以下、本発明にかかる液体噴射装置をインクジェット式プリンター(以下、「プリンター」と略す場合もある)に具体化した実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態のプリンターは、一方向に搬送される媒体に対して液体供給源から供給される液体を液体噴射ヘッドから噴射して文字や図形を含む画像等を形成する。
図1に示すように、液体噴射装置の一例としてのプリンター11における略矩形箱状をなすフレーム12内の重力方向側となる下部には、その長手方向Xに沿って媒体の一例である用紙Sを、画像形成時つまり印刷時に支持するための支持部材13が延設されている。そして、用紙Sの搬送方向Yとは逆方向となるフレーム12の後方の下部に設けられた図示しない紙送りモーターの駆動に基づいて図示しない紙送り機構が駆動され、用紙Sが、この紙送り機構によって、支持部材13上を支持部材13の短手方向(前方向)に搬送される。
また、フレーム12の長手方向Xの一端側(本実施形態では搬送方向Yの前方側から見て右端側)に配設されたカートリッジホルダー14には、液体の一例としてのインクを収容する液体収容体の一例としてのインクカートリッジ15が、液体供給源として複数個(ここでは4つ)着脱可能に装着されている。なお、本実施形態において、各インクカートリッジ15は互いに異なる色のインクがそれぞれ収容されてカートリッジホルダー14に装着されている。また、各インクカートリッジ15には顔料インクが収容されている。
フレーム12内には長手方向Xに沿って延びるガイド軸19が架設されているとともに、このガイド軸19にはキャリッジ20が摺動可能に支持されている。キャリッジ20は、フレーム12の搬送方向における上流側(後方側)に設けられたキャリッジモーター16によって回転駆動される無端状のタイミングベルト17の一部に固定されている。従って、キャリッジ20は、キャリッジモーター16の駆動によりタイミングベルト17が駆動されることによってガイド軸19に沿って長手方向Xを走査方向として往復移動される。また、キャリッジ20には、下面側にインクを噴射する複数の噴射ノズル(不図示)が設けられた液体噴射ヘッド21と、各インクカートリッジ15に対応して設けられ液体噴射ヘッド21へのインクの供給を制御する複数(ここでは4つ)のバルブユニット25と、が搭載されている。
フレーム12内においてキャリッジ20の走査方向に沿う移動範囲における一端側(本実施形態では搬送方向矢視で右端側)は媒体噴射領域以外の非媒体噴射領域であり、この領域にはホーム位置HPが設けられている。そして、このホーム位置HPには、液体噴射ヘッド21に対して各種メンテナンス処理を行うためのメンテナンス装置22が配設されている。
メンテナンス装置22は、ホーム位置HPに移動した液体噴射ヘッド21に対して図示しないキャップを下方から上昇させて当接させ、その当接によって形成される閉空間を図示しない吸引ポンプによって負圧状態にすることにより、噴射ノズルからインクを吸引する。あるいは、ホーム位置HPに移動した液体噴射ヘッド21の噴射ノズルからインクを強制的に噴射させるとともに、噴射されたインクを受容する。こうすることで、メンテナンス装置22は、噴射ノズルから例えば増粘したインクを排出して、噴射ノズルからのインクの噴射動作を安定させるためのメンテナンスを行う。
さて、本実施形態では、一端が液体供給源となるインクカートリッジ15に接続され、他端がインクカートリッジ15の下流側に位置するバルブユニット25を介して液体噴射ヘッド21に接続されたインク供給チューブ31を、第1の液体流路として備えている。従って、インクは、それぞれのインク供給チューブ31によって各インクカートリッジ15から液体噴射ヘッド21に供給される。
バルブユニット25には、噴射ノズルからインクが噴射されてインクの圧力が下がった場合に開弁して液体噴射ヘッド21(噴射ノズル)に対して上流側からインクを供給する所謂自己封止弁として機能する圧力制御弁24が備えられている。インク供給チューブ31はこの圧力制御弁24の上流側に接続されている。
また、インク供給チューブ31には、圧力制御弁24よりも上流側において、開閉弁23aを備えた逆止弁23が設けられている。開閉弁23aは、インクが上流側のインクカートリッジ15側から下流側の圧力制御弁24側に向かって流れる場合は開弁する一方、下流側の圧力制御弁24側から上流側のインクカートリッジ15側へ向かってインクが流れようとする場合は閉弁してその流れを阻止する。
さらに、図1ではブロックとして図示されているが、インク供給チューブ31には、その両端がインク供給チューブ31に接続された第2の液体流路が設けられ、この第2の液体流路によってインク供給チューブ31との間で循環流路JFが形成される。さらに、その一端が循環流路JFにおける流路部位に、その他端がインク供給チューブ31に、それぞれ接続された第3の液体流路によって、帰還流路KFが形成される。
この循環流路JFと帰還流路KFについて、図2を参照して説明する。本実施形態では各循環流路JFおよび帰還流路KFは各インクカートリッジ15について全て同じ構成を有する。従って、ここでは代表して一つの循環流路JFおよび帰還流路KFについて説明する。このため、図2では、一つの循環流路JFと帰還流路KFとが、他の構成要素を含めて模式的に図示されている。また図2では、循環流路JFおよび帰還流路KFを構成する各構成要素が一続きの連続する部材で図示されているが、実際には互いに接続された複数の部材によって形成されている。
図2に示すように、循環流路JFは、インク供給チューブ31に対してその両端が接続部C1,C2によって接続された第2の液体流路としてのインク循環チューブ32を備え、このインク循環チューブ32とインク供給チューブ31との間でインクが循環するように形成されている。そして、インク循環チューブ32には、インクを循環流路JF内において一方向に流動させるポンプ動作を行うチューブポンプ40が循環ポンプとして設けられている。
チューブポンプ40は、可撓性を有するチューブ(ここではインク循環チューブ32の一部)が、円弧状に支持されて形成された湾曲部32Rにおいて、駆動源によって回転される回転体41の一方向への回転に伴って回転体41に移動可能に備えられたローラー42によって押し潰される。そして、ローラー42がこの押し潰し状態を維持しながら回転(公転)することによってインクを回転方向へ押し出すことにより、インクを循環流路JF内において一方向に流動させる。すなわち、図2において矢印Rで示す方向へローラー42が回転して湾曲部32Rに進入すると、ローラー42はガイド孔43に沿って回転体41の回転中心から離れるように移動してインク循環チューブ32を押し潰す。この押し潰しによってインク循環チューブ32内のインクは加圧された状態となる。そしてローラー42がインク循環チューブ32を押し潰しながら回転体41と一緒に湾曲部32Rに沿って回転(公転)することによって、インク循環チューブ32内のインクは、加圧されながらローラー42の回転方向に押し出されて循環流路JF内を一方向に流動させられる。
その後、ローラー42が回転(公転)してインク循環チューブ32の湾曲部32Rから離脱すると、インク循環チューブ32は押し潰し状態が開放されたローラー42を、押し潰しに抗する反力によってガイド孔43に沿って回転中心側に近づくように移動させる。この結果、インク循環チューブ32は、潰れたチューブ形状が急速に元のチューブ形状に戻るため、このチューブ形状の戻りによってインク循環チューブ32内のインクは減圧された状態となる。このように、チューブポンプ40は動作中においてインク循環チューブ32内のインクに対して加圧状態と減圧状態との間での圧力変動(脈動)を生じさせる循環ポンプである。
帰還流路KFは、その一端が、チューブポンプ40に対してポンプ動作によってインクが流れる一方向側に位置するインク循環チューブ32の流路部位において、接続部C3によって接続された第3の液体流路としてのインク帰還チューブ33を備えている。また、インク供給チューブ31における逆止弁23と接続部C1との間に、逆止弁23側から下流側の接続部C1側へインクが流れる場合は開弁し、接続部C1側から上流側の逆止弁23側へインクが流れる場合は閉弁する開閉弁27aを備えた逆止弁27を備えている。そして、インク帰還チューブ33の他端が、逆止弁27よりもインクカートリッジ15側となる上流側であって逆止弁23よりも下流側に位置するインク供給チューブ31の流路部位に対して、接続部C4によって接続されている。これにより、帰還流路KFは、インク帰還チューブ33によって、循環流路JFから逆止弁27よりも液体供給源としてのインクカートリッジ15側(上流側)にインクを帰還させる。
次に、このようにインク供給チューブ31に対して循環流路JFおよび帰還流路KFが設けられた本実施形態のプリンター11におけるインクの攪拌作用について説明する。その前に、本実施形態の攪拌作用に対する理解を容易にするため、比較例として帰還流路KFを備えない循環流路JFのみが設けられたプリンター11におけるインクの攪拌作用について、図3(a),(b)を参照して先に説明する。
図3(a)に示すように、チューブポンプ40においてローラー42がインク循環チューブ32の湾曲部32Rに進入してインク循環チューブ32を押し潰しながら回転するポンプの動作状態では、湾曲部32Rから押し出されたインクがインク循環チューブ32において加圧され、図中実線矢印Faで示す方向に流れる。この結果、インク循環チューブ32との間で循環流路JFを構成するインク供給チューブ31における接続部C1,C2間では、液体噴射ヘッド21にインクを供給する際に流れるインクの流れ方向とは反対方向、すなわち下流側から上流側へ向かう方向にインクが流れる。
このとき、チューブポンプ40の動作によってインク供給チューブ31を下流側から上流側に流れるインクによって、逆止弁23の下流側におけるインクの圧力が上昇するため、図中白抜き矢印Fpで示すように逆止弁23側への圧力が生じる。このため、開閉弁23aが閉弁してインクカートリッジ15側から循環流路JF側にインクが流れないように阻止される。また、液体噴射ヘッド21側へは、圧力制御弁24によって流路が閉弁されているため、インク供給チューブ31においてインクの圧力が上昇しても液体噴射ヘッド21側へインクが流れることはない。
次に、図3(b)に示すように、チューブポンプ40においてローラー42がさらに回転(公転)し、インク循環チューブ32の湾曲部32Rから離脱すると、ローラー42によって押し潰されていたインク循環チューブ32が元のチューブ形状に戻ることによって湾曲部32Rにおいてインクが減圧される。このため、循環流路JFにおいて図中破線矢印Fbで示すように接続部C2から湾曲部32Rに向かう方向へのインクの流れが生ずる。なお、このとき接続部C1からインク循環チューブ32に沿って湾曲部32Rへ向かって流れるインクは、その流速の変化を伴うもののほぼ同方向への流れが維持される。
この結果、インク供給チューブ31においても、インク循環チューブ32と同様に図中破線矢印Fbで示すように接続部C1から接続部C2へ向かうインクの流れが生じ、逆止弁23の下流側に位置するインクを引き込もうとするために逆止弁23の下流側の圧力を降下させる。この結果、図中破線矢印Fsで示すように、インクカートリッジ15から逆止弁23を介して、インクが循環流路JF側に流入する。一方、液体噴射ヘッド21側とは圧力制御弁24によってインク流路が閉弁されているため、インク供給チューブ31内のインク圧力が降下して減圧状態となっても液体噴射ヘッド21側からインクは流入(逆流)しない。この結果、インクカートリッジ15から逆止弁23を介して下流側に所定量のインクが流入し、逆止弁23と圧力制御弁24との間のインク流路、つまりインク供給チューブ31および循環流路JFに蓄積される。
従って、チューブポンプ40が動作してインクの攪拌が継続して行われると、チューブポンプ40の動作に伴うインクの圧力変動が生ずる度に、このようなインクカートリッジ15から逆止弁23を介してその下流側に所定量のインクが流入する現象が引き起こされる。すなわち、図3(a)に示したインクの循環流動状態と、図3(b)に示したインクカートリッジ15側からのインクの流入状態とが繰り返して発生する。このため、逆止弁23と圧力制御弁24との間のインク流路において、インクカートリッジ15側から流入したインクが徐々に蓄積されて増加し、循環流路JF内のインクの圧力が上昇していくことになる。その結果、前述するように、例えば循環流路JFが複数の流路部材の接続によって形成されている場合は、流路部材間の接続が外れたり、あるいは流路部材そのものが破裂したりしてしまうことになる。
そこで、本実施形態では循環流路JFに加えて帰還流路KFを備えることによって、インクの攪拌動作に際して生ずる循環流路JF内のインクの圧力上昇を抑制する。以下、本実施形態のプリンター11におけるインクの攪拌作用について図4(a),(b)を参照して説明する。
図4(a)に示すように、チューブポンプ40においてローラー42がインク循環チューブ32の湾曲部32Rを押し潰しながら回転するポンプの動作状態では、図中実線矢印Faで示すように、湾曲部32Rから加圧されて押し出されたインクが循環流路JFを一方向に流れて循環流動する。すなわち、インク循環チューブ32を流れるインクは、接続部C2に向かって流れてインク供給チューブ31の下流側に流入する。
このとき、インク循環チューブ32を流れるインクのうち一部のインクは、接続部C3からインク帰還チューブ33へ流れることになる。このため、インク供給チューブ31内を下流側の接続部C2から上流側の接続部C1へ向かって流れるインクの液量は、接続部C3においてインク帰還チューブ33へ流れることによって、湾曲部32Rにおいて押し出されるインクの液量よりもインク帰還チューブ33へ流れる分少なくなる。
このインク循環チューブ32から接続部C3を介してインク帰還チューブ33へ流入した一部のインクは、図中実線矢印Fkで示すように接続部C4側へ流れ、逆止弁23の下流側であって逆止弁27の上流側に位置するインク供給チューブ31の流路部位に流入する。この結果、インク供給チューブ31において、インク帰還チューブ33から接続部C4を介して流入するインクによって逆止弁27の上流側におけるインク圧力が上昇する。一方、逆止弁27の下流側では、インク供給チューブ31を下流側から上流側に向かって流れるインクによってインクの圧力が上昇する。従って、逆止弁27は、その上流側および下流側の双方においてインクの圧力が上昇する。
このとき、逆止弁27の上流側のインクの圧力が下流側のインクの圧力よりも大きい場合は、開閉弁27aが図中二点鎖線で示すように開弁して逆止弁27を介して接続部C4側から接続部C1側へ向かってインクが流れ、循環流路JF内に流入する。このインクの流れによって逆止弁27の下流側のインクの圧力を上昇させるとともに、インク供給チューブ31において接続部C1に対して下流側からへ流れ込むインクと合流して、接続部C1からインク循環チューブ32に沿って湾曲部32Rに向かって流れる。そして、逆止弁27の下流側の圧力と上流側の圧力とがほぼ同じ状態もしくは下流側の圧力が大きい状態になると、逆止弁27の開閉弁27aが図中実線で示すように閉弁して、接続部C4側から接続部C1側へ向かうインクの流れが停止する。
この結果、インク帰還チューブ33、および逆止弁23と逆止弁27との間のインク供給チューブ31において、インクが加圧状態で滞留することになる。従って、インク循環チューブ32とインク供給チューブ31との間の循環流路JFにおいては、インク帰還チューブ33から逆止弁27を介してインクが流入することなく、チューブポンプ40の動作によって一定量のインクが循環する状態となる。
このように循環流路JFをインクが一定量で循環する状態において、逆止弁23の下流側となる接続部C4側に位置するインクは、インク帰還チューブ33を介してチューブポンプ40によって押し出されるインクによって加圧状態が維持される。このため、開閉弁23aは図中白抜き矢印Fpで示すように加圧されて逆止弁23は閉弁され、インクカートリッジ15側から逆止弁23と圧力制御弁24との間のインク流路内へのインクの流入、すなわち帰還流路KFおよび循環流路JF内へのインクの流入がほぼ阻止される。
次に、図4(b)に示すように、チューブポンプ40においてローラー42がさらに回転し、インク循環チューブ32の湾曲部32Rから離脱した状態では、ローラー42によって押し潰されていたインク循環チューブ32が元の形状に戻ることによってインクが減圧される。このため、循環流路JFにおいて図中破線矢印Fbで示すように接続部C2および接続部C3側から湾曲部32R側に向かう方向へのインクの流れが生ずる。なお、接続部C1側からインク循環チューブ32に沿って湾曲部32R側へ向かって流れるインクは、その流速の変化を伴うもののほぼ同方向への流れが維持される。
この結果、比較例と同様に、インク供給チューブ31において、接続部C1側から接続部C2側へ向かうインクの流れが生じ、このインクの流れが逆止弁27に対して下流側のインクを引き込もうとするために、逆止弁27の下流側の圧力を降下(減圧)させて開閉弁27aを開弁させることになる。
このとき、本実施形態では、比較例とは異なり、インク帰還チューブ33においても、図中矢印Frで示すように、インクが加圧状態で維持された接続部C4側から減圧状態となった接続部C3側へ向かうインクの流れが生じる。このため、インク供給チューブ31において、インク帰還チューブ33から接続部C3を介してインク循環チューブ32へインクが流入するために接続部C1側から接続部C2側へ向かうインクの液量は、比較例に比べて少量に抑制される。この結果、逆止弁27を介して接続部C4側から循環流路内へ流入するインクの液量も同様に、比較例に比べて抑制される。
さらに、本実施形態では、接続部C3あるいは逆止弁27を介して接続部C1側へ流れるインクは、インク帰還チューブ33、および逆止弁23と逆止弁27との間のインク供給チューブ31において循環流路JF側から戻されて加圧状態で滞留されたインクである。このため、逆止弁23の下流側におけるインクの圧力低下(負圧)は、比較例に比べて少なく抑制される。この結果、開閉弁23aが図中二点鎖線で示すように開弁することによって、図中破線矢印Fsで示すように逆止弁23を介してインクカートリッジ15側から接続部C4側へ流入するインクは、その流入量が比較例よりも少なく抑制されることになる。なお、インクカートリッジ15側から接続部C4側へ流入したインクは、循環流路JF側から戻されて加圧状態で滞留されたインクに含まれて、逆止弁27を介して循環流路JFに流入する場合もある。
本実施形態では、インクの攪拌動作が継続して行われることによって、図4(a)に示したローラー42がインク循環チューブ32の湾曲部32Rに進入する動作状態と、図4(b)に示したローラー42がインク循環チューブ32の湾曲部32Rから離脱する動作状態とが繰り返される。そして、これらの動作状態が繰り返される度に、インクカートリッジ15から逆止弁23を介して帰還流路KF(循環流路JF)に流入するインクの液量は比較例に比べて抑制される。この結果、循環流路JFにおけるインクの圧力上昇は抑制されるとともに、インクカートリッジ15から逆止弁23を介して帰還流路KF(循環流路JF)に流入して蓄積されるインクの増加量が、帰還流路KFを備えない比較例に比べて抑制される。
この抑制作用の結果の一例について、図5(a),(b)を参照して説明する。
図5(a)に示すように、チューブポンプ40の動作によってインクが押し出されるチューブポンプ40の出口側における循環流路JF内のインクの圧力は、図中破線で示した帰還流路が設けられていない比較例での値に比べて、図中実線で示した帰還流路が設けられた本実施形態での値が半分以下に下がっている。また、インクの攪拌動作が終了した時点における循環流路JF内の残留圧力も、比較例での値に比べて本実施形態での値が相当に小さくなっている。
また、逆止弁23の下流側であって逆止弁27の上流側(インクカートリッジ15側)におけるインクの圧力(負圧)は、図中破線で示した帰還流路KFが設けられていない比較例での値に比べて、図中実線で示した帰還流路KFが設けられた本実施形態での値が、特にインクの攪拌動作を開始時点で相当に小さくなっている。このことから、逆止弁23を介してインクカートリッジ15から流入するインクが、帰還流路KFを設けたことによって抑制されていることが判る。
ちなみに、本実施形態によるインクの攪拌動作の一実施結果について、比較例を100%として対比した表を図5(b)に示した。図5(b)に示したように、本実施形態では、比較例に比べて、チューブポンプ40の出口側の圧力は44%に、インクカートリッジ15側の最大負圧は36%に、インクカートリッジ15からの流入インク量は22.5%に、それぞれ抑制されている。
上記説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)チューブポンプ40の動作の際に逆止弁27を介してインクカートリッジ15側となる上流側から循環流路JFにインクが流入しても、そのとき流入するインクは、インク帰還チューブ33によって循環流路JFから逆止弁27の上流側に戻したインクを含むインクとされる。従って、こうしたインク帰還チューブ33がない場合に比較して、循環流路JF内のインクの増加が抑制され、循環流路JF内のインクの圧力上昇を抑制することができる。
(2)インク帰還チューブ33は、インク循環チューブ32においてチューブポンプ40よりも一方向側となる流路部位に接続されているので、チューブポンプ40によって一方向側に加圧されて流動するインクを、インク帰還チューブ33を介して確実にインクカートリッジ15側となる上流側に戻すことができる。従って、循環流路JF内のインクの圧力上昇を高い確率で抑制することができる。
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態において、帰還流路KFは、インク帰還チューブ33に加えて、循環流路JFからインクカートリッジ15側へインクを帰還させるインク流路(第4の液体流路)を更に設けることとしてもよい。本変形例について図6を参照して説明する。
図6に示すように、本変形例では、逆止弁27を第1の逆止弁としたとき、インク供給チューブ31において、インク帰還チューブ33のインク流路の他端が接続された流路部位である接続部C4よりも更にインクカートリッジ15側となる上流側に第2の逆止弁としての逆止弁28を設ける。そして、一端がインク帰還チューブ33と接続部C5によって接続され、他端がインク供給チューブ31における逆止弁28よりもインクカートリッジ15側となる上流側であって逆止弁23の下流側の流路部位に接続部C6によって接続された第4の液体流路としてのインク帰還サブチューブ34が設けられる。
このように、インク帰還サブチューブ34が設けられることによって、チューブポンプ40の動作によって湾曲部32Rから加圧されて押し出されてインク循環チューブ32を流れるインクのうちの一部のインクは、接続部C3からインク帰還チューブ33およびインク帰還サブチューブ34へ流れることになる。このため、インク供給チューブ31内を下流側の接続部C2から上流側の接続部C1へ向かって流れるインクの液量は、上記実施形態において流れるインクの液量よりも更に少なくなる。従って、逆止弁27を介して、逆止弁27の上流側から下流側の循環流路JFに流入するインクが増加することになる。
このとき、本変形例では、上記実施形態と同様にインク帰還チューブ33から加圧状態にあるインクが循環流路JFに流入するとともに、逆止弁28を介してインク帰還サブチューブ34から加圧状態にあるインクが下流側の接続部C4側に流入する。従って、逆止弁27を介して循環流路JFに流入するインクは、ほぼ帰還流路KFによって循環流路JF側から逆止弁27の上流側へ戻されたインクとすることができる。
また、インク循環チューブ32から接続部C3を介してインク帰還チューブ33へ流入したインク、および接続部C5を介してインク循環チューブ32からインク帰還サブチューブ34へ流入したインクは、それぞれのインク流路において加圧された状態とされる。従って、次に湾曲部32Rにおいて発生するインクの減圧により、逆止弁27の下流側において上流側よりインクの圧力が降下した場合、逆止弁27の上流側から逆止弁27を介して循環流路JFにインクが流入する。
この場合、本変形例では、逆止弁27の上流側へは、インク帰還チューブ33から接続部C4を介して流入した加圧状態のインクに加えて、逆止弁28の上流側つまり接続部C6側からも、インク帰還サブチューブ34から流入した加圧状態にあるインクが逆止弁28を介して流入する。この結果、逆止弁23を介してインクカートリッジ15から接続部C6側つまり帰還流路KF側へ流入するインクは、その流入量が少なく抑制されることになる。
本変形例によれば、上記実施形態の効果(1),(2)に加えて次の効果を奏する。
(3)インク帰還サブチューブ34を更に備えるので、逆止弁27を介して上流側から循環流路JFに流入するインクが増加しても、流入するインクを、循環流路JF側からインク帰還チューブ33に加えて更にインク帰還サブチューブ34によって逆止弁27の上流側に戻したインクとすることができる。従って、循環流路JF内のインクの増加を抑制することができる。
なお、本変形例において、インク帰還サブチューブ34を、その一端が、インク循環チューブ32ではなく、図6において二点鎖線で示すように、循環流路JFにおける接続部C1,C2間のインク供給チューブ31の流路部位に対して接続部C7によって接続されたインク帰還サブチューブ34Aとしてもよい。
・上記実施形態において、インク帰還チューブ33は、その一端がインク循環チューブ32におけるチューブポンプ40の出口側に接続部C3によって接続されることとしたが、これに限るものでないことは勿論である。インク帰還チューブ33の一端は、インク循環チューブ32におけるチューブポンプ40の入口側、つまり接続部C1側に接続されてもよい。あるいは、図6において破線で示すように、インク帰還チューブ33を、その一端が循環流路JFにおける接続部C1,C2間のインク供給チューブ31の流路部位に対して接続部C7によって接続されたインク帰還チューブ33Aとしてもよい。
さらに、第3の液体流路をインク帰還チューブ33Aとした場合において、第4の液体流路を上記変形例におけるインク帰還サブチューブ34としてもよい。
・上記実施形態において、少なくとも逆止弁23と圧力制御弁24との間のインク供給チューブ31およびインク循環チューブ32のいずれかの流路部位に、インクが加圧された状態で一時的に貯留される液体貯留部50が設けられていてもよい。この変形例について、図7を参照して説明する。
図7に示すように、本変形例では、インク供給チューブ31において逆止弁27と接続部C1との間の流路部位に、インクを加圧状態で貯留する液体貯留部50が備えられている。液体貯留部50は、インク供給チューブ31とインクの流路が連通する連通部55を有して形成された容器体51と、容器体51内の容積を変化させるように変位する変位板53とを有している。本変形例では、変位板53は平板部材で形成され、容器体51の内側壁51aに対してその周縁を密着させながらインク循環チューブ32との連通部55側から遠ざかるように移動することによって、容器体51の内容積を大きくさせ、液体貯留部50に貯留可能なインクの液量を増加させる。
また、変位板53は、例えばコイルばねなどで構成される加圧部54によって内容積が小さく変化させる方向へ移動するように付勢されている。従って、変位板53が加圧部54の付勢に抗して移動することによって、液体を、加圧部54によって加圧された状態とされたままで液体貯留部50に一時的に貯留可能な液量を増加させる。なお、本変形例では、容器体51の内側壁51aには、上方から見たとき変位板53と係合するように中心に向かって庇状に飛び出した突起部52が形成され、変位板53が、この突起部52によって加圧部54の付勢方向への移動が規制された状態が、液体貯留部50における液体の貯留量がゼロの状態である。
なお、この変位において、変位板53は、加圧部54によって内容積が増加する方向と逆方向に加圧されるため、インクを加圧した状態で変位する。換言すれば、液体貯留部50における加圧部54の加圧力は、チューブポンプ40において生ずる加圧力よりも低い圧力とされている。従って、ここでは説明を省略するが、インクの攪拌動作におけるチューブポンプ40の動作に伴って発生する循環流路JF内のインクの圧力変化(脈動)は、液体貯留部50にインクを流入させたり液体貯留部50からインクを流出させたりすることによって抑制される。すなわち、液体貯留部50において変位板53が変位することによって、インク供給チューブ31を流れるインクを流入および流出させて、その圧力変動を抑制する。
本変形例によれば、上記実施形態の効果(1),(2)に加えて次の効果を奏する。
(4)インクが加圧された状態で一時的に貯留される液体貯留部50が設けられているので、インクカートリッジ15側から逆止弁23を介して循環流路JF側に流入するインクが増加しても、増加したインクは液体貯留部50に一時的に貯留されるので、循環流路JF内を脈動するインクの圧力変化を抑制することができる。
・上記変形例において、液体貯留部50は、変位板53を周囲が密閉固定されたダイヤフラムで形成されていてもよい。この場合、加圧部54として空気を媒体としてダイヤフラムが直接加圧されたり、加圧板を介して加圧されたりしてもよい。
・上記実施形態において、チューブポンプ40は、液体噴射ヘッド21にインクを供給する際にインク供給チューブ31を流れるインクの流れ方向と同じ方向に、インクを循環流路JF内において流動させることとしてもよい。
・上記実施形態において、循環ポンプは必ずしもチューブポンプ40に限るものでない。例えば、ダイヤフラムと2つの逆止弁とを用いたダイヤフラムポンプが循環ポンプであってもよい。ダイヤフラムポンプにおいても、ダイヤフラムが往復移動(振動)する際に、インクが脈流するので、ダイヤフラムポンプ内を流れるインクが脈動する。この脈動によって、チューブポンプと同様に、循環流路JF内においてインクの圧力変動が引き起こされることになる。
・上記実施形態において、インクカートリッジ15は4つに限るものでなく、4つよりも多くても、あるいは少なくても差し支えない。また、プリンター11において、液体噴射ヘッド21は必ずしも走査方向に移動せず、固定された位置で用紙Sに対してインクを噴射する構成であってもよい。
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式のプリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に具体化してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状体、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置がある。あるいは、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサー等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。