以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。先ず、本発明と関連する参考形態について説明する。
(参考形態1)
図1は、本発明の参考形態1に係る蒸発燃料処理装置を概略的に示す。この蒸発燃料処理装置は、不図示の燃料タンク内で発生した蒸発燃料を、内部に収容された活性炭等の吸着剤により吸着するとともに、該吸着した蒸発燃料を該吸着剤から脱離させて、不図示のエンジン(内燃機関)の吸気系に供給するキャニスタ1を備えている。上記エンジンには、排気ガス還流装置(EGR)や吸気弁の可変タイミング機構(VVT)が設けられており、これらによりエンジンのポンピングロスが低減するようになされている。
本参考形態では、キャニスタ1は、上記吸着剤が収容された複数(本参考形態では、2つ)の吸着室2を有している。以下、これら2つの吸着室2を第1及び第2吸着室2a,2bという。第1及び第2吸着室2a,2bは、互いに独立した2つのケース3(以下、第1及び第2ケース3a,3bという)内にそれぞれ形成されたものであり、これら第1及び第2ケース3a,3b(第1及び第2吸着室2a,2b)の大きさ及び形状並びに構成は同じであり、第1及び第2吸着室2a,2bにそれぞれ収容された吸着剤の量も同じである。尚、互いに独立した第1及び第2ケース3a,3b内に第1及び第2吸着室2a,2bをそれぞれ形成する代わりに、1つのケース3内に第1及び第2吸着室2a,2bを画成するようにしてもよい(後述の参考形態3参照)。
第1ケース3a(第1吸着室2a)は、上記燃料タンクに接続される第1タンクポート5aと、上記吸気系に接続される第1パージポート6aと、この第1パージポート6aに対応して設けられ、第1吸着室2aの内部を大気に開放する第1ドレインポート7aとを有している。第1タンクポート5a、第1パージポート6a及び第1ドレインポート7aは、第1ケース3aの上壁(第1吸着室2aの上壁)に設けられ、第1パージポート6a及び第1ドレインポート7aは、第1ケース3aの上壁の略中心部に位置する第1タンクポート5aを挟んでその両側に位置する。
同様に、第2ケース3b(第2吸着室2b)も、上記燃料タンクに接続される第2タンクポート5bと、上記吸気系に接続される第2パージポート6bと、この第2パージポート6bに対応して設けられ、第2吸着室2bの内部を大気に開放する第2ドレインポート7bとを有している。第2タンクポート5b、第2パージポート6b及び第2ドレインポート7bの配置は、第1タンクポート5a、第1パージポート6a及び第1ドレインポート7aとそれぞれ同じである。
第1及び第2タンクポート5a,5bは、タンク接続管11を介して上記燃料タンクに接続される。このタンク接続管11は、上記燃料タンクに接続された主管11aと、この主管11aから2つに分岐して第1及び第2タンクポート5a,5bにそれぞれ接続された第1及び第2分岐管11b,11cとからなる。上記燃料タンク内で蒸発して発生した蒸発燃料は、主管11aから第1及び第2分岐管11b,11cに略均等に分流して第1及び第2タンクポート5a,5bより第1及び第2吸着室2a,2b内にそれぞれ流入し、該流入した蒸発燃料が第1及び第2吸着室2a,2b内の吸着剤に吸着される。
第1及び第2パージポート6a,6bは、パージ管12を介して上記吸気系(吸気通路)に接続される。このパージ管12は、上記吸気系に接続された主管12aと、第1及び第2パージポート6a,6bにそれぞれ接続された第1及び第2分岐管12b,12cとが第1切替バルブ21を介して接続されてなる。第1切替バルブ21は、上記蒸発燃料の上記吸気系への供給時に、パージ管12における主管12aと第1及び第2分岐管12b,12cのうちの任意の1つの分岐管とが連通するように連通状態を切替え可能に構成されている。すなわち、第1切替バルブ21は、上記蒸発燃料の上記吸気系への供給時に、主管12aと第1分岐管12bとが連通した状態、又は、主管12aと第2分岐管12cとが連通した状態に切り替えるように構成されている。
パージ管12の主管12aには、エンジン運転状態に応じて開閉されるパージバルブ25が設けられている。このパージバルブ25の開閉作動は、エンジン制御器51により制御される。パージバルブ25が開かれているときに、上記蒸発燃料が上記吸気系へ供給されることになる。この蒸発燃料の上記吸気系への供給時に、第1切替バルブ21により主管12aと第1分岐管12bとが連通した状態にあるとすると、主管12a及び第1分岐管12bを介して第1吸着室2a内が負圧となり、これにより、第1ドレインポート7aより第1吸着室2a内に外気(空気)が導入されて、第1吸着室2a内には、第1ドレインポート7aから第1パージポート6aへ流れる空気流が生じる。この空気流によって上記蒸発燃料が吸着剤から脱離して、その脱離した蒸発燃料が空気と混合された状態で、主管12a及び第1分岐管12bを介して上記吸気系に供給される。上記空気流は、第1吸着室2a内に設けられた第1経路18aに沿って流れるようになされている。すなわち、第1吸着室2a内には、蒸発燃料の上記吸気系への供給時に第1ドレインポート7aから第1パージポート6aまで第1吸着室2aの吸着剤を経由して空気流が流れる第1経路18aが設けられている。第1経路18aは、上記空気流が、第1吸着室2a内の略全ての吸着剤に接触するように出来る限り長くした経路であり、このような経路を形成するための経路形成壁17が第1吸着室2a内に設けられている(図1に記載の経路形成壁17は模式的に示したものである)。
上記第1吸着室2aと同様に、第2吸着室2bには、蒸発燃料の上記吸気系への供給時に第2ドレインポート7bから第2パージポート6bまで第2吸着室2bの吸着剤を経由して空気流が流れる第2経路18bが設けられている。第2経路18bの形状及び長さは、第1経路18aと同じである。上記蒸発燃料の上記吸気系への供給時(パージバルブ25が開かれているとき)に、第1切替バルブ21により主管12aと第2分岐管12cとが連通した状態にあるとすると、主管12a及び第2分岐管12cを介して第2吸着室2b内が負圧となり、これにより、第2吸着室2b内には第2経路18bに沿って空気流が流れることになる。
本参考形態では、キャニスタ1内(第1及び第2吸着室2a,2b内)における上記互いに対応する第1パージポート6a及び第1ドレインポート7a間(第2パージポート6b及び第2ドレインポート7b間)に、上記蒸発燃料の上記吸気系への供給時に第1ドレインポート7aから第1パージポート6aまで(第2ドレインポート7bから第2パージポート6bまで)上記吸着剤を経由して空気流が流れる第1経路18a(第2経路18b)がそれぞれ設けられていることになる。そして、第1切替バルブ21により、上記蒸発燃料の上記吸気系への供給時に、第1及び第2経路18a,18bのうちの1つの経路に沿って上記空気流が流れるように、該空気流の経路が制御される。第1切替バルブ21の作動は、エンジン制御器51により制御される。このことで、第1切替バルブ21、及び、第1切替バルブ21の作動を制御する切替バルブ制御手段としてのエンジン制御器51は、本発明の経路制御手段を構成することになる。
エンジン制御器51は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。
エンジン制御器51は、少なくとも、エアフローセンサ31からの吸気流量に関する信号、クランク角センサ32からのクランク角パルス信号、アクセルペダルの踏み込み量を検出するスロットル開度センサ33からのスロットル開度信号、車速センサ34からの車速信号、及び、上記エンジンの排気系に設けられ、ガス中の酸素濃度に対応した信号を出力するA/Fセンサ35からの該信号をそれぞれ入力する。エンジン制御器51は、これらの入力信号に基づいて、エンジンの気筒内に燃料を噴射するインジェクタ41(アクチュエータ)、パージバルブ25、不図示の点火プラグ等の作動を制御するとともに、後述の如く、第1切替バルブ21の作動を制御する。
エンジン制御器51は、上記入力信号に基づいて、エンジン運転状態が、予め設定されたパージ実行領域にあるか否かを判定して、エンジン運転状態が該パージ実行領域にあるときには、パージバルブ25を開く一方、パージ実行領域にないときには、パージバルブ25を閉じる。
パージバルブ25が閉じているときにインジェクタ41より噴射される燃料噴射量は、エアフローセンサ31による吸入空気量から求まる基本噴射量となる。エンジン制御器51は、この基本噴射量でもって燃料を噴射するようにインジェクタ41(アクチュエータ)を制御する。
一方、パージバルブが開いているときにインジェクタ41より噴射される燃料噴射量は、A/Fセンサ35による検出値が、予め設定した設定値(パージバルブ25が閉じているときに、上記基本噴射量でもって燃料が噴射された場合と同じ値)になるように、上記基本噴射量に対して、A/Fセンサ35による検出値に対応した燃料量をフィードバックして求めた噴射量となる。このフィードバックにより求めた噴射量は、上記基本噴射量よりも、パージにより上記吸気系に供給された蒸発燃料量の分だけ少なくなることになる。したがって、上記基本噴射量から上記フィードバックにより求めた噴射量を引くことで、パージにより上記吸気系に供給された蒸発燃料量が分かる。エンジン制御器51は、上記基本噴射量及び上記フィードバックにより求めた噴射量から、上記蒸発燃料の上記吸気系への供給時に上記空気流が流れている経路(第1経路18a又は第2経路18b)上の吸着剤から脱離して上記吸気系に供給された蒸発燃料量を推定し、この蒸発燃料量に基づいて、第1切替バルブ21の作動を制御する。このことで、エンジン制御器51は、本発明の推定手段を構成することになる。
エンジン制御器51は、上記推定した蒸発燃料量に基づいて、上記空気流が流れている経路上の吸着剤(特に、第1経路18aに沿って空気流が流れている場合には、第1経路18a上の第1パージポート6a近傍の吸着剤が好ましく、第2経路18bに沿って空気流が流れている場合には、第2経路18b上の第2パージポート6b近傍の吸着剤が好ましい)の温度の低下量が所定値以上になったか否かを判定する。すなわち、上記空気流が流れている経路上の吸着剤から蒸発燃料が脱離して該脱離した蒸発燃料が上記吸気系に供給される際には、液体の状態で吸着剤に吸着されていた蒸発燃料が気化して吸着剤から脱離する。このとき、その吸着剤は、蒸発燃料に気化熱を奪われるために、温度が低下する。特に、第1経路18aに沿って空気流が流れている場合には、第1経路18a上の第1パージポート6a近傍の吸着剤では、蒸発燃料が脱離した直後に、第1ドレインポート7a側から流れてきた蒸発燃料が吸着し、その吸着した蒸発燃料が脱離するというように、蒸発燃料の吸着及び脱離が頻繁に繰り返されるため、温度が大きく低下する。第2経路18bに沿って空気流が流れている場合には、第2経路18b上の第2パージポート6b近傍の吸着剤も同様に、温度が大きく低下する。上記空気流が流れている経路上の吸着剤の温度の低下量は、該経路上の吸着剤から脱離して上記吸気系に供給された蒸発燃料量と対応している。つまり、該蒸発燃料量が所定量(後述のフローチャートのCONST)以上になったとき、上記空気流が流れている経路上の吸着剤の温度の低下量が、上記所定値以上になったか否かを判定する。上記所定量と上記所定値との対応関係を予め調べておくことで、上記推定した蒸発燃料量に基づいて、上記温度低下量の判定を行うことができる。特に、上記空気流が流れている経路上のパージポート近傍の吸着剤は、該経路上の全吸着剤の中で温度低下量が最も大きい吸着剤であるので、上記対応関係が明確であり、上記温度低下量の判定を正確に行うことができる。エンジン制御器51は、本発明の判定手段を構成することになる。
上記所定値は、一定値であってもよく、外気温を検出する外気温センサ(図示せず)からの外気温情報を考慮して設定してもよい。例えば、外気温センサにより検出された外気温が低いほど、上記所定値を小さくする。
上記吸着剤の温度の低下量が大きくなりすぎると、吸着剤に吸着された蒸発燃料が気化し難く(脱離し難く)なり、上記吸気系に供給される蒸発燃料量が低下する。この蒸発燃料量の低下を抑制するために、エンジン制御器51は、上記温度低下量の判定を行い、そして、上記温度低下量が上記所定値以上になったと判定したときには、第1切替バルブ21の作動を制御して、該空気流が流れている経路とは別の経路に沿って上記空気流が流れるように、上記空気流の経路を変更する。すなわち、エンジン制御器51は、例えば、第1切替バルブ21によりパージ管12の主管12aと第1分岐管12bとが連通した状態にあるときにおいて、上記温度低下量が上記所定値以上になったと判定したときには、主管12aと第2分岐管12cとが連通した状態になるように、第1切替バルブ21を作動させる。これにより、空気流の経路が第1経路18aから第2経路18bに変更され、今度は、第2経路18b上の吸着剤、つまり蒸発燃料の脱離による温度低下が生じていない吸着剤から蒸発燃料が脱離するようになる。したがって、上記吸気系に供給される蒸発燃料量の低下を抑制することができる。
上記エンジン制御器51による第1切替バルブ21及びパージバルブ25の制御動作について、図2のフローチャートを参照しながら説明する。
最初のステップS1で、各種センサからの信号を入力し、次のステップS2で、エンジン運転状態が、上記パージ実行領域にあるか否かを判定する。このステップS2の判定がYESであるときには、ステップS3に進む一方、ステップS2の判定がNOであるときには、ステップS16に進む。
上記ステップS3では、前回からパージを実行中であるか否か(前回のステップS2の判定もYESであったか否か)を判定し、このステップS3の判定がNOであるときには、ステップS4に進む一方、ステップS3の判定がYESであるときには、ステップS5に進む。
上記ステップS4では、第1切替バルブ21を、第1吸着室2a側(パージ管12の主管12aと第1分岐管12bとが連通した状態)へ切り替えるとともに、パージバルブ25を開き、しかる後にリターンする。すなわち、今回からパージを実行する場合(前回のステップS2の判定がNOであった場合)には、第1吸着室2a内の第1経路18aに沿って空気流が流れるようにする。尚、今回からパージを実行する場合、必ずしも第1経路18aに沿って空気流が流れるようにする必要はなく、第2吸着室2b内の第2経路18bに沿って空気流が流れるように(第1切替バルブ21を、第2吸着室2b側に切り替えるように)してもよい。
上記ステップS3の判定がYESであるときに進むステップS5では、第1切替バルブ21が第1吸着室2a側であるか否か(主管12aと第1分岐管12bとが連通した状態にあるか否か)を判定する。このステップS5の判定がYESであるときには、ステップS6に進む一方、ステップS5の判定がNOであるときには、ステップS11に進む。
上記ステップS6では、上記基本噴射量及び上記フィードバックにより求めた噴射量から、第1経路18a上の吸着剤から脱離して上記吸気系に供給された単位時間当たりの蒸発燃料量を算出し、この単位時間当たりの蒸発燃料量に、前回の算出時から今回の算出時までの時間を掛けることで、今回パージされた分の蒸発燃料量ΔFAを算出する。
上記ステップS6の次のステップS7では、エンジン制御器51の上記メモリに記憶された前回までの積算蒸発燃料量FAにΔFAを加算して、今回までの積算蒸発燃料量FAとして積算蒸発燃料量FAを更新し、次のステップS8で、今回までの積算蒸発燃料量FAが、所定量CONST以上であるか否かを判定する。すなわち、空気流が流れている第1経路18a上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったか否かを判定する。
上記ステップS8の判定がNOであるとき、つまり、第1経路18a上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になっていないと判定したときには、ステップS9に進んで、今回までの積算蒸発燃料量FAを上記メモリに記憶し、しかる後にリターンする。一方、ステップS8の判定がYESであるとき、つまり、第1経路18a上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったと判定したときには、ステップS10に進んで、第1切替バルブ21を、第2吸着室2b側(主管12aと第2分岐管12cとが連通した状態)へ切り替えるとともに、上記メモリによる積算蒸発燃料量FAの記憶をクリアし、しかる後にリターンする。
上記ステップS5の判定がNOであるときに進むステップS11では、上記ステップS6と同様に、上記基本噴射量及び上記フィードバックにより求めた噴射量から、上記第2経路上の吸着剤から脱離して上記吸気系に供給された単位時間当たりの蒸発燃料量を算出し、この単位時間当たりの蒸発燃料量に、前回の算出時から今回の算出時までの時間を掛けることで、今回パージされた分の蒸発燃料量ΔFBを算出する。
上記ステップS11の次のステップS12では、上記メモリに記憶された前回までの積算蒸発燃料量FBにΔFBを加算して、今回までの積算蒸発燃料量FBとして積算蒸発燃料量FBを更新し、次のステップS13で、今回までの積算蒸発燃料量FBが、所定量CONST以上であるか否かを判定する。すなわち、空気流が流れている第2経路18b上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったか否かを判定する。
上記ステップS13の判定がNOであるとき、つまり、第2経路18b上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になっていないと判定したときには、ステップS14に進んで、今回までの積算蒸発燃料量FBを上記メモリに記憶し、しかる後にリターンする。一方、ステップS13の判定がYESであるとき、つまり、第2経路18b上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったと判定したときには、ステップS15に進んで、第1切替バルブ21を、第1吸着室2a側(主管12aと第1分岐管12bとが連通した状態)へ切り替えるとともに、上記メモリによる積算蒸発燃料量FBの記憶をクリアし、しかる後にリターンする。
上記ステップS2の判定がNOであるときに進むステップS16では、パージバルブ25を閉じ、次のステップS17で、上記メモリによる積算蒸発燃料量FA及びFBの記憶をクリアし、しかる後にリターンする。
上記エンジン制御器51の制御動作により、第1切替バルブ21が第1吸着室2a側に切り替えられて、第1吸着室2a内の第1経路18a上の吸着剤から蒸発燃料が脱離して該脱離した蒸発燃料が上記吸気系に供給されている場合、第1経路18a上の吸着剤の温度(特に、第1経路18a上の第1パージポート6a近傍の吸着剤の温度)が低下していく(当初の温度は、外気温と同程度)。この温度低下量が上記所定値以上になると、第1経路18a上の吸着剤に吸着された蒸発燃料が気化し難くなり、上記吸気系に供給される蒸発燃料量が低下する。しかし、本参考形態では、上記温度低下量が上記所定値以上になったと判定されたとき(積算蒸発燃料量FAが所定量CONST以上になったとき)に、第1切替バルブ21が第2吸着室2a側に切り替えられ、今度は、第2吸着室2a内の第2経路18b上の吸着剤から蒸発燃料が脱離して該脱離した蒸発燃料が上記吸気系に供給される。第2経路18bには、空気流が流れていなかったので、第2経路18b上の吸着剤の温度は、外気温と同程度である。したがって、空気流が流れる経路を第1経路18aから第2経路18bに切り替えることで、上記吸気系に供給される蒸発燃料量の低下を抑制することができる。
また、第2吸着室2b内の第2経路18b上の吸着剤から蒸発燃料が脱離して該脱離した蒸発燃料が上記吸気系に供給されている場合、第2経路18b上の吸着剤の温度が低下していくが、この温度低下量が上記所定値以上になったと判定されたとき(積算蒸発燃料量FBが所定量CONST以上になったとき)に、第1切替バルブ21が再び第1吸着室2a側に切り替えられ、再び、第1経路18a上の吸着剤から蒸発燃料が脱離して該脱離した蒸発燃料が上記吸気系に供給される。
ここで、第2経路18b上の吸着剤から蒸発燃料が脱離して該脱離した蒸発燃料が上記吸気系に供給されている間、第1経路18a上の吸着剤の温度は、空気流が流れていないことで、次第に上昇していく。この結果、第1切替バルブが再び第1吸着室2a側に切り替えられたときには、第1経路18a上の吸着剤の温度は、通常、外気温と同程度になっている。したがって、空気流の経路を第1経路18a又は第2経路18bに交互に切り替えることで、常に、蒸発燃料の脱離による温度低下が生じていない吸着剤から蒸発燃料が脱離するようになり、蒸発燃料の処理能力(蒸発燃料の上記吸気系への供給能力)を向上させることができる。
したがって、上記エンジンのポンピングロスの低減によりキャニスタ1(第1及び第2吸着室2a,2b)内に生じる負圧が小さくても、第1及び第2吸着室2a,2b内の蒸発燃料が上記吸気系に十分に供給され、よって、蒸発燃料が第1及び第2ドレインポート7a,7bから大気に排出されるのを防止することができる。
(参考形態2)
図3は、本発明の参考形態2を示し(尚、以下の各参考形態及び実施形態では、図1と同じ部分については同じ符号を付して、その詳細な説明は省略する)、空気流が流れている経路上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったか否かの判定方法を、上記参考形態1とは異ならせたものである。
すなわち、本参考形態では、第1及び第2経路18a,18bのうちの1つの経路上のパージポート近傍(本参考形態では、第1経路18a上の第1パージポート6a近傍)に、当該部分の吸着剤の温度を検出する温度センサ38が配設されている。温度センサ38が配設されていることを除けば、キャニスタ1の構成は、上記参考形態1と同じである。温度センサ38からの温度信号は、エンジン制御器51に入力される。
エンジン制御器51は、上記参考形態1と同様に、少なくとも、エアフローセンサ31からの吸気流量に関する信号、クランク角センサ32からのクランク角パルス信号、アクセルペダルの踏み込み量を検出するスロットル開度センサ33からのスロットル開度信号、車速センサ34からの車速信号、及び、A/Fセンサ35からの信号をそれぞれ入力する。エンジン制御器51は、これらの入力信号に基づいて、エンジンの気筒内に燃料を噴射するインジェクタ41(アクチュエータ)、パージバルブ25、不図示の点火プラグ等の作動を制御する。また、エンジン制御器51は、温度センサ38からの温度信号も入力して、該温度信号により、後述の如く第1切替バルブ21の作動を制御する。
エンジン制御器51は、温度センサ38が配設された第1経路18aに沿って空気流が流れている場合には、温度センサ38による検出値(上記温度信号)に基づいて、該空気流が流れている第1経路18a上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったか否かを判定する。
一方、エンジン制御器51は、温度センサ38が配設されていない第2経路18bに沿って空気流が流れている場合には、第2経路18bに沿って該空気流が流れ始めてからの経過時間が、上記第1経路18aに沿って上記空気流が流れていたときの、該空気流が流れ始めてから、上記吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったと判定されるまでの時間以上であるか否かに応じて、第2経路18b上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったか否かを判定する。すなわち、第2経路18b上の吸着剤の量が、第1経路18a上の吸着剤の量と同じであり、燃料タンクからの蒸発燃料も第1及び第2吸着室2a,2bに略均等に流入するので、第2経路18b上の吸着剤に吸着される蒸発燃料量は、第1経路18a上の吸着剤に吸着される蒸発燃料量と略同じになる。これにより、第2経路18b上の吸着剤の温度の低下の仕方は、基本的には、第1経路18a上の吸着剤の温度の低下の仕方と略同じになる。したがって、第2経路18bに沿って空気流が流れ始めてからの経過時間が、第1経路18aに沿って空気流が流れていたときの、該空気流が流れ始めてから、上記吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったと判定されるまでの時間以上になったときには、第2経路18b上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったと判定することができる。
上記エンジン制御器51による第1切替バルブ21及びパージバルブ25の制御動作について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。
最初のステップS31で、各種センサからの信号を入力し、次のステップS32で、エンジン運転状態が、上記パージ実行領域にあるか否かを判定する。このステップS32の判定がYESであるときには、ステップS33に進む一方、ステップS32の判定がNOであるときには、ステップS47に進む。
上記ステップS33では、前回からパージを実行中であるか否か(前回のステップS32の判定もYESであったか否か)を判定し、このステップS33の判定がNOであるときには、ステップS34に進む一方、ステップS33の判定がYESであるときには、ステップS37に進む。
上記ステップS34では、第1切替バルブ21を、第1吸着室2a側へ切り替えるとともに、パージバルブ25を開く。本参考形態では、今回からパージを実行する場合(前回のステップS32の判定がNOであった場合)には、必ず、温度センサ38が配設された第1経路18aに沿って空気流が流れるようにする。
次のステップS35では、上記ステップS31での温度センサ38からの入力温度を、開始時温度T0として上記メモリに記憶し、次のステップS36で、第1経路18a上の吸着剤の総脱離量を推定するためのタイマTIMのカウントを開始し、しかる後にリターンする。
上記ステップS33の判定がYESであるときに進むステップS37では、第1切替バルブ21が第1吸着室2a側であるか否かを判定する。このステップS37の判定がYESであるときには、ステップS38に進む一方、ステップS5の判定がNOであるときには、ステップS42に進む。
上記ステップS38では、上記ステップS31での温度センサ38からの入力温度と上記開始時温度T0とを比較して、開始時温度T0からの温度低下量が上記所定値以上であるか否かを判定する。
上記ステップS38の判定がNOであるときには、ステップS39に進んで、タイマTIMをカウントアップし、しかる後にリターンする。
一方、上記ステップS38の判定がYESであるときには、ステップS40に進んで、タイマTIMのカウントを停止し、この停止時のタイマTIMを上記メモリに記憶する。この停止時のタイマTIMの値は、第1経路18aに沿って空気流が流れ始めてから、第1経路18a上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になった(つまり、第1経路18a上の吸着剤の総脱離量が基準値以上になった)と判定されるまでの時間である。
次のステップS41では、第1切替バルブ21を第2吸着室2b側へ切り替え、しかる後にリターンする。
上記ステップS37の判定がNOであるときに進むステップS42では、上記メモリに記憶されているタイマTIM(上記ステップS40又は後述のステップS45で記憶されたタイマTIM)を読み出し、次のステップS43で、タイマTIMをカウントダウンする。
次のステップS44では、タイマTIMが0であるか否かを判定する。すなわち、第2経路18bに沿って空気流が流れ始めてからの経過時間が、第1経路18aに沿って空気流が流れ始めてから、第1経路18a上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になった(第1経路18a上の吸着剤の総脱離量が基準値以上になった)と判定されるまでの時間と同じになったか否かを判定する。つまり、第2経路18b上の吸着剤の温度の低下の仕方は、基本的には、第1経路18a上の吸着剤の温度の低下の仕方と略同じになるので、タイマTIMが0になったときには、第2経路18b上の吸着剤の総脱離量が上記基準値以上になって、第2経路18b上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったと判定することができる。このステップS44の判定がNOであるときには、ステップS45に進んで、タイマTIMを上記メモリに記憶し、しかる後にリターンする。
一方、上記ステップS44の判定がYESであるときには、ステップS46に進んで、第1切替バルブ21を第1吸着室2a側へ切り替え、しかる後にリターンする。
上記ステップS32の判定がNOであるときに進むステップS47では、パージバルブ25を閉じ、次のステップS48で、上記メモリによるタイマTIMの記憶をクリアし、しかる後にリターンする。
したがって、本参考形態では、温度センサ38が配設された第1経路18aに沿って空気流が流れている場合には、温度センサ38による検出値(上記温度信号)に基づいて、第1経路18a上の吸着剤の温度の低下量が所定値以上になったか否かを容易にかつ正確に判定することができる。また、温度センサ38が配設されていない第2経路18bに沿って空気流が流れている場合でも、第1経路18aに沿って空気流が流れ始めてから、第1経路18a上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったと判定されるまでの時間を利用して、第2経路18b上の吸着剤の温度の低下量が所定値以上になったか否かを容易に判定することができる。よって、第1及び第2経路18a,18bの両方に温度センサ38を配設する必要がなく、蒸発燃料処理装置のコストアップを出来る限り抑制することができる。
尚、上記参考形態2では、温度センサ38を、第1経路18a上の第1パージポート6a近傍に配設したが、この温度センサ38は、第1経路18a上のどこに配設してもよい。但し、第1経路18a上の第1パージポート6a近傍の吸着剤は、第1経路18a上の全吸着剤の中で温度低下量が最も大きい吸着剤であるので、温度低下量を検出し易く、第1経路18a上の吸着剤の温度の低下量が所定値以上になったか否かをより正確に判定できる観点から、第1経路18a上の第1パージポート6a近傍に配設することが好ましい。また、第1経路18a上の第1パージポート6a近傍に配設できない場合であっても、第1経路18a上の出来る限り第1パージポート6a寄りに設けるのがよい。このことは、温度センサ38を、第2経路18b上に配設する場合も同様である。
また、温度センサ38を、第1及び第2経路18a,18b上にそれぞれ配設してもよい。この場合、第2経路18bに沿って空気流が流れている場合にも、第1経路18aに沿って空気流が流れている場合と同様に、第2経路18bに設けた温度センサ38による検出値に基づいて、第2経路18b上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったか否かを判定するようにすればよい。
(参考形態3)
図5は、本発明の参考形態3を示し、パージ管12に第1切替バルブ21を設ける代わりに、第1及び第2ドレインポート7a,7bに接続されたドレイン管13に第2切替バルブ22を設けたものである。
すなわち、本参考形態では、燃料タンクからの蒸発燃料を吸着する吸着剤がそれぞれ収容された第1及び第2吸着室2a,2bが、1つのケース3内において水平方向に対向するように、2つの区画壁28によって区画形成されている。2つの区画壁28における水平方向に対向する対向部の下端部に、第1及び第2ドレインポート7a,7bがそれぞれ設けられている。これら第1及び第2ドレインポート7a,7bに、先端が大気に開放されたドレイン管13が接続されている。このドレイン管13は、先端側の主管13aと、第1及び第2ドレインポート7a,7bにそれぞれ接続された第1及び第2分岐管13b,13cとが第2切替バルブ22を介して接続されてなる。第2切替バルブ22は、上記ケース3内における上記2つの区画壁28の対向部間の空間に配設されている。ドレイン管13の主管13aが第2切替バルブ22から下側に延びて、ケース3の下壁を貫通してその下側に突出している。尚、上記参考形態1及び2のように、第1及び第2吸着室2a,2bを、互いに独立した第1及び第2ケース3a,3b内にそれぞれ形成することも可能である。
本参考形態では、上記参考形態1及び2の第1切替バルブ21に相当するものはなく、パージ管12の第1及び第2分岐管12b,12cが、主管12aから直に分岐している。
第1及び第2タンクポート5a,5bは、第1及び第2吸着室2a,2bの上壁における上記区画壁28の対向部側の端部にそれぞれ設けられていて、上記参考形態1と同様に、タンク接続管11を介して燃料タンクに接続される。第1及び第2パージポート6a,6bは、第1及び第2吸着室2a,2bの上壁における上記対向部とは反対側の端部にそれぞれ設けられていて、パージ管12の第1及び第2分岐管12b,12cとそれぞれ接続されている。
第2切替バルブ22は、上記蒸発燃料の上記吸気系への供給時に、ドレイン管13における主管13aと第1及び第2分岐管13b,13cのうちの任意の1つの分岐管とが連通するように連通状態を切替え可能に構成されている。すなわち、第2切替バルブ22は、上記蒸発燃料の上記吸気系への供給時に、主管13aと第1分岐管13bとが連通した状態、又は、主管13aと第2分岐管13cとが連通した状態に切り替えるように構成されている。
また、本参考形態では、第2切替バルブ22は、ドレイン管13の主管13aと両分岐管13b,13cとが連通した状態に切り替えることも可能であって、上記蒸発燃料の上記吸気系への非供給時(パージバルブ25が閉じられているとき)には、主管13aと両分岐管13b,13cとが連通した状態に切り替えるように構成されている。第2切替バルブ22の作動は、エンジン制御器51により制御される。本参考形態では、第2切替バルブ22、及び、第2切替バルブ22の作動を制御する切替バルブ制御手段としてのエンジン制御器51が、本発明の経路制御手段を構成することになる。
パージバルブ25が閉じられているときには、第2切替バルブ22によりドレイン管13の主管13aと第1及び第2分岐管13b,13cとが連通した状態にあるので、第1及び第2吸着室2a,2b内の圧力は同じになる。この結果、燃料タンク内で蒸発して発生した蒸発燃料は、タンク接続管11の主管11aから第1及び第2分岐管11b,11cに略均等に分流して第1及び第2タンクポート5a,5bより第1及び第2吸着室2a,2b内にそれぞれ流入し、該流入した蒸発燃料が第1及び第2吸着室2a,2b内の吸着剤に吸着される。
上記蒸発燃料の上記吸気系への供給時(パージバルブ25が開かれているとき)に、第2切替バルブ22によりドレイン管13の主管13aと第1分岐管13bとが連通した状態にあるとすると、第1ドレインポート7aより第1吸着室2a内に外気(空気)が導入されて、第1吸着室2a内において、第1経路18aに沿って第1ドレインポート7aから第1パージポート6aへ向かって空気流が流れる。一方、第2切替バルブ22により主管13aと第2分岐管13cとが連通した状態にあるとすると、第2ドレインポート7bより第2吸着室2b内に外気(空気)が導入されて、第2吸着室2b内において、第2経路18bに沿って第2ドレインポート7bから第2パージポート6bへ向かって空気流が流れる。上記第1及び第2経路18a,18bは、ケース3における第1及び第2吸着室2a,2bの対向方向の中央を通りかつ該対向方向に垂直な面に対して対称である。
エンジン制御器51は、上記参考形態1及び2と同様に、少なくとも、エアフローセンサ31からの吸気流量に関する信号、クランク角センサ32からのクランク角パルス信号、アクセルペダルの踏み込み量を検出するスロットル開度センサ33からのスロットル開度信号、車速センサ34からの車速信号、及び、A/Fセンサ35からの信号をそれぞれ入力する。エンジン制御器51は、これらの入力信号に基づいて、エンジンの気筒内に燃料を噴射するインジェクタ41(アクチュエータ)、パージバルブ25、不図示の点火プラグ等の作動を制御するとともに、第2切替バルブ22の作動を制御する。エンジン制御器51による第2切替バルブ22及びパージバルブ25の制御動作は、上記参考形態1と同様である(図2のフローチャート参照)。
尚、上記参考形態2のように、第1及び第2経路18,18bのうちの1つの経路上のパージポート近傍に、当該部分の吸着剤の温度を検出する温度センサ38を配設して、エンジン制御器51による第2切替バルブ22及びパージバルブ25の制御動作を、上記参考形態2(図4のフローチャート)と同様にしてもよい。
したがって、本参考形態では、ドレイン管13に設けた第2切替バルブ22によって、上記参考形態1の、パージ管12に設けた第1切替バルブ21と同様に、空気流の経路を容易に制御することができるとともに、空気流の経路を容易に変更することができる。
(実施形態)
ここで、本発明の実施形態について説明する。
図6は、本発明の実施形態を示し、1つの吸着室2内に、第1及び第2経路18a,18bを設けるようにしたものである。
すなわち、本実施形態では、キャニスタ1は、1つのケース3内に設けられた1つの吸着室2のみを有しており、この吸着室2に、燃料タンクからの蒸発燃料を吸着する吸着剤が収容されている。上記ケース3の上壁(吸着室2の上壁)に、燃料タンクからのタンク接続管11が接続された1つのタンクポート5と、パージ管12の第1及び第2分岐管12b,12cがそれぞれ接続された第1及び第2パージポート6a,6bと、ドレイン管13の第1及び第2分岐管13b,13cとそれぞれ接続された第1及び第2ドレインポート7a,7bとが設けられている。
タンクポート5は、ケース3の上壁の略中心部に位置し、第1及び第2パージポート6a,6bが、そのタンクポート5を挟んでその両側に位置し、更に第1及び第2ドレインポート7a,7bが、2つのパージポート6a,6bを挟んでその両側に位置する。
第1パージポート6aと、タンクポート5に対して該第1パージポート6aとは反対側に位置する第1ドレインポート7aとが互いに対応していて、キャニスタ1内(吸着室内)における上記互いに対応する第1パージポート6a及び第1ドレインポート7a間に、上記蒸発燃料の上記吸気系への供給時に第1ドレインポート7aから第1パージポート6aまで吸着剤を経由して空気流が流れる第1経路18aが設けられている。
また、第2パージポート6bと、タンクポート5に対して該第2パージポート6bとは反対側に位置する第2ドレインポート7bとが互いに対応していて、キャニスタ1内(吸着室内)における上記互いに対応する第2パージポート6b及び第2ドレインポート7b間に、上記蒸発燃料の上記吸気系への供給時に第2ドレインポート7bから第2パージポート6bまで吸着剤を経由して空気流が流れる第2経路18bが設けられている。第1経路18aと第2経路18bとは、タンクポート5の下側位置で交差する。
本実施形態では、上記参考形態1及び2と同様に、パージ管12に第1切替バルブ21が設けられていることに加えて、上記参考形態3と同様に、ドレイン管13に第2切替バルブ22が設けられている。パージ管12及び第1切替バルブ21の構成は、上記参考形態1及び2と同様であり、ドレイン管13及び第2切替バルブ22の構成は、上記参考形態3と同様である(ドレイン管13の第1及び第2分岐管13b,13cの配設位置及び形状は上記参考形態2とは異なる)。第1及び第2切替バルブ21,22の作動は、エンジン制御器51により制御される。
パージバルブ25が閉じられているときには、第2切替バルブ22によりドレイン管13の主管13aと両分岐管13b,13cとが連通した状態にあり、燃料タンク内で蒸発して発生した蒸発燃料は、タンクポートより吸着室2内に流入して、吸着室2内に略均一に広がる。このとき、第1切替バルブ21により、パージ管12の主管12aと第1分岐管12bとが連通した状態にあってもよく、主管12aと第2分岐管12cとが連通した状態にあってもよい。
上記蒸発燃料の上記吸気系への供給時(パージバルブ25が開かれているとき)には、第1切替バルブ21によりパージ管12の主管12aと第1分岐管12bとが連通した状態とされかつ第2切替バルブ22によりドレイン管13の主管13aと第1分岐管13bとが連通した状態とされるか、又は、第1切替バルブ21により主管12aと第2分岐管12cとが連通した状態とされかつ第2切替バルブ22により主管13aと第2分岐管13cとが連通した状態とされる。第1切替バルブ21により主管12aと第1分岐管12bとが連通した状態とされかつ第2切替バルブ22により主管13aと第1分岐管13bとが連通した状態とされた場合には、吸着室2内において、第1経路18aに沿って第1ドレインポート7aから第1パージポート6aへ向かって空気流が流れる。また、第1切替バルブ21により主管12aと第2分岐管12cとが連通した状態とされかつ第2切替バルブ22により主管13aと第2分岐管13cとが連通した状態とされた場合には、吸着室2内において、第2経路18bに沿って第2ドレインポート7bから第2パージポート6bへ向かって空気流が流れる。
第1パージポート6aは、該第1パージポート6aとは対応していない第2ドレインポート7bの近傍に配設され、第2パージポート6bも、該第2パージポート6bとは対応していない第1ドレインポート7aの近傍に配設されている。すなわち、第1経路18a上の第1ドレインポート7a近傍の吸着剤は、第1経路18aに沿って空気流が流れているときの第1経路18a上の全吸着剤の中で温度低下量が最も小さい吸着剤であり、第2経路18b上の第2ドレインポート7b近傍の吸着剤は、第2経路18bに沿って空気流が流れているときの第2経路18b上の全吸着剤の中で温度低下量が最も小さい吸着剤である。したがって、第1パージポート6aが第2ドレインポート7bの近傍に配設されることで、空気流が流れる経路が第2経路18bから第1経路18aに変更されたとき、第1経路18a上の第1パージポート6a近傍となる部分は、該変更前の温度低下量が小さい部分の近傍に位置することになるので、第1経路18a上の第1パージポート6a近傍の吸着剤の温度は殆ど低下しておらず、外気温に近い温度にあると考えられ、よって、上記吸気系に供給される蒸発燃料量の低下を抑制することができる。また、同様に、第2パージポート6bが第1ドレインポート7aの近傍に配設されることで、空気流が流れる経路が第1経路18aから第2経路18bに変更されたときも、上記吸気系に供給される蒸発燃料量の低下を抑制することができる。
エンジン制御器51による制御動作は、上記参考形態1(図2のフローチャート)と同様である。但し、図2のステップS4及びS15において、「第1切替バルブ21を第1吸着室側へ切り替える」という動作に代えて、第1切替バルブ21をパージ管12の主管12aと第1分岐管12bとが連通した状態にしかつ第2切替バルブ22をドレイン管13の主管13aと第1分岐管13bとが連通した状態にする、という動作になる。また、ステップS10において、「第1切替バルブを第2吸着室側へ切り替える」という動作に代えて、第1切替バルブ21をパージ管12の主管12aと第2分岐管12cとが連通した状態にしかつ第2切替バルブ22をドレイン管13の主管13aと第2分岐管13cとが連通した状態にする、という動作になる。
或いは、上記参考形態2のように、第1及び第2経路18a,18bのうちの1つの経路上のパージポート近傍に、当該部分の吸着剤の温度を検出する温度センサ38を配設して、エンジン制御器51による制御動作を、上記参考形態2(図4のフローチャート)と同様にしてもよい。
したがって、本実施形態では、キャニスタ1内を1つの吸着室2で構成することができ、キャニスタ1を小型化することができるとともに、上記吸気系に供給される蒸発燃料量の低下を抑制することができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、上記各参考形態及び実施形態では、互いに対応するパージポート及びドレインポートが2組であり、キャニスタ1内における各組のパージポート及びドレインポート間に、空気流の経路がそれぞれ設けられることから、空気流の経路は全部で2つであるが、互いに対応するパージポート及びドレインポートを3組以上にして、空気流の経路を3つ以上設けるようにしてもよい。この場合、空気流の経路を、予め決めた順番に変更していけばよい。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
ここで、上記参考形態1と同様の構成の蒸発燃料処理装置である試験装置Aを準備した。但し、パージ管には、パージバルブを設けていない。
そして、上記試験装置Aにおいて、第1及び第2吸着室の吸着剤に蒸発燃料を十分に吸着させた後、第1及び第2タンクポートを閉じた状態にして、パージ管から20L/minでパージを行った。このとき、第1切替バルブによる第1吸着室側への切替えと第2吸着室側への切替えとを1分毎に交互に繰り返した。
また、比較のために、試験装置B及びCを準備した。試験装置Bは、試験装置Aに対して第1切替バルブを設けていない点のみが異なり、パージ管の主管から第1及び第2分岐管が直に分岐している。この試験装置Bにおいても、上記試験装置Aと同様にして、パージ管から20L/minでパージを行った。これにより、試験装置Bにおいては、第1吸着室及び第2吸着室の両方で、蒸発燃料の脱離が連続して行われる。
試験装置Cは、第2パージポートと第1ドレインポートとを接続し、第1パージポートにパージ管(分岐管はない)を接続したものである。この試験装置Cにおいても、上記試験装置A及びBと同様にして、パージ管から20L/minでパージを行った。すなわち、試験装置Cでは、第2ドレインポートから空気が吸い込まれて、その空気が、第2吸着室(第2経路)及び第1吸着室(第1経路)を順に流れて第1パージポートから流出する。
上記試験装置A〜Cにおいて、パージ開始からの総パージ流量((20L/min)×パージ開始からの時間)と、第1及び第2吸着室における吸着剤に吸着されていた蒸発燃料の総脱離重量との関係を調べた。この結果を、図7に示す。
上記試験装置Aでの蒸発燃料の総脱離重量は、上記試験装置Bよりも多いことが分かる。例えば総パージ流量が400Lの時点で、上記試験装置Aでの蒸発燃料の総脱離重量は、試験装置Bに対して7%も多くなる。すなわち、上記試験装置Bでは、第1及び第2吸着室の両方で蒸発燃料の脱離が連続して行われているために、両吸着室の吸着剤の温度が低下して、蒸発燃料の総脱離重量が少なくなる。これに対して、上記試験装置Aでは、第1及び第2吸着室のうちの一方の吸着室で蒸発燃料の脱離が行われている間は、他方の吸着室では蒸発燃料の脱離が行われていないので、他方の吸着室の吸着剤の温度が上昇し、温度が上昇した後に、蒸発燃料の脱離が行われるようになるので、蒸発燃料の総脱離重量が上記試験装置Bよりも多くなる。尚、上記試験装置Aでは、吸着剤の温度を考慮しないで、第1切替バルブによる切替えを1分毎に行っているが、上記各参考形態及び実施形態のように、吸着剤の温度を考慮して第1切替バルブによる切替えを行う、つまり、空気流が流れている経路上の吸着剤の温度の低下量が上記所定値以上になったと判定されたときに、空気流の経路を変更するようにすれば、蒸発燃料の総脱離重量を最大限に多くできると考えられる。
上記試験装置Cでは、第1及び第2吸着室の両方で蒸発燃料の脱離が連続して行われるとともに、上記試験装置Bよりもパージの効率が悪くなるため、蒸発燃料の総脱離重量が最も少なくなる。
次に、上記試験装置Cに対して第2パージポートと第1ドレインポートとの接続を解除して第1吸着室のみとした試験装置Dを準備した。この試験装置Dにおいて、パージ管から20L/minでパージを行った。このとき、外気温を18.6℃、35.0℃、40.6℃として、その各外気温度毎に、パージ開始からの時間に対して、第1経路上の第1パージポート近傍の吸着剤の温度変化を調べた。この結果を、図8に示す。この図8より、上記吸着剤の温度は、パージにより急激に低下することが分かる。尚、上記各外気温度でのパージ開始時の吸着剤の温度は、当該外気温よりも少し高めになっている。
また、上記各外気温度毎に、パージ開始からの総パージ流量と、第1吸着室における吸着剤に吸着されていた蒸発燃料の総脱離重量との関係を調べた。この結果を、図9に示す。図9より、外気温が低いほど、蒸発燃料の総脱離重量が少なくなることが分かる。これは、図8より、外気温が低いと、その分だけ、吸着剤の温度がより低くなるからである。