これまで、先行車と後方車との車間距離および自車と後方車の走行速度を取得し、車間距離を走行速度で除した車頭時間を算出して、減速行動が渋滞誘発行動であるか評価することが提案されている。この方法によれば、(1)先行車との車頭時間が所定以上である場合、および(2)後方車との車頭時間が所定値以下である場合においてのみ、渋滞誘発行動検出を行う。所定の方式により設定した渋滞多発地点において自車減速を検知した場合、この方法により渋滞誘発行動として検出し、ドライバに渋滞誘発行動であることを通知する。これにより、(1−1)先行車との距離が短く減速をせざるを得ない場合、および(2−1)後方車との距離が遠く自車両の減速が渋滞を誘発しない場合を除外することができる。
上記方法では、先行車との車頭時間および後方車との車頭時間を用いているが、これだけでは、先行車との危険度、後方車への渋滞誘因行動は、正確には評価できない。
実施形態を説明する前に、減速行動を、先行車との車頭時間および後方車との車頭時間で評価する場合の問題点を説明する。
図1は、減速行動を、先行車との車頭時間で評価する場合の問題点を説明する図であり、(A)が先行車と自車と関係を図示し、(B)が異なる条件での潜在的衝突余裕距離を示す表である。表では、2つの異なる条件を示し、各条件の上側に走行速度をkm/hで表した場合を、下側に走行速度をm/sで表した場合を、それぞれ示す。
また、図2は、潜在的衝突余裕距離の算出方法を説明する図である。
図1の(A)に示すように、道路上を先行車10aが速度Vaで走行し、距離D後方に、すなわち車間距離Dで、自車10bが速度Vbで走行している場合を想定する。
上記方法では、車頭時間3秒以下の場合には、減速行動が渋滞誘発行動でないと評価する。そこで、車頭時間が2.0秒の条件1と条件2の場合を検討する。条件1は、車間距離Dが33mで、Va=60km/h(16.7m/s)で、Vb=60km/h(16.7m/s)で、ある。条件2は、車間距離Dが50mで、Va=60km/h(16.7m/s)で、Vb=90km/h(25.0m/s)で、ある。条件1の場合の車頭時間は、(33m)/(16.7m/s)=2.0である。条件2の場合の車頭時間は、(50m)/(25.0m/s)=2.0である。
ここで、条件1および条件2での潜在的衝突余裕距離を算出する。潜在的衝突余裕距離は、図2に示すように、追従走行時を想定し、追突という潜在的な危険、すなわちリスクに対する余裕度を表す。まず、先行車が急ブレーキをかけ、自車ドライバが反応時間T秒後に自車ドライバがブレーキをかけたと仮定し、先行車停止位置と自車停止位置間の距離を衝突余裕距離とする。この場合先行車は制動していないので潜在的な衝突に対する余裕距離となる。
潜在的衝突余裕距離の算出式について説明する。先行車が速度VFで走行しており、自車が速度Vで走行しており、車間距離がDFであるとする。ここで、危険回避のために、先行車が加速度−αで最大減速(急ブレーキ)を行い、自車のドライバが先行車の急減速に対して反応時間Tだけ遅れて加速度−αで最大減速(急ブレーキ)を行ったと仮定する。先行車が最大減速を開始してから停止するまでに走行する距離はVF 2/2αであり、自車が反応時間Tの間に走行する距離はV×Tであり、自車が最大減速を開始してから停止するまでに走行する距離はV2/2αである。したがって、先行車と自車が停止した時の車間距離Dは、D=DF−V×T+(VF 2−V2)/2αとなる。この車間距離Dが、潜在的衝突余裕距離であり、先行車の最大減速(急ブレーキ)に対して、自車が最大限の減速を行った場合に残る距離である。もし潜在的衝突余裕距離が負であれば、追突の可能性が高まることを意味する。
潜在的衝突余裕距離は、ドライバが潜在的な先行車の危険をどの程度認知しているかを示し、リスクに対して対応できるように準備しているドライバは潜在的衝突余裕距離が長い。一方、潜在的衝突余裕距離が短いドライバは、潜在的リスクに対する身構えができていないと考えられる。ただし、道路のスムーズな走行、すなわち渋滞発生を抑止する上では、潜在的衝突余裕距離が必要以上に長くなることは好ましくなく、各車について適切な潜在的衝突余裕距離が維持されることが望ましい。
上記の条件1および2について算出した潜在的衝突余裕距離を図1の(B)に示す。図示のように、同じ車頭時間2.0秒であっても、潜在的衝突余裕距離は、条件1の場合は22mであり、条件2の場合は3mであり、大きく異なる。条件1の場合は、潜在的衝突余裕距離は22mと余裕があるのに対し、条件2の場合は、潜在的衝突余裕距離が3mと余裕がない状態にあることが分かる。このように、上記の方法によれば、2つの異なる条件を等しく渋滞誘発行動ではないと評価することになる。一方は潜在的衝突余裕距離が3mと余裕のない場合であり、評価は妥当であると考えられるが、一方は潜在的衝突余裕距離が22mと余裕のある場合であり、渋滞誘発行動ではないと評価するのは妥当でない。このように、先行車との衝突余裕度の異なる条件を、等しく渋滞誘発行動でないと評価するのは問題である。
図3は、減速行動を、後方車との車頭時間で評価する場合の問題点を説明する図であり、(A)が後方車と自車と関係を図示し、(B)が異なる条件での潜在的衝突余裕距離を示す表である。表では、2つの異なる条件を示し、共に走行速度をkm/hで表した場合である。図3の(B)の潜在的衝突余裕距離の算出方法は、図2で説明した方法と同じである。
図3の(A)に示すように、道路上を自車10bが速度Vbで走行し、距離D後方に、すなわち車間距離Dで、後方車10cが速度Vcで走行している場合を想定する。
上記方法では、車頭時間10秒以下の場合には、自車の減速行動が渋滞誘発行動にならないと評価する。そこで、車頭時間が3.0秒の条件3と条件4の場合を検討する。条件3は、車間距離Dが50mで、Vb=60km/h(16.7m/s)で、Vc=60km/h(16.7m/s)で、ある。条件4は、車間距離Dが83mで、Vb=60km/h(16.7m/s)で、Vc=100km/h(27.8m/s)で、ある。条件3の場合の車頭時間は、(50m)/(16.7m/s)=3.0である。条件4の場合の車頭時間は、(83m)/(27.8m/s)=3.0である。
上記の算出方法で算出した条件3および条件4での潜在的衝突余裕距離は、図3の(B)に示すように、38mおよび22mであった。同じ車頭時間=3秒の条件であっても、条件3は潜在的余裕距離が38m、条件4は潜在的余裕距離が22mと倍近く異なる。ここにおいて、自車が同じ減速度で減速を行った場合、後方車との余裕がある条件3の場合と、後方車との余裕が少ない条件4の場合で、等しく渋滞誘因行動と判定するのは問題がある。
以上説明したように、先行車との車頭時間および後方車との車頭時間を用いただけでは、先行車との危険度、後方車への渋滞誘因行動は、正確には評価できない。以下に説明する実施形態では、減速行動の渋滞発生の誘因度をより正確に評価できる渋滞誘因運転行動評価方法および装置が開示される。
第1実施形態の渋滞誘因運転行動評価装置は、例えば、車両に搭載され、渋滞誘因運転行動評価装置を搭載した車両を自車とする。自車は、自車の走行速度および加速度を検出するのに加えて、先行車および後方車の走行速度および加速度を取得し、渋滞誘因運転行動評価装置は、それに基づいて渋滞誘因運転行動であるか、さらにその渋滞への誘因度を評価する。そのため、自車は、先行車および後方車の走行速度および加速度を取得する必要がある。なお、後述する第2実施形態では、先行車および後方車との車間距離も取得する。
図4は、先行車および後方車の走行速度および加速度を取得する車両の例を示す図である。図4に示すように、車両10は、前方車の自車に対する相対速度を測定する前方用レーダ装置12と、後方車の自車に対する相対速度を測定する後方用レーダ装置13と、を搭載している。レーダ装置で対象車との相対速度を測定し、自車速度に加えれば対象車の速度が求まる。さらに、レーダ装置で短時間に続けて2回対象車の相対速度を測定し、その変化を時間で除算すれば対象車の相対加速度を取得できる。また、一般に、レーザ装置は対象車との距離を測定可能であり、直接相対加速度を検出するものもある。なお、対象車は1車でなく、複数車の相対速度および車間距離を検出することが可能な場合もある。また、自車の走行速度及び加速度は、自車に搭載している速度計および加速度計で測定できる。以上のようにして、自車は、自車の走行速度および加速度を検出するのに加えて、先行車および後方車の相対速度および相対加速度を取得する。
近年、自動車等の車両は、センサ、アクチュエータ、制御装置等の多数の電子機器を搭載しており、それらを車載用LANで接続して、複数のセンサの検出したデータを収集して、車両全体を統合的に制御する車載装置が提案されている。また、車載用LAN規格も提案されている。第1実施形態の渋滞誘因運転行動評価装置を搭載した車両も、このような車載装置を搭載し、渋滞誘因運転行動評価装置が車載装置の一部として形成されることが望ましい。以下、渋滞誘因運転行動評価装置が、車載装置の一部として形成された場合を例として説明する。
図5は、車載装置の構成例を示す図であり、渋滞誘因運転行動評価装置に関係する部分のみを示している。
車載装置は、演算装置21と、先行車速度測定装置22と、後方車速度測定装置23と、速度センサ24と、加速度センサ25と、表示装置26と、カーナビゲーション装置27と、GPSセンサ28と、LAN信号経路29と、を有する。先行車速度測定装置22および後方車速度測定装置23は、図4の前方用レーダ装置12および後方用レーダ装置13に対応するが、レーダ装置に限定されず、先行車および後方車の相対速度が測定可能であれば、どのようなものでも良い。なお、先行車速度測定装置22および後方車速度測定装置23は、先行車および後方車との車間距離も測定できることが望ましい。渋滞誘因運転行動評価装置は、演算装置21、すなわちコンピュータ上でプログラムにより実現される。図5の各部は、広く知られているので、これ以上の説明は省略する。
図6は、近年普及し始めているスマートフォン等の通信端末を利用して、他車の走行情報を収集可能にしたシステム構成例を示す図である。車両10X−10Zは、通信端末30を接続可能にした車載装置20を搭載している。通信端末30は、例えば、運転者(ドライバ)の携帯する通信端末である。ドライバは、車両に搭乗すると、通信端末30を車載装置20の接続コネクタに接続する。これに応じて、車載装置20は、通信端末30を走行管理センタ100と常時通信可能な状態に設定する。通信端末30は、車載装置20から。自車の走行位置(GPSセンサ28で検出した位置)、走行速度(速度センサ24で測定した速度)および加速度(加速度センサ24で測定した加速度)の情報を受けて、走行管理センタ100に送信する。走行管理センタ100は、各車の走行位置から、先行車、後方車の位置関係を検出できるので、各車両に、先行車および後方車の速度および加速度の情報を送信する。この場合には、各車両は、先行車速度測定装置22および後方車速度測定装置23を有する必要はない。
また、図6に示すようなシステムでは、走行管理センタ100内に渋滞誘因運転行動評価装置を設け、各車の走行を評価するようにしてもよい。
さらに、カーナビゲーション装置27が通信機能を有する場合や、車載装置20自体が通信機能を有する場合には、通信端末30無しで図6に示すようなシステムを構築することも可能である。以下に説明する実施形態では、図5のように、車載装置が先行車速度測定装置22および後方車速度測定装置23を有する場合を例として説明するが、図6に示すシステムの場合でも同様に適用可能である。
図7は、渋滞誘因運転行動評価装置の機能ブロック図である。上記のように、渋滞誘因運転行動評価装置は、演算装置21、すなわちコンピュータ上でプログラムにより実現される。
渋滞誘因運転行動評価装置は、先行車相対速度取得部31と、先行車加速度検出部32と、自車速度取得部33と、自車加速度取得部34と、後方車相対速度取得部35と、データ格納部36と、走行位置取得部37と、渋滞多発区間判定部38と、を有する。渋滞誘因運転行動評価装置は、さらに、渋滞誘因行動判定部41と、渋滞誘因度判定部42と、を有する。なお、第1実施形態では利用しないデータであるが、先行車速度測定装置22および後方車速度測定装置23が、車間距離を測定可能である場合には、先行車距離取得部39および後方車距離取得部40を有することが望ましい。
先行車相対速度取得部31は、先行車速度測定装置22が測定した先行車の相対速度を定期的に読み取り、先行車加速度検出部32に送ると共に、データ格納部36に記憶する。先行車加速度検出部32は、先行車の相対速度の変化から先行車の相対加速度を算出すると共に、データ格納部36に記憶する。自車速度取得部33は、速度センサ24が測定した自車の速度を定期的に読み取ると共に、データ格納部36に記憶する。自車加速度検出部34は、加速度センサ25が測定した自車の加速度を定期的に読み取ると共に、データ格納部36に記憶する。もし、速度センサ24のみを搭載し、加速度センサ25を搭載していない場合には、速度の変化から加速度を算出することが可能である。後方車相対速度取得部35は、後方車速度測定装置23が測定した後方車の相対速度を定期的に読み取る。なお、図示していないが、後方車加速度検出部を設けて、後方先行車の相対速度の変化から後方車の相対加速度を算出することも可能である。先行車距離取得部39および後方車距離取得部40は、先行車速度測定装置22および後方車速度測定装置23が測定した先行車および後方車との車間距離を定期的に読み取り、データ格納部36に記憶する。
データ格納部36は、先行車相対速度取得部31、先行車加速度検出部32、自車速度取得部33、自車加速度取得部34および後方車相対速度取得部35の取得したデータをデータベース形式で記憶する。データ格納部36は、さらに、先行車距離取得部39および後方車距離取得部40の取得した先行車および後方車との車間距離をデータベース形式で記憶する。なお、図示していないが、データ格納部36は、GPSセンサ28で検出した自車の位置や、自車の走行距離なども記憶する。データ格納部36は、これらのデータをデータベース(DB)形式で記憶し、車載LANを介してセンサの出力を読み取る最小時間単位ごとに、古いデータを消去し、最新のデータを書き込むことにより更新する。
図8は、上記のデータを記憶する走行情報DBの構造例を示す図である。走行情報DBは、図示のような項目を含むが、実際にはさらに多くの項目が含まれる。
図9は、走行情報DBのうちの第1実施形態で使用するデータ項目を示した図であり、1処理サイクルにおいて、データが更新される様子を示している。
データ格納部36は、さらに、デジタル地図情報(マップ)を記憶しており、デジタル地図情報には、渋滞多発区間を示す渋滞多発地区マップが含まれている。渋滞多発区間マップは、交通の統計情報により渋滞が多発する区間をあらかじめ定めたデータであり、上記のようにデータ格納部36に格納しておく。なお、渋滞多発地区マップとして、通信などで当該時間帯において当該区間が渋滞多発区間であるかどうかを判定する情報を取得しても良い。
走行位置取得部37は、GPSセンサ28の検出した現在位置を読み取り、渋滞多発区間判定部38に送る。渋滞多発区間判定部38は、現在位置がデータ格納部36に格納されたマップの渋滞多発地区に入るかを判定し、入る場合には、渋滞誘因行動判定部41を起動し、入らない場合には、渋滞誘因行動判定部41を非動作状態にする。なお、第1実施形態では、車両が渋滞多発区間内を走行している時のみ渋滞誘因行動判定処理を行い、それ以外の区間では減速があっても処理を行わない。しかし、第1実施形態では、これに限定されず、常時渋滞誘因運転行動評価処理を行うことも可能である。
渋滞誘因行動判定部41は、先行車の速度および加速度、自車の速度および加速度から、減速行動が、安全上必然の制動行動であるか、言い換えれば渋滞誘因行動であるか否かを判定する。渋滞誘因度判定部42は、減速が渋滞誘因行動であると判定された時に、先行車の速度および加速度、自車の速度および加速度、および後方車の速度から、減速の渋滞誘因度を判定する。
次に、第1実施形態の渋滞誘因運転行動評価装置における処理動作を説明する。
図10から図12は、第1実施形態の渋滞誘因運転行動評価装置における処理動作を示すフローチャートである。
ステップS11で、走行位置取得部37が、GPSセンサ28等の自車現在位置を示す情報とデジタル地図情報を照合し、自車が現在走行している道路区間を特定する。
ステップS12では、渋滞多発区間判定部38が、走行している道路区間が渋滞多発区間であるかを判定し、走行位置が渋滞多発区間でなかった場合、ステップS11に戻り、渋滞多発区間であった場合、ステップS13に進む。
ステップS13では、自車速度取得部33が、車載LANを介して、速度センサ24の検出した自車速度の変化または加速度センサ25の検出した自車加速度から自車減速度情報を取得する。
ステップS14では、渋滞誘因行動判定部41が、減速度が閾値以上であるかどうかを判定し、閾値より小さければステップS11に戻り、閾値以上であればステップS15に進む。ここで減速度とは負の加速度として定義する。すなわち減速度が正であれば、速度は減少する。なお、速度センサ24の検出した自車速度および加速度センサ25の検出した自車加速度が、常時定期的にデータ格納部36に格納される場合には、渋滞誘因行動判定部41は、データ格納部36からデータを読み取ればよい。以下、データの読み取りの場合には、すべてこのようなデータアクセス方法が可能である。
ステップS15では、後方車速度測定装置23が後方車を検出しているか、言い換えれば「後方車無し」を示しているかの情報を取得する。例えば、後方車速度測定装置23は、測定可能な範囲が制限されており、その範囲内に後方車が存在しない場合には、「後方車無し」を示す信号を出力する。また、後方車速度測定装置23の測定可能範囲が長い場合には、後方車距離取得部40が取得した後方車との車間距離が所定距離(例えば、100m)以内でない場合には、「後方車無し」を示す信号が出力されるようにしてもよい。
ステップS16では、渋滞誘因行動判定部41が、後方車が存在するか判定し、存在しない場合には減速が渋滞を引き起こさないのでステップS11に戻り、後方車が存在する場合には、ステップS17に進む。
ステップS17では、後方車相対速度取得部35が、後方車の相対速度を取得し、データ格納部36の走行情報DBに格納する。
ステップS18では、走行情報DBから1サイクル前の後方車の相対速度を読み出す。
ステップS19では、今回と1サイクル前の後方車の相対速度の差から、後方車相対加速度を算出し、走行情報DBに格納する。
ステップS20では、自車速度取得部33および自車加速度取得部34が、自車の絶対速度および絶対加速度を取得し、データ格納部36の走行情報DBに格納する。
ステップS21では、ステップS17およびS19で取得した後方車の相対速度および相対加速度と自車の絶対速度および絶対加速度から、後方車の絶対速度および絶対加速度を算出する。
ステップS22では、ステップS15と同様に、先行車の存在を検出する。
ステップS23では、渋滞誘因行動判定部41が、先行車が存在するか判定し、存在しない場合にはステップS23に進み、選考車が存在する場合には、ステップS24に進む。
ステップS24では、あらかじめ決められている、先行車がいない場合の自車最小限減速度を設定し、後述するステップS31に進む。先行車がいない場合の自車最小限減速度は、例えば、車両性能および道路形態などからあらかじめ決められており、その時点の状況、例えば降雨状態などに応じて変更されるようにすることが望ましい。
ステップS25では、先行車相対速度取得部31が、先行車の相対速度を取得し、データ格納部36の走行情報DBに格納する。
ステップS26では、先行車加速度検出部32が、走行情報DBから1サイクル前の先行車の相対速度を読み出す。
ステップS27では、先行車加速度検出部32が、今回と1サイクル前の先行車の相対速度の差から、先行車相対加速度を算出し、走行情報DBに格納する。
ステップS28では、自車速度取得部33および自車加速度取得部34が、自車の絶対速度および絶対加速度を取得し、データ格納部36の走行情報DBに格納する。なお、ステップS20からの経過時間が小さい場合には、このステップS28は省略可能である。
ステップS29では、ステップS21と同様に、先行車の絶対速度および絶対加速度を算出する。
ステップS30では、自車最小限減速度算出する。以下、先行車絶対速度をVfa、先行車絶対加速度をa2、自車絶対速度をVoa、自車絶対加速度をaoaとし、自車最小限減速度aominを求める算出方法を詳細に説明する。なお、減速なので、自車絶対加速度aoaは、自車減速度aoaと称する。
自車最小限減速度aominは、これ以上減速度が少ないと衝突する危険性がある減速度として定義する。定義の仕方は幾通りか考えられるが、第1実施形態では以下のように定義する。
(1)先行車絶対速度Vfaより自車絶対速度Voaが小さい場合、その速度関係が維持されるなら衝突危険性はないので、自車最小限減速度aomin=0とする。
(2)先行車絶対速度Vfaより自車絶対速度Voaが大きい場合、自車最小限減速度aominで減速した場合、時刻tにおいて自車と先行車の速度が一致するものとして自車最小限減速度aominを定義する。ここで時刻tの取り方は幾通りか考えられるが、第1実施形態では、先行車減速度が維持された場合に、先行車の速度が0となる時刻t_stopを採用する。
この場合、aomin=Voa/Vfa*a2となる。
もちろんaominの定義方法はこの方式に限られるものではない。
ステップS31では、自車減速度aoaと自車最小限減速度aominとを比較し、自車最小限減速度に対し自車減速度aoaがどの程度超過しているかにより、検出された減速が渋滞誘因行動であるかどうかを判定する。
ここにおいて所定の閾値を設定し、自車最小限減速度aominに対する自車減速度aoaの超過量がこの閾値を超えている場合、自車減速行動は過剰な減速速度であり渋滞誘因行動として評価する対象であると判断する。
一方、閾値より小さい場合は、自車減速行動は先行車との危険回避のために過剰でない減速行動をとっていることから、自車減速行動を渋滞誘因行動として評価する対象とはしない。
自車減速が渋滞誘因行動の評価対象と判定された場合、またはステップS23で先行車が存在しないが自車減速が検出された場合、自車減速の後方車への影響を評価するため、ステップS32に進む。
ステップS32では、自車最小限減速度aominと同様の方法で、自車絶対速度Vfa、自車絶対加速度aoa、後方車絶対速度Vrrから、後方車最小限減速度arminを算出する。
この場合、armin=Vfa/Vrr*aoaとなる。
ステップS33では、後方車最小限減速度arminの閾値を設定する。閾値は任意に設定される。
ステップS34では、後方車最小限減速度arminが設定した閾値を超えているか判定し、超えていない場合は、ステップS35に進み、渋滞誘因運転でないと判定し、超えている場合は、ステップS36に進み、渋滞誘因運転であると判定する。渋滞誘因運転である場合には、判定結果をデータ格納部36の走行情報DBに格納する。
図13は、第1実施形態において、2つの異なる条件Pおよび条件Qで、自車最小限減速度aominを求め、渋滞誘因行動として評価する対象であるか否かを判断する場合の演算例を示す図である。図13の(A)が先行車と自車と関係を図示し、図13の(B)および(C)は、条件Pおよび条件Qでの演算例を示す表である。
図13の(A)に示すように、渋滞多発区間である上り坂の道路上を先行車10aが速度Vaで走行し、車間距離Dで、自車10bが速度Vbで走行しており、先行車がa2で減速した場合を想定する。条件Pは、Va=70km/h(19.4m/s)で、Vb=80km/h(22.2m/s)で、a2=0.05G(0.49m/s2)である。条件Qは、Va=70km/h(19.4m/s)で、Vb=100km/h(27.8m/s)で、a2=0.05G(0.49m/s2)ある。先行車の減速に対して、自車が0.1G(0.98m/s2)で減速行動を取ったとする。
図13の(B)は、条件Pの場合で、自車最小限減速度aomin=Vb/Va*a2=22.2/19.4*0.49=0.56m/s2となり、これは0.057Gである。これに対して、自車は0.1G(0.98m/s2)で減速行動を取ったので、その差分0.043G(0.42m/s2)分は過剰な減速ということになる。
図13の(C)は、条件Qの場合で、自車最小限減速度aomin=Vb/Va*a2=27.8/19.4*0.49=0.70m/s2となり、これは0.071Gである。これに対して、自車は0.1G(0.98m/s2)で減速行動を取ったので、その差分0.029G(0.42m/s2)分は過剰な減速ということになる。2つを比較すると、条件Pの方が条件Qより、自車減速度aoaの超過量が大きいことが分かる。
図14は、第1実施形態において、2つの異なる条件Rおよび条件Sで、自車の減速が後方車にどの程度の渋滞誘因になっているかを評価する場合の演算例を示す図である。図14の(A)が自車車と後方車と関係を図示し、図14の(B)および(C)は、条件Rおよび条件Sでの演算例を示す表である。
図14の(A)に示すように、渋滞多発区間である上り坂の道路上を自車10bが速度Vbで走行し、車間距離Dで、後方車10cが速度Vcで走行しており、自車がaoaで減速した場合を想定する。条件Rは、Vb=70km/h(19.4m/s)で、Vc=80km/h(22.2m/s)で、aoa=0.05G(0.49m/s2)である。条件Sは、Vb=50km/h(13.9m/s)で、Vc=100km/h(27.8m/s)で、aoa=0.05G(0.49m/s2)ある。
図14の(B)は、条件Rの場合で、後方車最小限減速度(後方車衝突回避減速度)armin=Vc/Vb*aoa=22.2/19.4*0.49=0.56m/s2となり、これは0.057Gである。
図14の(C)は、条件Sの場合で、後方車最小限減速度armin=Vc/Vb*aoa=27.8/19.4*0.49=0.70m/s2となり、これは0.071Gである。
条件RとSを比べると、自車はともに同じ減速度0.05Gで減速しているが、条件Sの方が後方車により大きな減速を強いる運転行動となっていることから、条件Sをより渋滞を誘因する減速行動として評価する。
次に、第2実施形態の渋滞誘因運転行動評価装置について説明する。第2実施形態の渋滞誘因運転行動評価装置は、第1実施形態の渋滞誘因運転行動評価装置と類似の構成を有し、自車減速行動を渋滞誘因行動として評価する処理および自車減速の渋滞誘因度を評価する処理が異なる。
図15から図17は、第2実施形態の渋滞誘因運転行動評価装置における処理動作を示すフローチャートである。
第2実施形態の渋滞誘因運転行動評価装置は、第1実施形態のステップS11からS29までを同様に行うが、ステップS17およびステップS25で、後方車および先行車の相対速度と共に、後方車間距離D2および先行車間距離D1を取得する。車間距離は、レーダ装置を利用して求められるが、カメラ画像を用いた画像解析で算出する等、各種の方法が知られており、どのような方法を使用してもよい。
ステップS29の後、ステップS41では、先行車絶対速度Vfa、自車絶対速度Voa、先行車間距離D1から自車衝突回避減速度を求め、それを自車最小限減速度aominに設定する。自車衝突回避減速度は、前述のように、先行車の現在の減速度が維持された場合、これとの衝突を避けるための最小限の減速度として定義される。上記最小限の減速度を求める方法は幾通りか考えられるが、第2実施形態においては、図2に示した方法を用いる。運転手は所定の反応時間Trは、それぞれのドライバの日々の運転行動から求めた値を用いてもよく、統計的な平均値を用いても良い。第2実施形態では、平均値である0.7秒を用いた。
ステップS42では、先行車絶対速度Vfa、自車の絶対速度Voa、先行車間距離D1から、自車潜在的衝突回避減速度を算出し、それを自車最大限減速度aomaxに設定する。自車最大限減速度aomaxを求める方法は幾通りか考えられるが、第2実施形態においては、最大の減速度は、潜在的衝突を避けるために必要な減速度として定義し、下記手順を用いて求める。
(1)先行車の潜在的減速afp (=急ブレーキ) をすると仮定する。この際の減速度afpは車種ごとに設定してもよく、平均的急ブレーキ量を用いても良い。第2実施形態では平均値として発表されている0.6Gを用いる。
(2)自車が反応時間Trの後、潜在的衝突を回避するために減速を開始するとする。図2で説明した方法と同様に、先行車との潜在的衝突を回避するために必要な最小限の減速度aopを求める。これを自車が行う最大限の減速度aomaxと設定する。
ステップS43では、自車最小限減速度aominと自車最大限減速度aomaxと自車減速度aoを用い、自車減速の不必要度を算出する。減速の不必要度は、次の式で求める。
減速不必要度=(ao−aomin)/(ao−aomax)
ステップS51では、減速不必要度があらかじめ設定されている閾値より大きいか否か判定され、小さい場合はステップS52に進み、大きい場合はステップS54に進む。
ステップS52では、自車減速行動は先行車との危険回避のために過剰でない減速行動をとっていることから、自車減速行動を渋滞誘因行動として評価する対象とはしない。
ステップS53では、ステップS11に戻る。
ステップS54は、減速不必要度があらかじめ設定されている閾値より大きく、または先行車が存在しないが自車減速が検出された場合に、自車減速が渋滞誘因行動評価対象と判定し、自車減速の後方車への影響を評価するためにステップS61に進む。
ステップS61では、第1実施形態のS32および第2実施形態のS41と同様に、後方車最小限速度arminを算出する。
ステップS63では、後方車最小限速度arminの値を、渋滞誘因度として自車減速行動を評価する。具体的には、後方車最小限速度arminが、あらかじめ設定された閾値を超えているか判定し、超えていなければ、ステップS64に進み、超えていれば、ステップS65に進む。
ステップS64では、自車の減速行動が、渋滞誘因運転でないと判定する。
ステップS65では、自車の減速行動が、渋滞誘因運転であり、そのデータをデータ格納部36の走行情報に記憶する。
図18は、第2実施形態において、2つの異なる条件Tおよび条件Uで、自車最小限減速度aominおよび自車最大限減速度aomaxを求め、渋滞誘因行動として評価する対象であるか否かを判断する場合の演算例を示す図である。図18の(A)が先行車と自車と関係を図示し、図18の(B)および(C)は、条件Tおよび条件Uでの演算例を示す表である。
図18の(A)に示すように、渋滞多発区間である上り坂の道路上を先行車10aが速度Vaで走行し、車間距離D1で、自車10bが速度Vbで走行しており、先行車がa2で減速した場合を想定する。条件Tは、Va=70km/h(19.4m/s)で、Vb=70km/h(19.4m/s)で、a2=0.05G(0.49m/s2)で、D1=60mである。条件Uは、Va=52km/h(14.4m/s)で、Vb=70km/h(19.4m/s)で、a2=0.05G(0.49m/s2)で、D1=36mである。先行車の減速に対して、自車が0.1G(0.98m/s2)で減速行動を取ったとする。
図18の(B)は、条件Tの場合である。まず、先行車がVa=19.4m/sから0.05Gで減速して停止するまでの時間t_stop=39.7秒である。先行車が停止するまでに走行する距離L1=19.4*39.7−0.5*19.4*39.72=385.8mである。自車が先行車停止位置まで走行する距離=L1+車間距離=445.8mである。自車最小限減速度aominは、自車が先行車の減速から反応時間0.7秒後に減速を開始し、先行車にギリギリ衝突せずに済む減速度である。自車が減速を開始するまでに走行する距離=19.44*0.7=13.6mである。
したがって、減速する距離=445.8−13.6=432.2mである。したがって、減速度=19.42/432.2/2=0.43m/s2=0.044Gである。
自車最大限減速度aomaxは、上記の自車最小限減速度aominの演算で、先行車の減速度a2=0.05Gを最大限減速度=0.6Gで変更して算出する。t_stop=3.3秒であり、L1=19.4*3.3−0.5*(0.6*9.8)*3.32=47.0mであり、L1+車間距離=47+60=107mである。最後に、自車最小限減速度aomax=19.42/(107−19.44*0.7)/2=2.0m/s2=0.21Gである。したがって、減速不必要度=(0.1−0.044)/(0.21−0.044)=0.34である。
図18の(C)は、条件Uの場合である。条件Tの場合と同様に演算して、t_stop=29.5秒、L1=212.9m、L1+車間距離=248.9m、自車最小限減速度aomin=0.75m/s2=0.076Gである。
同様に、t_stop=2.5秒であり、L1=18.2mであり、L1+車間距離=54.2mであり、自車最小限減速度aomax=4.7m/s2=0.48Gである。したがって、減速不必要度=(0.1−0.076)/(0.48−0.076)=0.059である。
図19は、第2実施形態において、2つの異なる条件Vおよび条件Wで、自車の減速が後方車にどの程度の渋滞誘因になっているかを評価する場合の演算例を示す図である。図19の(A)が自車車10bと後方車10cと関係を図示し、図19の(B)および(C)は、条件Vおよび条件Wでの演算例を示す表である。
図19の(A)に示すように、渋滞多発区間である上り坂の道路上を自車10bが速度Vbで走行し、車間距離Dで、後方車10cが速度Vcで走行しており、自車がaoaで減速した場合を想定する。条件Vは、Vb=75km/h(20.8m/s)で、Vc=80km/h(22.2m/s)で、aoa=0.05G(0.49m/s2)で、車間距離=50mで、ある。条件Wは、Vb=50km/h(13.9m/s)で、Vc=80km/h(22.2m/s)で、aoa=0.05G(0.49m/s2)ある。
図19の(B)は、条件Vの場合で、後方車最小限減速度(後方車衝突回避減速度)arminは、図18で説明したのと同様の方法で算出する。まず、t_stop=42.5秒、L1=442.9m、L1+車間距離=492.9mである。後方車最小限減速度armin=20.82/(432.9−20.83*0.7)/2=0.52m/s2=0.051Gである。
図19の(C)は、条件Wの場合で、t_stop=28.3秒、L1=196.8m、L1+車間距離=226.8mである。後方車最小限減速度armin=13.92/(226.8−13.88*0.7)/2=1.17m/s2=0.12Gである。
条件VとWを比べると、自車はともに同じ減速度0.05Gで減速しているが、条件Wの方が後方車により大きな減速を強いる運転行動となっていることから、条件Wをより渋滞を誘因する減速行動として評価する。
次に、第3実施形態の渋滞誘因運転行動評価装置について説明する。第3実施形態の渋滞誘因運転行動評価装置は、第2実施形態の渋滞誘因運転行動評価装置と類似の構成を有し、自車減速の渋滞誘因度を評価する処理が異なる。具体的には、減速の初期段階の後方車最小限減速度を基準として、その変化を評価して、減速が継続的に行われ、後方車への影響の増大を評価する。
図20は、第3実施形態で、2つの異なる条件Xおよび条件Yで、自車の減速が後方車にどの程度の渋滞誘因になっているかを評価する場合の演算例を示す図である。図19の(A)が自車車10bと後方車10cと関係を図示し、図19の(B)および(C)が、条件Xおよび条件Yでの演算例を示す表であり、(D)が後方車最小限減速度の変化を示す。
図20の(A)に示すように、渋滞多発区間である上り坂の道路上を自車10bが速度Vbで走行し、車間距離Dで、後方車10cが速度Vcで走行しており、自車がaoaで減速した場合を想定する。条件Vは、減速の初期段階であり、時間t=0、Vb=75km/h(20.8m/s)で、Vc=80km/h(22.2m/s)で、aoa=0.05G(0.49m/s2)で、車間距離=50mで、ある。条件Yは、8秒後のt=8、Vb=60.9km/h(16.9m/s)で、Vc=80km/h(22.2m/s)で、aoa=0.05G(0.49m/s2)で、車間距離=23.2mで、ある。
図20の(B)は、条件Xの場合で、後方車最小限減速度(後方車衝突回避減速度)armin=0.052Gとなる。図20の(C)は、条件Yの場合で、armin=0.084Gとなる。
これは、先行車が自車の減速に気づかず(無意識の減速継続)、5秒経過した結果が図19の(C)の表である。この時点でarmin=0.084Gであり、後方車への渋滞誘因度が5秒間の間に0.032G増加している。この増加量により、ドライバが渋滞誘因行動を継続していると判定する。
自車減速に気づき、ドライバが渋滞誘因行動を是正する運転行動をすればこの変化量は負の値となる。本評価により、ドライバの渋滞回避運転行動を検出することも可能である。
以上説明したように、第1から第3実施形態では、同じ車間距離であっても、危険回避のための減速と、必要以上で渋滞誘因の可能性が高い減速との判定が可能となる。また、同じ減速であっても、後方車に対する影響を定量的に評価し、渋滞誘因の差異が判別可能となる。さらに、渋滞誘因度の大小により、フィードバック方法を変えることが可能となり、より適切な運転支援が可能となる。
また、渋滞誘因度に関するデータを長期にわたり収集し、渋滞誘因度の大小により、ドライバに対するインセンティブ(高速道路運賃など)を変えることが可能になる。
以上、実施形態を説明したが、ここに記載したすべての例や条件は、発明および技術に適用する発明の概念の理解を助ける目的で記載されたものである。特に記載された例や条件は発明の範囲を制限することを意図するものではなく、明細書のそのような例の構成は発明の利点および欠点を示すものではない。発明の実施形態を詳細に記載したが、各種の変更、置き換え、変形が発明の精神および範囲を逸脱することなく行えることが理解されるべきである。