JP5879897B2 - 耐デラミネーション特性に優れた極細鋼線とその製造方法 - Google Patents
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Description
また、特許文献6では、ダイス/鋼線間の摩擦係数を0.07未満とすることで伸線中の発熱を抑制することが提案されている。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、表面を起点とする鋼線のデラミネーションを抑制し、延性の高い極細鋼線を供給しようとするものである。
その結果、めっきが鋼線内部に突起状に入り込んでいる個所が多数存在すること、その突起の存在形態が耐デラミネーション特性に大きく影響することを見出し、さらに、突起について詳細に検討した結果、上記の課題を解決できる本発明に到達したものであり、その趣旨とするところは次の通りである。
該鋼線の表面に銅めっきまたはブラスめっきを有し、極細鋼線の横断面における鋼線母材と前記めっきの境界線が、極細鋼線横断面の外周円よりも内側に突起状に入り込んでおり、それによって形成されためっきの突起の最大深さが1.0μm以下であり、前記突起内に存在するき裂の最大長さが0.8μm以下であるとともに前記き裂の進展方向と極細鋼線横断面の半径方向とのなす角が35°以上であることを特徴とする耐デラミネーション特性に優れた極細鋼線。
(2) 上記(1)に記載の極細鋼線において、該鋼線における横断面表面の周方向に沿って存在する前記突起の単位周長あたりの平均個数が、0.5個/μm以下であることを特徴とする耐デラミネーション特性に優れた極細鋼線。
(3) C:0.75〜1.10%,Si:0.5〜2.0%,Mn:0.2〜2.0%を含有する鋼線材を一次伸線し、最終パテンティングし、酸洗した後、鋼線の表面に銅めっきまたはブラスめっきを施し、湿式伸線を行う上記(1)または(2)に記載の耐デラミネーション特性に優れた極細鋼線の製造方法において、
前記最終パテンティングの際の再加熱時の炉内温度を800〜1050℃に、加熱時間を在炉時間で10分以下にそれぞれ制御し、最終パテンティング後の酸洗を、濃度が15〜30質量%で温度が20〜45℃の塩酸を用い、酸洗時間が120分以下の条件で行って、該酸洗後の鋼線の表面粗さRmaxの最大値(Rmax)maxが4.5μm以下となるようにし、湿式伸線前の銅またはブラスめっき厚を1〜10μmとすることを特徴とする極細鋼線の製造方法。
検討に当たっては、パテンティング時の加熱条件やブラスめっきの厚みなどを変更して、多数の極細鋼線を製造し、各鋼線からサンプルを切り出して、その横断面(C断面)を電子顕微鏡(SEM)で詳細に観察した。また、作成した極細鋼線の耐デラミネーション性評価試験を実施して、各鋼線の耐デラミネーション性を評価して、めっきの断面形状と耐デラミネーション特性との関連を調べた。
そして、さらに突起3について詳細に観察したところ、図2に示すように、突起3の中には、表面から突起部内部に向かうき裂4が存在するものがあること、き裂4には、図2(a)、(b)に示すように表面から鋼線の中心方向に向かって伸びるものと、図2(c)に示すように表面から斜めに伸びるものとがあることが見出された。
突起やき裂の形態については、作製した極細鋼線から得たサンプルのC断面において、その表面周方向に沿ってL(μm)の長さについてSEM観察し、長さLの範囲における突起の個数nを数えて、突起の平均個数n/Lを求めるとともに、突起の深さDを測定して突起の中の最大深さを決定した。また、突起内にき裂が存在する場合には、そのき裂の長さSとき裂の折れ込み角度θを測定した。
なお、き裂の長さSは、き裂の進展方向の長さ、すなわち、き裂の起点(幅の中心)と終点を結ぶ線の長さとし、き裂の折れ込み角度θは、図2(d)に示すように、き裂の進展方向に向かう線5と半径方向に向かう線6の間の角度とする。
評価試験は、作製した極細鋼線から得たサンプル21の両端部を、図6に示す耐デラミネーション性の評価試験装置20のチャック22、23で把持し、一方のチャック23は回転しないよう固定し、他端のチャック22を10〜200回転/分の一定速度で回転して、鋼線に捻じりを加え、破断に至るまで継続することにより行った。
トルクカーブでの急激なトルク低下は、鋼縦割れ(デラミネーション)の発生に対応しており、これが認められた場合は鋼線の延性が殆ど無いものと判断される(評価×)。
一方、図3(a)に示すように、破断に至るまでに急激なトルク低下が認められない場合は、鋼線には表面を起点とした破断が起こらずに、最終的に安定的な延性破壊に至るまで塑性変形することを示しており、鋼線が十分に延性を有しているものと判断される(評価○)。
本発明で対象とする鋼の成分をそのように限定したのは次の理由よる。なお、以下に示す成分の%は全て質量%である。
また、線径を50〜380μmとしたのは、タイヤ、ベルトコード、高圧ホース等、ゴム及び有機材料の補強用に使用されているスチールコードに求められる線径に基づく。
そのための方法として、サンプルを樹脂モールドして機械研磨で行う場合に当金を使用する方法や、イオンビームエッチングによる方法(例えば、特開2009−25133号公報参照)を用いることができる。
また、イオンビームエッチングによる方法では、鋼線の先端が突出するように遮蔽板を鋼線に密着させて配置し、鋼線の突出部分にイオンビームを照射して、遮蔽板から先を削り取るようにする。
パテンティング時の加熱により形成される表面酸化深さの不均一、およびスケールを除去するための酸による不均一な溶解などで鋼線表面には、図4に示すように、等方的な形状の凹凸7が発生している。銅またはブラスめっき1は、最終パテンティング後にこの凹凸の上に電気的に形成されるため、湿式伸線前のめっき材表面は、図5(a)に示すようにほぼ等方的な形状の凹凸7のある表面を持っている。
なお、個数を数える際の対象とする突起は、極細鋼線C断面の外周円よりも内側に0.1μm以上鋼線母材側に突出しているものとする。
また、前述のように、鋼線横断面の表面周方向に沿って20μmの長さLについて突起の個数nを数えて、突起の平均個数をn/Lとして求める。
本発明の極細鋼線は、従来と同様に、熱間圧延後、衝風により調整冷却された直径4.0〜5.5mm程度の高炭素線材を素材として用い、それに伸線加工を行って製造している。
伸線加工における1次伸線では、加工硬化による鋼線の延性劣化に応じて、中間パテンティング、酸洗によるスケール除去を行い、目標とする引張強さに応じた線径に仕上げ、最終パテンティングを行う。最終パテンティング後、酸洗により酸化スケールの除去を行い、水溶液中で銅めっきあるいはブラスめっきを施す。ブラスめっきの場合は銅めっきの上に亜鉛めっきをさらに施して500℃程度の熱による拡散で銅と亜鉛を合金化してブラスにする。めっき処理後、湿式潤滑剤にダイスを浸漬して伸線を行い、所定の強度および線径の極細鋼線を得る。
パテンティング材のC断面表層を、極細鋼線と同様の方法でSEM観察する。この表面の凹凸の観察は、C断面表面の周方向8等分位置でそれぞれ行う。各視野の基準長さを20μmとして観察を行い、その範囲でJIS B0601(2001年)に準拠して表面粗さRmax(最高と最低の差異)を測定する。8等分位置のそれぞれの視野のRmax値のうちの最大値(最大高低差)を(Rmax)maxとし、それをパテンティング材の表面粗さを評価する基準とした。
最終パテンティングの再加熱時の炉内雰囲気温度を800℃乃至1050℃とする。その温度が800℃未満の場合、工業的に採算の取れる時間内に十分に鋼材をオーステナイト化することが出来ない。また1050℃を超える温度とした場合には、表面酸化による鋼材表面の凹凸が大きくなり、その後の湿式伸線でめっきの鋼線内部への食い込みが深くなり、鋼線へのき裂の伝播が起こりやすくなる。
なお、めっき厚みは、銅、亜鉛の電気めっき時の電流密度および通電時間でそれぞれ調整することが可能である。
また、全減面率の残りの90%の各段減面率について、各段減面率が30%を超える場合、表層と中心部の塑性加工が不均一となり、表面に引っ張り方向の大きな残留応力が発生し、鋼線の延性を悪化させる。
まず、熱間圧延線材のミルスケールを塩酸により除去後、潤滑剤下地被膜処理を行った。パテンティング前の乾式伸線はアプローチ角度が全角で14°、各段減面率が20%のダイススケジュールで、50m/minの伸線速度で行った。潤滑剤には、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウムなどの金属石鹸を主体としたものを用いた。伸線の際には、巻き取りのドラムおよびダイスボックスを循環水により冷却し、線温が100℃を超えないように行った。
めっき後の湿式伸線は、ダイスを水中に固体粉末の潤滑剤を界面活性剤で分散させた潤滑剤中に浸漬した状態で行った。すべての段でダイスアプローチ角度は全角で14°、各段減面率は全段20%のものを用いた。これにより、0.2〜0.35mm径の極細鋼線を得た。
また、別のサンプルから、C断面の観察用試料を作成した。試料の端面は、イオンビームエッチングによる方法により調整した。
各試料の端面の表面周方向に沿って長さL=20μmの範囲についてSEM観察して、突起の個数nを数えて、突起の平均個数n/L(/μm)を求めるとともに、突起の深さを測定し、さらに、突起内にき裂が存在する場合には、そのき裂の長さ(μm)及びき裂の折れ込み角度(°)を測定した。突起の深さや突起長さは最大のものの長さを示した。また、き裂の折れ込み角度は、き裂の中で最少のものを示した。
得られた測定結果を表2に示す。
2 極細鋼線の母材部分
3 めっきが鋼線母材部分に食い込んだことによるめっきの突起
4 突起内に存在するき裂
10 極細鋼線全体
20 耐デラミネーション性の評価試験装置
θ き裂の進展方向と極細鋼線横断面の半径方向とのなす角
Claims (3)
- C:0.75〜1.10%,Si:0.5〜2.0%,Mn:0.2〜2.0%を含有し、引張強度が3000MPa以上であり、線径が50〜380μmの円形断面を有する極細鋼線であって、
該鋼線の表面に銅めっきまたはブラスめっきを有し、極細鋼線の横断面における鋼線母材と前記めっきの境界線が、極細鋼線横断面の外周円よりも内側に突起状に入り込んでおり、それによって形成されためっきの突起の最大深さが1.0μm以下であり、前記突起内に存在するき裂の最大長さが0.8μm以下であるとともに前記き裂の進展方向と極細鋼線横断面の半径方向とのなす角が35°以上であることを特徴とする耐デラミネーション特性に優れた極細鋼線。 - 請求項1に記載の極細鋼線において、該鋼線における横断面表面の周方向に沿って存在する前記突起の単位周長あたりの平均個数が、0.5個/μm以下であることを特徴とする耐デラミネーション特性に優れた極細鋼線。
- C:0.75〜1.10%,Si:0.5〜2.0%,Mn:0.2〜2.0%を含有する鋼線材を一次伸線し、最終パテンティングし、酸洗した後、鋼線の表面に銅めっきまたはブラスめっきを施し、湿式伸線を行う請求項1または2に記載の耐デラミネーション特性に優れた極細鋼線の製造方法において、
前記最終パテンティングの際の再加熱時の炉内温度を800〜1050℃に、加熱時間を在炉時間で10分以下にそれぞれ制御し、最終パテンティング後の酸洗を、濃度が15〜30質量%で温度が20〜45℃の塩酸を用い、酸洗時間が120分以下の条件で行って、該酸洗後の鋼線の表面粗さRmaxの最大値(Rmax)maxが4.5μm以下となるようにし、湿式伸線前の銅またはブラスめっき厚を1〜10μmとすることを特徴とする極細鋼線の製造方法。
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