H型鋼、C型鋼等、長尺の製品を所望の長さに切断するために用いられる切断金型装置は、従来から知られている。従来の切断金型装置は、切断すべき製品を挿通させる貫通穴が形成された固定刃本体と固定刃本体の貫通穴に配置される固定刃中子とを備える固定刃、及び切断すべき製品を挿通させる貫通穴が形成された移動刃本体と移動刃本体の貫通穴に配置される移動刃中子とを備える移動刃を備えている。固定刃中子と移動刃中子は、それぞれ、固定刃本体の貫通穴と移動刃本体の貫通穴に、切断すべき製品のH型形状、C型形状等の断面形状に対応する形状の空間を形成するように配置される。固定刃と移動刃は、製品の長手方向前後で重なる状態に互いに接触するように取付枠に取り付けられ、切断前、貫通穴と中子の間に配置された製品は、所望の切断箇所が固定刃と移動刃の間の境界に位置するように長手方向に位置決めされる(以下、固定刃、移動刃それぞれにおいて、当該境界に面する側を切刃側と称する)。この状態で、移動刃を固定刃に対して斜め方向に移動させることにより、製品にせん断力が作用し、製品が切断される。
図16A〜図18Bに、従来の切断金型装置の例を示す。この例では、切断金型装置は、リップ付きC型鋼(断面の一例を図15に示す)20の切断に用いられるように構成されている。
固定刃は、図16Aに示すような実質的に矩形の外形形状を有し、貫通穴2を含む固定刃本体1を備えている。貫通穴2は、少なくとも型鋼20の断面形状に対応する部分の切刃側に刃縁を有している。貫通穴2には、図16Bに示すような固定刃中子5が配置され、固定刃中子5と貫通穴2との間に、所定のクリアランス(貫通穴2と中子5の間の空間の寸法と型鋼20の寸法との間のゆとり分)をもって、切断すべき型鋼20が挿通される空間が形成されるようになっている。固定刃中子5は、切断すべきリップ付きC型鋼20の断面形状に対応してネック部(換言すれば、くびれ部)5´を有している。固定刃中子5における、型鋼20の断面形状に対応する部分の切刃側には、刃縁が形成されている。尚、図16A中、14は、固定刃本体1を取付枠に固定するための取付穴であり、15は、移動刃側の部材を固定刃本体1に取り付けるための取付穴である。固定刃中子5は、固定刃本体1、固定刃中子5にそれぞれ形成される取付穴16、取付穴17を介して固定刃本体1に固定される。
一方、移動刃は、図17Aに示すような、固定刃本体1の外形を形成する矩形の四隅を斜めに切り落とした外形形状を有し、且つ、貫通穴4を含む移動刃本体3を備えている。貫通穴4は、少なくとも型鋼20の断面形状に対応する部分の切刃側に刃縁を有している。貫通穴4には、図17Bに示すような移動刃中子6が配置され、移動刃中子6と貫通穴4との間に、所定のクリアランス(貫通穴4と中子6の間の空間の寸法と型鋼20の寸法との間のゆとり分)をもって、切断すべき型鋼20が挿通される空間が形成されるようになっている。移動刃中子6は、切断すべきリップ付きC型鋼20の断面形状に対応してネック部(換言すれば、くびれ部)6´を有している。移動刃中子6における、型鋼20の断面形状に対応する部分の切刃側には、刃縁が形成されている。移動刃中子6は、移動刃本体3、移動刃中子6にそれぞれ形成される取付穴18、取付穴19を介して移動刃本体3に固定される。
図18A、図18Bに示すように、固定刃及び移動刃は上板7a、側板7b、底板7cを備える取付枠7に取り付けられる。固定刃側では、固定刃中子5は、上述の取付穴16、17を介してボルト12等によって固定刃本体1に固定されており、固定刃本体1は、上述の取付穴14を介してボルト等により取付枠7に固定されている。一方、移動刃側では、取付穴18、19を介して移動刃中子6が移動刃本体3に固定されているが、移動刃本体3は取付枠7に対して移動可能である。尚、図18A、図18Bは、それぞれ、切断金型装置の固定刃側と移動刃側を、切刃側から見た図の例である。
図18Bに参照して説明すると、移動刃本体3の移動は、取付枠7の上板7aに形成される開口部を移動可能に貫通する押下部材8を操作することにより行われる。例えば、図18Bで取付枠7の左上箇所(換言すれば、移動刃本体3の移動方向上流側)に配置された押下部材8を下降させることにより、移動刃本体3が、移動刃中子6と共に、取付枠7内を斜め方向に、図18Bの右下箇所に向けて移動させられる。図18Bの右下箇所(換言すれば、移動刃本体3の移動方向下流側)には、ばね機構を介して水平方向に往復動可能な押圧部材9が取り付けられている。さらに、取付枠7の内側には、移動刃本体3の斜め方向の移動を案内する一対のガイドブロック10が設けられている。ガイドブロック10は、上述の取付穴15を介して固定刃本体1に固定されており、移動刃本体3の対向する2つの斜辺と摺動可能に接触する斜辺11を備えている。こうして、押下部材8を下降させると、移動刃本体3がガイドブロック10の斜辺11に沿って、押圧部材9を水平方向に押圧しながら、取付枠7内を斜め方向に移動する。この間、移動刃本体3に固定された移動刃中子6も移動刃本体3と共に斜め方向に移動する。こうして、移動刃が固定刃に対して移動させられることにより、貫通穴2と固定刃中子5との間、及び貫通穴4と移動刃中子6との間に配置された型鋼20にせん断力が作用し、型鋼20が切断される。尚、図18A、図18Bにおいて、型鋼20は図示を省略されている。
上記したように、固定刃中子5と移動刃中子6は、それぞれ、対応する貫通穴2と貫通穴4との間に嵌め合い公差程度のクリアランス(貫通穴と中子の間の空間の寸法と型鋼の寸法との間のゆとり分)が設定された状態で固定刃本体1、移動刃本体3に対して固定されている。この状態で、移動刃を移動させて切断を行うと、固定刃中子5、移動刃中子6のネック部(図16Bの5´、図17Bの6´)に負荷が掛かり、中子の破損が生じ易い。従って、一般に、中子は、固定刃本体、移動刃本体と比較して寿命が短く、交換のためのコストが掛かる等の問題があった。
この対策として、従来は、中子を固定刃本体、移動刃本体とは別の材料を用いて製造することによって、中子の寿命を向上させたり、破損による交換のコストを抑えたりすることが行われている。
一方、中子を固定刃本体、移動刃本体と一体化させて製造することも可能ではあるが、ネック部の破損の問題は依然として存在する。破損時に固定刃、移動刃一式を交換するよりも、中子のみを別体として破損時に中子のみを交換する方がコストは掛からないため、固定刃本体、移動刃本体とは別個の中子を、固定刃本体、移動刃本体に固定して使用する従来の切断金型装置が一般的に使用されている。
上記を鑑み、本発明は、中子を使用する切断金型装置において、中子の破損を防止し、寿命を著しく向上させることのできる構成を提供することを目的とする。
課題を解決しようとする手段
この目的のため、請求項1の発明によれば、固定刃本体と前記固定刃本体に対して斜め方向に移動可能な移動刃本体とを備える、切断金型装置であって、前記固定刃本体は、切断すべき製品を挿通させる第1の貫通穴を備えており、前記移動刃本体は、前記製品を挿通させる第2の貫通穴を備えており、前記切断金型装置は、さらに、前記第1の貫通穴に、前記固定刃本体に対して移動可能に支持される第1の中子と、前記第2の貫通穴に配置される第2の中子と、前記移動刃本体に、前記移動刃本体に対して移動可能に支持されるスライド刃と、を備える、切断金型装置が提供される。この構成により、切断工程において、第1の中子を固定刃本体に対して移動させ、スライド刃を移動刃本体に対して移動させることができるので、切断直前に、固定刃側と移動刃側で切断すべき製品の各辺を良好にクランプすることができる。従って、製品切断時の中子の破損を効果的に防止することができ、中子の寿命を著しく向上させることができる。
請求項2の発明によれば、請求項1に記載の切断金型装置であって、前記第1の中子は、前記移動刃本体の移動方向と同じ方向に前記固定刃本体に対して移動可能であるように、前記第1の貫通穴に支持されている、切断金型装置が提供される。この構成により、切断工程において、第1の中子を、移動刃本体の移動方向と同じ方向に移動させることができる。このため、切断すべき製品における、移動刃本体の移動方向下流側の部分を、第1の中子と固定刃本体により容易にクランプすることができる。従って、製品切断時の中子の破損を効果的に防止することができ、中子の寿命を著しく向上させることができる。
請求項3の発明によれば、請求項1または2に記載の切断金型装置であって、前記スライド刃は、前記移動刃本体の移動方向と同じ方向に前記移動刃本体に対して移動可能であるように、前記移動刃本体に支持されている、切断金型装置が提供される。この構成により、移動刃本体を移動させる前に、スライド刃を、移動刃本体に対して、移動刃本体の移動方向と同じ方向に移動させることができる。このため、切断すべき製品における、移動刃本体の移動方向上流側の部分を、移動刃本体を移動させる前に予めスライド刃と接触させることができる。これにより、製品切断時の中子の破損を効果的に防止することができ、中子の寿命を著しく向上させることができる。
請求項4の発明によれば、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の切断金型装置であって、前記スライド刃は、前記移動刃本体を移動させるための操作部材によって移動可能である、切断金型装置が提供される。この構成により、スライド刃を、移動刃本体を移動させるための操作部材によって移動させることができる。従って、スライド刃を移動させるための別個の部材を必要とすることなく、簡易な構成で容易にスライド刃を操作することができる。
請求項5の発明によれば、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の切断金型装置であって、前記スライド刃は、前記移動刃本体の移動方向に沿って、前記移動刃本体から所定量突出する部分を有する、切断金型装置が提供される。この構成により、例えば、所定量をゼロにするようにスライド刃を移動刃本体に対して移動させることによって、移動刃本体を移動させる前にスライド刃を移動させ、スライド刃を製品に接触させることができる。
請求項6の発明によれば、請求項1に記載の切断金型装置を用いて製品を切断する方法であって、前記第1の中子と前記第2の中子がそれぞれ配置される、前記第1の貫通穴と前記第2の貫通穴に、製品を挿通させる工程と、前記移動刃本体と前記固定刃本体との間の境界に所望の切断箇所が位置するように前記製品を位置決めする工程と、前記スライド刃を前記移動刃本体に対して移動させ、前記スライド刃を前記製品に接触させる工程と、前記製品を切断するように、前記移動刃本体を前記固定刃本体に対して移動させる工程と、を備える方法が提供される。
請求項7の発明によれば、請求項6に記載の方法であって、前記移動刃本体を前記固定刃本体に対して移動させる前記工程において、前記製品が前記スライド刃と前記第1の中子によりクランプされ、且つ、前記第1の中子が前記固定刃本体に対して移動し、これにより、前記製品が、さらに、前記第1の中子と前記固定刃本体によりクランプされる、方法が提供される。
請求項8の発明によれば、請求項6または7に記載の方法であって、前記スライド刃の前記移動刃本体に対する移動は、前記移動刃本体を移動させるための操作部材により行われる、方法が提供される。
請求項9の発明によれば、請求項6〜8のうちいずれか一項に記載の方法であって、前記スライド刃は、前記移動刃本体の移動方向に沿って、前記移動刃本体から所定量突出する部分を有しており、前記スライド刃の前記移動刃本体に対する移動は、前記スライド刃の前記所定量をゼロにするように行われる、方法が提供される。
本発明によれば、中子の破損を防止し、寿命を著しく向上させることのできる構成を備える切断金型装置を提供することができる。
以下、本発明による切断金型装置の一実施形態について説明する。本実施形態の切断金型装置100は、長尺の製品、特に、H型鋼、C型鋼等の型鋼の切断に好適に用いることができ、固定刃と固定刃に対して斜め方向に移動可能な移動刃とを備える。従来の切断金型装置と同様に、固定刃と移動刃は、型鋼の長手方向前後で重なる状態に互いに接触するように取付枠に取り付けられ、切断前、型鋼は、所望の切断箇所が固定刃と移動刃の間の境界に位置するように位置決めされる(以下、固定刃、移動刃それぞれにおいて、当該境界に面する側を切刃側と称する)。この状態で、移動刃を固定刃に対して斜め方向に移動させることにより、型鋼にせん断力が作用し、型鋼が切断される。尚、本実施形態における切断金型装置100は、図3に示す断面形状を有する型鋼105の切断に用いられるように構成されている。図3に示すように、型鋼105は、左上辺105a、左辺105b、下辺105c、右辺105d、右上辺105eを備えるリップ付きC型鋼であり、左上辺105aと右上辺105eがリップ部を構成する。しかし、本発明において、切断すべき製品の断面形状は、図3に示すものには限られない。
[固定刃について]
図1は、本実施形態に用いられる固定刃の固定刃本体101を示す図である。固定刃本体101は、従来の切断金型装置のものと同様に、実質的に矩形の外形形状を有し、切断すべき型鋼105を挿通させる貫通穴(第1の貫通穴)103が形成されている。固定刃本体101の側部には、複数の取付穴102、110が形成されている。取付穴102、110は、固定刃本体101を後述の取付枠108や移動刃側の部材に固定するための取付具を通すために用いられる。
固定刃は、さらに、図2(A)(B)に示す固定刃中子(第1の中子)104を備えている。固定刃中子104は、貫通穴103に配置されて、固定刃中子104と貫通穴103との間に、所定のクリアランス(貫通穴103と固定刃中子104の間の空間の寸法と型鋼105の寸法との間のゆとり分)をもって、型鋼105の断面形状に対応する形状の空間を形成するようになされている。上記したように、本実施形態では、切断すべき型鋼は、図3に示すリップ付きC型鋼105であり、リップ部の形状に対応するように、固定刃中子104は外形形状にネック部(換言すれば、くびれ部)104´を備えている。また、固定刃中子104における、型鋼105の断面形状に対応する部分の切刃側には、刃縁が形成されている。
固定刃中子104は、貫通穴103内にフロート支持されるように構成されている。換言すれば、本実施形態における固定刃中子104は、従来の固定刃中子と異なり、ボルト等により固定刃本体101に固定されることなく、貫通穴103内で移動可能である。具体的には、固定刃は、固定刃中子104を移動刃本体201(後述)の移動方向と同じ方向(本実施形態では斜め45度方向)に移動させるためのフロート機構を備えており、本実施形態では、フロート機構は、固定刃中子104の側面111に形成された開口部107(図2(A)に破線で示す)内に収容されるコイルばね106である。固定刃中子104の側面111は、切断工程中に型鋼105に接触させられることの無い、移動刃本体201の移動方向の下流側に位置するように配置される面である。図2(A)に固定刃中子104の正面図を示し、図2(B)に図2(A)の右方から見た側面図を示す。コイルばね106は、固定刃中子104を移動刃本体201の移動方向の上流側に付勢するように、一端が固定刃中子104の開口部107の底部に当接され、他端が、固定刃本体101における、貫通穴103の内側の面に当接される(図4A参照)。こうして、コイルばね106の弾性力により、固定刃中子104が移動刃本体201の移動方向上流側に付勢される。しかし、本発明においてフロート機構の例は上記のものに限られない。固定刃中子104を移動刃本体201の移動方向の上流側に付勢することができ、且つ、固定刃中子104を移動刃本体201の移動方向に沿って固定刃本体101に対して往復動させることができるものであれば、コイルばね106には限られない。また、フロート機構は、固定刃中子104と固定刃本体101のうちいずれか一方に固定されていてもよい。例えば、板ばねの一端を固定刃中子104の側面111に当接させ、他端を貫通穴103の内側の面に固定してもよい。尚、本実施形態において、上記クリアランスは、固定刃中子104と固定刃本体101との間の相対移動分を考慮して、従来の嵌め合い公差程度のクリアランスよりも大きく設定する必要がある。
固定刃(固定刃本体101及び固定刃中子104)は、図4Aに示すように取付枠108に取り付けられる。取付枠108は、固定刃側と移動刃側に共通して用いられる取付枠であり、上板108aと、一対の側板108bと、底板108cを備える。図13に、上板108aを取り除いた状態における、切断金型装置100の上面図を示し、図14に、図13の右方から見た切断金型装置100の概略側面図を示す。尚、図4Aは、取付枠108に取り付けられた固定刃を切刃側(換言すれば移動刃側)から見た図である。図4Bに、固定刃を切断金型装置100の外側(換言すれば、固定刃に対して、切刃側とは反対の側)から見た図を示す。切断金型装置100の外側では、固定刃本体101に固定されない固定刃中子104が貫通穴103から抜け落ちることを防止するため、図4Bに示すような案内板109を、固定刃本体101に取り付けてもよい。図4Bに示すように、案内板109は、型鋼105を挿通可能な貫通穴112を備えている。
[移動刃について]
図5は、本実施形態に用いられる移動刃の移動刃本体201を示す図である。尚、図5は、移動刃本体201を切刃側(換言すれば、固定刃側)から見た図である。移動刃本体201は、固定刃本体101の外形を形成する矩形の四隅を斜めに切り落とした外形形状を有し、2組の互いに平行な斜辺201a、201bを有している。移動刃本体201には、切断すべき型鋼105を挿通させる貫通穴(第2の貫通穴)202が形成されている。また、後述する移動刃中子203を移動刃本体201に固定するための取付穴205が形成されている。
移動刃は、さらに、図6(A)(B)に示す移動刃中子(第2の中子)203を備えている。図6(A)は、移動刃中子203を切刃側(換言すれば、固定刃側)から見た正面図であり、図6(B)は、図6(A)の左方から見た側面図である。移動刃中子203は、貫通穴202に配置されて、移動刃中子203と貫通穴202との間に、所定のクリアランス(貫通穴202と移動刃中子203の間の寸法と型鋼105の寸法との間のゆとり分)をもって、型鋼105の断面形状に対応する形状の空間を形成するようになされている。上記したように、本実施形態では、切断すべき型鋼はリップ付きC型鋼105であり、リップ部の形状に対応するように、移動刃中子203は外形形状にネック部(換言すれば、くびれ部)203´を備えている。また、移動刃中子203における、型鋼105の断面形状に対応する部分の切刃側には、刃縁が形成されている。移動刃中子203は、上部に形成された取付穴204を備えており、取付穴204と上述の取付穴205を介して、移動刃中子203が移動刃本体201に取付具によって固定される。
移動刃本体201における、切り刃側の表面には、さらに、後述するスライド刃206(図7(A)(B)参照)を受け入れるための溝208及び保持板207(図8(A)(B)参照)を受け入れるための溝209が形成されている。図5に示すように、溝208は、全体に、移動刃本体201の斜辺201a(移動刃本体201の移動方向上流側に配置される斜辺)から斜め45度方向(換言すれば、移動刃本体201の移動方向と同じ方向)に貫通穴202に連通するように延びている。図9に、図5のA−A線に沿って見た部分断面図を示す。図9に示すように、溝208は、切刃側におけるスライド刃206の表面と移動刃本体201の表面とが面一になるように、移動刃本体201の表面からの深さ(d1)が決められている。また、溝209は、保持板207が移動刃本体201の切り刃側表面から突出しないように十分な深さ(d2)を有している。
図7(A)は、本実施形態に用いられるスライド刃206を切刃側から見た正面図であり、図7(B)は、図7(A)の左方から見た側面図である。後述するように、型鋼105の切断時、移動刃本体201を移動させる前に、スライド刃206は溝208内を摺動させられ、型鋼105に接触する。この目的のため、スライド刃206は、型鋼105の外形形状の少なくとも一部(本実施形態では左辺105bと左上辺105a:図3参照)に沿うように形成された刃縁210を備えている。
スライド刃206は、溝208内でフロート支持されるように構成されている。換言すれば、移動刃は、スライド刃206を移動刃本体201の溝208内で摺動可能に支持するためのフロート機構を備えており、本実施形態では、フロート機構は、スライド刃206の移動方向先端面211に形成される開口部212(図7(A)(B)に破線で示す)内に収容されるコイルばね213である。コイルばね213は、スライド刃206をスライド刃206の移動方向上流側(換言すれば、移動刃本体201の移動方向上流側)に付勢するように、一端がスライド刃206の開口部212の底面に当接され、他端が移動刃本体201における、溝208の内側の面に当接される(図10A参照)。こうして、コイルばね213の弾性力により、スライド刃206は、スライド刃206の移動方向の上流側に付勢される。しかし、本発明において、スライド刃206のためのフロート機構の例は上記のものに限られない。スライド刃206を移動刃本体201の移動方向上流側に付勢することができ、且つ、スライド刃206を移動刃本体201の移動方向に沿って移動刃本体201に対して往復動させることができるものであれば、コイルばね213には限られない。例えば、板ばねの一端を溝208に固定し、他端をスライド刃206の先端面211に当接させるようにしてもよい。後述する押下部材(操作部材)216で容易に操作できるように、スライド刃206は、その基端面218が、移動刃本体201の斜辺201a(移動刃本体201の移動方向上流側に配置される斜辺)から所定距離突出するように、弾性的に付勢されることが好ましい。
また、スライド刃206は、図8(A)(B)に示す保持板207を受け入れるための溝214を備えている。保持板207は、その取付穴207aが、移動刃本体201の溝209に形成された取付穴209aと整列するようにスライド刃206の溝214に配置され、取付具により移動刃本体201の溝209に固定される。これにより、移動可能なスライド刃206が、移動刃本体201の溝208から抜け出ることを防止することができる。尚、溝214は、保持板207が移動刃本体201の切り刃側表面から突出することがないように、且つ、スライド刃206の移動刃本体201に対する移動を許容するように、深さ方向及び幅方向の寸法が決められている。
移動刃(移動刃本体201、移動刃中子203及びスライド刃206)は、図10A、図10Bに示すように取付枠108に取り付けられる。図10Aは、移動刃を切刃側から見た図であり、図10Bは、移動刃を、切断金型装置100の外側(換言すれば、移動刃に対して、切刃側とは反対の側)から見た図である。従来と同様に、押下部材216が、取付枠108の上板108aに形成される開口部を貫通して延びている。押下部材216を下降させると、その下面217が移動刃本体201の斜辺201aを押圧し、これにより、移動刃本体201を(本実施形態では、図10Aの左上側から右下側に向けて斜め45度方向に)移動させることができる。しかし、図10Aに示すように、本実施形態では、スライド刃206の基端面218が、押下部材216によって押圧される移動刃本体201の斜辺201aから所定距離突出しているため、操作前、押下部材216の下面217は、移動刃本体201の斜辺201aには当接しておらず、スライド刃206の基端面218と当接している。また、取付枠108内において、押下部材216に対して対角方向(換言すれば、移動刃本体201の移動方向下流側)には、ばね機構を介して水平方向に往復動可能な押圧部材219が配置されている。具体的には、押圧部材219は、移動刃本体201の斜辺201aと当接する斜辺219aを備えており、コイルばね220の弾性力によって移動刃本体201へ向けて付勢されている。コイルばね220は、移動刃本体201とは反対側の端部が、取付枠108の側板108bに設けられたばね支承部222内で支持される。
従来と同様に、取付枠108の内側には、移動刃本体201の斜め方向の移動を案内するための一対のガイドブロック223が設けられ、ガイドブロック223は、移動刃本体201の対向する2つの斜辺201bと摺動可能に接触する斜辺223aを備えている。ガイドブロック223は、固定刃本体101に、上記の取付穴110を介して固定されている。尚、図10Bに示すように、移動刃本体201は、切断金型装置100の外側で案内板230により摺動可能に支持されており、案内板230は、型鋼105を挿通させるための貫通穴231を備えている。
[切断方法]
上記のように構成された切断金型装置100を用いた切断方法の一例を説明する。
本実施形態の切断方法は概ね以下の工程を備える。
(1)固定刃中子104と移動刃中子203がそれぞれ配置された貫通穴103、202に、切断すべき製品(本実施形態では、型鋼105)を挿通させる工程。
(2)切断刃本体201と固定刃本体101との間の境界に所望の切断箇所が位置するように製品を位置決めする工程。
(3)スライド刃206を移動刃本体201に対して移動させ、スライド刃206を製品に接触させる工程。
(4)製品を切断するように、移動刃本体201を固定刃本体101に対して移動させる工程。
尚、本発明において、「クランプ」とは、固定刃本体101、固定刃中子104、移動刃本体201、移動刃中子203のうちのいずれかが、切断すべき製品の少なくとも一部を締め付けるように製品と接触することを意味するが、このとき、製品は変形してもよいし、変形しなくてもよい。
本発明の切断方法は、特に上記工程(3)及び工程(4)に特徴がある。以下、工程(3)、(4)について具体的に説明する。尚、以下の説明において、固定刃本体101、固定刃中子104、移動刃本体201、及び移動刃中子203に関する用語「左上辺」、「左辺」、「下辺」、「右辺」「右上辺」は、それぞれ、対応する貫通穴103、202内で、型鋼105の左上辺105a、左辺105b、下辺105c、右辺105d、右上辺105eに対向して配置される部分を意味している。
工程(3)では、スライド刃206を移動刃本体201に対して移動させるため、押下部材216を下降させるが、理解の容易のため、押下部材216を下降させる前の固定刃側の状態と移動刃側の状態を、それぞれ、図11Aと図12Aに示す。図11Aに示すように、押下部材216の下降前、固定刃本体101の貫通穴103内で、固定刃中子104はコイルばね106によって、移動刃本体201の移動方向上流側に向けて押圧されており、固定刃中子104と貫通穴103との間の空間内に型鋼105が、型鋼105の全周にわたって所定のクリアランスが存在する状態で配置されている。
一方、移動刃側では、図12Aに示すように、押下部材216の下降前、スライド刃206は、その基端面218が移動刃本体201の斜辺201aから所定距離αだけ突出するように、コイルばね213によって移動方向上流側に付勢されており、スライド刃216は、貫通穴202には進入していない。従って、移動刃中子203と貫通穴202との間の空間内には、型鋼105が、型鋼105の全周にわたって所定のクリアランスが存在する状態で配置されている。
この状態から、押下部材216を、スライド刃206の基端面218が移動刃本体201の斜辺201aと面一になるまで下降させる。これにより、スライド刃206の刃縁210が貫通穴202に進入し、型鋼105の左辺105bと左上辺105aに接触する。換言すれば、スライド刃206の刃縁210と型鋼105の左辺105b及び左上辺105aとの間のクリアランスがゼロになる。このときの状態を図12Bに示す。
次に、移動刃本体201を固定刃本体101に対して移動させるため、さらに押下部材216を下降させる。移動刃本体201の固定刃本体101に対する移動に伴い、以下の事象が同時に起こる。尚、以下の事象において、スライド刃206の刃縁210は、押下部材216とコイルばね213の作用によって、基端面218が移動刃本体201の斜辺201aと面一である所定位置を維持したまま、移動刃本体201と共に斜め方向に移動する。従って、スライド刃206の刃縁210は、実質的に、移動刃本体201の刃縁として、型鋼105を切断するように作用する。
移動刃側では、移動刃本体201と移動刃中子203は互いに固定されているため、共に斜め方向に移動する。これにより、スライド刃206が型鋼105の左辺105b、左上辺105aを変形させながら、型鋼105の左辺105bと左上辺105aが、スライド刃206と固定刃中子104によりクランプされる。この状態で、移動刃本体201及び移動刃中子203は図12Bにおける右下45度方向にさらに移動する。この間に、移動刃中子203の右辺、下辺は型鋼105の右辺105d、下辺105cと接触する。図12Cは、切断直前の移動刃側の状態を示している。一方、後述するように、固定刃側において固定刃本体101の右辺、下辺と型鋼105の右辺105d、下辺105cとの間のクリアランスがゼロになる。従って、型鋼105は、その左辺105b、左上辺105aがスライド刃206と固定刃中子104によって図12Cの右下側へ変形した状態でクランプされると共に、右辺105d、下辺105cが移動刃中子203と固定刃本体101によって無理なくクランプされる。
次に、図11Bに参照して、切断直前の固定刃側の状態を説明する。
固定刃側では、固定刃中子104は貫通穴103内でコイルばね106によりフロート支持されている。このため、移動刃側での型鋼105の左辺105b、左上辺105aの変形に従って、固定刃中子104を型鋼105と共に斜め方向に移動させることができる。こうして、固定刃本体101の右辺と下辺、型鋼105の右辺105dと下辺105c、及び固定刃中子104の右辺と下辺との間のクリアランスがゼロになる。こうして、固定刃側では、型鋼105は、その右辺105d、下辺105cが固定刃中子104と固定刃本体101により無理なくクランプされる。また、上記したように、移動刃側におけるスライド刃206と型鋼105の左辺105b及び左上辺105aとの間のクリアランスがゼロになるため、型鋼105の左辺105b、左上辺105aは、固定刃中子104とスライド刃206により変形した状態でクランプされる。
すなわち、型鋼105の全体として見れば、切断直前、型鋼105の右辺105d、下辺105cは、固定刃本体101の右辺と下辺、固定刃中子104の右辺と下辺、移動刃中子203の右辺、下辺とによりクランプされており、型鋼105の左辺105b、左上辺105aは、固定刃中子104の左辺と左上辺、移動刃本体201の左辺と左上辺(換言すれば、スライド刃206の刃縁210)とによりクランプされている。
これに対し、上記従来技術の切断金型装置においては、切断直前、型鋼20の右辺、下辺が移動刃中子6と固定刃本体1によってクランプされ、型鋼20の左辺、左上辺が移動刃本体3と固定刃中子5によってクランプされるのみである。図19(A)、(B)に、それぞれ、従来技術における移動刃本体3の移動前の状態と切断直前の状態を示す。
本実施形態では、固定刃側では、フロート支持される固定刃中子104の作用により、固定刃中子104と固定刃本体101との間において型鋼105の右辺105d、下辺105cをクランプすることができ、移動刃側では、スライド刃206の作用により、型鋼105を予めスライド刃206と接触させ、スライド刃206と固定刃中子104との間において型鋼105の左辺105b、左上辺105aをクランプすることができる。
この構成により、従来の切断金型装置に比べて、本発明の切断金型装置100は、切断直前、切断すべき型鋼105の各辺が良好にクランプされた状態で型鋼105を切断することができる。すなわち、切断工程において、固定刃中子104を固定刃本体101に対して移動させ、スライド刃206を移動刃本体201に対して移動させることができるので、切断直前に、型鋼105を移動刃中子203、固定刃中子104と固定刃本体101の間、及び、スライド刃206と固定刃中子104の間で良好にクランプすることができる。従って、中子のネック部に掛かる負荷が小さく、破損しにくい。このため、型鋼切断時の中子の破損を効果的に防止することができ、中子の寿命を著しく向上させることができる。
また、本実施形態では、固定刃中子104は、貫通穴103に、移動刃本体201の移動方向と同じ方向に固定刃本体101に対して移動可能であるように支持されているので、切断工程中に、固定刃中子104を移動刃本体201の移動方向と同じ方向に移動させることによって、型鋼105における、移動刃本体201の移動方向下流側の部分である右辺105d、下辺105cを容易にクランプすることができる。
また、本実施形態では、スライド刃206は、移動刃本体201の移動方向と同じ方向に移動刃本体201に対して移動可能であるように、移動刃本体201に支持されているので、移動刃本体201を移動させる前に、スライド刃206を、移動刃本体201に対して、移動刃本体201の移動方向と同じ方向に移動させることができる。これによって、型鋼105における、移動刃本体201の移動方向上流側の部分である左辺105b、左上辺105aを、移動刃本体201を移動させる前に予めスライド刃206と接触させることができる。これにより、型鋼切断時の中子の破損を効果的に防止することができ、中子の寿命を著しく向上させることができる。
また、本実施形態では、スライド刃206は、移動刃本体201を移動させるための押下部材216によって移動させることができるので、スライド刃206を移動させるための別個の部材を必要とすることなく、簡易な構成で容易にスライド刃206を操作することができる。
また、本実施形態では、スライド刃206は、移動刃本体201の移動方向に沿って、移動刃本体201から所定量α突出する部分を有している。従って、この所定量αをゼロにするようにスライド刃206を移動刃本体201に対して移動させることによって、移動刃本体201を移動させる前にスライド刃206を移動させ、スライド刃206を型鋼105に接触させることができる。
尚、上記実施形態において、型鋼105を切断すべき製品の例として本発明を説明したが、本発明は、長尺の製品を所望の長さに切断するために広く適用することができる。また、本発明において、移動刃本体201は、固定刃本体101に対して斜め方向に移動されればよく、従って、上記実施形態における移動刃本体201の移動方向に関する用語「左」、「右」は単なる例示であり、本発明を限定するものではない。上記実施形態では、図の左上側から右下側への移動を例として説明した。従って、型鋼105の左上辺105a及び左辺105bは、移動刃本体の移動方向上流側に配置される製品の部分の例であり、下辺105c及び右辺105dは、移動刃本体の移動方向下流側に配置される製品の部分の例である。換言すれば、型鋼105の部分に関する用語「左」、「右」は、移動刃本体201の移動方向に対応して用いられることを除いて、本発明を限定することを意図しない。
また、本実施形態の切断金型装置100では、固定刃中子104は、貫通穴103に、固定刃本体101に対して移動可能に支持されており、スライド刃206が、移動刃本体201に、移動刃本体201に対して移動可能に支持されている。しかし、本発明では、スライド刃206を設けることなく、固定刃中子104が、貫通穴103に、固定刃本体101に対して移動可能に支持されていてもよい。また、本発明では、固定刃中子104は、従来技術と同様に貫通穴103に固定され、スライド刃206が移動刃本体201に移動刃本体201に対して移動可能に支持されていてもよい。これら2つの場合においても、従来の切断金型装置と比較して、製品切断時の中子の破損を防止することができ、中子の寿命を向上させることができる効果を得ることができる。
また、上記実施形態では、移動刃本体201を移動させる前にスライド刃206を型鋼105に接触させるように、スライド刃206の移動刃本体201に対する突出量αを設定しているが、本発明では、切断工程中に、型鋼105をスライド刃206と移動刃中子203との間でクランプしてもよい。この場合、移動刃本体201の移動方向における、型鋼105の左上辺105a及び左辺105bと移動刃中子203との間のクリアランス量βを考慮して、上記突出量をαからα+βに変更することができる。