S1、回折環撮像工程S2、回折環読取り工程S3,回折環消去工程S4を行った後、回折環読取り工程S3で得られたデータを用いて、測定データ演算工程S6,S11,S12が行われ、表示装置93に測定結果が表示されることで完了する。なお、測定データ演算工程S6,S11,S12は、何回目の測定であるかにより演算方法が異なっており、また、2回目の測定および3回目の測定は、追加測定判断工程S7で作業者により実施の有無が判断される。以下、それぞれの工程について詳細に説明する。なお、先行技術文献の特許文献3に示されているX線回折測定システムによるX線回折測定で、既に詳細に説明されている工程は、簡略的に説明するにとどめる。
まず、位置姿勢調整工程S1について説明する。作業者は、X線回折測定装置の筐体50に接続されたアーム式移動装置を操作し、筐体50の位置と姿勢を調整して、おおよそで測定対象物OBにおけるX線の照射点(測定箇所)、X線の照射方向(測定対象物OBの平面内における残留垂直応力の測定方向)及びX線の入射角度が意図した位置と方向と角度になり、X線の照射点からイメージングプレート15までの距離が設定値になるようにする。次に作業者は、入力装置92から位置姿勢の調整を行うことを入力する。この入力により、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、イメージングプレート15を回折環撮像位置(図1乃至図3の状態)に移動させ、モータ46を駆動させてプレート45をA位置まで回転させ、LED光源44を点灯させる。これにより平行光であるLED光が筐体50の円形孔50c1から外部へ出射され、測定対象物OBに照射される。さらに、コントローラ91は、撮像器49による撮像信号をセンサ信号取出回路87からコントローラ91に出力させ、この撮像信号から作成したLED光の照射位置近傍の画像を表示装置93に表示させる。このとき、表示される画像には、撮像信号によって表示される画像とは独立して、結像レンズ48の光軸が撮像器49と交差する位置に相当する撮影画像上の位置に、十字マークが表示される。
この場合、十字マークのクロス点は表示装置93の画面の中心に位置し、十字マークのX軸方向は画面の横方向に対応し、十字マークのY軸方向は画面の縦方向に対応する。そして、十字マークのクロス点は、LED光の照射点からイメージングプレート15までの距離Lが設定値であるときに、照射点が撮像される位置であると同時に、距離Lが設定値であり、LED光が測定対象物OBに設定された入射角度で入射されるとき、受光点が撮像される位置である。また、十字マークのY軸方向がLED光及びX線の照射方向であり、この方向を測定対象物OBに投影させた方向が残留垂直応力σxの測定方向である。
作業者は、表示装置93に表示される画像を見ながら、アーム式移動装置を操作してX線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を調整し、画面上における照射点が測定対象物OBの測定箇所になるとともに十字マークのクロス点と合致し、受光点が十字マークのクロス点と合致するようにする。さらに、十字マークのY軸方向を測定対象物OBに投影させた方向が、意図した残留垂直応力σxの測定方向になるようにする。これにより、出射X線は測定箇所に照射され、X線の照射点からイメージングプレート15までの距離Lは設定値になり、測定対象物OBに対するX線の入射角度は設定値になり、残留垂直応力σxの測定方向は意図した方向になる。
次に作業者は、入力装置92から位置姿勢の調整終了を入力する。これにより、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、LED光源44を消灯させ、撮像信号の出力を停止させ、モータ46を駆動させてプレート45をB位置まで回転させる。これにより、X線出射器10からのX線がテーブル駆動機構20の上壁26の貫通孔26aに入射され得る状態となる。
次の回折環撮像工程S2において、作業者は入力装置92から測定対象物OBの材質(例えば、鉄)を入力し、測定開始を入力する。これにより、コントローラ91は、スピンドルモータ制御回路74を制御して、イメージングプレート15を低速回転させ、エンコーダ27cからインデックス信号を入力した時点で、イメージングプレート15の回転を停止させる。これにより、回折環の読取り時において回転角度0°となる状態で、イメージングプレート15に回折環が撮像されるようになる。次に、コントローラ91は、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を開始させる。これにより、測定対象物OBの測定箇所で発生した回折X線により、イメージングプレート15に回折環が撮像されていく。そして、所定時間の経過後に、X線制御回路71を制御してX線出射器10にX線の出射を停止させる。
次にコントローラ91は、自動または作業者の入力により回折環読取り工程S3を実行する。コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15を回折環読取り領域内の読取り開始位置へ移動させる。読取り開始位置とは、レーザ光の照射位置が回折環基準半径Roの円に対して若干だけ内側になるような位置である。回折環基準半径Roとは、測定対象物OBの残留応力が「0」であるときに、イメージングプレート15上に形成される回折環の半径であり、測定対象物OBにおけるX線の回折角度2Θx(Θxはブラッグ角)及びX線照射点からイメージングプレート15までの距離LからRo=L・tan(2Θx)の計算式で計算される。そして、X線の回折角度2Θxは測定対象物OBの材質で決まり、距離Lは設定値に調整されているので、測定対象物OBの材質ごとに予め回折角2Θxを記憶しておけば、測定対象物OBの材質を入力することで回折環基準半径Roは計算できる。
次に、コントローラ91は、スピンドルモータ制御回路74を制御して、スピンドルモータ27を所定の回転速度で回転させ、レーザ駆動回路77を制御してレーザ検出装置30からレーザ光をイメージングプレート15に照射させ、フォーカスサーボ回路81を制御してフォーカスサーボを開始させる。さらに、回転角度検出回路75を制御して、スピンドルモータ27(イメージングプレート15)の回転角度θpの出力を開始させ、A/D変換回路83を制御して、SUM信号の瞬時値Iのデータ出力を開始させ、フィードモータ制御回路73を制御してフィードモータ22を回転させ、イメージングプレート15を読取り開始位置から図1及び図2の右下方向へ一定速度で移動させる。これにより、レーザ光の照射位置は、相対的にイメージングプレート15上を螺旋状に回転し始める。その後、コントローラ91は、イメージングプレート15が所定の小さな角度だけ回転するごとに、A/D変換回路83が出力するSUM信号の瞬時値Iのデータと、回転角度検出回路75が出力する回転角度θpのデータと位置検出回路72が出力する移動距離xのデータとを入力し、それぞれのデータを対応させて記憶する。なお、移動距離xはレーザ光照射位置の径方向距離r(半径値r)に変換したうえで記憶する。これにより、螺旋状に回転するレーザ光の照射位置に関して、SUM信号の瞬時値I、回転角度θp及び半径値rを表すデータが所定回転角度ごとに順次記憶されていく。
SUM信号の瞬時値I、回転角度θp及び半径値rを表すデータの所定回転角度ごとの記憶動作と並行して、コントローラ91は、回転角度θpごとに半径値rに対するSUM信号の瞬時値Iの曲線を作成し、曲線のピークに対応した半径値rαとSUM信号強度値Iαを記憶する。これは回折環の回転角度αごとに半径方向における回折X線の強度分布を求め、回折X線の強度がピークとなる箇所の半径値rαと回折X線の強度に相当する強度Iαを求める処理である。そして、すべての回転角度θp(回転角度α)において半径値rαと強度Iαを取得し、検出するSUM信号の瞬時値Iが強度Iαに対して充分小さくなった時点で、データの記憶を終了する。これにより、回折環における回折X線の強度に相当する強度の分布が瞬時値I、回転角度θp及び半径値rのデータ群で、および回折環の形状が回転角度αごとの半径値rαで検出されたことになる。その後、コントローラ91は、各回路に指令を出力し、フォーカスサーボを停止させ、レーザ光の照射を停止させ、A/D変換回路83と回転角度検出回路75の作動を停止させ、フィードモータ22の作動を停止させる。なおイメージングプレート15の回転は、継続されている。
次にコントローラ91は、自動または作業者の入力により回折環消去工程S4を実行する。コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート15を回折環消去領域内の消去開始位置へ移動させる。このイメージングプレート15の消去開始位置とは、LED光源43から出力されるLED光の中心が回折環基準半径Roの円に対して前記読取り開始位置の場合よりもさらに内側になる位置である。次に、コントローラ91は、LED駆動回路84を制御してLED光源43によるLED光をイメージングプレート15に対して照射させ、フィードモータ制御回路73を制御して、イメージングプレート15が前記消去開始位置から消去終了位置まで図1及び図2の右下方向に一定速度で移動するよう、フィードモータ22を回転させる。消去終了位置とは、LED光の中心が回折環基準半径Roよりも前記消去開始位置と同じ程度の距離だけ外側となる位置である。これにより、LED光がイメージングプレート15上に螺旋状に照射され、撮像された回折環が消去される。
イメージングプレート15が消去終了位置になると、コントローラ91は、フィードモータ制御回路73を制御してイメージングプレート15の移動を停止させ、LED駆動回路84を制御してLED光の照射を停止させ、位置検出回路72の作動を停止させ、スピンドルモータ制御回路74を制御してスピンドルモータ27(イメージングプレート15)の回転を停止させる。
次にコントローラ91は、自動でX線回折測定が1回目であるかの判定S5を行い、1回目であれば、1回目の測定データ演算工程S6を行う。なお、判定S5と1回目の測定データ演算工程S6は、回折環消去工程S4と並行して行ってもよい。1回目の測定データ演算工程S6は、回折環読取り工程S3において得られた回折環の形状(回転角度αごとの半径値rα)を用いて、コントローラ91が行うプログラムによる演算処理である。この演算処理は、図6に示されるフローのプログラム及び、図8に示されるフローのサブプログラムを実行することで行われる。以下、図6のフローに従って行われる演算処理を説明する。
コントローラ91は、ステップS10にてプログラムをスタートすると、ステップS12にて変数nに「1」を入力する。変数nは、後述するステップS16およびステップS22乃至ステップS32の実施回数を識別する変数である。次にコントローラ91は、ステップS14にて回折環読取り工程S3において得られた、回折環の形状である回転角度αごとの半径値rαのデータが設定値以上であるか判定する。測定対象物OBによって、回折環における半径方向のピーク位置が回折環全周に渡って明確に生じる場合(良好な場合)とそうでない場合があり、後者の場合は半径値rαのデータ数が少なくなる。よって、半径値rαのデータ数により、回折環の撮像が良好か否かを判定する。回折環の撮像が良好で半径値rαのデータ数が設定値以上ある場合は、Yesと判定してステップS16へ行き、ステップS16にて、公知技術であるcosα法の計算方法により残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyを計算する。そして、後述する回折環形状の差の度合いDevR(1)に「1」を入力し、次のステップS20にてnをインクリメントして「2」にする。また、回折環の撮像が良好でなく、半径値rαのデータ数が設定値未満である場合はNoと判定してステップS18へ行き、ステップS18にて、残留垂直応力σyおよび残留せん断応力τxyに「0」を入力し、後述する回折環形状の差の度合いDevR(0)に「1」を入力する。
ステップS14乃至ステップS20の処理は、後述するステップS22乃至ステップS34の残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyの収束計算において、回折環の撮像が良好である場合は、cosα法の計算方法により求めたσx,σy,τxyを開始の値にして収束計算を行い、回折環の撮像が良好でない場合は、開始の値を設定しないで収束計算を行うためのものである。これは、回折環の撮像が良好であり、半径値rαのデータ数が多い場合は、cosα法により残留応力の計算をある程度の精度で行えるため、cosα法により求めたσx,σy,τxyを開始の値にして収束計算を行えば、計算を早く終了させることができるためである。反対に回折環の撮像が良好でなく、半径値rαのデータ数が少ない場合は、cosα法による計算は不可能であるか、精度よく行えないためである。なお、cosα法による残留応力の計算方法は、公知技術であり、例えば先行技術文献に特許文献1として示した、特開2011−27550号公報の背景技術の箇所に詳細に説明されているので、本出願では説明を省略する。
ステップS14乃至ステップS20の処理の後、コントローラ91は、ステップS22にて後述する回折環形状の差の度合いDevが最小になる残留垂直応力σxを求める演算処理を行う。ここで、残留垂直応力σxは、出射X線の光軸を測定対象物OBの表面(X線照射点における平面)に投影させた方向(以下、X方向という)における残留垂直応力であり、残留垂直応力σyは、測定対象物OBの表面(X線照射点における平面)においてX方向に垂直な方向(以下、Y方向という)における残留垂直応力であり、残留せん断応力τxyは、測定対象物OBの表面(X線照射点における平面)の面内(以下、XY平面という)における残留せん断応力である。図2においてX線回折測定装置に定めたXY方向は、表示装置93に表示される撮影画像の横軸と縦軸にX方向とY方向を合わせたので、測定対象物OBの残留垂直応力の方向を表すX方向、Y方向とは異なっていることに注意する。
コントローラ91は、ステップS22に来ると、図8に示すフローのサブプログラムをスタートさせる。以下、図8のフローに従って行われる演算処理を説明する。コントローラ91は、ステップS100にてプログラムをスタートすると、ステップS102にて、変数nが「1」であるか判定する。cosα法により残留応力σx,σy,τxyを求めたときは変数nは「2」になっているので、Noと判定してステップS104へ行き、そうでないときは変数nは「1」のままであるので、Yesと判定してステップS108へ行く。ステップS108へ行くと、コントローラ91は、変数Aに「0」を入力し、変数Bに予め設定されている残留垂直応力σxの上限値よりやや大きい値σmaxを入力し、変数Cにσmaxの半分の値を入力する。
また、コントローラ91は、ステップS104へ行くと、ステップS104とステップS106、およびステップS110乃至ステップS116の処理により、変数A,B,Cにcosα法により求めた残留垂直応力σxに基づいた値を入力する。変数Aは想定されるσxの最小の値、変数Bは想定されるσxの最大の値、変数Cは変数A,Bの中間の値である。ただし、残留垂直応力σxから変動範囲Sを減算した値(σx−S)が0より小さい場合、残留垂直応力σxに変動範囲Sを加算した値(σx+S)がσmaxより大きい場合、及びどちらにも該当しない場合に分けて、変数A,B,Cに値が入力される。変動範囲Sはcosα法により求めたσxまたはこれから行われる収束計算の途中のσxと、最終的に求められるσxとの差において、想定される最大の差であり、予め設定されている。通常は、(σx−S)は0より大きく(σx+S)はσmaxより小さいため、ステップS114にて、変数Aに(σx−S)を入力し、変数Bに(σx+S)を入力し、変数Cにσxを入力する。また、可能性は低いが、(σx−S)が0より小さい場合は、残留垂直応力σxが0に近い値であるので、ステップS110にて、変数Aに0を入力し、変数Bに(σx+S)を入力し、変数Cに変数Aと変数Bの中間の値である(σx+S)/2を入力する。また、可能性は低いが、(σx+S)がσmaxより大きい場合は、残留垂直応力σxがσmaxに近い値であるので、ステップS112にて、変数Aに(σx−S)を入力し、変数Bにσmaxを入力し、変数Cに変数Aと変数Bの中間の値である(σmax+σx−S)/2を入力する。
次にコントローラ91は、ステップS116乃至ステップS120にて、残留垂直応力σxが変数A,B,Cのときの回折環の形状を回転角度αごとの半径値rs(α)としてそれぞれ計算し、半径値rs(α)と回折環読取り工程S3において得られた回折環の形状である回転角度αごとの半径値rαとの差の度合いを、DevA,DevB,DevCとしてそれぞれ計算する。これ以降、残留垂直応力σx,σy、残留せん断応力τxyの値を設定して計算される回折環を基準回折環といい、回折環読取り工程S3において得られた回折環を検出回折環といい、検出回折環の形状と基準回折環の形状の差の度合いを、回折環形状差という。数値データとしては、検出回折環は回転角度αごとの半径値rαであり、基準回折環は回転角度αごとの半径値rs(α)であり、回折環形状差は計算されるDevA,DevB,DevCである。
ここで、残留垂直応力σx,σy、残留せん断応力τxyを設定すると、基準回折環(rs(α)のデータ群)を計算できることを説明する。先行技術文献の特許文献1に示されているように、残留垂直応力σx,σy、残留せん断応力τxyと回転角度αのひずみεαには、以下の数1で示す関係式がある。
数1中のn1〜n3は、測定座標系に対するひずみεαの方向余弦であり、先行技術文献の特許文献1に示されているように、それぞれ以下の数2で表される。
数1において、Eは縦弾性定数、νはポアソン比であり、いずれも回折弾性定数である。また、平面残留応力以外の3軸残留応力である残留垂直応力σz,残留せん断応力τyz,τxzは小さいため無視できるとして0にする。また、数2において、ηはブラッグ角Θの補角[(π/2)−Θ]であり、この場合ブラッグ角Θは無ひずみの場合で考えればよく、測定対象物OBにより無ひずみのブラッグ角Θは定まっているので補角ηは定数である。また、Ψoは測定対象物OBへのX線の入射角であり、設定値になるよう調整されているので定数である。また、φoは測定対象物OBの表面(XY平面)に出射X線の光軸を投影した方向とX方向とが成す角度であり、0である。すなわち、数2において定数でないものは回転角度αであり、数1において定数でないものは、残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyである。よって、残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyの値を設定すれば、回転角度αごとのひずみεαが定まる。
また、先行技術文献の特許文献1に示されているように、ひずみεとブラッグ角Θの変化量(Θ−Θ0)には以下の数3で示す関係がある。Θ0は無ひずみのときのブラッグ角であり、Θは実際のブラッグ角である。
測定対象物OBにより無ひずみのブラッグ角Θ0は定まっているので、数3を用いれば、回転角度αごとのひずみεαから回転角度αごとのブラッグ角Θが定まる。
また、先行技術文献の特許文献1に示されているように、ブラッグ角Θと、回折環半径rと、X線照射点から回折環形成面(イメージングプレート15)までの距離Lには、以下の数4で示す関係がある。
距離Lは設定値になるよう調整されているので定数である。よって、ブラッグ角Θから回折環半径rを定めることができ、数4を用いれば、回転角度αごとのブラッグ角Θから回転角度αごとの回折環半径rs(α)が定まる。すなわち、基準回折環が定まる。
次に、回折環形状差の計算方法について説明する。検出回折環と基準回折環を重ねて描くと図9の(a)に示すようになる。図において検出回折環は点線で表され、基準回折環は実線で表されているが、どちらの回折環も回転角度αごとの半径値であるのでドットの連続である。2つの回折環の一部分を拡大して示すと図9(b)のようになる。基準回折環は○のドットが示すように直線のドットになり。検出回折環は●のドットが示すようにばらつくとともに、直線のドットからずれがあるドットになる。回折環形状差は、基準回折環の○ドットからの検出回折環の●のドットのずれが、すべての●のドットにおいてどの程度あるかを示す値であればよく、標準偏差の値を用いることができる。すなわち、○のドットと●のドットの差を偏差にし、すべての偏差の2乗を加算して、データ数で除算して平方根を求めればよい。○のドットと●のドットの差は、回転角度αごとの基準回折環の半径値rs(α)と検出回折環の半径値rαとの差(rα−rs(α))である。なお、標準偏差の代わりに分散や平均偏差の値を回折環形状差に用いてもよい。
基準回折環の半径は測定対象物OBの材質により異なるため、回折環形状差を予め定めた設定値と大小関係を比較する場合、標準偏差の値そのままでは、条件が同一にならない。そのため、大小関係を比較する場合は、標準偏差の値を基準回折環の平均半径で除算した値を用いる。これ以後、標準偏差の値における回折環形状差を回折環形状差Dev、これが変数A,B,Cに対応する場合は回折環形状差DevA,DevB,DevCとし、標準偏差の値を基準回折環の平均半径で除算した値における回折環形状差を回折環形状差DevRとして区別する。
コントローラ91は、ステップS116乃至ステップS120にて、残留垂直応力σxが変数A,B,Cのときの基準回折環rs(α)をそれぞれ計算し、得られている検出回折環rαとの回折環形状差DevA,DevB,DevCをそれぞれ計算すると、次のステップS122へ行く。コントローラ91は、ステップS122にて、回折環形状差DevA,DevB,DevCにおける(最大値−最小値)を基準回折環の半径rs(α)の平均値raveで除算した値を変数Rに入れる。ステップS122は変数A,B,Cにおける回折環形状差の範囲を求めるのが目的であるが、測定対象物OBの材質によりX線の回折角(ブラッグ角)は異なっており、回折環半径は異なるため、条件を同一にするため変数Cの基準回折環の平均半径raveで除算し、平均半径に対する割合にする。
次にコントローラ91は、ステップS124にて、回折環形状差の範囲の割合Rが設定値以下であるか否か判定し、設定値以下であればYesと判定して図8BのステップS200へ行き、設定値より大きければNoと判定してステップS126へ行く。この場合、回折環形状差の範囲の割合Rは設定値より大きいのでステップS126へ行く。ステップS122,S124の処理があるのは、残留垂直応力σxが0近傍の値である場合または上限値を超える値である場合は、演算処理を別にするためである。この点は後述する。
次にコントローラ91は、ステップS126にて、回折環形状差DevA,DevB,DevCの中で、DevCが最小であるか否か判定し、最小であればYesと判定して図8BのステップS170へ行き、最小でなければNoと判定してステップS128へ行く。通常は、DevCが最小であるためステップS170へ行くが、cosα法により残留垂直応力σxを求めなかった場合でσxが0に近い値である場合または上限値に近い値である場合は、DevCが最小でない場合がある。また、cosα法により残留垂直応力σxを求めた場合でも、σxが0近傍の値である場合または上限値を超える値である場合は、DevCが最小でない場合がある。また、変動範囲S以上に、cosα法により求めたσxまたはこれから行われる収束計算の途中のσxと、最終的に求められるσxとに差がある場合も、DevCが最小でない場合がある。
DevCが最小でなく、ステップS126にてNoと判定された場合は、ステップS128乃至ステップS168の処理により新たな変数A,B,Cと回折環形状差DevA,DevB,DevCを定め、ステップS122,S124の処理の後、DevCが最小であるか再度判定する。以下、ケースにより分けて説明する。
(1)回折環形状差DevAが最小であり、変数Aが0である場合
この場合は、ステップS128乃至ステップS136の処理により、変数Cを変数Bにし、DevCをDevBにし、変数Cを変数Aと変数Bの中間の値にして、変数Cの時のDevCを新たに計算する。これは、変数Aを0のままにし、変数Aと変数Bの間を半分にして変数Cを新たに定める処理である。
(2)回折環形状差DevAが最小であり、変数Aが0でなく、変数A−Sが0以上である場合
この場合は、ステップS128乃至ステップS132、ステップS138乃至ステップS142およびステップS146の処理により、変数Cを変数Bにし、DevCをDevBにし、変数Aを変数Cにし、DevAをDevCにし、変数Aを(C−S)で定めて、変数Aの時のDevAを新たに計算する。これは、変数Aと変数Bの間を2Sのまま変えず、変数Aと変数Bの範囲を変動範囲S分、値が小さい側へ移動させる処理である。この処理では変数Aと変数Bの中間に変数Cがあるので、ステップS148でYesと判定してステップS122に戻る。
(3)回折環形状差DevAが最小であり、変数Aが0でなく、変数A−Sが0未満である場合
この場合は、ステップS128乃至ステップS132、ステップS138乃至ステップS148およびステップS134,S136の処理により、変数Cを変数Bにし、DevCをDevBにし、変数Aを変数Cにし、DevAをDevCにし、変数Aを0に定めて、変数Aの時のDevAを新たに計算する。この段階で変数Aと変数Bの中間に変数Cはないので、ステップS148でNoと判定してステップS134へ行き、変数Aと変数Bの中間に変数Cを定めて、ステップS136にて変数Cの時のDevCを新たに計算する。これは、変数Aと変数Bの間を2Sのまま変えず、変数Aと変数Bの範囲を変動範囲S分、値が小さい側へ移動させると変数Aがマイナスになるため、変数Aを0にして変数Cを新たに定める処理である。
(4)回折環形状差DevBが最小であり、変数Bがσmaxである場合
この場合は、ステップS128、ステップS150乃至ステップS156の処理により、変数Cを変数Aにし、DevCをDevAにし、変数Cを変数Aと変数Bの中間の値にして、変数Cの時のDevCを新たに計算する。これは、変数Bをσmaxのままにし、変数Aと変数Bの間を半分にして変数Cを新たに定める処理である。
(5)回折環形状差DevBが最小であり、変数Bがσmaxでなく、変数B+Sがσmax以下である場合
この場合は、ステップS128、ステップS150、S152、ステップS158乃至ステップS162およびステップS166の処理により、変数Cを変数Aにし、DevCをDevAにし、変数Bを変数Cにし、DevBをDevCにし、変数Bを(C+S)で定めて、変数Bの時のDevBを新たに計算する。これは、変数Aと変数Bの間を2Sのまま変えず、変数Aと変数Bの範囲を変動範囲S分、値が大きい側へ移動させる処理である。この処理では変数Aと変数Bの中間に変数Cがあるので、ステップS168でYesと判定してステップS122に戻る。
(6)回折環形状差DevBが最小であり、変数Bがσmaxでなく、変数B+Sがσmaxを超える場合
この場合は、ステップS128、ステップS150、S152、ステップS158乃至ステップS168およびステップS154、S156の処理により、変数Cを変数Aにし、DevCをDevAにし、変数Bを変数Cにし、DevBをDevCにし、変数Bをσmaxに定めて、変数Bの時のDevBを新たに計算する。この段階で変数Aと変数Bの中間に変数Cはないので、ステップS168でNoと判定してステップS154へ行き、変数Aと変数Bの中間に変数Cを定めて、ステップS156にて変数Cの時のDevCを新たに計算する。これは、変数Aと変数Bの間を2Sのまま変えず、変数Aと変数Bの範囲を変動範囲S分、値が大きい側へ移動させると変数Bがσmaxを超えるため、変数Bをσmaxにして変数Cを新たに定める処理である。
ステップS128乃至ステップS168の処理により新たな変数A,B,Cと回折環形状差DevA,DevB,DevCが定まると、上述したステップS122,S124の処理の後、ステップS126にてDevA,DevB,DevCの中で、DevCが最小であるか再度判定する。DevCが最小であればYesと判定して図8BのステップS170へ行き、まだ最小でなければNoと判定してステップS128へ行き、上述したステップS128乃至ステップS168の処理を再度行う。DevA,DevB,DevCの中で、DevCが最小にならなければ、上述したステップS128乃至ステップS168の処理が繰り返し実行されるが、この処理が繰り返されると、変数Aが0になるか、変数Bがσmaxになり、変数Aと変数Bの間が狭まっていく、そして、変数Aと変数Bの間がかなり狭まると、ステップS122で計算される、DevA,DevB,DevCにおける(最大値−最小値)を基準回折環の半径rs(α)の平均値raveで除算した値Rは、設定値以下になるので、ステップS124にてYesと判定されて、図8BのステップS200へ行く。このとき考えられるのは、残留垂直応力σxがほとんど0であるか上限値を超える場合である。よって、ステップS200乃至ステップS206の処理により、残留垂直応力σxがほとんど0である場合は、変数A,B,Cの内、DevA,DevB,DevCが最小値のものをσxに定め、DevA,DevB,DevCの最小値を基準回折環の平均半径値raveで除算した値を、回折環形状差DevRに定めてステップS208にてサブプログラムを終了する。また、残留垂直応力σxが上限値を超える場合は、「測定不可」を表示装置93に表示し、図6に示すメインプログラムを停止し、ステップS208にてサブプログラムを終了する。「測定不可」が表示されても、後述するように、コントローラ91は回折環における回折X線強度分布の図を表示装置93に表示するので、作業者は表示された図を見て「測定不可」の原因を判断する。
通常は、ステップS128乃至ステップS168の処理を行わなくても、ステップS126においてYesと判定される可能性が高く、ステップS128乃至ステップS168の処理を行うか、繰り返せば、高い確率でステップS126においてYesと判定されるので、ほとんどの場合において、ステップS126においてYesと判定されて、ステップS170へ行く。コントローラ91はステップS170へ行くと、ステップS170乃至ステップS194の収束計算処理を繰り返すことで、回折環形状差Devが最小になる値を変数Cに定めながら、変数Aと変数Bの間を狭めていき、変数A,B,Cにおける回折環形状差Devの差がほとんど0になった段階で、変数Cを残留垂直応力σxとする。
具体的には、ステップS170にて、変数Cと変数Aの中間に変数Dを、変数Cと変数Bの中間に変数Eを定め、ステップS172、S174にて、残留垂直応力σxが変数D,変数Eのときの基準回折環rs(α)を計算し、回折環形状差DevD,DevEを計算する。次に、ステップS176にて、回折環形状差DevA〜DevEの5つの値をグラフ上で見たとき、極小値は1つか否か判定する。これは、変数Aと変数Bの間を狭めていくと、DevA〜DevEの差がほとんどなくなるまで小さくなっていき、極小値が2つになること(DevA〜DevEがWの形になること)があり、このときは残留垂直応力σxの収束計算処理は終了したと判定するものである。ステップS170乃至ステップS194の収束計算処理を開始した時点では、DevA〜DevEの極小値は1つであるので、ステップS176にてYesと判定してステップS178へ行く。そして、ステップS178乃至ステップS190の処理により、変数A〜EにおいてDevA〜DevEが最小になる変数を新たに変数Cに定め、その変数の隣りで小さい変数を変数Aに、その変数の隣りで大きい変数を変数Bにし、新たに定めた変数A,B,Cに対応する回折環形状差をDevA,DevB,DevCにする。そして、上述したステップS122、S124と同じ、ステップS192、S194の処理により、回折環形状差DevA,DevB,DevCにおける(最大値−最小値)を基準回折環の半径rs(α)の平均値raveで除算した値Rが設定値より小さいか判定する。ステップS170乃至ステップS194の収束計算処理を開始した時点では、値Rは設定値より大きいため、ステップS192にてNoと判定してステップS170に戻り、上述した処理を再び行う。
このようにしてステップS170乃至ステップS194の収束計算処理を繰り返していくと、DevCを最小値にして変数Aと変数Bの間が狭まっていき、回折環形状差DevA,DevB,DevCの差がほとんどなくなるまで小さくなっていく。そして、極小値が2つになる(DevA〜DevEがWの形になる)か、回折環形状差DevA,DevB,DevCにおける(最大値−最小値)を基準回折環の半径rs(α)の平均値raveで除算した値Rが設定値より小さくなると、ステップS176でNoまたはステップS194にてYesと判定して、ステップS196へ行き、ステップS196にて変数Cを残留垂直応力σxにし、ステップS198にてDevCを基準回折環の平均半径値raveで除算した値を回折環形状差DevRにし、ステップS208にてサブプログラムを終了する。
ステップS170乃至ステップS194の収束計算処理を視覚的に示したものが図10である。グラフの線は横軸を残留応力、縦軸を回折環形状差Devとしたときの2つの値の関係を示している。最初、変数A,B,Cを定め、DevCが最小値となったときが○の点であり、変数CとAの間に変数Dを定め、変数CとBの間に変数Eを定め、それぞれの回折環形状差DevD,DevEを計算したものが△の点である。○の点と△の点、5つの中で回折環形状差が最小となる点を新たに変数CとDevCに定め、その両隣の点を新たに変数AとDevAおよび変数BとDevBにして、変数CとAの間に変数Dを定め、変数CとBの間に変数Dを定め、それぞれの回折環形状差DevD,DevEを計算したものが●の点である。さらに、△の点と●の点、5つの中で回折環形状差が最小となる点を新たに変数CとDevCに定め、同様にして変数AとDevAおよび変数BとDevBを定め、変数D,Eと回折環形状差DevD,DevEを計算したものが×の点である。このように、5つの点の中で回折環形状差Devが最小になる点とその両隣の点の3つを定め、3つの点の真ん中の点と両隣の点との間に新たに点を定め、再び5つの点の中で回折環形状差Devが最小になる点とその両隣の点を定める、ということを繰り返していくと、極小値の箇所に3つの点の範囲が狭まっていき、最後には3つの点の回折環形状差Devの差がほとんど0になる。このときの中央の点を収束計算処理が行き着いた値とする。なお、図8に示すフローのサブプログラムは、残留垂直応力σxの1回の収束計算処理であり、後述するように、他の残留応力σy,τxyの収束計算が行われると、残留垂直応力σxにおいて行き着いた値における回折環形状差Devが最小値からずれるので、図8に示すフローのサブプログラムは他の残留応力σy,τxyの収束計算が行われた後、再度行われる。
コントローラ91は、図8に示すフローのサブプログラム(残留垂直応力σxの収束計算プログラム)がステップS208にて終了すると、図6に示すフローのメインプログラムのステップS24へ行き、残留せん断応力τxyの収束計算プログラムをスタートさせる。残留せん断応力τxyの収束計算プログラムは、図8に示すフローのサブプログラムにおいて、残留垂直応力σxを残留せん断応力τxyに変えたのみのプログラムであり、このプログラムによる演算処理は、上述した説明において残留垂直応力σxを残留せん断応力τxyと読み替えるのみである。ただし、変動範囲Sやτmax、それぞれの判定における設定値および上限値は、残留せん断応力τxyにとって適切な値が設定されている。
コントローラ91は、ステップS24の処理が終了するとステップS26へ行き、残留垂直応力σyの収束計算プログラムをスタートさせる。残留垂直応力σyの収束計算プログラムも、図8に示すフローのサブプログラムにおいて、残留垂直応力σxを残留垂直応力σyに変えたのみのプログラムであり、このプログラムによる演算処理は、上述した説明において残留垂直応力σxを残留垂直応力σyと読み替えるのみである。ただし、変動範囲Sやσmax、それぞれの判定における設定値および上限値は、残留垂直応力σyにとって適切な値が設定されている。
コントローラ91は、ステップS26の処理が終了するとステップS28へ行き、最終的な回折環形状差DevRを変数nに対応させて記憶する。そして、ステップS30へ行き、1つ前の変数nに対応する回折環形状差DevRからの減少分decを計算し、ステップS32にて減少分decが設定値より小さいか判定する。この場合、変数nは1又は2であり、1つ前の変数nに対応する回折環形状差DevRはステップS16又はステップS18にて「1」になっているので、必ず設定値より大きく、Noと判定されてステップS34へ行き、変数nをインクリメントしてステップS22からの処理を再度行う。残留応力σx,σy,τxyのそれぞれにおける収束計算は、他の残留応力を固定して行っているので、1度収束計算を行っても、他の残留応力の収束計算を行うと、収束する値が変化する。しかし、残留応力σx,σy,τxyのそれぞれにおける収束計算を繰り返していくと、収束する値は変化せず、回折環形状差DevRも変化しないようになってくる。よって、ステップS22乃至ステップS32の処理を繰り返し、回折環形状差DevRの1つ前のnに対応する回折環形状差DevRからの減少分decが設定値以下、すなわちほとんど変化しないとなった段階で、ステップS32にてYesと判定して、収束計算を終了する。
コントローラ91は、ステップS32にてYesと判定してステップS36へ行くと、最終の回折環形状差DevRが、設定値より小さいか否か判定し、設定値より小さい場合は、ステップS38にて「3軸残留応力測定不要」を表示する。また、設定値より大きい場合は、ステップS40にて「3軸残留応力測定必要」を表示する。これは、平面残留応力でない3軸残留応力であるσz,τxz,τyzが大きいと回折環形状差DevRが大きく、小さいと回折環形状差DevRが小さいため、最終の回折環形状差DevRから3軸残留応力測定の必要性を判定するものである。本願出願人は平面残留応力でない3軸残留応力が大きいと、回折環形状差DevRが大きくなることを複数の測定により確認している。また、基準回折環を定める際の式である数1において、式には平面残留応力でない3軸残留応力であるσz,τxz,τyzがあるが、これらは小さいとして0にして基準回折環を計算しており、σz,τxz,τyzが大きい値であれば、基準回折環からのずれが大きくなることは、理論的にも言える。
コントローラ91は、ステップS42にて、収束計算処理により最終的に行き着いた残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyを表示する。さらに、rαデータにより回折環の形状を表示するとともに、瞬時値I、回転角度θp及び半径値rのデータ群で、瞬時値Iを明度データに変換して、回折環における回折X線の強度分布を表示する。また、回折環形状差DevRをステップS36の設定値とともに表示してもよい。なお、このとき回折環形状差DevRや該設定値は分かりやすい数値に変換して表示してもよい。そして、ステップS44にて図6に示すフローのプログラムを終了する。
図5に示す工程図に戻ると、コントローラ91が表示装置93に上述した表示を行い、図6に示すフローのプログラムを終了した段階で、1回目の測定データ演算工程S6が終了する。次の追加測定判断工程S7にて、作業者は表示装置93に表示された、3軸残留応力測定の必要性の判定結果と、残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyの測定結果から、追加測定を行うか否か判断し、入力装置92から判断結果を入力する。「3軸残留応力測定不要」の判定結果が出ても、出射X線のXY平面における投影方向がX方向である場合は、残留垂直応力σyの測定精度は高くない。よって、残留垂直応力σyの測定精度を高精度にする必要があると判断した場合は、出射X線のXY平面における投影方向がY方向になるようにしたX線回折測定を追加で行う。また、「3軸残留応力測定必要」の判定結果が出た場合は、先行技術文献の特許文献1に示すように、出射X線のXY平面における投影方向がY方向になるようにしたX線回折測定と、出射X線をXY平面の垂線方向にしたX線回折測定を追加で行う。また、「3軸残留応力測定不要」の判定結果が出て、残留垂直応力σxおよび残留せん断応力τxyが高精度で得られればよいと判断した場合は、追加測定は不要と判断する。
作業者が追加測定は不要、と入力装置92から入力した場合は、測定対象物OBの測定は終了し、コントローラ91は入力装置92からの次の入力を待つ状態になるので、作業者は、次の測定対象物OBに対し、図5に示す工程図の位置姿勢調整工程S1から上述したようにX線回折測定を行う。また、作業者が出射X線のXY平面における投影方向がY方向になるようにしたX線回折測定のみを追加で行う、と入力装置92から入力した場合は、コントローラ91は、図5に示す工程図の判定S8でYesと判定して位置姿勢調整工程S1に戻り、上述したように出射X線と光軸が同一であるLED光の照射とカメラ撮影を行う。作業者は上述した位置姿勢調整工程S1のように、X線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を調整し、出射X線のXY平面における投影方向がY方向になるようにする。次に、上述した回折環撮像工程S2、回折環読取り工程S3及び回折環消去工程S4を行うと、コントローラ91は、判定S5でNo、判定S9でYes、判定S10でNoと判定し、2回目の測定データ演算工程S11を行う。なお、この場合も、これらの判定および2回目の測定データ演算工程S11は、回折環消去工程S4と並行して行ってもよい。
2回目の測定データ演算工程S11は、1回目の測定で得られた検出回折環(出射X線のXY平面における投影方向がX方向の回折環)と2回目の測定で得られた検出回折環(出射X線のXY平面における投影方向がY方向の回折環)により、残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyを収束計算で求める演算処理である。コントローラ91は、この演算処理は、図7に示されるフローのプログラム及び、図8に示されるフローのサブプログラムを実行することで行う。以下、図7のフローに従って行われる演算処理を説明する。なお、これ以後、1回目の測定で得られた検出回折環を検出回折環X、2回目の測定で得られた検出回折環を検出回折環Yという。
コントローラ91は、ステップS50にてプログラムをスタートすると、ステップS52にて変数mに「1」を入力する。変数mは、後述するステップS60乃至ステップS74の実施回数を識別する変数である。次にコントローラ91は、ステップS54にて検出回折環Yの半径値rαのデータ数が設定値以上であるか判定し、設定値以上であればYesと判定してステップS56にてcosα法の計算方法により残留垂直応力σyを計算し、回折環形状差DevR(0)に1を入力する。また、検出回折環Yの半径値rαのデータ数が設定値未満であればNoと判定してステップS58にて、回折環形状差DevR(0)に1を入力する。これは図6に示すフローのプログラムと同様、回折環の撮像が良好な場合は、cosα法の計算方法により残留垂直応力σyを計算し、回折環の撮像が良好でない場合は、計算は行わないようにするものである。これを行う目的は、1回目の測定データ演算工程S6にて残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyは既に得られているが、残留垂直応力σyの精度は高くはないので、X線照射方向を変更した検出回折環Yのデータを用いてcosα法の計算方法により残留垂直応力σyを求め、残留垂直応力σyの収束計算の出発点とするためである。なお、cosα法により残留垂直応力を計算するときは、X線照射方向を測定対象物OBの測定点の平面に投影した方向をX方向にしているので、計算により得られるσxをσyにする。
コントローラ91は、次にステップS60にて検出回折環Yの半径値データrαを用いて、収束計算により回折環形状差Devが最小になる残留垂直応力σyを計算する。この計算は、図8に示すフローのサブプログラムを実行することにより、行われる。なお、基準回折環を計算するときは、X線照射方向を測定対象物OBの測定点の平面に投影した方向をX方向にして計算しているので、収束計算を行うときは、既に得られているσxをσyにし、σyをσxにして回折環形状差が最小になるσxを求める。そして、得られたσxをσyにする。この場合、1回目の測定データ演算工程S6を実行することにより変数nは3以上の数になっているため、図8AのステップS102でNoと判定されて、cosα法の計算による残留垂直応力σyの計算の有無によらず、その時点の残留垂直応力σyの値に基づいて変数A,B,Cが定められる。これ以降の計算は、上述した図8に示すフローのサブプログラムの説明と同様である。
コントローラ91は、次にステップS62にて検出回折環Xの半径値データrαを用いて、収束計算により回折環形状差Devが最小になる残留垂直応力σxを計算する。この計算は、1回目の測定データ演算工程S6において行った収束計算と同じである。コントローラ91は、次にステップS64にて検出回折環Yの半径値データrαを用いて、収束計算により回折環形状差Devが最小になる残留せん断応力τxy1を計算する。この計算は、図8に示すフローのサブプログラムにおいてσxをτxyと読み替えたプログラムを実行することにより行われる。コントローラ91は、次にステップS66にて検出回折環Xの半径値データrαを用いて、収束計算により回折環形状差Devが最小になる残留せん断応力τxy2を計算する。この計算は、1回目の測定データ演算工程S6において行った残留せん断応力τxyの収束計算と同じである。コントローラ91は、次にステップS68にて残留せん断応力τxy1,τxy2の値を平均して、正規の残留せん断応力τxyにする。
検出回折環Xを用いた収束計算により残留垂直応力σyを精度よく求めることと、検出回折環Yを用いた収束計算により残留垂直応力σxを精度よく求めることは困難であるため、残留垂直応力σx,σyの収束計算は、検出回折環X,Yをそれぞれ用いた収束計算のみである。これに対し、残留せん断応力τxyの収束計算は、検出回折環X,Yのどちらを用いても、同程度の精度で値を求めることができる。よって、検出回折環X,Yを用いたそれぞれの収束計算で求めた残留せん断応力τxy1,τxy2の値を平均して、正規の残留せん断応力τxyにする。
コントローラ91は、次にステップS70にて検出回折環Yの回折環形状差DevRと検出回折環Xの回折環形状差DevRの平均を回折環形状差DevRとし、現時点の変数m(この段階では1)に対応させる。次に、ステップS72にて回折環形状差DevRの1つ前のmにおける回折環形状差DevRからの変化分decを計算して記憶し、ステップS74にて変化分decが設定値より小さいか判定する。この段階ではmは1であり、m=0に対応する回折環形状差DevRはステップS56又はステップS58にて「1」にされているので、変化分decは設定値より大きく、Noと判定されてステップS76へ行き、mがインクリメントされて、ステップS60へ戻る。この後、上述したステップS60乃至ステップS74の処理が繰り返され、図6に示すフローの収束計算プログラムの場合と同様、変化分decは小さくなっていき、設定値より小さくなる、すなわち変化分decはほとんど0になる。この段階で、ステップS74にてYesと判定されて、ステップS78にて収束計算により最終的に得られた残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyを表示装置93に表示する。また、1回目の測定データ演算工程S6の場合と同様、検出回折環X,Yの形状、および検出回折環X,Yの回折X線の強度分布を表示する。また、回折環形状差DevRを設定値とともに分かりやすい数値に変換して表示してもよい。そして、ステップS80にて図7に示すフローのプログラムを終了する。
図5に示す工程図に戻ると、コントローラ91が表示装置93に上述した表示を行い、図7に示すフローのプログラムを終了した段階で、2回目の測定データ演算工程S11は終了し、測定対象物OBの測定は終了する。そして、コントローラ91は入力装置92からの次の入力を待つ状態になる。作業者は、次の測定対象物OBに対し、図5に示す工程図の位置姿勢調整工程S1から上述したようにX線回折測定を行う。
図5に示す工程図の1回目の測定データ演算工程S6の終了時点に戻り、追加測定判断工程S7にて、作業者が出射X線のXY平面における投影方向がY方向になるようにしたX線回折測定と、出射X線をXY平面の垂線方向にしたX線回折測定を追加で行う、すなわち3軸残留応力測定のための追加測定を行う、と入力装置92から入力した場合は、コントローラ91は、図5に示す工程図の判定S8でYesと判定して位置姿勢調整工程S1に戻り、上述したように出射X線と光軸が同一であるLED光の照射とカメラ撮影を行う。この後は上述したように位置姿勢調整工程S1、回折環撮像工程S2、回折環読取り工程S3及び回折環消去工程S4を行うと、コントローラ91は、判定S5でNo、判定S9でYes、判定S10でYesと判定し、再度位置姿勢調整工程S1に戻り、出射X線と光軸が同一であるLED光の照射とカメラ撮影を行う。作業者は、X線回折測定装置(筐体50)の位置と姿勢を調整し、出射X線がXY平面の垂線方向になり、距離Lが設定距離になるようにする。この場合は、撮影画面には受光点は表示されず、照射点のみであるので、作業者は測定対象物OBのLED光照射点の近くにミラーを置き、LED光の反射光がナット状の固定具18の貫通孔18a付近で受光されるよう測定装置(筐体50)の姿勢を調製し、撮影画面の十字マークのクロス点に照射点がくるよう測定装置(筐体50)の位置を調整する。
この後、上述したように回折環撮像工程S2、回折環読取り工程S3及び回折環消去工程S4を行うと、コントローラ91は、判定S5でNo、判定S9でNoと判定し、3回目の測定データ演算工程S12を行う。なお、この場合も、判定S5,S9と3回目の測定データ演算工程S12は、回折環消去工程S4と並行して行ってもよい。3回目の測定データ演算工程S12は、1回目の測定で得られた検出回折環Xと、2回目の測定で得られた検出回折環Yと、3回目の測定で得られた検出回折環(以下、検出回折環Zという)により、3軸残留応力である、残留垂直応力σx,σy,σzおよび残留せん断応力τxy,τxz,τyzを求める演算処理である。この演算処理における計算は、先行技術文献の特許文献1である特開2011−27550号公報に示されている計算方法を用いる。この場合、収束計算により3軸残留応力の6つの値を求めると、計算に時間がかかる上、測定精度もよくならない。よって、従来のcosα法による計算を用いる。なお、回折環の撮像が良好でなくcosα法による計算が不可能か、計算精度が悪い場合は、上述した検出回折環X,Y用いた収束計算により、残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyのみを求めるようにする。
コントローラ91が表示装置93に3軸残留応力と、検出回折環X,Y,Zの形状、および検出回折環X,Y,Zの回折X線の強度分布を表示した段階で、3回目の測定データ演算工程S12は終了し、測定対象物OBの測定は終了する。そして、コントローラ91は入力装置92からの次の入力を待つ状態になる。作業者は、次の測定対象物OBに対し、図5に示す工程図の位置姿勢調整工程S1から上述したようにX線回折測定を行う。
上記説明からも理解できるように、上記実施形態においてはX線回折測定システムを、対象とする測定対象物OBに向けてX線を出射するX線出射器10と、X線出射器10から出射されるX線の、測定対象物OBの表面に対する照射方向を調整する、X線回折測定装置の筐体50に接続されたアーム式移動装置と、アーム式移動装置によりX線出射器10から出射されるX線の照射方向を調整したうえで、X線出射器10から測定対象物OBに向けてX線を照射し、測定対象物OBのX線照射箇所にて発生したX線の回折光を、X線出射器10から出射されるX線の光軸に対して垂直に交差するイメージングプレート15にて受光し、イメージングプレート15にX線の回折光の像である回折環を形成するとともに回折環の形状を検出するレーザ検出装置30、テーブル駆動機構20、各種回路およびコントローラ91の演算プログラムとを備えたX線回折測定システムにおいて、アーム式移動装置によりX線出射器10から出射されるX線が、測定対象物OBの表面に設定された角度で入射するよう調整したときの、コントローラ91および各種装置および回路により検出された回折環の形状を、測定対象物OBのX線照射箇所における平面内において、互いに直交する2方向の残留垂直応力と平面の残留せん断応力とにおける仮の値から計算される基準回折環の形状と比較し、回折環形状差を計算する回折環形状差計算プログラムと、回折環形状差計算プログラムにより、仮の値を変化させるごとの回折環形状差を計算する収束計算プログラムであって、回折環形状差が小さくなる方向に仮の値を変化させ、最も小さい回折環形状差を検出する収束計算プログラムと、収束計算プログラムにより検出された最も小さい回折環形状差と予め設定された設定値とを比較し、測定対象物OBの3軸残留応力測定の必要性を判定する判定プログラムとをコントローラ91に備えたX線回折測定システムとしている。
これによれば、X線回折測定システムに、回折環形状差計算プログラム、収束計算プログラムおよび判定プログラムを実行するコントローラ91を備え、測定対象物OBの表面に設定された入射角度でX線を照射してX線回折測定を行った後、コントローラ91による演算を行えば、最も小さい回折環形状差と設定値との比較結果から、測定対象物OBの3軸残留応力測定の必要性を判定することができる。すなわち、測定対象物OBの表面に設定された入射角度でX線を入射させ回折環を検出することは、平面残留応力を求めるためのX線回折測定であるので、平面残留応力を求めるためのX線回折測定結果から3軸残留応力測定の必要性を判定することができる。そして、3軸残留応力測定不要と判定され、X線照射箇所の平面内におけるX線照射方向の垂直方向の残留垂直応力σyを精度よく求める必要がないときは、行った測定のみで測定を終了する。また、3軸残留応力測定不要と判定され、X線照射箇所の平面内におけるX線照射方向の垂直方向の残留垂直応力σyを精度よく求める必要があるときは、X線照射箇所の平面内におけるX線照射方向を90度変更した方向からX線を照射する追加のX線回折測定を行い、2つの回折環の形状から平面残留応力を求める。また、3軸残留応力測定必要と判定されたときは、X線照射箇所の平面内におけるX線照射方向を90度変更した方向からX線を照射するX線回折測定と、X線照射箇所の平面の垂線方向からX線を照射するX線回折測定の2つを追加で行い、3つの回折環の形状から3軸残留応力を求める。すなわち、3軸残留応力測定必要と判定された場合のみ、3方向からのX線照射によるX線回折測定を行うので、測定時間を無駄にすることがなくなる。
また、上記実施形態においては、コントローラ91に、コントローラ91および各種装置および回路により検出された回折環の形状を用いて、cosα法の計算方法により残留垂直応力と残留せん断応力を計算するcosα法残留応力計算プログラムを備え、コントローラ91の収束計算プログラムは、cosα法残留応力計算プログラムにより計算された残留垂直応力と残留せん断応力を最初の仮の値にして、回折環形状差が小さくなる方向に仮の値を変化させるようにしている。これによれば、仮の値を変化させ、最も小さい回折環形状差に到達するまでの計算処理の回数を減らすことができ、3軸残留応力測定の必要性を判定するまでの時間を短くすることができる
また、上記実施形態においては、コントローラ91に、コントローラ91および各種装置および回路が、X線照射箇所の平面の垂線に対し所定の角度を有し、X線照射箇所の平面内において異なる2方向からX線出射器10からのX線が照射されたときの、検出回折環X,Yの形状をそれぞれ検出した場合における測定対象物OBの平面残留応力を計算する平面残留応力計算プログラムであって、コントローラ91の収束計算プログラムにより、検出回折環X,Yのそれぞれにおいて、仮の値を変化させるごとの回折環形状差をコントローラ91の回折環形状差計算プログラムにより計算するとともに、回折環形状差が小さくなる方向に仮の値を変化させ、検出回折環X,Yのそれぞれにおける、回折環形状差が最も小さくなったときの仮の値を用いて、X線照射箇所の平面の2方向における残留垂直応力と平面の残留せん断応力を計算する平面残留応力計算プログラムを備えている。これによれば、平面残留応力をより精度よく求めることができる。
なお、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記実施形態では、X線回折測定システムのコントローラ91に検出回折環の形状を用いて、収束計算により残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyを求めるとともに、測定対象物OBの3軸残留応力の必要性を判定するプログラムを備えた。しかし、X線回折測定に時間がかかってもよい場合は、X線回折測定システムは検出回折環のデータを得るのみにし、別のコンピュータ装置に検出回折環のデータを入力して、同様のプログラムにより同様の処理を行うようにしてもよい。この場合、別のコンピュータ装置に検出回折環のデータを入力する方法としては、記録媒体を介する方法、ネット回線等を使用して転送する方法等、様々な方法が考えられる。
また、上記実施形態では、X線回折測定装置を、イメージングプレート15に回折環を撮像し、レーザ検出装置30からのレーザ照射と光の強度検出により、回折環の形状を検出する装置としたが、回折環を撮像して形状を検出することができるならば、どのような方式の装置でもよい。例えば、イメージングプレート15の代わりにイメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDを備え、X線出射器10からのX線照射の際、X線CCDの各画素が出力する電気信号により回折環における回折X線の強度分布を検出する装置でもよい。また、イメージングプレート15と同じ広さの平面を有するX線CCDの代わりに、微小サイズのX線CCDを位置を検出しながら走査し、X線CCDの各画素が出力する電気信号とX線CCDの走査位置から、回折環における回折X線の強度分布を検出する装置でもよい。また、X線CCDに替えてシンチレータから出た蛍光を、光電子増倍管(PMT)で検出するシンチレーションカウンタを用いる装置でもよい。
また、上記実施形態では、X線回折測定装置(筐体50)がアーム式移動装置に接続され、LED光が対象物OBに照射された撮像画面を見ながら、アーム式移動装置を操作することで、測定対象物OBに対する筐体50の位置と姿勢を調整し、出射X線の照射方向を調整するX線回折測定システムにした。しかし、測定対象物OBに対する出射X線の照射方向を調整することができれば、X線回折測定システムをどのような構成にしてもよい。例えば、先行技術文献の特許文献2である特開2014−66545号公報に示されているように、測定対象物OBに対するX線回折測定装置(筐体)の接触方法を変化させることで、出射X線の照射方向を変化させることができる構成にしてもよい。
また、上記実施形態では、検出回折環X,Yから収束計算により回折環形状差Devが最小になる残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyを計算するとき、検出回折環Yを得るための出射X線の測定対象物OBの平面における方向をY方向、すなわちX方向に対し90度の角度がある方向にした。しかし、検出回折環Yを得るための出射X線の測定対象物OBの平面における方向はX方向に対し90度でなくても、X方向に対する角度が分かれば、収束計算により残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyを計算することができる。この場合は、検出回折環Yを得たときの出射X線の測定対象物OBの平面における方向と本来のX方向との角度をθとし、検出回折環Yを得たときの出射X線の測定対象物OBの平面における方向を仮のX方向、測定対象物OBの平面における仮のX方向から90度の方向を仮のY方向、本来のX方向をθ方向とし、仮のY方向の残留垂直応力をσy、仮のX方向における残留垂直応力をσx、本来のX方向であるθ方向における残留垂直応力をσθとすると、コーシーの定理により導かれる以下の数5を用いることで、残留垂直応力σyは、残留垂直応力σx,σθおよび残留せん断応力τxyから求めることができる。そして、残留垂直応力σx,σy、及び残留せん断応力τxyが定まれば基準回折環を計算することができるので、仮のX方向における残留垂直応力σxを変化させることで収束計算を行うことができる。
そして、収束計算により求められた仮のX方向における残留垂直応力σxから正規のY方向における残留垂直応力σyを求めるには、収束計算により求められた残留垂直応力σxをσθにし、本来のX方向における残留垂直応力σxと残留せん断応力τxyとともに、数5に当てはめて計算すればよい。
また、上記実施形態では、収束計算により回折環形状差Devが最小になる残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyを計算する際、1つの値を動かし、それ以外の値は固定するようにして、それぞれの値の収束計算を順に行う演算処理を繰り返すようにした。しかし、回折環形状差Devが最小になる残留垂直応力σx,σyおよび残留せん断応力τxyを求めることができれば、どのような収束計算を行うようにしてもよい。