以下、本発明の実施形態に係るインバータゲート制御回路および当該インバータゲート制御回路を備えたインバータ電源装置について添付の図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1および図2は本発明の第1の実施形態に係るインバータゲート制御回路の一例である第1のインバータゲート制御回路20Aを備えた第1のインバータ電源装置50Aの構成を示す概略図である。
第1のインバータ電源装置50Aは、直流電源または整流器に接続されるインバータ1と、一次側に接続されるインバータ1の出力電圧を所望の電圧に変成して二次側に出力する三相変圧器2と、インバータ1を構成する電力用半導体アーム(インバータアーム)11,12,13,14のゲートパルスを生成し、インバータ1へ入力する第1のインバータゲート制御回路20Aとを具備する。また、第1のインバータ電源装置50Aは、三相変圧器2の二次側、すなわち、インバータ1の出力電圧を変成して出力する側に、例えば、交流電力を直流電力に変換する整流器3、直流電圧のリプルを低減するための平滑コンデンサ4、電圧を分圧する分圧器5、負荷(スイッチ機能なし)6および負荷スイッチ7と接続される。
第1のインバータゲート制御回路20Aは、出力電圧制御回路22と、第1の偏磁検出回路23Aと、第1の偏磁補正回路24Aと、ゲートパルス作成回路25と、SR(セット・リセット)ラッチ回路26と、を備え、ゲートパルス作成回路25で、生成した電力用半導体アーム11,12,13,14のゲートパルスをインバータ1へ入力し、負荷6に供給される直流電圧の制御と三相変圧器2の偏磁の抑制を行う。
出力電圧制御回路22は、常時は、例えばPI制御を行って、電源出力電圧(直流電圧)の測定値をフィードバックしながら、出力電圧を制御する出力電圧制御指令を生成し、第1の偏磁補正回路24Aに与える。
第1の偏磁検出回路23Aは、所定の期間、より詳細には、SRラッチ回路26からの出力がH(1)の間、三相変圧器2の偏磁量を計測し、正極偏磁が生じているか、負極偏磁が生じているか、または、何れの偏磁も生じていないかを検出する。
第1の偏磁補正回路24Aは、出力電圧制御回路22から受け取る出力電圧指令と第1の偏磁検出回路23Aが検出する三相変圧器2の偏磁状態とに基づいて、ゲートパルス作成回路25に与える各電力用半導体アーム11,12,13,14の変調率を決定する。
ゲートパルス作成回路25は、例えば、三角波を搬送波(キャリア波)として生成する搬送波生成回路としての三角波生成回路(図を省略)を有し、三角波生成回路で生成された搬送波としての三角波と第1の偏磁補正回路24Aから与えられる各電力用半導体アーム11,12,13,14の変調率、すなわち、電力用半導体アーム(以下、「第1のアーム」と称する。)11および電力用半導体アーム(以下、「第4のアーム」と称する。)14の変調率と、電力用半導体アーム(以下、「第2のアーム」と称する。)12および電力用半導体アーム(以下、「第3のアーム」と称する。)13の変調率とに基づいて、インバータ1へ入力する各電力用半導体アーム11,12,13,14のゲートパルスを生成する。
SRラッチ回路26は、セット端子(図において「S」と示す)とリセット端子(図において「R」と示す)とを有する。SRラッチ回路26のセット端子には無負荷運転指令が、リセット端子には再起動指令が、デジタル信号(L(0)またはH(1))で与えられる。
SRラッチ回路26では、セット端子およびリセット端子に与えられる信号が、いずれもL(0)の場合は、現在の出力状態を保持する。また、セット端子に与えられる信号がH(1)であり、リセット端子に与えられる信号Lの場合は、第1の偏磁検出回路23AにHを出力し、第1の偏磁検出回路23Aを動作させる。さらに、セット端子に与えられる信号がLであり、リセット端子に与えられる信号Hの場合は、第1の偏磁検出回路23AにLを出力し、第1の偏磁検出回路23Aを停止させる。
なお、図1に示される第1のインバータ電源装置50Aは、主回路において、負荷自体がスイッチ機能(負荷開閉機能)を有していない負荷6と負荷スイッチ7とが直列に接続される例であるが、図2に示されるように、負荷6および負荷スイッチ7の代わりに、負荷自体に負荷スイッチ7の機能(負荷開閉機能)を内蔵したスイッチ機能付き負荷8としても良い。すなわち、図1に示される第1のインバータ電源装置50Aと図2に示される第1のインバータ電源装置50Aは、どちらも同様の効果が得られる。
図3は、本発明の第1の実施形態に係るインバータゲート制御回路の一例である第1のインバータゲート制御回路20Aの構成を示した概略図である。
第1のインバータゲート制御回路20Aでは、第1のインバータ電源50Aの出力電圧(直流電圧)の測定値が出力電圧制御回路22に与えられる一方、SRラッチ回路26の出力およびインバータ1のU,V,W各相におけるインバータ出力電流の測定値が第1の偏磁検出回路23Aに与えられる。
出力電圧制御回路22は、直流電圧測定値と電圧指令値との比に応じて決定される出力電圧制御指令としての変調率ejを決定し、変調率ejを第1の偏磁補正回路24Aに与える。
第1の偏磁検出回路23Aは、無負荷運転の間における各相のインバータ出力電流を積分して各相における偏磁量を求める偏磁量演算要素としての積分器31と、積分器31が求めた偏磁量と正極偏磁検出閾値との対比および積分器31が求めた偏磁量と負極偏磁検出閾値との対比をそれぞれ行う偏磁判定要素および偏磁極性判定要素としての比較器32(32a,32b)と、を備える。
積分器31は、SRラッチ回路26の出力およびインバータ1のU,V,W各相におけるインバータ出力電流の測定値を受け取り、SRラッチ回路26の出力がH(1)となる間、すなわち、無負荷運転の間におけるインバータ出力電流を積分器31で積分して各相における偏磁量を求める。積分器31で得られる偏磁量は、偏磁している極性の符号を持つ。
比較器32(32a,32b)は、積分器31が求めた偏磁量と閾値とを対比して、偏磁量が閾値を超えているか否か、すなわち、偏磁が所定レベル以上に達しているか否かを判定し、判定結果を示す情報として偏磁量が閾値を超えているか否かを示す信号を第1の偏磁補正回路24Aに与える。例えば、比較器32(32a,32b)は、対比結果を示す情報として、閾値以下である場合にはL(0)を出力し、超えていると判断した場合にはH(1)を第1の偏磁補正回路24Aへ与える。
第1の偏磁検出回路23Aは、例えば、積分器31が求めた偏磁量が正極偏磁検出閾値を超えているかを比較し、正極偏磁の有無を判定する比較器32aと、積分器31が求めた偏磁量が負極偏磁検出閾値を超えている(偏磁量の絶対値が負極偏磁検出閾値の絶対値を上回る状態)かを比較し、負極偏磁の有無を判定する比較器32bとを有する。
第1の偏磁補正回路24Aは、偏磁が検出されたか否かを示す情報を与えるAND回路34と、偏磁の有無に応じて変調率を選択する変調率切替要素としての切替器35(35a,35b)と、偏磁の極性に応じて変調率を選択する極性切替要素としての切替器36(36a,36b)と、偏磁補正運転時に適用する補正変調率を演算する補正変調率演算要素としての比例器37(37a,37b)とを備える。
AND回路34は、第1の偏磁検出回路23Aの二つの比較器32から与えられる正極偏磁を検出したか否かを示す正極偏磁検出信号および負極偏磁を検出したか否かを示す負極偏磁検出信号に基づいてAND演算を行い、AND演算の結果を切替器35に与える。例えば、第1の偏磁検出回路23Aで偏磁を検出した旨を示す信号がH(1)でAND回路34に与えられる場合、AND回路34は、偏磁を検出している場合にはH(1)を、偏磁を検出していない場合にはL(0)を、切替器35a,35bに与える。
変調率切替要素としての切替器35a,35bは、AND回路34が行ったAND演算の結果、すなわち、偏磁検出の有無に応じて、比例器37a,37bから与えられる二つの変調率の一方を選択して切替器36a,36bへ与える。
より詳細には、切替器35aは、比例器37aから与えられる二つの変調率ej,ei(ej<ei)のうち、偏磁を検出していない場合(AND回路34からLが与えられる場合)には変調率ejを選択して出力する一方、偏磁を検出している場合(AND回路34からHが与えられる場合)には変調率eiを選択して出力する。
また、切替器35bは、比例器37bから与えられる二つの変調率eh,ej(eh<ej)のうち、偏磁を検出していない場合(AND回路34からLが与えられる場合)には変調率ejを選択して出力する一方、偏磁を検出している場合(AND回路34からHが与えられる場合)には変調率ehを選択して出力する。
極性切替要素としての切替器36a,36bは、負極偏磁の検出結果に応じて、切替器35a,35bから与えられる二つの変調率の一方を選択し、第1,4のアーム用の変調率および第2,3のアーム用の変調率をゲートパルス作成回路25へ与える。変調率は、偏磁している極性のゲートパルス幅は短く、他方のゲートパルス幅が長くなるように、選択される。
切替器36aは、偏磁している極性に係るアーム(後述する図5,6においては第1,4のアーム11,14)のゲートパルス作成に用いる変調率を、切替器35bから与えられる変調率(ejまたはeh)とするか、切替器35aから与えられる変調率(ei)とするかを切り替えて出力する。切替器36aは、負極偏磁を検出していない場合(比較器32からLが与えられる場合)には、切替器35bから与えられる変調率(ejまたはeh)を選択して出力する一方、負極偏磁を検出している場合(比較器32からHが与えられる場合)には、切替器35aから与えられる変調率(ei)を選択して出力する。
また、切替器36bは、偏磁している極性に対する他方のアーム(後述する図5,6においては第2,3のアーム12,13)のゲートパルス作成に用いる変調率を、切替器35aから与えられる変調率(ejまたはei)とするか、切替器35bから与えられる変調率(eh)とするかを切り替えて出力する。切替器36bは、負極偏磁を検出していない場合(比較器32からLが与えられる場合)には、切替器35aから与えられる変調率(ejまたはei)を選択して出力する一方、負極偏磁を検出している場合(比較器32からHが与えられる場合)には、切替器35aから与えられる変調率(eh)を選択して出力する。
補正変調率演算要素としての比例器37a,37bは、出力電圧制御回路22で決定された変調率ejに基づいて、偏磁補正用の変調率ei,ehを決定し、切替器35a,35bに与える。
より詳細には、比例器37aは、例えば、変調率ejに1よりも大きい定数で与えられる逆極補正量を乗じることによって得られる逆極補正変調率eiを切替器35aに与える。また、比例器37bは、例えば、変調率ejに1よりも小さい定数で与えられる偏磁極補正量を乗じることによって得られる偏磁極補正変調率ehを切替器35bに与える。
なお、第1の偏磁補正回路24Aの補正変調率演算要素は、必ずしも比例器37で構成されている必要はない。それぞれの変調率の関係がeh<ej<eiを満たすような演算器であれば良い。例えば、比例器37aを加算器で、比例器37bを減算器で構成して、変調率ejに定数α(ej>α>0)を加算または減算するようにすれば、eh<ej<eiを満たす逆極補正変調率eiおよび偏磁極補正変調率ehを得ることができる。
また、商(除算の結果)は、逆数の積(乗算の結果)として表すことができるので、補正変調率演算要素を除算器で構成することもできる。なお、除算器で補正変調率演算要素を構成する場合には、逆極補正量を1よりも大きい定数とし、偏磁極補正量を1よりも小さい定数とすれば、それぞれの変調率の関係がeh<ej<eiを満たすことができる。
ゲートパルス作成回路25は、搬送波生成回路としての三角波生成回路(図を省略)で、後述する図5,6に示されるように、三角波(搬送波)を生成しており、この三角波と第1の偏磁補正回路24Aから与えられる第1,4のアーム11,14の変調率および第2,3のアーム12,13とに基づいて、インバータ1へ入力する各電力用半導体アーム11,12,13,14のゲートパルスを生成する。
次に、本発明の実施形態に係るインバータゲート制御回路が行うインバータゲート制御方法(インバータゲートパルスの生成方法)について、1パルス単相インバータを例に挙げて説明する(図4,5,6)。ここでは、本発明の実施形態に係るインバータゲート制御回路の一例として、図1に示される第1のインバータ電源装置50A(スイッチ機能がない負荷6を負荷スイッチ7によって開放(切)および投入(入)を切り替える例)の第1のインバータゲート制御回路20Aの場合について説明する。
図4は本発明の実施形態に係るインバータゲート制御回路が制御するインバータ1における各アーム11,12,13,14の動作タイミングを、偏磁補正がない場合(図4(A)および図4(B))とある場合(図4(C)および図4(D))とで対比して示した説明図である。
第1のインバータ電源装置50Aを直ちに停止しなければならない場合、偏磁補正がないとすると、図4(A)に示されるように、インバータ1をゲートブロックするタイミングに応じた直流成分がインバータ出力に生じ、三相変圧器2が偏磁する。この第1のインバータ電源装置50Aの再起動指令を受けて、インバータ1の再起動および負荷6を投入すると、三相変圧器2の偏磁量がさらに増加して、図4(B)に示されるように、大きな突入電流が流れる可能性がある。そこで、このような大きな突入電流が流れないようにするため、インバータ1の再起動および負荷投入前に偏磁補正を行う。
偏磁補正は、図4(C)に示されるように、再起動指令前に予め負荷スイッチ7を切った無負荷状態での運転を行い、無負荷運転時のU,V,W各相のインバータ出力電流を検出することで偏磁を検出し、検出した偏磁量に応じて、インバータ1へ入力するゲートパルスの幅を調整する(偏磁補正運転)ことにより行う。偏磁の検出は、無負荷時のインバータ出力電流を検出することで行うことができる。これは、無負荷時のインバータ出力電流は、負荷電流を含まず三相変圧器2の励磁電流に等しいので、図4(D)に示されるように、偏磁している極性のみ大きな励磁電流が流れることになるためである。
図5は第1のインバータゲート制御回路20Aが生成するゲートパルスと搬送波および変調率との関係を通常運転から電源停止に至るまで示した説明図であり、図6は第1のインバータゲート制御回路20Aが生成するゲートパルスと搬送波および変調率との関係を電源停止から偏磁補正運転を経て通常運転に至るまで示した説明図である。
第1のインバータゲート制御回路20Aは、図5に示されるように、通常運転時には、出力電圧制御回路から第1の偏磁補正回路に与えられる変調率ejと、ゲートパルス作成回路において生成される搬送波(キャリア波)とを比較することによって、各アーム11,12,13,14のゲートパルスを作成する。その後、電源停止指令が第1のインバータゲート制御回路20Aに与えられると、第1のインバータゲート制御回路20Aはゲートパルスの作成を停止する(インバータゲートブロック)。
続いて、無負荷運転を行い、無負荷運転時のU,V,W各相のインバータ出力電流を検出することで偏磁を検出する。偏磁の有無は、第1の偏磁検出回路23Aが求めた偏磁量が正極偏磁検出閾値または負極偏磁検出閾値を上回っているか否かで判断され、第1の偏磁検出回路23Aが求めた偏磁量が正極偏磁検出閾値または負極偏磁検出閾値を上回っている場合、第1の偏磁検出回路23Aは、その極性に対応した偏磁検出信号(正極偏磁検出信号または負極偏磁検出信号)を第1の偏磁補正回路24Aへ出力する。
無負荷運転時に偏磁が検出された場合、第1のインバータゲート制御回路20Aは、偏磁補正運転を開始する。偏磁補正運転時においては、偏磁している極性(図5および図6において「+」で示す。)のパルスは、偏磁極補正変調率ehを用いて、パルス幅が狭くなるように調整され、他方(図5および図6において「−」で示す。)のパルスは、逆極補正変調率eiを用いて、パルス幅が広くなるように調整される。
ただし、第1のインバータゲート制御回路20Aでは、偏磁補正運転時において、偏磁極補正変調率ehおよび逆極補正変調率eiの二種類の異なる偏磁補正用の変調率を用いるため、第1のアーム11と第2のアーム12および第3のアーム13と第4のアーム14が、それぞれ短絡しないようにする必要がある。そこで、図6に示されるように、偏磁している極性のアーム(図5および図6において「+」で示される第1,4のアーム11,14)のゲートパルスの作成時に禁止領域45を設ける(禁止処理)。
第1のインバータゲート制御回路20Aが偏磁補正運転を開始し、やがて、偏磁が検出されなくなった場合、すなわち、第1の偏磁検出回路23Aが求めた偏磁量が正極偏磁検出閾値以下または負極偏磁検出閾値以下となった場合、比較器32からの信号はL(0)となり、偏磁補正運転を停止する。
第1のインバータゲート制御回路20Aに再起動指令が与えられ、負荷投入する(負荷スイッチ7を「入」に切り替える)と、第1のインバータ電源装置50Aは通常運転となり、負荷6への電力供給が直ちに開始される。
上述したような処理ステップ備えるインバータゲート制御方法によれば、偏磁補正運転を行うことによって、三相変圧器2の偏磁を低減する(偏磁補正する)ことができ、負荷投入時の突入電流(=励磁電流+負荷電流)による過電流トリップを回避することができる。また、三相変圧器2の飽和特性に対応した正極偏磁検出閾値または負極偏磁検出閾値を偏磁検出用の閾値として設定することで、偏磁を検出している間のみ偏磁補正運転を行うことができる。
さらに、第1のインバータゲート制御回路20Aでは、偏磁補正運転時において、偏磁している極のゲートパルスの幅は狭くなるように調整され、他方の極のゲートパルスの幅は広くなるように調整される。すなわち、偏磁している極にはマイナスの補正をし、他方の極にはプラスの補正を行うので、効率の良い偏磁補正を行うことができ、インバータ出力電圧の上下動を抑制することができる。
さらにまた、偏磁極補正変調率ehおよび逆極補正変調率eiは、出力電圧をフィードバックした変調率ejを基に作成され、パルス幅の増減を両極である程度バランスを取るため、出力電圧は目標電圧から大きく外れることはなく、偏磁補正運転時にも出力電圧制御に追従できる。
第1のインバータゲート制御回路20A、第1のインバータ電源装置50Aおよび第1のインバータゲート制御回路20Aが行うインバータゲート制御方法によれば、無負荷運転時のインバータ出力電流から三相変圧器2の偏磁とその極性を検出し、偏磁を検出している間のみ検出した極性に応じた偏磁補正運転を行うので、効率の良い偏磁補正を行うことができる。
また、第1のインバータゲート制御回路20A、第1のインバータ電源装置50Aおよび第1のインバータゲート制御回路20Aが行うインバータゲート制御方法によれば、偏磁補正運転時は、出力電圧制御回路22により決定される変調率ejを基に算出した二種類の異なる偏磁補正用の変調率ehおよびeiを用いるので、再起動指令が出力されてから遅滞なく負荷6(またはスイッチ機能付き負荷8)へ電力供給を行い、かつ、フィードバック制御やソフトスタート制御等のインバータ出力制御に追従しながらも、電源停止時に発生した偏磁を解消した状態で運転を再開することができ、インバータ出力電圧の上下動を抑制することができる。
さらに、第1のインバータゲート制御回路20A、第1のインバータ電源装置50Aおよび第1のインバータゲート制御回路20Aが行うインバータゲート制御方法によれば、偏磁量を求める際の励磁電流の積分時間を交流電圧指令に依存せずに決定するので、例えば、特許文献2等に開示されるような偏磁量を求める際の電流の積分時間を交流電圧指令に基づいて決定するインバータゲート制御技術では適用困難な交流電圧指令がほぼ一定値である1パルスのインバータであっても適用できる。
[第2の実施形態]
図7は本発明の第2の実施形態に係るインバータゲート制御回路の一例である第2のインバータゲート制御回路20Bを備えた第2のインバータ電源装置50Bの構成を示す概略図であり、図8は第2のインバータゲート制御回路20Bの構成を示す概略図である。
第2のインバータ電源装置50Bは、第1のインバータ電源装置50Aに対して、第1のインバータゲート制御回路20Aを備える代わりに第2のインバータゲート制御回路20Bを備える点で相違する。そこで、本実施形態の説明では、当該相違点を中心に説明し、同じ構成要素については同じ符号を付して説明を省略する。
第2のインバータゲート制御回路20Bは、例えば、図7に示されるように、第1のインバータゲート制御回路20Aに対して、第1の偏磁補正量演算回路27Aをさらに備える点と、第1の偏磁補正回路24Aの代わりに第2の偏磁補正回路24Bを備える点とで相違する。
第1の偏磁補正量演算回路27Aは、第1の偏磁検出回路23Aで検出した偏磁量と補正量(偏磁極補正量および逆極補正量)との関係を示す偏磁補正量演算情報を有し、第1の偏磁検出回路23Aで検出した偏磁量と偏磁補正量演算情報とに基づいて、偏磁極補正量および逆極補正量を演算し、演算結果である偏磁極補正量および逆極補正量を第2の偏磁補正回路24Bへ与える。なお、偏磁量に対する補正量を正側と負側とで対称に設定する場合、偏磁補正量演算情報は、後述する図9に示されるように、偏磁量の絶対値である|偏磁量|と補正量との関係を示す情報として表すことができる。
第2の偏磁補正回路24Bは、第1の偏磁補正回路24Aに対して、比例器37a,37bに与える偏磁極補正量および逆極補正量が第1の偏磁検出回路23Aで検出した偏磁量に依存するか否かの点で相違する。すなわち、第1の偏磁補正回路24Aでは、例えば、図3に示されるように、第1の偏磁検出回路23Aで検出した偏磁量の大小に関わらず、設定された定数であるのに対し、第2の偏磁補正回路24Bでは、例えば、図8に示されるように、第1の偏磁補正量演算回路27Aから与えられる補正量(第1の偏磁検出回路23Aで検出した偏磁量によって異なる変数)である点で相違する。
図9は、第2のインバータゲート制御回路20Bにおいて演算される偏磁極補正量および逆極補正量の例を示した説明図であり、図9(A)は偏磁極補正量および逆極補正量の第1の例を示した図、図9(B)は偏磁極補正量および逆極補正量の第2の例を示した図、図9(C)は偏磁極補正量および逆極補正量の第3の例を示した図である。
偏磁極補正量および逆極補正量の第1の例としては、図9(A)に示されるように、偏磁量の絶対値である|偏磁量|が、第1の偏磁検出回路23Aにおいて偏磁検出用に設定される正極偏磁検出閾値または負極偏磁検出閾値(図9において「正極/負極偏磁検出閾値」と示す。)よりも小さい場合には偏磁極補正量および逆極補正量を1.0とし、大きい場合には偏磁極補正量を1.0よりも小さい一定値とする一方、逆極補正量を1.0よりも大きい一定値とする。すなわち、正極/負極偏磁検出閾値でステップ的に変化した後は偏磁量に依らず偏磁極補正量および逆極補正量はいずれも一定値をとる。
また、偏磁極補正量および逆極補正量の第2の例および第3の例は、偏磁極補正量および逆極補正量の第1の例に対して、|偏磁量|が、第1の偏磁検出回路23Aにおいて偏磁検出用に設定される正極偏磁検出閾値または負極偏磁検出閾値よりも大きい範囲において偏磁極補正量を|偏磁量|に応じて変化する点で相違する。具体的には、図9(B)および図9(C)に示されるように、正極偏磁検出閾値または負極偏磁検出閾値よりも大きい範囲において、偏磁極補正量は|偏磁量|の増加に応じて減少する1.0よりも小さい変数であり、逆極補正量は|偏磁量|の増加に応じて増加する1.0よりも大きい変数である。つまり、偏磁量が大きい程、インバータ出力電圧に重畳する電圧が大きくなる。
第2のインバータゲート制御回路20B、第2のインバータ電源装置50Bおよび第2のインバータゲート制御回路20Bが行うインバータゲート制御方法によれば、第1のインバータゲート制御回路20A、第1のインバータ電源装置50Aおよび第1のインバータゲート制御回路20Aが行うインバータゲート制御方法と同様の効果を奏するのに加え、第1の偏磁補正量演算回路27Aが偏磁量に応じた最適な偏磁極補正量および逆極補正量を演算して第2の偏磁補正回路24Bに与えるので、電源停止時に発生する偏磁が大きい場合にも、より効率的に(短時間で)偏磁を解消することができる。
なお、図8に示される第2のインバータゲート制御回路20Bでは、補正変調率演算要素として比例器37a,37bを用いた場合を示しているが、加算器および減算器を用いる場合についても同様の効果を得ることができる。補正変調率演算要素として加算器および減算器を用いる場合には、偏磁極補正量および逆極補正量を0〜1の範囲で変化させれば良い。
[第3の実施形態]
図10は、本発明の第3の実施形態に係るインバータゲート制御回路の一例である第3のインバータゲート制御回路20Cの構成を示す概略図である。
第3のインバータゲート制御回路20Cを備える第3のインバータ電源装置は、第2のインバータゲート制御回路20Bを備えた第2のインバータ電源装置50Bに対して、第2のインバータゲート制御回路20Bの代わりに、第3のインバータゲート制御回路20Cを具備する点で相違するが、その他の点では実質的に相違しない。すなわち、第3のインバータ電源装置は、一例として図7に示される第2のインバータ制御回路20Bを、一例として図10に示される第3のインバータゲート制御回路20Cに置き換えた構成である。そこで、本実施形態の説明では、当該相違点である第3のインバータゲート制御回路20Cを中心に説明し、同じ構成要素については同じ符号を付して説明を省略する。
第3のインバータゲート制御回路20Cは、第2のインバータ制御回路20Bに対して、第1の偏磁検出回路23Aの代わりに第2の偏磁検出回路23Bを、第1の偏磁補正量演算回路27Aの代わりに第2の偏磁補正量演算回路27Bを、第2の偏磁補正回路24Bの代わりに第3の偏磁補正回路24Cを備え、回路全体としては、第2のインバータ制御回路20Bよりも偏磁を検出する構成要素および偏磁を補正する構成要素の簡素化が図られている。
第2のインバータ制御回路20Bでは、ノイズが問題となる場合や低レベルの偏磁については偏磁補正を行わない場合に鑑みて、第1の偏磁検出回路23Aにおいて所定レベル以上の偏磁を検出するための比較器32を設けているが、ノイズが問題とならない場合や低いレベルの偏磁でも補正を行う必要がある場合には、偏磁量が得られれば良いので、第1の偏磁検出回路23Aに対して比較器32を省略した第2の偏磁検出回路23Bを適用することができる。
また、閾値との比較を行う比較器32を省略する場合、閾値に応じた補正量を決定する必要はないため、補正量を決定する演算処理をより単純化した第2の偏磁補正量演算回路27Bを採用することができる。第2の偏磁補正量演算回路27Bは、第2の偏磁検出回路23Bから与えられる偏磁量に応じて絶対値が0〜1の範囲に収まる補正量を得る演算処理を行えれば、その構成は任意であり、例えば、第2の偏磁検出回路23Bから与えられる偏磁量に定数を乗じ、その絶対値が0〜1の範囲に収まる補正量を得る比例器51等の演算器で構成することができる。
さらに、第2のインバータ制御回路20Bでは、出力電圧の変動を抑える観点から両極のゲートパルス幅を調整するように異なる二種類の偏磁補正用の変調率eh,eiを得る第2の偏磁補正回路24Bを備えているが、出力電圧の変動の許容範囲がより広い場合には、片極のパルス幅調整としても良いため、一つの変調率ehを得る第3の偏磁補正回路24Cを適用することができる。
第3の偏磁補正回路24Cは、例えば、ゲートパルスの調整を行う片極を正極(第1のアーム11および第4のアーム14)とすれば、第3の偏磁補正回路24Cは、第1のアーム11および第4のアーム14用のゲートパルスのパルス幅を、正極が偏磁している場合には狭くなるように、負極が偏磁している場合には広くなるように調整する変調率ehを決定する。すなわち、第3の偏磁補正回路24Cは、正極が偏磁している場合には変調率ehが出力電圧制御回路22により決定される変調率ejよりも小さく(ej>eh)、負極が偏磁している場合には変調率ehが変調率ejよりも大きく(ej<eh)なるように変調率ehを決定する。
第3の偏磁補正回路24Cの構成例としては、例えば、図10に示されるように、出力電圧制御回路22により決定される変調率ejから第2の偏磁補正量演算回路27Bの演算結果として与えられる補正量を減算して偏磁補正用の変調率ehを得る減算器52で構成することができる。積分器31で得られる偏磁量は、偏磁している極性の符号を持つため、正極に偏磁している場合には変調率ehはejよりも小さくなり(ej>eh)、負極に偏磁している場合にはejよりも大きくなる(ej<eh)。
第3のインバータゲート制御回路20C、第3のインバータ電源装置および第3のインバータゲート制御回路20Cが行うインバータゲート制御方法によれば、第1,2のインバータ電源装置50A,50B、第1,2のインバータゲート制御回路20A,20Bおよび第1,2のインバータゲート制御回路20A,20Bが行うインバータ制御方法よりも簡素な構成および単純なステップで、偏磁補正運転時にも出力電圧制御に追従しながら、再起動指令が出力されると直ちに負荷スイッチ7またはスイッチ機能付き負荷8のスイッチを投入することにより負荷6またはスイッチ機能付き負荷8への電力供給が遅れることなく、電源停止時に発生した偏磁を解消した状態で運転を再開することができる。
以上、インバータゲート制御回路20A,20B,20C、インバータゲート制御回路20A,20B,20Cを備えるインバータ電源装置、および、インバータゲート制御回路20A,20B,20Cが行うインバータゲート制御方法によれば、インバータゲート制御回路20A,20B,20Cが、無負荷運転時のインバータ出力電流から三相変圧器2の偏磁の有無を検出し、偏磁を検出している間のみ偏磁補正運転を行うことができる。
また、インバータゲート制御回路20A,20B,20Cは、再起動指令が出力されてから遅滞なく負荷6(またはスイッチ機能付き負荷8)へ電力供給を行い、かつ、フィードバック制御やソフトスタート制御等のインバータ出力制御に追従しながらも、電源停止時に発生した偏磁を解消した状態で運転を再開することができ、インバータ出力電圧の上下動を抑制することができる。特に、両極のゲートパルスの幅を調整するインバータゲート制御回路20A,20Bでは、片極のゲートパルスの幅を調整するインバータゲート制御回路20Cよりも大きなインバータ出力電圧の上下動抑制効果を得ることができる。
さらに、インバータゲート制御回路20A,20B,20Cは、偏磁量を求める際の電流の積分時間を交流電圧指令に基づいて決定するインバータゲート制御技術では適用困難な交流電圧指令がほぼ一定値である1パルスのインバータのゲート制御にも適用できる。
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階では、上述した実施例以外にも様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、追加、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。