以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下、直噴エンジンの実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は例示である。図1に示されるように、エンジンシステムは、エンジン(エンジン本体)1、エンジン1に付随する様々なアクチュエータ、様々なセンサ、及びセンサからの信号に基づきアクチュエータを制御するエンジン制御器100を有する。このエンジンシステムは、幾何学的圧縮比が12以上20以下(例えば14)の高圧縮比エンジン1を備える。
エンジン1は、火花点火式4ストローク内燃機関であって、図1には1つのみ図示するが、直列に配置された第1〜第4の4つの気筒11を有する。但し、ここに開示する技術が適用可能なエンジンは、直列4気筒エンジンには限定されない。エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、その出力軸は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン1の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。
このエンジン1には、エタノール(バイオエタノールを含む)を含有する燃料が供給される。特にこの車両は、エタノールの濃度が25%(つまり、E25)〜100%(つまり、E100)までの任意の濃度の燃料が使用可能なFFVである。図示は省略するが、この車両は、前記の燃料を貯留する燃料(メインタンク)のみを有しており、従来のFFVのように、ガソリン濃度の高い燃料を、メインタンクとは別に貯留するためのサブタンクを有していない。ただし、サブタンクを設けてもよい。
エンジン1は、シリンダブロック12と、シリンダブロック12の上に載置されるシリンダヘッド13と、シリンダブロック12に下に設けられるオイルパン23とを備えている。ブロック12の内部に気筒11が形成されている。周知のように、シリンダブロック12には、ジャーナル、ベアリングなどによりクランクシャフト14が回転自在に支持されており、このクランクシャフト14が、コネクティングロッド16を介してピストン15に連結されている。シリンダブロック12の下部とオイルパン23とによってクランク室12aが形成されている。オイルパン23の内側には、エンジンオイルを貯留するオイル貯留部23aが形成されている。オイル貯留部23aとクランク室12aとは、連通している。
各気筒11の天井部には、略中央部からシリンダヘッド13の下端面付近まで延びる2つの傾斜面が形成されており、それらの傾斜面が互いに差し掛けられた屋根のような形状をなすいわゆるペントルーフ型となっている。
前記ピストン15は、各気筒11内に摺動自在に嵌挿されており、気筒11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画している。ピストン15の頂面は、前述した気筒11の天井面のペントルーフ型の形状に対応するように、その周縁部から中央部に向かって***する台形状に形成されており、これによって、ピストン15が圧縮上死点に到達したときの燃焼室容積を小さくして、12以上の高い幾何学的圧縮比を達成している。ピストン15の頂面にはまた、その概略中心位置に、概ね球面状に凹陥したキャビティ151が形成されている。このキャビティ151は、気筒11の中心部に配設された点火プラグ51に相対するように、配置されており、これによって、燃焼期間を短縮するようにしている。つまり、前述したように、この高圧縮比エンジン1は、ピストン15の頂面が***していて、ピストン15が圧縮上死点に到達したときに、ピストン15の頂面と気筒11の天井面との間隔が極めて狭くなるように構成されている。このため、キャビティ151を形成していないときには、初期火炎がピストン15の頂面と干渉して冷却損失が増大し、火炎伝播が阻害されて燃焼速度が遅延してしまう。これに対し、前記のキャビティ151は、初期火炎の干渉を回避して、その成長を妨げないため、火炎伝播が速くなって、燃焼期間が短縮し得る。このことは、ガソリン濃度の高い燃料においては、ノッキングの抑制に有利になり、点火時期の進角によるトルクの向上に寄与する。
気筒11毎に、吸気ポート18及び排気ポート19がシリンダヘッド13に形成され、それぞれが燃焼室17に連通している。吸気弁21及び排気弁22はそれぞれ、吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構30により、排気弁22は排気弁駆動機構40により、それぞれ駆動され、それによって所定のタイミングで往復動して、吸気ポート18及び排気ポート19を開閉する。
吸気弁駆動機構30及び排気弁駆動機構40は、それぞれ吸気カムシャフト31及び排気カムシャフト41を有する。カムシャフト31,41は、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介してクランクシャフト14に連結される。動力伝達機構は、周知のように、クランクシャフト14が二回転する間に、カムシャフト31,41を一回転させる。
吸気弁駆動機構30は、吸気弁21の開閉時期を変更可能な吸気バルブタイミング可変機構32を含んで構成され、排気弁駆動機構40は、排気弁22の開閉時期を変更可能な排気バルブタイミング可変機構42を含んで構成される。吸気バルブタイミング可変機構32は、この実施形態では、吸気カムシャフト31の位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な電動式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)により構成され、排気バルブタイミング可変機構42は、排気カムシャフト41の位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な電動式の位相可変機構により構成されている。吸気バルブタイミング可変機構32は、吸気弁21の閉弁時期を変更することにより、有効圧縮比を調整し得るものである。尚、有効圧縮比とは、吸気弁閉弁時の燃焼室容積と、ピストン15が上死点にあるときの燃焼室容積との比である。尚、VVTは、液圧式又は機械式であってもよい。
点火プラグ51は、例えばねじ等の周知の構造によって、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ51の電極は、気筒11の概略中心において燃焼室17の天井部に臨んでいる。点火システム52は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、点火プラグ51が所望の点火タイミングで火花を発生するよう、それに通電する。
燃料噴射弁53は、例えばブラケットを使用する等の周知の構造で、この実施形態ではシリンダヘッド13の一側(図例では吸気側)に取り付けられている。このエンジン1は、燃料を気筒11内に直接噴射する、いわゆる直噴エンジンであり、燃料噴射弁53の先端は、上下方向については吸気ポート18の下方に、また、水平方向については気筒11の中央に位置して、燃焼室17内に臨んでいる。但し、燃料噴射弁53の配置はこれに限定されるものではない。燃料噴射弁53は、この例においては、多噴口(例えば6噴口)型の燃料噴射弁(Multi Hole Injector:MHI)である。各噴口の向きは、図示は省略するが、気筒11内の全体に燃料が噴射できるように、噴口軸の芯先が広がっている。MHIの利点は、多噴口であるため一噴口の径が小さく、比較的高い圧力で燃料を噴射し得る点、及び、気筒11内の全体に燃料を噴射可能に広がっているため、燃料のミキシング性が高まると共に、燃料の気化・霧化が促進される点にある。従って、吸気行程中に燃料を噴射した場合は、気筒11内の吸気流動を利用した、燃料のミキシング性、及び、気化・霧化の促進の点で有利になる一方、圧縮行程において燃料を噴射した場合は、燃料の気化・霧化の促進により、気筒11内のガス冷却の点で有利になる。尚、燃料噴射弁53は、MHIに限定されるものではない。
燃料供給システム54は、燃料を昇圧して燃料噴射弁53に供給する高圧ポンプ(燃料ポンプ)と、この高圧ポンプに対して燃料タンクからの燃料を送る配管やホース等と、燃料噴射弁53を駆動する電気回路と、を備えている。燃料ポンプは、この例ではエンジン1によって駆動される。尚、燃料ポンプを電動ポンプとしてもよい。燃料噴射弁53が多噴口型である場合は、微小な噴口から燃料を噴射するために、燃料噴射圧力は比較的高く設定される。電気回路は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて燃料噴射弁53を作動させ、所定のタイミングで所望量の燃料を、燃焼室17内に噴射させる。ここで、燃料供給システム54は、エンジン回転数が上昇するに伴い燃圧を高く設定する。これは、エンジン回転数が上昇するに伴い、気筒11内に噴射される燃料量も増大するが、燃圧が高くなることで、燃料の気化・霧化に有利になると共に、燃料噴射弁53の燃料噴射に係るパルス幅を可及的に短くするという利点がある。前述したように、燃料タンクには、E25〜E100までの任意のエタノール濃度のアルコール含有燃料が貯留されている。
吸気ポート18は、吸気マニホールド55内の吸気経路55bによってサージタンク55aに連通している。図示しないエアクリーナからの吸気流は、スロットルボディ56を通過してサージタンク55aに供給される。スロットルボディ56にはスロットル弁57が配置されており、このスロットル弁57は、周知のようにサージタンク55aに向かう吸気流を絞って、その流量を調整する。スロットル・アクチュエータ58が、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、スロットル弁57の開度を調整する。吸気マニホールド55及びスロットルボディ56は、吸気通路の一部を構成する。
サージタンク55aには、PCV(Positive Crankcase Ventilation)ホース59の下流端が接続されている。PCVホース59の上流端は、エンジンブロック12にPCVバルブ59aを介して接続されている。PCVホース59は、エンジンブロック12のクランク室12aと連通している。PCVバルブ59aは、PCVホース59を開閉することができる。つまり、PCVバルブ59aが開かれると、PCVホース59とクランク室12aが連通し、PCVバルブ59aが閉じられると、PCVホース59とクランク室12aが遮断される。サージタンク55aには、クランク室12a内のブローバイガスがPCVホース59を介して流入する。
排気ポート19は、排気マニホールド60内の排気経路によって周知のように排気管61内の通路に連通している。この排気マニホールド60は、図示を省略するが、各気筒11の排気ポート19に接続された分岐排気通路が、排気順序が隣り合わない気筒同士で第1集合部により集合され、各第1集合部の下流の中間排気通路が第2集合部で集合された構造となっている。すなわち、このエンジン1の排気マニホールド60には、いわゆる4−2−1レイアウトが採用されている。排気管61には、リニアO2センサ79が設けられている。リニアO2センサ79は、排気ガス中の酸素濃度に基づいて混合気の空燃比を検出する。
エンジン1にはまた、その始動時にクランキングを行うためのスタータモータ20が設けられている。
エンジン制御器100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。エンジン制御器100は、制御部の一例である。
尚、制御部は、ハードロジックで実現してもよい。制御部は、1つの素子で構成してもよいし、物理的に複数の素子で構成してもよい。複数の素子で構成する場合、1つの制御を複数の素子で実現してもよい。
エンジン制御器100は、エアフローセンサ71からの吸気流量及び吸気温度、吸気圧センサ72からの吸気マニホールド圧、クランク角センサ73からのクランク角パルス信号、水温センサ78からのエンジン水温、リニアO2センサ79からの空燃比というように、種々の入力を受ける。エンジン制御器100は、例えばクランク角パルス信号に基づいて、エンジン回転数を計算する。また、エンジン制御器100は、アクセル・ペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ75からのアクセル開度信号を受ける。さらに、エンジン制御器100には、変速機の出力軸の回転速度を検出する車速センサ76からの車速信号が入力される。加えて、シリンダブロック12には、当該シリンダブロック12の振動を電圧信号に変換して出力する加速度センサからなるノックセンサ77が取り付けられており、その出力信号もエンジン制御器100に入力される。
エンジン制御器100は前記のような入力に基づいて、以下のようなエンジン1の制御パラメータを計算する。例えば、所望のスロットル開度信号、燃料噴射パルス、点火信号、バルブ位相角信号等である。そしてエンジン制御器100は、それらの信号を、スロットル・アクチュエータ58、燃料供給システム54、点火システム52、並びに、吸気及び排気バルブタイミング可変機構32、42等に出力する。エンジン制御器100はまた、エンジン1の始動時には、スタータモータ20に駆動信号を出力する。
ここで、FFV用のエンジンシステムに特有の構成として、エンジン制御器100は、リニアO2センサ79の検知結果に基づいて、燃料噴射弁53が噴射する燃料のエタノール濃度を推定する。エタノールの理論空燃比(9.0)は、ガソリンの理論空燃比(14.7)よりも小さく、燃料のエタノール濃度が高いほど理論空燃比はリッチ側(つまり、理論空燃比の値が小さくなる)になることから、理論空燃比でエンジンを運転している条件下において、排気ガス中に燃え残りの酸素が存在しているときには、燃料のエタノール濃度が予想よりも高かったと判断することができる。エンジン制御器100は、リニアO2センサ79が出力した信号から、空燃比がリーンのときには、燃料中にガソリンが多いと判定する一方、空燃比がリッチのときには燃料中にエタノールが多いと判定することにより、燃料におけるエタノール濃度を推定する。
エンジン制御器100はさらに、リニアO2センサ79の検知結果に基づいて、気筒11内に供給した燃料の気化率を算出する。気化率は、気筒11内に供給する燃料量(言い換えると、燃料噴射弁53が噴射した燃料量)に対する、燃焼に寄与した燃料量の重量比によって定義される。エンジン制御器100は、混合気の空燃比と、リニアO2センサ79の検出値とに基づいて燃焼に寄与した燃料量の重量を算出し、算出した燃料重量と、燃料噴射弁53の燃料噴射量とから気化率を算出する。
このエンジンシステムは、前述の通りFFVに搭載されたシステムであり、エンジン1には、E25〜E100までの任意の混合比のアルコール含有燃料が供給される。ここで、図2は、ガソリンの気化特性とエタノールの気化特性とを比較する図である。尚、図2は、1気圧下における温度変化に対する、ガソリン及びエタノールそれぞれの蒸留量(%)の変化を示している。ガソリンは多成分燃料であることから、各成分の沸点に応じて蒸発する。ガソリンの蒸留量は、温度変化に対しおおよそ線形的に変化することなる。つまり、ガソリンは、エンジン1の温度状態が比較的低いときにも気化して、可燃混合気を形成することが可能である。
これに対しエタノールは単一成分燃料であることから、特定温度(つまり、エタノールの沸点である78℃)以下では、蒸留量が0%になる一方で、特定温度を超えると、蒸留量が100%になる。このように、ガソリンとエタノールとを比較すると、特定温度以下では、エタノールの蒸留量の方がガソリンの蒸留量よりも低くなる一方で、特定温度を超えると、エタノールの蒸留量の方がガソリンの蒸留量よりも高くなる。そのため、エンジン1の温度状態が所定温度以下(例えば水温が20℃以下程度)の冷間状態では、エタノールを含有する燃料は、ガソリンと比較して気化率が低くなる。そうして、エンジン1が冷間状態にあるときには、エンジン1の温度状態が低いほど、また燃料のエタノール濃度が高いほど、燃料の気化率は低下することになる。
このように、エンジン1の温度状態や、燃料のエタノール濃度によって燃料の気化率が変化することから、エンジン制御器100は、目標となる気化燃料量が得られるように、エンジン負荷等に応じて設定されるベースの燃料量に対し、燃料の気化率に応じて燃料量の増量補正を行う。すなわち、燃料の気化率が低いほど、燃料噴射弁53が噴射する燃料量は増量する。
このように構成されたエンジン1において、エンジン制御器100は、少なくとも部分負荷領域であって且つ排気弁22の開弁期間と吸気弁21の開弁期間とが部分的にオーバーラップする運転領域において、燃料の気化率に応じて吸気負圧を調整している。ここで、「の部分負荷領域」とは、例えば全開負荷を含む高負荷以外の負荷領域のことであり、エンジンの負荷領域を分割したときに、全開負荷を含む高負荷領域よりも少なくとも低負荷側の領域を意味する。例えば、「部分負荷」は、エンジンの負荷領域を低負荷領域と高負荷領域とに2分割したときの低負荷領域としてもよいし、エンジンの負荷領域を、例えば低負荷領域、中負荷領域及び高負荷領域に3分割したときの低・中負荷領域としてもよい。そして、この運転領域においては、排気弁22が閉弁する前に吸気弁21が開弁するので、内部EGRが行われる。尚、排気弁22の閉弁時期は、排気上死点よりも遅い時期に設定されている。以下、該運転領域を内部EGR運転領域と称する。以下に、図3を参照しながら、内部EGR運転領域における吸気負圧の制御について説明する。図3において、(A)は、燃料の気化率に対する吸気バルブタイミング可変機構の閉弁タイミングを示し、(B)は、燃料の気化率に対するスロットル弁開度を示し、(C)は、燃料の気化率に対する吸気マニホールド負圧を示す。
ここで、燃料の気化率は、運転条件に応じて変化する。例えば、エンジン1の温度が低くなるほど、燃料の気化率は低下する。また、燃料中のエタノール濃度が高くなるほど、燃料の気化率は低下する。
エンジン制御器100は、まず、エタノール濃度に応じて燃料の気化率の高低を判定する。エンジン制御器100は、エタノール濃度が所定濃度より高ければ、燃料の気化率が高い第1運転条件下であると判定する一方、エタノール濃度が所定濃度以下であれば、燃料の気化率が低い第2運転条件下であると判定する。エンジン制御器100は、前述の如く推定したエタノール濃度を用いて燃料の気化率を判定する。
第1運転条件下においては、エンジン制御器100は、吸気弁21の閉弁時期を吸気下死点よりも所定角度だけ遅角側に設定する。吸気の遅閉じにより、ポンプ損失を低減し燃費の向上を図っている。図3(A)において、吸気バルブタイミング可変機構32が最も遅角側に設定された、気化率が高い領域が第1運転条件下での運転領域に相当する。このとき、エンジン制御器100は、スロットル弁57の開度を要求出力に応じた開度に設定している。また、エンジン制御器100は、混合気形成期間を十分に確保するために、燃料噴射時期を吸気行程に設定する。吸気行程期間中に燃料を噴射することは、吸気流動を利用して混合気の形成に有利になる。
一方、第2運転条件下では、エンジン制御器100は、第1運転条件下よりも、吸気弁21の閉弁時期を進角させて吸気下死点に近づけると共に、スロットル弁57の開度を開く。図3(A)において、吸気バルブタイミング可変機構32が最も遅角側に設定された領域の途中から低気化率側の領域が第2運転条件下での運転領域に相当する。このとき、エンジン制御器100は、燃料の気化率に応じて、吸気弁21の進角量及びスロットル弁57の開度を調整する。尚、第2運転条件下においては、エンジン制御器100は、エンジン1の温度に基づいて燃料の気化率を判定している。つまり、エンジン制御器100は、エタノール濃度が所定濃度以下のときには、エタノール濃度にかかわらずエンジン1の温度のみによって燃料の気化率を判定する。ただし、これに限られるものではなく、エタノール濃度及びエンジン1の温度に基づいて燃料の気化率を判定してもよい。エンジン制御器100は、水温センサ78からのエンジン水温に基づいてエンジン1の温度を判定している。
詳しくは、エンジン制御器100は、エンジン1の温度が低いほど、即ち、燃料の気化率が低いほど、吸気弁21の進角量を大きくする。吸気弁21の閉弁時期を進角させることによって、エンジン1の有効圧縮比を高めることができる。エンジン1の有効圧縮比が高くなると、圧縮行程における気筒11内の圧力及び温度を高くすることができ、燃焼安定性が向上する。また、気筒11内の温度が高くなることは、燃料の気化の点においても有利であり、このことによっても燃焼安定性が向上する。尚、本実施形態では、エンジン制御器100は、エンジン1の温度が低いほど、吸気弁21の進角量を階段状に大きくする。これにより、吸気バルブタイミング可変機構32の応答性が高くなくても、吸気弁21の進角量を燃料の気化率に応じて調整することができる。
ここで、吸気バルブタイミング可変機構32は位相可変機構であるため、吸気弁21の閉弁時期を進角させると、吸気弁21の開弁時期も進角する。吸気弁21の開弁時期が進角すると、排気弁22の開弁期間と吸気弁21の開弁期間とのオーバーラップ量が増加する。その結果、内部EGRにより気筒11内に還流するEGRガスの量が増大し得る。EGRガスは、不活性ガスであるため、燃焼安定性に悪影響を及ぼし得る。第2運転条件下は、そもそも燃料の気化率が低く、燃焼安定性が良くないため、EGRガスによる影響が大きい。
そこで、エンジン制御器100は、図3(B)に示すように、エンジン1の温度が低いほど、即ち、燃料の気化率が低いほど、スロットル弁57の開度を大きくする。スロットル弁57の開度を大きくすることによって、図3(C)に示すように、吸気負圧(吸気マニホールド負圧)を低下させることができる。内部EGRによるEGRガス量は、排気マニホールド60と吸気マニホールド55との圧力差に依存するので、吸気負圧を低下させることによって、EGRガス量を低減することができる。EGRガス量を低減することにより、燃焼安定性を向上させることができる。尚、スロットル弁57の開度は、吸気弁21の閉弁時期と異なり、エンジン1の温度に対して連続的に、即ち、漸次変化させている。スロットル弁57の開度は乗り心地に与える影響が大きいため、階段状ではなく連続的に変化させている。
さらに、吸気負圧を低下させることによって、吸気充填量が増加する。そのため、EGRガス量の低下に加えて、充填空気量が増加することによって、気筒11内のEGRガス率を大幅に低下させることができる。これにより、燃焼安定性をより一層向上させることができる。
それに加えて、吸気負圧を低下させて吸気充填量が増加することによって、有効圧縮比を高くすることができる。前述の如く、有効圧縮比を高くすることによって、圧縮行程における気筒11内の圧力及び温度を高くすることができ、燃焼安定性を向上させることができる。この点においても、燃焼安定性を向上させることができる。
尚、スロットル弁57の開度を大きくすることによって、エンジン1の出力が大きくなる。そのため、エンジン制御器100は、オルタネータを作動させることによって要求出力以上の出力を電力に変化している。ただし、第2運転条件下においてエンジン1の出力が増大するのはエンジン1の温度が低いときであり、このときにはトランスミッション抵抗等が大きい。そのため、エンジン1の出力の増大分は、トランスミッション抵抗により消費され得る。また、点火時期又は燃料の噴射量を調整して、出力を調整してもよい。
第2運転条件下においては、エンジン制御器100は、燃料噴射時期を吸気行程と圧縮行程とに設定し、吸気行程における第1噴射と圧縮行程における第2噴射との分割噴射を行う。吸気行程と圧縮行程との両方で燃料噴射を行うことによって、燃焼の噴射期間を十分に確保することができる。それに加えて、燃料の一部を吸気行程で噴射することにより、混合気の形成期間を十分に確保することが可能になる。また、吸気行程噴射を行うことは、吸気流動を利用して、燃料の気化に有利になる。また、燃料の一部を圧縮行程で噴射することにより、気筒11内の高い温度を利用して、燃料の気化を促進することができる。
したがって、エンジン1は、特定温度以下の状態下でガソリンよりも気化率の低い特殊燃料を含む燃料が供給されるように構成されたエンジンであって、前記エンジン1の吸気ポート18を開閉する吸気弁21と、前記エンジン1の排気ポート19を開閉する排気弁22と、前記エンジン1の運転を制御するエンジン制御器100とを備え、前記エンジン制御器100は、前記吸気弁21の開弁期間と前記排気弁22の開弁期間とがオーバーラップする運転領域である内部EGR運転領域を有し、該内部EGR運転領域において前記燃料の気化率が低い第2運転条件下では前記燃料の気化率が高い第1運転条件下に比べて吸気負圧を低下させる。
この構成によれば、吸気負圧を低下させることによって、EGRガス量を低減することができ、燃焼安定性を向上させることができる。また、吸気負圧を低下させることによって、EGRガス量を低減できることに加えて、吸気充填量を増加させることができるので、EGRガス率を大幅に低減することができる。これにより、燃焼安定性をより一層向上させることができる。また、吸気充填量が増加することによって、有効圧縮比を高くすることができる。これにより、圧縮行程における圧力及び温度を高くすることができ、この点においても燃焼安定性を向上させることができる。さらには、圧縮行程における温度が高くなることによって、燃料の気化を促進することができ、この点においても燃焼安定性を向上させることができる。
また、エンジン1は、吸気通路に設けられたスロットル弁57をさらに備え、前記エンジン制御器100は、前記スロットル弁57を開くことによって吸気負圧を低下させる。つまり、吸気負圧の低下は、スロットル弁57を開くことにより実現される。スロットル弁57を開くことによって、吸気充填量が増加する。
さらに、前記内部EGR運転領域における前記排気弁22の閉弁時期は、排気上死点よりも遅い時期に設定されている。
また、エンジン1は、燃料を気筒11内に直接噴射するように構成された燃料噴射弁53をさらに備え、前記エンジン制御器100は、前記内部EGR運転領域において前記燃料の気化率が低い第2運転条件下では少なくとも圧縮行程中に前記燃料噴射弁53から前記気筒内に燃料を噴射させる。
この構成によれば、少なくとも燃料の一部を圧縮行程で噴射することにより、気筒11内の高い温度を利用して、燃料の気化を促進することができる。これにより、燃焼安定性をより一層向上させることができる。
さらに、前記エンジン制御器100は、前記内部EGR運転領域において前記燃料の気化率が低い第2運転条件下では、少なくとも吸気行程中に前記燃料噴射弁53から前記気筒内に燃料を噴射させる第1噴射と、少なくとも圧縮行程中に前記燃料噴射弁53から前記気筒内に燃料を噴射させる第2噴射とを行う。
この構成によれば、燃料の噴射期間を確保することができると共に、吸気行程噴射と圧縮行程噴射の両方のメリットを享受することができる。圧縮行程噴射のメリットは前述の通りである。それに加えて、吸気行程噴射を行うことによって、混合気の形成期間を十分に確保することができると共に、吸気流動を利用して燃料の気化を促進することができる。
また、前記エンジン制御器100は、前記内部EGR運転領域において前記燃料の気化率が低い第2運転条件下では、前記燃料の気化率が高い第1運転条件下に比べて前記吸気弁21の閉弁時期及び開弁時期を進角させる。
この構成によれば、第2運転条件下では吸気弁21の閉弁時期が進角され、エンジン1の有効圧縮比が高められる。これにより、圧縮行程における圧力及び温度が高くなり、燃焼安定性を向上させることができる。また、圧縮行程中の温度が高くなることにより、燃料の気化を促進することができ、この点においても燃焼安定性を向上させることができる。このとき、吸気弁21の開弁時期が進角すると、内部EGRによるEGRガス量が増加し得る。しかしながら、前述の如く、吸気負圧を低下させることによって、EGRガス量の増加を抑制することができる。それに加え、吸気負圧を低下させることによる前述の利益を享受することができる。
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
前記の構成はFFVとしているが、ここに開示する技術は、FFVでなくても、アルコールを含有する燃料が供給されるエンジンを搭載する車両に広く適用することが可能である。
前記実施形態では、特殊燃料としてエタノールを用いた例を説明したが、特殊燃料はそれ以外の物質であってもよい。例えば、特殊燃料は、メタノール等のアルコール、食用油や産業油等の油であってもよい。また、特殊燃料と混合される燃料は、ガソリンに限られない。
前記実施形態では、燃料の気化率を、まず燃料のエタノール濃度に基づいて判定し、燃料のエタノール濃度が所定濃度以下の場合には、さらにエンジン1の温度に基づいて判定している。しかし、燃料の気化率の判定はこれに限られるものではない。エタノール濃度及びエンジン1の温度に対する燃料の気化率の関係を予め求めておき、エンジン制御器100がその関係をマップ等の形式で記憶しており、エタノール濃度及びエンジン1の温度をマップに照らし合わせて燃料の気化率を判定してもよい。また、エンジン制御器100は、エタノール濃度にかかわらず、エンジン1の温度のみに基づいて燃料の気化率を判定してもよい。あるいは、エンジン制御器100は、エンジン1の温度にかかわらず、エタノール濃度のみに基づいて燃料の気化率を判定してもよい。さらには、エンジン制御器100は、前述の如く、リニアO2センサ79の検知結果に基づいて算出した燃料の気化率に応じて吸気弁21の閉弁時期及びスロットル弁57の開度を調整してもよい。
前記実施形態では、第2運転条件下で吸気行程における第1噴射と圧縮行程における第2噴射との分割噴射を行っているが、これに限られるものではない。例えば、吸気行程における燃料噴射と圧縮行程における燃料噴射とを連続して行ってもよい。また、噴射期間を十分に確保できるのであれば、吸気行程噴射及び圧縮行程噴射の何れかのみであってもよい。
また、前記実施形態においては、第2運転条件下では、第1運転条件下に比べて吸気弁21の閉弁時期を進角させているが、これに限られるものではない。EGRガスは燃焼安定性の観点から好ましくないので、吸気弁21の閉弁時期を進角させない場合であっても、燃料の気化率が低い環境下にあっては、吸気負圧を低下させることによって燃焼安定性を向上させることは有効である。