JP5861599B2 - 原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼 Download PDF

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Description

本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼に関し、さらに詳しくは、原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼に関する。
原子炉は種々の駆動機構を備える。駆動機構は複数の部材を含む。駆動機構では、複数の部材間で摺動摩耗が発生する。摺動摩耗により部材間に隙間が生じたり、部材自体が損傷したりすると、駆動機構が本来の機能を発揮しにくくなる場合がある。
さらに、摩耗により部材から削り出された金属粉(以下、摩耗粉という)が、原子炉の冷却水により原子炉内まで搬送されると、摩耗粉が放射化する。摩耗粉を構成する金属の種類によっては、放射線量が大幅に上昇する場合がある。したがって、原子炉の駆動機構等の部材には、耐摩耗性が求められる。さらに、原子炉の駆動機構等の部材は、300℃近傍のいわゆる原子炉水温度域で使用される。
一般に、オーステナイト系ステンレス鋼は、原子炉水温度域における耐食性に優れる。そこで、溶接部の鋭敏化抑制の観点から、原子炉用部材の素材として、オーステナイト系ステンレス鋼のうち、低炭素のSUS316L、SUS304Lが利用されている。
SUS316LやSUS304Lは構造部材としての強度を有する。しかしながら、上述の摩耗に耐え得るほどの強度を有しない。さらに、原子炉に利用される複数の部材は、互いに溶接される場合があるため、溶接による溶接熱影響部(HAZ)に割れが生じるのは好ましくない。したがって、原子炉用部材に使用される素材には、原子炉水温度域での摩耗に耐えうるだけの高温強度と、優れた溶接性、及び耐食性、特に耐応力腐食割れ性(耐SCC性)が求められる。
特開昭61−276963号公報(特許文献1)、特開昭63−108295号公報(特許文献2)、特開平5−65601号公報(特許文献3)、国際公開第2004/083476号(特許文献4)及び特開昭57−164971号公報(特許文献5)は、強度及び耐食性を高めた鋼を提案する。
特許文献1では、原子力プラントの制御棒駆動装置等に利用される水中摩擦機構部を開示する。この文献では、水中摩擦機構部に、他の部材との接触面に窒化処理を施した鋼を利用する。特許文献2も、特許文献1と同様に、原子力プラントの電動制御棒駆動機構において、他の部材と接触する部分に窒化層を有するFe基合金を利用する。
特許文献3では、耐食性と高強度とを有するオーステナイト系ステンレス鋼を提案する。特許文献3では、特定組成のオーステナイト系ステンレス鋼の製造工程において、加工終了温度を1000℃以下にする。これにより、オーステナイト系ステンレス鋼の組織が扁平未再結晶粒組織となり、その結果、高強度が得られると記載されている。
特許文献4では、高強度及び溶接継手の特性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提案する。特許文献4では、Nの固溶強化によりオーステナイト系ステンレス鋼の強度を高める。さらに、微細なCr炭窒化物を析出して鋼の延性及び靱性を得る。さらに、溶接金属のNi当量及びCr当量を規定することにより、溶接継手の強度及び耐水素脆化特性を改善できる、と記載されている。
特許文献5は、高温強度及び耐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提案する。特許文献5では、高温強度を得るために、N、Al及びMgを含有する。これにより、優れた耐食性だけでなく、優れた高温強度も得られると記載されている。
特開昭61−276963号公報 特開昭63−108295号公報 特開平5−65601号公報 国際公開第2004/083476号 特開昭57−164971号公報
しかしながら、特許文献1及び2のように、窒化層を形成する場合、窒化処理のコストが掛かる。さらに、特許文献1及び2では、原子力水温度域での強度についての検討がなく、HAZ割れの抑制に関する溶接性、耐SCC性に関する検討もされていない。
特許文献3では、扁平未再結晶粒組織により、高強度が得られるとしている。しかしながら、このような組織の場合、優れた耐SCC性及び溶接性が得られない可能性がある。
特許文献4では、高圧水素ガス環境用途のステンレス鋼を想定している。そのため、原子炉水温度域のような高温環境下での使用は想定されていない。そのため、十分な高温強度が得られない可能性がある。
特許文献5では、高温強度についての検討はされているものの、耐SCC性及び溶接性について検討されていない。そのため、耐SCC性及び溶接性が低い可能性がある。
本発明の目的は、原子炉水温度域において優れた強度を有し、さらに、優れた耐SCC性及び溶接性を有する原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼を提供することである。
本実施形態による原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.005%以上0.035%未満、Si:0.2%以上1.0%未満、Mn:4.0%以上7.0%未満、Cr:20〜25%、Ni:11〜14%、Mo:1.5〜3.0%、N:0.2〜0.4%、Nb:0.15〜0.28%、及び、V:0.15〜0.28%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物のうち、P、S及びCoはそれぞれ、P:0.018%以下、S:0.002%以下、Co:0.05%以下であり、300℃において、0.2%耐力が265〜325MPaであり、引張強度が560〜610MPaである。
本実施形態の原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼は、原子炉水温度域において優れた強度を有し、さらに、優れた耐SCC性及び溶接性を有する。
図1は、実施例中のロンジバレストレイン試験の模式図である。
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
本発明者らは、オーステナイト系ステンレス鋼の高温強度、耐SCC性及び溶接性について調査、検討した。その結果、本発明者らは、次の知見を得た。
(A)原子炉水温度域(300℃近傍)において、耐全面腐食性を高めるためにCr含有量を高め、耐SCC性を高めるためにC含有量を低くすることが有効である。しかしながら、C含有量が低ければ、原子炉水温度域での高い強度は得られない。
(B)原子炉水温度域での強度を高める他の方法として、Mo、Cu及びN等による固溶強化がある。Cr含有量が高い場合、MoはCrと結合してシグマ(σ)相に代表される金属間化合物を形成し、溶接性が低下するとともに脆化を促す。さらに、Cuを含有する部材が原子炉水と反応して腐食した場合、Cuが溶出してCu酸化物となる。Cu酸化物は、他の部材(たとえば、燃料被覆管等)に付着すると、その部材の腐食を加速する。したがって、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼では、固溶強化元素として0.2〜0.4%のNを利用する。
(C)原子炉水温度域での強度を高める固溶強化以外の他の方法として、析出強化がある。上述のNは、固溶強化により高温強度を高めるとともに、V,Nb,Ta,Hf及びW等と、Cと結合して炭窒化物を形成し、析出強化により高温強度を高める。しかしながら、Ta,Hf及びWは熱中性子吸収断面積が大きいため原子炉用途には適さない。そこで、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼では、0.15〜0.28%のVと、0.15〜0.28%のNbとを含有して鋼を析出強化する。
(D)上述の炭窒化物は、粒内に析出する。そのため、炭窒化物の析出によりCは粒内に固定される。そのため、粒界にてCr炭化物の析出が抑制され、耐SCC性も高まる。
(E)C,Cr,N,V及びNbを含有する高温のオーステナイト系ステンレス鋼を冷却していくと、液相からフェライト相とオーステナイト相とが析出し、さらに冷却すると、液相が消失する直前にフェライト相が消失する。フェライト相の生成はNの固溶度を下げるため、固溶強化の観点からは好ましくない。しかしながら、凝固温度域でフェライト相とオーステナイト相の2相が共存する方が、オーステナイト相の粒成長を抑制できる。したがって、結晶粒の細粒化には有効である。さらに、鋭敏化の原因となるM23の析出温度は低下できる方が好ましい。
以上の観点から、平衡状態図におけるフェライト相とオーステナイト相の割合と、鋭敏化抑制とを満たす成分設計として、C:0.005%以下0.35%未満、Cr:20〜25%、Ni:11〜14%、Mn:4.0%以上7.0%未満及びN:0.2〜0.4%と規定するのが適切である。
(F)上述のとおり、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼では、Mn含有量及びN含有量が高い。そのため、強度が高くなり、溶接熱影響部(HAZ)において、延性低下割れ(以下、HAZ割れという)が発生する場合がある。
HAZ割れの原因としては、不純物の濃化による粒界脆化と、粒内及び粒界の強度差の拡大とが考えられる。そこで、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼では、不純物のうち、特に粒界脆化に影響するP、Sの含有量をそれぞれ制限する。
(G)さらに、粒内及び粒界の強度差を小さくするために、高温強度の上限を制限する。具体的には、300℃における0.2%耐力を265〜325MPaとし、300℃における引張強度を560〜610MPaにする。この場合、0.2%耐力及び引張強度が高すぎることによりHAZ割れが発生するのを抑制できる。
(H)上述の範囲の高温強度を実現するために、製造工程において、準最終固溶化熱処理工程と、最終冷間加工工程と、最終固溶化熱処理工程とを実施する。準最終固溶化熱処理は、最終冷間加工工程の前に実施される。最終冷間加工工程は、最終固溶化熱処理工程の前に実施される。準最終の固溶化熱処理での熱処理温度を1120〜1230℃とし、最終の冷間加工での断面減少率を20〜40%とし、最終の固溶化熱処理での熱処理温度を1020℃以上1120℃未満とする。さらに、準最終及び最終の固溶化熱処理での熱処理時間TH(min)をそれぞれ、式(1)を満たすように調整する。
2×Ts≦TH≦3×Ts (1)
ここで、Tsには、準最終の固溶化熱処理の場合、準最終の固溶化熱処理が実施されるときの前記オーステナイト系ステンレス鋼の厚さ(mm)が代入され、最終の固溶化熱処理の場合、最終の固溶化熱処理が実施されるときの前記オーステナイト系ステンレス鋼の厚さ(mm)が代入される。
この場合、準最終及び最終の固溶化熱処理により、N固溶量が適切になり、かつ、適切な量の炭窒化物が粒内に生成される。そのため、高温強度を上記範囲内にすることができ、さらに、HAZ割れ及びSCCの発生が抑制される。
以上の知見に基づいて、本実施形態の原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼は完成した。以下、本実施形態の原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼の詳細を説明する。
[化学組成]
本実施形態による原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼は、以下の化学組成を有する。
C:0.005%以上0.035%未満
炭素(C)は、原子炉水温度域(300℃近傍)での鋼の強度を高める。C含有量が低すぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、C含有量が高すぎれば、鋼の耐SCC性、より具体的には、耐粒界応力腐食割れ(IGSCC)性が低下する。したがって、C含有量は0.005%以上0.035%未満である。C含有量の好ましい下限は、0.005%よりも高く、さらに好ましくは0.008%である。C含有量の好ましい上限は、0.025%未満であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.015%である。
Si:0.2%以上1.0%未満
シリコン(Si)は、鋼を脱酸する。Si含有量が低すぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、Si含有量が高すぎれば、シグマ(σ)相に代表される金属間化合物が析出し、鋼が脆化する。Si含有量が高すぎればさらに、溶接時にオーステナイト凝固した場合に、凝固割れ感受性が高くなる。したがって、Si含有量は0.2%以上1.0%未満である。Si含有量の好ましい下限は、0.2%よりも高く、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.30%である。Si含有量の好ましい上限は0.65%であり、さらに好ましくは0.50%である。
Mn:4.0%以上7.0%未満
マンガン(Mn)は、オーステナイト相を安定化する。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼において、Mnは、Cr、Ni及びNとの適正な組み合わせにより、鋼の強度及び溶接性を高める。Mn含有量が低すぎれば、上記効果は有効に得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、Mnが溶接部の表面に優先的に濃化し、鋼の耐食性を低下する。したがって、Mn含有量は4.0%以上7.0%未満である。Mn含有量の好ましい下限は、4.0%よりも高く、さらに好ましくは4.5%である。Mn含有量の好ましい上限は6.0%であり、さらに好ましくは5.5%である。
Cr:20〜25%
原子炉水温度域は300℃近傍の高温であるため、炉水中の溶存酸素濃度が高い場合、鋼の腐食が加速する。クロム(Cr)は、このような原子炉水温度域における鋼の耐食性を高める。さらに、Crはフェライト生成元素であるため、凝固時において鋼がアルファ(α)相から凝固する。そのため、凝固時のオーステナイト粒が微細になり、母材結晶粒の成長を抑制し,細粒化に有効である.また,HAZ割れも抑制される。Cr含有量が低すぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、σ相に代表される金属間化合物が析出し、鋼が脆化する。したがって、Cr含有量は20〜25%である。Cr含有量の好ましい下限は20%よりも高く、さらに好ましくは21%であり、さらに好ましくは21.5%である。Cr含有量の好ましい上限は、25%未満であり、さらに好ましくは23%であり、さらに好ましくは22.5%である。
Ni:11〜14%
ニッケル(Ni)は、オーステナイト相を安定化し、原子炉水温度域での鋼の耐食性を高める。Ni含有量が低すぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、Ni含有量が高すぎれば、溶接凝固時において、鋼がガンマ(γ)相から凝固するため、母材でのHAZ割れが発生しやすくなる。したがって、C、N及びMn等との相乗効果も考慮して、Ni含有量は11〜14%である。Ni含有量の好ましい下限は11%よりも高く、さらに好ましくは11.5%であり、さらに好ましくは12.5%である。Ni含有量の好ましい上限は14%未満であり、さらに好ましくは13.5%であり、さらに好ましくは13.0%である。
Mo:1.5〜3.0%
モリブデン(Mo)は、鋼の不働態皮膜を安定化し、鋼の耐全面腐食性を高める。Mo含有量が低すぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、Mo含有量が高すぎれば、σ相に代表される金属間化合物が析出して鋼が脆化する。したがって、Mo含有量は1.5〜3.0%である。Mo含有量の好ましい下限は、1.5%よりも高く、さらに好ましくは1.8%である。Mo含有量の好ましい上限は3.0%未満であり、さらに好ましくは2.5%であり、さらに好ましくは2.3%である。
N:0.2〜0.4%
窒素(N)は、固溶強化により鋼の強度を高める。Nはさらに、炭窒化物を形成して鋼の高温強度を高める。N含有量が低すぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、N含有量が高すぎれば、炭窒化物に粒内に過剰に生成されて結晶粒が硬くなり過ぎ、溶接時にHAZ割れが発生しやすくなったり、粒界にCr炭窒化物が生成して鋼の耐応力腐食割れ性が低下したりする。したがって、N含有量は0.2〜0.4%である。N含有量の好ましい下限は0.2%よりも高く、さらに好ましくは0.28%であり、さらに好ましくは0.30%である。N含有量の好ましい上限は0.4%未満であり、さらに好ましくは0.36%であり、さらに好ましくは0.34%である。
Nb:0.15〜0.28%
V:0.15〜0.28%
ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)はいずれも、鋼の高温強度を高める。Nb及びVは、結晶粒内で炭窒化物として析出し、鋼を析出強化する。Nb及びVの炭窒化物はさらに、ピンニング作用により結晶粒を微細化し、さらに高温強度を高める。Nb及びV含有量が低すぎれば、上記効果が得られにくい。一方、Nb及びV含有量が高すぎれば、結晶粒が硬くなり過ぎ、溶接時にHAZ割れが発生しやすくなる。したがって、Nb含有量は0.15〜0.28%であり、V含有量は0.15〜0.28%である。Nb含有量の好ましい下限は0.15%よりも高く、さらに好ましくは0.18%である。Nb含有量の好ましい上限は0.28%未満であり、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.20%である。V含有量の好ましい下限は0.15%よりも高く、さらに好ましくは0.18%である。V含有量の好ましい上限は0.28%未満であり、さらに好ましくは0.23%である。
本実施形態の原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼の残部は、Fe及び不純物である。ここで、不純物は、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップ、あるいは製造過程の環境等から混入される元素であって、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
上記不純物のうち、特に、P、S、及びCoの含有量は、以下のとおりに制限される。
P:0.018%以下
燐(P)は不純物である。PはHAZの割れ感受性を高める。したがって、P含有量はなるべく低い方が好ましい。P含有量は0.018%以下である。好ましいP含有量は0.018%未満であり、さらに好ましくは0.015%以下であり、さらに好ましくは0.013%以下である。
S:0.002%以下
硫黄(S)は不純物である。S含有量が高すぎれば、粒界脆化が発生し、鋼の耐食性も低下する。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼は、Cを粒内炭窒化物として粒内に固定し、粒界鋭敏化を抑制する。粒内での炭窒化物の析出が促進すれば、粒内強度が高まる。そのため、S含有量が高すぎれば、Sの偏析により脆化した粒界と、炭窒化物により強度が高まった粒内との強度差が大きくなる。その結果、HAZでの延性低下割れ感受性が増大する。したがって、S含有量はなるべく低い方が好ましい。S含有量は0.002%以下である。好ましS含有量は0.002%未満であり、さらに好ましくは0.001%以下であり、さらに好ましくは0.0008%以下である。
Co:0.05%以下
コバルト(Co)は不純物である。鋼中のCoは、59Coである。しかしながら、仮に、Coが部材の摩耗により炉水に取り込まれ、炉心まで搬送された場合、Coは炉心で放射化して60Coに変換される。60Coの半減期は272年と長いため、原子力発電所作業員の放射線被ばく線源となり得る。したがって、Co含有量はなるべく低い方が好ましい。Co含有量は0.05%以下である。ステンレス鋼を電気炉で溶製する場合、Co含有量を0.05%以下にするにはコストが掛かる。一方、ステンレス鋼を高炉により溶製する場合、Co含有量を0.05%以下にしやすい。好ましいCo含有量は0.05%未満であり、さらに好ましくは0.02%以下であり、さらに好ましくは0.01%以下である。
[製造方法]
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法の一例を説明する。上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。たとえば、電気炉やAOD(Argon Oxygen Decarburization)炉、VOD(Vacuum Oxygen Decarburization)炉を用いて、上記溶鋼を製造する。
製造された溶鋼から造塊法によりインゴットを製造する。インゴットを熱間加工(熱間鍛造、熱間圧延等)してスラブやブルーム、ビレット等の鋼素材を製造する。製造された溶鋼から連続鋳造法によりスラブやブルーム、ビレット等の鋼素材を製造してもよい。
製造された鋼素材を熱間加工して、オーステナイト系ステンレス鋼材を製造する。たとえば、鋼素材を熱間圧延して鋼板や棒鋼、線材を製造する。また、熱間押出や熱間穿孔圧延等によりオーステナイト系ステンレス鋼管を製造する。上記のとおり、熱間加工の具体的な方法は特に限定されず、最終製品の形状に応じた熱間加工を実施すればよい。
熱間加工後のオーステナイト系ステンレス鋼材に対して、最終工程を実施する。最終工程は、少なくとも、準最終固溶化熱処理工程と、最終冷間加工工程と、最終固溶化熱処理工程とを含む。最終冷間加工工程は、準最終固溶化熱処理工程後に実施する。最終固溶化熱処理工程は、最終冷間加工工程後に実施する。なお、最終工程は、準最終固溶化熱処理工程前に、複数回の固溶化熱処理工程及び冷間加工工程を含んでもよい。
準最終固溶化熱処理工程と、最終冷間加工工程と、最終固溶化熱処理工程とを実施することにより、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼では、N固溶量が適切になり、かつ、適切な量の炭窒化物が粒内に生成される。そのため、300℃における0.2%耐力が265〜325MPaになり、引張強度が560〜610MPaになる。さらに、HAZ割れ及びSCCの発生が抑制される。以下、最終工程の詳細を説明する。
[準最終固溶化熱処理工程]
準最終固溶化熱処理では、熱処理温度を1120〜1230℃にする。この場合、鋼中の合金元素が十分に均質化する。熱処理温度が低すぎれば、鋼中の元素の均一な固溶が不十分になり、後の最終固溶化熱処理工程において、炭窒化物の析出が不足する。そのため、上述の高温強度(300℃での0.2%耐力及び引張強度)が得られにくい。一方、熱処理温度が高すぎても、結晶粒が粗大化し、高温強度が得られない。したがって、準最終固溶化熱処理において、熱処理温度は1120〜1230℃である。熱処理温度の好ましい下限は1150℃であり、好ましい上限は1200℃である。
[最終冷間加工工程]
準最終固溶化熱処理を実施した後、オーステナイト系ステンレス鋼材に対して最終の冷間加工を実施する。冷間加工はたとえば、冷間圧延や、冷間抽伸である。冷間加工による断面減少率RAは20〜40%にする。ここで、断面減少率RA(%)は、次の式(A)で定義される。
RA(%)=(1−最終冷間加工後の鋼材の断面積/最終冷間加工前の鋼材の断面積)×100 (A)
断面減少率RAが低すぎれば、鋼材に付与された加工歪が少なすぎるため、最終固溶化熱処理工程で微細な炭窒化物が析出しにくい。そのため、上述の高温強度が得られにくい。
一方、断面減少率RAが高すぎれば、鋼材に付与された加工歪が多すぎるため、最終固溶化熱処理工程で炭窒化物が過剰に析出したり成長したりする。そのため強度が過剰に高くなる。そのため、0.2%耐力が325MPaを超える、及び/又は、引張強度が610MPaを超える。さらに、HAZ割れが発生しやすくなる。
断面減少率RAが20〜40%であれば、適切な量の加工歪が鋼材に導入される。そのため、最終固溶化熱処理後の鋼の0.2%耐力が265〜325MPa、引張強度が560〜610MPaとなり、かつ、HAZ割れが発生しにくくなる。さらに、適切な炭窒化物が粒内に析出するため、粒界にCr炭化物が生成されにくく、耐SCC性が高まる。
[最終固溶化熱処理工程]
最終固溶化熱処理工程では、微細な炭窒化物を析出し、微細な炭窒化物及び再結晶により、結晶粒を微細化する。
最終固溶化熱処理における熱処理温度が低すぎれば、再結晶が発生しにくいため、結晶粒が粗大化する。さらに、冷間加工による加工歪が十分に除去されないため、強度が過剰に高くなる。強度が過剰に高くなるためHAZ割れが発生しやすくなる。さらに、粒内の炭窒化物析出が足らず粒界にCr炭化物が析出し、耐SCC性が低下する。一方、最終固溶化熱処理工程における熱処理温度が高すぎれば、再結晶により生成された結晶粒が粗大化し、強度が低下する。したがって、最終熱処理工程における熱処理温度は1020〜1120℃である。好ましい熱処理温度の下限は、1020℃よりも高く、さらに好ましくは1050℃である。熱処理温度の好ましい上限は1120℃未満であり、さらに好ましくは1100℃である。
[準最終及び最終固溶化熱処理工程における熱処理時間]
準最終及び最終固溶化熱処理における熱処理時間TH(min)は、次の式(1)を満たす。
2×Ts≦TH≦3×Ts (1)
ここで、Tsは、準最終固溶化熱処理又は最終固溶化熱処理が実施される鋼材の厚さ(mm)である。より具体的には、Tsには、準最終の固溶化熱処理の場合、準最終の固溶化熱処理が実施されるときの前記オーステナイト系ステンレス鋼の厚さ(mm)が代入され、最終の固溶化熱処理の場合、最終の固溶化熱処理が実施されるときの前記オーステナイト系ステンレス鋼の厚さ(mm)が代入される。
鋼材が鋼板である場合、厚さTsは、鋼板の厚さ(mm)を意味する。鋼材が鋼管である場合、厚さTsは、鋼管の肉厚(mm)を意味する。鋼材が棒鋼又は線材である場合、厚さTsは、棒鋼又は線材の直径(mm)を意味する。
たとえば、準最終固溶化熱処理が実施される鋼材が厚さ25mmの鋼板であり、最終固溶化熱処理が実施される鋼材が厚さ17mmの鋼板である場合、準最終固溶化熱処理での熱処理温度THは50〜75分であり、最終固溶化熱処理での熱処理温度は34〜51分である。
準最終固溶化熱処理において、熱処理時間THが式(1)の下限未満である場合、合金元素が十分に固溶せず、最終固溶化熱処理工程において、炭窒化物の析出が不足する。そのため、上述の高温強度が得られにくい。一方、熱処理時間THが式(1)の上限を超える場合、結晶粒が粗大化する。そのため、高温強度が得られにくい。
最終固溶化熱処理において、熱処理時間THが式(1)の下限未満である場合、強度が過剰に高くなり、耐SCC性も低下する。一方、熱処理時間THが式(1)の上限を超える場合、再結晶により生成された結晶粒が粗大化し、析出した炭窒化物も粗大化する。そのため、強度が低下する。
準最終及び最終固溶化熱処理における熱処理温度THが式(1)を満たせば、製造された鋼材の鋼の0.2%耐力が265〜325MPa、引張強度が560〜610MPaとなり、かつ、HAZ割れが発生しにくく、優れた耐SCCが得られる。
種々の化学組成のオーステナイト系ステンレス鋼板を製造し、各オーステナイト系ステンレス鋼板の強度(0.2%耐力及び引張強度)、耐HAZ割れ性、及び耐SCC性を調査した。
[試験方法]
表1に示す化学組成の溶鋼を製造した。
表1を参照して、鋼A〜Gの化学組成は、本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の化学組成の範囲内であった。一方、鋼H〜Nでは、いずれかの元素の含有量が本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の範囲外であった。
鋼A〜Nの溶鋼を用いて、インゴットを製造した。インゴットを熱間鍛造及び熱間圧延して、厚さ20mmの鋼板を製造した。
製造された鋼板に対して、表2に示す条件で最終工程(準最終固溶化熱処理工程、冷間加工工程、最終熱処理工程)を実施し、厚さ14mmの鋼板(以下、試験素材という)を製造した。なお、準最終固溶化熱処理工程では、厚さ20mmの鋼板に対して熱処理を実施したため、式(1)に基づいて、適切な熱処理時間は40〜60分であった。一方、最終固溶化熱処理工程では、厚さ14mmの鋼板に対して熱処理を実施したため、式(1)に基づいて、適切な熱処理時間は28〜42分であった。
製造された試験素材を用いて、次に示す高温引張試験、ロンジバレストレイン試験、ダブルUベンド試験を実施した。
[高温引張試験]
JIS G0567に基づいて、試験素材から、平行部の長さが50mmの丸棒引張試験片を作製した。丸棒引張試験片を用いて、300℃にて引張試験を実施し、0.2%耐力(MPa)及び引張強度(MPa)を得た。引張速度は、0.2%耐力までは0.3%/min、それ以降は7.5%/minとした。
表2に試験結果を示す。表2中の「高温YS」欄には、0.2%耐力(MPa)を示す。高温YS欄において、「G」は、得られた0.2%耐力が265〜325MPaの範囲内であることを示す。「L」は、得られた0.2%耐力が265MPa未満であることを示す。「U」は、得られた0.2%耐力が325MPaよりも高いことを示す。
さらに、表2中の「高温TS」欄には、引張強度(MPa)を示す。高温TS欄において、「G」は、得られた引張強度が560〜610MPaの範囲内であることを示す。「L」は、引張強度が560MPa未満であることを示す。「U」は、引張強度が610MPaよりも高いことを示す。
[ロンジバレストレイン試験]
溶接後の耐HAZ割れ性を評価するため、ロンジバレストレイン試験を実施した。試験素材から板厚10mm、幅50mm、長さ300mmの板状試験片を作製した。
図1に、ロンジバレストレイン試験の模式図を示す。半径300mmの曲率半径の傾斜面を有する治具10を準備した。治具10の傾斜面の頂上に板状試験片20の長手方向の一方の端部を固定した。
板状試験片20の他方の端部から、長手方向に沿って、GTA溶接のトーチ30を移動しながら、GTA溶接によるビードオンプレート溶接を実施した。そして、溶接中、板状試験片20の他方の端部に対して下方に向かう外力Fを付加して板状試験片20に曲げによる歪みを与え、溶接中にHAZ割れが発生するか否かを調査した。GTA溶接における溶接電流は200A、アーク電圧は16Vであり、溶接速度は150mm/minであった。さらに、外力Fによる付加歪み量は2.5%であった。
表2に試験結果を示す。「HAZ割れ」欄において、「N」は、ロンジバレストレイン試験中に、HAZ割れが発生しなかったことを示す。「F」は、HAZ割れが発生したことを示す。
[SCC試験]
各試験番号の試験素材に対して、700℃で5時間の鋭敏化処理を実施した。その後、試験素材から、厚さ2mm、幅10mm、長さ75mmの短冊試験片を2枚作製した。2枚の短冊試験片を重ねて、JIS G0576に準拠したダブルUベンド試験片を作製した。
ダブルUベンド試験片を用いて、SCC試験を実施した。具体的には、ダブルUベンド試験片をオートクレーブ容器内の試験浴に500時間浸漬した。試験浴は、288℃の純粋とした。500時間浸漬後の試験片の断面を観察し、割れ深さが20μm以上のSCCの有無を確認した。
表2に試験結果を示す。「耐SCC性」欄中の「N」は、SCC試験にて割れ深さが20μm以上のSCCが発生しなかったことを示す。「F」は、SCC試験にて割れ深さが20μm以上のSCCが発生したことを示す。
[試験結果]
表2を参照して、試験番号1〜7の化学組成は適切であり、準最終及び最終固溶化熱処理における熱処理温度も適切であり、準最終及び最終固溶化熱処理における熱処理時間THはいずれも式(1)を満たした。さらに、最終冷間加工工程での断面減少率RAも適切であった。そのため、試験番号1〜7では、高温(300℃)での0.2%耐力は265〜325MPa、引張強度は560〜610MPaの範囲内であり、ロンジバレストレイン試験においてHAZ割れは観察されなかった。さらに、288℃の高温でのSCC試験において、SCCは確認されなかった。
一方、試験番号8では、化学組成は適切であったものの、準最終固溶化熱処理工程での熱処理温度が高すぎた。そのため、高温強度(300℃での0.2%耐力及び引張強度)は低かった。準最終固溶化熱処理工程での熱処理温度が高すぎ、結晶粒が粗大化したためと考えられる。
試験番号9では、化学組成は適切であったものの、準最終固溶化熱処理工程での熱処理温度が低すぎた。そのため、高温強度が低く、SCCが観察された。準最終固溶化熱処理での熱処理温度が低すぎ、合金元素の固溶が不足し、粒内に析出すべき炭窒化物の成長が不足したため、粒界にCr炭化物が生成し、SCCが発生したと考えられる。
試験番号10では、化学組成は適切であったものの、準最終固溶化熱処理工程での熱処理温度が長すぎた。そのため、高温強度が低かった。準最終固溶化熱処理での熱処理時間が長すぎ、結晶粒が粗大化したため、最終固溶化熱処理が適切であっても、強度の低下は免れなかったと考えられる。
試験番号11では、化学組成は適切であったものの、最終固溶化熱処理温度が高すぎた。そのため、高温強度が低かった。熱処理温度が高すぎたため、結晶粒が粗大化し、高温強度が低下したと考えられる。
試験番号12では、化学組成は適切であったものの、準最終及び最終固溶化熱処理工程での熱処理時間THがいずれも式(1)の上限を超えた。そのため、高温強度が低く、HAZ割れも観察された。熱処理時間が長すぎたため、結晶粒が粗大化し、高温強度が低下したと考えられる。また、粒内の炭窒化物が多量に析出することにより、粒内と粒界との強度差が大きくなったため、HAZ割れが発生したものと考えられる。
試験番号13では、化学組成は適切であったものの、準最終固溶化熱処理工程での熱処理時間THが式(1)の下限未満であった。そのため、高温強度が低く、SCCが確認された。熱処理時間が短すぎたため、合金元素が純分に固溶せずに再結晶が促進されず、微細炭窒化物の析出も不足した。そのため、高温強度が低く、かつ、粒界にCr炭化物が析出してSCCが発生したと考えられる。
試験番号14では、化学組成は適切であったものの、最終冷間加工工程における断面減少率RAが高すぎた。そのため、HAZ割れが観察された。最終冷間加工により過剰な歪みが鋼中に導入された結果、過剰な炭窒化物が粒内に析出し、粒内強度と粒界強度との差が過剰に大きくなったため、HAZ割れが発生したと考えられる。一方、歪みが過剰であったため、最終固溶化熱処理後の強度は高めになった。
試験番号15では、最終固溶化熱処理工程での熱処理温度が低すぎた。そのため、高温強度が高すぎた。さらに、HAZ割れ及びSCCが観察された。最終固溶化熱処理工程での熱処理温度が低かったため、鋼中に多くの歪みが残存し、高温強度が過剰に高くなったと考えらえる。さらに、熱処理温度が低かったため再結晶が促進されず、かつ、強度が高すぎるため、HAZ割れが発生したと考えられる。また、炭窒化物の析出が少なくCが固定化されなかったため、SCCが発生したと考えられる。
試験番号16では、化学組成は適切であったものの、最終固溶化熱処理工程での熱処理時間が式(1)の下限未満であった。そのため、高温強度が高すぎ、HAZ割れ及びSCCが観察された。最終固溶化熱処理工程での熱処理時間が短すぎたため、鋼中に多くの歪みが残存し、高温強度が過剰に高くなったと考えらえる。さらに、固溶化及び再結晶が促進されず、かつ、強度が高すぎるため、HAZ割れが発生したと考えられる。また、炭窒化物の析出が少なくCが固定化されなかったため、SCCが発生したと考えられる。
試験番号17では、化学組成が本発明の範囲内であったものの、準最終固溶化熱処理を実施しなかった。そのため、高温強度が不足するとともにSCCが発生した。合金元素の固溶が不十分であり、炭窒化物の析出が不十分であったためと考えられる。
試験番号18では、Vが含有されなかった。そのため、高温強度が低く、SCCが観察された。Vを含有しなかったため、粒内での炭窒化物の析出が不足し、強度が低かったと考えられる。さらに、粒内での炭窒化物の析出が不足したため、Cr炭化物が粒界に析出し、その結果、SCCが発生したと考えられる。
試験番号19では、Ni含有量が高すぎ、かつ、Nbが含有されなかった。そのため、高温強度が低く、HAZ割れ及びSCCが観察された。粒内での炭窒化物の析出が不足したため、高温強度が低く、SCCが発生したと考えられる。また、Ni含有量が高すぎたため、溶接凝固時において、γ相からの凝固となり、その結果、HAZ割れが発生したと考えられる。
試験番号20では、C含有量が高すぎた。そのため、HAZ割れ及びSCC割れが観察された。C含有量が高すぎたため、粒内に多量の炭窒化物が析出し、その結果、粒内及び粒界の強度差が広がりHAZ割れが発生したと考えられる。さらに、C含有量が高すぎたため、粒界にCr炭化物が析出し、SCCが発生したと考えられる。
試験番号21では、N含有量が低すぎた。そのため、高温強度が低く、SCCが発生した。N含有量が低すぎたため、粒内での炭窒化物の析出が不足したため、強度が低く、SCCが発生したと考えられる。
試験番号22では、V含有量が高すぎた。そのため、HAZ割れが発生した。V含有量が高すぎるため、炭窒化物が粒内に多く析出し、粒内及び粒界の強度差が大きくなり過ぎたため、HAZ割れが発生したと考えられる。
試験番号23では、Nb含有量が高すぎた。そのため、HAZ割れが発生した。Nb含有量が高すぎるため、試験番号22と同様に、HAZ割れが発生したと考えられる。
試験番号24では、Cr含有量が低すぎた。そのため、HAZ割れが観察された。フェライト生成元素であるCr含有量が低かったため、溶接凝固時、γ相からの凝固が生じ、その結果、HAZ割れが発生したと考えられる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼は、高温強度、耐SCC性及び溶接性が要求される用途に広く適用可能であり、特に、原子炉用の鋼材として適用できる。
10 治具
20 板状試験片

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C:0.005%以上0.035%未満、
    Si:0.2%以上1.0%未満、
    Mn:4.0%以上7.0%未満、
    Cr:20〜25%、
    Ni:11〜14%、
    Mo:1.5〜3.0%、
    N:0.2〜0.4%、
    Nb:0.15〜0.28%、及び、
    V:0.15〜0.28%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
    前記不純物のうち、P、S及びCoはそれぞれ、
    P:0.018%以下、
    S:0.002%以下、
    Co:0.05%以下であり、
    300℃において、0.2%耐力が265〜325MPaであり、引張強度が560〜610MPaである、原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼。
  2. 請求項1に記載の原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法であって、
    準最終の固溶化熱処理を実施し、前記準最終の固溶化熱処理後に最終の冷間加工を実施し、前記最終の冷間加工後に最終の固溶化熱処理を実施し、
    前記準最終の固溶化熱処理での熱処理温度は1120〜1230℃であり、前記最終の冷間加工での断面減少率は20〜40%であり、前記最終の固溶化熱処理での熱処理温度は1020℃以上1120℃未満であり、
    前記準最終及び最終の固溶化熱処理での熱処理時間TH(min)はそれぞれ、式(1)を満たす、原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法
    2×Ts≦TH≦3×Ts (1)
    ここで、Tsには、準最終の固溶化熱処理の場合、準最終の固溶化熱処理が実施されるときの前記オーステナイト系ステンレス鋼の厚さ(mm)が代入され、最終の固溶化熱処理の場合、最終の固溶化熱処理が実施されるときの前記オーステナイト系ステンレス鋼の厚さ(mm)が代入される。
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